説明

NFATシグナル阻害剤、並びにNFATシグナル阻害活性を有する新規化合物

【課題】NFATシグナル阻害活性を示す活性成分を提供する。
【解決手段】アメリカンアンジェリカ(Angelica atropurpurea)の抽出物に含まれ、NFATシグナル阻害活性を示す新規な活性成分が一般式(I)


である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物又は植物抽出物に含まれる活性成分を有効成分とする、NFAT(nuclear factor of activated T cells)シグナル阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Nuclear factor of activated T cells (以下、NFATと略称する)は、T細胞活性化に重要なInterleukin-2(IL-2)の転写を活性化する因子として発見され、免疫抑制剤であるサイクロスポリンA(以下、CsAと略称する)やタクロリムス(以下、FK506と略称する)の標的であるセリン/スレオニン脱リン酸化酵素カルシニューリンによりその転写活性調節が行われていることが報告されている(図3参照)。すなわちCsAやFK506はNFATシグナルを阻害することによりT細胞活性化を抑制する。CsAやFK506は移植免疫抑制剤としてのみならず、免疫系の関与することが知られている関節リウマチ、乾癬、アトピー性皮膚炎の治療薬としても認可されている。このようなNFATがNFAT結合配列(図3においては“NFAT site”)に結合することによって、当該NFAT結合配列より下流の遺伝子の転写が促進される系を『NFATシグナル』と称する。
【0003】
また、NFATは、免疫系への作用に留まらず、心筋・骨格筋の分化調節による筋組織形成、脳における神経ネットワークの形成、骨芽細胞分化調節による骨代謝など、多くの臓器で発現し、重要な役割を果たす"多機能転写因子"として捉えられるようになってきた。
【0004】
NFATシグナルが生体において及ぼす役割としては上述したとおりであるが、NFATシグナルを阻害することで、免疫抑制作用(非特許文献2)、乾癬治療(非特許文献3)、アトピー性皮膚炎治療(非特許文献4)、(心)筋肥大抑制(非特許文献5)、抗リウマチ薬としての可能性(非特許文献6)及び破骨細胞分化抑制作用(非特許文献7)などが期待できると報告されている。また、前述のようにNFATは免疫性サイトカインIL-2を産生する経路を介していることから、NFATシグナル阻害剤は自己免疫疾患を含む免疫性サイトカインが関与していると考えられる疾患の治療または予防に有用である。かかる対象疾患としては、例えば各種のガン、各種白血病、各種肝炎、各種感染症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、消化性潰瘍、敗血症ショック、結核、不妊症、動脈硬化、ベーチェット病、喘息、腎炎、急性バクテリア髄膜炎、急性心筋梗塞、急性膵炎、急性ウイルス脳炎、成人呼吸促迫症候群、バクテリア肺炎、慢性膵炎、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、時局性回腸炎、多発性硬化症などが挙げられる。したがって、新規にNFATシグナル阻害剤が同定されれば、免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、(心)筋肥大抑制剤、抗リウマチ薬、骨代謝疾患治療剤及び、上記に列記したような新規な医薬用途が期待される。
【0005】
また、アンジェリカ属に属する植物又はその抽出物もしくはその含有成分について、NFATシグナルとの関連について示唆するものはない。アンジェリカ植物に含まれる成分については、非特許文献8を参照することができる。なお、現在のところ、NFATシグナル阻害活性を有する化合物としては、種々の食用植物に含まれるアピゲニン(非特許文献9)及びロスマリン酸(非特許文献10)が知られており、またNFATシグナル亢進活性を有する化合物としてゲニステイン(非特許文献11)が知られている。
【0006】
【非特許文献1】Gafter-Gvili A, Sredni B, Gal R, Gafter U, and Kalechman Y、"Cyclosporin A-induced hair growth in mice is associated with inhibition of calcineurin-dependent activation of NFAT in follicular keratinocytes" Am J Physiol Cell Physiol, 284: C1593-C603, 2003
【非特許文献2】Lee M and Park J、"Regulation of NFAT activation: a potential therapeutic target for immunosuppression" Mol Cells, 22: 1-7, 2006
【非特許文献3】Feldman S、"Advances in psoriasis treatment" Dermatol Online J, 6: 4, 2000
【非特許文献4】Hultsch T、"Immunomodulation and safety of topical calcineurin inhibitors for the treatment of atopic dermatitis" Dermatology, 211: 2, 2005
【非特許文献5】Molkentin JD, Lu JR, Antos CL, Markham B, Richardson J, Robbins J, Grant SR, and Olson EN、"A calcineurin-dependent transcriptional pathway for cardiac hypertrophy" Cell, 93: 215-228, 1998
【非特許文献6】Urushibara M, Takayanagi H, Koga T, Kim S, Isobe M, Morishita Y, Nakagawa T, Loeffler M, Kodama T, Kurosawa H, and Taniguchi T、" Antirheumatic drug, leflunomide, inhibits osteoclastgenesis by interfering with RANKL-stimulated induction of NFATc1" Arthritis and Rheumatism, 50: 794-804, 2004
【非特許文献7】Takayanagi H, Kim S, Koga T, Nishina H, Isshiki M, Yoshida H, Saiura A, Isobe M, Yokochi T, Inoue J, Wagner EF, Mak TW, Kodama T, and Taniguchi T、" Induction and activation of the transcription factor NFATc1 (NFAT2) integrate RANKL signaling in termial differentiation of osteoclasts" Developmental Cell, 3: 889-901, 2002
【非特許文献8】S.D. Sarker and L. Nahar, "Natural Medicine: The Genus Angelica" Current Medicinal Chemistry, 11, 1479-1500, 2004
【非特許文献9】Jin Park et al., Immunology Letters, 103, 108-114, 2006
【非特許文献10】Mi-Ae Kang et al., Blood, 101, 3534-3542, 2003
【非特許文献11】Jin Park et al., Toxicology and Applied Pharmacology, 212, 188-199, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者らは、上述した実情に鑑み、天然物などから得られる安全で副作用がなく、有効なNFATシグナル阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アメリカンアンジェリカ(Angelica atropurpurea)の抽出物に含まれ、NFATシグナル阻害活性に寄与する活性成分の同定に成功し、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
【0009】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、次の一般式(I):
【化1】

