NDフィルタ
【課題】AR膜とND膜を重ねることで生じる不具合を回避し、良好な低反射性を有するNDフィルタを提供する。
【解決手段】NDフィルタ1は、光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜20と、AR膜20の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜30と、を備え、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10よりも低い低屈折率層22と、可視光領域における屈折率が低屈折率層22よりも高い高屈折率層24と、を有し、高屈折率層24は、低屈折率層22よりも基材10側に位置している。
【解決手段】NDフィルタ1は、光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜20と、AR膜20の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜30と、を備え、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10よりも低い低屈折率層22と、可視光領域における屈折率が低屈折率層22よりも高い高屈折率層24と、を有し、高屈折率層24は、低屈折率層22よりも基材10側に位置している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に可視光領域において光量を調節するND(Neutral Density)フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチルカメラやビデオカメラといった撮像装置では、いわゆる絞りとNDフィルタを併用することによって、光量調節を行っている。絞りのみで光量調節を行う場合、例えば、快晴時等、高輝度の被写界を撮像する際には、絞りの開口を最小限にしても露出過多になってしまうことがある。また、絞りの開口を最小限にするとハンチング現象や光の回折の影響が大きくなるため、画像の品質が劣化することがある。このため、従来の撮像装置では、透過する光を消衰させて(吸収して)透過光量を調節するND(Neutral Density)フィルタを、絞り装置と共に組み込むことで、被写界の輝度が高い場合にも絞りの開口を大きくできるようにしている。
【0003】
このようにして使用されるNDフィルタは、光路に介在して光量を調節するものであるため、光の透過率が可視光領域の全域にわたってできるだけ平坦(均一)になっていることが好ましい。また、透過率を平坦化することにより、特定の範囲の波長の光のみが強調されるといったことがなくなるため、色の再現性を向上させることが可能となる。このため、近年では、樹脂フィルム等の透明な基材の表面に光を吸収する光吸収膜(金属膜)と光を干渉させる誘電体膜とを交互に積層したNDフィルタが広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、近年では、撮像装置の小型化に伴い、レンズ、絞り装置および撮像素子等の光学系を構成する部材が互いに非常に近接して配置されるようになっており、各部材における反射光に起因して発生するゴーストやフレア等の問題が顕著になってきている。このため、NDフィルタに対しても、透過率の平坦性と共に従来以上に低反射性が求められるようになっており、この観点から、最表層にAR(Anti Reflection)膜(反射防止膜)を有するNDフィルタも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−43211号公報
【特許文献2】特開2011−81083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、AR膜をND膜に重ねた場合、光干渉が生じてND膜の光透過性が可視光領域においてばらつき、その平坦性が失われることがある。また、上記特許文献2に記載されているように、ND膜の最表層にAR膜を配置したのでは、基材側(裏側)から入射した光がND膜裏面で反射するいわゆる裏面反射を低減させることはできない。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、AR膜とND膜を重ねることで生じる不具合を回避し、良好な低反射性を有するNDフィルタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、光透過性を有する基材と、前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層と、可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高い高屈折率層と、を有し、前記高屈折率層は、前記低屈折率層よりも前記基材側に位置することを特徴とする、NDフィルタである。
【0009】
(2)本発明はまた、光透過性を有する基材と、前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層の単層から構成されることを特徴とする、NDフィルタである。
【0010】
(3)本発明はまた、前記低屈折率層は、前記ND膜に隣接する位置に設けられることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のNDフィルタである。
【0011】
(4)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高いことを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0012】
(5)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける屈折率が、1.45乃至1.8の範囲内であることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0013】
(6)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける光学膜厚が、0.2乃至0.4の範囲内であることを特徴とする、上記(5)に記載のNDフィルタである。
【0014】
(7)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層が、低級酸化物を含む酸化物からなる層であることを特徴とする、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0015】
(8)本発明はまた、前記ND膜は、前記最下層が、低級酸化物を含むシリコン酸化物からなる層であることを特徴とする、上記(7)に記載のNDフィルタである。
【0016】
(9)本発明はまた、前記ND膜は、前記最下層に隣接する層が金属または金属の低級酸化物からなる層であることを特徴とする、上記(7)または(8)に記載のNDフィルタである。
【0017】
(10)本発明はまた、前記金属は、チタンであることを特徴とする、上記(9)に記載のNDフィルタである。
【0018】
(11)本発明はまた、前記AR膜および前記ND膜の反対側から入射する光の反射率が、波長555nmにおいて2%以下であることを特徴とする、上記(1)乃至(10)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0019】
(12)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜上において部分的に形成され、前記AR膜は、前記基材の表面における光の反射の調節用、および前記ND膜の裏面における光の反射の調節用として兼用されることを特徴とする、上記(1)乃至(11)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0020】
(13)本発明はまた、前記基材における前記AR膜が形成された面の反対側の面に形成され、赤外線の透過光量を調節するIRカット膜をさらに備えることを特徴とする、上記(1)乃至(12)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るNDフィルタによれば、AR膜とND膜を重ねることで生じる不具合を回避し、良好な低反射性を得ることが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)本発明の実施形態に係るNDフィルタの構成を示した概略図である。(b)同NDフィルタに入射する光の反射光を示した概略図である。
【図2】(a)および(b)AR膜およびND膜の構成を示した概略図である。
【図3】(a)および(b)ND膜の最下層を酸化物と低級酸化物の混合物から構成するようにした場合の例を示した概略図である。
【図4】(a)〜(c)ND膜単体での透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図5】(a)〜(c)3層構成のAR膜の上にND膜を形成した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図6】(a)〜(c)図5(a)に示した構成のAR膜およびND膜において第4層の厚みを変更した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図7】(a)〜(c)図5(a)に示した構成のAR膜およびND膜において第4層の屈折率および厚みを変更した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図8】(a)〜(c)図5(a)に示した構成のAR膜およびND膜において第4層の屈折率および厚みを変更した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図9】(a)〜(c)単層構成のAR膜の上にND膜を形成した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図10】NDフィルタの成膜工程を示した概略図である。
