説明

N末端のアミノ酸が変性したインスリン分泌ペプチド誘導体

【課題】高活性を有するN末端アミノ酸が変性したインスリン分泌ペプチド、及びこれを含む薬剤学的組成物を提供する。
【解決手段】天然型インスリン分泌ペプチドのN末端ヒスチジン残基が、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニルに置換されたインスリン分泌ペプチド誘導体であって、天然型及びその他のインスリン分泌ペプチド類似体から見られなかった治療学的効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインスリン分泌活性が向上したインスリン分泌ペプチド誘導体に関する。より詳しくは、本発明は高い安定性及びインスリン分泌活性を有するN末端アミノ酸が変性したインスリン分泌ペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドは、一般に安定性が低くて容易に変性され、体内タンパク質分解酵素によって分解されてその活性を失い、さらに相対的に小さくて腎臓を通じて容易に除去される。よって、薬理成分としてペプチドを含む医薬品の血中濃度及び力価を維持するためには、ペプチド薬物を患者にたびたび投与する必要がある。しかし、ペプチド薬物は大部分注射剤の形態で患者に投与され、よって生理活性ペプチドの血中濃度を維持するためにたびたび注射することになるが、これは患者の激しい痛みを引き起こすことになる。このような問題点を解決するために多様な試みがあった。その一つとして、ペプチド薬物の生体膜透過度を増加させ、口腔または鼻腔を通じての吸入でペプチドの薬物を体内に伝達する試みがあった。しかし、このような方法は、注射剤に比べてペプチドの体内伝達効率が著しく低く、ペプチド薬物の体内活性を要求条件に維持するのには未だ困難が多い。
【0003】
一方、ペプチド薬物の血中安定性を増加させ、血中薬物濃度を長時間高く維持させて薬効を最大化しようとする努力が続いて行われた。このようなペプチド薬物の持続型製剤はペプチド薬物の安定性を高めるとともに薬物そのもの力価が充分に高く維持されなければならなく、患者に免疫反応を誘発してはいけない。
【0004】
ペプチドを安定化させ、タンパク質分解酵素による分解を抑制するための方法として、タンパク質分解酵素に敏感な特定のアミノ酸配列を変更する試みがあった。例えば、血中グルコース濃度を減少させる作用をして第2型糖尿病治療効能を持つGLP−1(7−37または7−36amide)の場合、生理活性半減期が約4分以下と(Kreymann et al.、1987)非常に短い。これはジペプチジルペプチダーゼ(Dipeptidyl pepdidase IV、以下‘DPP IV’という)によるGLP−1のアミノ酸8番(Ala)と9番(Asp)の間の切断によるGLP−1の力価の喪失に起因する。したがって、DPP IVに抵抗性を持つGLP−1類似体に対する多くの研究が行われたが、Ala8をGlyに置換するか(Deacon et al.、1998;Burcelin et al.、1999)またはLeu,D−Alaに置換して(Xiao et al.、2001)DPP IVに対する抵抗性を増加させるとともに活性を維持する試みがあった。また、GLP−1のN末端アミノ酸His7はGLP−1の活性に非常に重要であり、DPP IVのターゲットである。したがって、米国特許第5,545,618号ではN末端をalkylまたはacyl groupに変形し、Gallwitzらは7番HisをN−メチル化(N−methylation)、アルファ−メチル化(alpha−metylaltion)させるかHis全体をイミダゾールに置換してDPP IV抵抗性を増加させて生理活性を維持した。しかし、このような場合、DPP IVによる切断の抵抗性が増加して安定性が向上したが、7番Hisを変性させた誘導体の受容体親和性(receptor affinity)が著しく減少し、同一濃度でcAMPの分泌能も落ちることが分かった(Gallwitz. et al.、Regulatory Peptide 79:93−102(1999),Regulatory Peptide 86:103−111(2000))。
【0005】
GLP−1以外に、エキセンディン(exendin)はアリゾナ州と北メキシコのトカゲであるアメリカドクトカゲ及び唾液分泌物で発見されるペプチドである。エキセンディン−3はメキシコドクトカゲ(Heloderma horridum)の唾液分泌物に存在し、エキセンディン−4はアメリカドクトカゲ(Heloderma suspecturm)の唾液分泌物に存在するもので、GLP−1配列と高い相同性である53%を示す(Goke, et al.、J.Bio.Chem.、268:19650−55(1993))。エキセンディン−4は特定のインスリン分泌性細胞上のGLP−1受容体、テンジクネズミ膵膓からの分散した腺房細胞及び胃壁細胞で作用することができると報告されている。また、このようなペプチドはソマトスタチン遊離を刺激し、分離された胃でのガストリン放出を抑制すると報告された。また、エキセンディン−3及びエキセンディン−4は膵腺房細胞でのcAMP生成と、このような細胞からのアミラーゼ放出を刺激することが明かされた。米国特許第5,424,686号には、エキセンディン−4の場合、DPP IVの基質として作用するGLP−1の配列であるHis−AlaでないHis−Glyの配列でなっているのでDPP IVに対する抵抗性とともにGLP−1より高い生理活性を持ち、よって体内半減期が2〜4時間で、GLP−1に比べて長くなったことを開示している。しかし、天然型エキセンディンの場合、GLP−1より体内半減期が増加したが、依然としてその治療学的効果は改善の余地が多い。例えば、現在市販されているエキセンディン−4(エキセナティド、exenatide)の場合、患者に一日2回注射して投与しなければならないが、これは依然として患者に大きな負担である。
