説明

NADPHオキシダーゼ阻害剤

【課題】NADPHオキシダーゼ阻害剤を提供すること。
【解決手段】一般式[I]:


(但し、Rは炭素数5〜7のアルキル基を表す。)
で示されるプロジギオシン類化合物またはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有するNADPHオキシダーゼ阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NADPHオキシダーゼ阻害剤、並びに新規プロジギオシン誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好中球(多形核好中球性顆粒球)はもっぱら貪食を行う細胞であり、体内に侵入してくる微生物に対する防御機構の最前線に位置している。その作用は、走化性・貪食・殺菌の3つの過程に分けられる。細胞内における殺傷の機構は、毒性のある酸素代謝物(OとH)の生産と、顆粒球に貯蔵されていた殺菌性タンパク質のファゴソーム内への放出という機能に基づいている(非特許文献1)。毒性のある酸素代謝物の生産は、NADPHオキシダーゼが引き起こす。
【0003】
NADPHオキシダーゼは、NADPHから電子を2つ取り去り、それを酸素分子に渡すことにより、O(以下、活性酸素ともいう)を2分子生産する。このNADPHオキシダーゼは多数の構成因子からなることが明らかとなっている(非特許文献2)。その構成因子は好中球の膜に存在するgp91phox(phox:phagcyte oxidase)およびp22phox、細胞内に存在するp47phox、p67phox、p40phoxおよびRacタンパク質からなる。
【0004】
マクロファージの免疫グロブリンの定常部に対する高親和性受容体(FcγRI)や接着分子(Mac−1)にリガンドが結合すると、ホスホリパーゼC(PLCβ)が活性化されて、DAG(diacylglycerol)とIP3(イノシトール3リン酸)が生成する。同時に、プロテインカイネースC(PKC)が細胞質から細胞膜へと移行する。続いて、p47phoxがリン酸化され、NADPHオキシダーゼのその他の構成因子が集合する。リガンドが結合したFcγ受容体はGTPアーゼであるRacを活性化させ、これを介してp67phoxが細胞膜へと移行する(非特許文献3)。p47phoxのSH3ドメインとp22phoxのプロリンに富む領域との結合を介して、p47phoxとNADPHオキシダーゼが結合し、集合体を形成する。前記集合体により、NADPHからOへと電子が効率よく伝達されることが可能になる。このように、p47phoxのリン酸化によるコンホメーション変化はNADPHオキジダーゼの活性化において大きな役割を果たしている。しかし、PKCとp47phoxがトリガーになり、この両者の相互作用がNADPHオキシダーゼの活性化に重要な役割を演じているが、未だ、詳細は不明である。NADPHオキシダーゼ活性化の初期段階で作用するRacタンパク質およびp47phoxの活性化を阻害する物質を見いだすことができれば、NADPHオキシダーゼの活性化に関わるより詳しい情報が得られ、NADPHオキシダーゼの活性化がトリガーになる疾患の治療または予防につながる可能性がある。
【0005】
一方、式[I−b]:
【化1】

で示されるプロジギオシンを含むプロジギオシン類色素(赤色色素)は、抗癌作用、抗マラリア活性、抗微生物活性があることが報告されていることから、その薬効が期待されている(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−286284号公報
【特許文献2】特開2005−261309号公報
【非特許文献1】Elsevier Biomedical Press,Amsterdam,1987,1-3.
【非特許文献2】Journal Biological Chemistry,1992,16767-16770.
【非特許文献3】Science,1998,1721.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、NADPHオキシダーゼ阻害剤を提供することである。本発明の他の目的はNADPHオキシダーゼ阻害作用を有する新規化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ハヘラ(Hahella)属に属するMS−02−063菌株(NBRC102623)によって産生されるプロジギオシン類化合物が、p47phoxおよびRacタンパク質の活性化を阻害し、優れたNADPHオキシダーゼ阻害作用を発揮することを見いだし、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1] 一般式[I]:
【化2】

