説明

N末端ポリシアリル化

【課題】ヒト及び動物の治療に使うことができ、また、最適化された安定性及び半減期を有し、かつ毒性の低い、改善されたインスリン誘導体を含む組成物の提供。
【解決手段】インスリンの多糖誘導体の集団を含む組成物であって、該多糖はアニオン性であり、2から125個の間の糖ユニットを含み、前記集団は実質的に該インスリンのN末端誘導体のみからなる組成物。通例、多糖はポリシアル酸である。さらにインスリン又はインスリン様タンパク質の多糖誘導体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリンの新規な多糖誘導体及びそのような誘導体の製造法に関する。これら誘導体は、インスリンの安定性、薬物動態及び薬力学の向上に有用である。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、炭水化物代謝の異常であり、インスリンの産生が不十分であること又はインスリンに対する感受性が低いことが原因である。インスリンは、膵臓のランゲルハンス島ベータ細胞で合成され、身体のほとんどの細胞が正常にグルコースを利用するのに必要である。糖尿病患者では、正常なグルコース利用能が阻害され、それによって血糖値が上昇する(高血糖)。
【0003】
糖尿病には2つの種類がある。1型糖尿病は、インスリン依存型糖尿病すなわちIDDMである。IDDMは、以前は若年発症糖尿病と呼ばれていた。IDDMの場合、インスリンは膵臓によって分泌されず、したがって外部から補給しなければならない。成人発症2型糖尿病は、一部の進行した症例ではインスリンを必要とするが、通常、食餌療法によってコントロールできる。
【0004】
1920年代にインスリンが単離される前は、ほとんどの患者がこの疾患の発症後短期間のうちに死亡した。糖尿病を治療せずにいるとケトーシス、すなわち血中にケトン体(脂肪分解物)が蓄積した状態になり、ケトーシスの後には悪心及び嘔吐を伴うアシドーシス(血中における酸の蓄積)の状態に至る。異常な炭水化物及び脂肪の代謝による毒性生成物は増え続けるため、患者は糖尿病性昏睡に陥ることになる。
【0005】
糖尿病の治療には、通常、インスリンを規則正しく注射することが必要である。これにより、救命上、臨床治療上劇的な改善がもたらされる。しかし、インスリン注射を打つことは不便なため、インスリンの投与及び生体への取り込みを改善すべく非常な努力が注がれてきた。
【0006】
インスリン分子は、ジスルフィド結合によって結合している2つのアミノ酸の鎖からなる(分子量5804)。膵島のベータ細胞は、プロインスリンとして知られる、1本鎖のインスリン前駆物質を分泌する。プロインスリンのタンパク質分解によって、4つの塩基性アミノ酸(プロインスリン鎖の31、32、64及び65番目、それぞれArg、Arg、Lys、Arg)と連結(「C」)ポリペプチドがはずされる。この結果得られる2本鎖のインスリン分子において、A鎖はアミノ末端にグリシンを有し、B鎖はアミノ末端にフェニルアラニンを有している。
【0007】
インスリンは、単量体、2量体、又は3つの2量体で形成される6量体として存在することができる。6量体には2個のZn2+原子が配位している。生物活性は単量体に存在する。最近まではヒトの糖尿病を治療するためにウシインスリン及びブタインスリンがもっぱら使われていたが、種間でインスリンに多くの違いがあることは知られている。ブタインスリンはヒトインスリンに最も類似しており、B鎖のC末端にスレオニン残基ではなくアラニン残基を有している点だけが異なっている。このような違いにもかかわらず、多くの哺乳動物のインスリンは似たような特異的な活性を有している。最近までは、この疾患の治療に使用されるインスリンはすべて、動物の抽出物から供給されていた。遺伝子組換え技術の出現によって、ヒトインスリンの商業規模の製造(例えばインディアナ州、インディアナポリスのEli Lilly and Company社から市販されているHumulin(登録商標)インスリン)が可能となっている。
【0008】
インスリンを誘導体化してその薬物動態特性を向上させようという試みがなされてきた。販売されている製品、PEG−インスリン(Nektar Therapeutics社)がある。PEGは、任意の数のエチレンオキシドの繰り返し単位を含む中性で水溶性の非毒性ポリマーである。PEG化は、活性分子のサイズを大きくし、また、薬物動態の最適化、生物学的利用能の上昇、免疫原性及び投与回数の低減などによって最終的に薬物の性能を向上させようとするものである。PEG−インスリンの設計及び開発については、WO2004091494にさらに詳しく記載されている。
【0009】
PEG化インスリン誘導体の製造方法としては種々の方法が知られている。Davisら(米国特許第4,179,337号)は、トリクロロ−s−トリアジン(塩化シアヌル)をPEGとタンパク質のリンカーとして使った、PEG−インスリンコンストラクトの合成について記載している。この発明者らは、大過剰量(50×)の塩化シアヌル活性化PEG(2000Da)を、ホウ酸バッファー(pH9.2)中で2時間インスリンと反応させるという合成スキームに従っている。この発明者らは、部分的に活性(約50%)なPEG−インスリン複合体を生成することができた。この複合体は、非免疫原性であり非抗原性であった。Obermeierら(カナダ特許第1,156,217号)は、先に引用したDavisの特許に従ってPEG−インスリン複合体を調製すると約50%のトリ−PEG−インスリンを含有する不均一な複合体の混合物が生成すること、また、他の考えられるPEG−インスリン誘導体の組合せ(モノ−及びジ−PEG−インスリン)ではB鎖1位のPhe残基において置換されていないことを見出した。
【0010】
Obermeierら(カナダ特許第1,156,217号)は、B鎖1位のPhe残基において特異的に修飾されたPEG−インスリン複合体の合成について記載している。Obermeierらの発明の基本は、アルカリ性条件下、有機溶媒(例えばDMF、DMSO、ピリジンなど)中で、A鎖1位のGly残基及びB鎖29位のLys残基の反応性アミンをtert−ブチルオキシカルボニル(t−boc)又はメチルスルホニルエチルオキシカルボニル(Msc)基で保護することである。保護された(モノ−、ジ−及びトリ−)インスリンの複合混合物から、従来のクロマトグラフィー技術によってNαA1,NεB29−ビス−保護インスリン種を分離した。分離の後、純粋なNαA1,NεB29−ビス−保護インスリンを、活性化した(例えば酸塩化物又はイソシアネート)PEG誘導体と反応させ、引き続きペプチド化学で一般的な技術を使って保護基を除去した。Obermeierらは、アルカリ性反応条件下では、A鎖1位のGlyとB鎖29位のLysのアミノ基はB鎖1位のPheのアミノ基よりも反応性に富むことに気づいた。この発明者らは、部位特異的なmPEG(1500)−B1−インスリン複合体が、ウサギにおける血糖値の低下に(モル基準で計算して)100%インスリンの効果を及ぼすとした。
【0011】
Geigerら(1980年)及びEhratら(1983年)は、Obermeierら、Geigerら及びEhratらが記載している多段階法に類似した保護/複合化/脱保護のスキームを使って生成した、B鎖1位のPhe残基において特異的に修飾されたPEG−インスリン付加体について記載しているが、彼らはPEG(1500)−B1−インスリン複合体がネイティブインスリンに比べてはるかに抗原性が低く、はるかに安定(肝酵素に対して)であることに気づいた。他のPEG−インスリンの調製(Calicetiら、1999年;Uchioら1999年;Hindsら、2002年)は、1)先に略述した基本的な3段階、保護/複合化/脱保護のスキームが中心となるか、2)インスリン分子を非特異的に修飾することになるか、又は3)最も効果的な複合体、すなわちPEG−B1−インスリンが生成されないかのいずれかである。
【0012】
Liuら(米国特許第6,323,311号B1)は、PEG−B1−インスリン複合
体を合成する有用な方法について記載している。この方法は、Obermeierの3段階、保護/複合化/脱保護のスキームを拡張したものであるが、各段階の間で反応中間体を単離する必要がない(すなわち、ワンポット合成である)。したがって、インスリンは、A鎖1位のGly残基及びB鎖29位のLys残基において保護され、直ちにPEGと反応させられ、次いで種を単離する前に脱保護される。Liuらは、彼らのワンポット反応によって適切な位置異性体(すなわちPEG−B1−インスリン)が最大50%と、引き続く誘導体化にリサイクルし得る未反応インスリン30%を得ることができると主張している。これらのコンストラクトの調製が迅速に行われると仮定しても、完了するのに最低5日かかることになる。また、この発明では、許容し得る結果を達成するのに大過剰のPEG試薬が必要となる。この発明の生成物は有効であるかもしれないが、その調製にはやはり、タンパク質が、タンパク質に不利な環境(高pH及び低pH)において長時間にわたり3つの反応段階を経ることが必要となる。
