説明

N末端化学修飾タンパク質組成物および方法

【課題】タンパク質のN末端に水溶性ポリマーを選択的に結合させ、均一なタンパク質を含む組成物を製造する。
【解決手段】ホウ水素化ナトリウム、シアノホウ水素化ナトリウムなどの還元剤を使用する還元的アルキル反応を用いて、タンパク質のN末端のα−アミノ酸をデキストラン、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリエチレングリコール類のような水溶性ポリマーで選択的に修飾し、モノポリマー/タンパク質結合体の実質的に均質で、安定なタンパク質を含む組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質修飾の広範な技術分野に関し、さらに詳しくは、タンパク質またはその類似体に対する水溶性ポリマーの結合に関する(「タンパク質」という用語は本明細書で使用する場合、特に断わらない限り「ポリペプチド」またはペプチドと同じ意味である)。また本発明は、タンパク質またはその類似体のN末端を修飾する新規な方法およびその結果得られる組成物に関する。別の態様で、本発明は新規なN末端化学修飾G−CSF組成物および関連する製造法に関する。また本発明は化学的に修飾された共働性インターフェロン(consensus interferon)に関する。
【背景技術】
【0002】
治療に用いるタンパク質は大部分が、組換えDNA法が広く進歩した結果、適切な形態で充分な量を現在入手することができる。組換えタンパク質が入手可能になったので、タンパク質の製造と化学修飾が進歩している。このような修飾を行う目的の一つはタンパク質の保護である。
【0003】
化学結合によって、タンパク質分解酵素がタンパク質の骨格自体と物理的に接触するのを有効に遮断することができその結果分解が防止される。追加の利点としては、特定の条件下で、治療用タンパク質の安定性と循環時間を増大しかつ免疫原性を減少させることが挙げられる。タンパク質の修飾と融合タンパク質を説明する総説の文献はFrancis、Focus on Growth Factors、3巻、4〜10頁、1992年5月(英国、ロンドンN20、オールド、フライアン・バーネット・レーン、マウンビュー・コート所在、Mediscript社発行)である。
【0004】
ポリエチレングリコール(「PEG」)は、治療用タンパク質産物を製造するのに用いられている化学薬剤部分の一つである[「PEG化する(pegylate)」という動詞は少なくとも一つのPEG分子を結合させることを意味する]。例えば、AdagenすなわちアデノシンデアミナーゼのPEG化製剤は重篤な合併型免疫不全症を治療することが証明されている;PEG化スーパーオキシドジスムターゼは頭部外傷を治療するための臨床試験が行われている;PEG化α−インターフェロンは肝炎を治療するための第1相臨床試験で試験されている;PEG化グルコセレブロシダーゼとPEGヘモグロビンは前臨床試験(preclinical testing)中であることが報告されている。ポリエチレングリコールを結合すると、タンパク質分解を起こさないよう防御することが報告されており(Sadaら、J.Fermentation Bioengineering、71巻、137〜139頁、1991年)そして特定のポリエチレングリコール部分を結合する方法も利用できる(1979年12月18日付け発行のDavisらの米国特許第4,179,337号「Non−Immunogenic Polypeptides」;および1977年1月11日付け発行のRoyerの米国特許第4,002,531号「Modifying enzymeswith Polyethylene Glycol andProductProduced Thereby」参照。総説については、J.S.HolcerbergおよびJ.Roberts編集「Enzymes as Drugs」367〜383頁、1981年のAbuchowskiらの報告参照)。
【0005】
以下のような他の水溶性ポリマーも使用されている。すなわち、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ−1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸類(ホモポリマーまたはランダムコポリマー)などである。
【0006】
ポリエチレングリコールの場合、その分子をタンパク質に結合するのに各種の方法が用いられている。一般にポリエチレングリコール分子は、タンパク質に見られる反応性基を通じてタンパク質に結合される。例えばリシン残基またはN末端のアミノ基などのアミノ基は上記の結合を行うのに便利である。例えばRoyer(上記米国特許第4,002,531号)は、ポリエチレングリコール分子を酵素に結合するのに還元的アルキル化反応を用いたと述べている。1993年4月28日付けで発行されたWrightのヨーロッパ特許第0539167 号「Peg Imidates and Protein Derivates Thereof」には、遊離アミノ基を有するペプチドと有機化合物は、PEGの直接的誘導体(immediate derivative)または類縁の水溶性有機ポリマーで修飾されることが記載されている。1990年2月27日付けで発行されたShawの米国特許第4,904,584号には、ポリエチレングリコール分子を反応性アミン基を通じて結合するためタンパク質中のリシン残基の数を改変することが記載されている。
【0007】
化学修飾された治療用タンパク質の具体例は顆粒球コロニー刺激因子すなわち「G−CSF」である。G−CSFは好中性顆粒球の迅速な増殖と血流中への放出を誘発するので、感染と戦う治療効果がある。
【0008】
1990年12月12日付けで公表されたヨーロッパ特許第0401384号「Chemically ModifiedGranulocyte Colony Stimulating Factor」には、ポリエチレングリコール分子が結合されるG−CSFを製造する場合の材料と方法が記載されている。
【0009】
修飾G−CSFとその類似体も、1992年3月4日付けで公表されたヨーロッパ特許第0473268号「Continuous Release Pharmaceutical Compositions Comprising a Polypeptide Covalently Conjugated To A Water Soluble Polymer」に報告されており、その明細書には、ポリエチレングリコールのような水溶性粒子ポリマーに共有結合させた各種G−CSFと誘導体の使用が述べられている。
【0010】
ヒト顆粒球コロニー刺激因子活性を有する修飾ポリペプチドは1989年10月4日付けで公表されたヨーロッパ特許第0335423号に報告されている。
【0011】
他の例はPEG化IL−6であり、ヨーロッパ特許第0442724号「Modified hIL−6」(同時係属中のアメリカ特許出願第07/632,070号参照)はIL−6に付加されたポリエチレングリコール分子を開示している。
【0012】
1985年9月11日付けで公表されたヨーロッパ特許第0154316号は、リンホカインと、ポリエチレングリコールのアルデヒドとの反応を報告している。
【0013】
ポリマーをタンパク質に結合する多くの方法は結合基として作用する部分を用いて行われる。しかしこのような部分は抗原性である。結合基を用いないトレシルクロリド法(Tresyl chloride method)を利用できるが、トレシルクロリドを使用すると有毒な副生物を生成することがあるので、この方法は治療用製品を製造するのに利用することは難しい(Ahern.、T.およびManning、M.C.編集「Stability of protein pharmaceuticals:in vivo pathways of degradation and strategies for protein stabilization」Plenum社、米国ニューヨーク1991年のFrancisらの報告およびFisherら編集「Separations Using Aqueous Phase Systems、Applications In Cell Biology and Biotechnology」PlenumPress社、米国ニューヨーク州ニューヨーク、1989年の211〜213頁のDelgadoらの論文「Coupling of PEG to Protein By Activation With Tresyl Chloride、Applications In Immunoaffinity Cell Preparation」参照)。
【0014】
Chamowら、Bioconjugate Chem.、5巻、133〜140頁、1994年は、還元的アルキル化反応で行う、CD4免疫アドヘジン(immunoadhesin)のモノメトキシポリ(エチレングリコール)アルデヒドによる修飾を報告している。その著者らは、CD4−Igの50%が、PEG化度を制御できる条件下でMePEGで修飾されたと報告している(上記文献の137頁)。またこれらの著者は、修飾されたCD4−Igの(タンパク質gp120に対する)生体外での結合能はMePEG化度に相関する比率で低下すると報告している(上記文献参照)。およびタンパク質基質(インスリン)のC末端カルボキシル基に対するリンカー基カルボヒドラジドの選択的結合を報告するRoseら、Bioconjugate Chemistry、2巻、154〜159頁1991年も参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,179,337号
【特許文献2】米国特許第4,002,531号
【特許文献3】欧州特許第0539167号
【特許文献4】欧州特許第0401384号
【特許文献5】欧州特許第0473268号
