説明

N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの新規結晶

【課題】 医薬として有用なN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの安定した品質の結晶を提供する。
【解決手段】 粉末X線回折パターンおよび/または示差走査熱量分析サーモグラムで特徴付けられ、優れた熱安定性を有する、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのα型結晶、γ型結晶およびδ型結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの新規結晶、その製造方法およびそれを含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ICH(The International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)ガイドラインのトピックQ6A「新医薬品の規格及び試験方法の設定について(Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances)」(非特許文献1)では、原薬の結晶多形について、「新原薬の中には、物理的性質の異なる2つ以上の結晶形で存在するものがある。結晶多形には、溶媒和物あるいは水和物(擬多形とも呼ばれる)や無晶形も含まれる。こうした固体状態の違いが、新製剤の品質や機能に影響を及ぼすことがある。そうした違いが、製剤機能、バイオアベイラビリティあるいは安定性に影響を及ぼすような場合には、新原薬の規格に適切な存在形を規定すべきである。」と述べている。そして、新医薬品の開発では、原薬の結晶多形の存在の有無を確認し、結晶多形が存在する場合は各結晶形の溶解度や安定性、融点に相違がないか調べ、相違がある場合は製剤の安全性や機能性、有効性が結晶形の影響を受けるか否かを調べるべきとしている。
【0003】
このガイドラインを原薬製造の観点から見ると、原薬に結晶多形が存在する場合は、原薬の結晶形を単一にするか、あるいは複数の結晶形の原薬中の存在比を一定にコントロールすることが求められていると理解される。しかし、原薬の結晶多形が存在することを見つけることは必ずしも容易ではなく、通常は試行錯誤が必要である。また、結晶多形の存在が確認された場合、通常、単一の結晶からなる原薬、あるいは複数の結晶形の存在比が一定にコントロールされた原薬を製造することは容易に達成されることではなく、鋭意検討を必要とする。
【0004】
下記式(I)で表されるN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミド
【0005】
【化1】

【0006】
は、末梢型ベンゾジアゼピン受容体に対して選択的かつ顕著な親和性を示すと共に、優れた抗不安作用を示すので、不安関連疾患、うつ病、てんかんなどの中枢性疾患、多発性硬化症などの免疫性神経疾患、狭心症、高血圧症などの循環器系疾患の治療薬および予防薬として有用な化合物であることが後記特許文献1および特許文献2に記載されている。
【0007】
特許文献1の実施例146および特許文献2の製造例146には、式(I)の化合物がエタノールから再結晶され、その結晶の融点が163−164℃であったことが記載されているが、式(I)の化合物の結晶多形に関する記載は全くない。
【0008】
【特許文献1】国際公報第99/28320号パンフレット
【0009】
【特許文献2】特開2001−48882号公報
【0010】
【非特許文献1】ICHガイドライン、トピックQ6A「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの安定した品質の結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記特許文献1および特許文献2の記載に準じて式(I)の化合物を繰り返し製造したところ、得られた結晶の粉末X線回折パターンが製造ロットごとにそれぞれ異なること、すなわち、式(I)の化合物の結晶多形が存在する可能性があることに気づいた。そこで、本発明者らは、式(I)の化合物の結晶多形について鋭意検討を行った結果、4種類の結晶(以下、これらの4種類の結晶を、「α型結晶」、「β型結晶」、「γ型結晶」および「δ型結晶」と称す。)を見出すと共に、そのうちの3種類の結晶(「α型結晶」、「γ型結晶」および「δ型結晶」)が室温で安定な結晶として存在し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのα型結晶、γ型結晶並びにδ型結晶、具体的には以下の結晶を提供するものである。
【0014】
下記(a1)および(b1)で示される物理化学的性質のうちのいずれか一つまたは両方の性質を有するN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのα型結晶:
(a1)ピーク角度2θ(エネルギー:10KeV)で表して、ほぼ、4.14°、7.07°、14.97°、16.64°、19.96°および22.84°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b1)昇温速度が10℃/minの示差走査熱量サーモグラムにおいて、ほぼ、120℃、161℃および167℃にピークが観測される。
【0015】
下記(a2)および(b2)で示される物理化学的性質のうちのいずれか一つまたは両方の性質を有するN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのγ型結晶:
