説明

N−脱メチル化モルフィナン化合物を合成する方法

【解決手段】 本発明は、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造方法に関する。一形態において、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造は、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態のN-脱メチル化を含む。特に、本発明の製造方法は、ケシ科のケシ属の植物から抽出されたN-メチルモルフィナン類またはそれらの保護形態のN-脱メチル化によるN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造において有用である。本発明の方法を有用に行うことができる好適なN-メチルモルフィナンの一例はテバインである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態を製造する方法に関する。一形態では、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造には、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態のN-脱メチル化が含まれる。特に、本発明の製造方法は、ケシ科(Papaveraceae)のケシ属(Papaver)の植物から抽出されたN-メチルモルフィナン類またはそれらの保護形態のN-脱メチル化によるN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造において有用である。本発明の製造方法を有用に行うことができる好適なN-メチルモルフィナンの一例はテバインである。
【背景技術】
【0002】
多くのN-メチルモルフィナン化合物がヒトに知られている。この種類の化合物としては、ケシ科のケシ植物から得られるアヘンアルカロイドなどがある。現在はケシ属から抽出されている、商品価値を有する具体的なアルカロイドとしては、モルヒネ、コデイン、テバインおよびオリパビン(oripavine)などを挙げることができる。これら4種類のアルカロイドの構造を以下に示す。
【化1】

【0003】
上記に示されている構造から分かるように、これら4種類の化合物は、構造上の高度な類似性を有している。実際、このタイプの構造を分類する場合、それらが全て下記に示されているモルフィナン骨格を含んでいるということは一般に受け入れられる。
【化2】

【0004】
当該モルフィナン構造の内部に典型的に見られるように、4位の炭素と5位の炭素の間に酸素の結合が存在している。さらに、種々のモルフィナン類の間の相違はC環内において認められ、そのC環においては、異なったレベルの不飽和が観察される。
【0005】
天然N-メチルモルフィナン類の多くはそれ自体で興味深い生理活性を有しているが、向上した特性を有する第2世代の改善された半合成モルフィナン類を同定するためにかなりの研究が行われてきた。この分野における研究の多くは、N-メチルモルフィナンの活性を改変することを目的として、当該モルフィナンのメチル基をより複雑な別の側鎖で置き換えることに重点的に取り組んできた。従って、これらの製造方法において、重要な合成前駆物質はN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態であり、それはその後、さらに処理されて最終的な第2世代生成物となる。
【0006】
例えば、テバインおよびオリパビンは、現在は、ナロキソン、ナルトレキソンおよびブプレノルフィンなどの製品を包含する多くの種類のオピオイドの合成前駆物質として使用される。ナルトレキソンは、主にアルコール依存症およびオピオイド依存症の管理において使用されるオピオイド受容体拮抗薬である。アレキソン(alexon)は、オピオイド過量(例えば、ヘロイン過量またはモルヒネ過量)による効果に対抗するために使用される薬物である。アレキソンは、特に、中枢神経系および呼吸器系の生命にかかわる機能低下に対抗するために使用される。ブプレノルフィンは、部分的な作動作用および拮抗作用を有するオピオイド薬である。従って、対応するN-デメチルモルフィナン類(それぞれ、ノルテバインおよびノル-オリパビン)の製造は、重要な工程である。
【0007】
天然のN-メチルモルフィナン類の第2世代の生成物への変換における重要な段階は、N-メチルモルフィナンにおける3級窒素原子についてN-脱メチル化を行って、さらに処理されて第2世代の所望の生成物を生成することができる2級アミン(N-デメチルモルフィナン)を形成させることである。従って、N-デメチルモルフィナン類を生成させる方法、特に、対応する天然N-メチルモルフィナン類からN-デメチルモルフィナン類を生成させる方法を開発することが求められている。
【0008】
このタイプの変換に当技術分野で用いられる多くの方法が存在する。これまで、その変換は、主要な反応物として臭化シアンを利用するフォンブラウン反応(von Braun反応)を用いて実施されてきた。しかしながら、当該試薬の毒性により、工業環境での使用には魅力的でないことから、この反応は望ましくない。
【0009】
フォンブラウン反応に代わる方法は、クロロギ酸ビニルなどのクロロギ酸エステル試薬の使用である。これらの試薬では代表的には、N-メチルモルフィナンのN-脱メチル化を高収率で生じ、得られる炭酸エステルは所望の2級アミンに容易に変換可能である。しかしながら残念なことに、試薬が非常に高価であるために、この方法は工業的には望ましいものではないことから、その方法の大規模化の可能性は、経済的懸念によって大きく制限される。
【0010】
1985年に、モンコビック(Monkovic)らは、可溶型のFe(II)触媒還元剤を用いるアミンオキシドのN-脱メチル化方法を報告している。この刊行物における関連する例では、モルフィナンN-オキシドの脱アルキル化が行われる。鉄水酸化物および関連する鉄化合物が原因となるかなりのエマルジョン形成によって生じる、鉄触媒還元剤による脱アルキル化モルフィナン生成物の望ましくない汚染を低減するために、2相溶媒系が採用された。2相系を用いることで、溶媒の使用は鉄触媒還元剤用の溶媒として用いられる水と混和しないものに制限される。この作業で使用される鉄触媒還元剤の量は40モル%であり、これは合理的な反応時間枠に対して比較的高いレベルの還元剤が必要とされることを示している。
【0011】
最近、グラクソ・スミスクライン(Glaxo SmithKline)が、同様にN-メチルモルフィナンを最初に酸化して相当するN-オキシドを形成し、それを同様に鉄(II)還元剤を用いて還元してN-デメチルモルフィナンを形成する方法(WO02/16367)を公開している。可溶型の鉄が関与するこの単相手法での問題点は、生成物を単離し、次に製薬上許容される基準までそれを精製するための、大規模でのこれらの反応の後処理手順が複雑であることに関係するものである。これを行うことは可能であるが、製造コストがかなり高くなり、時間がかなり長くなる。実際、著者ら自身は、「好ましい実施形態において、還元段階は触媒量の還元剤によって達成され得る。過剰のFe(II)およびFe(III)種は、反応後処理中の濃厚エマルジョンの形成をもたらすため、これは有利である。」と述べている。この処理で使用される鉄(II)の量は、原料のモルフィナン-N-オキシド濃度の25モル%であった。
【0012】