【特許文献6】欧州特許第0335423号
【特許文献7】欧州特許第0442724号
【特許文献8】欧州特許第0154316号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Francis、Focus on Growth Factors、3巻、4〜10頁、1992年5月
【非特許文献2】Sadaら、J.Fermentation Bioengineering、71巻、137〜139頁、1991年
【非特許文献3】J.S.HolcerbergおよびJ.Roberts編集「Enzymes as Drugs」367〜383頁、1981年のAbuchowskiらの報告
【非特許文献4】Ahern.、T.およびManning、M.C.編集「Stability of protein pharmaceuticals:in vivo pathways of degradation and strategies for protein stabilization」Plenum社、米国ニューヨーク1991年のFrancisらの報告
【非特許文献5】Fisherら編集「Separations Using Aqueous Phase Systems、Applications In Cell Biology and Biotechnology」PlenumPress社、米国ニューヨーク州ニューヨーク、1989年の211〜213頁
【非特許文献6】Chamowら、Bioconjugate Chem.、5巻、133〜140頁、1994年
【非特許文献7】Roseら、Bioconjugate Chemistry、2巻、154〜159頁1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、特定のタンパク質に関する技術の現在の一般的な技術水準では、G−CSFのようなタンパク質のN末端に水溶性ポリマーを選択的に結合させることはできない。むしろ、現在の方法では、例えばリシン側基のような反応性基(タンパク質内のどこに位置しているかにかかわらず)またはN末端に非選択的に結合する。そのため不均一な混合物が生成する。例えば、PEG化G−CSF分子の場合、いくつかの分子は、他の分子と異なる数のポリエチレングリコール部分を有している。例えば、5個のリシン残基を有するタンパク質分子が上記の方法で反応させると、ある分子は6個のポリエチレングリコール部分を有し、またある分子は5個、またある分子は4個、またある分子は3個、またある分子は2個、またある分子は1個のPEG部分を有し、またある分子はPEG部分をもっていない。そして、いくつかのポリエチレングリコール部分を有する分子において、そのポリエチレングリコール部分は、異なる分子と同じ位置に結合していないこともある。
【0018】
このことは、治療用のPEG化タンパク質製品を開発する場合不利である。このような開発を行う場合、生物活性を予知できることが重要である。例えば、スーパーオキシドジスムターゼとポリエチレングリコールの非選択的結合の場合、得られる修飾酵素のいくつかの画分は全く不活性であったと報告されている(P.McGoffら、Chem.Pharm.Bull.、36巻、3079〜3091頁、1988年)。治療用のタンパク質がロット毎に組成が異なる場合、上記の予知を得ることができない。ポリエチレングリコール部分のいくつかは、ある位置では他の位置の場合と同様に安定に結合できないので、このようなPEG部分はタンパク質から解離することになる。勿論、このようなPEG部分がランダムに結合し、したがってランダムに解離する場合、治療用タンパク質の薬物動態を正確に予知することはできない。消費者からみれば、その循環時間はロット毎に変動するので投与量が不正確になる。メーカーから見ると、治療用タンパク質を販売するための法律上の承認を得るのに複雑さが加わる。その上に、上記の方法は、(タンパク質とポリマーの間に)結合部分なしでは選択的N末端化学修飾を行えない。結合部分を用いると、抗原性があるかもしれないので不利である。
【0019】
したがって、選択的にN末端が化学修飾されたタンパク質とその類似体が得られる方法が要望されている。そのタンパク質としてはG−CSFや共働性インターフェロンなどがあるがこれら2種の化学修飾されたタンパク質を以下に例示する。本発明はこの要望をいくつかの態様で検討するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、N末端化学修飾タンパク質の実質的に均質な製剤とその製造方法に関する。予想外のことであったが、G−CSFのN末端を化学修飾すると、この分子の別の位置に一つの化学修飾がなされている他のG−CSF種にはみられない、安定性の利点を示した。またも予想外であったが、N末端を化学修飾されたG−CSFを製造する本発明の方法で、還元的アルキル化反応を用いて、N末端を選択的に修飾する条件を提供することができ、かつこの方法はG−CSFのみならず他のタンパク質(またはその類似体)に広く適用できることが見出されたのである。また驚くべきことであるが、還元的アルキル化反応を用いると、最終生成物(水溶性ポリマーとのアミン結合を有するタンパク質)が、アミド結合を有する同じポリマー/タンパク質結合体よりはるかに安定であることが見出された。このように修飾された他の一つのタンパク質(下記実施例で説明する)は共働性インターフェロンである。したがって、一層詳細に以下に説明するように、本発明には、特定のタンパク質の特定の修飾のみならずタンパク質(またはその類似体)の化学修飾に関するいくつかの態様がある。
【0021】
一つの態様で、本発明は、N末端を化学修飾されたG−CSF(またはその類似体)の実質的に均質な製剤および関連する方法に関する。下記の一実施例は、N末端モノPEG化G−CSFが他のタイプのモノPEG化G−CSFより安定であることを例証している。さらに、G−CSF分子のN末端はポリエチレングリコールとの反応で利用し易いので、高比率のN末端がPEG化されるためこの分子種には加工面での利点がある。
【0022】
また本発明は、タンパク質またはその類似体のN末端残基のα−アミノ基を選択的に活性化して、そのN末端に水溶性ポリマー部分を選択的に結合させる一つのタイプの還元的アルキル化反応に関する。この方法によって、(ポリエチレングリコールが使用される場合)タンパク質部分に直接結合されたポリエチレングリコール部分を有するPEG化タンパク質分子の製剤のみならず、ポリマー/タンパク質結合分子の実質的に均質な製剤が提供される。G−CSFと共働性インターフェロンの場合についてこの方法を以下に説明するが、これらは本発明の追加の態様を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】PEG化G−CSFのイオン交換クロマトグラフィーから得たピークのクロマトグラムを図示したものである。
【図1B】モノPEG化G−CSFの各種の分子種のSDS−PAGEである。
【図2】SEC−HPLCプロフィールであり、(レーンA):組換えヒトメチオニルG−CSFの標準品;(レーンB):SCM−PEG−GCSF反応混合物;(レーンC):N末端PEG化G−CSF;(レーンD):リシン35モノPEG化G−CSF;(レーンE):リシン41モノPEG化G−CSFである。
【図3A】HPLCエンドプロテイナーゼSV8ペプチドマッチングトレーシングであり、N末端PEG化G−CSFを示す。
【図3B】HPLCエンドプロテイナーゼSV8ペプチドマッチングトレーシングであり、リシン35モノPEG化G−CSFを示す。
【図3C】HPLCエンドプロテイナーゼSV8ペプチドマッチングトレーシングであり、リシン41モノPEG化G−CSFを示す。
【図4】モノPEG化G−CSF種のin vtro生物活性を非PEG化標準品のそれと比較して示す棒グラフである。
【図5A】モノPEG化G−CSF誘導体のin vivo生物活性のアッセイ結果を示すグラフであり、N末端PEG化G−CSF、リシン35モノPEG化G−CSFまたはリシン41モノPEG化G−CSFを一回皮下注射した後のハムスターの平均白血球数を示す。
【図5B】モノPEG化G−CSF誘導体のin vivo生物活性のアッセイ結果を示すグラフであり、上記の各種モノPEG化G−CSF誘導体を一回皮下注射した後の、正味の平均白血球数の曲線下面積を示す。
【図6A】N末端PEG化G−CSFまたはリシン35モノPEG化G−CSFの安定性の試験結果のSEC−HPLCプロフィールである。N末端モノPEG化G−CSFのpH6.0で4℃にて行った安定性試験のプロフィールを示す。
【図6B】N末端PEG化G−CSFまたはリシン35モノPEG化G−CSFの安定性の試験結果のSEC−HPLCプロフィールである。リシン35モノPEG化G−CSFのpH6.0で4℃にて行った安定性試験のプロフィールを示す。
【図6C】N末端PEG化G−CSFまたはリシン35モノPEG化G−CSFの安定性の試験結果のSEC−HPLCプロフィールである。リシン35モノPEG化G−CSFのpH6.0で4℃にて行った時間を延長した安定性試験の結果を示すプロフィールである。時間(「T」)は日数を示す。
【図7】rh−G−CSFとメトキシポリエチレングリコールアルデヒド(MW6kDa)との還元的アルキル化反応の過程での反応混合物のサイズ排除HPLCによる分析結果を示す。
【図8】MPEGのN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(MWはやはり6kDa)を用いた反応混合物のサイズ排除HPLCによる分析結果を示す。
【図9】分子量が異なる(6kDa、12kDaおよび20kDa)MPEGアルデヒド類でrh−G−CSFの還元的アルキル化を行うことによって製造したモノN末端MPEG−GCSF結合体に対する、一回の皮下投与後の全白血球応答を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明はN末端化学修飾蛋白の実質的に均質な調製物およびその製造方法に関する。
