NF−κBデコイを含む呼吸器疾患用治療および予防のための薬学的組成物およびその使用方法
NF−κBに制御される遺伝子の発現に起因する気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性の疾患、障害および/または状態を治療および予防するための薬学的組成物であって、NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを含む組成物。上記疾患は、喘息、COPDまたは鼻炎である。あるいは、上記疾患は好酸球の異常に関する疾患(例えば、喘息、鼻炎、COPD)である。上記薬学的に受容可能なキャリアは、親水性ポリマー、リポソームなどであり得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体上に存在する転写調節因子、特にNF−κBが結合する部位と特異的に結合する化合物(例えば、核酸およびその類似体)を含む組成物およびその使用方法に関する。より詳細には、本発明は、NF−κBデコイ化合物を含む組成物およびその使用方法に関する。
【0002】
特に本発明は、気道炎症、気道狭窄や鼻腔炎症を抑制する治療・改善・予防剤およびその使用方法として優れた効果を有しており、具体的には、例えば喘息や鼻炎の根本治療を目指す治療・改善・予防剤を提供する。
【背景技術】
【0003】
1993年3月、WHO(世界保健機構)は「世界のあらゆる地域において喘息の有病率が上昇しているのは事実である」として、55億の世界人口の中で喘息患者が1億人を超えたと発表した(「喘息管理の国際指針 喘息管理・予防のグローバルストラテジー NHLBI/WHOワークショップレポート」牧野荘平監修、国際医学出版、1995年)。とりわけ、小児での有病率が増加しているとしている。
【0004】
日本でも小児喘息の増加傾向は明らかで、文部省の学校保健調査によると、小児喘息の被患率は1994年(平成6年)が最も高く、昭和50年代と比較すると2〜4倍になっている。
【0005】
また、厚生省発表の1993年10月時点の総患者数では106万6千人(男58万6千人、女48万人)と推計されており、人口の0.9%が喘息に罹患している計算になる。
【0006】
さらに調査方法によっても異なり、日本の喘息患者数は大体200〜300万人(全人口の約2〜3%)で、喘息で亡くなる人は年間6,000〜7,000人との推定もある。
【0007】
このように国内外を問わず喘息は増加傾向にあり、死亡例も減少しておらず、特に難治性喘息では喘息死の危険も高いことが知られている。
【0008】
気管支喘息の病態形成には、気道粘膜での炎症が重要な役割を果たしている。
【0009】
すなわちアレルゲンによって刺激を受けた気道粘膜では、肥満細胞や好酸球などの炎症細胞が各種サイトカインや組織障害性蛋白などを産生するが、この時、細胞内では、炎症性刺激によって活性化されたNF−κB、AP−1などの転写因子が、各種サイトカインなどの様々な遺伝子発現を亢進させている。
【0010】
本来、サイトカイン類などの炎症性因子は、免疫に関与する細胞同士の相互作用をになう因子であり、アレルゲンや微生物に対する免疫機構で重要な役割を持っている。
【0011】
しかしこれらの因子を介した過剰なアレルギー反応や炎症は、気管支喘息での発作や気道狭窄のように不都合な現象を生じる。
【0012】
肥満細胞および好酸球は、サイトカインに対する受容体を細胞膜に持っており、他の細胞もしくは自己が産生したサイトカインを受容すると、この情報が細胞内シグナリングを介して核内へと伝達されて各種の遺伝子の転写が亢進し、その遺伝情報に基づいてさらに新たなサイトカイン、ケモカイン、細胞接着分子などが産生される。
【0013】
この時、核内で遺伝子情報の転写活性を調節しているのが転写因子であり、気道炎症で重要とされている転写因子には、NF−κBやAP−1、NF−AT (nuclear factor of activated T cells)などがあり、特にNF−κBが注目されている。
【0014】
ここでNF−κBを介する遺伝子転写亢進によって産生される因子は、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞障害性蛋白、細胞接着分子、免疫に関与する細胞膜受容体など多岐に亘っている。
【0015】
これまでの研究により、ヒト肺肥満細胞(mast cell; MC)では炎症性抗体刺激でIgE依存性のNF−κBが活性化され、TNF−α(腫瘍壊死因子α; tumor necrosis factor−α)がNF−κB活性化を促進することを認められている。また、好酸球ではNF−κB活性化にGM−CSF(顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子; Granulocyte Macrophage Colony Stimulating Factor)が重要であることも認められている。(J. Immunol.,169(9), 5287−93, 2002.)。
【0016】
気道中に存在するTNF−αは,IL−1によく似た生物学的な作用を有し、気道の反応性の亢進と気道の炎症と関係がある。また,IL−1やIL−4で活性化された気道上皮や内皮に表現される接着分子、特にVCAM−1は気道の好酸球の浸潤をもたらし、気道の反応性の亢進に関与している。なお動物実験では、ICAM−1の抗体を投与すると、好酸球の浸潤や気道の反応性を抑制するという結果が得られている。
【0017】
従来の喘息治療は炎症をいかに制御するかを主体としており、長期管理のために継続的に使用する長期管理薬(コントローラー)と、喘息発作治療のために短期的に使用する発作治療薬(レリーバー)に大別される。
【0018】
具体的には、吸入ステロイド剤や抗アレルギー剤、徐放性テオフィリン剤などがコントローラーとして汎用されており、レリーバーとして吸入β2受容体刺激剤やアミノフィリン、経口・静注ステロイド剤などが用いられている。
【0019】
しかしレリーバーによる発作緩解作用はともかく、従来のコントローラーによる治療では、前記のように患者数は増加傾向にあり死亡例も減少していないので、十分な効果とは言えなかった。
【0020】
このため喘息の治療研究は、従来の対症的治療から気道炎症を抑制する予防的治療に、最近はシフトしつつある。
【0021】
代表的な転写因子であるNF−κBは、p65とp50のヘテロダイマーからなる転写調節因子である。NF−κBは、通常、その阻害因子IκBが結合した形で細胞質内に存在し、その核内移行が阻止されている。ところが、何らかの原因で、サイトカイン、虚血、再灌流などの刺激が加わると、IκBがリン酸化を受けて分解され、それによってNF−κBが活性化されて核内に移行する。核内に移行したNF−κBは、染色体上のNF−κB結合部位に結合し、その下流にある遺伝子の転写を促進する。NF−κB結合部位の下流にある遺伝子として、例えば、IL−1、IL−6、IL−8、腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症性サイトカイン類、VCAM−1、ICAM−1などの接着因子が知られている。
【0022】
気管支喘息、アレルギー性喘息、小児喘息などの喘息もまた、多くの罹患患者がいるにもかかわらず、根本的な処置が困難な疾患であり、根本的治療が待ち望まれている疾患のひとつである。現在の治療は、対症療法的なところに負うところが大きく、発作時にテオフィリンなどの気管支拡張薬を投与することで対処されることが多い。しかし、このような対症療法では、発作が起こってからの対処とならざるを得ず、患者の症状を完全に抑えることができず、しかも完全治癒させることもできない。従って、原因を断ち切る療法の登場が待ち望まれている。
【0023】
次に、鼻炎が起ると、鼻づまり、鼻水、くしゃみ等の風邪様症状のほかに、鼻出血、嗅覚障害、味覚障害、また頭痛や集中力が長続きしないなどの諸症状を発現する。
【0024】
鼻炎はその原因/起因物質あるいは臨床症状により、アレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、鼻中隔彎曲症等、何種類かに分類されている。
【0025】
鼻炎の代表例であるアレルギー性鼻炎は、ホコリ、ダニ、花粉などの吸入性抗原の吸入により、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりなどの鼻症状が起こったものであり、最初は抗原物質を吸入しても無症状のことが多いが、吸入する毎に徐々に体内の抗体が多くなり、その抗体価があるレベルを超えたときに、その抗原物質を吸入すると発症する。
【0026】
病態は、基本的にアレルギー性炎症であると考えられている。(Rhinology,
41(2), 80−6, 2003.)
国内におけるスギ花粉症の患者は、取り分け増加の一途をたどり、1500万人以上と言われており、特に首都圏では5人に1人が花粉症であるといわれる程である。その原因としては以下が考えられている。
(1) スギ花粉の飛散量が増加している。
(2) ディーゼル車の排気ガスによる大気汚染がIgE抗体を産生しやすくしている。
(3) ストレスの増加でアレルギー反応を起こしやすくさせる。
(4) 食生活の欧米化がIgE抗体の産生を促している。
(5) 寄生虫感染の減少。
【0027】
アレルギー性鼻炎とは、鼻腔粘膜が特定の物質に対して反応を起こす鼻炎であり、くしゃみ、鼻水、鼻づまりが3大症状で、目のかゆみや充血、全身症状(食欲不振、疲れ)などを伴うこともある。
【0028】
アレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)には、花粉(スギ、ヒノキなど)のほか、ブタクサ、ダニ、ハウスダスト、ペットの抜け毛など身の回りのありとあらゆるものがあり、季節性(例えば、春先のスギ花粉など)のものと通年性のものに分けられている。
【0029】
鼻炎の処置方法は種々提案されてきているが、アレルゲンの除去あるいは対症療法などしか現在のところなく、対症療法でも、副作用のあるものが多い。
【0030】
続いて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、世界の死亡原因の第4位にランクされる病気であるにもかかわらず、気付かないまま重症に陥る患者が多く、21世紀の重大な健康問題となっている。米国では、COPDによる死亡率は年齢とともに高まり、45歳以上の死亡原因においては、年齢層にもよるが第4位または第5位となっている。1965年から1998年の間に、他の疾患による死亡率は減少しているのに対し、COPDによる死亡率だけが著しく増加しており、その根本的解決が熱望されている。
【0031】
COPDは近年患者数が増加しており、今後更に患者の増加が見込まれる疾患である。現状において根本的な治療方法は存在せず、社会的医療費の負担も大きい。本疾患は不可逆的な呼吸の気流制限により特徴付けられる病的状態である。気流制限は、通常進行性で、吸入された有害なガスの量や種類により程度は異なる。気流制限は吸入ガスに反応した末梢気道の炎症反応により生じる肺実質の破壊により起こる。世界保健機構と世界銀行が行った調査によると1990年の世界有病率は、人口千人当たり男性9.34人、女性7.33人である。現在増加傾向にあり1990年の死因の第6位から、2020年には第3位に上昇する予測である。日本においても、現在約5万人がこの疾患により在宅酸素療法を受けている。患者数は1996年の厚生省の統計では、22万人とされていたが、2001年に発表された肺疾患疫学調査研究会が行った調査によると、COPD患者の推定数は、日本において530万人である。また、COPDの有病率は40歳以上の8.5%と、世界的な水準に達している。これまで日本ではCOPDは少ないと考えられていたが、実際には多くの患者がいるにもかかわらず、診断を受けていないだけであり、実際の患者数に鑑みれば、その根本的治療に対する要望はますます高まっているといえる。
【0032】
COPDとは、息をするときに空気の通り道となる「気道」に障害が起こって、ゆっくりと呼吸機能が低下する疾患である。以前は「肺気腫」、「慢性気管支炎」とされていた疾患を、総称してCOPDと呼ぶようになっている。
【0033】
COPDは、ありふれた症状で始まり、ゆっくりと進行するため、異常を感じて受診したときには重症に陥っている場合が多い「肺の生活習慣病」であるといえる。COPDは、重症になると息苦しさのために行動の自由が奪われたり、全身に障害があらわれるなど、たいへんな苦しみをともなう疾患であり、症状の改善という観点からの治療も待ち望まれている。
【0034】
COPDに対する治療は、現在対症療法および生活改善などの受動的手法しかなく、積極的にまたは根本的に治癒させる方法はまだない。例えば、喫煙などのCOPDリスクの高い生活習慣を断つことなどが推奨されている。このほか、呼吸を楽にする薬物治療、リハビリテーション、酸素療法といった対症治療が行われている。呼吸器感染症を防ぐためのワクチン接種、合併症の治療なども行われている。最重症患者には、条件が揃えば外科手術が検討される場合もあるが、症状の改善は満足いく状況とはいいがたい。
【0035】
このように、COPDは治療法として現在のところ有効なものはなく、この疾患の進行を有効に遅らせる手立てもないのが現状である。上述のように、今日においても、行われている治療は酸素吸入、対外式陽圧換気などの対症療法が行われているのみである。上述したように、場合によっては外科的に病変部の切除も試みられているが、長期予後に改善は認めないとの報告が多い。また薬剤としても気管支拡張剤、去痰剤などの投与が行われているが、効果は限定的である。
【0036】
特許文献1(WO03/105780号公報)および特許文献2(US6303582号公報)は、核酸を微粒子化する技術を開示するが、デコイのような小さな核酸が炎症性疾患に対する機能を保持しつつ微粒子化され得るかどうか全く記載していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する呼吸器系の疾患(例えば、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性の疾患、障害、症状など)を処置するために適した組成物およびその使用法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明は、NF−κBデコイを主成分として含有し、NF−κBにより制御される遺伝子の発現に起因する呼吸器系の疾患、障害および/または症状を処置(治療および予防)するための組成物および該疾患の処置方法を提供する。
【0039】
本発明者らは、NF−κBにより制御される遺伝子の発現に起因する呼吸器系の疾患、障害および/または症状または好酸球および/または好中球の異常に関連する疾患、障害および/または症状を処置するために、NF−κBのデコイを投与することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0040】
本発明は、NF−κBに制御される遺伝子の発現に起因する疾患、障害および/または状態を治療および予防するための薬学的組成物に関し、この組成物は、NF−κBのデコイまたはその誘導体、改変体もしくはフラグメント、および薬学的に受容可能なキャリアを含み、該誘導体、改変体もしくはフラグメントは、生物学的活性を有するデコイである。
【0041】
本発明はまた、好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための薬学的組成物であって、NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物に関する。
【0042】
好ましくは、上記疾患は、喘息、COPDまたは鼻炎である。
【0043】
好ましくは、上記疾患は、好酸球の異常に関連する疾患である。そのような好酸球の異常に関連する疾患としては、例えば、喘息(気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息(ステロイド抵抗性喘息;SRA)、非アレルギー性喘息(内因性喘息、外因性喘息、例えば、アスピリン喘息、心臓性喘息、感染型喘息))、他の好酸球異常(例えば、鼻炎などのアレルギー性疾患)が挙げられる。
【0044】
好ましくは、上記薬学的に受容可能なキャリアは親水性ポリマー、非溶解性またはリポソーム、炭水化物または非溶解性添加剤である。
【0045】
好ましくは、上記薬学的に受容可能なキャリアは、リポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトールまたはキシリトールから選ばれた1種以上である。
【0046】
好ましくは、上記NF−κBのデコイが、配列番号1で表されるデコイである。
【0047】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である。
【0048】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、COPD、喘息または鼻炎である。
【0049】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、COPDである。
【0050】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、喘息である。
【0051】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、鼻炎である。
【0052】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息、非アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息、アスピリン喘息、心臓性喘息および感染型喘息からなる群より選択される喘息、またはアレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)および鼻中隔彎曲症からなる群より選択される鼻炎である。
【0053】
別の局面では、本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する疾患を治療および/または予防するための、あるいは、好酸球の異常に関連する疾患、障害および/または状態を、治療および/または予防するための、あるいは該治療および/または予防のための薬学的組成物の調製のための、NF−κBのデコイの使用に関する。
【0054】
別の局面において、本発明は、本発明の上記組成物を含み、該組成物は、呼吸器へ投与されるために適合される。
【0055】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、気道内投与または経気道吸収を含む。
【0056】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする。
【0057】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む。
【0058】
好ましくは、上記組成物は、ドライパウダーとして提供される。
【0059】
好ましくは、上記ドライパウダーが、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、アルティマイザー(ultimaizer)、乳鉢、石臼、噴霧乾燥および超臨界流体からなる群より選択される手段を用いて製造された微粒子であることを特徴とする。
【0060】
好ましくは、上記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.01〜約50μmであることを特徴とする。
【0061】
好ましくは、上記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.05〜約30μmであることを特徴とする。
【0062】
好ましくは、上記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.1〜約10μmであることを特徴とする。
【0063】
好ましくは、上記製剤は投与量が1回あたり10μg〜100mgである。
【0064】
好ましくは、上記製剤は投与量が1回あたり50μg〜50mgである。
【0065】
好ましくは、上記製剤は投与量が1回あたり10mg以下である。
【0066】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、経鼻吸収を含む。
【0067】
好ましくは、上記製剤は、点鼻剤、鼻用スプレー剤、ネブライザー用剤、レスピレータ用剤および粉体投与製剤からなる群より選択される製剤であることを特徴とする。
【0068】
好ましくは、上記製剤は、鼻炎用点鼻剤であることを特徴とする。
【0069】
好ましくは、本発明では、NF−κBのデコイがHVJ-Eエンベロープベクターに封入されていることを特徴とする。
【0070】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、肺投与を含む。
【0071】
1つの局面において、本発明の組成物と、呼吸器に上記組成物を投与するための手段とを備える、呼吸器処置のためのデバイスを提供する。
【0072】
好ましくは、上記呼吸器への投与手段は、肺投与手段、経気道内投与手段、経気道吸収手段および経鼻吸収手段からなる群より選択される手段を含む。
【0073】
好ましくは、上記呼吸器への投与手段は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)を含む。
【0074】
別の局面において、本発明は、NF−κBのデコイを含む粒子を製造するための方法であって、A)上記デコイおよび薬学的に受容可能なキャリアを提供する工程;B)上記デコイおよびキャリアを乾燥させ、粒子化するに十分な温度に加熱する工程;C)所望の粒径を有する粒子を取り出す工程、を包含する、方法に関する。
【0075】
好ましくは、上記温度は、50℃以下であることを特徴とする。
【0076】
好ましくは、上記温度は、100℃以下であることを特徴とする。
【0077】
好ましくは、上記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.01〜約50μmであることを特徴とする。
【0078】
好ましくは、上記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.05〜約30μmであることを特徴とする。
【0079】
好ましくは、上記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.1〜約10μmであることを特徴とする。
【0080】
別の局面において、本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための方法であって、A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、を包含する、方法に関する。
【0081】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である。
【0082】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である。
【0083】
好ましくは、上記投与は、気道内投与、経気道吸収および経鼻吸入からなる群より選択される投与方法を包含する。
【0084】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする。
【0085】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む。
【0086】
好ましくは、上記投与は、点鼻、鼻用スプレー、ネブライザー、レスピレータおよび粉体投与からなる群より選択される手段により行われることを特徴とする。
【0087】
別の局面において、本発明は、好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための方法であって、A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、
を包含する、方法を提供する。
【0088】
別の局面において、本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用に関する。
【0089】
別の局面において、好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用に関する。
【発明の効果】
【0090】
本発明により、気道炎症性、気道狭窄性、鼻腔炎症性疾患などのような呼吸器系疾患を処置(治療および予防)することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1A】図1は、喘息モデルを使用した場合に本発明の薬学的組成物の効果を示す実験のプロトコル例である(図1A)。図1Bおよび図1Cには、デコイ吸入の様子を示す。
