NF−κBの調節機構
本発明は、NF-κBの2つの新しい調節機構の発見に関する。本発明は、NF-κBが、Pin1が触媒するp65のプロリル異性化、およびユビキチンを介したタンパク質分解によって調節されることを示す。したがって本発明は、NF-κB、ならびにNF-κBに関連した疾患および障害を調節する方法を提供する。さらに本発明は、NF-κB、Pin1の活性または発現の調節、および/またはp65のタンパク質分解の調節を可能とする組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2003年7月25日に出願された米国仮特許出願第60/490,109号、および2003年5月8日に出願された米国仮特許出願第60/469,542号の優先権を主張する。
【0002】
政府資金
本発明は、その少なくとも一部は米国立衛生研究所からの助成金(R01 GM56230およびGM58556)による支援を受けて実施された。
【0003】
背景
転写因子NF-κBは、その阻害因子IκBの分解によって活性化され、結果として核へ移行する。しかし、どのように核内のNF-κBが後に調節を受けるかは明らかではなく、また、その安定性が調節を受けるか否かの報告はない。
【0004】
核因子(nuclear factor)-κB(NF-κB)/Relファミリーのタンパク質は、細胞増殖、免疫応答、炎症、細胞の生存、および発癌に関連する、さまざまな遺伝子の発現の調節に中心的な役割を果たす誘導性転写因子である(Baeuerle and Henkel, 1994; Ghosh and Karin, 2002; Karin et al., 2002; Li and Verma, 2002; Sen and Baltimore, 1986)。NF-κBは主にp65/RelAとp50の異型二量体複合体であるが、他の型の異型二量体も報告されている(Baeuerle and Baltimore, 1996; Ghosh et al., 1998)。NF-κBは通常、IκBと呼ばれる阻害性タンパク質ファミリーのタンパク質との非共有結合による相互作用を介して細胞質内に局在する(Ghosh et al., 1998)。NF-κBシグナル伝達は、最終的にIκBキナーゼ複合体(IKK)の活性化を招く、サイトカインや一部の成長因子などの多様な刺激によって活性化される(Ghosh et al., 1998; Israel, 2000; Karin, 1999)。
【0005】
IKKがIκBをリン酸化すると、IκBは、ユビキチンを介したタンパク質分解経路によって分解される(DiDonato et al., 1997; Ghosh and Karin, 2002; Karin, 1999; Karin et al., 2002; Mercurio et al., 1997; Regnier et al., 1997; Yamaoka et al., 1998; Zandi et al., 1997)。こうしてNF-κB複合体の核内への移行が可能となる。核内で同複合体は、同族のκBエンハンサーエレメントに結合して、遺伝子発現を調節する。活性化されたNF-κBの発現を抑制する主な負のフィードバック機構は、NF-κBによるIκBα遺伝子のトランス活性化である(Beg et al., 1993; Brown et al., 1993; Chiao et al., 1994; Sun et al., 1993)。新たに合成されたIκBαは、細胞質と核の間を行き来し、またNF-κBをプロモーターから引き離すことで、NF-κB-IκBα複合体の細胞質への復帰を促すことができる(Arenzana-Seisdedos et al., 1995; Arenzana-Seisdedos et al., 1997; Ghosh and Karin, 2002; Karin et al., 2002)。これらの過程は、NF-κBによる転写反応を終了に導く(Arenzana-Seisdedos et al., 1995; Arenzana-Seisdedos et al., 1997)。
【0006】
NF-κBは、免疫と炎症の両方において確立した機能を有するが、最近になってNF-κBシグナル伝達の調節解除が発癌および癌の悪性化と関連することが多く報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002)。NF-κBは、乳癌を始めとするヒトの多くの癌で構成的に活性を示す(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Nakshatri et al., 1997; Nakshatri and Goulet, 2002; Sovak et al., 1997; Wang et al., 1999)。
【0007】
また、癌細胞で活性化されたNF-κBは、細胞増殖、転移、血管形成、および抗アポトーシスに関与する多くの遺伝子の発現を高めることが報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Nakshatri and Goulet, 2002)。またNF-κBの活性化は、悪性度の高さおよび予後不良と相関することが報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Lessard et al., 2003; Wang et al., 1999)。また、IκBαの速やかな代謝または分解が、おそらくIL-1α、c-myc、EGF、およびヒレグリン(heregulin)の過剰発現(Arlt et al., 2002; Bhat-Nakshatri et al., 1998; Bhat-Nakshatri et al., 2002; Nakshatri and Goulet, 2002)によるIKKの構成的活性化のために、癌細胞におけるNF-κBの構成的活性化に関与する可能性があることが示唆されている(Miyamoto et al., 1994)。しかし、IκBαのタンパク質レベルも、構成的に活性を示すNF-κBを含む多くの癌組織および癌細胞で増加する(Nakshatri and Goulet, 2002; Wang et al., 1999)ことから、IκBαを介したNF-κBの阻害が損なわれている可能性があることが示唆されている。
【0008】
したがって、核への移行に続いて、NF-κBの機能(特にNF-κBとIκBαの結合)は通常、さらに調節を受ける可能性があり、またこのような調節機構が癌細胞では損なわれている可能性がある。実際にPKAなどの複数のキナーゼによる核内におけるNF-κBのリン酸化がNF-κBの転写活性を高めることが報告されている(Zhong et al., 1997; Zhong et al., 1998)。しかしながら、こうした修飾の大半は、NF-κBの転写活性を調節するが、その核への移行または代謝を調節しない。Chenらは最近、p65のアセチル化状態がp65とIκBαとの結合親和性に影響することを報告している(Chen et al., 2001; Chen et al., 2002)。このモデルでは、核内のアセチル化されたp65はIκBαと結合しにくくなり、HDAC3によるp65の脱アセチル化によって、この耐性が解除される可能性がある(Chen et al., 2001; Chen et al., 2002)。しかし、アセチル化されたp65の内在的レベルは、生理学的条件では極めて低いことが報告されている(Chen et al., 2001; Ghosh and Karin, 2002)ので、p65のアセチル化の生物学的な役割と、癌におけるNF-κBの構成的活性化との関連は十分解明されていない。したがって、核内における活性化されたNF-κBとIκBαの相互作用の調節機構と、癌における同調節の解除の詳細を明らかにすることは重要である。これは、NF-κBが介在する発癌を理解する上で重要なだけでなく、新たな抗癌療法を設計する際の一助にもなる可能性がある。
【0009】
Pin1は、一連のタンパク質中のプロリンの手前に位置する、リン酸化されたセリン残基またはスレオニン残基の特定のモチーフ(pSer/Thr-Pro)に結合するペプチジル-プロリルイソメラーゼである。この結合によって、特徴的なpSer/Thr-Proモチーフのシス/トランス異性化による構造変化が誘導される(Lu et al., 1996; Shen et al., 1998; Yaffe et al., 1997)。シスおよびトランスのpSer/Thr-Pro部分は、2つの全く異なるシスおよびトランスのコンホメーションをとるので、Pin1によって誘導される構造変化は、多くの基質の機能に大きな影響を及ぼすことが報告されている(Lu et al., 1996; Lu et al., 1999; Ranganathan et al., 1997; Shen et al., 1998; Yaffe et al., 1997; Zhou et al., 1999)。この新しい「ポスト-リン酸化(post-phosphorylation)」機構は、活性レベル、リン酸化状態、タンパク質間相互作用、細胞内局在、および安定性を調節することで、Pin1の基質タンパク質の機能を調節する(Lu et al., 2002; Ryo et al., 2003)。Pin1は、細胞周期の進行、転写の調節、および細胞の増殖などの、多くの細胞過程の調節に関与することがわかっている(Lu et al., 2002; Ryo et al., 2003)。
【0010】
またPin1は、乳癌および前立腺癌を含むヒトの多くの癌で高度に過剰発現されており、高レベルのPin1は、高い悪性度および予後不良と相関する(Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)。またPin1は、Neu/Ras/c-Jun経路やWnt/β-カテニン経路などの複数の発癌遺伝子経路を活性化する(Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)。興味深いことにPin1は、β-カテニン、CF2、およびp53などの複数の転写調節因子の機能の調節を、タンパク質安定性および細胞内局在を調節することで行うことが報告されている(Hsu et al., 2001; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2002; Zacchi et al., 2002; Zheng et al., 2002)。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は、NF-κBの機能が、Pin1が介在するp65/RelAのプロリン異性化、およびユビキチンを介したp65/RelAのタンパク質分解による調節を受けるという発見に基づく。Pin1はp65のpThr254-Proモチーフに結合し、またp65とIκBαの結合を阻害することで、さらにはp65の核内蓄積およびタンパク質安定性を高めることでNF-κBの活性を高める。したがって、Pin1を欠くマウスおよび細胞は、サイトカインシグナルによるNF-κBの活性化に抵抗性を示す。またPin1の基質として作用できないp65変異体(T254A)は、極めて不安定であり、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化することもできない。注目すべきことに、p65の安定性は、ユビキチンリガーゼとして作用するサイトカインシグナル阻害因子SOCS-1によって促進されるユビキチンを介したタンパク質分解による制御を受ける。以上の知見から、NF-κBシグナル伝達の制御における、これまで認識されていなかった機構の存在が明らかとなり、また、その調節解除が、癌などのヒト疾患におけるNF-κBの構成的活性化に関する新たな洞察をもたらす可能性があることが示唆される。
【0012】
NF-κBファミリーのタンパク質が、免疫応答、炎症応答、およびアポトーシス応答に果たす役割は詳しく調べられている(Rayet, B. et al., 1999, Oncogene 18, 6938-6947;Ebralidze, A., et al., 1989, Genes Dev. 3, 1086-1093、およびBaeurle, P. A. et al., 1996, Cell 87, 13-20)。
【0013】
したがって本発明は、NF-κBの活性が調節されるようにPin1の活性を調節する物質を細胞に接触させる段階を含む、細胞内におけるNF-κBポリペプチドの活性を調節する方法を提供する。
【0014】
関連する態様では、NF-κBの活性はIκBαと相互作用する能力である。別の態様では、Pin1の活性はペプチジルプロリルイソメラーゼ活性である。別の関連する態様では、Pin1を調節する組成物はPin1調節因子(例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子、または抗体)である。抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の場合がある。モノクローナル抗体は、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体の場合がある。
【0015】
別の態様では、本発明は、Pin1の活性を阻害する段階を含む、NF-κBのp65サブユニットのpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法を提供する。関連する態様では、Pin1活性は、Pin1の活性部位に結合する化合物をPin1ポリペプチドに接触させることによって阻害される。関連する態様では、Pin1の活性部位に結合する化合物は、小分子、ペプチド、またはペプチド模倣物などの場合がある。別の関連する態様では、Pin1活性は、Pin1のWWドメインに結合する化合物をPin1ポリペプチドに接触させることで阻害される。関連する態様では、Pin1のWWドメインに結合する化合物は、小分子、ペプチド、ホスホセリンペプチド、またはペプチド模倣物などの場合がある。
【0016】
別の態様では、本発明は、Pin1がNF-κBと相互作用する能力を阻害する段階を含む、NF-κBのp65サブユニット内のpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法を提供する。関連する態様では、Pin1がNF-κBと相互作用する能力を阻害する化合物は、小分子、ペプチド、またはペプチド模倣物などの場合がある。
【0017】
別の態様では、本発明は、Pin1の調節因子を被験対象に投与することで被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連疾患の被験対象を治療する方法を提供する。特定の態様では、NF-κB障害は、細胞増殖異常、免疫応答障害、炎症、細胞生存異常(cell survival disorder)、および発癌障害(oncogenesis disorder)からなる群より選択される。
【0018】
別の態様では、本発明は、NF-κBのp65サブユニットのアミノ酸残基254および255を含むエピトープに特異的な抗体を被験対象に投与することで被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連疾患の被験対象を治療する方法を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、Pin1の産生を阻害することで、ユビキチンを介したタンパク質分解経路によるNF-κBのタンパク質分解を可能とする段階を含む、NF-κBタンパク質の分解量を増やす方法を提供する。産生されるPin1の量は、siRNAまたはRNAiを用いることで調節することができる。
【0020】
別の態様では、本発明は、SOCS-1の発現を高める化合物を被験対象に投与することで、NF-κBの分解を阻害する段階を含む、NF-κB関連障害の被験対象を治療する方法を提供する。
【0021】
詳細な説明
本明細書に記載された研究では、NF-κB(アクセッション番号:NP_003989)のシグナル伝達を制御する2つの新しい調節機構が同定された。本明細書には、Pin1がp65のpThr254-Proモチーフに特異的に結合し、その核局在およびタンパク質安定性を、おそらくp65とIκBα(アクセッション番号:NP_0656390)の結合を阻害することを介して高めることが示されている。Pin1(アクセッション番号:AAC50492)によるp65の調節の生物学的重要性は、Pin1欠損細胞が、p65の迅速な核外輸送および分解のために、サイトカインシグナルによるNF-κBの活性化に抵抗性を示すという知見によって、またPin1基質として作用できないp65-T254A変異体が極めて不安定で、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できないという知見によって、さらに確認されている。これらの知見と矛盾することなく、p65のタンパク質安定性がユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受けること、またサイトカインシグナル阻害因子SOCS-1がp65ユビキチンリガーゼであると推定されることがさらに報告されている。またSOCS-1は、p65のユビキチン化およびタンパク質安定性の調節に重要な役割を果たす。以上の結果から、NF-κBが、Pin1が触媒するp65のプロリン異性化およびユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受けることが初めてわかった。
【0022】
Pin1の発現促進およびSOCS-1の発現抑制がヒトの多くの癌で明瞭に認められることから、このような新しい機構の調節解除は、癌におけるNF-κBの構成的活性化に寄与する可能性が高い。特定のpSer/Thr-Pro結合に対する結合と異性化によってPin1は、特定のリン酸化タンパク質の構造および機能を調節することで、遺伝子発現、細胞周期の調節、および発癌に重要な役割を果たす可能性がある(Lu et al., 2002; Ryo et al., 2003)。本明細書では、Pin1が、IκKの活性およびIκBαのリン酸化に影響を及ぼすことなくNF-κBシグナル伝達を活性化することが明らかにされている。Pin1はまた、p65のThr254-Proモチーフに直接結合する。同部位はp65とIκBαの相互作用の「ホットスポット」の近傍に位置する。NF-κB-IκBα複合体の結晶構造から、IκBαとp65の結合は、p65とIκBαの結合に重要な役割を果たすことが報告されているSer238-Asp243とArg253を含む第5ループ領域の周囲におけるp65の構造変化を強く促す(Huxford et al., 1998; Jacobs and Harrison, 1998)。
【0023】
Thr254-Proモチーフは同複合体の内部に埋込まれている。IκBαが上流のシグナル伝達によって分解されてNF-κBとIκBαが解離すると、p65の二量体化ドメインは柔軟性を増し、Thr254-Proモチーフが露出されてリン酸化を受けることが可能となる。このリン酸化によってPin1結合部位が新たに生じる。続いてPin1は、pThr254-Proモチーフに結合して同モチーフを異性化し、結果的にp65とIκBαの結合面が完全に破壊される可能性があると考えられる。しかしながら、結晶構造および現行モデルから、Pin1とIκBαの結合は、p50との相互作用およびp65のヘテロ二量体化に影響しない可能性がある。この可能性と一致してPin1は、p65とIκBαの結合を阻害するがp50との結合は阻害しないことが、共免疫沈降法およびインビトロ結合アッセイ法の結果から判明している。またPin1の過剰発現は、p65の核外輸送と、続く分解を阻害するが、Pin1の破壊はこれを促進する。重要な点は、Pin1結合部位変異体であるp65-T254Aが極めて不安定であり、NF-κBの下流遺伝子をトランス活性化できなかったことである。1残基のアミノ酸置換による、この機能上の顕著な変化は、同部位におけるリン酸化と、これに続くPin1との相互作用がNF-κBの適切な調節に重要な役割を果たすことをさらに支持する。以上の結果から、Pin1がp65の安定性、核局在、および転写活性の促進に重要な役割を果たすことがわかる。この結果は、Pin1がβ-カテニン、p53、サイクリンD1、およびCF1などの他の複数のタンパク質の安定性および核内局在を調節するが、基礎となる機構は基質によって変わるという、過去に得られた知見と矛盾しない(Hsu et al., 2001; Liou et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2002; Zacchi et al., 2002; Zheng et al., 2002)。例えばp53の場合、Pin1は、p53のタンパク質安定性および転写活性を、おそらくMDM2との結合を阻害することで高める(Wulf et al., 2002; Zacchi et al., 2002; Zheng et al., 2002)。
【0024】
β-カテニンの場合、Pin1は、β-カテニンとAPCの結合を阻害し、その核への移行、タンパク質安定性、および転写活性を、p65の場合と同様に高める(Ryo et al., 2001)。p65のThr254-Proモチーフをリン酸化する上流のキナーゼ、ならびにその機能および調節を見極めるためには、さらに研究が必要である。
【0025】
Pin1がp65のタンパク質安定性を調節する能力をもつという事実は、p65がユビキチンを介したタンパク質分解を受けるという、本研究における別の驚くべき知見につながった。ユビキチンを介したIκBαのタンパク質分解の特性は詳細に明らかにされており(Baeuerle and Baltimore, 1996; Ghosh et al., 1998)、類似の調節がNF-κBそのものに関して過去に報告されている。p65は、野生型MEFおよびPin1を発現する他の細胞で極めて安定であるが、Pin1-/- MEFでは非常に不安定であり、これはプロテアソーム阻害剤MG-132によって安定化可能であると考えられる。またPin1+/+細胞であっても、Pin1との結合を損なうp65の点突然変異(T254A)は、p65を安定な状態から、速やかな核外輸送と続くタンパク質分解のために、極めて不安定なタンパク質へと変換する。以上の結果からp65が、そもそも高度に不安定であり、また正常に調節されていることがわかる。
【0026】
p65のタンパク質安定性の調節は、p65がインビトロおよびインビボでポリユビキチン化され、これがUbcH5aによって促進されるという、発明者らの得た知見によってさらに支持されるが、他のユビキチン結合E2酵素については検討は進んでいない。またp65のユビキチンリガーゼがSOCS-1であることが推定されている。SOCS-1はp65と直接相互作用し、そのユビキチン化および分解を促進し、サイトカインによるNF-κBの活性化を阻害する。注目すべきことにSOCS-1は、サイトカインシグナル伝達(SOCS)抑制因子ファミリーのタンパク質の1つであり、JAK2およびVavのユビキチン化と分解を促すことも報告されている(De Sepulveda et al., 2000; Frantsve et al., 2001; Kamizono et al., 2001; Kile et al., 2002)。SOCS-1は、構成的活性型のKIT受容体、TEL-JAK2、およびv-ABLによって誘導される細胞増殖を阻害可能な、ならびにBCR-ABL形質転換細胞の転移を減じることが可能な腫瘍抑制因子であると推定されている(Kile and Alexander, 2001; Rottapel et al., 2002; Yoshikawa et al., 2001)。
【0027】
最近になって、LPSによって誘導されるマクロファージの活性化をSOCS-1が阻害することが報告されている(Kinjyo et al., 2002; Nakagawa et al., 2002)。この場合、LPSがSOCS1を誘導し、これが次にLPSのシグナル伝達を負に調節することが明らかにされている。SOCS1-/-のマクロファージは、LPSによって誘導されるIκBαのリン酸化、およびNF-κBの活性化の促進を示す。過去の研究では、SOCS-1がLPSによるNF-κBの活性化を、IκBαのリン酸化に関する上流のシグナル伝達経路を阻害することで抑制することが報告されているが、詳細な分子機構は明らかではない。本研究で発明者らは、SOCS-1がp65を直接標的とすること、またそのユビキチンを介したタンパク質分解を促してNF-κBの発現抑制を招くことを明らかにした。したがってSOCS-1は、NF-κBシグナル伝達を複数の機構によって抑制可能であると言える。
【0028】
Pin1およびSOCS-1によってNF-κBが調節されることの生物学的重要性は、マウスモデルにおける乳腺の表現型によっても明らかにされている。妊娠後期における乳腺の発達におけるNF-κBシグナル伝達の重要性と早期乳汁分泌(precocious lactation)が報告されている(Brantley et al., 2001; Cao et al., 2001; Clarkson, 2002; Fata et al., 2000; Geymayer and Doppler, 2000; Hennighausen and Robinson, 2001)。p65ノックアウトマウスは胚性致死であるが(Beg et al., 1995)、IKKαノックアウトマウスは、妊娠中および妊娠後における乳腺発達の重度の異常を明瞭に示す(Cao et al., 2001)。同様に、Pin1ノックアウトの乳腺ではNF-κBは活性を示さず、また上皮細胞は妊娠中に大規模な増殖変化を受けない(Liou et al., 2002)。これとは対照的に、SOCS-1欠損マウスでは乳腺の発達が速い(Lindeman et al., 2001)。以上の結果から、インビボにおいてPin1およびSOCS-1とNF-κBシグナル伝達が機能的に関連することがさらに支持される。
【0029】
注目に値すべきことに、Pin1が触媒するp65のプロリン異性化およびユビキチンを介したタンパク質分解の調節解除は、ヒトの多くの癌におけるNF-κBの構成的活性化に関する新たな洞察をもたらす可能性がある。多くのヒトの癌では、Pin1が高度に過剰発現されている(Ryo et al., 2003; Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)一方で、SOCS-1遺伝子は、ヒトの多くの悪性腫瘍で発現が抑制されていることが報告されている(Rottapel et al., 2002; Yoshikawa et al., 2001)。Pin1の過剰発現は、おそらく核と細胞質を往復するタンパク質であるIκBαとの結合を阻害することでp65の核外輸送を減ずるので、NF-κBは、核内に蓄積して構成的に活性を示す可能性がある。加えて、仮に一部のp65タンパク質が、新たに合成されたIκBαまたは他の外部輸送因子との相互作用によって細胞質内に輸送されるのであれば、SOCS-1の発現抑制のために、ユビキチン-プロテアソーム経路で適切に分解されない可能性がある。細胞質のNF-κBは、IκBαのリン酸化と、続く(上流の発癌シグナルによって活性化される)IKKによるIκBαの分解のために核内に移行可能である。
【0030】
このような条件では、NF-κBの発現を抑制する負のフィードバック機構が損なわれている可能性があるので、NF-κBが核内で構成的に活性化されることで、たとえIκBαが増加した状態でも下流の遺伝子を活性化すると考えられる。この考えと矛盾することなく、Pin1のレベルは、ヒトの乳癌組織においてNF-κBの活性化と相関し、またPin1の阻害は、乳癌細胞においてNF-κBの活性化を抑制する。また同モデルは、IκBαが癌組織で増加した状況であっても、NF-κBが構成的に活性を示す理由を説明する可能性もある。したがって、以上の結果は、Pin1に依存したp65のプロリン異性化およびユビキチンを介したタンパク質分解がNF-κBシグナル伝達を調節する新たな機構である可能性があること、また、この調節解除が、発癌中および発癌後においてNF-κBの構成的活性化に重要な役割を果たす可能性があることを示唆する。
【0031】
したがって本発明は、Pin1の活性および/または発現を調節することでNF-κBを調節する方法を提供する。本発明はまた、NF-κBが関連する疾患または障害の被験対象を治療する方法を提供する。
【0032】
「NF-κB関連疾患」または「NF-κB関連障害」という表現は、NF-κBの異常な発現、分解、または活性が、望ましくない生理学的な結果を引き起こす疾患および障害を含むことを意図する。特定の態様では、このような疾患または障害は、細胞増殖異常(例えば癌)、免疫応答障害、および炎症性障害である。
【0033】
「細胞増殖異常」という表現は、細胞の異常な成長を特徴とする疾患および障害を含むことを意図する。このような疾患および障害には、癌、肉腫、骨髄腫、および新形成などが含まれる。本明細書で用いる「細胞増殖異常」という表現には、乏突起細胞腫、星細胞腫、多形膠芽腫、子宮頚癌、類内膜癌、子宮内膜の漿液性癌、卵巣の類内膜癌、卵巣のブレンナー腫瘍、卵巣の粘液癌、卵巣の漿液性癌、子宮癌肉腫、乳癌、乳房の小葉癌、乳房の腺管癌、乳房の髄様癌、乳房の粘液癌、乳房の管状腺癌、甲状腺癌、甲状腺の濾胞状癌、甲状腺の髄様癌、甲状腺の乳頭癌、副甲状腺の腺癌、副腎腺腫、副腎癌、褐色細胞腫、結腸腺腫の軽度の異形成、結腸腺腫の中等度の異形成、結腸腺腫の重度の異形成、結腸腺癌、食道腺癌、肝細胞癌、口腔癌、胆嚢の腺癌、膵臓の腺癌、小腸の腺癌、胃のびまん性腺癌、前立腺癌(ホルモン不応性)、前立腺癌(治療不能の癌)、腎臓の色素嫌性癌、腎臓の明細胞癌、腎臓の膨大細胞腫、腎臓の乳頭癌、睾丸の非精上皮腫、睾丸精上皮腫、膀胱移行上皮癌、肺腺癌、肺大細胞癌、肺小細胞癌、肺扁平上皮癌、ホジキンリンパ腫、MALTリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)(B細胞性びまん性大細胞型)、NHL、胸腺腫、皮膚の悪性黒色腫、皮膚の基底細胞癌、皮膚の扁平上皮細胞癌、皮膚のメルケル細胞癌、皮膚の良性母斑、脂肪腫、ならびに脂肪肉腫などの疾患および障害が含まれる。
【0034】
「免疫応答障害」という表現は、個体による免疫応答の上昇または低下に至る、NFκBの発現または調節が異常な免疫障害を含むことを意図する。例えば自己免疫疾患、皮膚疾患、乾癬、皮膚炎、組織および臓器の拒絶などの疾患および障害が本発明に含まれる。
【0035】
「炎症性障害」という表現は、NF-κBの発現または調節が異常な疾患および障害を含むことを意図する。また「炎症性障害」という表現は、炎症を特徴とする、炎症によって引き起こされる、炎症の結果生じる、または炎症の影響を受ける疾患または障害を含むことを意図する。炎症性障害は、例えばNF-κBが介在する過程が関連する生物学的および病理学的な過程に起因する、または関連する可能性がある。炎症性の疾患または障害の例には、喘息、乾癬、慢性関節リウマチ、骨関節症、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、強直性脊椎炎、敗血症、血管炎、および滑液包炎などの急性および慢性の炎症性障害;狼瘡、多発性筋痛、リウマチ、強皮症、ヴェグナー肉芽腫症、側頭動脈炎、クリオグロブリン血症、および多発性硬化症などの自己免疫疾患;移植組織拒絶;骨粗鬆症;固形腫瘍(例えば肺、CNS、結腸、腎臓、および膵臓の癌)を含む癌;アルツハイマー病;アテローム動脈硬化症;ウイルス(例えばHIVまたはインフルエンザ)感染;慢性ウイルス(例えばエプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス)感染;ならびに毛細血管拡張性失調症などがあるがこれらに限定されない。
【0036】
好ましい態様では、本発明は、NF-κBが関与することが知られている疾患(例えば炎症性障害;特に慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、および喘息;乾癬およびアトピー性皮膚炎を含む皮膚疾患;自己免疫疾患;組織および臓器の拒絶;アルツハイマー病;卒中;アテローム動脈硬化症;再狭窄;ホジキン病を含む癌;ならびにAIDSを含む、一部のウイルス感染;骨関節症;骨粗鬆症;および毛細血管拡張性失調症を治療する方法を提供する。
【0037】
Pin1の調節因子
Pin1の例示的なペプチドおよびペプチド模倣物の調節因子は、2002年10月8日に出願された米国特許第6,462,173号に記載されている。Pin1活性の例示的な小分子調節因子は、米国特許第6,462,173号、WO 03074550A2、WO 03073999A2、WO 03074497A1、WO 04028535A1、WO 03074001A2、WO 03074002A2、および2004年1月16日に出願された、"Pin1-Modulating Compounds and Methods of Use Thereof"と題する米国仮出願第60/537,171号に記載されている。Pin1の調節因子は、当技術分野で周知の方法でさらに同定することができる。
【0038】
Pin1ポリペプチドの調節因子を設計する方法は例えば、WO 03074001A2に記載されている。
【0039】
Pin1の調節因子は、Pin1を認識する抗体の場合がある。このような抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の場合があり、またPin1活性(例えば、標的分子との相互作用をブロックすることによるPin1のNF-κBとの相互作用能力)を調節可能である。本発明の抗体は、本明細書に詳述されている。
【0040】
