説明

NOx触媒の劣化診断装置

【課題】吸蔵還元型NOx触媒の劣化を高精度で燃費悪化を引き起こさずに検出する。
【解決手段】吸蔵還元型NOx触媒に、劣化と正常の境目であるクライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量Gsを供給し、その後このNOx量に相応した還元剤量Hsをリッチスパイクによって供給し、このときのNOxセンサの出力Crに基づいてNOx触媒の劣化を判定する。NOxセンサ出力の大小のみでNOx触媒の劣化を判定するので高精度な劣化診断を実行でき、触媒が正常である間は過剰な還元剤が供給されないので燃費の悪化を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNOx触媒の劣化診断装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒の劣化を診断するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジン等の内燃機関の排気系に配置される排気浄化装置として、排気ガスに含まれるNOx(窒素酸化物)を浄化するためのNOx触媒が知られている。このNOx触媒としては様々なタイプのものが知られているが、その中で、排気ガス中のNOxを吸蔵して除去する吸蔵還元型NOx触媒(NSR: NOx Storage Reduction)が公知である。吸蔵還元型NOx触媒は、供給される排気ガスの空燃比が所定値(典型的には理論空燃比)よりリーン(即ち、酸素過剰雰囲気)のときには排気ガス中のNOxを吸蔵し、供給される排気ガスの空燃比が所定値よりリッチ(即ち、酸素不足雰囲気)のときには吸蔵したNOxを放出しNに還元するという、NOxの吸放出作用を有する。
【0003】
一方、例えば自動車に搭載されたエンジンの場合、排ガスが悪化した状態での走行を未然に防止するため、車載状態(オンボード)で触媒の劣化を診断すること(OBD; On-Board Diagnosis)が各国法規等からも要請されている。そのため、吸蔵還元型NOx触媒についてもその劣化を診断するための様々な従来技術が存在する。
【0004】
吸蔵還元型NOx触媒が劣化すると触媒がNOxを吸蔵する能力、即ち触媒が吸蔵し得るNOx量が低下する。よってNOx触媒劣化検出の代表的手法として、NOx触媒のNOx吸蔵能を計測してこれを所定の劣化判定値と比較する方法がある。
【0005】
関連技術として、例えば特許文献1には、NOx触媒の下流位置にNOx濃度センサを設け、このNOx濃度センサの実際のNOx濃度によるNOx排出量を所定時間積分し、この積分値によりNOx触媒の故障の有無を診断することが開示されている。また、特許文献2には、NOx触媒(NOx吸収剤)からNOxを放出すべく還元剤を供給したときに、NOxの放出に使用されなかった余剰の還元剤がアンモニアの形でNOx触媒下流に排出されるのを利用して、NOx触媒の劣化度合を検出することが開示されている。これにおいて、NOx触媒下流のアンモニア濃度が検出されると共に、このアンモニア濃度の変化から余剰の還元剤量を表す代表値が求められ、この代表値に基づいてNOx触媒の劣化度合が検出される。NOx触媒下流のアンモニア濃度は、排気ガス中のNOx濃度及びアンモニア濃度を両方検出可能なセンサで検出される。
【0006】
【特許文献1】特許第3316066号明細書
【特許文献2】特許第3589179号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自動車の排ガス規制が非常に厳しくなりつつある現在、NOxエミッション規制値が非常に小さな値となっている一方で、NOx触媒を劣化と判定すべきNOxエミッションの値即ちOBD規制値も非常に小さな値となっている。特に、米国SULEV(Super Ultra Low Emission Vehicle)では、欧州STEPIV等と比べ、エミッション規制値が厳しいだけでなく、OBD規制値がエミッション規制値の1.75倍と非常に厳しい。つまり、エミッション規制値からOBD規制値までのエミッションレベル及び触媒劣化度の差が小さく、その小さい差を見分けなければならない。そのため、NOx触媒の劣化診断についてもより高い診断精度が求められてきている。
【0008】
例えば特許文献1に記載の技術だと、NOx触媒下流のNOx濃度センサの出力値に基づくNOx排出量を積分し、この積分値によりNOx触媒の故障の有無を診断する。しかし、ここでいうNOx排出量とは、NOx触媒で何等処理されずにNOx触媒を単に通過したNOx(すり抜けNOxと称す)の排出量であり、NOx濃度センサの出力値自体微小である。一般にセンサ出力値が小さいほど誤差割合が大きくなるので、センサの誤差をも考慮すると、誤差分を多く含んだ値が積分されて故障診断に用いられている可能性があり、高い診断精度を確保するという点では必ずしも十分ではない。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、NOx触媒に供給された還元剤量のうち余剰の還元剤量が減じられ、NOx触媒からのNOx放出に必要十分な過不足の無い還元剤量が計算される。そしてこの適量の還元剤量が所定値を下回ったとき、NOx触媒のNOx吸蔵能が十分低下したとみなして、NOx触媒が劣化と判定される(段落0065〜0068、図9参照)。つまり特許文献2に記載の技術は、NOx触媒のNOx吸蔵能を計測してこれを所定の劣化判定値と比較していることになる。
【0010】
この技術の場合、適量の還元剤量の計算に余剰の還元剤量が用いられ、適量の還元剤量が多い場合であっても少ない場合であっても(即ち、NOx吸蔵能が高い場合であっても低い場合であっても)、常に還元剤量が適量になるようにフィードバック制御される。よって必然的に、余剰の還元剤量が比較的頻繁に発生することになるが、還元剤量が過剰になることは即ち燃費の悪化に繋がる。
【0011】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸蔵還元型NOx触媒の劣化を高精度でしかも燃費悪化を引き起こすことなく検出することができるNOx触媒の劣化診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の形態によれば、
内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、
前記NOx触媒に吸蔵NOxを放出させるための還元剤を供給するリッチスパイクを実行するリッチスパイク手段と、
前記NOx触媒の下流側に設けられたNOxセンサと、
前記NOx触媒に、劣化と正常の境目であるクライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に相応した量の還元剤が供給されたときの前記NOxセンサの出力に基づいて、前記NOx触媒の劣化を判定する劣化判定手段と
を備えたことを特徴とするNOx触媒の劣化診断装置が提供される。
【0013】