【0006】
天然型エキセンディンの治療学的効能を改善するために、類似体、誘導体及び変異体が製造された。ここで、用語「類似体または変異体」は天然型ペプチドと一つ以上のアミノ酸が置換、欠失または組み入れされて製造されたものを意味する。用語「誘導体」は天然型ペプチドに一つ以上のアミノ酸が、アルキル化、アシル化、エステル化またはアミド化によって化学的に変性されたペプチドを意味する。
【0007】
新規のエキセンディンアゴニスト化合物は国際出願PCT/US98/16387によって既に開示された。これに基づき、米国特許第6,956,026号はエキセンディンを利用した飲食物摂取抑制方法を開示している。また、ヨーロッパ特許EP0996459では、前記PCT出願に基づき、飲食物摂取抑制のためのエキセンディン及びその誘導体について開示し、米国特許第7,157,555号にはエキセンディンアゴニスト化合物が記載されている。しかし、前記特許らは一部のエキセンディン類似体の配列のみを記述しているだけで、その活性及び特性に関する実施例は具体的に記述していない。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明者はエキセンディンの一番アミノ酸であるHisを化学的に変性させた誘導体が天然型エキセンディンより優れた血中安定性及び高いインスリン分泌活性を示すという事実を見つけてこの発明を完成した。
【0009】
本発明の目的は、インスリン分泌ペプチドの血中安定性及び高いインスリン分泌活性が増加したインスリン分泌ペプチド誘導体を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、血中安定性及び高いインスリン分泌活性が増加した前記インスリン分泌ペプチド誘導体を含む糖尿病治療用薬剤学的組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エキセンディン−4誘導体の血漿内安定性を示す図であり、Aはエキセンディン−4、DはDA−エキセンディン−4、HはHY−エキセンディン−4、CはCA−エキセンディン−4である。
【図2】エキセンディン−4、及びエキセンディン−4誘導体であるCA−エキセンディン−4のインスリン分泌活性を示す図である。
【図3】エキセンディン−4及びCA−エキセンディン−4の糖尿病モデル動物での血糖低下能力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一様態において、本発明は血中安定性及びインスリン分泌活性が増加したインスリン分泌ペプチド誘導体に関する。
【0013】
本発明のインスリン分泌ペプチド誘導体は、インスリン分泌ペプチドのN末端のヒスチジン(histidine,His)残基の化学的変異誘導体あるいはN末端ヒスチジン残基のアミノグループを化学的に変化させた誘導体である。
【0014】
好ましくは、本発明の前記インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン−4(exendin−4)、エキセンディン−3(exendin−3)またはこれらの誘導体である。ここで「エキセンディン−4またはエキセンディン−3の誘導体」は、天然型のエキセンディン−4またはエキセンディン−3の一つ以上のアミノ酸が置換、欠失または組み入れされたものであるか、一つ以上のアミノ酸残基が、例えば、アルキル化、アシル化、エステル化形成またはアミド形成などによって化学的に変形されたペプチドを示し、天然型の活性を持つものを言う。
【0015】
このようなエキセンディン−3またはエキセンディン−4の誘導体については、エキセンディン−4のC末端を一部削除するか非天然型アミノ酸であるノルルシン(Norleucine)に置換したエキセンディン変異体に関するWO97/46584、ペンチルグリシン(pentyl glycine)、ホモプロリン(homoproline)、テルトブチルグリシン(tertbutylglycine)のような非天然型アミノ酸を含むエキセンディンのアミノ酸を置換した変異体に関するWO99/07404、エキセンディン4のC末端アミノ酸残基一部を切断して、天然型より短いアミノ酸配列で構成されたエキセンディン変異体と他のアミノ酸に置換したエキセンディン変異体に関するUS2008/0119390などで開示している。これら文献は参照して引用する。
【0016】