(a2)ピーク角度2θ(エネルギー:10KeV)で表して、ほぼ、4.07°、7.41°、8.15°、8.21°、14.11°、14.29°および18.63°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b2)昇温速度が10℃/minの示差走査熱量サーモグラムにおいて、ほぼ162℃にピークが観測される。
【0016】
下記(a3)および(b3)で示される物理化学的性質のうちのいずれか一つまたは両方の性質を有するN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのδ型結晶:
(a3)ピーク角度2θ(エネルギー:10KeV)で表して、ほぼ、4.16°、7.81°、10.19°、11.71°、13.64°、14.62°、19.28°および20.89°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b3)昇温速度が10℃/minの示差走査熱量サーモグラムにおいて、ほぼ167℃にピークが観測される。
【0017】
また、本発明は、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのα型結晶、γ型結晶並びにδ型結晶の製造方法を提供する。具体的には以下の製造方法を提供する。
【0018】
上記のN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのα型結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドを含むC3−5アルコール溶液から該化合物を結晶化させることからなる製造方法。
【0019】
上記のN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのα型結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドをエタノールに加熱溶解し、該エタノール溶液を−21〜5℃で急速に冷却し、結晶化させることからなる製造方法。
【0020】
上記のN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのγ型結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドを含むメタノール、C1−5アルキルアセタート、C3−6ケトンまたはジメチルスルホキシド溶液から該化合物を結晶化させることからなる製造方法。
【0021】
前記のγ型結晶の製造方法においては、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドを含むC3−6ケトン溶液から該化合物を結晶化させることからなる製造方法が好ましい。
【0022】
上記のN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのδ型結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの結晶を130℃以上162℃未満の温度で加熱してδ型結晶に変化させることからなる製造方法。
【0023】
加えて、本発明は、上述のα型結晶、γ型結晶またはδ型結晶からなるN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの原薬を提供する。
【0024】
さらに、本発明は、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのδ型結晶を含有する医薬を提供する。
【0025】
また、本発明は、前述のN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの原薬を含有する医薬を提供する。
【0026】
本明細書における「α型結晶」、「γ型結晶」および「δ型結晶」とは、通常の粉末X線回折、示差走査熱量分析等で示される物理化学的性質によって、それぞれ他の結晶および他の結晶との混合物とは区別される結晶を意味する。
【0027】
「C3−5アルコール」とは、炭素数が3〜5の直鎖状または分枝鎖状のアルコールを意味し、具体例としては、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロパノール)、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール(イソブチル アルコール)、1−ペンタノール(アミル アルコール)、3−メチル−1−ブタノール(イソアミル アルコール)などが挙げられる。これらのうち、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノールまたは3−メチル−1−ブタノールが好ましい。
【0028】
「C1−5アルキルアセタート」とは、炭素数が1〜5の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を有する酢酸エステルを意味し、具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミルなどが挙げられる。これらのうち、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチルおよび酢酸イソアミルが好ましい。
【0029】
「C3−6ケトン」とは、炭素数が3〜6の直鎖状または分枝鎖状のケトンを意味し、具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。これらのうち、アセトン、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトンが好ましく、メチルイソブチルケトンが最も好ましい。
