説明

NK細胞集団の製造方法

【課題】感染症の治療やがんの免疫療法への使用に適したNK細胞を高含有する細胞集団を提供すること。
【解決手段】フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の存在下に、ナチュラルキラー(NK)細胞及び/又はNK細胞への分化能を有する前駆細胞を含有する細胞集団を生体外でインキュベートする工程を含むことを特徴とするNK細胞を含有する細胞集団の製造方法、当該方法で使用するための、フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有するNK細胞増殖剤、当該方法で製造された細胞集団、当該細胞集団を有効成分として含有することを特徴とするNK細胞に感受性を有する疾患の治療剤又は予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野、特に免疫療法において有用な、ナチュラルキラー(NK)細胞を含有する細胞集団を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージやNK細胞は、免疫系の中でも自然免疫を担い、ウイルスや細菌感染などの抗原の侵入に対して応答する。抗原提示を経て特異的な免疫を誘導する獲得免疫とは異なり、速やかに応答できる特徴がある。NK細胞は抗腫瘍活性も有しており、医療の分野でも注目されている。NK細胞はCD3陰性かつCD56陽性の単核細胞とされており、抗原をマーカーとして識別されている。NK細胞には、CD56陽性CD16陽性NK細胞と、CD56陽性CD16陰性NK細胞の2つのサブポピュレーションが存在し、CD56陽性CD16陽性NK細胞は強い細胞傷害活性を有することが報告されている。また、CD16は抗体依存性の細胞傷害活性を有する細胞の表面マーカーとしても知られている。
【0003】
一方、藻類、棘皮動物等に含まれている硫酸化フコース含有多糖であるフコイダンに関して、これまで抗腫瘍作用が数多く報告されている。例えば低分子フコイダンに関するもの、癌転移抑制作用に関するものや、抗腫瘍活性が確認されたものがある(非特許文献1)。また、経口投与による抗腫瘍作用が確認されている。また、フコイダンの免疫増強作用についても数多くの報告がある(非特許文献2)。
しかし、いずれの報告も生体にフコイダンを投与するものであり、抗腫瘍作用についてマクロファージやNK細胞の活性を観察している。一方、フコイダンの生体外での免疫細胞への作用について、海藻抽出物にはNK細胞の活性化作用がないことが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Maruyama H、他3名、In Vivo、第17巻、第245−250頁、2003年
【非特許文献2】Yang X、他5名、中国海洋産物、第14巻、第3号、第9−13頁、1995年
【非特許文献3】Shan B、他3名、Int.J.Immunoph、第21巻、第59−70頁、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は上記現状に鑑み、感染症の治療やがんの免疫療法への使用に適したNK細胞を高含有する細胞集団を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物により、意外にも細胞傷害活性の強いCD56陽性CD16陽性のNK細胞の選択的かつ効率的な誘導又は増殖が可能であることを見出し、完成するに至ったものである。本発明により、前記化合物を有効成分として使用する、感染症の治療やがんの免疫療法への使用に適した、NK細胞の製造方法が提供される。
【0007】
すなわち本発明を概説すれば、
[1]フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の存在下に、ナチュラルキラー(NK)細胞及び/又はNK細胞への分化能を有する前駆細胞を含有する細胞集団を生体外でインキュベートする工程を含むことを特徴とするNK細胞を含有する細胞集団の製造方法、
[2]フコイダンがガゴメ昆布由来であることを特徴とする[1]記載のNK細胞を含有する細胞集団の製造方法、
[3]さらに、得られた細胞集団からNK細胞を高含有する細胞集団を分離する工程を含む、[1]又は[2]記載の細胞集団の製造方法、
[4]NK細胞がCD56陽性CD16陽性細胞である、[2]記載の細胞集団の製造方法、
