説明

NK活性増強剤およびその利用

【課題】NK活性増強剤、悪性腫瘍等の細胞免疫療法において好適に使用されるNK活性が増強されたリンパ球または単核球(「NK活性増強リンパ球」または「NK活性増強単核球」)、並びに当該NK活性増強リンパ球または単核球を含む細胞免疫製剤、輸液および血液製剤、並びにこれらの調製方法を提供する。
【解決手段】
NK活性増強剤として動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の気泡を含むナノバブル水を用いる。NK活性増強リンパ球または単核球は、生体から分取したリンパ球または単核球を、上記NK活性増強剤の存在下で培養することによって調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NK(ナチュラルキラー)活性増強剤に関する。また本発明は、悪性腫瘍等の細胞免疫療法において好適に使用されるリンパ球または単核球、具体的には上記NK活性増強剤でNK活性が増強されたリンパ球または単核球(本発明ではこれらをそれぞれ「NK活性増強リンパ球」または「NK活性増強単核球」という)、並びに当該NK活性増強リンパ球または単核球を含む細胞免疫製剤、輸液および血液製剤、並びにこれらの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NK細胞は、腫瘍細胞やウイルス感染細胞に対してサイトカイン産生や細胞傷害活性等の機能を有するリンパ球の成分であり、初期の生体防御反応や、腫瘍の転移及び再発の抑制において重要な役割を果たすことが知られている。インターフェロンやインターロイキンなどは、従来よりこのNK細胞の活性化を誘導する生体応答調節剤(バイオロジカル・レスポンス・モディファイアー:以下、「BRM」)ともいう)として機能することが知られており、これまで様々な研究が行われている。
【0003】
これらの研究結果をもとに、悪性腫瘍治療の現場では、体外にリンパ球を取り出して、BRMの存在下で培養してリンホカイン活性化キラー細胞(lymphokine activated killer cells:以下、「LAK細胞」ともいう)を調製した後、これを患者に輸注する「細胞免疫療法」が利用されている(例えば、非特許文献1〜4等参照)。かかる細胞免疫療法として、より具体的には、血球分離装置を用いて大量に取り出した循環リンパ球を、採取バック内でインターフェロン−αと共に30分間活性化させた後、患者に輸注するイフナンク(IFNANK)療法を例示することができる。
【0004】
このように、NK細胞を含むリンパ球の増加・活性化を誘導するBRMを用いた細胞免疫療法は種々実施され、また提案されているが(例えば、特許文献1〜4)、必ずしも満足のいく治療効果が得られていないのが現状であり、副作用の報告もあることから、より有効で且つ安全な細胞免疫療法が求められている。
【0005】
一方、近年、直径が1μm未満の微細気泡(ナノバブル)を含むナノ流体の生体に対する機能が注目されており、例えば特許文献5には、ナノバブル水の効用として疾病の回復、細菌やウイルス等による感染症の予防、および皮膚病の回復等の生物に対する生理活性作用が挙げられている。その一方で、非特許文献5には、酸素ナノバブルは呼吸器系や代謝系には直接的な作用はないこと、酸素の供給源にならないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-245451号公報
【特許文献2】WO2001/029191
【特許文献3】特開2001-314183号公報
【特許文献4】特開2002-255849号公報
【特許文献5】特開2005-246294号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Clin.Oncol.1989;7:250-261
【非特許文献2】J.Immunol.1989;142:4520-4526
【非特許文献3】J.Immunol.1991;146:1700-1707
【非特許文献4】Biotherapy 1998;11:241-253
【非特許文献5】“マイクロバブル・ナノバブルの最新技術”、310-311頁、シーエムシー出版(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、NK活性が増強されることによって、より高い細胞免疫治療効果を発揮するリンパ球およびこれを含む単核球、並びに当該NK活性増強リンパ球または単核球を含む細胞免疫製剤およびその調製方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、上記NK活性増強リンパ球若しくは単核球、または当該リンパ球若しくは単核球を含む細胞免疫製剤を用いた輸液や血液製剤の調製方法、および当該方法で調製された輸液または血液製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の下、本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、動的光散乱法において個数平均径が300nm以下の微細気泡を含むナノバブル水に、従来のBRMと同様に、NK活性を増強させる作用があることを見出し、かかる知見に基づいて、さらに当該ナノバブル水を用いてNK活性が増強されたリンパ球およびそれを含む単核球が、悪性腫瘍や各種感染症などの各種疾患を対象とした細胞免疫療法において、細胞免疫製剤として有効であること、また当該ナノバブル水を用いてNK活性が増強されたリンパ球または単核球を含有する輸液製剤または血液製剤が、細胞免疫療法において有用であることを確信した。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の具体的な実施態様を含む:
(I)NK活性増強剤
(I-1)動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の気泡を含むナノバブル水を有効成分とする、NK活性増強剤。
【0011】
(II)NK活性増強リンパ球、NK活性増強単核球、細胞免疫製剤およびその調製方法
(II-1)生体から分取したリンパ球を(I-1)に記載するNK活性増強剤の存在下で培養して調製される、NK活性増強リンパ球。
(II-2)生体から分取したリンパ球を、(I-1)に記載するNK活性増強剤の存在下で培養する工程を有する、NK活性増強リンパ球の調製方法。
(II-3)生体から分取したリンパ球を含む単核球を、(I-1)に記載するNK活性増強剤の存在下で培養して調製される、NK活性増強単核球。
(II-4)生体から分取したリンパ球を含む単核球を、(I-1)に記載するNK活性増強剤の存在下で培養する工程を有する、NK活性増強単核球の調製方法。
