説明

NOまたはプロスタサイクリン産生を刺激する薬剤の治療的使用および送達装置

【課題】本発明は、成長因子の治療的使用、ならびに、特に血管内膜過形成および他の症状、とりわけ高血圧症の治療および予防に関する。本発明は、さらに、有効薬剤を送る(輸送する)ために用いることができる装置に関する。
【解決手段】 血管内皮成長因子(VEGF)は、内膜過形成、高血圧症およびアテローム性動脈硬化症、ならびに、一酸化窒素またはプロスタサイクリンを産生する薬剤による治療に感受性の症状の治療における用途を有する。VEGFの代わりに、VEGF受容体のアゴニストなどの等価な薬剤がかかるアゴニストをコードする核酸と同様に投与される。該薬剤は、例えば本体壁と血管外膜表面との間にリザーバーを画定する装置であって、該リザーバーに、送られるべき薬剤を含有してなる医薬製剤が少なくとも部分充填されている装置を用いて、血管外膜表面を介して成功裏に投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成長因子の治療的使用、ならびに、特に血管内膜過形成および他の症状、とりわけ高血圧症の治療および予防に関する。本発明は、さらに、有効薬剤を送達する(輸送する)ために用いることができる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内膜過形成は、血管の内皮と内弾性膜との間、特に、そこに見られる内膜層におけるか、または、動脈における、細胞の数の増加である。内膜過形成は、しばしば、血管壁における平滑筋細胞(SMC)増殖が原因である。
【0003】
内膜過形成が生じると、内膜層または血管壁の新たな肥厚、すなわち、狭窄が生じる。かくして、該血管は、閉塞する。
【0004】
また、血管の障害が取り除かれた場合、術後に生じる内膜過形成により、再び動脈が閉塞する。これは、再狭窄として知られている。
【0005】
動脈平滑筋細胞の増殖は、一般に、血管、例えば、動脈が手術の間に変形させられるかまたは妨害された場合に生じる。例えば、内膜過形成は、静脈を動脈に吻合するバイパス移植後および一般に外科的吻合後に新たな狭窄を生じさせることがある。狭窄を生じることがある外科的方法の2つの例は、冠状動脈バイパス移植および膝上大腿膝窩動脈バイパス移植(above-knee femoro-popliteal arterial bypass graft)である。
【0006】
同様に、再狭窄は、例えば、バルーン式血管形成術のような血管の障害を取り除くために用いられるバルーン式血管形成術後に生じることがある。
【0007】
内膜過形成は、狭窄または再狭窄のいずれを生じさせるにしても、種々の手術の後に重大な課題を残す。
【0008】
アテローム硬化性心臓血管疾患は、ヨーロッパおよび北アメリカにおける主な死亡原因であり、血流を妨害するかまたは減少させる動脈内腔の閉塞、可能な遠位塞栓形成を伴う斑上に生じた血栓症、動脈瘤拡大および最終的な破裂に導く動脈壁の脆弱化の結果として生ずる非常に重大な病的状態を誘発する。部位および疾患分布により、治療にはいくつかのオプションが存在し、動脈バイパス移植が最も一般的な外科的介入である。冠状動脈疾患については、これは、現在、アメリカ合衆国では最も一般的な手術となってきており、1990年以来毎年200,000件を超える手術が行われ、英国では毎年20,000件を超える手術が行われている。大動脈、腎血管、腸間膜血管および末梢血管では、外科的バイパス術の負担は増加しつづけており、アメリカ合衆国およびヨーロッパでは人口100,000人当たり35−70人の手術率である。合わせると、毎年行われている外科的バイパス術の件数は、ほぼ100万件である。
【0009】
術後の最初の24か月では、非常に有意な数の動脈バイパス移植が失敗に終わる(閉塞する)。推定値は、20%〜30%の範囲である。これは、英国で毎年行われている心臓および末梢動脈バイパス術の総数(約25,000−30,000件)に対して6,000〜7,000件が2年以内に失敗すると予測されることを意味している。「再」手術についての失敗率は、もっと高い。失敗の財政上の費用は、アメリカ合衆国では、冠状動脈手術後の失敗率が33%から25%にわずかに低下した場合でさえ健康管理予算から7億5000万ドルまで削減できると算出された。
【0010】
手術から5年以内の移植失敗については、3つの主な原因がある。第一には、手術の30日以内の初期に生じることが認められており(<5%)、技術的なエラー(例えば、粗悪な吻合技術)を示す。後の24ヶ月後の失敗は、一般に、本来のアテローム性動脈硬化症経過が進行した結果としてである。しかしながら、それは、失敗の大多数(<70%)を形成する1〜24ヶ月の間に閉塞するこれらの移植片である。これらの場合、それは、最後には完全な閉塞を生じる、動脈内腔が進行的に狭くなること、すなわち狭窄を生じるSMC内膜過形成である。典型的には、SMC内膜過形成は、遠位の動脈吻合および該吻合に対向する自然血管壁の周囲に位置する。かくして、それは、この部位での主要な病因であるが、血管形成術後に生じるような前の内膜過形成部位での再狭窄ではない。SMC内膜過形成は、より近位の動脈吻合で移植片自体に沿って生じることもある。
血管形成術後の再狭窄は、血管形成術後の最初の6ヶ月間に20%〜50%のより高い失敗率を生じることがある。狭窄および再狭窄は、共に、依然として、術後の主な課題である。
【0011】
現在までのところ、内膜過形成を治療または予防するための多くの方法が試験されてきたが、臨床的に満足のいくようなものは全くなかった。
【0012】
血管内皮成長因子(VEGF)は、天然タンパク質である。ヒトにおいては、121、165、189および206アミノ酸の少なくとも4つの形態が存在する。ヒトVEGFの4つの形態のcDNAおよびアミノ酸配列は、非特許文献1に記載されている。部分的なゲノム配列も記載されている。ヒトVEGFのcDNA配列もまた、ウシVEGF cDNA配列と一緒に、非特許文献2に記載されている。
【0013】
これらの4つの形態は、本明細書ではVEGF−121、VEGF−165、VEGF−189およびVEGF−206と記載される。この番号付けは、各ケースで成熟タンパク質におけるアミノ酸の数を表す。該翻訳タンパク質は、また、細胞内プロセシングの間に自然に開裂される26アミノ酸プレ配列を含む。
【0014】
VEGFは、血管内皮細胞(EC)の分割を刺激し、内皮透過性を増大させ、網膜血管中で内皮「生存因子」として作用するという脈管形成における役割を果たすことが知られている。例えば、組換えタンパク質の形態またはプラスミドから発現された場合のVEGFは、虚血性の脚に動脈内注射した場合、新しい血管の発生を誘発することができる。この特性により、該VEGFは、手術の間に内皮が傷つけられた動脈を修復する際に用いられてきた。かくして、非特許文献3では、ラット頚動脈の内皮を露出させる血管形成術の後に該頚動脈の内部にカニューレを介してVEGFを送達した;VEGFが、内膜過形成の抑制に寄与すると思われる動脈の再内皮形成を刺激することが見出された。
【0015】
VEGFタンパク質および遺伝子は、特許文献1に記載されており、血管上皮の外傷、糖尿病性潰瘍および血管創傷の治療のためのそれらの使用が提案されている。VEGFフラグメントは、特許文献2に記載されており、例えば、潰瘍の治療における、血管形成および内部血管表面の再内皮形成におけるそれらの使用が提案されている。
【0016】
特許文献3には、動静脈バイパス移植術用非拘束性多孔性外部ステントが記載されている。このステントは、内腔の大きさならびに中膜および内膜の肥厚に対して有益な効果を及ぼす。
【0017】
特許文献4には、2つの構成要素の間に形成されたリザーバーを含む、薬剤の血管への局所デリバリー用装置が記載されている。その使用は、移植、すなわち、血管を切り開き、次いで、血管壁に装置を固定することを必要とする。該装置は、一部多孔性である。リザーバーは、内腔血流と直接接触する。これは、感染の危険性を伴う。
【0018】
特許文献5には、薬物の血管外膜表面へのデリバリー用装置が記載されている。それは、液体形態の薬物のデリバリー用永久壁および経皮管を提供するものである。目的は、薬物が別の部位に移されることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】WO 90/13649
【特許文献2】WO 91/02058
【特許文献3】英国特許出願公開第2298577号
【特許文献4】WO 94/23668
【特許文献5】米国特許第3797485号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Houck et al., Molecular Endocrinology (1991) vol 5, No. 12, pages 1806-1814
【非特許文献2】Leung et al., Science (1989) 246:1306-1309
【非特許文献3】Asahara et al., Circulation (1995) 91:2793
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
(発明の概要)
本発明は、内膜過形成により生じる上記症状の全てを治療および/または予防することを目的とする。驚くべきことに、VEGFの特性が同定され、これは、種々の方法で内膜過形成に対して用いられうることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】血管の周囲の所定個所にある本発明の装置の略縦断面図である。
【図2】図1に示されるA−A線に沿った、同具体例の略冠状断面図である。
【図3】端−端吻合の周囲にある装置の第2の具体例の略斜視図を示す。
【図4】図3の具体例の鉛直面での縦断面図である。
【図5】シール部について別の構造を有する具体例の変形例を示す以外は、図4のものと同様の図である。
【図6】端−側吻合の周囲にある装置の第3の具体例の略斜視図を示す。
【図7】図6の具体例の鉛直面での縦断面図である。
【図8】側−側吻合の周囲にある装置の第4の具体例の略斜視図を示す。
【図9】図8の具体例の鉛直面での縦断面図である。
【図10】一部包埋血管を示す側−側吻合の周囲にある装置の第5の具体例の略斜視図を示す。
【図11】図10の具体例の鉛直面での縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ウサギの動脈の外周にカラー(collar)を付けた。この方法は、通常、ウサギの動脈中で、バイパス術後にヒトの動脈中で起こりうる狭窄と類似する、動脈壁の肥厚を生じさせる内膜過形成を生じる。このカラーを用い、プラスミド/リポソームベクターを用いてVEGFをコードするDNAを動脈壁に送達すると、VEGF遺伝子は、内皮層を含む動脈壁で過剰発現した。内膜過形成は、阻害された。外膜カラーが全ての試験された遺伝子デリバリーシステムを用いる動脈遺伝子導入に適することが見出された。
【0024】
このことは、VEGFが、内皮が損傷を受けた場合に再内皮形成を刺激することに加えて、内皮の全体または大部分が無傷である場合に内膜過形成が生じる状況で内膜過形成抑制能を有することを示している。したがって、血管形成術後の再狭窄を抑制することにおけるだけではなく、他の外科的状況下で新しい狭窄を予防または治療することにおいても潜在的に有用である。かくして、新しい知見と、VEGFが内皮の再成長または治癒を刺激することが見出された従前の知見との間に差異がある。新しい知見は、VEGFの作用の異なるメカニズムにより生じると思われる。
【0025】
さらにまた、新しい知見は、有効な薬剤が血管の外部に送達されて、内膜過形成を治療することができるということを示す。このことは、いくつかの長所を有する。詳しくは、治療薬は、内腔内デリバリーの場合と同様には血流により過形成部位から洗浄されない。デリバリーリザーバーは、血管の周囲に維持でき、血管内皮に損傷を与える(自体、内膜過形成を誘発することがある)内腔内手技を必要としない。
【0026】
さらに詳しくは、本発明は、SMC内膜過形成に逆らう薬剤の動脈壁外膜表面(すなわち、外中膜においてこれらの細胞に最も近い)への直接適用を可能にする。内膜過形成性病変を発生させると思われる部位は、手術時に容易に露出されるので、用いられるいずれの薬剤もこれらの部位で特異的に適用することができる。
【0027】
VEGFは、単にECおよび単球上で発現されるだけの特異的高結合性チロシンキナーゼ受容体flk−1/KDRおよびflt−1を介してその既知の効果を媒介する。理論により制限されることなく、過形成の阻害におけるVEGFの効果もまた、同一受容体を介して媒介されると思われる。したがって、本発明は、また、内膜過形成を治療または予防するための、VEGFが結合する受容体の他のアゴニスト、または、同一作用機序を有する他の物質の使用にも及ぶ。VEGF受容体の特異的な位置もまた、内膜肥厚の治療について示唆されている多くの他の成長因子およびサイトカインと比較してVEGFの優れた点を与える;単球の不在下、動脈壁における高結合性VEGF受容体は、単にEC上で発現されるだけであるので、VEGFの該効果は、ECに対して、より特異的である。
例えば、一酸化窒素(NO)合成阻害物質L−NAMEの投与は、上記カラーモデルにおける内膜過形成に対するVEGFの効果を中和するので、内皮の全体または大部分が損傷受けていない状況下におけるVEGFの内膜過形成阻害メカニズムは、少なくとも部分的には、一酸化窒素(NO)経路を介するものであることが見出された。かくして、VEGFは、NO産生を刺激する。
【0028】
VEGFは、内膜過形成の阻害に寄与する他の生物学的効果を及ぼすことも可能である。詳しくは、VEGF過剰発現が、プロスタサイクリンの産生、細胞質ホスホリパーゼAの活性化およびECによるフォン・ビルブラント因子分泌を刺激することが見出された。それは、VEGFのNO産生刺激およびそのプロスタサイクリン産生刺激が連携して内膜過形成を抑制するように作用する場合である。
【0029】
VEGFがNOおよびプロスタサイクリン産生を刺激するように作用するという知見は、さらに、VEGFおよびVEGFを結合する受容体のアゴニストが他のNO関連および/またはプロスタサイクリン関連症状の治療に有用であることを示唆する。詳しくは、Forte et al., Lancet (1997) 349:837-42には、高血圧症に罹患している個体ではNOレベルが低いことが示されている。したがって、VEGFは、種々の形態の高血圧症の治療または予防に有用である。同様に、VEGFは、アテローム性動脈硬化症の治療に有用である。
【0030】
本発明の態様によると、VEGFについて見出された所定の特徴のいずれかを有する薬剤が内膜過形成、例えば、狭窄の治療薬または予防薬の製造のために用いられる。該薬剤は、移植の形態で提供される。さらに詳しくは、該薬剤は、NOまたはプロスタサイクリンの産生を刺激する;それは、VEGFが結合する受容体のアゴニスト、例えば、VEGF自体もしくはそのフラグメント、またはかかるアゴニストをコードする核酸である。
【0031】
本発明の別の態様によると、患者における治療薬の血管へのデリバリー用装置は、血管の周囲でシールを与えるのに適合させた本体を含んでおり、該薬剤が使用時に血管外膜表面と接触するようになるように該薬剤が装置内に保持されているかまたは装置に装着されている。かかる装置は、生分解性であり得、永久的な経皮デリバリーチューブを必要としない。
【0032】
(発明の説明)
上記で示唆し、実施例に示すとおり、一酸化窒素シンターゼおよびそれをコードする核酸を含む種々の薬剤は、本発明における使用に適している。該薬剤は、本明細書では、しばしば、VEGFタンパク質または核酸と記載され、これらの言及およびVEGF自体に対する言及が例として挙げられる。上記VEGFのいずれの形態も本発明の目的のために用いられる。
【0033】
本明細書では、これらのVEGFタンパク質配列に対する言及は、プレ配列を含む配列およびプレ配列を欠いている配列の両方に適用される。VEGFタンパク質は、プレ配列を有していてもいなくても本発明の実施に適している。同様に、VEGF核酸(DNAおよびRNA)配列に対する言及は、プレ配列をコードする配列およびプレ配列をコードしない配列の両方に適用される。
【0034】
Houck et al.(上掲)には、141位(成熟タンパク質に相当する、Houck et al.の表示法では115位)でアミノ酸アスパラギン(NまたはAsn)を含むVEGF−165の配列が記載されている。Houck et al.には、VEGF−121、VEGF−189およびVEGF−206においてこのアミノ酸はリジン(KまたはLys)と記載されており、Houck et al.に引用された(VEGF−206の)cDNA配列は、これを支持している。したがって、本発明では、141位のアミノ酸は、アスパラギン(NまたはAsn)であってもリジン(LysまたはK)であってもよい。各アミノ酸は、本発明の核酸配列において適当なトリプレットコドンによりコードされている(DNAに関しては、これらのコドンは、リジンについてはAAAであってもAAGであってもよく、アスパラギンについてはAATであってもAACであってもよい)。これは、とりわけ、VEGF−165に適用される。