【図1B】図1は、喘息モデルを使用した場合に本発明の薬学的組成物の効果を示す実験のプロトコル例である(図1A)。図1Bおよび図1Cには、デコイ吸入の様子を示す。
【図1C】図1は、喘息モデルを使用した場合に本発明の薬学的組成物の効果を示す実験のプロトコル例である(図1A)。図1Bおよび図1Cには、デコイ吸入の様子を示す。
【図2A】図2は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図2Aおよび図2Bには、好酸球の計数のための基本データを示す。図2Cに示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、エアゾール処置(2mg×2)、および液体処置(0.5mg×1)の結果を示す。
【図2B】図2は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図2Aおよび図2Bには、好酸球の計数のための基本データを示す。図2Cに示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、エアゾール処置(2mg×2)、および液体処置(0.5mg×1)の結果を示す。
【図2C】図2は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図2Aおよび図2Bには、好酸球の計数のための基本データを示す。図2Cに示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、エアゾール処置(2mg×2)、および液体処置(0.5mg×1)の結果を示す。
【図3A】図3は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図3A(好酸球細胞数)および図3B(好酸球%)に示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、裸のデコイ500μg、HVJ(200;HVJ−E 10000HAUおよびデコイ200μgを含む)、HVJ(500;HVJ−E 25000HAUおよびデコイ500μgを含む)およびベクター(HVJ−E 25000HAUのみ、デコイなし)の結果を示す。#は、オボアルブミンチャレンジに対する統計学的有意性を示す。
【図3B】図3は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図3A(好酸球細胞数)および図3B(好酸球%)に示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、裸のデコイ500μg、HVJ(200;HVJ−E 10000HAUおよびデコイ200μgを含む)、HVJ(500;HVJ−E 25000HAUおよびデコイ500μgを含む)およびベクター(HVJ−E 25000HAUのみ、デコイなし)の結果を示す。#は、オボアルブミンチャレンジに対する統計学的有意性を示す。
【図4】図4は、デコイによる好酸球の挙動の例示を示す。
【図5】図5は、本発明のNF−κBデコイの粉末吸入剤調製結果を示す。
【図6】図6は、対照として用いた乳糖の粉末吸入剤調製結果を示す。
【図7】図7は、ラット喘息モデル(AHR)に対するNF−κBデコイの効果を示す。記号の説明は以下の通りである。##: p<0.01 vs saline group (Student’s t−test);*, ** : それぞれp<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test)。
【図8】図8は、ラット喘息モデル(BALF)に対するNF−κBデコイの効果を示す。記号の説明は以下の通りである。##: p<0.01 vs saline group (Student’s t−test);*, ** : それぞれp<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test)。
【図9】図9は、ラット鼻炎モデルに対するNF−κBデコイの効果を示す。記号の説明は以下の通りである。##: p<0.01 vs saline group (Student’s t−test);*, ** : それぞれp<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test)。
【0092】
(配列表の説明)
配列番号1は、NF−κBデコイである。
【0093】
配列番号2は、NF−κBスクランブルデコイである。
【0094】
配列番号3は、NF−κBデコイ改変体である。
【0095】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
以下に本発明の最良の形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0097】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0098】
本発明で用いられる用語「デコイ」または「デコイ化合物」とは、NF−κBが結合する染色体上の部位、あるいはNF−κBに制御される遺伝子の他の転写調節因子が結合する染色体上の部位(以下標的結合部位という)に結合し、NF−κBの標的結合部位への結合について拮抗する化合物をいう。代表的には、デコイまたはデコイ化合物は、核酸およびその類似体である。
【0099】
デコイが核内に存在する場合、転写調節因子の標的結合部位への結合について、デコイが転写調節因子と競合し、その結果、転写調節因子の標的結合部位への結合によってもたらされる生物学的機能が阻害される。デコイは、標的結合配列に結合し得る核酸配列を少なくとも1つ含む。標的結合配列への結合活性を有する限り、デコイは、本発明の薬学的組成物の調製に用いることができる。
【0100】
好ましいデコイの例として、5’−CCT−TGA−AGG−GAT−TTC−CCT−CC−3’(配列番号1)(NF−κBデコイ)またはこれらの相補体を含むオリゴヌクレオチド、これらの変異体、またはこれらを分子内に含む化合物が挙げられるがそれらに限定されない。オリゴヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよく、またはそのオリゴヌクレオチド内に核酸修飾体(「誘導体ヌクレオチド」)および/または擬核酸を含むもの(「誘導体オリゴヌクレオチド」)であってもよい。また、これらのオリゴヌクレオチド、その変異体、またはこれらを分子内に含む化合物は、1本鎖でも2本鎖であってもよく、線状であっても環状であってもよく、分岐していても直鎖状であってもよい。変異体とは上記配列の一部が、変異、置換、挿入、欠失しているもので、NF−κBまたはNF−κBに制御される遺伝子のその他の転写調節因子が結合する核酸結合部位と特異的に拮抗する核酸を示す。さらに好ましいNF−κBに制御される遺伝子のその他の転写調節因子のデコイとしては、上記核酸配列を1つまたは複数含む2本鎖オリゴヌクレオチドまたはその変異体が挙げられる。代表的なNF−κBの改変体としては、配列番号3に記載される核酸配列を有するものが挙げられるがそれらに限定されない。
【0101】
本発明で用いられるオリゴヌクレオチドは、リン酸ジエステル結合部の酸素原子をイオウ原子で置換したチオリン酸ジエステル結合をもつオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、またはリン酸ジエステル結合を電荷をもたないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチド等、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクリオチド等が含まれる。
【0102】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら (1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory
Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0103】
本明細書において、「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、特に言及する場合を除き交換可能に用いられ、一連のヌクレオチドからなる高分子(重合体)をいう。ヌクレオチドとは、リン酸エステルになっているヌクレオシドをいう。塩基部分としては、ピリミジン塩基またはプリン塩基のヌクレオチド(ピリミジンヌクレオチドおよびプリンヌクレオチド)がある。ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドとしては、DNAまたはRNAが挙げられる。上述したように、デコイは、代表的には、この核酸の形態を採る。
【0104】
また、ヒトゲノムプロジェクトのようなゲノムデータ、GenBankのような遺伝子情報データベースに対して、本発明のデコイの配列をもとにBLAST、FASTAのようなソフトウェアを用いて相同性検索を行って得られた配列もまた、本発明の範囲内にあり、そのようなデータベースをもとに作成したライブラリーに対して生物学的にスクリーニング(例えば、ストリンジェントな条件下で獲得する)することによって得られた配列もまた、本発明の範囲内にある。
【0105】
本明細書では塩基配列の同一性、相同性および類似性の比較は、特に言及しない限り、配列分析用ツールであるFASTAを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0106】
本明細書において、「対応する」遺伝子または配列(例えば、デコイ、プロモーター配列など)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子または配列と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子または配列をいい、そのような作用を有する遺伝子または配列が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子または配列の対応する遺伝子または配列は、その遺伝子または配列のオルソログであり得る。したがって、マウスのNF−κBなどの遺伝子または配列に「対応する」遺伝子または配列は、他の動物(ヒト、ラット、ブタ、ウシなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子または配列は、対応する遺伝子または配列の基準となる遺伝子(例えば、マウスのNF−κBなどの配列)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースまたはライブラリーを検索することによって見出すことができる。このように、本発明には、特定の本発明の配列(例えば、配列番号1)に対応する配列もまた包含されることが意図される。
【0107】
本明細書において「誘導体オリゴヌクレオチド」および「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドをいう。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスフォロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスフォアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。
【0108】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が転写因子である場合、転写活性を調節する活性を包含する。ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。本発明の1実施形態では、その生物学的活性は、転写因子の少なくとも1つへの結合活性を包含する。そのような転写因子の結合活性の測定方法は、転写因子の結合配列と転写因子とを混合して、結合により生じる複合体を測定(例えば、電気泳動による観察)を行うことにより達成され得る。このような方法は、当業者に周知であり、慣用される方法である。
【0109】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。
【0111】
本発明で用いられるデコイの製造方法としては、当該分野で公知の化学合成法または生化学的合成法を用いることができる。例えば、デコイ化合物として核酸を用いる場合、遺伝子工学で一般的に用いられる核酸合成法を用いることができ、例えば、DNA合成装置を用いて目的のデコイ核酸を直接合成してもよいし、またはこれらの核酸、それを含む核酸またはその一部を合成した後、PCR法またはクローニングベクター等を用いて増幅してもよい。さらに、これらの方法により得られた核酸を、制限酵素等を用いて切断し、DNAリガーゼ等を用いて結合等を行い、目的とする核酸を製造してもよい。また、さらに細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、核酸の塩基、糖、リン酸部分に、例えば、アルキル化、アシル化等の化学修飾を施してもよい。
【0112】
本発明は、上記のデコイ化合物を単独で、または安定化化合物、希釈剤、担体、または別の成分または薬剤のような他の薬剤と組み合わせて含む薬学的組成物を提供する。
【0113】
本明細書において「患者」(subject)とは、本発明の処置または組成物が適用される生物をいう。患者は、本発明の処置または組成物が適用されることができる限り、どのような動物(例えば、霊長類、齧歯類など)であってもよい。患者は好ましくは、ヒトであり得る。
【0114】
本明細書において「NF−κBに制御される遺伝子の発現に起因する疾患、障害および/または状態」とは、転写因子であるNF−κBにより発現(例えば、翻訳、転写など)が制御(例えば、増大、減少、遅延など)されることがその疾患、障害または状態の原因となっている疾患または障害をいう。そのような疾患、障害または状態としては、例えば、喘息または鼻炎、COPDが挙げられるがそれらに限定されない。
【0115】
本明細書において「好酸球の異常に関連する疾患、障害および/または状態」とは、原因または結果として、体内(例えば、血液内の)好酸球のレベルが、正常ではない任意の疾患、障害および/または状態をいう。好酸球は、表面にIgEレセプターを有し、アレルギー疾患で主な働きをすることが知られる。
【0116】
そのような好酸球の異常に関連する疾患としては、例えば、喘息(気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息(ステロイド抵抗性喘息;SRA)、非アレルギー性喘息(内因性喘息、外因性喘息、例えば、アスピリン喘息、心臓性喘息、感染型喘息))、他の好酸球異常(例えば、鼻炎などのアレルギー性疾患が挙げられるがそれらに限定されない。
【0117】
本明細書において「呼吸器系の疾患、障害または症状」とは、呼吸器系に関連するに任意の疾患、障害または症状(もしくは状態=condition)をいう。そのような呼吸器系の疾患としては、例えば、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0118】
本明細書において、呼吸器系の疾患、障害または症状としては、COPD、喘息または鼻炎などを代表的な例として挙げることができる。
【0119】
本明細書において「COPD」または「COPD」(Chronic(慢性) Obstructive(閉塞性) Pulmonary(肺) Disease(疾患)の略)とは、交換可能に使用され、肺への空気の出し入れが慢性的に悪くなり、ゆっくりと悪化していく疾患を総称して言う。これまで「慢性気管支炎」「肺気腫」と言われてきたものが実質的にすべて含まれる。COPDの症状としては、例えば、かぜでもないのにセキやタンが毎日のように続いたり、階段の上り下りなど体を動かしたときに息切れを感じる症状などが挙げられる。セキおよびタンがないのに同年代の人と同じペースで歩くのがつらくなって、息切れに気付く人もいるといわれる。ありふれた症状であるため、加齢によるものと勘違いされやすいが、セキ、タンおよび息切れなどが継続して出現しているなどの慢性的症状が特徴である。
【0120】
COPDは、従来「慢性気管支炎」とされてきた気管支および細気管支の病変と、「肺気腫」とされてきた肺胞の病変とに大きく分類される。ほとんどの患者では、2つのタイプの病変が重なってみられる。慢性気管支炎であっても、必ずしもセキおよびタンが多くない場合もあることから、最近は「気道病変タイプ」と呼ぶようになっているが、本発明の治療対象にすべて含まれることが理解される。
【0121】
気道病変タイプは、気道の表面が炎症を起こし、粘液の分泌が多くなる場合がほとんどといわれる。また、気道の壁が厚くなって気道が狭くなり、空気の通りが悪くことも多い。
【0122】
肺気腫タイプは、慢性の炎症によって肺胞が破壊および融合し、肺に空気がたまって膨れ上がった状態になっているものをいう。肺の弾力がなくなって空気を出し入れがしにくくなるうえに、膨れ上がった肺組織が気道を押しつぶすため、空気の通りが悪くなる。
【0123】
これら2つのタイプいずれであっても、肺における細胞が崩壊しており、肺内の細胞を再生させること以外に、根本的治療が考えられない。本発明は、このような根本的治療を史上初めて提供したという点は特筆に価する。
【0124】
COPDの診断は以下の通りに行う。
【0125】
COPDの診断は、スパイロメーターという器械を使った簡単な呼吸機能検査(スパイロ検査)によって行う。スパイロ検査は、肺活量と、息を吐くときの空気の通りやすさを調べる検査である。
【0126】
スパイロ検査で「努力肺活量(FVC:思い切り息を吸ってから強く吐き出したときの息の量)」と「1秒量(FEV1.0:最初の1秒間で吐き出せる息の量)」を測定し、FEV1.0値をFVC値で割った「1秒率(FEV1.0%)」の値が70%未満の場合、COPDの可能性がありとする。症状や喫煙の状況、生活環境、これまでかかった病気などを問診によってチェックし、必要に応じてほかの検査(その他の検査;例えば、他の呼吸器病の可能性がないか調べるための、胸部X線、CTなどの画像診断、体が酸素不足になっていないか調べる血液ガス測定なども、行うことができる。これは、動脈から採血した血液を使ったり、パルスオキシメーターという小さな装置を指先につけて測定する。かぜなどの症状がある場合には、尿検査や血液検査、血圧測定など、全身状態を調べるための検査も必要に応じて行う)を行ったうえで、COPDの診断を行う。
【0127】
1秒率(FEV1.0%)=1秒量/努力肺活量×100<70%
の場合、COPDと判断することができる。
【0128】
COPDの重症度
COPD治療は、疾患の重症度に応じて行うことが好ましいことから、COPDの重症度を必要に応じて決定する。COPDの重症度は、スパイロ検査によってわかる%予測1秒量(%FEV1.0)に基づいて分類される。
【0129】
【表1】
【0130】
本明細書において「喘息」とは、呼吸器(例えば、気道(鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支)および肺)が、粘膜の浮腫、粘稠な分泌物、その他何らかの刺激に対して反応性を高め、気道が狭くなり呼気性呼吸困難を起こすことをいう。喘息としては、例えば、気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息、非アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息、アスピリン喘息、心臓性喘息および感染型喘息等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0131】
本明細書において「鼻炎」とは、鼻腔粘膜の任意の炎症をいう。鼻炎としては、例えば、アレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)および鼻中隔彎曲症などを挙げることができるがそれらに限定されない。アレルギー性鼻炎とは、頻回のくしゃみ、多量の水様鼻汁の分泌、鼻粘膜の浮腫性肥厚による鼻閉を主徴候とする鼻炎であり、そのアレルゲン(抗原)としてはハウス・ダスト、ダニ、スギを代表とする花粉などを挙げることができ、日本でも1500万人の患者がいるとされている。
【0132】
本発明の薬学的組成物および方法を実施するにおいて、患者がヒトである場合、好ましくは、ヒトでの使用の前にインビトロで、そして次いでインビボで、および動物レベルで、所望の治療または予防のための適切な量について試験される。予備的実験としての細胞株および/または動物モデルに対する組成物の効果は、当業者に公知である技術を利用して決定され得る。本発明に従って、特定の化合物の投与が示されるか否かを決定するために用いられ得るインビトロアッセイとしては、転写因子と転写因子結合配列との結合を観察することなどが挙げられる。動物レベルの試験では、ヒトと同様に組成物を投与し、治療効果レベルを確認すること(例えば、好酸球の変動などを観察する)によって判定することができる。当該分野において、通常、モデル動物において治療および/または予防効果が示されたならば、ヒトにおいても同様の効果が奏されることが理解される。
【0133】
本発明の薬学的組成物は、デコイが患部の細胞内または目的とする組織の細胞内に取り込まれるような形態で用いられる。
【0134】
本発明の薬学的組成物は、任意の無菌生体適合性薬学的キャリア(生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水を含むが、それらに限定されない)中で投与され得る。これらの分子のいずれも、適切な賦形剤、アジュバント、および/または薬学的に受容可能なキャリアと混合する薬学的組成物中にて、単独で、あるいは他の薬剤と組み合わせて患者に投与され得る。本発明の実施態様において、薬学的に受容可能なキャリアは薬学的に不活性である。
【0135】
本発明の薬学的組成物の投与は、経口または非経口により達成される。非経口送達の方法としては、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、クモ膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、気管支内、肺胞内、または鼻腔内の投与が挙げられる。デコイ化合物に加えて、これらの薬学的組成物は、賦形剤または薬学的に使用できる製剤を調製するために、デコイ化合物のプロセシングを促進する他の化合物を含む、適切な、薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。処方および投与のための技術のさらなる詳細は、例えば、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.,Easton,PA)の最終版に記載されている。
【0136】
投与のための薬学的組成物は、投与に適した投与形において当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを用いて処方され得る。このようなキャリアは、薬学的組成物が患者による摂取に適した微粒子、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物などに処方されることを可能とする。薬学的に受容可能なキャリアとしては、リポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトール、キシリトール、結晶セルロース、キトサン、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンまたはシリカ(酸化ケイ素)などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0137】
例えば、薬学的組成物は、活性化合物を固体賦形剤と組合せ、所望により得られた混合物を粉砕し、所望ならば、錠剤または糖衣剤のコアを得るために、適切なさらなる化合物を添加した後、顆粒の混合物をプロセシングすることを介して得られ得る。適切な賦形剤は炭水化物またはタンパク質充填剤であり、以下を含むが、それらに限定されない:ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモ、または他の植物由来のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース;ならびにアラビアゴムおよびトラガカントゴムを含むゴム;ならびにゼラチンおよびコラーゲンのようなタンパク質。所望ならば、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)のような崩壊剤または可溶化剤が添加され得る。
【0138】