この本発明の第1の形態によれば、NOx触媒に、クライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に相応した量の還元剤が供給されたときのNOxセンサの出力に基づいて、NOx触媒の劣化が判定される。正常触媒の場合、かかる還元剤量が供給されても小さなNOxセンサ出力しか得られないが、逆に劣化触媒の場合だと、かかる還元剤量が供給されたときにNOxセンサの出力が大きくなる。この特性を利用して、NOxセンサ出力の大小のみでNOx触媒の劣化を判定できる。
【0014】
本発明の第1の形態は、特許文献1に記載の技術のように誤差分を多く含む微小なNOxセンサ出力値をさらに積分し、誤差分が拡大された積分値を用いて劣化診断をするのではなく、比較的大きいセンサ出力値でもって劣化診断を行う。よってセンサ誤差の影響を少なくし、高い診断精度を確保することができ、触媒劣化度の小さい差を見分けることが可能になる。また、車両上における劣化診断はNOx触媒が新品(正常)の状態から徐々に劣化する方向で行われるが、正常触媒の場合だと劣化診断の度に、触媒自身の持つNOx吸蔵能より少ないクライテリア相当のNOx量しか吸蔵されず、またこれに相応したクライテリア相当の還元剤量しか供給されない。よって劣化診断時に過剰に還元剤が供給されることがない。過剰に還元剤が供給されるのは触媒が劣化したときだけである。しかも触媒が劣化したことが検知されれば、ユーザに警告がなされ、触媒は交換されるであろう。よって通常は触媒のライフサイクルを通して、劣化診断時における過剰な還元剤の供給が防止され、燃費の悪化を防止することができる。
【0015】
本発明の第2の形態は、前記第1の形態において、
前記NOxセンサが、排気ガス中のアンモニアを検出可能である
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の形態は、前記第1又は第2の形態において、
前記NOx触媒に供給されたNOx量を算出する算出手段が備えられ、
前記算出手段により前記クライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量と等しい量の供給NOx量が算出されたときに、前記リッチスパイク手段が、前記クライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に相応した量の還元剤を供給する
ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の形態は、前記第1乃至第3のいずれかの形態において、
前記劣化判定手段が、前記NOxセンサの出力値が所定の劣化判定値以上となったときに前記NOx触媒を劣化と判定する
ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第5の形態によれば、
内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、
前記NOx触媒に吸蔵NOxを放出させるための還元剤を供給するリッチスパイクを実行するリッチスパイク手段と、
前記NOx触媒の下流側に設けられたNOxセンサと、
前記NOx触媒に供給されたNOx量を算出する算出手段と、
前記NOx触媒の劣化を判定する劣化判定手段と
を備え、
前記算出手段によって算出された供給NOx量が所定値に達したときに前記リッチスパイク手段によりその供給NOx量に相応した量の還元剤を供給し、これら供給NOx量と供給還元剤量とを段階的に増加させていってその都度前記NOxセンサの最大出力値を取得し、この取得されたNOxセンサ最大出力値の少なくとも一つに対応する供給NOx量に基づいて、前記劣化判定手段により前記NOx触媒の劣化を判定する
ことを特徴とするNOx触媒の劣化診断装置が提供される。
【0019】
本発明の第6の形態は、前記第5の形態において、
前記劣化判定手段が、所定のしきい値以上となっているNOxセンサ最大出力値に対応する供給NOx量の最小値を所定の劣化判定値と比較して前記NOx触媒の劣化を判定する
ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第7の形態は、前記第5の形態において、
前記劣化判定手段が、所定のしきい値以上となっているNOxセンサ最大出力値について供給NOx量との関係を表す回帰直線を決定し、該回帰直線上で前記しきい値に対応する供給NOx量を決定すると共に、この決定された供給NOx量を所定の劣化判定値と比較して前記NOx触媒の劣化を判定する
ことを特徴とする。
【0021】
本発明の第8の形態は、前記第6又は第7の形態において、
前記所定の劣化判定値が、劣化と正常の境目であるクライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に等しい値である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、吸蔵還元型NOx触媒の劣化を高精度でしかも燃費悪化を引き起こすことなく検出することができるという、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の概略的なシステム図である。図示されるように、内燃機関1は、シリンダブロック2に形成された燃焼室3の内部で燃料および空気の混合気を燃焼させ、燃焼室3内でピストン4を往復移動させることにより動力を発生する。内燃機関1は車両用多気筒エンジン(1気筒のみ図示)であり、火花点火式内燃機関、より具体的にはガソリンエンジンである。但し、本発明が適用される内燃機関は火花点火式内燃機関に限られず、例えば圧縮着火式内燃機関即ちディーゼルエンジンであってもよい。
【0025】
内燃機関1のシリンダヘッドには、吸気ポートを開閉する吸気弁Viと、排気ポートを開閉する排気弁Veとが気筒ごとに配設されている。各吸気弁Viおよび各排気弁Veは図示しないカムシャフトによって開閉させられる。また、シリンダヘッドの頂部には、燃焼室3内の混合気に点火するための点火プラグ7が気筒ごとに取り付けられている。さらにシリンダヘッドにはインジェクタ(燃料噴射弁)12が気筒ごとに配設され、燃焼室3内に直接燃料噴射するようになっている。ピストン4はいわゆる深皿頂面型に構成されており、その上面には凹部4aが形成されている。そして内燃機関1では、燃焼室3内に空気を吸入させた状態で、インジェクタ12からピストン4の凹部4aに向けて燃料が直接噴射される。これにより点火プラグ7の近傍に、燃料と空気との混合気の層が周囲の空気層と分離された状態で形成(成層化)され、安定した成層燃焼が実行される。
【0026】
各気筒の吸気ポートは気筒毎の枝管を介して吸気集合室であるサージタンク8に接続されている。サージタンク8の上流側には吸気集合通路をなす吸気管13が接続されており、吸気管13の上流端にはエアクリーナ9が設けられている。そして吸気管13には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ5と、電子制御式スロットルバルブ10とが組み込まれている。なお吸気ポート、サージタンク8及び吸気管13により吸気通路が形成される。
【0027】