(上記一般式(I)中、R1及びR2は、各々同じであっても異なっていてもよく、水素原子又は一般式(II):
【0010】
【化2】

で示される基(上記一般式(II)中、R3は炭素数1〜20の直鎖又は分枝アルキル基又はアルケニル基を示す)である)で示されるクマリン誘導体及び薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有する。
【0011】
ここで、上記一般式(I)中R1がアンゲロイル基、イソバレロイル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であり、R2はアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であることが好ましい。
【0012】
さらに上記一般式(I)で表されるクマリン誘導体が、アルカンジェリシン、3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselol、3’-angeloyloxy-4’-senecioyloxy-2’,3’-dihydrooroselol及び3’-hydroxy-4’-angeloyloxy-2’,3’-dihydrooroselolからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0013】
一方、本発明者らは、上記NFATシグナル阻害剤に含まれる化合物のなかで新規化合物を同定するに至った。すなわち、本発明に係る新規化合物は、次の一般式(III)で示される化合物である
【0014】
【化3】

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、NFATシグナルを阻害するといった新規機能を有する活性成分を含むNFATシグナル阻害剤を提供することができる。また、本発明によれば、NFATシグナル阻害活性を有する新規化合物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、アメリカンアンジェリカ植物又は当該植物の抽出物などから得ることが出来る。ここで、アメリカンアンジェリカとは、学名をAngelica atropurpureaと称し、セリ科に分類される植物である。
【0017】
ここで活性成分とは、次の一般式(I)で示されるクマリン誘導体若しくは薬理学的に許容されるその塩である。一般式(I)に示すように、活性成分は、クマリン誘導体の中でもアンギュラー型クマリン誘導体である。
【0018】
【化4】