(但し、Rは炭素数5〜7のアルキル基を表す。)
で示されるプロジギオシン類化合物またはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有するNADPHオキシダーゼ阻害剤、
[2] Rがペンチル基である前記[1]記載のNADPHオキシダーゼ阻害剤、
[3] Rがヘプチル基である前記[1]記載のNADPHオキシダーゼ阻害剤、
[4] 式[I−a]:
【化3】

で示されるプロジギオシン誘導体またはその薬理的に許容される塩、
[5] 式[I−a]:
【化4】

で示されるプロジギオシン誘導体を産生する能力を有するハヘラ属微生物を培養し、生成した式[I−a]で示されるプロジギオシン誘導体を単離することを特徴とするプロジギオシン誘導体の製造方法、および
[6] ハヘラ(Hahella)属微生物がハヘラ属に属するMS−02−063菌株(NBRC102623)である前記[5]に記載のプロジギオシン誘導体の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る一般式[I]で示されるプロジギオシン類化合物(以下、略して化合物[I]ということがある。)またはその薬理的に許容される塩、あるいはそれを含有する組成物(抽出物を含む)は、マクロファージに作用し、ホルボールミリステートアセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate:PMA)で活性化するNADPHオキシダーゼ活性に対して、優れた阻害作用を有し、医薬品やその関連品、試薬として有効利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のNADPHオキシダーゼ阻害剤は、一般式[I]:
【化5】

(但し、Rは前記と同一意味を有する。)
で示されるプロジギオシン類化合物またはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有する。
【0012】
上記一般式[I]で示されるプロジギオシン類化合物の具体例としては、Rがペンチル基である式[I−b]:
【化6】