【0030】
「原薬」とは、ICHガイドラインのトピックQ7A「原薬GMPのガイドラインについて」の記載に準じ、医薬品有効成分(API)とも称される、「医薬品の生産に使用することを目的とする物質で、医薬品の製造に使用された時に医薬品の有効成分となるもの」を意味する。本明細書における「α型結晶からなる原薬」、「γ型結晶からなる原薬」または「δ型結晶からなる原薬」はそれぞれ実質的に他の結晶を含まない、α型結晶、γ型結晶またはδ型結晶であると確認された原薬である。原薬の結晶の確認は、通常、粉末X線回折および/または示差走査熱量分析が用いられる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、安定した品質のN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの原薬を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明者らの研究によって、式(I)の化合物の結晶には結晶多形が存在し、少なくとも4種類の異なる結晶、α型結晶、β型結晶、γ型結晶およびδ型結晶が存在することが見出された。これらのうち、β型結晶は、α型結晶を120℃に加熱すると得られるが、室温ではα型結晶へ転移するため、室温で単離不可能な結晶形だった。したがって、この4種類の結晶のうち、室温で安定に存在し、単離可能な式(I)の化合物の結晶はα型結晶、γ型結晶およびδ型結晶の3種類(以下、「本発明の結晶」と称することもある)である。
【0033】
本発明の結晶は、本明細書に記載の物理化学的性質によって特定される。しかし、後記の実施例において、例えば、同一の結晶形の粉末X線回折を異なるX線の波長で測定すると観測されるピーク角度が異なることからも明らかなように、これらの物理化学的性質を示すデータは、測定方法や測定器具によって多少変わるものであるから、本明細書に記載の結晶形を特定する物理化学的性質は厳密に解されるべきではない。
【0034】
α型結晶の製法:
式(I)の化合物のα型結晶は、式(I)の化合物を含むC3−5アルコール(例えば、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−ブタノール)溶液から該化合物を常法に従って結晶化させることによって製造される。具体例を実施例1に示すが、式(I)の化合物のα型結晶は後述のγ型結晶の製造方法(例えば、実施例4または実施例5の製法)に準じた方法によっても製造することができる。
【0035】
式(I)の化合物のα型結晶は、式(I)の化合物をエタノールに加熱溶解して調製した溶液を5℃以下、好ましくは−21〜5℃、さらに好ましくは0〜5℃で冷却することからなる該化合物の結晶化によっても製造される。加熱溶解は、通常、エタノール溶液が還流する温度で加熱する。冷却はγ型結晶を析出させないために急速で行う。具体例を実施例2に示す。
【0036】
γ型結晶の製法:
式(I)の化合物のγ型結晶は、式(I)の化合物を含むメタノール、C1−5アルキルアセタート(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル)、C3−6ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)またはジメチルスルホキシド溶液から該化合物を結晶化させることによって製造される。この結晶化は常法に従って行うことができ、具体的な製造例を実施例3、実施例4および実施例5に示す。
【0037】
γ型結晶の製造に用いる溶媒は、前記溶媒の中ではC3−6ケトンが好ましく、具体例としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられ、これらの中では、メチルイソブチルケトンが特に好ましい。式(I)の化合物1gの結晶化に用いる溶媒量は、7〜14mlが好ましく、8〜9mlがさらに好ましい。この場合において、式(I)の化合物は加熱して溶媒に溶解する。このときの加熱温度は特に限定されないが、通常は、溶媒が還流するまで加熱する。
【0038】
加熱して溶媒に溶解した式(I)の化合物は、その溶液を冷却することによって目的の結晶形で結晶化する。結晶化のときに、目的の結晶を種として加えてもよい。溶液の冷却速度は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜2℃/minである。溶液中に析出した結晶を濾取し、常法に従って乾燥(好ましくは120℃以下で乾燥)すれば、目的の結晶が製造される。
【0039】
δ型結晶の製法:
式(I)の化合物のδ型結晶は、溶媒の非存在下または存在下、式(I)の化合物の結晶(α型結晶とγ型結晶の混合物またはいずれか一方の結晶;これらの結晶は非晶質との混合物であってもよい。)を通常は130℃以上162℃未満の温度、好ましくは140℃以上161℃以下、さらに好ましくは好ましくは150℃以上160℃以下の温度で加熱することによって製造される。具体的な製造例を実施例6に示す。
【0040】
後記の実施例1〜7から明らかなとおり、γ型結晶はδ型結晶に比して製造が容易であり、γ型結晶はα型結晶に比して安定な結晶である。したがって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの原薬としては、γ型結晶からなる原薬が好ましい。
【0041】
出発物質の式(I)の化合物は特許文献1に記載の方法によって製造することができる。
【0042】