【0035】
4つの形態は、同一遺伝子によりコードされるが、RNAレベルでの選択的スプライシングにより生じる。かくして、ヒトVEGFの全長形態および3つの公知のトランケート形態がある。VEGF−121およびVEGF−165は、可溶性であり、分泌形態である。同様に、26アミノ酸プレ配列は、疎水性であり、該タンパク質の溶解性を低下させると思われる。かくして、プレ配列を有していないVEGFの形態は、より高い溶解性を有すると思われるので好ましい。VEGFの全ての形態が本発明の実施に適しているが、分泌形態が好ましい。本発明の実施に適するVEGFタンパク質は、他の種に源を発していてもよいが、ヒトVEGFが好ましい。例えば、マウス、ウサギおよびウシVEGFは、クローン化されており、それらの配列は、入手可能である。
【0036】
参考のために、VEGF−121、165、189および206は、当該技術分野では、VEGF−120、164、188および205とも称される。
【0037】
VEGFタンパク質および核酸(DNAおよびRNA)は、本発明の実施に適する薬剤である。
【0038】
VEGFタンパク質を用いる場合、配列番号2(VEGF−121)、4(VEGF−165)、6(VEGF−189)または8(VEGF−206)のアミノ酸配列を有するVEGFタンパク質が好ましい。VEGFの分泌形態が好ましく、従って、VEGF−121およびVEGF−165がとりわけ好ましい。
【0039】
本発明の実施において、例えば配列番号1、3、5または7の配列を有する、VEGF−121、VEGF−165、VEGF−189またはVEGF−206をコードするVEGF DNAを用いるのが好ましい。ヒトVEGFの分泌形態をコードするDNA配列が好ましい。かくして、配列番号1および3のDNA配列がとりわけ好ましい。
【0040】
しかしながら、本発明の実施に適するVEGF DNAおよびタンパク質は、これらの特異的配列に限定されない。むしろ、本発明は、他の密接に関係するDNAおよびタンパク質配列の使用を提供するものでもある。
【0041】
本発明のDNA配列は、多くの点で配列番号1、3、5または7のものと関係していてもよい。例えば、本発明の実施に適するDNA配列は、同タンパク質、すなわち配列番号2、4、6または8のタンパク質をコードする縮重配列であってもよい。
【0042】
別法としては、本発明のDNA配列は、配列番号1、3、5または7のものと実質的に相同であり、アミノ酸配列において配列番号2、4、6または8のものとは異なるタンパク質をコードするが、VEGF活性を有するタンパク質をコードする。典型的には、本発明で用いるためのDNA配列は、配列番号1、3、5または7の配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または、少なくとも99%の配列ホモロジーを有する。
【0043】
同様に、本発明で用いるためのVEGF DNA配列は、VEGF活性を保有するVEGFのフラグメントをコードしていてもよい。このフラグメントは、少なくとも15アミノ酸長、例えば、40までまたはそれ以上のアミノ酸である。適当なフラグメントの例は、20アミノ酸長であり、例えば、配列番号6として示される活性VEGFタンパク質の配列1−20、11−30、21−40、31−50、41−60、51−70、61−80、71−90、81−100、91−110、101−120、111−130、121−140、131−150、141−160、151−170、161−180、171−190、181−200、191−210および196−215である。
【0044】
本発明で用いるためのDNA配列は、例えば、ゲノムDNAもしくはcDNA、または、ゲノムDNAおよびcDNA間のハイブリッドであるか、または、それらは、合成または半合成であってもよい。それらは、いずれの種に源を発してもよいが、ヒトVEGFをコードするDNAが好ましい。それらは、一本鎖または二本鎖であってもよい。配列番号2、4、6および8のタンパク質をコードするゲノムDNAは、とりわけ好ましい。
【0045】
本発明で用いるためのDNA配列は、1以上のヌクレオチドの欠失、挿入または置換により、配列番号1、3、5または7に示される配列とは異なってもよい。ただし、それらは、VEGF活性を有するタンパク質をコードする。同様に、それらは、配列番号1、3、5または7に関してトランケートされるか、または、1以上のヌクレオチドにより伸長されていてもよい。ただし、それらは、VEGF活性を有するタンパク質をコードする。
【0046】
RNA配列もまた、本発明の実施に適している。詳しくは、本発明は、配列番号1、3、5または7のものに対応するRNA配列の使用を提供するものである;これらは、好ましいRNA配列である。本発明は、また、DNA配列について上記したいずれかの点でこれらの配列と関係があるRNA配列の使用を提供するものである。本発明のRNA配列は、一本鎖または二本鎖であってもよい。本発明のRNAは、いずれの起源のものであってもよい。例えば、それらは、いずれの種に源を発してもよいが、ヒトVEGF、とりわけ、配列番号2、4、6または8に示される配列を有するヒトVEGFをコードするRNAが好ましい。半合成RNAと同様に、合成DNAもまた用いられる。さらにまた、DNA転写形態細菌プラスミドは、イン・ビボまたはイン・ビトロで用いられる。
【0047】
本発明の実施に適するRNA配列において、T残基をUにより置換することは、当業者により明白であろう。
【0048】
本発明で用いるためのVEGFタンパク質は、上記定義の本発明のDNAまたはRNA配列によりコードされる。本発明の好ましいタンパク質は、配列番号2、4、6および8のタンパク質であるが、本発明は、また、配列番号2、4、6または8のものとは異なるがVEGF活性を有する非常に密接に関係する配列を有する他のタンパク質の使用を提供するものでもある。
【0049】
本発明によると、内膜過形成の治療または予防に関する限りにおいては、VEGF活性は、血管、とりわけ、動脈における内膜過形成を完全にまたは部分的に阻害または予防する能力である。上記の配列において天然VEGFとわずかに異なるタンパク質は、この特性を保持しているが、必ずしもVEGFと同程度ではない。同様に、かかるタンパク質は、天然VEGFよりも強いVEGF活性を示すことができる。これは、VEGFのアゴニスト、例えば、ペプチド、ペプトイドまたは他の小さい分子に適用される。
【0050】
本発明がVEGFの他の特性に関する限りにおいては、VEGF活性は、VEGF以外の分子のこれらの特性を再現する能力である。例えば、本発明がNO産生を刺激するためのNO関連症状に対するVEGFの活性に関する限りにおいては、VEGF活性は、NO産生を刺激する能力を含む。本発明がプロスタサイクリン関連症状に対するVEGFの活性に関する限りにおいては、VEGF活性は、プロスタサイクリン産生を刺激する能力を含む。本発明の実施に適するVEGFタンパク質はまた、典型的には、インビトロおよび/またはインビボで動脈ECの増殖を促進する能力、または、VEGFが結合する受容体に結合して、まるでVEGFのようにそれらを活性化する能力など、当該技術分野ですでに知られているVEGFの生物学的特性の1つ以上を示す。
【0051】
本発明の実施に適するVEGFタンパク質は、実質的には、配列番号2、4、6または8のVEGFと相同であり、典型的には、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または、少なくとも99%相同である。
【0052】
本発明の実施に適するVEGFタンパク質は、1以上のアミノ酸の欠失、挿入または置換により配列番号2、4、6または8に示される配列とは異なっていてもよい。ただし、それらは、VEGF活性を有する。同様に、それらは、配列番号2、4、6または8に関して1以上のアミノ酸によりトランケートされるか、または、1以上のアミノ酸により配列番号2、4、6または8に関して伸長されていてもよい。ただし、それらは、VEGF活性を有する。置換に関しては、保存的置換が好ましい。典型的には、保存的置換は、例えば、電荷および/または大きさおよび/または極性および/または疎水性に関して、置換アミノ酸が天然VEGF中に存在するものと類似の性質を有するものである置換である。同様に、保存的置換は、典型的には、該タンパク質のVEGF活性に対してほとんど影響を及ぼさない。
【0053】
配列において天然VEGFと異なる本発明で用いるためのVEGFタンパク質は、活性において天然VEGFと異なるように工学処理され得る。例えば、それらは、より強いVEGF活性を有するように処理され得る。かかる操作は、典型的には、当該技術分野で知られている組換え技術を用いて核酸レベルで行われる。
【0054】
上記VEGFタンパク質を用いることに対する別法としては、VEGFアゴニストを用いることが可能である。これは、本明細書に記載した全ての医薬用途に、特にアテローム性動脈硬化症の治療に適用される。
【0055】
一般に、VEGFアゴニストは、VEGFが結合する受容体に結合する分子であり、実質的には、本明細書に記載のVEGF活性を生じさせるという同一の効果を及ぼす。詳しくは、アゴニストは、flk−1/KDRまたはflt−1受容体に結合する。かくして、本発明のアゴニストは、VEGFのアゴニストおよびVEGFを結合する受容体のアゴニストと称される。
【0056】
VEGFアゴニストは、いずれかの化学構造を有する。例えば、VEGFアゴニストは、例えば、10まで、20まで、50まで、または、100までのアミノ酸からなるペプチドまたはポリペプチドである。アゴニストは、同様に、修飾ペプチドまたはペプトイドであってもよい。グリコシル化、硫酸化、COOH−アミド化およびアセチル化、例えば、N−末端アセチル化を含む適当な修飾がなされてもよい。さらに、または、別法としては、修飾アミノ酸および/またはL−アミノ酸が存在してもよい。
【0057】
いくつかの好ましいアゴニストは、VEGF活性を有する、所望により上記のとおり修飾されていてもよい、VEGFのフラグメントである。VEGFのとりわけ好ましいアゴニストフラグメントは、配列番号4のアミノ酸1〜20(M...H)からなる;このペプチドは、Ahmed et al., Lab. Invest. (1997) 76:779により、ヒトトロホブラスト細胞におけるFlt−1受容体のアゴニストであると報告されている。
【0058】
別の関連するアゴニストはまた、VEGFのN末端領域から誘導されてもよい。例えば、配列番号4に関しては、VEGFのペプチドアゴニストは、VEGFのN末端(アミノ酸番号1)を含んでおり、25〜30、30〜40、40〜50または50〜100の範囲のアミノ酸までのVEGFのアミノ酸配列を有する。同様に、好ましいアゴニストは、VEGFのN末端領域から誘導され得るが、N末端のトランケートバージョンを含む。例えば、配列番号4におけるアミノ酸番号1で始まる代わりに、それらは、配列番号4のアミノ酸番号2、3、4、5、6、7、8、9または10で始まっていてよく、25〜30、30〜40、40〜50または50〜100の範囲のアミノ酸までのVEGFのアミノ酸配列を有する。
【0059】
本発明のペプチドアゴニストはまた、VEGF配列の他の部分からも誘導され得る。例えば、さらなる好ましいペプチドアゴニストは、配列番号6のVEGF−189配列のアミノ酸145〜169(R...P)からなるペプチドである。
【0060】
別の関連するアゴニストもまた、VEGFのこの領域から誘導されてもよい。例えば、配列番号6に関しては、VEGFのペプチドアゴニストは、135〜155の範囲のアミノ酸から160〜180の範囲のアミノ酸までのVEGFのアミノ酸配列を有する。例えば、この領域から誘導されるペプチドアゴニストは、135〜140、140〜145または145〜150の範囲のアミノ酸から160〜165、165〜170または170〜175の範囲のアミノ酸までのVEGFの配列を有してもよい。
【0061】
上記定義のVEGFのペプチドフラグメントは、好ましくは、10〜20、20〜25、25〜30、30〜40または40〜50アミノ酸の全長を有する。
【0062】
他の好ましいアゴニストは、HIV Tatタンパク質のフラグメントである。HIV Tatタンパク質は、VEGFのアゴニスト作用によく似ており、Flk−1/KDR受容体を介して作用する内皮細胞における脈管形成を刺激することができる;Albini et al., Oncogene (1996) 12:289-297およびNature Medicine (1996) 2(12):1321-1375を参照。かくして、HIV Tatタンパク質のアミノ酸46−60のようなHIV−1 Tat配列から誘導されるペプチドは、内皮細胞の増殖および移動を刺激することが示された;Albini et al., Oncogene (1996) 12:289-297を参照。HIV−1 Tatタンパク質のアミノ酸41〜65からなるペプチドは、本発明の別の好ましいペプチドアゴニストである。
【0063】
本発明のアゴニストはまた、それらのアゴニスト特性が保持される限りは、VEGFタンパク質について上記したいずれかの点で天然VEGFのものとは異なるアミノ酸配列を有していてもよい。
【0064】
本発明のアゴニストがペプチドである場合、それらは、本発明に従って治療を達成するために、それらをコードする核酸配列からイン・ビボで得ることができる。かくして、アゴニストコード化核酸は、本明細書に記載するとおり、遺伝子治療により送達され得る。
【0065】
別法としては、非ペプチドVEGFアゴニストを用いることができる。例えば、受容体と相互作用するVEGFの部分の形状とよく似ている小さい分子を用いてもよい。
【0066】
本発明の実施において、VEGF、VEGFをコードする核酸またはVEGFアゴニストまたはVEGFアゴニストをコードする核酸は、適当な形態で、血管、好ましくは動脈に送達され得る。核酸は、ベクターと結合していない「裸の」形態で、または、遺伝子治療ベクターにより、送達され得る。適当な遺伝子治療ベクターによりそれらを送達することが好ましい。特に、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを用いてもよい。
【0067】
適当なウイルスベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、偽型レトロウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよびバキュロウイルスが挙げられる。適当な非ウイルスベクターとしては、オリゴヌクレオチド、プラスミド、リポソーム、陽イオンリポソーム、pH感受性リポソーム、リポソーム−タンパク質複合体、イムノリポソーム、リポソーム−タンパク質−ポリリジン誘導体、水−油型エマルジョン、ポリエチレンイミンおよびデンドリマー(dendrimer)が挙げられる。好ましいベクターとしては、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)由来レトロウイルス、偽型水疱性口内炎ウイルスタンパク質−G(VSV−G)含有レトロウイルス、アデノウイルス、プラスミドおよびプラスミド/リポソーム複合体が挙げられる。
【0068】
適当な場合、2つ以上の型のベクターを一緒に用いることができる。例えば、プラスミドベクターをリポソームと共に用いてもよい。適当なリポソームとしては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、3β−[N−(N',N'−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、または、正に荷電した脂質(N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリエチルアンモニウム(DOTMA))を含むものが挙げられる。
【0069】
本発明のウイルスベクターは、好ましくは、無能力にされており、例えば、複製不全である。すなわち、それらは、それらの複製に必要な1つ以上の機能的遺伝子を欠いており、イン・ビボでそれらの非制御増殖を予防し、ウイルス感染の望ましくない副作用を回避する。好ましくは、ウイルスコートまたはキャプシドにVEGF核酸を取込んでいるウイルスゲノムをパッケージするために必要な最小ゲノム要素を除いて、ウイルスゲノムの全てを除去する。例えば、ロングターミナルリピート(LTR)およびパッケージングシグナル以外の全てのウイルスゲノムを欠失させるのが望ましい。アデノウイルスの場合、欠失は、典型的には、E1領域で行われ、所望により、E2、E3および/またはE4領域のうちの1つ以上で行われてもよい。