抗原性ペプチドに含まれる好ましいエピトープは、Pin1の複数の領域、すなわちタンパク質の表面(例えば親水性領域)、ならびに抗原性の高い領域に位置する、NF-κBのp65サブユニットである。さらにより好ましい抗体は、Pin1とNF-κBの相互作用部位の一部を含む残基を含むエピトープを認識する抗体である。
【0041】
Pin1またはNF-κBの免疫原は典型的には、適切な被験対象(例えばウサギ、ヤギ、マウス、または他の動物)を免疫原で免疫化することで抗体を調製するために用いられる。適切な免疫原調製物は例えば、組換え的に発現されたPin1タンパク質もしくはNF-κBタンパク質、または化学的に合成されたPin1もしくはNF-κBのポリペプチドを含む場合がある。同調製物はさらに、フロインド完全アジュバントまたはフロインド不完全アジュバントなどのアジュバント、または類似の免疫調節剤を含む場合がある。免疫原性を有するPin1またはNF-κB調製物によって適切な被験対象を免疫化すると、ポリクローナルの抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体の応答が誘導される。
【0042】
したがって本発明の別の局面は、抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体に関する。本明細書で用いる「抗体」という表現は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性のある部分(すなわちPin1やNF-κBなどの抗原と特異的に結合する(免疫応答する)抗原結合部位を含む分子)を意味する。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性のある部分の例には、抗体をペプシンなどの酵素で処理することで作製可能なF(ab)断片やF(ab')2断片などがある。本発明はPCIPに結合するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を提供する。本明細書で用いる「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という表現は、Pin1またはNF-κBの特定のエピトープと免疫応答可能な1種類の抗原結合部位のみを含む抗体分子の集団を意味する。したがって、モノクローナル抗体組成物は典型的には、免疫応答する特定のPin1タンパク質またはNF-κBタンパク質に対する1つの結合親和性を示す。Pin1に対する抗体については、全体が参照により明瞭に本明細書に組み入れられる米国特許第6,596,848号で説明されている。
【0043】
ポリクローナルの抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体は、上述の手順で、PCIP免疫原で適切な被験対象を免疫化することで調節可能である。免疫化された被験対象における抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体の力価は、固定されたPCIPを使用する酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)などの標準的な手法で経時的に追跡可能である。望ましいならば、Pin1またはNF-κBに対する抗体分子を哺乳類から(例えば血液から)単離し、さらにプロテインAクロマトグラフィーなどの周知の手法で精製してIgG画分を得ることができる。免疫化後の適切な時点で(例えば抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体の力価が最高時に)、被験対象から抗体産生細胞を回収し、文献(Kohler and Milstein, 1975, Nature 256: 495-497)に当初記載されたハイブリドーマ法などの標準的な手法(Brown et al., 1981, J. Immunol. 127: 539-46;Brown et al., 1980, J. Biol. Chem. 255: 4980-83;Yeh et al., 1976, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76: 2927-31;およびYeh et al., 1982, Int. J Cancer 29: 269-75も参照)、最近開発されたヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor et al.,1983, Immunol Today 4: 72)、EBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., 1985, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77-96)、またはトリオーマ法によるモノクローナル抗体の調製に使用することができる。モノクローナル抗体のハイブリドーマを産生させる手法は周知である(一般に、R.H. Kenneth, in Monoclonal Antibodies: A New Dimension In Biological Analyses, Plenum Publishing Corp., New York, New York, 1980;E.A. Lerner, 1981, Yale J. Biol. Med., 54: 387-402;M.L. Gefter et al., 1977, Somatic Cell Genet. 3: 231-36を参照)。簡単に説明すると、不死細胞系列(典型的には骨髄腫)を、上述の手順でPCIP免疫原によって免疫化した哺乳類に由来するリンパ球(典型的には脾細胞)と融合させ、結果として得られるハイブリドーマ細胞の培養上清を対象にスクリーニングを行い、Pin1またはNF-κBと結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。
【0044】
リンパ球と不死化細胞系列の融合に用いられる任意の多くの既知のプロトコルを、抗Pin1モノクローナル抗体または抗NF-κBモノクローナル抗体を作製する目的に応用することができる(例えば上記のG. Galfre et al., 1977, Nature 266: 55052;Gefter et al., Somatic Cell Genet.、前掲;Lerner, Yale J. Biol. Med.、前掲;Kenneth, Monoclonal Antibodies、前掲を参照)。また当業者であれば、このような方法に、有用な多くの代替的方法が存在することを理解できると思われる。典型的には、不死細胞系列(例えば骨髄腫細胞系列)は、リンパ球と同じ哺乳類種に由来する。例えばマウスのハイブリドーマは、本発明の免疫原性調製物で免疫化したマウス由来のリンパ球を、不死化されたマウス細胞系列と融合させることで作製できる。好ましい不死細胞系列は、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地(「HAT培地」)に感受性を示すマウス骨髄腫細胞系列である。任意の数の骨髄腫細胞系列を、標準的な手法で融合相手の細胞として使用できる(例えばP3-NS1/1-Ag4-1、P3-x63-Ag8.653、またはSp2/O-Ag14の各骨髄腫系列)。これらの骨髄腫系列はATCCから入手できる。典型的には、HAT感受性を示すマウス骨髄腫細胞を、ポリエチレングリコール(「PEG」)を用いてマウスの脾細胞と融合させる。次に、融合の結果生じるハイブリドーマ細胞を対象に、融合していない骨髄腫細胞および非生産的に融合した骨髄腫細胞を死滅に導くHAT培地で選択を行う(融合しなかった脾細胞は、形質転換されていないために数日後に死滅する)。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えばPin1またはNF-κBに結合する抗体を求める、ハイブリドーマ培養上清を対象としたスクリーニングによって(例えば標準的なELISAアッセイ法で)検出される。
【0045】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製する代りに、モノクローナルの抗PCIP抗体を同定して、Pin1またはNF-κBを用いた、組換え型のコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば抗体ファージディスプレイライブラリー)のスクリーニングによって、抗Pin1抗体または抗NF-κBと結合する免疫グロブリンライブラリーの抗体を単離することができる。ファージディスプレイライブラリーを作製およびスクリーニングするためのキットは市販されている(例えばPharmacia社のRecombinant Phage Antibody System、カタログ番号27-9400-01;およびStratagene社のSurfZAP(商標) Phage Display Kit、カタログ番号240612)。加えて、抗体ディスプレイライブラリーの作製およびスクリーニングにおける使用に特に適した方法および試薬の例は例えば、Ladnerらの米国特許第5,223,409号、PCT International Publication No. WO 92/18619;DowerらのPCT International Publication No. WO 91/17271;WinterらのPCT International Publication WO 92/20791;MarklandらのPCT International Publication No. WO 92/15679;BreitlingらのPCT International Publication WO 93/01288;McCaffertyらのPCT International Publication No. WO 92/01047;GarrardらのPCT International Publication No. WO 92/09690;LadnerらのPCT International Publication No. WO 90/02809;Fuchs et al., 1991, Bio/Technology 9: 1370-1372;Hay et al., 1992, Hum. Antibod. Hybridomas 3: 81-85;Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281;Griffiths et al., 1993, EMBO J 12: 725-734;Hawkins et al., 1992, J. Mol. Biol. 226: 889-896;Clarkson et al., 1991, Nature 352: 624-628;Gram et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 3576-3580;Garrad et al., 1991, Bio/Technology 9: 1373-1377;Hoogenboom et al., 1991, Nuc. Acid Res. 19: 4133-4137;Barbas et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7978-7982;およびMcCafferty et al., Nature, 1990, 348: 552-554に記載されている。
【0046】
加えて、標準的な組換えDNA手法で作製可能な、ヒト部分と非ヒト部分の両方を含むキメラ抗体やヒト化モノクローナル抗体などの組換え型の抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体が本発明の範囲に含まれる。このようなキメラ抗体およびヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野で周知の組換えDNA手法で、例えばRobinsonらのInternational Application No. PCT/US86/02269;Akiraらの欧州特許出願第184,187号;Taniguchi, M.の欧州特許出願第171,496号、Morrisonらの欧州特許出願第173,494号;NeubergerらのPCT International Publication No. WO 86/01533;Cabillyらの米国特許第4,816,567号;Cabillyらの欧州特許出願第125,023号;Better et al., 1988, Science 240: 1041-1043;Liu et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 3439-3443;Liu et al., 1987, J.Immunol. 139: 3521-3526;Sun et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 214-218;Nishimura et al., 1987, Canc. Res. 47: 999-1005;Wood et al., 1985, Nature 314: 446-449;およびShaw et al., 1988, J. Natl. Cancer Inst. 80: 1553-1559;Morrison, S.L., 1985, Science 229: 1202-1207;Oi et al., 1986, BioTechniques 4: 214;Winterの米国特許第5,225,539号;Jones et al.,1986, Nature 321: 552-525;Verhoeyan et al., 1988, Science 239: 1534;およびBeidler et al.,1988, J. Immunol. 141: 4053-4060に記載された方法で作製することができる。
【0047】
抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体(例えばモノクローナル抗体)を使用して、アフィニティクロマトグラフィーや免疫沈降法などの標準的な手法でPin1またはNF-κBを単離することができる。抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体は、細胞からの天然のPCIPの精製、および宿主細胞で発現させた、組換え的に作製されたPin1またはNF-κBの精製を効率化することができる。また、抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体を使用して、Pin1タンパク質またはNF-κBタンパク質を(例えば細胞溶解物中または細胞上清中に)検出して、Pin1タンパク質またはNF-κBタンパク質の発現の量およびパターンを評価することができる。抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体は、臨床検討の手順の一部として、例えば任意の治療法の効率を見極めるために、また組織中のタンパク質レベルを追跡するために、診断目的で使用することができる。検出は、検出可能な物質を抗体に結合させることで(すなわち物理的に結びつけることで)効率化することができる。検出可能な物質の例には、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、および放射性材料などがある。適切な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼなどがあり、適切な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンやアビジン/ビオチンなどがあり、適切な蛍光材料の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、またはフィコエリトリンなどがあり、発光材料の例にはルミノールなどがあり、生物発光材料の例には、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびイクオリンなどがあり、また適切な放射性材料の例には、125I、131I、35S、または3Hなどがある。
【0048】
またPin1の調節因子は、アンチセンスRNA、siRNA、またはRNAiなどの、Pin1ポリペプチドが翻訳されないPin1発現の調節因子である場合がある。RNAiは、標的となるmRNAが配列特異的に分解される、植物および動物における遍在性の遺伝子調節機構である(Sharp, et al., 2001, Genes Dev. 15, 485-490;Hutvagner, G et al., 2002, Curr. Opin. Genet. Dev. 12, 225-232;Zamore, P.D. et al., 2000, Cell 101, 25-33;およびElbashir, S.M. et al., 2001, Nature 411, 494-498)。siRNA技術については、文献(Elbashir, et al., 2001, Genes Dev. 15, 188-200;Hammond, S.M., et al., Nature , 2000, 404, 293-296;およびBernstein, E., et al., 2001, Nature 409, 363-366)に記載されている。
【0049】
本発明のsiRNA分子は、各鎖が16〜30ヌクレオチド(例えば16ヌクレオチド、17ヌクレオチド、18ヌクレオチド、19ヌクレオチド、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、27ヌクレオチド、28ヌクレオチド、29ヌクレオチド、または30ヌクレオチド)である場合がある(鎖の一方は、標的領域に対して実質的に相補的である(例えば、相補性は少なくとも80%(または例えば85%、90%、95%、または100%)(例えば3個、2個、1個、または0個の誤対合ヌクレオチド(群)を有する))。標的領域は、野生型と変異型の対立遺伝子間で少なくとも1塩基対が異なる。例えば標的領域は機能獲得変異を含み、またもう一方の鎖は、第1の鎖と同一か、または実質的に同一である。本発明のdsRNA分子は、化学的に合成可能であるほか、DNAテンプレートもしくは人工的に作製されたRNA前駆体からインビトロで転写可能である。
【0050】
dsRNA分子は例えば、以下のプロトコルにしたがって、当技術分野で周知の任意の方法で設計可能である:
1.AUG開始コドンを出発点としてAAジヌクレオチド配列を探す(個々のAAおよび3'端の隣接する16ヌクレオチドまたはこれ以上のヌクレオチドがsiRNAの標的である可能性がある)。siRNAは、野生型と変異型の対立遺伝子間で少なくとも1塩基対が異なる標的領域(例えば、機能獲得変異を含む標的領域)に特異的なはずである。機能獲得変異が、同じ遺伝子上の1つもしくは複数の他の変異と関連する場合、siRNAは、任意の変異を標的とする可能性がある。場合によっては、siRNAは、既知の変異を含まないが、野生型(標準)配列の対立遺伝子変異を含む対立遺伝子領域を標的とする。第1の鎖は、この配列に相補的とすべきであり、またもう1つの鎖は、第1の鎖と同一か、または実質的に同一である。1つの態様では、核酸分子は、例えばSOD1の配列の開始コドンの少なくとも50〜100ヌクレオチド下流から始まる標的対立遺伝子配列の領域から選択される。またG/C含量の低い(35〜55%)siRNAは、G/C含量が55%を上回るsiRNAより活性が高い場合がある。したがって1つの態様では、本発明は、G/C含量が35〜55%の核酸分子を含む。またsiRNAの鎖は、1〜4残基のヌクレオチド(例えば2残基のヌクレオチド)の3'オーバーハングを有するように対を形成する場合がある。したがって別の態様では、核酸分子は、TTなどの2ヌクレオチドの3'オーバーハングを有する場合がある。オーバーハングを有するヌクレオチドはRNAまたはDNAの場合がある。
2.当技術分野で周知の任意の方法で、潜在的な標的を適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラットなど)と比較し、他のコード配列とかなりのホモロジーを有する標的配列を検討対象から除去する。このような配列ホモロジー探索の1つの方法は、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTから利用可能なBLASTとして知られている。
3.希望する評価基準に適合する1つまたは複数の配列を選択する。siRNAの設計および使用に関する他の一般的な情報は、http://www.mpibpc.gwdg.de/abteilungen/100/105/sirna.htmlで閲覧可能な「The siRNA User Guide」に記載されている。本発明のsiRNAは一般に、アンチセンス鎖中に1残基もしくは複数の残基の修飾塩基(例えばU(5Br)、U(5I)、および/またはDAP)を有する。このような修飾型のsiRNAは、修飾塩基を用いて合成可能である。
【0051】
Pin1の他の調節因子は、Pin1の天然の基質に似たペプチド(例えばホスホセリン部分またはホスホトレオニン部分)の場合がある。特定の態様では、このようなペプチドは、NF-κBのp65サブユニット上のPin1の認識部位に類似している場合がある。
【0052】
NF-κBの調節因子は、例えば、文献(Breton, J.J and Chabot-Fletcher, M.C. JPET, 282, 459-466, 1997)に記載された細胞ベースのルシフェラーゼレポーターアッセイ法で同定することができる。簡単に説明すると、NF-κBレポータープラスミド(後述)で恒久的にトランスフェクトされたU937ヒト組織球性リンパ腫細胞系列を、250 μg/mlのジェネティシン(Geneticin)(硫酸G418、Life Technologies, Grand Island, N.Y.)を添加した上記培地で培養する。トランスフェクトされたU937クローンを対象にルシフェラーゼレポーターアッセイ法を行う。2回遠心(300×g、5分)し、10% FBSを含むRPMI 1640中に密度が1×106細胞/mlとなるように再懸濁する。1 mlのアリコートを24ウェルプレートのウェルに添加する。化合物またはジメチルスルホキシド(DMSO)担体(1 μl)を適当なウェルに添加し、プレートを37℃で5% CO2の雰囲気下で30分間インキュベートする。刺激を加え(5 ng/mlのTNF-α、100 ng/mlのLPS、または0.1 μMのPMA)、試料を37℃で5% CO2の雰囲気下で5時間インキュベートし、1.9 ml容のポリプロピレンチューブに移して遠心する(200×g、5分)。細胞ペレットを、Ca2+およびMg2+を含まない1 mlのPBSで2回洗浄し、上記条件で遠心する。得られた細胞ペレットを50 μlの1×溶解緩衝液(Promega Corporation, Madison, Wis.)に溶解し、ボルテックスミキサーで攪拌してインキュベートする(室温、15分)。各溶解物の20 μlのアリコートを、不透明な白色の96ウェルプレート(Wallac Inc., Gaithersburg, Md.)に移し、ルシフェラーゼ産生を調べるアッセイ法を、MicroLumat LB96Pルミノメーター(EG & G Berthold, Bad Wilbad, Germany)を使用して行う。ルミノメーターは100 μlのルシフェラーゼアッセイ法用試薬(Promega Corporation, Madison, Wis.)を各ウェルに分注し、光出力の積分値を20秒間にわたって記録する。光出力は相対光度単位(RLU)で測定する。
【0053】
また、本発明の調節因子を対象に、本明細書の実施例に記載されたインビボアッセイ法で、NF-κBと相互作用する能力、および/またはNF-κBの活性を調節する能力を検討することができる。また本発明の調節因子は、動物モデル(例えば、文献(May, et al., 2000, Science 289, 1550-1553)に記載されたNF-κB用の動物モデル)で検討することが可能であり、またインビボにおける抗炎症活性は、ホルボールエステルによって誘導されるマウスの耳炎症モデルで評価することができる。酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)(アセトン中に4 μg/20 μl)を雄のBalb/cマウス(6匹/群)(Charles River Breeding Laboratories, Wilmington, Mass.)の左耳の内面および外面に塗布する。4時間後、25 μlのアセトンに溶解した化合物を同じ側の耳に塗布する。20時間後に、両耳の厚さをダイアル式マイクロメーター(Mitutoyo, Japan)で測定し、化合物の第2の局所投与を行う。24時間後に耳の厚さの測定を行い、データを、処理耳と非処理耳間の厚みの変化(×l0-3 cm)として表す。次に、炎症を生じた左耳を切除して-70℃で保存した後に、炎症性の細胞浸潤の尺度であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性のアッセイ法を行った。
【0054】
薬学的組成物とその投与
本発明は、本明細書で説明するように、NF-κB関連障害に関与する細胞に投与するために、薬学的組成物中にポリペプチド、核酸、小分子、抗体、および他の薬剤の使用を含む。このような分子、タンパク質、核酸、および抗体(本明細書では「活性化合物」とも呼ばれる)は、被験対象(例えばヒト)への投与に適切な薬学的組成物中に混合することができる。このような組成物は典型的には、核酸分子、タンパク質、調節因子、または抗体、および薬学的に許容可能な担体を含む。しかしながら、投与が、インビトロで細胞を対象に行われる場合もあること、またヒト以外のトランスジェニック動物などのインビボモデル系を対象に行われる場合があることが理解される。
【0055】
「投与する」という表現は広い意味で用いられ、本発明の組成物を被験対象に導入する任意の方法を含む。この方法は、インビボでポリペプチドまたはポリヌクレオチドを転写または翻訳によって産生させる段階、またはインビボにおいて外部から被験対象に導入されたポリヌクレオチドを産生させる段階を含む。したがって、被験対象で産生される、外来組成物由来のポリペプチドまたは核酸は、「投与する」という表現に含まれる。
【0056】
本明細書で用いる「薬学的に許容される担体」という表現は、薬学的投与に適合する任意の、またあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むことを意図する。薬学的に活性のある物質に対する、このような溶媒および薬剤の使用は当技術分野で周知である。ただし、任意の従来の溶媒または薬剤が活性化合物と不適合な場合を除いて、このような溶媒を本発明の組成物に使用することができる。追加的な活性化合物を組成物中に混合することもできる。本発明の薬学的組成物は、意図された投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例には、非経口的な経路、例えば静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(例えば吸入投与)、経皮投与(局所投与)、経粘膜投与、および腸内投与などがある。非経口的投与、皮内投与、または皮下投与に用いられる溶液または懸濁液は、以下の成分を含む場合がある:注射用水、食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒などの滅菌済みの希釈物;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸などの緩衝液、および等張性を調節するための薬剤(塩化ナトリウムやデキストロースなど)。pHは、塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調節することができる。非経口用調製物は、アンプル、ディスポーザブルシリンジ、またはガラス製もしくは樹脂製の多数回投与用バイアルに収容することができる。
【0057】
注射に適した薬学的組成物には、無菌性の水溶液(水溶性の場合)または分散媒、および無菌性の注射用液または分散媒を一時的に調製するための無菌性粉末などがある。静脈内投与の場合、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF, Parsippany, NJ)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)などがある。いずれの場合においても、組成物は無菌性でなければならず、また容易なシリンジ収容性を可能とする程度の液体であるべきである。また製造および保存の条件で安定でなければならず、細菌や真菌などの微生物の作用の混入を防ぐように保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにこれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動性は例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することで、分散媒の場合は必要な粒子径を維持することで、また界面活性剤を使用することで維持できる。微生物の作用は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤を使用して防ぐことができる。多くの場合、等張剤(例えば糖類や、ポリアルコール(マンニトールやソルビトール)、および塩化ナトリウム)などを組成物中に含めることが好ましい。注射用組成物の長時間を要する吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどの、吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含めることで達成可能である。
【0058】
無菌性の注射可能な溶液は、活性化合物(例えば小分子や抗体)を必要量の適切な溶媒中に、必要に応じて、前述の1種類もしくは複数の内容物とともに混合した後に濾過滅菌することで調製できる。一般に分散媒は、ベースとなる分散媒、および前述の化合物に由来する他の必要な成分を含む滅菌済みの溶媒中に活性化合物を混合することで調製される。滅菌済みの注射溶液を調製するための滅菌済み粉末の好ましい調製法は、活性成分の粉末と、任意の追加的な所望の内容物の粉末を、無菌濾過済みの同溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥である。
【0059】
経口組成物は一般に、不活性な希釈物または食用に適した担体を含む。これらは、ゼラチンカプセル剤に含めることができるほか、錠剤中に圧縮することができる。経口投与の場合、薬剤は、胃の中で存在し続けられるようにするために、経腸用剤形(enteric form)に含める場合があるほか、消化管の特定の領域で放出されるように、さらに既知の方法でコーティングしたり混合したりすることができる。治療薬を経口投与する際には、活性化合物に添加剤を加えて、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形状で使用することができる。経口用組成物は、洗口液に用いられる液状担体を用いて調製することもできる(液状担体中の化合物は口に入れて、また吹きかけて吐き出させるか、または飲み込ませる)。薬学的に適合する結合剤および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の任意の内容物、または類似の性質を有する化合物を含む場合がある:微結晶セルロース、トラガカントガム、またはゼラチンなどの結合剤;デンプンや乳糖などの賦形剤;アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムやSteroteなどの潤滑剤;コロイド状の二酸化シリコンなどの流動促進剤;ショ糖やサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料などの着香剤。
【0060】
吸入による投与の場合、化合物は、適切な噴霧剤(例えば二酸化炭素などの気体)を含む、加圧型容器またはディスペンサー(ネブライザー)からエアロゾルスプレーの状態で輸送される。
【0061】
全身投与は、経粘膜または経皮的な手段で行うこともできる。経粘膜投与または経皮投与の場合、浸透防御に適した浸透剤を製剤化に使用する。このような浸透剤は一般に当技術分野で周知であり、例えば経粘膜投与用として、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、経鼻スプレーまたは坐剤を使用することで達成できる。経皮投与の場合、活性化合物は、一般に当技術分野で周知の外用薬、軟膏、ゲル、またはクリーム中に製剤化される。
【0062】
活性化合物は、(例えば、カカオバターおよび他のグリセリドなどの従来の坐剤用基材を用いて)坐剤の形状で、または腸から導入する場合は浣腸剤の状態で調製することもできる。
【0063】
1つの態様では、活性化合物を、インプラントやマイクロカプセル輸送系を含む徐放性製剤などの、化合物が身体から速やかに除去されないように保護する担体を用いて調製する。エチレンビニル酢酸、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性で生体適合性のあるポリマーを使用することができる。このような製剤の調製法は、当業者には明らかであると思われる。材料はAlza社およびNova Pharmaceuticals社製の市販品を入手することも可能である。リポソーム懸濁物(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体とともに、感染細胞を標的とするリポソームを含む)を、薬学的に許容可能な担体として使用することができる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号で説明されている、当業者に既知の方法で使用することができる。