鉄(II)触媒の必要量は、反応完結を確保するには少なくとも50モル%であるとマッカムリー(McCamley)らが報告している(J. Org. Chem. 2003, 68, 9847-9850)。さらに、マッカムリーが報告している研究ならびに特許WO02/16367およびWO2005/028483A1で報告されている研究では、触媒量は25〜200モル%で変動していることに留意されたい。鉄使用レベルが非常に高いことを考慮すると、これらの研究で使用されている後処理手順は、反応したアルカロイドの精製にかなりの労力を費やすものであった。
【0013】
従って、前記のような後処理問題のために、還元剤が存在することで生じる問題を解消するための試みが行われてきた。一つの手法は、使用される還元剤の量を減らして、精製時に除去される還元剤(鉄など)の量を減らすというものであった。残念ながら、低いレベルの鉄(II)ポルフィリン触媒(鉄に関して10モル%)を用いた場合、反応時間を11日間まで延長したとしても反応が完結しないことも、ドングおよびスカンメルズ(Dong and Scammells)によって見出されている(J. Org. Chem., 2007, 72, 9881-9885)。従って、このことは、工業的に許容される時間スケールでは、還元剤のレベルを下げることが実用的ではないことを強く示唆している。
【0014】
従って、還元剤とモルフィナンとを分離することを可能にし、これにより反応混合物の汚染の可能性と後処理によって生じる問題を回避する方法を開発することに基づいて、アプローチが行われてきた。一つのアプローチは、上記で述べた2相系の使用に基づくものであったが、それは還元剤用の溶媒として用いられる水と混和性でない溶媒の使用に方法を制限するものであることから常に効果的とは限らない。従って、溶媒の範囲は厳しく限定され、工業的観点からは必ずしも許容されるものとは限らない。
【0015】
モルフィナンの還元剤による汚染の可能性の問題を解決すると考えられる別の技術は、固定化還元剤または固定化モルフィナンの使用によるものである。溶液中で低レベルの還元剤を用いて得られた結果から、当業者であれば、工業的に許容される規模でこれを達成できないと考えるであろう。当業者であれば、上記で述べたマッカムリー(McCamley)およびグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)の両方の特許によって必要であることが示されたレベルの還元剤を用いて工業的に許容される時間枠で反応を達成するには、その工程で許容されないほど多量の固体担体を使用する必要があると理解するはずである。なぜなら、当業者は、固体担体上に負荷できる還元剤またはモルフィナンの量に関して厳しい制限があることを理解するであろうからである。従って、固定化材料上でマッカムリーにより教示される反応を実施することは、汚染に関係する問題を克服する可能性があるが、必要とされる固体担体が多量であるためにさらなる問題が生じると考えられ、このことが工業環境での反応後処理に関連して問題を生じさせると考えられる。
【0016】
さらに、これらの方法のうちの多くのものにおいて、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態とともに溶液中の金属種などの残留物が単離されるリスクがあり、このことが、できるだけ多くの不純物を除去することが望ましいという製薬上の観点から望ましくないことは明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】WO 02/16367
【特許文献2】WO 2005/028483A1
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】McCamley et al., J. Org. Chem. 2003, 68, 9847-9850
【非特許文献2】Dong and Scammells, J. Org. Chem., 2007, 72, 9881-9885
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
従って、N-デメチルモルフィナン類またはそれらの保護形態の公知の製造方法は、代表的には、望ましくない有毒な原料、高価な試薬を使用するか、大規模の場合に手順が望ましくないものとなり残留物汚染のリスクがある反応後処理を行う、N-メチルモルフィナン類またはそれらの保護形態のN-脱メチル化を含むものである。従って、N-デメチルモルフィナン類またはそれらの保護形態の改善された製造方法、特には天然N-メチルモルフィナン類が工業的な意味において最も安価な入手可能原料であることから、そのN-脱メチル化を行う方法を開発することが、現在もなお必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本出願人らは、固定化還元剤を用いて相当するN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を還元することによりN-デメチルモルフィナン類またはその保護形態が容易に製造可能であるということを見いだした。本出願人らは、固定化還元剤が、代表的には、モルフィナンN-オキシド類またはそれらの保護形態の還元において固定化されていない還元剤と同じように有効であること、そして、当該還元反応を実施した場合、濾過による還元剤のN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態からの分離が固定化還元剤によって容易になることを見いだした。このように、還元反応が進行したら、代表的には、固定化還元剤を単純に濾去する。この手法の利点は、それが還元剤からの所望の生成物の分離を大幅に簡素化し、残留還元剤を含む最終生成物が得られる可能性を低くし、それは製薬上の観点から望ましいという点である。
【0021】
一態様において本発明は、
(a)N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を提供する段階;
(b)前記N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を還元条件下で還元反応において固定化還元剤と反応させて、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態を形成する段階;
を含む、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の方法は理論的には、いかなるN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態についても実施可能である。一形態において、N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態の提供には、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態を酸化条件下に酸化反応で酸化剤と反応させることでN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を形成する段階が含まれる。
【0023】
