説明

N−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの製造法

【課題】N−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの効率的な製造法を提供する。
【解決手段】2−メチル−エピハロヒドリンをアルコール類、エーテル類等の有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、または特定の第4級アンモニウム塩の存在下、反応させてN−(3−ハロゲノ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドを得、次いで、アルカリ金属アルコキシドにより閉環反応させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品や農薬、生理活性物質の合成中間体として重要なN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミド、殊にその光学活性体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、N−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの製造については、(S)−2,3−エポキシ−3−(3−ニトロベンゼンスルホニル)−2−メチルプロパンにN,N−ジメチルホルムアミド中、カリウムフタルイミドを反応させる方法(特許文献1)等が知られている。
【特許文献1】国際公開03/068743号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の製造法では、収率が56.8%と低く、工業的な実用化の観点からは満足のゆくものとは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記問題点を解決すべく種々検討した結果、収率がよく、また光学活性体については高光学純度でN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドを製造する方法を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、フタルイミドと下記式(1)
【化1】

(式中、X はハロゲン原子を表す。)
で表わされる2−メチルエピハロヒドリンを有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、または下記式(2)
【化2】

(式中、R、R、R、およびRは互いに異なっていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアリール基を表し、そしてXは塩素イオン、臭素イオン、よう素イオン、硫酸水素イオンまたは水酸化物イオンを表す。)で表される第4級アンモニウム塩の存在下、反応させて下記式(3)
【化3】

(式中、X は前掲と同じ。)
で表されるN−(3−ハロゲノ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドを得、次いで、アルカリ金属アルコキシドにより閉環反応させることを特徴とする下記式(4)
【化4】