【0064】
経口用または非経口用の組成物を、投与を容易にするための、また用量を均一にするための用量単位剤形として製剤化することが特に有益である。本明細書で用いる「用量単位剤形」という表現は、治療対象の被験対象に対する単位投与に適した、物理的に明瞭な単位を意味する。個々の単位は、所望の治療効果を生じるように計算された所定の量の活性化合物を、必要な薬学的担体とともに含む。本発明の用量単位剤形の仕様は、活性化合物の固有の特徴、および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体治療用の対象活性化合物を配合する技術分野における固有の限度により規定され、またこれに直接依存する。
【0065】
本発明の核酸分子をベクターに挿入することで、遺伝子治療用のベクターとして使用できる。遺伝子治療用のベクターは例えば、静脈注射、局所投与(米国特許第5,328,470号)によって、または定位的な注射(stereotactic injection)によって被験対象に輸送できる(例えば、Chen et al., 1994, PNAS 91: 3054-3057を参照)。遺伝子治療用ベクターの薬学的調製物は、許容可能な希釈物中に遺伝子治療用のベクターを含む場合があるほか、遺伝子輸送用溶媒が包埋された徐放性マトリックスを含む場合がある。あるいは、完全な遺伝子輸送用ベクター(例えばレトロウイルスベクター)が組換え細胞から完全な状態で産生可能な場合、薬学的調製物は、遺伝子輸送系となる1種類もしくは複数の細胞を含む場合がある。薬学的組成物は、容器、パック、またはディスペンサー内に、投与の指示書とともに収容することができる。
【0066】
本明細書で定義されるように、治療的有効量のタンパク質またはポリペプチド(すなわち有効用量)の範囲は、約0.001〜30 mg/kg体重、好ましくは約0.01〜25 mg/kg体重、より好ましくは約0.1〜20 mg/kg体重であり、またさらにより好ましくは約1〜10 mg/kg体重、2〜9 mg/kg体重、3〜8 mg/kg体重、4〜7 mg/kg体重、または5〜6 mg/kg体重である。
【0067】
当業者であれば、疾患もしくは障害の重症度、治療歴、全般的健康状態、および/または被験対象の年齢、ならびに現在の他の疾患を含むがこれらに限定されない特定の因子が、被験対象を有効に治療するために必要な用量に影響を及ぼす可能性があることを理解すると思われる。また、治療的有効量のタンパク質、ポリペプチド、または抗体による被験対象の治療は、1回の投与による場合があるほか、好ましくは一連の治療による場合がある。好ましい例では、被験対象を、約0.1〜20 mg/kg体重の範囲の抗体、タンパク質、またはポリペプチドを用いて、週1回で約1〜10週間、好ましくは2〜8週間、より好ましくは約3〜7週間、またさらにより好ましくは約4週間、5週間、もしくは6週間かけて治療する。治療に用いられる有効用量の抗体、タンパク質、またはポリペプチドを、特定の治療の経過中に増減させる場合があることも理解されると思われる。用量の変化が生じる場合があり、これは本明細書に記載された診断アッセイ法の結果から明らかになる。
【0068】
本発明は、発現または活性を調節する薬剤を含む。薬剤は例えば小分子の場合がある。小分子には例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、分子量が約10,000 g/mol未満の有機化合物または無機化合物(ヘテロ有機化合物および有機金属化合物を含む)、分子量が約5,000 g/mol未満の有機化合物または無機化合物、分子量が約1,000 g/mol未満の有機化合物または無機化合物分子量が約500 g/mol未満の有機化合物または無機化合物、ならびに塩類、エステル、および他の薬学的に許容される形状の上記化合物などがあるがこれらに限定されない。
【0069】
適切な用量の小分子薬剤は、当技術分野の医師、獣医師、または研究者の知識の範囲内のいくつかの因子に依存することが理解されている。小分子の用量(群)は、例えば、被験対象の性質、大きさ、および条件、または対象試料に依存して変動し、またさらに、組成物が投与される経路(可能な場合)、ならびに実施者が、本発明の核酸またはポリペプチドによって小分子に持たせたいと考える作用に依存して変動する。例示的な用量は、被験対象1 kgあたりmg量またはμg量の小分子、または例えば、約1 μg/kg〜約500 mg/kg、約100 μg/kg〜約5 mg/kg、または約1 μg/kg〜約50 μg/kgの試料重量を含む。また、適切な用量の小分子が、調節対象となる発現または活性に関して小分子の力価に依存することも理解される。適切な用量は、本明細書に記載されたアッセイ法で決定できる。本発明のポリペプチドまたは核酸の発現または活性を調節するために、1種類または複数のこれらの小分子を動物(例えばヒト)に投与する場合は、医師、獣医師、または研究者は例えば、最初に比較的低用量を処方し、続いて適切な反応が得られるまで用量を増やしながら処方する場合がある。また、任意の特定の動物被験対象に対する特定の用量のレベルが、使用される特定の化合物の活性、被験対象の年齢、体重、全般的健康状態、性別、および食事、投与時間、投与経路、排出速度、任意の薬剤の組み合わせ、および調節対象となる発現または活性の程度などの多様な因子に依存することが理解される。
【0070】
個々の前述の特許出願および参考文献の全内容は、その全てが明確に参照により本明細書に組み入れられる。
【0071】
本発明の詳細および特徴について、本明細書に記載された実施例でさらに説明する。
【0072】
実施例
以下の実験手順を、本明細書に記載される実施例に用いた。
【0073】
免疫組織化学的手法
乳癌アレイはImmugenex社から購入し、免疫染色を文献(Ryo et al., 2001)に記載された手順で行った。簡単に説明すると、スライドをキシレンで脱パラフィン処理し、100%および75%のエタノールで水和した後にH2Oで洗浄した。1X antigen retreat citra(Biogene)中で、電子レンジ内で10分間煮沸することで抗原再捕捉手順を行った。スライドを、5%ヤギ血清および0.1% Triton X100を含むPBSで処理してブロッキングした後に、抗Pin1ポリクローナル抗体または抗p65モノクローナル抗体(Chemicon; MAB3026)で、4℃の湿潤チャンバー内で12時間処理した。スライドをPBSで洗浄した後に、ビオチン化二次抗体と2時間インキュベートした。Vectastain ABCキットおよびDAB染色液(Vector Laboratories, Burlingame, CA)を用いて免疫組織化学的解析を行った。
【0074】
遺伝子レポーターアッセイ法
コンフルエンシーが約60%の細胞に、Effectene(Qiagen)を用いて12ウェルのディッシュ上で3回トランスフェクトした。トランスフェクションの24〜36時間後に、Dual-Luciferaseレポーターアッセイ法システム(Promega)で遺伝子レポーターアッセイ法を、文献(Wulf et al., 2001)に記載された手順で行った。pRL-TK(Promega)をトランスフェクション効率の内部対照として使用した。全ての結果は、独立した3回の培養のX±SDとして表す。乳癌細胞系列を対象とした遺伝子レポーターアッセイ法では、細胞に、Pin1に特異的なsiRNA
、または非特異的なsiRNA
をコードするpSuppressorNeoベクターを、Ig-κBルシフェラーゼコンストラクトおよびpRL-TKとともにトランスフェクトした。48時間後に細胞を溶解し、遺伝子レポーターアッセイ法を行った。
【0075】
電気泳動移動度シフトアッセイ法(EMSA)
電気泳動移動度シフトアッセイ法を文献(Yamaoka et al., 1998)に記載された手順で行った。簡単に説明すると、文献(Yamaoka et al., 1998)に記載された手順でHeLa細胞から核抽出物を調製し、末端標識された2本鎖のNF-κBゲルシフトオリゴヌクレオチド(Santa Cruz)を含む結合緩衝液(10 mM Tris-HCl pH 7.5、1 mM MgCl2、0.5 mM EDTA、0.5 mM DTT、50 mM NaCl、200 ng/ml poly(dI-dC)、4%グリセロール)に溶解した放射標識プローブと25℃で20分間インキュベートした。試料を5%ポリアクリルアミド非変性ゲル(溶媒は0.5X TBE)中に溶解後に、オートラジオグラフィーを行った。
【0076】
GST-プルダウンアッセイ法、免疫沈降法、およびイムノブロット解析
細胞を、文献に記載された手順でG1/S期または有糸分裂期で停止させた。全細胞(293TまたはHeLa)を、GST-プルダウン緩衝液(50 mM Hepes pH 7.4、150 mM NaCl、10%グリセロール、1% Triton-X100、1.5 mM MgCl2、1 mM EGTA、100 mM NaF、1 mM Na3VO4、1 mM DTT、および0.5 μg/mlロイペプチン、1.0 μg/mlペプスタチン、0.2 mM PMSF)に溶解し、GST-Pin1またはGSTを含む20 μlのアガロースビーズとともに4℃で2時間、文献(Ryo et al., 2001)に記載された手順でインキュベートした。沈殿したタンパク質を洗浄用緩衝液で3回洗浄してSDS-PAGEを行った。免疫沈降法では、トランスフェクションの24時間後に細胞を回収し、NP-40溶解緩衝液(10 mM Tris HCl pH 7.5、100 mM NaCl、0.5% NP-40、1 mM Na3VO4、0.5 μg/mlロイペプチン、1.0 μg/mlペプスタチン、0.2 mM PMSF)に溶解した。細胞溶解物を、プロテインA/Gセファロース/マウスIgG複合体とともに1時間インキュベートした。
【0077】
上清画分を回収し、2 μgの抗IκBα(Santa Cruz, sc-371)抗体、または抗p65(Santa Cruz, sc-109)抗体、および30 μlのプロテインA/Gセファロースによって免疫沈殿を得た。溶解緩衝液で3回洗浄した後に、ペレットをSDS-PAGEゲルおよびイムノブロット解析で解析した。
【0078】
ユビキチン化アッセイ法
放射標識されたp65タンパク質を、TNT転写/翻訳共役キット(Promega)を用いて、8 μCiの[35S]-Metの存在下でインビトロ翻訳した。組換え型のp65切断型変異体をpGEX-KGベクターにサブクローン化し、文献(Shen et al., 1998)に記載された手順でグルタチオンビーズカラムで精製した。インビトロにおけるユビキチン化に関しては、5 mgのGST-p65タンパク質を、20 μlのインビトロユビキチン化反応混合物(1XERS、30 mg/mlウサギE1、160 mg/ml UbcH5a、0.2 mg/mlユビキチン、5 mMユビキチンアルデヒド、3.3 mg/ml HeLa S-100抽出物、0.2 mM Lactacystin)に添加後に、37℃で3時間インキュベートした。ポリユビキチン化されたGST-p65をグルタチオンビーズで精製し、抗ユビキチン抗体を用いてイムノブロット解析を行った。TNT-p65タンパク質のユビキチン化に関しては、TNT p65タンパク質を、HeLa細胞のS-100抽出物を含まないインビトロユビキチン化反応混合物と37℃で2時間インキュベートした後に、SDS-PAGE解析およびオートラジオグラフィーを行った。293T細胞溶解物を用いたインビトロにおけるユビキチン化に関しては、293T細胞にSOCS-1、SOCS-1DS、または対照ベクターのいずれかをトランスフェクトした。
【0079】
36時間後に細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、250 μlの溶解緩衝液(20 mM HEPES [pH 7.2]、10 mM KCl、1.5 mM MgCl2、1 mM DTT、25 μM MG-132、ならびにプロテアーゼおよびホスファターゼの阻害剤)に溶解することで細胞溶解物を調製した。溶解物の超音波処理を2サイクル(各30秒間)行い、30分間遠心した。ユビキチン化反応に関しては、GST-p65を50 μgの細胞溶解物を含む50 μlの反応緩衝液(1XERS、10 mg/mlウサギE1、80 mg/ml UbcH5a、0.1 mg/mlユビキチン、2.5 mMユビキチンアルデヒド、0.1 mM Lactacystin、25 μM MG-132)に再懸濁した後に、懸濁物を37℃で2時間インキュベートし、続いてグルタチオンビーズで精製し、抗ユビキチン抗体を用いてイムノブロットを行った。
【0080】
タンパク質分解アッセイ法
293T細胞にXpress標識p65をトランスフェクトした。Xpress-LacZをコードするプラスミドをトランスフェクション対照として用いた。トランスフェクションの24時間後にシクロヘキシミド(100 μg/ml)を培地に添加し、タンパク質合成の継続を止めた。各時点で細胞を回収し、全溶解物を抗Xpress抗体(Invitrogen)を用いたイムノブロットで解析した。ブロットをスキャンし、ソフトウェアNIH image 1.6.2(Ryo et al., 2001)で半定量した。0時間の時点のタンパク質レベルを100%として、3回の独立した実験の結果をプロットした。
【0081】
実施例1:ヒト乳癌組織においてPin1レベルはNF-Bの活性化と相関する
Pin1とNF-κBはいずれも、多くのヒトの癌で高度に活性化されることが報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)。NF-κBの活性化が一連のリン酸化による調節を受けることを考え、この調節にPin1が関与するか否かを調べた。この疑問を明らかにするために、50試料のヒト一次乳癌試料、および5試料の正常乳房組織を対象に、Pin1レベルとNF-κBの活性化との間の相関を免疫組織化学的手法で調べた。高レベルのPin1を含む25試料の癌試料のうち20試料には、p65タンパク質の顕著な核内蓄積が認められた。この結果はNF-κBが活性であることを意味する(図1A、B)。対照的に、低レベルのPin1を含む25試料の癌試料のうち23試料には、細胞質におけるp65の局在が認められた。これはNF-κBが不活性なことを意味する(図1A、B)。5つの個々の正常乳腺試料には低レベルのPin1が含まれており、細胞質におけるp65の局在が認められた(図1A、B)。以上の結果は、Pin1のレベルとNF-κBの活性化との間に相関がある可能性があることを示唆していた。この可能性をさらに調べるために、NF-κBの構成的活性化を示すことがわかっている2つの乳癌細胞系列であるBT20(ER陰性)とMCF-7(ER陽性)を対象に、Pin1の阻害がNF-κBの活性に及ぼす作用を決定した(図1C、D)(Nakshatri and Goulet, 2002)。いずれの細胞系列においても、siRNAまたはアンチセンスPin1コンストラクト(Pin1AS)によるPin1の阻害はNF-κB-Lucの転写活性を有意に抑制したが、対照のTK-Lucプロモーターレポーターコンストラクトでは抑制は認められなかった(図1C)。またゲルシフトアッセイ法では、RNAi処理でもNF-κBのDNA結合活性が抑制されるが、対照OCT-1は抑制されないことが確認された(図1D)。以上の結果から、Pin1のレベルが、ヒトの乳癌組織におけるNF-κBの活性に相関すること、またPin1の阻害が、細胞におけるNF-κBの活性化を抑制することがわかる。
【0082】
実施例2:Pin1はNF-Bのシグナル伝達を活性化する
上記の結果は、Pin1がNF-κBのシグナル伝達を活性化することを示唆している。この可能性をさらに探るために、以下の3つの異なるアッセイ法を行った。最初に、遺伝子レポーターアッセイ法で、Pin1がNF-κBの転写活性に及ぼす作用を調べた。Pin1の過剰発現によって、用量依存的にNF-κBの転写活性は活性化されたが、Pin1 ASを用いて内因性Pin1を除去すると、同活性は抑制された(図2Aおよび2B)。またPin1はTNF-αと協同的に作用してNF-κB活性を高めた(図2A)。以上の結果から、Pin1が、上流のシグナル伝達と協同的に作用することでNF-κBの転写活性を高めることがわかる。次にEMSAアッセイ法を行い、Pin1の過剰発現が、細胞内におけるNF-κBのDNA結合活性を高めるか否かを調べた。NF-κBのDNA結合活性は、Pin1をトランスフェクトした細胞では有意に上昇したが、ベクター対照導入細胞では上昇しなかった(図2C)。また、これらのDNA-タンパク質複合体は、抗p65抗体または抗p50抗体によってスーパーシフトされ(図2C)、NF-κB複合体がp65とp50から構成されることが確認された。また発明者らは、免疫蛍光実験を行い、Pin1がNF-κBの細胞内局在に及ぼす作用を調べた。DsRed-p65をGFP対照とともにトランスフェクトしたところ、主に細胞質内における局在が見られた。しかしながら、GFP-Pin1を同時にトランスフェクトすると、p65の核への移行が促進された。これとは対照的に、そのPin1のWWドメインでもPPIase変異体でも、このような作用は見られなかったことから、過去に検討されたすべてのPin1基質について報告されているように(Lu et al., 2002)、pSer/Thr-Pro結合活性と、これを異性化する活性の両方が、Pin1がp65の細胞内局在を調節するために必要なことがわかる。
【0083】
総合すると、前述の3つのアッセイ法で得られた結果から、Pin1が、NF-κBの核への移行およびDNA結合活性を高めることによってNF-κBの転写活性を高めることがわかる。
【0084】
実施例3:Pin1はIKK活性およびIκBのリン酸化状態を変化させない
Pin1がNF-κBの転写活性を高めることを考えれば、鍵となる疑問は、どの経路でPin1がNF-κBシグナル伝達における作用を発揮するかを決定することであった。NF-κBは、IKKが介在するリン酸化と、これに続くNF-κB阻害因子IκBαの分解によって活性化されることが知られている。この結果、NF-κBが核内に移行して標的遺伝子を活性化することが可能となる(Baeuerle and Baltimore, 1996; Ghosh et al., 1998)。Pin1がNF-κBの上流調節因子に影響を及ぼすか否かを調べるために、発明者らは、リン酸特異的なIκBα抗体(Ser32)を用いてIKKキナーゼアッセイ法およびイムノブロット解析を行い、Pin1がIKK活性およびIκBαのリン酸化に及ぼす作用をそれぞれ決定した。Pin1の過剰発現は、IKKキナーゼ活性またはIκBαのリン酸化に関して検出可能な上昇につながらなかったが、いずれもTNFαによっては高められた(図10A、B)。この結果は、NF-κBの活性化にPin1が及ぼす作用が、IKKによるIκBαのリン酸化に依存しない可能性があることを示唆している。この結果を、さらに確認するために、IKK活性が完全に破壊されたIKK1-/-のMEF、IKK2-/-のMEF、またはNEMO-/-のMEFにおいて、Pin1がNF-κBを活性化する能力を調べた(Li et al., 2000; Rudolph et al., 2000)。
【0085】
興味深いことにPin1は、IKK1-/-IKK2-/-細胞ならびにNEMO-/-細胞でもNF-κB活性を変わらず高めた(図10C)。特に、NF-κBは、NEMO-/-細胞にPin1とp65を同時にトランスフェクトした場合に高度に活性化されたが、p50をトランスフェクトしても活性化されなかった(図10D)ことから、p65が主なPin1標的であることが示唆される。この結果は全体として、IKKによるIκBのリン酸化の下流でPin1がNF-κBの活性化に影響を及ぼすことを支持する。
【0086】
実施例4:Pin1はpThr254-Proモチーフを介してp65と結合してIκBとの相互作用を阻害する
Pin1は、ある種のリンタンパク質中の特定のpSer/Thr-Proモチーフに結合して、これを異性化する。Pin1によるNF-κB活性化の分子機構を明らかにするために、NF-κBまたはIκBαのどの成分がPin1の基質であるかについて検討を行った。この目的で十分確立された手順はGST-Pin1プルダウンアッセイ法である(Lu et al., 1999; Shen et al., 1998; Yaffe et al., 1997)。Pin1はp50またはIκBαと結合しなかったが、間期および有糸分裂期のHeLa抽出物に由来するp65とは特異的に結合した(図3A)。また共免疫沈降法でも、内因性のPin1とp65がインビボで安定な複合体を形成することが確認された(図3B)。また同結合は、溶解物をホスファターゼCIPで前処理することで、ほぼ完全に見られなくなった(図3C)ことから、既知の全てのPin1基質の場合と同様に、結合がp65のリン酸化に依存することがわかる(Lu et al., 2002)。注目すべきことに、この結合はTNF-α処理によって3倍高められた(図3D)ことから、同結合がNF-κB活性化の上流のシグナル伝達によって高められることが示唆される。以上の結果から、インビトロおよびインビボにおいてPin1がp65と特異的に相互作用することがわかる。
【0087】
1つのThr254-Proモチーフと1つのSer316-Proモチーフのみを含むためにPin1結合部位であると推定される部位を含む、p65のPin1結合部位(群)をマップした(図3E)。p65の3つの切断型変異体を作製し、GST-プルダウンアッセイ法を行った。予想されたようにPin1は、2か所の推定Pin1結合部位を含む切断型変異体Bのみと特異的に結合した(図3E)。どのSer/Thr-ProモチーフがPin1結合に必要なのかを見極めるために、完全長のp65タンパク質に1か所のAlaのThr254またはSer316への置換を導入した。Pin1はp65-S316A変異体と結合したがp65-T254A変異体とは全く結合できなかった(図3F)。p65-T254AとPin1が結合しないことが、その不安定性に起因するという可能性を除くために、トランスフェクトした細胞をプロテアソーム阻害剤MG-132で処理して共免疫沈降法を行った。用いた条件では、p65-T254Aは安定であり、同等量のp65タンパク質が免疫沈殿したが、Pin1がp65-T254A変異体と結合しないことに変わりはなかった(図3G)。以上の結果から、p65のThr254がPin1との結合に必要なことがわかる。この結果をさらに確認するために、リン酸化されたThr-Proモチーフのみを認識するリン酸特異的抗体を使用した。図3Hに示すように、pThr-Pro特異的抗体は、野生型p65のみを認識し、T254A変異体を認識しなかった。p65はThr-Proモチーフを1つだけ含むので、この結果から、p65のThr254-Proがインビボでリン酸化されることがさらに支持される。以上の結果は、インビボにおける32P標識およびホスホアミノ酸解析からわかるように、p65がSer残基のほかにThr残基でリン酸化されるという過去に得られた知見と矛盾しない(Bird et al., 1997)。またp65のThrにおけるリン酸化は、サイトカイン処理によって高められる。この事実は、Pin1とp65の結合がTNF-α処理によって高められることと矛盾しない(図3D)。またThr254の周囲には、上流に複数の疎水性残基(Ile、Val、およびPhe)を含み、またすぐ下流にPro残基を含むPin1コンセンサス結合配列が存在する(Lu et al., 1999; Yaffe et al., 1997)。以上の結果を総合すると、p65のPin1結合部位がThr254-Proモチーフであることがわかる。
【0088】
p65/p50とIκBαの複合体の結晶構造から、p65のThr254-Proモチーフは、p65とIκBαとの相互作用の結合面となる「ホットスポット」の近傍に位置する(図11)ので、Pin1とThr254-Proモチーフの結合、および同モチーフの異性化はp65とIκBαの相互作用に干渉するが、p50との相互作用には干渉しない可能性があることが示唆される。この可能性を調べるために、Pin1または対照となるベクターのいずれかを細胞にトランスフェクトした後に、p65またはIκBαに対する抗体を用いた免疫沈降法を行った。Pin1を過剰発現する細胞では、有意に少ないp65が抗IκBα免疫沈殿中に検出された(図3I)。同様に、少量のIκBαが抗p65抗体によって免疫沈殿を生じた(図3I)。また、この差は極めて特異的であった。なぜならPin1の過剰発現は、p65とp50の結合に対して検出可能な作用を示さなかったからである(図3I)。インビボにおける結合の結果をさらに確認するために、Pin1がインビトロにおけるp65とIκBαとの結合に及ぼす作用を調べた。細胞内のp65を免疫沈殿させ、Pin1の濃度を上昇させながら35S標識IκBαとインキュベートした。Pin1はp65とIκBαの結合を用量依存的に阻害した(図3J)。以上の結果からPin1が、Thr254-Proモチーフがリン酸化されたp65と結合すること、またPin1がIκBαとの相互作用をインビトロおよびインビボで阻害することがわかる。
【0089】
実施例5:Pin1の基質として作用するp65-T254A変異体は極めて不安定であり、NF-Bの標的遺伝子をトランス活性化できない
Pin1とp65の相互作用の生物学的重要性をさらに調べるために、発明者らはまず、Pin1と結合できないp65-T254A変異体のインビボにおける機能を検討した(図3E)。対照として発明者らは、野生型p65と同様にPin1と結合可能な別の変異体p65-S316Aを使用した(図3E)。Pin1と同時にトランスフェクトすると、野生型p65とp65-S316Aはいずれも核内に局在したが、p65-T254A変異体は核内で安定化しなかった(図4A)。特に、この変異体タンパク質の発現レベルは極めて低いことがわかったが、mRNAの発現は野生型p65およびS316A変異体と同等であったことから、T254A変異体タンパク質のタンパク質代謝が速いことが示唆された。この結果と一致して、p65-T254A変異体はNF-κBの下流遺伝子をトランス活性化できなかった(図4A)。以上の結果は、Thr254がp65の核局在およびタンパク質安定性に必要な可能性があることを示唆している。この可能性を直接評価するために、293T細胞にXpress-p65、またはこの部位特異的変異体のいずれかを同時にトランスフェクトした(内部対照にはXpress-LacZを使用)。トランスフェクションの24時間後に、細胞をシクロヘキシミドで処理してタンパク質合成をブロックし、続いてp65のタンパク質安定性を文献(Wulf et al., 2002)に記載された手順でイムノブロット解析で測定した。p65-S316A変異体の半減期は、野生型タンパク質の半減期と同等であったが、p65-T254A変異体の半減期は、かなり短いものであった(図4B、C)。以上の結果から、p65のリン酸化と、リン酸化に続くThr254-ProモチーフにおけるPin1との相互作用が、p65のタンパク質安定性および核局在に必要なことがわかる。
【0090】
実施例6:Pin1欠損細胞は、p65の速やかな核外輸送および分解のために、サイトカインシグナルによるNF-κB活性化に抵抗性を示す
上記の結果から、Pin1の過剰発現がp65とIκBαの結合を阻害し、その核局在、タンパク質安定性、およびトランス活性化を促すこと、またPin1基質として作用できないp65変異体が極めて不安定であり、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できないことがわかる。重要な疑問は、内因性のPin1が、p65の核内局在およびタンパク質安定性、ならびにNF-κBシグナル伝達に必要か否かということである。こうした疑問を明らかにするために、Pin1ノックアウト(Pin1-/-)マウスおよび野生型マウスに由来する初代マウス胚性繊維芽細胞(MEF)を使用した。野生型MEFとは対照的に、Pin1-/-細胞は、中等度の濃度のIL-1αで処理時にNF-κBの活性化に抵抗性を示したが、高用量では抵抗性を示さなかった(図5A)。また、これらの細胞は、TNF-αまたはLPS刺激によるNF-κB活性化にも耐性を示した(野生型細胞の場合は認められなかった)(図5B)。以上の結果から、Pin1がインビトロにおけるNF-κBの活性化に必要なことがわかる。
【0091】
サイトカインシグナル伝達にPin1-/- MEFが示す耐性の基礎となる分子機構を調べるために、細胞を中等度の濃度のIL-1βで処理し、さまざまな時点におけるIκBαおよび核内p65のレベルを調べた。文献(Bannerman et al., 2002)に報告されているように、IL-1β処理の直後にIκBαは速やかに分解され、核内p65レベルは、野生型細胞では最長60分後の時点まで高まった(図5C)。続いて、60分後にIκBαの発現の促進が認められた(図5C)。これはNF-κBによるIκBα遺伝子のトランス活性化に起因することが過去に報告されている(Beg et al., 1993; Brown et al., 1993; Chiao et al., 1994; Sun et al., 1993)。しかしPin1-/-細胞では、IκBαは、野生型細胞の場合と同様にIL-1β処理の直後に分解されたが、κBαレベルは120分後の時点でも高まらなかった(図5C)。これらの細胞において、IκBαの分解後にp65の核内蓄積がほとんど認められなかったことは重要である(図5C)。以上の結果をさらに確認するために、IL-1β処理後にp65を免疫染色した。イムノブロットのデータと矛盾することなく、p65は野生型MEFの核内に容易に検出された(図5D)。しかし、Pin1-/- MEFでは、p65レベルは、かなり低いだけでなく、タンパク質は、ほぼ完全に核から除かれていた(図5D)。
【0092】
p65のタンパク質安定性の維持におけるPin1の重要性をさらに見極めるために、Xpress標識p65とXpress-LacZでPin1-/- MEFまたは野生型MEFをトランスフェクトし、タンパク質安定性を上述の手順で追跡した。p65のタンパク質安定性は、野生型細胞と比較してPin1-/- MEFでは劇的に低下した(図5E)。Pin1結合部位変異体p65-T254AもPin1陽性の293T細胞で極めて不安定である(図4C、D)という上記の結果を総合すると、これらの結果から、Pin1とp65との機能上の相互作用がp65の核内局在および安定に必要なことがわかる。
【0093】
またPin1がインビボにおけるNF-κBの活性化に必要か否かを調べるために、Pin1のノックアウトがマウスのNF-κB関連表現型に及ぼす作用を決定した。p65の欠失はマウスで致死的に作用するが(Beg et al., 1995)、NF-κBの一部の上流調節因子(IKKαなど)の破壊も、妊娠中の乳腺細胞の増殖に影響する(Brantley et al., 2001; Cao et al., 2001)。同様の乳腺の表現型がPin1-/-マウスで観察されているので(Liou et al., 2002)、輸送の1日後の時点で、野生型マウスおよびPin1-/-マウスの乳腺におけるp65のタンパク質レベルおよび細胞内局在の比較を行った。文献(Brantley et al., 2001; Cao et al., 2001)に記載されているように、NF-κBが活性化されることは、そのタンパク質レベルおよび核移行の増加から明らかである(図5F)。しかしPin1-/-マウスではNF-κBのレベルは極めて低く、また核から実質的に除かれていた(図5F)ことから、NF-κBが不活性であることがわかり、またPin1の機能の欠損がインビボにおいてNF-κBの活性化に影響を及ぼす可能性があることが示唆される。
【0094】
この仮説をさらに確認するために、Pin1のノックアウトがマウスにおけるTNF-α誘導型のアポトーシスに及ぼす作用を調べた。p65のノックアウトが、胚の肝臓で大規模なアポトーシスを引き起こすこと(Beg et al., 1995)、またNF-κBの阻害によって、インビトロおよびインビボにおいて、成体マウスの肝細胞を含む細胞が、TNF-αによって誘導されるアポトーシスに感受性を示すことが報告されている(Chaisson et al., 2002; Van Antwerp et al., 1996)。仮にPin1がインビボでNF-κBの活性化に重要な役割を果たすのであれば、Pin1ノックアウトマウスは、TNF-αによって誘導される肝臓におけるアポトーシスに対する感受性がより大きいと考えられる。この可能性を検討するために、野生型マウスおよびPin1-/-マウスをTNF-αで処理し、その3時間後にNF-κBの活性化および肝臓におけるアポトーシスを、文献(Chaisson et al., 2002)に記載された手順で調べた。免疫組織化学的実験の結果から明らかなように、TNF-α処理後にNF-κBが誘導されて野生型の肝臓の核内に蓄積したが、Pin1-/-の肝臓に蓄積は認められなかった(図5G)。またアポトーシスは、アポトーシス細胞内における断片化DNAを検出するTUNELアッセイ法の結果から明らかなように、野生型対照と比較してPin1-/-個体の肝臓で劇的に増加した(図5G)。Pin1-/-個体の肝臓におけるアポトーシスの増加は、切断型および活性型のカスパーゼ-3を対象としたイムノブロット(図5H)と、蛍光カスパーゼ-3活性アッセイ法の両方によって決定されたカスパーゼ-3活性の上昇によっても確認された(図5I)。以上の結果から、マウスでPin1の機能が喪失すると、NF-κBの活性化が減じ、TNF-αに反応した、肝臓におけるアポトーシスが増加することがわかる。興味深いことに、類似のアポトーシス表現型が、NF-κBが阻害された変異型IκBαトランスジェニックマウスの肝臓で観察されている(Chaisson et al., 2002)。総合すると、上記の結果から、Pin1がインビトロでもインビボでも、サイトカインシグナルに応じたNF-κBの活性化に必要なことがわかる。
