説明

NMDA含有食品、その製造方法およびNMDA含有組成物。

【課題】有用性の高いNMDAを簡易に提供する。
【解決手段】D−アスパラギン酸を添加した乳成分を乳酸菌発酵させN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)を富化する工程によりNMDA含有食品を製造する。前記乳酸菌発酵は、発酵食品から分離されたラクチス菌、酢酸菌、ブルガリア菌およびサーモフィラス菌による乳酸菌発酵であるNMDA含有食品、NMDA含有食品の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMDA含有食品、その製造方法およびNMDA含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1960年代、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)は、自然界に存在しない人工物として化学合成された(非特許文献1参照)。NMDAは中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を受容する4種類の受容体の内、1種類の受容体にのみ作用するアゴニストとして知られている。
【0003】
ところが、自然界に存在しないと思われていたNMDAが、アカガイ、サルボウガイ、カキ、ハマグリ、ムール貝、魚類の頭部、タコ、カニ、ホヤに含まれていることが2001年に発見された(非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】WATKIN J.C, The Synthesis of Some Acidic Amino Acids Possessing Neuropharmacological Activity, J. Med. Pharmacol. Chem. 5, 1187-1199
【非特許文献2】Shibata K. et al., Occurrence of N-methyl-L-aspartate in bivalubes and its distribution compared with that of N-methyl-D-aspartate and D,L-aspartate., Comp Biochem Physiol B Biochem Mol Biol. 2001 Dec;130(4):493-500.
【非特許文献3】D'Aniello A. et al., A specific enzymatic high-performance liquid chromatography method to determine N-methyl-D-aspartic acid in biological tissues., Anal Biochem. 2002 Sep 1;308(1):42-51.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、NMDAを摂取することによる作用については、十分な研究がなされておらず、その用途の開発が望まれるところであるが、本願発明者により、NMDAによってテストステロン量が増加することが明らかにされ、NMDAを有効成分として含有することを特徴とするテストステロン増加剤が開発されている(特願2010−095351参照)。このテストステロン増加剤によれば、原発性又は続発性精巣機能低下症や、加齢又は環境因子によるテストステロン欠乏症の治療薬又は予防薬としての効果を期待することができる。また、本発明のテストステロン増加剤は、テストステロンの低下に起因する各種疾病を予防、改善又は治療することができ、特に、筋肉、認知機能、集中力、意欲、血管の柔軟性、脂質代謝、性機能、排尿機能等の低下を予防、改善又は治療することができる。
【0006】
本発明は、このような有用性の高いNMDAを簡易に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者の鋭意の研究によれば、乳酸菌発酵により得られる食品にNMDAが含有されることが知見された。
【0008】
上述のように、NMDAは、化学合成またはアカガイ、サルボウガイ、カキ、ハマグリ、ムール貝、魚類の頭部、タコ、カニ、ホヤから抽出・精製することが必要であったが、乳酸菌発酵によりNMDA含有食品が得られることは予想外であり、これにより有用性の高いNMDAを簡易に提供することができると共に、量産の可能性を知見して、本願発明を完成させた。
【0009】
さらに、本願発明者は、乳酸菌発酵による量産の可能性に関して、鋭意の研究を継続し、特に、乳酸菌発酵に際して、乳成分にD−アスパラギン酸を添加することで、NMDAの生成量が数万倍という飛躍的な値で向上することを知見した。
【0010】
第1発明は、乳酸菌発酵により得られるN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)含有食品である。
【0011】
第2発明は、第1発明のNMDA含有食品において、
前記乳酸菌発酵は、D−アスパラギン酸を添加した乳成分を乳酸菌発酵させたものであることを特徴とする。
【0012】
第3発明は、第1発明または第2発明のNMDA含有食品において、
前記乳酸菌発酵は、発酵食品から分離されたラクチス菌および酢酸菌による乳酸菌発酵であることを特徴とする。
【0013】
第4発明は、第1発明または第2発明のNMDA含有食品において、
前記乳酸菌発酵は、発酵食品から分離されたブルガリア菌およびサーモフィラス菌による乳酸菌発酵であることを特徴とする。
【0014】
第5発明は、乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程を包含するNMDA含有食品の製造方法である。
【0015】
第6発明は、請求項5記載のNMDA含有食品の製造方法において、
前記乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程に先立って、乳成分にD−アスパラギン酸を添加する工程を包含することを特徴とする。
【0016】
第7発明は、乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程を包含する方法により製造されるNMDA含有組成物である。
【0017】
第8発明は、第7発明のNMDA含有組成物において、
前記方法は、前記乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程に先立って、乳成分にD−アスパラギン酸を添加する工程を包含することを特徴とする。
【0018】
本発明により、有用性の高いNMDAを乳酸菌発酵により簡易に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】NMDA含有食品の製造方法を示すフローチャート。
【図2】乳酸菌発酵によるNMDA濃度の経時変化を示す図。
【図3】乳成分にD−アスパラギン酸を添加した場合の経時変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施例を以下に示す。なお、本発明は、以下に示す一実施例に限定されるものではない。
【0021】
まず、分離工程では、発酵食品から乳酸菌を分離する(図1/STEP10)。本実施形態では、(1)第1の場合として、発酵食品からブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)およびサーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus)が分離され、(2)第2の場合として、他の発酵食品からラクチス菌(Lactococcus lactis)および酢酸菌(Acetbacter orientalis)が分離される。
【0022】
例えば、このときの分離条件としては、まず、発酵食品1gを滅菌水49mlを滅菌済みのコニカルチューブに入れ、約5分間混濁処理を行う。そして、その混濁液を希釈し、乳酸菌分離用培地(日水製薬、BCP加プレートカウントアガール)で、約30℃で平板培養し、育成したコロニーを分離する。
【0023】
次の培養工程では、STEP10の分離工程で分離した乳酸菌を培養する(図1/STEP20、本発明のNMDAを富化する工程に相当する)。
【0024】
例えば、この培養工程の培養条件としては、(1)前記第1の場合では、8%脱脂粉乳,2%グルコース溶液(121℃、15分滅菌)に、分離工程で分離したラクチス菌およびサーモフィラス菌を添加し、37℃好気状態で3日間培養する。
【0025】
このようにして乳酸菌発酵により得られたNMDA濃度を、図2に示す。図2は、経過時間に対するNMDA濃度をプロットしたものである。
【0026】
なお、この場合のNMDA量の測定方法としては、培養液50mlあたりに60%過塩素酸を1ml添加した後に遠心分離を行い、上清を回収する。そして、上清を水酸化カリウム溶液を用いて中和し、再び遠心分離し、その上清を陰イオン交換カラムに通し酸性アミノ酸画分を得る。この抽出液についてHPLC分析を行う。HPLC分析の手法としては、例えば、非特許文献(Todoroki,N. et al(1999)Journal of Chromatography B,278,41-47)記載の手法が採用される。
【0027】
下表(表1)およびこれをグラフ化した図2に示すように、NMDAは、培養前は痕跡程度に検出されるのみであったが、3日間の発酵終了後には30ng/L 以上に増加していた。すなわち、これにより得られたものはNMDAを含有する発酵乳食品(発酵乳飲料)となる。
【0028】
【表1】

