説明

NDフィルター

【課題】可視光・近赤外光領域(400〜2000nm位の範囲)の光を均一でフラットな吸収(減光、その他調整)が出来るNDフィルターの提供。
【解決手段】不織布層を少なくとも一層有することを特徴とするNDフィルターは、繊維間を抵抗無く透過する光と、繊維によって反射・吸収される光がハッキリ区別され、繊維の太さ、不織布の目付け重量、厚さ等で透過率を任意に調節することができ、しかも可視光線(400〜700nm)から近赤外線(700〜2000nm)の広範囲の波長の光を安定して均一に吸収(減光)でき、透過率の調光を0〜80%の範囲で自由に目的とする透過率の調光を持つNDフィルターとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NDフィルターに関し、特に可視光・近赤外光領域の光量調整を行うことのできる、不織布を含有する積層体により構成される光量調整NDフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の光学機器において、透過光量の制御にND(ニュートラルデンシティー)フィルターが用いられている。例えば、カメラやビデオカメラなどのレンズ光学系内における絞り装置等では被写体からの戻り光が明る過ぎる場合に感光部への戻り光量の制御に使用されている。また、計器等の表示パネル等では計器パネル側からの光と外部からの光を制御するために用いられ、さらに、テレビやパソコンのディスプレーには、光量を調節するためにフィルタを設置することが多く、さらに自動車内の各種計器類には夜間におけるフロントガラスへの計器類の表示板の映り込みを防止するために計器類上部のダッシュボードを運転者側に張り出させたりすることが行われている。また、銀行のATMなどでは、隣からの覗き込みを防止するために、各装置ごとにパーティションが設置され、さらに、バスや飛行機内での照明や病院内のベット照明なども光の量や射出方向をNDフィルター等を用いて制御する場合がある。
【0003】
従来、光量調整用のNDフィルターとしては、可視光域で均一な透過率を有するようにプラスチック材料に有機色素または顔料を混入して光学的フィルター特性を持たせ、シート形状に成型加工し、その後プレス加工にて必要なフィルター形状にするもの、透明プラスチックシート材料の表面に蒸着膜を形成させ、この蒸着膜に光学的フィルター特性を持たせるようにし、その後プレス加工にて必要なフィルター形状にするもの(例えば、特許文献1参照)、硝子表面をサンドブラスター等で均一で細かい傷をつけることにより光学的フィルター特性を持たせるようにしたもの等がある。
しかし、ながら、これらのNDフィルターは、主に可視光波長での吸収による減光が多く、赤外光が透過してしまいがちであった。特に、カメラ等に用いる場合は、光制御範囲がせまくなると、色差がなくなり、実際に人が目で見るときの視感度が異なり違和感が生じる等の問題があった。また、広い範囲で吸収しても、均一に吸収出来ないものが多く、可視光・赤外光領域(400〜3000nm程度)の光を均一でフラットな吸収(減光、その他調整)が出来るNDフィルターは存在していなかった。
【特許文献1】特開2004−37548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、可視光・近赤外光領域(400〜2000nm位の範囲)の光を均一でフラットな吸収(減光、その他調整)が出来るNDフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、不織布は、繊維間を抵抗無く透過する光と、繊維によって反射・吸収される光がハッキリ区別され、不織布を構成する繊維の種類、太さ、不織布の目付け重量、厚さ、表面状態等を制御することにより、透過率を任意に調節することができ、しかも可視光線(400〜700nm)から近赤外線(700〜2000nm)の広範囲の波長の光を安定して均一に吸収(減光)でき、透過率の調光を0〜80%の範囲で目的とする透過率の調光を持つNDフィルターとすることができることを見出し本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、少なくとも一層の不織布層を有することを特徴とするNDフィルターが提供される。
【0007】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、不織布を構成する繊維の平均繊維径が20μm以下であることを特徴とするNDフィルターが提供される。
【0008】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、不織布の目付け重量が、150g/m以下、厚みが、1.5mm以下であることを特徴とするNDフィルターが提供される。
【0009】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、不織布が、メルトブロー法または湿式法で製造された不織布であることを特徴とするNDフィルターが提供される。
