説明

Nb3Al系化合物超電導前駆体線材の製造方法、及びNb3Al系化合物超電導マルチ線材の製造方法

【課題】高い臨界電流密度を有すると共に長尺化ができるNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法、及びNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法は、Alを含む第1の金属材料と、Nbを含む第2の金属材料とを有して形成されるシングル線を準備するシングル線準備工程と、シングル線を第1の伸びを有するまで加工して伸びシングル線を形成する伸線加工工程と、伸びシングル線に第1の金属材料の融点より低い温度で熱処理を施し、第1の伸びよりも大きな第2の伸びまで伸びシングル線を加工可能にする中間熱処理工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法、及びNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法に関する。特に、本発明は、長尺化ができるNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法、及びNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NbAl系化合物超電導線材は、NbTi、NbSnのようなNb系超電導線材と比べ、特に高磁界における臨界電流密度(Jc)特性に優れることから、10T〜25T(テスラ)程度の環境下で稼働する超電導マグネット用材料として期待されている。超電導マグネットに適用するには、Jcを向上させると共に、長い超電導線材(長尺の超電導線材)を安定して製造する技術を確立することが要求される。
【0003】
従来のNbAl系化合物超電導線材の製造方法として、NbシートとAlシートとをジェリーロール法により巻き上げてなる第1の線材をCuからなる安定化材で覆った第2の線材を形成して、第2の線材を複数本束ねてCuからなる筒に充填した後、当該筒に伸縮加工を施し、その後に加熱処理することによりNbAl系化合物超電導線材を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載のNbAl系化合物超電導線材の製造方法によれば、数百メートル程度の長さのNbAl系化合物超電導線材を製造できる。
【0005】
【特許文献1】特開平4−132116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のNbAl系化合物超電導線材の製造方法は、加熱処理によって、NbとAlとの界面で金属間化合物が生成して加工性が低下すること、及び加熱処理の条件が最適化されていないことが考えられ、km級に及ぶ長尺のNbAl系化合物超電導線材を製造することは困難である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、高い臨界電流密度を有すると共に、長尺化ができるNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法、及びNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、Alを含む第1の金属材料と、Nbを含む第2の金属材料とを有して形成されるシングル線を準備するシングル線準備工程と、シングル線を第1の伸びを有するまで加工して伸びシングル線を形成する伸線加工工程と、伸びシングル線に第1の金属材料の融点より低い温度で熱処理を施し、第1の伸びよりも大きな第2の伸びまで伸びシングル線を加工可能にする中間熱処理工程とを備えるNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法が提供される。
【0009】
また、上記NbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法は、伸線加工工程と中間熱処理工程とは、繰り返し実施され、中間熱処理工程は、伸線加工工程においてシングル線が第1の伸びまで加工される毎に実施されてもよい。
【0010】
また、上記NbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法は、第1の伸び及び第2の伸びはそれぞれ、伸びシングル線の破断伸びより小さな値で予め設定されてもよく、第1の伸びは、2%であり、第2の伸びは、4%であってよい。
【0011】
また、上記NbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法は、中間熱処理工程は、第1の金属材料と第2の金属材料との界面に金属間化合物を生じさせない熱処理を施してもよい。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、Alを含む第1の金属材料と、Nbを含む第2の金属材料とを有して形成されるシングル線を準備するシングル線準備工程と、シングル線を第1の伸びを有するまで加工して伸びシングル線を形成する伸線加工工程と、伸びシングル線に第1の金属材料の融点より低い温度で熱処理を施し、第1の伸びよりも大きな第2の伸びまで伸びシングル線を加工可能な前駆体シングル線を形成する前駆体シングル線形成工程と、複数本の前駆体シングル線を用いてマルチ線材を形成するマルチ線材形成工程とを備えるNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法、及びNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法によれば、高い臨界電流密度を有すると共に長尺化ができるNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法、及びNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の製造の流れの概要を示す。また、図2及び図3は、本発明の第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の製造工程の一部の概要を示す。
