説明

NO産生促進組成物及びそれを含有する男性機能改善剤

【課題】 より高いNO産生促進活性を有し、継続的に摂取しても副作用の心配がなく、男性機能改善効果が期待できる素材を提供する。
【解決手段】 NO産生促進組成物の有効成分として、1)アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼ及び/又はバチルス属菌由来のプロテアーゼを用いて卵白を分解して得られる卵白加水分解物と、2)亜鉛化合物、マカ、エゾウコギから選ばれる少なくとも1種を含有させる。本発明のNO産生促進組成物は、卵白加水分解物100質量部に対して、亜鉛化合物を0.1〜10質量部及び/又はマカを50〜100質量部及び/又はエゾウコギを50〜100質量部含有させることが好ましい。このNO産生促進組成物は、男性機能改善剤として利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口摂取することにより、NO産生促進効果が期待できるNO産生促進組成物及びそれを含有する男性機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
男性機能障害の一種である勃起不全(ED)関連患者は、近年増加しており、日本においては推定440万〜950万人の患者及び予備軍がいるとの報告もある。
【0003】
EDは、1)不安、緊張過多、ストレス、人間関係などの心理的な問題や、躁鬱病、神経症など精神的な問題に起因する「機能性ED」、2)血管、神経、内分泌環境などに起因し、加齢、喫煙、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、心不全、動脈硬化などのほか、直腸癌や前立腺癌の手術、ある種の抗圧剤、消化性潰瘍治療剤、向精神薬などの薬物が原因で起こることもある「器質性ED」、3)機能性と器質性の両方が原因の「混合性ED」に分類される。特にEDと生活習慣病とは密接に関わっており、米国のED患者調査において、高血圧や脂質異常症の合併率が40%以上、糖尿病が20%であるという報告もある。
【0004】
EDの発症には、血管内皮細胞や神経細胞に発現しているNO合成酵素(血管内皮細胞:内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)、神経細胞:神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS))により、アルギニンからシトルリンに変換される際に放出されるNO(一酸化窒素)が大きく関わっていることが分かっている。
【0005】
すなわち、性的刺激により、中枢神経系が活性化し、海綿体神経終末や血管内皮細胞からNOが放出され、このNOが陰茎動脈や陰茎海綿体の仕切りに当たる海綿体小柱の平滑筋細胞に浸透し、グアニル酸シクラーゼを活性化させ環状グアノシン一リン酸(cGMP)濃度を上昇させる。そして、cGMPにより陰茎動脈が弛緩し、陰茎海綿体への血液流入が増大し、陰茎の静脈が圧迫される結果、勃起が起こる。
【0006】
EDの治療薬としては、クエン酸シデナフィル(商品名「バイアグラ」、ファイザー株式会社)、塩酸バルデナフィル(商品名「レビトラ」、バイエル薬品株式会社)、タダラフィル(商品名「シアリス」、日本イーライリリー株式会社)などが上市されている。これらの治療薬の作用機序は、生体内でcGMPの分解を行っている5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)の酵素活性を阻害することで、陰茎周辺部のNO作動性神経に作用して血管を拡張させ、血流量が増えることによって機能すると考えられている。
【0007】
これらの治療薬の入手には、医師の処方が必要であるが、EDの場合、恥ずかしくて医師の診断を受けにくいと思っている患者も多いのが現状である。
【0008】
そのため、より手軽に摂取できるように、男性機能改善効果を有すると言われているガラナ、マカ、トンカットアリ、エゾウコギ、亜鉛などを配合した健康食品も数多く提案されている(特許文献1〜5)。
【0009】
例えば、マカ(学名:Lepidium meyenii Walp)は、アンデス高地原産のアブラナ科の植物であり、その根茎部分は古来より滋養強壮食として食されている。マカは、精子形成に必要な亜鉛やセレンなどのミネラル類、体内でNO生成の原料となるアルギニンなどを豊富に含むことから、近年、男性機能改善や不妊症解消を謳った健康食品に広く用いられるようになっている。
【0010】
エゾウコギ(学名:Acanthopanax senticosus Harms)は、ウコギ科の落葉低木で、ロシア、中国・日本の東北部に分布する薬用植物であり、その根皮が薬用として用いられている。エゾウコギの生理活性成分としては、エテウテロシドE(性機能改善・降圧作用)、イソフラキシジン(鎮静作用)、エテウテロシドB1(血管拡張作用・抗けいれん作用)、エテウテロシドB(性行動減退防止作用・疲労回復作用)などが知られている。