【0019】
上記一般式(I)中、R1及びR2は水素原子又は一般式(II):
【化5】

で示される基である。ここで、上記一般式(II)中、R3は炭素数1〜20の直鎖又は分枝アルキル基又はアルケニル基である。なお、R1及びR2は、各々同じであっても異なっていてもよい。
【0020】
すなわち、活性成分として使用できるクマリン誘導体は、上述のように規定したR1、R2及びR3の範囲で種々の化合物を含むことになる。特に、上記R1としては、アンゲロイル基、イソバレロイル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる官能基であることが好ましい。また、上記R2はアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基及びセネシオイル基からなる群から官能基であることが好ましい。さらに、上記R2がアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基又はセネシオイル基であるクマリン誘導体を、脱アシル化することによってクマリン骨格の3'位をヒドロキシル基(上記R2が水素原子の場合に相当)とすることができる。
【0021】
なかでも、活性成分としては、R1がアンゲロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体、R1がイソバレロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体、及びR1がセネシオイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体であることが好ましい。また、活性成分としては、これらクマリン誘導体を脱アシル化して得られるアンギュラー型フロクマリン誘導体も好ましい。
【0022】
特に、R1がアンゲロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体はアルカンジェリシンとして抗腫瘍、抗炎症作用が知られた化合物である。また、R1がイソバレロイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体、例えば3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselolは、本発明においてNFATシグナル阻害活性を有することが明らかになった公知化合物である。さらに、R1がセネシオイル基であり、R2がアンゲロイル基であるクマリン誘導体、例えば3’-angeloyloxy-4’-senecioyloxy-2’,3’-dihydrooroselolは、NFATシグナル阻害活性を有する新規化合物である。
【0023】
なお、上述したクマリン誘導体におけるNFATシグナル阻害活性は以下のように測定することができる。ここでNFATシグナル阻害とは、NFATに対して直接的又は間接的に作用してNFATによる転写促進活性を低減させることを意味する。NFATシグナル阻害作用を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば公知のNFAT結合配列と当該NFAT結合配列の下流にレポーター遺伝子と有するプラスミドを導入した宿主を用いるレポーターアッセイを挙げることができる。なお、NFATの活性はカルシウムイオンに依存するため、レポーターアッセイはカルシウムイオンを宿主に流入させる条件下で行う。レポーター遺伝子としては、特に限定されず、従来、生化学実験の分野で使用されている如何なるレポーター遺伝子も使用することができる。例えばレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子(GUS遺伝子)及びグリーンフルオレセントプロテイン遺伝子(GFP遺伝子)等を挙げることができる。
【0024】
NFAT結合配列とは、NFATが結合する配列からなるオリゴヌクレオチド、例えば、配列番号1に示すGGAGGAAAAACTGTTTCATACAGAAGGCGT(pNFAT-Luc、Stratagene)といった塩基配列を例示することができる。なお、上述したプラスミドにおいては、このようなNFAT結合配列を1セットとして複数セットを連結して導入してもよい。複数のNFAT結合配列を連結して使用することによって、NFATによる転写促進活性をより高感度に測定することができる。なお、NFATシグナル阻害活性は、上述したレポーターアッセイから算出したNFATシグナル阻害率として評価することができる。
【0025】
一方、活性成分であるクマリン誘導体のうち、上述したアルカンジェリシン、3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselol及び3’-angeloyloxy-4’-senecioyloxy-2’,3’-dihydrooroselolについては、例えば、アメリカンアンジェリカ植物の植物抽出物から単離することができる。アメリカンアンジェリカ植物の植物抽出物は、アメリカンアンジェリカ植物の全草、葉、茎、花、果実、種子、根茎又は根等から常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる。植物抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤又は非極性溶剤のいずれをも使用することができる。抽出溶剤としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。
【0026】
特に、上述したアルカンジェリシン、3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselol及び3’-angeloyloxy-4’-senecioyloxy-2’,3’-dihydrooroselolは、95%エタノールを使用した植物抽出物から単離することができる。具体的には、上記植物等抽出物をクロマトグラフィー液々分配等の分離技術に供し、当該抽出物から不活性な夾雑物を除去することで単離することができる。また、アルカンジェリシンを脱アシル化することによって3’-hydroxy-4’-angeloyloxy-2’,3’-dihydrooroselolが得られる。
【0027】
ただし、本発明においては、上記化学式(I)で示される化合物であれば、従来公知の化合物を活性成分として使用することができる。上記化学式(I)で示される公知化合物としては、例えば、アサマンチン(Athamantin)、シニフォリンB(Cniforin B)、エデュリシンII(Edulisin II)及びエデュリシンV(Edulisin V)を挙げることができ、活性成分として使用することができる。
【0028】
上述した活性成分は、NFATによる転写促進活性を低減させることから、細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。具体的には、上述した活性成分を、対象とする細胞や組織に接触させることによって、当該細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。これにより、当該細胞や組織においては、NFATシグナルによって生ずる種々の遺伝子発現を転写レベルで抑制することができる。
【0029】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、NFATによる転写促進活性を低減させることから、NFATによる転写促進活性の亢進に起因する症状や疾患に対する治療剤、又は予防剤として使用することができる。NFATによる転写促進活性の亢進に起因する症状や疾患としては、免疫系疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、心筋を含む筋肥大症、リウマチ、骨代謝疾患、各種のガン、各種白血病、各種肝炎、各種感染症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、消化性潰瘍、敗血症ショック、結核、不妊症、動脈硬化、ベーチェット病、喘息、腎炎、急性バクテリア髄膜炎、急性心筋梗塞、急性膵炎、急性ウイルス脳炎、成人呼吸促迫症候群、バクテリア肺炎、慢性膵炎、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、時局性回腸炎、多発性硬化症等を挙げることができる。したがって、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、免疫抑制剤、乾癬治療剤、(心)筋肥大抑制剤、抗リウマチ薬及び骨代謝疾患治療剤等として使用することができる。