一方、各気筒の排気ポートは気筒毎の枝管を介して排気集合通路をなす排気管6に接続されている。これら排気ポート、枝管及び排気管6により排気通路が形成される。排気管6には、その上流側に、排気ガス中のCO,HC,NOxを同時に浄化可能な三元触媒11が設けられ、その下流側に、排気ガス中のNOxを浄化可能なNOx触媒16が設けられている。本実施形態では、三元触媒11とNOx触媒16を同一のケーシングに収容してなるCCL触媒ユニット(CCL: Catalytic Converter Lean)が用いられているが、これに限らず、三元触媒11とNOx触媒16を別々のケーシングに収容して個別に配置してもよい。三元触媒11は必ずしも必須ではなく、省略も可能である。例えばディーゼルエンジンの場合、三元触媒を設けない例が多い。
【0028】
三元触媒11の上流側に、排気ガスの空燃比(A/F)を検出するための空燃比センサ17が設置されている。また、NOx触媒16の下流側に、排気ガスのNOx濃度を検出するためのNOxセンサ、即ち触媒後NOxセンサ18が設置されている。空燃比センサ17は所謂広域空燃比センサからなり、比較的広範囲に亘る空燃比を連続的に検出可能で、その空燃比に比例した電流信号を出力する。但しこれに限らず、空燃比センサ17は、理論空燃比(ストイキ)を境に出力電圧が急変する所謂Oセンサからなってもよい。
【0029】
触媒後NOxセンサ18は、排気ガスのNOx濃度に比例した電流信号を出力する。特に触媒後NOxセンサ18は、排気ガス中のNOxだけでなく、排気ガス中のアンモニア(NH)も検出可能なものであり、所謂限界電流式NOxセンサである。この種のNOxセンサは特許文献2等に開示されている。触媒後NOxセンサ18は、その内部で排気ガス中のNOx(特にNO)をNとOに分解し、そのOに基づく酸素イオンの電極間移動により酸素イオン量に比例した電流出力を発生する。その一方で、触媒後NOxセンサ18は、その内部で排気ガス中のNHをNOとHOに分解し、さらにそのNOをNとOに分解し、あとはNOxの場合と同様の原理で電流出力を発生する。触媒後NOxセンサ18は、NOx濃度とアンモニア濃度との合計濃度に比例した出力を発するものであり、NOx濃度とアンモニア濃度とを区別して出力を発することはできない。
【0030】
上述の点火プラグ7、スロットルバルブ10及びインジェクタ12等は、制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUと称す)20に電気的に接続されている。ECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。またECU20には、図示されるように、前述のエアフローメータ5、空燃比センサ17、触媒後NOxセンサ18のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ14、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ15、NOx触媒16の上下流側にそれぞれ設置された排気温センサ即ち触媒前排気温センサ21及び触媒後排気温センサ22、その他の各種センサが図示されないA/D変換器等を介して電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ7、スロットルバルブ10、インジェクタ12等を制御し、点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。なお触媒前排気温センサ21は三元触媒11とNOx触媒16の間の位置に設置される。触媒後NOxセンサ18にはヒータ付きのものが採用され、触媒後NOxセンサ18の温度制御(ヒータ制御)がECU20によって実行される。クランク角センサ14の出力はエンジン回転速度Neの検出にも用いられる。
【0031】
三元触媒11は、これに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(例えばA/F=14.6)付近のときにCO,HC及びNOxを同時に浄化する。この三者を同時に高効率で浄化できる空燃比の幅(ウィンドウ)は比較的狭い。よって三元触媒11を有効に機能させるため、空燃比制御の一態様として、三元触媒11に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比付近となるように混合気の空燃比が制御される。これをストイキ制御といい、ストイキ制御が実行されているときのエンジンの運転態様をストイキ運転という。このストイキ制御では目標空燃比が理論空燃比と等しく設定され、空燃比センサ17により検出された空燃比が目標空燃比と等しくなるように、インジェクタ12から噴射される燃料噴射量ひいては空燃比がフィードバック制御される。
【0032】
他方、燃費低減等の観点から、空燃比制御の別の態様として、目標空燃比が理論空燃比より高い値即ちリーンな値に設定される場合がある。これをリーンバーン制御といい、リーンバーン制御が実行されているときのエンジンの運転態様をリーンバーン運転という。なおリーンバーン制御時もストイキ制御時と同様、空燃比センサ17により検出された空燃比が目標空燃比と等しくなるように燃料噴射量ひいては空燃比がフィードバック制御される。リーンバーン制御時には、エンジンから排出される排気ガスの空燃比が、三元触媒11でのNOx浄化を実質的に不可能とするほどにリーンな値とされる場合がある。この場合に三元触媒11をすり抜けたNOxを浄化すべく、三元触媒11の下流側にNOx触媒16が設けられている。
【0033】
NOx触媒16には吸蔵還元型NOx触媒(NSR: NOx Storage Reduction)が用いられている。この吸蔵還元型NOx触媒は、アルミナAl等の酸化物からなる基材表面に、触媒成分としての白金Ptのような貴金属と、NOx吸収成分とが担持されて構成されている。NOx吸収成分は、例えばカリウムK、ナトリウムNa,リチウムLi、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類、ランタンLa、イットリウムYのような希土類から選ばれた少なくとも一つから成る。
【0034】
吸蔵還元型NOx触媒16は、これに流入される排気ガスの空燃比が理論空燃比よりリーンのときには排気ガス中のNOxを硝酸塩の形で吸蔵し、これに流入される排気ガスの空燃比が理論空燃比又はそれよりリッチのときには吸蔵したNOxを放出するという、NOxの吸放出作用を行う。リーンバーン運転中では、排気空燃比が理論空燃比よりリーンであり、NOx触媒16は排気中のNOxの吸収を行う。一方、NOx触媒16がNOxを飽和状態即ち満杯まで吸蔵すると、NOx触媒16がそれ以上NOxを吸蔵できなくなることから、NOx触媒から吸蔵NOxを放出させるべく、NOx触媒16に還元剤を供給するリッチスパイクが実行される。なお、このようにNOx触媒16から吸蔵NOxを放出してNOx触媒16のNOx吸蔵能力を回復させることをNOx再生と称する。NOx触媒から放出(脱離)されたNOxは、周囲の還元剤(例、H,CO)と反応して還元され、Nとなって触媒下流に排出される。
【0035】
リッチスパイクは本実施形態では以下のリッチスパイク制御によって実現される。即ち、目標空燃比が一時的に理論空燃比又はそれよりリッチな値に設定され、混合気ひいては排気ガスの空燃比が理論空燃比又はそれより低いリッチな値に制御される。排気ガスの実際の空燃比と理論空燃比との差分が瞬時的な還元剤量に相当する。
【0036】