[5][1]〜[4]いずれか1項に記載の方法で使用するための、フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有するNK細胞増殖剤、
[6][1]〜[4]いずれか1項に記載の方法で製造された細胞集団、又は
[7][6]記載の細胞集団を有効成分として含有することを特徴とするNK細胞に感受性を有する疾患の治療剤又は予防剤、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、免疫療法への使用に適したNK細胞を含有する細胞集団を製造する方法、NK細胞増殖剤、NK細胞を含有する細胞集団、当該細胞集団を有用成分として含有する治療剤及び予防剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において「フコイダン」とは、藻類、棘皮動物等に含まれている、硫酸化フコースを構成成分として含む多糖を示す。
【0010】
本明細書において「NK細胞」とは、抗原感作なしにMHC(主要組織適合抗原)非拘束的に腫瘍細胞やウイルス感染細胞などを傷害し、生体の恒常性維持のために働く細胞集団を示す。NK細胞は骨髄から分化する大型顆粒リンパ球の1つで、ヒト末梢血リンパ球の5〜15%を占める。
【0011】
本明細書において「NK細胞を含有する細胞集団の製造」とは、NK細胞への分化能を有する前駆細胞からのNK細胞の誘導、NK細胞の活性化、NK細胞の維持及びNK細胞の増殖(拡大培養)を含む概念を意味する。
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
(1)本発明のNK細胞を含有する細胞集団の製造方法
本発明のNK細胞を含有する細胞集団の製造方法は、フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を有効成分とし、その存在下に、NK細胞及び/又はNK細胞への分化能を有する前駆細胞を含有する細胞集団をインキュベートする工程を含むことを特徴とする方法である。これまでに、海藻抽出物には生体外でNK細胞を活性化する作用が無いことが知られているが(非特許文献3)、本発明によれば生体外でNK細胞を製造することが可能である。さらに、当該方法は、細胞傷害活性の強いCD56陽性CD16陽性のNK細胞の選択的かつ効率的な誘導又は増殖が可能である。
【0013】
NK細胞への分化能を有する前駆細胞は、NK細胞になる前段階で、しかもNK細胞に分化するように運命付けられている細胞であれば特に限定されるものではない。NK細胞及びNK細胞への分化能を有する前駆細胞を含有する細胞集団は、たとえば、血液、末梢血単核球(PBMC)、脾臓細胞、パイエル板細胞、骨髄細胞、造血細胞、リンパ節細胞、肝臓や肺などの臓器内浸潤リンパ球等が挙げられる。さらに、これらの細胞からNK細胞の細胞表面抗原であるCD56を指標として選択した細胞を含有する細胞集団も本発明の方法に使用することができる。
【0014】
本発明の製造方法において使用される培地には特に限定はなく、NK細胞及びその前駆細胞の維持、生育に必要な成分を混合して作製された公知の培地を使用することができ、たとえば市販の培地であってもよい。これらの培地はその本来の構成成分以外に適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含んでいてもよい。培養条件には特に限定はなく、通常の細胞培養に使用される条件を使用することができ、例えば、37℃、5%CO等の条件で培養することができる。また、適当な時間間隔で培地を新鮮なものに交換することができる。本発明の製造方法において、培養期間には特に限定はなく、例えば1〜14日間、好ましくは2〜7日間である。
【0015】
本発明の製造方法は、前記有効成分を培地に添加して実施される。培養を行う培地中における、本発明の有効成分の含有量は所望の効果が得られれば特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1000μg/ml、より好ましくは0.01〜100μg/mlである。なお、有効成分は培地中に溶解して存在するのが好ましい。
【0016】
有効成分として本発明に使用されるフコイダンは、例えば褐藻類、棘皮動物由来のフコイダンが使用できる。
原料となる褐藻類としては、例えばガゴメ昆布(Kjellmaniella crassifolia)、マコンブ、トロロ昆布、ヒバマタ、モズク、オキナワモズク、ワカメ、クロメ、アラメ、カジメ、レッソニア ニグレセンス、アスコフィラム ノドッサム、ジャイアントケルプ等の昆布目、ナガモツモ目、ヒバマタ目の褐藻が挙げられる。
