説明

NaClの新規な代替品

本発明は、不活化酵母と、NaCl、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物から選択される塩化合物とを含む、ナトリウム塩の新規な代替品に関する。
本発明は、この新規な代替品を含む組成物並びに、製パン及び調理済み食品におけるこの代替品の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩(NaCl)の代替品としての新規な作用剤、前記作用剤を含むヒト及び/または動物の栄養素向け組成物、並びにNaClの完全なまたは部分的な代替品としての前記作用剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
長年の間、一般的な食物、特に塩の重要な摂取源と認識される全ての食品、例えば、製パン製品及び朝食用パン製品、調理肉、スープ、調理済み食料、香辛料、並びにソース中に存在するナトリウムの量を低減させることが望まれている。ナトリウムの過剰摂取は、健康に非常に有害であり、特に動脈性高血圧症を促進し得る。したがって、ある程度の数の世界中の公共の保健機関が、こうした食品中のナトリウム摂取の低減を推奨または要求している。
【0003】
しかしながら、塩は製パンにおいて必須の役割を担い、置き換えの困難な処理剤である。実際、その味覚上の役割に加えて、塩は、生地の物理的特性を改善し、グルテンネットワークの構造に顕著に影響し、また、強度の混練により生じるパンのブリーチング及び味の喪失を遅延させる抗酸化効果によって、生地の酸化に顕著に作用する。塩はまた、焼き上げの間のパンの耳の着色に、パンの品質保持に、遅延化することによって発酵活性に役割を有し、これはその後の発酵及び最終発酵の工程の進行に影響を与える。
【0004】
塩の味及び風味増強効果並びにパンのテクスチャー品質への直接の影響のため、塩は、製パンにおいて重要な役割を有する成分となっている。
【0005】
結果として、製パンにおける塩の量の低減には、製パン業者にとって技術的な問題を提起する。実際、こうした塩の低減はパン生地に欠点をもたらすが、これは処理中のグルテンネットワークの堅実性の喪失に由来することが周知である。この堅実性の喪失は、ほとんどの場合、以下:緩み及びべたつき、作業を困難にする過剰な伸展性、CO2に対してグルテンネットワークの多孔性が増大することによる、発酵(最終発酵工程)中のCO2のかなりの喪失に起因する耐久性の不足、の少なくとも一つの点によって生地に影響する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sensory evaluation, manual of procedures, second Edition Lavoisier, TEC et DOC
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最後に、こうした塩の低減は一般的にパンに欠点をもたらし、塩を低減されたパンは味気なく、耳が白すぎ、体積に劣り、且つ外観が優れない。
【0008】
製パンの際の塩の量の低減のために、様々な解決策、例えば、無機化合物、乳から誘導される化合物、及び風味料の添加が、既に提案されている。しかしながら、これまでに提案された解決策は、官能的な点で依然として満足のいくものではなく、さらには不完全で技術的に複雑、あるいは高価でさえある。更にまた、通常非パン由来であるこれらの解決策は製パン業者による許容の妨げとなる。
【0009】
然るに、パン生地の製造における既知の操作、優れたパン生地の従来のレオロジー特性、並びに調理した場合にこのパン生地から得られるパンの優れた物理的及び味覚的品質を保持しつつ、製パンにおいて完全にまたは部分的にNaClを置き換えることのできる、単純且つ自然なNaClの新規な代替品が依然求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、不活化酵母並びにNaCl、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物から選択される塩化合物を含む、NaClの代替品に関する。
【0011】
本発明による塩代替品は、この作用剤が少量で使用された場合にさえも十分な塩効果を保持する一方で、製パン製品中のNaClの量を非常に顕著に(ある種の応用においては100%まで)低減するという利点を供する。
【0012】