【0011】
一方、卵白加水分解物については、本願出願人は、血流改善効果(特許文献6)、血中乳酸値上昇抑制効果(特許文献7)、熱中症予防効果(特許文献8)、心肺機能向上効果(特許文献9)などを出願している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000-316528号公報
【特許文献2】特開2001-348334号公報
【特許文献3】特開2002-34507号公報
【特許文献4】特開2002-80379号公報
【特許文献5】特開2009-51765号公報
【特許文献6】特開2007-51090号公報
【特許文献7】特開2006-273850号公報
【特許文献8】特開2008-72968号公報
【特許文献9】特開2009-296914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上述したような医薬品は、優れた効果を有する反面、血圧の急激かつ大幅な低下や狭心などの重篤な副作用が現れる危険性もあり、薬歴や既往歴によっては使用できないなどの制限があった。
【0014】
一方、上述したような健康食品は、副作用の心配は少ないものの、その効果は充分満足できるものではなかった。
【0015】
したがって、本発明の目的は、より高いNO産生促進活性を有し、継続的に摂取しても副作用の心配がなく、特に男性機能改善効果が期待できる素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、卵白加水分解物、マカ、エゾウコギ、亜鉛などがNO産生促進能を有すること、及びこれらの成分を併用することで相乗的にNO産生が促進されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明のNO産生促進組成物は、1)アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼ及び/又はバチルス属菌由来のプロテアーゼを用いて卵白を分解して得られる卵白加水分解物と、2)亜鉛化合物、マカ、エゾウコギから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0018】
上記発明においては、前記アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼがアスペルギルス・ニガー由来の酸性プロテアーゼであり、前記バチルス属菌由来のプロテアーゼがバチルス・ズブチリス由来の中性プロテアーゼ、バチルス・ズブチリス由来のアルカリ性プロテアーゼ、バチルス・ステアロサーモフィラス由来の中性プロテアーゼから選ばれる少なくとも1種の酵素であることが好ましい。この態様によれば、より高いNO産生促進活性を有する卵白加水分解物を得ることができる。
【0019】
また、本発明のNO産生促進組成物は、卵白加水分解物100質量部に対して、亜鉛化合物を0.1〜10質量部及び/又はマカを50〜100質量部及び/又はエゾウコギを50〜100質量部含有することが好ましい。
【0020】
本発明によれば、卵白加水分解物と、亜鉛化合物などの素材を組み合わせることで、NO産生能を相乗的に向上させることができる。
【0021】
したがって、このNO産生促進組成物を男性機能改善剤として利用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のNO産生促進組成物は、天然素材である卵白加水分解物とマカなどを有効成分とするので、継続的に摂取しても副作用の心配がなく、効果的にNO産生能を高めることができ、男性機能改善効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】タンパク質分解酵素の違いによる卵白加水分解物のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図2】複数のタンパク質分解酵素を用いた場合の卵白加水分解物のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図3】卵白加水分解物の濃度の違いによるNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図4】NOS阻害剤で前処理した場合の卵白加水分解物のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図5】本願の卵白加水分解物と市販の卵白酵素分解物のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