説明

N−[3−[(2−メトキシフェニル)スルファニル]−2−メチルプロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミンの合成方法

本発明は、N−[3−[(2−メトキシフェニル)スルファニル]−2−メチルプロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミンの新規な調製方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(1)の誘導体、
【化1】

薬理上許容されうる無機酸または有機酸とのその付加塩、およびそのような付加塩の水和物、ならびにそれらの互変異性体の形態、エナンチオマー、エナンチオマー混合物、および純粋な立体異性体、またはラセミもしくはラセミではない立体異性体混合物の新規な調製方法に関するものである。
【0002】
新規な方法は、好ましくは、3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピンフラグメントの不斉炭素原子が絶対配置(R)であり、またプロピル鎖の不斉炭素原子が絶対配置(S)である化合物(1)に適用される。記号(R)および(S)は、式(1)の分子の中に含まれる不斉原子の絶対配置を特定するために利用されるものであるが、カーン・インゴルド・プレローグ順位則(E.L. Eliel and S.H. Wilen著『Stereochemistry of Organic Compounds』John Wiley & Sons社、第5章、104〜112ページ、1994年)におけるように定義される。
【0003】
本発明のとりわけ有利な実施態様において、選択される化合物(1)の立体異性体は、(3R)−N−{(2S)−3−[(2−メトキシフェニル)]スルファニル}−2−メチルプロピル}−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミン、薬理上許容されうる無機酸または有機酸とのその付加塩、およびそのような付加塩の水和物である。本発明において、立体異性体は、付随する他の立体異性体または他の立体異性体の混合物が1%未満であれば純粋であるとみなされる(すなわちジアステレオ異性体の過剰率≧98%、『l’actualite chimique』2003年、11/12、10〜14ページ)。
【0004】
式(1)の化合物は、特許出願国際公開第02/081464号パンフレットに記載されており、該特許出願において、該式(1)の化合物は安定狭心症、不安定狭心症、心不全、先天性QT延長症候群、心筋梗塞、および心律動障害の治療において有用であると、特許請求の範囲に記載されている。
【0005】
その出願において、式(1)の化合物は、式(2)の化合物と式(5)のアルデヒドとの間の還元的アミノ化によって、以下の図式Iのように得られる。
【化2】

【0006】
しかしながら、この還元的アミノ化反応は、式(5)のアルデヒドの化学的および立体化学的不安定性のために問題を有する。さらに、利用される試薬のうちのいくつかの性質および生じる副生成物のうちのいくつかの性質により、この手順は、工業生産レベルで実現するのは難しい。
【0007】
特許出願国際公開第05/103027号パンフレットに記載の合成方法において、式(1)の化合物は、化学的および立体化学的に安定な、式(6)のアミドの還元によって図式IIのように調製される。この方法の利点は、主として、該方法が、国際公開第02/081464号パンフレットにおいて例証される方法とは違い、信頼性があり、工業生産レベルで実現可能で、したがって場合によっては化合物(1)の大量生産のために利用可能であることにある。
【化3】