糖衣剤コアは、濃縮糖溶液のような適切なコーティングとともに提供される。これはまた、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポルゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラツカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合液をも含有し得る。製品同定のため、または活性化合物の量(すなわち用量)を特徴付けるために、染料または色素が錠剤または糖衣剤に添加され得る。
【0139】
使用され得る薬学的製剤は、例えば、ゼラチンカプセル、ゼラチンおよびコーティング(例えば、グリセロールまたはソルビトール)よりなるソフト封着カプセルを含む。ゼラチンカプセルは、ラクトースまたは澱粉のような充填剤またはバインダー、タルクまたはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、および所望により安定化剤と混合した活性な成分を含有し得る。ソフトカプセルでは、デコイ化合物は、安定化剤とともにまたはともなわずに、脂肪油、流動パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールのような適切な液体に溶解または懸濁され得る。
【0140】
非経口投与用の薬学的製剤は活性化合物の水溶液を含む。注射のために、本発明の薬学的組成物は水溶液、好ましくはハンクスの溶液、リンゲル溶液、または緩衝化生理食塩水のような生理学的に適合する緩衝液中に処方され得る。水性注射懸濁物は、懸濁物の粘度を増加させる物質(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストラン)を含有し得る。さらに、活性化合物の懸濁物は、適切な油状注射懸濁物として調製され得る。適切な親油性溶媒またはビヒクルは、ゴマ油のような脂肪酸、あるいはオレイン酸エチルまたはトリグリセリドのような合成脂肪酸エステル、またはリポソームを含む。所望により、懸濁物は、高濃度溶液の製剤を可能にする安定化剤または化合物の溶解度を増加させる適切な薬剤または試薬を含有し得る。
【0141】
局所投与(肺投与、気道投与または鼻孔投与など)のために、浸透されるべき特定のバリアに対して適切な浸透剤が製剤中で使用される。このような浸透剤は一般に当該分野で公知である。
【0142】
本発明の薬学的組成物は、当該分野で公知の様式と同様の様式(例えば、粉砕、粉末化、従来的な混合、溶解、顆粒化、糖衣剤作製、水簸、乳化、カプセル化、包括、または凍結乾燥の手段によって)で製造され得る。
【0143】
したがって、呼吸への投与に適合させる方法は、当該分野において公知の方法に鑑み、当業者が容易に実施することができることが理解される。例えば、気道内投与または経気道吸収であれば、噴霧または吸気に適した形態(例えば、ドライパウダーのような微粒子)にすることが好ましいことが理解され得る。ここでは、例えば、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)に適切な形態にすることができる。鼻腔内では、水溶液なども適切であることが理解され得る。肺投与であれば、気道投与と同様であるかより細かい微粒子にすることが好ましいことが理解され得る。ドライパウダーは、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、アルティマイザー(ultimaizer)、乳鉢、石臼、噴霧乾燥および超臨界流体からなる群より選択される手段を用いて製造することが可能である。ドライパウダーとしては、気道投与のためには、空力学的平均粒子径として、代表的には約0.01〜約50μm、好ましくは約0.1〜約30μm、さらに好ましくは約0.1〜約10μmのものを製造することが望ましい。肺投与のためには、肺胞への到達を考慮して、約3μm以下のものを製造することが好ましいがそれに限定されない。空力学的平均粒子径または空気力学的粒径とは,その粒子と沈降速度が同じで,密度が1(g/cm3)かつ球形である粒子の粒径と定義される。これは粒子の沈降距離の差や,粒子を加速したときの慣性の差を利用して求めることができる。たとえばカスケードインパクターなどは,この粒径によって分粒して捕集するものである。本明細書において空気力学的粒径を用いるのは,呼吸によって体内へ吸引されて各部位に沈着する粒子の割合を,その空気力学的粒径によって定めることができるという考えに基づく。代表的には、動的光散乱法(例えば、堀場製作所LB−550)やレーザ回折法(例えば、堀場製作所LB−500)、遠心沈降法(例えば、堀場製作所CAPA−500)などを用いて測定することができる。ここで動的光散乱法とは、溶液中の粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光の時間的な揺らぎから粒子のブラウン運動速度(拡散係数)を得、これより粒子粒子径を測定する方法であり、レーザー回折法とは、光の回折現象(Fraunhofer現象)とミー散乱現象を利用して粒径を求める方法であり、遠心沈降光透過法とは、媒体中を沈降する粒子の大きさと沈降速度の関係から粒子径を測定する方法である。
【0144】
好ましくは、患部の細胞または目的とする組織の細胞内に局所投与する場合、本発明の薬学的組成物は、キャリアとして合成または天然の親水性ポリマーを含み有る。このような親水性ポリマーの例として、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコールが挙げられる。本発明のデコイ化合物を、適切な溶媒中のこのような親水性ポリマーと混合し、溶媒を、風乾などの方法により除去して、所望の形態、例えば、シート状に成型した後、標的部位に付与し得る。このような親水性ポリマーを含む製剤は、水分含量が少ないので、保存性に優れ、使用の際には、水分を吸収してゲル状になるので、デコイ化合物の貯留性に優れる。
【0145】
このようなシートは上記の組成以外にも類似物として、セルロース、デンプン及びその誘導体あるいは合成高分子化合物などに多価アルコールを混合し硬度を調整して形成した親水性シートも利用できる。
【0146】
このようなシートは、例えば、腹腔鏡技術を用いて、腹腔鏡下で標的部位に付与され得る。現在、腹腔鏡手術は、非侵襲手法として目覚しく発展し、本発明の薬学的組成物と組み合わせることにより、非侵襲的であって、繰り返し治療が可能な疾患の処置法が提供され得る。
【0147】
あるいは、デコイとして核酸またはその修飾体を用いる場合には、本発明の薬学的組成物は、一般に用いられている遺伝子導入法で用いられる形態、例えば、センダイウイルス等を用いた膜融合リポソーム製剤や、エンドサイトーシスを利用するリポソーム製剤等のリポソーム製剤、リポフェクトアミン(ライフテックオリエンタル社製)等のカチオン性脂質を含有する製剤、またはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター等を用いるウイルス製剤を用いるのが有利であり、特に、膜融合リポソーム製剤が好適である。
【0148】
リポソーム製剤は、そのリポソーム構造体が、大きな1枚膜リポソーム(LUV)、多重膜リポソーム(MLV)、小さな一枚膜リポソーム(SUV)のいずれであってもよい。その大きさも、LUVでは200から1000nm、MLVでは400〜3500nm、SUVでは20〜50nm程度の粒子系をとり得るが、センダイウイルス等を用いる膜融合リポソーム製剤の場合は粒子系200〜1000nmのMLVを用いるのが好ましい。
【0149】
リポソームの製造方法は、デコイが保持されるものであれば特に限定されるものではなく、慣用の方法、例えば、逆相蒸発法(Szoka、Fら、Biochim.Biophys.Acta、Vol.601 559(1980))、エーテル注入法(Deamer、D.W.:Ann.N.Y.Acad.Sci.,Vol.308 250(1978))、界面活性剤法(Brunner,Jら:Biochim.Biophys.Acta,Vol.455 322(1976))等を用いて製造することができる。
【0150】
リポソーム構造を形成するための脂質としては、リン脂質、コレステロール類や窒素脂質等が用いられるが、一般に、リン脂質が好適であり、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを定法に従って水素添加したものの他、ジセチルホスフェート、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質を用いることができる。
【0151】
これらのリン脂質を含む脂質類は単独で用いることができるが,2種以上を併用することも可能である。このとき、エタノールアミンやコリン等の陽性基をもつ原子団を分子内にもつものを用いることにより、電気的に陰性のデコイ核酸の結合率を増加させることもできる。これらリポソーム形成時の主要リン脂質の他に一般にリポソーム形成用添加剤として知られるコレステロール類、ステアリルアミン、α−トコフェロール等の添加剤を用いることもできる。
【0152】
このようにして得られるリポソームには、患部の細胞または目的とする組織の細胞内への取り込みを促進するために、膜融合促進物質、例えば、センダイウイルス、不活化センダイウイルス、センダウイルスから精製された膜融合促進タンパク質、ポリエチレングルコール等を添加することができる。
【0153】
リポソーム製剤の製造法の例を具体的に説明すると、例えば、前記したリポソーム形成物質を、コレステロールとともにテトラヒドロフラン、クロロホルム、エタノール等の有機溶媒に溶解し、これを適切な容器に入れて減圧下に溶媒を留去して容器内面にリポソーム形成物質の膜を形成する。これにデコイを含有する緩衝液を加えて攪拌し、得られたリポソームにさらに所望により前記の膜融合促進物質を添加した後、リポソームを単離する。このようにして得られるデコイを含有するリポソームは適当な溶媒中に懸濁させるか、または一旦凍結乾燥したものを、適当な溶媒に再分散させて治療に用いることができる。膜融合促進物質はリポソーム単離後、使用までの間に添加してもよい。
【0154】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。
【0155】
本明細書において「予防」(prophylaxisまたはprevention)とは、ある疾患または障害について、そのような状態が引き起こされる前に、そのような状態が起こらないように処置することをいう。従って、ある疾患または障害について、そのような状態になることを防止、遅延など、および悪化を防ぐことを包含する。
【0156】
本明細書において「処置」とは、ある疾患、障害または状態に対して行う任意の医学的行為をいい、診断、治療、予防、予後などに資するために行う行為が包含される。
【0157】
一般的に、喘息などの呼吸器系の疾患の処置のための薬物治療に用いられる薬剤は、発作緩解を目的とする発作治療薬(レリーバー)と、発作予防を目的とする長期管理薬(コントローラー)とに分類されているが、NF−κBデコイは予防および治療の両方に使用することができることが理解される。これは、特に、実態として発作予防が喘息治療そのものであり、発作緩解剤より本質的な治療薬であることが重要であるからである。また、他の疾患、例えば、鼻炎、COPDなどでも、いったん予防に使用することができることがわかれば、同様に治療にも使用できることが理解され、他方でも、いったん治療に使用することができることがわかれば、予防にも使用することができることが理解される。従って、本発明では、予防または治療についての適切な投与量が分かっている場合は、その量から、当業者は容易に他方の治療または予防についての適切な投与量を算出することができることが理解される。
【0158】
本発明の薬学的組成物は、デコイ化合物が意図される目的を達成するのに有効な量で含有される組成物を含む。「予防的有効量」、「治療的有効量」または「薬理学的有効量」は当業者に十分に認識される用語であり、意図される薬理学的結果(たとえば、治療、予防)を生じるために有効な薬剤の量をいう。従って、予防的有効量は、発症しないようにするために十分な量であり、治療的有効量は、処置されるべき疾患の徴候を軽減するのに十分な量である。所定の適用のための有効量(例えば、治療的有効量)を確認する1つの有用なアッセイは、標的疾患の回復の程度を測定することである。実際に投与される量は、処置が適用されるべき個体に依存し、好ましくは、所望の効果が顕著な副作用をともなうことなく達成されるように最適化された量である。予防的有効量および治療的有効量の決定は十分に当業者の能力内にある。
【0159】
いずれの化合物についても、予防的有効量および治療的有効量は、細胞培養アッセイまたは任意の適切な動物モデルのいずれかにおいて、最初に見積もられ得る。動物モデルはまた、所望の濃度範囲および投与経路を達成するために用いられる。次いで、このような情報を用いて、ヒトにおける投与に有用な用量および経路を決定することができる。
【0160】
予防的有効量および治療的有効量とは、それぞれ、疾患を発症させないに十分なデコイ化合物の量および疾患の徴候または状態を軽減するデコイ化合物の量をいう。このような化合物の治療効果および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、ED50、集団の50%において治療的に有効な用量;およびLD50、集団の50%に対して致死的である用量)によって決定され得る。治療効果と毒性効果との間の用量比は治療係数であり、それは比率ED50/LD50として表され得る。大きな治療係数を呈する薬学的組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータが、ヒトでの使用のための量の範囲を公式化するのに使用される。このような化合物の用量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全くともなわないED50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、デコイの投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用するデコイの種類等により適宜選択されるが、例えば、血液内投与、筋肉内投与、関節内投与では、一般に、1回あたり、1μg〜100mgを1日1回から数回投与することができる。
【0161】
正確な用量は、予防または治療されるべき患者を考慮して、個々の臨床医によって選択される。用量および投与は、十分なレベルの活性部分を提供するか、または所望の効果を維持するように調整される。考慮され得るさらなる因子としては、疾患状態の重症度(例えば、患者の年齢、体重、および性別;投与の食餌制限時間、および頻度、薬物組合せ、反応感受性、および治療に対する耐性/応答)が挙げられる。特定の製剤の半減期およびクリアランス速度に応じて、持続作用性薬学的組成物は、例えば、3〜4日毎に、毎週、または2週間に1回、投与され得る。特定の用量および送達の方法に関するガイダンスは当該分野で公知の文献に提供されている。
【0162】
この様にして得られたデコイを主成分として含有する医薬品は、疾患の種類、使用するデコイの種類等により各種の方法で投与することができ、例えば、喘息、COPD等では、噴霧式吸入器(MDI・BDI)、ネブライザーなどを利用して吸入させることにより投与することができる。例えば、鼻炎では、吸引または吸入させることによって投与することができる。
【0163】
鼻腔、気道、経鼻などを経由した投与方法として現在使用される吸入法を説明する。気道内投与製剤、経気道吸収製剤または経鼻吸収製剤において、薬剤を吸入するためには、通常、薬液を霧状にするか細かい粉体(ドライパウダー)にすることが好ましいが限定されない。一般的には薬液に加工したものはネブライザ(nebulizer)で、粉体に加工したものはガス噴霧式のMDI(Metered dose inhaler)や呼気吸入式のDPI(Dry Powder Inhaler)に充填されて、吸入投与される。
【0164】
粉体に関しては、速く深く吸入するタイプの「ドライパウダー式吸入器(DPI: drypowder inhaler)」および、ゆっくり吸入するタイプの「定量噴霧式吸入器(MDI: metered dose inhaler)」の2 種類が利用されている。
【0165】
DPIはさらに、Multi-dose reservoir (商品名;Turbuhaler, AstraZeneca社製)、Multi-unit dose (商品名;Accuhaler/Diskus,GSK社製)、Unit dose (製造元多数)の3種類に分類されている。
【0166】
インヘイラー(inhaler; 吸入器)は、マウスピースとカートリッジ(チューブ)からなるキットであり、通常、チューブはアルミフォイルで両端を封印されている。使用する前にチューブをマウスピースに装着するとアルミフォイルが破れて、内部の微粉末薬剤を吸引することができる。
【0167】
他方、薬液の吸入は、一般的にネブライザおよびレスピレータ(人工呼吸器;Respirator)などが使用されている。ネブライザで発生される薬剤エアロゾルは、スピードが遅く浮遊しているため、誰にでも吸入しやすいという長所がある。
【0168】
ビーズミルは、容器中にビーズを充填しておき中央の回転軸を回転させてビーズに動きを与え、ここに原料を送り込みビーズで摺りつぶすことにより粉砕、分散を行う装置である。
【0169】
ジェットミルは高圧気流を利用し、粒子を音速前後の速度に気流中で加速して、衝突によって粉砕を行う装置である。
【0170】
アルティマイザー(ultimaizer)は、空気や窒素ガスなどの気体で加圧噴射された粉体同士あるいは加圧したスラリー状の原料同士を、超高速で対向衝突させて微粒子化する装置である。
【0171】
超臨界流体による微粒子製造法は、(必要により溶媒に溶かした)薬剤を高圧容器に入れ、超臨界CO2に溶解した後、ノズルから急速膨張させ噴霧乾燥することにより微粉末を製造する方法である。
【0172】
ここで本発明に用いるドライパウダーの平均粒子径は限定されないが、通常は約0.01〜約50μmであり、好ましくは約0.05〜約30μmであり、さらに好ましくは約0.1〜約10μmである。
【0173】
さらに部位選択的に投与する場合は、気管にて作用させるには一般的に空気力学的平均粒径約10〜30μm、気管支にて作用させるには一般的に約3〜10μm、肺胞にて作用させるには一般的に約3μm以下、好ましくは約2μm以下の均一な粒径であることが好ましい。
【0174】
本発明におけるNF−κBデコイの投与量は限定されないが、例えばドライパウダーを気道内投与製剤または経気道吸収製剤として投与する場合は、通常成人1回あたり10μg〜100mgであり、好ましくは1回あたり50μg〜50mgであり、さらに好ましくは1回あたり10mg以下である。また経鼻吸収製剤、特に鼻炎用点鼻剤として投与する場合には、通常成人1回あたり10μg〜100mgであり、好ましくは1回あたり50μg〜50mgであり、さらに好ましくは1回あたり10mg以下である。これを対象疾患・症状(程度)・年齢・合併症有無などにより適宜増減する。
【0175】
また本発明におけるNF−κBのデコイは裸(naked)で投与されてもよいし、各種ベクター例えばHVJ−Eエンベロープベクターに封入して投与されても良い。
【0176】
本発明におけるドライパウダーの製造にあたっては、通常は賦形剤を用いる。
【0177】
利用する賦形剤はNF−κBデコイに対し不活性なもので、通常医薬品添加物として利用されているものであれば限定されないが、具体的には例えば糖類(ガラクトース、マンノース、ソルボース等の単糖類、乳糖、ショ糖、トレハロース等の二糖類、デンプン、ラフィノース、デキストラン等の多糖類を含む)、糖アルコール(グリセリン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールを含む)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールを含む)、セルロース系高分子(ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースを含む)、非溶解性添加剤(結晶セルロース、キトサン、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンまたはシリカ[酸化ケイ素])等を挙げることができる。
【0178】
これらの中でも、乳糖、ショ糖、トレハロース、マンニトール、キシリトール、結晶セルロース、キトサン、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンまたはシリカ[酸化ケイ素])あるいはそれらの混合物がより好ましい。
【0179】
スプレーの形をしたエアロゾルシステムとしては、例えば推進剤を入れた容器が挙げられるが、推進剤がないエアロゾルシステムも開発されている。さらに、エアロゾルシステムは、例えば推進剤はラクトースのような従来の助剤と共に、活性成分を含んでいる。これらの成分から成る組成物は、エアロゾル吸入剤の特性、つまり、例えば粒径分布、送達速度、粘性などを決定する。
【0180】
エアロゾルは、二相エアロゾル(気体および液体)または三相エアロゾル(気体、液体、および固体または液体)として得ることができる。二相エアロゾルは、液化推進剤に溶かした活性物質の溶液と、霧状推進剤とから成る。溶媒は、例えば、推進剤か、推進剤とアルコールやプロピレングリコール等の共溶媒との混合物を含む。ポリエチレングリコールは、活性物質の溶解度を改善するためによく使用される。
【0181】
三相系は、霧状推進剤と共に、1または複数の活性成分の懸濁液またはエマルジョンをそれぞれ含む。懸濁液は、湿潤剤のような従来の助剤および/または滑石またはコロイドシリカのような固体担体を使用して、推進剤システムに分散した活性物質を含んでいる。可能な場合、推進剤は公知のものであり、オゾン層への損傷作用のない炭水化物を含むことができる。
【0182】
吸入用の溶液が、1〜10μmの範囲のサイズの非常に小さな粒子に霧状にされる場合にのみ、吸入は可能である。細かく分散されたエアロゾルを吸入させることが好ましい。上記以外の従来のエアロゾルの場合には、吸入しないほうが好ましい。エアロゾル吸入剤に関するさらに詳しい情報を得るには、例えば、引用によりその全体を本明細書において援用する薬局方(例えば、日本薬局方、米国薬局方)などを参酌してもよい。
【0183】
本発明に従って使用されるリポソームは、好ましくは0.1μm〜2μm、特に好ましくは0.4μmの範囲のサイズを有する。特に単層リポソームの使用が好ましい。リポソームの調製は、押し出し成形機を使用して、ある種類の高圧ろ過により行なわれる。例えば、リポソームは所望液体中で乾燥脂質フィルムを再構成することにより調製される(例えば、Parthasarathyら、Cancer Chemother.and Pharmacol.1999、43(4)、277−283)。これによると、いわゆる多層リポソーム(つまり水性コアを包囲する数枚の脂質層を有するリポソーム)が得られる。そのようなリポソームはサイズがきわめて均一である。
【0184】
別の局面では、本発明は、肺組織の予防または処置のためのシステムであって、肺投与のための手段、およびNF−κBデコイを肺投与に適した形態で含む、システムを提供する。このようなシステムは、細胞増殖因子の肺投与を実現するシステムであれば、どのような形態であっても良いことが理解される。そのような肺投与を実現する手段としては、例えば、吸入装置、気管支鏡などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0185】
好ましい実施形態では、使用されるNF−κBデコイは、ドライパウダー、リポソーム、微粒子などの任意の形態で使用することができる。
【0186】
1つの実施形態において、本発明の組成物において使用されるNF−κBデコイは、有効な濃度で存在する。このような濃度は、インビトロの実験で簡単に決定することができる。そのような実験としては、例えば、放射性同位体(例えば、I125)で標識したNF−κBデコイをシンチグラムで確認する方法が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは臨床仕様のシンチグラムを使用することが有利である。イヌなどの大型動物での確認を行うことができるからである。
【0187】
好ましい実施形態では、使用されるNF−κBデコイは、肺組織などの目的の組織に選択的に投与される。そのような選択的投与は、本発明のシステムにおける好ましい投与のための手段として記載される好ましい手段(例えば、吸入装置または気管支鏡)を用いて達成され得る。従って、より好ましくは、NF−κBデコイは、所望の組織(例えば、肺など)以外には実質的に投与されない。所望の組織以外にNF−κBデコイが投与されると、予想外の事象が生じ得るからであり、副作用となって発現する可能性があるからである。
【0188】
使用され得る肺投与システムは、本発明のNF−κBデコイを肺に到達させることができる任意のシステムであればどのようなものでもよい。そのような肺投与システムとしては、吸入装置または気管支鏡が挙げられ、例えば、オリンパス株式会社から市販されている気管支鏡システムを用いることができる。
