説明

N結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質

【課題】タンパク質の性質、活性に影響を与えずに、N結合型糖鎖の本数と結合位置を制御する方法の提供。
【解決手段】AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフを少なくとも1つ有するタンパク質において、AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つでThrがSerに置換されAsnにN結合型糖鎖が結合していないことを特徴とする、N結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質。(1)AsnXaaThr(ただし、XaaはPro以外のアミノ酸を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質に関する。詳細には、AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフを少なくとも1つ有するタンパク質において、AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つでThrがSerに置換されAsnにN結合型糖鎖が結合していないことを特徴とする、N結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質に関する。
(1)Asn Xaa Thr
(ただし、(1)で、XaaはPro以外のアミノ酸を示す。)
【背景技術】
【0002】
多くのタンパク質には翻訳後修飾として糖鎖付加がなされている。糖鎖付加の様式には2種類あって、タンパク質中のN(Asn)−X(Pro以外のアミノ酸)−S(Ser)/T(Thr)という配列中のAsnに糖鎖が付加される場合はN結合型糖鎖、タンパク質中のSer、Thrの水酸基を介して糖鎖が付加される場合はO結合型糖鎖とよぶ。一般に、N結合型糖鎖には上記のようなコンセンサス配列があるため、糖鎖付加の予測や制御がやりやすいといえる。
【0003】
有用糖タンパク質を組換えタンパク質として生産する際、糖鎖に何らかの機能がある場合は、糖鎖が確実にタンパク質に付加される必要がある。しかし、糖鎖が有効性に大きく影響を与えない場合は、むしろ、糖鎖が付加しないタンパク質を作成した方が糖鎖構造の不均一性を除去するので、純度および製品管理が容易になる。特に、一分子内に複数の糖鎖付加部位が存在する場合、有効性に寄与する糖鎖付加部位の糖鎖のみを残して、他の糖鎖付加部位の糖鎖を選択的に除去する方法はきわめて有用である。さらに、後述するように、糖鎖によってタンパク質機能が抑制されているような場合には、糖鎖を除去して機能向上を目指すことも重要である。
【0004】
N結合型糖鎖の場合、その付加の程度はコンセンサス配列の内容や数、タンパク質中の位置などによって影響をうけるため、糖鎖付加効率を改善する目的で、コンセンサス配列の改変や追加が検討されてきている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0005】
例えば、コンセンサス配列NXS/Tにおいて、X部分のアミノ酸を置換することによって糖鎖付加効率を改善することが可能である(非特許文献1参照)。しかし、置換するアミノ酸の種類によっては立体構造変化が大きくなり、タンパク質機能に影響を及ぼす恐れがある。また、目的にあった糖鎖付加効率を追求するためには、もともとのアミノ酸とプロリンを除く18種類のアミノ酸について検討する必要があり、手間がかかる。
【0006】
一方、コンセンサス配列NXS/Tにおいて、NXTのほうがNXSよりも糖鎖付加効率が高い場合があることが報告されている(Xは同じアミノ酸で、いずれの配列もタンパク質中の同じ位置にある場合)(非特許文献2〜5参照)。例えば、血液凝固因子Factor V(FV)が活性化されたFVaの場合、そのC2ドメインにあるコンセンサス配列は野生型ではNHSで、糖鎖が15−30%結合している状態にある。この配列をNHTに変えた場合、糖鎖の結合状態は90%程度に引き上がった(非特許文献3参照)。タンパク質に糖鎖をより多く結合させることによって、当該タンパク質の安定化や機能向上をはかる場合には、この方法は有効であると考えられる。しかし、この血液凝固因子FVaの場合では、C2ドメインに糖鎖がより結合している状態(FVa1)の方が、糖鎖が結合していない状態(FVa2)よりも膜リン脂質分子への結合能力が低く、リン脂質レベルの低い環境下ではプロコアグラント(procoagulant)活性が低いことが指摘されている(非特許文献3参照)。また、糖鎖がより多く結合しているFVの場合(FV1)、活性化プロテインCの活性発現に必要な補因子(cofactor)としての活性は、糖鎖が結合していないFV(FV2)よりも低い(非特許文献3参照)。すなわち、糖鎖を意図的に結合させないほうが、タンパク質の機能発現において都合がよい場合もある。
【0007】
このような場合、従来はコンセンサス配列NXS/Tにおいて、NをQ(Gln)やD(Asp)に変える、あるいはS/TをA(Ala)に変えることにより、糖鎖が全く付加されなくする手法が用いられてきた(非特許文献3、4参照)。これらはコンセンサス配列そのものを変えてしまう手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−86099号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Susan H. Shakin−Eshleman et al., J. Biol. Chem. 271, 6363−6366 (1996)
【非特許文献2】Ernst Bause et al., Biochem. J. 195, 639−644 (1981)