【0095】
実施例7:p65のタンパク質安定性はユビキチンを介したタンパク質分解経路の調節を受ける
Pin1がNF-κBシグナル伝達に果たす役割を調べた結果、p65のタンパク質安定性がNF-κBの機能の調節に重要な役割を果たすことが判明した。p65が不安定なことはこれまで不明であったので、p65の安定性が、特異的なタンパク質分解経路(群)による調節を受けることを示すことは重要である。ユビキチンを介したタンパク質分解経路が、細胞内における多くのシグナル伝達分子を制御する主な調節機構であることをふまえ、このような経路がp65の分解に関与するか否かを調べた。この疑問に答えるための1つの十分確立した手順は、プロテアソーム阻害剤MG-132の非存在下および存在下におけるタンパク質安定性を比較することである(Ku and Omary, 2000)。MG-132は、p65-T254Aタンパク質の半減期を顕著に延長することから(図6A、B)、ユビキチンを介したタンパク質分解経路がp65の安定性の調節に関与する可能性があることが示唆される。p65がインビトロで実際にユビキチン化されるか否かを調べるために、35S標識p65タンパク質を合成してユビキチンとともに、ユビキチン活性化酵素(E1)およびユビキチン結合酵素(E2)UbcH5aの非存在下または存在下でインキュベートした。35S標識p65は、E1およびUbcH5aの存在下で時間に依存して明瞭にポリユビキチン化された(図6C)。
【0096】
p65分子のどの領域がユビキチン化されるのかについて調べるために、GST-p65のさまざまな断片(図3D)をS100 HeLa細胞抽出物、ユビキチン、E1、およびUbcH5aまたはUbcH6とインキュベートし、続いてGST-p65断片をGSTビーズを用いて精製し、さらに抗ユビキチン抗体を用いてイムノブロットを行った。断片Aも断片Cもユビキチン化されなかったが、Pin1と結合するThr254-Proモチーフ(図3E)を含む断片Bは、UbcH5aによってポリユビキチン化されたがUbcH6によってはポリユビキチン化されなかった(図6D)。他のE2酵素が、インビトロにおけるp65のユビキチン化を触媒可能か否かを調べるために、発明者らは、組換え型GST-p65の断片Bを、さまざまなE2酵素を用いたインビトロユビキチン化アッセイ法でインキュベートした。検討した8種類のE2酵素のうちUbcH5aのみが、多数のユビキチン分子をp65と強く結合させた(図6E)。またインビボにおけるp65のポリユビキチン化を調べるために、発明者らはp65とHis標識ユビキチンを同時にHeLa細胞トランスフェクトし、MG-132処理を行ってプロテアソーム機能を阻害した。細胞溶解物を回収し、Ni-アガロースビーズを用いてプルダウン解析を行い、尿素を含む緩衝液を用いて、p65関連タンパク質を除去することでHis標識ユビキチン結合タンパク質を単離し、続いて抗p65抗体を用いて、文献(Ku and Omary, 2000)に記載された手順でイムノブロット解析を行った。MG-132およびHis-ユビキチンの存在下でp65は実質的にポリユビキチン化された(図6F)。しかし、Hisユビキチンおよび/またはMG-132の非存在下ではユビキチン化されたp65は検出されず(図6F)、インビボにおけるユビキチン化アッセイ法に特異性があることが判明した。以上の結果から、p65のタンパク質安定性が、ユビキチンを介したタンパク質分解の制御を受けることがわかる。
【0097】
実施例8:サイトカインシグナル阻害因子SOCS-1はp65と結合し、そのユビキチンを介したタンパク質分解を調節する
p65タンパク質の代謝がユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受けることがわかったので、関与する特異的なユビキチンリガーゼを次に同定することとした。この目的で発明者らは、Xpress-His二重標識p65の断片Bを発現するMEFを対象にNi-アガロースアフィニティクロマトグラフィーを行い、続いて抗Xpress抗体を用いた免疫沈降法を行った。
【0098】
免疫沈殿をPAGEゲルで分離し、個々のタンパク質のバンドを回収した。p65によって選択的にプルダウンされた、分子量が約23 kDaのタンパク質を、サイトカインシグナル伝達抑制因子1(Suppressor of Cytokine Signaling 1; SOCS-1)(図7A)(Endo et al., 1997; Naka et al., 1997; Ohya et al., 1997)と判定した。p65とSOCS-1が相互作用することを確認するために、一連のインビトロ結合アッセイ法およびインビボ結合アッセイ法を行った。最初に、さまざまなp65断片を用いたGST-プルダウンアッセイ法を行ったところ、SOCS-1は完全長のp65ならびにp65の切断断片Bとは結合するが、断片Aまたは断片Cとは結合しないことが判明した(図7B)。興味深いことに、この断片はポリユビキチン化されて、p65のPin1結合部位を含む断片と同じ断片である。次に、外因的に発現されたXpress-p65とMyc-SOCS-1の結合が、抗Xpress抗体または抗Myc抗体のいずれかを用いた共免疫沈降法で検出された(図7C)。そして最後に、p65とSOCS-1の内因性の結合も、抗p65抗体を用いた共免疫沈降法によって、初代マウス脾細胞で確認された(図7D)。以上の結果から、SOCS-1がp65とインビトロでもインビボでも結合すること、またp65の結合部位が、ユビキチン化とPin1結合の両部位の近傍に位置することがわかる。サイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)ファミリーのタンパク質の1種であるSOCS-1は、Jak2およびVavに対するユビキチンリガーゼであることが報告されており(Frantsve et al., 2001; Kamizono et al., 2001)、また上記の結果から、SOCS-1がp65に対する推定ユビキチンリガーゼであることが示唆される。
【0099】
この考えと一致して、p65とSOCS-1のインビボにおける結合は、LPS処理の4時間後の時点で有意に促進されており(図7D)、LPS刺激によりNF-κBの発現が抑制されることとの相関が認められた(データは提示していない)。またSOCS-1の過剰発現は、IL-1βによるNF-κBの活性化を有意に阻害した(図8A)。またSOCS-1の過剰発現は、p65の外因的発現によって誘導されるNF-κBの活性化も有意に抑制した(図8B)。以上の結果から、SOCS-1の過剰発現がNF-κB活性を、おそらくはp65の発現を抑制することで抑制することがわかる。SOCS-1がp65に対するユビキチンリガーゼとして機能するか否かを判定するために、SOCS-1がp65のタンパク質安定性に及ぼす作用を調べた。SOCS-1のトランスフェクションによって、内因性p65のタンパク質レベルは有意に減少したが、p50のレベルに変化は認められなかった(図8C)。これとは対照的に、ユビキチン化の優性抑制型変異体として機能することがわかっている(Frantsve et al., 2001; Kamizono et al., 2001; Ungureanu et al., 2002)、SOCSドメインを欠くSOCS-1変異体(SOCS-1ΔS)は、p65のタンパク質レベルをわずかに上昇させたが、p50のタンパク質レベルに影響は認められなかった(図8C)。
【0100】
SOCS-1と同変異体が、p65のタンパク質安定性に及ぼす作用を確認するために、対照ベクター、SOCS-1、SOCS-1ΔS、またはSOCS-1+Pin1のいずれかを293細胞に同時にトランスフェクトした後に、シクロヘキシミド処理後におけるp65のタンパク質安定性を追跡した。SOCS-1は、対照細胞と比較してp65の半減期を有意に短縮したが、SOCS-1ΔSは、p65のタンパク質安定性をわずかに延長した(図8D)。またPin1を同時発現させることで、SOCS-1によって誘導されるp65の分解は完全にブロックされた(図8D)。この結果は、Pin1がp65の安定性を高めるという前述の結果と矛盾しない。総合すると、以上の結果から、SOCS-1がp65のタンパク質分解に重要な役割を果たし、また、この過程がPin1によってブロック可能なことがわかる。
【0101】
SOCS-1およびPin1がp65の安定性に明らかに作用することをふまえ、p65のユビキチン化の影響について調べた。インビトロにおける、SOCS-1が介在するp65のユビキチン化を検出するために、293T細胞にSOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターのいずれかをトランスフェクトした後に、可溶性の細胞溶解物をGST-p65タンパク質に添加し、続いてGST-プルダウンを行って、GST-p65のユビキチン化を抗ユビキチン抗体を用いて調べた。p65は293T細胞抽出物によってポリユビキチン化された。これはSOCS-1の過剰発現によって有意に促進されたが、SOCS-1ΔS変異体の場合は低下した(図8E)。インビボにおける、SOCS-1およびPin1がp65のユビキチン化に及ぼす作用を検出するために、細胞にXpress-p65、His標識ユビキチン、およびSOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターを、Pin1の存在下または非存在下で同時にトランスフェクトし、続いてMG-132でプロテアソームを阻害した。細胞溶解物を対象に、Ni-アガロースを用いたプルダウン、および抗Xpress抗体または抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。インビトロにおけるユビキチン化と同様に、p65はインビボでユビキチン化された。これはSOCS-1の過剰発現によって有意に促進されたが、SOCS-1ΔS変異体によっては減少した(図8F)。またPin1を同時に発現させると、p65のタンパク質安定性に対する作用(図8D)と同様に、SOCS-1によって誘導されるp65のユビキチン化が有意にブロックされた(図8G)。
【0102】
また、内因性のSOCS-1がp65の安定性の調節に重要な役割を果たすか否かを明らかにするために、SOCS-1-/- MEFおよび野生型MEFにおけるp65のユビキチン化およびタンパク質安定性の比較を行った。p65は、293細胞より野生型MEFではそれほど安定ではなかったが、野生型対照(図8H、I)と比較して、p65は弱くユビキチン化されただけでなく、SOCS-1-/- MEFではより安定であったことから、内因性のSOCS-1がp65のユビキチン化および分解に特異的に必要なことがわかる。総合すると、以上の結果から、SOCS-1がp65に結合するだけでなく、p65のユビキチン化および分解を調節し、また同過程がPin1の調節を受けることもわかる。
【0103】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】Pin1のレベルはヒト乳癌組織でNF-κBの活性化と相関する。(A、B)ヒトの乳癌および正常組織においてPin1とp65の局在が相関すること。組織切片を抗Pin1抗体または抗p65抗体で免疫染色し、DAB染色により可視化した(A)。Pin1の発現およびp65の局在のレベルを、50の乳癌試料と5つの正常乳房試料を対象に決定し、その相関をSperman順位相関検定で解析した(P < 0.01)(B)。(C)乳癌細胞系列において、Pin1の発現抑制によってNF-κBの活性化およびNF-κBのDNA結合活性が阻害されること。2つの乳癌細胞系列に、Pin1に特異的なsiRNAまたは非特異的なsiRNAをNF-κB-LucまたはTK-Lucのレポーターコンストラクトとともに48時間かけてトランスフェクトした後に、ルシフェラーゼ活性およびPin1タンパク質レベル(挿入写真)の評価(C)、またはNF-κBまたはOCT1のコンセンサスオリゴヌクレオチドを使用したEMSAによるNF-κBのDNA結合活性の評価(D)を行った。
【図2】Pin1はNF-κBシグナル伝達を活性化する。(A、B)Pin1によるNF-κBの活性化の調節。HeLa細胞にベクター、HA-Pin1、またはPin1 ASをNF-κBレポーターコンストラクトとともに24時間かけてトランスフェクトし、試料の一部を対象に、1 ng/mlのTNF-α処理を3時間かけて行った。細胞を回収し、ルシフェラーゼアッセイ法、および抗Pin1抗体を用いたイムノブロットを行った。(C)Pin1によりNF-κBのDNA結合活性が高まること。293T細胞にベクター対照かPin1のいずれかを24時間かけてトランスフェクトし、核抽出物を単離した。5 μgの核抽出物を、32Pで標識されたNF-κB結合オリゴ、またはこの変異体とインキュベートした後にゲル電気泳動を行った。スーパーシフト実験では、抗p50抗体または抗p65抗体を添加してから20分後に、標識オリゴDNAを添加した。
【図3】Pin1はp65のpThr254-Proモチーフに結合してp65とIκBの結合を阻害する。(A)インビトロでPin1はp65と相互作用するが、p50またはIκBαとは相互作用しない。GSTまたはGST-Pin1を含むグルタチオンビーズを間期(I)または有糸分裂期(M)のHeLa細胞抽出物とインキュベートし、結合タンパク質を対象に、記載されたさまざまな抗体を用いたイムノブロットを行った。(B)インビボで内在性のPin1とp65が相互作用すること。293T細胞溶解物を抗p65抗体で免疫沈殿させた後に、抗Pin1抗体または抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。(C)Pin1とp65がリン酸化に依存して相互作用すること。p65を発現する293T細胞を、子ウシ腸アルカリホスファターゼ(CIP)とともに、または同酵素を用いずにインキュベートした後にGST-プルダウン実験を行い、続いて抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。(D)Pin1とp65の結合がTNF-αによって促進されること。Xpress標識p65を発現する293T細胞をPBSまたはTNF-αで3時間処理した後に、GST-プルダウン実験、および抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(E、F)Pin1がp65のpThr254-Proモチーフと特異的に結合すること。p65およびこの切断型変異体(E)または点突然変異体(F)を発現する293T細胞を対象にGST-プルダウンアッセイ法を行った。(G)Pin1がp65-T254Aと結合できないこと。293T細胞にPin1とXpressで標識されたp65、またはこのT254A変異体を同時にトランスフェクトした。細胞を20 μMのMG-132と12時間インキュベートした後に、抗Xpress抗体を用いた免疫沈降解析を行い、続いて抗p65抗体または抗Pin1抗体を用いたイムノブロットを行った。(H)pThr-Pro特異的抗体はp65を認識するが、その変異体p65-T254Aを認識しないこと。Xpressで標識されたp65、またはこのT254A変異体との24時間のトランスフェクション後に、293細胞をMG-132で12時間、またTNF-αで3時間処理し、抗Xpress抗体による免疫沈降法を行い、続いて抗pThr-Pro特異的抗体または抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。(I、J)p65-IκBαの結合がPin1によって阻害されること。(I)HA標識Pin1または対照ベクターを24時間発現するHeLa細胞を対象に、抗p65抗体または抗IκBα抗体を用いた免疫沈降(IP)法を行い、続いて、さまざまな抗体を用いたイムノブロットを行った。(J)Xpress-p65を発現する293T細胞を対象に、抗Xpress抗体を用いた免疫沈降法を行った後に、35S標識IκBα、およびさまざまな量のPin1(0 mg/ml、0.2 mg/ml、および2.0 mg/ml)と30分間インキュベートした。洗浄後、試料を対象にSDS-PAGEを行い、オートラジオグラフィーを行った。
【図4】Pin1結合部位変異体p65-T254Aは極めて不安定で、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できない。(A)p65-T254AがNF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できないこと。MEFにIg-κBルシフェラーゼコンストラクト、およびp65、またはこの変異体を同時にトランスフェクトした後に遺伝子レポーターアッセイ法を行った。(B、C)p65と、その変異体のタンパク質安定性の比較。Xpressで標識されたp65、またはこの変異体を、Xpress-LacZとともに24時間かけて293T細胞にトランスフェクトした。細胞をシクロヘキシミドで処理し、所定の時点で回収した後に、抗Xpress抗体を用いたイムノブロット(B)、およびImagequantによる半定量(C)を行った。
【図5】Pin1-/-細胞はインビトロおよびインビボにおいて、サイトカインによるNF-κBの活性化に耐性を示す。(A、B)Pin1-/- MEFがサイトカインに耐性を示すこと。野性型または変異型のNF-κBレポーターコンストラクトのトランスフェクション後に、Pin1-/- MEFまたは野生型MEFを、さまざまな濃度のIL-1β(A)、またはさまざまなサイトカイン(1 ng/mlのIL-1β、100 ng/mlのLPS、または1 ng/mlのTNF-α)(B)と3時間インキュベートし、遺伝子レポーターアッセイ法を行った。(C、D)Pin1-/- MEFではIL-1βに応じたp65の核内蓄積およびIκBのフィードバックの亢進が見られないこと。野生型MEFおよびPin1-/- MEFをIL-1β(1 ng/ml)で所定の時間処理した後に、全細胞溶解物を対象に、抗IκBα抗体および抗チューブリン抗体を用いたイムノブロットを行うか、または核分画を対象に抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った(C)。IL-1βで3時間処理したMEFを抗p65抗体で免疫染色した(D)。(E)p65がPin1-/- MEFでは不安定なこと。野生型MEFおよびPin1-/-MEFに、Xpress標識p65およびXpress-LacZを24時間かけてトランスフェクトし、シクロヘキシミドで所定の時間処理した後に、抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(F)Pin1-/-の乳腺ではNF-κBが不活性なこと。野生型およびPin1-/-のマウス(輸送の1日後)の乳腺をH&Eまたは抗p65抗体で染色した。(G〜I)Pin1-/-個体の肝臓ではTNF-αに反応してNF-κB活性化の低下およびアポトーシスの増加が見られること。野生型マウスまたはPin1-/-マウスに、40 mg/kgの組換え型マウスTNF-αを注入し、その3時間後に個体を殺し、肝臓切片を対象に抗p65抗体を用いた免疫組織化学処理もしくはTUNEL染色(G)を行うか、または肝臓溶解物を対象に抗切断カスパーゼ-3抗体を用いたイムノブロット(H)、もしくは蛍光カスパーゼ-3活性アッセイ法を、阻害剤DEVD-CHOの存在下または非存在下で行った。データは、3回の独立した実験の平均±SDで示す。
【図6】インビトロおよびインビボにおけるp65のポリユビキチン化。(A、B)プロテオソーム阻害剤によってp65-T254Aが安定化すること。Xpress-p65-T254AまたはXpress-LacZを発現する293T細胞をシクロヘキシミドおよびMG-132(50 mM)、または溶媒DMSOで所定の時間処理した後に、抗Xpress抗体を用いたイムノブロット(A)を行い、続いてImagequantによる半定量を行った(B)。(C)インビトロにおけるp65のユビキチン化。インビトロ翻訳した35S標識p65を、E1およびUbcH5aの存在下または非存在下で、ユビキチンと所定の時間インキュベートした後に、SDS-PAGEで分離してオートラジオグラフィーを行った。(D)GST-p65の断片Bはユビキチン化されたが、断片Aまたは断片Cはユビキチン化されなかった。GST-p65の切断型変異体(図3D)を、HeLa S-100抽出物、ユビキチン、E1、およびUbcH5aまたはUbcH6のいずれかと3時間インキュベートした後に、GST-プルダウン、および抗ユビキチン抗体を用いたイムノブロットを行った。(E)GST-p65の断片BがUbcH5aによってユビキチン化されること。GST-p65の切断型変異体Bを対象に、さまざまなE2酵素を用いてインビトロでユビキチン化アッセイ法を行った。(F)インビボにおけるp65のユビキチン化。p65、UbcH5a、およびHis標識ユビキチン、またはベクター対照を発現するHeLa細胞をMG-132またはDMSO対照と16時間処理した後に、6 M尿素を含む緩衝液で超音波処理して溶解した。ユビキチン結合タンパク質をNi-42アガロースビーズに捕捉し、抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。
【図7】p65はインビトロおよびインビボでSOCS-1と結合する。(A)p65結合タンパク質中におけるSOCS-1の同定。Xpress-His二重標識p65の断片Bを発現するMEFをLPS(100 ng/ml)で3時間処理した後に、Ni-アガロースを用いたアフィニティクロマトグラフィーを行い、続いて抗Xpress抗体を用いた免疫沈降法を行った。銀染色後にバンドを切り出し、質量分析計による解析を行った。(B)インビトロでSOCS-1がp65の断片Bと結合すること。Xpress標識p65または切断型変異体(図3D)を発現する293T細胞を対象に、GSTまたはGST-SOCS-1を用いたGST-プルダウンアッセイ法、および抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(C)発現されたp65とSOCS-1がインビボで相互作用すること。293T細胞にXpress-p65とMyc-SOCS-1を同時にトランスフェクトした後に、対照IgG抗体、抗Xpress抗体、または抗Myc抗体を用いた免疫沈降法を行い、続いて図に示した抗体を用いたイムノブロットを行った。(D)内在性p65とSOCS-1がインビボで相互作用すること。マウスの初代脾細胞をLPSとともに、またはLPSなしで4時間インキュベートした後に、抗p65抗体を用いた免疫沈降法を行い、続いて抗SOCS-1抗体を用いたイムノブロットを行った。
【図8】SOCS-1はp65のユビキチン化およびタンパク質安定性を調節する。(A、B)IL-1β(A)またはp65(B)により、SOCS-1によるNF-κBの活性化が阻害されること。IL-1Rを安定して発現する293T細胞に、対照ベクター、SOCS-1、またはSOCS-1ΔS、および野性型もしくは変異型のNF-κBルシフェラーゼコンストラクトのいずれかを同時にトランスフェクトした後に、IL-1β(2 ng/ml)処理および遺伝子レポーターアッセイ法を行った(A)。MEFに野性型または変異型のNF-κBルシフェラーゼコンストラクトのいずれかを、また対照ベクター、SOCS-1、またはSOCS-1ΔSとp65のいずれかを同時にトランスフェクトした後に遺伝子レポーターアッセイ法を行った(B)。(C)SOCS-1はp65のレベルを調節するがp50のレベルを調節しない。HeLa細胞にベクター、SOCS-1、またはSOCS-1ΔSをトランスフェクトした後に、抗p65抗体、抗p50抗体、および抗SOCS-1抗体を用いたイムノブロットを行った。(D)SOCS-1がp65のタンパク質安定性を調節すること。293T細胞にXpress-p65、Xpress-LacZおよびSOCS-1、SOCS-1+Pin1、SOCS-1ΔS、またはベクターを同時にトランスフェクトした後に、シクロヘキシミド(100 μg/ml)で処理し、続いて抗Xpress抗体を用いたイムノブロット解析(左のパネル)、および半定量(右のパネル)を行った。(E)SOCS-1がp65のユビキチン化をインビトロで調節すること。GST-p65の断片Bを対象に、SOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターをトランスフェクトした293T細胞に由来する細胞溶解物の存在下または非存在下で、インビトロにおけるユビキチン化反応を行った後に、GST-プルダウン、および抗ユビキチン抗体を用いたイムノブロットを行った。(F)SOCS-1がp65のユビキチン化をインビボで調節すること。HeLa細胞にXpress-p65、His標識ユビキチンおよびSOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターを24時間かけてトランスフェクトした後に、MG-132で16時間処理し、ユビキチン化されたタンパク質をNiビーズに捕捉し、続いて抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(G)Pin1は、SOCS-1によって誘導されるp65のユビキチン化をブロックする。HeLa細胞にXpress-p65、His標識ユビキチン、UbcH5a、および対照ベクター、SOCS-1、またはSOCS-1+Pin1のいずれかを24時間かけてトランスフェクトした後に、MG-132およびMG-115で16時間処理し、ユビキチン化されたタンパク質をNiビーズに捕捉し、続いて抗p65ポリクローナル抗体を用いたイムノブロットを行った。(H、I)p65はSOCS-1-/-細胞で弱くユビキチン化され、より安定であった。(H)野生型MEFまたはSOCS-1-/-MEFにXpress-p65、His標識ユビキチン、およびUbcH5aを24時間かけてトランスフェクトした後に、(G)に記載された手順でユビキチン化アッセイ法を行った。(I)野生型MEFまたはSOCS-1-/-MEFにXpress-p65およびXpress-LacZを24時間かけてトランスフェクトした後に、シクロヘキシミド処理を行い、続いて抗Xpress抗体を用いたイムノブロット解析(上)および半定量(下)を行った。
【図9】Pin1およびSOCS-1によるNF-κBの2段階調節モデル。NF-κBシグナル伝達は、IKKが介在するリン酸化と、これに続くIκBαの分解によって活性化され、結果的にNF-κBは核に移行する。発明者らの得た結果は、核内のp65が、Pin1が触媒するプロリン異性化、およびユビキチンを介したタンパク質分解による調節をさらに受けることを示す。Pin1はp65のpThr254-Proモチーフを標的とし、またIκBαとの結合を阻害し、p65の核内蓄積およびタンパク質安定性、ならびにNF-κBの転写活性を高める。またp65が細胞質に移行すると、UbcH5aおよびSOCS-1によるユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受ける。Pin1の過剰発現、および/またはSOCS-1の発現抑制は、癌におけるNF-κBの構成的活性化に寄与する。
【図10】Pin1はIκBのリン酸化とは無関係にNF-κBを活性化する。(A、B)ベクターまたはPin1をトランスフェクトしたHeLa細胞を対象に、抗リン酸IκBα(Ser32)抗体、抗IκBα抗体、および抗チューブリン抗体を用いたイムノブロット(A)、または抗IKKα抗体を用いた免疫沈降法を行った後に、GST-IκBαを基質とするインビトロキナーゼアッセイ法を行った(B)。(C、D)IKK1/IKK2二重ノックアウトMEFまたはNEMO-/- MEFにPin1もしくはベクター、およびIg-κBルシフェラーゼコンストラクト(C)を、またはPin1、Ig-κBルシフェラーゼコンストラクト、およびp65もしくはp50をトランスフェクトし、遺伝子レポーターアッセイ法を行った。
【図11】NF-κBとIκBαの複合体、およびPin1とp65の相互作用を示すリボンダイアグラム。(A、B)NF-κB(p65=緑、p50=灰)とIκBα(ピンク)の複合体のリボンダイアグラムを上のパネルに示す。下のパネルでは、IκBαとp65間の一部の結合面を示す。p65がIκBαと結合するとp65のArg253が露出し、IκBαの残基との間に、いくつかの水素結合を形成する可能性がある(Huxford et al., 1998; Jacobs and Harrison, 1998)。このような状況では、Thr254は複合体の内部に埋まった状態で存在する(A)。しかし、NF-κBとIκBαが解離すると、Arg253とThr254を含む長い第5ループは柔軟となってThr254が露出する。Thr254がリン酸化されると、Pin1はp65のpThr254-Proモチーフと結合して、これを異性化する。この際、IκBαの結合面が破壊されることでp65とIκBαの結合が阻害されると考えられる(B)。しかし構造から、p65とp50の相互作用には影響しないと考えられる。
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2003年7月25日に出願された米国仮特許出願第60/490,109号、および2003年5月8日に出願された米国仮特許出願第60/469,542号の優先権を主張する。
【0002】
政府資金
本発明は、その少なくとも一部は米国立衛生研究所からの助成金(R01 GM56230およびGM58556)による支援を受けて実施された。
【0003】
背景
転写因子NF-κBは、その阻害因子IκBの分解によって活性化され、結果として核へ移行する。しかし、どのように核内のNF-κBが後に調節を受けるかは明らかではなく、また、その安定性が調節を受けるか否かの報告はない。
【0004】
核因子(nuclear factor)-κB(NF-κB)/Relファミリーのタンパク質は、細胞増殖、免疫応答、炎症、細胞の生存、および発癌に関連する、さまざまな遺伝子の発現の調節に中心的な役割を果たす誘導性転写因子である(Baeuerle and Henkel, 1994; Ghosh and Karin, 2002; Karin et al., 2002; Li and Verma, 2002; Sen and Baltimore, 1986)。NF-κBは主にp65/RelAとp50の異型二量体複合体であるが、他の型の異型二量体も報告されている(Baeuerle and Baltimore, 1996; Ghosh et al., 1998)。NF-κBは通常、IκBと呼ばれる阻害性タンパク質ファミリーのタンパク質との非共有結合による相互作用を介して細胞質内に局在する(Ghosh et al., 1998)。NF-κBシグナル伝達は、最終的にIκBキナーゼ複合体(IKK)の活性化を招く、サイトカインや一部の成長因子などの多様な刺激によって活性化される(Ghosh et al., 1998; Israel, 2000; Karin, 1999)。
【0005】
IKKがIκBをリン酸化すると、IκBは、ユビキチンを介したタンパク質分解経路によって分解される(DiDonato et al., 1997; Ghosh and Karin, 2002; Karin, 1999; Karin et al., 2002; Mercurio et al., 1997; Regnier et al., 1997; Yamaoka et al., 1998; Zandi et al., 1997)。こうしてNF-κB複合体の核内への移行が可能となる。核内で同複合体は、同族のκBエンハンサーエレメントに結合して、遺伝子発現を調節する。活性化されたNF-κBの発現を抑制する主な負のフィードバック機構は、NF-κBによるIκBα遺伝子のトランス活性化である(Beg et al., 1993; Brown et al., 1993; Chiao et al., 1994; Sun et al., 1993)。新たに合成されたIκBαは、細胞質と核の間を行き来し、またNF-κBをプロモーターから引き離すことで、NF-κB-IκBα複合体の細胞質への復帰を促すことができる(Arenzana-Seisdedos et al., 1995; Arenzana-Seisdedos et al., 1997; Ghosh and Karin, 2002; Karin et al., 2002)。これらの過程は、NF-κBによる転写反応を終了に導く(Arenzana-Seisdedos et al., 1995; Arenzana-Seisdedos et al., 1997)。
【0006】
NF-κBは、免疫と炎症の両方において確立した機能を有するが、最近になってNF-κBシグナル伝達の調節解除が発癌および癌の悪性化と関連することが多く報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002)。NF-κBは、乳癌を始めとするヒトの多くの癌で構成的に活性を示す(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Nakshatri et al., 1997; Nakshatri and Goulet, 2002; Sovak et al., 1997; Wang et al., 1999)。
【0007】