【0070】
本発明のウイルスは、いずれか適当な技術により無能力にされてよい。例えば、ゲノム欠失は、複製のために必要とされる遺伝子の完全な除去または一部のみの除去を含む。完全な除去が好ましい。一般に、好ましい欠失は、ウイルス遺伝子の初期転写のために必要とされる遺伝子のものである。
【0071】
複製応答能を有する自己制御性または自滅性ウイルスベクターを使用してもよい。
【0072】
一般に、本発明に用いるためのVEGF核酸は、好ましくは上記定義のベクターにより、それらが動脈に送達された後にイン・ビボでのそれらの発現を確実にする発現構築物内に含まれる。かかる構築物は、典型的には、VEGF核酸の発現を指向する能力を有するプロモーター(および、所望により、該プロモーターの調節因子)、翻訳開始コドンおよび該プロモーターに操作可能に連結されたVEGF核酸を含む。好ましくは、これらの成分は、5'−3'方向に並べられる。
【0073】
該構築物は、また、他の適当な成分を含有してもよい。例えば、該構築物は、シグナル配列をコードする核酸を含有していてもよく、従って、翻訳される場合に発現VEGFタンパク質を所定の細胞タイプまたは細胞コンパートメントに指向させる能力を有するようなVEGF核酸に対する位置にある。いずれのかかるシグナル配列も、典型的には、VEGF核酸に対して3'側または5'側に隣接した位置にあり、従って、シグナル配列およびVEGFタンパク質は、C−末端またはN−末端にシグナル配列をもつ単一融合タンパク質として翻訳される。
【0074】
該構築物は、プロモーターによりもたらされる発現の程度を増強するエンハンサーを含有していてもよい。選択されたプロモーターによりもたらされる発現を増強するエンハンサーを用いてもよい。例えば、CMV初期遺伝子プロモーターの場合、CMV初期遺伝子エンハンサーを用いてもよい。
【0075】
所望により、該構築物は、VEGF核酸に対して3'側に転写終結因子を含有していてもよい。いずれの適当な終結因子を用いてもよい。
【0076】
所望により、該構築物は、VEGF核酸に対して3'側に操作可能に連結されたポリアデニル化シグナルを含有していてもよい。
【0077】
所望により、該構築物は、培養物における形質転換細胞の選択を可能にするために、例えば抗生物質耐性を有する、1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含有していてもよい。例えば、細胞は、適切に、抗生物質耐性について選択されてもよい。
【0078】
所望により、該構築物は、例えば、VEGF核酸に対して3'側または5'側に、1つ以上のイントロン、または、他の非コード化配列を含有していてもよい。
【0079】
適当なプロモーターを用いて、本発明の核酸の発現を制御してもよい。一般に、ウイルスプロモーターまたは治療される対象体の種において機能するのに適合したプロモーターを用いるのが好ましい。かくして、ヒト対象体の場合、ウイルスプロモーター、とりわけ、ヒトに感染するウイルスから誘導されたプロモーター、または、ヒト遺伝子から誘導されたプロモーターを用いるのが好ましい。所望により、プロモーターは、いずれか適当なエンハンサーと組み合わせて用いられてもよい。
【0080】
望ましくは、「強い」プロモーター、すなわち、本発明のVEGFタンパク質を高レベルで発現させるものが用いられる。VEGFタンパク質の過剰発現を達成するプロモーターが望ましい。好ましいプロモーターとしては、所望によりサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーと組み合わせられていてもよいCMVプロモーター;ヒトβアクチンプロモーター;サルウイルス40(SV40)初期遺伝子プロモーター;ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター;およびレトロウイルスロングターミナルリピート(LTR)プロモーターが挙げられる。
【0081】
プロモーターおよび他の構築成分は、VEGF核酸に操作可能に連結される。かくして、それらは、それらがVEGF核酸の発現に対するそれらの効果を発揮できるように配置される。例えば、プロモーターの場合、プロモーターは、VEGF核酸の発現を指向しうるようにVEGF核酸に対して配置される。望ましくは、構築成分は、発現に対するそれらの最大効果をそれらに発揮させるように配置される。
【0082】
本発明において用いるための核酸または構築物は、当該技術分野で知られている適当な手段によりウイルスゲノムに取り込まれ得る。次いで、ウイルスゲノムは、適当な方法によりウイルスコートまたはキャプシドにパッケージされ得る。特に、適当なパッケージングセルラインを用いて本発明のウイルスベクターを得てもよい。典型的には本発明の複製不全ウイルスゲノムに取り込まれるこれらのパッケージングラインは、該複製不全ゲノムから欠失された遺伝子を含むので、これらのパッケージングラインは、本発明の複製不全ウイルスゲノムを補足する。かくして、パッケージングラインの使用により、培養物中で本発明のウイルスベクターが生じる。適当なパッケージングラインとしては、PA317細胞、Ψ−2細胞、CRE細胞、CRIP細胞、E−86−GP細胞、Fly細胞、ライン293細胞および293GP細胞の誘導体が挙げられる。
【0083】
非ウイルスベクターの場合、核酸は、当該技術分野で公知の適当な手段によって非ウイルスベクターに取り込まれ得る。
【0084】
所望により、ベクター、とりわけウイルスベクターは、核酸または構築物を治療されるべき対象体の細胞のゲノムへ組込むように、または、細胞質中で核酸または構築物を遊離状態にするように選択される。組込みベクターが好ましい。
【0085】
上記の、好ましくはウイルスまたは非ウイルスベクターと結合した、本発明で用いるためのVEGFタンパク質またはVEGF核酸は、過形成を治療するために、適当な方法で動脈に投与され得る。例えば、VEGFまたはVEGFをコードする核酸は、血管の外壁、例えば、動脈の外壁に、または、例えば内腔を介して、血管内皮、例えば、動脈内皮に投与され得る。注入された化合物は血流により迅速に押し流されて血中半減期が短いので、局所遺伝子導入は、組換えVEGFタンパク質の投与よりも優れていると思われる。
【0086】
いったん送達されると、本発明のVEGF核酸は、発現してVEGFタンパク質を産生し、次いで、内膜過形成が治療または予防される。発現は、血管壁、例えば、動脈壁においていずれの細胞型でも生じ得る。
【0087】
好ましくは、発現は、発現VEGFが血管、例えば、動脈の内皮に到達できるような位置で生じる。例えば、発現は、平滑筋細胞中および/または内皮中で生じ得る。最も好ましくは、発現は、少なくとも、血管、例えば、動脈の内皮中で生じる。
【0088】
例えば、VEGFタンパク質または核酸は、治療または予防されるべき過形成部位の周囲への直接注入によるか、または、血管、例えば、動脈の内腔中への注入により、血管、例えば、動脈の外側に送達され得る。
【0089】
さらに好ましくは、VEGFタンパク質または核酸は、治療されるべき過形成部位に接近して、血管、例えば、動脈に外部から設置された移植片により送達される。かかる移植片は、VEGFタンパク質もしくは核酸またはベクターを含有しており、薬剤のリザーバーを設けている。VEGFタンパク質または核酸(好ましくは、ベクターと結合している)は、移植片が治療されるべき対象体に導入される前または後に該移植片に導入され得る。例えば、該移植片は、血管付近に設置され、次いで、VEGFタンパク質または核酸が、例えば、注射により、移植片に導入され得る。
【0090】
好ましくは、該移植片は、血管、例えば、動脈と直接接触して設置される。これは、血管の物理的歪みが平滑筋細胞増殖を誘発し得、レトロウイルスベクターによる遺伝子導入の効率を増大させるので、レトロウイルスベクターを用いてVEGF核酸を送達する場合にとりわけ好ましい。過形成自体により誘発される増殖のようなこの増殖は、VEGFタンパク質または核酸の送達により解消されるか、または、少なくとも改善される。同様に、標的細胞が分割している場合に遺伝子導入の効率の増大を示す他のベクターを用いる場合には、移植片が動脈と接触しているのが好ましい。例えば、細胞増殖は、また、プラスミド/リポソーム複合体を用いて遺伝子導入効率を増強し得る。
【0091】
かかる移植片は、適当な形態であってよい。好ましくは、該移植片は、治療または予防されるべき過形成部位またはその近くで、動脈を、部分的または完全に、好ましくは完全に取り巻くカラーの形態である。
【0092】
血管外遺伝子送達は、内皮を損傷または露出させる可能性のあるバルーンカテーテル法または高圧液体法などの方法を回避する。トランスフェクトされた遺伝子は、好ましくは、シラスティックまたは生分解性移植片、好ましくは、血管の外側に隣接して、好ましくは血管の外周に設置されたカラーを介して適用される。内皮は、ほとんど損傷を受けない。これは、この形態の送達の主な利点である。
【0093】
本発明によると、ベクターがカラーの内側の血管外膜表面上に直接適用される場合、外膜との密接な接触が維持される。ウサギ動脈において、カラー単独は、典型的には、術後7−14日以内に新内膜の形成をもたらす。該カラーは、また、外膜表面でベクターを高濃度に維持する。
【0094】
移植片、好ましくは、カラーは、いずれか適当な物質から作製される。シラスティック移植片、すなわち、シリコーンゴムを含む移植片は、一つの好ましい代替物である。最も好ましくは、生分解性移植片である。適当な生分解性物質を用いることができる。
【0095】
移植片、例えば、カラー内では、VEGFタンパク質または核酸は、いずれの方法でも含有され得る。好ましくは、移植片、例えばカラーの構造は、VEGFタンパク質または核酸が血管壁と直接接触して保持されるようなものである。かくして、1つの実施態様では、移植片の構造は、血管壁と移植片の壁との間にスペースを残しておく。カラーの場合、該移植片は血管の周囲に中空容器を形成する。このスペース中にVEGF核酸またはタンパク質を導入することができ、その結果、それらは、血管壁と接触することによる。好ましくは、移植片の末端は、血管壁と接触しており、かくして、VEGF核酸またはタンパク質の漏出を防止する。好ましくは、カラーの外壁は、VEGF核酸またはタンパク質に対して不透過性、または、実質的に不透過性であり、かくして、周辺組織中へのその漏出を防止するか、または、少なくとも制限し、血管へのその送達を確実にする。
【0096】
所望により、VEGF核酸またはタンパク質を含有するスペースは、一層以上の、VEGFまたは核酸に対して透過性または半透過性の物質により血管壁から隔てられていてもよい。これは、緩やかな送達が意図され、VEGFタンパク質または核酸が血管壁に送達される速度の制限が望まれる場合に望ましい。
【0097】
所望により、移植片、例えば、カラーは、浸透圧ポンプとして作用するように設計されてもよい。
【0098】
所望により、VEGFは、カラー内の媒体、例えば、固体またはゲル媒体内に含有されていてもよい。これは、VEGFタンパク質または核酸が組織へ漏出することを防止するのに役立ち得る。この場合、カラーの外壁は、該移植片の末端の血管と接触している必要はない。
【0099】
別法としては、VEGF核酸またはタンパク質は、使用時に血管と接触している移植片の表面に塗布されてもよい。別法としては、VEGF核酸またはタンパク質は、移植片の構造全体に分散させられていてもよい。
【0100】
このような移植片、とりわけ、カラーの使用のいくつかの利点は、(i)それらが、持続性送達を可能にする送達リザーバーを与えること;(ii)内腔内操作が必要ではなく、動脈内皮が無傷のままであること;および(iii)上記で説明したとおり、移植片により生じる歪み(例えば、カラーの場合には収縮)が遺伝子送達の効率を増強することである。
【0101】
本発明の装置は、概して、少なくとも、使用時に第1血液運搬管(blood-carrying vessel)の縦方向に沿って伸長し、該管を少なくとも部分的に取り巻くように形成された実質的に不透過性の第1本体部を含む本体(ここで、第1本体部は、使用時に第1血液運搬管の外膜表面に対してシールするのに適した縦方向に空間を設けたシール部を含む)、および、使用時に少なくとも1つの薬剤を収容して該薬剤を第1血液運搬管の外膜表面へ送達するのに適したシール部間の中間部を含む。
【0102】
本発明の装置の好ましい具体例を、添付図面を引用して、単に例示する:
図1は、血管の周囲の所定個所にある本発明の装置の略縦断面図であり;
図2は、図1に示されるA−A線に沿った、同具体例の略冠状断面図であり;
図3は、端−端吻合の周囲にある装置の第2の具体例の略斜視図を示し;
図4は、図3の具体例の鉛直面での縦断面図であり;
図5は、シール部について別の構造を有する具体例の変形例を示す以外は、図4のものと同様の図であり;
図6は、端−側吻合の周囲にある装置の第3の具体例の略斜視図を示し;
図7は、図6の具体例の鉛直面での縦断面図であり;
図8は、側−側吻合の周囲にある装置の第4の具体例の略斜視図を示し;
図9は、図8の具体例の鉛直面での縦断面図であり;
図10は、一部包埋血管を示す側−側吻合の周囲にある装置の第5の具体例の略斜視図を示し;
図11は、図10の具体例の鉛直面での縦断面図である。
【0103】
バックグランドによると、一般に、動脈バイパス移植片は、天然血管が、通常、アテロームにより、閉塞されるか、または、有意に狭窄された場合に組織への血流を修復または改良するために用いられる。自家静脈もしくは動脈、または、ダクロン(Dacron)もしくはPTFEなどの合成物質のいずれを用いる場合でも、移植片は、一般に、3つの方法(「端−端」(図4);「端−側」(図7);または「側−側」(図9))のうちの1つの方法で天然血管に吻合される。これらの技術のうち、端−側および側−側が端−端よりも非常に一般的である。血流の方向は、矢印で示される。
【0104】
図1および2は、血管壁2内の血液1、および、例えば生分解性物質の、壁4により定義された空間3を含む外膜カラーを示す。カラー5は、カラーの両端で血管壁に接している。この具体例は、他の具体例について以下に記載すると同様の方法で用いることができる。
【0105】
図3および4に示される具体例は、端−端吻合への適用を示す。該装置は、移植片13の天然血管14への端−端吻合により作製される血液運搬管の縦方向に沿って伸長し、該管を取り巻く略管状本体12を含む。
【0106】
図4から最も明らかであるように、装置の本体12は、その両端に設けられた、縦方向に空間を設けるシール部15を有する。使用時に装置を端−端吻合部位16上に位置させる場合、これらのシール部15は、移植片13および天然血管14の外膜表面に対してシールする。本体12の物質の半径厚さは、中間部17におけるよりもシール部15での方が厚い。その結果、シール部15が移植片13および血管14の外膜表面に対してシールした場合、装置の本体12の内部と移植片13および血管14の囲まれた端部の外膜表面との間に空間が形成される。この空間は、密封リザーバー18を構成し、吻合16と一緒に縦方向に並べられていることが示される。
【0107】
このリザーバーにより、1つ以上の薬剤を含有する医薬製剤が、吻合部位16で移植片および血管13、14の外膜表面と接触して配置される。該製剤が流体またはゲルの形態である場合、それは、例えば、皮下注射針および注射器を用いて本体12の壁を介して密封リザーバー18へ注入され得る。該製剤に含有される薬剤は、有利には、抗増殖効果を有していて、吻合部位16およびそれに隣接する領域での平滑筋細胞内膜過形成を抑制することができる。
【0108】
該医薬製剤は、流体またはゲル形態である必要はなく、例えば、練り歯磨きと同様のコンシステンシーを有するラニーペースト(runny paste)であってもよい。したがって、それは、それが暴露される拍動している(pulsing)外膜表面と接触したままであり、血管を収縮させる。
【0109】
吻合部位16上に該装置を配置するために、円筒状本体12を移植片13および血管14のいずれか一方の上で、それらを吻合する前に、軸方向にスライドさせ得る。次いで、外科医は、吻合部位16で移植片13および血管14を一緒に接合することができ、次いで、本体12を図4に示した位置を占めるように吻合部位16上でスライドさせて、各外膜表面へのシール部15のシールを可能にすることができる。
【0110】