【0015】
本発明の第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の製造方法は、前駆体シングル線としてのNbAl系化合物超電導前駆体シングル線を製造する。第1の実施の形態においては、一例として、ジェリーロール法を用いて前駆体シングル線を製造する。
【0016】
まず、アルミニウム(Al)又はAl合金を含む第1の金属材料から形成され、所定の厚さを有するAlシート10と、ニオブ(Nb)又はNb合金を含む第2の金属材料から形成され、所定の厚さを有するNbシート20と、Nb又はタンタル(Ta)等の第1の金属材料及び第2の金属材料より高い融点を有する金属材料から形成され、所定の厚さを有する化合物生成防止シート30(バリア層)と、Nb又はTa等の高融点の金属材料から形成され、所定の径を有する巻芯40とを準備する。
【0017】
そして、Alシート10とNbシート20とを巻芯40に合わせ巻きする。続いて、図2(a)に示すように、巻芯40に巻き合わされたAlシート10又はNbシート20のシートの表面に化合物生成防止シート30を巻きつける。これにより、図2(b)に示すようなシングル線としてのジェリーロール/シングル線1が作製される(図1:ステップ100(以下、ステップを「S」と略す))。
【0018】
次に、図2(b)に示すように、シングルビレット2にジェリーロール/シングル線1を充填する(S110)。なお、シングルビレット2は、ジェリーロール/シングル線の径以上の内径の略円筒形を有する。そして、シングルビレット2は、例えば、銅(Cu)又はCu合金から形成される。ここで、ジェリーロール/シングル線1をシングルビレット2に充填することにより、ジェリーロール/シングル線1の外周をシングルビレット2で被覆する理由は以下のとおりである。すなわち、化合物生成防止シート30が外部表面に露出した状態で後述するダイス伸線等の工程を経ると、ダイス伸線時におけるダイスの焼き付き等の発生に起因して加工性が低下するので、係る加工性の低下の抑制を目的としている。
【0019】
次に、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2を所望の径、所望の長さまで加工する(S120)。すなわち、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に、静水圧押出及びダイス伸線による加工(伸線加工)を施す工程と(S122)、静水圧押出及びダイス伸線による加工を施す工程を所定の段階で停止して、加工したシングルビレット2に中間熱処理を施す工程と(S124)を、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に繰り返し施すことにより、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2を所望の径、所望の長さまで加工する。
【0020】
具体的に、まず、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に、静水圧押出とダイス伸線とを施すことにより、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2を所定の径まで加工する(S122)。すなわち、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に静水圧押出とダイス伸線とを施すことにより、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2が第1の伸びとしての所定の伸びを有するまで加工する。この加工により、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2は、加工前の長さから第1の伸びだけ伸長すると共に、第1の伸びに応じて、加工前の径より小さな所定の径まで加工された伸びシングル線となる。
【0021】
例えば、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の断面の径が略1/2になるまで、すなわち、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の断面積の減少率が75%程度になるまで、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2を加工する。換言すると、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の破断伸びより小さい値で予め設定される第1の伸びをジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2が有するまで、当該シングルビレット2を加工する。