なお、リッチスパイクについてはこれ以外にも様々な方法がある。例えば、NOx触媒上流側に還元剤供給弁を別途設け、還元剤供給弁を開弁制御して排気中に還元剤を供給する方法がある。代替的に、インジェクタ12から燃焼室3に膨張行程後期又は排気行程で燃料を噴射し、未燃燃料を排気中に多く含ませるいわゆるポスト噴射が可能である。
【0037】
リッチスパイクによってNOx触媒16に還元剤を供給した場合、NOx触媒16内で還元剤(例、H,CO)と排気ガス中のNが反応してアンモニアNHが生成される。そしてこのアンモニアNHが、NOx触媒16から脱離されたNOxと反応し、この結果NOxが還元されてNとなる。その一方で、過剰の還元剤が供給されると、NOx触媒16に吸蔵されたNOxは全て放出還元されるものの、NOxの放出還元に使用されなかった還元剤(H,CO)からアンモニアNHが生成され、NOx触媒16の下流側に排出されることとなる。
【0038】
NOx触媒16のNOx吸放出作用はNOx触媒16が所定の作動温度域にないと実質的に行えない。そこで本実施形態ではNOx触媒16の温度(触媒床温)が検出又は推定される。NOx触媒16の温度は、NOx触媒に埋設した温度センサにより直接検出することもできるが、本実施形態ではそれを推定することとしている。具体的には、ECU20が、触媒前排気温センサ21及び触媒後排気温センサ22によりそれぞれ検出された触媒前排気温及び触媒後排気温に基づき、触媒温度を推定する。なお推定方法はこのような例に限られない。
【0039】
次に、NOx触媒16の劣化診断について説明する。
【0040】
概して、ここで述べる劣化診断の第1の形態の特徴は、NOx触媒16に、劣化と正常の境目であるクライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に相応した量の還元剤を供給し、このときの触媒後NOxセンサ18の出力に基づいて、NOx触媒16の劣化を判定する点にある。
【0041】
ここで「クライテリア触媒」について説明すると、NOx触媒は、それが劣化していくほど吸蔵可能なNOx量、即ちNOx吸蔵能が低下していく。そして吸蔵可能なNOx量が所定値(典型的には前述のOBD規制値相当)を下回った時点でNOx触媒は劣化と判定しなければならない。この所定値に等しいNOx吸蔵能を有するNOx触媒がクライテリア触媒である。クライテリア触媒と等しいかそれより高いNOx吸蔵能を有するNOx触媒は正常と判定されなければならず、逆に、クライテリア触媒より低いNOx吸蔵能を有するNOx触媒は劣化と判定されなければならない。
【0042】
このようなクライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量(クライテリアNOx量と称す)は、予め実機試験等を通じて把握される。また、クライテリアNOx量に相応した還元剤量(クライテリア還元剤量と称す)、即ちNOx触媒に吸蔵されたクライテリアNOx量のNOxを放出還元するのに必要十分な過不足の無い還元剤量も、予め実機試験等を通じて把握される。
【0043】
NOx触媒16がクライテリアNOx量以上のNOxを吸蔵しており、且つリッチスパイクによってNOx触媒16にクライテリア還元剤量を供給した場合、還元剤量は不足か適量となり、NOx触媒下流側には余剰の還元剤から生成されるアンモニアが排出されない。よってNOx触媒下流側で触媒後NOxセンサ18によってアンモニアが検出されることが無く、このことを以てNOx触媒16は正常と判断できる。
【0044】
他方、NOx触媒16がクライテリアNOx量のNOxを吸蔵できず、満杯状態でクライテリアNOx量より少ないNOxしか吸蔵していないと、NOx触媒16にクライテリア還元剤量を供給しても、還元剤量が過剰となり、余剰の還元剤から生成されるアンモニアがNOx触媒16の下流側に排出される。よってこのアンモニアを触媒後NOxセンサ18で検出することで、NOx触媒16が劣化であることを判断できる。
【0045】
図2は、リーンバーン運転とリッチスパイクとを交互に繰り返したときの触媒後NOxセンサ18の出力変化の様子を示す。(A)が空燃比センサ17の出力(空燃比A/Fへの換算値)であり、NOx触媒16に供給される排気ガスの空燃比を示す。(B)が、NOx触媒16が正常触媒である場合の触媒後NOxセンサ18の出力(NOx濃度Crへの換算値、以下同様)、(C)が、NOx触媒16がクライテリア触媒である場合の触媒後NOxセンサ18の出力、(D)が、NOx触媒16が劣化触媒である場合の触媒後NOxセンサ18の出力をそれぞれ示す。ここで、リーンバーン運転時にNOx触媒16にクライテリアNOx量のNOxが供給され、リッチスパイク時にクライテリア還元剤量の還元剤がNOx触媒16に供給されているものとする。
【0046】
(B)に示されるように、NOx触媒16が正常触媒である場合、触媒後NOxセンサ18の出力値は常にゼロ付近であり、NOxもアンモニアも検出されていない。これは、リーンバーン運転時には排気ガス中のNOxがNOx触媒16に吸蔵されており、リッチスパイク時には吸蔵NOx量に対し過不足の無い還元剤が供給され、余剰のアンモニアが発生しないからである。
【0047】
これに対し、NOx触媒16が劣化していくと、これに応じてリッチスパイク終了時付近の触媒後NOxセンサ18の最大出力値(ピーク値)Crmaxが次第に大きくなる。この触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxの上昇は、余剰のアンモニアが次第に多く排出されようになるからと考えられる。そこでこの特性を利用し、クライテリア触媒における触媒後NOxセンサ最大出力値を予め実機試験等を通じて把握しておき、これを劣化判定値Crsとして設定して、実際に検出された触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxを劣化判定値Crsと比較する。そして、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが劣化判定値Crs未満ならNOx触媒16は正常、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが劣化判定値Crs以上ならNOx触媒16は劣化と判定する。
【0048】
一方、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxを劣化判定値Crsと比較する方法のほかに、代替的に、触媒後NOxセンサの出力値Cr自体を劣化判定値Crsと比較する方法がある。即ち、触媒後NOxセンサの出力値Crが最大出力値Crmaxに達する前の時点で、触媒後NOxセンサの出力値Crが劣化判定値Crs以上となったらNOx触媒16を劣化と判定する。
【0049】
このNOx触媒劣化診断の手法によれば、触媒後NOxセンサ出力値Crの大小のみでNOx触媒16の劣化を判定でき、より具体的には触媒後NOxセンサ出力値Crと所定の劣化判定値Crsとの比較によりNOx触媒16の劣化を判定できる。よって、特許文献1に記載の技術のように、元々誤差分を多く含む微小なNOxセンサ出力値をさらに積分し、誤差分が拡大された積分値を用いて劣化診断をするのではない。本手法では比較的大きいセンサ出力値でもって劣化診断を行う。よってセンサ誤差の影響を少なくし、高い診断精度を確保することができる。そして触媒劣化度の小さい差を見分けることが可能になる。
【0050】