【0029】
さらに、この培養液に20%エタノール溶液を添加し、高速ホモジナイザーでホモジナイズし、ろ過または遠心分離により死菌体を除去することで、NMDAを含有する組成物を製造することができる。
【0030】
実際に、得られたNMDA含有食品(発酵乳飲料)を乾燥させることで調製した粉末中のNMDAの含有量は、310ngNMDA/g粉末であった。
【0031】
次に、(2)前記第2の場合では、10%脱脂粉乳または12%全粉乳(90℃、10分滅菌)に、分離工程で分離したラクチス菌および酢酸菌を添加し、25℃好気状態で40時間培養する。このとき、比較のため、同一条件下で、一方に培養に先立って予めD−アスパラギン酸を添加し、他方はD−アスパラギン酸を添加しなかった。
【0032】
このようにして乳酸菌発酵により得られたNMDA濃度を、図3(a)に示す。図3(a)は、経過時間に対するNMDA濃度をプロットしたものである。
【0033】
なお、この場合のNMDA量の測定方法としては、発酵乳約6gに80%エタノールを24mlを添加して、高速ホモナイザーを用いてホモナイズし、4℃で一晩静置した上で、遠心分離を行い、その上清を40℃で減圧濃縮乾固させる。得られた残渣を水に溶解させ、その後、水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和し、再び遠心分離し、その上清を陰イオン交換カラムに通し酸性アミノ酸画分を得る。この抽出液についてHPLC分析を行う。HPLC分析の手法としては、上述のように、非特許文献(Todoroki,N. et al(1999)Journal of Chromatography B,278,41-47)記載の手法が採用される。
【0034】
下表(表2)およびこれをグラフ化した図3(a)示すように、NMDAは、発酵初期は痕跡程度に検出されるのみであったが、発酵に伴いNMDA濃度は増加した。このとき、D−アスパラギン酸を発酵に先立って添加しておくことで、高濃度のNMDAが生成された。特に、12%全粉乳にD−アスパラギン酸を添加して乳酸菌発酵をさせた場合に、15時間〜22時間のNMDAの生成が顕著であり、この場合のNMDAの含有量は、2000μg/L以上であり、前記第1の場合の6.6万倍以上の濃度となっていた。
【0035】
【表2】

