説明

NFATシグナル阻害剤及びNFATシグナル阻害方法

【課題】NFATシグナルを阻害することができる新規なNFATシグナル阻害剤を提供する。
【解決手段】表1の植物名の欄に列挙された植物種から選ばれる少なくとも1種の植物、当該植物の抽出物及び当該抽出物に含まれる成分からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分としている。本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、例えば外用剤、医薬組成物、化粧品及び食品等の様々な分野に応用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物、植物抽出物或いは植物抽出物に含まれる成分を有効成分とするNFAT(nuclear factor of activated T cells)シグナル阻害剤及びNFATシグナル阻害方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nuclear factor of activated T cells (以下、NFATと略称する)は、T細胞活性化に重要なInterleukin-2(IL-2)の転写を活性化する因子として発見され、免疫抑制剤であるサイクロスポリンA(以下、CsAと略称する)やタクロリムス(以下、FK506と略称する)の標的であるセリン/スレオニン脱リン酸化酵素カルシニューリンによりその転写活性調節が行われていることが報告されている(図2参照)。すなわちCsAやFK506はNFATシグナルを阻害することによりT細胞活性化を抑制する。CsAやFK506は移植免疫抑制剤としてのみならず、免疫系の関与することが知られている関節リウマチ、乾癬、アトピー性皮膚炎の治療薬としても認可されている。このようなNFATがNFAT結合配列(図2においては“NFAT site”)に結合することによって、当該NFAT結合配列より下流の遺伝子の転写が促進される系を『NFATシグナル』と称する。
【0003】
発見の経緯などから、NFATは免疫系にのみ作用する因子として考えられてきたが、最近の研究からは免疫系に留まらず、心筋・骨格筋の分化調節による筋組織形成、脳における神経ネットワークの形成、骨芽細胞分化調節による骨代謝など、多くの臓器で発現し、重要な役割を果たす"多機能転写因子"として捉えられるようになってきた。
【0004】
NFATシグナルが生体において及ぼす役割としては上述したとおりであるがNFATシグナルを阻害することで、免疫抑制作用(非特許文献1)、乾癬治療(非特許文献2)、アトピー性皮膚炎治療(非特許文献3)、(心)筋肥大抑制(非特許文献4)、抗リウマチ薬としての可能性(非特許文献5)、発毛作用(非特許文献6)及び破骨細胞分化抑制作用(非特許文献7)などが期待できると報告されている。また、前述のようにNFATは免疫性サイトカインIL-2を産生する経路を介していることから、NFATシグナル阻害剤は自己免疫疾患を含む免疫性サイトカインが関与していると考えられる疾患の治療または予防に有用である。かかる対象疾患としては、例えば各種のガン、各種白血病、各種肝炎、各種感染症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、消化性潰瘍、敗血症ショック、結核、不妊症、動脈硬化、ベーチェット病、喘息、腎炎、急性バクテリア髄膜炎、急性心筋梗塞、急性膵炎、急性ウイルス脳炎、成人呼吸促迫症候群、バクテリア肺炎、慢性膵炎、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、時局性回腸炎、多発性硬化症などが挙げられる。したがって、新規にNFATシグナル阻害剤が同定されれば、免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、(心)筋肥大抑制剤、抗リウマチ薬、骨代謝疾患治療剤及び、上記に列記したような新規な医薬用途が期待される。また、新規にNFATシグナル阻害剤が同定されれば、発毛促進剤としての医薬部外品や化粧品用途が期待される。
【0005】
【非特許文献1】Lee M and Park J、"Regulation of NFAT activation: a potential therapeutic target for immunosuppression" Mol Cells, 22: 1-7, 2006
【非特許文献2】Feldman S、"Advances in psoriasis treatment" Dermatol Online J, 6: 4, 2000
【非特許文献3】Hultsch T、"Immunomodulation and safety of topical calcineurin inhibitors for the treatment of atopic dermatitis" Dermatology, 211: 2, 2005
【非特許文献4】Molkentin JD, Lu JR, Antos CL, Markham B, Richardson J, Robbins J, Grant SR, and Olson EN、"A calcineurin-dependent transcriptional pathway for cardiac hypertrophy" Cell, 93: 215-228, 1998
【非特許文献5】Urushibara M, Takayanagi H, Koga T, Kim S, Isobe M, Morishita Y, Nakagawa T, Loeffler M, Kodama T, Kurosawa H, and Taniguchi T、" Antirheumatic drug, leflunomide, inhibits osteoclastgenesis by interfering with RANKL-stimulated induction of NFATc1" Arthritis and Rheumatism, 50: 794-804, 2004
