説明

NGFとTrkAレセプターとの結合を阻害することができる、長期化作用を有する鎮痛剤としての分子

【課題】慢性疼痛の治療用及び/又は予防用医薬の製造を目的とする。
【解決手段】NGFとTrkAとの間の結合を阻害することができ、TrkAの生物学的活性を阻止することができる抗NGF抗体の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、NGFとそのレセプター、TrkAとの結合を阻害することができる分子の使用に関する。特に、本発明は前記2つの分子の一方に対する抗体に関し、前記抗体はNGFの生物学的活性を阻止することによって長期鎮痛作用を有する。その持続的鎮痛作用のゆえに、前記は、持続型の疼痛を示す、慢性疼痛(chronic pain)としても知られている異常(例えば神経障害性又は癌性疼痛、ただしこれらに限定されない)に対する有利な治療法である。
【背景技術】
【0002】
技術状態
脊髄へ輸入される侵害受容シグナルは線維Aδ及びCによって運ばれる(その細胞体(一次感覚性ニューロン)は脊髄背側神経節(DRG)内に存在する)。一次感覚性ニューロンは、興奮性神経伝達物質としてグルタメートをATPとともに放出し、さらに種々の他の物質、例えばサブスタンスP及びCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)を放出する(Hunt and Mantyh, 2001)。これらの感覚性神経伝達物質の放出は、輸入末端に存在する多様なクラスのレセプターによって制御される。前記レセプターには、カプサイシンに対して感受性を有するもの(ヴァニロイドレセプター、VR1)、GABAによって活性化されるもの、ATP自体によって活性化されるもの、及びカンナビノイドによって活性化されるもの(CB1)が含まれる(Sivilotti and Nistri, 1991;Hunt and Mantyh, 2001;Khakh, 2001;Morisset et al., 2001)。慢性疼痛が生じる生理病理学的メカニズムの1つは、異痛症、すなわち、通常は痛みと感じない刺激の痛覚への変換である。この現象は多様なイオン電流、したがって多様な“リガンド作動性”タイプのチャネル(カプサイシンレセプター、VR1及びATPのイオン誘起型レセプター)を必要とする(Khakh, 2001)。VR1に対するレセプター及び脊髄の侵害受容性介在ニューロン上のATPに対するレセプターの同時活性化は、疼痛刺激の伝達を強化する興奮性シナプスシグナルの顕著な蓄積を生じる(Nakatsuka et al., 2002)。このようなことから、ATPレセプター(特にクラスP2X3に属するもの)は疼痛経路において基礎的な役割を果たすことはしたがって明瞭である(Burnstock, 2001)。これらのレセプターは、通常は脊髄内のシナプス後末端に存在するが、同様に痛覚発生刺激によって活性化される末梢神経末端、DRG内のニューロンの細胞体、及びそのシナプス末端にも存在する(Khakh, 2001)。神経増殖因子(NGF)及びその高親和性レセプターTrkA(Levi-Montalcini, 1987;Levi-Montalcini, 1986;Frade and Barde, 1998;Kaplan, 1998)によって構成される系が、“持続的”疼痛の主要な型の基礎をなす分子プロセスで基本的な役割を果たすことを示す極めて多くの証拠が存在する。このことは、NGF/TrkA系を阻止する抗体のための主要な治療領域(特に“トニック”型と称される疼痛の1つ)を指し示している(Levine, 1998)。侵害受容感受性ニューロンの発生はNGFに強く左右され、成人の侵害受容器の応答は同因子によって調節される(Julius and Basbaum, 2001)。特に、NGFはカプサイシン痛覚発生刺激の急性増感作用を示す(Shu and Mendell, 1999)。機能的視点から観れば、慢性炎症に続いて侵害受容ニューロンは、それらの作用電位の頻度及び持続時間において変化を生じさせる。これらの現象は、慢性疼痛状態に典型的である過興奮性の顕著な減弱をもたらす内在性NGFを阻止することによって退行する(Djouhri et al., 2001)。成人の侵害受容器における疼痛閾を規定するNGF作用はTrkAレセプターによって仲介され、さらに、侵害受容末端に存在するVR1レセプターによって仲介される応答の調節を介してもまた仲介される。VR1応答のTrkA依存性強化は、ホスホリパーゼCのガンマ型(PLCガンマ;Chuang et al., 2001)の細胞内トランスダクション経路を介して生じると考えられる。抹消NGFレベルは炎症過程で増加し、一方、外因性NGFの投与はラットで高痛覚過敏効果を有し、ヒトで筋肉痛を生じる。さらにまた、NGFは熱刺激に対してヒト及び一般的に哺乳動物で過増感をもたらす。NGFは、炎症性過程が発生している抹消部位でマスト細胞、線維芽細胞及び他の細胞タイプから放出される。特に、マスト細胞は基礎的な役割を果たすようである(Woolf et al., 1996)。これらの細胞はNGFを産生し、同時にその細胞表面に機能的なTrkAレセプターを発現するので(Nilsson et al., 1997)、それら細胞はリゾホスファチジルセリンの存在下でNGF自体に応答することができる(Horigome et al., 1993;Kawamoto et al., 2002)。結果として、NGF/TrkA系は、痛覚発生炎症性シグナルの局所的増幅を可能にする正のフィードバックオートクラインメカニズムを介してマスト細胞活性化を仲介するようである。
【0003】