で示されるプロジギオシンおよびRがヘプチル基である式[I−a]で示されるプロジギオシン誘導体が好適に挙げられる。これらのうち、式[I−b]で示されるプロジギオシンは既知化合物であり、式[I−a]で示される化合物は新規化合物である。
【0013】
本発明のプロジギオシン類化合物は、化合物[I]を産生する能力を有するハヘラ属微生物、例えばハヘラ属に属するMS−02−063菌株((独)製品評価技術基盤機構に寄託番号NBRC102623として寄託されている。)を用いて製造することができる。
【0014】
かかる微生物を培養する方法は、特に制限されるべきものではない。本発明に用いる微生物培養培地は、通常の微生物の培養に使用される培地であれば好ましく用いることができ、例えば炭素源、窒素源、無機塩類およびその他の栄養物質等を含有する天然培地または合成培地等が用いられる。
【0015】
炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、スクロース、マンノース、マルトース、マンニトール、キシロース、ガラクトース、澱粉、糖蜜、ソルビトールまたはグリセリン等の糖質および糖アルコール、酢酸、クエン酵、乳酸、フマル酸、マレイン酸またはグルコン酸等の有機酸、エタノールまたはプロパノール等のアルコール等が挙げられる。また、所望によりノルマルパラフィン等の炭化水素等も用いることができる。炭素源は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。これら炭素源の培地における濃度は通常約0.1〜10%(wt)程度である。
【0016】
窒素源としては、窒素化合物、例えば塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機もしくは有機アンモニウム化合物、尿素、アンモニア水、硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。また、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、NZ−アミン、蛋白質加水分解物またはアミノ酸等の含窒素有機化合物等も使用可能である。窒素源は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。窒素源の培地濃度は、使用する窒素化合物によっても異なるが、通常約0.1〜10%(wt)程度である。
【0017】
無機塩類としては、例えばリン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硝酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸コバルトまたは炭酸カルシウム等が挙げられる。これら無機塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。無機塩類の培地濃度は、使用する無機塩によっても異なるが、通常約0.01〜1.0%(wt)程度である。
【0018】
栄養物質としては、例えば肉エキス、ペプトン、ポリペプトン、イーストエキス、乾燥酵母、コーンスティープリカー、脱脂粉乳、脱脂大豆塩酸加水分解物または動植物若しくは微生物菌体のエキスやそれらの分解物等が挙げられる。栄養物質の培地濃度は、使用する栄養物質によっても異なるが、通常約0.1〜10%(wt)程度である。さらに、必要に応じて、ビタミン類を添加することもできる。ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等が挙げられる。
好ましい微生物培養培地としては、YPG培地−30%人工海水(イースト抽出物1.25%、ペプトン1.25%、グルコース3%)等が挙げられる。
【0019】
培養温度は、15℃〜37℃までの培養が可能であるが、好ましくは20℃〜30℃である。また、培養時のpHは、5.5〜10、好ましくはpH6.0〜9.0である。さらに、培地の塩濃度は、NaCl量として0.5〜3.0%において増殖可能であるが、好ましくは0.5〜1.5%であり、より好ましくは約1%である。培養期間は、一晩以上、好ましくは1.5日程度であるが、この培養日数も限定されるものではない。
【0020】
産生されたプロジギオシン類化合物[I]を単離・回収する方法は、特に制限されるべきものではない。例えば、以下の方法で行うことができる。なお、詳細な抽出手順については実施例で説明する。
【0021】
先ず、MS−02−063菌株を固体培地に播種しコロニーを形成させ、液体培地に植菌後、培養した培養液を好ましくは凍結乾燥する。次いで、得られた凍結乾燥試料に適当な抽出溶媒を加え、赤色物質(プロジギオシン類色素)を抽出する。使用される抽出溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1〜8までのアルコール類、クロロホルム、酢酸エチル等のエステル系有機溶媒、または水と前記アルコールとの混合溶液が挙げられ、とりわけアルコールを使用することが好ましく、最も好ましくは、メタノール、エタノールを使用する。抽出は、例えば、凍結乾燥試料に適当量の所望の抽出溶媒を加えて、超音波処理した後、遠心分離し、その上清を得る。必要に応じて、残渣に新たに抽出溶媒を加え、同様の手法を1〜2回繰り返し、抽出してもよい。
【0022】
かくして得られる溶媒抽出物中には、通常、[I−a]と[I−b]とが存在しているが、これらはカラムクロマトグラフィーなどの既知の分離精製方法に付することにより、簡単に単離することができる。かくして得られる化合物[I−a]と[I−b]は、所望より、その薬理的に許容される塩とすることができる。
【0023】
薬理的に許容される塩は、薬理的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等を包含する。薬理的に許容される酸付加塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、臭化水素塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、薬理的に許容される金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩も挙げられ、薬理的に許容される有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の付加塩、薬理的に許容されるアミノ酸付加塩としては、リジン、グリシン、フェニルアラニン等の付加塩が挙げられる。