【0008】
しかしながら、この方法は工業生産レベルで実現可能ではあるが、その利用を制限するかまたは著しく複雑にする二つの重大な不都合を有している。
・ 国際公開第05/103027号パンフレットに記載の方法の最終過程は、加熱したボラン錯体(BH3・THF)を用いて、アミド基の、対応するアミンへの還元を実施する。前記還元反応を行うために必要な実験条件において、水素化ホウ素(BH3)は、毒性で引火性が高くまた爆発性のジボランB26を生じさせる可能性がある(INRS、FT188号、1987年)。場合によっては起こりうるB26の形成による中毒、火災、および爆発の潜在的な危険性のため、BH3・THF錯体の取扱いの際には厳しい予防対策および保護対策を講じなければならず、このことは該方法の利用を著しく複雑にする。別の面では、ボラン錯体とは別の還元剤(すなわちB26を生じさせる可能性のないもの)を用いたアミド(6)のアミン(1)への還元は、満足のいくものではないことが明らかになっている。
・ 制限を加える別の要因は、国際公開第05/103027号パンフレットに記載の方法が、中間化合物(6)の合成において、出発物質として、工業生産レベルでの入手が困難なメチル(R)−3−ヒドロキシ−2−メチル−プロパノアート[72657−23−9]を用いることから来る。
【0009】
したがって、先に記載した不都合なく工業的に実現可能な合成方法の開発が、安定狭心症、不安定狭心症、心不全、先天性QT延長症候群、心筋梗塞、および心律動障害の治療において有用な薬の調製のために必要である。
【0010】
本発明の目的はしたがって、上述の制限のない化合物(1)の新規な合成方法に関している。
【0011】
このように、本発明の方法は、国際公開第05/103027号パンフレットにおいて例示される方法とは違って、ボラン錯体タイプの還元剤の利用をともなうアミド基の還元をもはや伴わない。それにより、新規な方法の安全性は、著しく高まる。
【0012】
本発明の方法の別の重要な改善は、(S)−3−ハロゲノ−2−メチルプロパノールのタイプの誘導体を出発物質として利用することにあり、該誘導体は国際公開第05/103027号パンフレットに記載の方法で利用されるメチル(R)−3−ヒドロキシ−2−メチル−プロパノアートよりも大量に入手しやすい。
【0013】
したがって、利用上の安全面および経済面で、本発明の方法は、国際公開第05/103027号パンフレットに記載の特許出願の方法に比べて際立った利点を有する。
【0014】
本発明の第一の態様は、したがって、式(1)の化合物の合成方法の改善に関するものである。
【化4】

【0015】
この化合物は、図式IIIのように、式(2)および(3)の化合物の縮合によって得られるが、
【化5】

該式において、ラジカルRは、メチル基または好ましくは4−メチルフェニル基を表す。
【化6】

【0016】
式(1)、(2)および(3)の化合物の好ましい立体異性体は、いずれの場合においても、3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピンフラグメントの不斉炭素原子と鎖の不斉炭素原子とがそれぞれに絶対配置(R)と(S)である立体異性体である。
【0017】
本発明の新規な方法によると、アミン(2)は、トルエンやキシレンのような不活性溶媒において、例えばジイソプロピルエチルアミンやトリエチルアミンのような非求核性の窒素塩基などの塩基の存在下で、式(3)の誘導体、好ましくはトシラートと、加熱下で、好ましくは100〜200℃の間の熱によって反応する。
【0018】
第一級アミンによるトシラート基の置換は、有機化学で周知の反応である。例えば『Organic Process Research & development』2005年、第9巻、第3号、314ページ参照。しかしながら、予想外にも、アミン(2)のトシラート(3)に対する反応が傑出して効果的であることが判明している。実際、前記反応の間に、トシラート(3)によるアミン(2)のジアルキル化の結果生じる生成物の形成も、トシラート(3)からのp−トルエンスルホン酸の除去に由来する副生成物の形成も、観察されなかった。さらに、反応条件下において、中間体(2)および(3)においても形成された生成物(1)においても、実質的なラセミ化はない。このことから、式(1)の生成物が、満足のいく収率および立体化学的純度をもって得られるという結果になる。技術的観点から、該反応の実施および反応混合物の処理は、実現が容易である。したがって、本発明の方法は、式(1)の化合物の大量生産にとりわけ適合している。
【0019】
本発明の第二の態様は、式(3)の新規な中間体の合成方法から成り、
【化7】