また、車両上における劣化診断はNOx触媒が新品の状態から徐々に劣化する方向で行われるが、劣化診断の度にクライテリアNOx量の供給とクライテリア還元剤量の供給しか行われず、少なくともNOx触媒がクライテリア状態に達するまでは、NOx触媒にはその能力より少ないNOx量と還元剤量しか供給されない。よって劣化診断時に余剰アンモニアの排出はない。NOx触媒がクライテリア状態を超えて劣化したときに初めて過剰に還元剤が供給され、余剰のアンモニアが発生する。もっともNOx触媒が劣化したことが検知されれば、ユーザに警告がなされ、触媒は交換されるであろう。よって通常は触媒のライフサイクルを通して、劣化診断時における過剰な還元剤の供給が防止され、燃費の悪化を防止することができる。
【0051】
次に、このNOx触媒劣化診断の具体例を図3を用いて説明する。
【0052】
図3には、エンジン始動後における各値の変化を示す。(A)がECU20にて推定される触媒温度Tc、(B)が触媒後NOxセンサ18の温度Ts(以下、単にセンサ温度ともいう)、(C)が供給NOx量G、(D)が空燃比センサ17の出力(空燃比A/Fへの換算値)、(E)が触媒後NOxセンサ18の出力(NOx濃度Crへの換算値)を示す。時刻t0がエンジン始動完了時刻である。(B)に関して、触媒後NOxセンサ18の温度TsはECU20によって検出且つ制御されている。より具体的には、ECU20によって触媒後NOxセンサ18の素子インピーダンスが検出されており、この素子インピーダンスがセンサ活性時相当の所定値になるように触媒後NOxセンサ18のヒータが制御される。
【0053】
(A)、(B)に示されるように、エンジンが始動されると、触媒温度Tc及びセンサ温度Tsが次第に上昇し、やがて触媒温度Tcが下限温度Tcmin(例えば約300℃)を上回って作動温度域に入り(時刻t1)、センサ温度Tsも下限温度Tsmin(例えば約750℃)を上回って活性温度域に入る(時刻t2)。センサ温度Tsはその後下限温度Tsminより若干高い値に維持される。なお触媒作動温度域の上限温度Tcmaxは例えば約550℃である。
【0054】
(D)に示されるように、これら時刻t1,t2付近から空燃比制御がストイキ制御からリーンバーン制御に移行され、空燃比が理論空燃比(ストイキ)より高い値(例えば16〜18程度)に維持される。このときの空燃比は三元触媒11でNOxを浄化できないような高い空燃比である。よってエンジンから排出されたNOxは三元触媒11を素通りし、後段のNOx触媒16でトラップ、吸蔵される。従って(E)に示されるようにNOx触媒16の下流側ではNOxが検出されない。
【0055】
一方、(C)に示されるように、リーンバーン運転中にNOx触媒16に供給されるNOx量が順次積算され、供給NOx量Gが計算されている。具体的には、1演算周期において、エンジン10から排出される排気ガスのNOx濃度(触媒前推定NOx濃度と称す)Ceがエンジン10の運転状態に基づき推定され、この触媒前推定NOx濃度Ceに、排気ガス量の代用値としての吸入空気量Gaの値が乗じられ、その結果瞬時値としての供給NOx量dGが算出される。そしてこの瞬時値としての供給NOx量dGが演算周期毎に積算され、供給NOx量Gが算出される。触媒前推定NOx濃度Ceは、例えば、エンジン回転速度Ne及び吸入空気量Gaの検出値から求められる負荷率(=Ga/Ne)と、空燃比センサ17で検出される空燃比A/Fとに基づき、所定のマップ等に従って算出される。なお、触媒前推定NOx濃度の代わりに、NOx触媒16の上流側に設けられたNOxセンサ即ち触媒前NOxセンサ(図示せず)の検出値(触媒前検出NOx濃度と称す)を直接用いてもよい。
【0056】
リーンバーン運転を継続すると供給NOx量Gが次第に増加していく。そしてこの供給NOx量Gが予め定められたクライテリアNOx量Gs(例えば200mg)に達したと同時に、吸蔵NOxを放出還元すべく、(D)に符号aで示されるようにリッチスパイクが実行される。具体的には、混合気ひいては排気ガスの空燃比が理論空燃比より低いリッチな値に制御される。このときの空燃比は三元触媒11でHC,CO等の還元成分(特にHC)が浄化されないほどの低い空燃比である。よってエンジンから排出された還元成分は三元触媒11を素通りして後段のNOx触媒16に供給される。なお供給NOx量Gの値は次回リーンバーン運転が開始されるまでクライテリアNOx量Gsにホールドされ、次回リーンバーン運転開始と同時にゼロにリセットされる。
【0057】
リッチスパイク時に供給される還元成分の量即ち還元剤量は、例えば次のようにして算出することができる。まず、1演算周期における瞬時値としての還元剤量dHが次式により計算される。
dH=(1/(A/F)−1/14.6)×Ga
A/Fは空燃比センサ17で検出される実際の空燃比、14.6は本実施形態におけるストイキ空燃比、Gaはエアフローメータ5で検出される吸入空気量である。そしてこの瞬時値としての還元剤量dHが演算周期毎に積算され、リッチスパイク開始時からある時点までに供給された還元剤量Hが計算される。
【0058】
こうして順次計算されていく還元剤量Hが、クライテリアNOx量Gsに相応するクライテリア還元剤量Hsに達したら、リッチスパイクが終了される。なお(D)にハッチングで示される領域の面積がクライテリア還元剤量Hsを表す。
【0059】
(E)に示されるように、リッチスパイクの終了時付近を除けば、触媒後NOxセンサ18の出力値Crはほぼゼロである。その理由は、リーンバーン運転中にはNOx触媒16に供給されるNOxがNOx触媒16に吸蔵され、リッチスパイク中にはその終了時付近を除き、NOx触媒16から脱離したNOxが還元剤によって還元され、NOxの排出もアンモニアの排出もないからである。一方、リッチスパイクの終了時付近では、触媒正常時(破線で示す)には触媒後NOxセンサ出力値Crが僅かに増加するだけであるが、触媒劣化時(実線で示す)には触媒後NOxセンサ出力値Crが著しく増加する。触媒劣化時に触媒後NOxセンサ出力値Crが著しく増加する理由は、リーンバーン運転中にクライテリアNOx量GsのNOxをNOx触媒16に供給したものの、その全量が吸蔵されておらず、よってクライテリア還元剤量Hsの還元剤を供給してもその全量が消費されず、余剰の還元剤がアンモニアの形で触媒下流に排出され、このアンモニアが触媒後NOxセンサ18で検知されているからである。
【0060】
そこで、この触媒後NOxセンサ出力値Cr、好ましくは触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが、クライテリア触媒相当の劣化判定値Crsより大きいか小さいかによって、NOx触媒16が劣化しているか正常であるかを判定することができる。
【0061】
図示例では、以上の工程が繰り返されて劣化検出が複数回実行されている。これにより劣化診断の精度と信頼性とを向上することが可能である。
【0062】
