説明

Nb3Sn超電導線材及びその製造方法

【課題】高臨界電流密度(Jc)を有し、圧縮に対する超電導特性(臨界電流密度の劣化率)の低下を抑制することができるNbSn超電導線材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】NbSn超電導線材は、Cu又はCu合金からなるCu管5と、Cu管5内に配置され、Nb又はNb合金からなるNb芯材21を有する複数のNb素線20、及びSn又はSn合金からなるSn芯材24を有する複数のSn素線23を含む複数のフィラメント集合体2と、Cu管2内に配置され、フィラメント集合体2同士が隣接しないようにフィラメント集合体2を分割する複数のTa素線(補強用素線)30と、を備えたNbSn超電導前駆体線材1に、熱処理を施すことによりNb芯材21にSn芯材23中のSnが拡散してNbSnを生成してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高磁場マグネットなどに応用可能な高臨界電流密度(Jc)で高強度なNbSn超電導線材及びその製造方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NbSn超電導線材の製造方法として、ブロンズ法が広く用いられている。ブロンズ法は、Cu−Sn合金製のマトリクス中に多数のNbフィラメントを配置した構造の線材を作製し、伸線加工後の前駆体線材に熱処理を施すことによりCu−Sn合金中のSnがNbフィラメントに拡散してNbフィラメントの部分にNbSnを生成し、超電導線材とする方法である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、Cu−Sn合金におけるSnの固溶限は16重量%程度が上限であるため、それ以上のNbSnの生成ができず、臨界電流値(Ic)にも限界が生じている。
【0004】
ブロンズ法の上記限界から、Snの供給源をCu−Sn合金以外の方法で行い、より多くのSnを供給できる内部拡散法(「内部スズ法」ともいう。)が開発されている。内部スズ法の代表的なものは、Cu製のマトリクスの中心部にSnの供給源としてSnまたはSn合金層を配置し、その外周に複数本のNbフィラメントを配置し、さらにその外周にTaあるいはNbのバリア層を配置した構造のサブエレメント線を作製し、これを複数本束ねて作製した多芯線材に熱処理を施すことによりSn層からCuマトリクスを介してSnが拡散してNbフィラメント部でNbSnを生成する方法である。内部スズ法は、ブロンズ法に比べてSnの複合化の割合を高くすることができるため、線材の臨界電流密度(Jc)として、例えば12Tの磁場中でnon−Cu Jc=2900A/mmの高い特性が得られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、上記の内部スズ法では、サブエレメントのビレットを作製した後、多芯線に組み込むサイズまで伸線加工など行うことが必要となるが、上記の方法ではサブエレメント内に機械的な強度が非常に小さいSnと、逆に硬さの大きなNb及びTaなどが含まれるため、これらを同時に加工すると、Snの変形が大きく均一な断面形状にならない場合がある。
【0006】
そのため、内部スズ法の別の線材作製法として、Cuマトリクス中に多芯のNbフィラメントを配置した素線と、Snの外周にCuを配置した単芯のSn素線をそれぞれ別々に作製し、それらを複数本複合化して多芯線材を作製する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
超電導線材を用いて超電導マグネットを作製した場合、マグネット内の巻き線部分には、超電導線材の単位断面積当たりの通電電流をJ(A/mm)、巻き線部分における磁場(磁束密度)の大きさをB(T)、巻き線のマグネット内における半径をR(mm)とすると、線材を引っ張る方向にσ=B×J×Rで表される電磁応力(線材の単位断面積当たりの電磁力)σ(MPa)が発生する。
【0008】
内部拡散法による線材(以下「内部拡散線材」という。)は、線材の臨界電流密度(Jc)が高いという特徴があり、これを用いたマグネットが発生する磁場もまた高くすることが可能であるという利点がある一方、上式のとおり線材に加わる電磁力も大きくなることになる。
【0009】
一般に、NbSn線材の臨界電流密度(Jc)特性は、歪に対して敏感であり、1%程度の歪が加わると、Jcが低下することが知られている。このため、磁場の高いマグネットを作製する場合には、線材内に補強用の部材を複合化した構造の線材が用いられてきた。補強材の線材断面内の配置としては、従来、ブロンズ法による線材(以下「ブロンズ法線材」という。)や内部拡散線材は、多芯線材の中央部付近の超電導フィラメントを必要に応じた本数だけTaなどの補強部材で置き換えた構造が用いられてきた。
【0010】