【非特許文献6】Gafter-Gvili A, Sredni B, Gal R, Gafter U, and Kalechman Y、"Cyclosporin A-induced hair growth in mice is associated with inhibition of calcineurin-dependent activation of NFAT in follicular keratinocytes" Am J Physiol Cell Physiol, 284: C1593-C603, 2003
【非特許文献7】Takayanagi H, Kim S, Koga T, Nishina H, Isshiki M, Yoshida H, Saiura A, Isobe M, Yokochi T, Inoue J, Wagner EF, Mak TW, Kodama T, and Taniguchi T、" Induction and activation of the transcription factor NFATc1 (NFAT2) integrate RANKL signaling in termial differentiation of osteoclasts" Developmental Cell, 3: 889-901, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、外用剤、医薬組成物、化粧品及び食品等に使用することのできる、新規なNFATシグナル阻害剤及び新規NFATシグナル阻害剤を使用したNFATシグナル阻害方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、NFATシグナル伝達に対する作用を評価する系を新規に構築し、当該系を用いて種々の植物についてNFATシグナル阻害作用を網羅的に解析した結果、NFATシグナル阻害作用を有する植物を同定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、下記表1の植物名(和名)の欄に列挙された植物種から選ばれる少なくとも1種の植物、当該植物の抽出物及び当該抽出物に含まれる成分からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分としている。
【0009】
【表1】


【0010】
特に、本発明に係るNFATシグナル阻害剤としては、表1の抽出部位の欄に記載された部位のアルコール抽出物を上記抽出物として含有することが好ましい。また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、表1の抽出部位の欄に記載された部位を表1の抽出溶媒の欄に記載された溶媒にて抽出された抽出物を含有することが好ましい。
【0011】
上述したNFATシグナル阻害剤を対象の細胞又は組織に接触させることによって、当該細胞又は組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤によれば、NFATによって正に制御される転写を抑制することができる。したがって、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、例えば免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等の候補物質として有用である。また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、有効成分として天然物質に由来するものを含有することから安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、下記表2の植物名(和名)の欄に列挙された植物種から選ばれる少なくとも1種の植物、当該植物の抽出物及び当該抽出物に含まれる成分からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分としている。
【0014】
【表2】


【0015】
なお、表2においては、植物名(和名)(学名並びに分類を含む)、抽出部位及び抽出溶媒に加えて、後述する方法によって測定されたNFATシグナル阻害率を記載している。NFATシグナル阻害率とは、要するに、抽出物を作用させないときのNFATによる転写活性に対して、抽出物を作用させたときの当該転写活性の低下率を意味している。
【0016】
ここで、NFATシグナル阻害とは、NFATに対して直接的又は間接的に作用してNFATによる転写促進活性を低減させることを意味する。NFATシグナル阻害作用を測定する方法としては特に限定されないが、例えば公知のNFAT結合配列と当該NFAT結合配列の下流にレポーター遺伝子と有するプラスミドを導入した宿主を用いるレポーターアッセイを挙げることができる(図1参照)。なお、NFATの活性はカルシウムイオンに依存するため、レポーターアッセイはカルシウムイオンを宿主に流入させる条件下で行う。レポーター遺伝子としては、特に限定されず、従来、生化学実験の分野で使用されている如何なるレポーター遺伝子も使用することができる。例えばレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子(GUS遺伝子)及びグリーンフルオレセントプロテイン遺伝子(GFP遺伝子)等を挙げることができる。
【0017】
NFAT結合配列とは、NFATが結合する配列からなるオリゴヌクレオチド、例えばGGAGGAAAAACTGTTTCATACAGAAGGCGT(pNFAT-Luc、Stratagene:配列番号1)といった塩基配列を例示することができる。なお、上述したプラスミドにおいては、このようなNFAT結合配列を1セットとして複数セットを連結して導入してもよい。複数のNFAT結合配列を連結して使用することによって、NFATによる転写促進活性をより高感度に測定することができる。