該合成方法は図式IVに従うものであり、
【化8】

該図式において、式(4)の化合物、すなわち3−(2−メトキシフェニルスルホニル)−2−メチルプロパノールは、
【化9】

塩化メタンスルホニルまたは塩化パラトルエンスルホニルを用いて、例えばピリジン、トリエチルアミン、炭酸カリウムまたは粉砕した無水水酸化カリウムのような有機または無機塩基の存在下で処理されて、式(3)の化合物をもたらす。このように、式(4)の3−(メトキシフェニル)スルファニル−2−メチルプロパノールのアルコール基は、好ましくはトシラートの形状で、活性化され、式(3)の新規な化合物をもたらす。式(3)の化合物の好ましいエナンチオマーは、不斉炭素原子が絶対配置(S)であるエナンチオマーである。
【0020】
式(3)の化合物はついで、アミン(2)と縮合して化合物(1)をもたらす(図式III)。
【0021】
本発明の別の態様は、一般式(3)の中間化合物に関するものであり、
【化10】

該式において、ラジカルRは、メチル基、または好ましくは4−メチルフェニル基である。
【0022】
より特徴的には、本発明は、プロピル鎖の不斉炭素原子が絶対配置(S)である、先に記載したような一般式(3)の中間化合物に関するものである。
【0023】
以下の実施例は本発明を例示するものであるが、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0024】
実施例1:(S)−3−(2−メトキシフェニル)スルファニル−2−メチルプロパノール−4−メチルベンゼンスルホナート(3)
不活性雰囲気下の三つ口フラスコの中に、塩化メチレン10ml、(S)−3−(2−メトキシフェニルスルファニル)−2−メチルプロパノール2g(9.4mmol)、塩化パラトルエンスルホニル2g(10.5mmol)、4−ジメチルアミノピリジン115mg(0.94mmol)を入れ、ついでトリエチルアミン1.2g(12.1mmol)を一滴ずつ加える。室温で2時間撹拌した後、脱塩水10mlを加える。pHは、2Nの塩化水素酸の添加によって6.5に調整する。相を分離し、ついで有機相を、脱塩水10mlを用いて洗浄する。有機相を、減圧濃縮する。得られた黄色い油(3.2g)を、塩化メチレン(4.8ml)とイソプロピルエーテル19.2mlとの混合物の中に再び入れる。得られた沈殿物を濾過し、ついで10mlのイソプロピルエーテルを二度用いて洗浄し、そして40℃で減圧乾燥する。標題の物質(3)は、白い粉末2.6g(75%)の形で得られる。
Rf=0.56(ヘプタン/AcOEt:60/40、シリカMerck254)
m.p.=86〜87℃
1H NMR(CDCl3) δ:1.03(d,3H,J=7.0Hz)、2.02(m,1H)、2.43(s,3H)、2.71(dd,1H,J=6.8Hz,J=13.0Hz)、2.89(dd,1H,J=6.7Hz,J=13.0Hz)、3.87(s,3H)、4.01(d,2H,J=5.6Hz)、6.84(d,1H,J=7.6Hz)、6.88(dd,1H,J=7.1Hz,J=7.6Hz)、7.10(d,1H,J=7.6Hz)、7.18(dd,1H,J=7.1Hz,J=7.6Hz)、7.32(d,2H,J=8.1Hz)、7.77(d,2H,J=8.1Hz)。
13C NMR(CDCl3) δ:16.26、21.62、32.95、35.14、55.73、73.37、110.60、121.02、123.63、127.62、127.88(2C)、129.81(2C)、130.21、132.88、144.70、157.64。
HPLC、CHIRALCEL ODカラム(250×4.6mm)、溶離剤(ヘキサン/エタノール/ジエチルアミン:97/3/0.1)、1ml/分、Rt(S)=21.02分、Rt(R)=19.77分。キラル純度(S異性体)は曲線下面積から測定される(99%)。
MS(APCI+)m/z:367(M+H)、195(M−TsO)。
【実施例2】
【0025】
実施例2:(3R)−N−{(2S)−3−[(2−メトキシフェニル)スルファニル]−2−メチルプロピル}−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミン(1)
不活性雰囲気下の三つ口フラスコにおいて、6.5g(35.9mmol)の(R)−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミンおよび11g(30mmol)の(S)−3−(2−メトキシフェニルスルファニル)−2−メチルプロピル−4−メチルベンゼンスルホナートを、33mlのトルエンの中に入れた。トリエチルアミン6g(60mmol)を加え、ついで反応媒質を105℃で24時間攪拌しながら加熱する。室温に戻したあと、トルエン33mlを加える。有機相を、66mlの脱塩水によって二度洗浄し、ついで黒のCXV2gの存在下で、一時間の撹拌によって脱色する。減圧濃縮のあと、33mlのエタノール100を用いて回収を行う。標題の物質は、黄色い油の形で得られる(8.85g、79%)。
【0026】
Rf=0.53(ヘプタン/AcOEt:60/40、シリカMerck254)
8.85g(23.5mmol)の化合物(1)を、エタノール100とメチルtertブチルエーテル(2/4v/v)との混合物53mlの中に入れる。62%臭化水素酸の溶液(3g、23.5mmol)を、室温のアミン溶液にゆっくりと流し、次いで室温で二時間撹拌した後、得られた固体を濾過し、15mlのメチルtertブチルエーテルで3度洗浄する。50℃で12時間の乾燥により、化合物(1)の臭化水素酸塩7.3g(68%)が生じる。
【0027】
m.p.=129〜131℃、
1H NMR(DMSO−d6)?1.12(d,3H)、2.19(m,1H)、2.82(dd,1H)、3.05(1m,1H)、3.12(dd,1H)、3.23(1m,1H)、3.32(m,2H)、3.82(s,3H)、3.90(1s,1H)、4.39(dd,1H)、4.52(dd,1H)、6.98(m,2H)、7.07(m,2H)、7.23(m,3H)、7.40(dd,1H)、8.88(1s,交換可能な2H)、
HPLC、CHIRALCEL OJカラム(250×4.6mm)、溶離剤(メタノール/エタノール/ジエチルアミン:50/50 0.1)1ml/分、Rt(R,S)=24.37分、Rt(R,R)=16.80分、Rt(S,S)=19.79分、Rt(S,R)=15.05分)。キラル純度(R,S異性体)は曲線下面積のパーセンテージによって測定される(98%)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】国際公開第02/081464号パンフレット
【特許文献2】国際公開第05/103027号パンフレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)のN−[3−[(2−メトキシフェニル)スルファニル]−2−メチルプロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミンの調製方法であって、
【化1】