具体的に、本発明のインスリン分泌ペプチド誘導体は、インスリン分泌ペプチドのN末端アミノグループが除去された誘導体(ジメチル−ヒスチジル−誘導体)、アミノグループをヒドロキシルグループに置換した誘導体(ベータ−カルボキシイミダゾプロピル−誘導体)、アミノグループに二つのメチル(methyl)残基で修飾された誘導体(Dimethyl−histidyl−誘導体)、アミノ末端のアミノグループをカルボキシルグループに置換した誘導体(ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル−誘導体)またはアミノ末端ヒスチジン残基のアルファカーボンを削除してイミダゾールアセチル(imidazoacetyl)グループのみを残してアミノグループの正電荷(positive charge)を除去した誘導体(Imidazoacetyl−誘導体)などを含むことができ、またその他の形態のN末端アミノグループ変異誘導体が本発明の範疇に属する。
【0017】
好ましくは、本発明は、エキセンディン−4のN末端アミノグループまたはアミノ酸残基を化学的に変性させた誘導体、より好ましくは、エキセンディン−4のアミノ末端の一番アミノ酸であるヒスチジン残基のアルファカーボンに存在するアルファアミノグループまたはアルファカーボンを置換または除去したエキセンディン−4誘導体、さらにより好ましくはN末端アミノグループを除去したデサミノ−ヒスチジル−エキセンディン−4(Desamino−histidyl−exendin−4、DA−エキセンディン−4)、ヒドロキシルグループまたはカルボキシルグループに置換したベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル−エキセンディン−4(HY−エキセンディン−4)、ベータ−カルボキシイミダゾプロピル−エキセンディン−4(CX−エキセンディン−4)、二つのメチル残基で修飾したジメチル−ヒスチジル−エキセンディン−4(Dimethyl−histidyl−exendin−4、DM−エキセンディン−4)、またはアミノ末端ヒスチジン残基のアルファカーボンを除去したイミダゾアセチル−エキセンディン−4(CA−エキセンディン−4)を提供する。
【0018】
【化1】

【0019】
具体的な一様態において、本発明は下記化学式1のアミノ酸を含むインスリン分泌ペプチド誘導体に関する。
【0020】
R1−X−R2 <化学式1>
ここで、R1は、デサミノ−ヒスチジル(desamino−histidyl)、N−ジメチル−ヒスチジル(N−dimethyl−histidyl)、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル(beta−hydroxyimidazopropionyl)、4−イミダゾアセチル(4−imidazoacetyl)及びベータ−カルボキシイミダゾプロピオニル(beta−carboxyimidazopropionyl)よりなる群から選ばれ、
R2は、−NH、−OH及び−Lysよりなる群から選ばれ、
Xは、Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser、Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly、及びSer−Asp−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Serよりなる群から選ばれ、
Yは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれ、
Zは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれる。
【0021】
好ましいインスリン分泌ペプチド誘導体は化学式1を有し、ここで、R1は、デサミノ−ヒスチジル、N−ジメチル−ヒスチジル、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4−イミダゾアセチル及びベータ−カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれ、Yは、LysまたはSerであり、Zは、Lysであり、R2は−NHである。
【0022】
他の具体的な一様態において、本発明は下記化学式2のアミノ酸を含むインスリン分泌ペプチド誘導体に関する。
【0023】
R3−X’−R4<化学式2>
ここで、R3は4−イミダゾアセチルであり、
X’は、Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−SerまたはGly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Glyであり、
R4は、−NHであり、
Yは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれ、
Zは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれる。
【0024】
活性の観点から、エキセンディン−4のN末端ヒスチジン残基の化学的変化は公知の他のインスリン分泌ペプチドであるGLP−1の同一位置の化学的変化による活性の影響とは違う意味である。GLP−1、例えばa−メチル−GLP−1、n−メチル−GLP−1またはimi−GLP−1などの場合、N末端ヒスチジン残基の化学的変化は、ジペプチジルペプチダーゼによる分解を抑制し、それによる安定性増加の効果は予想することができる。それによって実質的に分解速度が減少することが報告されたが、相対的にその受容体に対する結合力は前記誘導体のいずれも天然型より劣って実質的な活性の尺度であるcAMPの生産能力は天然型に比べて低いことが報告された。
【0025】