この形態では、いずれの好適なN-メチルモルフィナンまたはその保護形態も使用可能である。一実施形態において、N-メチルモルフィナンはケシ科のケシ属の植物から抽出されたアルカロイドである。一実施形態において、N-メチルモルフィナンは、モルヒネ、オリパビン、コデイン、テバイン、およびヘロインまたはその保護形態からなる群から選択される。ある具体的な実施形態において、N-メチルモルフィナンはテバインまたはその保護形態である。別の具体的な実施形態において、N-メチルモルフィナンはオリパビンまたはその保護形態である。
【0024】
前記方法が酸化段階を用いる場合、酸化反応で用いられる酸化剤は、いずれの好適な酸化剤であることができる。一実施形態において、その酸化剤は、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸および過酢酸からなる群から選択される。さらに、好適な量の酸化剤を用いて、その変換を行うことができる。一実施形態において、酸化反応では、モル過剰の酸化剤を用いる。
【0025】
還元反応では、いずれの好適な固定化還元剤を用いることができる。一実施形態において、固定化還元剤は固体支持体に結合した金属イオンである。非常に多様な還元性金属イオンを用いることが可能であり、例えばバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルトおよびインジウムなどがある。一実施形態において、前記金属イオンはFe(II)であり、別の実施形態では金属イオンはV(II)である。固定化還元剤を用いる場合の利点は、汚染の懸念があるために医薬プロセスにおける溶液合成では想定されないバナジウムなどの有毒な還元剤の使用が可能となるという点である。
【0026】
金属イオンは、当分野で公知の方法で固体支持体に結合していることができる。一実施形態において、金属イオンは固体支持体に結合している配位子に対して錯体化されることで固体支持体に結合している。その金属イオンに好適な配位子を用いることができる。一実施形態において、その配位子は窒素含有部分である。好適な窒素含有配位子の一例は、2,2'-ビピリジルまたはその誘導体である。
【0027】
配位子は、固体支持体に直接結合させることができるか、連結基を介して固体支持体に結合させることができる。一実施形態において、配位子は連結基を介して固体支持体に結合している。非常に多様な連結基を用いることができ、どの連結基を用いるかはどの固体支持体を用いるか、どの配位子を用いるか、そして利用可能な試薬によって決まる。一実施形態において、連結基は下記式を有する。
【化3】

【0028】
[式中、
Rは、H、メチル、エチル、プロピル、OCH3およびOCH2CH3からなる群から選択され;
nは、0、1、2および3からなる群から選択される整数であり;
Si部分は固体支持体に結合しており、CH2部分は配位子に結合している。]
具体的な実施形態において、連結基は、下記式の基である。
【化4】

【0029】
広範囲の固体支持体のうちのいずれも本発明の方法で用いることができる。一実施形態において、固体支持体はシリカ粒子である。具体的な実施形態では、シリカ粒子は100〜700μmの粒径を有する。
【0030】
本発明の方法で使用される還元反応は、広範囲の反応化学量論内で、広範囲の反応条件下にて行うことができる。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜150モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜125モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜100モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.01モル%〜50モル%である。別の実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜20モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜10モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、1.0モル%〜5.0モル%である。
【0031】
前記反応は、還元反応を妨害しないいずれの好適な溶媒中で行うことができる。一実施形態において前記反応は、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン、エチルベンゼン、o-、m-およびp-キシレン、イソプロピルベンゼン、メチルナフタレン、クロロベンゼン、o-およびm-ジクロロベンゼン、o-、m-およびp-クロロトルエン、1,2,4-トリクロロベンゼン、エチルプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、n-ブチルエチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、シクロヘキシルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘプタン、ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン、石油エーテル、ヘキサン、軽質ナフサ、2,2,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタンおよびオクタン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、水およびこれらの混合物からなる群から選択される溶媒中で行う。具体的な実施形態では、その反応は、アセトニトリル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよび水からなる群から選択される溶媒中で行う。
【0032】
前記還元反応は、広範囲の反応温度で行うことができ、温度上昇に伴って反応速度が上昇することが認められるのが普通である。一実施形態において、反応は、10℃〜125℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において還元反応は、10℃〜120℃の範囲の温度で実施する。一実施形態において還元反応は、50℃〜100℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において反応は、40℃〜90℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において還元反応は、40℃〜60℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において反応は、少なくとも50℃の温度で実施する。
【0033】
前記還元反応は代表的には、N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態の所望のレベルのN-脱メチル化を実施する上で必要な期間にわたって行う。N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態のN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態への変換のレベルは、TLCおよびHPLCなどの多くの技術のいずれかを用いてモニタリングすることができる。しかしながら一実施形態において、前記還元反応は、15分〜48時間の期間にわたって実施する。一実施形態において還元反応は、15分〜4時間の期間にわたって実施する。別の実施形態において前記反応は、1〜48時間の期間にわたって実施する。別の実施形態において反応は、12〜24時間の期間にわたって実施する。別の実施形態において還元反応は、30分〜6時間の期間にわたって実施する。
