説明

N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む製品及びその使用

本発明は、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む組成物の、神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、気分障害、抑うつ、睡眠障害、タンパク質凝集を伴うヒト又は動物の疾患、アルツハイマー病、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する製品の調製のための使用に関する。本発明は、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含んだ、食品及び飲料製品、栄養補助食品、並びにペットフード製品を含む製品に更に関し、ヒト及び動物の認知能力に影響を与えるための方法に更に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの使用、並びにそれを含んだ、食品及び飲料製品、栄養補助食品、及びペットフード製品を含む製品に関する。
【0002】
[背景]
アルツハイマー病(AD)は進行性の神経変性疾患であって、認知症の最も一般的な形態であり、その徴候は、例えば記憶消失、錯乱、気分動揺、及び認知機能低下である。ADは、脳内における、細胞外アミロイド斑及び神経細胞内神経原線維変化の存在によって特徴づけられ、その主要成分は、アミロイドβタンパク質(Aβ)と呼ばれる39〜42残基ペプチドの原線維凝集体である。Aβ原線維の形成が、ADの病因で中心的役割を果たしていると考えられている。幾つかの病原性AD突然変異が、Aβ量の増加、特に変異型Aβ42のAβ量の増加をもたらすことが示されてきた。したがって、アミロイド原線維の形成が、ADにおける疾患進行及び神経変性の原因であると考えられる。Aβ原線維の形成は、ADDLS又はプロトフィブリル(PF)と称する個別の可溶性オリゴマー中間体を伴う、複雑な多段階の機序を経由して起き、それが原線維形成のときに消失することが、インビトロ試験で示された。このことは、PFが、ADの病原種となり得ることを示唆している。ヒト又は動物における幾つもの他の疾患、例えば黄斑変性症、ウシ海綿状脳症(BSE)、クロイツフェルトヤコブ病、及び糖尿病も、タンパク質凝集を伴う。
【0003】
N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、コーヒー及びカカオ中に(例えばStark et al. 2006, J Agric Food Chem, 54, 2859−2867を参照されたい)、並びに他の幾つもの植物原料中に天然に存在することが判明している。国際公開第2008/009655号は、何種類かのN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが、感染症の治療に使用され得ることを開示している。
【0004】
[発明の概要]
本発明者らは、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが、アミロイドβペプチドの凝集を抑制及び/又は遅らせるのに有効であることを今や見出した。
【0005】
それに伴い、本発明は、1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む組成物の、神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、気分障害、抑うつ、睡眠障害、タンパク質凝集を伴うヒト又は動物の疾患、アルツハイマー病、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する製品の調製のための使用に関する。更なる実施形態では、本発明は、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品に関する。より更なる実施形態では、本発明は、本発明の食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品の、ヒト又は動物において、認知機能低下、気分障害、及び/又は睡眠障害を治療及び/又は予防するため、脳を保護するため、及び/又は認知能力、免疫反応、及び/又は消化管バリア機能を改善するための、非治療的使用に関する。また別の実施形態では、本発明は、認知能力を改善し、神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、タンパク質凝集を伴う疾患、アルツハイマー病、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する方法であって、有効量のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む食品、飲料製品、又はペットフード製品を、ヒト又は動物に与えることを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1a】N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン(CafTrp)(図1a)、及びN−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン(FerTrp)(図1b)が、単量体アミロイドβペプチドからのアミロイド原線維の形成を減少させる及び/又は阻止する能力についてのアッセイの結果を示す図である。
【図1b】N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン(CafTrp)(図1a)、及びN−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン(FerTrp)(図1b)が、単量体アミロイドβペプチドからのアミロイド原線維の形成を減少させる及び/又は阻止する能力についてのアッセイの結果を示す図である。
【図2a】CafTrp(図2a)及びFerTrp(図2b)が、アミロイドβペプチドのプロトフィブリルからのアミロイド原線維の形成を減少させる及び/又は阻止する能力についてのアッセイの結果を示す図である。
【図2b】CafTrp(図2a)及びFerTrp(図2b)が、アミロイドβペプチドのプロトフィブリルからのアミロイド原線維の形成を減少させる及び/又は阻止する能力についてのアッセイの結果を示す図である。
【0007】
[発明の詳細な説明]
本発明によるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、任意のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドであり得る。好ましくは、本発明によるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、植物原料中に、例えば食用植物原料中に、好ましくはコーヒー植物及び/又はカカオ植物の原料中に天然に存在するN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドである。本発明によるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、N−フェニルプロペノイルL−アミノ酸アミド、又はN−フェニルプロペノイルD−アミノ酸アミドであり得る。