【0189】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0190】
以下実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例は、本発明の例示であって、限定を意図するものではない。
【0191】
(実施例1:デコイの作製)
以下のデコイオリゴデオキシヌクレオチドを作製した。
【0192】
使用したデコイの配列は以下の通りである:
NF−κBデコイ(配列番号1)
5’−CCT−TGA−AGG−GAT−TTC−CCT−CC−3’
3’−GGA−GGG−AAA−TCC−CTT−CAA−GG−5’
NF−κBスクランブルデコイ(配列番号2)
5’−TTG−CCG−TAC−CTG−ACT−TAG−CC−3’
3’−GGC−TAA−GTC−AGG−TAC−GGC−AA−5’
NF−κBデコイ改変体(配列番号3)
5’-GGG(A/G)(C/A/T)T(T/C)(T/C)(C/A/T)C−3’(配列番号3)
3’-CCC(T/C)(G/T/A)A(A/G)(A/G)(G/T/A)G−5’
これらのデコイの溶液を100 mg/バイアルにて、使用時まで凍結(−20℃)保存した。
【0193】
(実施例2:喘息モデルラットに対するNF−κBデコイ治療)
次に、喘息モデルを作製し、本発明のデコイの効果を実証した。喘息モデルは、基本的には、Eur J Pharmacol. 1995 Dec 7;293(4):401−12に記載される方法に基づいて作製した。
【0194】
(動物および感作の方法)
Brown Norwayラット(8週齢〜10週齢;体重200〜300g)は、日本チャールズ・リバー株式会社から得た。ラットは、大阪大学で規定される動物愛護精神にのっとった規定を遵守して飼育および実験した。このラットに、1mlのpyrogenフリーの生理食塩水中に4mgの水酸化アルミニウムとともに1mgのオボアルブミン(OVA;Sigma,grade V)含む溶液を頸部皮下注射をして感作させた。アジュバントとして、Bordetella pertussisワクチン(3×109の熱不活化した細菌を含む)を腹腔内注射した。対照として、オボアルブミンを含まない点以外は同一の溶液をラットに腹腔内注射したものをネガティブコントロールとした。
【0195】
(センダイウイルスエンベロープベクターの調製)
センダイウイルス(HVJ)エンベロープベクター(HVJ−E)は以下のとおりに調製した。手短に述べると、ウイルス懸濁液(1.0×104の赤血球凝集単位(HAU))を、UV照射(99mJ/cm2)を行って不活化し、デコイオリゴヌクレオチド(200μg)および0.3%Triton−Xを混合した。遠心分離後、1mlの平衡塩溶液(BSS;10mM Tris−Cl,pH7.5、137mM NaCl、および5.4mM KCl)で不活化したウイルス懸濁液を洗浄して、界面活性剤および取り込まれなかったオリゴヌクレオチドを取り除いた。遠心分離後、エンベロープベクターを適量のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に懸濁した。このベクターは、使用するまで4℃で保存した。
【0196】
(実験手順)
感作後12日で、ラットを以下のように処置した。口腔気管支注入後、(1)コントロールとしての生理食塩水0.5ml;(2)500μgの裸のデコイ/0.5ml;(3)1.0×104HAU/0.5mlのHVJ−Eで処理したデコイ200μg;(4)2.5×104HAU/0.5mlのHVJ−Eで処理したデコイ500μg;および(5)2.5×104HAU/0.5mlのHVJ−Eを、それぞれ投与した。14日目にラットを5%のエアゾール化したオボアルブミンでネブライザー(PARI turbo)を用いて5分間チャレンジした。気流の速さは7〜8リットル/分の空気であった。これにより気道過敏を誘発した。この実験手順のフローチャートを、図1に示す。
【0197】
(デコイの導入)
デコイは、経鼻吸入(エアゾールによる)または挿管(液体、エアゾール,
レスピレータ)を用いてラットに投与した。
【0198】
第一の実験において、デコイは、2mg×1回、1mg×2回または2mg×2回(エアゾール)、あるいは0.5mg×1回(液体投与)投与した。
【0199】
第二の実験において、デコイは、HVJ−Eを用いて上述のように調製したものを利用して投与した。
【0200】
(気管支肺胞洗浄(BAL))
BAL流体をオボアルブミンチャレンジの後24時間で収集した。ラットを腹腔内にペントバルビタールナトリウムを過剰量投与することによって安楽死させた。BALを5mlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS;137mM NaCl, 10mM リン酸ナトリウム緩衝剤 pH 7.4, 2.7mM KCl)を用いて4回行った。BAL流体の総細胞数は、赤血球計を用いて決定した。示差細胞計数を、Diff−Quick染色(IBMC Inc.,Chicago,IL:Catalog # K7124)で染色した300細胞より多い細胞を計数することによって行った。
【0201】
(結果)
図2に、第一の実験におけるBAL中の好酸球の%の挙動を示す。オボアルブミンチャレンジによって、統計学的に有意に好酸球増大が見出されることがわかった(p<0.01)。このチャレンジに対して、エアゾール処置および液体処置を行ったところ、それぞれ統計学的に有意な好酸球増大の抑制が見出された(いずれもp=0.08)。従って、投与方法にかかわらず、本発明のデコイは、喘息のような好酸球の異常疾患に対して効果を有することが実証された。
【0202】
次に、図3に、別の投与方法としてセンダイウイルスを用いた場合の本発明のデコイの効果を示す。オボアルブミンチャレンジに対して、上述のHVJ−Eデコイ処方物による処置を行ったところ、裸のデコイよりもHVJ−Eのほうが顕著に高い効果を示した(図4も参照)。また、HVJ−E処方物のうち、量を2.5倍にしたものもまた、統計学的に有意に高い治療効果が示された。HVJ−Eによる効果は、ベクター自体の効果ではないことが示されたことから、本発明では、HVJ−Eでの処方がより治療効果が高いことが明らかになった。
【0203】
(実施例3:改変体での処置)
次に、喘息のモデルラットにおいて、上述の実施例で用いたデコイに代えて、改変体を用いて同様の効果が示されるかどうかを確かめた。ここでは、改変体としてNF−κBのコンセンサス配列であるGGG(A/G)(C/A/T)T(T/C)(T/C)(C/A/T)C(配列番号3)を使用した。したがって、NF−κBに認識される配列であればどのようなものであっても、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する疾患、障害および/または状態、ならびに好酸球の異常に関連する疾患、障害および/または状態を処置または予防することができることが示された。
【0204】
使用したデコイが異なる点以外は上記実施例に記載されるのと同様に実験を行ったところ、喘息モデルにおいて、治療および予防効果が示されたことが明らかになった。従って、本発明は、特定のNF−κBデコイに限定されず、生物学的活性(すなわち、転写因子配列との結合活性)が維持される限り、NF−κBの改変体であっても同様の治療および予防効果を有することが示された。
【0205】
(実施例4:ラット喘息モデルに対するNF−κBデコイの効果)
次のようにして、NF−κBデコイのラット喘息モデルに対する効果を明らかにした。本実施例では、裸のNF−κBデコイの粉末吸入剤を投与した。
【0206】
(NF−κBデコイ粉末吸入剤の調製)
NF−κBデコイは100 mgをジルコニアビーズ(φ3.0 mm)18 gとともに透明ガラス瓶(胴径25.5 mm、高さ48.5 mm)に入れて、ボールミル回転架台(アサヒ理化製作所製)にて、毎分200回転で10時間粉砕した。
【0207】
乳糖(商品名;Pharmatose 450M、DMV社製)は50gをジェットミル(商品名;A−Oジェットミル(株)セイシン企業製)で粉砕した。
【0208】
このようにして得られたNF−κBデコイ、及び乳糖の粒径を調べるために走査電子顕微鏡(S−570、日立製作所製)による観察を行った。その結果を写真として図5(NF−κBデコイ)、図6(乳糖)として示した。写真の倍率は1000倍であり、粒子サイズはそれぞれ10μm以下であった。一般に、10μm以下にすることが、気管支への投与に望ましいとされるがそれに限定されない。また、3μm以下にすると肺胞への投与も可能となることが一般に知られている。
【0209】
粉砕したNF−κBデコイ100 mg、粉砕した乳糖3700 mgおよび軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル(株)製)200 mgを小型粉砕機(柴田科学(株)製)にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(25 μg/mg)を得た。
【0210】
NF−κBデコイ混合粉体(25 μg/mg)1000 mg、粉砕した乳糖2850 mgおよび軽質無水ケイ酸150 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(6.25 μg/mg)を得た。
【0211】
NF−κBデコイ混合粉体(6.25 μg/mg)800 mg、粉砕した乳糖3040 mgおよび軽質無水ケイ酸160 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(1.25 μg/mg)を得た。
【0212】
NF−κBデコイ混合粉体(25 μg/mg)400 mg、粉砕した乳糖3420
mgおよび軽質無水ケイ酸180 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(2.5 μg/mg)を得た。
【0213】
NF−κBデコイ混合粉体(2.5 μg/mg)400 mg、粉砕した乳糖3420 mgおよび軽質無水ケイ酸180 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(0.25 μg/mg)を得た。
【0214】
NF−κBデコイ混合粉体(0.25 μg/mg)800 mg、粉砕した乳糖3040 mgおよび軽質無水ケイ酸160 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(0.05 μg/mg)を得た。
【0215】
(実験方法)
雄性BNラットに抗原オボアルブミンOA(1mg/rat)を大腿筋肉内と百日咳菌(1.25×1010個/rat)を腹腔内投与し、能動感作した。感作12、13日後に生理食塩液に0.5%に溶解した抗原を麻酔下にて吸入して、アレルギー反応を惹起した。抗原吸入3日後にアセチルコリン(ACh)に対する気道反応性を検討した。AChに対する気道反応性は2分間のインターバルをおき、0.1mg/mLの濃度より2倍公比で濃度を上昇させ、10秒間ずつ吸入させた。ACh吸入開始前の気道内圧から5cmH2O上昇させる濃度のAChをProvocation Concentration
5cmH2O (PC5cmH2OACh) ACh (mg/mL)として算出した。気道反応性の測定後、気道洗浄を施し、気道への浸潤細胞数を計測した。陰性対照として感作ラットに生理食塩液を吸入した群と、control群として感作ラットに抗原を吸入し、溶媒を投与した群を設定した。
【0216】
そして、上記調製方法にて作製したNF−κBデコイ混合粉体(0.05、0.25、1.25、6.25 μg/mg) 4 mgを、抗原吸入3日前に麻酔下のラットに吸入させた。なお、本実験に使用したBNラットの平均体重は200gであったので、NF−κBデコイ混合粉体の投与量はそれぞれ1μg/kg、5μg/kg、25μg/kg、125μg/kgに相当する。
【0217】
(実験結果)
図7および図8(図7、図8:ラット喘息モデルに対するNF−κBデコイの効果 ## : p<0.01 vs saline group (Student’s t−test) *, ** : p<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test))に示すように、陰性対照(saline)群に比べて、control群では明らかな気道反応性の亢進(気道過敏性)と好酸球を主体とした炎症細胞の浸潤が観察された。NF−κBデコイは5μg/kgより用量依存的にこれらの変化を抑制し、25、125μg/kgで最大抑制効果に達していた。これにより、ラット喘息モデルに対するNF−κBデコイ粉末吸入剤での有効性が明らかにされた。
【0218】
【表2】
(実施例5:アレルギー性鼻炎モデルに対するNF−κBデコイの効果)
本実施例では、次のようにして、NF−κBデコイのラット鼻炎モデルに対する効果を明らかにした。
【0219】
(実験方法)
雄性SDラットに抗原2,4−ジニトロフェニルオボアルブミン(Dinitrophenyl ovalbumin)(DNP−OA)(1mg/rat)および百日咳菌(1.25×1010個)を四肢足蹠皮下に4分注し、能動感作した。感作9日後に抗原を両側点鼻し(10%DNP−OA×0.02mL/site×2site)、アレルギー反応を惹起した。鼻炎の始まる惹起6時間後に色素(ポンタミンスカイブルー)を静脈内投与し、そのピークとなる9時間後に解剖した。鼻中隔周辺組織を摘出し、色素の漏出量を測定した。陰性対照として感作ラットに生理食塩液を点鼻した群と、control群として感作ラットに抗原を点鼻し、溶媒を投与した群を設定した。NF−κBデコイを5および125μg/mLの濃度に生理食塩液で溶解し、片側に20μLずつラットあたり0.2μg、5μgの投与となるよう3日前に点鼻投与した。なお、本実験に使用したSDラットの平均体重は200gであったので、NF−κBデコイの投与量はそれぞれ1μg/kg、25μg/kgに相当する。
【0220】
(実験結果)
図9(ラット鼻炎モデルに対するNF−κBデコイの効果;## : p<0.01 vs saline group (Student’s t−test)*, ** : p<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test))に示したように、陰性対照(saline)群に比べて、control群では明らかな血管透過性の亢進が観察され、これにより鼻炎の症状を呈することが確認できた。それに対してNF−κBデコイは1μg/kgより用量依存的にこの血管透過性の亢進を抑制し、25μg/kgではほぼ完全に血管透過性の亢進を抑制していた。すなわち、ラット鼻炎モデルにおけるNF−κBデコイの有効性が明らかにされた。
【0221】
【表3】
(実施例6:ビーグル犬COPDモデルの作製)
ビーグル犬(体重9〜14kg)に動物用麻酔薬(セラクタール(バイエル))を皮下注射して全身麻酔した。気管内挿管を行い気管支鏡を気管支に挿入する。豚膵エラスターゼ50mg(3750単位)(ナカライテスク)を生理食塩水5mlに溶解し、噴霧カテーテル(オリンパスなどから入手可能)を末梢気管支までもって行き、5〜10回に分けて右肺全体に散布する。散布後1ヶ月程度を経過したものをCOPDモデル肺として利用した。左肺を正常肺として比較を行う。
【0222】
(実施例7:ビーグル犬モデルへのNF−κBデコイの投与)
NF−κBデコイを実施例4に記載の方法で粉砕し、粒径3μm以下の微粉末を製造した。
【0223】
NF−κBデコイ200μgを、NF−κBデコイ混合粉体としてCOPDモデル肺に、気管支鏡を使い右肺全体に5〜10回に分けてびまん性に散布する。NF−κBデコイによる治療の前後での変化を見るべく、MRIにより血流を測定し比較する。
【0224】
(MRIにおける比較結果)
MRIを使用し、ビーグル犬を全身麻酔した後、仰臥位で撮影する。右内頚動脈に静脈ルートを確保し、一般的な市販の造影剤を注入すると約3秒後より肺内血管が造影され、造影効果により、MRIの信号値が高くなる。MRIの信号値は血流量に比例するため、血流量が多い部位ほど信号値は高くなる。肺動脈の血流量には個体差があるため、その個体差をなくすべく、投薬した右肺を正常の左肺で割ったMRI信号値の左右比で比較する。市販の造影剤3ml注入後MRIの撮影を開始する。造影剤を注入後約120秒にわたり、100枚の環状断面を撮影し、肺実質の限局した区域の信号値を連続的に測定し、グラフ化する。MRIの肺内血流量の左右比も算出する。これらの結果より左右の信号値の比率を測定したところ、正常犬では左右の肺に血流の差がなく、COPDモデルでは右肺の血流が低下し、NF−κBデコイ治療モデルでは右肺の血流が改善し正常の状態に近づくことが観察される。すなわち、NF−κBデコイを投与することにより、血流の有意な改善が認められる。
【0225】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0226】
NF−κBに制御される遺伝子の発現に起因する疾患あるいは好酸球異常に関連する疾患を処置する薬学的組成物およびそれに用いるキャリアが提供される。本発明の薬学的組成物の局所投与は、非侵襲的であって、繰り返し可能な治療方法を提供する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体上に存在する転写調節因子、特にNF−κBが結合する部位と特異的に結合する化合物(例えば、核酸およびその類似体)を含む組成物およびその使用方法に関する。より詳細には、本発明は、NF−κBデコイ化合物を含む組成物およびその使用方法に関する。
【0002】
特に本発明は、気道炎症、気道狭窄や鼻腔炎症を抑制する治療・改善・予防剤およびその使用方法として優れた効果を有しており、具体的には、例えば喘息や鼻炎の根本治療を目指す治療・改善・予防剤を提供する。
【背景技術】
【0003】
1993年3月、WHO(世界保健機構)は「世界のあらゆる地域において喘息の有病率が上昇しているのは事実である」として、55億の世界人口の中で喘息患者が1億人を超えたと発表した(「喘息管理の国際指針 喘息管理・予防のグローバルストラテジー NHLBI/WHOワークショップレポート」牧野荘平監修、国際医学出版、1995年)。とりわけ、小児での有病率が増加しているとしている。
【0004】
日本でも小児喘息の増加傾向は明らかで、文部省の学校保健調査によると、小児喘息の被患率は1994年(平成6年)が最も高く、昭和50年代と比較すると2〜4倍になっている。
【0005】
また、厚生省発表の1993年10月時点の総患者数では106万6千人(男58万6千人、女48万人)と推計されており、人口の0.9%が喘息に罹患している計算になる。
【0006】
さらに調査方法によっても異なり、日本の喘息患者数は大体200〜300万人(全人口の約2〜3%)で、喘息で亡くなる人は年間6,000〜7,000人との推定もある。
【0007】
このように国内外を問わず喘息は増加傾向にあり、死亡例も減少しておらず、特に難治性喘息では喘息死の危険も高いことが知られている。
【0008】
気管支喘息の病態形成には、気道粘膜での炎症が重要な役割を果たしている。
【0009】
すなわちアレルゲンによって刺激を受けた気道粘膜では、肥満細胞や好酸球などの炎症細胞が各種サイトカインや組織障害性蛋白などを産生するが、この時、細胞内では、炎症性刺激によって活性化されたNF−κB、AP−1などの転写因子が、各種サイトカインなどの様々な遺伝子発現を亢進させている。
【0010】
本来、サイトカイン類などの炎症性因子は、免疫に関与する細胞同士の相互作用をになう因子であり、アレルゲンや微生物に対する免疫機構で重要な役割を持っている。
【0011】
しかしこれらの因子を介した過剰なアレルギー反応や炎症は、気管支喘息での発作や気道狭窄のように不都合な現象を生じる。
【0012】
肥満細胞および好酸球は、サイトカインに対する受容体を細胞膜に持っており、他の細胞もしくは自己が産生したサイトカインを受容すると、この情報が細胞内シグナリングを介して核内へと伝達されて各種の遺伝子の転写が亢進し、その遺伝情報に基づいてさらに新たなサイトカイン、ケモカイン、細胞接着分子などが産生される。
【0013】
この時、核内で遺伝子情報の転写活性を調節しているのが転写因子であり、気道炎症で重要とされている転写因子には、NF−κBやAP−1、NF−AT (nuclear factor of activated T cells)などがあり、特にNF−κBが注目されている。
【0014】
ここでNF−κBを介する遺伝子転写亢進によって産生される因子は、炎症性サイトカイン、ケモカイン、細胞障害性蛋白、細胞接着分子、免疫に関与する細胞膜受容体など多岐に亘っている。
【0015】
これまでの研究により、ヒト肺肥満細胞(mast cell; MC)では炎症性抗体刺激でIgE依存性のNF−κBが活性化され、TNF−α(腫瘍壊死因子α; tumor necrosis factor−α)がNF−κB活性化を促進することを認められている。また、好酸球ではNF−κB活性化にGM−CSF(顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子; Granulocyte Macrophage Colony Stimulating Factor)が重要であることも認められている。(J. Immunol.,169(9), 5287−93, 2002.)。
【0016】
気道中に存在するTNF−αは,IL−1によく似た生物学的な作用を有し、気道の反応性の亢進と気道の炎症と関係がある。また,IL−1やIL−4で活性化された気道上皮や内皮に表現される接着分子、特にVCAM−1は気道の好酸球の浸潤をもたらし、気道の反応性の亢進に関与している。なお動物実験では、ICAM−1の抗体を投与すると、好酸球の浸潤や気道の反応性を抑制するという結果が得られている。
【0017】
従来の喘息治療は炎症をいかに制御するかを主体としており、長期管理のために継続的に使用する長期管理薬(コントローラー)と、喘息発作治療のために短期的に使用する発作治療薬(レリーバー)に大別される。
【0018】
具体的には、吸入ステロイド剤や抗アレルギー剤、徐放性テオフィリン剤などがコントローラーとして汎用されており、レリーバーとして吸入β2受容体刺激剤やアミノフィリン、経口・静注ステロイド剤などが用いられている。
【0019】
しかしレリーバーによる発作緩解作用はともかく、従来のコントローラーによる治療では、前記のように患者数は増加傾向にあり死亡例も減少していないので、十分な効果とは言えなかった。
【0020】
このため喘息の治療研究は、従来の対症的治療から気道炎症を抑制する予防的治療に、最近はシフトしつつある。
【0021】
代表的な転写因子であるNF−κBは、p65とp50のヘテロダイマーからなる転写調節因子である。NF−κBは、通常、その阻害因子IκBが結合した形で細胞質内に存在し、その核内移行が阻止されている。ところが、何らかの原因で、サイトカイン、虚血、再灌流などの刺激が加わると、IκBがリン酸化を受けて分解され、それによってNF−κBが活性化されて核内に移行する。核内に移行したNF−κBは、染色体上のNF−κB結合部位に結合し、その下流にある遺伝子の転写を促進する。NF−κB結合部位の下流にある遺伝子として、例えば、IL−1、IL−6、IL−8、腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症性サイトカイン類、VCAM−1、ICAM−1などの接着因子が知られている。
【0022】
気管支喘息、アレルギー性喘息、小児喘息などの喘息もまた、多くの罹患患者がいるにもかかわらず、根本的な処置が困難な疾患であり、根本的治療が待ち望まれている疾患のひとつである。現在の治療は、対症療法的なところに負うところが大きく、発作時にテオフィリンなどの気管支拡張薬を投与することで対処されることが多い。しかし、このような対症療法では、発作が起こってからの対処とならざるを得ず、患者の症状を完全に抑えることができず、しかも完全治癒させることもできない。従って、原因を断ち切る療法の登場が待ち望まれている。
【0023】
次に、鼻炎が起ると、鼻づまり、鼻水、くしゃみ等の風邪様症状のほかに、鼻出血、嗅覚障害、味覚障害、また頭痛や集中力が長続きしないなどの諸症状を発現する。
【0024】
鼻炎はその原因/起因物質あるいは臨床症状により、アレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、鼻中隔彎曲症等、何種類かに分類されている。
【0025】
鼻炎の代表例であるアレルギー性鼻炎は、ホコリ、ダニ、花粉などの吸入性抗原の吸入により、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりなどの鼻症状が起こったものであり、最初は抗原物質を吸入しても無症状のことが多いが、吸入する毎に徐々に体内の抗体が多くなり、その抗体価があるレベルを超えたときに、その抗原物質を吸入すると発症する。
【0026】
病態は、基本的にアレルギー性炎症であると考えられている。(Rhinology,
41(2), 80−6, 2003.)