図6】卵白加水分解物と塩化亜鉛とを併用した場合のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図7】卵白加水分解物とマカとを併用した場合のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図8】卵白加水分解物と塩化亜鉛とマカを併用した場合のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図9】卵白加水分解物と、エゾウコギ、ガラナ、トンカットアリなどを併用した場合のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【図10】卵白加水分解物とシトルリンとを併用した場合のNO産生促進活性を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のNO産生促進組成物の有効成分の一つである卵白加水分解物とは、卵白をアスペルギルス属菌由来のプロテアーゼ及び/又はバチルス属菌由来のプロテアーゼで分解して得られるものをいう。
【0025】
具体的には、アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼとしては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来の酸性プロテアーゼが好ましく例示できる。一方、バチルス属菌由来のプロテアーゼとしては、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtills)由来の中性プロテアーゼ、バチルス・ズブチリス(Bacillus
subtills)由来のアルカリ性プロテアーゼ、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus
stearothermophilus)由来の中性プロテアーゼ、バチルス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来の中性プロテアーゼから選ばれる少なくとも1種の酵素が好ましく例示できる。これらの酵素を用いて得られる卵白加水分解物は、後述する実施例に示されるように、コントロールに対して5倍以上のNO産生促進活性を有する。
【0026】
上記のようなプロテアーゼは、酵素製剤として市販されており、例えば、アスペルギルス・ニガー由来の酸性プロテアーゼとしては、商品名「ニューラーゼA」(天野エンザイム株式会社)、商品名「スミチームAP」(新日本化学工業株式会社)、商品名「オリエンターゼ20A」(エイチビィアイ株式会社)、商品名「デナプシン2P」(ナガセケムテックス株式会社)、商品名「プロテアーゼYP-SS」(ヤクルト薬品工業株式会社)などが挙げられる。
【0027】
バチルス・ズブチリス由来の中性プロテアーゼとしては、商品名「プロテアーゼN「アマノ」G」(天野エンザイム株式会社)、「オリエンターゼ90N」、「オリエンターゼ10NL」、「ヌクレイシン」(いずれも商品名、エイチビィアイ株式会社)などが例示できる。
【0028】
バチルス・ズブチリス由来のアルカリ性プロテアーゼとしては、商品名「プロレザーFG−F」(天野エンザイム株式会社)、商品名「オリエンターゼ22BF」(エイチビィアイ株式会社)などが例示できる。
【0029】
バチルス・ステアロサーモフィラス由来の中性プロテアーゼとしては、商品名「プロテアーゼS「アマノ」G」(天野エンザイム株式会社)、商品名「サモアーゼPC10F」(大和化成株式会社)などが例示できる。
【0030】
バチルス・アミロリクエファシエンス由来の中性プロテアーゼとしては、「プロチンSD-NY-10」、「プロチンSD-PC-10F」(いずれも商品名、大和化成株式会社)、商品名「ニュートラーゼ」(ノボザイムズジャパン株式会社)などが例示できる。
【0031】
また、本発明においては、卵白加水分解物のNO産生促進活性を損なわない範囲(好ましくはコントロールに対して2倍以上のNO産生促進活性を保持する範囲)で上記以外の酵素を併用することもできる。併用する酵素としては、パパイン、トリプシン、リゾプス属菌由来ペプチダーゼ(例えば、商品名「ペプチダーゼR」(天野エンザイム株式会社製)など)が例示できる。例えば、パパインを併用することにより、作業性を向上させることができ、リゾプス属菌由来ペプチダーゼを併用することにより、卵白加水分解物の呈味を改善することができる。
【0032】
原料卵白は、大量入手の容易な鶏卵の卵白(例えば、卵白液、凍結卵白液、卵白粉末等)が好ましく用いられるが、ウズラ、アヒル、ガチョウ、ダチョウ等の卵の卵白も用いることもできる。なお、卵白は、酵母(イースト)などを用いて脱糖処理したものが好ましく用いられる。脱糖処理は、例えば、卵白液をクエン酸などでpH7に調整した後、卵白液に対して0.1〜0.5質量%程度のイーストを添加し、30〜40℃で1〜6時間保持することで行うことができるが、市販の脱糖卵白を用いてもよい。