【0013】
US2007083006に記載の発明は、インスリンB鎖のN末端(PheB1)で特異的にPEG化された高純度のインスリン誘導体を1段階で簡単に調製する方法を提供することによって、従来技術のインスリンPEG化法の欠点を解決しようとするものである。PheB1におけるPEG化が最もありそうにない反応生成物であることを示唆する従来の経験(Calicetiら、1999年、上記)と異なり、この方法は、pHをコントロールする特定の条件、金属イオンキレート剤の使用、及びPEG化の主たる部位となるPheB1アミノ末端の相対的反応性を高めるための有機溶媒の添加を使用している。PheB1残基における部位特異的なPEG化によってインスリンに付与される多くの有益な特性(例えば、弱い免疫原性/抗原性、高いタンパク質分解的、化学的及び物理的安定性、長い循環半減期、高い水溶性/有機溶媒可溶性、十分な生物活性)を考えれば、このような結果を達成するための簡単で、費用対効果が高く、また容易にスケーラブルな方法があれば、当技術分野において著しい進歩をもたらすことになろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2004091494
【特許文献2】米国特許第4,179,337号
【特許文献3】カナダ特許第1,156,217号
【特許文献4】米国特許第6,323,311号B1
【特許文献5】US2007083006
【特許文献6】US−A−5846,951
【特許文献7】WO−A−0187922
【特許文献8】WO2005/016974
【特許文献9】WO2006/016168
【特許文献10】WO92/22331
【特許文献11】WO2005/016973
【特許文献12】WO06/00540
【特許文献13】WO2005/03149
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Biochimica et Biophysica Acta(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来技術を考慮すると、ヒト及び動物の治療に使うことができ、また、最適化された安定性及び半減期を有しかつ毒性の低い改善されたインスリン誘導体を提供する必要がある
。本発明者らは、インスリンにPSAを結合することによって前述したような特性が付与されることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
ポリシアル酸(PSA)は、ある種の細菌によってまた哺乳動物のある種の細胞において産生される、天然の分枝していないシアル酸のポリマーである。それらは、n=約80又はそれ以上から少ない方ではn=2までのシアル酸残基から、天然の細菌由来型のポリマーの限られた酸加水分解によって、又はノイラミニダーゼによる消化によって、又は分画によって様々な重合度で生成し得る。
【0018】
近年、ポリシアル酸の生物学的特性、特にα−2,8結合したホモポリマーポリシアル酸の生物学的特性は、タンパク質及び低分子量薬物分子の薬物動態特性に変更を加えるために利用されてきた。ポリシアル酸による誘導体化によって、カタラーゼやアスパラギナーゼを含めた多くの治療用タンパク質の循環半減期は劇的に改善されることになり、また、以前にこのような治療用タンパク質に曝露されたことによる望ましくない(時には必然的な)結果としてすでに抗体が存在している場合であっても、このようなタンパク質を使用することが可能となる[Fermandes及びGregoriadis、1996年、1997年]。α−2,8結合したポリシアル酸は、PEGの代わりとなる魅力的なポリマーであり、当然のことながら人体の一部である生分解性ポリマーであって組織のノイラミニダーゼによって分解してシアル酸、すなわち非毒性の糖となる免疫学的には見えない生分解性ポリマーである。
【0019】
本発明者らは、先に、タンパク質などの治療薬に多糖(特にPSA)を結合させる方法について記載している[US−A−5846,951、WO−A−0187922]。これらの方法の幾つかは、第一級アミン基で反応するタンパク質反応性アルデヒド部分を創出するために、ポリマーの「非還元」末端を化学的に誘導体化することに依存するものである。非還元シアル酸末端ユニットは隣接ジオールを有しているため、過ヨウ素酸塩で容易に(及び選択的に)酸化されモノアルデヒド体を生じることができる。このモノアルデヒド体はタンパク質に対してより反応性であり、また、還元的アミノ化及び他の化学作用によるタンパク質結合のための好適に反応性な元素を含んでいる。この反応を、図1及び2に示す。
【0020】
図1は、コロミン酸(大腸菌由来のα−2,8結合したポリシアル酸)を過ヨウ素酸ナトリウムで酸化して、非還元末端にタンパク質反応性アルデヒドを形成することを示す図である。また、
図2は、シアノ水素化ホウ素ナトリウムでシッフ塩基を選択的に還元して、タンパク質のアミノ基と安定な非可逆的共有結合を形成することを示す図である。
【0021】
本発明者らは、以前の刊行物、例えばBiochimica et Biophysica Acta(2003年)に、ポリシアリル化インスリンの合成について記載した。この参考文献では、22kDa及び39kDaのコロミン酸を酸化し、遺伝子組換えヒトインスリンのアミノ基と反応させている。使用したCAの多分散度は1.33及び1.40であり、これは治療用としては大き過ぎる。
【0022】
本発明者らはまた、WO2005/016974として公開されている以前の特許出願に、インスリン−コロミン酸複合体の合成について記載した。しかし、この出願では、複合体がすべて特異的にN末端であるということではなく、様々な複合体が生成する。
【0023】
コロミン酸が例えばアミノ酸の側鎖と反応することによって、前述した従来の複合化反応の間に、意図しない副産物が生じることがある。このような副産物は、ヒト及び動物の
治療用として規制当局から要求される化学的に定義された複合体を製造する際には、非常にやっかいであると考えられる。
【0024】
反応生成物の多くの物理化学的特性は類似しているため、意図した反応生成物(例えば、モノポリシアリル化生成物)を、種々の意図しない生成物から精製することは容易なことではない。これは、イオン交換クロマトグラフィーやゲル浸透クロマトグラフィー(それぞれ電荷及び大きさに基づいて分離する)などの技術では、不十分な精製プロファイルしか得られないことを意味する。
【0025】
本発明の第1の態様によれば、タンパク質の多糖誘導体の集団を含む組成物であって、前記タンパク質はインスリン又はインスリン様タンパク質であり、前記多糖はアニオン性であり、2個から125個の間の糖ユニットを含み、前記集団は実質的に前記タンパク質のN末端誘導体のみからなるような組成物が提供される。
【0026】
以下、用語インスリンを使用する場合、インスリン様タンパク質も含むことを意図する。インスリン様タンパク質とは、インスリンの活性に相当する活性を有するタンパク質を意味する。インスリンは通常、血中グルコース濃度を低下させる。インスリンはまた、単糖類、アミノ酸及び脂肪酸の細胞透過性を増大し、解糖、ペントースリン酸回路及び肝臓におけるグリコーゲン合成を促進する。インスリン様タンパク質は、Swissprotアクセッション番号P01308由来のヒトインスリンが有する活性の少なくとも35%、より好ましくは少なくとも50%を有することが好ましい。
【0027】
先に詳述したような必要な活性を有しているインスリンの突然変異体もまた使うことができる。「インスリン様」タンパク質は、「インスリンホモログ」と呼ぶこともできる。2つの配列が相同であるかどうかは、当技術分野でよく知られている配列類似性又は同一性のパーセントを使って、決まった手順で算出される。配列は、プロセシングを経ていないヒトインスリンの前駆体である配列番号1と比較しなければならない。25〜54番目の残基はインスリンB鎖に対応し、90〜110番目の残基はインスリンA鎖に対応する。ホモログの配列も、活性型のヒトインスリンのものと比較することができる。
【0028】
ホモログは、核酸又はアミノ酸レベルで50%又はそれ以上の類似性又は同一性を有していることが好ましく、核酸又はアミノ酸レベルで60%、70%、80%又はそれ以上であるとさらに好ましく、95%又は99%などの90%又はそれ以上の同一性又は類似性を有しているとさらに好ましい。類似性又は同一性を計算するのに多くのプログラムが利用できる。好ましいプログラムはBLASTn、BLASTp及びBLASTxプログラムであり、これらはデフォルトパラメータで動き、www.ncbi.nlm.nih.govで入手可能である。例えば、2つのアミノ酸配列は、BLASTnプログラムを使い、デフォールトパラメータ(スコア=100、語長=11、期待値=11、低複雑配列のフィルタリング=on)を使って比較することができる。上記レベルの相同性は、これらのデフォルトパラメータを使って計算される。