しかし、エキセンディン−4の場合、ジペプチジルペプチダーゼによって分解されないため、N末端の化学的変化がその活性に及ぶ影響はいまだ予想しにくく、特に受容体との結合力及び血中グルコース濃度の変化に及ぶ影響は容易に予測することができないものである。
【0026】
したがって、本発明は化学的に変化されたN末端ヒスチジン残基を有するか化学的に変化されたN末端ヒスチジン残基を有するエキセンディン−4誘導体を提供し、これは、天然のエキセンディン−4に比べて予測することができなかった、優れたインスリン分泌活性を示す。In vitro実験で、本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体はエキセンディン−4に比べて優れた血中安定性及びインスリン分泌活性を示した(図2参照)。実際には、糖尿病モデル動物であるdb/dbマウスに対し、天然型エキセンディン−4に比べて優れた血糖低下の効果を確認した(図3参照)。N末端のヒスチジン残基のアミノグループの変化によるnet chargeの変化またはヒスチジン残基の大きさ変化は血中分解タンパク質に対する感受性の差を誘発するか、あるいは受容体との親和力に影響を及ぼすと予測できるが、より深い分子的研究が必要である。本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体のこのような性質はエキセンディン−4の固有の活性であるインスリン分泌による第2型糖尿病の治療の効果を最大化させると予想され、エキセンディン−4の他の効果である飲食物摂取の減少、胃内容排出の抑制などでも優れた効果を示すと予想される。
【0027】
本発明のデサミノ−ヒスチジル−エキセンディン−4(DA−エキセンディン−4)、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル−エキセンディン−4(HY−エキセンディン−4)、ベータ−カルボキシイミダゾプロピオニル−エキセンディン−4(CX−エキセンディン−4)、ジメチル−ヒスチジル−エキセンディン−4(DM−エキセンディン−4)及びイミダゾアセチル−エキセンディン−4(CA−エキセンディン−4)を含むエキセンディン−4誘導体は、N末端ヒスチジン残基のアルファアミノグループの除去及び置換、またはN末端ヒスチジン残基のアルファカーボンの除去によって作られる。したがって、それ以外のアミノ酸配列はその活性が維持される限り制限されない。また、ペプチドの治療効果を高めるために使用されているPEG、糖鎖などの高分子の修飾のような通常の技術を利用してエキセンディン−4誘導体を変性させる場合、天然型エキセンディン−4より優れた治療学的効果が現れるのは当業者にとって周知の事実である。
【0028】
他の一様態において、本発明は、前記インスリン分泌ペプチド誘導体を含む糖尿病治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0029】
本発明において、「投与」という用語は、ある適切な方法で患者に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は、薬物が目的組職に到達することができる限り、どの一般的な経路を通じても投与できる。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などの多様な投与方法が考慮できるが、これらに制限されない。しかし、経口投与の際、ペプチドは消化されるため、経口用組成物は活性薬剤をコートするか胃での分解から保護されるために剤形化することが好ましい。好ましくは、この組成物は注射剤の形態で投与できる。また、薬剤学的組成物は活性物質が標的細胞に移動することができる任意の装置によって投与できる。
【0030】
本発明の誘導体を含む薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容可能な担体を含むことができる。薬剤学的に許容される担体は、経口投与の際には、結合剤、潤滑剤、分解剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを使用することができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、鎮痛剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。本発明の薬剤学的組成物の剤形は、前述したような薬剤学的に許容される担体と混合して多様に製造できる。例えば、経口投与の際には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップまたはウェハースなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは多数回投薬の形態に製造することができる。その他に、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、長時間作用型製剤などに剤形化できる。
【0031】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ジェラチン、カルシウムフォスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝固剤、潤滑剤、保湿剤、香料、防腐剤などをさらに含むことができる。
【0032】