【0008】
好ましくは、本発明によるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、次の構造
【化1】


の化合物であり、
式中、置換桂皮酸は、そのカルボキシ官能基によってアミノ酸のアミン基に連結され、それによりアミド結合を形成し、
R6は、アミノ酸の側鎖である。もしR6=Hであるならば、アミノ酸はグリシンであり、もしR6=メチルであるならば、アミノ酸はアラニンである、などとなろう。好ましいアミノ酸は、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸である。アミノ酸は、α−、β−、又はγ−アミノ酸でもよく、α−アミノ酸は、D又はL配置であってもよく、
R1〜R5は、ヒドロキシ、メトキシ(OMe)、水素、又はO−グリコシルから選択される置換基である。もしR1〜R5がすべて水素であるならば、フェニルプロペノイル基はシンナモイルである。好ましいフェニルプロペノイル基は、フェルロイル(R2=OMe、R3=OH、R1=R4=R5=H)、カフェオイル(R2=R3=OH、R1=R4=R5=H)、及びクマロイル(R3=OH、R1=R2=R4=R5=H)であり、且つ
二重結合は、トランス(E)又はシス(Z)配置でもよい。
【0009】
より好ましくは、本発明によるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−フェニルアラニン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−3−ヒドロキシ−L−チロシン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−3−ヒドロキシ−L−チロシン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−グルタミン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−グルタミン酸;N−[(2E)−3−フェニル−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシンからなる群から選択される化合物である。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、植物原料の抽出によって得る。植物原料は、例えばコーヒー又はカカオ原料;セイヨウトウキ(Angelica archangelica)からの原料、例えば根;センナ(Cassia angustifolia又はCassia senna)からの原料、例えば果実;コリアンダー(Coriandrum sativum)からの原料、例えば果実;セイヨウキズタ(Hedera helix)からの原料、例えば葉;ラヴァンデュラ(Lavandula)種からの原料、例えば花;及び/又はセイヨウニワトコ(Sambucus nigra)からの原料、例えば花などの、1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む、任意の植物原料であってもよい。
【0011】
植物原料からのN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの抽出は、当技術分野で公知の任意の適当な方法で行い得る。抽出は、製造することになる特定製品に必要な程度の純度を達成するために行い得る。食品等級の植物原料の抽出による、食品、飲料製品、ペットフード製品などの製造のためには、高度な純度は必ずしも必要とは限らない。N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む抽出物、又は抽出される植物原料に比してN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが豊富な抽出物で十分な場合がある。抽出は、例えば液体抽出として、例えば水、アルコール、アセトン、n−ペンタン、又は他の任意の適当な液体、及び/又はこのような液体の混合物、例えば水とアルコール、例えばエタノールとの混合液、又は水とアセトンとの混合液を使用して行ってもよく、又は固相抽出として、例えば膜、又は樹脂、例えばポリビニルポリピロリドン(PVPP)樹脂などの例えば高分子樹脂を使用して行ってもよい。N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの抽出物を、所要の程度の純度又は濃縮度へと精製するために、及び/又は抽出液を取り除くために、適当な方法を使用し得る。純粋なN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが常に所望されるわけではなく、例えば所望の使用における有効性を上げるために、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの組合せ、例えば本明細書で開示した特定のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの組合せの使用が有利なこともある。
【0012】
N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、例えば、すべてが参照により本明細書に組み込まれている、Stark and Hofmann 2005, J. Agric. Food Chem., 53, 5419−5428、Stark et al. 2006, J. Agric. Food Chem., 54, 2859−2867、及びHensel et al. 2007, Planta Med, 73, 142−150に記載のように、合成してもよい。
【0013】
コーヒー