【0025】
1つの態様において、本発明はN末端化学修飾G−CSF組成物およびその製造方法に関する。
【0026】
本発明の方法(N末端修飾G−CSFの製造方法および本発明の還元的アルキル化方法の両方)は、モノポリマー/蛋白質結合体の実質的に均質な混合物を与えるものである。本明細書で使用する「実質的に均質な」という表現は、観察されるポリマー/蛋白質結合体分子のみが1つのポリマー部分を有するものであることを指す。調製物は未反応の(即ちポリマー部分を欠く)蛋白を含有してよい。ペプチド地図作成およびN末端配列決定により確認されるとおり、後述する1つの実施例は少なくとも90%のモノポリマー/蛋白質結合体および最大10%の未反応蛋白質であるような調製物を与えるものである。好ましくは、N末端モノPEG化物質は、調製物の少なくとも95%であり(後述する実施例に示す)、そして最も好ましくは、N末端モノPEG化物質は調製物の99%以上である。モノポリマー/蛋白質結合体は生物学的活性を有する。ここに提供される本発明の「実質的に均質な」N末端PEG化G−CSF調製物は、例えばロット毎の薬物動態を推測することが臨床適用上容易であること等のような、均質な調製物の利点を示すのに十分均質であるものである。
【0027】
ポリマー/蛋白質結合体分子の混合物を調製することを選択してもよく、本発明により提供される利点は、混合物中に含有されるモノポリマー/蛋白質結合体の比率を選択してよい点である。即ち、所望により、種々の数の連結ポリマー部分(即ち、ジ−、トリ−、テトラ−等)を有する種々の蛋白の混合物を調製し、本発明の方法で調製したモノポリマー/蛋白質結合体物質と組合わせ、そして、所定の比率のモノポリマー/蛋白質結合体を得てよい。
【0028】
前記した通り造血疾患の治療に用いる治療用蛋白であるG−CSFを用いる実施例を以下に記載する。一般的に、本発明の実施に用いるG−CSFは哺乳類動物から単離された形態であるか、または、化学合成方法の生成物であるか、または、ゲノムまたはcDNAクローニングまたはDNA合成により得られる外来性DNA配列の原核生物または真核生物の宿主発現による産物であってよい。適当な原核生物宿主には、種々の細菌(例えばE.coli)が包含され;適当な真核生物宿主には酵母(例えばS.cerevisiae)および哺乳類細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞、サル細胞)が包含される。使用する宿主に応じて、G−CSF発現産物は、哺乳類またはその他の真核生物炭水化物によりグルコシル化されていてもよいし、または非グリコシル化形態であってもよい。G−CSF発現産物はまた(−1位に)初期メチオニンアミノ酸残基を有してよい。とりわけE.coli由来の組み換えG−CSFが特に商業的な現実性が最も大きいという理由から好ましいものの、本発明は上記した形態のG−CSFのいずれかおよび全ての使用を意図したものである。
【0029】
特定のG−CSF類似体は、生物学的機能性を有することが報告されており、これらはまた、例えば、1つ以上のポリエチレングリコール分子を付加することにより、化学修飾してよい。G−CSF類似体は米国特許第4,810,643号に報告されている。生物学的活性を有することが報告されているその他のG−CSF類似体の具体例は、開示された各類似体の活性に関する記載はないが、例えばAU−A−76380/91号、EP 0 459 630号、EP 0 272 703号、EP 0 473 268号およびEP 0 335 423号に記載されている。またAU−A−10948/92、PCT US94/00913号およびEP 0 243 153号も参照されたい。
【0030】
一般的に、本発明で有用なG−CSFおよびその類似体は、N末端αアミノ基を選択的に化学修飾するための本明細書に記載した化学修飾方法を実施し、得られた生成物が所望の生物学的特性を有するかどうかを、本明細書に記載した生物活性検定法などにより調べることにより確認してよい。当然ながら、非ヒト哺乳類を治療する際に所望により、組み換えネズミ、ウシ、イヌG−CSF等のような組み換え非ヒトG−CSFを用いてよい。例えばPCT WO 9105798号およびPCT WO 8910932号を参照されたい。
【0031】
即ち、本発明の別の態様は、N末端化学修飾G−CSF類似体組成物を包含する。前記したとおり、G−CSF類似体には、アミノ酸の付加、欠失および/または置換を有するようなものが包含される(後記する実施例1のG−CSFアミノ酸配列と比較される)。N末端PEG化された場合に好中球の生産を選択的に刺激するような機能を有すると予測されるようなG−CSF類似体は、G−CSF受容体への結合のために必要ではないN末端を有するものである。Hill等、PNAS− USA 90:5167−5171(1993)およびPCTUS 94/00913参照。
【0032】
使用するポリマー分子は水溶性ポリマーから選択してよい。(本明細書に記載する還元的アルキル化のためには、ポリマーは単一の反応性アルデヒドを有さなければならない。)選択されたポリマーは、それに結合する蛋白が生理学的環境のような水性の環境で沈殿しないように、水溶性でなければならない。還元的アルキル化のためには、本発明の方法に関して記載したとおり重合度を制御できるように、選択されたポリマーは単一の反応性アルデヒドを有さなければならない。ポリマーは分枝鎖または非分枝鎖であってよい。好ましくは、最終製品調製物の治療上の使用のためには、ポリマーは薬学的に許容されるものである。当業者は、ポリマー/蛋白質結合体を治療に用いるのかどうかという判断、そして、そうであれば、所望の用量、循環時間、蛋白分解に対する耐性およびその他の判断に基づき、所望の重合体を選択できる。G−CSFについては、これらは本明細書に記載した検定方法を用いて確認してよく、そして、当業者は、その他の治療用蛋白のための適切な検定方法を選択しなければならない。水溶性ポリマーは例えば、上記したもの(発明の背景参照)、および、デキストランまたはポリ(n−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリビニルアルコールよりなる群からから選択してよい。
【0033】
後述するような最適化のための条件については、ポリマーはどのような分子量のものでもよく、そして、分枝鎖または非分枝鎖であってよい。ポリエチレングリコールについては、好ましい分子量は、約2kDa〜約100kDaである(「約」という表現は、ポリエチレングリコールの調製においては、記載した分子量よりも、一部の分子は高分子量、一部は低分子量になることを指す)。後述する実施例1および2は、PEG 6000を使用しているが、これは精製が容易であり適当なモデル系が得られることから選択したものである。所望の治療特性(例えば所望の徐放性持続時間、作用、場合により生物学的活性、取り扱いの容易さ、抗原性の程度または非抗原性、および、治療用蛋白または類似体に対するポリエチレングリコールのその他の知られた作用)に応じて、その他の大きさのものも使用しうる。
【0034】
本発明の1つの特定の態様は、ポリエチレングリコール部分およびG−CSF部分を有するN末端モノPEG化G−CSFである。本発明の組成物を得るためには、種々のポリエチレングリコール分子(分子量、分枝鎖状態等による)、反応混合物中のG−CSF蛋白分子に対するポリエチレングリコール分子の比率、実施するPEG化反応の種類、選択されたN末端PEG化G−CSFを得るための方法、および使用するG−CSFの種類を適宜選択してよい。更に、本発明の組成物および方法は、医薬組成物の製造、治療および薬剤製造の方法を包含する。
【0035】
蛋白分子に対するポリエチレングリコール分子の比率は、反応混合物中のその濃度の変化に応じて変化する。一般的に、最適な比率(未反応の蛋白またはポリマーが過剰に存在しないという反応の効率の点で)は選択されたポリエチレングリコールの分子量により決定される。更に、本発明の1つの実施例では非特異的PEG化およびN末端モノPEG化種の後の精製を行なうため、比率は使用できる反応性の基の数により異なる(典型的にはαまたはεアミノ基)。本明細書に記載した1つの実施例では、一般的にモノPEG化物質を得るために蛋白:PEG分子のかなり低い反応比を用いている(蛋白分子当たり1.5PEG分子)。
【0036】
N末端PEG化G−CSFを得るためには、PEG化の方法は前記したような種々の方法から選択してよく、または、後述する実施例2に記載するとおり本発明の還元的アルキル化を用いてよい。ポリエチレングリコール部分と蛋白部分との間に連結基を用いない方法は、Francis等の蛋白性薬剤の安定性:分解のin vivo経路および蛋白安定化方法(Stability of protein pharmaceuticals: in vivo pathways of degradation and strategies for protein stabilization)、(Eds。Ahern.、T and Mannning、 M.C)Plenum、New York、1991)に記載されている。あるいは、Delgado等の「トレシルクロライドを用いた活性化による蛋白へのPEGのカップリング、免疫親和性細胞調製への応用(Coupling of PEG to Protein By Activation With Tresyl Chloride,ApplicationsIn Immunoaffinity Cell Preparation)」、Fisher等編、水層系を用いた分離、細胞生物学およびバイオテクノロジーにおける応用、Plenum Press、N.Y.N.Y.、1989、pp.211−213はトレシルクロライドを使用しており、このためポリエチレングリコール部分と蛋白部分との間には連結基が存在しない。この方法は、トレシルクロライドの使用により毒性副産物が形成されるため、治療用製品の製造のために使用するのは困難である。本発明の実施例の1つではカルボキシメチルメトキシポリエチレングリコールのN−ヒドロキシスクシンイミジルエステルを使用している。後に詳細に記載するとおり、別の実施例では本発明の還元的アルキル化方法を用いている。