本発明の結晶は、末梢型ベンゾジアゼピン受容体に対して選択的でかつ顕著な親和性を示すと共に優れた抗不安作用を示すので、不安関連疾患(神経症、心身症、不安障害など)、うつ病、てんかんなどの中枢性疾患、多発性硬化症などの免疫性神経疾患、狭心症、高血圧症などの循環器系疾患の治療薬および予防薬として有用である。このことは前記特許文献1に記載の式(I)の化合物の薬理試験結果から説明される。
【0043】
本発明の結晶の投与経路としては、経口投与あるいは非経口投与のいずれでもよい。投与量は、化合物の種類、投与方法、患者の症状・年齢等により異なるが、通常0.01〜50mg/kg/日、好ましくは0.03〜5mg/kg/日である。
【0044】
本発明の結晶は通常、製剤用担体と混合して調製した製剤の形で投与される。製剤用担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明の結晶と反応しない物質が用いられる。
【0045】
剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製され、例えば、WO99/28320に記載の製剤例をそのまま具体例として挙げることができる。これらの製剤は、本発明の結晶を0.01%以上、好ましくは0.1〜70%の割合で含有することができる。これらの製剤はまた、治療上有効な他の成分を含有していてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、参考例および実施例を挙げて本発明の新規な結晶について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、実施例に記載のデータは、通常、同じ実験を繰り返しても数値が多少変わるものであるから、厳密に解されるべきではない。参考例および実施例で得られた結晶は以下の方法で同定した。
【0047】
(1)高輝度放射光施設SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いた粉末X線回折:BL24XU Hutch Bに設置された小型回折計を用い、エネルギー10KeV、ステップ0.006°(2θ)、0.5mmφ石英キャピラリー、測定時間1.0sec/step、入射スリット0.4×1.0mm、受光スリット(1)0.1mm(垂直)、受光スリット(2)0.3mm(垂直)、受光スリット間距離630mmで透過法により測定した。
【0048】
(2)スペクトリス社製X’Pert Alpha1 system用いた粉末X線回折:Cu Kα線、ステップ0.0084°(2θ)、測定時間1000sec/step、入射スリット15mm(オート)、発散防止スリット15mm(オート)、検出器X’Celeratorで集中法により測定した。
【0049】
(3)理学社製RINT2000 Ultima+を用いた粉末X線回折:Cu Kα1,2線、スキャン速度2°/minで集中法により測定した。
【0050】
(4)昇温粉末X線回折:理学社製RINT2000 Ultima+を用い、水平試料板にヤナコ社製融点測定器MP型のヒートシンクを密着させ、昇温しながら、Cu Kα1,2線、スキャン速度10°/minで集中法により測定した。
【0051】
(5)示差走査熱量分析:パーキンエルマー社製Pyrislを用い、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下20mL/minで測定した。温度校正は、水(0℃)、インジウム(156.6℃)、亜鉛(419.5℃)を用い、熱量校正にはインジウム(28.45J/g)を用いた。2〜5mgの式(I)の化合物の結晶をアルミニウムパンにいれ、アルミニウムカバーでクリンプした後、測定に供した。
【0052】
(6)熱重量分析:パーキンエルマー社製TGA7を用い、昇温速度5℃/min、窒素雰囲気下、サンプル流量50mL/min、バランス流量20mL/minで測定した。温度校正は、アルメル(alumel)(154.2℃)、ニッケル(355.3℃)を用いた。2〜5mgの式(I)の化合物の結晶をプラチナパンにいれ、測定に供した。
【0053】
(7)ホットステージ顕微鏡:オリンパス光学社製実体顕微鏡SZH型の光軸と、ヤナコ社製融点測定器MP型のヒートシンク中央の光軸を合わせ、ヒートシンク下方向からオリンパス光学社製LGPS光源を用いて偏光を照射し、昇温速度約5℃/minで昇温しながら結晶の変化、偏光の消失等を観察した。
【0054】
参考例1 N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミド[式(I)の化合物]の製造:
本参考例はWO99/28320の実施例146に記載の化合物[式(I)の化合物]の製法(WO99/28320の実施例106の製法に準じる製法)に準じて行った。但し、本参考例では60%水素化ナトリウムに替えて炭酸カリウムを用いた。
具体的には、WO99/28320に記載の製法に準じて製造したN−ベンジル−N−エチル−2−(8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミド(WO99/28320の実施例91の化合物)7.75gと炭酸カリウム4.15gをジメチルホルムアミド100mlに懸濁させ、これにヨウ化メチル4.26gを加え、室温で2時間撹拌した。反応混合物を減圧で濃縮し、残留物に水およびクロロホルムを加えてクロロホルム層を分取し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧で濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルムで溶出・精製し、エタノールから再結晶して目的物4.46gを得た。融点は165〜166℃(未補正)だった。