【0034】
最終N-メチルモルフィナンまたはその保護形態を単離するためには、還元反応後に、反応混合物を濾過して、固定化還元剤からN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態を分離するのが普通である。これは、当分野で公知のいずれの好適な濾過技術を用いて実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本出願人らは、本発明の方法が、広範囲のN-デメチルモルフィナン類またはそれらの保護形態、特に天然N-メチルモルフィナン類から製造されるものの製造において有用であることを見出した。
【0036】
本発明の方法では、第1段階として、N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態の提供を含む。これは、合成的に提供されるか、別の入手先から購入するか、合成的にもしくは天然から得られるN-メチルモルフィナン化合物の酸化により提供され得る。提供されるN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態は、いずれの好適なモルフィナンであることができ、いずれの好適な純度であることができる。概して、N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態の提供では、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態を酸化条件下に酸化反応で酸化剤と反応させて、N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を形成する。
【0037】
本方法は、広範囲のN-メチルモルフィナン化合物またはそれらの保護形態のN-脱メチル化に応用することができる。本質的に、本方法はN-メチルモルフィナン化合物またはその保護形態のN-脱メチル化による相当するN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造に用いることができる。しかしながら本出願人らは、本方法が、ケシ科のケシ属の植物から抽出されたN-メチルモルフィナン類またはそれらの保護形態のN-脱メチル化に特に適用可能であることを見出した。この種のN-メチルモルフィナン類の例には、モルヒネ、コデイン、テバインおよびオリパビンなどがある。本方法は、テバインおよびオリパビンまたはそれらの保護形態に特に応用可能である。
【0038】
公知のN-メチルモルフィナン類の一部に関して、官能基が存在するということは、使用される試薬がその官能基に影響を与えると考えられることから、N-メチルモルフィナン自体を自然の状態で酸化/還元サイクルに用いることができないことを意味している。この種のN-メチルモルフィナン類に関しては、当業者であれば、最初にN-メチルモルフィナンをその保護形態に変換してから、本発明の方法を行うことが望ましい可能性があることに気づくと思われる。当業者は、どの時点で保護基が必要であったかを容易に決定することができるものと考えられ、さらには、好適な保護基およびそれをN-メチルモルフィナンに付加してその保護形態を形成することができる条件を容易に決定可能であると考えられる。
【0039】
概して、本発明の方法で使用されるN-メチルモルフィナンまたはその保護形態は、いずれの好適な純度のものであることができる。従って、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態は純粋であることができるか、N-メチルモルフィナンを単離した植物種から、または合成入手源からの粗抽出物の形態であることができる。脱メチル化されるべきN-メチルモルフィナンまたはその保護形態の純度が確立されている場合には反応の化学量論の制御がより容易であることから、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態が比較的純粋である場合には、それは有用であることが認められる。
【0040】
N-メチルモルフィナンまたはその保護形態は代表的には、好適な溶媒中の溶液として提供され、それはN-脱メチル化されるべきN-メチルモルフィナンまたはその保護形態を、選択された溶媒に溶解させることで反応混合物を形成することによって行うことができる。例えば水、エタノールなどの低級アルカノール類、トルエンなどの炭化水素類、2-ブタノンなどのケトン類、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類、およびそのような溶媒の混合物などの広範囲の好適な溶媒がある。N-メチルモルフィナンの濃度は、溶媒使用を最小限とするレベルで選択されるのが普通であるが、いずれの好適な濃度であることができる。
【0041】
代表的には、その次に反応混合物に酸化剤を加えて、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態を相当するN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態に変換する。その酸化反応は、この種類の変換に関して当分野で公知の広範囲の酸化剤を用いて広範囲の酸化条件下で実施することができる。その酸化反応は、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態を適切な有機もしくは無機過酸化物と反応させることで実施することができる。適切な無機過酸化物には、例えば過酸化水素、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属過酸化物、例えば過酸化ナトリウム、過酸化カリウムなどがある。適切な有機過酸化物には、例えば過安息香酸、メタクロロ過安息香酸などのハロ置換過安息香酸、過酢酸などの過アルカン酸およびtert-ブチルヒドロペルオキシドなどのアルキルペルオキシドなどがあり得る。
【0042】
好適な酸化剤の例には、メタクロロ過安息香酸、過酸化水素および過ギ酸ならびに過酢酸などがある。
【0043】
この酸化は、広範囲の反応化学量論を用いて実施することができる。好適な反応化学量論は、1.1〜10モル過剰の酸化剤である。酸化反応に関して代表的な時間は室温で16時間であるが、酸化反応は、好適な期間にわたって行うことができる。酸化反応は、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態の相当するN-オキシドへの変換が所望のレベルで起こった時点を決定する上で公知のモニタリング技術によってモニタリングすることができる。
【0044】
N-オキシドモルフィナンまたはその保護形態は、形成後、精製することができるか、それを粗単離物として本方法の還元段階で用いることができる。
【0045】
本発明の方法で用いられる還元反応は、広範囲の反応化学量論内で行うことができ、正確な化学量論は多くの工程可変要素に応じて選択される。
【0046】