高レベルのNGFがまたニューロン内で見出され、前記部位でこのニューロトロフィンは、疼痛に付随する神経線維の改変に対して明確に応答することができる(Harpf et al., 2002)。癌のある種の形態では、過剰NGFは、腫瘍性疼痛を誘発する神経線維の増殖及び浸潤を促進する(Zhu et al., 1999)。最近の実験によって、NGFを阻止することにより、神経障害性疼痛に応答しえる神経腫の形成を、病巣ニューロンの細胞体を損傷することなく顕著に低下させることができることが示された(Kryger et al., 2001)。これらの結果は、慢性疼痛の治療のためにNGFの作用を低下させることを基本にした治療アプローチに対し大きな関心を呼び起こした(Saragovi and Gehring, 2000)。近年、疼痛のトランスダクションの分子的プロセスにおけるNGF/TrkA系の中心的関与もまた遺伝子ベースで明らかにされた。特に、TrkA遺伝子(染色体1q21−q22に局在)の変異は、CIPA(“アンヒドローシスを伴う先天性疼痛不感応(congenital insensitivity to pain with anhydrosis”)として知られている劣性遺伝性常染色体性症候群の原因である。前記は、再発性エピソード性発熱、アンヒドローシス、疼痛を惹起する刺激に対する反応の欠如、精神発達障害、自己断節の傾向を特徴とする(Indo et al., 1996;Saragovi and Gehring, 2000;Indo, 2001;Indo et al., 2001)。侵害受容性応答におけるNGFの中心的関与の更なる確認が、抗NGFトランスジェニックマウス(AD11)の表現型の性状決定に関する研究によって最近得られた。これらの動物では、抗NGF抗体αD11の異所性発現は成人でNGFの機能的阻止をもたらす。この阻止は、一貫して有害な熱刺激に対する応答の潜伏時間における増加に転換される(Capsoni et al. 2000;Ruberti et al., 2000)。リガンド又はレセプターを阻止することによって、NGF/TrkA系の生物学的活性を中和することができる抗体は、特に疼痛の持続的形態のための疼痛治療法における重要な資源であるかもしれない。このような状況下でつい先ごろの文献によって、抗NGF中和抗体を用いた治療がネズミの腫瘍性疼痛モデルで顕著な疼痛減少をもたらすことが示された(Sevcik et al., 2005)。にもかかわらず、Sevcikらによって用いられた投与プロトコルでは、抗NGFの最後の注射と行動観察との間の最大時間経過は4日を越えず、したがって前記は長期作用ではない。長期作用は、抗体の最後の投与の後で少なくとも1−2週間なお明瞭であり、作用と抗体自体の血流中の濃度とは必ずしも相関性が無いことが示唆される作用と定義される。長期作用は、新しい遺伝子の発現を要求する可能性があり、最初の生理的病理学的状態の永久的又は長期的改変を示す可能性がある。多くの事例で、長期作用をもたらすことができる薬剤は、症状に対して単純な薬理学的作用を示す生成物とは異なり、“疾患改変”活性素(すなわち疾患の経過を広範囲にわたって改変することができる)と定義することができる。
【0004】
本発明の著者らは、TrkAリガンドによって仲介されるNGFの生物学的作用を阻止することができる(NGFリガンドに対して誘導された)抗体パネルを提示する。2つの試薬:αD11(抗NGF)及びMNAC13(抗TrkA)は特に重要である。前記2つの抗体(1つはリガンドに対して誘導され、他方はレセプターに対して誘導された)間の比較は、NGFリガンドの阻害はTrkAレセプターの阻害と機能的に等価ではないので極めて重要である。実際のところ以下の3点が考慮されねばならない:
i)化学量論的理由。この系に関しては、リガンドの利用可能性およびレセプターの利用可能性は時間の経過にしたがって大きく変動する可能性があり、さらに種々の態様で変動しえる;
ii)全てのニューロトロフィンによって共有され、さらにTrkAに関して別個の生物学的機能を仲介するNGFのための第二のレセプター(p75)の存在(Hempstead, 2002);
iii)自然界におけるNGFの“未成熟”形(プレ-プロ-NGF)の存在、前記は生物的活性に関して別個の特性及びp75レセプターへの優先的結合を特徴とする(Lee et al., 2001)。
αD11は、マウスNGFに対して誘導されたラットのモノクローナル抗体である(しかしラット及びヒトのNGFもまた認識することができる)。そのNGFとの相互作用は、TrkAとNGFの結合を阻害し、その生理学的作用を阻止する(Cattaneo et al., 1988)。αD11はまた、NGFとp75レセプターとの結合を阻害する。この抗NGF抗体は(他のいずれのニュートロフィンと比較しても)、前記抗原との結合親和性から(ピコモル)及び中和特性から、in vitro及びin vivoの両方において示されたその抗原との結合特性に関して完全に固有である(Cattaneo et al., 1988;Berardi et al., 1994;Molnar et al., 1997;Molnar et al., 1998)。アルファD11エピトープは、NGFループI及び/又はNGFループIIの水平面に存在する(前記ループはこの分子の外側部分に暴露されてあり、空間的に互いに非常に接近している)。さらにまた、種々の種におけるアルファD11の保存された反応性は、これら2つのループの残基が高度に保存されているのでエピトープアサインメントと一致する。アルファD11の強力な中和活性は、認識されるエピトープがNGFレセプター結合部位と非常に接近していることを示している。さらにまた、アルファD11と他のニュートロフィンファミリーメンバーとの交差反応性の欠如は以下のことを示唆している:i)エピトープは他のニュートロフィンと共有されないNGF領域に存在する;ii)エピトープ自体がNGF-TrkA認識を仲介する“特異性軌道”内で必要とされえる。アルファD11抗体によって認識されるNGF分子上のエピトープは、NGF変異体の広範囲パネルに対して抗体の結合活性を試験することによって同定された。この系統的スクリーニングを基準にして、NGF分子の領域(アミノ酸41−49、ループI)が同定された。前記領域はNGF分子の最上部で強く発現され、その抗原に対する抗体の結合に必要である(ただし排他的に結合するわけではない)。
実際のところ、NGFのアミノ酸領域23−35(ループII)は結合に寄与することができる。
【0005】
抗体MNAC13は、ヒトのTrkAレセプターに対して誘導されたマウスのモノクローナル抗体である(Cattaneo et al., 1999;Pesavento et al., 2000)。前記は特に、NGFによるTrkA活性化過程及び下流の生物学的機能の阻害においてin vitro及びin vivoの両方で有効である(Cattaneo et al., 1999;Pesavento et al., 2000)。構造的観点から(Covaceuszach et al., 2001)、及びTrkAレセプターとの分子的相互作用から(Covaceuszach et al., 2001)、前記抗体の性状が詳細に調べられた。
そのような構造に関する詳細な知識を基準にし、αD11及びMNAC13の両抗体のヒト化型が刷新的な方法によって作成され(Hu-αD11及びHu-MNAC13)、前記は親型と同じ抗原結合の特徴を示した(特許出願WO05/061540)。