最後に、本発明による塩代替品を含むパンは、NaClのみを含むパンと同様の物理化学的及び味覚的特徴、すなわちパンの耳は堅く、パンの身の部分は柔らかく、適切に「ハニカム」構造を有し、通常及び普通は塩味がつけられている風味を維持するという利点を有する。
【0013】
本発明の別の目的は、上述の作用剤を含むヒト及び/または動物の栄養素向けの組成物である。
【0014】
本発明の第三の目的は、以上に定義される前記作用剤の、製パンにおけるNaClの完全なまたは部分的な代替品としての使用である。
【0015】
好ましくは、製パンとは、「伝統的なフランスパン」の製パンである。
【0016】
最後に、本発明の最後の目的は、以上に定義される前記作用剤の、調理済み食品におけるNaClの完全なまたは部分的な代替品としての使用である。
【0017】
本発明による作用剤は、不活化酵母のみ、及び/または穀物抽出物、例えば麦芽抽出物またはシリアルモルトを含む不活化酵母を含んでよい。この不活化酵母は、穀類抽出物と共乾燥により得られる。この穀物抽出物は麦芽抽出物であってよい。
【0018】
不活化酵母は、いわゆる「死亡」酵母であり、これは様々な方法、例えば熱的不活化において、任意に穀物抽出物、例えば麦芽抽出物とまたはシリアルモルトと混合して得られる。使用される酵母は、好ましくはSaccharomyces属、より好ましくは、Saccharomyces carlsbergensisと呼称されるものを含むSaccharomyces cerevisiae種に属する酵母である。
【0019】
酵母の可溶性部分を含むのみである酵母抽出物と対照的に、不活化酵母は、可溶性部分と不溶性部分とからなる前記酵母の全体を含む。
【0020】
さらにまた、不活化酵母は、酵母抽出物と対照的に、分離工程がないことから技術的に各段に簡便に得ることができる。さらにまた、酵母抽出物と対照的に、不活化酵母の製造は、自己消化工程も、酵母抽出物が構成される成分の溶解性を最適化するための物理化学的及び/または生物学的手段も要しない。
【0021】
然るに、不活化酵母は、その製造のために高いコストを伴わない成分である。
【0022】
カリウム塩は、好ましくはKCl、アンモニウム塩NH4Cl、及びマグネシウム塩MgCl2である。
【0023】
塩化合物/不活化酵母の比は、1乃至5.7であってよく、NaCl/塩化合物の比は、塩化合物の全質量に対して0乃至100質量%であってよい。
【0024】
本発明による作用剤は、無機化合物、乳から誘導される化合物、風味料、及びこれらの混合物から選択される別の塩代替品をさらに含んでよい。
【0025】
無機化合物は、塩化カリウム、塩化アンモニウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸カリウムを含んでよい。乳から誘導される化合物は、乳及び乳誘導体から得られる無機物を含んでよい。
【0026】
本発明による作用剤は、アスコルビン酸、乳化剤、安定化増粘剤、酵素、及びこれらの混合物から選択される製パン改良剤を更に含んでよい。本発明による作用剤は、改良効果を有する一つもしくは複数の成分、例えばL-システイン、安定化増粘剤、例えばアルファ化小麦粉、変性デンプン、カルボキシメチルセルロース、ガム、例えばキサンタンガム、海草抽出物、例えばアルギナートまたはカラギーナンまたはこれらの成分の混合物、乳化剤、例えばレシチン、脂肪酸のモノ-及びジ-グリセリドまたは脂肪酸のモノ-及びジ-グリセリドのジアセチル酒石酸エステルまたはこれらの成分の混合物、酵素、例えばアミラーゼ、例えばアルファ-アミラーゼ、マルトース生成性アルファ-アミラーゼまたは別の老化防止アルファ-アミラーゼ、ヘキセルラーゼ、例えばキシラナーゼ、グルコースオキシダーゼ、アミログルコシダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、穀物粉を含んでよい。
【0027】
改良剤は、乾燥または液体形態であってよい。その主要な役割は、酵母の酸化機能を増進することである。さらにまた、パン生地のだれ(sagging)を補正するために添加してよい。
【0028】
その化学的性質により、またこれがアスコルビン酸、所定のブロメートから選択される場合には顕著に、この改良剤は、粉の質量に対して約10乃至200ppm、好ましくは10乃至80ppm、更に好ましくは20乃至50ppmの範囲の量で存在してよい。
【0029】
これが活性グルテン等の化合物から選択される場合には、粉の質量に対して約0.3乃至2質量%、好ましくは0.5乃至2質量%の範囲の量で存在してよい。
【0030】