また、癌細胞で活性化されたNF-κBは、細胞増殖、転移、血管形成、および抗アポトーシスに関与する多くの遺伝子の発現を高めることが報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Nakshatri and Goulet, 2002)。またNF-κBの活性化は、悪性度の高さおよび予後不良と相関することが報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Lessard et al., 2003; Wang et al., 1999)。また、IκBαの速やかな代謝または分解が、おそらくIL-1α、c-myc、EGF、およびヒレグリン(heregulin)の過剰発現(Arlt et al., 2002; Bhat-Nakshatri et al., 1998; Bhat-Nakshatri et al., 2002; Nakshatri and Goulet, 2002)によるIKKの構成的活性化のために、癌細胞におけるNF-κBの構成的活性化に関与する可能性があることが示唆されている(Miyamoto et al., 1994)。しかし、IκBαのタンパク質レベルも、構成的に活性を示すNF-κBを含む多くの癌組織および癌細胞で増加する(Nakshatri and Goulet, 2002; Wang et al., 1999)ことから、IκBαを介したNF-κBの阻害が損なわれている可能性があることが示唆されている。
【0008】
したがって、核への移行に続いて、NF-κBの機能(特にNF-κBとIκBαの結合)は通常、さらに調節を受ける可能性があり、またこのような調節機構が癌細胞では損なわれている可能性がある。実際にPKAなどの複数のキナーゼによる核内におけるNF-κBのリン酸化がNF-κBの転写活性を高めることが報告されている(Zhong et al., 1997; Zhong et al., 1998)。しかしながら、こうした修飾の大半は、NF-κBの転写活性を調節するが、その核への移行または代謝を調節しない。Chenらは最近、p65のアセチル化状態がp65とIκBαとの結合親和性に影響することを報告している(Chen et al., 2001; Chen et al., 2002)。このモデルでは、核内のアセチル化されたp65はIκBαと結合しにくくなり、HDAC3によるp65の脱アセチル化によって、この耐性が解除される可能性がある(Chen et al., 2001; Chen et al., 2002)。しかし、アセチル化されたp65の内在的レベルは、生理学的条件では極めて低いことが報告されている(Chen et al., 2001; Ghosh and Karin, 2002)ので、p65のアセチル化の生物学的な役割と、癌におけるNF-κBの構成的活性化との関連は十分解明されていない。したがって、核内における活性化されたNF-κBとIκBαの相互作用の調節機構と、癌における同調節の解除の詳細を明らかにすることは重要である。これは、NF-κBが介在する発癌を理解する上で重要なだけでなく、新たな抗癌療法を設計する際の一助にもなる可能性がある。
【0009】
Pin1は、一連のタンパク質中のプロリンの手前に位置する、リン酸化されたセリン残基またはスレオニン残基の特定のモチーフ(pSer/Thr-Pro)に結合するペプチジル-プロリルイソメラーゼである。この結合によって、特徴的なpSer/Thr-Proモチーフのシス/トランス異性化による構造変化が誘導される(Lu et al., 1996; Shen et al., 1998; Yaffe et al., 1997)。シスおよびトランスのpSer/Thr-Pro部分は、2つの全く異なるシスおよびトランスのコンホメーションをとるので、Pin1によって誘導される構造変化は、多くの基質の機能に大きな影響を及ぼすことが報告されている(Lu et al., 1996; Lu et al., 1999; Ranganathan et al., 1997; Shen et al., 1998; Yaffe et al., 1997; Zhou et al., 1999)。この新しい「ポスト-リン酸化(post-phosphorylation)」機構は、活性レベル、リン酸化状態、タンパク質間相互作用、細胞内局在、および安定性を調節することで、Pin1の基質タンパク質の機能を調節する(Lu et al., 2002; Ryo et al., 2003)。Pin1は、細胞周期の進行、転写の調節、および細胞の増殖などの、多くの細胞過程の調節に関与することがわかっている(Lu et al., 2002; Ryo et al., 2003)。
【0010】
またPin1は、乳癌および前立腺癌を含むヒトの多くの癌で高度に過剰発現されており、高レベルのPin1は、高い悪性度および予後不良と相関する(Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)。またPin1は、Neu/Ras/c-Jun経路やWnt/β-カテニン経路などの複数の発癌遺伝子経路を活性化する(Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)。興味深いことにPin1は、β-カテニン、CF2、およびp53などの複数の転写調節因子の機能の調節を、タンパク質安定性および細胞内局在を調節することで行うことが報告されている(Hsu et al., 2001; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2002; Zacchi et al., 2002; Zheng et al., 2002)。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は、NF-κBの機能が、Pin1が介在するp65/RelAのプロリン異性化、およびユビキチンを介したp65/RelAのタンパク質分解による調節を受けるという発見に基づく。Pin1はp65のpThr254-Proモチーフに結合し、またp65とIκBαの結合を阻害することで、さらにはp65の核内蓄積およびタンパク質安定性を高めることでNF-κBの活性を高める。したがって、Pin1を欠くマウスおよび細胞は、サイトカインシグナルによるNF-κBの活性化に抵抗性を示す。またPin1の基質として作用できないp65変異体(T254A)は、極めて不安定であり、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化することもできない。注目すべきことに、p65の安定性は、ユビキチンリガーゼとして作用するサイトカインシグナル阻害因子SOCS-1によって促進されるユビキチンを介したタンパク質分解による制御を受ける。以上の知見から、NF-κBシグナル伝達の制御における、これまで認識されていなかった機構の存在が明らかとなり、また、その調節解除が、癌などのヒト疾患におけるNF-κBの構成的活性化に関する新たな洞察をもたらす可能性があることが示唆される。
【0012】
NF-κBファミリーのタンパク質が、免疫応答、炎症応答、およびアポトーシス応答に果たす役割は詳しく調べられている(Rayet, B. et al., 1999, Oncogene 18, 6938-6947;Ebralidze, A., et al., 1989, Genes Dev. 3, 1086-1093、およびBaeurle, P. A. et al., 1996, Cell 87, 13-20)。
【0013】
したがって本発明は、NF-κBの活性が調節されるようにPin1の活性を調節する物質を細胞に接触させる段階を含む、細胞内におけるNF-κBポリペプチドの活性を調節する方法を提供する。
【0014】
関連する態様では、NF-κBの活性はIκBαと相互作用する能力である。別の態様では、Pin1の活性はペプチジルプロリルイソメラーゼ活性である。別の関連する態様では、Pin1を調節する組成物はPin1調節因子(例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子、または抗体)である。抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の場合がある。モノクローナル抗体は、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体の場合がある。
【0015】
別の態様では、本発明は、Pin1の活性を阻害する段階を含む、NF-κBのp65サブユニットのpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法を提供する。関連する態様では、Pin1活性は、Pin1の活性部位に結合する化合物をPin1ポリペプチドに接触させることによって阻害される。関連する態様では、Pin1の活性部位に結合する化合物は、小分子、ペプチド、またはペプチド模倣物などの場合がある。別の関連する態様では、Pin1活性は、Pin1のWWドメインに結合する化合物をPin1ポリペプチドに接触させることで阻害される。関連する態様では、Pin1のWWドメインに結合する化合物は、小分子、ペプチド、ホスホセリンペプチド、またはペプチド模倣物などの場合がある。
【0016】
別の態様では、本発明は、Pin1がNF-κBと相互作用する能力を阻害する段階を含む、NF-κBのp65サブユニット内のpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法を提供する。関連する態様では、Pin1がNF-κBと相互作用する能力を阻害する化合物は、小分子、ペプチド、またはペプチド模倣物などの場合がある。
【0017】
別の態様では、本発明は、Pin1の調節因子を被験対象に投与することで被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連疾患の被験対象を治療する方法を提供する。特定の態様では、NF-κB障害は、細胞増殖異常、免疫応答障害、炎症、細胞生存異常(cell survival disorder)、および発癌障害(oncogenesis disorder)からなる群より選択される。
【0018】
別の態様では、本発明は、NF-κBのp65サブユニットのアミノ酸残基254および255を含むエピトープに特異的な抗体を被験対象に投与することで被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連疾患の被験対象を治療する方法を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、Pin1の産生を阻害することで、ユビキチンを介したタンパク質分解経路によるNF-κBのタンパク質分解を可能とする段階を含む、NF-κBタンパク質の分解量を増やす方法を提供する。産生されるPin1の量は、siRNAまたはRNAiを用いることで調節することができる。
【0020】
別の態様では、本発明は、SOCS-1の発現を高める化合物を被験対象に投与することで、NF-κBの分解を阻害する段階を含む、NF-κB関連障害の被験対象を治療する方法を提供する。
【0021】
詳細な説明
本明細書に記載された研究では、NF-κB(アクセッション番号:NP_003989)のシグナル伝達を制御する2つの新しい調節機構が同定された。本明細書には、Pin1がp65のpThr254-Proモチーフに特異的に結合し、その核局在およびタンパク質安定性を、おそらくp65とIκBα(アクセッション番号:NP_0656390)の結合を阻害することを介して高めることが示されている。Pin1(アクセッション番号:AAC50492)によるp65の調節の生物学的重要性は、Pin1欠損細胞が、p65の迅速な核外輸送および分解のために、サイトカインシグナルによるNF-κBの活性化に抵抗性を示すという知見によって、またPin1基質として作用できないp65-T254A変異体が極めて不安定で、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できないという知見によって、さらに確認されている。これらの知見と矛盾することなく、p65のタンパク質安定性がユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受けること、またサイトカインシグナル阻害因子SOCS-1がp65ユビキチンリガーゼであると推定されることがさらに報告されている。またSOCS-1は、p65のユビキチン化およびタンパク質安定性の調節に重要な役割を果たす。以上の結果から、NF-κBが、Pin1が触媒するp65のプロリン異性化およびユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受けることが初めてわかった。
【0022】
Pin1の発現促進およびSOCS-1の発現抑制がヒトの多くの癌で明瞭に認められることから、このような新しい機構の調節解除は、癌におけるNF-κBの構成的活性化に寄与する可能性が高い。特定のpSer/Thr-Pro結合に対する結合と異性化によってPin1は、特定のリン酸化タンパク質の構造および機能を調節することで、遺伝子発現、細胞周期の調節、および発癌に重要な役割を果たす可能性がある(Lu et al., 2002; Ryo et al., 2003)。本明細書では、Pin1が、IκKの活性およびIκBαのリン酸化に影響を及ぼすことなくNF-κBシグナル伝達を活性化することが明らかにされている。Pin1はまた、p65のThr254-Proモチーフに直接結合する。同部位はp65とIκBαの相互作用の「ホットスポット」の近傍に位置する。NF-κB-IκBα複合体の結晶構造から、IκBαとp65の結合は、p65とIκBαの結合に重要な役割を果たすことが報告されているSer238-Asp243とArg253を含む第5ループ領域の周囲におけるp65の構造変化を強く促す(Huxford et al., 1998; Jacobs and Harrison, 1998)。
【0023】
Thr254-Proモチーフは同複合体の内部に埋込まれている。IκBαが上流のシグナル伝達によって分解されてNF-κBとIκBαが解離すると、p65の二量体化ドメインは柔軟性を増し、Thr254-Proモチーフが露出されてリン酸化を受けることが可能となる。このリン酸化によってPin1結合部位が新たに生じる。続いてPin1は、pThr254-Proモチーフに結合して同モチーフを異性化し、結果的にp65とIκBαの結合面が完全に破壊される可能性があると考えられる。しかしながら、結晶構造および現行モデルから、Pin1とIκBαの結合は、p50との相互作用およびp65のヘテロ二量体化に影響しない可能性がある。この可能性と一致してPin1は、p65とIκBαの結合を阻害するがp50との結合は阻害しないことが、共免疫沈降法およびインビトロ結合アッセイ法の結果から判明している。またPin1の過剰発現は、p65の核外輸送と、続く分解を阻害するが、Pin1の破壊はこれを促進する。重要な点は、Pin1結合部位変異体であるp65-T254Aが極めて不安定であり、NF-κBの下流遺伝子をトランス活性化できなかったことである。1残基のアミノ酸置換による、この機能上の顕著な変化は、同部位におけるリン酸化と、これに続くPin1との相互作用がNF-κBの適切な調節に重要な役割を果たすことをさらに支持する。以上の結果から、Pin1がp65の安定性、核局在、および転写活性の促進に重要な役割を果たすことがわかる。この結果は、Pin1がβ-カテニン、p53、サイクリンD1、およびCF1などの他の複数のタンパク質の安定性および核内局在を調節するが、基礎となる機構は基質によって変わるという、過去に得られた知見と矛盾しない(Hsu et al., 2001; Liou et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2002; Zacchi et al., 2002; Zheng et al., 2002)。例えばp53の場合、Pin1は、p53のタンパク質安定性および転写活性を、おそらくMDM2との結合を阻害することで高める(Wulf et al., 2002; Zacchi et al., 2002; Zheng et al., 2002)。
【0024】
β-カテニンの場合、Pin1は、β-カテニンとAPCの結合を阻害し、その核への移行、タンパク質安定性、および転写活性を、p65の場合と同様に高める(Ryo et al., 2001)。p65のThr254-Proモチーフをリン酸化する上流のキナーゼ、ならびにその機能および調節を見極めるためには、さらに研究が必要である。
【0025】
Pin1がp65のタンパク質安定性を調節する能力をもつという事実は、p65がユビキチンを介したタンパク質分解を受けるという、本研究における別の驚くべき知見につながった。ユビキチンを介したIκBαのタンパク質分解の特性は詳細に明らかにされており(Baeuerle and Baltimore, 1996; Ghosh et al., 1998)、類似の調節がNF-κBそのものに関して過去に報告されている。p65は、野生型MEFおよびPin1を発現する他の細胞で極めて安定であるが、Pin1-/- MEFでは非常に不安定であり、これはプロテアソーム阻害剤MG-132によって安定化可能であると考えられる。またPin1+/+細胞であっても、Pin1との結合を損なうp65の点突然変異(T254A)は、p65を安定な状態から、速やかな核外輸送と続くタンパク質分解のために、極めて不安定なタンパク質へと変換する。以上の結果からp65が、そもそも高度に不安定であり、また正常に調節されていることがわかる。
【0026】
p65のタンパク質安定性の調節は、p65がインビトロおよびインビボでポリユビキチン化され、これがUbcH5aによって促進されるという、発明者らの得た知見によってさらに支持されるが、他のユビキチン結合E2酵素については検討は進んでいない。またp65のユビキチンリガーゼがSOCS-1であることが推定されている。SOCS-1はp65と直接相互作用し、そのユビキチン化および分解を促進し、サイトカインによるNF-κBの活性化を阻害する。注目すべきことにSOCS-1は、サイトカインシグナル伝達(SOCS)抑制因子ファミリーのタンパク質の1つであり、JAK2およびVavのユビキチン化と分解を促すことも報告されている(De Sepulveda et al., 2000; Frantsve et al., 2001; Kamizono et al., 2001; Kile et al., 2002)。SOCS-1は、構成的活性型のKIT受容体、TEL-JAK2、およびv-ABLによって誘導される細胞増殖を阻害可能な、ならびにBCR-ABL形質転換細胞の転移を減じることが可能な腫瘍抑制因子であると推定されている(Kile and Alexander, 2001; Rottapel et al., 2002; Yoshikawa et al., 2001)。
【0027】
最近になって、LPSによって誘導されるマクロファージの活性化をSOCS-1が阻害することが報告されている(Kinjyo et al., 2002; Nakagawa et al., 2002)。この場合、LPSがSOCS1を誘導し、これが次にLPSのシグナル伝達を負に調節することが明らかにされている。SOCS1-/-のマクロファージは、LPSによって誘導されるIκBαのリン酸化、およびNF-κBの活性化の促進を示す。過去の研究では、SOCS-1がLPSによるNF-κBの活性化を、IκBαのリン酸化に関する上流のシグナル伝達経路を阻害することで抑制することが報告されているが、詳細な分子機構は明らかではない。本研究で発明者らは、SOCS-1がp65を直接標的とすること、またそのユビキチンを介したタンパク質分解を促してNF-κBの発現抑制を招くことを明らかにした。したがってSOCS-1は、NF-κBシグナル伝達を複数の機構によって抑制可能であると言える。
【0028】
Pin1およびSOCS-1によってNF-κBが調節されることの生物学的重要性は、マウスモデルにおける乳腺の表現型によっても明らかにされている。妊娠後期における乳腺の発達におけるNF-κBシグナル伝達の重要性と早期乳汁分泌(precocious lactation)が報告されている(Brantley et al., 2001; Cao et al., 2001; Clarkson, 2002; Fata et al., 2000; Geymayer and Doppler, 2000; Hennighausen and Robinson, 2001)。p65ノックアウトマウスは胚性致死であるが(Beg et al., 1995)、IKKαノックアウトマウスは、妊娠中および妊娠後における乳腺発達の重度の異常を明瞭に示す(Cao et al., 2001)。同様に、Pin1ノックアウトの乳腺ではNF-κBは活性を示さず、また上皮細胞は妊娠中に大規模な増殖変化を受けない(Liou et al., 2002)。これとは対照的に、SOCS-1欠損マウスでは乳腺の発達が速い(Lindeman et al., 2001)。以上の結果から、インビボにおいてPin1およびSOCS-1とNF-κBシグナル伝達が機能的に関連することがさらに支持される。
【0029】
注目に値すべきことに、Pin1が触媒するp65のプロリン異性化およびユビキチンを介したタンパク質分解の調節解除は、ヒトの多くの癌におけるNF-κBの構成的活性化に関する新たな洞察をもたらす可能性がある。多くのヒトの癌では、Pin1が高度に過剰発現されている(Ryo et al., 2003; Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)一方で、SOCS-1遺伝子は、ヒトの多くの悪性腫瘍で発現が抑制されていることが報告されている(Rottapel et al., 2002; Yoshikawa et al., 2001)。Pin1の過剰発現は、おそらく核と細胞質を往復するタンパク質であるIκBαとの結合を阻害することでp65の核外輸送を減ずるので、NF-κBは、核内に蓄積して構成的に活性を示す可能性がある。加えて、仮に一部のp65タンパク質が、新たに合成されたIκBαまたは他の外部輸送因子との相互作用によって細胞質内に輸送されるのであれば、SOCS-1の発現抑制のために、ユビキチン-プロテアソーム経路で適切に分解されない可能性がある。細胞質のNF-κBは、IκBαのリン酸化と、続く(上流の発癌シグナルによって活性化される)IKKによるIκBαの分解のために核内に移行可能である。
【0030】
このような条件では、NF-κBの発現を抑制する負のフィードバック機構が損なわれている可能性があるので、NF-κBが核内で構成的に活性化されることで、たとえIκBαが増加した状態でも下流の遺伝子を活性化すると考えられる。この考えと矛盾することなく、Pin1のレベルは、ヒトの乳癌組織においてNF-κBの活性化と相関し、またPin1の阻害は、乳癌細胞においてNF-κBの活性化を抑制する。また同モデルは、IκBαが癌組織で増加した状況であっても、NF-κBが構成的に活性を示す理由を説明する可能性もある。したがって、以上の結果は、Pin1に依存したp65のプロリン異性化およびユビキチンを介したタンパク質分解がNF-κBシグナル伝達を調節する新たな機構である可能性があること、また、この調節解除が、発癌中および発癌後においてNF-κBの構成的活性化に重要な役割を果たす可能性があることを示唆する。
【0031】
したがって本発明は、Pin1の活性および/または発現を調節することでNF-κBを調節する方法を提供する。本発明はまた、NF-κBが関連する疾患または障害の被験対象を治療する方法を提供する。
【0032】
「NF-κB関連疾患」または「NF-κB関連障害」という表現は、NF-κBの異常な発現、分解、または活性が、望ましくない生理学的な結果を引き起こす疾患および障害を含むことを意図する。特定の態様では、このような疾患または障害は、細胞増殖異常(例えば癌)、免疫応答障害、および炎症性障害である。
【0033】
「細胞増殖異常」という表現は、細胞の異常な成長を特徴とする疾患および障害を含むことを意図する。このような疾患および障害には、癌、肉腫、骨髄腫、および新形成などが含まれる。本明細書で用いる「細胞増殖異常」という表現には、乏突起細胞腫、星細胞腫、多形膠芽腫、子宮頚癌、類内膜癌、子宮内膜の漿液性癌、卵巣の類内膜癌、卵巣のブレンナー腫瘍、卵巣の粘液癌、卵巣の漿液性癌、子宮癌肉腫、乳癌、乳房の小葉癌、乳房の腺管癌、乳房の髄様癌、乳房の粘液癌、乳房の管状腺癌、甲状腺癌、甲状腺の濾胞状癌、甲状腺の髄様癌、甲状腺の乳頭癌、副甲状腺の腺癌、副腎腺腫、副腎癌、褐色細胞腫、結腸腺腫の軽度の異形成、結腸腺腫の中等度の異形成、結腸腺腫の重度の異形成、結腸腺癌、食道腺癌、肝細胞癌、口腔癌、胆嚢の腺癌、膵臓の腺癌、小腸の腺癌、胃のびまん性腺癌、前立腺癌(ホルモン不応性)、前立腺癌(治療不能の癌)、腎臓の色素嫌性癌、腎臓の明細胞癌、腎臓の膨大細胞腫、腎臓の乳頭癌、睾丸の非精上皮腫、睾丸精上皮腫、膀胱移行上皮癌、肺腺癌、肺大細胞癌、肺小細胞癌、肺扁平上皮癌、ホジキンリンパ腫、MALTリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)(B細胞性びまん性大細胞型)、NHL、胸腺腫、皮膚の悪性黒色腫、皮膚の基底細胞癌、皮膚の扁平上皮細胞癌、皮膚のメルケル細胞癌、皮膚の良性母斑、脂肪腫、ならびに脂肪肉腫などの疾患および障害が含まれる。
【0034】
「免疫応答障害」という表現は、個体による免疫応答の上昇または低下に至る、NFκBの発現または調節が異常な免疫障害を含むことを意図する。例えば自己免疫疾患、皮膚疾患、乾癬、皮膚炎、組織および臓器の拒絶などの疾患および障害が本発明に含まれる。
【0035】
「炎症性障害」という表現は、NF-κBの発現または調節が異常な疾患および障害を含むことを意図する。また「炎症性障害」という表現は、炎症を特徴とする、炎症によって引き起こされる、炎症の結果生じる、または炎症の影響を受ける疾患または障害を含むことを意図する。炎症性障害は、例えばNF-κBが介在する過程が関連する生物学的および病理学的な過程に起因する、または関連する可能性がある。炎症性の疾患または障害の例には、喘息、乾癬、慢性関節リウマチ、骨関節症、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、強直性脊椎炎、敗血症、血管炎、および滑液包炎などの急性および慢性の炎症性障害;狼瘡、多発性筋痛、リウマチ、強皮症、ヴェグナー肉芽腫症、側頭動脈炎、クリオグロブリン血症、および多発性硬化症などの自己免疫疾患;移植組織拒絶;骨粗鬆症;固形腫瘍(例えば肺、CNS、結腸、腎臓、および膵臓の癌)を含む癌;アルツハイマー病;アテローム動脈硬化症;ウイルス(例えばHIVまたはインフルエンザ)感染;慢性ウイルス(例えばエプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス)感染;ならびに毛細血管拡張性失調症などがあるがこれらに限定されない。
【0036】
好ましい態様では、本発明は、NF-κBが関与することが知られている疾患(例えば炎症性障害;特に慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患、および喘息;乾癬およびアトピー性皮膚炎を含む皮膚疾患;自己免疫疾患;組織および臓器の拒絶;アルツハイマー病;卒中;アテローム動脈硬化症;再狭窄;ホジキン病を含む癌;ならびにAIDSを含む、一部のウイルス感染;骨関節症;骨粗鬆症;および毛細血管拡張性失調症を治療する方法を提供する。
【0037】
Pin1の調節因子
Pin1の例示的なペプチドおよびペプチド模倣物の調節因子は、2002年10月8日に出願された米国特許第6,462,173号に記載されている。Pin1活性の例示的な小分子調節因子は、米国特許第6,462,173号、WO 03074550A2、WO 03073999A2、WO 03074497A1、WO 04028535A1、WO 03074001A2、WO 03074002A2、および2004年1月16日に出願された、"Pin1-Modulating Compounds and Methods of Use Thereof"と題する米国仮出願第60/537,171号に記載されている。Pin1の調節因子は、当技術分野で周知の方法でさらに同定することができる。
【0038】
Pin1ポリペプチドの調節因子を設計する方法は例えば、WO 03074001A2に記載されている。
【0039】
Pin1の調節因子は、Pin1を認識する抗体の場合がある。このような抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の場合があり、またPin1活性(例えば、標的分子との相互作用をブロックすることによるPin1のNF-κBとの相互作用能力)を調節可能である。本発明の抗体は、本明細書に詳述されている。
【0040】
抗原性ペプチドに含まれる好ましいエピトープは、Pin1の複数の領域、すなわちタンパク質の表面(例えば親水性領域)、ならびに抗原性の高い領域に位置する、NF-κBのp65サブユニットである。さらにより好ましい抗体は、Pin1とNF-κBの相互作用部位の一部を含む残基を含むエピトープを認識する抗体である。
【0041】
Pin1またはNF-κBの免疫原は典型的には、適切な被験対象(例えばウサギ、ヤギ、マウス、または他の動物)を免疫原で免疫化することで抗体を調製するために用いられる。適切な免疫原調製物は例えば、組換え的に発現されたPin1タンパク質もしくはNF-κBタンパク質、または化学的に合成されたPin1もしくはNF-κBのポリペプチドを含む場合がある。同調製物はさらに、フロインド完全アジュバントまたはフロインド不完全アジュバントなどのアジュバント、または類似の免疫調節剤を含む場合がある。免疫原性を有するPin1またはNF-κB調製物によって適切な被験対象を免疫化すると、ポリクローナルの抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体の応答が誘導される。
【0042】
したがって本発明の別の局面は、抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体に関する。本明細書で用いる「抗体」という表現は、免疫グロブリン分子、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性のある部分(すなわちPin1やNF-κBなどの抗原と特異的に結合する(免疫応答する)抗原結合部位を含む分子)を意味する。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性のある部分の例には、抗体をペプシンなどの酵素で処理することで作製可能なF(ab)断片やF(ab')2断片などがある。本発明はPCIPに結合するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を提供する。本明細書で用いる「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という表現は、Pin1またはNF-κBの特定のエピトープと免疫応答可能な1種類の抗原結合部位のみを含む抗体分子の集団を意味する。したがって、モノクローナル抗体組成物は典型的には、免疫応答する特定のPin1タンパク質またはNF-κBタンパク質に対する1つの結合親和性を示す。Pin1に対する抗体については、全体が参照により明瞭に本明細書に組み入れられる米国特許第6,596,848号で説明されている。
【0043】
ポリクローナルの抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体は、上述の手順で、PCIP免疫原で適切な被験対象を免疫化することで調節可能である。免疫化された被験対象における抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体の力価は、固定されたPCIPを使用する酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)などの標準的な手法で経時的に追跡可能である。望ましいならば、Pin1またはNF-κBに対する抗体分子を哺乳類から(例えば血液から)単離し、さらにプロテインAクロマトグラフィーなどの周知の手法で精製してIgG画分を得ることができる。免疫化後の適切な時点で(例えば抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体の力価が最高時に)、被験対象から抗体産生細胞を回収し、文献(Kohler and Milstein, 1975, Nature 256: 495-497)に当初記載されたハイブリドーマ法などの標準的な手法(Brown et al., 1981, J. Immunol. 127: 539-46;Brown et al., 1980, J. Biol. Chem. 255: 4980-83;Yeh et al., 1976, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76: 2927-31;およびYeh et al., 1982, Int. J Cancer 29: 269-75も参照)、最近開発されたヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor et al.,1983, Immunol Today 4: 72)、EBV-ハイブリドーマ法(Cole et al., 1985, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77-96)、またはトリオーマ法によるモノクローナル抗体の調製に使用することができる。モノクローナル抗体のハイブリドーマを産生させる手法は周知である(一般に、R.H. Kenneth, in Monoclonal Antibodies: A New Dimension In Biological Analyses, Plenum Publishing Corp., New York, New York, 1980;E.A. Lerner, 1981, Yale J. Biol. Med., 54: 387-402;M.L. Gefter et al., 1977, Somatic Cell Genet. 3: 231-36を参照)。簡単に説明すると、不死細胞系列(典型的には骨髄腫)を、上述の手順でPCIP免疫原によって免疫化した哺乳類に由来するリンパ球(典型的には脾細胞)と融合させ、結果として得られるハイブリドーマ細胞の培養上清を対象にスクリーニングを行い、Pin1またはNF-κBと結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。