神経障害起源の疼痛(原発病巣によって又は神経系の機能不全によって引き起こされる疼痛、例えば脊髄の病巣に付随する疼痛)、癌性疼痛、及び持続性疼痛の他の多くの型(また炎症性の性質をもつ他の多くの型)の治療に従来利用可能な治療法は、有効性が限定されていることが見出された。したがって、鎮痛活性を有し、さらに副作用関連問題を解決するために、これまでに用いられている鎮痛薬と比較して、異なる作用メカニズムにより機能する新規な分子を同定し、開発することが明らかに希求されている。国際特許WO02/20479は、潜在的な鎮痛活性を有する、TrkAレセプターを阻害する小さな合成分子を開示している。それにもかかわらず、ある種の疼痛モデルに対するこれらの分子の作用は示されていない。さらにまた、抗体と比較したとき、この小分子は血液脳関門を通過する可能性がより高く、重篤な副作用の可能性があるという欠点を有する。実際のところ、基底部前脳のコリン作動性ニューロン(進行性神経変性の種々の形態(アルツハイマー病を含む)によって影響を受けるニューロン集団(Saper et al., 1985))はTrkAレセプターを発現し、正確な機能達成のためにNGFに依存する(Holtzman et al., 1992)。国際特許出願WO01/78698は、慢性的な内臓痛の予防又は治療のためにNGFアンタゴニストの使用を提唱するが、神経障害性又は癌性疼痛の治療には提唱していない。たとえ前記出願が、アンタゴニストはNGF及びTrkAレセプターの両方と結合することができると記載していたとしても、前記アンタゴニストとTrkAレセプターとの結合に際して、前記レセプターが機能的に阻止されることは示されていない。2つの抗体MNAC13及びαD11がNGF/TrkAの生物活性を阻止する性能を基準にして、この2つの抗体MNAC13及びαD11並びにそれらの対応するヒト化型を、持続的疼痛の種々の動物(げっ歯類)モデル、特にCCI(“慢性絞窄損傷”、坐骨神経の慢性絞窄損傷)モデル(神経障害性特性をもつ慢性疼痛判定のために利用可能なモデルの1つ)で試験された(Bennett and Xie, 1988)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本発明の目的は、慢性疼痛治療用医薬の製造を目的とする、NGFとTrkAとの間の結合を阻害することができる抗NGFの使用である。
TrkAの生物学的活性を阻止する抗NGF分子は、NGFとTrkAレセプターとの結合に関してアンタゴニストとして作用する分子と定義され、以下(i−iii)の合成分子又はモノクローナル抗体又はその生物学的/合成誘導体が含まれる:i)TrkAと結合し、ii)生細胞の表面で発現された“天然の”TrkAレセプターとNGFとの結合を阻害し(“天然の”とは“自然のままのin vivoでの構造”を意味する)、さらにiii)NGFと前述の同じTrkAレセプターとの結合に由来する生物学的活性を阻止する。
“生物学的活性を阻止する”という用語は、単に前記レセプターの活性化を阻止することを意味するのではなく、レセプター自体の“活性な”状態への変換過程を阻止するがまた、この活性化過程の下流の生物学的帰結(第二のメッセンジャー、新しい遺伝子発現、表現型及び機能の改変)の機能的中和と定義される。前記分子は、in vitroの古典的試験(PC12細胞での軸索成長試験)でTrkAを阻止することができるだけでなく、in vivoでもTrkAを阻止することができる(基底部前脳のコリン作動性ニューロンの機能的阻止及び古典的“ホットプレート”試験での侵害受容の阻止)。
本発明の目的は、慢性疼痛の治療用及び/又は予防用医薬の製造を目的とする、NGFとTrkAとの間の結合を阻害することができる抗NGFの使用である。好ましくは、前記抗体は、ヒト又はラットのNGFのアミノ酸41−49領域(EVNINNSVF(配列番号:9))を含むNGF分子ドメインを認識し、これと結合することができる。より好ましくは、前記ドメインはまたアミノ酸23−35領域(GDKTTATDIKGKE(配列番号:10))を含む。より好ましくは、前記抗体はTrkAの生物学的活性を阻止することができる。
【0007】
さらにまた本発明の特徴として、患者で慢性疼痛を治療及び/又は予防する方法が提供される。前記方法は、有効量の抗NGF抗体を対象者に投与し、それによって前記患者で慢性疼痛を治療及び/又は予防することを含む。さらにまた組成物を含むキットが提供される。前記組成物は、抗NGF抗体を指示物と一緒に含み、前記指示物は、慢性疼痛を治療及び/又は予防する必要がある対象者に前記組成物を投与し、それによって前記対象者で慢性疼痛を治療及び/又は予防することを指示する。
好ましい特徴では、前記抗体の軽鎖の可変領域は、少なくとも1つ、より好ましくは2つ、もっとも好ましくは3つの相補性決定領域(CDR)を含み、前記領域は、配列番号:1のアミノ酸24から34、配列番号:1のアミノ酸50から56、配列番号:1のアミノ酸89から97から選択される配列を有する。
さらに好ましい特徴では、前記抗体の軽鎖の可変領域は本質的に配列番号:1の配列を含む。
(VL、配列番号:1):
【0008】
【表1】

【0009】
好ましい特徴では、前記抗体の重鎖の可変領域は、少なくとも1つ、より好ましくは2つ、もっとも好ましくは3つの相補性決定領域(CDR)を含み、前記領域は、配列番号:2のアミノ酸26から35、配列番号:2のアミノ酸50から65、配列番号:2のアミノ酸98から111から選択される配列を有する。
さらに好ましい特徴では、前記抗体の重鎖の可変領域は本質的に配列番号:2の配列を含む。
(VH、配列番号:2):
【0010】
【表2】

【0011】
抗体は単鎖形(single chain form)であってもよく、リンカーによって結合された軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む。
【0012】
また別には、抗体は2つの軽鎖及び2つの重鎖を含むことができる。
本発明の好ましい特徴では、抗NGF抗体はヒトの抗体又はヒト化抗体である。当業者は適切なヒト化の方法を選択して抗体を設計する。好ましい方法は、WO2005/061540に開示された方法である。