【0037】
N末端PEG化G−CSF調製物を得るための方法(即ち必要に応じてこの部分を別のモノPEG化部分から分離すること)は、PEG化G−CSF分子の集団からN末端PEG化物質を精製することにより行なうことができる。例えば、下記に示す例ではPEG化G−CSFをまずイオン交換クロマトグラフィーにより分離してモノPEG化物質の電荷特性を有する物質を得て(同じ見掛け上の電荷を有する別の多PEG化物質が存在する場合がある)、そして次に、モノPEG化物質をサイズ排除クロマトグラフィーにより分離する。この方法では、N末端モノPEG化G−CSFが別のモノPEG化種並びに別の多PEG化種から分離される。その他の方法も報告されている。例えば、1990年5月3日に公開されたPCT WO 90/04606号はPEG含有水性2相系中でPEG/蛋白付加物を分配することを包含するPEG−蛋白付加物の混合物の分画方法を報告している。
【0038】
別の態様において、本発明は、N末端化学修飾蛋白(または類似体)を選択的に得るための方法を提供する。特定の蛋白における誘導体形成のために使用できる種々のタイプの第一アミノ基の反応性の差(リジンvsN末端)を利用した還元的アルキル化による蛋白修飾方法を以下に記載する。適切な反応条件のもとでカルボニル基含有ポリマーを用いてN末端において蛋白の実質的に選択的な誘導体形成を行なうことができる。反応は蛋白のリジン残基のεアミノ基とN末端残基のαアミノ基とのpKaの差を利用することができるようなpHで行なう。このような選択的誘導体形成により、水溶性ポリマーの蛋白質への結合が制御でき、ポリマーとの結合体形成は蛋白のN末端で主に起り、リジン側鎖アミノ基のようなその他の反応性の基の修飾はほとんど起らない。
【0039】
重要かつ意外な点は、本発明はその他の化学修飾方法を用いる場合に必要とされるような更に進んだ精製を行なうことなく、モノポリマー/蛋白結合体分子の実質的に均質な調製物を製造するための方法を提供する。また、アミン結合を有する生成物は、意外にも、アミド結合を用いて調製した生成物よりも安定であり、これは後に記載する凝集試験で明らかにされる。特に、ポリエチレングリコールを用いる場合は、本発明はまた、抗原性を有する可能性のあるような結合基を有さず、そして、蛋白部分に直接カップリングするポリエチレングリコール部分を有するN末端PEG化蛋白を毒性副生成物を生じることなく、提供する。
【0040】
反応は以下に示すようなダイアグラムで説明できる(還元剤の例としてシアノホウ水素化ナトリウムを示した)。
【0041】
【化1】

【0042】
即ち本発明の1つの態様は、(a)アミノ基1つ以上を有する蛋白部分を、水溶性ポリマー部分と、還元的アルキル化条件下、上記蛋白部分のアミノ末端でαアミノ基を選択的に活性化させるのに適するpHで反応させることにより、上記水溶性ポリマーを上記αアミノ基に選択的に結合すること;および(b)反応生成物を得ること、を包含するポリマー/蛋白結合体の製造方法である。場合により、そして治療用製品のためには好ましくは反応生成物を未反応部分から分離する。
【0043】
本発明の別の態様は、このような還元的アルキル化により、アミノ末端にαアミノ基を有するいかなる蛋白にも重合体を選択的に結合することが可能であり、そしてモノポリマー/蛋白結合体の実質的に均質な調製物が得られる点である。「モノポリマー/蛋白結合体」という用語は、本明細書においては、蛋白部分に結合した単一のポリマー部分を有する組成物を指す(更に、本明細書に記載する蛋白類似体を用いた結合体も包含される)。モノポリマー/蛋白結合体はN末端に位置するポリマー部分を有するが、リジンの場合のようなアミノ側鎖基には有さない。調製物は、好ましくは80%を超えるモノポリマー/蛋白結合体、更に好ましくは95%を超えるモノポリマー/蛋白結合体である。
【0044】
モノポリマー/蛋白結合体分子の実質的に均質な集団を得るためには、反応条件は、所望の蛋白のN末端への水溶性ポリマー部分の選択的結合を可能にするようなものである。このような反応条件は一般的に、リジンアミノ基とN末端α−アミノ基におけるpKaの差を与える(pKはアミノ基の50%がプロトン化され、50%がされないようなpHである)。一般的に、N末端のα−アミノ基の修飾を最適なものとするには、異なる蛋白に対し、異なるpHを用いることができる。
【0045】
pHは使用する蛋白に対するポリマーの比率にも影響を及ぼす。一般的に、pHがpKより低い場合は、蛋白に対してより大過剰のポリマーが必要である(即ち、N末端α−アミノ基の反応性が低いほど、最適な条件を達成するためにはより多くのポリマーが必要になる)。pHがpKより高い場合は、ポリマー:蛋白の比はそれほど大きくなる必要は無い(即ち、より多くの反応性の基が使用できるため、必要なポリマー分子数は少なくなる)。
【0046】
もう1つの重要な条件はポリマーの分子量である。一般的に、ポリマーの分子量が高いほど、蛋白に結合するポリマー分子の数は少なくなる。同様に、これらのパラメーターを最適にする際には、ポリマーの分枝鎖状態を考慮しなければならない。一般的に、分子量が高いほど(または分枝鎖が多いほど)、ポリマー:蛋白の比は大きくなる。
【0047】
本発明の還元的アルキル化のためには、還元剤は水溶液中で安定であることが必要であり、好ましくは、還元的アルキル化の最初の工程で形成されるシッフ塩基のみを還元することができるものである。好ましい還元剤は、ナトリウムボロハイドライド、ナトリウムシアノボロハイドライド、ホウ酸ジメチルアミン、ホウ酸トリメチルアミンおよびホウ酸ピリジンよりなる群から選択される。後述する実施例ではナトリウムシアノボロハイドライドを用いた。
【0048】
水溶性ポリマーは上記した種類のものであってよく、そして、蛋白にカップリングするための単一の反応性アルデヒドを有するものでなければならない。ポリエチレングリコールについては、G−CSFへのカップリングにはPEG 6000、コンセンサスインターフェロンに対してはPEG 12000の使用を以下に記載している。ただし、G−CSFの場合は、PEG 12000、20000および25000も本発明の方法で良好に使用される。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド(例えば米国特許第5,252,714号参照)は水中の安定性の点で好都合である。
【0049】
前記したとおり、本発明の方法はN末端α−アミノ基を有するいかなる蛋白またはその類似体にも広範に適用できる。例えば、細菌内で発現された外来性DNA配列の産物であるような蛋白は、細菌による発現の結果として、α−アミノ基を有するN末端メチオニル残基を有している。前記したとおり、ペプチド、並びにペプチド類似物およびその他の修飾蛋白も包含される。上記したG−CSF類似体のような蛋白類似体、および非天然コンセンサスインターフェロンも本発明の方法に適している。
【0050】
即ち、本発明のN末端化学修飾G−CSFのためには、本明細書に記載したいずれのG−CSFまたは類似体も使用できる(例えば上記したもの)。後述する実施例では、174アミノ酸および余分にN末端メチオニル残基を有する細菌生産組み換えG−CSFを用いる。本明細書に記載するとおり、化学修飾は本明細書に記載するいずれの水溶性ポリマーを用いて行ってもよく、実施例ではポリエチレングリコールの使用を記載した。コンセンサスインターフェロンは本発明の実施例で使用されるもう1つの蛋白である。N末端モノPEG化のための本発明の還元的アルキル化方法を用いた化学修飾コンセンサスインターフェロンの調製を以下に記載する。即ち、本発明の別の態様は、これらの調製に関する。本発明においては、「コンセンサスインターフェロン」または「IFN−con」と記載するコンセンサスヒト白血球インターフェロンは、非天然のポリペプチドであり、全ての天然のヒト白血球インターフェロンサブタイプ配列に共通のアミノ酸残基を主に含んでおり、全てのサブタイプに共通なアミノ酸を含まない1つ以上の位置に、その位置に主に生じるアミノ酸であって且つ、少なくとも1つの天然のサブタイプの該位置に存在しないアミノ酸残基を有することがないアミノ酸を含む、ものである。IFN−conには、IFN−con,IFN−conおよびIFN−conという名称のアミノ酸配列が包含され、これらは、同一の譲受人の米国特許第4,695,623号および4,897,471号に開示されており、これら明細書の記載内容全体は参考のために本明細書に組み込まれる。(米国特許第4,897,471号および4,695,623号は本明細書で使用していない名称「α」を使用している。)IFN−conをコードするDNA配列は、上記した特許に記載された通り、あるいは、その他の標準的な方法で合成してよい。IFN−conポリペプチドは好ましくは、細菌宿主、特にE.coliにトランスフォームまたはトランスフェクトされた合成DNA配列の発現産物である。即ち、IFN−conは組み換えIFN−conである。IFN−conは好ましくはE.coli中で生産され、当該分野で良く知られ、そして、一般的にはIFN−conについてKlein等のJ.Chromatog.454:205−215(1988)に記載された方法により精製される。精製されたIFN−conはイソフォームの混合物を含有し、例えば精製IFN−conはメチオニルIFN−con,脱メチオニルIFN−conおよびブロックされたN末端を有する脱メチオニルIFN−conの混合物を含有する(Klein等、Arc.Biochem.Biophys.276:531−537(1990))。あるいは、IFN−conは特定の単離されたイソフォームを含有する。IFN−conのイソフォームは当業者の知る等電点電気泳動のような方法で相互に分離される。即ち、本発明のもう1つの態様は、コンセンサスインターフェロン部分がIFN−con、IFN−conおよびIFN−conよりなる群から選択される化学修飾コンセンサスインターフェロンである。化学修飾は、PEGのような本明細書に記載する水溶性ポリマーを用いて行ない、本発明の還元的アルキル化方法を用いて選択的N末端化学修飾を行なってよい。本明細書に記載する実施例3は、ポリエチレングリコール部分(PEG 12000)にN末端で結合されたIFN con部分を有する化学修飾IFN conを説明するものである。