【0017】
例えば、塩化カルシウム溶液を使用することによりガゴメ昆布からアルギン酸を含まないフコイダンを抽出することができる。別法として、ガゴメ昆布の水もしくは熱水抽出液に塩化カルシウムを添加してアルギン酸を沈殿させ、フコイダン含有抽出液を得ることができる。本発明には、こうして調製されたフコイダンを使用することができる。さらに、こうして得られたフコイダンをグルクロン酸含有フコイダン(U−フコイダン)とグルクロン酸非含有フコイダン(F−フコイダン)に分離することができ(国際公開第97/26896号パンフレット)、本発明の有効成分としてそれぞれのフコイダンを使用することが出来る。またガゴメ昆布から硫酸化フコガラクタン(G−フコイダン)を調製し(国際公開第00/50464号パンフレット)、本発明に使用することができる。
【0018】
U−フコイダン及びF−フコイダンはガゴメ昆布からフコイダンを調製後、陰イオン交換樹脂、界面活性剤等を用いて分離される。ガゴメ昆布由来のU−フコイダン及びF−フコイダンの存在比は約1:2であり、U−フコイダンはフコース、マンノース、ガラクトース、グルクロン酸等を含み硫酸含量は約20%、F−フコイダンはフコースとガラクトースを含み、硫酸含量は約50%、分子量は両物質共に約20万を中心に分布している(第18回糖質シンポジウム要旨集、第159頁、1996年)。
【0019】
また、これらのフコイダンを分解して得られる低分子化されたフコイダンもNK細胞の製造に使用することができる。
【0020】
また本発明の製造方法に使用するフコイダンの分解物は、酵素学的方法、化学的方法、物理的方法等の公知の方法にて調製し、NK細胞の製造に有用な分解物を選択し、使用することができる。
なお、分解物とは、分解対象とするフコイダンにもよるが、フコイダンを分解して得た、概ね分子量が好ましくは10万〜200、より好ましくは3万〜1000の範囲のものをいう。
【0021】
本発明で使用するフコイダンの分解物の好適な調製方法としては酸分解法があり、当該フコイダンを酸分解することによりNK細胞の製造に有用な分解物を調製することができる。本発明で使用するフコイダンの酸分解条件は、NK細胞の製造に有用な分解物が生成する条件であれば、特に限定はない。例えばフコイダンを酸水溶液等に溶解又はけん濁し、酸分解反応を行うことにより、NK細胞の製造に有用な分解物が生成する。また、反応時に加熱することにより、反応時間が短縮される。
【0022】
フコイダンを溶解又はけん濁する酸の種類は、特に限定するものではないが、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸等の有機酸、また陽イオン交換樹脂、陽イオン交換繊維、陽イオン交換膜等の固体酸が使用可能である。
【0023】
酸の濃度も特に限定はないが、好ましくは0.0001〜5規定、より好ましくは0.01〜1規定程度の濃度で使用可能である。また、反応温度も特に限定は無いが好ましくは0〜200℃、より好ましくは20〜130℃に設定すれば良い。
【0024】
また、反応時間も特に限定するものではないが、好ましくは数秒〜数日に設定すれば良い。酸の種類と濃度、反応温度及び反応時間は、本発明に使用する分解物の生成量、分解物の重合度により適宜選択すれば良い。例えば、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の有機酸を使用し、酸の濃度は数10mM〜数M、加熱温度は50〜110℃、好適には70〜95℃、加熱時間は数分〜24時間の範囲から適宜選択することにより、本発明の分解物を調製することができる。フコイダンの酸分解物としてはガゴメ昆布由来フコイダンの酸分解物が例示される。
【0025】
また、ガゴメ昆布由来フコイダンを有機酸存在下で、加熱処理することによりグルクロン酸とマンノースの重合体を得ることができ、この重合体も本発明の方法に使用するフコイダン分解物として使用することができる。また加熱処理条件、加熱時間を調整することにより任意の重合度の重合体を調製することができる。
【0026】
本発明で使用するフコイダンの分解物の好適な調製方法としては酵素分解法があり、国際公開第96/34004号パンフレット、国際公開第97/26896号パンフレット、国際公開第99/41288号パンフレット、国際公開第00/50464号パンフレット記載の方法で調製することができる。
【0027】