略記すれば、ラット抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト免疫グロブリンフレームワークに移植することによって、抗体可変領域のヒト化型を入手した。αD11抗体のFabフラグメントに関するX-線回折実験から得られた完全な構造情報を利用してヒト起源のアクセプターフレームワークを選別した。以下の2つの異なる基準を採用して、ラットのαD11とアクセプターのヒト抗体との間の構造的相違を最小限にとどめた:i)一次構造相同性レベル、ii)三次元構造類似性レベル。フレームワークを選択した後、ラットの対応物によるヒトの残基の置換を最小限にして、生成されるヒト化抗体の潜在的免疫原性を少なくした。
例示的なヒト化抗体は、配列番号:1(ラット起源の配列)のヒト化誘導体である軽鎖可変領域を含む。例示的なヒト化抗体は、配列番号:2(ラット起源の配列)のヒト化誘導体である重鎖可変領域を含む。
【0013】
本発明の好ましい特徴では、ヒト化抗体軽鎖の可変領域は本質的に配列番号:3の配列を含む。
配列番号:3(VL、Hu-αD11の軽鎖の可変領域):
【0014】
【表3】

【0015】
本発明の好ましい特徴では、ヒト化抗体重鎖の可変領域は本質的に配列番号:4の配列を含む。
配列番号:4(VH、Hu-αD11の重鎖の可変領域):
【0016】
【表4】

【0017】
上記に記載のヒト化可変領域を適切な発現ベクターでヒト化IgG1又はIgG4アイソタイプにクローニングし、哺乳動物細胞株にトランスフェクトして発現させ、精製して薬理学的性状を決定した。
最終的にHu-αD11(完全なIgG:重鎖+軽鎖)の種々の型を作成した(相違は異なる定常部分のためである)。
【0018】
本発明の好ましい特徴では、ヒト化抗体軽鎖は本質的に配列番号:8の配列を有する。
配列番号:8、Hu-αD11 VkヒトCk
【0019】
【表5】

【0020】
(イタリック体=可変領域;太字=ヒト化加工時におけるラット配列の変異;下線=CDR)。
好ましい実施態様では、ヒト化抗NGF重鎖は本質的に以下の3配列の1つを有する。
配列番号:5、Hu-抗NGF(VH)ヒトIgG1
【0021】
【表6】

【0022】
配列番号:6、Hu-αD11(VH)ヒトIgG1*(Boltら(1993)が記載したように、N297A変異を有するIgG1)
【0023】
【表7】

【0024】
配列番号:7、Hu-αD11(VH)ヒトIgG4
【0025】
【表8】

【0026】
(イタリック体=可変領域;太字=ヒト化加工時におけるラット配列の変異;下線=CDR;N297A変異はグリコシル化部位を無効にする)。
【0027】
好ましい特徴では、本発明の分子は、慢性炎症型の疼痛、好ましくは膵炎、腎結石、頭痛、月経困難症、筋骨格痛、捻挫、内臓痛、卵巣嚢腫、前立腺炎、膀胱炎、間質性膀胱炎、術後痛、片頭痛、三叉神経痛、熱傷及び/又は創傷により生じる疼痛、外傷に付随する疼痛、神経障害性疼痛、筋骨格系疾患に付随する疼痛、慢性関節リウマチ、変形性関節症、強直性脊椎炎、関節周囲異常、癌性疼痛、骨転移による疼痛、HIVによる疼痛によって引き起こされる疼痛のための医薬の製造に用いられる。
或いは前記疼痛は神経障害性疼痛又は癌性疼痛である。
国際疼痛研究会(International Association for the Study of Pain)(IASP, www.iasp-pain.org<http://www.iasp-pain.org/>)にしたがえば、疼痛は、一般的には“急性又は潜在的な組織損傷に付随するか、又はそのような損傷に関連して述べられるか、又はその両方での不快な感覚的及び情緒的経験”と定義される。疼痛の全ての形態における本質的な要素は、潜在的な組織損傷を該当生物に警告するための、高い閾値を有する特殊化されたレセプター及び神経線維の活性化である。炎症細胞及び過程の中心的関与は、多くの疼痛状態の共通の要素である。“急性疼痛”とは、損傷(例えば切断、挫滅、熱傷、又は化学的刺激により生じる、直後の一般的には高閾値をもつ疼痛を意味する。本明細書で用いられる“慢性疼痛”という用語は、急性疼痛以外の疼痛を意味する。慢性疼痛はしばしば相対的に長い持続時間(例えば数ヶ月又は数年)を有し、継続的又は間歇的であり得る。
【0028】
抗NGF抗体は適切には全身的に投与される。抗NGF抗体の全身投与は、注射(例えば静脈内持続的輸液、静脈内ボーラス輸液、皮下又は筋肉内注射)によって実施することができる。或いは、他の投与形態(例えば経口、粘膜、吸入、舌下など)もまた用いることができる。抗体の局所的デリバリーは、局所投与(例えば関節内注射又は患部組織周辺の皮下、筋肉内注射)によって実施することができる。
抗NGF抗体は、適切には、意図された投与ルートに適した医薬組成物として処方されるであろう。注射用溶液は、適切な緩衝物質及びモル濃度改変物質(例えばリン酸塩、塩及び/又はデキストロース)を含む水性媒体(例えば注射用の水)に溶解又は分散させた抗体を適切に含む。
施療方法(すなわち用量、タイミング及び反復)は、選択した投与ルートによる生成物の単回投与又は反復投与(例えば注射)によって示すことができる。投薬間隔は、臨床応答の程度及び持続時間の他に個々の個体及び個々の臨床歴に応じて改変することができる。適切には、抗NGF抗体は長期間持続作用を有する。特に、本抗体の臨床効果は、動物実験から決定されるように投与後21日もの長きに及ぶ。さらにまた、予備的データは、本抗NGF抗体は、投与後にその存在が関連する生物学的マトリックス(例えば血清又は血漿)で検出できる期間よりも長い期間にわたって臨床的利益を表しえることを示唆している。
意図される長期作用(すなわち少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間、例えば少なくとも3週間又は少なくとも4週間適切に持続する効果)を考慮して、適切には本抗体は、1週間に1回を超えない頻度で(例えば2週間に1回又は3週間に1回又は4週間に1回を超えない)対象者に投与することができる。
抗NGF抗体の適切な用量は、典型的には0.1mg/kg体重から10mg/kg体重の範囲であろう。
本明細書に開示された新規な抗体及びそれらを含む組成物は、本発明の特徴として特許請求の範囲である。