別法としては、装置の本体12は、図示されるように、その全長に沿って縦スリット19を設けていてもよい。この場合、外科医は、患者の体へ装置12を導入せずに、移植片13および血管14を吻合することができる。吻合が成功裏に完了した後、外科医は、適当な大きさの本体12を選択し、スリット19に沿って可撓性本体12を開き、吻合した移植片および血管13、14上でそれをスリップさせ、次いで、例えば、ティスシール(Tisseal)の名称の下に販売されているトロンビン接着剤またはシアノメタクリレートをベースとする接着剤などの慣用的な「組織接着剤」を用いて、スリット19で本体の縦方向の両端を一緒にシールすることにより、吻合した移植片および血管の周囲にそれを適用することができる。
【0111】
リザーバー18内に収容された医薬製剤の効果を集中させるため、および、周辺組織へのその薬剤の漏出を回避するために、本体12は、該製剤に対して実質的に不透過性である。該物質は、また、有利には、製剤中の有効薬剤が消耗されてしまうと思われる設定時間の間、例えば1〜5日間、生分解性である。該物質は、また、周辺組織からの反応をあまり激しく促進しないように選択される。本体に適する物質の例としては、ゼラチン、アルギナートまたはコラーゲンが挙げられる。これらの物質は、また、本体を可撓性にし、成形または押出による該装置の製造を可能にする。
【0112】
本体12の壁材は、また、皮下注射針により穴をあけることが必要な場合に密封リザーバー18の保全性を保つように、セルフシール性であるのが有利であり得る。別法としては、または、さらに、該針の除去後に現れる壁における漏出口は、「組織接着剤」などでシールしてもよい。
【0113】
様々な大きさの血管に適合するように様々な大きさの本体12が提供され得る。下肢血管は、一般に、外径約6−8mmである。冠状血管は、外径約3−5mmである。したがって、直径約3−10mmの本体サイズの範囲が外科医にとって無菌パケット中で利用可能であり得る。さらに、本体の大きさを変更して、リザーバー18の容量に影響を及ぼしてもよい。リザーバー18に適当な大きさは、10mlまで、好ましくは、2−5mlである。
【0114】
拍動性血流により生じた血液運搬管13、14の膨張に順応させるために、少なくとも本体のシール部15は、有利には、血管壁の膨張に順応させるように延伸する能力を有する。該装置による血管壁の収縮を回避し、同時にシールを無傷に維持することが非常に望ましい。
【0115】
図5は、別のシール部を示す。本体12の物質の半径厚さは、本体の長さに沿って一定であり、中間部17は、シール部15での本体12の内径に対して実質的に膨らんでいる。シール部15は共に、例えば、各々、約8−15mmの軸方向の長さ「X」上で移植片13および血管14の各外膜表面と接触するように、縦方向に伸びる尾部を持って形成される。シール部15についてのこれらの長い尾部は、「フラップ弁」のように作用してリザーバー18のシールを助けるように作製できるが、「フラップ弁」を通る流れが望まれないことは明らかである。別法としては、該尾部を内部へ折り畳んで(図示されない)、その末端で本体の厚さを2倍にし、図4で示されるものと類似の形態で中間部における本体厚さよりも厚い半径本体厚さのシール部を形成してもよい。
【0116】
液密シールを形成するかまたはその形成を助けるために、外科医は、例えば、「組織接着剤」のような上記タイプの接着剤を用いて、外膜表面にシール部15を接着してもよい。しかしながら、これは、必須ではない。例えば、シール部15での本体12の大きさが血管13、14の胴回りに適合するように選択される場合、接着剤を用いる必要はない。代わりに、外科医は、シール部15での本体12の内径と外膜表面の直径との間の半径方向の障害に頼ってもよい。これは、特に、図5の長く尾を付けたシール部の具体例についてそうである。しかしながら、該シール部は、血管を収縮させるほど血管上で締め付けるべきではない。
【0117】
図6および7は、端−側吻合と共に用いられる装置の具体例を示す。これらの図は、第1本体部21および90°未満の角度でそれから分枝して略Y字形本体を形成する第2本体部22を有する本体20を示す。第1および第2本体部21、22は、90°までおよび90°を含む他の分枝角度でお互いに分枝してもよく、後者の場合、本体は、略T字形である。外科医は、有利には、吻合した血管の配置および大きさに対して最も適当な装置を選択することができる一連の様々な大きさおよび様々な形状の本体が利用可能である。例えば、第1本体部22は、長さ約1−10cmであってよく;第2本体部22は、長さ1−5cmであってもよい。
【0118】
第1本体部21は、略管状であり、天然血管23を取り囲むように示される。第2本体部22もまた、略管状であり、吻合部位29で端−側形態で天然血管23に吻合された移植片24を取り囲むように示される。図7からわかるように、第1本体部21の両端は、シール部25を設けており、第2本体部22の終端は、シール部26を設けている。上記具体例におけると同様に、これらのシール部25、26は、有利には、「組織接着剤」を用いて、各々、血管23および移植片24の外膜表面にシールされ得る。
【0119】
図7は、第1本体部21の内部と血管23の外膜表面との間に形成された密封リザーバー27を示す。該リザーバー27は、第2本体部22の内部にまで及んでいる。かくして、この密封リザーバー27は、吻合部位29といっしょに並べられる。リザーバー27には、有利には、皮下注射針および注射器を用いて、有効薬剤を含有する液状医薬製剤が注入され得る。
【0120】
装置の血管23および移植片24への設置を容易にするために、装置の本体20は、図7に示した断面図の平面で分離しており、該平面について対照的である2つの対照的な二分した部分を含有する無菌パッケージにおいて外科医に提供され得る。このような場合、外科医は、移植片24を血管23に吻合した後、2つの、同一本体二分割部分を組み立てて、例えば上記のような接着剤を用いて、同一の二分した部分の対向する縁部を一緒にシールすることが必要である。
【0121】
別法としては、第1本体部21のみが、図6に示すように、縦スリット28を設けていてもよい。この場合、外科医は、移植片24の端部上で第2本体部22をスライドさせることができる。次いで、外科医は、移植片24の自由端を血管23に吻合し、次いで、第2本体部22を移植片24の下方にスライドさせ、吻合部位29を覆い、スリット28を用いて第1本体部21の中心に血管23を供給し、これにより取り囲むことができる。次いで、外科医は、スリット28で第1本体部21の対向する縦方向の縁部同士をシールして、そこに密封リザーバー27を形成することができる。
【0122】
本体部21および22について他の形状を用いてもよいのは明らかである。例えば、第1および第2本体部21および22は、お互いに別々に提供され、患者においてin situの場合のみ密封リザーバー27を形成するようにお互いに固定される。
【0123】
図8および9は、側−側吻合の状況下で用いるのに適する装置の具体例を示す。装置の本体30は、第2および第3本体部32、33に枝分かれしている第1本体部31を含むことを示す。この分枝は、図8に示すとおり、略X字形本体を形成する。
【0124】
3つの本体部31、32、33は全て、形状が略管状である。該装置は、追加の第3本体部33を除くと、概して、図6および7に示したものと同様である。
【0125】
第1本体部31は、閉塞した天然血管34を取り囲み、その外膜表面にシール部35によりシールされる。第2および第3本体部32、33は、移植片36を取り囲み、各シール部37、38で移植片の外膜表面にシールされる。図9において最も明確に示されるとおり、シール部35、37、38の効果は、本体30の内部と囲まれた血管の外膜表面との間に密封リザーバー39を形成することであり、該リザーバー39は、上記方法で医薬製剤を少なくとも部分充填することができる。
【0126】
図8および9に示す装置の設置を容易にするために、該装置は、有利には、少なくとも2つの部品で外科医に提供される。例えば、第1本体部31は、第2および第3本体部32、33を含む第2要素とは分けて提供され得る。該本体部に縦スリット(図示されない)を設けることにより、該本体部は、血管34および移植片36を取り囲むように設置され、次いで、これらの縦スリットに沿ってシールされ、接触線に沿ってお互いにシールされて、吻合部位40の周囲に密封リザーバー39が設けられる。
【0127】
図10および11は、図8および9に示した装置の変形例を示す(共通部分については同一の照合数字を用いる)。本発明の装置についてとりわけ適している使用の1つは、冠状動脈バイパス移植手術においてである。かかる状況下で、第1血管34は、図示されるとおり、心臓壁50に部分包埋されている冠状動脈であり得る。図8および9に示される形態の装置は、第1本体部が部分包埋冠状動脈34の周囲全体に広がることができないので、部分包埋冠状動脈34に設置できなかった。したがって、図10および11の具体例では、本体31の第1本体部51は、その縦方向に対する横断面で見ると完全な円を描かない;代わりに、略弓形である。図示した具体例では、約180°の弧を描く。これは、第1本体部51を部分包埋冠状動脈34の露出部分のみに設置させて、それを部分的にのみ取り巻くことができる。この装置では、第1本体部51の縦方向に伸びている縁部41は、例えば、組織接着剤を用いて、冠状動脈34の外膜壁または図示されるように心臓壁50の表面のいずれかに外科医によりシールされる。
【0128】
図10および11の装置は、また、第1血液運搬管が動脈により供給される臓器の壁において部分包埋されている動脈である他の手術にも適用可能である。かかる臓器としては、脳、膀胱および子宮が挙げられる。
【0129】
図示された具体例は、吻合部位の血液運搬管およびそれに続く部位に薬剤を送達するための装置の使用に集中していたが、本発明は、かかる使用に限定されない。該装置は、例えば、さらに一般的には、非吻合血液運搬管の外膜に薬剤を送達するために用いられてもよい。例えば、バルーン血管形成術後、図3〜5に示される形態の装置をバルーン血管形成部位の領域で動脈の外周に設置して、該動脈の外膜表面を介してそれに1種類以上の薬剤を送達してもよい。
【0130】
上記具体例では、密封リザーバーは、血液運搬管の外膜表面と少なくとも第1本体部の内部との間でラジアル空間または隙間の形態を取ることが示されており、該空間には、医薬製剤が少なくとも部分充填されている。しかしながら、かかる空間は、必須ではない。例えば、別の具体例では、本体は、略不透過性可撓性外層、および、製剤を含浸させた、使用時に外膜表面と接触するように配置される可撓性内層を有してもよい。
【0131】
外層は、例えば、固体コラーゲンから作られてよく、内層は、それに架橋結合された海綿状コラーゲンから作られてよく、該海綿状層は、送達されるべき薬剤を含有する医薬組成物を含浸させ得る。かかる条件下で、該装置は、既に含浸されている製剤と一緒に設置するために外科医に提供され得るか、または、例えば、上記のとおり注入されることにより、設置後に該製剤で湿潤させられ得る。
【0132】
別法としては、薬剤を本体の内部表面に塗布していてもよく、使用時に該表面を血管と接触させる。別法としては、薬剤を本体の構造全体に分散させていてもよい。
【0133】
装置の本体は、捩り応力に耐えるのに充分な強度を有するのが望ましい。この目的のために、本体は、例えば、コラーゲンフィルムなどの内層、または、縦、横もしくは螺旋状のリブを設けて形成されてもよい。リブは、リザーバーをコンパートメントに細分割し、さらなる安定性を与えるために設けられる。
【0134】
当該タンパク質または核酸は、臨床環境により生じる内膜過形成の治療または予防のために用いられ得る。例えば、血管形成術、例えば、バルーン血管形成術;バイパス術、例えば、静脈を動脈に吻合する冠状バイパス術;他の吻合術、例えば、足における吻合術;および動脈内膜切除術、例えば、頚動脈内膜切除術を含むいずれのタイプの手術の後に生じる過形成も治療することが可能である。動脈損傷または高血圧症、例えば、肺動脈高血圧症に伴う内膜過形成を治療することも可能である。本発明は、いずれかのタイプの血管における、例えば、動脈または静脈、好ましくは動脈における、内膜過形成の治療を提供するものである。
【0135】
本発明によると、確立された内膜過形成を治療もしくは改善するか、または、内膜過形成が発生しないように予防することが可能である。同様に、内膜過形成が発生する可能性を減少させること、または、確立された内膜過形成もしくは発生すると思われる過形成の重篤度を低下させることが可能である。本発明による治療は、例えば、術後に生じる過形成の機会を減少させるために、手術の前、間または後に行われ得る。
【0136】
好ましくは、VEGF核酸またはタンパク質は、新しい狭窄を予防または治療するために投与される。しかしながら、それは、再狭窄を治療または予防するためにも用いることができる。
【0137】
本発明のタンパク質または核酸は、好ましくは、医薬上許容される担体を含む医薬製剤の形態で送達される。いずれの適当な医薬製剤も用いられ得る。
【0138】
例えば、適当な製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、殺菌性抗生物質、および、予定されたレシピエントの血液と一緒に製剤を等張性にする溶質を含有し得る水性および非水性無菌注射溶液;ならびに、懸濁化剤および増粘剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁剤が挙げられる。該製剤は、単位投与または多投与容器、例えば、密封されたアンプルまたはバイアル中で提供され得、使用直前に無菌液体担体、例えば、注射用蒸留水の添加のみを必要とする冷凍または凍結乾燥条件下で保存され得る。
【0139】
当然のことながら、上記で詳述した成分に加えて、本発明の製剤は、当該製剤のタイプを考慮して当該技術分野で慣用的な他の薬剤を含んでもよい。可能な製剤のうち、無菌無パイロジェン水性および非水性溶液が好ましい。
【0140】
当該タンパク質、核酸およびベクターは、適当な用量で、適当な投与方針を用いて送達され得る。多くの因子に応じて投与量および投与方針を治療されるべき個々の症状の最適な治療を確実にするように適合させ得ることは、当業者に明らかである。かかる因子のいくつかは、治療されるべき対象体の年齢、性および臨床状態であり得る。
【0141】
VEGFをコードする裸の核酸またはかかる核酸を含む構築物の送達について、典型的な用量は、用量当たり0.1−5000μg、例えば、50−2000μg、例えば、50−100μg、100−500μgまたは500−2000μgなどである。VEGFタンパク質の送達については、適当な用量としては、1〜1000μg、例えば、1〜10μg、10〜100μg、100〜500μgまたは500〜1000μgの用量が挙げられる。
【0142】
ウイルスまたは非ウイルスベクターによるVEGF核酸の送達のために用いられる用量は、ベクターがVEGF核酸を細胞に送達する効率、およびVEGF核酸が細胞中で発現される効率を含む多くの因子に左右される。
【0143】
例えば、ウイルスベクターは、10〜1014cfuまたはpfu/ml、例えば、10〜10、10〜10、10〜1010、1010〜1012または1012〜1014cfuまたはpfu/mlの用量で送達される。10〜10cfuまたはcfu/mlの範囲の用量が好ましい。pfu(プラーク形成単位)なる用語は、アデノウイルスを含むある種のウイルスに適用され、ウイルス溶液の感染力に相当し、適当な細胞培養物の感染および一般に48時間後の感染細胞のプラークの数の測定により決定される。cfu(コロニー形成単位)なる用語は、レトロウイルスを含むその他のウイルスに適用され、一般に選択可能なマーカーと一緒に14日間インキュベートした後に当該技術分野で知られている手段により決定される。ウイルス溶液のcfuまたはpfu値を決定するための技術は、当該技術分野でよく知られている。
【0144】
レトロウイルスについては、10〜10cfu/mlの範囲の用量が特に好ましい。偽型レトロウイルスについては、10cfu/mlの範囲の用量が特に好ましい。アデノウイルスについては、10pfu/mlの範囲の用量が特に好ましい。
【0145】
同様に、かかる用量が緩やかな送達のための本発明の移植片内に含まれてもよい。
【0146】
非ウイルスベクターと結合したVEGF核酸もまた、上記したいずれの投与手段によっても、または、移植片から緩やかに、いずれかの適当な用量で送達されてもよい。適当な用量は、典型的には、核酸0.1〜1000μg、例えば、1〜100μg、100〜500μgまたは500〜1000μg、1000〜2000μg、2000〜3000μgまたは3000〜5000μgである。好ましい用量は、5〜50μg、例えば、10〜20μgの範囲である。
【0147】