本発明による組成物は、テクスチャー形成剤、例えばマイクロクリスタリンセルロース、デキストロースまたはマグネシウムステアレート、添加剤、抗凝集剤、例えばケイ酸カルシウム、ダマ防止剤、例えば小麦繊維、または加工助剤から選択される少なくとも一つの添加剤を更に含んでよい。これらは公衆衛生の観点で興味深い化合物、例えば、フッ素及びヨウ素、または別の塩、例えばマグネシウム塩であってもよい。
【0031】
本発明による作用剤を含む組成物は、パン生地、ブリオシュ生地、あるいは何であってもよい製パン製品(パン、甘い菓子パン、ピッツァ等)の別のあらゆるタイプの生地、あるいは全ての調理済み食品等のものであってよい。
【0032】
本発明による作用剤は、製パンと調理済み食料産業との両方において、料理補助品、例えば野菜または肉のブロスにおいて、使用することができる。
【0033】
本発明によって使用される作用剤は、単独の不活化酵母及び/または穀物抽出物を含む不活化酵母を、製パンにおける粉の全質量に対して約0.4乃至1質量%、好ましくは0.6乃至0.8質量%の範囲、更に好ましくは0.7質量%の量で含んでよい。
【0034】
塩化合物は、既存のパン生地調製における粉の全質量に対する1.8乃至2.4質量%の割合に代えて、製パンにおける粉の全質量に対して約0.9乃至1.6質量%の範囲の量で存在してよい。
【0035】
本発明による作用剤の使用により、粉の全質量に対して15乃至100質量%、好ましくは20乃至50質量%、更に好ましくは20乃至30質量%にNaClの割合を低減させることができる。
【0036】
本発明は、例示のみの目的で与えられる以下の実施例を用いてここに詳説される。
【実施例】
【0037】
(実施例1:伝統的なフランスパン)
「伝統的なフランスパン」タイプのパン生地の二つの組成物1及び2を調製した。一方は、粉の全質量に対して2.2質量%のNaClを含む従来通りの既知のもの(コントロール)であり、他方は、粉の全質量に対して1.6質量%のNaCl及び0.7質量%の不活化酵母を、本発明による作用剤と共に含む。
【0038】
これら二つの組成物は、16乃至24時間に亘って「バット発酵」と呼称される同一の製パンスキームを利用して調製された。このスキームは、「伝統的なフランスパン」タイプのパンを得るために一般的に使用される。
【0039】
この製パンスキームを用いて、以下の主要な官能品質を有するパンを得ることができる。
・適切な「ハニカム」テクスチャーを有するクリーム色のパンの身
・発酵後の生地の体積の最適な進展
・パンの好ましい味及び香り
・パンの新鮮さの保持。
【0040】
(組成物1:コントロール)
・いわゆる「伝統的な」小麦粉タイプ65 100%
・水 65%
・NaCl 2.2%
・圧搾酵母 0.5%
【0041】
(組成物2:本発明)
・いわゆる「伝統的な」小麦粉タイプ65 100%
・水 65%
・圧搾酵母 0.5%
・NaCl 1.6%
・不活化酵母 0.7%
【0042】
したがって、NaClの量は、組成物1及び2についてそれぞれ、粉の質量に対して2.2及び1.6質量%である。これは、NaClの約27%の低減を行うに等しい。
【0043】
かくして、これら二つの組成物を、以下の操作に従って互いに独立に、混合し、混練し、静置して発酵させ、焼き上げる。
【0044】
(工程1:混練)
組成物1及び2を、約25℃の温度で、スパイラルニーダーにて、スピード1(4分間)、その後スピード2(1.30分間)で混練し、あるいは斜軸ニーダーにて、スピード1(6分間)、その後スピード2(5分間)で混練する。
僅かにより迅速であるが顕著ではないスムージングが、組成物2について観察される。
【0045】
(工程2:発酵工程(一次発酵))
この工程は、約25℃の温度で1時間に亘って実施される。生地を取り出して5℃のチャンバーに24時間に亘って入れておく。
僅かにより迅速な発酵の開始が組成物2について観察され、生地は各段によりしなやかである。レオロジーにおける変化が顕著でないことから、補正は不要である。
【0046】
(工程3:バット発酵)
この製造工程は、24時間に亘り5℃にて実施される。
二つの組成物の間に相違は観察されない。
【0047】
(工程4:加熱)
この工程は、25℃にて2時間継続される。
組成物2は、組成物1よりも僅かにより伸展性の生地をもたらす。
【0048】
(工程5:分割、成型、及び保持(二次発酵))
分割は、最終製品のハニカム構造を最適化するために手動で実施され、それぞれ約350gの生地のボールをもたらす。
生地ボールに、組成物1については通常のローリングを、組成物2については生地の伸展性が若干高いことから、きつめのローリングを行うが、きついローリングであれば、より好適に力を適用することができる。