同様の製法で式(I)の化合物の製造を数回繰り返したが、得られた結晶についてRINT2000 Ultima+で粉末X線回折を測定し、それぞれのパターンを比較するとピークの現れ方に差異が見られた。
【0055】
実施例1 α型結晶の製造(1):
参考例1の式(I)の化合物1gを100mLナスフラスコに入れ、これに2−プロパノール(イソプロパノール)40mLを加えて栓をした後、水浴(100℃)上で振騰して参考例1の化合物を溶解した。この溶液を室温で一昼夜放置した後、析出した結晶を濾取し、室温で減圧下1時間乾燥してα型結晶を得た。α型結晶のSPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られたパターン(10KeV)、X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたパターン(Cu Kα線)および示差走査熱量サーモグラムをそれぞれ図1、図2および図3に示す。
【0056】
SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られたα型結晶の粉末X線回折のピーク角度(10KeV)とその相対強度(図1のピーク角度とその相対強度)を表1に示す。これらのうち、α型結晶に特徴的なピーク角度(10KeV)は4.14°、7.07°、14.97°、16.64°、19.96°および22.84°だった。
【0057】

【表1】

【0058】
X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたα型結晶の粉末X線回折のピーク角度(Cu Kα線)(図2のピーク角度)は、ピーク角度2θで表して、5.11°、8.74°、9.11°、9.95°、10.26°、13.17°、13.81°、15.05°、16.27°、17.42°、18.10°、18.54°、18.71°、19.07°、19.98°、20.62°、21.33°、21.74°、22.06°、22.98°、23.31°、24.03°、24.77°、25.63°、26.05°、26.96°、27.37°、27.71°、28.05°、28.35°、28.93°、29.40°、29.95°、30.47°、31.24°、31.75°、32.34°、33.17°、33.63°、34.58°、35.15°、35.72°、36.29°、36.60°、37.15°、37.65°、38.07°、38.74°、40.08°、40.66°、41.38°、42.34°、42.79°、43.18°、43.86°、44.74°、45.29°、46.22°および46.70°だった。これらのうち、α型結晶に特徴的なピーク角度は5.11°、8.74°、18.54°、20.62°、24.77°および28.35°だった。
【0059】
α型結晶は、昇温粉末X線回折の測定において、125℃からβ型特有の回折ピークが現われ始め、140℃でα型からβ型への完全な転移が観測され、165℃でδ型への転移に伴うピークが観測された。
【0060】
α型結晶の示差走査熱量サーモグラム(図3)では、120℃でβ型への転移に伴う吸熱ピーク、161℃で転移体(β型結晶)の融解およびδ型への転移に伴う吸発熱ピーク、167℃に転移体(δ型結晶)の融解に伴う吸熱ピークが観測された。
【0061】
α型結晶について熱重量分析を行った結果、重量変化は観測されなかった。
【0062】
ホットステージ顕微鏡でα型結晶を観察すると、昇温過程と降温過程のいずれにおいてもα型−β型間の転移は融解を伴わず固体状態で転移した。β型からδ型への転移では結晶の融解を伴っていた。
【0063】
実施例2 α型結晶の製造(2):
参考例1の化合物25mgを15mLガラススピッツに入れ、これにエタノール1mLを加えて栓をした後、水浴(100℃)上で振騰して参考例1の化合物を溶解した。この溶液を5℃に設定した恒温槽に入れ、析出した結晶を濾取し、室温で減圧下1時間乾燥してα型結晶を得た。この結晶の結晶形は粉末X線回折で確認した。
【0064】
参考例2 エタノール再結晶から得られた結晶:
実施例2の恒温槽の温度を20℃または50〜30℃(50℃から30℃まで−5℃/hで冷却)に設定して参考例1の化合物の結晶を得た。これらの結晶について理学社製RINT2000 Ultima+を用いて粉末X線回折を測定すると、いずれの結晶もα型結晶とγ型結晶の混合物であることを示すピークが観測された。
【0065】
参考例3 β型結晶:
α型結晶の昇温粉末X線回折を測定した結果、α型結晶を140℃に加熱するとβ型に転移したが、冷却すると120℃でα型に転移した。
【0066】
SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られたβ型結晶の粉末X線回折のピーク角度(10KeV)とその相対強度(図10のピーク角度とその相対強度)を表2に示す。これらのうち、α型と比較してβ型に特徴的なピーク角度(10KeV)は4.00°、7.11°、13.96°、19.20°および21.84°だった。
【0067】
【表2】

【0068】
昇温粉末X線回折の測定において、α型を140℃に加熱するとβ型固有の回折ピークを示しβ型に転移したが、冷却すると120℃でα型と同じ回折パターンを示し、α型に転移した。
【0069】
α型を140℃まで加熱、冷却、再加熱した時の示差走査熱量サーモグラムは120℃でそれぞれ吸熱(昇温)、発熱(降温)、吸熱(再昇温)パターンを示した。それらの熱量は同じであったことから、α型とβ型の転移は可逆的であった。