投与方針は、例えば、投与経路、レシピエントの種およびレシピエントの健康状態によっても変化するであろう。しかしながら、単回投与、および、数日間、数週間または数ヶ月間に及ぶ多回投与が考えられる。また、上記で説明したとおり、VEGFタンパク質および核酸の送達は、血管、好ましくは動脈の周囲に設置するのに適する移植片により行われる;好ましくは、移植片は、カラーの形態である。かかる移植片は、緩やかな送達を行う。例えば、送達は、数時間、数日間、数週間または数ヶ月間にわたって生じる。
【0148】
本発明のタンパク質および核酸は、例えば、局所投与、皮膚投与、非経口投与、筋肉内投与、皮下投与または経皮投与などのいずれの投与形態によっても、または、血流中への直接注射または動脈壁中もしくはその周囲への直接注射によるか、または粘膜組織への直接塗布によって投与されてもよい。好ましくは、投与は、上記したとおり、移植による。
【0149】
本発明のタンパク質、核酸およびベクターは、いずれの哺乳動物においても内膜過形成を治療するために用いられ得る。ヒト患者の治療が好ましい。
【0150】
本発明は、内膜過形成治療用または予防用キットを提供するものでもある。これらのキットは、(i)薬剤として、上記で定義したとおり、好ましくは、ベクターと結合した、VEGFタンパク質または核酸;および(ii)VEGFタンパク質または核酸が導入され得るカラーの形態の本発明の移植片を有してなる。好ましくは、VEGF核酸またはタンパク質は、上記で定義した医薬上許容される担体を含む医薬製剤の形態で提供される。成分(i)および(ii)は、いずれの適当な方法でもパッケージされ得る。例えば標準試薬および/または溶液および/または装備品などの当該技術分野で知られている他の成分もまた含有されてもよい。
【0151】
本発明は、また、内膜過形成の治療または予防方法であって、本発明のVEGFタンパク質、核酸またはアゴニストの有効な非毒性量を該処置を必要とする患者に投与することを含む方法を提供するものでもある。
【0152】
本発明の移植片、とりわけ、上記で定義したようなカラーの形態の移植片は、VEGF以外の薬剤の、血管、例えば、動脈への送達のために用いることもできる。いずれの適当な薬剤もこの方法で送達されて、いずれの所望の治療目的をも達成することができる。
【0153】
プラスミド/リポソーム複合体、MMLVレトロウイルス、VSV−Gレトロウイルスおよびアデノウイルスがカラーを付けた動脈中で発現を引き起こすことが観察された。遺伝子導入効率は、アデノウイルスについて最高であり、偽型VSV−Gレトロウイルスもまた比較的高いトランスフェクション効率を生じた。複製不全VSV−Gレトロウイルスの動脈遺伝子導入における利用性は、従来、示されていなかった。アデノウイルストランスフェクトされた動脈のいくつかの内皮細胞において発現が見られた。外膜から内膜への浸透が生じたので、これらの結果は、VEGF以外の遺伝子を用いる内腔外遺伝子導入によりヒト疾患において内皮機能を変化させる一般的な可能性を高める。これは、また、他の場合には動脈壁において作用する拡散可能なまたは分泌された遺伝子産物の外膜および外中膜における発現のために有用でもあり得る。好ましくは、かかる送達は、上記で定義したとおり、内膜過形成の治療をもたらすが、それは、さらなるまたは別の治療目的ももたらし得る。
【0154】
このような送達のための好ましい治療薬としては、動脈壁において一酸化窒素(NO)産生を刺激するVEGF以外のタンパク質が挙げられる。内膜過形成の治療または予防をもたらすためのNOシンターゼ、特に、誘発性NOシンターゼ(iNOS)の送達が特に好ましい。
【0155】
他の好ましい治療薬としては、内皮VEGF受容体を活性化するアゴニストが挙げられる(上記参照)。これらのアゴニストは、典型的には、小さい合成分子である。VEGFタンパク質のペプチドフラグメントを含むペプチドを用いてもよい。この場合、治療は、VEGFについて上記したとおり、ペプチド自体またはそれをコードする核酸の送達により行われ得る。これらは、好ましくは、同経路により、すなわち、本明細書で定義した移植片を介して送達されるが、それらは、全身的に送達され得る。
【0156】
好ましくは、治療薬は、医薬上有効なポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸の形態である。さらに好ましくは、この核酸は、上記で定義したとおり、構築物内に含まれる。さらに好ましくは、核酸または構築物は、上記定義のベクター、例えば、上記定義のウイルスまたは非ウイルスベクターにより動脈に送達される。
【0157】
かくして、動脈外遺伝子導入は、血管、好ましくは動脈の壁への遺伝子物質の送達のために用いることができる。実施例により、内側SMCの変化および内皮変化が外膜側から達成できることを見ることができ、血管、例えば、動脈の疾患の新しい治療方法の開発を可能にする。
【0158】
したがって、本発明は、血管内膜過形成治療薬または予防薬の製造における、NOS(所望により、iNOS)またはNOS(好ましくは、iNOS)をコードする核酸の使用を提供するものである;ここで、NOSタンパク質または核酸は、VEGFについて上記で定義した、移植片、好ましくはカラー中で提供される。
【0159】
本発明は、また、(i)NOS(所望によりiNOS)タンパク質または核酸;および(ii)本発明の移植片を含むキットを提供するものでもある。これらのキットは、VEGFについて上記したとおりである。これらは、血管内膜過形成の治療または予防に適している。
【0160】
本発明は、また、治療または予防されるべき過形成付近でNOSタンパク質または核酸を含む本発明の移植片を移植し、これにより、NOSタンパク質または核酸のデリバリーを行うことを含む血管内膜過形成の治療方法を提供するものでもある。
【0161】
NOS核酸は、好ましくは、VEGFについて上記したとおり、ベクターと結合している。治療は、VEGFについて上記したと同様に行われ、用量および医薬製剤もまた、VEGFについて上記したと同様である。
【0162】
本発明は、また、NOS(所望により、iNOS)、タンパク質または核酸を含む本発明の移植片を提供するものでもある。
【0163】
VEGFが動脈壁中でNOおよびプロスタサイクリン産生を刺激するという知見は、VEGFおよびVEGF受容体のアゴニストが他のNO関連および/またはプロスタサイクリン関連症状の治療において有用であろうということを示唆している。
【0164】
とりわけ、VEGFおよびVEGFが結合する受容体のアゴニストは、高血圧症(hypertensionまたはhigh blood pressure)を治療するために用いられ得る。Forte et al., Lancet (1997) 349:837-42は、低いNOレベルが本態性(すなわち、全身性)高血圧症に罹患している個体の特徴であることを見出した。NOは、血管壁を弛緩することが知られている;Forte et al.は、NO産生障害がこの弛緩を低下させ、血管を収縮させ、血圧を上昇させることを示唆している。さらに、本態性高血圧症に罹患している個体では、プロスタサイクリンのレベルが抑制される。
【0165】
VEGFがNOおよびプロスタサイクリン産生を刺激するので、それは、高血圧と戦うのに有用である。さらに詳しくは、本発明の薬剤は、特に関心のある3のつ疾患の治療において有用であり得る。
【0166】
第1は、本態性高血圧症、すなわち、任意の位置または体の至る所での全身性高血圧である。全身性症状である本態性高血圧症の治療については、それは、本発明のVEGFタンパク質またはアゴニストが、遺伝子治療により、全身的に、例えば、VEGFタンパク質またはアゴニストをコードするVEGF核酸の全身性送達により送達されるのが好ましい。
【0167】
第2は、肺性心、すなわち、肺動脈の高血圧により引き起こされる右心不全である。これは、本明細書に記載したVEGF核酸、タンパク質およびアゴニストを投与することにより、とりわけ、その後のDNAの発現を伴って動脈カラー(上記を参照)を介してVEGF DNAを動脈に送達して動脈壁でタンパク質を得ることにより、治療可能であり得る。
【0168】
第3は、原発性肺高血圧症、すなわち、肺での高血圧である。これは、通常、最後には心不全および死に至らしめ、現在、連続プロスタサイクリン輸液または肺移植によって治療可能なだけである。本明細書では、好ましい治療技術は、VEGFまたはそのアゴニストをコードする核酸を用いて肺組織を核酸で形質転換するかまたは肺組織に核酸をトランスフェクトし、これにより、イン・ビボでVEGFを生じさせ、NOおよび/またはプロスタサイクリン産生を刺激することである。
【0169】
したがって、本発明は、イン・ビボでの一酸化窒素(NO)またはプロスタサイクリン産生刺激薬の製造における、血管内皮成長因子(VEGF)、VEGFをコードする核酸、VEGFのアゴニスト、およびVEGFを結合する受容体のアゴニストをコードする核酸分子から選択される薬剤の使用を提供するものである。
【0170】
VEGFタンパク質または核酸またはVEGFを結合する受容体のアゴニスト、またはかかるアゴニストをコードする核酸を含む本発明のキットもまた、高血圧症の治療に適している。
【0171】
本発明はまた、本発明のVEGFタンパク質、核酸またはアゴニストの有効な非毒性量を患者に投与することを含む高血圧症の治療または予防方法を提供するものでもある。かかる治療は、本明細書に記載したとおり行われる。原発性肺高血圧症については、好ましい方法は、本明細書で定義した、VEGFをコードする核酸またはVEGFが結合する受容体のアゴニストをコードする核酸を用いる肺組織の形質転換である。
【0172】
本発明により治療することができる別の症状は、NO関連および/またはプロスタサイクリン関連症状であり得るアテローム性動脈硬化症である。アテローム性動脈硬化症の治療に関する場合、本明細書で定義したVEGFアゴニストを用いるのが好ましい。
【0173】
かくして、本発明は、イン・ビボでのNOおよび/またはプロスタサイクリン産生の刺激によるアテローム性動脈硬化症治療薬の製造における、血管内皮成長因子(VEGF)、VEGFをコードする核酸、VEGFのアゴニスト、およびVEGFが結合する受容体のアゴニストをコードする核酸分子から選択される薬剤の使用を提供するものである。
【0174】
本発明はまた、本発明のVEGFタンパク質、核酸またはアゴニストの有効な非毒性量を患者に投与することを含むアテローム性動脈硬化症の治療方法または予防方法を提供するものである。かかる治療は、本明細書に記載したとおり行われる。
【0175】
アテローム性動脈硬化症治療については、デリバリーの好ましい形態の1つは、本発明のVEGFタンパク質の、または、好ましくは、本発明のVEGFアゴニストの、例えば、錠剤形態での、経口送達である。
【0176】
以下の実施例により本発明を説明する。以下の略語を用いる:
【表1】

【実施例】
【0177】
実施例1
内膜平滑筋細胞増殖を生じる作用因子として、および、遺伝子およびベクターのためのリザーバーとして作用する頚動脈の周囲に挿入されたシリコーンカラーを用いて、内膜の肥厚に対する内皮細胞(EC)−特異的VEGF遺伝子導入の効果を研究した。該モデルは、EC完全性を保存し、いずれの血管内操作も用いずに、直接血管外遺伝子導入を可能にした。
【0178】
実施例1.1
遺伝子導入:全身麻酔下、ニュージーランド白ウサギ32匹の頚動脈において、該動脈の周囲に不活性シリコーンカラーを挿入することにより内膜肥厚を誘発した(Booth et al., Atherosclerosis (1989) 76:257-268)。該カラーの設置から5日後、麻酔下で該カラーを静かに開き、該カラーの中にプラスミド/リポソーム複合体500μlを注入することにより(すなわち、動脈の外膜表面上で)遺伝子導入を行った。該研究のいずれの工程においても、全く血管内操作を含まなかった。
【0179】
プラスミド/リポソーム複合体:pCMV5−VEGF−164プラスミド(マウスVEGF cDNA(Breier et al., Development (1992) 114:521-32;ヌクレオチド1−583)を含有する)25μgをリポフェクチン(BRL)25μlと複合体形成させ、リンゲル溶液で500μlに希釈した。複合体を、遺伝子導入前に少なくとも15分間室温で維持した。この研究で用いた濃度では、プラスミド/リポフェクチン複合体がイン・ビトロでウサギ大動脈ECに対して有毒ではなかったことが予め判定された。対照動脈に、イー・コリ(E. coli)lacZ cDNA(Kalnins et al.、上掲)(ヌクレオチド1−3100)発現プラスミドを含有する同様のプラスミド/リポソーム複合体をトランスフェクトした。この研究に用いたプラスミドは、キアジェン・メガ(Qiagen Mega)カラムを用いてイー・コリ培養物(DH5α)から単離し、フェノール/クロロホルム抽出を3回およびエタノール沈殿法を1回行って精製し(Ausubel et al., eds. Current Protocols in Molecular Biology. New York, NY: Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons (1991) 4.2.3-4.2.4)、1μg/μlに調節し、微生物または内毒素汚染を含まないことを分析した(リムルス(Limulus)アッセイ、検出限界0.2ng)。動物を、遺伝子導入手術の3日後(n=8)、7日後(n=12)および14日後(n=12)に屠殺した;動脈を注意深く取り出し、3等分した;近位の3分の1は、4%パラホルムアルデヒド/PBS中で15分間浸漬固定し、OCT化合物(マイルズ・サイエンティフィック(Miles Scientific)(Yla-Herttuala et al., J. Clin. Invest. (1995) 95:2692-2698)中に包埋した。中間の3分の1は、上記と同様に4時間固定し、15%スクロース中で48時間洗浄し、パラフィン中に包埋した。遠位の3分の1は、OCT化合物中に直接包埋し、液体窒素中で冷凍した。4つの動脈において、mRNA単離およびRT−PCR(下記を参照)のために遠位の3分の1を用いた。試料の起源の情報を持っていない2人の独立した観察者による内膜/中膜厚さ比の測定(Yla-Herttuala et al., Arteriosclerosis (1986) 6; 230-236)のために中間位置からランダムに選択した10個の切片を用いた。2つの独立した測定値の平均値を用いて、結果(平均±SD)を算出した。グループ間の内膜/中膜厚さ比の差異を、ANOVA、次いで、変形t−検定(p<0.05)により分析した。
【0180】
RT−PCR:mRNA単離(マイクロ−ファーストトラック(Micro-FastTrack)、インビトロジェン(Invitrogen))のために遺伝子導入の7日後に回収したVEGF(n=2)およびlacZ(n=2)トランスフェクト動脈の遠位部分を用い、従前の記載(Hiltunen et al., Circulation (1995) 92: 3297-3303)に従って、ランダムヘキサマープライマー(cDNAサイクルキット、インビトロジェン)を用いてAMLVリバーストランスクリプターゼ(反応あたり5U、ベーリンガー(Boehringer))を用いて第1鎖cDNAに逆転写させた。Taqポリメラーゼ(ベーリンガー)およびトランスフェクトpCMV5−VEGF−164構築物に対して特異的なプライマーを用いて35サイクルPCRを行った(5'−プライマー:配列番号9;3'−プライマー:配列番号10;PCRサイクルパラメーター:90℃で1分、60℃で1分、72℃で1分、最後のサイクルが5分であることを除く)。VEGFトランスフェクト動脈中で予想される長さ(547nt)を有する増幅フラグメントが見られた。ゲルの両側にDNAサイズマーカー(1kbラダー、BRL)が示される。
【0181】
VEGFまたはlacZ遺伝子導入の7日後にウサギ頚動脈の特徴を示す顕微鏡写真を撮影した。トランスフェクトされた動脈の免疫染色法は、以下のことを示した:lacZ−プラスミド/リポソーム(SMC特異的MAb HHF−35、1:500希釈、エンゾ・ダイアグノスティクス(Enzo Diagnostics))をトランスフェクトされた対照動脈は、典型的な内膜肥厚を示した;VEGFプラスミド/リポソーム(SMC特異的MAb HHF−35)でトランスフェクトされた動脈は、ごくわずかな内膜肥厚しか示さなかった;内皮は、研究した全ての血管切片に存在した(A,EC特異的MAb CD31に対する連続切片、希釈1:50、DAKO);VEGF−およびlacZ−トランスフェクト動脈において炎症は全く検出されなかった(マクロファージ特異的MAb RAM−11、希釈1:500、DKO);遺伝子導入の14日後に、VEGFトランスフェクト動脈の外膜に血管新生が見られた(ヘマトキシリン−エオシン染色法)。
【0182】