本発明によるコーヒー原料は、コーヒー植物(即ちコーヒー(Coffea)属に属する植物、好ましくはコーヒーノキ(Coffea arabica)、コーヒー・カネフォーラ(Coffea canephora)、又はコーヒー・リベリカ(Coffea liberica))に由来する任意の原料、好ましくはコーヒー果実(コーヒーチェリーと呼ばれることもある)又はコーヒー豆である。コーヒー原料は、抽出前に、任意の適当な方法で処理してもよく、例えば熱処理及び/又は焙煎してもよい。コーヒー豆の焙煎は、飲食用コーヒー製品を製造する技術分野で公知であり、もしコーヒー豆をN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの抽出に使用するのであれば、コーヒー豆は従来技法で焙煎してもよく、又は未焙煎の生コーヒー豆として使用してもよい。コーヒー原料からのN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの抽出は、水;アルコール、例えばエタノール;若しくは水とアルコールとの混合液、例えば水とエタノールとの混合液を使用した液体抽出、又は例えば膜、若しくは樹脂、例えばポリビニルポリピロリドン(PVPP)樹脂などの例えば高分子樹脂を使用した固相抽出により、行うのが好ましい。一実施形態では、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、生及び/又は焙煎コーヒー豆の水性抽出によって得られるが、コーヒー豆の水性抽出物を生成する方法は、例えば1杯のコーヒーを淹れるときに実施するような技術分野、並びにソリュブルコーヒー製造の技術分野において周知である。コーヒー豆の水性抽出物からのN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの精製は、例えばクロマトグラフィー法、例えば逆相クロマトグラフィー、又は例えば膜、若しくは樹脂、例えばポリビニルポリピロリドン(PVPP)樹脂などの例えば高分子樹脂を使用した固相抽出で実施し得る。
【0014】
カカオ
本発明によるカカオ原料は、カカオ植物(Theobroma cacao)、好ましくはカカオポッド(カカオ植物の果実)、より好ましくはカカオ豆に由来する任意の原料でもよい。カカオ原料は、抽出前に、任意の適当な方法で処理し得る。抽出されることになるカカオ豆は、抽出前に、発酵処理及び/又は焙煎を受けてもよい。本発明の好ましい実施形態では、カカオ原料は、ココアパウダー及び/又はココアバターである。ココアパウダー及びココアバターの製造は、当技術分野で周知であり、普通は、カカオポッドから果肉及び豆をはずし、果肉と豆との混合物を発酵させ、発酵した豆を乾燥し、その豆を焙煎し、豆を破砕してカカオニブを生成し、カカオニブを粉砕してチョコレートリカーを生成して製造するが、このチョコレートリカーは任意選択で、ココアパウダーとココアバターとに分離してもよい。カカオ原料からのN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの抽出は、任意の適当な方法、例えば水;アルコール、例えばエタノール;又は水とアルコールとの混合液、例えば水とエタノールとの混合液を使用した液体抽出によって実施してもよく、又は例えば膜、若しくは樹脂、例えばポリビニルポリピロリドン(PVPP)樹脂などの例えば高分子樹脂を使用した固相抽出によって実施してもよい。
【0015】
本発明によれば、1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを、ヒト又は動物における、神経変性障害、認知機能低下、及び/又はタンパク質凝集を伴う疾病を治療又は予防する製品、例えば食品、飲料製品、栄養補助食品、ペットフード製品、又は薬剤などの調製のために使用する。
【0016】
食品及び飲料製品
本発明による食品は、例えば料理用製品、例えばスープ;菓子製品、例えばチョコレートバーなどのチョコレート製品;乳製品、例えばヨーグルト又はチーズ製品などの発酵乳製品;シリアル製品;パン製品、例えばケーキ又はビスケット;香り付け調味品、例えばマヨネーズ又はサラダドレッシング;肉製品;アイスクリーム製品などの任意の食品であり得る。飲料製品は、例えばコーヒー飲料、例えばブラックコーヒー、ミルクコーヒー、カプチーノ、純粋なソリュブルコーヒー、若しくは例えばソリュブルコーヒー、クリーマー及び/又はホワイトナー及び/又は甘味料を含んだコーヒーミックスなどのソリュブルコーヒー製品;紅茶飲料、例えばアイスティー;乳飲料;ココア飲料;麦芽飲料;ソフトドリンク;ミネラルウォーター、例えば栄養強化及び/又は風味付けした水などの任意の飲料製品であり得る。本発明による飲料製品が、最終飲料の調製に使用する調製品、飲食用の最終飲料を調製するために例えば水又はミルクなどの液体を添加することになる、例えば粉末品又は濃縮品であってもよいことを理解されたい。本発明の好ましい実施形態では、飲料製品は、コーヒー若しくはココア飲料、又はコーヒー原料とカカオ原料との混合物を含む飲料である。本発明による食品又は飲料製品は、病状のある患者、病弱若しくは高齢者、又は他の特定の栄養を必要とする人々の、特殊な栄養の必要性を満たすことを目指した医療用の食品又は飲料製品であってもよい。
【0017】
本発明の食品、飲料、又はペットフード製品は、例えば植物原料からの抽出によって得たN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む。一実施形態では、食品、飲料、又はペットフード製品は、例えばコーヒー豆又はカカオなどの、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含有する植物原料の抽出物からなる。別の実施形態では、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、食品、飲料、又はペットフード製品を製造する間の任意の適切なステップにおいて、例えば合成した化合物として添加され、又は植物原料の抽出物中に含まれる。好ましい実施形態では、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドは、食品、飲料、又はペットフード製品の製造において、成分として使用するコーヒー及び/又はカカオの抽出物中に含まれる。
【0018】
一実施形態では、本発明は、少なくとも2000mg/kg乾物、少なくとも5000mg/kg乾物、又は少なくとも10000mg/kg乾物など、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを少なくとも1000mg/kg乾物含む、食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品に関する。更なる実施形態では、本発明は、少なくとも200mg/kgコーヒー固形物、少なくとも500mg/kgコーヒー固形物、又は少なくとも1000mg/kgコーヒー固形物など、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを少なくとも50mg/kgコーヒー固形物含む、コーヒー製品に関する。コーヒー固形物という用語は、コーヒー植物に由来するすべての化合物及び物質のうち、水以外の物を意味する。本発明によるコーヒー製品は、コーヒーの成分に基づく製品であり、例えば焙煎し粉砕したコーヒー;純粋なソリュブルコーヒー;純粋なソリュブルコーヒーと、クリーマー、ホワイトナー、甘味料、及び/又は香味料との混合物などのコーヒーミックス;コーヒー飲料、例えばブラックコーヒー、ミルクコーヒー、カプチーノ、カフェラテなどである。好ましい実施形態では、製品中にあるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%など、少なくとも90%はコーヒーに由来する。
【0019】
薬剤