本発明の非限定的な実施態様をこれから特に下記図面を参照しながら開示する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】αD11抗NGF抗体とマウスNGF(m-NGF)及び組換えマウスproNGF(m-proNGF)との結合のBIAコア分析。αD11抗NGF抗体をフローセル2に固定し、一方、フローセル1はブランクとした。各曲線は、バックグラウンドシグナル(セル1で測定)をセル2で測定されたシグナルから差し引いて得られる。表面プラズモン共鳴シグナルは各ステージの表面結合成分の量を提供し、共鳴単位(RU)で表される。M-NGF結合の場合、抗体の固定は、パネルAの実験では3000共鳴単位(RU)で、パネルBの実験では6000RUであった。m-NGFの注入濃度は各曲線の上部に示されている。データの完全な分析から、アフィニティーパラメーターを評価し、以下の結果を得た:KA=3,55・1011 1/M;KD=2,81・10-12M(0.123のχ2値)。rm-proNGF結合の場合(パネルC)、抗体の固定は3000RUであった。rm-proNGFの注入濃度は各曲線の上部に示されている。データのカイネティクス分析は、以下のパラメーターの評価を可能にした:KA=1,2・109 1/M;KD=1,9・10-9M(0.09のχ2値)。
【図2】Fab aD11(アルファD11)及びFab Hu-aD11(Hu-アルファD11)抗NGF抗体のホルマリン惹起疼痛に対する作用(ホルマリン試験の第二相:15−40分。第二相は炎症関連疼痛に対応する)。マウスの右後肢背面の皮下に5%ホルマリンを注射した。処置は、本質的にはホルマリン注射及び試験の45分前の抗体(Fab アルファD11又はFab Hu-アルファD11に対し擬似Fab又は食塩水)注射であった(各抗体の単回投与:12.5μg)。各実験群には少なくとも8匹の動物が含まれていた。データの統計解析によって、抗NGF治療での有意な鎮痛効果が示され(親抗体及びヒト化型抗体の両方で)、前記効果は、明らかに疼痛応答(舐めるために費やされた時間)の第二相(炎症)に特異的であった。抗NGF抗体(親抗体及びヒト化型抗体の両抗体)の効果は、食塩水(**p<0.01)又は擬似Fab治療(#p<0.05)と比較して有意に相違する。
【図3】抗TrkAモノクローナル抗体MNAC13(1.4mg/kg)及び抗NGFモノクローナル抗体αD11(1.4mg/kg)の神経障害性疼痛に対する作用:足底機能触覚計の手段によって測定した機械的異痛症;CD1マウスを坐骨神経の慢性絞窄に付した;坐骨神経の損傷後3、4、5、6日目に抗体を腹腔内に注射する。観察期間:3日目から14日目まで。陰性コントロールとして、食塩水(sal)及びマウス免疫グロブリン(IgG、1.4mg/kg)の両方を使用した。結果は、損傷と同側の後肢に対する閾力の絶対値(グラム)で表した。この値を反復測定についての変数解析(ANOVA)の手段によって統計解析に付した。前記解析で、“処置”因子及び反復測定値(日数)の両方がp<0.01で有意であった。抗TrkA又は抗NGFで処置した動物は、コントロールと4日目から14日目まで有意な相違を示す。
【図4】抗TrkAモノクローナル抗体MNAC13(1.4mg/kg)及び抗NGFαD11抗体(1.4mg/kg)の神経障害性疼痛に対する作用:足底機能触覚計の手段によって測定した機械的異痛症;CD1マウスを坐骨神経の慢性絞窄に付した;坐骨神経の損傷後3、4、5、6日目に抗体を腹腔内に注射する。観察期間:3日目から14日目まで。陰性コントロールとして、食塩水(sal)及びマウス免疫グロブリン(IgG、1.4mg/kg)の両方を使用した。結果はパーセンテージ、%として表した(損傷と同側の後肢の閾力と反対側の後肢の対応する閾力との間の比)。対応する絶対値を反復測定についての変数解析(ANOVA)の手段によって統計解析に付した。前記解析で、“処置”因子及び反復測定値(日数)の両方が(少なくとも)p<0.01で有意であった。抗TrkA又は抗NGFで処置した動物は、コントロールと4日目から14日目まで有意な相違を示した。
【図5】神経障害性疼痛に対する、抗TrkAモノクローナル抗体MNAC13(2種類の用量:0.9及び2mg/kg)の効果と抗NGFモノクローナル抗体αD11(用量2mg/kg)の効果との比較:足底機能触覚計の手段によって測定した機械的異痛症;CD1マウスを坐骨神経の慢性絞窄に付した;坐骨神経の損傷後3、4、5、6、7、8、9、10日目に抗体を腹腔内に注射した。観察期間:3日目から31日目まで。陰性コントロールとして、マウス免疫グロブリン(IgG、2mg/kg)を使用した。結果はパーセンテージ%として表した(損傷と同側の後肢の閾力と反対側の後肢の対応する閾力との間の比)。対応する絶対値を反復測定についての変数解析(ANOVA)の手段によって統計解析に付した。前記解析で、“処置”因子及び反復測定値(日数)の両方が(少なくとも)p<0.01で有意であった。MNAC13で処置した動物は、コントロールと観察の最後の日まで(31)、5日目から(高い用量のMNAC13)又は7日目から(低い用量のMNAC13)有意な相違を示した。αD11で処置した動物は、コントロールと観察の最後の日まで(31)、4日目から14日目まで及び21日目から31日目まで有意な相違を示した。
【図6】神経障害性疼痛に対する、抗NGF中和抗体の親抗体(αD11)の効果と前記のヒト化型(Hu-αD11、ヒトIgG4型)(1被検用量:2mg/kg)の効果との比較:足底機能触覚計の手段によって測定した機械的異痛症;CD1マウスを坐骨神経のCCI(慢性絞窄損傷)に付した;坐骨神経の損傷後3、4、5、6、7、8、9、10日目に抗体を腹腔内に注射した。観察期間:3日目から31日目まで。陰性コントロールのために、ラット免疫グロブリン(IgG、2mg/kg)を使用した。結果は%として表した(損傷と同側の後肢の閾力と反対側の後肢の対応する閾力との間の比)。対応する絶対値を反復測定についての変数解析(ANOVA)の手段によって統計解析に付した。前記解析で、“処置”因子及び反復測定値(日数)の両方が(少なくとも)p<0.01で有意であった。αD11又はHu-αD11のどちらかで処理した動物は、コントロールと最後の観察日まで(31)、5日目14日目まで、21日目から31日目までと同様に有意な相違を示した。
【発明を実施するための形態】
【0030】
方法
モノクローナル抗体の作成
モノクローナル抗体MNAC13及びαD11は、上記に開示した(Galfre and Milstein, 1981;Cattaneo et al., 1988;Cattaneo et al., 1999)標準的方法にしたがい、ハイブリドーマ上清から作成する。各抗体を含む上清を沈殿させ(29%硫安)、続いて1xのPBSに対して透析し(Spectra-Por 12/14Kメンブレン、Spectrum)、さらにセファロースプロテインGカラム(4-Fast Flow, Amersham Biosciences)でアフィニティークロマトグラフィーを実施した。低pH溶液(5mMのHCl)(採集時に中和)の手段により溶出がもたらされた。