免疫染色法(Yla-Herttuala et al., PNAS (1990) 87: 6959-6963)のためにアビジン−ビオチン西洋ワサビペルオキシダーゼ系(ベクター・エリート(Vector Elite)、ベクター・ラブズ(Vector Labs))を用いた。免疫染色法のための対照は、無関連クラス−および種−適合イムノグロブリンを用いるインキュベーションおよび一次抗体が省略されたインキュベーションを含んだ。従前の記載(Yla-Herttuala et al., (1990)、上掲)に従ってpBluescript SKプラスミド(ストラータジーン(Stratagene))から合成したアンチセンスVEGFリポプローブ(583nt)を用いてin situハイブリダイゼーションを行った。すなわち、パラフィン包埋切片をプロテアーゼKで前処理し、アセチル化し、35−S−UTP(デュポン(DuPont)、NEN)標識リボプローブ(6×10cpm/ml)を用いて52℃で16時間ハイブリダイズした。ハイブリダイゼーション後、最後に、60℃で30分間、0.1×SSCで洗浄した。シグナル検出のためにオートラジオグラフィーを用いた(イーストマン−コダック(Eastman-Kodak)NAB−2)。非ハイブリダイズセンスリボプローブ(Yla-Herttuala et al., (1990)、上掲)を用いた対照ハイブリダイゼーションにより、マイナスの結果が得られた。切片をヘマトキシリンで対比染色した。
【0183】
実施例1.2
実施例1.1の記載に従って、遺伝子導入を行った。VEGF(n=5)またはlacZ(n=5)遺伝子導入の1日前から、ウサギに飲料水中でL−NAME(70mg/kg/d)を供給し始めた。遺伝子導入の7日後に動物を屠殺し、上記に従って内膜/中膜厚さ比および組織構造について分析した(Yla-Herttuala et al., Arteriosclerosis (1986) 6:230-236;Yla-Herttuala et al., (1990)、上掲)。内膜肥厚の差異はなくなった。
【0184】
実施例1.3
HUVECの集密培養物を無血清培地で2回洗浄し、所定濃度の組換えヒトVEGFの存在下で15分間、または10ng/ml VEGFの存在下で所定の時間、この培地と一緒にインキュベートした。いくつかの実験では、細胞を100μM L−NAMEで1時間前処理し、次いで、10ng/ml VEGFを用いるかまたは用いずに10分間処理した。培地を取り出し、10mM トリス/HCl(pH7.6)、5mM EDTA、50mM NaCl、30mMピロリン酸ナトリウム、50mM NaF、0.1mM NaVO、1mM PMSFおよび1%トリトンX−100(溶解緩衝液)の添加により、4℃で細胞を迅速に溶解させた。溶解物を15000×gで10分間遠心分離にかけることにより浄化し、浄化した溶解物をPY20抗ホスホチロシンmAbと一緒に40℃で2時間インキュベートすることにより免疫沈澱法を行った。溶解物をタンパク質A−アガロースと一緒にさらに1時間インキュベートすることにより免疫沈澱物を回収した。免疫沈澱物を溶解緩衝液で3回洗浄し、次いで、タンパク質を2×SDS−PAGEサンプル緩衝液で抽出した。SDS−PAGE後、免疫沈澱したタンパク質を膜に移動させ、次いで、PY20 mAbでイムノブロッティングを行った。これは、VEGFがVEGF受容体に対応する主要な205kDタンパク質のリン酸化を誘発することを示す(100、125、145、190および205での主要なチロシンリン酸化タンパク質)。L−NAMEは、VEGFへの応答をなくす。
【0185】
組換えVEGFを、25ng/mlの濃度で2時間まで(亜硝酸産生は、約16μMの外膜レベルから増加し、1.8−2μMで維持された)、または、0、2.5、25ng/mlの所定濃度で10分間、添加した。25ng/ml VEGFを10分間添加した後、VEGF応答に対するL−NAME(100μM)前処理(1時間)の効果を測定した。キャピラリー検出法を用いて亜硝酸産生を測定した(Leone et al., in Methods in Nitric Oxide Research, Feelisch and Stanler, eds. John Wiley & Sons, New York (1996) 499-508)。レベルは、VEGFの存在下、約19および約2.1μMに上昇した;L−NAMEの添加により対照レベル(約17μM)に減少した。
【0186】
結果:lacZ形質導入動脈と比較して、VEGF遺伝子導入は、術後1週間目に内膜肥厚を有意に減少させることが見出された(内膜/中膜比0.3対1.1、<0.05、各々)。この効果は、2週間後に低下した。これは、おそらく、プラスミド/リポソーム媒介遺伝子導入が、典型的には、遺伝子導入後2-3日の間に最高のタンパク質発現を有するトランスフェクト遺伝子の一時的発現を誘発するに過ぎないという事実によるものである(Nabel et al, Ann. Rev. Physiol. (1994) 56: 741-761)。
【0187】
動脈の免疫組織化学解析は、内膜肥厚がほぼ例外なくSMCからなっていることを示した。内皮層は研究した切片の全てに存在した。トランスフェクト動脈において副作用または炎症は、全く検出されなかった。
【0188】
トランスフェクトVEGFの発現は、導入遺伝子に対して特異的なプライマーを用いるRT−PCRにより、および、in situハイブリダイゼーションにより確認された。VEGFおよびlacZ発現のほとんどは、線維芽細胞およびSMCにおける外膜および外中膜で生じた。遺伝子導入の14日後にVEGFトランスフェクト動脈のうち3つにおいて外膜血管新生が見られた。lacZトランスフェクト動脈においては、血管新生は検出されなかった。
【0189】
カラーモデルを用いるlacZ−プラスミド/リポソーム遺伝子導入が動脈細胞の0.05%において局所遺伝子導入を生じることは、従来、示されていた。低い遺伝子導入効率にもかかわらず、カラーの内側で産生された分泌形態のVEGFは、遺伝子導入の14日後に3つのVEGFトランスフェクト動脈における血管新生の存在により示されるように、局所的な動脈微小環境中で生物学的効果を生じる。急性低酸素症における場合、分泌されたVEGFは、拡散によりECに達し、EC上のVEGF受容体に結合すると思われる。
【0190】
内膜肥厚に対するVEGFの阻害効果は、直接または間接VEGF誘発EC由来因子または次にSMC増殖を阻害する活性のいずれかによると仮定された。詳しくは、内膜肥厚に対するVEGFの効果は、NO経路を介して媒介されると仮定された。この仮説は、遺伝子導入実験の間、動物にNOシンターゼ阻害物質L−NAMEを投与することにより、ニュージーランド白ウサギ(n=8)のサブセットにおいて試験された。L−NAMEがVEGF−およびlacZ−トランスフェクト動脈間の内膜肥厚の差異をなくしたことが見出された。動脈壁におけるVEGFに対する主要な標的細胞は、ECである。VEGF受容体を有する他の細胞型は、単球であるが、特異的抗体を用いて免疫組織化学により判定すると、単球は、これらの条件下でカラーを取り付けた頚動脈からなくなっている。
【0191】
これらの結果(内膜肥厚の差異能)は、NO産生の刺激を介する内膜肥厚のVEGF誘発阻害と矛盾しなかった。したがって、VEGFがECの培養物中でNO産生を直接刺激するかを試験した。VEGFは、1−25ng/mlの濃度範囲内でVEGF受容体に相当する主要な205kDaタンパク質のチロシンリン酸化を誘発した。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)へのVEGFの添加は、亜硝酸レベルの測定によりモニターされるとおり、NO産生の時間−および濃度−依存性増加を生じた。NO産生に対するVEGFの効果は、早くもVEGFの添加の30秒後には見られ、5分後に最高に達し、2時間まで保持された。VEGFの最大効果の半分が5ng/mlで得られた。VEGF誘発リン酸化およびNO産生は、100μM L−NAMEの存在下で完全になくなった。かくして、VEGF遺伝子導入は、トランスフェクト動脈のECにおけるNO産生を刺激し、少なくとも部分的にNO媒介メカニズムを介してSMC増殖を制限すると思われる。該知見は、内皮NOシンターゼcDNAによる動脈のトランスフェクションが内膜肥厚を減少させるという従前の観察結果(Von der Leyon et al., PNAS (1995) 92: 1137-1141)と矛盾しない。
【0192】
Callow et al.(上掲)およびAsahara et al.(上掲)は、VEGFタンパク質の投与が露出した動脈におけるEC増殖を刺激するという結論を下したが、内膜肥厚の阻害に関する実際のメカニズムは、研究されなかった。カラーを取り付けた頚動脈では、内膜肥厚は、解剖学的に無傷の内皮の存在下で刺激される。したがって、ここで報告された内膜肥厚に対する動脈VEGF遺伝子導入の阻害効果は、VEGF刺激性再内皮形成によるものであるとは考えられない。これらの結果によると、VEGFは、HUVECにおけるNO産生を直接誘発することができ、この結果、これは、VEGFが内膜肥厚を阻害することができる1つのメカニズムである。VEGFはまた、TGF−βまたはプロスタサイクリンを含むSMC増殖を負に調節することができる他の因子の産生も刺激する。
【0193】
実施例2
遺伝子デリバリーのためにプラスミド/リポソーム複合体を用い、モロニーマウス白血病ウイルス由来(MMLV)レトロウイルス、偽型水疱性口内炎ウイルスタンパク質−G(VSV−G)含有レトロウイルスおよびアデノウイルスを外膜に適用したシラスティックカラーを用いてウサギ頚動脈に送達した。該カラーは、1)遺伝子送達リザーバーを提供するため;2)内腔内操作を行わず、内皮を全体的に解剖学的に無傷のままにしておくため;および3)カラーの設置が動脈平滑筋細胞(SMC)増殖を誘発し、標的細胞増殖が必要とされる場合にレトロウイルス遺伝子導入効率を増強するために用いられる。
【0194】
遺伝子導入:ニュージーランド白ウサギ(1.8−2.5kg)を用いた。麻酔薬は、フェンタニル−フルアニゾン(0.3mg/kg)/ミダゾラム(1mg/kg)(Yla-Herttuala et al., J. Clin Invest. (1995) 95:2692-2698)であった。正中頚切開により左頚動脈を露出させた。生物学的に不活性な2cmのシラスティックカラー(フィンランド、クオピオのメディジーン・オサケ・ユキチュア(MediGene Oy))を、いずれかの端部でわずかに外膜に触れるように頚動脈の周囲に設置した(Booth et al.上掲)。カラー設置手術の4−5日後、遺伝子導入を行った。遺伝子導入のために、動物を再度麻酔した。外科的に再露出されたカラーを静かに開き、遺伝子導入溶液(下記参照)500μlを充填した。切開部を閉じ、後に動脈を遺伝子導入効率について分析した。
【0195】
組織学的分析:カラーを設置した動脈を注意深く取り出し、3等分した:近位の3分の1を4%パラホルムアルデヒド/PBS(pH7.4)中で15分間浸漬固定し、次いで、OCT化合物(アメリカ合衆国のマイルス・サイエンティフィック)中に包埋させた。中間の3分の1を4%パラホルムアルデヒド/PBS(pH7.4)中で4時間浸漬固定し、15%スクロース(pH7.4)で48時間洗浄し、次いで、パラフィン中に包埋させた。遠位の3分の1をOCT化合物中に包埋させ、冷凍切片のために処理した。ランダムに選択した10個の切片をβ−ガラクトシダーゼ活性のためのX−galで12時間染色し、遺伝子導入効率の測定のために用いた(Nabel et al., Science (1990) 249: 1285-1288;Yla-Herttuala et al., (1995)上掲)。遺伝子導入効率は、ランダムに選択した20個の100Xフィールド中で核酸の総数の割合としてのβ−ガラクトシダーゼ含有細胞のパーセンテージとして算出した。免疫細胞化学および細胞型および/または内膜/中膜厚さ比の分析のために、カラーを設置した動脈の各3分の1部分からランダムに選択された切片を用いた(Booth et al.上掲)。
【0196】
以下の抗体を用いて細胞型を同定した:SMC:HHF−35 mAb(1:500希釈、アメリカ合衆国のエンゾ・ダイアグノスティクス)、α−アクチンmAb(1:1000希釈;シグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Co.));マクロファージ:RAM−11 mAB(1:1000希釈;アメリカ合衆国のダコ(Dako))、抗−CD68 mAb(1:250希釈、ダコ);内皮細胞:抗CD31 mAb(1:50希釈;ダコ);多形核白血球:抗CD45 mAb(1:100希釈;ダコ);および抗ウサギT−細胞:MCA 805 mAb(1:1000希釈;ダコ)。シグナル検出のためにアビジン−ビオチン−西洋ワサビペルオキシダーゼ系を用いた(ベクター・ラボラトリーズ(Vector laboratories))(Yla-Herttuala et al., (1995)上掲)。免疫染色後、組織切片をヘマトキシリンで対比染色した。
【0197】
増殖指数の決定:5−ブロモ−2'−デオキシウリジン(BrdU)標識化(Soma et al., Arterioscler. Thromb. (1993) 13:571-578)を用いて、カラーを設置した動脈における増殖指数を決定した。すなわち、ニュージーランド白ウサギ(n=12)に、屠殺の3時間前にBrdU(体重1kg当たり40mg)を注射した。70%エタノール中で頚動脈を一夜固定し、パラフィン中に包埋した。核のヨウ化プロピジウム染色法に従って、連続切片(動物あたり20切片)を染色して、FITC標識抗マウスIgG(ダコ)を用いてBrdUを検出した。標識指数をBrdU陽性核のパーセンテージとして計算した。対側頚動脈を偽手術し、対照として用いた。
【0198】
プラスミド/リポソーム:以下のとおり、pCMV−β−ガラクトシダーゼ(lacZ)発現プラスミド(プロメガ(Promega))をリポフェクチン試薬(BRL)と複合体形成させた:プラスミド25μgをリポフェクチン試薬25μlとゆっくりと混合し、リンゲル溶液で500μlに希釈した。プラスミド/リポフェクチン溶液中で沈殿物は見られなかった。該混合物を室温で少なくとも15分間放置し、2時間以内に遺伝子導入のために用いた。プラスミド調製物を、リポ多糖汚染がないことについてチェックした(リムルス・アッセイ、シグマ・ケミカル・カンパニー)。
【0199】
レトロウイルス:該研究のために、lacZ含有pLZRNL MMLVレトロウイルス(Yla-Herttuala et al., (1995)上掲;Miyanohara et al., PNAS (1988) 85:6538-6542)またはLacZ VSV−G偽型レトロウイルス(Yee et al., PNAS (1994) 91:9564-9568)を用いた。共に、5'LTRにより、lacZの発現が駆動される。複製不全LZRNL両栄養性レトロウイルスをPA317細胞中にパッケージングし、従前の記載(Yla-Herttuala et al., (1995)上掲)に従って、力価5×10cfu/mlで用いた。複製不全VSV−G偽型レトロウイルスは、一過性トランスフェクションを用いて(Yee et al.上掲)293 GP細胞中で産生された。偽型レトロウイルスを、超遠心分離を用いて濃縮し、力価1×10cfu/mlで用いた。使用前、レトロウイルス調製物を、細菌学的汚染またはヘルパーウイルスがないことについてチェックした(Yee et al.上掲)。
【0200】
アデノウイルスベクター:該研究のために、複製不全El欠失アデノウイルスを用いた(Gosh-Choudhury et al., Gene (1986) 50: 161-171;Simari et al., J. Clin. Invest. (1996) 98: 225-235)。相同的組換え(Gosh-Choudhury et al., 上掲;Simari et al., 上掲)を用いて、β−アクチン−プロモーターおよびCMVエンハンサー下の核標的β−ガラクトシダーゼcDNAをアデノウイルスゲノムのEl欠失領域にクローン化させた。複製不全アデノウイルスを293細胞中に産生させ、超遠心分離により濃縮した。遺伝子導入実験のために力価1×10pfu/mlを用いた。アデノウイルス調製物を、ヘルパーウイルスまたは細菌学的汚染がないことについて分析した(Gosh-Choudhury et al., 上掲)。
【0201】
結果:外膜カラーにより、手術の7−14日後に新内膜過形成が生じた。内皮は該研究の全体にわたって解剖学的に無傷のままであった。BrdU標識は、手術の3日後に23%のピーク増殖指数を示した。新内膜は、SMCのみから構成された。プラスミド/リポソーム複合体は、0.01%未満の効率で外膜および外中膜中への検出可能な遺伝子導入を生じさせた。未トランスフェクトまたはリポソーム処理のカラーを取り付けた動脈は、β−ガラクトシダーゼ活性についての染色を示さなかった。