国内におけるスギ花粉症の患者は、取り分け増加の一途をたどり、1500万人以上と言われており、特に首都圏では5人に1人が花粉症であるといわれる程である。その原因としては以下が考えられている。
(1) スギ花粉の飛散量が増加している。
(2) ディーゼル車の排気ガスによる大気汚染がIgE抗体を産生しやすくしている。
(3) ストレスの増加でアレルギー反応を起こしやすくさせる。
(4) 食生活の欧米化がIgE抗体の産生を促している。
(5) 寄生虫感染の減少。
【0027】
アレルギー性鼻炎とは、鼻腔粘膜が特定の物質に対して反応を起こす鼻炎であり、くしゃみ、鼻水、鼻づまりが3大症状で、目のかゆみや充血、全身症状(食欲不振、疲れ)などを伴うこともある。
【0028】
アレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)には、花粉(スギ、ヒノキなど)のほか、ブタクサ、ダニ、ハウスダスト、ペットの抜け毛など身の回りのありとあらゆるものがあり、季節性(例えば、春先のスギ花粉など)のものと通年性のものに分けられている。
【0029】
鼻炎の処置方法は種々提案されてきているが、アレルゲンの除去あるいは対症療法などしか現在のところなく、対症療法でも、副作用のあるものが多い。
【0030】
続いて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、世界の死亡原因の第4位にランクされる病気であるにもかかわらず、気付かないまま重症に陥る患者が多く、21世紀の重大な健康問題となっている。米国では、COPDによる死亡率は年齢とともに高まり、45歳以上の死亡原因においては、年齢層にもよるが第4位または第5位となっている。1965年から1998年の間に、他の疾患による死亡率は減少しているのに対し、COPDによる死亡率だけが著しく増加しており、その根本的解決が熱望されている。
【0031】
COPDは近年患者数が増加しており、今後更に患者の増加が見込まれる疾患である。現状において根本的な治療方法は存在せず、社会的医療費の負担も大きい。本疾患は不可逆的な呼吸の気流制限により特徴付けられる病的状態である。気流制限は、通常進行性で、吸入された有害なガスの量や種類により程度は異なる。気流制限は吸入ガスに反応した末梢気道の炎症反応により生じる肺実質の破壊により起こる。世界保健機構と世界銀行が行った調査によると1990年の世界有病率は、人口千人当たり男性9.34人、女性7.33人である。現在増加傾向にあり1990年の死因の第6位から、2020年には第3位に上昇する予測である。日本においても、現在約5万人がこの疾患により在宅酸素療法を受けている。患者数は1996年の厚生省の統計では、22万人とされていたが、2001年に発表された肺疾患疫学調査研究会が行った調査によると、COPD患者の推定数は、日本において530万人である。また、COPDの有病率は40歳以上の8.5%と、世界的な水準に達している。これまで日本ではCOPDは少ないと考えられていたが、実際には多くの患者がいるにもかかわらず、診断を受けていないだけであり、実際の患者数に鑑みれば、その根本的治療に対する要望はますます高まっているといえる。
【0032】
COPDとは、息をするときに空気の通り道となる「気道」に障害が起こって、ゆっくりと呼吸機能が低下する疾患である。以前は「肺気腫」、「慢性気管支炎」とされていた疾患を、総称してCOPDと呼ぶようになっている。
【0033】
COPDは、ありふれた症状で始まり、ゆっくりと進行するため、異常を感じて受診したときには重症に陥っている場合が多い「肺の生活習慣病」であるといえる。COPDは、重症になると息苦しさのために行動の自由が奪われたり、全身に障害があらわれるなど、たいへんな苦しみをともなう疾患であり、症状の改善という観点からの治療も待ち望まれている。
【0034】
COPDに対する治療は、現在対症療法および生活改善などの受動的手法しかなく、積極的にまたは根本的に治癒させる方法はまだない。例えば、喫煙などのCOPDリスクの高い生活習慣を断つことなどが推奨されている。このほか、呼吸を楽にする薬物治療、リハビリテーション、酸素療法といった対症治療が行われている。呼吸器感染症を防ぐためのワクチン接種、合併症の治療なども行われている。最重症患者には、条件が揃えば外科手術が検討される場合もあるが、症状の改善は満足いく状況とはいいがたい。
【0035】
このように、COPDは治療法として現在のところ有効なものはなく、この疾患の進行を有効に遅らせる手立てもないのが現状である。上述のように、今日においても、行われている治療は酸素吸入、対外式陽圧換気などの対症療法が行われているのみである。上述したように、場合によっては外科的に病変部の切除も試みられているが、長期予後に改善は認めないとの報告が多い。また薬剤としても気管支拡張剤、去痰剤などの投与が行われているが、効果は限定的である。
【0036】
特許文献1(WO03/105780号公報)および特許文献2(US6303582号公報)は、核酸を微粒子化する技術を開示するが、デコイのような小さな核酸が炎症性疾患に対する機能を保持しつつ微粒子化され得るかどうか全く記載していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する呼吸器系の疾患(例えば、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性の疾患、障害、症状など)を処置するために適した組成物およびその使用法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明は、NF−κBデコイを主成分として含有し、NF−κBにより制御される遺伝子の発現に起因する呼吸器系の疾患、障害および/または症状を処置(治療および予防)するための組成物および該疾患の処置方法を提供する。
【0039】
本発明者らは、NF−κBにより制御される遺伝子の発現に起因する呼吸器系の疾患、障害および/または症状または好酸球および/または好中球の異常に関連する疾患、障害および/または症状を処置するために、NF−κBのデコイを投与することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0040】
本発明は、NF−κBに制御される遺伝子の発現に起因する疾患、障害および/または状態を治療および予防するための薬学的組成物に関し、この組成物は、NF−κBのデコイまたはその誘導体、改変体もしくはフラグメント、および薬学的に受容可能なキャリアを含み、該誘導体、改変体もしくはフラグメントは、生物学的活性を有するデコイである。
【0041】
本発明はまた、好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための薬学的組成物であって、NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物に関する。
【0042】
好ましくは、上記疾患は、喘息、COPDまたは鼻炎である。
【0043】
好ましくは、上記疾患は、好酸球の異常に関連する疾患である。そのような好酸球の異常に関連する疾患としては、例えば、喘息(気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息(ステロイド抵抗性喘息;SRA)、非アレルギー性喘息(内因性喘息、外因性喘息、例えば、アスピリン喘息、心臓性喘息、感染型喘息))、他の好酸球異常(例えば、鼻炎などのアレルギー性疾患)が挙げられる。
【0044】
好ましくは、上記薬学的に受容可能なキャリアは親水性ポリマー、非溶解性またはリポソーム、炭水化物または非溶解性添加剤である。
【0045】
好ましくは、上記薬学的に受容可能なキャリアは、リポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトールまたはキシリトールから選ばれた1種以上である。
【0046】
好ましくは、上記NF−κBのデコイが、配列番号1で表されるデコイである。
【0047】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である。
【0048】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、COPD、喘息または鼻炎である。
【0049】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、COPDである。
【0050】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、喘息である。
【0051】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、鼻炎である。
【0052】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状は、気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息、非アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息、アスピリン喘息、心臓性喘息および感染型喘息からなる群より選択される喘息、またはアレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)および鼻中隔彎曲症からなる群より選択される鼻炎である。
【0053】
別の局面では、本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する疾患を治療および/または予防するための、あるいは、好酸球の異常に関連する疾患、障害および/または状態を、治療および/または予防するための、あるいは該治療および/または予防のための薬学的組成物の調製のための、NF−κBのデコイの使用に関する。
【0054】
別の局面において、本発明は、本発明の上記組成物を含み、該組成物は、呼吸器へ投与されるために適合される。
【0055】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、気道内投与または経気道吸収を含む。
【0056】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする。
【0057】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む。
【0058】
好ましくは、上記組成物は、ドライパウダーとして提供される。
【0059】
好ましくは、上記ドライパウダーが、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、アルティマイザー(ultimaizer)、乳鉢、石臼、噴霧乾燥および超臨界流体からなる群より選択される手段を用いて製造された微粒子であることを特徴とする。
【0060】
好ましくは、上記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.01〜約50μmであることを特徴とする。
【0061】
好ましくは、上記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.05〜約30μmであることを特徴とする。
【0062】
好ましくは、上記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.1〜約10μmであることを特徴とする。
【0063】
好ましくは、上記製剤は投与量が1回あたり10μg〜100mgである。
【0064】
好ましくは、上記製剤は投与量が1回あたり50μg〜50mgである。
【0065】
好ましくは、上記製剤は投与量が1回あたり10mg以下である。
【0066】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、経鼻吸収を含む。
【0067】
好ましくは、上記製剤は、点鼻剤、鼻用スプレー剤、ネブライザー用剤、レスピレータ用剤および粉体投与製剤からなる群より選択される製剤であることを特徴とする。
【0068】
好ましくは、上記製剤は、鼻炎用点鼻剤であることを特徴とする。
【0069】
好ましくは、本発明では、NF−κBのデコイがHVJ-Eエンベロープベクターに封入されていることを特徴とする。
【0070】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、肺投与を含む。
【0071】
1つの局面において、本発明の組成物と、呼吸器に上記組成物を投与するための手段とを備える、呼吸器処置のためのデバイスを提供する。
【0072】
好ましくは、上記呼吸器への投与手段は、肺投与手段、経気道内投与手段、経気道吸収手段および経鼻吸収手段からなる群より選択される手段を含む。
【0073】
好ましくは、上記呼吸器への投与手段は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)を含む。
【0074】
別の局面において、本発明は、NF−κBのデコイを含む粒子を製造するための方法であって、A)上記デコイおよび薬学的に受容可能なキャリアを提供する工程;B)上記デコイおよびキャリアを乾燥させ、粒子化するに十分な温度に加熱する工程;C)所望の粒径を有する粒子を取り出す工程、を包含する、方法に関する。
【0075】
好ましくは、上記温度は、50℃以下であることを特徴とする。
【0076】
好ましくは、上記温度は、100℃以下であることを特徴とする。
【0077】
好ましくは、上記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.01〜約50μmであることを特徴とする。
【0078】
好ましくは、上記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.05〜約30μmであることを特徴とする。
【0079】
好ましくは、上記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.1〜約10μmであることを特徴とする。
【0080】
別の局面において、本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための方法であって、A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、を包含する、方法に関する。
【0081】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である。
【0082】
好ましくは、上記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である。
【0083】
好ましくは、上記投与は、気道内投与、経気道吸収および経鼻吸入からなる群より選択される投与方法を包含する。
【0084】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする。
【0085】
好ましくは、上記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む。
【0086】
好ましくは、上記投与は、点鼻、鼻用スプレー、ネブライザー、レスピレータおよび粉体投与からなる群より選択される手段により行われることを特徴とする。
【0087】
別の局面において、本発明は、好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための方法であって、A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、
を包含する、方法を提供する。
【0088】
別の局面において、本発明は、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用に関する。
【0089】
別の局面において、好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用に関する。
【発明の効果】
【0090】
本発明により、気道炎症性、気道狭窄性、鼻腔炎症性疾患などのような呼吸器系疾患を処置(治療および予防)することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1A】図1は、喘息モデルを使用した場合に本発明の薬学的組成物の効果を示す実験のプロトコル例である(図1A)。図1Bおよび図1Cには、デコイ吸入の様子を示す。
【図1B】図1は、喘息モデルを使用した場合に本発明の薬学的組成物の効果を示す実験のプロトコル例である(図1A)。図1Bおよび図1Cには、デコイ吸入の様子を示す。
【図1C】図1は、喘息モデルを使用した場合に本発明の薬学的組成物の効果を示す実験のプロトコル例である(図1A)。図1Bおよび図1Cには、デコイ吸入の様子を示す。
【図2A】図2は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図2Aおよび図2Bには、好酸球の計数のための基本データを示す。図2Cに示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、エアゾール処置(2mg×2)、および液体処置(0.5mg×1)の結果を示す。
【図2B】図2は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図2Aおよび図2Bには、好酸球の計数のための基本データを示す。図2Cに示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、エアゾール処置(2mg×2)、および液体処置(0.5mg×1)の結果を示す。
【図2C】図2は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図2Aおよび図2Bには、好酸球の計数のための基本データを示す。図2Cに示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、エアゾール処置(2mg×2)、および液体処置(0.5mg×1)の結果を示す。
【図3A】図3は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図3A(好酸球細胞数)および図3B(好酸球%)に示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、裸のデコイ500μg、HVJ(200;HVJ−E 10000HAUおよびデコイ200μgを含む)、HVJ(500;HVJ−E 25000HAUおよびデコイ500μgを含む)およびベクター(HVJ−E 25000HAUのみ、デコイなし)の結果を示す。#は、オボアルブミンチャレンジに対する統計学的有意性を示す。
【図3B】図3は、オボアルブミンチャレンジ動物の気管支肺胞洗浄液中での本発明の薬学的組成物の効果を示す結果である。図3A(好酸球細胞数)および図3B(好酸球%)に示す本発明の効果を示す図では、左から、コントロール、オボアルブミンチャレンジ、裸のデコイ500μg、HVJ(200;HVJ−E 10000HAUおよびデコイ200μgを含む)、HVJ(500;HVJ−E 25000HAUおよびデコイ500μgを含む)およびベクター(HVJ−E 25000HAUのみ、デコイなし)の結果を示す。#は、オボアルブミンチャレンジに対する統計学的有意性を示す。
【図4】図4は、デコイによる好酸球の挙動の例示を示す。
【図5】図5は、本発明のNF−κBデコイの粉末吸入剤調製結果を示す。
【図6】図6は、対照として用いた乳糖の粉末吸入剤調製結果を示す。
【図7】図7は、ラット喘息モデル(AHR)に対するNF−κBデコイの効果を示す。記号の説明は以下の通りである。##: p<0.01 vs saline group (Student’s t−test);*, ** : それぞれp<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test)。
【図8】図8は、ラット喘息モデル(BALF)に対するNF−κBデコイの効果を示す。記号の説明は以下の通りである。##: p<0.01 vs saline group (Student’s t−test);*, ** : それぞれp<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test)。
【図9】図9は、ラット鼻炎モデルに対するNF−κBデコイの効果を示す。記号の説明は以下の通りである。##: p<0.01 vs saline group (Student’s t−test);*, ** : それぞれp<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test)。
【0092】
(配列表の説明)
配列番号1は、NF−κBデコイである。
【0093】
配列番号2は、NF−κBスクランブルデコイである。
【0094】
配列番号3は、NF−κBデコイ改変体である。
【0095】
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
以下に本発明の最良の形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0097】
以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0098】
本発明で用いられる用語「デコイ」または「デコイ化合物」とは、NF−κBが結合する染色体上の部位、あるいはNF−κBに制御される遺伝子の他の転写調節因子が結合する染色体上の部位(以下標的結合部位という)に結合し、NF−κBの標的結合部位への結合について拮抗する化合物をいう。代表的には、デコイまたはデコイ化合物は、核酸およびその類似体である。
【0099】
デコイが核内に存在する場合、転写調節因子の標的結合部位への結合について、デコイが転写調節因子と競合し、その結果、転写調節因子の標的結合部位への結合によってもたらされる生物学的機能が阻害される。デコイは、標的結合配列に結合し得る核酸配列を少なくとも1つ含む。標的結合配列への結合活性を有する限り、デコイは、本発明の薬学的組成物の調製に用いることができる。
【0100】
好ましいデコイの例として、5’−CCT−TGA−AGG−GAT−TTC−CCT−CC−3’(配列番号1)(NF−κBデコイ)またはこれらの相補体を含むオリゴヌクレオチド、これらの変異体、またはこれらを分子内に含む化合物が挙げられるがそれらに限定されない。オリゴヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよく、またはそのオリゴヌクレオチド内に核酸修飾体(「誘導体ヌクレオチド」)および/または擬核酸を含むもの(「誘導体オリゴヌクレオチド」)であってもよい。また、これらのオリゴヌクレオチド、その変異体、またはこれらを分子内に含む化合物は、1本鎖でも2本鎖であってもよく、線状であっても環状であってもよく、分岐していても直鎖状であってもよい。変異体とは上記配列の一部が、変異、置換、挿入、欠失しているもので、NF−κBまたはNF−κBに制御される遺伝子のその他の転写調節因子が結合する核酸結合部位と特異的に拮抗する核酸を示す。さらに好ましいNF−κBに制御される遺伝子のその他の転写調節因子のデコイとしては、上記核酸配列を1つまたは複数含む2本鎖オリゴヌクレオチドまたはその変異体が挙げられる。代表的なNF−κBの改変体としては、配列番号3に記載される核酸配列を有するものが挙げられるがそれらに限定されない。
【0101】
本発明で用いられるオリゴヌクレオチドは、リン酸ジエステル結合部の酸素原子をイオウ原子で置換したチオリン酸ジエステル結合をもつオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、またはリン酸ジエステル結合を電荷をもたないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチド等、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクリオチド等が含まれる。
【0102】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら (1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory
Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0103】
本明細書において、「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、特に言及する場合を除き交換可能に用いられ、一連のヌクレオチドからなる高分子(重合体)をいう。ヌクレオチドとは、リン酸エステルになっているヌクレオシドをいう。塩基部分としては、ピリミジン塩基またはプリン塩基のヌクレオチド(ピリミジンヌクレオチドおよびプリンヌクレオチド)がある。ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドとしては、DNAまたはRNAが挙げられる。上述したように、デコイは、代表的には、この核酸の形態を採る。
【0104】
また、ヒトゲノムプロジェクトのようなゲノムデータ、GenBankのような遺伝子情報データベースに対して、本発明のデコイの配列をもとにBLAST、FASTAのようなソフトウェアを用いて相同性検索を行って得られた配列もまた、本発明の範囲内にあり、そのようなデータベースをもとに作成したライブラリーに対して生物学的にスクリーニング(例えば、ストリンジェントな条件下で獲得する)することによって得られた配列もまた、本発明の範囲内にある。
【0105】
本明細書では塩基配列の同一性、相同性および類似性の比較は、特に言及しない限り、配列分析用ツールであるFASTAを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0106】