【0018】
なお、表2に示したNFATシグナル阻害率は、上述したルシフェラーゼ遺伝子を用いたレポーターアッセイから算出した値である。
【0019】
特に、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、上記表2に示した各植物における全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等をそのまま含むものとすることができる。あるいは本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、当該植物の全草、葉、樹皮、枝、果実又は根等を粉砕して用いたものを含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、上記表2に示した各植物における抽出部位の欄に記載した部位を使用することが好ましい。本発明に係るNFATシグナル阻害剤として植物抽出物を有効成分とする場合、植物抽出物は、植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる。本発明において、植物の抽出物とは、上記抽出方法で得られた各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味する。
【0021】
植物の抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤又は非極性溶剤のいずれをも使用することができる。抽出溶剤としては、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。
【0022】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤として植物抽出物を有効成分とする場合、抽出溶剤としては、水性アルコールが好ましく、表2における抽出溶媒の欄に記載した溶媒を使用することが特に好ましい。本発明に係るNFATシグナル阻害剤としては、上記植物の抽出物を、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、上記植物等の抽出物をクロマトグラフィー液々分配等の分離技術に供し、当該抽出物から不活性な夾雑物を除去したものを用いることもできる。なお、本発明に係るNFATシグナル阻害剤においては、表2に示した複数の植物のうち、1種の植物やその植物抽出物を有効成分としてもよいが、複数種の植物やそれら植物の抽出物を混合して有効成分としてもよい。
【0023】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、NFATによる転写促進活性を低減させることから、細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。具体的には、上述した本発明に係るNFATシグナル阻害剤を対象とする細胞や組織に接触させることによって、当該細胞や組織におけるNFATシグナルを阻害することができる。これにより、当該細胞や組織においては、NFATシグナルによって生ずる種々の遺伝子発現を転写レベルで抑制することができる。
【0024】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、NFATによる転写促進活性を低減させることから、NFATによる転写促進活性の亢進に起因する症状や疾患に対する治療剤、又は予防剤として使用することができる。NFATによる転写促進活性の亢進に起因する症状や疾患としては、免疫系疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、心筋を含む筋肥大症、リウマチ、骨代謝疾患、各種のガン、各種白血病、各種肝炎、各種感染症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、消化性潰瘍、敗血症ショック、結核、不妊症、動脈硬化、ベーチェット病、喘息、腎炎、急性バクテリア髄膜炎、急性心筋梗塞、急性膵炎、急性ウイルス脳炎、成人呼吸促迫症候群、バクテリア肺炎、慢性膵炎、末梢血管疾患、敗血症、間質性肝疾患、時局性回腸炎、多発性硬化症等を挙げることができる。したがって、本発明に係るNFATシグナル阻害剤は、免疫抑制剤、乾癬治療剤、(心)筋肥大抑制剤、抗リウマチ薬及び骨代謝疾患治療剤等として使用することができる。
【0025】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬用途として使用する場合、剤形として、特に限定されないが、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等が挙げられる。本発明に係るNFATシグナル阻害剤を経口投与の医薬用組成物として使用する場合、上記NFATシグナル阻害剤の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を添加し、常法に従って製造することができる。経口投与用医薬組成物としては、免疫抑制剤、乾癬治療剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等が挙げられる。
【0026】
また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を皮膚用の医薬又は医薬部外品として使用する場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤及び乳剤等が挙げられる。当該医薬又は医薬部外品には、植物の抽出物の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤及び界面活性剤等の薬学的に許容される担体を任意に組合せて配合することができる。皮膚用医薬組成物としては、アトピー性皮膚炎治療剤等が挙げられる。
