説明

NC工作機械のモニタ画面表示装置

【課題】工作機械のカラーモニタに表示される情報の配色を切替可能にした工作機械に関し、種々の色の見え方をする人に、より見やすい画面を表示することで、総てのオペレータに使いやすい工作機械を提供する。
【解決手段】工作機械のNC装置の補助記憶装置5に色弱者用に複数のカラーパターン(色の組合わせ)を持つカラーテーブル13を登録し、個々のオペレータがカラーテーブル変更画面に表示される複数のカラーパターンの中から一つを任意に選択できるようにし、一般色覚者および色弱者にモニタの表示情報が正確に伝わるようにする。カラーパターン選択画面には、配色例を表示し、また、現在選択されているカラーパターンで使用している色を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加工されるワークの形状、現在の加工状態、操作手順、設定値の入力画面などをカラーモニタに表示するようにした工作機械に関するもので、カラーモニタに表示される情報の配色を切替可能にした工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機械の制御盤にカラーモニタが採用され、オペレータへの情報を表示し、またオペレータに操作や処理の選択を促す画面もカラー表示されるようになってきている。この傾向は、工作機械の操作盤に設けられているモニタ(タッチパネル)でも例外でないが、情報がカラーで表示された場合、色弱者など、色彩に対する感覚が異なるオペレータが操作したときに情報を読み取れなかったり、誤操作する危険がある。
【0003】
このような問題に関し、特許文献1には、ユーザの使用環境に対応した操作画面を選択可能に装備することにより、ユーザの使い勝手に対応した適切な操作画面を提供することを課題として、画面のメニューに標準キー、弱視用キー、色弱用キー、高齢者用キー、子供向用キーを選択可能に表示し、色弱用キーが押下された場合には、カラー画面を使わずにすべて白黒表示で表現できる画面にする技術が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、色盲および色弱者も含んだユーザに対して、見やすく、誤解のない画像表示を図ることを課題として、あらかじめ登録された色盲および色弱者にとって誤認傾向のある色に関する情報を参照して、外部から入力された画像データに誤認要因となる色が含まれているか判断する判断部と、色盲および色弱者にとって誤認傾向のある色に関する情報を参照して、判断部により誤認要因が含まれていると判断された画像データの色を所定の色に変換する画像変換部と、画像変換部により変換した画像データを表示する表示部を備えることを特徴とする画像形成装置が示されている。
【特許文献1】特開2004−110592号公報
【特許文献2】特開2006−246072公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色の感じ方が一般と異なる色弱者と称される人は、日本では男性の20人に1人、日本全体では300万人以上いるとされている。上記特許文献で提案されているように、色弱者が見やすい画面を表示できるようにすることは、誰にとっても使いやすい機械を提供する観点からも重要なことである。しかし、色弱者と言っても色の見え方は様々で、従来のように単一の画面、あるいは単一の色変換で対処する方法では、総ての色弱者にとって見やすい表示にはならない。人間の目の網膜にあるL(赤)、M(緑)、S(青)の3種類の錐体のうち、すべて揃っているC型の人の他に、3種の錐体のうち赤い光を主に感じるL錐体が無い人(P型強度)と、L錐体の分光感度がずれてM錐体と似ている人(P型弱度)の人がおり、P型強度の人はC型との見え方の差が大きく、P型弱度の人はP型強度とC型との中間の色覚になる。同様に、D型色覚には、緑の光を主に感じるM錐体が無い人(D型強度)と、M錐体の分光感度がずれてL錐体と似ている人(D型弱度)の人がおり、また、青い光を主に感じるS錐体が無いT型の人、錐体を1種類しか持たない人や、錐体が全く無く杆体しか持たないために色を明暗でしか感じることができないA型と呼ばれる人もいる。
【0006】
これら5種類7タイプの色覚以外に、目の疾患によっても色の見え方は変化する。例えば白内障は目の水晶体が白く濁る疾患で、濁り方が激しいと短波長の青〜緑の光を感じることができなくなり、光が散乱するので像がぼやけて見える。また、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症は、網膜の視細胞が少なくなる疾患で、視力が低下すると共に3種の錐体のうち数が少ないS錐体が一番影響を受けるため、T型色覚に近い見え方になる。そして、これらの眼の疾患は人によって程度が大きく異なり、画面の見え方も異なっている。