【図11】(a)〜(e)NDフィルタのその他の構成の例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は、本実施形態に係るNDフィルタ1の構成を示した概略図である。同図に示されるように、NDフィルタ1は、平板状の基材(Substratum)10と、基材10の表面に形成されたAR膜20と、AR膜20の上に形成されたND膜30と、を備えて構成されている。
【0025】
基材10は、透明樹脂やガラス等の光を透過する材質から構成されている。基材10を構成する材質は、NDフィルタ1の用途に応じた波長の光を透過する材質であれば特に限定されるものではなく、例えばPET(PolyEthylene Terephthalate)シート等を使用することができる。基材10の厚みは、特に限定されるものではないが、NDフィルタ1が組み込まれる各種装置のコンパクト化のためには、可能な限り薄く構成することが好ましい。具体的には、基材10の厚みは、300μm以下であることが好ましく、175μm以下であればより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。
【0026】
AR膜20は、光の反射を防止(調節)するための薄膜であり、真空蒸着、イオンビームアシスト、イオンプレーティング、およびスパッタリング等の既知のドライプロセスによって基材10の表面に形成されている。本実施形態では、基材10の一方の面の略全面にAR膜を形成している。AR膜20の具体的な構成については、後述する。
【0027】
ND膜30は、NDフィルタ1を透過する可視光領域(波長が凡そ400〜700nmの範囲)の光を略平坦に消衰させるための薄膜であり、AR膜と同様にスパッタリング等の既知のドライプロセスによって基材10の表面に形成されている。本実施形態では、AR膜20の上に重ねてND膜30を形成している。また、本実施形態では、ND膜30をAR膜20上において部分的に形成するようにしているが、AR膜20上の略全面にND膜30を形成するようにしてもよい。ND膜30の具体的な構成については、後述する。
【0028】
図1(b)は、NDフィルタ1に入射する光の反射光を示した概略図である。NDフィルタ1が撮像装置等の光学系において使用される場合、外部からの光L1は、ND膜30が形成された表面側からNDフィルタ1に入射すると共に、この光L1が光学系を構成する他の部材表面で反射した光L2が裏面側からNDフィルタ1に入射することとなる。
【0029】
本実施形態では、AR膜20の上に重ねてND膜30を形成することで、表面側からの光L1の反射率(表面反射率)および裏面側からの光L2の反射率(裏面反射率)を共に低減させることを可能としている。すなわち、本願の発明者は、鋭意研究の結果、本来基材10(またはND膜30)の表面における反射光L1aを低減させるものであるAR膜20を、ND膜30と基材10の間に設けることで、ND膜30の裏面における反射光L2aも十分に低減可能であることを新たに見出した。
【0030】
また、そもそもND膜30は、一般的に表面における反射防止機能を有しているため、表面における反射光L1bはND膜30のみによって低減することが可能である。従って、ND膜30と基材10の間にAR膜20を設けた本実施形態では、ND膜30の表面における反射光L1bおよび裏面における反射光L2aの両方を低減させることが可能となっている。
【0031】
さらに、このND膜30と基材10の間のAR膜20は、ND膜30が形成されていない部分(外部に露出した部分)においては、基材10の表面における反射光L1aを低減させるように機能することとなる。すなわち、本実施形態のAR膜20は、基材10の表面における反射防止用の膜として兼用することが可能となっており、少ない膜構成で効率的に表裏両面の反射率を低減させるように構成されている。
【0032】
次に、AR膜20およびND膜30の具体的な構成について説明する。
【0033】
図2(a)および(b)は、AR膜20およびND膜30の構成を示した概略図である。AR膜20の構成は、特に限定されるものではなく、光の反射率を低減するための膜として従来使用されている構成を採用することができる。
【0034】
但し、ND膜30と重ねることにより生じる不要な光の干渉を低減し、可視光領域における透過率の平坦性に与える影響を少なくしつつ、裏面反射率を低減するためには、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10の可視光領域における屈折率よりも低い低屈折率層22(例えば、MgF2(フッ化マグネシウム)やSiO2(二酸化ケイ素、シリカ)からなる層)を少なくとも有していることが好ましい。
【0035】
また、AR膜20を、低屈折率層22と、可視光領域における屈折率が低屈折率層22の可視光領域における屈折率よりも高い高屈折率層24と、を含む複数の層からなる積層膜から構成する場合、不要な光の干渉を低減するためには、高屈折率層24は低屈折率層22よりも基材10側に位置していることが好ましい。さらに、低屈折率層22は、ND膜30に隣接する位置に設けられることが好ましい。また、高屈折率層24は、可視光領域における屈折率が基材10の可視光領域における屈折率よりも高いことが好ましく、さらに、AR膜20が2つの高屈折率層24を含む場合には、可視光領域における屈折率が低い方を基材10側に設けることが好ましい。
【0036】
すなわち、本願の発明者は、AR膜20として種々の屈折率の組み合わせを鋭意検討した結果、上記構成により光の干渉を調整し、可視光領域における透過率の平坦性と表裏両面における低反射性を両立可能であることを見出したのである。従って、AR膜20の具体的な構成としては、例えば、同図(a)に示されるように、基材10側からAL2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)、ZrO2(二酸化ジルコニウム、ジルコニア)、およびMgF2(フッ化マグネシウム)を順に積層した積層膜、または、同図(b)に示されるように、MgF2の単層膜等を採用することができる。
【0037】
また、同図(a)および(b)に示す例において、MgF2に代えてSiO2を使用するようにしてもよい。MgF2は、成膜時に充填密度が低下しやすい性質を有していることから、成膜後に酸素や水分等を含みやすく、このMgF2の層に含まれる酸素や水分等がAR膜20またはND膜30の特性に悪影響を及ぼす場合があるが、SiO2を使用することによってこのような不具合を排除することができる。
【0038】
なお、AL2O3の波長550nmにおける屈折率は約1.63、ZrO2の波長550nmにおける屈折率は約1.95、MgF2の波長550nmにおける屈折率は約1.38、およびSiO2の波長550nmにおける屈折率は約1.46となっている。また、基材10を例えばPETから構成した場合には、波長550nmにおける屈折率は約1.55となる。
【0039】
ND膜30の構成は、特に限定されるものではなく、可視光の透過率を調節する膜として従来使用されている構成を採用することができる。例えば、同図(a)および(b)に示されるように、SiO2(二酸化ケイ素、シリカ)、SiN(窒化ケイ素)、AL2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)、MgF2(フッ化マグネシウム)、およびTiO2(二酸化チタン)等の誘電体からなる誘電体層32と、Ti(チタン)、Cr(クロム)、およびNi(ニッケル)等の金属やこれらの金属の酸化物(低級酸化物含む)または窒化物等の金属化合物等からなる消衰層34と、を交互に積層した積層膜からND膜30を構成することができる。
【0040】
但し、AR膜20と重ねることにより生じる不要な光の干渉を低減し、可視光領域における透過率の平坦性に与える影響を少なくしつつ、裏面反射率を低減するためには、AR膜20に隣接する最下層30aの可視光領域における屈折率が、AR膜20の低屈折率層22の可視光領域における屈折率よりも高いことが好ましい。より具体的には、最下層30aの波長550nmにおける屈折率は、1.45〜1.8の範囲内であることが好ましく、1.5〜1.6の範囲内であればより好ましい。また、最下層30aの厚み(波長550nmにおける光学膜厚)は、屈折率が1.45〜1.8の範囲内である場合には0.2〜0.4の範囲内であることが好ましく、屈折率が1.5〜1.6の範囲内である場合には0.2〜0.3の範囲内であることが好ましい。
【0041】
すなわち、本願の発明者は、ND膜30の最下層30aにおける屈折率および厚みを鋭意検討した結果、上記範囲内とすることで可視光領域における透過率の平坦性と表裏両面における低反射性をより高いレベルで両立可能であること、特に、裏面反射率を視感度の最も高い波長555nm付近において低減可能であることを見出したのである。
【0042】
さらに、本願の発明者は、鋭意研究の結果、ND膜30の最下層30aを、酸化物と低級酸化物の混合物から構成することにより、最下層30aの屈折率を適宜に調整し、最適化可能であることを見出した。図3(a)および(b)は、ND膜30の最下層30aを酸化物と低級酸化物の混合物から構成するようにした場合の例を示した概略図である。同図(a)に示す例では、ND膜30の最下層30aを酸化物であるSiO2と低級酸化物であるSiOの混合物、すなわち低級酸化物を含むシリコン酸化物から構成している。
【0043】
最下層30aをこのように構成した場合、低級酸化物の屈折率と酸化物の屈折率が異なることから、最下層30aに含まれる酸化物の量と低級酸化物の量の比率を調節することで、最下層30aの屈折率を適宜の値に調整することができる。すなわち、最下層30aの屈折率を、AR膜20およびND膜30の構成に合わせた適宜の値に調整することが可能となり、可視光領域における透過率の平坦性と裏面反射率の低減をより高いレベルで両立させることができる。