(II-5)(II-1)に記載するNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球を含有する細胞免疫製剤。
(II-6)生体から分取したリンパ球またはリンパ球を含む単核球を、(I-1)に記載するNK活性増強剤の存在下で培養する工程を有する、(II-5)に記載する細胞免疫製剤の調製方法。
(II-7)(II-1)に記載するNK活性増強リンパ球、(II-3)に記載するNK活性増強単核球、または(II-5)に記載する細胞免疫製剤を含有する輸液製剤。
【0012】
(III)NK活性増強血液製剤およびその調製方法
(III-1)生体から分取した少なくともリンパ球を含む血液を、(I-1)に記載するNK活性増強剤の存在下で培養して調製される、NK活性増強血液製剤。
(III-2)生体から分取した少なくともリンパ球を含む血液を、(I-1)に記載するNK活性増強剤の存在下で培養する工程を有する、NK活性増強血液製剤の調製方法。
【発明の効果】
【0013】
動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の気泡を含むナノバブル水を有効成分とする本発明のNK活性増強剤を用いて、ヒトやヒト以外の哺乳動物の末梢血、骨髄液または臍帯液に由来する単核球またはリンパ球を体外で培養することで、そのNK活性を効率よく増強することができる。斯くして調製される単核球またはリンパ球は、ガンなどの疾病の細胞免疫療法剤として有効に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実験例1において、酸素ナノバブル水を始めとする各種被験物質のNK活性%を測定した結果を示す。
【図2】実験例2において、水素ナノバブル水、酸素ナノバブル水、および水素と酸素のナノバブル水のNK活性%を測定した結果を示す(表4)。
【図3】実験例4(1)において、サンプルA(酸素ナノバブル水)、サンプルB(大気ナノバブル水)、及びサンプルC(酸素ナノバブル水)のNK活性%を測定した結果を示す。
【図4】実験例4(2)において、被験物質としてIL−2と上記被験物質を併用してNK活性%を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(I)NK活性増強剤
本発明のNK活性増強剤は、動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の微細気泡を含むナノバブル水を有効成分とすることを特徴とする。
【0016】
ここで対象とする気泡は、その種類を特に制限するものではなく、酸素でも、水素でも、また酸素、二酸化炭素および窒素等を含む大気(空気)であってもよい。酸素の微細気泡(いわゆる酸素ナノバブル)を含むナノバブル水は「酸素ナノバブル」として、例えば特開2005-246294号公報(特許第4080440号)において、その製造方法も含めて既に公知である。また、水素の微細気泡(いわゆる水素ナノバブル)を含むナノバブル水は「水素ナノバブル」として、例えばWO99/10286パンフレット(特許第3349710号)において、その製造方法も含めて既に公知である。さらに大気の微細気泡(いわゆる大気ナノバブル)を含むナノバブル水は「大気ナノバブル」として、例えば特開2008-246486号公報において、その製造方法も含めて既に公知である。これらからわかるように、通常の水、超純水、電解水、イオン交換水によるアルカリ水或いは酸性水、およびこれらに無機イオンを加えた溶液中で、例えば超音波を付与するか、或いは電気分解によってナノバブルを発生させることができる。
【0017】
また、これらのナノバブル水は、後述する実験例において示すように商業的に入手可能であり、例えば、酸素ナノバブル水は(株)NAGA MREから製品名「ナーガの雫」またはジャパンエコール(株)から製品名「美粒水」として、また水素ナノバブル水はエヌディーアクア(株)から製品名「真・水素水」として販売されている。
【0018】
なお、本発明が対象とするナノバブル水は、なかでも動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の微細気泡を含むナノバブル水である。
【0019】
ここで個数平均径は、ナノバブル水を動的光散乱式粒子径・粒度分析計に供することで測定することができる。ここで検出はヘテロダイン法を使用することが好ましい。ヘテロダイン法は、散乱光のみを検出するホモダイン法とは異なり、入射光と散乱光の差成分を検出する方法である。
【0020】
例えば、一つの粉体の集団があると仮定した場合、この中に粒子径の小さな順から、「d1、d2、・・・、di、・・・、dk」の粒子径(μm)を有する粒子がそれぞれ「n1、n2、・・・、ni、・・・、nk個」あるとする。また粒子1個当たりの体積(μm)を「v1、v2、・・・、vi、・・・、vk」とする。すなわち、個数と粒子径と体積は下記の関係にある:
個数 :n1、n2、・・・、ni、・・・、nk
粒子径:d1、d2、・・・、di、・・・、dk
体積 :v1、v2、・・・、vi、・・・、vk。
【0021】
この場合、個数平均径MN(μm)は、下式で算出することができる。
【0022】
【数1】

【0023】
本発明が対象とするナノバブル水は上記式で算出される個数平均径が300nm以下の微細気泡であればよいが、好ましくは個数平均径が200nm以下、より好ましくは100nm以下である。なお、個数平均径の下限は特定制限されないが、通常0.01nm以上を挙げることができる。
【0024】
さらに本発明が対象とするナノバブル水は下記式で算出される体積平均径MV(μm)が400nm以下である微細気泡であることが好ましい。
【0025】
【数2】

【0026】
より好ましくは体積平均径が200nm以下、より好ましくは100nm以下である。なお、体積平均径の下限は特定制限されないが、通常0.01nm以上を挙げることができる。
【0027】
また特に制限されないが、本発明のナノバブル水は下記式で算出される標準偏差SDが体積平均径については0.08μm以下、個数平均径については0.1010μm以下である微細気泡であることが好ましい。ここでいう標準偏差(Standard Deviation:SD)は、気泡の分布の分布幅の目安となるものであり、統計学上の標準偏差(統計的誤差)とは相違する概念である
【0028】
【数3】

【0029】
かかるナノバブル水は、後述する実験例に示すように、生体から分取したリンパ球またはリンパ球を含む単核球を当該ナノバブル水の存在下で培養することで、そのNK活性(細胞傷害活性)を増強する作用を有しており、このためNK活性増強剤として有効に使用することができる。
【0030】
なお、ここで「NK活性」とは細胞傷害活性を意味する。好ましくは正常細胞を傷害することなく、ガン細胞を特異的に傷害する活性である。かかる「NK活性」は、後述する実験例で示すように、ヒト慢性骨髄性白血病由来のK562細胞等のガン細胞に対する細胞傷害活性を測定することによって評価することができる。