また、一般に超電導線材は、交流損失を低減するために多芯構造とすることが行われている。これは交流損失の原因となる磁化率が超電導フィラメントの径に比例するためであり、そのため、細い超電導フィラメントを多数本複合化して超電導線材が作製されている。また、各超電導フィラメント同士は近接しすぎると超電導体として結合してしまい、交流損失の低減ができなくなることから、各超電導フィラメントは近接し過ぎないように距離をとることでフィラメントの分離を図っている。
【0011】
1本のサブエレメント内に複数のNbフィラメントとSnを内包するサブエレメントを複数本多芯化した内部拡散線材では、サブエレメント内のNbフィラメントは結合しており、サブエレメント間の間隔を適当に設定することでサブエレメント間を分離してサブエレメント間を電磁気的に分離している。また、1本のSnを内包するサブエレメントと、複数本のNbフィラメントを内包するサブエレメント(非特許文献1)、あるいは1本のNbフィラメントを内包するサブエレメントをそれぞれ複数本多芯化してなる内部拡散線材のNbSn線材でも、上記と同様に隣接するNbのサブエレメント同士が密着しないような間隔としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−129453号公報
【特許文献2】特開2006−4684号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J.A.Parrell他、IEEE Trans. Appl. Supercond., vol.13, No.2, p p. 3470-3473, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ブロンズ法では、NbにSnを供給してNbSnを生成するためのSnの供給源としてCu−Sn合金が用いられる。Cu−Sn合金は硬いことから、NbフィラメントやTaなどの補強材に対して大きな硬度差がないために、線材断面内に大きな硬さの分布はない。このため、伸線加工の際も均一に加工することが可能であった。これに対し、内部拡散線材は、非常に柔らかいSn材料が単独で組み込まれている。ここに従来のように多芯線の中心部に補強用のTa部材を配置し、線材の外周側にSnを配置すると多芯線の断面内で大きな硬さの分布ができて、伸線加工時に断面の不均一な変形、あるいは断線などを引き起こす可能性があった。
【0015】
また、多芯線の中心フィラメントを補強材で置き換える方法では、補強材を入れたことにより線材全体としての強度は向上するが、個々のNbSnフィラメントには補強がないので歪が入りやすい。すなわち、線材を長手方向に引張り歪が加わるような状況では、線材内のどの位置に補強材が入っていても、補強材の複合比率に応じた分の強度の向上が予想される。しかし、実際には線材に加わる歪は線材の長手方向の引張り歪だけでなく、例えば線材を複数本撚り合わせて導体化した場合は、撚り線内の線材同士が交差するので、局部的な曲げ歪や横方向の圧縮歪が発生する。このような場合には、多芯線の中心に補強材を配置しても個々のフィラメントには歪が加わり線材特性の劣化を引き起こすことが予想される。
【0016】
内部拡散法によるNbSn線材は、断面内に多くのSnを内包できるため、高い臨界電流特性が得られるという特長があるが、一方で増加したSnの分量に相当する分のNbSnを生成するためには、それに相当する分量のNbも複合化する必要がある。Nbフィラメントが増加すると、各Nbフィラメント間の距離が近くなる傾向があり、最終的に熱処理して生成するNbSnフィラメントが超電導的に結合しやすい傾向となっていた。また逆にフィラメントが結合しないようにフィラメントの間隔を設定することにより、複合化するNbフィラメントの分量が制限されて、臨界電流特性が制限されていた。
【0017】
したがって、本発明の目的は、高臨界電流密度(Jc)を有し、圧縮に対する超電導特性(臨界電流密度の劣化率)の低下を抑制することができるNbSn超電導線材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下のNbSn超電導線材及びその製造方法を提供する。
【0019】
[1]Cu又はCu合金からなるCu管と、前記Cu管内に配置され、Nb又はNb合金からなるNb芯材を有する複数のNb素線、及びSn又はSn合金からなるSn芯材を有する複数のSn素線を含む複数の集合体と、前記Cu管内に配置され、前記複数の集合体同士が隣接しないように前記集合体を分割する複数の補強用素線と、を備えたNbSn超電導前駆体線材に、熱処理を施すことにより前記Nb芯材に前記Sn芯材中のSnが拡散してNbSnを生成してなるNbSn超電導線材。
[2]前記複数の補強用素線によって分割される前記集合体の個数が6×n+1(nは整数)である前記[1]に記載のNbSn超電導線材。
[3]前記複数の補強用素線のうちの一部の補強用素線は、芯材及び前記芯材を被覆する被覆層を備え、前記芯材は、タンタル(Ta)、タンタル合金、タングステン(W)、タングステン合金、ニオブ(Nb)、ニオブ合金、チタン(Ti)、チタン合金、モリブデン(Mo)、モリブデン合金、バナジウム(V)、バナジウム合金、ジルコニウム(Zr)、ジルコニウム合金、ハフニウム(Hf)、及びハフニウム合金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなるものである前記[1]又は[2]に記載のNbSn超電導線材。