【非特許文献3】Gerry A. F. Nicolaes et al., Biochemistry 38, 13584−13591 (1999)
【非特許文献4】Atsushi Nishikawa et al., Biochem. J. 355, 245−248 (2001)
【非特許文献5】Lakshmi Kasturi et al., Biochem. J. 323, 415−419 (1997)
【非特許文献6】Marc Ribo et al., Biol. Chem. Hoppe−Seyler 375, 357−363 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、糖タンパク質の機能を改善するために、糖タンパク質の立体構造変化や諸性質への影響を最小限に抑えつつ、特定の部位だけに限定して、糖タンパク質のN結合型糖鎖の結合を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、N結合型糖鎖付加のコンセンサス配列であるNXT/S配列(XはPro以外のアミノ酸)において、NXTにはNXSより糖鎖が付加されやすく、かつNXSにはしばしば糖鎖が結合していないことに着目して、各種糖タンパク質上にある糖鎖が実際に結合しているNXT配列でTとSの交換を行い、その糖鎖付加への影響を検討した。その結果、驚くべきことにNXTからNXSへの変換で、極めて効果的に糖鎖付加効率が低下し、糖鎖が付加されなくなる場合があることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
<1> AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフを少なくとも1つ有するタンパク質において、
AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つでThrがSerに置換されAsnにN結合型糖鎖が結合していないことを特徴とする、N結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質。
(1)Asn Xaa Thr
(ただし、(1)で、XaaはPro以外のアミノ酸を示す。)
<2> <1>に記載のタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA。
<3> <2>に記載のDNAを含む組換えベクター。
<4> <3>に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
<5> <4>に記載の形質転換体により<1>に記載のタンパク質を製造する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、タンパク質中のN結合型糖鎖付加のコンセンサス配列NXTに糖鎖がすでに結合している場合、同じくN結合型糖鎖付加のコンセンサス配列であるにもかかわらずこれをNXSに変えることにより、その糖鎖付加部位の糖鎖付加効率を著しく減少させることができることを見出した。SとTはアミノ酸としての性質や大きさが類似していることから(SとTの違いは、Sの場合、β炭素には水酸基と2つの水素原子が結合しているが、Tの場合はこのうち1つの水素原子がメチル基になっているだけである)、タンパク質の立体構造や諸性質への影響を最小限に抑えつつ、糖鎖付加効率を減少させたタンパク質を調製することできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒト膵臓由来リボヌクレアーゼ1(RNase 1)の構造の特徴を示す模式図。
【図2】RNase 1に存在する各NXS/T配列の糖鎖付加状況を示すブロット。下線はアミノ酸を置換した部分。AAAはN結合型糖鎖が全く結合しない変異体。
【図3】N62:NMTをNMSにした場合のRNase 1全体の糖鎖付加状況の変化を示すブロット。下線はアミノ酸を置換した部分。*の位置のバンドはN結合型糖鎖付加以外の翻訳後修飾をうけたもの。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタンパク質は、AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフを少なくとも1つ有するタンパク質において、AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つでThrがSerに置換されAsnにN結合型糖鎖が結合していないことを特徴とする、N結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質である。
(1)Asn Xaa Thr
(ただし、(1)で、XaaはPro以外のアミノ酸を示す。)
【0016】
本発明のタンパク質としては、上記(1)のアミノ酸配列モチーフを有するタンパク質であれば特に限定はないが、例えばリボヌクレアーゼ、アミラーゼなどの各種酵素、インターロイキンやエリスロポエチン、FGF(繊維芽細胞増殖因子)といった各種サイトカイン、ホルモン、増殖因子などのタンパク質が挙げられる。
【0017】
N結合型糖鎖の結合の確認は、糖鎖除去反応前後の分子量変化を観察することにより行う。糖鎖除去反応に用いる酵素として、例えばペプチド:N−グリコシダーゼF(Peptide:N-glycosidase F、PNGase F)が好ましい。
【0018】
本発明のDNAは、元のタンパク質のアミノ酸配列において、ThrからSerへ置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列のDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase
chain reaction、PCR)を利用した部位特異的変異導入法などの方法により合成し、T4リガーゼを用いて各種組換えベクターに挿入する。
【0019】