【0022】
ここで、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の破断伸びは、以下のように測定できる。例えば、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の一端から所定の長さ(一例として、端部から150mm程度の長さ)だけ切断して切断片を形成する。次に、当該切断片について、破断伸びを測定する。そして、測定した破断伸びより小さい値の第1の伸びを設定して、第1の伸びをジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2が有するまで当該シングルビレット2に加工を施す。また、本実施の形態のジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2と同様の工程で、試験用の短尺試料を予め作製して、作製した短尺試料を用いて破断伸びを測定することにより第1の伸びを設定することもできる。なお、以下の工程において計測する破断伸びについても、同様にして計測できる。
【0023】
続いて、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2が第1の伸びだけ伸長した段階において、第1の金属材料と第2の金属材料との金属間化合物が生成しない条件での熱処理(中間熱処理)を当該シングルビレット2に施す(S124)。例えば、第1の金属材料の融点より低い温度(一例として、第1の金属材料の融点の1/2程度の温度)であって、不活性雰囲気又は真空での中間熱処理を当該シングルビレット2に施す。より具体的には、例えば、250℃から550℃の温度で、0.5時間から2時間、不活性ガス(例えば、窒素ガス)フロー中又は真空中において中間熱処理を実施する。
【0024】
また、中間熱処理は、伸線加工後のシングルビレット2の線径に対して曲げ歪率が2%を超えない径を有するSUSドラム等の所定のドラムに伸線加工後のシングルビレット2を巻きつけて実施する。なお、伸線加工後のシングルビレット2をドラムに巻きつけることができない場合は、伸線加工後のシングルビレット2を直線状に保って中間熱処理を施す。
【0025】
これにより、第1の伸びよりも大きな第2の伸びまで当該シングルビレット2を加工可能にする。すなわち、この中間熱処理により、静水圧押出及びダイス伸線による加工硬化によって第1の伸び程度までしか伸ばすことができないシングルビレット2を、第1の伸びより大きな第2の伸びまで伸長可能に回復させる。
【0026】
ここで、第1の伸びは、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2が断線しない範囲であって、当該シングルビレット2の破断伸びから所定のマージンだけ減じた値に設定され、一例として、2%程度の伸びに設定される。また、第2の伸びは、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2が断線しない範囲であって、当該シングルビレット2の破断伸びから所定のマージンだけ減じた値に設定され、一例として、4%程度の伸びに設定される。
【0027】
なお、静水圧押出及びダイス伸線による加工の前に、例えば、第1の金属材料の融点より高い温度での中間熱処理をジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に施すと、第1の金属材料(Al又はAl合金)と第2の金属材料(Nb又はNb合金)との反応により金属間化合物が生成して、当該シングルビレット2の加工性が低下すると共に、中間熱処理後の当該シングルビレット2の破断伸びが3%以下程度にしか回復しないという知見を本発明者は得ている。すなわち、条件が適切でない中間熱処理をジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に施すと、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の破断伸びの向上が小さく、断線しやすくなるとの知見を本発明者は得ている。
【0028】
そこで、本発明者は、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の破断伸びが所定値以下になった場合に、破断伸びが所定値を超えるまで回復する条件の中間熱処理をジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に施すことで、断線を抑制できることを見出したものである。具体的には、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2が断線することを防止しつつ伸線加工及び中間熱処理の繰り返しの実施を可能とすべく、上述のように、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の第1の伸びが所定値になった場合に、第2の伸びを超えるまで破断伸びが回復する条件の中間熱処理をジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に施すことで、断線を抑制できることを見出したものである。
【0029】