【0030】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬用途として使用する場合、剤形として、特に限定されないが、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、軟膏剤等が挙げられる。本発明に係るNFATシグナル阻害剤を経口投与の医薬用組成物として使用する場合、上記NFATシグナル阻害剤の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。経口投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、乾癬治療剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等が挙げられる。本発明に係るNFATシグナル阻害剤を経皮投与の医薬用組成物として使用する場合、上記NFATシグナル阻害剤の他、経皮投与剤の形態に応じて一般に用いられる、植物油、動物油、合成油、脂肪酸、及び天然、合成のグリセライド等の油性基剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、増粘剤等を添加し、常法に従って製造することができる。経皮投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤等が挙げられる。
【0031】
一方、上述した活性成分は化粧料として使用することもできる。この場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば、油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック及びパウダー等が挙げられる。当該化粧料には、上述した活性成分の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料及び各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。具体的には、皮膚化粧料に配合される薬効成分、例えば微粒子酸化亜鉛、酸化チタン、パーソールMCX、パーソール1789等の紫外線吸収剤、アスコルビン酸等のビタミン類、ヒアルロン酸ナトリウム、ワセリン、グリセリン、尿素等の保湿剤、ホルモン剤、及びコウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス、ルシノール等の他の美白成分、ステロイド剤、アラキドン酸代謝物やヒスタミン等に代表される化学伝達物質産生・放出抑制剤(インドメタシン、イブプロフェン)、レセプター拮抗剤等の抗炎症剤、抗男性ホルモン剤、ビタミンA酸、ローヤルゼリーエキス、ローヤルゼリー酸等の皮脂分泌抑制剤、ニコチン酸トコフェロール、アルプロスタジル、塩酸イソクスプリン、塩酸トラゾリン等の抹消血管拡張剤及び末梢血管拡張作用のある炭酸ガス等、ミノキシジル、塩化カルプロニウム、トウガラシチンキ、ビタミンE誘導体、イチョウエキス、センブリエキス等の血行促進剤、ペンタデカン酸グリセリド、ニコチン酸アミド等の細胞賦活化剤、ヒノキチオール、L-メントール、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、セラミド及びセラミド類似化合物等を添加配合することができる。
【0032】
上述した活性成分を医薬、医薬部外品又は化粧料として使用する場合、配合量は、通常、医薬、医薬部外品又は化粧料の全組成の0.00001〜5重量%、特に0.0001〜0.1重量%とすることが好ましい。また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬として用いる場合、上述した活性成分の投与量は、通常の成人で0.01mg〜1g/1日とすることが望ましい。
【0033】
また、上述した活性成分を化粧品、医薬又は医薬部外品として使用する場合、例えばチョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイドシリカナトリウムポリアクリレート等の粉体;例えば鉱油、植物油、シリコーン油等の油又は油状物質;例えばソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノオレエート、高分子シリコーン界面活性剤等の乳化剤;パラ−ヒドロキシベンゾエートエステル等の防腐剤;ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;グリセロール、ソルビトール、2−ピロリドン−5−カルボキシレート、ジブチルフタレート、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の湿潤剤;トリエタノールアミン又は水酸化ナトリウムのような塩基を伴う乳酸等の緩衝剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の界面活性剤;密ろう、オゾケライトワックス、パラフィンワックス等のワックス類;増粘剤;活性増強剤;着色料;香料等、を必要に応じ適宜組合せて用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
〔実施例1〕アメリカンアンジェリカからの活性成分類の単離
(1)図1に示す工程に従って、アメリカンアンジェリカ(Angelica atropurpurea(セリ科)の根茎から本発明の化合物「成分A」、「成分B」及び「成分C」を単離した。
【0035】
(2)アンジェリカ(Angelica atropurpurea)の根茎(160g)を95%エタノール-水(1.6L)に5日間浸漬して抽出し、95%エタノール-水抽出液を得た。この抽出液をろ過後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、固形分14.3gを得た。この濃縮乾固物1gを中圧ODSカラムクロマトグラフィ(内径2.6×30cm)に付し、アセトニトリル-0.1% TFA系で溶出し以下の画分(fr. A〜K)を得た。
fr. A: 0.23 g
fr. B: 0.01 g
fr. C: 0.03 g
fr. D: 0.07 g
fr. E: 0.05 g
fr. F: 0.02 g
fr. G: 0.02 g
fr. H: 0.15 g
fr. I: 0.24 g
fr. J: 0.10 g
fr. K: 0.03 g
【0036】
(3)上記(2)で得られたfr. I(0.24g)を分取高速液体クロマトグラフィ(内径10×250mm)に付し、アセトニトリル-0.1% TFA系(58%)系で溶出し、以下の画分(fr. I-1〜I-8)を得た。
fr. I - 1: 46.5 mg
fr. I - 2: 27.6 mg
fr. I - 3: 3.4 mg
fr. I - 4: 6.3 mg
fr. I - 5: 18.8 mg
fr. I - 6: 84.6 mg
fr. I - 7: 5.4 mg
fr. I - 8: 46.9 mg
本発明の化合物は、分析の結果、fr. I-6(成分A)、fr. I-8(成分B)、fr. I-5(成分C)にほぼ単一化合物として得られた。
【0037】
〔実施例2〕成分A、成分B及び成分Cの同定
(1)実施例1で得られた化合物について、1H NMR解析及び13C NMR解析を行った。
1H NMR(500 MHz, CDCl3)及び13C NMR(125 MHz, CDCl3)解析の結果として得られたデータを表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(2)表1に示した解析結果より、成分A、成分B及び成分Cの化合物は下記構造を有するアンギュラー型フロクマリン誘導体であることが示された。
【0040】
【化6】