本発明における組換えベクターは、特にその種類は限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミドやファージベクター)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0020】
好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて、本発明のDNAは、プロモーター等の転写に必要な要素が機能的に連結されている。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。また、これらの発現ベクターはアンピシリン耐性遺伝子などの適当な選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。発現ベクターの例としては、例えば、pBluescript II SK+ベクター(Stratagene)、pcDNA3.1/Myc-His ver. A(Invitrogen)などが挙げられるが、本発明に用いる発現ベクターはこれらに限定されるものではない。
【0021】
本発明のDNAは、遺伝子導入試薬、例えばリン酸カルシウムやリポソームを利用するもの、あるいはFuGene 6 transfection reagent(Roche)などの非リポソーム系トランスフェクション試薬などを用いて、あるいはエレクトロポレーション法やマイクロインジェクション法などにより、宿主細胞へ導入する。
【0022】
本発明における形質転換体として、細胞は糖鎖付加能を有する細胞、例えば、原核生物ではカンピロバクターやオリゴサッカリルトランスフェラーゼ遺伝子を導入された大腸菌など、また真核生物では、酵母、糸状菌、植物細胞、昆虫細胞、哺乳類由来培養細胞などが挙げられるが、遺伝子導入のしやすさ、タンパク質生産量の高さ、哺乳類型糖鎖が付加できる点などで、哺乳類由来培養細胞のうち、HEK293細胞、CHO細胞、COS−7細胞などを用いるのが特に好ましい。
【0023】
本発明の形質転換体を用いて本発明のタンパク質を製造する方法として、形質転換体の培養、タンパク質の取得、精製などの工程が挙げられる。形質転換体の培養は、37℃のCO2インキュベーター内で、遺伝子導入後一定時間(5〜15時間)までは10%牛血清含有培地にて行い、その後は目的タンパク質の精製を容易にするために無血清培地に交換して継続培養する(+9〜48時間)。目的タンパク質の取得は、当該タンパク質が分泌タンパク質で、培地中に分泌されているようであれば、培地を回収してタンパク質源とし、これをアフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーに供して精製する。目的タンパク質が培地中に分泌されず、細胞内に蓄積している場合には、細胞を回収し、ここに細胞溶解剤を加えるとともに超音波破砕により細胞を破砕して目的タンパク質を細胞溶解剤中に放出させ、これを適当な緩衝液などで希釈するなどしたものをタンパク質源として、上記と同様にして各種クロマトグラフィーにより精製する。
【0024】
本発明のタンパク質を製造する方法は、細胞を用いる方法に限定されるものではなく、無細胞タンパク質合成系によって製造することもできる。無細胞タンパク質合成系としては、例えば、コムギ胚芽、大腸菌、ウサギ網状赤血球、昆虫細胞などから調製したものが挙げられる。目的タンパク質をコードするDNAを逆転写が可能なベクターに組み込み、これより逆転写反応によって合成したmRNAを適当な無細胞タンパク質合成系に加えて目的タンパク質を合成する。そして、その反応液より目的タンパク質を上記と同様にして精製する。
【0025】
以下に記載する実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
ヒト膵臓由来リボヌクレアーゼ1(RNase 1)の場合
<方法>
本実施例ではヒト膵臓由来のリボヌクレアーゼ1(RNase 1)をモデルとして、N結合型糖鎖付加のコンセンサス配列NXS/TのS/T交換による糖鎖付加への影響を調べた。RNase 1には、NXS/T配列が3カ所存在するが(N62:NMT、N104:NSS、N116:NGS)(図1)、各部位の糖鎖付加効率は異なることが報告されている(非特許文献6参照)。
【0027】
まず、ヒト膵臓由来cDNA(Clontech)を鋳型として、プライマーNG112+、NG113−(配列表配列番号1、2)とPrimeSTAR HS DNA polymerase(TAKARA)を用いて、RNase1の全長cDNAをpBluescript II SK+ベクター(Stratagene)のEcoRVサイトにクローニングした。これよりEcoRI、XhoIで切り出したDNA断片をpcDNA3.1/Myc-His ver. A(Invitrogen)のEcoRI−XhoIサイトに挿入したものを、野生型RNase 1(TSS)の発現ベクターとした。また、N62:NMTのThrをSerに交換するためにはプライマーNG114+、NG115−(配列表配列番号3、4)の各プライマーの組み合わせと、PrimeSTAR HS DNA polymerase(TAKARA)を用いて、上記RNase 1 cDNAを含むpBluescript IIプラスミドを鋳型としてPCR法による変異導入でS/T交換を行った。
【0028】
さらに、コントロールとして各NXS/T配列のS/T部分をAlaに置換して糖鎖が付加されないようにした変異体(AAA)や、3カ所あるNXS/T配列のうち、2カ所に糖鎖が付加されないようにした変異体(SAA、TAA、ASA、AAS)は、プライマーNG130+、NG131−(配列表配列番号5、6、N62:NMA用)、プライマーNG132+、NG133−(配列表配列番号7、8、N104:NSA)、プライマーNG134+、NG135−(配列表配列番号9、10、N116:NGA用)の各プライマーの組み合わせを用いて、上記と同様にPCRによる変異導入を順次行って作製した。いずれの変異導入断片もEcoRI、XhoIで切り出した後、pcDNA3.1/Myc-His