【0027】
一方、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を化粧料として使用する場合には、剤形としては、特に限定されるものではないが、例えば油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック及びパウダー等が挙げられる。当該化粧料には、植物の抽出物の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料及び各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。具体的には、本発明に係る皮膚外用剤には皮膚化粧料に配合される薬効成分、例えば微粒子酸化亜鉛、酸化チタン、パーソールMCX、パーソール1789等の紫外線吸収剤、アスコルビン酸等のビタミン類、ヒアルロン酸ナトリウム、ワセリン、グリセリン、尿素等の保湿剤、ホルモン剤、及びコウジ酸、アルブチン、プラセンタエキス、ルシノール等の他の美白成分、ステロイド剤、アラキドン酸代謝物やヒスタミン等に代表される化学伝達物質産生・放出抑制剤(インドメタシン、イブプロフェン)、レセプター拮抗剤等の抗炎症剤、抗男性ホルモン剤、ビタミンA酸、ローヤルゼリーエキス、ローヤルゼリー酸等の皮脂分泌抑制剤、ニコチン酸トコフェロール、アルプロスタジル、塩酸イソクスプリン、塩酸トラゾリン等の抹消血管拡張剤及び末梢血管拡張作用のある炭酸ガス等、ミノキシジル、塩化カルプロニウム、トウガラシチンキ、ビタミンE誘導体、イチョウエキス、センブリエキス等の血行促進剤、ペンタデカン酸グリセリド、ニコチン酸アミド等の細胞賦活化剤、ヒノキチオール、L-メントール、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、セラミド及びセラミド類似化合物等を添加配合することができる。
【0028】
本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬、医薬部外品又は化粧料として使用する場合、植物の抽出物の配合量は、乾燥物として計算して、通常、医薬、医薬部外品又は化粧料の全組成の0.00001〜5重量%、特に0.0001〜0.1重量%とすることが好ましい。また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を医薬として用いる場合、植物の抽出物の塗布量は通常の成人で固形分残量にして0.01mg〜1g/1日とすることが望ましい。なお、本発明に係る皮膚外用剤は有効成分の含有量により異なるが、例えばクリーム状、軟膏状の場合には皮膚面1cm2当たり1〜20mg、液状製剤の場合には同じく1〜20mg使用するのが好ましい。
【0029】
また、本発明に係るNFATシグナル阻害剤を化粧品、医薬又は医薬部外品として使用する場合、例えばチョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイドシリカナトリウムポリアクリレート等の粉体;例えば鉱油、植物油、シリコーン油等の油又は油状物質;例えばソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノオレエート、高分子シリコーン界面活性剤等の乳化剤;パラ−ヒドロキシベンゾエートエステル等の防腐剤;ブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;グリセロール、ソルビトール、2−ピロリドン−5−カルボキシレート、ジブチルフタレート、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の湿潤剤;トリエタノールアミン又は水酸化ナトリウムのような塩基を伴う乳酸等の緩衝剤;グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の界面活性剤;密ろう、オゾケライトワックス、パラフィンワックス等のワックス類;増粘剤;活性増強剤;着色料;香料等、を必要に応じ適宜組合せて用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕 植物抽出物の製造
本実施例では、以下に示すように、58種類の植物から60種類の抽出液を製造した。
(1)ヒハツモドキ抽出物の製造
ヒハツモドキの根(ネパール産)を10gとり、100mLの95% エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液89mLを得た。エバポレーターにてこの抽出液を濃縮し、エタノールを加えて30mLに溶解させた。蒸発残分0.6w/v%であった。
(2)モンキージャック抽出物の製造
モンキージャックの樹皮(ネパール産)を10gとり、100mLの95% エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液94mLを得た。蒸発残分2.0w/v%であった。
【0032】
(3)ケイランテス・アルボマルギナタ抽出物の製造
ケイランテス・アルボマルギナタの植物全体(ネパール産)を10gとり、100mLの95%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液82mLを得た。蒸発残分0.6w/v%であった。
(4)カワラヨモギ抽出物の製造
カワラヨモギの花(産地不明)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液72mLを得た。蒸発残分1.8w/v%であった。
【0033】
(5)カンゾウ抽出物の製造
カンゾウの根(産地不明)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液78mLを得た。蒸発残分3.1w/v%であった。
(6)ホップ抽出物の製造