【0033】
本発明の卵白加水分解物は、例えば、以下のようにして調製することができる。
卵白100質量部(固形分)に、必要に応じて酸又はアルカリを加えて酵素の至適pHに調整した後、アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼ及び/又はバチルス属菌由来のプロテアーゼを0.01〜5質量部(対卵白固形分)添加し、所定の温度で0.5〜24時間反応を行う。反応終了後、加熱などにより酵素失活処理を行ってから、固液分離して液部を回収し、適宜乾燥粉末化すればよい。なお、回収した液部は必要に応じて活性炭で脱色処理してもよい。
【0034】
また、上記の調製方法において、パパインやトリプシンを併用する場合は、アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼ及び/又はバチルス属菌由来のプロテアーゼを作用させる前に、卵白100質量部(固形分)に対して0.01〜5質量部のパパイン及び/又はトリプシンを添加し、所定時間(通常0.5〜4時間)作用させることが好ましい。一方、リゾプス属菌由来ペプチダーゼを併用する場合は、アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼ及び/又はバチルス属菌由来のプロテアーゼを作用させた後に、卵白100質量部(固形分)に対して0.01〜5質量部のリゾプス属菌由来ペプチダーゼを添加し、所定時間(通常0.5〜8時間)作用させることが好ましい。
【0035】
本発明のNO産生促進組成物は、他の有効成分として、亜鉛化合物、マカ、エゾウコギから選ばれる少なくとも1種を含む。
【0036】
亜鉛化合物としては、ヒトへの投与が可能な亜鉛源であればよく、例えば、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、炭酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛、クエン酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、酒石酸亜鉛などの他、亜鉛酵母などが挙げられる。本発明においては、上記亜鉛化合物を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0037】
マカは、その根茎の乾燥粉末の他、アルコール類や水などで抽出した抽出液やエキス、エキス粉末などを用いることができる。マカの乾燥粉末やエキスなどは市販されており、それらを用いることができる。
【0038】
エゾウコギは、その根、茎、枝、葉(特に好ましくは根)などの乾燥粉末の他、それらをアルコール類や水などで抽出した抽出液やエキス、エキス粉末などを用いることができる。エゾウコギの乾燥粉末やエキスなどは市販されており、それらを用いることができる。
【0039】
本発明のNO産生促進組成物において、上記の各有効成分の配合割合は、卵白加水分解物100質量部に対して、亜鉛化合物は0.1〜10質量部が好ましく、マカは50〜100質量部が好ましく、エゾウコギは50〜100質量部が好ましい。各成分の配合割合が上記範囲外であると相乗効果が期待できない。
【0040】
また、本発明のNO産生促進組成物は、他の成分として、澱粉、デキストリン、乳糖、還元麦芽糖、トレハロース、セルロース、カルボキシルセルロース等の賦形剤や乳化剤、安定化剤、増粘剤、香料、着色料等を含むことができ、液体状、ペースト状、粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状の各種剤形に成型することができる。
【0041】
本発明のNO産生促進組成物の推奨摂取量は、年齢、体重などによって異なるが、通常、100mg〜5gである。なお、亜鉛については、「日本人の食事摂取基準(2005年版)」(厚生労働省)に記載の所要量上限(30mg/日)を超えないようにすることが好ましい。
【0042】
本発明のNO産生促進組成物は、高いNO産生促進活性を有するため、勃起障害の改善などの男性機能改善剤として用いることができる。
【0043】
本発明の男性機能改善剤には、上記NO産生促進組成物の他に、ニンニク、スッポン、マムシ、オットセイ、カキ、ガラナ、シトルリン、トンカットアリ、高麗人参、アシュワガンダ、赤ガウクルア、カンカ、ムイラプアマ、雪蓮花、紅景天等の生薬を含むことができる。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
(1)タンパク質分解酵素の検討