【0029】
インスリンは天然、すなわちヒト若しくは動物由来のものであっても、又は合成、例えば遺伝子組み換え法によって作られたものであってもよい。
【0030】
当技術分野でよく知られているように、インスリンは2つのペプチド鎖を含む。本発明においては、好ましくは、インスリンはそのB鎖のN末端において多糖で誘導体化される。
【0031】
「集団」とは、組成物中に1種を超える多糖誘導体が存在するということである。これらの誘導体は、同数の又は異なる数の糖ユニットを含んでいてよい。好ましくは、組成物
中の多糖の多分散度は1.3未満であり、さらに好ましくは1.1未満である。
【0032】
この集団において、実質的にすべてのタンパク質はN末端でのみ誘導体化されている。インスリンには2つのペプチド鎖が存在するので、2つのN末端ユニットがある。好ましくは、この集団のB鎖の少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%が、N末端でアニオン性多糖によって誘導体化されている。A鎖のN末端は誘導体化されている必要はない。
【0033】
N末端における誘導体化の程度は、ペプチドマッピング又はエドマン分解などの当技術分野における標準的な技術を使って測定することができる。
【0034】
好ましくは、多糖は少なくとも2個、さらに好ましくは少なくとも5個、最も好ましくは少なくとも10個、例えば少なくとも50個の糖ユニットを有する。
【0035】
アニオン性多糖は、好ましくはポリシアル酸、ヘパリン、ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸から選択される。好ましくは、多糖はポリシアル酸であり、実質的にシアル酸ユニットのみからなる。しかし、多糖は、分子中にシアル酸以外のユニットを有していてもよい。例えば、シアル酸ユニットは他の糖ユニットと交互に存在していてもよい。しかし、多糖は実質的にシアル酸のユニットからなることが好ましい。
【0036】
多糖は末端シアル酸基を有していることが好ましく、また、先に詳述したように、α−2−8結合又はα−2−9結合によって互いに結合している少なくとも2つのシアル酸ユニットを含む多糖である、ポリシアル酸であることがさらに好ましい。好適なポリシアル酸の重量平均分子量は2から100kDaの範囲、好ましくは1から35kDaの範囲にある。最も好ましいポリシアル酸の分子量は10から20kDaの範囲にあって、通例約14kDaである。最も好ましくは、ポリシアル酸は細菌由来であって、例えば大腸菌K1、髄膜炎菌、非発酵陰性桿菌(Maraxella liquefaciens)若しくはPasteurella aeruginosaの多糖B、又は大腸菌K92株由来のK92多糖である。大腸菌K1由来のコロミン酸であることが最も好ましい。
【0037】
アニオン性多糖、好ましくはポリシアル酸は、塩又は遊離酸の形態をしていてよい。細菌源からの回収後その分子量が小さくなっているというような、加水分解物の形態であってもよい。多糖、好ましくはポリシアル酸は、多分散度が1.3を上回るような、例えば2又はそれ以上であるような、分子量が広く分布している物質であってよい。好ましくは、分子量の多分散度は1.3未満又は1.2未満であり、1.1未満、例えば1.01程度に低いことが好ましい。
【0038】
通常、本発明の化合物はインスリンのポリシアル酸誘導体であって、2〜125個のシアル酸ユニットを含む。さらに、本発明の化合物は10〜80個のシアル酸ユニット、好ましくは20〜60個のシアル酸ユニット、最も好ましくは40〜50個のシアル酸ユニットを含む。
【0039】
本発明の第1の態様における多糖誘導体は、インスリンのN末端とアニオン性多糖が共有結合した複合体であり得る。多糖とインスリンの他の会合手段としては、静電引力が挙げられる。しかし、共有結合が好ましい。この共有結合は、カルボキシル基とアミン基のアミド結合であってよい。インスリンが多糖と共有結合的に結合すると考えられるもう1つの結合は、シッフ塩基を介する。アミンと複合化するのに好適な基については、WO2006/016168に詳しく記載されている。
【0040】
本発明においては、多糖は、天然の多糖であってもよく、又は天然の多糖の誘導体、例
えば糖残基上の1個若しくは複数の活性基の反応によって誘導体化された多糖、又は多糖鎖末端の誘導体化基に共有結合した多糖であってもよい。
【0041】
多糖は、その還元又は非還元末端ユニットのいずれかを介してインスリンに結合することができる。
【0042】
多糖類をタンパク質に結合させる方法は、当技術分野ではよく知られており、WO92/22331及びWO−A−0187922に詳しく記載されている。本発明において好ましい方法を、以下にさらに詳しく説明する。方法については、本出願の図1及び2においても説明されている。
【0043】
多糖は、その還元及び非還元末端ユニットを介してインスリンに結合することができる。これは、1つの多糖鎖が2つのインスリンタンパク質に結合することができる、すなわちその還元及び非還元両末端において誘導体化することができることを意味する。
【0044】
多糖は、インスリンペプチドに直接結合、すなわち図1及び2に示すように結合していてもよく、又はリンカーを介して結合していてもよい。好適なリンカーは、N−マレイミド、ビニルスルホン、N−ヨードアセトアミド、オルトピリジル又はN−ヒドロキシスクシンイミド含有試薬に由来する。このリンカーもまた、生物学的安定性又は生物分解性を有していてよく、例えばポリペプチド又は合成オリゴマーを含んでいてよい。リンカーは、WO2005/016973に詳しく記載されているように、二官能部分から得ることができる。好適な二官能試薬は、例えばBis−NHSである。この試薬は一般式Z−R−Z(式中、Zはそれぞれ官能基であって同じ又は異なっていてもよく、Rは二官能有機基である)で表すことができる。好ましくは、Rはアルカンジイル、アリーレン、アルカリーレン、ヘテロアリーレン及びアルキルヘテロアリーレンからなる群から選択され、これらのいずれもカルボニル、エステル、スルフィド、エーテル、アミド及び/又はアミン結合によって置換及び/又は介在されていてよい。C〜Cアルカンジイルは特に好ましい。最も好ましくは、Rは、好適な二官能試薬の適切な部分に一致している。
【0045】
好ましい多糖誘導体は一般式(I)で表される
【0046】
【化1】

【0047】
[式中、
mは、少なくとも1であり、
HNBは、インスリン又はインスリン様ペプチドのN末端であるB−NHに由来しており、
Lは結合又は連結基であり、又はポリペプチド若しくは合成オリゴマーを含み、
GlyOはアニオン性糖ユニットであり、
前記連結基は、存在する場合、一般式−Y−C(O)−R−C(O)−で表され、
YはNR又はNR−NRであり、Rは先に定義したような二官能有機基であり、RはH又はC1−6アルキルである]。
【0048】
本発明のこの態様において、インスリンは多糖の非還元末端に結合している。末端多糖ユニットはシアル酸ユニットである。多糖中の他の糖ユニットはGlyOで表され、それらは同じであっても異なっていてもよい。好適な糖ユニットとしては、ヘパリン、ヒアルロン酸又はコンドロイチン硫酸が挙げられる。
【0049】
インスリンが直接多糖に結合している場合、基Lは結合である。しかし、基Lは代替的に、N−マレイミド、ビニルスルホン、N−ヨードアセトアミド、オルトピリジル又はN−ヒドロキシスクシンイミド含有試薬に由来するものであってよい。この試薬は先に定義したような一般式Z−R−Zで表すことができる。本実施形態において、Lは典型的には基
【0050】
【化2】

【0051】
である。
【0052】
本発明の別の態様は、医薬組成物であって1種又は複数の薬学的に許容される賦形剤を含んでいる、先に定義したような組成物である。
【0053】
医薬組成物は、水性懸濁液の形態をしていてよい。この水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に好適な賦形剤と混合した状態で新規化合物を含有している。この医薬組成物は、滅菌注射型の水性又は均質懸濁液の形態をしていてよい。この懸濁液は、好適な分散又は湿潤剤及び懸濁化剤を使って、公知の技術に従って配合することができる。
【0054】
医薬組成物は、ヒト又は獣医学用として、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、局所又は気管内投与することができる。