ホップの花(産地不明)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液47mLを得た。蒸発残分2.8w/v%であった。
(7)ウコン抽出物の製造
ウコンの根(産地不明)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液87mLを得た。蒸発残分0.9w/v%であった。
【0034】
(8)クワ抽出物の製造1
クワの根(産地不明)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液79mLを得た。蒸発残分1.4w/v%であった。
(9)クワ抽出物の製造2
クワの葉(産地不明)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液77mLを得た。蒸発残分2.1w/v%であった。
【0035】
(10)シラカンバ抽出物の製造
シラカンバの樹皮(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液80mLを得た。蒸発残分1.5w/v%であった。
(11)ゴボウ抽出物の製造
ゴボウの種子(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液72mLを得た。蒸発残分1.7w/v%であった。
【0036】
(12)ビャクジュツ抽出物の製造
ビャクジュツの根茎(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液78mLを得た。蒸発残分2.1w/v%であった。
(13)ダイオウ抽出物の製造
ダイオウの根茎(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液77mLを得た。蒸発残分5.5w/v%であった。
【0037】
(14)レンギョウ抽出物の製造
レンギョウの果実(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液81mLを得た。蒸発残分1.4w/v%であった。
(15)コウボク抽出物の製造
コウボクの樹皮(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液82mLを得た。蒸発残分1.2w/v%であった。
【0038】
(16)トウシキミ抽出物の製造
トウシキミの果実(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液80mLを得た。蒸発残分2.2w/v%であった。
(17)アンマクロ抽出物の製造
アンマクロの果実(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液87mLを得た。蒸発残分3.3w/v%であった。
【0039】
(18)イタチガヤ抽出物の製造
イタチガヤの全草(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液80mLを得た。蒸発残分2.5w/v%であった。
(19)ニクズク抽出物の製造
ニクズクの種子(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液89mLを得た。蒸発残分0.6w/v%であった。
【0040】
(20)ホウセンカ抽出物の製造
ホウセンカの花(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液77mLを得た。蒸発残分2.2w/v%であった。
(21)ミルラ抽出物の製造
ミルラの樹脂(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液85mLを得た。蒸発残分1.3w/v%であった。
【0041】
(22)ヤギクカ抽出物の製造
ヤギクカの花(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液65mLを得た。蒸発残分2.9w/v%であった。
(23)センシンレン抽出物の製造
センシンレンの全草(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液71mLを得た。蒸発残分0.9w/v%であった。
【0042】
(24)セイカリュウ抽出物の製造
セイカリュウの若枝(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液74mLを得た。蒸発残分1.9w/v%であった。
(25)ショウマ抽出物の製造
ショウマの根茎(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液80mLを得た。蒸発残分2.7w/v%であった。
【0043】
(26)ヒメウズ抽出物の製造
ヒメウズの塊根(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液81mLを得た。蒸発残分4.6w/v%であった。
(27)ハクトウオウ抽出物の製造
ハクトウオウの根(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液77mLを得た。蒸発残分1.8w/v%であった。
【0044】
(28)ミツバハマゴウ抽出物の製造
ミツバハマゴウの果実(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液79mLを得た。蒸発残分0.6w/v%であった。
(29)キョウカツ抽出物の製造
キョウカツの根茎(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液74mLを得た。蒸発残分2.4w/v%であった。
【0045】
(30)ゼンコ抽出物の製造
ゼンコの根(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液77mLを得た。蒸発残分1.4w/v%であった。
(31)エゾムラサキツツジ抽出物の製造