なお、静水圧押出及びダイス伸線による加工をジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に施す前に、中間熱処理を実施することもできる。この場合、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2を予め第2の伸びまで伸長可能にした上で、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2を静水圧押出及びダイス伸線による加工により第1の伸びだけ伸長することとなる。
【0030】
続いて、所望の径及び所望の長さを有するまで、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に、静水圧押出及びダイス伸線による加工と中間処理とを繰り返し施す。具体的に、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に静水圧押出及びダイス伸線による加工を施して線径が1/2になった段階毎に、中間熱処理を実施する。
【0031】
例えば、S110において得られたジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に静水圧押出及びダイス伸線による加工を施して、シングルビレット2の線径が10mmになった時に1回目の中間熱処理を施した場合、この中間熱処理後、シングルビレット2の線径を5mmにした段階で2回目の中間熱処理を施す。同様に、3回目の中間熱処理は、シングルビレット2の線径を2.5mmに加工した段階で実施する。そして、4回目の中間熱処理は、シングルビレット2の線径を1.25mmに加工した段階で実施する。
【0032】
このように、静水圧押出及びダイス伸線による加工(伸線加工)と、伸線加工の所定の段階において実施する中間熱処理とをジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2に繰り返し施すことにより、図3に示すような前駆体シングル線3が得られる(S130)。
【0033】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の端部の拡大図を示す。
【0034】
前駆体シングル線3は、巻芯40を中心としてその外周にAlシート10及びNbシート20が巻き合わされており、その外部表面は、化合物生成防止シート30によって被覆されている。そして、化合物生成防止シートのAlシート10又はNbシート20と接している面の反対側の面に、シングルビレット2の内壁が接している。
【0035】
ここで、前駆体シングル線3の表面には、シングルビレット2が被覆されている。シングルビレット2は、後述する加熱冷却処理を前駆体シングル線3に施す場合には不要であるので、所定のエッチング溶液を用いて除去する。例えば、シングルビレット2がCuから主として形成されている場合、硝酸を主成分とするエッチング溶液を用いて、前駆体シングル線3の表面を被覆しているシングルビレット2を除去する。これにより、第1の実施の形態に係るNbAl系化合物超電導前駆体線材としての前駆体シングル線4が製造される。
【0036】
(第1の実施の形態の効果)
本発明の第1の実施の形態に係るNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法によれば、ジェリーロール/シングル線1を充填したシングルビレット2の断面積の減少率が75%程度になるまで伸線加工を実施した段階において、換言すると、第1の伸びが2%程度になった段階において中間熱処理を施すことにより、第1の伸びよりも大きな第2の伸びまでシングルビレット2を伸線可能にすることができる。そして、当該伸線加工と当該中間処理とを繰り返し実施することができる。これにより、断線の発生を防止できるので、高い臨界電流密度(Jc)を有すると共に、km級という長尺のNbAl系化合物超電導前駆体線材を製造することができる。
【0037】
また、本発明の第1の実施の形態に係るNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法はジェリーロール法を用いているので、第1の金属材料からなる薄い形状のシートと、第2の金属材料からなる薄い形状のシートとを巻き合わせることができ、第1の金属材料としてのAlの第2の金属材料側への拡散距離、及び第2の金属材料としてのNbの第1の金属材料側への拡散距離を短縮できる。これにより、高いJcを実現できる。
【0038】
また、第1の実施の形態に係るNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法によれば、中間熱処理の熱処理温度は第1の金属材料の融点よりも低いので、中間熱処理の工程において第1の金属材料と第2の金属材料との間で金属間化合物が生成することを抑制できる。これにより、加工性の低下を抑制でき、長尺のNbAl系化合物超電導前駆体線材を安定して製造することができる。また、金属間化合物が生成しないので、金属間化合物が生成しているNbAl系化合物超電導前駆体線材と比べて、Jcが低下することを大幅に抑制できる。
【0039】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明の第2の実施の形態に係るマルチ線材の製造の流れの概要を示す。また、図6は、本発明の第2の実施の形態に係るマルチ線材の製造工程の一部の概要を示す。
【0040】