【0031】
(II)NK活性増強リンパ球、NK活性増強単核球およびそれらの調製方法
本発明が対象とするNK活性増強リンパ球および単核球は、それぞれ生体から分取したリンパ球および単核球を、前述するNK活性増強剤の存在下で培養することにより調製することができる。
【0032】
ここで培養に使用するリンパ球は、生体から採血により取得された血液から調製することができる。ここで血液とは、リンパ球を含む血液成分を意味し、例えば全血や単核球が該当する。この限りにおいて血液は末梢血であっても臍帯血であってもよく、また骨髄液であってもよい。好ましくは、末梢血から得られる全血または単核球(PBMC)である。
【0033】
なお、血液を採取する対象生物としては、ヒト又はヒト以外の哺乳動物を挙げることができる。細胞免疫療法の使用においては、原則として細胞免疫療法を行う動物種と同一の動物種の血液が用いられる。例えば、ヒトの細胞免疫療法に使用するNK活性増強リンパ球および単核球は、ヒト由来の血液から調製される。制限はされないが、細胞免疫療法において拒絶反応の可能性を限りなく排除するうえでは、細胞免疫療法を行う動物と同一の動物の血液を用いることが好ましい。つまりこの場合、細胞免疫療法を受ける患者自身から採取した血液が使用される。従って、この場合は採取する生体が健常個体である必要はなく、ガンやウイルス感染症に罹患した患者から採取した血液であってもよい。なお、血液の採取にあたっては、血液を採取するシリンジ内部をヘパリンなどの血液凝固阻止剤等でコーティングしておくなど、採取した血液が凝固しないような手段を講じておく必要がある。
【0034】
血液からのリンパ球の分取は、定法である比重遠心分離法(Bφyum, A., Separation of leucocytes from blood and bone marrow. Scand. J. Clin. Lab. Invest., 21, suppl.97 (1968))を用いて行うことができる。また、培養に使用する単核球もリンパ球と同様、生体から採血により取得された単核球を含む血液から調製することができる。かかる比重遠心分離法によるリンパ球および単核球の分離は、Lymphoprep(登録商標)(Axis-Shield社製)やFicoll-Paque PLUS(Amersham社製)等として市販されている分離液、Lymphoprep(登録商標)チューブ(Axis-Shield社製)等の分離用チューブ、並びに血液成分分離装置(例えば、(株)アムコ社製など)を用いることで簡便に実施することができる。
【0035】
分取したリンパ球または単核球は、RPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地、AIM−V培地、DMEM培地、IMDM培地等のリンパ球や単核球の培養に適した培地により、所定の細胞濃度、例えば0.5〜5×10cells/ml程度、好ましくは1〜3×10cells/ml程度、より好ましくは2×10cells/ml程度に調整して使用される。
【0036】
ここで細胞濃度の測定は血球計算板を使用して行うことができる。斯くして調製したリンパ球溶液または単核球溶液を、それぞれリンパ球培養原液または単核球培養原液とし、これを希釈して所望濃度のリンパ球溶液または単核球溶液として使用することもできる。
【0037】
なお、培養に使用する培地として、前述するように、リンパ球や単核球の培養に適した培地である、例えばRPMI-1640培地、AIM−V培地、DMEM培地、IMDM培地等を挙げることができるが、好ましくはRPMI-1640培地である。特にこれらの培地に容量比が5〜10%程度になるように非働化処理済みの血清(例えばウシ胎児血清や正常ヒト血清)若しくは血漿(正常ヒト血漿)を添加したものを使用することが、増殖効果に優れているため好ましい。また、必要に応じて、培地中に、ストレプトマイシン、ペニシリン、カナマイシン、ゲンタマイシンなどの抗生物質を添加配合してもよい。
【0038】
培養には、一般的な細胞培養の方法が使用される。例えば、COインキュベーター内で、通常CO濃度を1〜10容量%程度、特に5容量%程度に調整し、温度を30〜40℃程度、好ましくは37℃程度に調整して行うことが好ましい。
【0039】
分取したリンパ球または単核球を、前述するNK活性増強剤、すなわち動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の微細気泡を含むナノバブル水の存在下で、培養することで、そのNK活性を誘導させ、また増強することができる(NK活性増強リンパ球、NK活性増強単核球)。なお、リンパ球または単核球におけるNK活性の誘導または増強(NK活性の増強)の有無は、後述する実験例に示すように、K562細胞等のガン細胞に対する細胞傷害活性を測定することによって評価することができる。こうしたNK活性の誘導・増強のための培養には、前述する上記培養条件が同様に使用できる。培養時間としてはNK活性の誘導または増強が達成できる時間であればよく、特に制限されない。通常数時間〜数週間の範囲、具体的には例えば10時間〜4週間の範囲で適宜設定することができる。この範囲であれば、例えば10〜30時間を選択しても、また2〜4週間を選択してもよい。
【0040】
また、培地中のリンパ球または単核球の濃度として、通常0.5〜5×10cells/ml程度、好ましくは1〜3×10cells/ml程度、より好ましくは2×10cells/ml程度を挙げることができる。
【0041】
また、培地中のナノバブル水の濃度として、通常1〜99容量%、好ましくは15〜95容量%、より好ましくは15〜65容量%を挙げることができる。
【0042】
斯くしてNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球を調製することができるが、調製されたNK活性増強リンパ球または単核球は、使用に際して、さらにこれを、ナノバブル水を含まない生理的細胞条件で培養することが好ましい。
【0043】
なお、培養後は、培養液中に細菌やエンドトキシン等が混入していないことを確認することが好ましい。菌の有無は、コロニー形成アッセイ法により、またエンドトキシンの有無は市販のELISAなどの比色法やリムルステストなどの比濁法によって調べることができる。
【0044】
こうして得られたNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球はいずれもNK活性が誘導・増強されており、腫瘍や各種感染症の予防や治療に有効な細胞免疫製剤の有効成分として有用である。従って、本発明はかかるNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球を有効成分として含有する細胞免疫製剤を提供するものでもある。