【0044】
リンパ球と不死化細胞系列の融合に用いられる任意の多くの既知のプロトコルを、抗Pin1モノクローナル抗体または抗NF-κBモノクローナル抗体を作製する目的に応用することができる(例えば上記のG. Galfre et al., 1977, Nature 266: 55052;Gefter et al., Somatic Cell Genet.、前掲;Lerner, Yale J. Biol. Med.、前掲;Kenneth, Monoclonal Antibodies、前掲を参照)。また当業者であれば、このような方法に、有用な多くの代替的方法が存在することを理解できると思われる。典型的には、不死細胞系列(例えば骨髄腫細胞系列)は、リンパ球と同じ哺乳類種に由来する。例えばマウスのハイブリドーマは、本発明の免疫原性調製物で免疫化したマウス由来のリンパ球を、不死化されたマウス細胞系列と融合させることで作製できる。好ましい不死細胞系列は、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む培地(「HAT培地」)に感受性を示すマウス骨髄腫細胞系列である。任意の数の骨髄腫細胞系列を、標準的な手法で融合相手の細胞として使用できる(例えばP3-NS1/1-Ag4-1、P3-x63-Ag8.653、またはSp2/O-Ag14の各骨髄腫系列)。これらの骨髄腫系列はATCCから入手できる。典型的には、HAT感受性を示すマウス骨髄腫細胞を、ポリエチレングリコール(「PEG」)を用いてマウスの脾細胞と融合させる。次に、融合の結果生じるハイブリドーマ細胞を対象に、融合していない骨髄腫細胞および非生産的に融合した骨髄腫細胞を死滅に導くHAT培地で選択を行う(融合しなかった脾細胞は、形質転換されていないために数日後に死滅する)。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、例えばPin1またはNF-κBに結合する抗体を求める、ハイブリドーマ培養上清を対象としたスクリーニングによって(例えば標準的なELISAアッセイ法で)検出される。
【0045】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製する代りに、モノクローナルの抗PCIP抗体を同定して、Pin1またはNF-κBを用いた、組換え型のコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば抗体ファージディスプレイライブラリー)のスクリーニングによって、抗Pin1抗体または抗NF-κBと結合する免疫グロブリンライブラリーの抗体を単離することができる。ファージディスプレイライブラリーを作製およびスクリーニングするためのキットは市販されている(例えばPharmacia社のRecombinant Phage Antibody System、カタログ番号27-9400-01;およびStratagene社のSurfZAP(商標) Phage Display Kit、カタログ番号240612)。加えて、抗体ディスプレイライブラリーの作製およびスクリーニングにおける使用に特に適した方法および試薬の例は例えば、Ladnerらの米国特許第5,223,409号、PCT International Publication No. WO 92/18619;DowerらのPCT International Publication No. WO 91/17271;WinterらのPCT International Publication WO 92/20791;MarklandらのPCT International Publication No. WO 92/15679;BreitlingらのPCT International Publication WO 93/01288;McCaffertyらのPCT International Publication No. WO 92/01047;GarrardらのPCT International Publication No. WO 92/09690;LadnerらのPCT International Publication No. WO 90/02809;Fuchs et al., 1991, Bio/Technology 9: 1370-1372;Hay et al., 1992, Hum. Antibod. Hybridomas 3: 81-85;Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281;Griffiths et al., 1993, EMBO J 12: 725-734;Hawkins et al., 1992, J. Mol. Biol. 226: 889-896;Clarkson et al., 1991, Nature 352: 624-628;Gram et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 3576-3580;Garrad et al., 1991, Bio/Technology 9: 1373-1377;Hoogenboom et al., 1991, Nuc. Acid Res. 19: 4133-4137;Barbas et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7978-7982;およびMcCafferty et al., Nature, 1990, 348: 552-554に記載されている。
【0046】
加えて、標準的な組換えDNA手法で作製可能な、ヒト部分と非ヒト部分の両方を含むキメラ抗体やヒト化モノクローナル抗体などの組換え型の抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体が本発明の範囲に含まれる。このようなキメラ抗体およびヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野で周知の組換えDNA手法で、例えばRobinsonらのInternational Application No. PCT/US86/02269;Akiraらの欧州特許出願第184,187号;Taniguchi, M.の欧州特許出願第171,496号、Morrisonらの欧州特許出願第173,494号;NeubergerらのPCT International Publication No. WO 86/01533;Cabillyらの米国特許第4,816,567号;Cabillyらの欧州特許出願第125,023号;Better et al., 1988, Science 240: 1041-1043;Liu et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 3439-3443;Liu et al., 1987, J.Immunol. 139: 3521-3526;Sun et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84: 214-218;Nishimura et al., 1987, Canc. Res. 47: 999-1005;Wood et al., 1985, Nature 314: 446-449;およびShaw et al., 1988, J. Natl. Cancer Inst. 80: 1553-1559;Morrison, S.L., 1985, Science 229: 1202-1207;Oi et al., 1986, BioTechniques 4: 214;Winterの米国特許第5,225,539号;Jones et al.,1986, Nature 321: 552-525;Verhoeyan et al., 1988, Science 239: 1534;およびBeidler et al.,1988, J. Immunol. 141: 4053-4060に記載された方法で作製することができる。
【0047】
抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体(例えばモノクローナル抗体)を使用して、アフィニティクロマトグラフィーや免疫沈降法などの標準的な手法でPin1またはNF-κBを単離することができる。抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体は、細胞からの天然のPCIPの精製、および宿主細胞で発現させた、組換え的に作製されたPin1またはNF-κBの精製を効率化することができる。また、抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体を使用して、Pin1タンパク質またはNF-κBタンパク質を(例えば細胞溶解物中または細胞上清中に)検出して、Pin1タンパク質またはNF-κBタンパク質の発現の量およびパターンを評価することができる。抗Pin1抗体または抗NF-κB抗体は、臨床検討の手順の一部として、例えば任意の治療法の効率を見極めるために、また組織中のタンパク質レベルを追跡するために、診断目的で使用することができる。検出は、検出可能な物質を抗体に結合させることで(すなわち物理的に結びつけることで)効率化することができる。検出可能な物質の例には、さまざまな酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、および放射性材料などがある。適切な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼなどがあり、適切な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチンやアビジン/ビオチンなどがあり、適切な蛍光材料の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、またはフィコエリトリンなどがあり、発光材料の例にはルミノールなどがあり、生物発光材料の例には、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびイクオリンなどがあり、また適切な放射性材料の例には、125I、131I、35S、または3Hなどがある。
【0048】
またPin1の調節因子は、アンチセンスRNA、siRNA、またはRNAiなどの、Pin1ポリペプチドが翻訳されないPin1発現の調節因子である場合がある。RNAiは、標的となるmRNAが配列特異的に分解される、植物および動物における遍在性の遺伝子調節機構である(Sharp, et al., 2001, Genes Dev. 15, 485-490;Hutvagner, G et al., 2002, Curr. Opin. Genet. Dev. 12, 225-232;Zamore, P.D. et al., 2000, Cell 101, 25-33;およびElbashir, S.M. et al., 2001, Nature 411, 494-498)。siRNA技術については、文献(Elbashir, et al., 2001, Genes Dev. 15, 188-200;Hammond, S.M., et al., Nature , 2000, 404, 293-296;およびBernstein, E., et al., 2001, Nature 409, 363-366)に記載されている。
【0049】
本発明のsiRNA分子は、各鎖が16〜30ヌクレオチド(例えば16ヌクレオチド、17ヌクレオチド、18ヌクレオチド、19ヌクレオチド、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、25ヌクレオチド、26ヌクレオチド、27ヌクレオチド、28ヌクレオチド、29ヌクレオチド、または30ヌクレオチド)である場合がある(鎖の一方は、標的領域に対して実質的に相補的である(例えば、相補性は少なくとも80%(または例えば85%、90%、95%、または100%)(例えば3個、2個、1個、または0個の誤対合ヌクレオチド(群)を有する))。標的領域は、野生型と変異型の対立遺伝子間で少なくとも1塩基対が異なる。例えば標的領域は機能獲得変異を含み、またもう一方の鎖は、第1の鎖と同一か、または実質的に同一である。本発明のdsRNA分子は、化学的に合成可能であるほか、DNAテンプレートもしくは人工的に作製されたRNA前駆体からインビトロで転写可能である。
【0050】
dsRNA分子は例えば、以下のプロトコルにしたがって、当技術分野で周知の任意の方法で設計可能である:
1.AUG開始コドンを出発点としてAAジヌクレオチド配列を探す(個々のAAおよび3'端の隣接する16ヌクレオチドまたはこれ以上のヌクレオチドがsiRNAの標的である可能性がある)。siRNAは、野生型と変異型の対立遺伝子間で少なくとも1塩基対が異なる標的領域(例えば、機能獲得変異を含む標的領域)に特異的なはずである。機能獲得変異が、同じ遺伝子上の1つもしくは複数の他の変異と関連する場合、siRNAは、任意の変異を標的とする可能性がある。場合によっては、siRNAは、既知の変異を含まないが、野生型(標準)配列の対立遺伝子変異を含む対立遺伝子領域を標的とする。第1の鎖は、この配列に相補的とすべきであり、またもう1つの鎖は、第1の鎖と同一か、または実質的に同一である。1つの態様では、核酸分子は、例えばSOD1の配列の開始コドンの少なくとも50〜100ヌクレオチド下流から始まる標的対立遺伝子配列の領域から選択される。またG/C含量の低い(35〜55%)siRNAは、G/C含量が55%を上回るsiRNAより活性が高い場合がある。したがって1つの態様では、本発明は、G/C含量が35〜55%の核酸分子を含む。またsiRNAの鎖は、1〜4残基のヌクレオチド(例えば2残基のヌクレオチド)の3'オーバーハングを有するように対を形成する場合がある。したがって別の態様では、核酸分子は、TTなどの2ヌクレオチドの3'オーバーハングを有する場合がある。オーバーハングを有するヌクレオチドはRNAまたはDNAの場合がある。
2.当技術分野で周知の任意の方法で、潜在的な標的を適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラットなど)と比較し、他のコード配列とかなりのホモロジーを有する標的配列を検討対象から除去する。このような配列ホモロジー探索の1つの方法は、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTから利用可能なBLASTとして知られている。
3.希望する評価基準に適合する1つまたは複数の配列を選択する。siRNAの設計および使用に関する他の一般的な情報は、http://www.mpibpc.gwdg.de/abteilungen/100/105/sirna.htmlで閲覧可能な「The siRNA User Guide」に記載されている。本発明のsiRNAは一般に、アンチセンス鎖中に1残基もしくは複数の残基の修飾塩基(例えばU(5Br)、U(5I)、および/またはDAP)を有する。このような修飾型のsiRNAは、修飾塩基を用いて合成可能である。
【0051】
Pin1の他の調節因子は、Pin1の天然の基質に似たペプチド(例えばホスホセリン部分またはホスホトレオニン部分)の場合がある。特定の態様では、このようなペプチドは、NF-κBのp65サブユニット上のPin1の認識部位に類似している場合がある。
【0052】
NF-κBの調節因子は、例えば、文献(Breton, J.J and Chabot-Fletcher, M.C. JPET, 282, 459-466, 1997)に記載された細胞ベースのルシフェラーゼレポーターアッセイ法で同定することができる。簡単に説明すると、NF-κBレポータープラスミド(後述)で恒久的にトランスフェクトされたU937ヒト組織球性リンパ腫細胞系列を、250 μg/mlのジェネティシン(Geneticin)(硫酸G418、Life Technologies, Grand Island, N.Y.)を添加した上記培地で培養する。トランスフェクトされたU937クローンを対象にルシフェラーゼレポーターアッセイ法を行う。2回遠心(300×g、5分)し、10% FBSを含むRPMI 1640中に密度が1×106細胞/mlとなるように再懸濁する。1 mlのアリコートを24ウェルプレートのウェルに添加する。化合物またはジメチルスルホキシド(DMSO)担体(1 μl)を適当なウェルに添加し、プレートを37℃で5% CO2の雰囲気下で30分間インキュベートする。刺激を加え(5 ng/mlのTNF-α、100 ng/mlのLPS、または0.1 μMのPMA)、試料を37℃で5% CO2の雰囲気下で5時間インキュベートし、1.9 ml容のポリプロピレンチューブに移して遠心する(200×g、5分)。細胞ペレットを、Ca2+およびMg2+を含まない1 mlのPBSで2回洗浄し、上記条件で遠心する。得られた細胞ペレットを50 μlの1×溶解緩衝液(Promega Corporation, Madison, Wis.)に溶解し、ボルテックスミキサーで攪拌してインキュベートする(室温、15分)。各溶解物の20 μlのアリコートを、不透明な白色の96ウェルプレート(Wallac Inc., Gaithersburg, Md.)に移し、ルシフェラーゼ産生を調べるアッセイ法を、MicroLumat LB96Pルミノメーター(EG & G Berthold, Bad Wilbad, Germany)を使用して行う。ルミノメーターは100 μlのルシフェラーゼアッセイ法用試薬(Promega Corporation, Madison, Wis.)を各ウェルに分注し、光出力の積分値を20秒間にわたって記録する。光出力は相対光度単位(RLU)で測定する。
【0053】
また、本発明の調節因子を対象に、本明細書の実施例に記載されたインビボアッセイ法で、NF-κBと相互作用する能力、および/またはNF-κBの活性を調節する能力を検討することができる。また本発明の調節因子は、動物モデル(例えば、文献(May, et al., 2000, Science 289, 1550-1553)に記載されたNF-κB用の動物モデル)で検討することが可能であり、またインビボにおける抗炎症活性は、ホルボールエステルによって誘導されるマウスの耳炎症モデルで評価することができる。酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)(アセトン中に4 μg/20 μl)を雄のBalb/cマウス(6匹/群)(Charles River Breeding Laboratories, Wilmington, Mass.)の左耳の内面および外面に塗布する。4時間後、25 μlのアセトンに溶解した化合物を同じ側の耳に塗布する。20時間後に、両耳の厚さをダイアル式マイクロメーター(Mitutoyo, Japan)で測定し、化合物の第2の局所投与を行う。24時間後に耳の厚さの測定を行い、データを、処理耳と非処理耳間の厚みの変化(×l0-3 cm)として表す。次に、炎症を生じた左耳を切除して-70℃で保存した後に、炎症性の細胞浸潤の尺度であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性のアッセイ法を行った。
【0054】
薬学的組成物とその投与
本発明は、本明細書で説明するように、NF-κB関連障害に関与する細胞に投与するために、薬学的組成物中にポリペプチド、核酸、小分子、抗体、および他の薬剤の使用を含む。このような分子、タンパク質、核酸、および抗体(本明細書では「活性化合物」とも呼ばれる)は、被験対象(例えばヒト)への投与に適切な薬学的組成物中に混合することができる。このような組成物は典型的には、核酸分子、タンパク質、調節因子、または抗体、および薬学的に許容可能な担体を含む。しかしながら、投与が、インビトロで細胞を対象に行われる場合もあること、またヒト以外のトランスジェニック動物などのインビボモデル系を対象に行われる場合があることが理解される。
【0055】
「投与する」という表現は広い意味で用いられ、本発明の組成物を被験対象に導入する任意の方法を含む。この方法は、インビボでポリペプチドまたはポリヌクレオチドを転写または翻訳によって産生させる段階、またはインビボにおいて外部から被験対象に導入されたポリヌクレオチドを産生させる段階を含む。したがって、被験対象で産生される、外来組成物由来のポリペプチドまたは核酸は、「投与する」という表現に含まれる。
【0056】
本明細書で用いる「薬学的に許容される担体」という表現は、薬学的投与に適合する任意の、またあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むことを意図する。薬学的に活性のある物質に対する、このような溶媒および薬剤の使用は当技術分野で周知である。ただし、任意の従来の溶媒または薬剤が活性化合物と不適合な場合を除いて、このような溶媒を本発明の組成物に使用することができる。追加的な活性化合物を組成物中に混合することもできる。本発明の薬学的組成物は、意図された投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例には、非経口的な経路、例えば静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(例えば吸入投与)、経皮投与(局所投与)、経粘膜投与、および腸内投与などがある。非経口的投与、皮内投与、または皮下投与に用いられる溶液または懸濁液は、以下の成分を含む場合がある:注射用水、食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒などの滅菌済みの希釈物;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸、クエン酸、またはリン酸などの緩衝液、および等張性を調節するための薬剤(塩化ナトリウムやデキストロースなど)。pHは、塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調節することができる。非経口用調製物は、アンプル、ディスポーザブルシリンジ、またはガラス製もしくは樹脂製の多数回投与用バイアルに収容することができる。
【0057】
注射に適した薬学的組成物には、無菌性の水溶液(水溶性の場合)または分散媒、および無菌性の注射用液または分散媒を一時的に調製するための無菌性粉末などがある。静脈内投与の場合、適切な担体には、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF, Parsippany, NJ)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)などがある。いずれの場合においても、組成物は無菌性でなければならず、また容易なシリンジ収容性を可能とする程度の液体であるべきである。また製造および保存の条件で安定でなければならず、細菌や真菌などの微生物の作用の混入を防ぐように保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにこれらの適切な混合物を含む溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動性は例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することで、分散媒の場合は必要な粒子径を維持することで、また界面活性剤を使用することで維持できる。微生物の作用は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどの、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤を使用して防ぐことができる。多くの場合、等張剤(例えば糖類や、ポリアルコール(マンニトールやソルビトール)、および塩化ナトリウム)などを組成物中に含めることが好ましい。注射用組成物の長時間を要する吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどの、吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含めることで達成可能である。
【0058】
無菌性の注射可能な溶液は、活性化合物(例えば小分子や抗体)を必要量の適切な溶媒中に、必要に応じて、前述の1種類もしくは複数の内容物とともに混合した後に濾過滅菌することで調製できる。一般に分散媒は、ベースとなる分散媒、および前述の化合物に由来する他の必要な成分を含む滅菌済みの溶媒中に活性化合物を混合することで調製される。滅菌済みの注射溶液を調製するための滅菌済み粉末の好ましい調製法は、活性成分の粉末と、任意の追加的な所望の内容物の粉末を、無菌濾過済みの同溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥である。
【0059】
経口組成物は一般に、不活性な希釈物または食用に適した担体を含む。これらは、ゼラチンカプセル剤に含めることができるほか、錠剤中に圧縮することができる。経口投与の場合、薬剤は、胃の中で存在し続けられるようにするために、経腸用剤形(enteric form)に含める場合があるほか、消化管の特定の領域で放出されるように、さらに既知の方法でコーティングしたり混合したりすることができる。治療薬を経口投与する際には、活性化合物に添加剤を加えて、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形状で使用することができる。経口用組成物は、洗口液に用いられる液状担体を用いて調製することもできる(液状担体中の化合物は口に入れて、また吹きかけて吐き出させるか、または飲み込ませる)。薬学的に適合する結合剤および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の任意の内容物、または類似の性質を有する化合物を含む場合がある:微結晶セルロース、トラガカントガム、またはゼラチンなどの結合剤;デンプンや乳糖などの賦形剤;アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムやSteroteなどの潤滑剤;コロイド状の二酸化シリコンなどの流動促進剤;ショ糖やサッカリンなどの甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料などの着香剤。
【0060】
吸入による投与の場合、化合物は、適切な噴霧剤(例えば二酸化炭素などの気体)を含む、加圧型容器またはディスペンサー(ネブライザー)からエアロゾルスプレーの状態で輸送される。
【0061】
全身投与は、経粘膜または経皮的な手段で行うこともできる。経粘膜投与または経皮投与の場合、浸透防御に適した浸透剤を製剤化に使用する。このような浸透剤は一般に当技術分野で周知であり、例えば経粘膜投与用として、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、経鼻スプレーまたは坐剤を使用することで達成できる。経皮投与の場合、活性化合物は、一般に当技術分野で周知の外用薬、軟膏、ゲル、またはクリーム中に製剤化される。
【0062】
活性化合物は、(例えば、カカオバターおよび他のグリセリドなどの従来の坐剤用基材を用いて)坐剤の形状で、または腸から導入する場合は浣腸剤の状態で調製することもできる。
【0063】
1つの態様では、活性化合物を、インプラントやマイクロカプセル輸送系を含む徐放性製剤などの、化合物が身体から速やかに除去されないように保護する担体を用いて調製する。エチレンビニル酢酸、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性で生体適合性のあるポリマーを使用することができる。このような製剤の調製法は、当業者には明らかであると思われる。材料はAlza社およびNova Pharmaceuticals社製の市販品を入手することも可能である。リポソーム懸濁物(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体とともに、感染細胞を標的とするリポソームを含む)を、薬学的に許容可能な担体として使用することができる。これらは、例えば米国特許第4,522,811号で説明されている、当業者に既知の方法で使用することができる。
【0064】
経口用または非経口用の組成物を、投与を容易にするための、また用量を均一にするための用量単位剤形として製剤化することが特に有益である。本明細書で用いる「用量単位剤形」という表現は、治療対象の被験対象に対する単位投与に適した、物理的に明瞭な単位を意味する。個々の単位は、所望の治療効果を生じるように計算された所定の量の活性化合物を、必要な薬学的担体とともに含む。本発明の用量単位剤形の仕様は、活性化合物の固有の特徴、および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体治療用の対象活性化合物を配合する技術分野における固有の限度により規定され、またこれに直接依存する。
【0065】
本発明の核酸分子をベクターに挿入することで、遺伝子治療用のベクターとして使用できる。遺伝子治療用のベクターは例えば、静脈注射、局所投与(米国特許第5,328,470号)によって、または定位的な注射(stereotactic injection)によって被験対象に輸送できる(例えば、Chen et al., 1994, PNAS 91: 3054-3057を参照)。遺伝子治療用ベクターの薬学的調製物は、許容可能な希釈物中に遺伝子治療用のベクターを含む場合があるほか、遺伝子輸送用溶媒が包埋された徐放性マトリックスを含む場合がある。あるいは、完全な遺伝子輸送用ベクター(例えばレトロウイルスベクター)が組換え細胞から完全な状態で産生可能な場合、薬学的調製物は、遺伝子輸送系となる1種類もしくは複数の細胞を含む場合がある。薬学的組成物は、容器、パック、またはディスペンサー内に、投与の指示書とともに収容することができる。
【0066】
本明細書で定義されるように、治療的有効量のタンパク質またはポリペプチド(すなわち有効用量)の範囲は、約0.001〜30 mg/kg体重、好ましくは約0.01〜25 mg/kg体重、より好ましくは約0.1〜20 mg/kg体重であり、またさらにより好ましくは約1〜10 mg/kg体重、2〜9 mg/kg体重、3〜8 mg/kg体重、4〜7 mg/kg体重、または5〜6 mg/kg体重である。
【0067】
当業者であれば、疾患もしくは障害の重症度、治療歴、全般的健康状態、および/または被験対象の年齢、ならびに現在の他の疾患を含むがこれらに限定されない特定の因子が、被験対象を有効に治療するために必要な用量に影響を及ぼす可能性があることを理解すると思われる。また、治療的有効量のタンパク質、ポリペプチド、または抗体による被験対象の治療は、1回の投与による場合があるほか、好ましくは一連の治療による場合がある。好ましい例では、被験対象を、約0.1〜20 mg/kg体重の範囲の抗体、タンパク質、またはポリペプチドを用いて、週1回で約1〜10週間、好ましくは2〜8週間、より好ましくは約3〜7週間、またさらにより好ましくは約4週間、5週間、もしくは6週間かけて治療する。治療に用いられる有効用量の抗体、タンパク質、またはポリペプチドを、特定の治療の経過中に増減させる場合があることも理解されると思われる。用量の変化が生じる場合があり、これは本明細書に記載された診断アッセイ法の結果から明らかになる。
【0068】
本発明は、発現または活性を調節する薬剤を含む。薬剤は例えば小分子の場合がある。小分子には例えば、ペプチド、ペプチド模倣物、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、分子量が約10,000 g/mol未満の有機化合物または無機化合物(ヘテロ有機化合物および有機金属化合物を含む)、分子量が約5,000 g/mol未満の有機化合物または無機化合物、分子量が約1,000 g/mol未満の有機化合物または無機化合物分子量が約500 g/mol未満の有機化合物または無機化合物、ならびに塩類、エステル、および他の薬学的に許容される形状の上記化合物などがあるがこれらに限定されない。
【0069】
適切な用量の小分子薬剤は、当技術分野の医師、獣医師、または研究者の知識の範囲内のいくつかの因子に依存することが理解されている。小分子の用量(群)は、例えば、被験対象の性質、大きさ、および条件、または対象試料に依存して変動し、またさらに、組成物が投与される経路(可能な場合)、ならびに実施者が、本発明の核酸またはポリペプチドによって小分子に持たせたいと考える作用に依存して変動する。例示的な用量は、被験対象1 kgあたりmg量またはμg量の小分子、または例えば、約1 μg/kg〜約500 mg/kg、約100 μg/kg〜約5 mg/kg、または約1 μg/kg〜約50 μg/kgの試料重量を含む。また、適切な用量の小分子が、調節対象となる発現または活性に関して小分子の力価に依存することも理解される。適切な用量は、本明細書に記載されたアッセイ法で決定できる。本発明のポリペプチドまたは核酸の発現または活性を調節するために、1種類または複数のこれらの小分子を動物(例えばヒト)に投与する場合は、医師、獣医師、または研究者は例えば、最初に比較的低用量を処方し、続いて適切な反応が得られるまで用量を増やしながら処方する場合がある。また、任意の特定の動物被験対象に対する特定の用量のレベルが、使用される特定の化合物の活性、被験対象の年齢、体重、全般的健康状態、性別、および食事、投与時間、投与経路、排出速度、任意の薬剤の組み合わせ、および調節対象となる発現または活性の程度などの多様な因子に依存することが理解される。