【0051】
もう1つの態様において、本発明の方法は、ポリエチレングリコール部分が蛋白部分に直接結合し、別の連結基が存在せず、毒性副生成物が存在しないようなPEG化蛋白を提供する。実施例は本明細書に記載するとおりG−CSFおよびコンセンサスインターフェロンを含んでいる。ポリエチレングリコール部分がG−CSF蛋白部分に直接結合しているようなPEG化G−CSF蛋白分子の集団(N末端PEG化G−CSF分子の集団である必要はない)を得るためには、酸性pHを用いるか、又は用いることなく、上記還元的アルキル化を実施してよい。
【0052】
本発明の更に別の態様においては、上記物質の医薬組成物が提供される。このような医薬組成物は注射による投与、または経口投与、肺投与、経鼻投与またはその他の投与形態であってよい。一般的に、本発明が意図するものは、本発明のモノポリマー/蛋白結合体生成物の有効量を薬学的に許容される希釈剤、保存料、可溶化剤、乳化剤、補助剤、および/または担体と共に含有する医薬組成物である。このような組成物は、種々の緩衝物質成分(例えばトリス−HCl、酢酸、リン酸)、pHおよびイオン強度の希釈剤;洗剤および可溶化剤(例えばTween 80、ポリソルベート 80)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存料(例えばチメルソール、ベンジルアルコール)および増量剤(例えば乳糖、マンニトール)のような添加物;ポリ酢酸、ポリグリコール酸等のような重合体化合物の粒状調製物への、または、リポソームへの活性物質の配合を含む。このような組成物は、本発明のN末端化学修飾蛋白の物理的性状、安定性、in vivo徐放性、およびin vivoクリアランス速度に影響する。例えば、RemingtonのPharmaceu tical Science、18版(1990、Mack Publishing Co.、Easton、PA 18042)の1435−1712ページに記載されており、その内容は参考のために本明細書に組み込まれる。
【0053】
本発明の更に別の態様において、治療方法および医薬の製造方法が提供される。本発明のポリマー/G−CSF結合体(または天然のG−CSFの造血生物作用を有する類似体)の投与により軽減または調節される症状は、典型的には、低下した造血または免疫機能、特に低好中球数により特徴づけられる症状である。このような症状は、化学療法または放射線療法のような他の目的のための治療の過程として誘発される。このような症状は、細菌、ウィルス、カビまたはその他の感染性疾患のような感染症に起因する場合がある。例えば、敗血症は細菌感染から生じる。あるいは、このような症状は、重度の慢性好中球減少症または白血病のように、遺伝的または環境的に誘発される。成人病分野では患者は低好中球数または低好中球運動性を有するため、年齢も重要な因子である。このような症状の一部は、Filgrastim(r−met Hu G−CSF)、Clinical Practice、Morstyn、G.およびT.M.Dexter、eds.、Marcel Dekker、Inc.、N.Y.、N.Y.(1993)、351頁に記載されている。本発明のポリマー/G−CSF結合体の投与により軽減または調節されるようなその他のあまり研究されていない症状には、G−CSFがプラスミノーゲン活性化物質の産生を誘発することから、血流中の脂質(またはコレステロール)の低下、および特定の心臓血管症状が包含される。これらの分野におけるG−CSF(または類似体)の作用様式は、現時点では十分解明されていない。ポリエチレングリコールのような水溶性ポリマーを付加することは、生物活性の持続により治療過程当たりのG−CSF注射の回数が少なくできるため、実際の患者に利益をもたらすものである。
【0054】
一般的に、本発明のポリマー/コンセンサスインターフェロンの投与により軽減または調節されるような症状は、コンセンサスインターフェロンが適用可能な症状であり、細胞増殖疾患、ウィルス感染、および多発性硬化症のような自己免疫疾患が包含される。McMaus Balmer、DICP、The Annals of Pharmacotherapy 24:761−767(1990)(ガン治療における生物応答調節剤の臨床使用:概説、第I部、インターフェロン)参照。コンセンサスインターフェロンを用いた細胞増殖疾患の治療のための方法および組成物は、1992年4月30日公開のPCT WO 92/06707号に記載されており、その内容は参考のために本明細書に組み込まれる。例えば、肝炎(A、B、C、D、E)は本発明のPEG化コンセンサスインターフェロン分子を用いて治療可能である。後述する実施例では、in vitroで化学修飾されたコンセンサスインターフェロンは非化学修飾コンセンサスインターフェロンの生物活性の20%を有している。
【0055】
上記した分子の全てについて、更に研究を実施するに従って、種々の患者の種々の症状の治療のための適切な用量に関する情報が得られ、そして、当業者は、治療内容、投与対象の年齢および全身状態を考慮しながら、適切な用量を確認することが可能であろう。一般的に、注射または注入のためには、用量は0.01μg/kg体重(化学修飾しない蛋白のみの質量を計算)〜100μg/kg(同じ計算に基づく)である。
【0056】
以下に記載する実施例は、上記した種々の態様を説明するものである。実施例1では、N末端PEG化G−CSFの利点を(G−CSF met+174アミノ酸型の)リジン−35またはリジン−41でモノPEG化されたG−CSFと比較しながら説明する。実施例2はN末端PEG化G−CSFにおける本発明の還元的アルキル化を説明するものである。この方法はN末端PEG化G−CSFの実質的に均質な調製物を与える。実施例3はN末端PEG化コンセンサスインターフェロンの本発明の還元的アルキル化を説明するものである。
【0057】
(実施例)
【実施例1】
【0058】
A.組換えヒトmet−G−CSFの調製
組換えヒトmet−G−CSF(本明細書では“rhG−CSF”または“r−met−hu−G−CSF”と呼ぶ)は、上述のようにSouza特許、米国特許第4,810,643号にある方法に従って調製した。この特許は参考として本明細書に組み入れる。使用したrhG−CSFは、以下に示す(DNA配列によってコードされる)アミノ酸配列をもつE.coli由来の組換え発現産物であった(配列番号1および2):
【0059】
【化2】

(これはまた対照動物に使用した非Peg化組成物でもあった。)或いは以下のPeg化法には、市販のNeupogen(登録商標)を使用してもよい(このパッケージに入っているものは、本明細書に参考として組み入れる)。
【0060】
B.Peg化G−CSFの調製
10mg/mlの上記rh−G−CSF溶液を100mM Bicine pH8.0に溶かした溶液を、平均分子量が6000ダルトンの固体のSCM−MPEG(カルボキシメチルメトキシポリエチレングリコールのN−ヒドロキシスクシニミジルエステル)(Union Carbide)に添加した。これによってrh−G−CSFよりもSCM−MPEGが1.5モル過剰になった。1時間軽く攪拌した後、滅菌水で混合液を2mg/mlに希釈し、希釈したHClによってpHを4.0に調整した。反応は室温で起こさせた。この段階で反応混合物は主に3形態のモノPEG化rh−G−CSFから構成されており、その他、ジPEG化rh−G−CSF、未修飾のrh−G−CSF、および反応の副産物(N−ヒドロキシスクシニミド)が含まれていた。
【0061】
C.N末端PEG化rH−G−CSFの調製
3形態のモノPEG化rh−G−CSFは、イオン交換クロマトグラフィによって別々に分離した。反応混合液を、緩衝液A(20mM酢酸ナトリウム、pH4.0)で平衡化しているPharmacia SセファロースFFカラム(Pharmacia XK50/30リザーバ、ベッド容量440ml)に添加した(1mg蛋白質/ml樹脂)。カラムを3カラム容量の緩衝液Aで洗浄した。蛋白質は0〜23%の直線勾配の緩衝液B(20mM酢酸ナトリウム、pH4.0、1M NaCl)を15カラム容量用いて溶出した。次に1カラム容量の100%緩衝液Bでカラムを洗浄し、3カラム容量の緩衝液Aで再度平衡化させた。操作全体の流速は8ml/分に維持した。溶離剤を280nmでモニターし、5mlの分画を収集した。モノPEG化した個々の分子種を含む分画は、図1Aに従ってプールした。このようにプールした液をYM10 76mmメンブランを使った350mL Amicon攪拌セルを使って濃縮した。
【0062】
モノPEG化分子種からジPEG化分子種を分離するため、イオン交換クロマトグラフィで得たプールした分画をサイズ排除クロマトグラフィにかけた。一般に、5〜10mgが入った2〜5mlの溶液を、20mMの酢酸ナトリウム、pH4.0で平衡化した120mlのPharmacia Superdex 75 HR 16/60カラムに添加した。カラムを 1.5ml/分で100分間操作し、2mlの分画を収集した。溶離剤の蛋白質含有量を280nmでモニターした。分離されたピークの分画をプールして分析にかけた。以下の表は各ピークの収量比率を比較したものである。