【0045】
(III)細胞免疫製剤および輸液製剤
前述するNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球を、例えばヒトアルブミンを含む輸液用生理食塩液中に懸濁した形態で製剤化することにより、悪性腫瘍(ガン)あるいは各種感染症を予防または治療するための細胞免疫製剤として用いることができる。
【0046】
なおここで「細胞免疫製剤」とは、前述のNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球を含有し、増強(誘導)されたNK活性に基づいて生体防御機能を発揮する製剤を意味する。その形態は特に制限されない。例えば、適当な溶液にNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球を懸濁させた形態のものでもよく、特に上記したヒトアルブミンを含む輸液用生理食塩液にNK活性増強リンパ球またはNK活性増強単核球を懸濁した形態の輸液製剤(点滴製剤)が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0047】
かかる細胞免疫製剤は、悪性腫瘍患者(ガン患者)、免疫不全症患者、自己免疫性疾患、アレルギー患者等の患者や、各種感染症患者に対する予防(再発予防を含む)や治療に広く用いることができる。好ましくは悪性腫瘍患者(ガン患者)に対する予防および治療への使用である。
【0048】
ここで悪性腫瘍、すなわちガンとしては、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、腎臓癌、膵臓癌、胆嚢癌、卵巣癌、子宮癌、精巣癌、前立腺癌、白血病、肉腫、脳腫瘍等が挙げられる。 また免疫不全症に関しては、先天性の免疫不全症と後天的な免疫不全症等が挙げられる。 先天性の免疫不全症としては、重症複合免疫不全症、Wiscott Aldrich 症候群、アデノシン・デアミネース欠損症、プリンヌクレオチド・ホスホリラーゼ欠損症等が例示されるが、これらの免疫不全症のみに限定されるものでない。さらに後天的な免疫不全症としては、抗ガン剤、免疫抑制剤、ステロイド剤等の使用による続発性免疫不全や、ヒト免疫不全ウイルスの感染によるエイズ等が例示されるが、これらの免疫不全症のみに限定されるものでない。 また自己免疫性疾患としては、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、重症筋無力症、悪性貧血、橋本病等が例示されるが、これらの自己免疫性疾患のみに限定されるものでない。
【0049】
また本発明の細胞免疫製剤は、免疫能が低下した患者だけでなく、特定のウイルス等に対しての免疫能が欠如あるいは低下した患者に対しても予防的あるいは治療的に使用することが可能である。アレルギー性疾患としては、気管支喘息、スギ花粉症、じんま疹等が例示されるが、これらのアレルギー性疾患のみに限定されるものではなく、また各種アレルギーの治療あるいは症状の軽減を目的として使用することも可能である。
【0050】
さらに感染症としては、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、原虫感染症、クラミジア感染症、マイコプラズマ感染症等が例示される。上記のウイルス感染症としては、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス感染症等が例示されるが、これらのウイルス感染症のみに限定されるものでなく、これ以外の各種ウイルス感染症、例えばインフルエンザウイルス、ヘルペスシンプレックスウイルス、バリセロゾスターウイルス等のヘルペス属ウイルス、あるいはヒト白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス等の各種レトロウイルスによる感染症の予防及び治療用にも広く使用することが可能である。
【0051】
また上記の細菌感染症としては、緑膿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌等を原因とするものに使用することができるが、これらのほかにも人に病原性を示す細菌による感染症であればいずれの感染症に対しても使用が可能である。
【0052】
かかる細胞免疫製剤および輸液製剤の投与量は、患者の状態や治療対象等により、適宜選択できるが、通常、NK活性増強リンパ球または単核球等の細胞の数に換算して、体重1kgあたり1×10cells〜1×1010cellsを挙げることができる。好ましくは1×10cells〜1×109cellsの範囲である。
【0053】
細胞免疫製剤の投与形態としては、輸液製剤などの点滴剤のほか、注射剤として適用できるように液体形状を有していることが好ましい。NK活性増強リンパ球または単核球をヒト血清アルブミンが0.01〜5%となるように配合された生理食塩液に分散させてなる注射剤又は点滴剤がより好ましい。投与する液量は、投与方法、投与する場所等に異なるが、1〜500mlとするのが好ましく、この液量に前記の量の細胞が含まれるようにするのがより好ましい。
【0054】
(IV)NK活性増強血液製剤およびその調製方法
本発明のNK活性増強血液製剤は、生体から分取した少なくともリンパ球を含む血液を、前述するNK活性増強剤の存在下で培養することで調製することができる。ここで血液は、末梢血、臍帯血、または骨髄液であってもよい。取得の容易性から好ましくは末梢血である。また、少なくともリンパ球を含むものであればよく、必ずしも全血である必要はなく、例えば末梢血から得られるPBMCであってもよい。なお、PBMCは、生体から採取した血液から(II)で説明する比重遠心分離法を用いて調製することができる。
【0055】
また、血液を採取する対象生物としては、ヒト又はヒト以外の哺乳動物を挙げることができる。細胞免疫療法の使用においては、原則として細胞免疫療法を行う動物種と同一の動物種の血液が用いられる。好ましくはヒトである。また制限はされないが、細胞免疫療法において拒絶反応の可能性を限りなく排除するうえでは、細胞免疫療法を行う動物と同一の動物の血液を用いることが好ましい。つまりこの場合、細胞免疫療法を受ける患者自身から採取した血液が使用される。従って、この場合は採取する生体が健常個体である必要はなく、ガンやウイルス感染症に罹患した患者から採取した血液であってもよい。
【0056】
なお、血液の採取にあたっては、血液を採取するシリンジ内部をヘパリンなどの血液凝固阻止剤でコーティングしたり、採取した血液に血液凝固阻止剤を全血1mlに対して50ユニット程度配合するなど、採取した血液が凝固しないような手段を講じておく必要がある。
【0057】