[4]前記集合体同士を隔てる前記複数の補強用素線は、一部がCu又はCu合金からなるCu素線で置換された前記[1]から[3]のいずれかに記載のNbSn超電導線材。
[5]前記複数の補強用素線は、分割後の前記集合体の周囲の70〜90%を囲むように配置された前記[1]から[4]のいずれかに記載のNbSn超電導線材。
【0020】
[6]Nb又はNb合金からなるNb芯材をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工して複数のNb素線を作製する工程と、Sn若しくはSn合金からなるSn芯材を減面加工し、又は前記Sn芯材をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工して複数のSn素線を作製する工程と、補強用芯材を所定の寸法に減面加工し、又は補強用芯材をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工して、複数の補強用素線を作製する工程と、Cu管の内面にNb若しくはNb合金、又はTa若しくはTa合金からなる拡散バリア層を形成し、前記拡散バリア層の内部に、前記複数のNb素線と前記複数のSn素線を含む複数の集合体を、前記集合体同士が隣接しないように前記複数の補強用素線で分割して配置し、これを減面加工してNbSn超電導前駆体線材を作製する工程と、前記NbSn超電導前駆体線材に熱処理を施して前記Nb芯材に前記Sn芯材中のSnを拡散させてNbSn超電導線材を形成する工程とを含むNbSn超電導線材の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高臨界電流密度(Jc)を有し、圧縮に対する超電導特性(臨界電流密度の劣化率)の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施の形態及び実施例1によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施例2、4、5によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施例6によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施例3によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施例7によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施例8によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図6】図6は、比較例1、2による従来の内部スズ法によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図7】図7は、比較例3による従来の内部スズ法によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【図8】図8は、横圧縮試験の方法を示す模式図である。
【図9】図9は、磁化率測定データの例を示す模式図である。
【図10】図10は、Ic測定の電流−電圧特性を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態、実施例及び比較例について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0024】
[実施の形態の要約]
本実施の形態は、Cu又はCu合金からなるCu管と、前記Cu管内に配置され、Nb又はNb合金からなるNb芯材を有する複数のNb素線、及びSn又はSn合金からなるSn芯材を有する複数のSn素線を含む複数の集合体と、前記Cu管内に配置され、前記集合体同士が隣接しないように前記集合体を分割する複数の補強用素線と、を備えたNbSn超電導前駆体線材に、熱処理を施すことにより前記Nb芯材に前記Sn芯材中のSnが拡散してNbSnを生成してなるNbSn超電導線材である。
【0025】
「集合体同士が隣接しないように」とは、集合体間に補強用素線が存在することをいう。集合体を構成するNb素線同士を近接して配置できるので、Nb素線の本数を多くすることが可能となり、NbSn超電導前駆体線材の横断面積に対するNb芯材の総断面積が大きくなる。また、補強用素線により圧縮歪みが抑制される。
【0026】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係るNbSn超電導前躯体線材を示す横断面図である。
【0027】