【0202】
おそらく、レトロウイルス遺伝子導入は増殖細胞中で生じるだけなので、外膜レトロウイルス遺伝子導入は、カラーなしではあまり効果的ではなかった。複製不全MMLVレトロウイルスを用いた遺伝子導入効率は、低かった(0.01%未満)。VSV−G偽型レトロウイルスを用いた遺伝子導入効率は、0.1%であった。MMLVおよびVSV−Gレトロウイルスを用いると、β−ガラクトシダーゼ染色が外膜および外中膜中で見られた。
【0203】
複製不全アデノウイルスは、効果的な遺伝子導入をもたらし、β−ガラクトシダーゼ染色が外膜および外中膜中で検出された。興味深いことには、染色は、いくつかの内皮細胞およびいくつかの内膜細胞中でも見られた。lacZアデノウイルス構築物は、β−ガラクトシダーゼに対する核局在化シグナルを含有するので、強いX−gal染色は、トランスフェクト細胞の核中にあった。遺伝子導入効率は、分析切片において染色された核の総数から概算すると、約10%であった。VSV−Gレトロウイルスおよびアデノウイルストランスフェクト動脈では、いくつかの炎症細胞が見られた。プラスミド/リポソームトランスフェクト動脈では、炎症細胞は全く見られなかった。
【0204】
この実施例では、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)マーカー遺伝子の外膜および外中膜への導入は、全ての遺伝子導入系を用いて生じた。アデノウイルスもまた、β−ガラクトシダーゼ遺伝子をいくつかの内皮細胞中に導入した。5日後、アデノウイルスベクターにより、細胞の10%までがβ−ガラクトシダーゼ活性を示すという最高の遺伝子導入効率が得られた。偽型VSV−Gレトロウイルスもまた、外膜および外中膜中で細胞の0.1%において遺伝子導入を成し遂げるのに効果的であった。プラスミド/リポソーム複合体およびMMLVレトロウイルスは、細胞の<0.01%を感染させた。いずれの遺伝子導入系を用いても有害な組織反応は見られなかった。
【0205】
かくして、複製不全アデノウイルス、VSV−G偽型レトロウイルスおよびプラスミド/リポソーム複合体は、カラー法を用いて動脈壁への遺伝子導入のために用いることができる。中膜SMCおよび内皮に対する効果は、外膜側から達成することができる。
【0206】
実施例3
この実施例では、VEGFによるPGIの刺激を試験した。
【0207】
細胞培養:HUVECをクロネティクス(Clonetics)から入手し、2%FBSで補足した製造者自身の培地中で培養させるか、または、コラゲナーゼ消化により新鮮な臍帯から増殖させ、20%FCSおよび内皮細胞増殖サプリメントで補足した培地199において1%ゼラチン被覆プレート上で培養した(Wheeler-Jones et al., Biochem. J. (1996) 315:407-416)。実験目的のために、HUVECの一次培養物を37℃で5分間の0.05%トリプシン/0.02%EDTAによる処理により分散させ、次いで、90mm、60mmまたは35mmのプラスチック皿中、または、24ウエルプレート上で再度平板培養した。培養物を37℃で5%COおよび90%空気を含有する加湿雰囲気中に維持し、6-8日後、または細胞が集密単層を形成した時に用いた。
【0208】
PGIアッセイ:24ウエルプレート中のHUVECの集密培養物を無血清M199(pH7.4)中で2回洗浄し、VEGFを含有する培地に暴露した。従前の記載(Wheeler-Jones et al., 上掲)に従って、PGIの安定な分解物である6−ケト−PGF1aのラジオイムノアッセイにより細胞上清のPGI含量を定量化した。
【0209】
アラキドン酸放出:実質的に従前の記載(Domin and Rozengurt, J. Biol. Chem. (1993) 268:8927-8934)に従ってアラキドン酸放出を測定した。集密HUVEC培養物を[5,6,8,9,11,12,14,15−H]アラキドン酸(1mCi/ml、211Ci/ミリモル)と一緒に24時間インキュベートした。次いで、該細胞を培地199で2回洗浄し、0.3%BSA(実質的に脂肪酸を含まない)およびVEGFまたはトロンビンで補足したこの培地1ml中でインキュベートした。処理後、培地を取り出し、16,000×gで5分間微量遠心器で遠心分離し、上清の放射能をシンチレーションカウンター中でカウントすることにより測定した。
【0210】
ウェスタンブロット法:上記ならびに結果および図面の説明の記載に従って、細胞の静止状態培養物の因子による処理、および、細胞溶解を行った。SDS−PAGE後、タンパク質をイモビロン(Immobilon)膜(ミリポア・インコーポレイテッド(Millipore Inc.))に移した。MAPキナーゼアッセイのために、PBS(pH7.2)中5%脱脂粉乳を用いて膜をブロックし、所定の一次抗体(1mg/ml)を含有するPBS/0.05%トゥイーン−20中で3−5時間インキュベートした。cPLAに対する抗体を用いるイムノブロットのために、膜を0.2%(w/v)I−ブロック(トロピックス(Tropix))を含有するTBST50mMトリス/HCl、150mM NaCl、0.02%(v/v)トゥイーン20(pH7.4)(TBST)中で3時間ブロックし、次いで、TBST中、一次抗血清と一緒にインキュベートした。次いで、膜をTBST中で6回洗浄し(各々10分間洗浄)、HRPコンジュゲート二次抗体を含有するTBST中で1時間インキュベートした。製造者の使用説明書に従って、HRPコンジュゲート抗マウスまたは抗ウサギIgGおよびECLTM試薬を用いるケミルミネッセンスにより、免疫反応性バンドを視覚化した。
【0211】
MAPキナーゼアッセイ:所定の因子で細胞を処理し、氷冷PBSで2回迅速に洗浄し、すぐに、沸騰している2×SDS−PAGEサンプル緩衝液100mlの添加により抽出した。細胞抽出物を掻取ることにより回収し、95℃に10分間加熱し、12.5%アクリルアミドSDS−PAGEゲル上で移動させた。イモビロン膜への移動後、Tyr204(Payne et al., EMBO J. (1991) 10: 885-892)でのリン酸化により活性化されたp42およびp44 MAPキナーゼ(Erk−1およびErk−2)を特異的に認識する抗体でタンパク質をイムノブロットした。
【0212】
cPLA移動度シフトアッセイ:60mm皿中の集密静止状態HUVECを無血清培地199(pH7.4)中で2回洗浄し、次いで、図面の説明で詳述した因子を含有する培地に所定の時間暴露させた。従前の記載(Wheeler-Jones et al., 上掲)に従って、細胞溶解物を調製した。SDS−PAGE(10%アクリルアミド)によりタンパク質を分離し、膜への移動後、cPLAに対するポリクローナル抗血清(BorschHaubold et al., J. Biol. Chem. (1995) 270: 25885-25892;および、Kramer et al.,J. Biol. Chem. (1996) 271:27723-27729)を用いてイムノブロットした。
【0213】
vWF分泌のアッセイ:所定の因子で処理したHUVECの集密培養物から得られた培地の試料中でELISA(Wheeler-Jones et al., 上掲)によりcWF分泌を測定した。プレートは、抗vWF mAb CLBRAg35で被覆されており、アッセイの検出下限は、約1.0mU/mlであった。
【0214】
材料:組換えVEGFは、ユービーアイ(UBI)またはアール・アンド・ディ・システムズ(R&D Systems)から入手した。組換えPlGFは、ワーナー・リゾー(Werner Risau)教授の寄贈物であり、また、アール・アンド・ディ・システムズからも入手された。ポリクローナルcPLA抗血清は、ラス・クラマー(Ruth Kramer)博士(インディアナポリスのイーライ・リリー(Eli Lilly))から快く提供された。抗vWF mAb CLBRAg35は、ジェイ・エイ・ヴァン・モウリク(J. A. Van Mourik)博士(オランダ、アムステルダムのセントラル・ブラッド・ラボラトリー(Central Blood Laboratory))からの寄贈物であった。p42/p44 MAPキナーゼの活性化リン酸化形態に対する抗体は、ニュー・イングランド・バイオラブズ・インコーポレイテッド(New England Biolabs Inc.)から購入した。[5,6,8,9,11,12,14,15−H]アラキドン酸、ECLTM試薬およびHRPコンジュゲート抗マウスIgGは、アマシャム(Amersham)(イギリス)から入手された。ヤギ抗ウサギHRPコンジュゲートIgGは、ピアス・インコーポレイテッド(Pierce Inc.)から入手された。用いられる全ての他の試薬は、入手可能な最高純度のグレードのものであった。
【0215】
結果:HUVECの集密培養物をVEGFで2時間までの様々な時間処理し、これらの時点で培地を取り出し、PGIの安定な代謝性分解物である6−ケトPGF1aの存在についてアッセイした。VEGFは、PGIの産生の時間依存性増加を生じ、これは、因子添加後の15分ほどで検出可能であり、60分間まで増加し続け、その後、2時間まで持続した。対照細胞は、試験された時間経過の間、PGI産生の非常にわずかな増加を示しただけであった。PGI産生のVEGF刺激は、また、濃度依存性であった。60分間インキュベートした後、PGI合成の増加は、5ng/mlで検出可能であり、10ng/mlで最大値の半分であり、15ng/mlで最大に達した。一貫して、VEGF誘発PGI合成が25ng/mlでわずかに低下することに注目した。
【0216】
さらに、Flt−1 VEGF受容体に対して特異的なリガンドであるVEGF関連因子PlGFがHUVEC中でPGI合成を誘発することができるかを試験した。5つの独立した試験において、PlGFは、VEGFよりも有意に弱くPGI合成を刺激した。さらに、VEGFおよびPlGFの両方の応答を、内皮細胞および血小板におけるプロスタノイド合成の有効なインデューサーであるトロンビンの応答と比較した。VEGF、PlGFおよびトロンビンの効果を平行培養物中で直接比較したいくつかの独立した試験において、25ng/ml VEGF、60ng/ml PlGFおよび1U/mlトロンビンと一緒に60分間インキュベートすることにより産生された6−ケトPGF1aの平均増加倍数は、各々、平均対照非刺激レベルの2.0倍、1.3倍および4.4倍であった。
【0217】
PGI合成のVEGF刺激がPLAのイソ形態の活性化により媒介された場合、VEGFは、細胞からのアラキドン酸の迅速な動員を生じると予測される。これを試験するために、HUVECを放射性標識アラキドン酸と一緒に24時間プレインキュベートし、次いで、VEGFで様々な時間で抗原投与した。VEGFは、プレ標識細胞の培地中に放出された標識の増加を生じ、これは、因子添加後、10分で明らかになり、30分で最大に達した。平行培養物中で測定した場合、VEGF刺激性アラキドン酸放出のための時間経過は、トロンビンについてのものと非常に類似していた。VEGF刺激性アラキドン酸放出についての濃度依存性は、PGI産生について得られたものと非常に類似しており、2.5−5ng/mlで最大効果の半分であり、10−20ng/mlで最大であった。トロンビンおよびVEGFのPGI産生を刺激する相対的な能力と同様に、一貫して、最大VEGF誘発アラキドン酸放出は、トロンビンについて得られたものよりも低かった。4つの独立した試験において、VEGFおよびトロンビンは、各々、基本的な非刺激レベルの1.6倍および3.4倍の標識アラキドン酸の放出の平均増加を生じた。PlGFは、プレ標識HUVECからのアラキドン酸放出の検出可能な有意な増加を生じなかった。
【0218】
迅速なVEGF刺激性アラキドン酸放出についての妥当と思われる1つのメカニズムは、サイトゾル形態のPLAにより触媒化されるアラキドン酸の直接酵素的放出である。cPLAは、MAPキナーゼ依存性リン酸化により活性化させることができ、MAPキナーゼを含む他の酵素のリン酸化および活性化と同様に、cPLAのその活性化形態への転換は、高速移動形態から低速移動形態へのSDS−PAGEゲルにおけるその移動度のシフトによりモニターリングすることができる。したがって、VEGFに対する応答におけるcPLAの活性化は、cPLAに対する特異的抗体(BorschHaubold et al., 上掲、および、Kramer et al., 上掲)を用いてHUVEC抽出物のウェスタンブロット分析法により測定された。対照の非刺激HUVECの抽出物において、cPLAに対する抗体は、ほぼ等しい強度の、ほぼMr 97,000について移動する2つの明瞭なバンドを認識した。cPLAは、85kDaの予測分子量を有するが、このタンパク質は、97kDaバンドとしてSDS−PAGEにおいて移動することが従前に報告されていた(BorschHaubold et al., 上掲、および、Kramer et al., 上掲)。
【0219】
25ng/mlのVEGFは、低速移動形態のcPLAの免疫反応性の著しい増加、および、付随的なより高速の移動形態の相対的な減少を生じ、これは、VEGF添加の2分後に検出可能であり、15分後に最大に達し、60分後まで持続した。5つの独立した試験において、一貫して、VEGFは、より低速の移動形態のcPLAの免疫反応性の著しい増加を生じた。cPLAの電気泳動移動度のVEGF誘発性低下もまた、濃度依存性であり、2.5ng/mlで低速移動形態が著しく増加し、試験された最高濃度5−10ng/mlで最大に増加した。VEGFは、より高速の移動形態のcPLAのレベルの見掛の低下を生じたが、この種は、試験された全てのVEGF濃度および処理時間で明らかであった。トロンビンはまた、より高速の移動形態からより低速の移動形態へのcPLAの移動の著しいシフトを生じた。どちらも正確に、VEGF処理HUVECの抽出物中で検出されたものと共に移動した。同実験におけるVEGFおよびトロンビンの効果の直接比較は、PGI合成およびアラキドン酸放出について得られた結果と同様に、トロンビンは、より高速の移動形態の該酵素の実質的に完全な消失を伴って、cPLAのゲル遅延のさらに著しい増加を生じた。PlGFは、免疫反応性cPLAのより高速の移動形態からより低速の移動形態への移動度において検出可能なシフトを生じなかった。
【0220】
さらに、VEGFがまた、HUVECによるvWF分泌を誘発したかを試験した。VEGFは、vWFの時間および濃度依存性産生を刺激した。vWFは、早ければ25ng/ml VEGFの細胞への添加の30分後にはHUVEC培地中で検出可能であり、試験された時間経過の間、増加し続け、3時間後、対照細胞におけるよりも2.5倍高いレベルに到達した。VEGFの効果についての濃度依存性は、PGI産生について得られたものと同様であり、約10ng/mlで最大応答の半分であり、試験された最高濃度である25mg/mlで最大効果であった。PGI合成について得られた結果と同様に、VEGFの効果は、トロンビンのものよりも一貫して弱いが、それに匹敵した(図12A)。VEGFとは対照的に、PlGFは、HUVECにおけるvWF分泌の検出の可能な刺激を生じなかった。走化性チャンバーにおけるHUVECの移動に対するVEGFおよびPlGFの効果の比較により、VEGFは、走化性の濃度依存性増加を刺激したが、PlGFは、5−60ng/mlの濃度範囲で検出可能な増加を生じなかったことが判明した。
【0221】
VEGFは、HUVECにおいてp42/p44 MAPキナーゼを活性化する。MAPキナーゼが他の因子によるcPLA活性化に関与したことを考慮すると、これは、MAPキナーゼカスケードがVEGF誘発性PGI合成およびcPLA活性化を媒介する可能性を生じた。集密的HUVECにおけるp42/p44 MAPキナーゼ活性のVEGF刺激性活性化についての濃度依存性を試験した。細胞のVEGFへの15分間暴露により、0.5ng/mlの低い濃度で活性の検出可能な増加を生じ、1〜5ng/mlで最大の半分の増加を生じ、10ng/mlで最大効果を生じ、50ng/mlまで持続した。VEGFの著しい効果とは対照的に、1−60ng/mlの濃度範囲のPlGFは、如何なる場合も、HUVECにおけるMAPキナーゼ活性の検出可能な増加をあまり生じなかった。p42/p44 MAPキナーゼのVEGF刺激は、p42/p44 MAPキナーゼを特異的にリン酸化および活性化する二重特異性トレオニンおよびチロシンキナーゼであるMAPキナーゼキナーゼの選択阻害物質であるPD98059(Dudley et al., PNAS USA (1995) 92:7686-7689)での30分間の前処理より完全に阻害された。該阻害物質の効果は、5mMで50%よりも大きい阻害、および、10−20mMの対照非刺激レベルへのMAPキナーゼ活性の低下を伴う濃度依存性である。