NK活性増強のための培養は、上記(II)で説明した培養と同様の方法で実施することができる。具体的には、分取したPBMCを、前述するNK活性増強剤、すなわち動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の微細気泡を含むナノバブル水の存在下で、RPMI-1640培地、AIM−V培地、DMEM培地、IMDM培地等の単核球の培養に適した培地により、細胞濃度が、例えば0.5〜5×10cells/ml程度、好ましくは1〜3×10cells/ml程度、好ましくは2×10cells/ml程度になるように調整し、これに容量比が5〜10%程度になるように非働化処理済みの血清若しくは血漿を添加したものを用いて培養する方法が挙げられる。この場合、拒絶反応を回避するうえで、非働化処理済みの血清若しくは血漿として細胞免疫療法を受ける患者の自己血液から調製されるものを使用することが好ましい。培養時に使用するナノバブル水の濃度として、通常1〜99容量%、好ましくは15〜95容量%、より好ましくは15〜65容量%を挙げることができる。
【0058】
培養には、一般的な細胞培養の方法が使用される。例えば、COインキュベーター内で、通常CO濃度を1〜10容量%程度、特に5容量%程度に調整し、温度を30〜40℃程度、好ましくは37℃程度に調整して行うことが好ましい。
【0059】
斯くして、採取した血液、特にPBMCのNK活性を誘導しまた増強させることができる。なお、当該NK活性の誘導または増強の有無は、後述する実験例に示すように、K562細胞等のガン細胞に対する細胞傷害活性を測定することで評価することができる。
【0060】
なお、培養後は、培養液中に細菌やエンドトキシン等が混入していないことを確認することが好ましい。菌の有無は、コロニー形成アッセイ法により、またエンドトキシンの有無は市販のELISAなどの比色法やリムルステストなどの比濁法によって調べることができる。
【0061】
このように調製したPBMCをNK活性増強血液製剤として使用する場合には、上記培養に引き続いて、培養に使用した培地やNK活性増強剤を除去する必要がある。これらの除去は、上記培養で得られた培養液を滅菌済み遠心チューブに移し、1200rpmにて8分間ほど室温にて遠心することによって実施することができる。斯くして目的とするPBMCは沈殿物として、NK活性増強剤や培地を含む上清と分離して回収することができる。回収されたPBMCは、培地やNK活性増強剤を十分に除去するために、さらに2回以上生理食塩水で洗浄することが望ましい。最後に、洗浄したPBMCを細胞濃度が1.2〜1.2×109cells/ml、好ましくは1.2×10〜1.2×108cells/mlとなるように生理食塩水で調製することで、本発明のNK活性増強血液製剤を得ることができる。
【0062】
当該NK活性増強血液製剤は、製造後直ちに使用することもできるし、4℃から6℃程度の低温下で所定の期間、又は保存液等を加えて超低温下(約−80℃)若しくは液体窒素中で数年に渡る長期間保存することも可能である。前記保存液としては、市販の活性化リンパ球保存液を用いると便利である。例えば、バンバンカー(日本ジェネティクス社)、ケーエムバンカーII(コスモバイオ社)等が利用できる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、実験例を用いて詳細に説明する。但し、本発明はかかる実験例により何ら制限されるものではない。なお、下記実験例で培養に使用する「RPMI-1640培地」の詳細は、RPMI-1640培地(0.03%グルタミン、10%FBS、100U/mlペニシリン-100μg/mlストレプトマイシン、0.1mM MEM Non-Essential Amino Acids(NEAA)を含む)である。なお、RPMI-1640培地はシグマアルドリッチジャパン株式会社、FBS(ウシ胎児血清)は大日本製薬株式会社、ペニシリン、ストレプトマイシンおよびNEAAはいずれもインビトロジェン株式会社より購入したものを使用した。なお、下記の実験例でナノバブル水に含まれるナノバブルの粒径の測定は、日機装(株)東村山製作所において、動的光散乱式粒子径・粒度分析計ナノトラックUPA-UT151型(光源:半導体レーザー780nm、検出器:シリコンンフォトダイオード)、日機装(株)製)を用いて実施した。
【0064】
実験例1 酸素ナノバブル水を用いたNK活性の増強
(1)NK活性の測定方法
まず被験者の末梢血からNK細胞を含むPBMCを分取し、これに被験物質を添加して、RPMI-1640培地を用いて、5%CO2、37℃の条件で20時間培養する。
【0065】
別途、蛍光物質(ユーロピウム:Eu3+)で標識したガン細胞(K562細胞:American Type Culture Collection)を調製し(以下、これを「標識ガン細胞」という)、これを上記で培養したPBMCと混合し、さらにRPMI-1640培地を用いて、5%CO2、37℃の条件で4時間培養する。このとき、PBMC(E:エフェクター細胞)と標識ガン細胞(T:ターゲット細胞)との混合比率(E/T比)は、40:1とする。
【0066】
次いで、標識ガン細胞から培養液中に遊離した蛍光物質(Eu3+)の量を、時間分解蛍光測定法(DELFIA Research蛍光光度計:Pharmacia Biotech社製)により測定し、下式から蛍光物質の遊離率(%)を算出する。この遊離率(%)を標識ガン細胞がPBMCで傷害された程度、すなわちNK活性(%)とする。
【0067】
【数4】

【0068】
(2)被験物質の調製
被験物質として、下記の方法で調製した(a)酸素ナノバブル水、(b)有機ゲルマニウム粉末、および(c)ハナビラタケを使用した。これらの被験物質のうち、(b)と(c)は、NK細胞活性作用があると報告されている物質である(特開平10-330207号公報、特開2004-292415号公報参照)。
【0069】
これらの被験物質は事前検査として、第十五改正日本薬局方解説書エンドトキシン試験法(B427-448)に則して比濁法によるエンドトキシン測定(トキシノメーターMT-358使用:和光純薬工業(株)製)、及びガン細胞(K562細胞)に対する傷害活性試験を実施し、被験物質そのものはエンドトキシンを含有しないこと、そしてガン細胞を傷害する作用を有するものでないことを確認した。なお、両試験には、各被験物質をNK活性測定時と同じ濃度になるように調整して使用した。
【0070】
(a)酸素ナノバブル水