本明細書において、「対応する」遺伝子または配列(例えば、デコイ、プロモーター配列など)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子または配列と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子または配列をいい、そのような作用を有する遺伝子または配列が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子または配列の対応する遺伝子または配列は、その遺伝子または配列のオルソログであり得る。したがって、マウスのNF−κBなどの遺伝子または配列に「対応する」遺伝子または配列は、他の動物(ヒト、ラット、ブタ、ウシなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子または配列は、対応する遺伝子または配列の基準となる遺伝子(例えば、マウスのNF−κBなどの配列)の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースまたはライブラリーを検索することによって見出すことができる。このように、本発明には、特定の本発明の配列(例えば、配列番号1)に対応する配列もまた包含されることが意図される。
【0107】
本明細書において「誘導体オリゴヌクレオチド」および「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドをいう。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスフォロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスフォアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。
【0108】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が転写因子である場合、転写活性を調節する活性を包含する。ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。本発明の1実施形態では、その生物学的活性は、転写因子の少なくとも1つへの結合活性を包含する。そのような転写因子の結合活性の測定方法は、転写因子の結合配列と転写因子とを混合して、結合により生じる複合体を測定(例えば、電気泳動による観察)を行うことにより達成され得る。このような方法は、当業者に周知であり、慣用される方法である。
【0109】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。
【0111】
本発明で用いられるデコイの製造方法としては、当該分野で公知の化学合成法または生化学的合成法を用いることができる。例えば、デコイ化合物として核酸を用いる場合、遺伝子工学で一般的に用いられる核酸合成法を用いることができ、例えば、DNA合成装置を用いて目的のデコイ核酸を直接合成してもよいし、またはこれらの核酸、それを含む核酸またはその一部を合成した後、PCR法またはクローニングベクター等を用いて増幅してもよい。さらに、これらの方法により得られた核酸を、制限酵素等を用いて切断し、DNAリガーゼ等を用いて結合等を行い、目的とする核酸を製造してもよい。また、さらに細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、核酸の塩基、糖、リン酸部分に、例えば、アルキル化、アシル化等の化学修飾を施してもよい。
【0112】
本発明は、上記のデコイ化合物を単独で、または安定化化合物、希釈剤、担体、または別の成分または薬剤のような他の薬剤と組み合わせて含む薬学的組成物を提供する。
【0113】
本明細書において「患者」(subject)とは、本発明の処置または組成物が適用される生物をいう。患者は、本発明の処置または組成物が適用されることができる限り、どのような動物(例えば、霊長類、齧歯類など)であってもよい。患者は好ましくは、ヒトであり得る。
【0114】
本明細書において「NF−κBに制御される遺伝子の発現に起因する疾患、障害および/または状態」とは、転写因子であるNF−κBにより発現(例えば、翻訳、転写など)が制御(例えば、増大、減少、遅延など)されることがその疾患、障害または状態の原因となっている疾患または障害をいう。そのような疾患、障害または状態としては、例えば、喘息または鼻炎、COPDが挙げられるがそれらに限定されない。
【0115】
本明細書において「好酸球の異常に関連する疾患、障害および/または状態」とは、原因または結果として、体内(例えば、血液内の)好酸球のレベルが、正常ではない任意の疾患、障害および/または状態をいう。好酸球は、表面にIgEレセプターを有し、アレルギー疾患で主な働きをすることが知られる。
【0116】
そのような好酸球の異常に関連する疾患としては、例えば、喘息(気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息(ステロイド抵抗性喘息;SRA)、非アレルギー性喘息(内因性喘息、外因性喘息、例えば、アスピリン喘息、心臓性喘息、感染型喘息))、他の好酸球異常(例えば、鼻炎などのアレルギー性疾患が挙げられるがそれらに限定されない。
【0117】
本明細書において「呼吸器系の疾患、障害または症状」とは、呼吸器系に関連するに任意の疾患、障害または症状(もしくは状態=condition)をいう。そのような呼吸器系の疾患としては、例えば、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0118】
本明細書において、呼吸器系の疾患、障害または症状としては、COPD、喘息または鼻炎などを代表的な例として挙げることができる。
【0119】
本明細書において「COPD」または「COPD」(Chronic(慢性) Obstructive(閉塞性) Pulmonary(肺) Disease(疾患)の略)とは、交換可能に使用され、肺への空気の出し入れが慢性的に悪くなり、ゆっくりと悪化していく疾患を総称して言う。これまで「慢性気管支炎」「肺気腫」と言われてきたものが実質的にすべて含まれる。COPDの症状としては、例えば、かぜでもないのにセキやタンが毎日のように続いたり、階段の上り下りなど体を動かしたときに息切れを感じる症状などが挙げられる。セキおよびタンがないのに同年代の人と同じペースで歩くのがつらくなって、息切れに気付く人もいるといわれる。ありふれた症状であるため、加齢によるものと勘違いされやすいが、セキ、タンおよび息切れなどが継続して出現しているなどの慢性的症状が特徴である。
【0120】
COPDは、従来「慢性気管支炎」とされてきた気管支および細気管支の病変と、「肺気腫」とされてきた肺胞の病変とに大きく分類される。ほとんどの患者では、2つのタイプの病変が重なってみられる。慢性気管支炎であっても、必ずしもセキおよびタンが多くない場合もあることから、最近は「気道病変タイプ」と呼ぶようになっているが、本発明の治療対象にすべて含まれることが理解される。
【0121】
気道病変タイプは、気道の表面が炎症を起こし、粘液の分泌が多くなる場合がほとんどといわれる。また、気道の壁が厚くなって気道が狭くなり、空気の通りが悪くことも多い。
【0122】
肺気腫タイプは、慢性の炎症によって肺胞が破壊および融合し、肺に空気がたまって膨れ上がった状態になっているものをいう。肺の弾力がなくなって空気を出し入れがしにくくなるうえに、膨れ上がった肺組織が気道を押しつぶすため、空気の通りが悪くなる。
【0123】
これら2つのタイプいずれであっても、肺における細胞が崩壊しており、肺内の細胞を再生させること以外に、根本的治療が考えられない。本発明は、このような根本的治療を史上初めて提供したという点は特筆に価する。
【0124】
COPDの診断は以下の通りに行う。
【0125】
COPDの診断は、スパイロメーターという器械を使った簡単な呼吸機能検査(スパイロ検査)によって行う。スパイロ検査は、肺活量と、息を吐くときの空気の通りやすさを調べる検査である。
【0126】
スパイロ検査で「努力肺活量(FVC:思い切り息を吸ってから強く吐き出したときの息の量)」と「1秒量(FEV1.0:最初の1秒間で吐き出せる息の量)」を測定し、FEV1.0値をFVC値で割った「1秒率(FEV1.0%)」の値が70%未満の場合、COPDの可能性がありとする。症状や喫煙の状況、生活環境、これまでかかった病気などを問診によってチェックし、必要に応じてほかの検査(その他の検査;例えば、他の呼吸器病の可能性がないか調べるための、胸部X線、CTなどの画像診断、体が酸素不足になっていないか調べる血液ガス測定なども、行うことができる。これは、動脈から採血した血液を使ったり、パルスオキシメーターという小さな装置を指先につけて測定する。かぜなどの症状がある場合には、尿検査や血液検査、血圧測定など、全身状態を調べるための検査も必要に応じて行う)を行ったうえで、COPDの診断を行う。
【0127】
1秒率(FEV1.0%)=1秒量/努力肺活量×100<70%
の場合、COPDと判断することができる。
【0128】
COPDの重症度
COPD治療は、疾患の重症度に応じて行うことが好ましいことから、COPDの重症度を必要に応じて決定する。COPDの重症度は、スパイロ検査によってわかる%予測1秒量(%FEV1.0)に基づいて分類される。
【0129】
【表1】
【0130】
本明細書において「喘息」とは、呼吸器(例えば、気道(鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支)および肺)が、粘膜の浮腫、粘稠な分泌物、その他何らかの刺激に対して反応性を高め、気道が狭くなり呼気性呼吸困難を起こすことをいう。喘息としては、例えば、気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息、非アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息、アスピリン喘息、心臓性喘息および感染型喘息等を挙げることができるがそれらに限定されない。
【0131】
本明細書において「鼻炎」とは、鼻腔粘膜の任意の炎症をいう。鼻炎としては、例えば、アレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)および鼻中隔彎曲症などを挙げることができるがそれらに限定されない。アレルギー性鼻炎とは、頻回のくしゃみ、多量の水様鼻汁の分泌、鼻粘膜の浮腫性肥厚による鼻閉を主徴候とする鼻炎であり、そのアレルゲン(抗原)としてはハウス・ダスト、ダニ、スギを代表とする花粉などを挙げることができ、日本でも1500万人の患者がいるとされている。
【0132】
本発明の薬学的組成物および方法を実施するにおいて、患者がヒトである場合、好ましくは、ヒトでの使用の前にインビトロで、そして次いでインビボで、および動物レベルで、所望の治療または予防のための適切な量について試験される。予備的実験としての細胞株および/または動物モデルに対する組成物の効果は、当業者に公知である技術を利用して決定され得る。本発明に従って、特定の化合物の投与が示されるか否かを決定するために用いられ得るインビトロアッセイとしては、転写因子と転写因子結合配列との結合を観察することなどが挙げられる。動物レベルの試験では、ヒトと同様に組成物を投与し、治療効果レベルを確認すること(例えば、好酸球の変動などを観察する)によって判定することができる。当該分野において、通常、モデル動物において治療および/または予防効果が示されたならば、ヒトにおいても同様の効果が奏されることが理解される。
【0133】
本発明の薬学的組成物は、デコイが患部の細胞内または目的とする組織の細胞内に取り込まれるような形態で用いられる。
【0134】
本発明の薬学的組成物は、任意の無菌生体適合性薬学的キャリア(生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水を含むが、それらに限定されない)中で投与され得る。これらの分子のいずれも、適切な賦形剤、アジュバント、および/または薬学的に受容可能なキャリアと混合する薬学的組成物中にて、単独で、あるいは他の薬剤と組み合わせて患者に投与され得る。本発明の実施態様において、薬学的に受容可能なキャリアは薬学的に不活性である。
【0135】
本発明の薬学的組成物の投与は、経口または非経口により達成される。非経口送達の方法としては、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、クモ膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、気管支内、肺胞内、または鼻腔内の投与が挙げられる。デコイ化合物に加えて、これらの薬学的組成物は、賦形剤または薬学的に使用できる製剤を調製するために、デコイ化合物のプロセシングを促進する他の化合物を含む、適切な、薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。処方および投与のための技術のさらなる詳細は、例えば、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.,Easton,PA)の最終版に記載されている。
【0136】
投与のための薬学的組成物は、投与に適した投与形において当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを用いて処方され得る。このようなキャリアは、薬学的組成物が患者による摂取に適した微粒子、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物などに処方されることを可能とする。薬学的に受容可能なキャリアとしては、リポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトール、キシリトール、結晶セルロース、キトサン、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンまたはシリカ(酸化ケイ素)などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0137】
例えば、薬学的組成物は、活性化合物を固体賦形剤と組合せ、所望により得られた混合物を粉砕し、所望ならば、錠剤または糖衣剤のコアを得るために、適切なさらなる化合物を添加した後、顆粒の混合物をプロセシングすることを介して得られ得る。適切な賦形剤は炭水化物またはタンパク質充填剤であり、以下を含むが、それらに限定されない:ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモ、または他の植物由来のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース;ならびにアラビアゴムおよびトラガカントゴムを含むゴム;ならびにゼラチンおよびコラーゲンのようなタンパク質。所望ならば、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)のような崩壊剤または可溶化剤が添加され得る。
【0138】
糖衣剤コアは、濃縮糖溶液のような適切なコーティングとともに提供される。これはまた、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポルゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラツカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合液をも含有し得る。製品同定のため、または活性化合物の量(すなわち用量)を特徴付けるために、染料または色素が錠剤または糖衣剤に添加され得る。
【0139】
使用され得る薬学的製剤は、例えば、ゼラチンカプセル、ゼラチンおよびコーティング(例えば、グリセロールまたはソルビトール)よりなるソフト封着カプセルを含む。ゼラチンカプセルは、ラクトースまたは澱粉のような充填剤またはバインダー、タルクまたはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、および所望により安定化剤と混合した活性な成分を含有し得る。ソフトカプセルでは、デコイ化合物は、安定化剤とともにまたはともなわずに、脂肪油、流動パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールのような適切な液体に溶解または懸濁され得る。
【0140】
非経口投与用の薬学的製剤は活性化合物の水溶液を含む。注射のために、本発明の薬学的組成物は水溶液、好ましくはハンクスの溶液、リンゲル溶液、または緩衝化生理食塩水のような生理学的に適合する緩衝液中に処方され得る。水性注射懸濁物は、懸濁物の粘度を増加させる物質(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストラン)を含有し得る。さらに、活性化合物の懸濁物は、適切な油状注射懸濁物として調製され得る。適切な親油性溶媒またはビヒクルは、ゴマ油のような脂肪酸、あるいはオレイン酸エチルまたはトリグリセリドのような合成脂肪酸エステル、またはリポソームを含む。所望により、懸濁物は、高濃度溶液の製剤を可能にする安定化剤または化合物の溶解度を増加させる適切な薬剤または試薬を含有し得る。
【0141】
局所投与(肺投与、気道投与または鼻孔投与など)のために、浸透されるべき特定のバリアに対して適切な浸透剤が製剤中で使用される。このような浸透剤は一般に当該分野で公知である。
【0142】
本発明の薬学的組成物は、当該分野で公知の様式と同様の様式(例えば、粉砕、粉末化、従来的な混合、溶解、顆粒化、糖衣剤作製、水簸、乳化、カプセル化、包括、または凍結乾燥の手段によって)で製造され得る。
【0143】
したがって、呼吸への投与に適合させる方法は、当該分野において公知の方法に鑑み、当業者が容易に実施することができることが理解される。例えば、気道内投与または経気道吸収であれば、噴霧または吸気に適した形態(例えば、ドライパウダーのような微粒子)にすることが好ましいことが理解され得る。ここでは、例えば、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)に適切な形態にすることができる。鼻腔内では、水溶液なども適切であることが理解され得る。肺投与であれば、気道投与と同様であるかより細かい微粒子にすることが好ましいことが理解され得る。ドライパウダーは、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、アルティマイザー(ultimaizer)、乳鉢、石臼、噴霧乾燥および超臨界流体からなる群より選択される手段を用いて製造することが可能である。ドライパウダーとしては、気道投与のためには、空力学的平均粒子径として、代表的には約0.01〜約50μm、好ましくは約0.1〜約30μm、さらに好ましくは約0.1〜約10μmのものを製造することが望ましい。肺投与のためには、肺胞への到達を考慮して、約3μm以下のものを製造することが好ましいがそれに限定されない。空力学的平均粒子径または空気力学的粒径とは,その粒子と沈降速度が同じで,密度が1(g/cm3)かつ球形である粒子の粒径と定義される。これは粒子の沈降距離の差や,粒子を加速したときの慣性の差を利用して求めることができる。たとえばカスケードインパクターなどは,この粒径によって分粒して捕集するものである。本明細書において空気力学的粒径を用いるのは,呼吸によって体内へ吸引されて各部位に沈着する粒子の割合を,その空気力学的粒径によって定めることができるという考えに基づく。代表的には、動的光散乱法(例えば、堀場製作所LB−550)やレーザ回折法(例えば、堀場製作所LB−500)、遠心沈降法(例えば、堀場製作所CAPA−500)などを用いて測定することができる。ここで動的光散乱法とは、溶液中の粒子にレーザー光を照射し、出てくる散乱光の時間的な揺らぎから粒子のブラウン運動速度(拡散係数)を得、これより粒子粒子径を測定する方法であり、レーザー回折法とは、光の回折現象(Fraunhofer現象)とミー散乱現象を利用して粒径を求める方法であり、遠心沈降光透過法とは、媒体中を沈降する粒子の大きさと沈降速度の関係から粒子径を測定する方法である。
【0144】
好ましくは、患部の細胞または目的とする組織の細胞内に局所投与する場合、本発明の薬学的組成物は、キャリアとして合成または天然の親水性ポリマーを含み有る。このような親水性ポリマーの例として、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコールが挙げられる。本発明のデコイ化合物を、適切な溶媒中のこのような親水性ポリマーと混合し、溶媒を、風乾などの方法により除去して、所望の形態、例えば、シート状に成型した後、標的部位に付与し得る。このような親水性ポリマーを含む製剤は、水分含量が少ないので、保存性に優れ、使用の際には、水分を吸収してゲル状になるので、デコイ化合物の貯留性に優れる。
【0145】
このようなシートは上記の組成以外にも類似物として、セルロース、デンプン及びその誘導体あるいは合成高分子化合物などに多価アルコールを混合し硬度を調整して形成した親水性シートも利用できる。
【0146】
このようなシートは、例えば、腹腔鏡技術を用いて、腹腔鏡下で標的部位に付与され得る。現在、腹腔鏡手術は、非侵襲手法として目覚しく発展し、本発明の薬学的組成物と組み合わせることにより、非侵襲的であって、繰り返し治療が可能な疾患の処置法が提供され得る。
【0147】
あるいは、デコイとして核酸またはその修飾体を用いる場合には、本発明の薬学的組成物は、一般に用いられている遺伝子導入法で用いられる形態、例えば、センダイウイルス等を用いた膜融合リポソーム製剤や、エンドサイトーシスを利用するリポソーム製剤等のリポソーム製剤、リポフェクトアミン(ライフテックオリエンタル社製)等のカチオン性脂質を含有する製剤、またはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター等を用いるウイルス製剤を用いるのが有利であり、特に、膜融合リポソーム製剤が好適である。
【0148】
リポソーム製剤は、そのリポソーム構造体が、大きな1枚膜リポソーム(LUV)、多重膜リポソーム(MLV)、小さな一枚膜リポソーム(SUV)のいずれであってもよい。その大きさも、LUVでは200から1000nm、MLVでは400〜3500nm、SUVでは20〜50nm程度の粒子系をとり得るが、センダイウイルス等を用いる膜融合リポソーム製剤の場合は粒子系200〜1000nmのMLVを用いるのが好ましい。
【0149】
リポソームの製造方法は、デコイが保持されるものであれば特に限定されるものではなく、慣用の方法、例えば、逆相蒸発法(Szoka、Fら、Biochim.Biophys.Acta、Vol.601 559(1980))、エーテル注入法(Deamer、D.W.:Ann.N.Y.Acad.Sci.,Vol.308 250(1978))、界面活性剤法(Brunner,Jら:Biochim.Biophys.Acta,Vol.455 322(1976))等を用いて製造することができる。
【0150】
リポソーム構造を形成するための脂質としては、リン脂質、コレステロール類や窒素脂質等が用いられるが、一般に、リン脂質が好適であり、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを定法に従って水素添加したものの他、ジセチルホスフェート、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質を用いることができる。
【0151】
これらのリン脂質を含む脂質類は単独で用いることができるが,2種以上を併用することも可能である。このとき、エタノールアミンやコリン等の陽性基をもつ原子団を分子内にもつものを用いることにより、電気的に陰性のデコイ核酸の結合率を増加させることもできる。これらリポソーム形成時の主要リン脂質の他に一般にリポソーム形成用添加剤として知られるコレステロール類、ステアリルアミン、α−トコフェロール等の添加剤を用いることもできる。
【0152】
このようにして得られるリポソームには、患部の細胞または目的とする組織の細胞内への取り込みを促進するために、膜融合促進物質、例えば、センダイウイルス、不活化センダイウイルス、センダウイルスから精製された膜融合促進タンパク質、ポリエチレングルコール等を添加することができる。
【0153】
リポソーム製剤の製造法の例を具体的に説明すると、例えば、前記したリポソーム形成物質を、コレステロールとともにテトラヒドロフラン、クロロホルム、エタノール等の有機溶媒に溶解し、これを適切な容器に入れて減圧下に溶媒を留去して容器内面にリポソーム形成物質の膜を形成する。これにデコイを含有する緩衝液を加えて攪拌し、得られたリポソームにさらに所望により前記の膜融合促進物質を添加した後、リポソームを単離する。このようにして得られるデコイを含有するリポソームは適当な溶媒中に懸濁させるか、または一旦凍結乾燥したものを、適当な溶媒に再分散させて治療に用いることができる。膜融合促進物質はリポソーム単離後、使用までの間に添加してもよい。
【0154】
本明細書において「治療」とは、ある疾患または障害について、そのような状態になった場合に、そのような疾患または障害の悪化を防止、好ましくは、現状維持、より好ましくは、軽減、さらに好ましくは消長させることをいう。
【0155】
本明細書において「予防」(prophylaxisまたはprevention)とは、ある疾患または障害について、そのような状態が引き起こされる前に、そのような状態が起こらないように処置することをいう。従って、ある疾患または障害について、そのような状態になることを防止、遅延など、および悪化を防ぐことを包含する。
【0156】
本明細書において「処置」とは、ある疾患、障害または状態に対して行う任意の医学的行為をいい、診断、治療、予防、予後などに資するために行う行為が包含される。
【0157】