エゾムラサキツツジの葉(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液71mLを得た。蒸発残分2.4w/v%であった。
【0046】
(32)ベンケイソウ抽出物の製造
ベンケイソウの全草(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液61mLを得た。蒸発残分2.4w/v%であった。
(33)タイワンコマツナギ抽出物の製造
タイワンコマツナギの葉中の乾燥色素(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液87mLを得た。エバポレーターにてこの抽出液を濃縮し、エタノールを加えて11mLに溶解させた。蒸発残分0.7w/v%であった。
【0047】
(34)チョウセンゴミシ抽出物の製造
チョウセンゴミシの果実(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液79mLを得た。蒸発残分3.4w/v%であった。
(35)シンイ抽出物の製造
シンイの花蕾(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液77mLを得た。蒸発残分1.4w/v%であった。
【0048】
(36)ベルゲニア・プルプラスケンス抽出物の製造
ベルゲニア・プルプラスケンスの全草(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液74mLを得た。蒸発残分1.3w/v%であった。
(37)センソウ抽出物の製造
センソウの根(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液73mLを得た。蒸発残分1.5w/v%であった。
【0049】
(38)アケビ抽出物の製造
アケビの茎(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液70mLを得た。蒸発残分1.4w/v%であった。
(39)ロコン抽出物の製造
ロコンの茎(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液71mLを得た。蒸発残分1.5w/v%であった。
【0050】
(40)オグルマ抽出物の製造
オグルマの小頭花(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液62mLを得た。蒸発残分1.6w/v%であった。
(41)ヒマラヤキブシ抽出物の製造
ヒマラヤキブシの茎髄(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液32mLを得た。エバポレーターにてこの抽出液を濃縮し、エタノールを加えて4mLに溶解させた。蒸発残分0.6w/v%であった。
【0051】
(42)ウヤク抽出物の製造
ウヤクの根(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液83mLを得た。蒸発残分0.7w/v%であった。
(43)コショウ抽出物の製造1
コショウの果実(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液84mLを得た。蒸発残分0.6w/v%であった。
【0052】
(44)コショウ抽出物の製造2
コショウの未熟果穂(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液88mLを得た。蒸発残分0.9w/v%であった。
(45)コウホン抽出物の製造
コウホンの根茎(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液80mLを得た。蒸発残分2.1w/v%であった。
【0053】
(46)ズイニン抽出物の製造
ズイニンの果実(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液87mLを得た。エバポレーターにてこの抽出液を濃縮し、エタノールを加えて29mLに溶解させた。蒸発残分0.7w/v%であった。
(47)イカリ草抽出物の製造
イカリ草の葉(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液66mLを得た。蒸発残分1.4w/v%であった。
【0054】
(48)ビャクキュウ抽出物の製造
ビャクキュウの塊根(中国産)を10gとり、100mLの50%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液84mLを得た。蒸発残分2.3w/v%であった。
(49)アメリカサンショウ抽出物の製造
アメリカサンショウの樹皮(アメリカ合衆国産)を10gとり、100mLの95%エタノールを加え、室温で7日間静置抽出後、ろ過して抽出液80mLを得た。蒸発残分0.8w/v%であった。
【0055】
(50)セリバヒエンソウ抽出物の製造
セリバヒエンソウの全草(中国産)を9gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物1.6gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
(51)トロロアオイ抽出物の製造
トロロアオイの根(中国産)を6.7gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物1.2gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
【0056】
(52)ナルドスタキス・キネンシス抽出物の製造
ナルドスタキス・キネンシスの球茎(中国産)を9gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物0.8gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