酸素ナノバブル水として、(株)NAGA MRE販売の500ml入り酸素ナノバブル水(製品名:ナーガの雫)(賞味期限2008年9月20日)(原水)を使用した。原水を0.22μmフィルターで濾過滅菌し試験に使用した。具体的には、原水と培地とを混合し培養時に原水が6倍希釈されたもの(原水を16.7%含有)を試験濃度「1倍」とし、原水と培地とを混合し培養時に原水が60倍希釈されたもの(原水を1.67%含有)を試験濃度「1/10倍」とした。なお、当該酸素ナノバブル水中に含まれる酸素ナノバブルの粒径を動的光散乱法(検出法:ヘテロダイン法)に基づいて測定したところ(動的光散乱式粒子径・粒度分析計ナノトラックUPA-UT151型、日機装(株)製)、下記に説明する方法で算出される体積平均径(MV)が0.3734μm(標準偏差:SD=0.0784μm)、個数平均径(MN)が0.2995μm(標準偏差:SD=0.1002μm)と、動的光散乱法による個数平均径が300nm未満のナノバブルであることが確認された。
【0071】
なお、上記装置(動的光散乱式粒子径・粒度分析計ナノトラックUPA-UT151型)は、解析法として周波数解析法(FFT-パワースペクトル法)を採用している。すなわち、散乱強度の自己相関関数を高速フーリエ変換したパワースペクトルを求め、このパワースペクトルをログリニアースケール・アルゴリズムで粒度分布に変換する方法である。
【0072】
<体積平均径(MN)および個数平均径(MV)の算出方法>
一つの粉体の集団を仮定する。この中に粒子径の小さな順から、d1、d2、・・・、di、・・・、dkの粒子径(μm)を有する粒子がそれぞれn1、n2、・・・、ni、・・・、nk個あるとする。また粒子1個当たりの体積(μm)をv1、v2、・・・、vi、・・・、vkとする。すなわち、個数と粒子径と体積は下記の関係にある。
個数 :n1、n2、・・・、ni、・・・、nk
粒子径:d1、d2、・・・、di、・・・、dk
体積 :v1、v2、・・・、vi、・・・、vk。
【0073】
この場合、体積平均径MV(μm)は、前述する[数2]に記載する式で算出することができる。また、個数平均径MN(μm)は、前述する[数1]に記載する式で算出することができる。また気泡の分布の分布幅の目安となる標準偏差(SD)(体積平均径と個数平均径の各々について)は、前述する[数3]に記載する式で算出することができる。
【0074】
(b)有機ゲルマニウム粉末
有機ゲルマニウム粉末として、(株)浅井ゲルマニウム研究所製のものを使用した。 これをRPMI-1640 培地に懸濁し、室温で1時間撹拌し溶解した。これを0.22μmフィルターで濾過滅菌した後、RPMI-1640 培地で培養時の最終濃度が0.022mg/mlとなるように希釈し、試験に使用した。
【0075】
(c)ハナビラタケ
ハナビラタケとして、(株)ミネターから購入した乾燥粉末製品(ハナビラタケ100:商品名)を使用した。これをRPMI-1640 培地に懸濁し、室温で1時間撹拌し溶解した。これを0.22μmフィルターで濾過滅菌した後、RPMI-1640 培地で培養時の最終濃度が0.022mg/mlとなるように希釈し、試験に使用した。
【0076】
なお、上記有機ゲルマニウム粉末およびハナビラタケの濃度は、標準的なヒト(体重60kg)の血液量を4.5Lとし、1日の服用量100mg が100% 血中に吸収された場合の濃度(0.022 mg/ml)を基準として、培養時の最終濃度がこの濃度になるように調整した。
【0077】
(3)被験物質で処理したPBMCのNK活性測定
上記(1)に記載する方法に従って、上記各種の被験物質で処理したPBMCのNK活性を測定した。具体的には、まず、被験者(60代男性)1名の末梢血(全血採血後、30時間以内に使用)から比重遠心分離法を用いてPBMC層を分離した後、一定濃度(培養時濃度:2×10cells/ml)のPBMC溶液を調製した。
【0078】
斯くして調製したPBMC溶液に、IL-2(ヒトリコンビナント:PEPROTECH社製)、OK-432(抗悪性腫瘍剤:ピシバニール、中外製薬(株)製)、または表1に記載する各種の被験物質(表中の濃度(1倍)とその1/10濃度(1/10倍)の2濃度で実施)を添加し、20時間培養した。
【0079】
【表1】

【0080】
20時間培養した後、蛍光物質(Eu3+)で標識したガン細胞(K562細胞)を添加し、さらに4時間培養した。
【0081】
培養後、培養液中に遊離した蛍光物質量を、時間分解蛍光測定法により測定し、その遊離率(%)から傷害されたガン細胞の割合を求め、NK活性(%)を算出した。
【0082】
結果を表2および図1に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
その結果、表2に示すように、コントロールのNK活性は4.6%であるものの、IL−2添加または抗悪性腫瘍剤(OK-432)添加により、それぞれ31.0%または41.9%となり、IL−2または抗悪性腫瘍剤(OK-432)により、NK活性が誘導・増強されることが確認された(NK活性の増強)。
【0085】
これに対して、酸素ナノバブル水(サンプルD)は7.4%と、IL-2やOK-432よりも低いものの、コントロールと比較してNK活性を1.6倍に誘導・増強していることが確認された。このことから、個数平均径が300nm未満の酸素ナノバブルを含む水(酵素ナノバブル水)には、PBMCのNK活性を誘導・増強させる機能があることが判明した。
【0086】
なお、この実験では、有機ゲルマニウム粉末(サンプルG)およびハナビラタケ(サンプルF)でNK活性の低下が認められた。また有機ゲルマニウムおよびハナビラタケを併用した試験サンプル(サンプルE)はNK活性を若干誘導することが確認された。しかしこれらの被験物質を酸素ナノバブル水と併用した場合(サンプルA、B、C)、酸素ナノバブル水単独の場合(サンプルD)のNK活性と、ほぼ同じか若干増加することが認められた。これから、酸素ナノバブル水は、他のNK活性増強剤と併用することが可能であると考えられる。
【0087】
実験例2 水素ナノバブル水を用いたNK活性増強
酸素ナノバブル水に代えて水素ナノバブル水を用いて実験例1と同様にしてPBMCを処理して、NK活性を測定した。
【0088】
(1)被験物質(水素ナノバブル水)の調製
水素ナノバブル水として、電気分解から得られた、エヌディーアクア株式会社製の水素ナノバブル水(商標名:「真・水素水」、賞味期限2008年12月12日、ロット番号2008.12.12)(原水)を用いた。原水を0.22μmフィルターで濾過滅菌し試験に使用した。具体的には、原水と培地とを混合し培養時に原水が6倍希釈されたもの(原水を16.7%含有)を試験濃度「1倍」とし、原水と培地とを混合し培養時に原水が60倍希釈されたもの(原水を1.67%含有)を試験濃度「1/10倍」とした。ちなみに電気分解によって得られたアルカリイオン水中の水素気泡は3〜200nmであり、水素ナノバブル水には200nm以下の径のバブルが存在することが知られている(“電解アルカリ性水の科学”、ウォーター研究会会報、No.8、p.5(2001))。そこで、当該水素ナノバブル水中に含まれる水素ナノバブルの粒径を、実験例1に記載する方法に従って動的光散乱法に基づいて測定したところ(動的光散乱式粒子径・粒度分析計ナノトラックUPA-UT151型、日機装(株)製)、実験例1で説明する方法で算出される体積平均径(MV)は0.0027μm(標準偏差SD=0.0004μm)、個数平均径(MN)が0.0024μm(標準偏差SD=0.0005μm)と、動的光散乱法による個数平均径が300nm未満(3nm未満)のナノバブルであることが確認された。