【0055】
これら組成物はさらに製剤添加剤を含んでいてよい。製剤添加剤とは、Wangらの文献(1999年)に記載されているような、インスリンを内部又は外部のいずれかから安定させることができる賦形剤のことをいう。このような賦形剤は、安定化剤、可溶化剤又は金属イオンであってよい。製剤添加剤の好適な例には、1種又は複数のバッファー、安定化剤、界面活性剤、塩、ポリマー、金属イオン、糖、ポリオール又はアミノ酸が挙げられる。これらは単独で又は組み合わせて使うことができる。
【0056】
通常、安定化剤は、変性タンパク質の不安定化によって作用して、タンパク質アンフォールディングのギブズ自由エネルギーの増加をもたらす。このような安定化剤は、好ましくは糖又はポリオール、例えばスクロース、ソルビトール、トレハロース、グリセロール、マンニトール、ラクトース及びエチレングリコールである。安定化用バッファーはリン酸ナトリウムである。
【0057】
可溶化剤は、好ましくは界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤である。好適な例としては、Tween80、Tween20、Tween40、Pluoronic F68、Brij 35及びTriton X−100が挙げられる。
【0058】
金属イオンは、好ましくは二価の金属イオンである。好ましい金属イオンとしては、Zn2+、Ni2+、Co2+、Sr2+、Cu2+、Ca2+、Mg2+及びFe2+が挙げられる。
【0059】
製剤添加剤は、PSA、PEG又はヒドロキシ−β−シクロデキストリンから選択され
るポリマーであってもよい。
【0060】
m−クレゾールなどの保存剤も使うことができる。
【0061】
製剤添加剤として使うのに好適なアミノ酸及びアミノ酸誘導体としては、ヒスチジン、グリシン、その他類似のアミノ酸及びアスパラギン酸ナトリウムが挙げられる。
【0062】
本発明のまた別の態様は、化合物であって治療に使用する先に記載した化合物である。
【0063】
本発明のまた別の態様によれば、インスリン又はインスリン様タンパク質の多糖誘導体を製造する方法であって、2〜125個の糖ユニットを含むアニオン性多糖が、実質的にインスリン又はインスリン様タンパク質のN末端アミンにおいてのみ化学的に反応する方法が提供される。
【0064】
語句「実質的にN末端アミンにおいてのみ化学的に反応する」とは、集団の誘導体において、タンパク質の少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%がN末端アミンにおいてのみ誘導体化されていることを意味する。好ましくは、これは、インスリンB鎖のN末端アミンにおいてである。
【0065】
この方法によって得ることができる多糖誘導体及び以下に詳述するような好ましい実施形態のいずれもまた、本発明の一部を形成する。
【0066】
本発明者らは、多糖をタンパク質に複合化する新規方法を開発した。それによって、タンパク質のN末端の高い反応性を利用することができ、また、すでに確立されている方法(図1及び2)、すなわち過ヨウ素酸塩で酸化された天然型コロミン酸でタンパク質を還元的にアミノ化する方法を用いた場合に得られる生成物の複雑さが回避される。
【0067】
多糖はまた、修飾された形態のインスリンと反応することもできる。例えば、インスリン上の1つ又は複数の基が、例えば還元又は酸化によって化学的に変換されていてもよい。例えば、反応性のカルボニルを、酸化的条件を用いてインスリンの末端アミノ基の位置に生じさせることもできる。
【0068】
本発明の方法で用いられる好適な多糖は、新規組成物に関して先に説明して通りである。
【0069】
本発明の化合物は、従来技術に記載されている好適な方法のいずれによっても製造することができる。例えば、代表的な方法は、本発明者らの以前の特許出願WO92/22331に記載されている。
【0070】
通常、アニオン性の多糖は、インスリンの誘導体化前に活性化されている。例えば、反応性のアルデヒド基を有しており、誘導体化反応は還元的条件下で行うことができる。反応性のアルデヒド基は、多糖のヒドロキシル基を制御酸化することによって生成することができる。最も好ましくは、この反応性アルデヒドは予備工程で生成される。この予備工程においては、多糖を制御された酸化条件下で、例えば、水性溶液中過ヨウ素酸ナトリウムを使って反応させる。この工程を行うことが可能な酵素を使うこともできるが、好ましくは、酸化は化学的酸化である。反応性のアルデヒド基は、多糖の非還元末端又は還元末端にあってもよい。インスリン、通常そのN末端は、次いで反応性アルデヒド基と反応して付加物、すなわち、還元されるとインスリンのN末端誘導体を生じるような付加物を生成することができる。
【0071】
多糖の活性化は、多糖主鎖の中間部鎖の切断が実質的にないような、すなわち分子量の減少が実質的にないような条件下で行うことが好ましい。酸化剤は好適には過ルテニウム酸塩であるか、又は好ましくは過ヨウ素酸塩である。酸化は、過ヨウ素酸塩を用いて、1mMから1Mの範囲の濃度、3から10の範囲のpH、0から60℃の範囲の温度で、1分間から48時間の範囲の時間行うことができる。
【0072】
誘導体化反応に好適な還元条件は、水素と触媒、又は好ましくはホウ水素化物(borohydride)等の水素化物を利用し得る。これらは固定化してもよい(例えば、Amberli
te(商標)−担持型ホウ水素化物)。好ましくは、水素化ホウ素ナトリウム等のアルカリ金属水素化物が、1μM〜0.1Mの範囲の濃度、4〜10の範囲のpH、0℃〜60℃の範囲の温度、及び1分〜72時間の範囲の期間で、還元剤として使用される。出発原料上のペンダントカルボキシル基が還元されない反応条件が選択される。他の好適な還元剤は、酸性条件下でのシアノホウ水素化物(cyanoborohydride)、例えば、ポリマー担持型シアノホウ水素化物又はアルカリ金属シアノホウ水素化物、L−アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、L−セレクトリド、トリアセトキシホウ水素化物等である。
【0073】
本発明者らの先の特許出願WO06/00540に記載したような、NHSなどのペンダント官能基を有するものを含めて、他の活性化された多糖誘導体を本発明で使用することができる。
【0074】
1つの実施形態では、反応性アルデヒドは多糖の還元末端にあり、非還元末端は、インスリンのペンダント基と反応しないような不動態化されている。
【0075】
コロミン酸の還元末端の反応性は、タンパク質標的に対しては弱いが、化学的に定義された複合体を製造する際には問題となる。
【0076】
多糖の還元末端に反応性アルデヒドを有する多糖を調製するのに好適な化学反応は、本発明者らの先の特許出願WO05/016974に記載されている。この方法は、予備的な選択的酸化工程を有し、これに続いて還元が行われ、次いでさらに酸化することで、還元末端にアルデヒドを有しかつ不動態化された非還元末端を有する化合物を生成する。
【0077】
WO2005/016973は、タンパク質の複合化に有用なポリシアル酸誘導体、特に遊離スルフヒドリル剤を有するポリシアル酸誘導体について記載している。ポリシアル酸化合物は、ヘテロ二官能性試薬と反応して、部位特異的複合化のためのペンダント官能基をスルフヒドリル基に導入する。本発明で使われるアニオン性多糖もまた、このようにしてヘテロ二官能性試薬で誘導体化することができる。
【0078】
多糖は、インスリンと反応する前に誘導体化することができる。例えば、多糖は、二官能性試薬と反応することができる。
【0079】
多糖は、予備的反応工程を経ることができ、その工程において、末端の糖上に第一級アミン基、第二級アミン基及びヒドラジンから選択される基が形成される。ここで、末端の糖は好ましくはシアル酸である。次いで、この多糖を二官能性試薬と反応させて反応中間体を形成する反応工程を行う。これについてはWO2006/016168にさらに詳しく記載されている。この中間体は次いで、インスリン又はインスリン様ペプチドと反応することができる。二官能性試薬は、先に記述したように一般式Z−R−Zで表すことができる。
【0080】
本発明者らは、ある種の反応条件がインスリンのN末端における選択的誘導体化を促進することを見出した。N末端における選択的反応を促進するために、誘導体化反応は酸性
pHの第1の水溶液中で実施すべきであり、得られた多糖誘導体は次いで第1の水溶液よりpHが高い第2の水溶液中で精製すべきである。酸性pHとは、7より低い値のpHを意味する。通例、第1の水溶液のpHは4.0〜6.5、好ましくは4.0〜6.0の範囲であり、第2の水溶液のpHは6.5〜9.0、好ましくは6.5〜8.5又は6.5〜8.0の範囲である。誘導体化反応を低pHで行うことによって、選択的誘導体化はタンパク質の中間鎖位置においてよりもN末端において促進される。