最終的溶出液を濃縮し(Amicon Ultra-15, 50K, Millipore)、1から5mg/mLの濃度の精製抗体調製物を得た。
αD11抗体のFab(Fragments Antigen binding(抗原結合フラグメント))型を以前に記載したように作成した(特許出願WO05/061540、Covaceuszach et al., 2004)。略記すれば、Fabフラグメントは、対応する完全なモノクローナル抗体(IgG型)からパパインによるタンパク質分解、その後のイオン交換クロマトグラフィー精製工程及びフロースルー物中の採集Fabフラグメントの濃縮によって得られた。なお存在している極めて少量の未切断IgGからFabフラグメントを分離するために、FPLCシステム(Pharmacia)を用いてセファデックスG75カラム(Pharmacia)でサイズ排除クロマトグラフィーを実施し、続いて最終濃縮工程を実施した。
2つの抗体(Hu-αD11及びHu-MNAC13)のヒト化型(IgG1/IgG1*/IgG4)に関するかぎり、それら抗体はまた、安定的トランスフェクトされた細胞株の上清から出発して上記に開示したように精製された(前記細胞株は、各抗体の重鎖(pVH/CMVexpress)及び軽鎖(pVL/CMVexpress)のための安定的なトランスフェクタントである)。使用ベクターは以前に開示されている(特許出願WO05/061540)。安定的な同時トランスフェクトクローンは、G418及びミコフェノール酸による二重選別から得られた。Hu-αD11のIgG4型を作成するために、前記pVH/CMVexpressベクターはヒトIgG1の定常部分を含むので、これをIgG4の対応するFc領域によって置き換えた(ヒトリンパ球RNAからRT-PCRによってクローニング)。IgG1*型(=Boltら(Bolt et al., 1993)が記載したN297AをもつIgG1)は位置特異的変異導入によって生成された。
【0031】
表面プラズモン共鳴実験
実験はアミンをカップリングさせたCM5チップでBIAcore2000機を用いて実施した。カップリングはBIAcoreで購入した固有キットを用いて実施し、カップリング反応は製造業者の指示にしたがって実施した。
抗NGF抗体をチップ上に固定し、一方、マウスNGF(m-NGF、Alomone)又は組換えマウスproNGF(rm-proNGF)は濃度を低下させながら注入して結合曲線を入手した。
実験に用いた流速は、別に指示が無ければ30μL/分であった。チップの再生は、全ての事例で、10mMグリシン(pH1.5)のパルス(10μL)を用いて実施した。収集データはパッケージBIAevaluation3.0を用いて解析した。見かけの平衡常数KDはka/kd比と定義される。
【0032】
ネズミ疼痛モデルにおける実験
動物は、実験動物の使用に関するIASP倫理委員会のガイドライン及びイタリアの法律(DL116/92、ヨーロッパ規制86/609/EECを適用)にしたがって処置し取り扱った。動物の苦痛を最小限にするために、さらに信頼できる科学的データの作成のために必要とされる最低数の動物を使用するために必要なあらゆる努力を払った。
ホルマリン試験
予備的ホルマリン試験(Porro and Cavazzuti, 1993)のために、CD1雄マウス(Charles River Labs, Como, Italy)を用い、実験の開始時に体重は35−40gであった。前記動物が実験室に到着したとき(少なくとも実験の2週間前)、マウスを恒温(22±1℃)及び60%相対湿度の標準的な透明のプラスチックケージ(1ケージに4匹)に入れ、規則的な明暗スケジュール下に置いた(照明7.00−19.00)。飼料及び水は制限しなかった。実験は09.00から14.00の間に実施した。ホルマリン試験の場合、一時に1匹の動物を透明なプレキシガラスケージ(30x12x13cm)に入れ、試験の開始前30分間、自由に運動させた。この順応期間の後で、マウスの右後肢の背側表面の皮下(sc)に、20μLのホルマリン溶液(食塩水に5%)を26ゲージの注射針を付けたマイクロシリンジを用いて注射し、観察期間を開始した。動物の後肢を妨げられずに見ることができるように、鏡をケージの後ろにビデオカメラをケージの前面に置いた。舐める活動(すなわち動物が注射された足を舐めるか及び/又は咬む)ために費やした合計時間を疼痛指標として採取した。舐める活動は持続的に40分記録し、5分の連続時間の区画毎に算出した(第二相は15−40分区画に対応し、炎症関連疼痛と認定することができる)。さらにまた、偶発的行動に対するホルマリン注射の影響を判定するために、ホルマリン試験の間に、一般的活動(歩き回り、後肢で立ち上がり、リーニングする(leaning)間に周囲の状況を探索するために費やした時間)、及び自己の毛づくろい(顔面及び身体の清掃に費やした時間)もまた40分間持続的に記録した。抗NGF抗体による処置の後、有意な相違はこれらのパラメーターについては観察されなかった。この実験セットでは、抗体はFab(抗原結合フラグメント;各抗体の1回投与;12.5μg/動物)として投与された。
試験の45分前に、抗NGF抗体(親抗体又はヒト化抗体)又は無関係Fabが各マウスの右後肢の背側表面の皮下(sc)に、26ゲージ注射針付きハミルトンマイクロシリンジを用いて注射された(注射体積=20μL)。各動物にはただ1つの処置を施した。試験は、各対象動物が属する処置群についてブラインドで実施された。ホルマリン試験の特徴である2つの相を別個にワンウェイANOVAによって解析した。
【0033】
坐骨神経手術
雄のCD1マウス(体重約35g)を麻酔し(500mg/kgの抱水クロラールの腹腔内注射)、右後肢の坐骨神経を露出させ、Bennett and Xie(1988)が記載した坐骨神経の慢性絞窄損傷モデル(CCI)にしたがって縫合糸の手段によって緩く結紮した。大腿上部レベルでの坐骨神経の弛緩結紮は、温度/機械的異痛症及び痛覚過敏を特徴とする末梢性単神経障害を誘発した。近接するが別個の3点での神経の結紮によって、損傷後3日で完全な神経障害が発生し、2−3ヶ月持続した。
薬理学的処置