ver. AのEcoRI−XhoIサイトに挿入して発現ベクターとした。
【0029】
それぞれの発現ベクターはFuGene 6 transfection reagent(Roche)を用いてHEK293細胞に導入した。トランスフェクション後、HEK293細胞は37℃のCO2インキュベーターで一晩培養し、ここで培地交換を行って(3.5cm dish、MEM培地+10%牛血清2mlをMEM培地1mlに交換)、さらに一定時間培養を行った(トランスフェクションから24時間後まで)。なお、RNase 1は本来分泌タンパク質であるが、HEK293細胞ではほとんど分泌されなかったため、細胞内に存在している組換えRNase 1の糖鎖付加状況を解析した。培養終了後、細胞をPBSで洗浄し、これを回収して0.1mlのTNE lysis buffer(10mM Tris−HCl、pH7.8、150mM NaCl、1mM EDTA、1% NP40、0.1% SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)に懸濁し、超音波処理を施して溶解した。この溶液を遠心して、その上清15mlを5mlの4×SDS sample bufferと混合し、煮沸処理後、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した。
【0030】
泳動終了後、ウェスタンブロットを行うため、ゲル中のタンパク質はブロッティング装置を用いてPVDFメンブレン(Immobilon-P、Millipore)に転写し、これを3%スキムミルク含有TBS−T buffer内で室温1時間震盪してブロッキング処理を行った。つぎにこのメンブレンを一次抗体溶液(抗myc-tag抗体、MBLを3%スキムミルク含有TBS−T bufferで1000倍希釈したもの)に浸漬させ、室温で1時間震盪した。その後、メンブレンを3%スキムミルク含有TBS−T bufferで2回洗浄し、二次抗体溶液(HRP-conjugated抗マウスIgG抗体、Zymedを3%スキムミルク含有TBS−T bufferで5000倍希釈したもの)に浸漬させ、室温で1時間震盪した。そして、メンブレンを3%スキムミルク含有TBS−T bufferで2回洗浄し、SuperSignal West Femto Maximum Sensitivity Substrate(Thermo)を用いて化学発光反応を行い、Chemidoc XRS(Bio-Rad)で陽性バンドを検出した。
【0031】
<結果>
まず、HEK293細胞におけるRNase 1に存在する各NXS/T配列の糖鎖付加状況を調べるため、TAA、ASA、AASの各変異体、およびN62:NMTをNMSに変換した変異体SAAの糖鎖付加状況を解析した(図2)。これらの変異体では、RNase 1のアミノ酸配列中に3カ所存在するNXS/T配列のうち、糖鎖が付加し得るのはいずれかの1カ所だけである。解析の結果、通常、N62:NMT、N104:NSSには糖鎖が付加されるが、N116:NGSには糖鎖が付加されにくいことが判明した。このとき、N62:NMTをNMSにすると、この部位に糖鎖が付加されにくくなった。
【0032】
野生型のRNase 1(TSS)の場合、糖鎖が1〜3本結合しているグリコアイソフォーム(glycoisoforms)が観察された(図3)。そこで、N62:NMTのS/T交換により、RNase 1全体での糖鎖付加パターンがどのようになるのかを調べてみた。その結果、野生型のN62:NMTのThrをSerに変えた場合(SSS)、主に観察されたものは糖鎖が1本結合しているグリコアイソフォーム(glycoisoform)で、糖鎖が2本結合しているものもわずかに観察された。以上の結果は、糖タンパク質中にある任意のN結合型糖鎖付加のコンセンサス配列NXTをNXSに変換をすると、糖鎖付加部位によっては糖鎖付加効率を大きく変えることができ、これを利用して糖タンパク質に結合する糖鎖の数を減少させることできることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のN結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質は、性質、活性を保持した医薬品などとして利用可能である。N結合型糖鎖が機能に影響しない場合は、その本数を減らすことにより、タンパク質の均一性(純度)が向上し、品質管理が容易になると考える。また、N結合型糖鎖が機能を抑制する場合には、その本数を減らすことにより、タンパク質の機能を向上できると考える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフを少なくとも1つ有するタンパク質において、
AsnにN結合型糖鎖が結合した下記(1)のアミノ酸配列モチーフの少なくとも1つでThrがSerに置換されAsnにN結合型糖鎖が結合していないことを特徴とする、N結合型糖鎖の本数を制御したタンパク質。
(1)Asn Xaa Thr
(ただし、(1)で、XaaはPro以外のアミノ酸を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA。
【請求項3】
請求項2に記載のDNAを含む組換えベクター。
【請求項4】
請求項3に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体により請求項1に記載のタンパク質を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−70711(P2012−70711A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220057(P2010−220057)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】