【0081】
さらに、本発明者らは、ある種の製剤添加剤を使用すると、選択的で安定な多糖インスリン誘導体の形成が促進されることを見出した。このような製剤添加剤は、1種又は複数のバッファー、安定化剤、界面活性剤、塩、ポリマー、金属イオン、糖、ポリオール又はアミノ酸から選択することができる。これらは、反応媒体に添加してもよいし、又は代替的に安定化剤として最終製品組成物に添加してもよい。
【0082】
本発明の1つの実施形態では、製剤添加剤はソルビトール、トレハロース又はスクロースである。別の実施形態では、製剤添加剤は非イオン性界面活性剤である。製剤添加剤はまた、PSA、PEG又はヒドロキシ−β−シクロデキストリンから選択されるポリマーであってもよい。別の実施形態では、製剤添加剤は2価の金属イオンである。好ましい2価の金属イオンとしては、Zn2+、Ni2+、Co2+、Sr2+又はFe2+が挙げられる。
【0083】
製剤添加剤はバッファーであってもよい。製剤添加剤がバッファーである場合、リン酸ナトリウム又は酢酸ナトリウムであることが好ましい。
【0084】
本発明の方法において、多糖誘導体の精製は当技術分野で知られている種々の方法を用いて行うことができる。好適な精製法の例としては、HIC(疎水的相互作用クロマトグラフィー)、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)及びIEC(イオン交換クロマトグラフィー)が挙げられる。
【0085】
分子量分布が広いポリシアル酸の集団は、多分散度がより低い画分、すなわち、平均分子量が異なる画分に分別することができる。分画は、本発明者らの先の特許出願WO2005/016974及びWO2005/03149に記載されているように、好適な塩基性のバッファーを溶離に用いたアニオン交換クロマトグラフィーで行われることが好ましい。この分画方法は、誘導体に対してと同様、多糖出発物質にとっても好適である。このように、この技術は、本発明の基本的なプロセス工程の前又は後に適用することができる。こうして得られるインスリンの多糖誘導体の多分散度は、1.1未満であることが好ましい。
【0086】
本発明によるインスリンの誘導体化によって、インスリンの半減期が延長され、安定性が向上し、免疫原性が低減し、かつ/又は溶解性したがって生物学的利用能及び薬物動態特性が制御されるようになる。この新規方法は、モノポリシアリル化インスリン複合体の創製にとって特に重要である。
【0087】
本発明を実施例1〜6によって、また以下の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】過ヨウ素酸ナトリウムを使ったコロミン酸(大腸菌からのα−2,8結合したポリシアル酸)の酸化を示す図である。
【図2】シアノホウ水素化ナトリウム(sodium cyanoborohydride)でシッフ塩基を選択的に還元して、タンパク質のアミノ基と安定な非可逆的共有結合を形成することを示す図である。
【図3】異なる温度での、22kDaCAO−rh−インスリン複合体のSDS−PAGEを示す図である。
【図4】温度が誘導体化の程度に及ぼす影響を示す図である。
【図5】異なるモル比での、27kDaCAO−rh−インスリン複合体のSDS−PAGEを示す図である。
【図6】モル比が誘導体化の程度に及ぼす影響を示す図である。
【図7】8及び11kDaCAO−rh−インスリン複合体のSDS−PAGEを示す図である。
【図8】8kDaCAO−rh−インスリン製剤及びインスリンのSE−HPLCを示す図である。
【図9】10、15及び21.5kDaCAO−インスリン製剤のin vivoでの有効性を示す図である。
【図10】複合体精製用のIEC又はHICカラムを備えた分取HPLCの実験装置を示す図である。
【図11】HiTrap Butyl FFカラムを使った疎水的相互作用クロマトグラフィーによるCAO−インスリン複合体の精製を示す図である。
【図12】例として13kDaCAOを使ったHICのピーク2のCAO−インスリン複合体の、HiTrap Q FFカラムを使ったアニオン交換クロマトグラフィーによる精製を示す図である。
【図13】13kDa及び27kDa CAO−インスリン複合体の等電点電気泳動(IEF)ゲルを示す図である。
【図14】マウスにおけるCAO−インスリン複合体のin vivoでの結果を示す図である。
【図15】エドマンアミノ酸分解法の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0089】
1.タンパク質とコロミン酸の定量
レゾルシノール試薬を用いたポリシアル酸(シアル酸として)の量的評価を、他の文献[Gregoriadisら、1993年、FernandesとGregoriadis、1996年、1997年]に記載されているようなレゾルシノール法[Svennerholm、1957年]により実施した。タンパク質は、BCA比色法又は280nmでのUV吸収法によって測定した。
【0090】
2.コロミン酸の活性化
新たに調製した0.02Mメタ過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)溶液(8倍モル過剰)を20℃でCAと混合し、この反応混合物を暗所で15分間磁気攪拌した。次いで、2倍体積のエチレングリコールをこの反応混合物に添加して過剰NaIOを消費し、この混合物を20℃でさらに30分間攪拌した。酸化コロミン酸(CAO)を、4℃で、0.01%炭酸アンモニウムバッファー(pH7.4)に対して長時間(24h)透析した(分画分子量3.5kDa透析チューブ)。限外濾過(分画分子量3.5kDa)を使用して透析チューブからのCAO溶液を濃縮した。所定の体積まで濃縮した後、濾液を凍結乾燥し、次に使用するまで−40℃で保管した。あるいは、CAOをエタノールを用いた沈殿(2回)によって反応混合物から回収した。
【0091】
3.CA及び誘導体の酸化状態の決定
2,4ジニトロフェニルヒドラジン(2,4−DNPH)を用いてコロミン酸の酸化度の質的評価を実施した。2,4ジニトロフェニルヒドラジンは、カルボニル化合物との相互作用で難溶性の2,4ジニトロフェニルヒドラゾンを生じる。非酸化物(CA)/酸化物(CAO)を2,4−DNPH試薬(1.0ml)に添加し、それぞれの溶液を振とう
した後、結晶状の沈殿が認められるまで37℃で静置した[Shrinerら、1980年]。CAの酸化の程度(量的)を、アルカリ溶液中でフェリシアン化物イオンが還元されるとフェロシアン化鉄(プルシアンブルー(Persian blue))になることに基づく方法[ParkとJohnson、1949年]を用いて測定し、次いで630nmで測定した。この例では、グルコースを標準として使用した。
【0092】
4.ゲル浸透クロマトグラフィー
コロミン酸の試料(CAとCAO)を、NaNO(0.2M)、CHCN(10%、5mg/ml)に溶解し、屈折率を検出する2×GMPWXLカラムでクロマトグラフィーによる分離を行った(GPCシステム:VE1121 GPC溶媒ポンプ、VE3580 RI検出器及びTrisec3ソフトウェア(Viscotek Europe Ltd)を使った照合)。各試料(5mg/ml)は0.45μmナイロン膜で濾過し、移動相として0.2M NaNOとCHCN(10%)を使って0.7cm/分で移動させた。
【0093】
5.コロミン酸の安定性
PEG化の化学反応のルールは、ポリシアリル化には適用することができない。なぜならば、これら分子では物理化学的特性が異なるからである。PSAは酸に不安定なポリマーであり、中性pH付近において数週間安定である(図3)。図3の結果は、pH6.0及び7.4においてCAOが8日間安定であること、pH5.0ではゆっくりと分解する(48時間後には最初の分子量の92%)こと、pH4.0でもゆっくりと分解する(48時間後には最初の分子量の70%)ことを示している。ポリシアル酸は高度に親水性であるが、PEGは両親媒性分子である。PEG化に使う条件を用いてポリシアリル化を実施すると、多くの場合タンパク質の凝集及び沈殿が見られる。
【0094】
6.製剤添加剤を用いたN末端タンパク質−CA複合体の調製
6.1 インスリン−CA複合体の調製(N末端法)
インスリン(5804Da)を白色固体として供給した。このインスリンを最小量の100mM HClで溶解し、次いで所定のpHに調整して氷の上に置いた。複合化のために添加すべきCAOの量は、下式に基づいて算出した。
CAOの重量={タンパク質の量(g)/(タンパク質の分子量)}×(CAOの分子量)×(CAOのモル過剰)