本発明の薬剤学的組成物の投与量と回数は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別、体重及び疾患の重症度などの多くの関連因子とともに活性成分である薬物の種類によって決定される。本発明の薬剤学的組成物は生体内持続性及び力価に優れるので、本発明の薬剤学的製剤の投与回数及び頻度を著しく減少させることができる。
【0033】
本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体は以前の他の発明者によって全く開示されていないか、あるいはその配列が特定されなかったままで広範囲に開示されていたが、その活性において、天然型のエキセンディン−4、他の誘導体または変異体と比較したことがなく、N末端のアルファアミノグループまたはアルファカーボンが置換または除去されたエキセンディン−4誘導体が天然型に比べて数等優越な活性を示すとは予測しにくかった。したがって、本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体の優れた血中安定性及びインスリン分泌活性は第2型糖尿病の治療効果を最大化させる。
【0034】
以下、下記の実施例によって本発明をより詳細に説明するが、下記の実施例は本発明を例示するためのものであるだけであり、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1.エキセンディン−4誘導体の血漿安定性
エキセンディン−4誘導体の血漿内安定性を測定する方法として、天然型試料とエキセンディン−4誘導体をそれぞれ血漿に曝露させ、変性されずに残っている量を逆相(reversed phase)HPLCで測定して曝露時間による変性程度を比較する試験を行った。
【0036】
本試験では、血漿に曝露された試料の分析のために、血漿混合試料からタンパク質を除去した後に分析した。
【0037】
天然型エキセンディン−4、デサミノ−ヒスチジル−エキセンディン−4(DA−エキセンディン−4)、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル−エキセンディン−4(HY−エキセンディン−4)、ベータ−カルボキシイミダゾプロピオニル−エキセンディン−4(CA−エキセンディン−4)、ジメチル−ヒスチジル−エキセンディン−4(DM−エキセンディン−4)、及びイミダゾアセチル−エキセンディン−4(CA−エキセンディン−4)をそれぞれ1mg/mlの濃度で製造した。エキセンディン−4誘導体試料200μL(リットル)をそれぞれラット血清200μLと混合した。サンプリング時間別に37℃で反応させながら0hr、1hr、2hr、4hr、6hr、8hr、18hr、24hrの時点でそれぞれ100μLずつサンプリングした。サンプリングした試料100μLに400μLのice−cold methanolを入れて反応を中止させ、よく混合されるように20秒間ボルテックス(vortexing)した。この混合物を15,000rpmで30分間遠心分離し、上層液を取って分析試料を準備した。
【0038】
TFAを含むACNを移動相としてgradientの条件で逆相HPLC分析を行った。この際、C18カラムを使用した。
【0039】
分析結果は、全体ピークの面積の中でエキセンディン−4の主ピークの面積の%割合で計算し、この結果を、それぞれの誘導体の曝露0時間での結果を基準100%にして、血漿曝露時間別に主ピークの面積の割合が減少する様相をグラフで示した。
【0040】
24時間まで曝露されるとき、天然型エキセンディン−4は約70%まで減少するが、三種の誘導体DA−エキセンディン−4、HY−エキセンディン−4、CA−エキセンディン−4はそれぞれ約77%、78%、77%までだけ減少した(図1参照)。
【0041】
実施例2.エキセンディン−4誘導体のin vitro活性の測定
デサミノ−ヒスチジル−エキセンディン−4を含むエキセンディン−4誘導体の効力を測定するために、in vitro細胞活性を測定した。天然型エキセンディン−4とエキセンディン−4誘導体はAmerican Peptide社で合成した。通常GLP
−1のin−vitro活性の測定方法に使用されるinsulinoma cellまたはランゲルハンス島(islet of Langerhans)を分離し、GLP−1処理によるcAMP生成の変化を分析した。
【0042】
本試験において、in−vitro活性は、Rat insulinoma細胞として知られGLP−1receptorを持っているのでGLP−1系のin−vitroactivityを測定する方法に多く利用されているRIN−m5F(ATCC CRL−11605)を使用して測定した。RIN−m5Fを多様な濃度のGLP−1、天然型エキセンディン−4、及びN末端−α−デサミノ−ヒスチジル−エキセンディン−4を含むエキセンディン−4誘導体で処理し、試験物質によるcAMP発生程度を測定してEC50値を決定した。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例3.エキセンディン−4誘導体のインスリン分泌活性の測定