【0024】
本発明の阻害剤が作用する細胞としては、特に限定されることなく、NADPHオキシダーゼ活性を発現する細胞全てが含まれる。例えば、単球、マクロファージ、血管内皮細胞又は好中球が挙げられる。
【0025】
本発明の阻害剤は、NADPHオキシダーゼによって生じるフリーラジカルに起因する疾患の治療に優れた効果を発揮する。本発明の阻害剤が適用できるフリーラジカルに起因する疾患としては、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、小児喘息、食物アレルギー、薬物アレルギー、蕁麻疹などのアレルギー疾患、パーキンソン病、脳梗塞、白内障、てんかん、脊髄損傷、動脈硬化、未熟児網膜症腎障害、消化性潰瘍、膵炎、潰瘍性大腸炎、心筋梗塞、成人呼吸窮迫症候群、肺気腫、慢性関節リウマチなどの膠原病、血管炎、浮腫、糖尿病合併症、紫外線障害、高山病、ポルフィリン血症、熱傷、凍傷、接触性皮膚炎、ショック、多臓器不全、DIC、癌、老化などの疾患が挙げられる。
【0026】
本発明の式[I]で示されるプロジギオシン類化合物またはその薬理的に許容される塩は、単独で、または薬理的に許容される担体と配合し、注射剤(皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内注射)、軟膏剤、坐剤、エアゾール剤等による非経口投与又は錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁液剤等による経口投与をあげることができる。本発明の化合物[I]またはその薬理的に許容される塩を含有するNADPHオキシダーゼ阻害剤は、全組成物の重量に対して、本発明に係る化合物[I]を通常0.01〜10重量%、好ましくは、0.1〜1重量%を含有する。
【0027】
薬理的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。賦形剤の好適な例としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。滑沢剤の好適な例としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。結合剤の好適な例としては、例えば結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。溶剤の好適な例としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などが挙げられる。溶解補助剤の好適な例としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤の好適な例としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、などの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などが挙げられる。等張化剤の好適な例としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。無痛化剤の好適な例としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。防腐剤の好適な例としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤の好適な例としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0028】
本発明の化合物[I]またはその薬理的に許容される塩の臨床的投与量は、対象者の性別、年齢、体重、状態(症状)によっても異なるが、通常効果的な投与量は、成人一日1〜500mg、好ましくは、10〜100mg程度である。しかし必要により上記の範囲外の量を用いることもできる。
【0029】
本発明の阻害剤の保存は、光安定性が悪く、遮光瓶等を用いて保存するのが望ましい。しかし、熱安定性に優れており、長期間室温保存が可能であるが、低温(4〜10℃)で保存した方が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示してさらに具体的に本発明を説明する。以下は代表的な実施例を示すものでこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0031】
[実施例]化合物[I−a]および[I−b]の製造
150mlのYPG培地−30%人工海水(イースト抽出物1.25%、ペプトン1.25%、グルコース3%)の入った500mlバッフルフラスコ4本に、すでにYPG寒天培地−30%人工海水で前培養したMS−02−063菌株を1エーゼ植菌し、2日間28℃で振盪培養し、赤色物質(プロジギオシン類色素)が生成した。
次いで、培養液を遠心管に集め、等量のメタノールを加え、遠心分離(5000rpm、20分)により、上清を回収した。この操作を繰り返し、完全に赤色物質を回収した。この回収液をエバポレーターおよび凍結乾燥により、濃縮乾固した。
得られた濃縮乾固物に適当量のクロロホルムを加え、遠心分離(5000rpm、20分)により、沈澱物を除去後、ロータリーエバポレーターで蒸留濃縮した。この試料をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(商品名:セファデックスLH−20カラム、アマシャム社製)に供し、赤色部分のフラクションを回収し、更にそのフラクションを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離、精製した。
得られたプロジギオシン類色素は2種類存在し、それぞれをマススペクトルおよびNMRで測定した結果、化合物[I−a]およびプロジギオシン([I−b])であることが確認された。
【0032】
化合物[I−a]のNMR(solvent:CDCl,reference:TMS=0ppm):
【表1】