必要量のCAOを秤量した。CAOをpH6.0の10mM NaOAcに可溶化し、全CAOが溶解するまでこの混合物を穏やかにボルテックスで撹拌し、次いですべての凝集/沈殿物を除去すべく濾過して新しい容器に入れた。必要量のインスリンタンパク質溶液をこのCAO溶液に添加して7.5モル過剰(小規模)及び5モル過剰(大規模)のCAOを得、その反応混合物を4±1℃の穏やかな振とう機に置いておくことによって穏やかに混合した。100mg/ml NaCNBH溶液を添加して最終反応混合物において8mg/mlとなるようにし、穏やかに混合した後、最終反応混合物のpHを確認し、場合によって、4±1℃で0.5M NaOH/HClを用いてpHを6.0に調整した。最後に、pH6.0の10mMのNaOAcを用いて反応混合物の体積を調整し、反応混合物中のタンパク質濃度を1mg/mlとした。チューブを密封し、所望の温度(4±1℃)で24時間攪拌した。適当な方法(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンバッファー、pH7.4)によって反応を停止し、SDS−PAGE(18%トリスグリシンゲルを使用)、SE−HPLC(Superose 12カラム)用に試料を取り出し、反応混合物のpHを確認した。すべての沈殿物を取り除くために、SE−HPLC分析及び精製の前に、反応混合物を13000rpmで5分間遠心した。SE−HPLC用の好ましいバッファーは、0.1Mリン酸ナトリウム(pH6.9)であった。
【0095】
6.2 最適化
N末端誘導体化及び無作為誘導体化のために、インスリン上に一定範囲の分子量を有するCAO(10〜30kDa)を用いて還元的アミノ化を実施した。複合化反応のためのプロセス変数の範囲を調べた。CAO10〜20(小規模)及び5〜10(大規模)モル過剰。試薬=50〜100mM NaCNBH、反応用バッファー=10mM NaOAc pH5.5〜6.5、温度=4±1℃、時間=16〜24時間など。
【0096】
最適反応条件は以下の通りであることが分かった。CAO=7.5(小規模)及び5(大規模)モル過剰、試薬=50mM NaCNBH、反応用バッファー=10mM NaOAc pH5.5、温度=4±1℃、時間=24時間。
【0097】
6.3 インスリン−CA複合体(N末端法)の精製及び特性評価
前記混合物から遊離CAOを除去するために、HIC(HiTrap Butyl FF)を使用した。インスリン反応混合物を、濃縮(NHSO(例えば3M)、20mM NaHPO(pH7.4)を用いた最小限の体積で希釈してローディング溶液を調製し、ローディング溶液の(NHSO濃度を0.8Mとする。pHが7.4であるかどうか確認するか、0.5M HCl/NaOHで調整する。このローディング溶液は0.2μm膜フィルターで濾過する必要がある。
【0098】
この溶液を、予めHICバッファーB(20mMリン酸ナトリウム+0.8M(NH)2SO、pH7.4)で平衡化したHICカラム(流速=0.5ml/分)にローディングする。ローディング画分を回収して(各画分1.5カラム体積)標識し(L1〜Lx)、次いでカラムをHICバッファーBで洗浄し(少なくとも5カラム体積、流速=0.5ml/分、1.5カラム体積画分)、画分を回収して標識した(W1〜Wx)。HICバッファーA(10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4)(流速=5ml/分)で生成物を溶出して、画分を回収して(1カラム体積画分、6カラム体積)標識した(E1〜Ex)。連続した2つの画分がタンパク質を含んでいない場合(UV280nm)には、次の工程を実施した。精製の間、試料は氷の上で保持した。タンパク質濃度をUV(280nm)で分析した(インスリン1mg/mlの吸光係数は280nmで約1.043であった)。SDS−PAGE及びSE−HPLC用に試料を取った。
【0099】
タンパク質画分を含有するHIC画分を、IECバッファーA(20mMリン酸バッファー、pH7.4)で洗浄する。硫酸アンモニウムが存在していれば、Vivaspin20(MW:5Kd)で除去する。pHを確認し、必要であればpH7.4に調整する。予めIECバッファーAで平衡化しておいたIECカラムにロードする。下記のようにしてグラジエントシステムを適用した。
【0100】
ローディング:IECバッファーA中の注入試料を0.25ml/分でロード、3CVで洗浄
洗浄:グラジエントシステム:IECバッファーA:90%、AEXバッファーB(20mMリン酸バッファー+1M NaCl、pH7.4):10%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:68%、IECバッファーB:32%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:35%、IECバッファーB:65%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:0%、IECバッファーB:100%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
精製複合体を含有するIEC画分を合わせ、バッファーをPBSバッファーに変えて洗浄し塩を除去する。塩除去後のpHを7.4に調整する。次いで、溶液を4±1℃で濃縮し、タンパク質濃度をUV分光法(280nm)で分析した。複合体を滅菌濾過し、活性
測定用及びSDS−PAGEとSE−HPLCによる特性評価用に試料を取った。必要に応じて、アリコートをタンパク質定量及びCA定量用に取り除いた。残りは、再び使用するまで、またSE−HPLCによる物理的安定性を調べるまで4±1℃で保管した。
【0101】
溶液中のインスリンの安定性に及ぼす様々なプロセスの影響及び誘導体化の程度を調べた。
【0102】
6.4 インスリン−14kDaCA複合体(単分散)の調製
インスリン(5808Da)を白色固体として供給した。このインスリンを、最小限量の100mM HClを添加して溶解し、所与のpHに調整して、氷上に置いた。複合化のために添加する14kDa CAの量は、下式に基づいて算出した。
14kDaCAOの重量={タンパク質の量(g)/(タンパク質の分子量)}×(CAOの分子量)×(CAOのモル過剰)
14kDa CAOの必要量を秤量した。14kDa CAOを、10mMリン酸バッファー、pH6.0に可溶化し(最終反応体積の20%体積をここで使用した)、すべての14kDa CAOが溶解するまでこの混合物を穏やかにボルテックス撹拌し、次いですべての凝集/沈殿物を除去すべく濾過して新しい容器に入れた。必要量のインスリンタンパク質溶液をこの14kDa CAO溶液に添加して7.5モル過剰(小規模)及び5モル過剰(大規模)の14kDa CAOを得、その反応混合物を4±1℃の穏やかな振とう機に置いておくことによって穏やかに混合した。100mg/ml NaCNBH溶液を添加して最終反応混合物において63.5mM又は4mg/mlとなるようにし、穏やかに混合した後、最終反応混合物のpHを確認し、場合によって、4±1℃の0.5M NaOH/HClでpHを6.0に調整した。最後に、pH6.0の10mMのNaOAcを使って反応混合物の体積を調整し、反応混合物中のタンパク質濃度を1mg/mlとした。チューブを密封し、所望の温度(4±1℃)で24時間攪拌した。適当な方法によって反応を停止し、SDS−PAGE(18%トリスグリシンゲルを使用)、SE−HPLC(Superose 12カラム)用に試料を取り出し、反応混合物のpHを確認した。すべての沈殿物を取り除くために、SE−HPLC分析及び精製の前に、反応混合物を13000rpmで5分間遠心した。SE−HPLC用の好ましいバッファーは、0.1Mリン酸ナトリウム(pH6.9)であった。
【0103】
6.5 最適化
N末端誘導体化及び無作為誘導体化のために、インスリン上に一定範囲の分子量を有するCA(10〜30kDa)を用いて還元的アミノ化を実施した。複合化反応のためのプロセス変数の範囲を調べた。CAO 10〜20(小規模)及び5〜10(大規模)モル過剰。試薬=50〜100mM NaCNBH、反応用バッファー=10mMリン酸バッファー、pH5〜7.4、温度=4〜37±1℃、時間=16〜24時間など。
【0104】
最適反応条件は以下の通りであることが分かった。CAO=7.5(小規模)及び5(大規模)モル過剰、試薬=63.5mM NaCNBH(4mg/ml)、反応用バッファー=10mM NaOAc pH6.0、温度=4±1℃、時間=24時間。
【0105】
6.6 インスリン−CA複合体(N末端法)の精製及び特性評価
混合物から遊離CAOを除去するために、HICを使用した。インスリン反応混合物を、濃縮(NHSO(例えば3M)、20mM NaHPO(pH7.4)を使った最小限の体積で希釈してローディング溶液を調製し、ローディング溶液の(NHSO濃度を0.8Mとする。pHが7.4であるかどうか確認し、7.4でなければ0.5M HCl/NaOHで調整する。このローディング溶液は0.2μm膜フィルターで濾過する必要がある。