(53)ルプス・テフロデス抽出物の製造
ルプス・テフロデスの葉(中国産)を6.7gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物0.8gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
【0057】
(54)ホオズキ抽出物の製造
ホオズキの全草(中国産)を6.7gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物0.8gを得た。蒸発残分1.0w/v%。
(55)ココノエギリ抽出物の製造
ココノエギリの花(中国産)を6.7gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物1.3gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
【0058】
(56)ハンゲショウ抽出物の製造
ハンゲショウの全草(中国産)を6.7gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物1.2gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
(57)ツキヌキオトギリ抽出物の製造
ツキヌキオトギリの全草(中国産)を6.7gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物1gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
【0059】
(58)サルビア・プルツェバルスキイ抽出物の製造
サルビア・プルツェバルスキイの根(中国産)を5gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物0.5gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
(59)ヒメコウゾ抽出物の製造
ヒメコウゾの枝葉(中国産)を5gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物0.5gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
【0060】
(60)フウ抽出物の製造
フウの果実(中国産)を6.7gとり、100mLの50%エタノールを加え、85℃で3時間抽出後、ろ過し、ろ液を濃縮して抽出物0.6gを得た。蒸発残分1.0w/v%であった。
【0061】
以上、本実施例1においては、(1)〜(60)に示したように60種類の植物抽出物を調整した。
【0062】
〔実施例2〕 NFATシグナル阻害効果
本例では、NFATシグナル阻害効果を検証するための評価システムを構築し、当該評価システムを用いて実施例1で製造した60種類の植物抽出物についてのNFATシグナル阻害効果を検証した。
【0063】
(1)評価システムのための材料及び方法
細胞培養
上記評価システムには、ヒト腎(HEK293)細胞をATCC(American Type Culture Collection)より購入し、使用した。HEK293細胞は、DMEM(High glucose、10% heat-inactivated FBS)中37℃、5% CO2条件下で培養した。
【0064】
プラスミド、トランスフェクション
上記評価システムには、NFAT結合配列の下流にホタルルシフェラーゼが導入されたプラスミドpNFAT-Luc(Stratagene)をHEK293細胞にトランスフェクションしたものを使用した。詳細には、NFAT転写活性の評価用に4連のNFAT結合配列の下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子が導入されたpNFAT-luc(STRATAGENE)をHEK293細胞にトランスフェクションした。また、トランスフェクション効率によるばらつきをなくすことを目的として、ホタルルシフェラーゼに由来するシグナルを補正するためにCMV promoterの下流にウミシイタケルシフェラーゼが導入されたpRL-CMV(Promega)を同時にトランスフェクションした。
【0065】
トランスフェクションは、LipofectAMINE 2000 reagent(Invitrogen)を用いて使用説明書に従って行った。トランスフェクションの8時間後に培地を交換し、一晩インキュベートした。その後、実施例1で製造した植物抽出物を添加(0.5 vol%)し、その1時間後に1μM Ionomycinを添加した。8時間後、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。Ionomycinは、カルシウムイオンに特異的なイオノフォアであり、細胞内にカルシウムイオンを流入させる薬剤として知られている。Ionomycin添加により、カルシウムイオン依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンが活性化し、それに伴ってNFATの転写活性が上昇することから、本システムはNFATシグナル活性化阻害剤を探索するのに適していると考えられる。
【0066】
ルシフェラーゼレポーターアッセイ
ルシフェラーゼレポーターアッセイは、Dual-Glo Luciferase Assay System(Promega)を用い、使用説明書に従って行った。すなわち、培地を除去後、PBSにより2倍希釈したDual-Glo luciferase reagentを加え、攪拌した後、20分後にホタルルシフェラーゼ活性を測定した。その後、等量のDual-Glo Stop&Glo reagentを加え、攪拌した後にウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。ルシフェラーゼ活性測定はMiniLumat LB 9506(EG&G BERTHOLD)を用いて行い、ルシフェラーゼによる発光量を定量的に検出した。双方ともルシフェラーゼ活性の測定時間は2秒とした。