【化7】

【0033】
[試験例1]NADPHオキシダーゼ活性に対する阻害活性の測定
ホルボールミリステートアセテート(phorbol 12-myristate 13-acetate:PMA)で活性化されたマクロファージを用いて、化学発光を測定することにより活性酸素の産生阻害活性を測定した。
【0034】
(マクロファージ細胞懸濁液の調製)
マウス単球由来細胞株(マウスマクロファージ系株化細胞)RAW264.7(ATCC No.TIB71)を培養した。生育培地としては、RPMI−1640培地に抗生物質(Benzyl Penicilin Potassium、Streptomycin Sulfate)を100μg/mlとなるように添加し、さらに56℃で30分熱処理した牛胎児血清(FBS)を10%(v/v)添加したものを用いた。
細胞の培養は次のようにして行った。すなわち、セラムチューブ中の細胞懸濁液凍結品(10%DMSOを含む生育培地中にて−80℃に保存されているもの)を融解し、15mlチューブに移し、これに生育培地を加えて室温にて遠心分離(2000rpm、10分)し、上清を除いた。次いで約5mlの生育培地を加えて細胞を分散させ、培養フラスコ(25cmプラスチックフラスコ、ファルコン社製)に移し、37℃、5%COガス培養器にて培養を行った。一晩放置し、細菌等の混入がないこと、及び細胞が培養フラスコの底面に接着していることを確認して、培地交換及び継代培養を行った。
継代培養した後、フラスコ内の生育培地を除き、セルスクレーパーでフラスコ底面から細胞を剥がしてから、11mMグルコース含有生理食塩水を加え、マクロファージ(RAW264.7)細胞懸濁液を調製した。
【0035】
(試験化合物の希釈)
試験化合物として実施例で得られた化合物[I−a]および[I−b]を用いた。試験化合物を10mg/mlとなるようにメタノールに溶解し、11mMグルコース含有生理食塩水で適切な濃度に希釈調製した。
【0036】
(試験化合物の添加)
上記のように作製したマクロファージ(RAW264.7)細胞懸濁液を、平底ホワイト96ウェルプレートに1ウェルあたりの細胞数が2×10となるように播種した。化学発光プローブとして終濃度10μMのL−012(和光純薬)を添加した。試験化合物を50μMから2段階希釈したサンプル溶液を添加し、37℃で3分間インキュベートした。
【0037】
(活性酸素の産生阻害活性の測定)
次いで、各ウェルに終濃度0.1μMとなるようにPMAを添加し、NADPHオキシダーゼを活性化させた。各ウェルを96ウェル発光プレートリーダーで発光強度を30分間測定した。各サンプルの30分間の発光強度を積算し、比較した。結果を図1に示す。なお、試験化合物無添加のウェルの発光強度を活性酸素産生活性100%とした。
図1から明らかなように、試験化合物無添加に比べて、試験化合物は、活性酸素の産生を濃度依存的に阻害することが確認された。
【0038】
[試験例2]活性酸素消去活性の測定
試験例1記載のPMA添加後の化合物[I−a]含有マクロファージ(RAW264.7)細胞懸濁液を用いて、活性酸素消去活性を測定した。活性酸素はキサンチン−キサンチンオキシダーゼを用いて発生させた。スピン捕捉剤であるDMPO(5,5-Dimethyl-1-Pyrroline-N-Oxide)の存在下で活性酸素が存在するとDMPO−OOHが生成し、安定的に存在する。そのDMPO−OOHを電子スピン共鳴法(ESR)により測定した。結果を図2に示す。なお、陽性コントロールとしては、スーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase:SOD)を用いた。
図2から明らかなように、SODはキサンチン−キサンチンオキシダーゼで発生した活性酸素を消去したのに対し、化合物[I−a]は高濃度の場合でも活性酸素を消去せず、SOD様の活性を示さないことが確認された。
【0039】
[試験例3]PKC活性の測定
試験例2と同様に、試験例1記載のPMA添加後の化合物[I−a]含有マクロファージ(RAW264.7)細胞懸濁液を用いて、PKCに対する化合物[I−a]の影響をタンパク質キナーゼアッセイキット(商品名:Protein Kinase Assay Kit、MBL製)により測定した。結果を図3に示す。
図3から明らかなように、化合物[I−a]はPKC活性に対して影響を示さないことが確認された。
【0040】
[試験例4]生成したNADPHオキシダーゼ構成因子のタンパク質アッセイ
試験例1記載のマクロファージ(RAW264.7)細胞懸濁液を用いて、NADPHオキシダーゼ構成因子に対する化合物[I−a]の影響を、イムノブロット法により測定した。なお、マクロファージ(RAW264.7)細胞懸濁液にPMAで刺激したものを陽性コントロール、無処理を陰性コントロールとした。