【0044】
また、このような酸化物と低級酸化物の混合物からなる最下層30aは、例えばスパッタリング等による成膜を行う際にターゲットを変更することなく雰囲気の酸素分圧を変更するのみで形成することが可能であるため、効率的に形成することが可能となっている。
【0045】
なお、図3(b)に示されるように、最下層30aを、酸化物であるSiO2の層および低級酸化物であるSiOの層から構成するようにしてもよい。この場合、SiO2の層およびSiOの層は、明確な境界を有して形成されるものであってもよいし、明確な境界を有さずに形成されるものであってもよい。
【0046】
また、同図(b)に示されるように、低級酸化物であるSiOの層をAR膜20の反対側に設けるようにした場合、最下層30aに隣接する消衰層34が酸化して特性が変化するのを効果的に防止することが可能となる。すなわち、消衰層34を金属または金属の低級酸化物から構成した場合において、SiO2の層に含まれる酸素が消衰層34に移動するのを低級酸化物であるSiOの層によってブロックすることができるため、消衰層34の酸化を防止し、NDフィルタ1の性能が経時的に変化するのを防止することができる。この構成は、最下層30aに隣接する消衰層34をTi等の活性金属からなるきわめて薄い層から構成した場合に、特に効果的である。
【0047】
なお、ND膜30の最下層30aを構成する酸化物および低級酸化物は、シリコン酸化物以外の酸化物および低級酸化物から構成されるものであってもよい。また、低級酸化物のみから最下層30aを構成するようにしてもよい。また、低級酸化物の層を設けるのではなく、酸化物に低級酸化物をランダムに混合するようにした場合においても、消衰層34への酸素の移動が抑制されることとなるのはいうまでもない。
【0048】
次に、NDフィルタ1の具体的な構成における透過率および反射率のシミュレーション結果について説明する。
【0049】
図4(a)〜(c)は、ND膜30単体での透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。なお、同図(a)はこの例の膜構成を示した表であり、同図(b)は表面側(基材10の反対側)から入射する光の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフであり、同図(c)は裏面側(基材10側)から入射する光の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフである。また、同図(a)においては基材10側を第1層としている(以下、図5〜図9においても同じ)。
【0050】
この例では、同図(a)に示されるように、SiO2とSiOの積層物からなる誘電体膜32と、TiまたはTiNからなる消衰膜34とを交互に積層してND膜30を構成している。すなわち、この例では、全ての誘電体膜32をSiO2とSiOの積層物から構成することにより、誘電体膜32の波長λ=550nmにおける屈折率を1.5に設定すると共に、Tiからなる消衰層34の酸化を抑制するようにしている。また、各層の厚み(波長λ=550nmにおける光学膜厚)を、同図(a)に示す値に設定している。
【0051】
同図(b)に示されるように、この構成のND膜30によれば、可視光領域における透過率Tを平坦に保ちつつ、表面の反射率Rを低減することが可能となっている。しかしながら、同図(c)に示されるように、裏面の反射率Rは10%近くになる領域が存在しており、高い値を示す結果となっている。
【0052】
図5(a)〜(c)は、3層構成のAR膜20の上にND膜30を形成した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。この例では、同図(a)に示されるように、AL2O3、ZrO2およびMgF2の積層膜から構成したAR膜20の上に、図4(a)に示した構成のND膜30を形成している。そして、ND膜30の最下層30aである第4層の厚みを0.250に設定している。
【0053】
AR膜20をこのように構成すると共に第4層の厚みを適宜に調整することで、図5(b)および(c)に示されるように、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを略5%前後と、実用的に十分なレベルに抑えることが可能となっている。
【0054】
図6(a)〜(c)は、図5(a)に示した構成のAR膜20およびND膜30において第4層の厚みを変更した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。この例では、図6(a)に示されるように、ND膜30の最下層30aである第4層の厚みを0.266に設定している。
【0055】
最下層30aである第4層の厚みをこのように調整することにより、同図(b)および(c)に示されるように、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを、視感度の最も高い波長555nm付近において2%以下に低減することができる。すなわち、裏面の反射において最も重要となる波長域の反射率Rを低減し、NDフィルタ1の反射特性をより実用的なものとすることが可能となっている。
【0056】
なお、第4層の屈折率が1.5〜1.6の範囲内である場合は、上述のように第4層の厚みを2.0〜3.0の範囲内で調整することが好ましい。これにより、透過率Tの平坦性を維持しつつ、良好な反射特性を得ることが可能となる。
【0057】
図7(a)〜(c)および図8(a)〜(c)は、図5(a)に示した構成のAR膜20およびND膜30において第4層の屈折率および厚みを変更した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。図7(a)〜(c)に示す例においては、ND膜30の最下層30aである第4層の屈折率を1.45に設定し、厚みを0.304に設定している。また、図8(a)〜(c)に示す例においては、第4層の屈折率を1.8に設定し、厚みを0.364に設定している。
【0058】
図7(b)および(c)ならびに図8(b)および(c)に示されるように、第4層の屈折率が1.45〜1.8の範囲内であれば、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを、視感度の最も高い波長555nm付近において2%以下に低減することができ、NDフィルタ1の反射特性を実用的な範囲内に収めることが可能となっている。
【0059】
なお、第4層の屈折率が1.45〜1.8の範囲内である場合は、上述のように厚みを2.0〜4.0の範囲内で調整することが好ましい。これにより、透過率Tの平坦性を維持しつつ、良好な反射特性を得ることが可能となる。
【0060】
図9(a)〜(c)は、単層構成のAR膜20の上にND膜30を形成した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。この例では、同図(a)に示されるように、MgF2の単層膜から構成したAR膜20の上に、図4(a)に示した構成のND膜30を形成している。そして、ND膜30の最下層30aである第4層の厚みを0.250に設定している。
【0061】
図9(b)および(c)に示されるように、AR膜20を単層膜から構成した場合においても、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを略5%前後と、実用的に十分なレベルに抑えることが可能となっている。
【0062】
次に、NDフィルタ1の成膜工程について説明する。
【0063】
図10は、NDフィルタ1の成膜工程を示した概略図である。同図に示されるように、NDフィルタ1の成膜においては、まず基板10上にAR膜20を形成する。AR膜20は、上述のようにスパッタリング等のドライプロセスによって形成される。次に、形成したAR膜20上にマスク40を配置し、ND膜30を形成しない部分をマスキングする。そして、スパッタリング等のドライプロセスにより、AR膜20およびマスク40の上からND膜30を形成し、最後にマスク40を除去することで、成膜が完了する。
【0064】
このように、本実施形態のNDフィルタ1では、1つのAR膜20をND膜30の裏面における反射率低減および基材10の表面における反射率低減の2つの機能に兼用しているため、1回のマスク処理で効率的に成膜することが可能となっている。すなわち、本実施形態のNDフィルタ1は、優れた低反射性だけではなく高い生産性をも兼ね備えたものとなっている。
【0065】
次に、NDフィルタ1のその他の形態について説明する。
【0066】
図11(a)〜(e)は、NDフィルタ1のその他の構成の例を示した概略図である。同図(a)は、基材10の両面にAR膜20およびND膜30を形成した例を示している。NDフィルタ1に要求される性能によっては、このように、基材10の両面にAR膜20およびND膜30を形成するようにしてもよい。この場合、基材10の両面に同一の構成のAR膜20およびND膜30を形成するようにしてもよいし、異なる構成のAR膜20およびND膜30を形成してもよい。
【0067】
また、同図(b)に示されるように、AR膜20の上にND膜30を重ねて形成した面の反対側(裏面)に、AR膜20のみを形成するようにしてもよいし、同図(c)に示されるように、AR膜20の上にND膜30を重ねて形成した面の反対側に、ND膜30のみを形成するようにしてもよい。これらの場合においても、基材の10両面のAR膜20およびND膜30は、同一の構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。
【0068】