【0106】
この溶液を、予めHICバッファーB(20mMリン酸ナトリウム+0.8M(NH)2SO、pH7.4)で平衡化したHICカラム(流速=0.5ml/分)にロードする。ローディング画分を回収して(各画分1.5カラム体積)標識する(L1〜Lx)。次いでカラムをHICバッファーBで洗浄し(少なくとも5カラム体積、流速=0.5ml/分、1.5カラム体積画分を回収)、画分を回収して標識する(W1〜Wx)。HICバッファーA(10mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.4)(流速=5ml/分)で生成物を溶出して、画分を回収して(1カラム体積画分、6カラム体積)標識する(E1〜Ex)。連続した2つの画分がタンパク質を含んでいない(UV280nm)場合には、次の工程を実施した。精製の間、試料は氷の上で保持した。タンパク質濃度をUV(280nm)で分析した(1mg/mlのインスリンの吸光係数は280nmで約1.043であった)。SDS−PAGE及びSE−HPLC用に試料を取った。
【0107】
タンパク質画分を含有するHIC画分を、IECバッファーA(20mMリン酸バッファー、pH7.4)で洗浄する。硫酸アンモニウムが存在していれば、Vivaspin
20(MW:5Kd)で除去する。pHを確認し、必要であればpH7.4に調整する。予めIECバッファーAで平衡化しておいたIECカラムにロードする。下記のようにしてグラジエントシステムを適用した。
【0108】
ローディング:IECバッファーA中の注入試料を0.25ml/分でロード、3CVで洗浄
洗浄:グラジエントシステム:IECバッファーA:90%、AEXバッファーB(20mMリン酸バッファー+1M NaCl、pH7.4):10%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:68%、IECバッファーB:32%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:35%、IECバッファーB:65%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
IECバッファーA:0%、IECバッファーB:100%、5CVでグラジエント及び3CVで洗浄、流速:0.25ml/分
精製複合体を含有するIEC画分を併せ、バッファーをPBSバッファーに変えて洗浄し塩を除去する。塩除去後のpHを7.4に調整する。次いで、溶液を4±1℃で濃縮し、タンパク質濃度をUV分光法(280nm)で分析する。複合体を滅菌濾過し、活性測定用及びSDS−PAGEとSE−HPLCによる特性評価用に試料を取った。必要に応じて、アリコートをタンパク質定量及びCA定量用に取り除いた。残りは、再び使うまで、またSE−HPLCによる物理的安定性を調べるまで4±1℃で保管した。
【0109】
溶液中のインスリンの安定性に及ぼす様々なプロセスの影響及び誘導体化の程度を調べた。
【0110】
6.7 インスリン製剤のSE−HPLC
4℃で冷蔵されたJasco AS−2057 plusオートサンプラー、Jasco UV−975 UV/VIS検出器を装備したLiquid Chromatograph(JASCO)でHPLCを実施した。データは、IBM/PCでEZchrom
Eliteソフトウェアを使って記録した。SEC試料を、0.1Mリン酸ナトリウム、pH6.9の均一濃度の移動相を用いて、Superose 12カラムで分析した(図8)。図8は、インスリンに起因すると考えられる、RT=75.408におけるただ1つのピークを示す。
【0111】
6.8 SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動とウェスタンブロット
18%トリグリインゲル(triglyine gel)を用いてSDS−PAGEを行った。試料を
還元又は非還元バッファーのいずれかで希釈し、タンパク質5.0μgを各ウェルにロードした。ゲルをトリグリセリン緩衝系で泳動し、クーマシーブルーで染色した(図5及び7)。抗PSA抗体を使ってウェスタンブロットを行った。図4は、インスリン製剤(部位特異的、N−末端)のSDS−PAGEを示す。
【0112】
6.9 27及び13kDaCAO−インスリンの等電点電気泳動(IEF)ゲル
Novex(登録商標)IEFゲルを用いて、インスリンとCAO−インスリン複合体等電点の差を測定した。試料を溶解して0.5mg/ml濃度とした。5μlの試料を5μlのNovex IEF試料バッファー、pH3〜10で希釈した後、タンパク質試料をゲルにロードした。
【0113】
6.10 安定性の研究
滅菌インスリン複合体をPBSバッファー中、4℃で、6週間保管した。試料の未変性PAGEを毎週行った。
【0114】
6.11 インスリン製剤のin vivoでの有効性
インスリン製剤のin vivoでの有効性を、雌CD−1マウス、7〜8週齢で調べた。0.3 IUのタンパク質量(同一の活性)をマウスに皮内注射した。マウスは4匹ずつ7群に分け、インスリン製剤を、各群の各マウスに下記のように投与した。インスリン(0.3 IU/マウス)、Lantus(Aventis)インスリン−PSA複合体(14kDa)、PBS。各マウスから血液1滴を取り、血中グルコースをアキュチェックアクティブ(ACCU−CHEK Active)(Roche Diagnostics)で測定した。
【0115】
結果
CAの活性化及び酸化度の測定
N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)残基の線状α−2,8結合ホモポリマーであるコロミン酸(CA)を使用した。20mM過ヨウ素酸塩を用いて、コロミン酸の酸化曝露を室温で15分間実施した。過ヨウ素酸塩処理後の内部α−2,8結合Neu5Ac残基の完全性を、ゲル浸透クロマトグラフィーで分析し、酸化(CAO)物質に関して得られたクロマトグラフを、未酸化CAのクロマトグラフと比較した。酸化CA及び未酸化CAはほぼ一致した溶離プロファイルを呈していることが分かったが、連続する酸化工程がポリマー鎖の著しい開裂を引き起こしているという証拠はない。
【0116】
グルコースを標準として使い、アルカリ溶液中でフェリシアン化物イオンを還元してフェロシアン化物(プルシアンブルー)[ParkとJohnson、1949年]とすることによって、CAの酸化状態の定量を行った。コロミン酸が、化学量論(>100%)量の還元剤より多くの量の還元剤、すなわち還元末端ヘミケタールと導入アルデヒド(もう一方の末端)の還元力を併せた還元力を含む、112mol%の見かけのアルデヒド含量を有していることが分かった。
【0117】
ポリシアル化反応の最適化
温度、反応剤モル比、及び鎖長を変えながら、CAOとrh−インスリン1mgを使ってポリシアル化条件を最適化した。結果を図5〜12に示す。4℃は、CAOとインスリンの反応の間の安定性に関して最適な温度であるように思われる。しかし、これより高い温度では、複合化がより大きくなり、CAOのインスリンに対するモル比が7.5:1でより効果的になることができる。
【0118】
表1は、モル比がポリシアリル化に及ぼす影響を示す。
【0119】
【表1】

【0120】
PBSコントロールの影響下、図9で使用した複合体の中では、21.5kdのCAO−インスリンがマウスの血中グルコースの低下に最も有意な影響を及ぼした。
【0121】
表2は、異なる鎖長を有するCAO−インスリン複合体のin vivo有効性についてのt検定(統計解析、対応のある検定)を示す。
【0122】
【表2】

【0123】
アスタリスクは、Trisバッファーに対して群間の差が生じる確率を示す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001
【0124】
【表3】

【0125】
アステリスクは、PBSバッファーに対して群間の差が生じる確率を示す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001
15kDa CAO−インスリンのin vivo有効性に及ぼすpHの影響から、pH6.0の方がpH7.4よりもより有効であることが分かった。したがって、以後の実験はpH6.0で実施した。ペプチドマッピング及びエドマン分解からのデータによって、pH6.0のポリシアル化条件で得られた複合体が、インスリンB鎖においてN末端で特異的にブロックされることが確認された。
【0126】
インスリン複合体の調製、精製及び特性評価