なお、とりわけ劣化触媒の場合において、リッチスパイク終了時付近で触媒後NOxセンサ出力値Crが増加する理由として次のようなものも考えられる。還元剤供給により吸蔵NOxがNOx触媒から脱離はするものの、触媒の活性点の減少劣化に伴って、脱離NOxが還元剤と十分反応せず、脱離NOxが未反応のまま触媒下流に排出され(これを吐き出しNOxと称す)、この吐き出しNOxが触媒後NOxセンサ18で検知されている、という考え方がある。触媒後NOxセンサ18はNOxとアンモニアの区別ができないので、吐き出しNOxによっても出力値が増加する。しかし、様々な研究結果から鑑みて、リッチスパイク終了時付近の触媒後NOxセンサ出力値は吐き出しNOxよりもむしろ余剰アンモニアの量を反映していると考えるのが妥当である。また検知されているのが吐き出しNOxであるか余剰アンモニアであるかによらず、触媒劣化度に関連したNOxセンサ出力値の挙動は予め実機試験等で得られた上述のようなものである。よって吐き出しNOxと余剰アンモニアの区別を敢えてしなくても、上述の方法で好適に劣化診断を実行することが可能である。
【0063】
次に、ここで説明した劣化診断を実行するための具体的処理を図4を参照して説明する。図示される処理はECU20により所定の演算周期毎に繰り返し実行される。
【0064】
最初のステップS101では、推定触媒温度Tcが前述の作動温度域にあるか否か、即ち、推定触媒温度Tcが下限温度Tcmin以上で且つ上限温度Tcmax以下であるか否かが判断される。
【0065】
触媒温度Tcが作動温度域にない場合、本処理が終了される。なおこの場合に、触媒温度Tcが作動温度域に入るように触媒温度Tcを制御してもよい。例えば空燃比をよりリッチ側に変化させれば触媒温度Tcが上昇し、空燃比をよりリーン側に変化させれば触媒温度Tcが下降する。
【0066】
他方、触媒温度Tcが作動温度域にある場合、ステップS102において触媒後NOxセンサ18が活性状態にあるか否か、即ち触媒後NOxセンサ18の温度Tsが活性温度域の下限温度Tsminより高いか否かが判断される。
【0067】
触媒後NOxセンサ18が活性状態にない場合、本処理が終了され、触媒後NOxセンサ18が活性状態にある場合、ステップS103にてリーンバーン運転中か否かが判断される。具体的には、空燃比センサ17で検出される空燃比A/Fが所定のリーン空燃比より大きいか否かが判断される。
【0068】
リーンバーン運転中でない場合、本処理が終了される。他方、リーンバーン運転中である場合、ステップS104にて今回NOx量dGが前述の如く算出され、ステップS105にて供給NOx量Gが前述の如く積算される。
【0069】
次のステップS106では、供給NOx量Gが所定のクライテリアNOx量Gsに達したか否か、具体的には供給NOx量GがクライテリアNOx量Gs以上であるか否かが判断される。供給NOx量GがクライテリアNOx量Gsに達していない場合、本処理が終了され、供給NOx量GがクライテリアNOx量Gsに達している場合、ステップS107に進む。
【0070】
ステップS107ではリッチスパイクが実行される。このリッチスパイクは、前述したように、積算値としての還元剤量Hが所定のクライテリア還元剤量Hsに達するまで実行される。
【0071】
次に、ステップS108では、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが取得されたか否かが判断される。触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが取得されていない場合は本処理が終了される。他方、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが取得された場合は、ステップS109で、この触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxがクライテリア相当の所定の劣化判定値Crsと比較される。
【0072】
触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが劣化判定値Crsより小さい場合、ステップS110でNOx触媒16は正常と判定され、他方、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが劣化判定値Crs以上の場合、ステップS111でNOx触媒16は劣化と判定される。以上で本処理が終了される。
【0073】
次に、NOx触媒劣化診断の第2の形態を説明する。
【0074】
概して、この第2の形態では、NOx触媒16に供給されたNOx量が所定値に達したときにその供給NOx量に相応した量の還元剤が供給される。そして、これら供給NOx量と供給還元剤量とが段階的に増加され、その都度、触媒後NOxセンサ18の最大出力値が取得される。この取得された触媒後NOxセンサ最大出力値の少なくとも一つに対応する供給NOx量に基づいて、NOx触媒の劣化が判定される。
【0075】
これを具体的に図5を用いて説明する。図は、NOx触媒16に供給したNOx量即ち供給NOx量G(mg)と、この供給NOx量に相応した過不足のない量の還元剤をNOx触媒16に供給したときに得られる触媒後NOxセンサ最大出力値Crmax(ppm)との関係を示す試験結果である。白丸は正常触媒の場合、黒丸は劣化触媒の場合である。
【0076】
図示されるように、正常触媒の場合、NOx触媒16への供給NOx量Gを100mg、200mg、300mgと増加していっても触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxはほぼゼロである。この理由は、正常触媒の吸蔵可能なNOx量が300mgよりも多く、300mg以下のNOxを供給したときにその全量がNOx触媒に吸蔵され、且つ供給NOx量に相応する還元剤量を供給したとき全還元剤量が過不足無く吸蔵NOxの還元に使用されるからである。
【0077】
これに対し、供給NOx量Gを400mgに増やした場合、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxはゼロより大きくなる。供給NOx量Gをさらに500mgに増やすと、さらに大きい触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが得られている。この理由は、NOx触媒の吸蔵可能なNOx量が400mgよりも少なく、400mg以上のNOxを供給してもその全量を吸蔵することができず、且つ供給NOx量に相応する還元剤量を供給しても全てが吸蔵NOxの還元に使用されず、還元剤量が過剰となり、余剰のアンモニアが触媒後NOxセンサ18で検出されるからである。NOx触媒が400mgよりも少ない一定量のNOxしか吸蔵できないので、当然、還元剤量を400mg相当から増やしていけば、余剰の還元剤量も増えていき、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxも増加していく。
【0078】
この傾向から、図示例の正常触媒の吸蔵可能なNOx量は、300mgよりも多く400mgよりも少ないことが分かる。
【0079】
一方、劣化触媒の場合だと、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxがほぼゼロとなるのは供給NOx量Gが100mgのときだけで、供給NOx量Gを200mg、300mg、400mg、500mgと増加するにつれ触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxも比例的に増加していく。この傾向から、図示例の劣化触媒の吸蔵可能なNOx量は、100mgよりも多いが200mgよりも少ないことが分かる。