同図(d)は、基材10の一方の面(表面)にAR膜20およびND膜30を形成し、他方の面(裏面)に赤外線(波長が凡そ700nm以上)をカットするIR(InfraRed)カット膜50を形成した例を示している。本実施形態のNDフィルタ1では、従来のNDフィルタのように基材10の両面にND膜30を形成することなく裏面反射率を低減することが可能であるため、このようにND膜30の反対側の面にIRカット膜50を形成することで、容易にIRカット機能を得られるようになっている。
【0069】
また、このようにIRカット膜50を設けるようにした場合、同図(e)に示されるように、ND膜30を形成する前の状態、すなわち基材10の一方の面にAR膜20が形成され、他方の面にIRカット膜が形成された状態のものは、IRカットフィルタ2として使用することが可能となっている。従って、本実施形態のNDフィルタ1によれば、IRカット機能付きNDフィルタとIRカットフィルタについて素材および製造工程の一部を共通化することで2種類のフィルタを効率的に製造することが可能であり、生産性をさらに高めることが可能となっている。
【0070】
なお、同図(a)〜(e)に示す例において、AR膜20、ND膜30、およびIRカット膜50は、いずれも基材10の略全面にわたって形成されるものであってもよいし、部分的に形成されるものであってもよい。すなわち、AR膜20、ND膜30、およびIRカット膜50の形成範囲は、NDフィルタ1の仕様等に応じて適宜に設定すればよい。
【0071】
以上説明したように、本実施形態に係るNDフィルタ1は、光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜20と、AR膜20の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜30と、を備え、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10よりも低い低屈折率層22と、可視光領域における屈折率が低屈折率層22よりも高い高屈折率層24と、を有し、高屈折率層24は、低屈折率層22よりも基材10側に位置している。
【0072】
また、NDフィルタ1は光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜20と、AR膜20の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜30と、を備え、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10よりも低い低屈折率層20の単層から構成されるものであってもよい。
【0073】
このような構成とすることで、AR膜20とND膜30を重ねることで生じる不要な光の干渉を低減し、可視光領域における光の透過率の平坦性に悪影響を与えることなく、良好な低反射性を有するNDフィルタ1を実現することができる。
【0074】
また、低屈折率層22は、ND膜30に隣接する位置に設けられることが好ましい。このようにすることで、不要な光の干渉を適切に低減し、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0075】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aの可視光領域における屈折率が低屈折率層22よりも高いことが好ましい。このようにすることで、不要な光の干渉を適切に低減し、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0076】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aの波長550nmにおける屈折率が、1.45乃至1.8の範囲内であることが好ましい。このようにすることで、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0077】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aの波長550nmにおける光学膜厚が、0.2乃至0.4の範囲内であることが好ましい。このようにすることで、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0078】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aが、低級酸化物を含む酸化物からなる層であることが好ましい。このようにすることで、最下層30aの屈折率をAR膜20およびND膜30の構成に合わせた適切な値に調節することができる。
【0079】
また、ND膜30は、最下層30aが、低級酸化物を含むシリコン酸化物からなる層であることが好ましい。このようにすることで、成膜を容易にすると共に、最下層30aの屈折率を適切な値に設定することができる。
【0080】
なお、このような最下層30aの構成は、ND膜30の最下層30aに隣接する層が金属または金属の低級酸化物からなる層である場合、特にチタンまたはチタンの低級酸化物である場合に好適である。
【0081】
また、ND膜30は、AR膜20上において部分的に形成され、AR膜20は、基材10の表面における光の反射の調節用、およびND膜30の裏面における光の反射の調節用として兼用されることが好ましい。このようにすることで、膜構成を簡素化しつつ、ND膜30の表裏両面における光の反射を適宜に低減することが可能となるため、表裏両面における良好な低反射性と生産性を両立させることができる。
【0082】
また、NDフィルタ1は、基材10におけるAR膜20が形成された面の反対側の面に形成され、赤外線の透過光量を調節するIRカット膜50をさらに備えるようにしてもよい。このようにすることで、表裏両面における良好な低反射性を備えるIRカット機能付きNDフィルタを実現することができる。また、IRカット機能付きNDフィルタとIRカットフィルタについて素材および製造工程の一部を共通化することが可能となるため、生産性を向上させることができる。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明に係るNDフィルタは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係るNDフィルタは、アナログカメラやデジタルカメラ、ビデオカメラ等の各種撮像装置の分野以外にも、可視光を使用する各種光学装置の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 NDフィルタ
10 基材
20 AR膜
22 低屈折率層
24 高屈折率層
30 ND膜
30a ND膜の最下層
50 IRカット膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に可視光領域において光量を調節するND(Neutral Density)フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチルカメラやビデオカメラといった撮像装置では、いわゆる絞りとNDフィルタを併用することによって、光量調節を行っている。絞りのみで光量調節を行う場合、例えば、快晴時等、高輝度の被写界を撮像する際には、絞りの開口を最小限にしても露出過多になってしまうことがある。また、絞りの開口を最小限にするとハンチング現象や光の回折の影響が大きくなるため、画像の品質が劣化することがある。このため、従来の撮像装置では、透過する光を消衰させて(吸収して)透過光量を調節するND(Neutral Density)フィルタを、絞り装置と共に組み込むことで、被写界の輝度が高い場合にも絞りの開口を大きくできるようにしている。
【0003】
このようにして使用されるNDフィルタは、光路に介在して光量を調節するものであるため、光の透過率が可視光領域の全域にわたってできるだけ平坦(均一)になっていることが好ましい。また、透過率を平坦化することにより、特定の範囲の波長の光のみが強調されるといったことがなくなるため、色の再現性を向上させることが可能となる。このため、近年では、樹脂フィルム等の透明な基材の表面に光を吸収する光吸収膜(金属膜)と光を干渉させる誘電体膜とを交互に積層したNDフィルタが広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、近年では、撮像装置の小型化に伴い、レンズ、絞り装置および撮像素子等の光学系を構成する部材が互いに非常に近接して配置されるようになっており、各部材における反射光に起因して発生するゴーストやフレア等の問題が顕著になってきている。このため、NDフィルタに対しても、透過率の平坦性と共に従来以上に低反射性が求められるようになっており、この観点から、最表層にAR(Anti Reflection)膜(反射防止膜)を有するNDフィルタも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−43211号公報
【特許文献2】特開2011−81083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、AR膜をND膜に重ねた場合、光干渉が生じてND膜の光透過性が可視光領域においてばらつき、その平坦性が失われることがある。また、上記特許文献2に記載されているように、ND膜の最表層にAR膜を配置したのでは、基材側(裏側)から入射した光がND膜裏面で反射するいわゆる裏面反射を低減させることはできない。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、AR膜とND膜を重ねることで生じる不具合を回避し、良好な低反射性を有するNDフィルタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、光透過性を有する基材と、前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層と、可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高い高屈折率層と、を有し、前記高屈折率層は、前記低屈折率層よりも前記基材側に位置することを特徴とする、NDフィルタである。