本発明に使用するフコイダンの分解物はNK細胞の誘導、活性化、増殖率を指標としてさらに分画することができ、例えば酸分解物をゲルろ過法、分子量分画膜による分画法等により分子量分画することができる。
【0028】
ゲルろ過法の例としては、セルロファインGCL−300を使用し、例えば分子量25000超、分子量25000〜10000超、分子量10000〜5000超、分子量5000以下等の任意の分子量画分を調製でき、セルロファインGCL−25を用い、例えば分子量5000以下の画分を分子量5000〜3000超、分子量3000〜2000超、分子量2000〜1000超、分子量1000〜500超、分子量500以下等の任意の分子量画分に調製することができる。
【0029】
また、限外ろ過膜を用いて工業的に分子量分画を行うことができ、例えばダイセル社製FE10−FUSO382を使用することにより分子量30000以下の画分を、同FE−FUS−T653を使用することにより分子量6000以下の画分を調製することができる。更にナノフィルター膜を使用することにより分子量500以下の画分を得ることもでき、これらのゲルろ過法、分子量分画法を組み合せることにより、任意の分子量画分を調製することができる。
【0030】
本発明に使用されるフコイダン及びフコイダンの分解物の塩としては、NK細胞を誘導する限り特に限定はないが、たとえば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機塩基等との塩が例示される。たとえば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、又はジエタノールアミン、エチレンジアミン等との塩が挙げられる。これらの塩は、たとえば、フコイダンに存在する酸性基、例えば硫酸基やカルボキシル基を公知の方法により塩に変換することで得られる。かかる塩としては薬理学的に許容され得る塩が好ましい。
【0031】
本発明で有効成分として使用されるフコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩は単独で若しくは2種以上混合して用いることができる。また、当該有効成分の誘導体、例えば脂肪酸誘導体等も、NK細胞の製造能を示す限り、特に限定なく使用することができる。
【0032】
こうして製造されたNK細胞は、抗原感作なしにかつMHC非拘束性に腫瘍細胞やウイルス感染細胞などを傷害する。このNK細胞の細胞傷害活性は公知の方法により評価できる。たとえば、放射性物質、蛍光物質等で標識した標的細胞に対する傷害性を測定することにより評価することができる。また、NK細胞の細胞表面抗原をマーカーとして測定することにより評価することができ、例えばCD3陰性でCD56を発現する細胞を測定することにより評価できる。
【0033】
本発明のNK細胞を含有する細胞集団の製造方法により得られた細胞集団中には、通常、NK細胞以外の細胞も混在している。本発明においては、該細胞集団から遠心分離等により細胞を回収し、本発明の方法により得られたNK細胞として、たとえば、そのまま使用することができる。
【0034】
また、本発明の方法は、さらに該細胞集団からNK細胞を分離する工程を含むことができる。すなわち、本発明においては、NK細胞を含有する細胞集団中のNK細胞以外の細胞とNK細胞との分離操作を施すことにより、NK細胞が濃縮された細胞集団を調製して使用することができる。例えば、CD3陽性細胞を除去する工程やCD56陽性細胞及び/又はCD16陽性のNK細胞を分離する工程を含んでもよい。特に本発明の方法は細胞傷害活性の強いCD56陽性CD16陽性のNK細胞を高含有する細胞集団を製造することが可能であるので、両マーカー陽性の細胞を含有する細胞集団を調製することが好ましい。NK細胞の分離は公知の方法で実施することができる。例えば本発明の製造方法により得られた細胞集団から、NK細胞表面上に発現している細胞表面抗原に対する抗体、例えば抗CD56抗体及び/又は抗CD16抗体を結合させた磁気ビーズ又はカラムを用いてNK細胞のみを選択的に回収し、NK細胞を高含有する細胞集団を得ることができる。フローサイトメーターを用いてNK細胞を選択的に分離することもできる。また、本発明の方法により得られた細胞集団から、NK細胞以外の細胞を除去することにより、NK細胞を高含有する細胞集団を得ることができる。このようにして得られたNK細胞を高含有する細胞集団は、NK細胞を含有する細胞集団から非選択的に回収された細胞集団と比較してより強い細胞傷害活性を有しており、本発明の方法により得られたNK細胞を含有する細胞集団としてより好適に使用できる。また、本発明においてはNK細胞を高含有する細胞集団として、NK細胞のみの細胞集団も包含する。