本発明の第2の実施の形態に係るマルチ線材6は、第1の実施の形態に係るNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法により製造された前駆体シングル線4を用いて製造される。なお、前駆体シングル線4は、前駆体シングル線3の外周を被覆していたシングルビレット2を除去した後の前駆体シングル線である。
【0041】
まず、前駆体シングル線3からシングルビレット2を除去して得られた前駆体シングル線4を複数本用意する。更に、合金ビレット7と化合物生成防止シート30とを用意する。次に、図6(a)に示すように、複数本の前駆体シングル線4と化合物生成防止シート30とを、合金ビレット7に充填する(S200)。これにより、図6(b)に示すような、マルチビレット5が得られる。なお、合金ビレット7は、所定の内径の略円筒形状を有する。そして、合金ビレット7は、一例として、CuNi合金から形成される。
【0042】
図6(a)では、一例として、合金ビレット7に37本の前駆体シングル線4を充填した構造を示しているが、合金ビレット7に充填する前駆体シングル線4の本数はこれに限られない。本実施の形態に係る製造方法によって製造されるべきマルチ線材を適用する機器に要求される性能等に応じて、合金ビレット7に充填する前駆体シングル線4の本数を適宜増減させることができる。また、本実施の形態に係る製造方法によって製造されるべきマルチ線材が交流応用の機器に用いられる場合、複数本の前駆体シングル線4にツイスト加工を施して合金ビレット7に充填することもできる。
【0043】
次に、マルチビレット5を所望の径、所望の長さまで加工する(S210)。すなわち、マルチビレット5に、静水圧押出及びダイス伸線による加工を施す工程と(S212)、静水圧押出及びダイス伸線による加工を施す工程を所定の段階で停止して、加工したマルチビレット5に中間熱処理を施す工程と(S214)を、マルチビレット5に繰り返し施すことにより、マルチビレット5を所望の径、所望の長さまで加工する。ここで、第2の実施の形態に係るマルチ線材の製造方法においても第1の実施の形態と同様の伸線加工と中間熱処理とをマルチビレット5に施すので、詳細な説明は省略する。
【0044】
これにより、所望の径、所望の長さまで断線せずに加工された前駆体マルチ線材が得られる(S220)。この前駆体マルチ線材の表面には、合金ビレット7が被覆されている。合金ビレット7は、後述する加熱冷却処理において不要であるので、除去する(S230)。例えば、合金ビレット7がCuNi合金から形成されている場合、硝酸を主成分とするエッチング溶液を用いて、前駆体マルチ線材の表面を被覆している合金ビレット7を除去する。
【0045】
次に、合金ビレット7を除去した前駆体マルチ線材に、加熱冷却処理を施す(S240)。加熱冷却処理は、前駆体マルチ線材を構成する第1の金属材料と第2の金属材料との過飽和固溶体を形成する処理である。具体的に、加熱冷却処理は、前駆体マルチ線材を構成するAlとNbとからNb/Al過飽和固溶体を形成する。例えば、加熱冷却処理は以下のように実施できる。
【0046】
まず、前駆体マルチ線材に電流を供給して、自己通電加熱により1500℃から2000℃の温度まで加熱する。自己通電加熱により加熱するので、前駆体マルチ線材は、短時間で所定の温度まで急速に加熱される。続いて、加熱された前駆体マルチ線材を、ガリウム(Ga)バスに浸すことにより、急速冷却する。これにより、前駆体マルチ線材を構成するAlとNbとが反応して、Nb/Al過飽和固溶体が形成される。
【0047】
続いて、Nb/Al過飽和固溶体が形成された前駆体マルチ線材に、所定の温度(例えば、800℃程度)で、所定の時間(例えば、10時間程度)の再加熱処理を施す(S250)。これによりNbAl化合物が生成して、図6(c)に示すようなNbAl系化合物超電導線材としてのマルチ線材6が製造される(S260)。
【0048】
なお、第1の実施の形態及び第2の実施の形態において、静水圧押出の後に実施する径を縮小する縮径加工としてのダイス伸線は、以下のように実施できる。すなわち、縮径加工としては、ドローベンチ、スエージャー、カセットローラーダイス、又は溝ロールを用いて実施できる。そして、縮径加工における1パス当りの断面減少率が10〜30%程度の伸線加工を繰り返し実施する。
【0049】
また、第2の実施の形態のように線材を多芯化する場合には、丸断面形状、又は六角断面形状に伸線加工した線材(例えば、前駆体シングル線4)をパイプ(例えば、合金ビレット7)に組み込み、上記の装置を用いて、1パス当りの断面減少率が10〜30%程度で、所定とする線径まで伸線加工する。そして、所望する形状まで加工した線材(例えば、前駆体マルチ線材)は、所定の温度下、所定の雰囲気下において所定の熱処理を施すことによって、高いJcを有する線材(例えば、マルチ線材6)となる。なお、高いJcを実現することを目的として、Nb又はNb合金と、Al又はAl合金との体積比(Nb/Al)は、2.5〜3.5の範囲が望ましい。
【0050】
(第2の実施の形態の効果)
第2の実施の形態に係る超電導線材としてのマルチ線材6の製造方法は、伸線加工と、伸線加工の所定の段階において実施する中間熱処理とを繰り返して製造されるので、高靱性かつ高硬度のマルチ線材6を製造できる。これにより、マルチ線材6の降伏応力、引張り強さ、及びヤング率等の機械強度は高いものとなり、マルチ線材6を用いることにより、強磁場発生時の電磁力に耐え得るマグネットを構成できる。また、マルチ線材6の両端抵抗を十分に小さくすることにより、永久電流マグネットを実現できる。
【0051】