式(2)および(3)の中間体の縮合を利用し、
【化2】

該式において、ラジカルRがメチル基または好ましくは4−メチルフェニル基であることを特徴とする調製方法。
【請求項2】
Rがメチル基または好ましくは4−メチルフェニル基である式(3)の中間体が、
【化3】

式(3)の化合物をもたらすのに適した、塩化スルホニルとの3−[(2−メトキシフェニル)スルファニル]−2−メチルプロパノール
【化4】

の反応の利用によって調製されることを特徴とする、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
式(1)のN−[3−[(2−メトキシフェニル)スルファニル]−2−メチルプロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミンの調製方法であって、化合物(1)が、3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピンフラグメントの不斉炭素原子について絶対配置(R)であり、そしてプロピル鎖の不斉炭素原子について絶対配置(S)であることを特徴とする、請求項1または2に記載の調製方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の、式(1)のN−[3−[(2−メトキシフェニル)スルファニル]−2−メチルプロピル]−3,4−ジヒドロ−2H−1,5−ベンゾキサチエピン−3−アミンの調製方法であって、利用される一般式(3)の中間体の不斉炭素原子が絶対配置(S)のものであることを特徴とする調製方法。
【請求項5】
ラジカルRがメチル基または好ましくは4−メチルフェニル基である、式(3)の新規な中間体。
【化5】

【請求項6】
式(1)の化合物の調製のための式(3)の中間体の利用方法。
【請求項7】
プロピル鎖の不斉炭素原子が絶対配置(S)のものである、請求項5に記載の一般式(3)の新規な中間体。

【公表番号】特表2010−509296(P2010−509296A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535771(P2009−535771)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001831
【国際公開番号】WO2008/068403
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(504249145)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE MEDICAMENT
【Fターム(参考)】