このNbSn超電導前躯体線材1は、Cu又はCu合金からなるCu管5と、Cu管5の内側に形成されたTaバリア層4と、Taバリア層4の内側に配置された複数(本実施の形態では7つ)のフィラメント集合体2と、Taバリア層4の内側に配置され、フィラメント集合体2同士が隣接しないようにNbフィラメント集合体2を分割する複数のTa素線30とを備える。このNbSn超電導前駆体線材1に熱処理を施すことにより、NbフィラメントにSnが拡散されてNbSnが生成されたNbSn超電導線材が製造される。NbSn超電導線材の製造方法については、後述する。
【0028】
ここで、「フィラメント」とは、超電導前駆体における各芯材に該当するものを指す。
また、組み込まれる前の芯材そのものを指す場合もある。「銅マトリックス」とは、超電導前駆体のCu部分(銅被覆および後述する銅素線)を指す。「フィラメント集合体」とは、(Cuマトリックス部分以外の)特にNb,Snの芯材に着目した場合の集合体を指す。
【0029】
Taバリア層4は、フィラメント集合体2とCu管2の間でCuとSnが相互拡散するのを防ぐものであり、Taに限られず、Ta合金、又はNb若しくはNb合金を用いてもよい。
【0030】
フィラメント集合体2は、複数のNb素線20と、複数のSn素線23とから構成されている。なお、フラメント集合体2は、Sn素線23同士が隣接しないようにCu管5内に配置されているのが好ましい。
【0031】
Nb素線20は、Nb又はNb合金からなる断面六角形のNb芯材(Nbフィラメント)21と、Nb芯材21の表面を被覆するCu又はCu合金からなるCu被覆層22とから構成され、全体として断面六角形を有している。
【0032】
Sn素線23は、Sn又はSn合金からなる断面六角形のSn芯材(Snフィラメント)24と、Sn芯材24の表面を被覆するCu又はCu合金からなるCu被覆層25とから構成され、全体として断面六角形を有している。
【0033】
Ta素線30は、タンタル(Ta)又はTa合金からなる断面六角形のTa芯材31と、Ta芯材31の表面を被覆するCu又はCu合金からなるCu被覆層32とから構成され、全体として断面六角形を有している。ここで、Ta素線30は、補強材の一例であり、Ta芯材31は、補強用芯材の一例である。Ta素線30は、フィラメント集合体2の周囲全体又は一部を囲むように配置することで、フィラメント集合体2を複数に分割する。フィラメント集合体2を分割するとき、Sn素線23同士が隣接しないようにTa素線30を配置する。補強材としてのTa素線30をCu管5の内側に網の目状に配置することで、Cu管5の中心部だけに配置した場合よりも高い強度が得られ、圧縮歪みが抑制される。
【0034】
分割後のフィラメント集合体2を構成するNb素線20及びSn素線23の数は、同数であるのが好ましいが、同数である必要はない。
【0035】
補強用素線のTa素線30に求められる特性は、NbSnを補強するものであるから、当然NbSnよりも強度が高いこと、NbSnフィラメントの中に配置されるので、NbSnと反応しないこと、超電導特性を低下させないことである。そのため、Ta素線30のTa芯材31の材料としては、Ta及びTa合金に限定されず、例えばTa、Ta合金、タングステン(W)、W合金、ニオブ(Nb)、Nb合金、チタン(Ti)、Ti合金、モリブデン(Mo)、Mo合金、バナジウム(V)、V合金、ジルコニウム(Zr)、Zr合金、ハフニウム(Hf)、及びHf合金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなるものとする。これらの中で、Nb、Cu、Snなどと(複合化した場合)の伸線加工性が良好であるという点で、Ta又はTa合金が好ましい。
【0036】
Nb素線20、Sn素線23及びTa素線30は、本実施の形態では、同一サイズの同一断面形状を有しているが、異なるサイズでもよく、三角形、四角形等の多角形や円形等の他の断面形状でもよい。ただし、Nb素線20、Sn素線23及びTa素線30の断面形状を六角形状とすることにより、それぞれ複数本のNb素線20、Sn素線23及びTa素線30を隙間なく束ねることが可能となるため、また、加工の観点からも好ましい。また、異なるサイズの場合、設計が複雑になることと、同一サイズの場合よりも隙間ができやすいため、各素線を同一サイズとするのが望ましい。
【0037】
(NbSn超電導線材の製造方法)
次に、NbSn超電導線材の製造方法の一例について説明する。
【0038】
(1)NbSn超電導前躯体線材の作製
まず、所定のサイズのCu製パイプの内側にNb芯材21を挿入し、この複合材を断面六角形の穴を有するダイスに通すダイス伸線(伸線加工)によって減面加工して、断面六角形のNb素線20を作製する。
【0039】
次に、所定のサイズのCu製パイプの内側にSn芯材24を挿入し、この複合材を断面六角形の穴を有するダイスに通すダイス伸線によって減面加工して、断面六角形のSn素線23を作製する。
【0040】
次に、所定のサイズのCu製パイプの内側にTa芯材31を挿入し、この複合材を断面六角形の穴を有するダイスに通すダイス伸線によって減面加工して、断面六角形の補強用のTa素線30を作製する。
【0041】