損傷後3日目から開始して、抗NGF(αD11)阻止抗体又は抗TrkA(MNAC13)抗体を完全形(Mab)で投与した。前記抗体は表Iに示すように食塩水溶液(担体)で稀釈した。コントロールとして、マウス又はラットの無関係免疫グロブリン(IgG)を前記阻止抗体と同じ用量(2種類の用量が用いられる場合は多い方の用量)で用いるか、又は食塩水溶液を用いた。各実験群にはN=10の動物が含まれていた(特段に指定されないかぎり)。
【0034】
表I:投与プロトコルと機械的異痛症の測定

機械的異痛症は、表Iに表示したように足底機能触覚計(plantar dynamic aesthesiometer)(Ugo Basile)の手段によって測定した。3日目が基準線と考えられた。同じプロトコルが、2つの抗体MNAC13及びαD11のヒト化型の鎮痛作用の評価に用いられた。
結果の統計的解析(CCI実験)
結果は、2つの別個の方法で、閾力値(グラム)による絶対値(前記値は動物が損傷と同側の後肢を引っ込めるために十分である)として、又は後肢(同側/反対側)の絶対値の間の比としてパーセンテージの値で表された。前記の値を、反復測定のための変数解析(ANOVA)の手段によって統計的解析に付した。前記解析では、“処置”因子及び反復測定(日数)の両方においてp<0.01で有意であった。
【0035】
結果
結合
αD11抗NGF抗体(及びそのヒト化型)のマウスNGF及び組換えマウスpro-NGFに対する結合親和性を判定することによって、この結合特性の性状をさらに調べることを目的として、BIACORE実験を実施した。図1はこれらの実験の結果を示している:αD11抗体は異なるカイネティクスでNGF及びproNGFと結合する。同様な結果がまたHu-αD11についても得られた。
NGFの非常に小さな解離定数は、抗体とその抗原の非常に強い結合を表しており、抗体結合カイネティクスの極めて固有の例である。NGFとproNGFとの抗NGF抗体結合を比較することによって、後者の事例ではほぼ3桁低い(ピコモルに対してナノモル)という判定を得ることができる。proNGFは短い一続きのアミノ酸が付加されているという点においてのみNGFと相違することを考慮すれば、結合親和性におけるこの相違は全く予想しえないことであり、驚くべきことである。
proNGFは優先的にp75と結合(Lee, 2001)、一方、成熟NGFはTrkAレセプターに対してより高い親和性を有するので、αD11及びHu-αD11はTrkA-仲介経路の新規な選択的阻害物質と考えることができる(特に抗NGF中和抗体の臨床的使用という関係から重要な特性である)。
炎症性疼痛
第一のin vivo実験セット(マウスで実施され、ホルマリン誘発疼痛(炎症性疼痛)に関する)によって以下のことが明らかにされた:
(i)αD11抗NGF抗体(Fab型)は、無関係のFabと比較したとき疼痛応答を有意に低下させることができた(ホルマリン試験:第二相);
(ii)αD11をそのヒト化型(Hu-αD11、図2)で代用して同じ結果を得ることができた。
このことは、Hu-αD11は、対応する炎症疼痛モデルでαD11と同じように強力な鎮痛特性を示すことを意味している。
神経障害性疼痛
CCIモデルにおける結果は、2つの阻止抗体MNAC13及びαD11(図3及び図4)は有意な鎮痛作用を示した。特に、1.4mg/kgの用量で2つの抗体について同様な結果が観察された。
図3および図4に示すように、前記は投与2回目の日(4日目)から鎮痛作用を示し始め、6日目ころに最大作用に達し、14日目まで観察の全期間を通して実質的に同じ鎮痛有効性を維持した。結果をパーセンテージ(損傷と同側の後肢の閾力と反対側のそれとの比)で表すと、この2つの阻止抗体の各々について最大のパーセンテージの数値はほぼ60%であり、コントロール群(IgG及び食塩水)についてはほぼ40%であることを示すことができる。
動物を31日目まで4週間観察したとき、NGF-TrkA系を阻止する抗体の投与によって(図5及び図6)、二相作用が示された。第一の鎮痛有効相(3日目から17日目、すなわち最後の注射後1週間まで)は、最大効果が11-12日目頃であることを特徴とした。効果の低下後(17日目まで)、第二の鎮痛相が効果を増強させながら31日目まで観察された。NGF/TrkA阻止抗体の鎮痛作用における2つの相は、したがって区別することができる:第一の相(“薬理学的”作用)、前記は処置期間及び抗体の最後の注射後最初の週(その間、抗体の血中濃度と平行して効果が減少する週)を含む;第二の相、長期作用と認定され(おそらく新しい遺伝子発現を要求する)、これら抗体に“疾患改変”活性素、すなわち疾患の推移を広範囲に改変することができる固有の特性を(神経障害性疼痛の領域において)付与する作用であり、この治療環境で従来用いられる、症状に対して単純な薬理学的作用を示す生成物とは異なる。図5では、MNAC13抗TrkAの2種類の用量(2及び0.9mg/kg)の鎮痛効果をαD11(2mg/kg)のそれと比較した。前記の結果はパーセンテージの関係で表されている。αD11の有効性の一時的プロフィルはMNAC13のそれと同様であるが(ただし17日目では、αD11で処置された動物はコントロール(IgG)と区別することができなかったが)、一方、MNAC13で処置された動物はいずれも有意に相違していた(p<0.01)。21日目から、αD11は鎮痛効果を回復させ、前記は、MNAC13最終レベルと類似するレベル(コントロールの40%に対して60%を超える)に達した(31日目)。
αD11抗体の代わりにそのヒト化型(Hu-αD11)変種を用いたとき(使用用量:各抗体について2mg/kg)、上記に示した結果と実質的に同じ結果が得られ、ヒト型変種は親型と同じ鎮痛特性を有することが確認された。前記抗体は、WO2005/061540の方法を用い、軽鎖(配列番号:3)及び重鎖(配列番号:4)の両可変領域でヒト化が実施された。完全なヒト化抗体を構築するために、上記に記載(配列番号:5−8)の別個の定常領域を利用した。
親抗体及びヒト化抗体の鎮痛活性が等価であるということに関する典型的な例として、図6はαD11とHu-αD11(IgG4型)間の比較を示している。
前記を根拠にして、Hu-αD11はその親型と同じ長期作用を有するということができる。
【0036】
参考文献






【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性疼痛の治療用及び/又は予防用医薬を製造するための、NGFとTrkAとの間の結合を阻害することができる抗NGF抗体の使用。
【請求項2】