【0070】
実施例3 γ型結晶の製造(1):
参考例1の化合物1gを50mLナスフラスコに入れ、これにメチルイソブチルケトン8mLを加えて栓をした後、水浴(100℃)上で振騰して参考例1の化合物を溶解した。この溶液を室温で一昼夜放置した後、析出した結晶を濾取し、室温で減圧下1時間乾燥してγ型結晶を得た。γ型結晶のSPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られた粉末X線回折パターン(10KeV)、X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたパターン(Cu Kα線)および示差走査熱量サーモグラムをそれぞれ図4、図5および図6に示す。
【0071】
SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られたγ型結晶の粉末X線回折のピーク角度(10KeV)とその相対強度(図4のピーク角度とその相対強度)を表3に示す。これらのうち、γ型結晶に特徴的なピーク角度(10KeV)は4.07°、7.41°、8.15°、8.21°、14.11°、14.29°および18.63°だった。
【0072】
【表3】

【0073】
X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたγ型結晶の粉末X線回折のピーク角度(Cu Kα線)(図5のピーク角度)は、ピーク角度2θで表して、5.08°、9.20°、10.15°、11.66°、13.46°、15.47°、16.36°、16.72°、17.52°、17.73°、17.92°、18.47°、18.95°、19.33°、19.89°、20.35°、21.54°、21.85°、22.22°、23.15°、23.38°、24.60°、24.93°、25.51°、26.86°、27.03°、27.86°、28.67°、29.44°、30.73°、31.96°、32.88°、33.21°、33.90°、35.73°、36.05°、36.72°、42.68°、43.51°および45.68°だった。これらのうち、γ型結晶に特徴的なピーク角度は5.08°、9.20°、10.15°、11.66°、17.52°、17.73°および23.15°だった。
【0074】
γ型結晶は、昇温粉末X線回折の測定において、170℃からδ型に由来する回折ピークが認められるようになり、174℃で完全にδ型結晶に転移した。
【0075】
γ型結晶の示差走査熱量サーモグラム(図6)では、162℃に融解による吸熱ピークが観測された。示差走査熱量分析の昇温速度を5℃/minにすると、167℃に転移体(δ型結晶)の融解に伴う吸熱ピークが観測された。
【0076】
γ型結晶について熱重量分析を行った結果、重量変化は観測されなかった。
【0077】
実施例4 γ型結晶の製造(2):
参考例1の化合物10gをメチルイソブチルケトン80mLで攪拌下加熱溶解した。この溶液を濾過し、続いて容器を洗浄したメチルイソブチルケトン10mLを濾過し、両濾液を合わせた溶液を加熱して析出した結晶を溶解した。この溶液を80℃まで冷却し、その後1℃/minの冷却速度で5℃以下に冷却し、5℃以下で1.5時間保った。析出した結晶を濾取し、メチルイソブチルケトン10mLで洗浄した後、60℃で16時間送風乾燥し、γ型結晶9.43gを得た。この結晶の結晶形は粉末X線回折と示差走査熱量分析で確認した。また、粉末X線回折でγ型結晶の含有率が95%以上であることを確認した。この試料の化学純度をHPLCで測定した結果は99.990%だった。
【0078】
実施例5 γ型結晶の製造(3):
参考例1の化合物10gをメチルイソブチルケトン60mLで攪拌下加熱溶解した。この溶液を濾過し、続いて容器を洗浄したメチルイソブチルケトン10mLを濾過し、両濾液を合わせた溶液を加熱して析出した結晶を溶解した。この溶液を80℃まで冷却し、γ型結晶5mgを加えて80℃で30分保った。その後1℃/minの冷却速度で5℃以下に冷却し、5℃以下で1.5時間保った。析出した結晶を濾取し、メチルイソブチルケトン10mLで洗浄した後、60℃で16時間送風乾燥し、γ型結晶9.43gを得た。この結晶の結晶形は粉末X線回折と示差走査熱量分析で確認した。また、粉末X線回折でγ型結晶の含有率が95%以上であることを確認した。この試料の化学純度をHPLCで測定した結果は99.993%だった。
【0079】
実施例6 δ型結晶の製造:
参考例1の化合物を密栓ガラス容器に入れ、150℃のオーブンで24時間加熱し、δ型結晶を得た。δ型結晶のSPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られたパターン(10KeV)、X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたパターン(Cu Kα線)および示差走査熱量サーモグラムをそれぞれ図7、図8および図9に示す。
【0080】
SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られたδ型結晶の粉末X線回折のピーク角度(10KeV)とその相対強度(図7のピーク角度とその相対強度)を表4に示す。これらのうち、δ型結晶に特徴的なピーク角度(10KeV)は4.16°、7.81°、10.19°、11.71°、13.64°、14.62°、19.28°および20.89°だった。
【0081】
【表4】

【0082】