【0010】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、不織布が、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、またはパルプ繊維のいずれかの少なくとも一種類の繊維からなることを特徴とするNDフィルターが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のNDフィルターは、可視光線から近赤外光線の領域(400〜2000nm位の範囲)の光を均一でフラットな吸収(減光、その他調整)が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のNDフィルターは、不織布を少なくとも一層含有するフィルターであって、不織布層のみからなるか、プラスチック等の基材上に該不織布層を積層した積層体である。以下に。各構成層、フィルターについて詳細に説明する。
【0013】
本発明のNDフィルターに用いる不織布は、平均繊維径が20μm以下が好ましく、より好ましくは15μm以下である繊維から構成される不織布であれば、特に制限がないが、あらゆる方向から入射する光に対してより均一な表面を有する不織布が好ましい。
不織布を構成する繊維の平均繊維径が20μmを超えると均整度が悪くなるために光の吸収・透過が不均一になる。
【0014】
本発明で用いることのできる不織布としては、メルトブロー法不織布、スパンボンド法不織布、湿式法不織布(繊維、パルプまたは接着繊維を抄紙法でシート化する方法)、乾式法不織布、フラッシュ紡糸法不織布(ポリマーを溶剤で溶融し高圧で紡糸ししながらシート化する方法)、トウ開繊式不織布(紡糸後のトウを開繊・積層・延伸・接着する方法)などが挙げられる。これら不織布の中では、特にメルトブロー法不織布、湿式法不織布が均整度の面から好ましい。
【0015】
本発明で用いる不織布の目付け重量は、目的とする光の吸収率によって変更されるが、150g/m以下が好ましく、より好ましくは100g/m以下である。不織布の目付け重量が150g/mを超えると厚みが厚くなるために光の吸収・透過が不均一になりやすく、また厚みを薄く抑えようとすると表面がフィルム状になり、表面で光の乱反射を起こすため、その反射光により光の吸収・透過性能が安定しない。
【0016】
また、本発明で用いる不織布の厚みは、目的とする光の吸収率によって変更されるが、1.5mm以下が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mmである。不織布の厚みが0.5mm未満でもフィルム状のNDフィルターと同様に使用できるが、硬さが出しにくく形態が安定しない。また1.5mmを超えると繊維同士の融着が不十分になりやすく、打ち抜き加工等の加工性が悪くなる。
【0017】
本発明のNDフィルターは、不織布を少なくとも一層有する。不織布自身は、可視光、近赤外光をフラットに透過し、繊維の太さ、目付け重量、厚み等の構成によって0〜80%の範囲で自由に目的とする透過率の調整ができる特徴を有する。
なお、不織布表面は、サンドブラスト加工等を行ってその表面の不透明状態を生成させて透過率を制御することもできる。
【0018】
不織布を構成する繊維材料としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル等の合成繊維、パルプ等の天然繊維が好ましく、これらの繊維を2種以上混合して用いても良い。
【0019】
本発明のNDフィルターには、必要に応じて、上記不織布層をプラスチック等の基材上に積層した積層体として用いることもできる。
プラスチック基材層としては、セルロースエステル(例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースニトレート)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート)、ポリスチレン(例えば、シンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン)、ポリ(メタ)アクリレート(例えば、ポリメチルメタクリレート)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミドおよびポリオキシエチレン等のプラスチックのフィルムまたはそれらの繊維構造物が用いられる。基材として繊維構造物を用いる場合は、上記不織布と同様な不織布であってもよいが透過率は80%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
また、上記基材に、フィルター層の色素安定性を向上させるため、赤外線吸収剤あるいは紫外線吸収剤を添加してもよい。さらに、基材には、その上に設ける層(例えば、下塗り層)との接着性をより強固にするために表面処理を施すこともできる。表面処理の例には、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理およびオゾン酸化処理が含まれる。グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および火炎処理が好ましく、コロナ放電処理がさらに好ましい。
【0021】
さらに、本発明のNDフィルターは、可視光、近赤外光をフラットに透過し、繊維の太さ、目付け重量、厚み等の構成によって0〜80%の範囲で自由に目的とする透過率の調整ができるが、従来の可視光用NDフィルター、近赤外光用NDフィルターと積層して必要とする波長の光を選択的に吸収するようにして用いても良い。
本発明のNDフィルターは、レーザープリンター、高速データ通信、光学測定機器の光量調節、光通信、光スイッチ等の光量調節用に用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた評価方法は以下の通りである。
【0023】
1.評価方法