前記抗体が、ヒト又はラットのNGFのアミノ酸41−49領域:EVNINNSVF(配列番号:9)を含むNGF分子ドメインを認識し、これと結合することができる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記抗体が、アミノ酸23−35領域:GDKTTATDIKGKE(配列番号:10)を含むNGF分子ドメインを認識し、これと結合することができる、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記抗体が、TrkAの生物学的活性を阻止することができる、請求項1から3のいずれかの項に記載の使用。
【請求項5】
前記抗体軽鎖の可変領域が、配列番号:1のアミノ酸24から34、配列番号:1のアミノ酸50から56、配列番号:1のアミノ酸89から97から選択される配列を有する相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つを含む、請求項1から4に記載の使用。
【請求項6】
前記抗体軽鎖の可変領域が、配列番号:1のアミノ酸24から34、配列番号:1のアミノ酸50から56、配列番号:1のアミノ酸89から97から選択される配列を有する相補性決定領域(CDR)の少なくとも2つを含む、請求項1から4に記載の使用。
【請求項7】
前記抗体軽鎖の可変領域が、配列番号:1のアミノ酸24から34、配列番号:1のアミノ酸50から56、配列番号:1のアミノ酸89から97から選択される配列を有する3つの相補性決定領域(CDR)の全てを含む、請求項1から4に記載の使用。
【請求項8】
前記抗体軽鎖の可変領域が本質的に配列番号:1の配列を含む、請求項1から4に記載の使用。
【請求項9】
前記抗体重鎖の可変領域が、配列番号:2のアミノ酸26から35、配列番号:2のアミノ酸50から65、配列番号:2のアミノ酸98から111から選択される配列を有する相補性決定領域(CDR)の少なくとも1つを含む、請求項1から8のいずれかの項に記載の使用。
【請求項10】
前記抗体重鎖の可変領域が、配列番号:2のアミノ酸26から35、配列番号:2のアミノ酸50から65、配列番号:2のアミノ酸98から111から選択される配列を有する相補性決定領域(CDR)の少なくとも2つを含む、請求項1から8のいずれかの項に記載の使用。
【請求項11】
前記抗体重鎖の可変領域が、配列番号:2のアミノ酸26から35、配列番号:2のアミノ酸50から65、配列番号:2のアミノ酸98から111から選択される配列を有する3つの相補性決定領域(CDR)の全てを含む、請求項1から8のいずれかの項に記載の使用。
【請求項12】
前記抗体重鎖の可変領域が本質的に配列番号:2の配列を含む、請求項1から12のいずれかの項に記載の使用。
【請求項13】
前記抗体が単鎖形であり、さらにリンカーによって結合された軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む、請求項1から12のいずれかの項に記載の使用。
【請求項14】
前記抗体が2つの軽鎖及び2つの重鎖を含む、請求項1から12のいずれかの項に記載の使用。
【請求項15】
前記抗NGF抗体がヒトの抗体又はヒト化された抗体である、請求項1から14のいずれかの項に記載の使用。
【請求項16】
前記ヒト化抗体軽鎖の可変領域が本質的に配列番号:3の配列を含む、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記ヒト化抗体重鎖の可変領域が本質的に配列番号:4の配列を含む、請求項15又は請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記ヒト化抗体軽鎖が本質的に配列番号:8の配列を有する、請求項15から17のいずれかの項に記載の使用。
【請求項19】
前記ヒト化抗体重鎖が本質的に配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7から選択される配列を有する、請求項15から18のいずれかの項に記載の使用。
【請求項20】
前記疼痛が慢性炎症性タイプである、請求項1から19のいずれかの項に記載の使用。
【請求項21】
前記慢性疼痛が、膵炎、腎結石、頭痛、月経困難症、筋骨格痛、捻挫、内臓痛、卵巣嚢腫、前立腺炎、膀胱炎、間質性膀胱炎、術後痛、片頭痛、三叉神経痛、熱傷及び/又は創傷により生じる疼痛、外傷に付随する疼痛、神経障害性疼痛、筋骨格系疾患に付随する疼痛、慢性関節リウマチ、変形性関節症、強直性脊椎炎、関節周囲異常、癌性疼痛、骨転移による疼痛、HIVによる疼痛によって引き起こされる、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記疼痛が神経障害性疼痛である、請求項1から19のいずれかの項に記載の使用。
【請求項23】
前記疼痛が癌性疼痛である、請求項1から19のいずれかの項に記載の使用。
【請求項24】
前記抗体が長期持続作用を有する、請求項1から23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
慢性疼痛の治療に使用するための、請求項1から19のいずれかに記載の抗NGF抗体。
【請求項26】
対象者で慢性疼痛を治療又は予防する方法であって、請求項1から19のいずれかに記載の抗NGF抗体の有効量を対象者に投与し、それによって前記対象者で慢性疼痛を治療することを含む、方法。
【請求項27】
請求項1から19のいずれかに記載の抗体を指示書と一緒に収納した組成物を含むキットであって、前記指示書が、慢性疼痛の治療が必要な対象者に前記組成物を投与し、それによって前記対象者で慢性疼痛を治療することを指導する、前記キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−158604(P2012−158604A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106277(P2012−106277)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【分割の表示】特願2008−515383(P2008−515383)の分割
【原出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(510201894)アボット リサーチ ベースローテン フェンノートシャップ (1)
【Fターム(参考)】