X’Pert Alpha1 systemを用いて得られたδ型結晶の粉末X線回折のピーク角度(Cu Kα線)(図8のピーク角度)は、ピーク角度2θで表して、5.19°、9.04°、9.70°、10.35°、12.65°、14.52°、14.80°、14.98°、15.55°、16.11°、16.28°、16.92°、17.36°、17.84°、18.14°、18.64°、19.23°、19.48°、19.80°、19.90°、20.49°、20.80°、20.99°、21.36°、22.22°、23.04°、23.21°、23.67°、24.00°、25.42°、25.98°、26.57°、27.23°、27.39°、28.03°、28.99°、29.39°、30.39°、30.86°、31.37°、32.25°、33.07°、34.14°、34.84°、35.20°、35.45°、35.89°、36.46°、37.14°、37.76°、38.07°、39.24°、40.17°、41.11°、41.90°、43.09°、43.46°、44.08°、44.39°、44.99°、45.29°、45.94°、46.74°、47.50°、48.40°、48.91°および49.19°だった。これらのうち、δ型結晶に特徴的なピーク角度は5.19°、9.70°、12.65°、14.52°、16.92°、18.14°、24.00°および25.98°だった。
【0083】
δ型結晶は、昇温粉末X線回折の測定において、178℃で融解するまで結晶の変化はなかった。
【0084】
δ型結晶の示差走査熱量サーモグラム(図9)では、167℃に融解による吸熱ピークが認められた。
【0085】
δ型結晶について熱重量分析を行った結果、重量変化は観測されなかった。
【0086】
昇温粉末X線回折および示差走査熱量分析の結果では、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの結晶多形において最も安定な結晶はδ型結晶だった。
【0087】
実施例7 種々の溶媒を用いたα型結晶またはγ型結晶の製造:
実施例1の2−プロパノールに代えて各種溶媒(例えば、酢酸エチル0.4mL)を用い、実施例1と同様に操作をして式(I)の化合物の結晶を得た。結晶化に用いた溶媒とその溶媒を用いて得られた結晶を表5に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
平衡吸湿性試験
無機飽和塩で調湿したデシケーター(25℃,15〜93%RH;RHは相対湿度を意味する)にα型、γ型、δ型の各結晶約100mgを入れ、1ヶ月間経時的に重量変化を測定した結果、いずれの結晶も0.1%以上の重量変化は観測されなかった。
【0090】
固体安定性試験
α型、γ型、δ型の各結晶約1mgを精密に10mLアンプルまたはバイアルに量り込み、表6に示す条件下に保存した。45日後の残存量をHPLCを用いて定量した。各測定時点における標準品は、同様に秤量して別途4℃で保存したα型、γ型、δ型の各結晶を用いた。いずれの結晶も、HPLCクロマトグラム上に類縁物質ピークの増加は認められず、残存量はほぼ100%(99.8-100.1%)と安定であった。試験結果を表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
溶解度
α型、γ型、δ型の各結晶の適量と蒸留水をミクロテストチューブにいれ、タイテック社製ミクロインキュベータM-36を用いて、37℃、2000r/minで約5時間振騰し飽和させた。振騰後、フィルター(アドバンテックDISMIC-13HP:0.2μm)で濾過し、水溶液中濃度をHPLCで定量した。α型、γ型、δ型の各結晶の溶解度はそれぞれ1.7μg/mL、1.8μg/mL、1.7μg/mLだった。
【0093】
溶解試験(パドル法)
α型、γ型、δ型の各結晶1mgにトウモロコシデンプン4mgを加え、メノウ乳鉢でよく混合して試料を調製した。日本薬局方溶出試験器を用い、第二液(pH6.8)、900mL、37℃、パドル100回転/minで溶解させた。経時的にフィルター(アドバンテックDISMIC-13HP:0.2μm)で濾過し、溶解液をとり、HPLCを用いて溶解液中濃度を定量した。α型、γ型、δ型の各結晶のそれぞれの溶解曲線にはほとんど差が認められず、α型、γ型、δ型の各結晶の溶解性はほぼ同等だった。
【0094】
溶解試験(回転ディスク法)
α型、γ型、δ型の各結晶約120mgをIR用KBr錠剤成形器を用いて圧縮成形(2000kg/cm、10秒)し、直径13mmの円盤試料を調製した。円盤試料を円盤固定ホルダー(溶解面積:0.7085cm)に固定し、水900mL、37℃、100rpmで溶解させた。経時的に溶解液をとり、HPLCを用いて溶解液中濃度を定量した。α型、γ型、δ型の各結晶の溶解速度はそれぞれ0.018mg/hr/cm、0.016mg/hr/cm、0.015mg/hr/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の結晶は、医薬[不安関連疾患(神経症、心身症、不安障害など)、うつ病、てんかんなどの中枢性疾患、多発性硬化症などの免疫性神経疾患、狭心症、高血圧症などの循環器系疾患の治療薬および予防薬]に用いる安定した品質の原薬となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られた本発明のα型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図2】X’Pert Alpha1 systemを用いて得られた本発明のα型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図3】本発明のα型結晶の示差走査熱量サーモグラムである。