【0007】
この発明は、種々の色の見え方をする人に、より見やすいモニタ画面を表示することにより、工作機械の誤設定や誤操作の発生を低減し、総てのオペレータにより使いやすい工作機械を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
工作機械のNC装置の補助記憶装置5に色弱者用に複数のカラーパターン(色の組合わせ)を持つカラーテーブル13を登録し、個々のオペレータがカラーテーブル変更画面に表示される複数のカラーパターンの中から一つを任意に選択できるようにし、一般色覚者および色弱者にモニタの表示情報が正確に伝わるようにする。色弱者用の複数のカラーパターンは、例えばP型色弱者用カラーパターン、D型色弱者用カラーパターン、T型色弱者用カラーパターンなどである。これらの色弱者用カラーパターンの他に、一般色覚者用のカラーパターンがデフォルトパターンとして登録される。
【0009】
NC装置の補助記憶装置5には、カラーパターンが異なる複数のカラーテーブル13が登録されている。ユーザ(個々のオペレータ)は、登録された複数のカラーパターンから任意の一個を選択できる。カラーパターンを選択するときに表示されるカラーパターン選択画面には、配色例を表示し、また、現在選択されているカラーパターンで使用している色を表示する。カラーパターンには、複数のものが予め設定されており、ユーザーがその色の組合わせを変更して登録することもできるようにしてある。
【0010】
この出願の請求項1の発明に係るNC工作機械のモニタ画面表示装置は、補助記憶装置5に登録された複数のカラーテーブル13と、カラーテーブル変更画面を表示する画面表示手段12とを備え、前記複数のカラーテーブルは、色弱者に対する複数のカラーテーブルを含んでおり、画面表示手段12は、カラーテーブル変更画面に、複数のカラーテーブルからその一つを選択するためのボタン21・・・と、現在使用しているカラーテーブルの色の組合わせ及び選択されたカラーテーブルの色の組合わせをプレビューする色一覧20とをモニタ7に表示することを特徴とするNC工作機械のモニタ画面表示装置である。
【0011】
また、この出願の請求項2の発明に係るモニタ画面表示装置は、前記手段を備えたNC工作機械のモニタ画面表示装置において、現在主記憶装置4に呼び出して使用しているカラーテーブルの色の組合わせ一覧20と、色選択ボタン23・・・と、選択された色を変更する色変更ボタン24・・・とを含む色変更画面を表示する前記画面表示手段12と、色変更プログラムとを備え、色変更プログラムは、色選択ボタン23で選択された色に対応するカラーIDに対応するカラーコードを色変更ボタン24で指令される色のカラーコードに変更することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
工作機械のモニタ上で当該モニタに表示される情報のカラーパターン(色の組合わせ)を変更できるため、一般色覚者および種々の色感を有する色弱者に情報を正確に伝達できる。また、予め色弱者用の複数のカラーパターンが登録されているため、カラーパターンの選択で各型の色弱者が簡単に自分に合ったカラーパターンに変更できる。
【0013】
また、請求項2の発明によれば、個々のカラーパターンについて、組合わされてる個々の色を変更できるため、配色の微調整が可能であり、色弱者の個人差がある場合にも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照してこの出願の発明を具体的に説明する。図1は、この発明の一実施例のハードウェア構成図である。図において、1は工作機械、2はそのNC装置、3はNC装置2のCPU(中央演算処理装置)、4は主記憶装置(メモリ)、5はハードディスクなどの補助記憶装置、6は操作盤、7はタッチパネル機能を有するモニタ、8はシリアルインターフェースである。
【0015】