一実施形態では、本発明は、1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む組成物の、薬剤の調製のための使用に関する。この組成物は、他の任意の適当な化合物、例えば医薬として許容可能な担体、補助剤、及び/又は塩を更に含み得る。医薬として許容可能な担体又は補助剤には、任意の溶剤、分散媒、抗細菌剤又は抗真菌剤などが挙げられ、これらは生理学的に許容可能であり、且つ所望の投与経路に適当である。薬剤は、例えば経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、又は皮下投与に適当であってもよい。
【0020】
使用及び方法
本発明は、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む組成物の、神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、気分障害、抑うつ、睡眠障害、タンパク質凝集を伴う疾患、アルツハイマー病(ADの一般的な徴候である、認知症、軽度の認知機能障害、及び睡眠障害、気分動揺、抑うつ、ストレスのような認知機能低下を含む)、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する製品の調製のための使用に関する。本発明は、本発明の食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品の、ヒト又は動物において、認知機能低下、気分障害、及び/又は睡眠障害を治療及び/又は予防するため、脳を保護するため、及び/又は認知能力、免疫反応、及び/又は消化管バリア機能を改善するための、非治療的使用に更に関する。認知能力は、例えば、学習する能力及び速度、知的な問題を解く能力及び速度、記憶を形成し呼び戻す能力、反応時間などとして表現され得る。認知機能低下は、例えば記憶の減衰、物忘れ、単語又は名前の想起障害、記憶低下、集中力低下、計画又は組織する能力の低下、複雑な仕事を実行する能力の低下、及び/又は認知能力の低下としてそれ自体が現れ、例えば年齢、ストレス、疾患、又は他の素因から生じ得る。認知は、理解、推測、意志決定、計画、学習、記憶、連想、概念形成、言語、注意集中、認識、行動、問題解決、及び心像などの心理作用として理解されている。
【0021】
更なる実施形態では、本発明は、認知能力を改善する方法、即ち神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、タンパク質凝集を伴う疾患、アルツハイマー病、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する方法であって、有効量のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む食品、飲料製品、又はペットフード製品をヒト又は動物に与えることを含む方法に関する。より更なる実施形態では、本発明は、神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、タンパク質凝集を伴う疾患、アルツハイマー病、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する方法であって、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む有効量の薬剤を、それを必要とするヒト又は動物に投与することを含む方法に関する。食品、飲料製品、又はペットフード製品は、薬剤の有効性を高めるために、及び/又は薬剤の用量を減らすために、薬剤に付随して与えてもよい。
【0022】
本発明の使用及び方法は、所望の結果を達成するのに最も適当であるような方法で行い得る。例えば、もし製品が、食品、飲料製品、又はペットフード製品であるならば、製品中に含まれるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの量は、例えば週1回、1日おき、1日1回、又は1日2〜4回、1回分を摂取する個体において、例えば製品の味又は見かけに対して望ましくない効果をもたらすことなく、所望の効果を達成するような量であってもよい。もし製品が、栄養補助食品又は薬剤であるならば、製品中に含まれるN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの量、及び投与の頻度は、所望の効果を最大にする一方で、もし逆の効果があるならばそれを最小にするものとし得る。
【0023】
もし製品が、食品、飲料製品、又はペットフード製品であるならば、製品1回分は、500μg、1000μg、又は5000μgのN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドなど、例えば少なくとも100μgのN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含み得る。一実施形態では、製品は、少なくとも2000mg/kg乾物、少なくとも5000mg/kg乾物、又は少なくとも10000mg/kg乾物など、少なくとも1000mg/kg乾物のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む。
【実施例】
【0024】
実施例1
N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン(CafTrp)、及びN−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン(FerTrp)を合成し、これらの化合物の、アミロイドβ凝集体の形成に対する効果を、以下のアッセイで試験した。
【0025】
単量体Aβ
単量体Aβペプチドを、サイズ排除クロマトグラフィーにより精製し、37℃、濃度10μMで、対象化合物と一緒に、Aβ42と試験化合物との比率を1:0.5及び1:2(モル比)としてインキュベートした。凝集の程度を、チオフラビンT(ThT)蛍光により、24時間及び48時間に評価した。対照試験を、試験化合物が存在しない以外は同じ方法で行った。ThTは、アミロイド原線維に結合したときに蛍光が増す、疎水性の色素である。ThTは、特異的にアミロイド原線維に結合するが、単量体の形態のAβには結合しない。このアッセイでは、ThT蛍光の低下又は非存在は、試験した分子がアミロイド原線維の形成を減少させる及び/又は阻止することを示した。このアッセイの結果は、図1に示す(図1a:CafTrp、図1b:FerTrp)。
【0026】
プロトフィブリルAβ
Aβ42のサイズ排除で精製したプロトフィブリル混合物を、37℃、濃度10μMで、対象化合物と一緒に、Aβ42と試験化合物との比率を1:0.5及び1:2(モル比)としてインキュベートした。凝集の程度を、チオフラビンT(ThT)蛍光により、24時間及び48時間で評価した。対照試験を、試験化合物が存在しない以外は同じ方法で行った。プロトフィブリルのThT蛍光シグナルの低下又は非増加は、試験した分子がアミロイド原線維の形成を減少させる及び/又は阻止することを示した。このアッセイの結果は、図2に示す(図2a:CafTrp、図2b:FerTrp)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1000mg/kg乾物のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む、食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品。