上記細胞懸濁液1000μL(細胞数2×10個)に化合物[I−a]を0.1μM、1μMまたは10μMになるように添加し、終濃度0.1μM PMAで刺激した。細胞を遠心分離(2000rpm、10分)により回収し、冷生理食塩水で2回洗浄した。1%Triton−X100を含むHEPES(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperadinyl]ethansulfonic acid)緩衝液に懸濁し、氷冷中で10秒間超音波処理した。超音波処理物を超遠心(10万G、30分)により、細胞質画分と細胞膜画分に分離した。その細胞膜画分をローディング緩衝液(商品名:3xLaemmli sample buffer、Serva Electrophoresis GmbH社製)に懸濁し、5分間煮沸した。その溶解物を遠心し、非溶解物質を取り除いた。あらかじめ調べておいたタンパク濃度からタンパク量を一定になるように適当量のサンプルをSDS−PAGEに供した。その分離したタンパク質はタンパク質用転写膜(PolyVinylidine DiFluoride:PVDF)に転写し、一次抗体として、抗gp91phox、抗p47phox、抗p40phox、抗Racのウサギモノクローナル抗体で処理した。二次抗体に西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase:HRP)を結合したウサギIgGヤギ抗体を用いた。各抗体で処理したタンパク質用転写膜に抗原−抗体複合体を処理し、発光・蛍光撮影出力装置(商品名:AE-6971FCライトキャプチャー、ATTO社製)で各タンパク質を検出した。p47phoxおよびRacタンパク質に対する化合物[I−a]の影響を図4に示す。
図4から明らかなように、化合物[I−a]を添加した場合、濃度依存的にp47phoxおよびRacタンパク質の活性化が阻害されることが確認された。
【0041】
上記試験例1〜4によって、化合物[I−a]および[I−b]は生成した活性酸素を過酸化水素に変換するのではなく、活性酸素を生成するNADPHオキシダーゼに直接影響することが確認された。すなわち前記化合物はPKCの活性には影響せず、p47phoxおよびRacタンパク質の細胞膜画分への会合を著しく抑制することにより、NADPHオキシダーゼの合成を阻害するため、活性酸素が生成されないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の阻害剤によれば、NADPHオキシダーゼ構成因子、特にp47phoxおよびRacタンパク質のNADPHオキシダーゼ細胞膜画分への会合を阻害することにより、NADPHオキシダーゼの活性化を阻害することができ、NADPHオキシダーゼの活性化がトリガーになる疾患の予防または治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、化合物[I−a]および化合物[I−b]のNADPHオキシダーゼに対する活性酸素産生活性(%)を示す。
【図2】図2は、電子スピン共鳴法(ESR)を用いて、キサンチン−キサンチンオキシダーゼにより産生された活性酸素に対するSODおよび化合物[I−a]の活性酸素消去活性(%)を示す。
【図3】図3は、マクロファージ由来プロテインカイネースC(PKC)の活性を示す。上から、PMA(100nM)を添加した場合のPKCの活性、化合物[I−a](10μM)を添加した場合のPKCの活性、PMA(100nM)+化合物[I−a](10μM)を添加した場合のPKCの活性、無処理の場合のPKCの活性を示す。
【図4】図4は、化合物[I−a]により、発現が抑制されたマクロファージ由来NADPHオキシダーゼ構成因子の定量結果を示すSDS−PAGEの図である。左から、PMA(1μM)を添加した場合、PMA(1μM)+化合物[I−a]0.1μM)を添加した場合、PMA(1μM)+化合物[I−a](1μM)を添加した場合、PMA(1μM)+化合物[I−a](10μM)を添加した場合、無処理の場合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]:
【化1】

(但し、Rは炭素数5〜7のアルキル基を表す。)
で示されるプロジギオシン類化合物またはその薬理的に許容される塩を有効成分として含有するNADPHオキシダーゼ阻害剤。
【請求項2】
Rがペンチル基である請求項1記載のNADPHオキシダーゼ阻害剤。
【請求項3】
Rがヘプチル基である請求項1記載のNADPHオキシダーゼ阻害剤。
【請求項4】
式[I−a]:
【化2】

で示されるプロジギオシン誘導体またはその薬理的に許容される塩。
【請求項5】
式[I−a]:
【化3】

で示されるプロジギオシン誘導体を産生する能力を有するハヘラ属微生物を培養し、生成した式[I−a]で示されるプロジギオシン誘導体を単離することを特徴とするプロジギオシン誘導体の製造方法。
【請求項6】
ハヘラ属微生物がハヘラ属に属するMS−02−063菌株(NBRC102623)である請求項5記載のプロジギオシン誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−231060(P2008−231060A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75564(P2007−75564)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】