【0063】
【表1】

【0064】
このような条件下では、位置17および24にあるリジンは多分有意にPEG化されなかったと思われる。
【0065】
D.特性化
各サンプルの特性を知るために5種類の分析を実施した:(1)SDS−Page(図1B)、(2)サイズ排除クロマトグラフィHPLC(“SEC HPLC”)(図2)、(3)ペプチドマッピング分析(図3A、3B、3C)、(4)in vitro G−CSFバイオアッセイ(図4)、および(5)ハムスターを用いたin vivo試験(図5Aおよび5B)。
【0066】
N末端にモノPEG化したG−CSFの各サンプルの組成に関する分析結果は、95%以上がN末端にPEG化しており、残りは多分PEG化していない物質だろうということを実証するものである(サンプルの残りはアッセイの検出限界より低かったが)。3種類のモノPEG化物質(N末端、リジン35でのPEG化、リジン41でのPEG化)の各々について、モノPEG化の割合を調べたところ、N末端およびリジン41は97%以上がモノPEG化されており、リジン35でのPEG化物質はこれよりいくらか低かった。これは多分、アッセイ条件において分子が不安定であることによると思われる。以上をまとめると次の結果が得られた:
【0067】
【表2】

*シーケンシング中に蛋白質のN末端からポリエチレングリコール分子が人為的に分離される可能性があるため、N末端シーケンシングは、下記に説明するとおり、ここでは定量的とはいえない。
【0068】
【表3】

*RI/UVは屈折率/紫外線吸光度の比のことを言い、蛋白質1分子当りのポリエチレングリコール分子の数を推定するのに用いられる。これはSEC HPLCデータからポリエチレングリコールの屈折率と蛋白質の紫外線吸光度を用いて計算される。
**この分子種は使用したアッセイ条件下では不安定であることに注意。
【0069】
方 法
1.SDS−PAGE。SDS−PAGEは非還元4〜20% ISSDaiichi Pure Chemicals(東京)のミニゲルにおいて、コーマシーブリリアントブルーR−250染色剤を用いて実施された。ゲルはImage Quantを用いた動的分子濃度計によってスキャンした。結果:結果は図1Bに示してある。レーン番号1(左から数えて)には蛋白質の分子量標準(Novex Mark 12分子量標準)が入っていた。レーン2には3μgのrh−G− CSF標準が含まれている。レーン3には10μgのSCM−PEG−GCSF反応混合液が入っている。レーン4には10μgのN末端モノPEG化G−CSFが含まれている。レーン5にはN末端のメチオニンからの35番目の残基に見出されたリジンにPEG化したモノPEG化G−CSFが10μg入っている。レーン6にはN末端のメチオニンから41番目の残基に見出されたリジンにPEG化したモノPEG化G−CSFが10μg含まれている。図から分かるように、N末端にモノ PEG化した物質が含まれているレーン3はバンドが一つである。
【0070】
2.サイズ排除クロマトグラフィー高圧液体クロマトグラフィー。SEC−HPLCはWatersのHPLCシステム、Biosep SEC 3000カラム、100mMのリン酸ナトリウム、pH6.9を用いて、1ml/分の流速で20分間実施した。シグナルは280nmでモニターした。
結果:図2から分かるように、N末端にモノPEG化したrh−G−CSFを含むライン“C”はピークが1個であり、ライン“D”(リジン35にモノPEG化した物質)および“E”(リジン41にモノPEG化した物質)もやはりピークが1個であった。これはモノPEG化G−CSFから分離した分画は純度が実質的に高いことを示している。
【0071】
3.ペプチドマッピング。次の方法を用いた。“モノ−PEG−1”、“モノ−PEG−2”、“モノ−PEG−3”と呼ばれる3つのサンプルを分析した。(a)還元アルキル化。モノ−PEG G−CSFの500μgのアリコートを高速真空乾燥し、6Mの塩酸グアニジンと1mMのEDTAを含む0.3MのTris−HCl(pH8.4)で濃度1mg/950μlに再構成した。次にサンプルにヨード酢酸を加えてS−カルボキシメチル化し、37℃で20分間インキュベートした。次にSephadex G−25 Quick Spin Proteinカラムを用いてサンプルを脱塩し、緩衝液を交換した。脱塩しバッファ交換した後、緩衝液を追加することによってサンプルの濃度を0.5mg/mlに調整した。(b)エンドプロテイナーゼSV8消化。サンプルはSV8を用いて25℃で26時間消化した(酵素と基質の比は1:25)。(c)HPLCペプチドマッピング。蛋白質消化物をVydac C4カラム(4.6×200mm、粒子サイズ5μ、孔径300Å)に注入し、0.1%TFA中アセトニトリルの直線勾配を用いて、ペプチドをHPLCによってマッピングした。ペプチドを手で収集し、配列分析のために高速真空乾燥した。結果:参照標準と比較して、(i)(図3A)“モノ−PEG−1”(N末端モノPEG化物質)の場合、ピークは57.3分で消え、77.5分で新しいピークが現れた;(ii)(図3B)“モノ−PEG−2”(リジン35にPEG化した物質)の場合、リテンションタイム30.3分のペプチドのピーク高さが低下し、66.3分に新しいピークが溶出された;(iii)(図3C)“モノ−PEG−3”(リジン41にPEG化した物質)の場合、リテンションタイム30.3分のピークはなく、66.4分に新しいピークが現れた。これらのペプチドはサンプルマップでの唯一の有意な差であった。わずかな消化の差のために、86.1分のペプチドの一方の側にいくらか、小さい不完全な切断があった。(d)N末端の配列分析。上記のマップに現れた“新しい”ペプチドの各々を、同定のためN末端を配列分析した。乾燥したペプチドを0.1% TFAで再構成し、ABI蛋白質シーケンサで配列決定した。“モノ−PEG−1”(N末端にPEG化した物質)の場合、“新しい”ピーク(77.5分)の60%が10サイクルで配列決定された。初期収率は5%未満であったが、これはN末端のメチオニル残基がポリエチレングリコール分子によってブロックされていることを示している。この最初のペプチドは初期収率が0%となるはずであったが、収率が5%未満であったのは、配列分析中にN末端のメチオニルからポリエチレングリコールが脱着した結果かもしれない。検出された配列は、N末端ペプチドのものでM−T−P−L−G−P−A−S−Sであった。“モノ−PEG−2”(リジン35にPEG化した物質)の場合、総ピーク体積の80%が66.3分のピークに集まり、9サイクルで配列決定された。リジン35の回収率は有意に低かったが、これは位置35でのPEG化を示している。リジン41の回収率はその他の残基と同じくらいで、この位置では修飾が行われていないことを示唆していた。30.3分のペプチドは、標準参照マップの対応するピークと比べて、ピーク高さが低かった。30.3分のペプチドは、対応するペプチドのピーク面積の57.5%しかなかった。この分子種で検出された配列はK−L−C−A−T−Y−K−Lであった。“モノ−PEG−3”(リジン41にPEG化した物質)の場合、66.4分に溶出したペプチドについて収集された総ピーク体積の80%が9サイクルで配列決定された。検出された配列はK−L−C−A−T−Y−K−Lであり、リジン残基35および41を含んでいた。リジン35の回収率は他の残基の回収率と同じであった。リジン41の回収率は有意に低く、これは位置41でのPEG化を示していた。結果:“モノ−PEG−1”はN末端にモノPEG化された物質である;“モノ−PEG−2”はリジン35に一部PEG化された物質である;また“モノ−PEG−3”はリジン41にPEG化された物質である。参照標準(非PEG化G−CSF)とGCSFモノPEG化1、2、3のペプチドマップを比較することによって、“モノ−PEG−2”(リジン35)と“モノ−PEG−3”(リジン41)のマップは、N末端ペプチドよりもピーク高さがわずかに低いことが分かった。これはリジン35およびリジン41物質に少量のN末端PEG化物質が含まれていること、またはN末端のメチオニンのPEG化率が低いことを示唆している。
【0072】
4.In vitro活性。物質は活性であった。図4はin vitroアッセイの結果を表している。記載の通り、N末端モノPEG化された物質の活性は、未修飾rhG−CSFの活性の68%であった。
【0073】
方法:G−CSFのin vitroバイオアッセイはマウス32D細胞のG−CSF依存クローンを利用する細胞分裂アッセイである。細胞を5%のFBSおよび20ng/mlのrhG−CSFが入ったIscoves培地に入れて維持した。サンプルを加える前に、rhG−CSFを含まない成長培地で細胞を2回洗浄した。48から0.5ng/ml(4800〜50IU/mlに相当)までの長い12ポイントのrhG−CSF標準曲線を作製した。標準曲線の直線部分(1000〜3000IU/ml)に入ると予想される4つの希釈液を各サンプルについて調製し、それぞれ3回ずつランした。これらの物質の見かけのin vitro活性は低いため、PEG化したrhG−CSFサンプルを約4〜10倍に希釈した。各希釈度のサンプルまたは標準40μlを、10,000細胞/ウェルを含む96ウェル・マイクロタイタープレートの適当なウェルに添加する。37℃、5.5%COという条件下に48時間置いた後、各ウェルに0.5μmCiのメチル−H−チミジンを追加した。18時間後、プレートを収穫し、カウントした。用量応答曲線(rhG−CSF濃度の対数(log)vs CPM−バックグラウンド)を作成し、標準曲線の直線部分に入るポイントについて、直線回帰分析を行った。未知のテストサンプルの濃度は、得た直線式を使って求め、希釈率について補正した。