その後、15分間継続する。
【0049】
(工程6:成形)
この工程は、最終製品の優れたハニカム構造を確実に得るために、手動で(推奨)または緩めたローラーを用いて機械的に行われる。
二つの組成物は同様の挙動を有する。
【0050】
(工程7:最終発酵(第三発酵))
この工程は、室温(約25℃)にて約30分間かかる。
二つの組成物には、ふくらみの程度または耐性において、顕著な相違は全く観察されない。
【0051】
(工程8:焼き上げ)
この最後の工程は、250℃のオーブンにて20分間に亘って実施される。
二つの組成物には、オーブン中での進展またはナイフカット、またはパンの身の着色について、相違は何ら観察されない。
【0052】
これら二つの組成物1及び2は、パン生地の組成物における約27%のNaClの低減によっても、パンの官能品質を維持できることを示す。
【0053】
これら二つの組成物に、3点試験法と呼称される感覚分析試験を行った。この試験の目的は、相違の意味する特徴を同定することなく、二製品の間のこれらの相違を示すことである。この試験は、推定される相違が小さい場合に用いられる。
【0054】
この試験の原理は、以下の通りである:三つのコード化試料を提示し、二つは同一であり(同一製品由来)、相違する三つ目が先験的である(別の製品由来)。試験者は、非反復試料、すなわち、他の二つとは異なる試料を決定せねばならない。これは、強制選択試験である。容器の同一性、提示する量、並びに単一の試料を認識させうる他のあらゆる要因に関して、細心の注意が必要である。
【0055】
結果は、以下のように読み取る。顕著な相違の有無を見出すためには、正しい反応の数を記録し、且つ二項法則表に3分の1の確率について与えられるものから得られる値を比較することで十分である。二つの製品の間に著しい相違があるか否かについての結論は、5%未満の閾値で与えられる(Sensory evaluation, manual of procedures, second Edition Lavoisier, TEC et DOC)。
【0056】
実施例1及び2について、この試験では、パンの耳の堅いテクスチャ−、パンの耳の柔らかいテクスチャ−、並びに、コントロール組成物1と組成物2との間の塩味に関して、顕著な相違は全く示されない。
【0057】
(実施例2:バンズ)
二つのバンズ組成物3及び4を調製した。一方は、粉の全質量に対して1.8質量%のNaClを含む従来通りの既知のもの(コントロール)であり、他方は、粉の全質量に対して1.2質量%のNaCl及び0.7質量%の不活化酵母を、本発明による作用剤と共に含む。
これら二つの組成物を、同一の製パンスキーム、すなわち、2/3の水と酵母とが24℃にて4時間に亘る予備発酵を経る、いわゆる「スポンジ及び生地」スキームを用いて調製した。
【0058】
(組成物3:コントロール)
・粉 100%
・水 55%
・圧搾酵母 2.9%
・改良剤 0.6%
・大豆粉 0.4%
・油 4%
・NaCl 2%
【0059】
(組成物4:本発明)
・粉 100%
・水 55%
・圧搾酵母 2.9%
・改良剤 0.6%
・大豆粉 0.4%
・油 4%
・NaCl 1.33%
・不活化酵母 0.7%
【0060】
然るに、組成物3及び4のそれぞれについて、NaClの量は、粉の質量に対して1.8及び1.2質量%である。これはNaClの約33%の低減を行うに等しい。
【0061】
これら二つの組成物を、以下の操作に従って互いに独立に、混合し、混練し、静置して発酵させ、焼き上げる。
組成物3及び4を、約25℃の温度で、スパイラルニーダーにて、すなわち、スパイラルニーダーにてスピード1(2分間)、その後スピード2(3分間)で混練する。その後、発酵を約28℃の温度で約5分間に亘って行う。生地をそれぞれ約90gの生地ボールに分割する。保持(二次発酵)は37℃にて約57分間行う。
その後、生地ボールは、235℃のオーブンにて12分間焼き上げる。
【0062】
本発明の組成物により得られるパンの官能品質は、約33%のNaClの量の低減を伴ってもコントロールのパンに対しても差異がない。
【0063】
実際のところ、3点試験法(実施例1に記載)により、52%の正答に対して48%の誤答が得られる。このように、コントロール組成物3と本発明による組成物4との間には、著しい差異は皆無である。
【0064】
(実施例3:バンズ)
二つのバンズ組成物5及び6を、実施例2のものと同様の操作により調製した。