で表わされるN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの製造法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、N−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミド、殊にその光学活性体を高収率、高光学純度で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
原料であるフタルイミドは試薬として広く市販されており、容易に入手が可能である。
また、原料である2−メチルエピハロヒドリン、とりわけ2−メチルエピクロロヒドリンのラセミ体は容易に市販品を入手することができる。一方、キラル体の2−メチルエピクロヒドリン)は、特願2006−120352記載の方法により入手することができる。即ち、特開昭63−150234または特願2005−000116に記載の方法に従って製造した光学活性な3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオールの一級水酸基を有機塩基の存在下、ベンゼンスルホニルクロリド等のスルホニルハライドを用いてスルホニル化し、次いで水酸化ナトリウム等の無機塩基で処理することにより、2−メチルエピクロロヒドリンを得ることができる。
2−メチルエピハロヒドリンのハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、好ましくは塩素である。使用量は、フタルイミドに対して好ましくは1〜4当量である。
【0008】
本発明の第一ステップで使用されるアルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸セシウムなどが挙げられ、アルカリ炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、および炭酸水素セシウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩は、含水物または無水物のどちらを用いてもよいが、無水物が好ましい。アルカリ金属炭酸塩の無水物が最も好ましい。
【0009】
第4級アンモニウム塩(2)の具体例としては、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ジアリルジメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化n−オクチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化セチルジメチルエチルアンモニウム、よう化テトラn−ブチルアンモニウム、よう化β−メチルコリン、硫酸水素テトラ−n−ブチルアンモニウムおよびフェニルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ジアリルジメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウムが好ましい。
【0010】
アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、または第4級アンモニウム塩(2)は、それぞれを単独または併用して使用しても良い。第4級アンモニウム塩(2)とアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩とを併用することにより、反応がより促進される。使用量はフタルイミドに対して、好ましくは0.005〜1当量である。
【0011】
有機溶媒としては、フタルイミドや2−メチルエピハロヒドリン(3)と反応するもの(アミン類、カルボン酸類、グリシジル基)以外であれば特に限定されないが、アルコール類、エーテル類またはこれらの混合溶媒が好ましい。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールなどの1級アルコール類、イソプロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノールなどの2級アルコール類や、tert−ブタノール、tert−ペンタノールなどの3級アルコール類などが挙げられるが、好ましくはメタノール、イソプロパノール、およびtert−ブタノールである。一方、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられるが、好ましくは1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランである。
溶媒の混合比については特に限定されない。溶媒の量は、フタルイミドに対して2〜20倍(w/w)が好ましい。
【0012】
第一ステップの反応温度は0℃から溶媒の還流温度までであってよいが、反応速度、副反応を考慮すれば、好ましくは10〜60℃である。また、反応圧力は通常は常圧であるが、加圧下で反応を行うことも可能である。なお、反応時間は、温度、圧力等の関係で適宜決められる。
【0013】
本発明の第二ステップで使用されるアルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムn−プロポキシド、カリウムn−プロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムn−ブトキシド、カリウムn−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−アミラート、カリウムtert−アミラート、ナトリウムn−ヘキシラート、およびカリウムn−ヘキシラートなどが好ましく挙げられる。特に好ましいのはナトリウムtert−ブトキシド、カリウムtert−ブトキシドである。使用量はフタルイミドに対して1〜2当量であり、好ましくは1〜1.2当量である。
【0014】
第二ステップ反応温度は−10℃から溶媒の還流温度までであてよいが、反応速度、副反応を考慮すれば、好ましくは−10〜60℃である。また、反応圧力は通常は常圧であるが、加圧下で反応を行うことも可能である。なお、反応時間は、温度、圧力等の関係で適宜決められる。
【0015】
本発明は以上のように2つのステップからなるが、第一ステップの反応で得られるN−(3−ハロゲノ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)フタルイミド(3)は単離精製を行うことなく、アルカリ金属アルコキシドを添加することでそのまま第二ステップを行うこと、即ちワンポットによる操作が可能である。
【0016】
反応終了後は、反応液中の溶媒を減圧下に留去後、残渣を有機溶媒にて抽出、有機層中の蒸留溶媒を減圧下に留去し、残渣を再結晶、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の精製処理をすることにより、簡便に目的とするN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドが得られる。
【0017】
原料として光学活性な2−メチルエピハロヒドリンを用いた場合には、顕著なラセミ化は起こらず、目的とする光学活性なN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドが得られる。
【実施例】
【0018】
以下の実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0019】
[製造例1]
(R)−2−メチルエピクロロヒドリンの製造
(R)−3−クロロ−2−メチル−1,2−プロパンジオール7.0g(56.2mmol、光学純度99%ee)、2,6−ルチジン7.2g(56.2mmol)、及び1,2−ジクロロエタン35mLの混合物に、氷冷下p−トルエンスルホニルクロリド10.7g(56.2mmol)を加え、全体を25℃で12時間撹拌した。反応終了後、水を加えて有機層を抽出した後、抽出液を飽和食塩水で洗浄し、1,2−ジクロロエタン層を減圧下濃縮した。残った粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して目的物である(R)−3−クロロ−2−メチル−1−(p−トルエンスルホニルオキシ)−2−プロパノール13.3g(47.9mmol、収率85.2%、光学純度99%ee)を無色透明油状物質として得た。
次いで、得られた(R)−3−クロロ−2−メチル−1−(p−トルエンスルホニルオキシ)−2−プロパノール6.80g(24.4mmol、光学純度99%ee)とジクロロメタン13.6mLの混合物に、24%水酸化ナトリウム水溶液4.47g(26.8mmol)を滴下し、全体を25℃で5時間撹拌した。反応終了後、ジクロロメタン層を抽出し、抽出液を飽和食塩水で洗浄した後、ジクロロメタン層を減圧下濃縮した。残った粗生成物を減圧蒸留にて精製して目的物である(R)−2−メチルエピクロロヒドリン(8)2.14g(20.1mmol、収率82.3%、光学純度99%ee)を無色透明油状物質として得た。
【0020】
[実施例1]
反応槽にフタルイミド20.0g(0.136mol)、(R)−2−メチルエピクロロヒドリン27.5g(0.258mol、光学純度99%ee)、無水炭酸ナトリウム1.44g(0.0136mol)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム2.52g(0.0136mol)、およびイソプロパノール120mLを入れて25℃で、24時間反応させることによってN−(3−クロロ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの粗体溶液を得た。温度を15℃まで冷却した後、カリウムtert-ブトキシド16.8g(0.150mol)とイソプロパノール80mLの混合溶液を2時間かけて滴下し、そのままの温度で更に2時間攪拌した。溶媒の留去後、濃縮残渣に酢酸エチル130mLを加え、水70mLで洗浄した。酢酸エチルの留去後、得られた粗体を酢酸エチル−ヘキサンより晶析することによって目的の(R)−N−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミド23.7g(収率80%、光学純度99%ee)を白色結晶として得た。
【0021】
[実施例2]
反応槽にフタルイミド20.0g(0.136mol)、(S)−2−メチルエピクロロヒドリン27.5g(0.258mol、光学純度99%ee)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム0.63g(3.40mmol)、およびイソプロパノール120mLを入れて40℃で、24時間反応させることによってN−(3−クロロ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの粗体溶液を得た。温度を15℃まで冷却した後、カリウムtert-ブトキシド16.8g(0.150mol)とイソプロパノール80mLの混合溶液を2時間かけて滴下し、そのままの温度で更に2時間攪拌した。溶媒の留去後、濃縮残渣に酢酸エチル130mLを加え、水70mLで洗浄した。酢酸エチルの留去後、得られた粗体を酢酸エチル−ヘキサンより晶析することによって目的の(S)−N−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミド24.0g(収率81%、光学純度99%ee)を白色結晶として得た。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明により得られるN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミド、特にその光学活性体は、医薬品や農薬、生理活性物質の合成中間体の原料として用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタルイミドと下記式(1)
【化1】

(式中、X はハロゲン原子を表す。)
で表わされる2−メチルエピハロヒドリンを有機溶媒中で、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、または下記式(2)
【化2】

(式中、R、R、R、およびRは互いに異なっていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基またはアリール基を表し、そしてXは塩素イオン、臭素イオン、よう素イオン、硫酸水素イオンまたは水酸化物イオンを表す。)
で表される第4級アンモニウム塩の存在下、反応させて下記式(3)
【化3】

(式中、X は前掲と同じ。)
で表されるN−(3−ハロゲノ−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドを得、次いで、アルカリ金属アルコキシドにより閉環反応させることを特徴とする下記式(4)
【化4】

で表わされるN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの製造法。
【請求項2】
2−メチルエピハロヒドリンのハロゲン原子が塩素である請求項1記載の製造法。
【請求項3】
有機溶媒がアルコール系またはエーテル系溶媒である請求項1または2記載の製造法。
【請求項4】
アルコール系溶媒がメタノール、イソプロパノールまたはtert-ブタノールであり、エーテル系溶媒がテトラヒドロフランまたは1 ,4-ジオキサンである請求項3記載の製造法。
【請求項5】
アルカリ金属アルコキシドがカリウムtert-ブトキシドである請求項1〜4のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
2−メチルエピハロヒドリンが光学活性体である請求項1〜5のいずれかに記載のN−(2,3−エポキシ−2−メチルプロピル)フタルイミドの光学活性体の製造法。


【公開番号】特開2007−297305(P2007−297305A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125044(P2006−125044)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】