また、第2の実施の形態に係るマルチ線材6を、例えば、液体ヘリウム中で使用する場合、金属系超電導体又は酸化物超電導体と組合せさせる構造にすることで、より強い磁場を発生する超電導マグネット等の実用導体を実現できる。この場合における金属系超電導体としては、NbTi系合金、NbSn系化合物、VGa系、MgB系、及び/又はシェブレル系化合物等を用いることができ、若しくは、必要に応じて2種以上のマグネットを配置することができる。なお、酸化物超電導体には、Y系、Bi系、Tl系、Hg系、又はAg−Pb系の超電導体を用いることができる。
【0052】
更に、第2の実施の形態に係るマルチ線材6を冷凍機伝導冷却で使用する場合には、マルチ線材6と、MgB系又は酸化物超電導体とを組み合わせることにより、より高性能の超電導マグネット等の実用導体を実現できる。
【0053】
また、第1の実施の形態に係る前駆体シングル線3、及び第2の実施の形態に係るマルチ線材6はそれぞれ、送電ケーブル、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引き上げ装置、超電導発電機、核融合炉用マグネット、高エネルギー粒子加速器用マグネット等の機器に適用することができる。
【実施例1】
【0054】
本発明の実施例1に係る前駆体シングル線3は、以下のように製造した。まず、出発素材として、厚さ0.03mmのAlシート10と厚さ0.10mmのNbシート20とを準備した。次に、Alシート10とNbシート20とを巻芯40として直径2mmのTa線に合わせ巻きした。Alシート10とNbシート20とを巻芯40に合わせ巻きした後、その外周に化合物生成防止シート30(バリア層)として、厚さ0.1mmのTaシートを巻き付けた。これにより、外径が略13mmの実施例1に係るジェリーロール/シングル線1が得られた。
【0055】
次に、得られたジェリーロール/シングル線1を、外径16mm、内径14mm、長さ150mmのシングルビレット2としてのCuビレットに充填した。そして、ジェリーロール/シングル線1を充填したCuビレットを、押出機を用いて線径9mmまで押出加工した。次に、ドローベンチを用いて、外径8mmまで伸線加工した。
【0056】
ここで、外径8mmまで伸線加工した線材の端部を切断して、引張試験機を用いて室温における破断伸びを測定した。その結果、伸びが2.1%になったところで断線することが分かった(この場合における破断伸びが2.1%ということとなる)。
【0057】
ここで、外径8mmまで伸線加工した線材を半分に切り分け、実施例1に係る第1の線材と比較例1に係る第2の線材とを作製した。そして、以降、実施例1に係る第1の線材については、断面積の減少率が75%となる線径まで加工する毎に、所定の中間熱処理(破断伸びが4%〜5%に回復する条件)を施して伸線加工性を検討した。また、比較例1に係る第2の線材については、中間熱処理を一切施さずに伸線加工性を検討した。これにより、中間熱処理の有無による伸線加工性を比較検討した。なお、上述のように、断面積の減少率は線径が半分(1/2)になった場合に、75%となる。
【0058】
具体的に、第1の線材(実施例1)については、線径が4mm、2mm、1mm、0.5mmに加工した段階毎に、中間熱処理を実施した。その結果、第1の線材については線径が0.3mmまで断線せずに加工できた。一方、第2の線材(比較例1)においては、線径が0.7mmの段階で断線した。
【0059】
第1の線材の各線径における中間熱処理前後の破断伸びの変化、及び第2の線材の各線径における破断伸びの変化を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1を参照すると明らかなように、第1の線材において、破断伸びが4.5%以上に回復する中間熱処理を実施することが、断線の防止には効果的であることが示された。また、第1の線材について、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)でNbとAlとの界面における金属間化合物の生成の状況を観察した。その結果、金属間化合物の生成は全く確認されなかった。
【0062】
以上の検討から、線材の破断伸びが2%程度になった時点で、破断伸びが4%以上に回復する中間熱処理を実施すると共に、中間熱処理と伸線加工とを繰り返し実施することで、断線の発生を防止して、長尺の線材が得られることが確認された。
【実施例2】
【0063】
実施例1と同様にして、ジェリーロール/シングル線1を充填したCuビレットに中間熱処理と伸線加工とを繰り返し施して、線径1.9mmの前駆体シングル線3を作製した。次に、六角対辺長が1.8mmとなるダイス伸線を前駆体シングル線3に施して、六角形状に加工した。次に、外径20mm、内径18.3mm、長さ150mmのCuNi合金ビレットに61本の六角形状の前駆体シングル線3を充填してマルチビレットを得た。その後、破断伸びが4%以上になる中間熱処理をマルチビレットに施した後、マルチビレットを押出機により、線径10mmまで押出加工した。その後、線径が5mm、2.5mm、1.25mmに加工した段階毎に、同様の中間熱処理を実施した。
【0064】
(比較例2)
実施例2と同様にしてマルチビレットを作製した。そして、当該マルチビレットに伸線加工と中間熱処理とを施した。比較例2に係るマルチビレットに施す中間熱処理の条件は、NbとAlとの界面において、NbとAlとが冶金的に反応する条件とした。すなわち、金属間化合物の生成が加工性に与える影響を検討すべく、NbとAlとの金属間化合物が生成する中間熱処理条件とした。なお、比較例2に係るマルチビレット内に生成した金属間化合物の厚みは、SEM観察によると10μm〜20μmであった。