組成物5(コントロール)は、粉の全質量に対して1.8質量%のNaClを含み、組成物6(本発明)は、粉の全質量に対して1質量%のNaCl及び0.7質量%の不活化酵母を含む。組成物6のNaClの低減は、組成物5(コントロール)に対して約45%である。
【0065】
本発明の組成物により得られるパンの官能品質が、約45%のNaClの量の低減を伴ってもコントロールのパンに対しても差異がないことが観察される。
実際のところ、3点試験法(実施例1に記載)により、43%の正答に対して57%の誤答が得られる。このように、コントロール組成物5と本発明による組成物6との間には、著しい差異は皆無である。
【0066】
(実施例4:「バルトノスキ(Baltonowski)」パン)
まず、以下の成分を含むパン種の組成物を調製する。
・ライ麦粉T720 100%
・水 55%
・スターター「LV4 Lesaffre」 0.5%
【0067】
このパン種を、スパイラルニーダーで5分間に亘って調製した後、35℃にて約20時間に亘って落ち着かせる。これを以下のパン生地の組成物の調製に用いる。
【0068】
「バルトノスキ」と呼称されるポーランドパンの二つの組成物7及び8が調製した。一方は、粉の全質量に対して1.8質量%のNaClを含む従来通りの既知のもの(コントロール)であり、他方は、粉の全質量に対して0.9質量%のNaCl及び0.6質量%の不活化酵母を、本発明による作用剤と共に含む。
これら二つの組成物を、同一の製パンスキームを用いて調製した。
【0069】
(組成物7:コントロール)
・ライ麦粉T720 40%
・小麦粉T750 60%
・水 57%
・NaCl 1.8%
・圧搾酵母 3%
・スターター「LV4 Lesaffre」 0.2%
【0070】
(組成物8:本発明)
・ライ麦粉T720 40%
・小麦粉T750 60%
・水 57%
・NaCl 0.9%
・圧搾酵母 3%
・スターター「LV4 Lesaffre」 0.2%
・不活化酵母 0.6%
【0071】
然るに、組成物7及び8のそれぞれについて、NaClの量は、粉の質量に対して1.8及び0.9質量%である。これはNaClの約50%の低減を行うに等しい。
【0072】
これら二つの組成物を、以下の操作に従って互いに独立に、混合し、混練し、静置して発酵させ、焼き上げる。
組成物7及び8を、スパイラルニーダーにて、スピード1(7分間)、その後スピード2(1.30分間)で混練する。その後、発酵を約28℃の温度で約4時間に亘って行う。生地をそれぞれ約600gの生地ボールに分割する。最終発酵(二次発酵)は35℃にて約60分間行う。
その後、生地ボールは、230℃のオーブンにて10分間、その後220℃にて約28分間焼き上げる。
【0073】
本発明の組成物により得られるパンの官能品質は、約50%のNaClの量の低減を伴ってもコントロールのパンに対しても差異がない。
【0074】
実際のところ、3点試験法(実施例1に記載)により、56%の正答に対して44%の誤答が得られる。このように、コントロール組成物7と本発明による組成物8との間には、著しい差異は皆無である。
【0075】
(実施例5:パン種ボール)
二つのパン種ボールの組成物9及び10を調製した。一方は、粉の全質量に対して2質量%のNaClを含む従来通りの既知のもの(コントロール)であり、他方は、粉の全質量に対して1.4質量%のNaCl及び0.7質量%の不活化酵母を、本発明による作用剤と共に含む。
これら二つの組成物を、同一の製パンスキームを用いて調製した。
【0076】
(組成物9:コントロール)
・従来の粉 90%
・ライ麦粉T720 10%
・水 54%
・塩 2.2%
・パン種のクリーム 5%
【0077】
(組成物10:本発明)
・従来の粉 90%
・ライ麦粉T720 10%
・水 54%
・塩 1.4%
・パン種のクリーム 5%
・不活化酵母 0.7%
【0078】
然るに、組成物9及び10のそれぞれについて、NaClの量は、粉の質量に対して2及び1.4質量%である。これはNaClの約36%の低減を行うに等しい。
【0079】
これら二つの組成物を、以下の操作に従って互いに独立に、混合し、混練し、静置して発酵させ、焼き上げる。
組成物9及び10を、斜軸ニーダースピード(8分間)、その後スピード2(2分間)で、または約25℃の温度でスパイラルニーダーにて、スピード1(5分間)、その後スピード2(30秒間)のいずれかのニーダーで混練する。