【0222】
VEGF誘発アラキドン酸動員経路におけるMAPキナーゼカスケードの役割は、最初に、PGI合成に対するPD98059の効果を試験することにより研究された。HUVECの30mM PD98059での30分間の前処理は、25ng/ml VEGFまたは1U/mlトロンビンと一緒の次なる60分間インキュベーションにより誘発されるPGI産生を完全に阻害した。VEGF誘発性PGI合成に対するPD98059の効果は、約5mMで最大の半分の効果、および、10mMで刺激されたPGI産生に対する最大阻害効果を伴う濃度依存性であった。PD98059が、VEGF処理細胞におけるPGI産生を対照細胞において測定された値よりも減少させたことを示したが、この効果は、10mMよりも高い阻害物質濃度で明らかなだけであった。
【0223】
次に、PD98059が、cPLAの電気泳動移動度のVEGF誘発性減少に対して効果を及ぼすかを試験した。25mMのPD98059での前処理は、低速移動形態のcPLAのVEGF刺激性増加を完全にブロックした。PGI合成に対するPD98059の効果と同様に、該阻害物質は、cPLAゲル移動度のVEGF依存性低下を逆転させるだけではなく、より低速の移動形成の免疫反応性を対照レベル以下に低下させ、より高速の移動形態の免疫反応性を対照レベル以上に上昇させた。
【0224】
VEGF誘発cPLA活性化およびPGI合成に対するPD98059の効果の選択性は、VEGF刺激性vWF産生がPD98059による阻害の影響を受け易いかを試験することにより研究された。cPLA活性化およびPGI合成に対するPD98059の効果とは対照的に、HUVECの25mMのMAPキナーゼキナーゼ阻害物質による前処理は、次のVEGFの添加により生じたvWFの分泌を防止したり有意に低下させたりしなかった。PD98059は、また、基底またはトロンビン刺激性vWF分泌に対して効果を全く及ぼさなかった。
【0225】
結論:VEGFは、15分以内で検出可能であり、10ng/mlで最大の半分であり、60分後に15ng/mlで最大であったPGI合成の時間および濃度依存性増加を刺激した。10個の独立した試験において、平均最大VEGF刺激性PGI合成は、60分後、25ng/mlで基底の2倍以上のレベルであった。VEGF関連因子である胎盤成長因子(PlGF)は、非常に弱い1.3倍増加を誘発し、トロンビン(1U/ml、60分)は、対照レベルよりも4.4倍高い平均最大増加を誘発した。VEGFは、より迅速な速度(最大の半分のアラキドン酸動員が10分後に起こり、30分後に最大であった)を伴う以外はPGI合成について得られたものと同様の濃度依存性を伴ってHUVECからのアラキドン酸の放出を刺激した。活性化のマーカーとしてSDS−PAGEにおける移動度シフトを用いるサイトゾルホスホリパーゼA(cPLA)活性化の測定は、VEGFが時間および濃度依存的にcPLA活性を刺激したことを示した:低速移動および活性化形態のcPLAの増加が早くも2分で生じ、2.5ng/mlの低さで検出可能であり、15分後に5ng/mlで最大に到達した。PGI合成を誘発する他の薬剤と同様に、VEGFはまた、30分以内で検出可能であり、10ng/mlで最大の半分であり、25ng/mlでの3時間処理後に対照レベルよりも2.5倍高いレベルに到達したHUVECにおけるフォン・ビルブラント因子(vWF)の分泌の著しい時間および濃度依存性増加を生じた。VEGFは、1ng/mlの低さで検出可能であり、5−10ng/mlで最大値に到達したp42/p44 MAPキナーゼの迅速かつ一過性の活性化を誘発した。対照的に、PlGFは、MAPキナーゼ活性に対してあまり効果を及ぼさなかった。MAPキナーゼキナーゼの選択的阻害物質であるPD98059は、VEGF刺激性MAPキナーゼ活性、PGI合成およびcPLAゲル遅延の完全な阻害を生じたが、VEGF誘発性vWF分泌に対して効果を及ぼさなかった。これらの知見は、VEGFがcPLA媒介アラキドン酸放出を介するPGI合成を刺激することができるという最初の証拠を提供する。これらの知見は、また、この生合成経路のVEGF刺激が、少なくとも一部分、p42/p44 MAPキナーゼの活性化を介して生じ得ることを示す。
【0226】
ここで示された結果は、VEGFがHUVECにおけるPGI産生の著しい時間および濃度依存性増加を刺激することを示す。VEGFの効果は、トロンビンのものよりも弱いが、2つの因子に対する応答は、平均して2.5のファクターだけ変化した。VEGFは、ヒト内皮細胞からのアラキドン酸の迅速な動員およびゲル遅延アッセイにより判断されるようなcPLAの迅速な活性化を刺激する。アラキドン酸動員に対するVEGFの効果を測定するために用いられる方法は、H−アラキドン酸で前標識した細胞からのH−標識の放出に基づく。アラキドン酸放出の研究は、培地中に存在するBSAを用いて行われるので、HUVECから放出された主要産生物は、H−アラキドン酸である可能性が高い。VEGF誘発PGI産生、アラキドン酸放出およびcPLA活性化についての濃度依存性は、お互いに類似していた(全て、5−10ng/mlの範囲内)。これらの結果は、アラキドン酸放出およびPGI合成のVEGF刺激がHUVECにおけるこの因子に対する高親和性受容体を介して媒介されることを示す。
【0227】
アラキドン酸放出およびcPLA移動度シフトは、共に、PGI合成よりも迅速に生じ、PGIの増加した産生が、少なくとも一部分、増加したcPLA活性の直接的結果および構成酵素COX−1に対する基質である細胞内アラキドン酸の利用性の次なる増加である可能性が非常に高いという見解と一致する。VEGFは、ホスホリパーゼC−gチロシンリン酸化およびホスホイノシチド代謝を刺激することが知られているので、ホスホリパーゼC−g(および/または、ホスホリパーゼD)およびジアシル−およびモノアシルグリセロールリパーゼの続発性作用を含む他のメカニズムは、PGI合成のVEGF誘発アラキドン酸動員に寄与し得ることは全く妥当であると思われる。
【0228】
VEGF関連因子、PlGF、Flt−1に対して特異的なリガンドがPGIの発生を刺激するかを研究した。結果は、PlGFがPGI合成を誘発することができるが、VEGFよりも弱いことを示唆する。アラキドン酸放出またはcPLA移動度シフトに対するPlGFの有意な効果は、全く検出されなかった。PlGFは、Flt−1 VEGF受容体にのみ高親和性をもって結合するので、これらの結果は、HUVEC中でのVEGFによるPGI産生の刺激が主にKDR/Flk−1受容体により媒介されるが、Flt−1もまたこの経路の刺激に対して寄与し得るという結論とほとんど一致する。しかしながら、Flt−1媒介PGI合成は、cPLAリン酸化以外のメカニズムを含むことは明らかである。少なくとも2つの説明は、PlGFに対する比較的低い応答を説明することができる。Flt−1は、弱い応答を誘発し、および/または、Flt−1は、KDR/Flk−1よりも低いレベルで存在する。
【0229】
ここで示した結果は、VEGFが時間および濃度依存的にvWFの分泌を誘発したことを示す。vWF分泌に対するVEGFの効果についての濃度依存性は、PGI合成およびアラキドン酸動員についてのものと厳密に一致する。PGI合成に対するPlGFの比較的弱い効果とは対照的に、PlGFは、HUVECによるvWF放出の検出可能な増加を刺激しなかった。
【0230】
VEGFがcPLAの電気泳動移動度の迅速なシフトを生じるという知見は、p42/p44 MAPキナーゼの増加したリン酸化および結果としての活性化と一致する。これは、血小板中でcPLAリン酸化および活性化を刺激することが知られているトロンビンがHUVEC中でのcPLA移動度の同様のシフトを生じたというここで示された知見により支持される。ここで示された結果は、VEGFがp42/p44 MAPキナーゼを活性化し、MAPキナーゼキナーゼの選択的阻害物質であるPD98059によるこの経路の阻害がPGI産生およびVEGFにより誘発されたcPLAの増加したゲル遅延をブロックすることも示す。PD98059の効果は、VEGFDまたはトロンビンのいずれかにより刺激されるvWF分泌に対して効果を及ぼさなかったので、少なくとも部分的に、選択的であった。VEGFの著しい効果と対照的に、PlGFは、MAPキナーゼ活性を有意には増加させなかった。PlGFのMAPキナーゼ活性を刺激する能力が明らかにないことは、概して、VEGFと比較してPGI産生に対するこの因子の非常に弱い効果およびこの因子のcPLAゲル遅延を促進する能力が明らかにないことと一致する。
【0231】
HUVECにおけるPGI産生のアッセイは、合成の有意な基底レベルの存在を示した。おもしろいことには、MAPキナーゼキナーゼ阻害物質はまた、刺激を受けていない細胞である対照におけるPGI産生をなくした。MAPキナーゼカスケードの活性化を介するPGI発生の媒介と一致して、PD98059はまた、低速移動性リン酸化形態のcPLAのレベルを対照レベル以下に低下させ、高速移動性のあまりリン酸化されていない形態のレベルを対照レベル以上に増加させた。MAPキナーゼ活性のアッセイは、PD98059により阻害可能であった有意なレベルの基底活性を示唆した。これらの知見は、MAPキナーゼ活性化がVEGFおよびトロンビン依存性cPLA活性化に関与し得るだけではなく、基底MAPキナーゼ活性が構成的cPLA活性およびPGI産生の維持のために必要とされ得ることを示唆する。
【0232】
他のシグナル発生メカニズムが、細胞内[Ca2+]の上昇を含むPGI合成およびアラキドン酸放出のVEGF刺激に寄与し得ることが妥当であると思われる。
【0233】
VEGFは、現在まで、主に、内皮細胞成長および移動を促進する血管形成因子であると考えられてきた。ここで示した知見は、さらなる活性を明らかし、したがって、内皮機能の調節およびVEGFの機能の理解の両方に、ならびに狭窄、再狭窄、アテローム性動脈硬化症および高血圧症などの血管障害の治療および予防に重要な意味をもつ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内膜過形成の治療薬または予防薬の製造のための、NOまたはプロスタサイクリン産生を刺激する薬剤の使用。
【請求項2】
血管が動脈である請求項1記載の使用。
【請求項3】
外科的手術により誘発されたかまたは肺動脈高血圧症に伴う狭窄の治療または予防のための請求項1または2の使用。
【請求項4】
外科的手術が血管形成術、冠状動脈バイパス手術、外科手術的吻合または動脈内膜切除術である請求項3記載の使用。
【請求項5】
血管の狭窄または再狭窄の治療または予防のための、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
薬剤が一酸化窒素シンターゼ、VEGFを結合する受容体のアゴニスト、または、該シンターゼもしくはアゴニストをコードする核酸である請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
薬剤がヒトVEGFの機能を有するタンパク質または該タンパク質をコードする核酸である請求項1〜6のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
タンパク質が配列番号2、4、6または8の配列またはその活性フラグメントを有する請求項7記載の使用。
【請求項9】
薬剤がウイルスまたは非ウイルスベクターと結合した核酸である請求項6〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
治療または予防されるべき過形成部位またはその付近に設置されるのに適しており、請求項1〜9のいずれか1項記載の薬剤を含有することを特徴とする治療用移植片。
【請求項11】
シラスティック移植片または生分解性移植片である請求項10記載の移植片。
【請求項12】
治療または予防されるべき過形成部位またはその付近の血管の周囲に設置するためのカラーの形態である請求項10または11記載の移植片。
【請求項13】
含有される薬剤に対して実質的に不透過性の外壁を有する請求項10〜12のいずれか1項記載の移植片。
【請求項14】
イン・ビボでの一酸化窒素(NO)および/またはプロスタサイクリン産生の刺激により治療または予防できる症状の治療薬の製造のための、請求項6〜9のいずれか1項記載の薬剤の使用。
【請求項15】
症状が高血圧症、例えば、本態性高血圧症、肺動脈高血圧症または肺性心である請求項14記載の使用。
【請求項16】
血管の周囲にシールを設けるのに適合した本体を含む、患者の血管への治療薬送達用装置であって、使用時に該治療薬が血管の外膜表面と接触するように該治療薬が装置内に保持されているかまたは装置と連結していることを特徴とする装置。
【請求項17】
本体壁と血管外膜表面との間にリザーバーを画定しており、該リザーバーが、送達されるべき薬剤を含有してなる医薬製剤によって少なくとも部分充填されている請求項16記載の装置。
【請求項18】
製剤がリザーバー中に注入可能な液体もしくはゲルの形態またはペーストの形態である請求項17記載の装置。
【請求項19】
本体部の物質がセルフシール性である請求項18記載の装置。
【請求項20】
リザーバーが液体10mlまで、好ましくは、少なくとも2−5mlを含有することができる請求項17〜19のいずれか1項記載の装置。
【請求項21】
本体物質の厚さがその長さに沿って概略一定であり、リザーバーが、使用時に、血管に対してシールする離間部間での第1本体部の膨張により形成される請求項17〜20のいずれか1項記載の装置。
【請求項22】
本体物質の厚さが血管に対してシールする離間シーリング部よりも中間部において薄く、薄くなった厚みがリザーバーを形成する、請求項17〜20のいずれか1項記載の装置。
【請求項23】
本体の内面が、薬剤を含有してなる医薬製剤を含浸する能力を有するスポンジ状物質を含む請求項16〜22のいずれか1項記載の装置。
【請求項24】
本体の内面が薬剤を含有してなる医薬製剤を含浸している請求項16〜22のいずれか1項記載の装置。
【請求項25】
本体の物質が生分解性である請求項16〜24のいずれ1項記載の装置。
【請求項26】
該物質がゼラチン、アルギナートまたはコラーゲンである請求項25記載の装置。
【請求項27】
本体が成形または押出される請求項16〜26のいずれか1項記載の装置。
【請求項28】
本体が拍動性血流により生じた血管の膨張を受け入れることができる可撓性シール部を含んでなる請求項16〜27いずれか1項記載の装置。
【請求項29】
本体が長さ8−15mmの細長いシール部を含んでなる請求項16〜28のいずれか1項記載の装置。
【請求項30】
本体が略管状である請求項16〜29のいずれか1項記載の装置。
【請求項31】
本体が枝分かれして略Y字形または略T字形の本体を形成する2つの略管状部を有する請求項16〜29のいずれか1項記載の装置。
【請求項32】
本体が少なくとも使用時に枝分かれして略X字形本体を形成する3つの略管状部を有する請求項16〜29のいずれか1項記載の装置。
【請求項33】
1つの本体部の、その縦方向に対する横断面が略弓形であり、これにより、血管が組織中に部分包埋されている場合に第1血管の露出部分をそれで取り巻くことができ、第1本体部の縦方向に伸びている縁部が使用時に第1血管の外膜壁または隣接組織にシールされるように配置される請求項31または32記載の装置。
【請求項34】
本体が血管上へのその設置を容易にするために縦スリットを有する請求項16〜33のいずれか1項記載の装置。
【請求項35】
本体が捩り強さを増大させるために内層または螺旋状強化剤を含む請求項16〜34のいずれか1項記載の装置。
【請求項36】
血管の周囲に請求項16〜35のいずれか1項記載の装置を設置し、薬剤が装置中に未だない場合には、薬剤を装置に導入することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の薬剤を血管へ送るための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−31196(P2012−31196A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−236266(P2011−236266)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【分割の表示】特願平10−521140の分割
【原出願日】平成9年11月3日(1997.11.3)
【出願人】(500175668)アーク・セラピューティックス・リミテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】Ark Therapeutics Limited
【Fターム(参考)】