【0036】
なお、15時間〜22時間で活発な乳酸発酵が行われ、高濃度のNMDAが生成されたことは、下表(表3)およびこれをグラフ化した図3(b)に示すように、発酵中のpHの変化からも推察される。
【0037】
【表3】

【0038】
以上から、(2)前記第2の場合では、10%脱脂粉乳と12%全粉乳では、12%全粉乳のほうが高濃度のNMDAを生成させることができるとともに、特に、12%全粉乳にD−アスパラギン酸を添加して乳酸菌発酵をさせた場合に、NMDAの生成が顕著となることが確認された。
【0039】
以上詳しく説明したように、本発明によれば、有用性の高いNMDAを乳酸菌発酵により簡易に提供することが可能となる。これにより、NMDAを有効成分として含有する医薬、サプリメント、健康食品、機能性食品またはこれらの素材の製造技術としての有用性が期待され、ひいては、テストステロンが低下することにより生じる症状または疾病を予防、改善および治療への利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌発酵により得られるN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)含有食品。
【請求項2】
請求項1記載のNMDA含有食品において、
前記乳酸菌発酵は、D−アスパラギン酸を添加した乳成分を乳酸菌発酵させたものであることを特徴とするNMDA含有食品。
【請求項3】
請求項1または2記載のNMDA含有食品において、
前記乳酸菌発酵は、発酵食品から分離されたラクチス菌および酢酸菌による乳酸菌発酵であることを特徴とするNMDA含有食品。
【請求項4】
請求項1または2記載のNMDA含有食品において、
前記乳酸菌発酵は、発酵食品から分離されたブルガリア菌およびサーモフィラス菌による乳酸菌発酵であることを特徴とするNMDA含有食品。
【請求項5】
乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程を包含するNMDA含有食品の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のNMDA含有食品の製造方法において、
前記乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程に先立って、乳成分にD−アスパラギン酸を添加する工程を包含することを特徴とするNMDA含有食品の製造方法。
【請求項7】
乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程を包含する方法により製造されるNMDA含有組成物。
【請求項8】
請求項7記載のNMDA含有組成物において、
前記方法は、前記乳酸菌発酵によりNMDAを富化する工程に先立って、乳成分にD−アスパラギン酸を添加する工程を包含することを特徴とするNMDA含有組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−187100(P2012−187100A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−35369(P2012−35369)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】