【請求項2】
N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが、コーヒー及び/又はカカオ原料の抽出によって得られる、請求項1に記載の食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品。
【請求項3】
N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが、N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−フェニルアラニン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−3−ヒドロキシ−L−チロシン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−3−ヒドロキシ−L−チロシン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−グルタミン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−グルタミン酸;N−[(2E)−3−フェニル−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシンからなる群から選択される1種又は複数種の化合物である、請求項1又は2に記載の食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品。
【請求項4】
コーヒー若しくはココア飲料、又はチョコレート製品である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品又は飲料製品。
【請求項5】
少なくとも50mg/kgコーヒー固形物のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む、コーヒー製品。
【請求項6】
1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む組成物の、神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、気分障害、抑うつ、睡眠障害、タンパク質凝集を伴うヒト又は動物の疾患、アルツハイマー病、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する製品の調製のための使用。
【請求項7】
1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが、植物原料の抽出によって得られる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが、コーヒー及び/又はカカオ原料の抽出によって得られる、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
コーヒー及び/又はカカオ原料が、N−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドの抽出前に、熱処理及び/又は焙煎される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
1種又は複数種のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドが、N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−トリプトファン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−フェニルアラニン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−3−ヒドロキシ−L−チロシン;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−3−ヒドロキシ−L−チロシン;N−[(2E)−3−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−グルタミン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−グルタミン酸;N−[(2E)−3−フェニル−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−アスパラギン酸;N−[(2E)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1−オキソ−2−プロペン−1−イル]−L−チロシンからなる群から選択される、請求項6〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
製品が、食品、飲料製品、栄養補助食品、ペットフード製品、又は薬剤である、請求項6〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
製品が、コーヒー若しくはココア飲料、又はチョコレート製品である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の食品、飲料製品、栄養補助食品、又はペットフード製品の、ヒト又は動物において、認知機能低下、気分障害、及び/又は睡眠障害を治療及び/又は予防するため、脳を保護するため、及び/又は認知能力、免疫反応、及び/又は消化管バリア機能を改善するための、非治療的使用。
【請求項14】
認知能力を改善する方法、即ち神経変性障害、認知機能低下、軽度の認知機能障害、認知症、タンパク質凝集を伴う疾患、アルツハイマー病、黄斑変性症、又は糖尿病を治療又は予防する方法であって、有効量のN−フェニルプロペノイルアミノ酸アミドを含む食品、飲料製品、又はペットフード製品をヒト又は動物に与えることを含む方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2012−517970(P2012−517970A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549516(P2011−549516)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051263
【国際公開番号】WO2010/091981
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】