【0089】
当該水素ナノバブル水は事前検査として、第十五改正日本薬局方解説書エンドトキシン試験法(B427-448)に則して比濁法によるエンドトキシン測定(トキシノメーターMT-358使用:和光純薬工業(株)製)、及びガン細胞(K562細胞)に対する傷害活性試験を実施し、被験物質そのものにエンドトキシンが含まれておらず、またガン細胞を傷害する作用を有するものでないことを確認した。なお、両試験には、当該水素ナノバブル水をNK活性測定時と同じ濃度になるように調整して使用した。
【0090】
(2)被験物質で処理したPBMCのNK活性測定
実験例1(1)に記載する方法に従って、上記被験物質(水素ナノバブル水)で処理したPBMCのNK活性を測定した。具体的には、まず、被験者2名(50代男性:被験者1、60代男性:被験者2)の末梢血(全血採血後、30時間以内に使用)から比重遠心分離法を用いてPBMC層を分離した後、一定濃度(培養時濃度:2×10cells/ml)のPBMC溶液を調製した。
【0091】
斯くして調製したPBMC溶液に、表3に示すように、被験物質としてIL-2(ヒトリコンビナント:PEPROTECH社製)、OK-432(抗悪性腫瘍剤:ピシバニール、中外製薬(株)製)、水素ナノバブル水、または酸素ナノバブル水(実験例1で調製したものと同じ)をそれぞれ添加し、20時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。20時間培養した後、蛍光物質(Eu3+)で標識したガン細胞(K562細胞)を添加し、さらに4時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。
【0092】
培養後、培養液中に遊離した蛍光物質量を、時間分解蛍光測定法により測定し、得られた遊離率(%)から傷害されたガン細胞の割合を求め、NK活性(%)を算出した。
【0093】
【表3】

【0094】
被験者1に関する結果を表4と図2に、被験者2に関する表5に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
【表5】

【0097】
その結果、表4及び表5に示すように、IL-2やOK-432には及ばないものの、水素ナノバブル水にも、実験例1で確認した酸素ナノバブル水と同様に、NK活性を誘導・増強する作用があること(NK活性増強作用)、また水素ナノバブル水と酸素ナノバブル水とを併用してもそれらのNK活性増強効果は損なわれることなく維持されることが確認された。具体的には、水素ナノバブル水については、コントロールに比べ、被験者1(表4:サンプルA)は1.5倍以上、また被験者2(表5:サンプルA)は1.3倍程度NK活性の上昇が得られた。また、酸素ナノバブル水については、1.4倍以上のNK活性の上昇が得られた(表4:サンプルB)。
【0098】
実験例3 大気ナノバブル水を用いたNK活性の増強
酸素ナノバブル水に代えて大気ナノバブル水を用いて実験例1と同じ方法でPBMCを処理してNK活性を測定した。
【0099】
(1)被験物質(大気ナノバブル水)の調製
大気ナノバブル水として、ジャパンエコール株式会社製の大気ナノバブル水(ロット番号08121602)(原水)を用いた。大気中には窒素が約78%、酸素が約20.9%および二酸化炭素が約0.03%含まれている。なお、大気ナノバブル水の作成にあたり、空気(山梨県忍野村)を「インライン型クリーンフィルター、FCS500シリーズ」(ポリプロピレン+ウレタン製中空糸膜、濾過精度0.01μm、除去効率99.99%のフィルター)(CKD社製)に通して調製した大気を使用した。
【0100】
原水を0.22μmフィルターで濾過滅菌し試験に使用した。具体的には、原水と培地とを混合し培養時に原水が6倍希釈されたもの(原水16.7%含有)を試験濃度「1倍」とし、原水と培地とを混合し培養時に原水が60倍希釈されたもの(原水1.67%含有)を試験濃度「1/10倍」とした。
【0101】
当該大気ナノバブル水中に含まれる大気ナノバブルの粒径を、実験例1に記載する方法に従って動的光散乱法に基づいて測定したところ(動的光散乱式粒子径・粒度分析計ナノトラックUPA-UT151型、日機装(株)製)、実験例1で説明する方法で算出される体積平均径(MV)は0.0019μm(標準偏差SD=0.0003μm)、個数平均径(MN)が0.0018μm(標準偏差SD=0.0003μm)と、動的光散乱法による個数平均径が300nm未満(2nm未満)のナノバブルであることが確認された。
【0102】
当該大気ナノバブル水は事前検査として、第十五改正日本薬局方解説書エンドトキシン試験法(B427-448)に則して比濁法によるエンドトキシン測定(トキシノメーターMT-358使用:和光純薬工業(株)製)、及びガン細胞(K562細胞)に対する傷害活性試験を実施し、大気ナノバブル水そのものにエンドトキシンが含まれておらず、またガン細胞を傷害する作用を有するものでないことを確認した。なお、両試験には、当該大気ナノバブル水をNK活性測定時と同じ濃度になるように調整して使用した。
【0103】
(2)被験物質(大気ナノバブル水)で処理したPBMCのNK活性測定
実験例1(1)に記載する方法に従って、上記被験物質(大気ナノバブル水)で処理したPBMCのNK活性を測定した。具体的には、まず、(健常な男女7名:平均年齢47.3±13.7歳)の末梢血(全血採血後、30時間以内に使用)から比重遠心分離法を用いてPBMC層を分離した後、大気ナノバブル水を65%含む培地を使用して、一定濃度(培養時濃度:2×10cells/ml)のPBMC溶液を調製した。
【0104】
斯くして調製したPBMCを20時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。20時間培養した後、蛍光物質(Eu3+)で標識したガン細胞(K562細胞)を添加し、さらに4時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。培養後、培養液中に遊離した蛍光物質量を、時間分解蛍光測定法により測定し、得られた遊離率(%)から傷害されたガン細胞の割合を求め、NK活性(%)を算出した。
【0105】
結果を表6に示す。
【0106】
【表6】

【0107】
これからわかるように、大気ナノバブル水にも、実験例1で確認した酸素ナノバブル水および実験例2で確認した水素ナノバブル水と同様に、NK活性を誘導・増強する作用(NK活性増強作用)があることが確認された。