モルフィナン-N-オキシドの還元は、0.01モルの還元剤から、10モル%、代表的には0.5モル%の反応化学量論で行うことができる。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜150モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜125モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜100モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.01モル%〜50モル%である。別の実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜20モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、0.1モル%〜10モル%である。一実施形態において使用される還元剤の量は、1.0モル%〜5.0モル%である。概して、正確なモル量の選択は、他の反応条件によって決まるものであり、当業者であれば、特定の組み合わせの条件に用いる適切な反応化学量論を容易に決定することができる。
【0047】
還元剤は、固定化可能な当分野で公知の好適な還元剤であることができる。一実施形態において還元剤は金属イオンである。非常に多様な還元性金属イオンを用いることができ、例えばバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルトおよびインジウムがある。一実施形態において、金属イオンはFe(II)であり、別の実施形態において金属イオンはV(II)である。
【0048】
一般に溶媒が存在するのが望ましいが、還元反応は好適な溶媒中で行うことができるか、それを溶媒の非存在下に行うことができる。いずれの好適な溶媒を用いることができ、唯一の必要条件は、その溶媒が還元反応を妨害しないことである。この基準に適合する非常に多くの好適な溶媒が存在し、好適な例にはトルエン、エチルベンゼン、o-、m-およびp-キシレン、イソプロピルベンゼン、メチルナフタレン、クロロベンゼン、o-およびm-ジクロロベンゼン、o-、m-およびp-クロロトルエン、1,2,4-トリクロロベンゼン、エチルプロピルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、n-ブチルエチルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、シクロヘキシルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘプタン、ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン、石油エーテル、ヘキサン、軽質ナフサ、2,2,4-トリメチルペンタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,3,3-トリメチルペンタンおよびオクタン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、水およびこれらの混合物がある。特定の場合でどの溶媒を使用するかは、好適な溶媒の使用可能性および使用されるモルフィナンのN-オキシドなどの多くの要素によって決まる。例えば、代表的にはモルフィナンN-オキシドが良好な溶解特性を有する溶媒を選択する。なぜなら、溶液でのモルフィナンN-オキシドの濃度が高くなるほど、より高いスループットをより少ない資本設備支出で得ることが可能であるため、方法が経済的に望ましいものとなることが通常認められるからである。
【0049】
還元反応は、緩衝剤などの多くの他の添加剤の存在下に実施することができる。例を挙げると、本出願人らは、酢酸アンモニウムを加えても(アルカロイド投入量に対して1、2および5モル当量)、変換されていないアルカロイドと比較した脱メチル化アルカロイドの比率が良好に上がることが認められることを見出した。
【0050】
その反応は、広範囲の反応温度にわたって実施することが可能であり、温度が上がるに連れて反応速度が上昇することが認められるのが普通である。従って、この反応は40℃より高い温度で実施するのが普通である。一実施形態において当該反応は、10℃〜125℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において当該還元反応は、10℃〜120℃の範囲の温度で実施する。一実施形態において当該還元反応は、50℃〜100℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において当該反応は、40℃〜90℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において当該還元反応は、40℃〜60℃の範囲の温度で実施する。別の実施形態において当該反応は、少なくとも50℃の温度で実施する。
【0051】
前記還元反応は代表的には、好適な量のN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態のN-脱メチル化を行う上で必要な期間にわたって実施する。N-メチルモルフィナンのN-オキシドのN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態への変換の程度は、TLCおよびHPLCなどの多くの技術のうちのいずれかを用いてモニタリングすることができる。しかしながら一実施形態において前記反応は、15分〜48時間の期間にわたって実施する。一実施形態において前記還元反応は、15分〜4時間の期間にわたって実施する。別の実施形態において前記反応は、1時間〜48時間の期間にわたって実施する。別の実施形態において前記反応は、12時間〜48時間の期間にわたって実施する。別の実施形態において前記反応は、30分〜6時間の期間にわたって実施する。
【0052】
当業者にはわかるように、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態およびN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態が多くの場合で容易に分離されることから、反応を部分変換で停止し、次に単離されたN-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態について、追加量のN-デメチルモルフィナンまたはその保護形態を提供する工程を再度行うことがより効率的である。
【0053】
その還元は、固体支持体に固定化された還元剤を用いて実施することができる。本明細書で使用される場合の「固定化」という用語は、共有結合を介して、または静電相互作用によって、反応媒体に不溶である不活性材料に還元剤が結合していることを意味する。還元剤は、固体支持体に直接結合していることができるか、連結基部分を介して固体支持体に結合していることができる。固体支持体は貴金属であることができる。好適な貴金属には、銀、金、白金およびパラジウムなどがある。さらに、グラファイト系材料、TiO2、IrO2、SnO2、Si系表面またはクレイも固体支持体として使用可能である。固体支持体は、上記材料のいずれかから形成された表面を有するチップであっても良い。そのチップ自体は、ガラス、プラスチックまたはセラミック材料など(これらに限定されるものではない)のいずれの好適な材料から形成されていても良い。特に有用な固体支持体は、シリカ粒子である。別の実施形態において、固体支持体は架橋ポリスチレンである。
【0054】