NC装置の補助記憶装置5には、加工プログラムのコードを順次読取って対応する指令信号を工作機械1に出力するコード解析指令手段11が保存されており、ワークの加工に必要な加工プログラム10が予め登録されている。NC装置2は、コード解析指令手段11で加工プログラム10を逐次解釈し、シリアルインターフェース8を通して工作機械1のサーボモータやモータ制御回路に制御信号を送信する。図1では省略したが、NC装置2には、オペレータの操作を補助するための各種の補助手段が搭載されており、加工寸法や加工手順などをモニタ7に表示し、タッチパネル及び操作盤6のボタンなどによって、オペレータがコード解析指令手段11の設定などを変更できるようになっている。更に、工作機械1の運転状態などもモニタ7に表示できるようになっている。
【0016】
図3は、モニタ7に表示される運転状態表示画面の一例で、ワークの1加工サイクル中の主軸モータ、各方向の刃物台送りモータの負荷をグラフ表示した例を示した図で、横軸は時間、縦軸は負荷である。このような画面を表示するとき、画面を見やすくするために、あるいは特定の表示情報にオペレータの注意を引かせるために、カラーモニタで色分け表示することが一般的になっている。例えば図3の例では、グラフの線を主軸モータ、X軸送りモータ、Z軸送りモータ、早送り中の送りモータの負荷を示す線の部分など、グラフに表示した複数の線ないし部分線をカラーテーブル13に登録された色に従って色分けしてモニタ7に表示する。
【0017】
モニタ7に表示される情報は、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)で表示され、タッチパネル型のモニタでは、表示されたボタン14・・・で操作の指令や設定の変更ができる。
【0018】
モニタ7に画像やGUIオブジェクトを表示する際には、それぞれ画面描画ルーチン15及びオブジェクト描画ルーチン16が使用される。画面描画ルーチン15では基本図形などを表示し、オブジェクト描画ルーチン16では、ボタンやメニューなどを表示する。画面表示手段12は、画面の更新がある場合などに随時これらの描画ルーチンを呼び出して画面を作成する。通常、これらの描画ルーチンは、描画する図形やオブジェクトの種類、画面上の座標を示す数値、光の3原色であるR、G、Bそれぞれの輝度値が書かれたカラーコード、表示される文字列などをパラメータとして呼び出しを行うが、この実施例では、カラーコードを使用せずにカラーIDを使用している。カラーコードは、モニタ7に表示するR、G、Bそれぞれの色の輝度情報であり、カラーIDは、ある特定のカラーコードに関連付けられた一意のIDコードである。
【0019】
補助記憶装置5には、各カラーIDに対応するカラーコードを記述したカラーテーブル13を登録する。カラーIDは一意の数字または文字列などで、1個のカラーテーブルに、画面デザインに使用する複数の色についてのカラーIDとカラーコードの対応が1:1の関係で記録されている。カラーテーブル13は、複数個あり、一般色覚者用のカラーテーブル、色弱者P型用のカラーテーブル、色弱者D型用のカラーテーブル及び色弱者T型用のカラーテーブルがあり、これらのカラーテーブルには予め最適なカラーIDとカラーコードの組み合わせが設定されている。この他にユーザー(個々のオペレータ)が設定するカラーテーブルがあり、これらのユーザーが設定するカラーテーブルにはユーザーが微調整したカラーテーブルが保存される。モニタ7に表示する画面を設計するとき、カラーコードを直接指定せずに、カラーIDで記述する。
【0020】
画面表示手段12は、新しい画面を表示するとき、前回終了時に設定していたカラーテーブル13を主記憶装置のカラーテーブル格納メモリ17に読み込む。
画面描画ルーチン15とオブジェクト描画ルーチン16は、画面を描画する際に画面表示手段12からパラメータとして受け取ったカラーIDをカラーテーブル格納メモリ17に呼び出されているカラーテーブルを参照して、該当するカラーIDに対応するカラーコードを読み取り、このカラーコードを利用して指定された図形やオブジェクトを画面に描画する。
【0021】
補助記憶装置に格納されている複数のカラーテーブルの一つを選択してカラーテーブル格納メモリ17に読み込むことにより、カラーテーブルに記述されているそれぞれのユーザーが判別しやすいカラーコードで画面描画をすることができる。
【0022】
画面表示手段12は、モニタ画面の更新時に画面下部のメニュー領域18のボタンの1つにカラーテーブル変更ボタン19を配置する(図3)。カラーテーブル変更ボタン19がユーザーによって押された場合、画面表示手段12は、画面を切り替えて図4のようなカラーテーブル変更画面を表示する。カラーテーブル変更画面には、画面左側に現在使用しているカラーテーブル又はボタン14で選択されたカラーテーブルの色一覧20が表示され、画面右側にそれぞれのカラーテーブルを選択するためのボタン21・・・が表示される。メニュー領域には選択決定ボタン22が配置される。