【0009】
(2)本発明はまた、光透過性を有する基材と、前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層の単層から構成されることを特徴とする、NDフィルタである。
【0010】
(3)本発明はまた、前記低屈折率層は、前記ND膜に隣接する位置に設けられることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のNDフィルタである。
【0011】
(4)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高いことを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0012】
(5)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける屈折率が、1.45乃至1.8の範囲内であることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0013】
(6)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける光学膜厚が、0.2乃至0.4の範囲内であることを特徴とする、上記(5)に記載のNDフィルタである。
【0014】
(7)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層が、低級酸化物を含む酸化物からなる層であることを特徴とする、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0015】
(8)本発明はまた、前記ND膜は、前記最下層が、低級酸化物を含むシリコン酸化物からなる層であることを特徴とする、上記(7)に記載のNDフィルタである。
【0016】
(9)本発明はまた、前記ND膜は、前記最下層に隣接する層が金属または金属の低級酸化物からなる層であることを特徴とする、上記(7)または(8)に記載のNDフィルタである。
【0017】
(10)本発明はまた、前記金属は、チタンであることを特徴とする、上記(9)に記載のNDフィルタである。
【0018】
(11)本発明はまた、前記AR膜および前記ND膜の反対側から入射する光の反射率が、波長555nmにおいて2%以下であることを特徴とする、上記(1)乃至(10)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0019】
(12)本発明はまた、前記ND膜は、前記AR膜上において部分的に形成され、前記AR膜は、前記基材の表面における光の反射の調節用、および前記ND膜の裏面における光の反射の調節用として兼用されることを特徴とする、上記(1)乃至(11)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【0020】
(13)本発明はまた、前記基材における前記AR膜が形成された面の反対側の面に形成され、赤外線の透過光量を調節するIRカット膜をさらに備えることを特徴とする、上記(1)乃至(12)のいずれかに記載のNDフィルタである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るNDフィルタによれば、AR膜とND膜を重ねることで生じる不具合を回避し、良好な低反射性を得ることが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)本発明の実施形態に係るNDフィルタの構成を示した概略図である。(b)同NDフィルタに入射する光の反射光を示した概略図である。
【図2】(a)および(b)AR膜およびND膜の構成を示した概略図である。
【図3】(a)および(b)ND膜の最下層を酸化物と低級酸化物の混合物から構成するようにした場合の例を示した概略図である。
【図4】(a)〜(c)ND膜単体での透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図5】(a)〜(c)3層構成のAR膜の上にND膜を形成した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図6】(a)〜(c)図5(a)に示した構成のAR膜およびND膜において第4層の厚みを変更した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図7】(a)〜(c)図5(a)に示した構成のAR膜およびND膜において第4層の屈折率および厚みを変更した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図8】(a)〜(c)図5(a)に示した構成のAR膜およびND膜において第4層の屈折率および厚みを変更した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図9】(a)〜(c)単層構成のAR膜の上にND膜を形成した場合の透過率および反射率のシミュレーション結果の一例を示した図である。
【図10】NDフィルタの成膜工程を示した概略図である。
【図11】(a)〜(e)NDフィルタのその他の構成の例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は、本実施形態に係るNDフィルタ1の構成を示した概略図である。同図に示されるように、NDフィルタ1は、平板状の基材(Substratum)10と、基材10の表面に形成されたAR膜20と、AR膜20の上に形成されたND膜30と、を備えて構成されている。
【0025】
基材10は、透明樹脂やガラス等の光を透過する材質から構成されている。基材10を構成する材質は、NDフィルタ1の用途に応じた波長の光を透過する材質であれば特に限定されるものではなく、例えばPET(PolyEthylene Terephthalate)シート等を使用することができる。基材10の厚みは、特に限定されるものではないが、NDフィルタ1が組み込まれる各種装置のコンパクト化のためには、可能な限り薄く構成することが好ましい。具体的には、基材10の厚みは、300μm以下であることが好ましく、175μm以下であればより好ましく、100μm以下であることが最も好ましい。
【0026】
AR膜20は、光の反射を防止(調節)するための薄膜であり、真空蒸着、イオンビームアシスト、イオンプレーティング、およびスパッタリング等の既知のドライプロセスによって基材10の表面に形成されている。本実施形態では、基材10の一方の面の略全面にAR膜を形成している。AR膜20の具体的な構成については、後述する。
【0027】
ND膜30は、NDフィルタ1を透過する可視光領域(波長が凡そ400〜700nmの範囲)の光を略平坦に消衰させるための薄膜であり、AR膜と同様にスパッタリング等の既知のドライプロセスによって基材10の表面に形成されている。本実施形態では、AR膜20の上に重ねてND膜30を形成している。また、本実施形態では、ND膜30をAR膜20上において部分的に形成するようにしているが、AR膜20上の略全面にND膜30を形成するようにしてもよい。ND膜30の具体的な構成については、後述する。
【0028】
図1(b)は、NDフィルタ1に入射する光の反射光を示した概略図である。NDフィルタ1が撮像装置等の光学系において使用される場合、外部からの光L1は、ND膜30が形成された表面側からNDフィルタ1に入射すると共に、この光L1が光学系を構成する他の部材表面で反射した光L2が裏面側からNDフィルタ1に入射することとなる。
【0029】
本実施形態では、AR膜20の上に重ねてND膜30を形成することで、表面側からの光L1の反射率(表面反射率)および裏面側からの光L2の反射率(裏面反射率)を共に低減させることを可能としている。すなわち、本願の発明者は、鋭意研究の結果、本来基材10(またはND膜30)の表面における反射光L1aを低減させるものであるAR膜20を、ND膜30と基材10の間に設けることで、ND膜30の裏面における反射光L2aも十分に低減可能であることを新たに見出した。
【0030】
また、そもそもND膜30は、一般的に表面における反射防止機能を有しているため、表面における反射光L1bはND膜30のみによって低減することが可能である。従って、ND膜30と基材10の間にAR膜20を設けた本実施形態では、ND膜30の表面における反射光L1bおよび裏面における反射光L2aの両方を低減させることが可能となっている。
【0031】
さらに、このND膜30と基材10の間のAR膜20は、ND膜30が形成されていない部分(外部に露出した部分)においては、基材10の表面における反射光L1aを低減させるように機能することとなる。すなわち、本実施形態のAR膜20は、基材10の表面における反射防止用の膜として兼用することが可能となっており、少ない膜構成で効率的に表裏両面の反射率を低減させるように構成されている。
【0032】
次に、AR膜20およびND膜30の具体的な構成について説明する。
【0033】
図2(a)および(b)は、AR膜20およびND膜30の構成を示した概略図である。AR膜20の構成は、特に限定されるものではなく、光の反射率を低減するための膜として従来使用されている構成を採用することができる。
【0034】
但し、ND膜30と重ねることにより生じる不要な光の干渉を低減し、可視光領域における透過率の平坦性に与える影響を少なくしつつ、裏面反射率を低減するためには、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10の可視光領域における屈折率よりも低い低屈折率層22(例えば、MgF2(フッ化マグネシウム)やSiO2(二酸化ケイ素、シリカ)からなる層)を少なくとも有していることが好ましい。