次に、所定のサイズのCu管5の内面に、Taシートを所定周巻きつけてTaバリア層4を形成し、このTaバリア層4の内部に、所定数のNb素線20及び所定数のSn素線23からなるフィラメント集合体2を、Sn素線23同士が隣接しないように所定数のTa素線30で所定の数に分割して多芯線材複合体を作製し、これを断面円形の穴を有するダイスに通すダイス伸線によって減面加工して断面円形のNbSn超電導前駆体線材1を作製する。
【0042】
(2)NbSn超電導前駆体線材の加熱
NbSn超電導前駆体線材1に、例えば温度650〜750℃、100時間程度の熱処理を施す。上記熱処理を施すことにより、Sn芯材24のSnがNb芯材21に拡散してNbSnが生成し、Sn芯材24のSnとSn素線23のCu被覆層25、Nb素線20のCu被覆層22、及びTa素線30のCu被覆層32のCuとからCu−Sn合金が生成しNbSn超電導線材が製造される。
【0043】
(実施の形態の効果)
本実施の形態のNbSn超電導前駆体線材1によれば、以下の効果を奏する。
(ア)フィラメント集合体2を構成するNb素線20同士を近接して配置できるので、Nb素線20の本数を多くすることが可能となり、NbSn超電導前駆体線材1の横断面積に対するNb芯材21の総断面積が大きくなる。この結果、1800A/mm以上の高い電界電流密度(Jc)が得られる。
(イ)補強材としてのTa素線30をCu管5の内側に網の目状に配置することで、補強材をCu管5の中心部だけに配置した場合よりも圧縮歪みが抑制され、圧縮を与えた際の臨界電流密度の劣化率Jc/Jcが0.7以上となり、超電導特性の低下を抑制することができる。ここで、Jcは圧縮を与えているときの臨界電流値であり、Jcは圧縮を与えていないときの臨界電流値である。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0045】
(実施例1)
実施例1の製造方法について説明する。まず、外径24mm、内径20.2mmのCu製パイプの内側に、外径20mmのNb−1wt%Ta合金棒(Nb芯材21)を挿入し、この複合材を断面六角形の穴を有するダイスに通すダイス伸線によって減面加工して、対辺間距離1mmの断面六角形のNb素線20を作製した。
【0046】
次に、外径23mm、内径20.2mmのCu製パイプの内側に、外径20mmのTiを2重量%含むSn合金材料(Sn−2wt%Ti)(Sn芯材24)を挿入し、この複合材を断面六角形の穴を有するダイスに通すダイス伸線によって減面加工して、対辺間距離1mmの断面六角形のSn素線23を作製した。
【0047】
次に、外径23mm、内径20.2mmのCu製パイプに外径20mmのTa棒(Ta芯材31)を挿入し、この複合材を断面六角形の穴を有するダイスに通すダイス伸線によって減面加工して、対辺間距離1mmの断面六角形の補強用のTa素線30を作製した。
【0048】
上記材料の断面寸法から、Nb素線20、Sn素線23、Ta素線30の芯材21、24、31に対するCu被覆層22,25,32の断面積の比率(以下「Cu比」という。)を計算してみると、それぞれ0.42、0.30、0.30となる。
【0049】
次に、外径40mm、内径33mmのCu製パイプ(Cu管5)の内面に、厚さ0.1mmのTaシートを7周巻きつけて拡散バリア層(Taバリア層4)を形成、このTaバリア層4の内部に、456本のNb素線20、及び229本のSn素線23からなるフィラメント集合体2を、84本のTa素線30でSn素線23同士が隣接しないように7分割して配置し、この多芯線材複合体を断面円形の穴を有するダイスに通すダイス伸線によって減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材1を作製した。
【0050】
図1を参照すると分かるように、Ta素線30の連なりに注目した場合、6回対称となっている。2回対称、3回対称の条件を満たしていることは言うまでもない。換言すると、補強用素線のTa素線30によって分割されるフィラメント集合体2の個数が6×n+1(nは整数)となっている。
【0051】
図1に示す構成は、構造的に、安定であることが特長として挙げられる。さらに、NbSn超電導線を熱処理によって生成する際、まれにSnの移動の偏りなどにより、各超電導フィラメント同士が、想定より近接しすぎるような場合に超電導体として実質的に結合してしまうという問題が起こることが考えられるが、このように、サイズが略同一の補強用素線を設けることにより、Sn素線23同士の間隔を確実に確保することができ、交流損失増大のリスクを低減することができる。
【0052】
(実施例2、3)
図2Aは、本発明の実施例2、4、5によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。図3は、本発明の実施例3によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【0053】
実施例2、3は、実施例1と同様の方法でNbSn超電導前駆体線材1を作製したものであるが、フィラメント集合体2をTa素線30で分割する数を変えたものである。
【0054】