【0035】
(2)本発明のNK細胞増殖剤
本発明は、(1)に記載のNK細胞を含有する細胞集団の製造方法で使用するための、フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有するNK細胞増殖剤を提供する。本発明のNK細胞増殖剤は、前記(1)の製造方法において有効成分として使用するフコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩を含有する。
【0036】
本発明のNK細胞増殖剤は、前記有効成分の他に、NK細胞又はNK細胞前駆体のための培地、適当なタンパク質、サイトカイン類、その他の成分を含有してもよい。
【0037】
本発明のNK細胞増殖剤を培地中に添加することにより、NK細胞増殖剤を添加しない場合に比べて、NK細胞の増殖率を向上させることができる。本発明のNK細胞増殖剤は、NK細胞増殖剤を添加しない場合に比べて、25%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上増殖率を向上させる。したがって、本発明のNK細胞増殖剤は感染症の治療、免疫療法への使用に適している。
【0038】
(3)本発明のNK細胞を含有する細胞集団及び治療剤又は予防剤
さらに本発明は、上記(1)の本発明のNK細胞を含有する細胞集団の製造方法で得られた細胞集団を提供する。かかる細胞集団は、いずれもNK細胞を多く含有する。本発明の細胞集団は、種々の疾患の治療に有用であり、NK細胞に感受性を有する疾患の治療又は予防に使用することができる。特に限定はないが、例えば、がん(白血病、固形腫瘍など)、肝炎や、インフルエンザウイルス、HIV等のウイルス、細菌、真菌が原因となる感染性疾患、例えばAIDS、結核、MRSA感染症、VRE感染症、深在性真菌症の治療又は予防に使用することができる。
【0039】
また、本発明は、本発明の細胞集団を有効成分として含有する治療剤(医薬)又は予防剤を提供する。当該細胞集団を含有する前記治療剤又は予防剤は感染症の治療、予防、免疫療法への使用に適している。感染症の治療、免疫療法においては、患者の治療に適したNK細胞を含有する細胞集団が、例えば注射や点滴により患者の静脈、動脈、皮下、腹腔内等に投与される。当該治療剤は前述の疾患やドナーリンパ球輸注での使用において非常に有用である。当該治療剤は製薬分野で公知の方法に従い、例えば、本発明の方法により調製された細胞集団を有効成分として、公知の非経口投与に適した有機又は無機の担体、賦形剤、安定剤等と混合し、点滴剤、注射剤として調製できる。なお、治療剤における本発明の細胞集団の含有量、治療剤の投与量、当該治療剤に関する諸条件は公知の免疫療法に従って適宜、決定できる。例えば、治療剤における本発明の細胞集団の含有量としては、特に限定はないが、例えば、好適には1×10〜1×1011cells/mL、より好適には1×10〜1×1010cells/mL、さらに好適には1×10〜1×10cells/mLが例示される。また、本発明の治療剤の投与量としては、特に限定はないが、例えば、成人一日あたり、好適には1×10〜1×1012cells/日、より好ましくは、1×10〜5×1011cells/日、さらに好ましくは1×10〜2×1011cells/日が例示される。さらに、当該治療剤による感染症の治療又は免疫療法と、公知の薬剤投与による薬剤治療や放射線治療、外科的手術による治療との併用を行なうこともできる。
【0040】
本発明はまた、被験体に、有効量の前述の方法により得られる細胞集団を投与することを含む、疾患の治療方法又は予防方法を提供する。本明細書中において被験体とは、特に限定はないが、好ましくは本発明の方法により製造されるNK細胞集団を投与される前述に記載するような疾患の生体(たとえばヒト患者、非ヒト動物)を示す。
【0041】
また、本明細書中において有効量とは、本発明の細胞集団を上記被験体に投与した場合に、該細胞集団を投与していない被験体と比較して、治療もしくは予防効果を発揮する該細胞集団の量である。具体的な有効量としては、投与形態、投与方法、使用目的及び被験体の年齢、体重、症状等によって適宜設定され一定ではないが、好ましくは、上記の医薬と同様にすればよい。投与方法にも限定はなく、例えば、上記の医薬と同様に、点滴や注射等により投与すればよい。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0043】