(1)透過率:日立製作所製 自記分光光度計 型式:U−4000を使用して、可視光から近赤外光の光を照射しその透過率を測定した。
【0024】
(実施例1)
平均繊維径22μm、目付け重量60g/m、厚み0.5mmのポリエステル繊維不織布基材上に、目付け重量15g/m、厚み0.23mm、密度0.0652g/cm、平均繊維径12μmのポリプロピレン製メルトブロー不織布を積層してNDフィルターを得た。得られたNDフィルターの300〜3000nmの領域に渡り透過率を測定した。その結果を図1及び図2に示す。図1及び図2よりこのNDフィルターはで400〜2000nmにわたり41〜44%と均一な透過率が得られることがわかる。
【0025】
(実施例2)
目付け重量20g/m、厚み0.26mm、密度0.0769g/cm、平均繊維径12μmのポリプロピレン製メルトブロー不織布を用いる以外は、実施例1と同様にしてNDフィルターを得、その透過率を測定した。その結果を図3及び図4に示す。図3及び図4よりこのNDフィルターは400〜2000nmにわたり40〜45%と均一な透過率が得られることがわかる。
【0026】
(実施例3)
目付け重量35g/m、厚み0.46mm、密度0.0761g/cm、平均繊維径8μmのポリプロピレン製メルトブロー不織布を用いる以外は、実施例1と同様にしてNDフィルターを得、その透過率を測定した。その結果を図5及び図6に示す。図5及び図6よりこのNDフィルターは400〜2000nmにわたり27%と均一な透過率が得られることがわかる。
【0027】
(実施例4)
目付け重量20g/m、厚み0.35mm、密度0.0571g/cm、平均繊維径4μmのポリプロピレン製メルトブロー不織布を用いる以外は、実施例1と同様にしてNDフィルターを得、その透過率を測定した。その結果を図7及び図8に示す。図7及び図8よりこのNDフィルターは400〜2000nmにわたり24%と均一な透過率が得られることがわかる。
【0028】
(比較例1)
市販のプラスチックフィルムベースのNDフィルターの可視光線域の透過率を図9に示す。700〜1000nmに渡って均一な透過率を示していない。
【0029】
(比較例2)
市販のガラスベースのNDフィルターの400〜4000nmの透過率を図10に示す。700〜1000nmに渡って均一な透過率を示していない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のNDフィルターは、レーザープリンター、高速データ通信、光学測定機器の光量調節、光通信、光スイッチ等の光量調節用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図2】実施例1のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図3】実施例2のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図4】実施例2のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図5】実施例3のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図6】実施例3のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図7】実施例4のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図8】実施例4のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図9】比較例1のNDフィルターの透過率を示す図である。
【図10】比較例2のNDフィルターの透過率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一層の不織布層を有することを特徴とするNDフィルター。
【請求項2】
不織布を構成する繊維の平均繊維径が、20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のNDフィルター。
【請求項3】
不織布の目付け重量が、150g/m以下、厚みが、1.5mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のNDフィルター。
【請求項4】
不織布が、メルトブロー法または湿式法で製造された不織布であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のNDフィルター。
【請求項5】
不織布が、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、またはパルプ繊維のいずれかの少なくとも一種類の繊維からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のNDフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−17832(P2006−17832A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193173(P2004−193173)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(504253979)株式会社安中特殊硝子製作所 (1)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【Fターム(参考)】