その後、発酵を約23℃の温度で約14時間に亘って、または25℃にて12時間に亘って実施する。生地をそれぞれ約1000gの生地ボールに分割する。保持(二次発酵)は約20乃至30分間行う。その後、生地ボールを成形し、25℃にて3時間に亘り二次発酵(最終発酵段階)させ、230℃の炉オーブンで50分間焼き上げる。
【0080】
本発明の組成物により得られるパンの官能品質は、約36%のNaClの量の低減を伴ってもコントロールのパンに対しても差異がない。
【0081】
実際のところ、3点試験法(実施例1に記載)により、39%の正答に対して61%の誤答が得られる。このように、コントロール組成物9と本発明による組成物10との間には、著しい差異は皆無である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活化酵母並びに、NaCl、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物から選択される塩化合物を含むことを特徴とする、塩(NaCl)の代替品。
【請求項2】
塩化合物/不活化酵母の比が1乃至5.7であることを特徴とする、請求項1に記載の代替品。
【請求項3】
塩化合物に対するNaClの含有量が、塩化合物の質量に対して0乃至100質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の代替品。
【請求項4】
不活化酵母が、不活化酵母単独、穀物抽出物を含む不活化酵母、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の代替品。
【請求項5】
カリウム塩がKClであること、アンモニウム塩がNH4Clであること、並びにマグネシウム塩がMgCl2であることを特徴とする、請求項1に記載の代替品。
【請求項6】
酵母が、Saccharomyces属に、より好ましくは、Saccharomyces cerevisiae種に属することを特徴とする、請求項1に記載の代替品。
【請求項7】
穀物抽出物が、麦芽抽出物であることを特徴とする、請求項4に記載の代替品。
【請求項8】
無機化合物、乳から誘導される化合物、風味料、及びこれらの混合物より選択される別の塩代替品を更に含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の代替品。
【請求項9】
アスコルビン酸、乳化剤、安定化増粘剤、酵素、及びこれらの混合物から選択される製パン改良剤を更に含むことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の代替品。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載の塩代替品の調製のための不活化酵母の使用。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の代替品を含む、ヒト及び/または動物の栄養素向け組成物。
【請求項12】
製パンにおけるNaClの完全なまたは部分的な代替品としての、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の代替品の使用。
【請求項13】
製パンが、伝統的なフランスパンの製造であることを特徴とする、請求項12に記載の代替品の使用。
【請求項14】
調理済み食品中のNaClの完全なまたは部分的な代替品としての、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の代替品の使用。
【請求項15】
不活化酵母及び/または穀物抽出物を含む不活化酵母が、製パンにおける粉の全質量に対して、約0.4乃至1質量%、好ましくは0.6乃至0.8質量%の範囲、更に好ましくは0.7質量%の量で存在することを特徴とする、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
塩化合物が、製パンにおける粉の全質量に対して、約0.9乃至1.6質量%の範囲の量で存在することを特徴とする、請求項12に記載の使用。

【公表番号】特表2013−512684(P2013−512684A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542639(P2012−542639)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054782
【国際公開番号】WO2011/070454
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(508342493)
【Fターム(参考)】