実施例1 フコイダン添加培養によるマウス脾臓リンパ球のNK活性化作用
ICRマウス(雌、使用時11週齢)3匹を日本SLCより購入し予備飼育の後、実験に用いた。安楽死処置後、脾臓を摘出し、ガラスグラインダーによりホモジナイズした。さらに、RPMI−1640培地(シグマ・アルドリッチ社)に懸濁して遠心することにより細胞を洗浄した。細胞ペレットを0.16MのTris−NHCl溶液に懸濁して37℃で10分間インキュベートして赤血球を除去し、RPMI−1640培地で2回洗浄した。調製した細胞を、10%牛胎仔血清(MP Biomedicals社)を添加したRPMI−1640培地に懸濁した後、セルストレーナー(40μm:ベックトン・ディッキンソン社)を通して単細胞懸濁液を得た。脾臓リンパ球を5×10cells/mLとなるように調整し、96穴U底マイクロプレートに200μLずつ播取した。ガゴメ昆布フコイダン(タカラバイオ社製)を所定の濃度になるように添加して37℃、5%CO条件下で3日間培養した。培養上清を100μL除去した後、25μMのCalcein−AM(同仁化学研究所社)で37℃、1時間インキュベートしてラベルしたYAC−1細胞を1×10個/mLに調製し、マイクロプレートの各ウエルに100μLずつ加えて37℃で4時間インキュベートした。インキュベート終了後、上清を100μLずつ回収し、蛍光強度を波長480nm、対照535nmで測定し、次の式に従ってNK活性を算出した。
【0044】
NK活性(%)=(サンプルの蛍光強度−自然遊離蛍光強度)/(全遊離蛍光強度−自然遊離蛍光強度)×100
自然遊離蛍光強度:脾臓細胞の代わりに培地を加え、37℃で4時間インキュベートした後に上清に自然に遊離される蛍光物質の強度を示す。
全遊離蛍光強度:脾臓細胞の代わりに0.2%TritonX−100水溶液を加えて同様にインキュベートした際の上清の蛍光強度を示す。
【0045】
結果を、表1に示す。いずれのマウスの脾臓細胞においてもガゴメ昆布フコイダンの濃度依存的にNK活性が亢進していた。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例2 フコイダン添加培養によるマウス脾臓リンパ球からのNK細胞集団増殖作用
実施例1と同様に培養して得られた細胞に、10個あたりPhycoerythrin(PE)標識抗マウスCD56モノクローナル抗体(EXBIO社)を20μLと、Fluorescein Isothiocyanate Isomer1(FITC)標識抗マウスCD16/CD32モノクローナル抗体(AbD Serotec社)を10μL加えて氷上で30分間インキュベートした。その後、0.1%Bovine Serum Albumin(BSA)を添加したPhosphate Buffered Saline(PBS)で細胞を2回洗浄した。細胞をPBSに懸濁してフローサイトメーターCytomics FC500(商標)(ベックマン・コールター社)を用いて分析した。
全細胞中のCD56陽性CD16陽性細胞の割合を表2に示す。いずれのマウスにおいてもガゴメ昆布フコイダンの濃度が、8μg/mL及び16μg/mLにおいて、CD56陽性CD16陽性細胞の顕著な増加が認められた。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例3 フコイダン添加培養によるマウスパイエル板細胞からのNK細胞集団増殖作用
ICRマウス(雌、使用時7週齢)4匹を日本SLC社より購入し予備飼育の後、実験に用いた。安楽死処置後、パイエル板を摘出し、ハサミでミンスした後、typeIV collagenase(シグマ・アルドリッチ社)1mg/mL及びDNaseI(シグマ・アルドリッチ社)0.02mg/mLとなるように添加して37℃で1時間インキュベートした。ガラスグラインダーによりホモジナイズし得られた細胞を、RPMI−1640培地に懸濁して遠心することにより細胞を洗浄した。10%牛胎仔血清を添加したRPMI−1640培地に懸濁した後、セルストレーナー(40μm)を通して単細胞懸濁液を得た。パイエル板細胞は5×10cells/mLとなるように調整し、96穴U底マイクロプレートに200μLずつ播取した。ガゴメ昆布フコイダンを所定の濃度になるように添加して37℃、5%CO条件下で3日間培養した。実施例2と同様に蛍光色素で標識された抗体で染色した後、フローサイトメーターを用いて分析した。