RINm5F細胞においてエキセンディン−4誘導体のインスリン分泌活性を比較した。解凍の後、1回以上継代培養したRINm5F細胞を96well plateに1×10cells/wellになるようにFBS(Gibco、#11082)を含む倍地とともに接種し、37℃の5%CO培養器で48時間培養した。インスリン分泌試験のために、培養したRINm5F細胞の倍地を、0.5%FBSを含む培養倍地に交換した後、1時間培養した。CA−エキセンディン−4とエキセンディン−4(byetta、Amylin)をそれぞれ0.5%FBS及びグルコースを含む培養倍地希釈溶液で希釈して10nMから0.001nMまで準備した。エキセンディン試料を除いた希釈溶液を準備して対照群として使用した。前記RINm5F細胞の倍地をすべて除去し、準備した試料を添加し、37℃の5%CO培養器で1時間培養した後、それぞれのwellの倍地をすべて回収した。ラットインスリンELISAキット(Mercodia社製)を利用して、回収した倍地のインスリン濃度を測定し、その結果を図2及び表2に示した。
【0045】
【表2】

【0046】
図2及び表2から分かるように、エキセンディン−4誘導体の一つであるCA−エキセンディン−4は、同一濃度範囲で天然型エキセンディン−4より約2倍のインスリン分泌活性を示した。
【0047】
実施例4.エキセンディン−4誘導体のin vivo効力の比較
エキセンディン−4誘導体のin vivo効力を測定するために、糖尿病モデル動物における血糖低下能力を天然型エキセンディン−4と比較して試験した。db/dbマウス(Jackson Lab,10〜12週齢)を2時間断食させた後、0.01〜1000mcg/kgのエキセンディン−4とCA−エキセンディン−4をそれぞれ投与した。薬物投与1時間の後、しっぽから血液を採取し、血糖を血糖測定器で測定した。エキセンディン−4、CA−エキセンディン−4及びvehicleを、皮下経路を通じて投与し、各投与濃度での投与薬物による血糖変化はvehicleに対する%変化値で計算した。それぞれの投与濃度で血糖低下効果に対するED50はPrismプログラムを利用して求めた(図3及び表3参照)。
【0048】
【表3】

【0049】
図3及び表3から分かるように、糖尿病モデル動物におけるCA−エキセンディン−4の血糖低下能力は天然型エキセンディン−4よりその効力が約5倍高いことを確認した。
【0050】
なお、本発明には、以下の発明が含まれていてもよい。
【0051】
(1)
インスリン分泌ペプチドのN末端ヒスチジン残基が、デサミノ−ヒスチジル、N−ジメチル−ヒスチジル、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4−イミダゾアセチル及びベータ−カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれる物質に置換されたインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0052】
(2)
インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン−3、エキセンディン−4及びこれらの誘導体から選ばれることを特徴とする、(1)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0053】
(3)
インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン−4またはその誘導体であることを特徴とする、(2)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0054】
(4)
前記インスリン分泌ペプチド誘導体は下記化学式1のアミノ酸であることを特徴とする、(1)または(2)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0055】
R1−X−R2<化学式1>
ここで、R1は、デサミノ−ヒスチジル、N−ジメチル−ヒスチジル、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4−イミダゾアセチル及びベータ−カルボキシイミダゾプロピオニルよりなる群から選ばれ、
R2は、−NHまたは−OHであり、
Xは、Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser、Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly及びSer−Asp−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Serよりなる群から選ばれ、
Yは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれ、
Zは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれる。
【0056】
(5)
R1はデサミノ−ヒスチジル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は−NH
であることを特徴とする、(4)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0057】
(6)
R1はN−ジメチル−ヒスチジル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は−NHであることを特徴とする、(4)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0058】