【0035】
また、AR膜20を、低屈折率層22と、可視光領域における屈折率が低屈折率層22の可視光領域における屈折率よりも高い高屈折率層24と、を含む複数の層からなる積層膜から構成する場合、不要な光の干渉を低減するためには、高屈折率層24は低屈折率層22よりも基材10側に位置していることが好ましい。さらに、低屈折率層22は、ND膜30に隣接する位置に設けられることが好ましい。また、高屈折率層24は、可視光領域における屈折率が基材10の可視光領域における屈折率よりも高いことが好ましく、さらに、AR膜20が2つの高屈折率層24を含む場合には、可視光領域における屈折率が低い方を基材10側に設けることが好ましい。
【0036】
すなわち、本願の発明者は、AR膜20として種々の屈折率の組み合わせを鋭意検討した結果、上記構成により光の干渉を調整し、可視光領域における透過率の平坦性と表裏両面における低反射性を両立可能であることを見出したのである。従って、AR膜20の具体的な構成としては、例えば、同図(a)に示されるように、基材10側からAL2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)、ZrO2(二酸化ジルコニウム、ジルコニア)、およびMgF2(フッ化マグネシウム)を順に積層した積層膜、または、同図(b)に示されるように、MgF2の単層膜等を採用することができる。
【0037】
また、同図(a)および(b)に示す例において、MgF2に代えてSiO2を使用するようにしてもよい。MgF2は、成膜時に充填密度が低下しやすい性質を有していることから、成膜後に酸素や水分等を含みやすく、このMgF2の層に含まれる酸素や水分等がAR膜20またはND膜30の特性に悪影響を及ぼす場合があるが、SiO2を使用することによってこのような不具合を排除することができる。
【0038】
なお、AL2O3の波長550nmにおける屈折率は約1.63、ZrO2の波長550nmにおける屈折率は約1.95、MgF2の波長550nmにおける屈折率は約1.38、およびSiO2の波長550nmにおける屈折率は約1.46となっている。また、基材10を例えばPETから構成した場合には、波長550nmにおける屈折率は約1.55となる。
【0039】
ND膜30の構成は、特に限定されるものではなく、可視光の透過率を調節する膜として従来使用されている構成を採用することができる。例えば、同図(a)および(b)に示されるように、SiO2(二酸化ケイ素、シリカ)、SiN(窒化ケイ素)、AL2O3(酸化アルミニウム、アルミナ)、MgF2(フッ化マグネシウム)、およびTiO2(二酸化チタン)等の誘電体からなる誘電体層32と、Ti(チタン)、Cr(クロム)、およびNi(ニッケル)等の金属やこれらの金属の酸化物(低級酸化物含む)または窒化物等の金属化合物等からなる消衰層34と、を交互に積層した積層膜からND膜30を構成することができる。
【0040】
但し、AR膜20と重ねることにより生じる不要な光の干渉を低減し、可視光領域における透過率の平坦性に与える影響を少なくしつつ、裏面反射率を低減するためには、AR膜20に隣接する最下層30aの可視光領域における屈折率が、AR膜20の低屈折率層22の可視光領域における屈折率よりも高いことが好ましい。より具体的には、最下層30aの波長550nmにおける屈折率は、1.45〜1.8の範囲内であることが好ましく、1.5〜1.6の範囲内であればより好ましい。また、最下層30aの厚み(波長550nmにおける光学膜厚)は、屈折率が1.45〜1.8の範囲内である場合には0.2〜0.4の範囲内であることが好ましく、屈折率が1.5〜1.6の範囲内である場合には0.2〜0.3の範囲内であることが好ましい。
【0041】
すなわち、本願の発明者は、ND膜30の最下層30aにおける屈折率および厚みを鋭意検討した結果、上記範囲内とすることで可視光領域における透過率の平坦性と表裏両面における低反射性をより高いレベルで両立可能であること、特に、裏面反射率を視感度の最も高い波長555nm付近において低減可能であることを見出したのである。
【0042】
さらに、本願の発明者は、鋭意研究の結果、ND膜30の最下層30aを、酸化物と低級酸化物の混合物から構成することにより、最下層30aの屈折率を適宜に調整し、最適化可能であることを見出した。図3(a)および(b)は、ND膜30の最下層30aを酸化物と低級酸化物の混合物から構成するようにした場合の例を示した概略図である。同図(a)に示す例では、ND膜30の最下層30aを酸化物であるSiO2と低級酸化物であるSiOの混合物、すなわち低級酸化物を含むシリコン酸化物から構成している。
【0043】
最下層30aをこのように構成した場合、低級酸化物の屈折率と酸化物の屈折率が異なることから、最下層30aに含まれる酸化物の量と低級酸化物の量の比率を調節することで、最下層30aの屈折率を適宜の値に調整することができる。すなわち、最下層30aの屈折率を、AR膜20およびND膜30の構成に合わせた適宜の値に調整することが可能となり、可視光領域における透過率の平坦性と裏面反射率の低減をより高いレベルで両立させることができる。
【0044】
また、このような酸化物と低級酸化物の混合物からなる最下層30aは、例えばスパッタリング等による成膜を行う際にターゲットを変更することなく雰囲気の酸素分圧を変更するのみで形成することが可能であるため、効率的に形成することが可能となっている。
【0045】
なお、図3(b)に示されるように、最下層30aを、酸化物であるSiO2の層および低級酸化物であるSiOの層から構成するようにしてもよい。この場合、SiO2の層およびSiOの層は、明確な境界を有して形成されるものであってもよいし、明確な境界を有さずに形成されるものであってもよい。
【0046】
また、同図(b)に示されるように、低級酸化物であるSiOの層をAR膜20の反対側に設けるようにした場合、最下層30aに隣接する消衰層34が酸化して特性が変化するのを効果的に防止することが可能となる。すなわち、消衰層34を金属または金属の低級酸化物から構成した場合において、SiO2の層に含まれる酸素が消衰層34に移動するのを低級酸化物であるSiOの層によってブロックすることができるため、消衰層34の酸化を防止し、NDフィルタ1の性能が経時的に変化するのを防止することができる。この構成は、最下層30aに隣接する消衰層34をTi等の活性金属からなるきわめて薄い層から構成した場合に、特に効果的である。
【0047】
なお、ND膜30の最下層30aを構成する酸化物および低級酸化物は、シリコン酸化物以外の酸化物および低級酸化物から構成されるものであってもよい。また、低級酸化物のみから最下層30aを構成するようにしてもよい。また、低級酸化物の層を設けるのではなく、酸化物に低級酸化物をランダムに混合するようにした場合においても、消衰層34への酸素の移動が抑制されることとなるのはいうまでもない。
【0048】
次に、NDフィルタ1の具体的な構成における透過率および反射率のシミュレーション結果について説明する。
【0049】
図4(a)〜(c)は、ND膜30単体での透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。なお、同図(a)はこの例の膜構成を示した表であり、同図(b)は表面側(基材10の反対側)から入射する光の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフであり、同図(c)は裏面側(基材10側)から入射する光の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果を示したグラフである。また、同図(a)においては基材10側を第1層としている(以下、図5〜図9においても同じ)。
【0050】
この例では、同図(a)に示されるように、SiO2とSiOの積層物からなる誘電体膜32と、TiまたはTiNからなる消衰膜34とを交互に積層してND膜30を構成している。すなわち、この例では、全ての誘電体膜32をSiO2とSiOの積層物から構成することにより、誘電体膜32の波長λ=550nmにおける屈折率を1.5に設定すると共に、Tiからなる消衰層34の酸化を抑制するようにしている。また、各層の厚み(波長λ=550nmにおける光学膜厚)を、同図(a)に示す値に設定している。
【0051】
同図(b)に示されるように、この構成のND膜30によれば、可視光領域における透過率Tを平坦に保ちつつ、表面の反射率Rを低減することが可能となっている。しかしながら、同図(c)に示されるように、裏面の反射率Rは10%近くになる領域が存在しており、高い値を示す結果となっている。
【0052】
図5(a)〜(c)は、3層構成のAR膜20の上にND膜30を形成した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。この例では、同図(a)に示されるように、AL2O3、ZrO2およびMgF2の積層膜から構成したAR膜20の上に、図4(a)に示した構成のND膜30を形成している。そして、ND膜30の最下層30aである第4層の厚みを0.250に設定している。
【0053】
AR膜20をこのように構成すると共に第4層の厚みを適宜に調整することで、図5(b)および(c)に示されるように、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを略5%前後と、実用的に十分なレベルに抑えることが可能となっている。
【0054】
図6(a)〜(c)は、図5(a)に示した構成のAR膜20およびND膜30において第4層の厚みを変更した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。この例では、図6(a)に示されるように、ND膜30の最下層30aである第4層の厚みを0.266に設定している。