全細胞中のCD56陽性CD16陽性細胞の割合を表3に示す。いずれのマウスにおいてもガゴメ昆布フコイダンの濃度が、8μg/mL及び16μg/mLにおいて、CD56陽性CD16陽性細胞の顕著な増加が認められた。
【0050】
【表3】

【0051】
実施例4 フコイダン添加培養によるヒト末梢血リンパ細胞からのNK細胞集団増殖作用
インフォームドコンセントの得られたボランティア4名(男2名、女2名)よりヘパリン(1IU/mL:アボットジャパン株式会社)添加末梢血50mLを採血した。2000rpmで30分間遠心し、血漿を除去した。トランスファーピペット(ベックトン・ディッキンソン社)を用いてbuffy coatを集め、D−PBS(GIBCO社)を加えて50mLとした。予めFicoll溶液(GE−Healthcare社)を20mLを入れた50mLチューブ2本用意して25mLずつを重層した。室温で2000rpmで20分間遠心し、細胞層を回収してD−PBSを加えて50mLとし、1800rpmで10分間遠心した。細胞ペレットを同様にD−PBSで懸濁し、1700rpm、1600rpm、1500rpmで10分間ずつ遠心することにより細胞を洗浄した。洗浄後の細胞を、5%牛胎仔血清を添加したRPMI−1640培地に懸濁し、顕微鏡下で細胞数をカウントした。細胞濃度を5×10個/mLとなるように調整し、丸底96穴マイクロプレートに200μLずつ播いた。フコイダン濃度が、1.0μg/mLとなるように添加して、37℃、5%CO条件下で3日間培養した。
培養終了後に得られた細胞に、2〜3×10個あたりPhycoerythrin(RD1)標識抗ヒトCD56(NKH−1)モノクローナル抗体(ベックマン・コールター社)を1μLと、R Phycoerythrin−Cyanin5.1(PC5)標識抗ヒトCD16モノクローナル抗体(ベックマン・コールター社)を1μL加えて氷上で30分間インキュベートした。その後、0.1%BSAを添加したPBSで2回洗浄した。細胞をPBSに懸濁してフローサイトメーターを用いて分析した。
全細胞中のCD56陽性CD16陽性細胞の割合を表4に示す。いずれのヒトにおいてもガゴメ昆布フコイダン存在下で培養された群において、CD56陽性CD16陽性細胞の増加が認められた。また、全細胞中のCD16陽性細胞の割合を表5に示す。表5に示すように、CD16陽性細胞についても増加しているのが確認された。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、マウスだけでなく、ヒトのリンパ細胞とフコイダンを培養することにより、NK細胞、特に抗体依存性の細胞傷害活性を有するCD16陽性細胞を効率よく増殖させる方法を提供できた。これらの細胞は、がんの免疫療法などにおいて細胞医療の分野で応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の存在下に、ナチュラルキラー(NK)細胞及び/又はNK細胞への分化能を有する前駆細胞を含有する細胞集団を生体外でインキュベートする工程を含むことを特徴とするNK細胞を含有する細胞集団の製造方法。
【請求項2】
フコイダンがガゴメ昆布由来であることを特徴とする請求項1記載のNK細胞を含有する細胞集団の製造方法。
【請求項3】
さらに、得られた細胞集団からNK細胞を高含有する細胞集団を分離する工程を含む、請求項1又は2に記載の細胞集団の製造方法。
【請求項4】
NK細胞がCD56陽性CD16陽性細胞である、請求項3に記載の細胞集団の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の方法で使用するための、フコイダン、フコイダン分解物及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有するNK細胞増殖剤。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか1項に記載の方法で製造された細胞集団。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞集団を有効成分として含有することを特徴とするNK細胞に感受性を有する疾患の治療剤又は予防剤。

【公開番号】特開2011−10601(P2011−10601A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157620(P2009−157620)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】