【0065】
実施例2においては、マルチビレットの線径が少なくとも0.8mmに加工されるまで、マルチビレットから加工されて作製される前駆体マルチ線材としてのマルチ線材は断線しなかった。一方、比較例2においては、マルチビレットの線径が1.8mmに加工された段階で断線した。これにより、中間熱処理の条件は、NbとAlとの金属間化合物が生成しない条件であることが、長尺の線材を作製することに要求されることが確認された。
【0066】
次に、実施例2において線径0.8mmまで加工したマルチ線材に、加熱冷却処理(急熱急冷処理)及び再加熱処理を施した。これにより、マルチ線材からNbAl系化合物超電導マルチ線材を得た。そして、このNbAl系化合物超電導マルチ線材のJc特性を、温度4.2Kにおいて評価した。
【0067】
図7は、本発明の実施例2に係るNbAl系化合物超電導マルチ線材のJc評価結果を示す。
【0068】
図7を参照すると、外部磁場が21Tの場合、Jcは300A/mmを超えており、外部磁場が22Tの場合、Jcは250A/mmを超えており、外部磁場が23Tの場合、Jcは200A/mmを超えていた。すなわち、実施例2に係るNbAl系化合物超電導マルチ線材のJcは、外部磁場が23Tという高い磁界であっても、実用レベルである200A/mmを上回るJcであることが確認された。
【0069】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の製造の流れの図である。
【図2】第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の製造工程の一部の概要図である。
【図3】第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の製造工程の一部の概要図である。
【図4】第1の実施の形態に係る前駆体シングル線の端部の拡大図である。
【図5】第2の実施の形態に係るマルチ線材の製造の流れの概要を示す図である。
【図6】第2の実施の形態に係るマルチ線材の製造工程の一部の概要を示す図である。
【図7】実施例2に係るNbAl系化合物超電導マルチ線材のJc評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 ジェリーロール/シングル線
2 シングルビレット
3、4 前駆体シングル線
5 マルチビレット
6 マルチ線材
10 Alシート
20 Nbシート
30 化合物生成防止シート
40 巻芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む第1の金属材料と、Nbを含む第2の金属材料とを有して形成されるシングル線を準備するシングル線準備工程と、
前記シングル線を第1の伸びを有するまで加工して伸びシングル線を形成する伸線加工工程と、
前記伸びシングル線に前記第1の金属材料の融点より低い温度で熱処理を施し、前記第1の伸びよりも大きな第2の伸びまで前記伸びシングル線を加工可能にする中間熱処理工程と
を備えるNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法。
【請求項2】
前記伸線加工工程と前記中間熱処理工程とは、繰り返し実施され、
前記中間熱処理工程は、前記伸線加工工程において前記シングル線が前記第1の伸びまで加工される毎に実施される
請求項1に記載のNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法。
【請求項3】
前記第1の伸び及び前記第2の伸びはそれぞれ、前記伸びシングル線の破断伸びより小さな値で予め設定される
請求項2に記載のNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法。
【請求項4】
前記第1の伸びは、2%であり、
前記第2の伸びは、4%である
請求項3に記載のNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法。
【請求項5】
前記中間熱処理工程は、前記第1の金属材料と前記第2の金属材料との界面に金属間化合物を生じさせない前記熱処理を施す
請求項4に記載のNbAl系化合物超電導前駆体線材の製造方法。
【請求項6】
Alを含む第1の金属材料と、Nbを含む第2の金属材料とを有して形成されるシングル線を準備するシングル線準備工程と、
前記シングル線を第1の伸びを有するまで加工して伸びシングル線を形成する伸線加工工程と、
前記伸びシングル線に前記第1の金属材料の融点より低い温度で熱処理を施し、前記第1の伸びよりも大きな第2の伸びまで前記伸びシングル線を加工可能な前駆体シングル線を形成する前駆体シングル線形成工程と、
複数本の前記前駆体シングル線を用いてマルチ線材を形成するマルチ線材形成工程と
を備えるNbAl系化合物超電導マルチ線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−295296(P2009−295296A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144760(P2008−144760)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】