固体支持体に固定化された特に好適な還元剤は、固体支持体に結合した金属イオンである。特に好適な還元剤は、連結基を介して固体支持体に結合している配位子に錯形成した金属イオンであることが見出された。基本的に、本発明の方法では、配位子を介して固体支持体に結合した還元剤を用いることができる。好適な配位子部分を用いることができ、金属還元剤の結合に好適な配位子は当分野では公知である。通常、当業者であれば、金属還元剤が何であるかが確定していれば、好適な配位子を選択することができる。
【0055】
本質的に、固体支持体に結合しているか、結合するよう修飾可能な配位子を用いることができる。例示にすぎないが、可能な配位子を挙げると、エチレンジアミン、2,2'-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、アセチルアセトネート、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、コロール、クラウンエーテル、クリプテート、シクロペンタジエニル、ジエチレントリアミン、ジメチルグリオキシマート、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン3酢酸、グリシナート、ポルフィリン、2,2',5',2-ターピリジン、トリアザシクロノナン、トリエチレンテトラミン、トリス(2-アミノエチル)アミンおよびトリス(2-ジフェニルホスフィンエチル)アミンからなる群から選択されるものがある。
【0056】
ある種の実施形態において、配位子は窒素含有部分である。具体的な実施形態では、配位子は2,2'-ビピリジンまたはその誘導体である。
【0057】
当業者であれば、この種の配位子を容易に得ることが可能であると考えられる。また、当業者であれば、直接結合により、または連結基を介して配位子を固体支持体に結合することにより固体支持体上に配位子を固定化するための修飾について、理解しているものと考えられる。しかしながら、読者の便宜のため、以下、好適な固定化還元剤の合成について述べる。その手順をスキーム1に示す。
【0058】
4,4'-ジメチル-2,2'-ビピリジンを1当量のリチウムジイソプロピルアミンと反応させ、アニオンを臭化アリルで失活させて、官能化ビピリジル部分を形成する。そのビピリジルとヘキサクロロ白金酸、続いてジクロロメチルシランとの反応により、二重結合のヒドロシリル化を行う。反応生成物は単離せずに、代わりにシリカ(乾燥品)を反応混合物に加え、2.5当量のイミダゾールの存在下に緩やかに撹拌して、シリカ上に固定化された配位子を形成した。次に、代表的には、固定化すべき金属を1+1水-エタノール混合物に溶かし、固定化配位子と反応させて、固定化金属錯体を形成する。次に、追加の配位子を配位されていない金属結合部位に加えることができる。好適な種類は、オキサレート化合物、エチレンジアミン、アセチルアセトネートおよび2,2'-ビピリジルであった。
【0059】
上記の手順は4,4'-ジメチル-2,2'-ビピリジン配位子の固定化に関して詳細に説明されているが、当業者であれば、多くの他の配位子について好適な修飾を行うことが可能であると考えられる。
【0060】
スキーム1
【化5】

【0061】
以下、下記実施例を参照しながら、本発明の方法の例示を行う。
【実施例】
【0062】
実施例1:固定化金属還元剤の合成
1. 4,4'-ジメチル-2,2'-ビピリジン(10.0g)を、乾燥テトラヒドロフラン(250mL)中-78℃で30分間にわたって1当量のリチウムジイソプロピルアミンと反応させた。臭化アリル(1当量)を加え、反応混合物をさらに1時間撹拌した。溶液を昇温させて室温とし、水10mLを反応混合物に加え、次にロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去した。残った粘稠材料をジエチルエーテルで3回抽出し(50mLで3回)、合わせた抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、ロータリーエバポレータにかけ、黄色油状物の4-(3-ブテニル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジルを収率95%で得た。
【0063】
2. サンドバル(Sandoval)およびパセク(Pasek)が報告している手順に従って反応(ヒドロシリル化)を行った。すなわち、4-(3-ブテニル)-4'-メチル-2,2'-ビピリジル(10g)を乾燥トルエンに入れ、それにヘキサクロロ白金酸(乾燥イソプロパノール3mL中2mg)を加え、溶液を5分間撹拌してから、ジクロロメチルシラン4.7mLを加えた。次に、反応液を加熱して約70℃とし、一晩撹拌した。この反応段階の生成物は単離しなかった。シリカ(乾燥品)を反応混合物に加え、2.5当量のイミダゾール存在下に12時間にわたって緩やかに撹拌した。そうして官能化されたシリカをトルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよび水、希(1%)水酸化ナトリウム、水で洗浄し、その工程を逆に行い、ジクロロメタンで仕上げとし、風乾を行った。
【0064】
3. 固定化すべき金属を1+1水-エタノール混合物に溶解させ、固定化配位子と反応させる。
【0065】
4. 固定化した金属を、別の配位子とさらに反応させる。例えば、シュウ酸ナトリウムの形態でのオキサレートまたはエチレンジアミンまたはアセチルアセトネートまたは2,2'-ビピリジルなどの他の好適な配位子がある。
【0066】
5. 次に、希アスコルビン酸溶液(1+1水-メタノール混合物に溶かしたもの)または他の好適な還元剤で洗浄して金属が適切な酸化状態となるようにすることで、使用前に固定化触媒を製造する。
【0067】
実施例2
テバイン-N-オキシド(210mg、6.4×10-4mol)をメタノール20mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造した鉄官能化シリカ5g(8.1×10-4molの鉄)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は、127%であった。反応混合物を撹拌・加熱して50℃として24時間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過した。触媒を追加のメタノールで洗浄した。合わせた液体およびメタノール洗液をエバポレータにかけて乾固させ、HPLC-UVおよびNMRスペクトル測定による分析を行った。アルカロイドの回収重量は195mgであり、それは65%のノルテバインおよび35%のテバインからなるものであった。
【0068】
実施例3
テバイン-N-オキシド(50mg、1.5×10-4mol)をアセトニトリル5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造した鉄官能化シリカ1g(2.0×10-4molの鉄)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は125%であった。反応混合物を撹拌・加熱して75℃として2時間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、50%のノルテバインおよび42%のテバインからなるものであり、8%のテバイン-N-オキシドが未反応で残った。
【0069】
実施例4