【0108】
実験例4 IL−2との併用によるNK活性の増強
(1)酸素ナノバブル水および大気ナノバブル水によるNK活性の増強
被験物質として下記のナノバブル水を使用して、実験例1の記載に従ってPBMCを処理して、NK活性(%)を測定した。
【0109】
<被験物質>
A:酸素ナノバブル水(ナーガの雫:(株)NAGA MRE製)、体積平均径(MV):0.3734μm(標準偏差SD=0.0784μm)、個数平均径(MN):0.2995μm(標準偏差SD=0.1002μm)
B:大気ナノバブル水(Lot.08121602、ジャパンエコール(株)製)、体積平均径(MV):0.0019μm(標準偏差SD=0.0003μm)、個数平均径(MN):0.0018μm(標準偏差SD=0.0003μm)
C:酸素ナノバブル水(美粒水:ジャパンエコール(株)製)、体積平均径(MV):0.0015μm(標準偏差SD=0.0002μm)、個数平均径(MN):0.0014μm(標準偏差SD=0.0002μm)。
【0110】
具体的には、上記各種のナノバブル水と精製水を用いて、RPMI-1640培地(pH7.2)(これを「ナノバブル培地」という)を調製し、これを0.22μmフィルターで濾過滅菌した後、試験に使用した。PBMC培養時に使用する各ナノバブル培地中のナノバブル水の含有率は65容量%である。
【0111】
具体的には、まず、被験者7名(健常な男女7名:平均年齢47.3±13.7歳)の末梢血(全血採血後、30時間以内に使用)から比重遠心分離法を用いてPBMC層を分離した後、一定濃度(培養時濃度:2×10cells/ml)のPBMC溶液を調製した。
【0112】
斯くして調製したPBMCを、上記の各種ナノバブル培地(ナノバブル培地A〜C)を用いて20時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。20時間培養した後、蛍光物質(Eu3+)で標識したガン細胞(K562細胞)を添加し、さらに4時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。培養後、培養液中に遊離した蛍光物質量を、時間分解蛍光測定法により測定し、得られた遊離率(%)から傷害されたガン細胞の割合を求め、NK活性(%)を算出した。なお、コントロールとして、ナノバブル培地に代えて、ナノバブル水を配合しない培地(RPMI-1640培地(pH7.2))を用いて同様に処理して、NK活性(%)を算出した。
【0113】
その結果、7名のNK活性(%)の平均値(コントロール値)は36.5±15.0(平均±標準偏差)%であり、いずれのナノバブル水(ナノバブル水A〜C)もNK活性を上昇させることが確認された。コントロールのNK活性(コントロール値)を100%とした場合の相対比(%)を図3に示す。
【0114】
この結果から、個数平均径が300nm未満の微細気泡(酸素、大気)を含むいずれのナノバブル水も、ナノバブル水を含まないコントロールに比べて1.2〜1.3倍、NK活性を増強させることが認められた。
【0115】
(2)IL−2との併用効果
被験物質としてIL−2単独(0〜50ng/ml)、およびIL−2(0〜50ng/ml)と上記ナノバブル水A〜Cとを組み合わせて使用し、実験例1の記載に従ってPBMCを処理して、NK活性を測定した。
【0116】
具体的には上記被験者7名から単離したPBMCを、上記のIL−2(0〜50ng/ml)を含有する培地(RPMI-1640培地(pH7.2))またはIL−2(0〜50ng/ml)を含有する上記各種ナノバブル培地(ナノバブル培地A〜C)を用いて20時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。20時間培養した後、蛍光物質(Eu3+)で標識したガン細胞(K562細胞)を添加し、さらに4時間培養した(培養条件は、実験例1(1)に記載する方法と同じ)。培養後、培養液中に遊離した蛍光物質量を、時間分解蛍光測定法により測定し、得られた遊離率(%)から傷害されたガン細胞の割合を求め、NK活性(%)を算出した。
【0117】
濃度−反応曲線を図4に示す。縦軸はNK活性(%)(7名の平均値)、横軸はIL-2の濃度(ng/ml)を示す。この結果から、IL−2単独よりも、IL−2に上記ナノバブル水を併用したほうが、NK活性が増加することが判明した。IL−2は、細胞免疫療法における生体応答調節剤(BRM)として知られている一方で、その副作用も報告されている。本発明のナノバブル水を有効成分とする細胞免疫療法剤によれば、これをIL−2と併用することで、IL−2のNK細胞活性化機能を補足し、その結果IL−2の使用量が低減でき、ひいてはIL−2による副作用を低減させることができると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的光散乱法で求められる個数平均径が300nm以下の気泡を含むナノバブル水を有効成分とする、NK活性増強剤。
【請求項2】
生体から分取したリンパ球を、請求項1に記載するNK活性増強剤の存在下で培養して調製される、NK活性増強リンパ球。
【請求項3】
生体から分取したリンパ球を含有する単核球を、請求項1に記載するNK活性増強剤の存在下で培養して調製される、NK活性増強単核球。
【請求項4】
請求項2に記載のNK活性増強リンパ球または請求項3に記載のNK活性増強単核球を有効成分とする細胞免疫製剤。
【請求項5】
請求項2に記載するNK活性増強リンパ球、請求項3に記載するNK活性増強単核球、または請求項4に記載する細胞免疫製剤を含有する輸液製剤。
【請求項6】
生体から分取したリンパ球または単核球を、請求項1に記載するNK活性増強剤の存在下で培養する工程を有する、NK活性増強リンパ球、NK活性増強単核球、または細胞免疫製剤の調製方法。
【請求項7】
生体から分取した少なくともリンパ球を含む血液を、請求項1に記載するNK活性増強剤の存在下で培養して調製される、NK活性増強血液製剤。
【請求項8】
生体から分取した少なくともリンパ球を含む血液を、請求項1に記載するNK活性増強剤の存在下で培養する工程を有する、NK活性増強血液製剤の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−75180(P2010−75180A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200935(P2009−200935)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(302003532)
【出願人】(501052144)
【出願人】(399004186)免疫分析研究センター株式会社 (3)
【Fターム(参考)】