脱糖卵白液32g(固形分約2.4g)に、表1に示すタンパク質分解酵素を用いて処理を行い、卵白加水分解物を調製した。
【0046】
【表1】

【0047】
酵素反応終了後、反応液を加熱(90℃、10分間)して酵素失活を行った後、濾過して液部を回収し、乾燥粉末化して各サンプルを得た。
【0048】
(2)eNOS安定発現細胞株の作製
ウシ血管内皮細胞(BAEC、Cell Systems社)から常法にしたがってcDNAを調製し、これを鋳型としてウシ由来eNOS遺伝子(全長)をクローニングした。
【0049】
クローニングしたeNOS遺伝子(全長)を、プラスミドベクターpcDNA3.1(+)(invitrogen社)のマルチクローニングサイト(EcoRI)へ挿入した。このベクターをヒト胎児腎臓細胞(HEK293、理化学研究所)に、「FuGENE
6 Transfection Reagent」(商品名、Roche社製)を用いてトランスフェクションした後、薬剤(G418、ナカライテスク社)選抜を行い、eNOSを安定的に発現する細胞株(B36株)を取得した。
【0050】
B36株において、抗ヒトeNOS抗体(R&D SYSTEMS,
Inc.)を用いたウエスタンブロッティング及び免疫染色を行い、ほぼすべての細胞で安定的にeNOSが発現していることを確認した。また、通常のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)よりもeNOS発現量が増加していることも確認した。
【0051】
(3)卵白加水分解物のNO産生促進活性の評価
上記(2)で得られたeNOS発現細胞(B36株)を24穴プレートに播種し、3日間前培養した後、アルギニン(100μM)を含むPBS(-)を用いて洗浄を行った。
そして、PBS(-)に溶解した上記(1)で得られた各サンプル(濃度:1000μg/mL)及び脱糖卵白(濃度:1000μg/mL)をそれぞれ添加して15分間反応させた。反応後、cell lysis bufferを加え、細胞上清及び細胞を破砕して得られた細胞破砕液の混合液を「NO2/NO3 Assay Kit-FX」(商品名、株式会社同仁化学研究所製)を用いてNO産生量を測定した。そして、コントロール(PBS(-))との相対比を求めた。その結果を図1に示す。
【0052】
図1から、サンプル1、3、4はコントロールの2倍以上のNO産生促進活性を有し、サンプル2、5、6、7はコントロールの5倍以上のNO産生促進活性を有することが分かる。この結果から、使用する酵素によって得られる卵白加水分解物のNO産生促進活性は異なるものの、酵素分解を行うことによりNO産生促進活性が上昇することが分かる。
【実施例2】
【0053】
脱糖卵白液32g(固形分約2.4g)に、表2に示す複数の酵素を併用して卵白加水分解物を調製し、得られたサンプルのNO産生促進活性を上記と同様に測定した。なお、各酵素は順次添加して反応を行い、パパイン処理後にpHを8に調整して行ったが、それ以降の酵素処理はpH調整をせずにそのまま行った。
【0054】
【表2】

【0055】
得られた各サンプル(濃度:1000μg/mL)を用いて、実施例1(3)と同様にしてNO産生促進活性を測定した。その結果を図2に示す。
【0056】
図2から、複数の酵素を併用した場合であっても、コントロールに対して2倍以上のNO産生促進活性を有する分解物が得られることが分かる。
【実施例3】
【0057】
(1)卵白加水分解物の調製
脱糖卵白液1000g(固形分約100g)に、表3に示すタンパク質分解酵素を用いて酵素処理を行い、卵白加水分解物を調製した。なお、パパイン処理後のトリプシン処理は、pHを8に調整して行ったが、それ以降の酵素処理はpH調整をせずにそのまま行った。
【0058】
【表3】

【0059】
上記の所定の酵素反応終了後、酵素失活を行い、濾過して液部を回収した。得られた液部を活性炭で脱色処理を行ってから、噴霧乾燥して卵白加水分解物52gを得た。なお、以下の実施例においては、この卵白加水分解物をサンプルとして用いた。
【0060】
(2)卵白加水分解物のNO産生促進効果
卵白加水分解物を1,10,100,500,1000μg/mLとなるようにPBS(-)へ溶解して卵白加水分解物水溶液を調製した。これを用いて、実施例1(3)と同様にしてNO産生促進活性を測定した。その結果を図3に示す。
【0061】
図3から、卵白加水分解物の濃度依存的にNO産生量が増加することが分かる。
【0062】
(3)NOS阻害剤によるNO産生促進活性への影響
NOS阻害剤(L-NAME)を各濃度(0、100、250、500μM)でB36株へ作用させた後、卵白加水分解物(1000μg/mL)を作用させた。結果を図4に示す。
【0063】