【0067】
NFATシグナル阻害率の算出
全てのNFAT転写活性(ホタルルシフェラーゼ活性)はトランスフェクション効率補正のために導入されたウミシイタケルシフェラーゼ活性にて除することで補正した。その後、NFATシグナル阻害率を以下の式にて算出した。
NFATシグナル阻害率(%)=100−(試験サンプル及びIonomycin添加群−無刺激群)/(Ionomycinのみ添加群−無刺激群)×100
上記計算により、Ionomycin刺激によるNFATシグナル活性化をテストサンプルが何%阻害したかについて算出することができる。
【0068】
結果
実施例1で製造した60種類の植物抽出物によるNFATシグナル阻害率を表3にまとめた。
【0069】
【表3】


表3から判るように、実施例1で製造した60種類の植物抽出物の全てにおいて、NFATシグナルを阻害することが明らかとなった。すなわち、実施例1で製造した60種類の植物抽出物は、全てNFATにより正に制御される転写を抑制することができる。したがって、実施例1で製造した60種類の植物抽出物は、全て優れたNFATシグナル阻害剤であり、例えば免疫抑制剤、乾癬治療剤、アトピー性皮膚炎治療剤、(心)筋肥大抑制剤及び抗リウマチ薬等の候補物質として同定されたこととなる。
【0070】
特に、表3からは、実施例1(8)で製造したクワの根の50%エタノール抽出物、実施例1(13)で製造したダイオウの根茎の50%エタノール抽出物、実施例1(21)で製造したミルラの樹脂の50%エタノール抽出物、実施例1(22)で製造したヤギクカの花の50%エタノール抽出物、実施例1(29)で製造したキョウカツの根茎の50%エタノール抽出物、実施例1(30)ゼンコの根の50%エタノール抽出物、実施例1(44)で製造したコショウの未熟果穂の50%エタノール抽出物、実施例1(52)で製造したナルドスタキス・キネンシスの球茎の50%エタノール抽出物及び実施例1(60)で製造したサルビア・プルツェバルスキイの根の50%エタノール抽出物を使用した場合には、NFATシグナル阻害率が70%を超えることが判る。したがって、これら実施例1(8)で製造したクワの根の50%エタノール抽出物、実施例1(13)で製造したダイオウの根茎の50%エタノール抽出物、実施例1(21)で製造したミルラの樹脂の50%エタノール抽出物、実施例1(22)で製造したヤギクカの花の50%エタノール抽出物、実施例1(29)で製造したキョウカツの根茎の50%エタノール抽出物、実施例1(30)ゼンコの根の50%エタノール抽出物、実施例1(44)で製造したコショウの未熟果穂の50%エタノール抽出物、実施例1(52)で製造したナルドスタキス・キネンシスの球茎の50%エタノール抽出物及び実施例1(60)で製造したサルビア・プルツェバルスキイの根の50%エタノール抽出物は、より優れたNFATシグナル阻害作用を有するNFATシグナル阻害剤として同定することができた。
【0071】
なかでも実施例1(8)で製造したクワの根の50%エタノール抽出物、実施例1(22)で製造したヤギクカの花の50%エタノール抽出物、及び実施例1(60)で製造したサルビア・プルツェバルスキイの根の50%エタノール抽出物を使用した場合には、NFATシグナル阻害率が80%を超えることが判る。したがって、これら実施例1(8)で製造したクワの根の50%エタノール抽出物、実施例1(22)で製造したヤギクカの花の50%エタノール抽出物、及び実施例1(60)で製造したサルビア・プルツェバルスキイの根の50%エタノール抽出物は、特に優れたNFATシグナル阻害作用を有するNFATシグナル阻害剤として同定することができた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】NFATシグナル阻害作用を測定する方法の一例として挙げたレポーターアッセイの概略構成図である。
【図2】NFATとNFAT結合部位との結合及びその下流の遺伝子転写促進を示す、NFATシグナルの概略構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記表1の植物名(和名)の欄に列挙された植物種から選ばれる少なくとも1種の植物、当該植物の抽出物及び当該抽出物に含まれる成分からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分とするNFATシグナル阻害剤。
【表1】


【請求項2】
上記抽出物は、表1の抽出部位の欄に記載された部位の水性アルコール抽出物であることを特徴とする請求項1記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項3】
上記抽出物は、表1の抽出部位の欄に記載された部位を表1の抽出溶媒の欄に記載された溶媒にて抽出されたものであることを特徴とする請求項1記載のNFATシグナル阻害剤。
【請求項4】
対象の細胞又は組織に対して、請求項1乃至3いずれか一項記載のNFATシグナル阻害剤を接触させる、NFAT活性阻害方法。
【請求項5】
請求項1乃至3いずれか一項記載のNFATシグナル阻害剤を有効成分として含有する、医薬組成物。
【請求項6】
請求項1乃至3いずれか一項記載のNFATシグナル阻害剤を有効成分として含有する、化粧品組成物。
【請求項7】
請求項1乃至3いずれか一項記載のNFATシグナル阻害剤を有効成分として含有する、外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−51740(P2009−51740A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217013(P2007−217013)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】