【0080】
そこで、このような関係を利用してNOx触媒の劣化診断を実行する。具体的に、第1の態様としては、クライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量を予め実機試験等によって把握しておき、このクライテリアNOx量を劣化判定値Gsとして設定する。そして、NOx触媒16に供給するNOx量Gを、劣化判定値Gsより小さい値から大きい値へと段階的に増加していき、各供給NOx量Gに相応する還元剤量Hを供給する度に、その都度触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxを取得する。そしてこのうち、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxがクライテリア相当の所定値Crs(ここではゼロより若干大きい値、但し便宜上はゼロと考えて差し支えない)を超えているサンプル点(サンプルデータ、図中の白丸又は黒丸)を取得し、そのサンプル点に対応した供給NOx量Gのうち最小の値Gminを劣化判定値Gsと比較する。そして、供給NOx量最小値Gminが劣化判定値Gs以上のときはNOx触媒を正常と判定し、供給NOx量最小値Gminが劣化判定値Gs未満のときはNOx触媒を劣化と判定する。
【0081】
図5に示す例では劣化判定値Gsが320mgに設定されている。そして正常触媒の場合、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが所定値Crsを超えているサンプル点はG=400mg、500mgのサンプル点であり、これらのサンプル点に対応した供給NOx量Gのうち最小値Gminは400mgである。400mg>320mgなので、NOx触媒は正常と判定される。他方、劣化触媒の場合、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが所定値Crsを超えているサンプル点はG=200mg、300mg、400mg、500mgのサンプル点であり、これらのサンプル点に対応した供給NOx量Gのうち最小値Gminは200mgである。200mg<320mgなので、NOx触媒は劣化と判定される。
【0082】
この第1の態様によると、劣化判定値Gsとの比較対象である供給NOx量最小値Gminが100mg刻みで段階的にしか得られないため、簡便ではあるが、やや精度に欠ける問題がある。そこで以下に述べる第2の態様ではより精度の高い手法を採用する。
【0083】
即ち、図5を参照して、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが所定値Crsを超えているサンプル点について、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxと供給NOx量Gとの関係を表す回帰直線Lを決定する。この回帰直線Lは図示されるように一定の傾きを持つ直線となる。そして、この回帰直線L上で、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが所定値Crsとなっている点即ち被判定点xを決定すると共に、この被判定点xに対応する供給NOx量Gxを取得する。そして、この取得された供給NOx量Gxを劣化判定値Gsと比較し、供給NOx量Gxが劣化判定値Gs以上のときはNOx触媒を正常と判定し、供給NOx量Gxが劣化判定値Gs未満のときはNOx触媒を劣化と判定する。
【0084】
この第2の態様によれば、劣化判定値Gsとの比較対象である供給NOx量Gxが100mg刻みでなく、連続的に得られるため、第1の態様よりも高い精度を得ることができる。以下、この第2の態様について、ECU20で行われる具体的処理を図6に基づいて説明する。
【0085】
本処理の前提として、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxの取得回数nの初期値は0、供給NOx量の目標値Gt(n)の初期値(Gt(0))は0と定められる。
【0086】
まず、ステップS201では触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxの取得回数nが1だけカウントアップされる。そしてステップS202では、今回の供給NOx量目標値Gt(n)が、前回の供給NOx量目標値Gt(n−1)に所定のステップ量ΔGを加算して求められる。ステップ量ΔGは例えば図5の例に倣って100mgである。
【0087】
次いで、ステップS203で、リーンバーン運転中の供給NOx量Gが目標値Gt(n)に達したか否か、即ち供給NOx量Gが目標値Gt(n)以上になったか否かが判断される。供給NOx量Gが目標値Gt(n)に達していなければ、達するまでステップS203が実行される。他方、供給NOx量Gが目標値Gt(n)に達したならば、ステップS204にて、その供給NOx量目標値Gt(n)に相応する量の還元剤を供給するリッチスパイクが実行される。
【0088】
次いで、ステップS205にて、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmax(n)が取得される。この後ステップS206にて、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxの取得回数nが所定値m以上になったか否かが判定される。所定値mは例えば図5の例に倣って5である。
【0089】
取得回数nが所定値m未満の場合、ステップS201〜S205が繰り返し実行される。他方、取得回数nが所定値m以上の場合、つまりn=5に達した場合、ステップS207に進む。これにより、NOx触媒16に100mg〜500mgまでのNOxが100mg刻みで順次供給され、各々の供給NOx量に対し相応の還元剤量が供給され、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが取得される。つまり、図5に示されるような5つのサンプル点がこれで得られることになる。
【0090】
ステップS207では、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが所定値Crsを超えているサンプル点を用いて、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxと供給NOx量Gとの関係を表す回帰直線Lが決定される。そして、ステップS208では、この回帰直線L上で、触媒後NOxセンサ最大出力値Crmaxが所定値Crsとなっている点xが決定される。
【0091】
ステップS209では、その点xに対応する供給NOx量Gxが取得されると共に、この取得された供給NOx量Gxが所定の劣化判定値Gsと比較される。そして、供給NOx量Gxが劣化判定値Gs以上のときはステップS210でNOx触媒が正常と判定され、供給NOx量Gxが劣化判定値Gs未満のときはステップS211でNOx触媒が劣化と判定される。
【0092】