【0074】
結果:結果は図4に示した。記載の通り、3種類のモノPEG化種のうちN末端にモノPEG化したG−CSFのin vitro生物学的活性が最高である。
【0075】
5.In vivo活性。In vivo試験によってN末端にPEG化した物質の活性を確認した。In vivo試験は0.1mg/kgのサンプルを1回皮下注射によって雄のゴールデンハムスターに投与することによって行った。1群、1時点当り4匹の動物から末梢血液を採取した。血清検体は採血当日に完全血球算定にかけた。平均白血球数を計算した。図5Aおよび5Bから分かるように、各物質による反応は、0.1mg/kgの単回皮下注射の翌日後に最大に達している。2つのモノPEG化物質(N末端とリジン35)は反応時間が長く、一方リジン41で蛋白質をPEG化した物質の反応は未修飾rhG−CSFのin vivo活性より高くなかった(実際低い、図5B)。これらの結果は、ポリエチレングリコール分子を1個結合させることによって、蛋白質の治療プロフィールが劇的に変化する可能性があり、蛋白質をPEG化することの利点は修飾の部位に依存する可能性があることを示唆している。(単回皮下注射後の曲線下の正味平均WBC面積(CRC Standard Mathematical Tables、26th Ed.(Beyer、W.H.、 Ed.)CRC Press Inc.、Boca Raton、FL 1981.P.125)に従って算出)は、リジン35とN末端のモノPEG化種では類似していた。)
E.安定性試験
更に、上述のように調製したN末端およびリジン35にモノPEG化した分子種について、安定性試験を実施した。(リジン41物質は、活性が未修飾G−CSFを上回らないことが実証されたため使用しなかった)。これらの試験によって、N末端にPEG化したG−CSFがもう一方のモノPEG化G−CSFであるモノPEG化リジン35と比べて、保管中に予想外に安定していることが実証された。安定性はSEC−HPLCを使って視覚化させた生成物の分解という点で評価した。
【0076】
方法:N末端にPEG化したG−CSFとリジン35にモノPEG化したG−CSFを、pH4.0およびpH6.0という2種類のpH、温度4℃の下でそれぞれ最高16日間保管した。pHを6.0に上げると、加速安定性試験の環境ができあがる。pH6.0のサンプルの場合、上述のように調製した、N末端にモノPEG化したG−CSFおよびリジン35にモノPEG化したG−CSFを、20mMの燐酸ナトリウム、5mMの酢酸ナトリウム、2.5%マンニトール、0.005%Tween−80を含むpH6.0の緩衝液に入れ、最終蛋白質濃度が0.25mg/mlとなるようにした。このアリコート1mlを3mlの滅菌済み注射用バイアルに入れて保管した。バイアルは各々4℃および29℃において最高16日間保管した。安定性はSEC−HPLCトレーシングによって評価した。後の測定値が最初(時間=0)の測定値と同じであった場合(肉眼検査によって確認)、そのサンプルはその期間だけ安定していたと見なされた。
【0077】
結果:結果は図6A〜6Cに示した。
【0078】
(a)pH6.0、温度4℃での比較。図6AはN末端にモノPEG化したG−CSFをpH6、4℃で保管した場合のSEC−HPLCプロフィールを示しており、図6Bはリジン35にモノPEG化したG−CSFをpH6、4℃で保管した場合のSEC−HPLCプロフィールを示している。リジン35物質は分解されて、未修飾G−CSFと類似の分子量の物質になりつつあると解釈できる。
【0079】
(b)pH4.0、温度4℃での長期保管。PH4.0、温度4℃という条件は、N末端種が分解を示さない比較的安定した条件を示すある種の対照を提供する。リジン35種の場合、物質の分解がまだ起こっているが、速度はかなり遅い。
【0080】
(c)pH6.0、温度4℃での比較。図6Cはこのような条件下に長期間保管した場合のモノPEG化G−CSFのSEC−HPLCプロフィールを示している。記載の通り、pH6.0、温度4℃の場合、リジン35物質は16日目または35日目では、6日目に観察されたもの(図6B)を上回る脱PEG化は観察されなかった。これはこのような条件下では6日目を越えても脱PEG化(不安定性)に変化がないことを示している。
【実施例2】
【0081】
この実施例は、還元アルキル化を用いて実質的に均質なモノPEG化G−CSF群を調製する方法、およびこの群の特徴を示している。上記実施例で説明した組換えG−CSFを使用した。記載のように、この方法は、N末端を化学的に修飾した物質の収率という点で利点があるだけでなく、この還元アルキル化法のアミン結合は実質的に安定した生成物を産生するという利点がある。これは保存後の凝集の程度に大きな差があることによって実証される。
【0082】
A.N末端のα−アミノ残基に結合させたモノ−メトキシポリエチレングリコール−GCSF結合体の調製
20mMのNaCNBH を含む100mMのリン酸ナトリウム(pH5)中の、冷却し(4℃)攪拌したrhG−CSF溶液(1ml、5mg/ml、上記実施例のところで説明済み)に、5倍モル過剰のメトキシポリエチレングリコールアルデヒド(MPEG)(平均分子量、6kDa)を加えた。同じ温度で反応混合物を攪拌し続けた。
【0083】
反応中に蛋白質の修飾がどの程度起こったかは、Bio− Sil SEC250−5カラム(BIO−RAD)を用いてSEC HPLCによってモニターした。溶離剤には0.05MのNaHPO、0.05MのNaHPO、0.15MのNaCl、0.01 MのNaNをpH6.8にて用い、流速は1ml/分とした。
【0084】
10時間SEC HPLC分析を行った結果、蛋白質の92%がモノ−MPEG−GCSF誘導体に変換されていることが分かった。これは蛋白質濃度(A280における吸光度によって決定)の記録である図7から分かる。この図からは、8.72分にモノPEG化G−CSFの溶離ピークがあり、また9.78分に溶離する未反応G−CSFのマイナーピークがあることが分かる。
【0085】
図8はMPEGのN−ヒドロキシサクシニミジルエステルを用いて得たピークを示している。分子量は約6kDaであった。図から分かるように、この反応によって得られた混合物は次のとおりであった:トリ−MPEG−GCSF結合体(約7.25分のところにショルダー)、ジ−MPEG−GCSF結合体(7.62分にピーク)、モノ−MPEG−GCSF結合体(8.43分にピーク)、および未反応のG−CSF(9.87分にピーク)。
【0086】
蛋白質の92%がモノPEG化物質に変換されたこの10時間の時点で、反応混合物のpHを100mMのHClでpH4に調整し、反応混合物を1mMのHClで5倍に希釈した。
【0087】
モノ−MPEG−GCSF誘導体は、20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4)で平衡化したHiLoad 16/10SセファロースHPカラム(Pharmacia)を用いて、イオン交換クロマトグラフィによって精製した。反応混合物をカラムに添加して流速1ml/分でランし、同緩衝液を3カラム容量用いて未反応のMPEGアルデヒドを溶出した。次に1MのNaClを含む0%〜45%直線400分勾配の20mM酢酸ナトリウム(pH4)を用いて、4℃において蛋白質−ポリマー結合体を溶出した。
【0088】
モノ−MPEG−GCSF誘導体を含む分画をプールして濃縮し、滅菌濾過した。
【0089】
同様にして、種々の平均分子量(12、20、25kDa)のMPEGアルデヒドでrh−G−CSFを修飾することによって得られる様々なモノ−MPEG−GCSF結合体を調製した。
【0090】
B.モノPEG化G−CSFの分析
1.分子量
モノPEG化結合体における分子量は、SDS−PAGE、ゲル濾過、マトリックスアシステッドレーザーデソープション質量分析、平衡遠心分離によって求めた。結果は以下の表4に示した。
【0091】
【表4】

【0092】
調製したN末端モノ−MPEG−GCSF結合体の構造は、N末端の蛋白質シーケンシングとペプチドマッピングによって確認した。N末端のメチオニル残基の臭化シアン切断の結果、ポリエチレングリコールが除去された。
【0093】
2.生物学的活性
PEG化MPEG−GCSF結合体のin vitro生物学的活性は、Hチミジンのマウス骨髄細胞への刺激取り込みを測定することによって求めた。
【0094】
In vivo生物学的活性は、MPEG−GCSF結合体またはrhG−CSF(100mg/kg)をハムスターに皮下注射し、総白血球数を測定することによって求めた。非誘導体化G−CSFと比較した生物活性は、ベヒクル(媒体)の対照曲線を引き算した後のWBC/時間曲線下の面積として計算した。MPEG−GCSF誘導体の相対的生物活性は、未修飾G−CSFと比較した生物活性のパーセンテージとして表した。
【0095】
これは、様々な分子量(6kDa、12kDa、および20kDa)のMPEGアルデヒドによるrhG−CFの還元アルキル化によって調製したモノ−N末端MPEG−GCSF結合体に対する総白血球反応を示す図9に示してある。図から分かるように、モノPEG化分子はすべて反応を誘導した。使用したポリエチレングリコールの分子量が高いほど、白血球数が多くなった。但し、12kDa型は2日目において20kDa型と比較して、白血球数がわずかに多いだけであった。
【0096】
3.安定性試験
2種類の化学的方法(アミドvs還元アルキル化のアミン)によって調製したN末端にPEG化したG−CSFの凝集程度を比較した。予想外のことだが、アミン化学を用いてN末端にPEG化したG−CSFは、アミド結合によってN末端にPEG化したG−CSFよりもかなり安定していることが分かった(NHS化学反応は実施例1に説明済み)。
【0097】