【0041】
すなわち、成分A、成分B及び成分Cは、それぞれアルカンジェリシン、3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselol及び3’-angeloyloxy-4’-senecioyloxy-2’,3’-dihydrooroselolであることが判った。ここで、成分Cの3’-angeloyloxy-4’-senecioyloxy-2’,3’-dihydrooroselolは過去に報告例がなく、新規化合物であった。
【0042】
〔実施例3〕成分A(アルカンジェリシン)の脱アシル体の調製
本例では、実施例1及び2で成分Aとして単離したアルカンジェリシンの脱アシル化を行った。まず、成分A(70mg)を7mLのアセトンに溶解後、濃アンモニア水7mLを添加し、室温で一昼夜攪拌した。反応液を濃縮後(75mg)、分取高速液体クロマトグラフィ(内径10×250mm)に付し、0.1%ギ酸-アセトニトリル系で溶出し、主生成物を分取した(17mg)。
【0043】
〔実施例4〕成分A(アルカンジェリシン)の脱アシル体の同定
(1)実施例3で得られた化合物について、1H NMR解析及び13C NMR解析を行った。1H NMR(500 MHz, CDCl3)及び13C NMR(125 MHz, CDCl3)解析の結果として得られたデータを表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
(2)表2に示した解析分析より、実施例3における生成物はアルカンジェリシンの3’位のアンゲロイル基が脱離した、下記構造を有するアンギュラー型フロクマリン誘導体であることが示された。
【0046】
【化7】