一般的に、喘息などの呼吸器系の疾患の処置のための薬物治療に用いられる薬剤は、発作緩解を目的とする発作治療薬(レリーバー)と、発作予防を目的とする長期管理薬(コントローラー)とに分類されているが、NF−κBデコイは予防および治療の両方に使用することができることが理解される。これは、特に、実態として発作予防が喘息治療そのものであり、発作緩解剤より本質的な治療薬であることが重要であるからである。また、他の疾患、例えば、鼻炎、COPDなどでも、いったん予防に使用することができることがわかれば、同様に治療にも使用できることが理解され、他方でも、いったん治療に使用することができることがわかれば、予防にも使用することができることが理解される。従って、本発明では、予防または治療についての適切な投与量が分かっている場合は、その量から、当業者は容易に他方の治療または予防についての適切な投与量を算出することができることが理解される。
【0158】
本発明の薬学的組成物は、デコイ化合物が意図される目的を達成するのに有効な量で含有される組成物を含む。「予防的有効量」、「治療的有効量」または「薬理学的有効量」は当業者に十分に認識される用語であり、意図される薬理学的結果(たとえば、治療、予防)を生じるために有効な薬剤の量をいう。従って、予防的有効量は、発症しないようにするために十分な量であり、治療的有効量は、処置されるべき疾患の徴候を軽減するのに十分な量である。所定の適用のための有効量(例えば、治療的有効量)を確認する1つの有用なアッセイは、標的疾患の回復の程度を測定することである。実際に投与される量は、処置が適用されるべき個体に依存し、好ましくは、所望の効果が顕著な副作用をともなうことなく達成されるように最適化された量である。予防的有効量および治療的有効量の決定は十分に当業者の能力内にある。
【0159】
いずれの化合物についても、予防的有効量および治療的有効量は、細胞培養アッセイまたは任意の適切な動物モデルのいずれかにおいて、最初に見積もられ得る。動物モデルはまた、所望の濃度範囲および投与経路を達成するために用いられる。次いで、このような情報を用いて、ヒトにおける投与に有用な用量および経路を決定することができる。
【0160】
予防的有効量および治療的有効量とは、それぞれ、疾患を発症させないに十分なデコイ化合物の量および疾患の徴候または状態を軽減するデコイ化合物の量をいう。このような化合物の治療効果および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、ED50、集団の50%において治療的に有効な用量;およびLD50、集団の50%に対して致死的である用量)によって決定され得る。治療効果と毒性効果との間の用量比は治療係数であり、それは比率ED50/LD50として表され得る。大きな治療係数を呈する薬学的組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータが、ヒトでの使用のための量の範囲を公式化するのに使用される。このような化合物の用量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全くともなわないED50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、デコイの投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用するデコイの種類等により適宜選択されるが、例えば、血液内投与、筋肉内投与、関節内投与では、一般に、1回あたり、1μg〜100mgを1日1回から数回投与することができる。
【0161】
正確な用量は、予防または治療されるべき患者を考慮して、個々の臨床医によって選択される。用量および投与は、十分なレベルの活性部分を提供するか、または所望の効果を維持するように調整される。考慮され得るさらなる因子としては、疾患状態の重症度(例えば、患者の年齢、体重、および性別;投与の食餌制限時間、および頻度、薬物組合せ、反応感受性、および治療に対する耐性/応答)が挙げられる。特定の製剤の半減期およびクリアランス速度に応じて、持続作用性薬学的組成物は、例えば、3〜4日毎に、毎週、または2週間に1回、投与され得る。特定の用量および送達の方法に関するガイダンスは当該分野で公知の文献に提供されている。
【0162】
この様にして得られたデコイを主成分として含有する医薬品は、疾患の種類、使用するデコイの種類等により各種の方法で投与することができ、例えば、喘息、COPD等では、噴霧式吸入器(MDI・BDI)、ネブライザーなどを利用して吸入させることにより投与することができる。例えば、鼻炎では、吸引または吸入させることによって投与することができる。
【0163】
鼻腔、気道、経鼻などを経由した投与方法として現在使用される吸入法を説明する。気道内投与製剤、経気道吸収製剤または経鼻吸収製剤において、薬剤を吸入するためには、通常、薬液を霧状にするか細かい粉体(ドライパウダー)にすることが好ましいが限定されない。一般的には薬液に加工したものはネブライザ(nebulizer)で、粉体に加工したものはガス噴霧式のMDI(Metered dose inhaler)や呼気吸入式のDPI(Dry Powder Inhaler)に充填されて、吸入投与される。
【0164】
粉体に関しては、速く深く吸入するタイプの「ドライパウダー式吸入器(DPI: drypowder inhaler)」および、ゆっくり吸入するタイプの「定量噴霧式吸入器(MDI: metered dose inhaler)」の2 種類が利用されている。
【0165】
DPIはさらに、Multi-dose reservoir (商品名;Turbuhaler, AstraZeneca社製)、Multi-unit dose (商品名;Accuhaler/Diskus,GSK社製)、Unit dose (製造元多数)の3種類に分類されている。
【0166】
インヘイラー(inhaler; 吸入器)は、マウスピースとカートリッジ(チューブ)からなるキットであり、通常、チューブはアルミフォイルで両端を封印されている。使用する前にチューブをマウスピースに装着するとアルミフォイルが破れて、内部の微粉末薬剤を吸引することができる。
【0167】
他方、薬液の吸入は、一般的にネブライザおよびレスピレータ(人工呼吸器;Respirator)などが使用されている。ネブライザで発生される薬剤エアロゾルは、スピードが遅く浮遊しているため、誰にでも吸入しやすいという長所がある。
【0168】
ビーズミルは、容器中にビーズを充填しておき中央の回転軸を回転させてビーズに動きを与え、ここに原料を送り込みビーズで摺りつぶすことにより粉砕、分散を行う装置である。
【0169】
ジェットミルは高圧気流を利用し、粒子を音速前後の速度に気流中で加速して、衝突によって粉砕を行う装置である。
【0170】
アルティマイザー(ultimaizer)は、空気や窒素ガスなどの気体で加圧噴射された粉体同士あるいは加圧したスラリー状の原料同士を、超高速で対向衝突させて微粒子化する装置である。
【0171】
超臨界流体による微粒子製造法は、(必要により溶媒に溶かした)薬剤を高圧容器に入れ、超臨界CO2に溶解した後、ノズルから急速膨張させ噴霧乾燥することにより微粉末を製造する方法である。
【0172】
ここで本発明に用いるドライパウダーの平均粒子径は限定されないが、通常は約0.01〜約50μmであり、好ましくは約0.05〜約30μmであり、さらに好ましくは約0.1〜約10μmである。
【0173】
さらに部位選択的に投与する場合は、気管にて作用させるには一般的に空気力学的平均粒径約10〜30μm、気管支にて作用させるには一般的に約3〜10μm、肺胞にて作用させるには一般的に約3μm以下、好ましくは約2μm以下の均一な粒径であることが好ましい。
【0174】
本発明におけるNF−κBデコイの投与量は限定されないが、例えばドライパウダーを気道内投与製剤または経気道吸収製剤として投与する場合は、通常成人1回あたり10μg〜100mgであり、好ましくは1回あたり50μg〜50mgであり、さらに好ましくは1回あたり10mg以下である。また経鼻吸収製剤、特に鼻炎用点鼻剤として投与する場合には、通常成人1回あたり10μg〜100mgであり、好ましくは1回あたり50μg〜50mgであり、さらに好ましくは1回あたり10mg以下である。これを対象疾患・症状(程度)・年齢・合併症有無などにより適宜増減する。
【0175】
また本発明におけるNF−κBのデコイは裸(naked)で投与されてもよいし、各種ベクター例えばHVJ−Eエンベロープベクターに封入して投与されても良い。
【0176】
本発明におけるドライパウダーの製造にあたっては、通常は賦形剤を用いる。
【0177】
利用する賦形剤はNF−κBデコイに対し不活性なもので、通常医薬品添加物として利用されているものであれば限定されないが、具体的には例えば糖類(ガラクトース、マンノース、ソルボース等の単糖類、乳糖、ショ糖、トレハロース等の二糖類、デンプン、ラフィノース、デキストラン等の多糖類を含む)、糖アルコール(グリセリン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールを含む)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールを含む)、セルロース系高分子(ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースを含む)、非溶解性添加剤(結晶セルロース、キトサン、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンまたはシリカ[酸化ケイ素])等を挙げることができる。
【0178】
これらの中でも、乳糖、ショ糖、トレハロース、マンニトール、キシリトール、結晶セルロース、キトサン、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンまたはシリカ[酸化ケイ素])あるいはそれらの混合物がより好ましい。
【0179】
スプレーの形をしたエアロゾルシステムとしては、例えば推進剤を入れた容器が挙げられるが、推進剤がないエアロゾルシステムも開発されている。さらに、エアロゾルシステムは、例えば推進剤はラクトースのような従来の助剤と共に、活性成分を含んでいる。これらの成分から成る組成物は、エアロゾル吸入剤の特性、つまり、例えば粒径分布、送達速度、粘性などを決定する。
【0180】
エアロゾルは、二相エアロゾル(気体および液体)または三相エアロゾル(気体、液体、および固体または液体)として得ることができる。二相エアロゾルは、液化推進剤に溶かした活性物質の溶液と、霧状推進剤とから成る。溶媒は、例えば、推進剤か、推進剤とアルコールやプロピレングリコール等の共溶媒との混合物を含む。ポリエチレングリコールは、活性物質の溶解度を改善するためによく使用される。
【0181】
三相系は、霧状推進剤と共に、1または複数の活性成分の懸濁液またはエマルジョンをそれぞれ含む。懸濁液は、湿潤剤のような従来の助剤および/または滑石またはコロイドシリカのような固体担体を使用して、推進剤システムに分散した活性物質を含んでいる。可能な場合、推進剤は公知のものであり、オゾン層への損傷作用のない炭水化物を含むことができる。
【0182】
吸入用の溶液が、1〜10μmの範囲のサイズの非常に小さな粒子に霧状にされる場合にのみ、吸入は可能である。細かく分散されたエアロゾルを吸入させることが好ましい。上記以外の従来のエアロゾルの場合には、吸入しないほうが好ましい。エアロゾル吸入剤に関するさらに詳しい情報を得るには、例えば、引用によりその全体を本明細書において援用する薬局方(例えば、日本薬局方、米国薬局方)などを参酌してもよい。
【0183】
本発明に従って使用されるリポソームは、好ましくは0.1μm〜2μm、特に好ましくは0.4μmの範囲のサイズを有する。特に単層リポソームの使用が好ましい。リポソームの調製は、押し出し成形機を使用して、ある種類の高圧ろ過により行なわれる。例えば、リポソームは所望液体中で乾燥脂質フィルムを再構成することにより調製される(例えば、Parthasarathyら、Cancer Chemother.and Pharmacol.1999、43(4)、277−283)。これによると、いわゆる多層リポソーム(つまり水性コアを包囲する数枚の脂質層を有するリポソーム)が得られる。そのようなリポソームはサイズがきわめて均一である。
【0184】
別の局面では、本発明は、肺組織の予防または処置のためのシステムであって、肺投与のための手段、およびNF−κBデコイを肺投与に適した形態で含む、システムを提供する。このようなシステムは、細胞増殖因子の肺投与を実現するシステムであれば、どのような形態であっても良いことが理解される。そのような肺投与を実現する手段としては、例えば、吸入装置、気管支鏡などを挙げることができるがそれらに限定されない。
【0185】
好ましい実施形態では、使用されるNF−κBデコイは、ドライパウダー、リポソーム、微粒子などの任意の形態で使用することができる。
【0186】
1つの実施形態において、本発明の組成物において使用されるNF−κBデコイは、有効な濃度で存在する。このような濃度は、インビトロの実験で簡単に決定することができる。そのような実験としては、例えば、放射性同位体(例えば、I125)で標識したNF−κBデコイをシンチグラムで確認する方法が挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは臨床仕様のシンチグラムを使用することが有利である。イヌなどの大型動物での確認を行うことができるからである。
【0187】
好ましい実施形態では、使用されるNF−κBデコイは、肺組織などの目的の組織に選択的に投与される。そのような選択的投与は、本発明のシステムにおける好ましい投与のための手段として記載される好ましい手段(例えば、吸入装置または気管支鏡)を用いて達成され得る。従って、より好ましくは、NF−κBデコイは、所望の組織(例えば、肺など)以外には実質的に投与されない。所望の組織以外にNF−κBデコイが投与されると、予想外の事象が生じ得るからであり、副作用となって発現する可能性があるからである。
【0188】
使用され得る肺投与システムは、本発明のNF−κBデコイを肺に到達させることができる任意のシステムであればどのようなものでもよい。そのような肺投与システムとしては、吸入装置または気管支鏡が挙げられ、例えば、オリンパス株式会社から市販されている気管支鏡システムを用いることができる。
【0189】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0190】
以下実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例は、本発明の例示であって、限定を意図するものではない。
【0191】
(実施例1:デコイの作製)
以下のデコイオリゴデオキシヌクレオチドを作製した。
【0192】
使用したデコイの配列は以下の通りである:
NF−κBデコイ(配列番号1)
5’−CCT−TGA−AGG−GAT−TTC−CCT−CC−3’
3’−GGA−GGG−AAA−TCC−CTT−CAA−GG−5’
NF−κBスクランブルデコイ(配列番号2)
5’−TTG−CCG−TAC−CTG−ACT−TAG−CC−3’
3’−GGC−TAA−GTC−AGG−TAC−GGC−AA−5’
NF−κBデコイ改変体(配列番号3)
5’-GGG(A/G)(C/A/T)T(T/C)(T/C)(C/A/T)C−3’(配列番号3)
3’-CCC(T/C)(G/T/A)A(A/G)(A/G)(G/T/A)G−5’
これらのデコイの溶液を100 mg/バイアルにて、使用時まで凍結(−20℃)保存した。
【0193】
(実施例2:喘息モデルラットに対するNF−κBデコイ治療)
次に、喘息モデルを作製し、本発明のデコイの効果を実証した。喘息モデルは、基本的には、Eur J Pharmacol. 1995 Dec 7;293(4):401−12に記載される方法に基づいて作製した。
【0194】
(動物および感作の方法)
Brown Norwayラット(8週齢〜10週齢;体重200〜300g)は、日本チャールズ・リバー株式会社から得た。ラットは、大阪大学で規定される動物愛護精神にのっとった規定を遵守して飼育および実験した。このラットに、1mlのpyrogenフリーの生理食塩水中に4mgの水酸化アルミニウムとともに1mgのオボアルブミン(OVA;Sigma,grade V)含む溶液を頸部皮下注射をして感作させた。アジュバントとして、Bordetella pertussisワクチン(3×109の熱不活化した細菌を含む)を腹腔内注射した。対照として、オボアルブミンを含まない点以外は同一の溶液をラットに腹腔内注射したものをネガティブコントロールとした。
【0195】
(センダイウイルスエンベロープベクターの調製)
センダイウイルス(HVJ)エンベロープベクター(HVJ−E)は以下のとおりに調製した。手短に述べると、ウイルス懸濁液(1.0×104の赤血球凝集単位(HAU))を、UV照射(99mJ/cm2)を行って不活化し、デコイオリゴヌクレオチド(200μg)および0.3%Triton−Xを混合した。遠心分離後、1mlの平衡塩溶液(BSS;10mM Tris−Cl,pH7.5、137mM NaCl、および5.4mM KCl)で不活化したウイルス懸濁液を洗浄して、界面活性剤および取り込まれなかったオリゴヌクレオチドを取り除いた。遠心分離後、エンベロープベクターを適量のリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中に懸濁した。このベクターは、使用するまで4℃で保存した。
【0196】
(実験手順)
感作後12日で、ラットを以下のように処置した。口腔気管支注入後、(1)コントロールとしての生理食塩水0.5ml;(2)500μgの裸のデコイ/0.5ml;(3)1.0×104HAU/0.5mlのHVJ−Eで処理したデコイ200μg;(4)2.5×104HAU/0.5mlのHVJ−Eで処理したデコイ500μg;および(5)2.5×104HAU/0.5mlのHVJ−Eを、それぞれ投与した。14日目にラットを5%のエアゾール化したオボアルブミンでネブライザー(PARI turbo)を用いて5分間チャレンジした。気流の速さは7〜8リットル/分の空気であった。これにより気道過敏を誘発した。この実験手順のフローチャートを、図1に示す。
【0197】
(デコイの導入)
デコイは、経鼻吸入(エアゾールによる)または挿管(液体、エアゾール,
レスピレータ)を用いてラットに投与した。
【0198】
第一の実験において、デコイは、2mg×1回、1mg×2回または2mg×2回(エアゾール)、あるいは0.5mg×1回(液体投与)投与した。
【0199】
第二の実験において、デコイは、HVJ−Eを用いて上述のように調製したものを利用して投与した。
【0200】
(気管支肺胞洗浄(BAL))
BAL流体をオボアルブミンチャレンジの後24時間で収集した。ラットを腹腔内にペントバルビタールナトリウムを過剰量投与することによって安楽死させた。BALを5mlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS;137mM NaCl, 10mM リン酸ナトリウム緩衝剤 pH 7.4, 2.7mM KCl)を用いて4回行った。BAL流体の総細胞数は、赤血球計を用いて決定した。示差細胞計数を、Diff−Quick染色(IBMC Inc.,Chicago,IL:Catalog # K7124)で染色した300細胞より多い細胞を計数することによって行った。
【0201】
(結果)
図2に、第一の実験におけるBAL中の好酸球の%の挙動を示す。オボアルブミンチャレンジによって、統計学的に有意に好酸球増大が見出されることがわかった(p<0.01)。このチャレンジに対して、エアゾール処置および液体処置を行ったところ、それぞれ統計学的に有意な好酸球増大の抑制が見出された(いずれもp=0.08)。従って、投与方法にかかわらず、本発明のデコイは、喘息のような好酸球の異常疾患に対して効果を有することが実証された。
【0202】
次に、図3に、別の投与方法としてセンダイウイルスを用いた場合の本発明のデコイの効果を示す。オボアルブミンチャレンジに対して、上述のHVJ−Eデコイ処方物による処置を行ったところ、裸のデコイよりもHVJ−Eのほうが顕著に高い効果を示した(図4も参照)。また、HVJ−E処方物のうち、量を2.5倍にしたものもまた、統計学的に有意に高い治療効果が示された。HVJ−Eによる効果は、ベクター自体の効果ではないことが示されたことから、本発明では、HVJ−Eでの処方がより治療効果が高いことが明らかになった。
【0203】
(実施例3:改変体での処置)
次に、喘息のモデルラットにおいて、上述の実施例で用いたデコイに代えて、改変体を用いて同様の効果が示されるかどうかを確かめた。ここでは、改変体としてNF−κBのコンセンサス配列であるGGG(A/G)(C/A/T)T(T/C)(T/C)(C/A/T)C(配列番号3)を使用した。したがって、NF−κBに認識される配列であればどのようなものであっても、NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する疾患、障害および/または状態、ならびに好酸球の異常に関連する疾患、障害および/または状態を処置または予防することができることが示された。
【0204】
使用したデコイが異なる点以外は上記実施例に記載されるのと同様に実験を行ったところ、喘息モデルにおいて、治療および予防効果が示されたことが明らかになった。従って、本発明は、特定のNF−κBデコイに限定されず、生物学的活性(すなわち、転写因子配列との結合活性)が維持される限り、NF−κBの改変体であっても同様の治療および予防効果を有することが示された。
【0205】
(実施例4:ラット喘息モデルに対するNF−κBデコイの効果)
次のようにして、NF−κBデコイのラット喘息モデルに対する効果を明らかにした。本実施例では、裸のNF−κBデコイの粉末吸入剤を投与した。
【0206】
(NF−κBデコイ粉末吸入剤の調製)
NF−κBデコイは100 mgをジルコニアビーズ(φ3.0 mm)18 gとともに透明ガラス瓶(胴径25.5 mm、高さ48.5 mm)に入れて、ボールミル回転架台(アサヒ理化製作所製)にて、毎分200回転で10時間粉砕した。
【0207】
乳糖(商品名;Pharmatose 450M、DMV社製)は50gをジェットミル(商品名;A−Oジェットミル(株)セイシン企業製)で粉砕した。
【0208】
このようにして得られたNF−κBデコイ、及び乳糖の粒径を調べるために走査電子顕微鏡(S−570、日立製作所製)による観察を行った。その結果を写真として図5(NF−κBデコイ)、図6(乳糖)として示した。写真の倍率は1000倍であり、粒子サイズはそれぞれ10μm以下であった。一般に、10μm以下にすることが、気管支への投与に望ましいとされるがそれに限定されない。また、3μm以下にすると肺胞への投与も可能となることが一般に知られている。
【0209】
粉砕したNF−κBデコイ100 mg、粉砕した乳糖3700 mgおよび軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル(株)製)200 mgを小型粉砕機(柴田科学(株)製)にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(25 μg/mg)を得た。
【0210】
NF−κBデコイ混合粉体(25 μg/mg)1000 mg、粉砕した乳糖2850 mgおよび軽質無水ケイ酸150 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(6.25 μg/mg)を得た。
【0211】
NF−κBデコイ混合粉体(6.25 μg/mg)800 mg、粉砕した乳糖3040 mgおよび軽質無水ケイ酸160 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(1.25 μg/mg)を得た。
【0212】
NF−κBデコイ混合粉体(25 μg/mg)400 mg、粉砕した乳糖3420
mgおよび軽質無水ケイ酸180 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(2.5 μg/mg)を得た。
【0213】
NF−κBデコイ混合粉体(2.5 μg/mg)400 mg、粉砕した乳糖3420 mgおよび軽質無水ケイ酸180 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(0.25 μg/mg)を得た。
【0214】
NF−κBデコイ混合粉体(0.25 μg/mg)800 mg、粉砕した乳糖3040 mgおよび軽質無水ケイ酸160 mgを小型粉砕機にて1分間混合しNF−κBデコイ混合粉体(0.05 μg/mg)を得た。
【0215】
(実験方法)
雄性BNラットに抗原オボアルブミンOA(1mg/rat)を大腿筋肉内と百日咳菌(1.25×1010個/rat)を腹腔内投与し、能動感作した。感作12、13日後に生理食塩液に0.5%に溶解した抗原を麻酔下にて吸入して、アレルギー反応を惹起した。抗原吸入3日後にアセチルコリン(ACh)に対する気道反応性を検討した。AChに対する気道反応性は2分間のインターバルをおき、0.1mg/mLの濃度より2倍公比で濃度を上昇させ、10秒間ずつ吸入させた。ACh吸入開始前の気道内圧から5cmH2O上昇させる濃度のAChをProvocation Concentration
5cmH2O (PC5cmH2OACh) ACh (mg/mL)として算出した。気道反応性の測定後、気道洗浄を施し、気道への浸潤細胞数を計測した。陰性対照として感作ラットに生理食塩液を吸入した群と、control群として感作ラットに抗原を吸入し、溶媒を投与した群を設定した。
【0216】
そして、上記調製方法にて作製したNF−κBデコイ混合粉体(0.05、0.25、1.25、6.25 μg/mg) 4 mgを、抗原吸入3日前に麻酔下のラットに吸入させた。なお、本実験に使用したBNラットの平均体重は200gであったので、NF−κBデコイ混合粉体の投与量はそれぞれ1μg/kg、5μg/kg、25μg/kg、125μg/kgに相当する。
【0217】
(実験結果)