テバイン-N-オキシド(50mg、1.5×10-4mol)を酢酸エチル5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造した鉄官能化シリカ1g(2.0×10-4molの鉄)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は125%であった。反応混合物を撹拌・加熱して75℃として2.5時間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、68%のノルテバインおよび22%のテバインからなるものであり、10%のテバイン-N-オキシドが未反応で残った。
【0070】
実施例5
テバイン-N-オキシド(50mg、1.5×10-4mol)をエタノール5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造した鉄官能化シリカ1g(2.0×10-4molの鉄)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は125%であった。反応混合物を撹拌・加熱して75℃として2.5時間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、69%のノルテバインおよび31%のテバインからなるものであった。
【0071】
実施例6
テバイン-N-オキシド(500mg、1.5×10-3mol)をエタノール12.5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造したバナジウム官能化シリカ1g(2.0×10-4molのバナジウム)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は13.3%であった。反応混合物を撹拌・加熱して125℃として15分間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、38%のノルテバインおよび62%のテバインからなるものであった。
【0072】
実施例7
テバイン-N-オキシド(500mg、1.5×10-3mol)をエタノール12.5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造した鉄官能化シリカ1g(2.0×10-4molの鉄)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は13.3%であった。反応混合物を撹拌・加熱して125℃として15分間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過した。触媒を追加のエタノールで洗浄した。合わせた液体およびエタノール洗液をエバポレータにかけて乾固させ、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、38%のノルテバインおよび62%のテバインからなるものであった。
【0073】
実施例8
テバイン-N-オキシド(500mg、1.5×10-3mol)を水5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造したバナジウム官能化シリカ50mg(1.0×10-5molのバナジウム)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は0.67%であった。反応混合物を撹拌・加熱して100℃として16時間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、19%のノルテバインおよび72%のテバインからなるものであり、9%のノルテバインが未反応で残った。
【0074】
実施例9
テバイン-N-オキシド(500mg、1.5×10-3mol)をn-ブタノール5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造したバナジウム官能化シリカ500mg(1.0×10-4molのバナジウム)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は6.7%であった。反応混合物を撹拌・加熱して70℃として90分間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、45%のノルテバインおよび55%のテバインからなるものであった。
【0075】
実施例10
オキシコドン-N-オキシド(500mg、1.5×10-3mol)をエタノール10mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造したバナジウム官能化シリカ500mg((1.0×10-4molのバナジウム)、アセチルアセトネート配位子)を加えた。分析物に対する触媒の%モル比は6.7%であった。反応混合物を撹拌・加熱して70℃として180分間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、エタノールで洗浄し、減圧下に濃縮し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は、65%のノルオキシコドンおよび35%のオキシコドンからなるものであり、全ての原料が反応していた。
【0076】
実施例11
テバイン-N-オキシド(200mg、6.1×10-4mol)をエタノール5mLに溶かし、実施例1に記載の手順を用いて製造したバナジウム官能化シリカ200mg((0.5×10-4molのバナジウム)、オキサレート配位子)に加えた。分析物に対する触媒の%モル比は8.2%であった。混合物に、酢酸アンモニウム(1モル当量)も加えた。反応混合物を撹拌・加熱して90℃として45分間経過させた。反応混合物を冷却し、濾過し、エタノールで洗浄し、減圧下に濃縮し、HPLC-UVによって分析した。反応生成物は50%のノルテバインおよび50%のテバインからなるものであり、原料は全て反応していた。酢酸アンモニウムを添加せずに同一条件下で実施した同じ反応との比較では、39%のノルテバインおよび61%のテバインという反応混合物比が得られ、酢酸アンモニウムを用いることで所望のノル生成物の相対的な生成が増加することが明瞭に示された。
【0077】
最後に、本発明の範囲および精神を逸脱しない限りにおいて、本明細書に記載される本発明の方法の各種改変および変形形態が当業者には明らかであることは理解されよう。具体的な好ましい実施形態との関連で本発明について説明してきたが、特許請求される発明は、そのような具体的な実施形態によって不当に制限されるべきものではないことを理解されたい。実際、当業者には明らかな、本発明を実施するための前述の形態に対する各種改変は、本発明の範囲に包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を提供する段階;
(b)前記N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を還元条件下で還元反応において固定化還元剤と反応させて、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態を形成する段階
を含む、N-デメチルモルフィナンまたはその保護形態の製造方法。
【請求項2】