【0023】
カラーテーブルを選択するためのボタン21は、前記した予め設定されているカラーテーブルに対応するボタンと、ユーザーが設定した個別に色を変更したカラーテーブルのボタンがある。これらのボタンをユーザーが押すと、画面左側の代表的な色一覧20を該当するカラーテーブルを使用してプレビューを表示する。ユーザーはもっとも見やすい色のボタン21を押した後に、選択決定ボタン22を押すと、選択したカラーテーブルがカラーテーブル格納メモリ17に読み込まれ、画面の色を変更して図3の画面に戻る。
【0024】
ユーザーが設定するカラーテーブルは、画面表示手段が色変更プログラムを呼び出すことで個別にそれぞれの色を自由に設定できる。色変更プログラムのフローチャートを図2に示す。
【0025】
色変更プログラムは、画面表示手段に呼び出されると図5のような色変更画面を表示する。この色変更画面上には前記したカラーテーブル変更画面に使用されているものと同じ色一覧20が表示され、メニュー領域18に、現在設定されているカラーパレットに登録されている色の一つを選択する色選択ボタン23・・・が表示される。ユーザーがこの中から変更したい色を選ぶと、図6のようにメニュー領域18に色を変更するための色変更ボタン24・・・を表示する。図の例では、選択された色について、その色相、彩度及び明度をそれぞれ個別に高低させるボタンが設けられているが、例えば変更先となる色の一覧の各色をボタンにして表示するようにしても良い。これらのボタンを操作することで、ユーザーはカラーIDに好きな色を対応づけることができる。
【0026】
ユーザーが決定ボタン25を押すと、カラーテーブル格納メモリ17の選択しているカラーIDに対応するカラーコードを色サンプルのカラーコードと置き換え、カラーテーブル格納メモリ17をユーザーが設定するカラーテーブルに保存し、色変更プログラムの先頭に戻る。中止ボタンが押された場合は何もせずに先頭に戻る。
【0027】
変更する色を選択する図5の画面で戻るボタンを押すことで、色変更プログラムを終了し画面表示手段の処理に戻る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ハードウエア構成図
【図2】色変更プログラムのフローチャート
【図3】配色ボタンを配置したモニタ表示画面の例
【図4】カラーパターン選択画面の例
【図5】個別の色変更時のモニタ表示画面の第1画面
【図6】個別の色変更時のモニタ表示画面の第2画面
【符号の説明】
【0029】
5 補助記憶装置
7 モニタ
12 画面表示手段
13 カラーテーブル
20 色一覧
21 ボタン
23 色選択ボタン
24 色変更ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補助記憶装置(5)に登録された複数のカラーテーブル(13)と、カラーテーブル変更画面を表示する画面表示手段(12)とを備え、前記複数のカラーテーブルは、色弱者に対する複数のカラーテーブルを含んでおり、画面表示手段(12)は、カラーテーブル変更画面に、複数のカラーテーブルからその一つを選択するためのボタン(21)・・・と、現在使用しているカラーテーブルの色の組合わせ及び選択されたカラーテーブルの色の組合わせをプレビューする色一覧(20)とをモニタ(7)に表示することを特徴とする、NC工作機械のモニタ画面表示装置。
【請求項2】
使用しているカラーテーブルの色の組合わせ一覧(20)と、色選択ボタン(23)・・・と、選択された色を変更する色変更ボタン(24)・・・を含む色変更画面を表示する前記画面表示手段(12)と、色変更プログラムとを備え、色変更プログラムは、色選択ボタン(23)で選択された色に対応するカラーIDに対応するカラーコードを色変更ボタン(24)で指令される色のカラーコードに変更する、請求項1記載のモニタ画面表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−289169(P2009−289169A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143172(P2008−143172)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000212566)中村留精密工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】