【0047】
〔実施例5〕NFATシグナル阻害効果
本例では、実施例1で得られた成分A、成分B及び成分C並びに実施例3で調製した成分Aの脱アシル体についてのNFATシグナル阻害効果を検証した。
【0048】
(1)評価システムのための材料及び方法
細胞培養
上記評価システムには、ヒト腎(HEK293)細胞をATCC(American Type Culture Collection)より購入し、使用した。HEK293細胞は、DMEM(High glucose、10% heat-inactivated FBS)中37℃、5% CO2条件下で培養した。
【0049】
プラスミド、トランスフェクション
上記評価システムには、NFAT結合配列の下流にホタルルシフェラーゼが導入されたプラスミドpNFAT-Luc(Stratagene)をHEK293細胞にトランスフェクションしたものを使用した。詳細には、NFAT転写活性の評価用に4連のNFAT結合配列の下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子が導入されたpNFAT-luc(STRATAGENE)をHEK293細胞にトランスフェクションした。また、トランスフェクション効率によるばらつきをなくすことを目的として、ホタルルシフェラーゼに由来するシグナルを補正するためにCMV promoterの下流にウミシイタケルシフェラーゼが導入されたpRL-CMV(Promega)を同時にトランスフェクションした。
【0050】
トランスフェクションは、LipofectAMINE 2000 reagent(Invitrogen)を用いて使用説明書に従って行った。トランスフェクションの8時間後に培地を交換し、一晩インキュベートした。その後、実施例1で得られた成分A、成分B及び成分C並びに実施例3で調製した成分Aの脱アシル体を添加し、その1時間後に1μM Ionomycinを添加した。8時間後、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。
【0051】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
ルシフェラーゼレポーターアッセイは、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega)を用い、使用説明書に従って行った。すなわち、培地を除去後、PBSにより2倍希釈したDual-Glo luciferase reagentを加え、攪拌した後、20分後にホタルルシフェラーゼ活性を測定した。その後、等量のDual-Glo Stop&Glo reagentを加え、攪拌した後にウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性測定はMiniLumat LB 9506(EG&G BERTHOLD)を用いて行い、ルシフェラーゼによる発光量を定量的に検出した。双方ともルシフェラーゼ活性の測定時間は2秒とした。
【0052】
NFATシグナル阻害率の算出
全てのNFAT転写活性(ホタルルシフェラーゼ活性)はトランスフェクション効率補正のために導入されたウミシイタケルシフェラーゼ活性にて除することで補正した。その後、NFATシグナル阻害率を以下の式にて算出した。
NFATシグナル阻害率(%)=100−(試験サンプル及びIonomycin添加群−無刺激群)/(Ionomycinのみ添加群−無刺激群)×100
上記計算により、Ionomycin刺激によるNFATシグナル活性化をテストサンプルが何%阻害したかについて算出することができる。
【0053】
結果
NFATシグナル阻害率を算出した結果を図2に示す。図2から判るように、実施例1で得られた成分A、成分B及び成分C並びに実施例3で調製した成分Aの脱アシル体は、いずれもNFATシグナルを阻害した。すなわち、成分A、成分B及び成分Aの脱アシル体は、NFATにより正に制御される転写を抑制することができる。したがって、成分A、成分B及び成分Aの脱アシル体は、優れたNFATシグナル阻害剤であり、例えば免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等の候補物質として同定されたこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】アメリカンアンジェリカからの活性成分類の単離する際の溶出画分を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られた成分A、成分B及び成分C並びに実施例3で調製した成分Aの脱アシル体についてNFATシグナル阻害率を算出した結果を示す特性図である。
【図3】NFATとNFAT結合部位との結合及びその下流の遺伝子転写促進を示す、NFATシグナルの概略構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I):
【化1】

(上記一般式(I)中、R1及びR2は、各々同じであっても異なっていてもよく、水素原子又は一般式(II):
【化2】

で示される基(上記一般式(II)中、R3は炭素数1〜20の直鎖又は分枝アルキル基又はアルケニル基を示す)である)で示されるクマリン誘導体及び薬理学的に許容されるそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分として含有することを特徴とするNFATシグナル阻害剤。
【請求項2】
上記一般式(I)中R1がアンゲロイル基、イソバレロイル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であり、R2はアンゲロイル基、イソバレロイル基、2メチルブチル基及びセネシオイル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基であることを特徴とする請求項1記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項3】
上記一般式(I)で表されるクマリン誘導体が、アルカンジェリシン、3’-angeloyloxy-4’-isovaleryloxy-2’,3’-dihydrooroselol、3’-angeloyloxy-4’-senecioyloxy-2’,3’-dihydrooroselol及び3’-hydroxy-4’-angeloyloxy-2’,3’-dihydrooroselolからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項4】
次の一般式(III)で示される化合物。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−100537(P2010−100537A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271078(P2008−271078)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】