図4から、NOS阻害剤の濃度依存的にNO産生量は低下した。よって、卵白加水分解物がeNOSを介したNO産生に関わっていることが示唆された。
【実施例4】
【0064】
実施例3で得られた卵白加水分解物と、市販の卵白酵素分解物(商品名「卵白ペプタイドEP-1」、キユーピー株式会社)を用いて、実施例1(3)と同様にしてNO産生促進活性を測定した。その結果を図5に示す。
【0065】
図5から、市販の卵白酵素分解物は、ほとんどNO産生促進活性を有しないことが分かる。
【実施例5】
【0066】
実施例3で得られた卵白加水分解物と他の成分(亜鉛、マカ、エゾウコギ、ガラナ、トンカットアリ、シトルリン)を併用し、NO産生促進活性を測定した。
【0067】
具体的には、表4に示す所定濃度の各サンプルを用いて、実施例1(3)と同様の方法でNO産生促進活性を測定した。なお、サンプルの調製はすべてPBS(-)を溶媒として用い、マカ粉末はTOWA CORPORATION株式会社製、エゾウコギ粉末及びガラナ粉末は日本粉末薬品株式会社製、トンカットアリエキス粉末は株式会社都留製、シトルリンは和光純薬工業株式会社製を用いた。
【0068】
【表4】

【0069】
それらの結果を図6〜10に示す。
図6から、卵白加水分解物単独(サンプル14)において、NO産生促進活性が見られることが分かる。また、塩化亜鉛単独では、サンプル12においてNO産生促進活性がみられたものの、高濃度(サンプル13)ではNO産生量が減少する結果となった。これは細胞毒性が出たためであると考えられる。
【0070】
そして、卵白加水分解物と塩化亜鉛を併用することにより、NO産生促進活性の相乗効果が見られることが分かる(サンプル15、16)。
【0071】
図7から、マカ単独(サンプル21)でも若干のNO産生促進活性がみられたが、卵白加水分解物とマカを1:1〜2:1で添加することにより、NO産生促進活性の相乗効果が見られることが分かる(サンプル22、23)。
【0072】
図8から、卵白加水分解物と塩化亜鉛とマカを併用することにより、NO産生促進活性が相乗的に向上していることが分かる(サンプル26)。
【0073】
図9から、トンカットアリ、エゾウコギ単独(サンプル28、29)でNO産生促進活性がみられたが、ガラナ単独(サンプル30)ではNO産生促進活性が見られないことが分かる。そして、卵白加水分解物とエゾウコギを共添加することにより、NO産生促進活性の相乗効果が顕著にみられた(サンプル32)。しかし、卵白加水分解物と、トンカットアリあるいはガラナとの共添加による相乗効果はみられなかった(サンプル31、33)。
【0074】
図10から、シトルリン単独(サンプル34、35)で若干のNO産生促進活性がみられたが、卵白加水分解物とシトルリンと共添加(サンプル37〜40)によるNO産生促進活性の相乗効果はみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のNO産生促進組成物は、天然物由来の成分を有効成分とするので副作用の心配がほとんどない。そのため、日常的に摂取するサプリメントとして有用であり、男性機能改善剤などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼ及び/又はバチルス属菌由来のプロテアーゼを用いて卵白を分解して得られる卵白加水分解物と、2)亜鉛化合物、マカ、エゾウコギから選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするNO産生促進組成物。
【請求項2】
前記アスペルギルス属菌由来のプロテアーゼがアスペルギルス・ニガー由来の酸性プロテアーゼであり、前記バチルス属菌由来のプロテアーゼがバチルス・ズブチリス由来の中性プロテアーゼ、バチルス・ズブチリス由来のアルカリ性プロテアーゼ、バチルス・ステアロサーモフィラス由来の中性プロテアーゼから選ばれる少なくとも1種の酵素である請求項1に記載のNO産生促進組成物。
【請求項3】
前記卵白加水分解物100質量部に対して、亜鉛化合物を0.1〜10質量部及び/又はマカを50〜100質量部及び/又はエゾウコギを50〜100質量部含有する請求項1又は2に記載のNO産生促進組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のNO産生促進組成物を含有する男性機能改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−173817(P2011−173817A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37999(P2010−37999)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(500101243)株式会社ファーマフーズ (30)
【Fターム(参考)】