このNOx触媒劣化診断の第2の形態によれば、供給NOx量Gが、クライテリア相当の劣化判定値Gsより少ない値から段階的に増加される。正常触媒の場合だと、診断初期の段階では、供給NOx量Gが触媒の吸蔵可能なNOx量より少ないので、相応の還元剤を供給しても還元剤が過剰とならず、燃費悪化が抑制される。過剰な還元剤量が供給されるのは、触媒の吸蔵可能なNOx量より多くのNOxが供給されたときだけで、数回程度である。よって正常触媒のうちは劣化診断を行っても燃費の悪化が最小限に抑制される。他方、劣化触媒の場合だと、診断初期の段階から還元剤が過剰となるが、この場合は触媒が劣化と判定されてユーザに警告が発せられ、触媒は交換されるであろう。よって触媒のライフサイクルを通して、劣化診断時の燃費の悪化が防止される。
【0093】
次に、劣化診断の第3の形態を図7を参照しつつ説明する。この第3の形態では、最初に述べた第1の形態と同様に、リーンバーン運転中にクライテリアNOx量Gsと等しいNOx量がNOx触媒16に供給される。そしてこの供給終了と同時にリッチスパイクが実行され、クライテリアNOx量Gsに相応する還元剤量Hsが供給される。その一方で、リッチスパイク開始時点t11から所定時間(例えば10秒)経過後の所定時点t12まで、触媒後NOxセンサ出力値Crの値が積算され、その積算値ΣCrが求められる。所定時点t12は少なくともリッチスパイク終了時点より後となるように定められる。他方、実機試験等を通じて、クライテリア触媒の場合における触媒後NOxセンサ出力積算値ΣCrsを予め把握しておき、これを劣化判定値として設定する。そして、実際に得られた触媒後NOxセンサ出力積算値ΣCrを劣化判定値ΣCrsと比較し、ΣCrがΣCrs未満なら触媒正常、ΣCrがΣCrs以上なら触媒劣化と判定する。つまりこの手法は、センサ出力値に基づいて劣化判定を行うものの、その値の大きさや最大値ではなく積算値を用いて劣化判定するやり方である。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は他の実施形態を採ることも可能である。例えば、前記実施形態では触媒後NOxセンサ出力値に関する値としてNOx濃度への換算値を用いたが、触媒後NOxセンサから出力される電流値そのものを用いてもよい。
【0095】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関の概略的なシステム図である。
【図2】リーンバーン運転とリッチスパイクとを交互に繰り返したときの触媒後NOxセンサの出力変化の様子を示す図である。
【図3】NOx触媒劣化診断の第1の形態の具体例を説明するためのタイムチャートである。
【図4】第1の形態の処理内容を示すフローチャートである。
【図5】NOx触媒劣化診断の第2の形態を説明するためのグラフである。
【図6】第の形態の処理内容を示すフローチャートである。
【図7】NOx触媒劣化診断の第3の形態を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0097】
1 内燃機関
5 エアフローメータ
6 排気管
12 インジェクタ
16 NOx触媒
17 空燃比センサ
18 触媒後NOxセンサ
20 電子制御ユニット(ECU)
21 触媒前排気温センサ
22 触媒後排気温センサ
G 供給NOx量
Gs クライテリアNOx量
H 還元剤量
Hs クライテリア還元剤量
Cr 触媒後NOxセンサ出力
Crmax 触媒後NOxセンサ最大出力値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、
前記NOx触媒に吸蔵NOxを放出させるための還元剤を供給するリッチスパイクを実行するリッチスパイク手段と、
前記NOx触媒の下流側に設けられたNOxセンサと、
前記NOx触媒に、劣化と正常の境目であるクライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に相応した量の還元剤が供給されたときの前記NOxセンサの出力に基づいて、前記NOx触媒の劣化を判定する劣化判定手段と
を備えたことを特徴とするNOx触媒の劣化診断装置。
【請求項2】
前記NOxセンサが、排気ガス中のアンモニアを検出可能である
ことを特徴とする請求項1記載のNOx触媒の劣化診断装置。
【請求項3】
前記NOx触媒に供給されたNOx量を算出する算出手段が備えられ、
前記算出手段により前記クライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量と等しい量の供給NOx量が算出されたときに、前記リッチスパイク手段が、前記クライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に相応した量の還元剤を供給する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のNOx触媒の劣化診断装置。
【請求項4】
前記劣化判定手段が、前記NOxセンサの出力値が所定の劣化判定値以上となったときに前記NOx触媒を劣化と判定する
ことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のNOx触媒の劣化診断装置。
【請求項5】
内燃機関の排気通路に設けられた吸蔵還元型NOx触媒と、
前記NOx触媒に吸蔵NOxを放出させるための還元剤を供給するリッチスパイクを実行するリッチスパイク手段と、
前記NOx触媒の下流側に設けられたNOxセンサと、
前記NOx触媒に供給されたNOx量を算出する算出手段と、
前記NOx触媒の劣化を判定する劣化判定手段と
を備え、
前記算出手段によって算出された供給NOx量が所定値に達したときに前記リッチスパイク手段によりその供給NOx量に相応した量の還元剤を供給し、これら供給NOx量と供給還元剤量とを段階的に増加させていってその都度前記NOxセンサの最大出力値を取得し、この取得されたNOxセンサ最大出力値の少なくとも一つに対応する供給NOx量に基づいて、前記劣化判定手段により前記NOx触媒の劣化を判定する
ことを特徴とするNOx触媒の劣化診断装置。
【請求項6】
前記劣化判定手段が、所定のしきい値以上となっているNOxセンサ最大出力値に対応する供給NOx量の最小値を所定の劣化判定値と比較して前記NOx触媒の劣化を判定する
ことを特徴とする請求項5記載のNOx触媒の劣化診断装置。
【請求項7】
前記劣化判定手段が、所定のしきい値以上となっているNOxセンサ最大出力値について供給NOx量との関係を表す回帰直線を決定し、該回帰直線上で前記しきい値に対応する供給NOx量を決定すると共に、この決定された供給NOx量を所定の劣化判定値と比較して前記NOx触媒の劣化を判定する
ことを特徴とする請求項5記載のNOx触媒の劣化診断装置。
【請求項8】
前記所定の劣化判定値が、劣化と正常の境目であるクライテリア触媒が吸蔵し得るNOx量に等しい値である
ことを特徴とする請求項6又は7に記載のNOx触媒の劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−215315(P2008−215315A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57674(P2007−57674)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】