【0055】
最下層30aである第4層の厚みをこのように調整することにより、同図(b)および(c)に示されるように、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを、視感度の最も高い波長555nm付近において2%以下に低減することができる。すなわち、裏面の反射において最も重要となる波長域の反射率Rを低減し、NDフィルタ1の反射特性をより実用的なものとすることが可能となっている。
【0056】
なお、第4層の屈折率が1.5〜1.6の範囲内である場合は、上述のように第4層の厚みを2.0〜3.0の範囲内で調整することが好ましい。これにより、透過率Tの平坦性を維持しつつ、良好な反射特性を得ることが可能となる。
【0057】
図7(a)〜(c)および図8(a)〜(c)は、図5(a)に示した構成のAR膜20およびND膜30において第4層の屈折率および厚みを変更した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。図7(a)〜(c)に示す例においては、ND膜30の最下層30aである第4層の屈折率を1.45に設定し、厚みを0.304に設定している。また、図8(a)〜(c)に示す例においては、第4層の屈折率を1.8に設定し、厚みを0.364に設定している。
【0058】
図7(b)および(c)ならびに図8(b)および(c)に示されるように、第4層の屈折率が1.45〜1.8の範囲内であれば、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを、視感度の最も高い波長555nm付近において2%以下に低減することができ、NDフィルタ1の反射特性を実用的な範囲内に収めることが可能となっている。
【0059】
なお、第4層の屈折率が1.45〜1.8の範囲内である場合は、上述のように厚みを2.0〜4.0の範囲内で調整することが好ましい。これにより、透過率Tの平坦性を維持しつつ、良好な反射特性を得ることが可能となる。
【0060】
図9(a)〜(c)は、単層構成のAR膜20の上にND膜30を形成した場合の透過率Tおよび反射率Rのシミュレーション結果の一例を示した図である。この例では、同図(a)に示されるように、MgF2の単層膜から構成したAR膜20の上に、図4(a)に示した構成のND膜30を形成している。そして、ND膜30の最下層30aである第4層の厚みを0.250に設定している。
【0061】
図9(b)および(c)に示されるように、AR膜20を単層膜から構成した場合においても、透過率Tの平坦性を維持しつつ、裏面における反射率Rを略5%前後と、実用的に十分なレベルに抑えることが可能となっている。
【0062】
次に、NDフィルタ1の成膜工程について説明する。
【0063】
図10は、NDフィルタ1の成膜工程を示した概略図である。同図に示されるように、NDフィルタ1の成膜においては、まず基板10上にAR膜20を形成する。AR膜20は、上述のようにスパッタリング等のドライプロセスによって形成される。次に、形成したAR膜20上にマスク40を配置し、ND膜30を形成しない部分をマスキングする。そして、スパッタリング等のドライプロセスにより、AR膜20およびマスク40の上からND膜30を形成し、最後にマスク40を除去することで、成膜が完了する。
【0064】
このように、本実施形態のNDフィルタ1では、1つのAR膜20をND膜30の裏面における反射率低減および基材10の表面における反射率低減の2つの機能に兼用しているため、1回のマスク処理で効率的に成膜することが可能となっている。すなわち、本実施形態のNDフィルタ1は、優れた低反射性だけではなく高い生産性をも兼ね備えたものとなっている。
【0065】
次に、NDフィルタ1のその他の形態について説明する。
【0066】
図11(a)〜(e)は、NDフィルタ1のその他の構成の例を示した概略図である。同図(a)は、基材10の両面にAR膜20およびND膜30を形成した例を示している。NDフィルタ1に要求される性能によっては、このように、基材10の両面にAR膜20およびND膜30を形成するようにしてもよい。この場合、基材10の両面に同一の構成のAR膜20およびND膜30を形成するようにしてもよいし、異なる構成のAR膜20およびND膜30を形成してもよい。
【0067】
また、同図(b)に示されるように、AR膜20の上にND膜30を重ねて形成した面の反対側(裏面)に、AR膜20のみを形成するようにしてもよいし、同図(c)に示されるように、AR膜20の上にND膜30を重ねて形成した面の反対側に、ND膜30のみを形成するようにしてもよい。これらの場合においても、基材の10両面のAR膜20およびND膜30は、同一の構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。
【0068】
同図(d)は、基材10の一方の面(表面)にAR膜20およびND膜30を形成し、他方の面(裏面)に赤外線(波長が凡そ700nm以上)をカットするIR(InfraRed)カット膜50を形成した例を示している。本実施形態のNDフィルタ1では、従来のNDフィルタのように基材10の両面にND膜30を形成することなく裏面反射率を低減することが可能であるため、このようにND膜30の反対側の面にIRカット膜50を形成することで、容易にIRカット機能を得られるようになっている。
【0069】
また、このようにIRカット膜50を設けるようにした場合、同図(e)に示されるように、ND膜30を形成する前の状態、すなわち基材10の一方の面にAR膜20が形成され、他方の面にIRカット膜が形成された状態のものは、IRカットフィルタ2として使用することが可能となっている。従って、本実施形態のNDフィルタ1によれば、IRカット機能付きNDフィルタとIRカットフィルタについて素材および製造工程の一部を共通化することで2種類のフィルタを効率的に製造することが可能であり、生産性をさらに高めることが可能となっている。
【0070】
なお、同図(a)〜(e)に示す例において、AR膜20、ND膜30、およびIRカット膜50は、いずれも基材10の略全面にわたって形成されるものであってもよいし、部分的に形成されるものであってもよい。すなわち、AR膜20、ND膜30、およびIRカット膜50の形成範囲は、NDフィルタ1の仕様等に応じて適宜に設定すればよい。
【0071】
以上説明したように、本実施形態に係るNDフィルタ1は、光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜20と、AR膜20の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜30と、を備え、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10よりも低い低屈折率層22と、可視光領域における屈折率が低屈折率層22よりも高い高屈折率層24と、を有し、高屈折率層24は、低屈折率層22よりも基材10側に位置している。
【0072】
また、NDフィルタ1は光透過性を有する基材10と、基材10の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜20と、AR膜20の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜30と、を備え、AR膜20は、可視光領域における屈折率が基材10よりも低い低屈折率層20の単層から構成されるものであってもよい。
【0073】
このような構成とすることで、AR膜20とND膜30を重ねることで生じる不要な光の干渉を低減し、可視光領域における光の透過率の平坦性に悪影響を与えることなく、良好な低反射性を有するNDフィルタ1を実現することができる。
【0074】
また、低屈折率層22は、ND膜30に隣接する位置に設けられることが好ましい。このようにすることで、不要な光の干渉を適切に低減し、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0075】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aの可視光領域における屈折率が低屈折率層22よりも高いことが好ましい。このようにすることで、不要な光の干渉を適切に低減し、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0076】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aの波長550nmにおける屈折率が、1.45乃至1.8の範囲内であることが好ましい。このようにすることで、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0077】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aの波長550nmにおける光学膜厚が、0.2乃至0.4の範囲内であることが好ましい。このようにすることで、可視光領域における光の透過率の平坦性と良好な低反射性を高いレベルで両立させることができる。
【0078】
また、ND膜30は、AR膜20に隣接する最下層30aが、低級酸化物を含む酸化物からなる層であることが好ましい。このようにすることで、最下層30aの屈折率をAR膜20およびND膜30の構成に合わせた適切な値に調節することができる。
【0079】
また、ND膜30は、最下層30aが、低級酸化物を含むシリコン酸化物からなる層であることが好ましい。このようにすることで、成膜を容易にすると共に、最下層30aの屈折率を適切な値に設定することができる。
【0080】
なお、このような最下層30aの構成は、ND膜30の最下層30aに隣接する層が金属または金属の低級酸化物からなる層である場合、特にチタンまたはチタンの低級酸化物である場合に好適である。