図7および図8(図7、図8:ラット喘息モデルに対するNF−κBデコイの効果 ## : p<0.01 vs saline group (Student’s t−test) *, ** : p<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test))に示すように、陰性対照(saline)群に比べて、control群では明らかな気道反応性の亢進(気道過敏性)と好酸球を主体とした炎症細胞の浸潤が観察された。NF−κBデコイは5μg/kgより用量依存的にこれらの変化を抑制し、25、125μg/kgで最大抑制効果に達していた。これにより、ラット喘息モデルに対するNF−κBデコイ粉末吸入剤での有効性が明らかにされた。
【0218】
【表2】
(実施例5:アレルギー性鼻炎モデルに対するNF−κBデコイの効果)
本実施例では、次のようにして、NF−κBデコイのラット鼻炎モデルに対する効果を明らかにした。
【0219】
(実験方法)
雄性SDラットに抗原2,4−ジニトロフェニルオボアルブミン(Dinitrophenyl ovalbumin)(DNP−OA)(1mg/rat)および百日咳菌(1.25×1010個)を四肢足蹠皮下に4分注し、能動感作した。感作9日後に抗原を両側点鼻し(10%DNP−OA×0.02mL/site×2site)、アレルギー反応を惹起した。鼻炎の始まる惹起6時間後に色素(ポンタミンスカイブルー)を静脈内投与し、そのピークとなる9時間後に解剖した。鼻中隔周辺組織を摘出し、色素の漏出量を測定した。陰性対照として感作ラットに生理食塩液を点鼻した群と、control群として感作ラットに抗原を点鼻し、溶媒を投与した群を設定した。NF−κBデコイを5および125μg/mLの濃度に生理食塩液で溶解し、片側に20μLずつラットあたり0.2μg、5μgの投与となるよう3日前に点鼻投与した。なお、本実験に使用したSDラットの平均体重は200gであったので、NF−κBデコイの投与量はそれぞれ1μg/kg、25μg/kgに相当する。
【0220】
(実験結果)
図9(ラット鼻炎モデルに対するNF−κBデコイの効果;## : p<0.01 vs saline group (Student’s t−test)*, ** : p<0.05,0.01 vs control group (Dunnett’s multiple comparison test))に示したように、陰性対照(saline)群に比べて、control群では明らかな血管透過性の亢進が観察され、これにより鼻炎の症状を呈することが確認できた。それに対してNF−κBデコイは1μg/kgより用量依存的にこの血管透過性の亢進を抑制し、25μg/kgではほぼ完全に血管透過性の亢進を抑制していた。すなわち、ラット鼻炎モデルにおけるNF−κBデコイの有効性が明らかにされた。
【0221】
【表3】
(実施例6:ビーグル犬COPDモデルの作製)
ビーグル犬(体重9〜14kg)に動物用麻酔薬(セラクタール(バイエル))を皮下注射して全身麻酔した。気管内挿管を行い気管支鏡を気管支に挿入する。豚膵エラスターゼ50mg(3750単位)(ナカライテスク)を生理食塩水5mlに溶解し、噴霧カテーテル(オリンパスなどから入手可能)を末梢気管支までもって行き、5〜10回に分けて右肺全体に散布する。散布後1ヶ月程度を経過したものをCOPDモデル肺として利用した。左肺を正常肺として比較を行う。
【0222】
(実施例7:ビーグル犬モデルへのNF−κBデコイの投与)
NF−κBデコイを実施例4に記載の方法で粉砕し、粒径3μm以下の微粉末を製造した。
【0223】
NF−κBデコイ200μgを、NF−κBデコイ混合粉体としてCOPDモデル肺に、気管支鏡を使い右肺全体に5〜10回に分けてびまん性に散布する。NF−κBデコイによる治療の前後での変化を見るべく、MRIにより血流を測定し比較する。
【0224】
(MRIにおける比較結果)
MRIを使用し、ビーグル犬を全身麻酔した後、仰臥位で撮影する。右内頚動脈に静脈ルートを確保し、一般的な市販の造影剤を注入すると約3秒後より肺内血管が造影され、造影効果により、MRIの信号値が高くなる。MRIの信号値は血流量に比例するため、血流量が多い部位ほど信号値は高くなる。肺動脈の血流量には個体差があるため、その個体差をなくすべく、投薬した右肺を正常の左肺で割ったMRI信号値の左右比で比較する。市販の造影剤3ml注入後MRIの撮影を開始する。造影剤を注入後約120秒にわたり、100枚の環状断面を撮影し、肺実質の限局した区域の信号値を連続的に測定し、グラフ化する。MRIの肺内血流量の左右比も算出する。これらの結果より左右の信号値の比率を測定したところ、正常犬では左右の肺に血流の差がなく、COPDモデルでは右肺の血流が低下し、NF−κBデコイ治療モデルでは右肺の血流が改善し正常の状態に近づくことが観察される。すなわち、NF−κBデコイを投与することにより、血流の有意な改善が認められる。
【0225】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0226】
NF−κBに制御される遺伝子の発現に起因する疾患あるいは好酸球異常に関連する疾患を処置する薬学的組成物およびそれに用いるキャリアが提供される。本発明の薬学的組成物の局所投与は、非侵襲的であって、繰り返し可能な治療方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための薬学的組成物であって、NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物。
【請求項2】
前記NF−κBのデコイが、NF−κBのデコイまたはその誘導体、改変体もしくはフラグメントであり、該誘導体、改変体もしくはフラグメントが生物学的活性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記NF−κBのデコイが、配列番号1で表されるデコイである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPDである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、喘息である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、鼻炎である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記薬学的に受容可能なキャリアが親水性ポリマー、炭水化物または非溶解性添加剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記薬学的に受容可能なキャリアがリポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトールまたはキシリトールから選ばれた1種以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための薬学的組成物であって、NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物。
【請求項12】
前記NF−κBのデコイが、NF−κBのデコイまたはその誘導体、改変体もしくはフラグメントであり、該誘導体、改変体もしくはフラグメントが生物学的活性を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記NF−κBのデコイが、配列番号1で表されるデコイである、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または状態が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患、障害および/または状態である、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息、非アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息、アスピリン喘息、心臓性喘息および感染型喘息からなる群より選択される喘息、またはアレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)および鼻中隔彎曲症からなる群より選択される鼻炎である、請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
前記薬学的に受容可能なキャリアが親水性ポリマー、炭水化物または非溶解性添加剤である、請求項11に記載の組成物。
【請求項18】
前記薬学的に受容可能なキャリアがリポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトールまたはキシリトールから選ばれた1種以上である、請求項11に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物を含み、該組成物は、呼吸器へ投与されるために適合される、呼吸器用投与製剤。
【請求項20】
前記呼吸器への投与は、気道内投与または経気道吸収を含む、請求項19に記載の呼吸器用投与製剤。
【請求項21】
前記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする、請求項19に記載の製剤。
【請求項22】
前記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む、請求項19に記載の製剤。
【請求項23】
前記組成物は、ドライパウダーとして提供される、請求項19に記載の製剤。
【請求項24】
前記ドライパウダーが、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、アルティマイザー(ultimaizer)、乳鉢、石臼、噴霧乾燥および超臨界流体からなる群より選択される手段を用いて製造された微粒子であることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項25】
前記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.01〜約50μmであることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項26】
前記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.05〜約30μmであることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項27】
前記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.1〜約10μmであることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項28】
投与量が1回あたり10μg〜100mgである、請求項19に記載の製剤。
【請求項29】
投与量が1回あたり50μg〜50mgである、請求項19に記載の製剤。
【請求項30】
投与量が1回あたり10mg以下である、請求項19に記載の製剤。
【請求項31】
前記呼吸器への投与は、経鼻吸収を含む、請求項19に記載の製剤。
【請求項32】
前記製剤が、点鼻剤、鼻用スプレー剤、ネブライザー用剤、レスピレータ用剤および粉体投与製剤からなる群より選択される製剤であることを特徴とする、請求項31に記載の製剤。
【請求項33】
前記製剤が鼻炎用点鼻剤であることを特徴とする、請求項31に記載の製剤。
【請求項34】
NF−κBのデコイがHVJ-Eエンベロープベクターに封入されていることを特徴とする、請求項19に記載の製剤。
【請求項35】
前記呼吸器への投与は、肺投与を含む、請求項19に記載の製剤。
【請求項36】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物と、呼吸器に該組成物を投与するための手段とを備える、呼吸器処置のためのデバイス。
【請求項37】
前記呼吸器への投与手段は、肺投与手段、経気道内投与手段、経気道吸収手段および経鼻吸収手段からなる群より選択される手段を含む、請求項36に記載のデバイス。
【請求項38】
前記呼吸器への投与手段は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)を含む、請求項36に記載のデバイス。
【請求項39】
NF−κBのデコイを含む粒子を製造するための方法であって、
A)該デコイおよび薬学的に受容可能なキャリアを提供する工程;
B)該デコイおよびキャリアを乾燥させ、粒子化するに十分な温度に加熱する工程;
C)所望の粒径を有する粒子を取り出す工程、
を包含する、方法。
【請求項40】
前記温度は、50℃以下であることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記温度は、100℃以下であることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.01〜約50μmであることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.05〜約30μmであることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.1〜約10μmであることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための方法であって、
A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項46】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記投与は、気道内投与、経気道吸収および経鼻吸入からなる群より選択される投与方法を包含する、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
前記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
前記投与は、点鼻、鼻用スプレー、ネブライザー、レスピレータおよび粉体投与からなる群より選択される手段により行われることを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項52】
好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための方法であって、
A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項53】
NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用。
【請求項54】
好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用。
【請求項1】
NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための薬学的組成物であって、NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物。
【請求項2】
前記NF−κBのデコイが、NF−κBのデコイまたはその誘導体、改変体もしくはフラグメントであり、該誘導体、改変体もしくはフラグメントが生物学的活性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記NF−κBのデコイが、配列番号1で表されるデコイである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPDである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、喘息である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、鼻炎である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記薬学的に受容可能なキャリアが親水性ポリマー、炭水化物または非溶解性添加剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記薬学的に受容可能なキャリアがリポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトールまたはキシリトールから選ばれた1種以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための薬学的組成物であって、NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物。
【請求項12】
前記NF−κBのデコイが、NF−κBのデコイまたはその誘導体、改変体もしくはフラグメントであり、該誘導体、改変体もしくはフラグメントが生物学的活性を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記NF−κBのデコイが、配列番号1で表されるデコイである、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または状態が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患、障害および/または状態である、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気管支喘息、小児喘息、アレルギー性喘息、アトピー性喘息、ステロイド不応性喘息、非アレルギー性喘息、内因性喘息、外因性喘息、アスピリン喘息、心臓性喘息および感染型喘息からなる群より選択される喘息、またはアレルギー性鼻炎、花粉症、急性鼻炎、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)および鼻中隔彎曲症からなる群より選択される鼻炎である、請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
前記薬学的に受容可能なキャリアが親水性ポリマー、炭水化物または非溶解性添加剤である、請求項11に記載の組成物。
【請求項18】
前記薬学的に受容可能なキャリアがリポソーム、乳糖、トレハロース、ショ糖、マンニトールまたはキシリトールから選ばれた1種以上である、請求項11に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物を含み、該組成物は、呼吸器へ投与されるために適合される、呼吸器用投与製剤。
【請求項20】
前記呼吸器への投与は、気道内投与または経気道吸収を含む、請求項19に記載の呼吸器用投与製剤。
【請求項21】
前記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする、請求項19に記載の製剤。
【請求項22】
前記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む、請求項19に記載の製剤。
【請求項23】
前記組成物は、ドライパウダーとして提供される、請求項19に記載の製剤。
【請求項24】
前記ドライパウダーが、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、アルティマイザー(ultimaizer)、乳鉢、石臼、噴霧乾燥および超臨界流体からなる群より選択される手段を用いて製造された微粒子であることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項25】
前記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.01〜約50μmであることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項26】
前記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.05〜約30μmであることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項27】
前記ドライパウダーの空力学的平均粒子径が約0.1〜約10μmであることを特徴とする、請求項23に記載の製剤。
【請求項28】
投与量が1回あたり10μg〜100mgである、請求項19に記載の製剤。
【請求項29】
投与量が1回あたり50μg〜50mgである、請求項19に記載の製剤。
【請求項30】
投与量が1回あたり10mg以下である、請求項19に記載の製剤。
【請求項31】
前記呼吸器への投与は、経鼻吸収を含む、請求項19に記載の製剤。
【請求項32】
前記製剤が、点鼻剤、鼻用スプレー剤、ネブライザー用剤、レスピレータ用剤および粉体投与製剤からなる群より選択される製剤であることを特徴とする、請求項31に記載の製剤。
【請求項33】
前記製剤が鼻炎用点鼻剤であることを特徴とする、請求項31に記載の製剤。
【請求項34】
NF−κBのデコイがHVJ-Eエンベロープベクターに封入されていることを特徴とする、請求項19に記載の製剤。
【請求項35】
前記呼吸器への投与は、肺投与を含む、請求項19に記載の製剤。
【請求項36】
請求項1〜18のいずれか1項に記載の組成物と、呼吸器に該組成物を投与するための手段とを備える、呼吸器処置のためのデバイス。
【請求項37】
前記呼吸器への投与手段は、肺投与手段、経気道内投与手段、経気道吸収手段および経鼻吸収手段からなる群より選択される手段を含む、請求項36に記載のデバイス。
【請求項38】
前記呼吸器への投与手段は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)を含む、請求項36に記載のデバイス。
【請求項39】
NF−κBのデコイを含む粒子を製造するための方法であって、
A)該デコイおよび薬学的に受容可能なキャリアを提供する工程;
B)該デコイおよびキャリアを乾燥させ、粒子化するに十分な温度に加熱する工程;
C)所望の粒径を有する粒子を取り出す工程、
を包含する、方法。
【請求項40】
前記温度は、50℃以下であることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記温度は、100℃以下であることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.01〜約50μmであることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.05〜約30μmであることを特徴とする、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記粒径は、空力学的平均粒子径として約0.1〜約10μmであることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための方法であって、
A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項46】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、気道炎症性、気道狭窄性または鼻腔炎症性疾患である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記呼吸器系の疾患、障害および/または症状が、COPD、喘息または鼻炎である、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記投与は、気道内投与、経気道吸収および経鼻吸入からなる群より選択される投与方法を包含する、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
前記呼吸器への投与は、噴射または吸気により気道内投与することを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
前記呼吸器への投与は、定量噴霧式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)またはネブライザー(nebulizer)による投与を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
前記投与は、点鼻、鼻用スプレー、ネブライザー、レスピレータおよび粉体投与からなる群より選択される手段により行われることを特徴とする、請求項45に記載の方法。
【請求項52】
好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または状態を治療および/または予防するための方法であって、
A)NF−κBのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを包含する組成物を被験体の呼吸器系に投与する工程、
を包含する、方法。
【請求項53】
NF−κBによって制御される遺伝子の発現に起因する、呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用。
【請求項54】
好酸球の異常に関連する呼吸器系の疾患、障害および/または症状を治療および/または予防するための医薬の製造のための、NF−κBのデコイの使用。
【図1A】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図4】
【図5】
【図6】
【国際公開番号】WO2005/004914
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511547(P2005−511547)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009838
【国際出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(500409323)アンジェスMG株式会社 (34)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/009838
【国際出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(500409323)アンジェスMG株式会社 (34)
【Fターム(参考)】
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