単分散CAO−インスリンをうまく複合化することができ、高度に純粋な複合体をスケールアップHIC及びIECによって精製することができた。精製効率は、図10に明示するようなIEC及びHICを分取HPLC機器と組み合わせた装置によって向上した。
【0127】
低pH値(pH6.0)、4±1℃の温度で反応を行うことによって、N末端選択的な方法でインスリンのコロミン酸(CA)複合体を調製及び精製する手順については、先に詳しく述べている。この手順は、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下で複合化し、次いで疎水的相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて精製することで遊離CAを除去し(図11)、その後イオン交換クロマトグラフィー(IEC)によってインスリンを除去する(図12)というものである。インスリンB鎖のN末端(PheB1)における選択的誘導体化に有利なように、また、反応時のインスリンの凝集を最小限に抑えるために、低pHとした。最終反応バッファーの組成は、pH6.0の10mM NaOAc中、1mg/mlインスリン、8mg/ml NaCNBH、及び5モル過剰CAOであった。
【0128】
図13の、13Kda及び27Kda CAO−インスリン複合体の等電点電気泳動(IEF)ゲルは、ポリシアリル化インスリンが一定の等電点(pI)を有していないことを示している。
【0129】
インスリン−CAO複合体の形成及び安定性は、SE−HPLC(インスリンと比較したインスリン−PSAの保持時間の変化、両部分の共溶出)、イオン交換クロマトグラフィー(複合体をIECカラムに結合する)及びポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE、高分子量種を含むバンドをシフトさせる)により確認された。
【0130】
in vivo効率(CD−1マウス、平均25g)で使用したインスリン複合体は、インスリンに比べて優れたin vivoでの有効性(延長)及び平滑(ピークが見られないプロファイル)を示した。図14で明らかなように、複合体の血中グルコース低減能の延長は、製剤で用いたポリマーの鎖長に比例していた。
【0131】
27kDa CAO−インスリン複合体の安定性調査では、未変性PAGEによる観察に基づき、4℃で40日間の保管の間に分解がなかったことが示された。
【0132】
スケールアップ調製及び精製による14kDa−インスリン複合体の特性評価
700mgの出発反応物としてのインスリンの例では、スケールアップカラム精製を使って230mgの14kDa CAO−インスリン(タンパク質重量)を得た。
【0133】
クロマトグラムを比較すると、図15のアミノ酸量の変化によって、N末端のアミノ酸が明らかになる。pH7.4のPBS中の1mg/mL水性試料を水で100倍に希釈した。この希釈溶液2μLを分析用に取った。結論として、配列G−I−V−Eは、インスリンA鎖であると同定される。アミノ酸Phe/Val/Asn/Glnが欠けていることによって、インスリンB鎖がN末端でブロックされていることが示された。
【0134】
in vivo活性検定において、PSA複合体が活性であることが判明した。in vivo有効性の調査によれば、PSA−インスリン複合体がインスリンよりはるかに優れていることは明らかである。
【0135】
参考文献
【0136】
【表4】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の多糖誘導体の集団を含む組成物であって、前記タンパク質はインスリン又はインスリン様タンパク質であり、前記多糖はポリシアル酸であり、20個から125個の間のシアル酸ユニットを含み、前記集団のうち少なくとも85%がB鎖のN末端のみで誘導体化されている組成物。
【請求項2】
前記ポリシアル酸がシアル酸ユニットのみからなる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記インスリン又はインスリン様タンパク質が、前記多糖により、前記多糖の還元末端ユニットにおいて誘導体化されている請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記多糖誘導体が一般式(I)で表される、請求項1又は2に記載の組成物
【化1】

[式中、
HNBは、インスリン又はインスリン様タンパク質のB鎖のN末端であるB−NHに由来し、
Lは、結合又は連結基であり、又はポリペプチドを
含み、
GlyOは、シアル酸ユニットであり、
前記連結基は、存在する場合、一般式−Y−C(O)−R−C(O)−で表され、YはNR又はNR−NRであり、Rはアルカンジイル、アリーレン、アルカリーレン、ヘテロアリーレン及びアルキルヘテロアリーレンからなる群から選択される二官能有機基であり、これらはいずれもカルボニル、エステル、スルフィド、エーテル、アミド及び/又はアミン結合によって置換及び/又は介在されていてよく、
はH又はC1−6アルキルである]。
【請求項5】
Lが結合又は基
【化2】

である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記多糖が20〜60個のシアル酸ユニットを含む、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記アニオン性多糖の多分散度が1.3未満である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
医薬組成物であって、1種又は複数の薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
治療に使用するための、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記集団のうち、少なくとも90%がB鎖のN末端のみで誘導体化されている請求項1〜9の何れかに記載の組成物。
【請求項11】
前記集団のうち、少なくとも95%がB鎖のN末端のみで誘導体化されている請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
インスリン又はインスリン様タンパク質の多糖誘導体を製造する方法であって、20〜125個のシアル酸ユニットを含む酸化ポリシアル酸であるアニオン性多糖を、インスリン又はインスリン様タンパク質のB鎖のN末端アミンと、還元的条件下のpH範囲4.0〜6.0の酸性pHの第1の水溶液中で化学的に反応させ、これによって得られる多糖誘導体が、pH範囲6.5〜8.5の第2の水性溶液中で精製され、
産生した多糖誘導体のうち、少なくとも85%が、B鎖のN末端のみで誘導体化される方法。
【請求項13】
前記アニオン性多糖がインスリン又はインスリン様タンパク質と反応する反応性アルデヒド基を有する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記反応性アルデヒド基が前記多糖の非還元末端にある、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応性アルデヒドが前記多糖の還元末端にあり、前記非還元末端は、インスリン又はインスリン様タンパク質と反応しないように不動態化されている、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記アニオン性多糖又は反応中間体が、インスリン又はインスリン様タンパク質の末端アミン基と反応する、請求項12から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
1種又は複数のバッファーから選択される製剤添加剤の存在下で実施される、請求項12から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記の産生した誘導体のうち、少なくとも90%がB鎖のN末端のみで誘導体化される請求項12〜17の何れかに記載の方法。
【請求項19】
前記の産生した誘導体のうち、少なくとも95%がB鎖のN末端のみで誘導体化される請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−49675(P2013−49675A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−205475(P2012−205475)
【出願日】平成24年9月19日(2012.9.19)
【分割の表示】特願2009−521337(P2009−521337)の分割
【原出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(507042545)リポクセン テクノロジーズ リミテッド (15)
【Fターム(参考)】