【0081】
また、ND膜30は、AR膜20上において部分的に形成され、AR膜20は、基材10の表面における光の反射の調節用、およびND膜30の裏面における光の反射の調節用として兼用されることが好ましい。このようにすることで、膜構成を簡素化しつつ、ND膜30の表裏両面における光の反射を適宜に低減することが可能となるため、表裏両面における良好な低反射性と生産性を両立させることができる。
【0082】
また、NDフィルタ1は、基材10におけるAR膜20が形成された面の反対側の面に形成され、赤外線の透過光量を調節するIRカット膜50をさらに備えるようにしてもよい。このようにすることで、表裏両面における良好な低反射性を備えるIRカット機能付きNDフィルタを実現することができる。また、IRカット機能付きNDフィルタとIRカットフィルタについて素材および製造工程の一部を共通化することが可能となるため、生産性を向上させることができる。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明に係るNDフィルタは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係るNDフィルタは、アナログカメラやデジタルカメラ、ビデオカメラ等の各種撮像装置の分野以外にも、可視光を使用する各種光学装置の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 NDフィルタ
10 基材
20 AR膜
22 低屈折率層
24 高屈折率層
30 ND膜
30a ND膜の最下層
50 IRカット膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基材と、
前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、
前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、
前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層と、可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高い高屈折率層と、を有し、
前記高屈折率層は、前記低屈折率層よりも前記基材側に位置することを特徴とする、
NDフィルタ。
【請求項2】
光透過性を有する基材と、
前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、
前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、
前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層の単層から構成されることを特徴とする、
NDフィルタ。
【請求項3】
前記低屈折率層は、前記ND膜に隣接する位置に設けられることを特徴とする、
請求項1または2に記載のNDフィルタ。
【請求項4】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高いことを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項5】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける屈折率が、1.45乃至1.8の範囲内であることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項6】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける光学膜厚が、0.2乃至0.4の範囲内であることを特徴とする、
請求項5に記載のNDフィルタ。
【請求項7】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層が、低級酸化物を含む酸化物からなる層であることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項8】
前記ND膜は、前記最下層が、低級酸化物を含むシリコン酸化物からなる層であることを特徴とする、
請求項7に記載のNDフィルタ。
【請求項9】
前記ND膜は、前記最下層に隣接する層が金属または金属の低級酸化物からなる層であることを特徴とする、
請求項7または8に記載のNDフィルタ。
【請求項10】
前記金属は、チタンであることを特徴とする、
請求項9に記載のNDフィルタ。
【請求項11】
前記AR膜および前記ND膜の反対側から入射する光の反射率が、波長555nmにおいて2%以下であることを特徴とする、
請求項1乃至10のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項12】
前記ND膜は、前記AR膜上において部分的に形成され、
前記AR膜は、前記基材の表面における光の反射の調節用、および前記ND膜の裏面における光の反射の調節用として兼用されることを特徴とする、
請求項1乃至11のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項13】
前記基材における前記AR膜が形成された面の反対側の面に形成され、赤外線の透過光量を調節するIRカット膜をさらに備えることを特徴とする、
請求項1乃至12のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項1】
光透過性を有する基材と、
前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、
前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、
前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層と、可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高い高屈折率層と、を有し、
前記高屈折率層は、前記低屈折率層よりも前記基材側に位置することを特徴とする、
NDフィルタ。
【請求項2】
光透過性を有する基材と、
前記基材の表面に形成されて光の反射を調節するAR膜と、
前記AR膜の上に形成されて可視光の透過光量を調節するND膜と、を備え、
前記AR膜は、可視光領域における屈折率が前記基材よりも低い低屈折率層の単層から構成されることを特徴とする、
NDフィルタ。
【請求項3】
前記低屈折率層は、前記ND膜に隣接する位置に設けられることを特徴とする、
請求項1または2に記載のNDフィルタ。
【請求項4】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の可視光領域における屈折率が前記低屈折率層よりも高いことを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項5】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける屈折率が、1.45乃至1.8の範囲内であることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項6】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層の波長550nmにおける光学膜厚が、0.2乃至0.4の範囲内であることを特徴とする、
請求項5に記載のNDフィルタ。
【請求項7】
前記ND膜は、前記AR膜に隣接する最下層が、低級酸化物を含む酸化物からなる層であることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項8】
前記ND膜は、前記最下層が、低級酸化物を含むシリコン酸化物からなる層であることを特徴とする、
請求項7に記載のNDフィルタ。
【請求項9】
前記ND膜は、前記最下層に隣接する層が金属または金属の低級酸化物からなる層であることを特徴とする、
請求項7または8に記載のNDフィルタ。
【請求項10】
前記金属は、チタンであることを特徴とする、
請求項9に記載のNDフィルタ。
【請求項11】
前記AR膜および前記ND膜の反対側から入射する光の反射率が、波長555nmにおいて2%以下であることを特徴とする、
請求項1乃至10のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項12】
前記ND膜は、前記AR膜上において部分的に形成され、
前記AR膜は、前記基材の表面における光の反射の調節用、および前記ND膜の裏面における光の反射の調節用として兼用されることを特徴とする、
請求項1乃至11のいずれかに記載のNDフィルタ。
【請求項13】
前記基材における前記AR膜が形成された面の反対側の面に形成され、赤外線の透過光量を調節するIRカット膜をさらに備えることを特徴とする、
請求項1乃至12のいずれかに記載のNDフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−83885(P2013−83885A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225082(P2011−225082)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(507200938)株式会社タナカ技研 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(507200938)株式会社タナカ技研 (8)
【Fターム(参考)】
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