【図4】SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られた本発明のγ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図5】X’Pert Alpha1 systemを用いて得られた本発明のγ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図6】本発明のγ型結晶の示差走査熱量サーモグラムである。
【図7】SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られた本発明のδ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図8】X’Pert Alpha1 systemを用いて得られた本発明のδ型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図9】本発明のδ型結晶の示差走査熱量サーモグラムである。
【図10】SPring-8 BL24XU Hutch Bを用いて得られたβ型結晶の粉末X線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a1)および(b1)で示される物理化学的性質のうちのいずれか一つまたは両方の性質を有するN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのα型結晶:
(a1)ピーク角度2θ(エネルギー:10KeV)で表して、ほぼ、4.14°、7.07°、14.97°、16.64°、19.96°および22.84°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b1)昇温速度が10℃/minの示差走査熱量サーモグラムにおいて、ほぼ、120℃、161℃および167℃にピークが観測される。
【請求項2】
下記(a2)および(b2)で示される物理化学的性質のうちのいずれか一つまたは両方の性質を有するN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのγ型結晶:
(a2)ピーク角度2θ(エネルギー:10KeV)で表して、ほぼ、4.07°、7.41°、8.15°、8.21°、14.11°、14.29°および18.63°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b2)昇温速度が10℃/minの示差走査熱量サーモグラムにおいて、ほぼ162℃にピークが観測される。
【請求項3】
下記(a3)および(b3)で示される物理化学的性質のうちのいずれか一つまたは両方の性質を有するN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのδ型結晶:
(a3)ピーク角度2θ(エネルギー:10KeV)で表して、ほぼ、4.16°、7.81°、10.19°、11.71°、13.64°、14.62°、19.28°および20.89°に特徴的なピークを有する粉末X線回折パターンを示す;
(b3)昇温速度が10℃/minの示差走査熱量サーモグラムにおいて、ほぼ167℃にピークが観測される。
【請求項4】
請求項1に記載の結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドを含むC3−5アルコール溶液から該化合物を結晶化させることからなる製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドをエタノールに加熱溶解し、該エタノール溶液を−21〜5℃で急速に冷却し、結晶化させることからなる製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドを含むメタノール、C1−5アルキルアセタート、C3−6ケトンまたはジメチルスルホキシド溶液から該化合物を結晶化させることからなる製造方法。
【請求項7】
N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドを含むC3−6ケトン溶液からN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドを結晶化させることからなる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載の結晶の製造方法であって、N−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの結晶を130℃以上162℃未満の温度で加熱してδ型結晶に変化させることからなる製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のα型結晶、請求項2に記載のγ型結晶または請求項3に記載のδ型結晶からなるN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドの原薬。
【請求項10】
請求項3に記載のN−ベンジル−N−エチル−2−(7−メチル−8−オキソ−2−フェニル−7,8−ジヒドロ−9H−プリン−9−イル)アセトアミドのδ型結晶を含有する医薬。
【請求項11】
請求項9に記載の原薬を含有する医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−120683(P2008−120683A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52668(P2005−52668)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】