方法:N末端にPEG化したG−CSFサンプルはどちらも、5%ソルビトールを含む10mMのNaOac(pH4.0)に濃度1mg蛋白質/mlで含まれていた。G−CSFはどちらもPEG 6000でPEG化した。アミド結合結合体は実施例1のとおりに調製し、アミン結合結合体は実施例2のとおりに調製した。各々6個ずつのサンプルを45℃において8週間保存した。8週目の終りにサイズ排除クロマトグラフィおよびイオン交換クロマトグラフィによって凝集程度を判断した。
【0098】
結果:現在の還元アルキル化法は、驚くべきことに高温で8週間保存した後も凝集が遥かに少ない物質を生成し、アセチル化よりも利点があることが実証された。以下の表は、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)またはイオン交換(IE)を用いて得た、両方の物質の非凝集物質(“メインピーク”物質)の割合を示している:
【0099】
【表5】

*イオン交換では凝集について完全な分析はできないため、これはかなり高い。
【実施例3】
【0100】
この実施例は化学的修飾コンセンサスインターフェロンを実証するものである。もっと詳しく言えば、この例はかなり均質なモノPEG化IFN−con群の調製方法、およびこの群の特性を実証している。
【0101】
この実施例はIFN−conを使用しているが、上述のコンセンサスインターフェロンのいずれも化学的に修飾される可能性があることに注意すべきである。このような化学的修飾には、上にリストしたような任意の水溶性ポリマーを使用してよいが、ここではPEGを使用している。PEG化にはここではPEG 12000を使用しているが、任意の水溶性PEG種を使用してもよい(PEG 12000は取扱いが容易で便利なために選択した)。また、化学的修飾の方法としては種々あるが(アセチル化など)、N末端PEG化のような選択的N末端化学的修飾については、この実施例で説明している本還元アルキル化法が好ましい。
【0102】
A.コンセンサスインターフェロンの調製
モノPEG化コンセンサスインターフェロンの調製には、米国特許第4,695,623号(この全体を参照として本明細書に組み入れる)の図2にあるIFN−αcon(本明細書ではIFN−conと呼ぶ)を使用した。IFN−conは細菌内での外因性DNAの発現によって生成されたもので、N末端にメチオニル残基を持っていた。
【0103】
B.コンセンサスインターフェロンのPEG化
20mMのNaCNBHを含む、冷却し(4℃)攪拌しておいた100mMのリン酸ナトリウム中のIFN−con溶液、pH4.0(3.45mg/ml、N末端がブロックされた形態を32.25%含む)に、8倍モル過剰のメトキシポリエチレングリコールアルデヒド(MPEG)(平均分子量12kDa)を加えた。
【0104】
反応中に蛋白質修飾がどの程度起こるかは、PLRP−S (PL Separation Sciences Polymer Laboratories)のようなポリマーベースのポリ(スチレン/ジビニルベンゼン)カラムを使った逆相HPLCによってモニターした。
【0105】
10時間の逆相HPLC分析の結果、N末端にブロックされたα−アミノ基を持つ蛋白質の80%がMPEG−IFN−con誘導体に変換されたことが分かった。
【0106】
10時間の時点で、反応混合物を5倍の水で希釈し、モノ−MPEG−IFN−Con誘導体を、20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)で平衡化したHiLoad 16/10 SセファロースHPカラム(Pharmacia)を用いたイオン交換クロマトグラフィで精製した。反応混合物を流速1ml/分の流速でカラムに添加し、未反応のMPEGアルデヒドを3カラム容量の同緩衝液で溶出した。次に1MのNaClを含む20mMの酢酸ナトリウム、pH4.0の0%〜75%の420分直線勾配を用いて、4℃において蛋白質−ポリマー結合体を溶出した。
【0107】
モノ−MPEG−IFN−Con誘導体を含む分画をプールし、濃縮して、滅菌濾過した。
【0108】
C.モノPEG化コンセンサスインターフェロンの分析
1.均質性
精製したモノ−MPEG−IFN−Con結合体の均質性は、10〜20%または4〜20%プレキャストグラジェントゲル(Integrated Separation Systems)を用いたSDS−PAGEによって調べた。分子量35kDaのところにメインバンドが現れた。
【0109】
各モノ−MPEG−IFN−con種の有効サイズ(流体力学的半径)を調べるために、Superose 6HR 10/30(Pharmacia)ゲル濾過カラムを使用した。蛋白質は280nmにおける紫外線吸光度によって検出した。BIO−RADゲル濾過標準は、球状蛋白質分子量マーカーとして用いた。
【0110】
精製されたN末端モノ−MPEG−IFN−con結合体の構造は、N末端蛋白質シーケンシングおよびペプチドマッピングの手法によって確認した。
【0111】
このIFN−con調製物にはN末端がブロックされている物質が少し含まれており、この物質はPEG化されていなかった。しかしPEG化されていた物質は、N末端がモノPEG化されていた。このように、この種の状況では、イオン交換クロマトグラフィやサイズ排除クロマトグラフィといった他の方法によって、ブロックされている物質とされていない物質を分離したほうが良いかもしれない。
【0112】
2.生物学的活性
モノ−MPEG−IFN−Con結合体のin vitro生物学的活性は、その抗ウイルス生物活性を測定することによって決定した。モノ−MPEG−IFN−Con結合体のin vitro生物学的活性は、ヒト(HeLa)細胞におけるその抗ウイルス生物活性を測定することによって決定した。
【0113】
モノ−MPEG(12kDa)−IFN−Con結合体は、未修飾種と比較して20%のin vitro生物活性(U/mg蛋白質)を示すことが分かった。PEG化G−CSFのところで指摘したように、in vitroアッセイは生物学的活性を実証するのには有用であるが、特徴的な徐放性のために、化学的に修飾した蛋白質の活性がかなり低く出ることがある。In vivo生物学的活性はin vitro生物学的活性より高いかも知れない。
【0114】
D.N末端ブロック分子を除去した化学的修飾コンセンサスインターフェロン
予め除去したN末端ブロック分子の一部を持つ上述のIFN−conに対しても、本還元アルキル化を実施した。上述のように還元アルキル化法にはPEG 12000とPEG 20000の両方を用いた。
【0115】
分子の見かけの分子量は以下のとおりであった:
【0116】
【表6】

【0117】
FPLCイオン交換クロマトグラフィを使ったIFN−con 20kDA PEG結合体の分析では、3つのピークが現れた:
モノMPEG−IFN−con:総面積の66%(265.93mlで溶出)
蛋白質凝集物およびオリゴMPEG−IFN−con結合体:総面積の24%(238.42mlで溶出)
未反応のIFN−con:総面積の10%(328.77mlで溶出)。
【0118】
条件はこれ以上最適化しなかった。クロマトグラフィまたはその他の方法を使えば、モノPEG化物質を更に分離することができるかも知れない。
【0119】
本発明を好ましい実施例について説明したが、当業者には修正や変更が可能であることは理解されよう。従って添付の請求の範囲はその発明の範囲内にあるこういったすべての同等の変更を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の反応性アルデヒド基を有する水溶性ポリマーをタンパク質に結合させる方法であって、
(a)還元アルキル化反応の条件下、該タンパク質部分のリジン残基のε−アミノ基がプロトン化される一方でN−末端のα−アミノ基がプロトン化されないpH条件下で、タンパク質を水溶性ポリマーと反応させて、前記水溶性ポリマーを前記N−末端α−アミノ基に選択的に結合させ、
(b)反応生成物を得、次いで
(c)任意に、反応生成物を未反応部分から分離する、ことを含んでなる方法。
【請求項2】
前記ポリマーが医薬的に許容できる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーが、デキストラン、ポリ(n−ビニルピロリドン)、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコールホモポリマー類、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー類、ポリオキシエチル化ポリオール類およびポリビニルアルコール類からなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーがポリエチレングリコールである請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記還元アルキル化反応に、ホウ水素化ナトリウム、シアノホウ水素化ナトリウム、ホウ酸ジメチルアミン、ホウ酸トリメチルアミンおよびホウ酸ピリジンから選択される還元剤を使用する請求項1記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−215657(P2010−215657A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134726(P2010−134726)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【分割の表示】特願2005−286188(P2005−286188)の分割
【原出願日】平成7年2月8日(1995.2.8)
【出願人】(500049716)アムジエン・インコーポレーテツド (242)
【Fターム(参考)】