【0070】
個々の前述の特許出願および参考文献の全内容は、その全てが明確に参照により本明細書に組み入れられる。
【0071】
本発明の詳細および特徴について、本明細書に記載された実施例でさらに説明する。
【0072】
実施例
以下の実験手順を、本明細書に記載される実施例に用いた。
【0073】
免疫組織化学的手法
乳癌アレイはImmugenex社から購入し、免疫染色を文献(Ryo et al., 2001)に記載された手順で行った。簡単に説明すると、スライドをキシレンで脱パラフィン処理し、100%および75%のエタノールで水和した後にH2Oで洗浄した。1X antigen retreat citra(Biogene)中で、電子レンジ内で10分間煮沸することで抗原再捕捉手順を行った。スライドを、5%ヤギ血清および0.1% Triton X100を含むPBSで処理してブロッキングした後に、抗Pin1ポリクローナル抗体または抗p65モノクローナル抗体(Chemicon; MAB3026)で、4℃の湿潤チャンバー内で12時間処理した。スライドをPBSで洗浄した後に、ビオチン化二次抗体と2時間インキュベートした。Vectastain ABCキットおよびDAB染色液(Vector Laboratories, Burlingame, CA)を用いて免疫組織化学的解析を行った。
【0074】
遺伝子レポーターアッセイ法
コンフルエンシーが約60%の細胞に、Effectene(Qiagen)を用いて12ウェルのディッシュ上で3回トランスフェクトした。トランスフェクションの24〜36時間後に、Dual-Luciferaseレポーターアッセイ法システム(Promega)で遺伝子レポーターアッセイ法を、文献(Wulf et al., 2001)に記載された手順で行った。pRL-TK(Promega)をトランスフェクション効率の内部対照として使用した。全ての結果は、独立した3回の培養のX±SDとして表す。乳癌細胞系列を対象とした遺伝子レポーターアッセイ法では、細胞に、Pin1に特異的なsiRNA
、または非特異的なsiRNA
をコードするpSuppressorNeoベクターを、Ig-κBルシフェラーゼコンストラクトおよびpRL-TKとともにトランスフェクトした。48時間後に細胞を溶解し、遺伝子レポーターアッセイ法を行った。
【0075】
電気泳動移動度シフトアッセイ法(EMSA)
電気泳動移動度シフトアッセイ法を文献(Yamaoka et al., 1998)に記載された手順で行った。簡単に説明すると、文献(Yamaoka et al., 1998)に記載された手順でHeLa細胞から核抽出物を調製し、末端標識された2本鎖のNF-κBゲルシフトオリゴヌクレオチド(Santa Cruz)を含む結合緩衝液(10 mM Tris-HCl pH 7.5、1 mM MgCl2、0.5 mM EDTA、0.5 mM DTT、50 mM NaCl、200 ng/ml poly(dI-dC)、4%グリセロール)に溶解した放射標識プローブと25℃で20分間インキュベートした。試料を5%ポリアクリルアミド非変性ゲル(溶媒は0.5X TBE)中に溶解後に、オートラジオグラフィーを行った。
【0076】
GST-プルダウンアッセイ法、免疫沈降法、およびイムノブロット解析
細胞を、文献に記載された手順でG1/S期または有糸分裂期で停止させた。全細胞(293TまたはHeLa)を、GST-プルダウン緩衝液(50 mM Hepes pH 7.4、150 mM NaCl、10%グリセロール、1% Triton-X100、1.5 mM MgCl2、1 mM EGTA、100 mM NaF、1 mM Na3VO4、1 mM DTT、および0.5 μg/mlロイペプチン、1.0 μg/mlペプスタチン、0.2 mM PMSF)に溶解し、GST-Pin1またはGSTを含む20 μlのアガロースビーズとともに4℃で2時間、文献(Ryo et al., 2001)に記載された手順でインキュベートした。沈殿したタンパク質を洗浄用緩衝液で3回洗浄してSDS-PAGEを行った。免疫沈降法では、トランスフェクションの24時間後に細胞を回収し、NP-40溶解緩衝液(10 mM Tris HCl pH 7.5、100 mM NaCl、0.5% NP-40、1 mM Na3VO4、0.5 μg/mlロイペプチン、1.0 μg/mlペプスタチン、0.2 mM PMSF)に溶解した。細胞溶解物を、プロテインA/Gセファロース/マウスIgG複合体とともに1時間インキュベートした。
【0077】
上清画分を回収し、2 μgの抗IκBα(Santa Cruz, sc-371)抗体、または抗p65(Santa Cruz, sc-109)抗体、および30 μlのプロテインA/Gセファロースによって免疫沈殿を得た。溶解緩衝液で3回洗浄した後に、ペレットをSDS-PAGEゲルおよびイムノブロット解析で解析した。
【0078】
ユビキチン化アッセイ法
放射標識されたp65タンパク質を、TNT転写/翻訳共役キット(Promega)を用いて、8 μCiの[35S]-Metの存在下でインビトロ翻訳した。組換え型のp65切断型変異体をpGEX-KGベクターにサブクローン化し、文献(Shen et al., 1998)に記載された手順でグルタチオンビーズカラムで精製した。インビトロにおけるユビキチン化に関しては、5 mgのGST-p65タンパク質を、20 μlのインビトロユビキチン化反応混合物(1XERS、30 mg/mlウサギE1、160 mg/ml UbcH5a、0.2 mg/mlユビキチン、5 mMユビキチンアルデヒド、3.3 mg/ml HeLa S-100抽出物、0.2 mM Lactacystin)に添加後に、37℃で3時間インキュベートした。ポリユビキチン化されたGST-p65をグルタチオンビーズで精製し、抗ユビキチン抗体を用いてイムノブロット解析を行った。TNT-p65タンパク質のユビキチン化に関しては、TNT p65タンパク質を、HeLa細胞のS-100抽出物を含まないインビトロユビキチン化反応混合物と37℃で2時間インキュベートした後に、SDS-PAGE解析およびオートラジオグラフィーを行った。293T細胞溶解物を用いたインビトロにおけるユビキチン化に関しては、293T細胞にSOCS-1、SOCS-1DS、または対照ベクターのいずれかをトランスフェクトした。
【0079】
36時間後に細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、250 μlの溶解緩衝液(20 mM HEPES [pH 7.2]、10 mM KCl、1.5 mM MgCl2、1 mM DTT、25 μM MG-132、ならびにプロテアーゼおよびホスファターゼの阻害剤)に溶解することで細胞溶解物を調製した。溶解物の超音波処理を2サイクル(各30秒間)行い、30分間遠心した。ユビキチン化反応に関しては、GST-p65を50 μgの細胞溶解物を含む50 μlの反応緩衝液(1XERS、10 mg/mlウサギE1、80 mg/ml UbcH5a、0.1 mg/mlユビキチン、2.5 mMユビキチンアルデヒド、0.1 mM Lactacystin、25 μM MG-132)に再懸濁した後に、懸濁物を37℃で2時間インキュベートし、続いてグルタチオンビーズで精製し、抗ユビキチン抗体を用いてイムノブロットを行った。
【0080】
タンパク質分解アッセイ法
293T細胞にXpress標識p65をトランスフェクトした。Xpress-LacZをコードするプラスミドをトランスフェクション対照として用いた。トランスフェクションの24時間後にシクロヘキシミド(100 μg/ml)を培地に添加し、タンパク質合成の継続を止めた。各時点で細胞を回収し、全溶解物を抗Xpress抗体(Invitrogen)を用いたイムノブロットで解析した。ブロットをスキャンし、ソフトウェアNIH image 1.6.2(Ryo et al., 2001)で半定量した。0時間の時点のタンパク質レベルを100%として、3回の独立した実験の結果をプロットした。
【0081】
実施例1:ヒト乳癌組織においてPin1レベルはNF-Bの活性化と相関する
Pin1とNF-κBはいずれも、多くのヒトの癌で高度に活性化されることが報告されている(Baldwin, 2001; Karin et al., 2002; Ryo et al., 2002; Ryo et al., 2001; Wulf et al., 2001)。NF-κBの活性化が一連のリン酸化による調節を受けることを考え、この調節にPin1が関与するか否かを調べた。この疑問を明らかにするために、50試料のヒト一次乳癌試料、および5試料の正常乳房組織を対象に、Pin1レベルとNF-κBの活性化との間の相関を免疫組織化学的手法で調べた。高レベルのPin1を含む25試料の癌試料のうち20試料には、p65タンパク質の顕著な核内蓄積が認められた。この結果はNF-κBが活性であることを意味する(図1A、B)。対照的に、低レベルのPin1を含む25試料の癌試料のうち23試料には、細胞質におけるp65の局在が認められた。これはNF-κBが不活性なことを意味する(図1A、B)。5つの個々の正常乳腺試料には低レベルのPin1が含まれており、細胞質におけるp65の局在が認められた(図1A、B)。以上の結果は、Pin1のレベルとNF-κBの活性化との間に相関がある可能性があることを示唆していた。この可能性をさらに調べるために、NF-κBの構成的活性化を示すことがわかっている2つの乳癌細胞系列であるBT20(ER陰性)とMCF-7(ER陽性)を対象に、Pin1の阻害がNF-κBの活性に及ぼす作用を決定した(図1C、D)(Nakshatri and Goulet, 2002)。いずれの細胞系列においても、siRNAまたはアンチセンスPin1コンストラクト(Pin1AS)によるPin1の阻害はNF-κB-Lucの転写活性を有意に抑制したが、対照のTK-Lucプロモーターレポーターコンストラクトでは抑制は認められなかった(図1C)。またゲルシフトアッセイ法では、RNAi処理でもNF-κBのDNA結合活性が抑制されるが、対照OCT-1は抑制されないことが確認された(図1D)。以上の結果から、Pin1のレベルが、ヒトの乳癌組織におけるNF-κBの活性に相関すること、またPin1の阻害が、細胞におけるNF-κBの活性化を抑制することがわかる。
【0082】
実施例2:Pin1はNF-Bのシグナル伝達を活性化する
上記の結果は、Pin1がNF-κBのシグナル伝達を活性化することを示唆している。この可能性をさらに探るために、以下の3つの異なるアッセイ法を行った。最初に、遺伝子レポーターアッセイ法で、Pin1がNF-κBの転写活性に及ぼす作用を調べた。Pin1の過剰発現によって、用量依存的にNF-κBの転写活性は活性化されたが、Pin1 ASを用いて内因性Pin1を除去すると、同活性は抑制された(図2Aおよび2B)。またPin1はTNF-αと協同的に作用してNF-κB活性を高めた(図2A)。以上の結果から、Pin1が、上流のシグナル伝達と協同的に作用することでNF-κBの転写活性を高めることがわかる。次にEMSAアッセイ法を行い、Pin1の過剰発現が、細胞内におけるNF-κBのDNA結合活性を高めるか否かを調べた。NF-κBのDNA結合活性は、Pin1をトランスフェクトした細胞では有意に上昇したが、ベクター対照導入細胞では上昇しなかった(図2C)。また、これらのDNA-タンパク質複合体は、抗p65抗体または抗p50抗体によってスーパーシフトされ(図2C)、NF-κB複合体がp65とp50から構成されることが確認された。また発明者らは、免疫蛍光実験を行い、Pin1がNF-κBの細胞内局在に及ぼす作用を調べた。DsRed-p65をGFP対照とともにトランスフェクトしたところ、主に細胞質内における局在が見られた。しかしながら、GFP-Pin1を同時にトランスフェクトすると、p65の核への移行が促進された。これとは対照的に、そのPin1のWWドメインでもPPIase変異体でも、このような作用は見られなかったことから、過去に検討されたすべてのPin1基質について報告されているように(Lu et al., 2002)、pSer/Thr-Pro結合活性と、これを異性化する活性の両方が、Pin1がp65の細胞内局在を調節するために必要なことがわかる。
【0083】
総合すると、前述の3つのアッセイ法で得られた結果から、Pin1が、NF-κBの核への移行およびDNA結合活性を高めることによってNF-κBの転写活性を高めることがわかる。
【0084】
実施例3:Pin1はIKK活性およびIκBのリン酸化状態を変化させない
Pin1がNF-κBの転写活性を高めることを考えれば、鍵となる疑問は、どの経路でPin1がNF-κBシグナル伝達における作用を発揮するかを決定することであった。NF-κBは、IKKが介在するリン酸化と、これに続くNF-κB阻害因子IκBαの分解によって活性化されることが知られている。この結果、NF-κBが核内に移行して標的遺伝子を活性化することが可能となる(Baeuerle and Baltimore, 1996; Ghosh et al., 1998)。Pin1がNF-κBの上流調節因子に影響を及ぼすか否かを調べるために、発明者らは、リン酸特異的なIκBα抗体(Ser32)を用いてIKKキナーゼアッセイ法およびイムノブロット解析を行い、Pin1がIKK活性およびIκBαのリン酸化に及ぼす作用をそれぞれ決定した。Pin1の過剰発現は、IKKキナーゼ活性またはIκBαのリン酸化に関して検出可能な上昇につながらなかったが、いずれもTNFαによっては高められた(図10A、B)。この結果は、NF-κBの活性化にPin1が及ぼす作用が、IKKによるIκBαのリン酸化に依存しない可能性があることを示唆している。この結果を、さらに確認するために、IKK活性が完全に破壊されたIKK1-/-のMEF、IKK2-/-のMEF、またはNEMO-/-のMEFにおいて、Pin1がNF-κBを活性化する能力を調べた(Li et al., 2000; Rudolph et al., 2000)。
【0085】
興味深いことにPin1は、IKK1-/-IKK2-/-細胞ならびにNEMO-/-細胞でもNF-κB活性を変わらず高めた(図10C)。特に、NF-κBは、NEMO-/-細胞にPin1とp65を同時にトランスフェクトした場合に高度に活性化されたが、p50をトランスフェクトしても活性化されなかった(図10D)ことから、p65が主なPin1標的であることが示唆される。この結果は全体として、IKKによるIκBのリン酸化の下流でPin1がNF-κBの活性化に影響を及ぼすことを支持する。
【0086】
実施例4:Pin1はpThr254-Proモチーフを介してp65と結合してIκBとの相互作用を阻害する
Pin1は、ある種のリンタンパク質中の特定のpSer/Thr-Proモチーフに結合して、これを異性化する。Pin1によるNF-κB活性化の分子機構を明らかにするために、NF-κBまたはIκBαのどの成分がPin1の基質であるかについて検討を行った。この目的で十分確立された手順はGST-Pin1プルダウンアッセイ法である(Lu et al., 1999; Shen et al., 1998; Yaffe et al., 1997)。Pin1はp50またはIκBαと結合しなかったが、間期および有糸分裂期のHeLa抽出物に由来するp65とは特異的に結合した(図3A)。また共免疫沈降法でも、内因性のPin1とp65がインビボで安定な複合体を形成することが確認された(図3B)。また同結合は、溶解物をホスファターゼCIPで前処理することで、ほぼ完全に見られなくなった(図3C)ことから、既知の全てのPin1基質の場合と同様に、結合がp65のリン酸化に依存することがわかる(Lu et al., 2002)。注目すべきことに、この結合はTNF-α処理によって3倍高められた(図3D)ことから、同結合がNF-κB活性化の上流のシグナル伝達によって高められることが示唆される。以上の結果から、インビトロおよびインビボにおいてPin1がp65と特異的に相互作用することがわかる。
【0087】
1つのThr254-Proモチーフと1つのSer316-Proモチーフのみを含むためにPin1結合部位であると推定される部位を含む、p65のPin1結合部位(群)をマップした(図3E)。p65の3つの切断型変異体を作製し、GST-プルダウンアッセイ法を行った。予想されたようにPin1は、2か所の推定Pin1結合部位を含む切断型変異体Bのみと特異的に結合した(図3E)。どのSer/Thr-ProモチーフがPin1結合に必要なのかを見極めるために、完全長のp65タンパク質に1か所のAlaのThr254またはSer316への置換を導入した。Pin1はp65-S316A変異体と結合したがp65-T254A変異体とは全く結合できなかった(図3F)。p65-T254AとPin1が結合しないことが、その不安定性に起因するという可能性を除くために、トランスフェクトした細胞をプロテアソーム阻害剤MG-132で処理して共免疫沈降法を行った。用いた条件では、p65-T254Aは安定であり、同等量のp65タンパク質が免疫沈殿したが、Pin1がp65-T254A変異体と結合しないことに変わりはなかった(図3G)。以上の結果から、p65のThr254がPin1との結合に必要なことがわかる。この結果をさらに確認するために、リン酸化されたThr-Proモチーフのみを認識するリン酸特異的抗体を使用した。図3Hに示すように、pThr-Pro特異的抗体は、野生型p65のみを認識し、T254A変異体を認識しなかった。p65はThr-Proモチーフを1つだけ含むので、この結果から、p65のThr254-Proがインビボでリン酸化されることがさらに支持される。以上の結果は、インビボにおける32P標識およびホスホアミノ酸解析からわかるように、p65がSer残基のほかにThr残基でリン酸化されるという過去に得られた知見と矛盾しない(Bird et al., 1997)。またp65のThrにおけるリン酸化は、サイトカイン処理によって高められる。この事実は、Pin1とp65の結合がTNF-α処理によって高められることと矛盾しない(図3D)。またThr254の周囲には、上流に複数の疎水性残基(Ile、Val、およびPhe)を含み、またすぐ下流にPro残基を含むPin1コンセンサス結合配列が存在する(Lu et al., 1999; Yaffe et al., 1997)。以上の結果を総合すると、p65のPin1結合部位がThr254-Proモチーフであることがわかる。
【0088】
p65/p50とIκBαの複合体の結晶構造から、p65のThr254-Proモチーフは、p65とIκBαとの相互作用の結合面となる「ホットスポット」の近傍に位置する(図11)ので、Pin1とThr254-Proモチーフの結合、および同モチーフの異性化はp65とIκBαの相互作用に干渉するが、p50との相互作用には干渉しない可能性があることが示唆される。この可能性を調べるために、Pin1または対照となるベクターのいずれかを細胞にトランスフェクトした後に、p65またはIκBαに対する抗体を用いた免疫沈降法を行った。Pin1を過剰発現する細胞では、有意に少ないp65が抗IκBα免疫沈殿中に検出された(図3I)。同様に、少量のIκBαが抗p65抗体によって免疫沈殿を生じた(図3I)。また、この差は極めて特異的であった。なぜならPin1の過剰発現は、p65とp50の結合に対して検出可能な作用を示さなかったからである(図3I)。インビボにおける結合の結果をさらに確認するために、Pin1がインビトロにおけるp65とIκBαとの結合に及ぼす作用を調べた。細胞内のp65を免疫沈殿させ、Pin1の濃度を上昇させながら35S標識IκBαとインキュベートした。Pin1はp65とIκBαの結合を用量依存的に阻害した(図3J)。以上の結果からPin1が、Thr254-Proモチーフがリン酸化されたp65と結合すること、またPin1がIκBαとの相互作用をインビトロおよびインビボで阻害することがわかる。
【0089】
実施例5:Pin1の基質として作用するp65-T254A変異体は極めて不安定であり、NF-Bの標的遺伝子をトランス活性化できない
Pin1とp65の相互作用の生物学的重要性をさらに調べるために、発明者らはまず、Pin1と結合できないp65-T254A変異体のインビボにおける機能を検討した(図3E)。対照として発明者らは、野生型p65と同様にPin1と結合可能な別の変異体p65-S316Aを使用した(図3E)。Pin1と同時にトランスフェクトすると、野生型p65とp65-S316Aはいずれも核内に局在したが、p65-T254A変異体は核内で安定化しなかった(図4A)。特に、この変異体タンパク質の発現レベルは極めて低いことがわかったが、mRNAの発現は野生型p65およびS316A変異体と同等であったことから、T254A変異体タンパク質のタンパク質代謝が速いことが示唆された。この結果と一致して、p65-T254A変異体はNF-κBの下流遺伝子をトランス活性化できなかった(図4A)。以上の結果は、Thr254がp65の核局在およびタンパク質安定性に必要な可能性があることを示唆している。この可能性を直接評価するために、293T細胞にXpress-p65、またはこの部位特異的変異体のいずれかを同時にトランスフェクトした(内部対照にはXpress-LacZを使用)。トランスフェクションの24時間後に、細胞をシクロヘキシミドで処理してタンパク質合成をブロックし、続いてp65のタンパク質安定性を文献(Wulf et al., 2002)に記載された手順でイムノブロット解析で測定した。p65-S316A変異体の半減期は、野生型タンパク質の半減期と同等であったが、p65-T254A変異体の半減期は、かなり短いものであった(図4B、C)。以上の結果から、p65のリン酸化と、リン酸化に続くThr254-ProモチーフにおけるPin1との相互作用が、p65のタンパク質安定性および核局在に必要なことがわかる。
【0090】
実施例6:Pin1欠損細胞は、p65の速やかな核外輸送および分解のために、サイトカインシグナルによるNF-κB活性化に抵抗性を示す
上記の結果から、Pin1の過剰発現がp65とIκBαの結合を阻害し、その核局在、タンパク質安定性、およびトランス活性化を促すこと、またPin1基質として作用できないp65変異体が極めて不安定であり、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できないことがわかる。重要な疑問は、内因性のPin1が、p65の核内局在およびタンパク質安定性、ならびにNF-κBシグナル伝達に必要か否かということである。こうした疑問を明らかにするために、Pin1ノックアウト(Pin1-/-)マウスおよび野生型マウスに由来する初代マウス胚性繊維芽細胞(MEF)を使用した。野生型MEFとは対照的に、Pin1-/-細胞は、中等度の濃度のIL-1αで処理時にNF-κBの活性化に抵抗性を示したが、高用量では抵抗性を示さなかった(図5A)。また、これらの細胞は、TNF-αまたはLPS刺激によるNF-κB活性化にも耐性を示した(野生型細胞の場合は認められなかった)(図5B)。以上の結果から、Pin1がインビトロにおけるNF-κBの活性化に必要なことがわかる。
【0091】
サイトカインシグナル伝達にPin1-/- MEFが示す耐性の基礎となる分子機構を調べるために、細胞を中等度の濃度のIL-1βで処理し、さまざまな時点におけるIκBαおよび核内p65のレベルを調べた。文献(Bannerman et al., 2002)に報告されているように、IL-1β処理の直後にIκBαは速やかに分解され、核内p65レベルは、野生型細胞では最長60分後の時点まで高まった(図5C)。続いて、60分後にIκBαの発現の促進が認められた(図5C)。これはNF-κBによるIκBα遺伝子のトランス活性化に起因することが過去に報告されている(Beg et al., 1993; Brown et al., 1993; Chiao et al., 1994; Sun et al., 1993)。しかしPin1-/-細胞では、IκBαは、野生型細胞の場合と同様にIL-1β処理の直後に分解されたが、κBαレベルは120分後の時点でも高まらなかった(図5C)。これらの細胞において、IκBαの分解後にp65の核内蓄積がほとんど認められなかったことは重要である(図5C)。以上の結果をさらに確認するために、IL-1β処理後にp65を免疫染色した。イムノブロットのデータと矛盾することなく、p65は野生型MEFの核内に容易に検出された(図5D)。しかし、Pin1-/- MEFでは、p65レベルは、かなり低いだけでなく、タンパク質は、ほぼ完全に核から除かれていた(図5D)。
【0092】
p65のタンパク質安定性の維持におけるPin1の重要性をさらに見極めるために、Xpress標識p65とXpress-LacZでPin1-/- MEFまたは野生型MEFをトランスフェクトし、タンパク質安定性を上述の手順で追跡した。p65のタンパク質安定性は、野生型細胞と比較してPin1-/- MEFでは劇的に低下した(図5E)。Pin1結合部位変異体p65-T254AもPin1陽性の293T細胞で極めて不安定である(図4C、D)という上記の結果を総合すると、これらの結果から、Pin1とp65との機能上の相互作用がp65の核内局在および安定に必要なことがわかる。
【0093】
またPin1がインビボにおけるNF-κBの活性化に必要か否かを調べるために、Pin1のノックアウトがマウスのNF-κB関連表現型に及ぼす作用を決定した。p65の欠失はマウスで致死的に作用するが(Beg et al., 1995)、NF-κBの一部の上流調節因子(IKKαなど)の破壊も、妊娠中の乳腺細胞の増殖に影響する(Brantley et al., 2001; Cao et al., 2001)。同様の乳腺の表現型がPin1-/-マウスで観察されているので(Liou et al., 2002)、輸送の1日後の時点で、野生型マウスおよびPin1-/-マウスの乳腺におけるp65のタンパク質レベルおよび細胞内局在の比較を行った。文献(Brantley et al., 2001; Cao et al., 2001)に記載されているように、NF-κBが活性化されることは、そのタンパク質レベルおよび核移行の増加から明らかである(図5F)。しかしPin1-/-マウスではNF-κBのレベルは極めて低く、また核から実質的に除かれていた(図5F)ことから、NF-κBが不活性であることがわかり、またPin1の機能の欠損がインビボにおいてNF-κBの活性化に影響を及ぼす可能性があることが示唆される。
【0094】
この仮説をさらに確認するために、Pin1のノックアウトがマウスにおけるTNF-α誘導型のアポトーシスに及ぼす作用を調べた。p65のノックアウトが、胚の肝臓で大規模なアポトーシスを引き起こすこと(Beg et al., 1995)、またNF-κBの阻害によって、インビトロおよびインビボにおいて、成体マウスの肝細胞を含む細胞が、TNF-αによって誘導されるアポトーシスに感受性を示すことが報告されている(Chaisson et al., 2002; Van Antwerp et al., 1996)。仮にPin1がインビボでNF-κBの活性化に重要な役割を果たすのであれば、Pin1ノックアウトマウスは、TNF-αによって誘導される肝臓におけるアポトーシスに対する感受性がより大きいと考えられる。この可能性を検討するために、野生型マウスおよびPin1-/-マウスをTNF-αで処理し、その3時間後にNF-κBの活性化および肝臓におけるアポトーシスを、文献(Chaisson et al., 2002)に記載された手順で調べた。免疫組織化学的実験の結果から明らかなように、TNF-α処理後にNF-κBが誘導されて野生型の肝臓の核内に蓄積したが、Pin1-/-の肝臓に蓄積は認められなかった(図5G)。またアポトーシスは、アポトーシス細胞内における断片化DNAを検出するTUNELアッセイ法の結果から明らかなように、野生型対照と比較してPin1-/-個体の肝臓で劇的に増加した(図5G)。Pin1-/-個体の肝臓におけるアポトーシスの増加は、切断型および活性型のカスパーゼ-3を対象としたイムノブロット(図5H)と、蛍光カスパーゼ-3活性アッセイ法の両方によって決定されたカスパーゼ-3活性の上昇によっても確認された(図5I)。以上の結果から、マウスでPin1の機能が喪失すると、NF-κBの活性化が減じ、TNF-αに反応した、肝臓におけるアポトーシスが増加することがわかる。興味深いことに、類似のアポトーシス表現型が、NF-κBが阻害された変異型IκBαトランスジェニックマウスの肝臓で観察されている(Chaisson et al., 2002)。総合すると、上記の結果から、Pin1がインビトロでもインビボでも、サイトカインシグナルに応じたNF-κBの活性化に必要なことがわかる。
【0095】
実施例7:p65のタンパク質安定性はユビキチンを介したタンパク質分解経路の調節を受ける
Pin1がNF-κBシグナル伝達に果たす役割を調べた結果、p65のタンパク質安定性がNF-κBの機能の調節に重要な役割を果たすことが判明した。p65が不安定なことはこれまで不明であったので、p65の安定性が、特異的なタンパク質分解経路(群)による調節を受けることを示すことは重要である。ユビキチンを介したタンパク質分解経路が、細胞内における多くのシグナル伝達分子を制御する主な調節機構であることをふまえ、このような経路がp65の分解に関与するか否かを調べた。この疑問に答えるための1つの十分確立した手順は、プロテアソーム阻害剤MG-132の非存在下および存在下におけるタンパク質安定性を比較することである(Ku and Omary, 2000)。MG-132は、p65-T254Aタンパク質の半減期を顕著に延長することから(図6A、B)、ユビキチンを介したタンパク質分解経路がp65の安定性の調節に関与する可能性があることが示唆される。p65がインビトロで実際にユビキチン化されるか否かを調べるために、35S標識p65タンパク質を合成してユビキチンとともに、ユビキチン活性化酵素(E1)およびユビキチン結合酵素(E2)UbcH5aの非存在下または存在下でインキュベートした。35S標識p65は、E1およびUbcH5aの存在下で時間に依存して明瞭にポリユビキチン化された(図6C)。
【0096】
p65分子のどの領域がユビキチン化されるのかについて調べるために、GST-p65のさまざまな断片(図3D)をS100 HeLa細胞抽出物、ユビキチン、E1、およびUbcH5aまたはUbcH6とインキュベートし、続いてGST-p65断片をGSTビーズを用いて精製し、さらに抗ユビキチン抗体を用いてイムノブロットを行った。断片Aも断片Cもユビキチン化されなかったが、Pin1と結合するThr254-Proモチーフ(図3E)を含む断片Bは、UbcH5aによってポリユビキチン化されたがUbcH6によってはポリユビキチン化されなかった(図6D)。他のE2酵素が、インビトロにおけるp65のユビキチン化を触媒可能か否かを調べるために、発明者らは、組換え型GST-p65の断片Bを、さまざまなE2酵素を用いたインビトロユビキチン化アッセイ法でインキュベートした。検討した8種類のE2酵素のうちUbcH5aのみが、多数のユビキチン分子をp65と強く結合させた(図6E)。またインビボにおけるp65のポリユビキチン化を調べるために、発明者らはp65とHis標識ユビキチンを同時にHeLa細胞トランスフェクトし、MG-132処理を行ってプロテアソーム機能を阻害した。細胞溶解物を回収し、Ni-アガロースビーズを用いてプルダウン解析を行い、尿素を含む緩衝液を用いて、p65関連タンパク質を除去することでHis標識ユビキチン結合タンパク質を単離し、続いて抗p65抗体を用いて、文献(Ku and Omary, 2000)に記載された手順でイムノブロット解析を行った。MG-132およびHis-ユビキチンの存在下でp65は実質的にポリユビキチン化された(図6F)。しかし、Hisユビキチンおよび/またはMG-132の非存在下ではユビキチン化されたp65は検出されず(図6F)、インビボにおけるユビキチン化アッセイ法に特異性があることが判明した。以上の結果から、p65のタンパク質安定性が、ユビキチンを介したタンパク質分解の制御を受けることがわかる。
【0097】
実施例8:サイトカインシグナル阻害因子SOCS-1はp65と結合し、そのユビキチンを介したタンパク質分解を調節する
p65タンパク質の代謝がユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受けることがわかったので、関与する特異的なユビキチンリガーゼを次に同定することとした。この目的で発明者らは、Xpress-His二重標識p65の断片Bを発現するMEFを対象にNi-アガロースアフィニティクロマトグラフィーを行い、続いて抗Xpress抗体を用いた免疫沈降法を行った。
【0098】
免疫沈殿をPAGEゲルで分離し、個々のタンパク質のバンドを回収した。p65によって選択的にプルダウンされた、分子量が約23 kDaのタンパク質を、サイトカインシグナル伝達抑制因子1(Suppressor of Cytokine Signaling 1; SOCS-1)(図7A)(Endo et al., 1997; Naka et al., 1997; Ohya et al., 1997)と判定した。p65とSOCS-1が相互作用することを確認するために、一連のインビトロ結合アッセイ法およびインビボ結合アッセイ法を行った。最初に、さまざまなp65断片を用いたGST-プルダウンアッセイ法を行ったところ、SOCS-1は完全長のp65ならびにp65の切断断片Bとは結合するが、断片Aまたは断片Cとは結合しないことが判明した(図7B)。興味深いことに、この断片はポリユビキチン化されて、p65のPin1結合部位を含む断片と同じ断片である。次に、外因的に発現されたXpress-p65とMyc-SOCS-1の結合が、抗Xpress抗体または抗Myc抗体のいずれかを用いた共免疫沈降法で検出された(図7C)。そして最後に、p65とSOCS-1の内因性の結合も、抗p65抗体を用いた共免疫沈降法によって、初代マウス脾細胞で確認された(図7D)。以上の結果から、SOCS-1がp65とインビトロでもインビボでも結合すること、またp65の結合部位が、ユビキチン化とPin1結合の両部位の近傍に位置することがわかる。サイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)ファミリーのタンパク質の1種であるSOCS-1は、Jak2およびVavに対するユビキチンリガーゼであることが報告されており(Frantsve et al., 2001; Kamizono et al., 2001)、また上記の結果から、SOCS-1がp65に対する推定ユビキチンリガーゼであることが示唆される。