(7)
R1は4−イミダゾアセチル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は−NH
であることを特徴とする、(4)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0059】
(8)
R1はベータ−ヒドロキシ−イミダゾプロピオニル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は−NHであることを特徴とする、(4)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0060】
(9)
R1はベータ−カルボキシ−イミダゾプロピオニル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は−NHであることを特徴とする、(4)に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【0061】
(10)
(1)のインスリン分泌ペプチド誘導体を含む糖尿病治療用薬剤学的組成物。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体は、天然型及び従来の他のインスリン分泌ペプチド類似体より優れた治療学的効果、つまりエキセンディンの固有の活性であるインスリン分泌による第2型糖尿病治療の効果を最大化させるだけでなく、他の効果である飲食物摂取の減少、胃内容排出の抑制などにも優れた生理活性を示す。したがって、本発明によるインスリン分泌ペプチド誘導体及びこれを含む薬剤学的組成物は、前記疾患に対する効果的な治療法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然型インスリン分泌ペプチドのN末端ヒスチジン残基が、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニルに置換されたインスリン分泌ペプチド誘導体。
【請求項2】
インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン−3、エキセンディン−4及びこれらの誘導体から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【請求項3】
インスリン分泌ペプチドは、エキセンディン−4またはその誘導体であることを特徴とする、請求項2に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【請求項4】
前記インスリン分泌ペプチド誘導体は下記化学式1のアミノ酸であることを特徴とする、請求項1または2に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
R1−X−R2<化学式1>
ここで、R1は、ベータ−ヒドロキシイミダゾプロピオニルであり、
R2は、−NHまたは−OHであり、
Xは、Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser、Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly及びSer−Asp−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Y−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Z−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Serよりなる群から選ばれ、
Yは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれ、
Zは、Lys、Ser及びArgよりなる群から選ばれる。
【請求項5】
R1はベータ−ヒドロキシ−イミダゾプロピオニル、YはLysまたはSer、ZはLys、R2は−NHであることを特徴とする、請求項4に記載のインスリン分泌ペプチド誘導体。
【請求項6】
請求項1のインスリン分泌ペプチド誘導体を含む糖尿病治療用薬剤学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−14598(P2013−14598A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−193521(P2012−193521)
【出願日】平成24年9月3日(2012.9.3)
【分割の表示】特願2010−516925(P2010−516925)の分割
【原出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(512188720)ハンミ サイエンス カンパニー リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】HANMI SCIENCE CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】550,Dongtangiheung−ro,Dongtan−myeon,Hwaseong−si,Gyeonggi−do 445−813,Republic of Korea
【Fターム(参考)】