N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を提供する段階が、N-メチルモルフィナンまたはその保護形態を酸化条件下に酸化反応において酸化剤と反応させて、前記N-メチルモルフィナンN-オキシドまたはその保護形態を形成する段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記N-メチルモルフィナンが、ケシ科のケシ属の植物から抽出されたアルカロイドである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記N-メチルモルフィナンがモルヒネ、オリパビン、コデイン、テバインおよびヘロインからなる群から選択される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記N-メチルモルフィナンがテバインである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記N-メチルモルフィナンがオリパビンである、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化剤が過酸化水素、m-クロロ過安息香酸および過酢酸からなる群から選択される、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化反応でモル過剰の酸化剤を用いる、請求項2〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記固定化還元剤が固体支持体に結合した金属イオンである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属イオンがFe(II)またはV(II)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属イオンが、前記固体支持体に結合している配位子に対して錯形成されていることで、前記固体支持体に結合している、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記配位子が、エチレンジアミン、2,2'-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、アセチルアセトネート、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、コロール、クラウンエーテル、クリプテート、シクロペンタジエニル、ジエチレントリアミン、ジメチルグリオキシマート、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン3酢酸、グリシナート、ポルフィリン、2,2',5',2-ターピリジン、トリアザシクロノナン、トリエチレンテトラミン、トリス(2-アミノエチル)アミンおよびトリス(2-ジフェニルホスフィンエチル)アミンからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記配位子が窒素含有部分である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記配位子が2,2'-ビピリジンまたはその誘導体である、請求項11、12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記配位子が、連結基を介して前記固体支持体に結合している、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記連結基が下記式を有する、請求項15に記載の方法。
【化1】

[式中、
Rは、H、メチル、エチル、プロピル、およびOCH3、OCH2CH3からなる群から選択され;
nは、0、1、2および3からなる群から選択される整数であり;
Si部分は固体支持体に結合しており、CH2部分は配位子に結合している。]
【請求項17】
前記連結基が下記式の基である、請求項15または16に記載の方法。
【化2】

【請求項18】
前記固体支持体がシリカ粒子である、請求項9〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記粒子が100〜700μmの粒径を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記還元反応後に、反応混合物を濾過して、前記固定化還元剤から前記N-デメチルモルフィナンを分離する、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記還元反応を、脱水アルコール溶媒中で実施する、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記還元反応を、10℃〜120℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記還元反応を、50℃〜10℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜22請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記還元反応を、40℃〜90℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記還元反応を、40℃〜60℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記還元反応を15分〜48時間の期間にわたって実施する、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記還元反応を15分〜4時間の期間にわたって実施する、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記還元反応を12〜24時間の期間にわたって実施する、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
使用される還元剤の量が0.1モル%〜100モル%である、請求項1〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
使用される還元剤の量が0.1モル%〜20モル%である、請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
使用される還元剤の量が0.1モル%〜10モル%である、請求項1〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
使用される還元剤の量が1モル%〜5モル%である、請求項1〜31のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−524376(P2011−524376A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513822(P2011−513822)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000786
【国際公開番号】WO2009/152577
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(510332914)ティーピーアイ エンタープライジーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】