【0099】
この考えと一致して、p65とSOCS-1のインビボにおける結合は、LPS処理の4時間後の時点で有意に促進されており(図7D)、LPS刺激によりNF-κBの発現が抑制されることとの相関が認められた(データは提示していない)。またSOCS-1の過剰発現は、IL-1βによるNF-κBの活性化を有意に阻害した(図8A)。またSOCS-1の過剰発現は、p65の外因的発現によって誘導されるNF-κBの活性化も有意に抑制した(図8B)。以上の結果から、SOCS-1の過剰発現がNF-κB活性を、おそらくはp65の発現を抑制することで抑制することがわかる。SOCS-1がp65に対するユビキチンリガーゼとして機能するか否かを判定するために、SOCS-1がp65のタンパク質安定性に及ぼす作用を調べた。SOCS-1のトランスフェクションによって、内因性p65のタンパク質レベルは有意に減少したが、p50のレベルに変化は認められなかった(図8C)。これとは対照的に、ユビキチン化の優性抑制型変異体として機能することがわかっている(Frantsve et al., 2001; Kamizono et al., 2001; Ungureanu et al., 2002)、SOCSドメインを欠くSOCS-1変異体(SOCS-1ΔS)は、p65のタンパク質レベルをわずかに上昇させたが、p50のタンパク質レベルに影響は認められなかった(図8C)。
【0100】
SOCS-1と同変異体が、p65のタンパク質安定性に及ぼす作用を確認するために、対照ベクター、SOCS-1、SOCS-1ΔS、またはSOCS-1+Pin1のいずれかを293細胞に同時にトランスフェクトした後に、シクロヘキシミド処理後におけるp65のタンパク質安定性を追跡した。SOCS-1は、対照細胞と比較してp65の半減期を有意に短縮したが、SOCS-1ΔSは、p65のタンパク質安定性をわずかに延長した(図8D)。またPin1を同時発現させることで、SOCS-1によって誘導されるp65の分解は完全にブロックされた(図8D)。この結果は、Pin1がp65の安定性を高めるという前述の結果と矛盾しない。総合すると、以上の結果から、SOCS-1がp65のタンパク質分解に重要な役割を果たし、また、この過程がPin1によってブロック可能なことがわかる。
【0101】
SOCS-1およびPin1がp65の安定性に明らかに作用することをふまえ、p65のユビキチン化の影響について調べた。インビトロにおける、SOCS-1が介在するp65のユビキチン化を検出するために、293T細胞にSOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターのいずれかをトランスフェクトした後に、可溶性の細胞溶解物をGST-p65タンパク質に添加し、続いてGST-プルダウンを行って、GST-p65のユビキチン化を抗ユビキチン抗体を用いて調べた。p65は293T細胞抽出物によってポリユビキチン化された。これはSOCS-1の過剰発現によって有意に促進されたが、SOCS-1ΔS変異体の場合は低下した(図8E)。インビボにおける、SOCS-1およびPin1がp65のユビキチン化に及ぼす作用を検出するために、細胞にXpress-p65、His標識ユビキチン、およびSOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターを、Pin1の存在下または非存在下で同時にトランスフェクトし、続いてMG-132でプロテアソームを阻害した。細胞溶解物を対象に、Ni-アガロースを用いたプルダウン、および抗Xpress抗体または抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。インビトロにおけるユビキチン化と同様に、p65はインビボでユビキチン化された。これはSOCS-1の過剰発現によって有意に促進されたが、SOCS-1ΔS変異体によっては減少した(図8F)。またPin1を同時に発現させると、p65のタンパク質安定性に対する作用(図8D)と同様に、SOCS-1によって誘導されるp65のユビキチン化が有意にブロックされた(図8G)。
【0102】
また、内因性のSOCS-1がp65の安定性の調節に重要な役割を果たすか否かを明らかにするために、SOCS-1-/- MEFおよび野生型MEFにおけるp65のユビキチン化およびタンパク質安定性の比較を行った。p65は、293細胞より野生型MEFではそれほど安定ではなかったが、野生型対照(図8H、I)と比較して、p65は弱くユビキチン化されただけでなく、SOCS-1-/- MEFではより安定であったことから、内因性のSOCS-1がp65のユビキチン化および分解に特異的に必要なことがわかる。総合すると、以上の結果から、SOCS-1がp65に結合するだけでなく、p65のユビキチン化および分解を調節し、また同過程がPin1の調節を受けることもわかる。
【0103】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】Pin1のレベルはヒト乳癌組織でNF-κBの活性化と相関する。(A、B)ヒトの乳癌および正常組織においてPin1とp65の局在が相関すること。組織切片を抗Pin1抗体または抗p65抗体で免疫染色し、DAB染色により可視化した(A)。Pin1の発現およびp65の局在のレベルを、50の乳癌試料と5つの正常乳房試料を対象に決定し、その相関をSperman順位相関検定で解析した(P < 0.01)(B)。(C)乳癌細胞系列において、Pin1の発現抑制によってNF-κBの活性化およびNF-κBのDNA結合活性が阻害されること。2つの乳癌細胞系列に、Pin1に特異的なsiRNAまたは非特異的なsiRNAをNF-κB-LucまたはTK-Lucのレポーターコンストラクトとともに48時間かけてトランスフェクトした後に、ルシフェラーゼ活性およびPin1タンパク質レベル(挿入写真)の評価(C)、またはNF-κBまたはOCT1のコンセンサスオリゴヌクレオチドを使用したEMSAによるNF-κBのDNA結合活性の評価(D)を行った。
【図2】Pin1はNF-κBシグナル伝達を活性化する。(A、B)Pin1によるNF-κBの活性化の調節。HeLa細胞にベクター、HA-Pin1、またはPin1 ASをNF-κBレポーターコンストラクトとともに24時間かけてトランスフェクトし、試料の一部を対象に、1 ng/mlのTNF-α処理を3時間かけて行った。細胞を回収し、ルシフェラーゼアッセイ法、および抗Pin1抗体を用いたイムノブロットを行った。(C)Pin1によりNF-κBのDNA結合活性が高まること。293T細胞にベクター対照かPin1のいずれかを24時間かけてトランスフェクトし、核抽出物を単離した。5 μgの核抽出物を、32Pで標識されたNF-κB結合オリゴ、またはこの変異体とインキュベートした後にゲル電気泳動を行った。スーパーシフト実験では、抗p50抗体または抗p65抗体を添加してから20分後に、標識オリゴDNAを添加した。
【図3】Pin1はp65のpThr254-Proモチーフに結合してp65とIκBの結合を阻害する。(A)インビトロでPin1はp65と相互作用するが、p50またはIκBαとは相互作用しない。GSTまたはGST-Pin1を含むグルタチオンビーズを間期(I)または有糸分裂期(M)のHeLa細胞抽出物とインキュベートし、結合タンパク質を対象に、記載されたさまざまな抗体を用いたイムノブロットを行った。(B)インビボで内在性のPin1とp65が相互作用すること。293T細胞溶解物を抗p65抗体で免疫沈殿させた後に、抗Pin1抗体または抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。(C)Pin1とp65がリン酸化に依存して相互作用すること。p65を発現する293T細胞を、子ウシ腸アルカリホスファターゼ(CIP)とともに、または同酵素を用いずにインキュベートした後にGST-プルダウン実験を行い、続いて抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。(D)Pin1とp65の結合がTNF-αによって促進されること。Xpress標識p65を発現する293T細胞をPBSまたはTNF-αで3時間処理した後に、GST-プルダウン実験、および抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(E、F)Pin1がp65のpThr254-Proモチーフと特異的に結合すること。p65およびこの切断型変異体(E)または点突然変異体(F)を発現する293T細胞を対象にGST-プルダウンアッセイ法を行った。(G)Pin1がp65-T254Aと結合できないこと。293T細胞にPin1とXpressで標識されたp65、またはこのT254A変異体を同時にトランスフェクトした。細胞を20 μMのMG-132と12時間インキュベートした後に、抗Xpress抗体を用いた免疫沈降解析を行い、続いて抗p65抗体または抗Pin1抗体を用いたイムノブロットを行った。(H)pThr-Pro特異的抗体はp65を認識するが、その変異体p65-T254Aを認識しないこと。Xpressで標識されたp65、またはこのT254A変異体との24時間のトランスフェクション後に、293細胞をMG-132で12時間、またTNF-αで3時間処理し、抗Xpress抗体による免疫沈降法を行い、続いて抗pThr-Pro特異的抗体または抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。(I、J)p65-IκBαの結合がPin1によって阻害されること。(I)HA標識Pin1または対照ベクターを24時間発現するHeLa細胞を対象に、抗p65抗体または抗IκBα抗体を用いた免疫沈降(IP)法を行い、続いて、さまざまな抗体を用いたイムノブロットを行った。(J)Xpress-p65を発現する293T細胞を対象に、抗Xpress抗体を用いた免疫沈降法を行った後に、35S標識IκBα、およびさまざまな量のPin1(0 mg/ml、0.2 mg/ml、および2.0 mg/ml)と30分間インキュベートした。洗浄後、試料を対象にSDS-PAGEを行い、オートラジオグラフィーを行った。
【図4】Pin1結合部位変異体p65-T254Aは極めて不安定で、NF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できない。(A)p65-T254AがNF-κBの標的遺伝子をトランス活性化できないこと。MEFにIg-κBルシフェラーゼコンストラクト、およびp65、またはこの変異体を同時にトランスフェクトした後に遺伝子レポーターアッセイ法を行った。(B、C)p65と、その変異体のタンパク質安定性の比較。Xpressで標識されたp65、またはこの変異体を、Xpress-LacZとともに24時間かけて293T細胞にトランスフェクトした。細胞をシクロヘキシミドで処理し、所定の時点で回収した後に、抗Xpress抗体を用いたイムノブロット(B)、およびImagequantによる半定量(C)を行った。
【図5】Pin1-/-細胞はインビトロおよびインビボにおいて、サイトカインによるNF-κBの活性化に耐性を示す。(A、B)Pin1-/- MEFがサイトカインに耐性を示すこと。野性型または変異型のNF-κBレポーターコンストラクトのトランスフェクション後に、Pin1-/- MEFまたは野生型MEFを、さまざまな濃度のIL-1β(A)、またはさまざまなサイトカイン(1 ng/mlのIL-1β、100 ng/mlのLPS、または1 ng/mlのTNF-α)(B)と3時間インキュベートし、遺伝子レポーターアッセイ法を行った。(C、D)Pin1-/- MEFではIL-1βに応じたp65の核内蓄積およびIκBのフィードバックの亢進が見られないこと。野生型MEFおよびPin1-/- MEFをIL-1β(1 ng/ml)で所定の時間処理した後に、全細胞溶解物を対象に、抗IκBα抗体および抗チューブリン抗体を用いたイムノブロットを行うか、または核分画を対象に抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った(C)。IL-1βで3時間処理したMEFを抗p65抗体で免疫染色した(D)。(E)p65がPin1-/- MEFでは不安定なこと。野生型MEFおよびPin1-/-MEFに、Xpress標識p65およびXpress-LacZを24時間かけてトランスフェクトし、シクロヘキシミドで所定の時間処理した後に、抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(F)Pin1-/-の乳腺ではNF-κBが不活性なこと。野生型およびPin1-/-のマウス(輸送の1日後)の乳腺をH&Eまたは抗p65抗体で染色した。(G〜I)Pin1-/-個体の肝臓ではTNF-αに反応してNF-κB活性化の低下およびアポトーシスの増加が見られること。野生型マウスまたはPin1-/-マウスに、40 mg/kgの組換え型マウスTNF-αを注入し、その3時間後に個体を殺し、肝臓切片を対象に抗p65抗体を用いた免疫組織化学処理もしくはTUNEL染色(G)を行うか、または肝臓溶解物を対象に抗切断カスパーゼ-3抗体を用いたイムノブロット(H)、もしくは蛍光カスパーゼ-3活性アッセイ法を、阻害剤DEVD-CHOの存在下または非存在下で行った。データは、3回の独立した実験の平均±SDで示す。
【図6】インビトロおよびインビボにおけるp65のポリユビキチン化。(A、B)プロテオソーム阻害剤によってp65-T254Aが安定化すること。Xpress-p65-T254AまたはXpress-LacZを発現する293T細胞をシクロヘキシミドおよびMG-132(50 mM)、または溶媒DMSOで所定の時間処理した後に、抗Xpress抗体を用いたイムノブロット(A)を行い、続いてImagequantによる半定量を行った(B)。(C)インビトロにおけるp65のユビキチン化。インビトロ翻訳した35S標識p65を、E1およびUbcH5aの存在下または非存在下で、ユビキチンと所定の時間インキュベートした後に、SDS-PAGEで分離してオートラジオグラフィーを行った。(D)GST-p65の断片Bはユビキチン化されたが、断片Aまたは断片Cはユビキチン化されなかった。GST-p65の切断型変異体(図3D)を、HeLa S-100抽出物、ユビキチン、E1、およびUbcH5aまたはUbcH6のいずれかと3時間インキュベートした後に、GST-プルダウン、および抗ユビキチン抗体を用いたイムノブロットを行った。(E)GST-p65の断片BがUbcH5aによってユビキチン化されること。GST-p65の切断型変異体Bを対象に、さまざまなE2酵素を用いてインビトロでユビキチン化アッセイ法を行った。(F)インビボにおけるp65のユビキチン化。p65、UbcH5a、およびHis標識ユビキチン、またはベクター対照を発現するHeLa細胞をMG-132またはDMSO対照と16時間処理した後に、6 M尿素を含む緩衝液で超音波処理して溶解した。ユビキチン結合タンパク質をNi-42アガロースビーズに捕捉し、抗p65抗体を用いたイムノブロットを行った。
【図7】p65はインビトロおよびインビボでSOCS-1と結合する。(A)p65結合タンパク質中におけるSOCS-1の同定。Xpress-His二重標識p65の断片Bを発現するMEFをLPS(100 ng/ml)で3時間処理した後に、Ni-アガロースを用いたアフィニティクロマトグラフィーを行い、続いて抗Xpress抗体を用いた免疫沈降法を行った。銀染色後にバンドを切り出し、質量分析計による解析を行った。(B)インビトロでSOCS-1がp65の断片Bと結合すること。Xpress標識p65または切断型変異体(図3D)を発現する293T細胞を対象に、GSTまたはGST-SOCS-1を用いたGST-プルダウンアッセイ法、および抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(C)発現されたp65とSOCS-1がインビボで相互作用すること。293T細胞にXpress-p65とMyc-SOCS-1を同時にトランスフェクトした後に、対照IgG抗体、抗Xpress抗体、または抗Myc抗体を用いた免疫沈降法を行い、続いて図に示した抗体を用いたイムノブロットを行った。(D)内在性p65とSOCS-1がインビボで相互作用すること。マウスの初代脾細胞をLPSとともに、またはLPSなしで4時間インキュベートした後に、抗p65抗体を用いた免疫沈降法を行い、続いて抗SOCS-1抗体を用いたイムノブロットを行った。
【図8】SOCS-1はp65のユビキチン化およびタンパク質安定性を調節する。(A、B)IL-1β(A)またはp65(B)により、SOCS-1によるNF-κBの活性化が阻害されること。IL-1Rを安定して発現する293T細胞に、対照ベクター、SOCS-1、またはSOCS-1ΔS、および野性型もしくは変異型のNF-κBルシフェラーゼコンストラクトのいずれかを同時にトランスフェクトした後に、IL-1β(2 ng/ml)処理および遺伝子レポーターアッセイ法を行った(A)。MEFに野性型または変異型のNF-κBルシフェラーゼコンストラクトのいずれかを、また対照ベクター、SOCS-1、またはSOCS-1ΔSとp65のいずれかを同時にトランスフェクトした後に遺伝子レポーターアッセイ法を行った(B)。(C)SOCS-1はp65のレベルを調節するがp50のレベルを調節しない。HeLa細胞にベクター、SOCS-1、またはSOCS-1ΔSをトランスフェクトした後に、抗p65抗体、抗p50抗体、および抗SOCS-1抗体を用いたイムノブロットを行った。(D)SOCS-1がp65のタンパク質安定性を調節すること。293T細胞にXpress-p65、Xpress-LacZおよびSOCS-1、SOCS-1+Pin1、SOCS-1ΔS、またはベクターを同時にトランスフェクトした後に、シクロヘキシミド(100 μg/ml)で処理し、続いて抗Xpress抗体を用いたイムノブロット解析(左のパネル)、および半定量(右のパネル)を行った。(E)SOCS-1がp65のユビキチン化をインビトロで調節すること。GST-p65の断片Bを対象に、SOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターをトランスフェクトした293T細胞に由来する細胞溶解物の存在下または非存在下で、インビトロにおけるユビキチン化反応を行った後に、GST-プルダウン、および抗ユビキチン抗体を用いたイムノブロットを行った。(F)SOCS-1がp65のユビキチン化をインビボで調節すること。HeLa細胞にXpress-p65、His標識ユビキチンおよびSOCS-1、SOCS-1ΔS、または対照ベクターを24時間かけてトランスフェクトした後に、MG-132で16時間処理し、ユビキチン化されたタンパク質をNiビーズに捕捉し、続いて抗Xpress抗体を用いたイムノブロットを行った。(G)Pin1は、SOCS-1によって誘導されるp65のユビキチン化をブロックする。HeLa細胞にXpress-p65、His標識ユビキチン、UbcH5a、および対照ベクター、SOCS-1、またはSOCS-1+Pin1のいずれかを24時間かけてトランスフェクトした後に、MG-132およびMG-115で16時間処理し、ユビキチン化されたタンパク質をNiビーズに捕捉し、続いて抗p65ポリクローナル抗体を用いたイムノブロットを行った。(H、I)p65はSOCS-1-/-細胞で弱くユビキチン化され、より安定であった。(H)野生型MEFまたはSOCS-1-/-MEFにXpress-p65、His標識ユビキチン、およびUbcH5aを24時間かけてトランスフェクトした後に、(G)に記載された手順でユビキチン化アッセイ法を行った。(I)野生型MEFまたはSOCS-1-/-MEFにXpress-p65およびXpress-LacZを24時間かけてトランスフェクトした後に、シクロヘキシミド処理を行い、続いて抗Xpress抗体を用いたイムノブロット解析(上)および半定量(下)を行った。
【図9】Pin1およびSOCS-1によるNF-κBの2段階調節モデル。NF-κBシグナル伝達は、IKKが介在するリン酸化と、これに続くIκBαの分解によって活性化され、結果的にNF-κBは核に移行する。発明者らの得た結果は、核内のp65が、Pin1が触媒するプロリン異性化、およびユビキチンを介したタンパク質分解による調節をさらに受けることを示す。Pin1はp65のpThr254-Proモチーフを標的とし、またIκBαとの結合を阻害し、p65の核内蓄積およびタンパク質安定性、ならびにNF-κBの転写活性を高める。またp65が細胞質に移行すると、UbcH5aおよびSOCS-1によるユビキチンを介したタンパク質分解による調節を受ける。Pin1の過剰発現、および/またはSOCS-1の発現抑制は、癌におけるNF-κBの構成的活性化に寄与する。
【図10】Pin1はIκBのリン酸化とは無関係にNF-κBを活性化する。(A、B)ベクターまたはPin1をトランスフェクトしたHeLa細胞を対象に、抗リン酸IκBα(Ser32)抗体、抗IκBα抗体、および抗チューブリン抗体を用いたイムノブロット(A)、または抗IKKα抗体を用いた免疫沈降法を行った後に、GST-IκBαを基質とするインビトロキナーゼアッセイ法を行った(B)。(C、D)IKK1/IKK2二重ノックアウトMEFまたはNEMO-/- MEFにPin1もしくはベクター、およびIg-κBルシフェラーゼコンストラクト(C)を、またはPin1、Ig-κBルシフェラーゼコンストラクト、およびp65もしくはp50をトランスフェクトし、遺伝子レポーターアッセイ法を行った。
【図11】NF-κBとIκBαの複合体、およびPin1とp65の相互作用を示すリボンダイアグラム。(A、B)NF-κB(p65=緑、p50=灰)とIκBα(ピンク)の複合体のリボンダイアグラムを上のパネルに示す。下のパネルでは、IκBαとp65間の一部の結合面を示す。p65がIκBαと結合するとp65のArg253が露出し、IκBαの残基との間に、いくつかの水素結合を形成する可能性がある(Huxford et al., 1998; Jacobs and Harrison, 1998)。このような状況では、Thr254は複合体の内部に埋まった状態で存在する(A)。しかし、NF-κBとIκBαが解離すると、Arg253とThr254を含む長い第5ループは柔軟となってThr254が露出する。Thr254がリン酸化されると、Pin1はp65のpThr254-Proモチーフと結合して、これを異性化する。この際、IκBαの結合面が破壊されることでp65とIκBαの結合が阻害されると考えられる(B)。しかし構造から、p65とp50の相互作用には影響しないと考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NF-κB活性が調節されるようにPin1活性を調節する物質を細胞に接触させる段階を含む、細胞内におけるNF-κBポリペプチドの活性を調節する方法。
【請求項2】
NF-κBがIκBαと相互作用する能力を調節する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Pin1のペプチジルプロリルイソメラーゼ活性を調節する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
物質が、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子、および抗体からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Pin1活性を阻害する物質を細胞に接触させる段階を含む、細胞内におけるNF-κBのp65サブユニットのpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法。
【請求項7】
Pin1の活性部位に結合する物質をPin1ポリペプチドに接触させることでPin1活性を阻害する、請求項7記載の方法。
【請求項8】
WWドメインに結合する物質をPin1ポリペプチドに接触させることでPin1活性を阻害する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
物質が小分子である、請求項7または8のどちらかに記載の方法。
【請求項10】
物質がペプチドである、請求項7または8のどちらかに記載の方法。
【請求項11】
物質がホスホセリンペプチドである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
物質がペプチド模倣物である、請求項7または8のどちらかに記載の方法。
【請求項13】
Pin1とNF-κBとの相互作用を阻害する段階を含む、NF-κBのp65サブユニット中のpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法。
【請求項14】
化合物が小分子である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
化合物がペプチドである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
化合物がペプチド模倣物である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
Pin1調節因子を被験対象に投与することで該被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連疾患にかかっている被験対象を治療する方法。
【請求項18】
NF-κB障害が、細胞増殖異常、免疫応答障害、および炎症性障害からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
障害が細胞増殖異常である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞増殖異常が癌である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
癌が乳癌である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
NF-κBのp65サブユニットのアミノ酸残基254および255を含むエピトープに特異的な抗体を被験対象に投与することで該被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連障害にかかっている被験対象を治療する方法。
【請求項23】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
抗体がヒト化抗体である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
Pin1の産生を阻害することで、NF-κBが、ユビキチンを介したタンパク質分解経路によるタンパク質分解を受けることを可能とする段階を含む、細胞内におけるNF-κBのタンパク質分解の量を増やす方法。
【請求項26】
Pin1産生の阻害がsiRNAによる、請求項24記載の方法。
【請求項27】
Pin1産生の阻害がRNAiによる、請求項24記載の方法。
【請求項28】
SOCS-1の発現を高めることでNF-κBの分解を阻害する化合物を被験対象に投与する段階を含む、NF-κB関連障害にかかっている被験対象を治療する方法。
【請求項1】
NF-κB活性が調節されるようにPin1活性を調節する物質を細胞に接触させる段階を含む、細胞内におけるNF-κBポリペプチドの活性を調節する方法。
【請求項2】
NF-κBがIκBαと相互作用する能力を調節する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Pin1のペプチジルプロリルイソメラーゼ活性を調節する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
物質が、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子、および抗体からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Pin1活性を阻害する物質を細胞に接触させる段階を含む、細胞内におけるNF-κBのp65サブユニットのpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法。
【請求項7】
Pin1の活性部位に結合する物質をPin1ポリペプチドに接触させることでPin1活性を阻害する、請求項7記載の方法。
【請求項8】
WWドメインに結合する物質をPin1ポリペプチドに接触させることでPin1活性を阻害する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
物質が小分子である、請求項7または8のどちらかに記載の方法。
【請求項10】
物質がペプチドである、請求項7または8のどちらかに記載の方法。
【請求項11】
物質がホスホセリンペプチドである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
物質がペプチド模倣物である、請求項7または8のどちらかに記載の方法。
【請求項13】
Pin1とNF-κBとの相互作用を阻害する段階を含む、NF-κBのp65サブユニット中のpThr254-Pro結合の異性化を阻害する方法。
【請求項14】
化合物が小分子である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
化合物がペプチドである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
化合物がペプチド模倣物である、請求項13記載の方法。
【請求項17】
Pin1調節因子を被験対象に投与することで該被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連疾患にかかっている被験対象を治療する方法。
【請求項18】
NF-κB障害が、細胞増殖異常、免疫応答障害、および炎症性障害からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
障害が細胞増殖異常である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞増殖異常が癌である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
癌が乳癌である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
NF-κBのp65サブユニットのアミノ酸残基254および255を含むエピトープに特異的な抗体を被験対象に投与することで該被験対象を治療する段階を含む、NF-κB関連障害にかかっている被験対象を治療する方法。
【請求項23】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
抗体がヒト化抗体である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
Pin1の産生を阻害することで、NF-κBが、ユビキチンを介したタンパク質分解経路によるタンパク質分解を受けることを可能とする段階を含む、細胞内におけるNF-κBのタンパク質分解の量を増やす方法。
【請求項26】
Pin1産生の阻害がsiRNAによる、請求項24記載の方法。
【請求項27】
Pin1産生の阻害がRNAiによる、請求項24記載の方法。
【請求項28】
SOCS-1の発現を高めることでNF-κBの分解を阻害する化合物を被験対象に投与する段階を含む、NF-κB関連障害にかかっている被験対象を治療する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−515937(P2007−515937A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532823(P2006−532823)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/014155
【国際公開番号】WO2004/101745
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505415019)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター インコーポレイティッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/014155
【国際公開番号】WO2004/101745
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505415019)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター インコーポレイティッド (2)
【Fターム(参考)】
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