実施例2は、図2に示すように、396本のNb素線20と211本のSn素線23からなるフィラメント集合体2を、Sn素線23同士が隣接しないように162本のTa素線30で約19分割し、この多芯線材複合体を減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材1を作製した。
【0055】
実施例3は、図3に示すように、348本のNb素線20と199本のSn素線23からなるフィラメント集合体2を、Sn素線23同士が隣接しないように222本のTa素線30で37分割し、この多芯線材複合体を減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材1を作製した。
【0056】
図2Aを参照すると分かるように、実施例2及び実施例3も、実施例1と同様に、6回対称の構造となっている。フィラメント集合体2に用いるNb素線20、Sn素線23のサイズが大きく、使用する素線の本数が少ない場合には、図1のように、フィラメント集合体2の数を少なくし、逆に、Nb素線20、Sn素線23のサイズが小さく、使用する素線の本数が多い場合には、図2Aのようにフィラメント集合体2の数を多くすることができる。ただし、Ta自体は、超電導線材を形成しないので、Taの占有率が高い場合は、全体の体積に対する実質的な超電導特性は、相対的に小さくなることに注意する必要がある。
【0057】
(実施例4、5、6)
実施例4、5は、実施例2と同様の方法でNbSn超電導前駆体線材1を作製したものであるが、補強用のTa素線30のCu被覆層32の断面積比率を変えたものである。
【0058】
実施例4は、図2Aに示すように、外径28mm、内径20.2mmのCu製パイプの内側に外径20mmのTa棒(Ta芯線31)を挿入し、この複合材(Cu比0.67)を減面加工して、対辺間距離1mmの断面六角形の補強用のTa素線30を作製した。ここで、Cu比とは、素線全横面積を1としたときのCu部分の横断面積の割合をいう。
【0059】
実施例5は、図2Aに示すように、外径22mm、内径20.2mmのCu製パイプを用意した。このCu製パイプの内側に外径20mmのTa棒(Ta芯線31)を挿入し、この複合材(Cu比0.19)を減面加工して、対辺間距離1mmの断面六角形の補強用のTa素線30を作製した。
【0060】
実施例6は、実施例2と同様の方法でNbSn超電導前駆体線材1を作製したものであるが、図2Bに示すように、Cu被覆層32のないTa棒(Cu比0)を対辺間距離1mmの六角形状に加工して補強用のTa素線34を作製し、それを補強材として用いたものである。
【0061】
いずれの実施例4、5、6でも、396本のNb素線20と211本のSn素線23からなるフィラメント集合体2を、Sn素線23同士が隣接しないように162本のTa素線30、34で19分割し、この多芯線材複合体を減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材1を作製した。
【0062】
(実施例7、8)
図4は、本発明の実施例7によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図、図5は、本発明の実施例8によるNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【0063】
実施例7、8は、実施例6と同様の方法でNbSn超電導前駆体線材1を作製したものであるが、フィラメント集合体2を分割するTa素線30の一部をこれと同じサイズのCu素線33で置き換えたものである。
【0064】
実施例7は、図4に示すように、396本のNb素線20と211本のSn素線23からなるフィラメント集合体2を、Sn素線23同士が隣接しないように162本のTa素線34で19分割し、六角形状に配置したTa素線34のうち12本をCu素線33に置き換えて多芯線材複合体を作製した。よって、Ta素線34は、150本使用している。これを減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材1を作製した。
【0065】
実施例8は、図5に示すように、396本のNb素線20と211本のSn素線23からなるフィラメント集合体2を、Sn素線23同士が隣接しないように162本のTa素線34で19分割し、六角形状に配置したTa素線34のうち30本をCu素線33に置き換えて多芯線材複合体を作製した。よって、Ta素線34は、132本使用している。これを減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材1を作製した。
【0066】
いずれの実施例7、8の場合も、Ta素線34の一部を置き換える材料は、Cu素線33だけでなくNb素線20、Sn素線23でも可能である。
【0067】
(比較例1)
図6は、従来の内部スズ法による比較例1、2のNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【0068】
比較例1は、実施例1と同一のNb素線20及びSn素線23を作製した。次に、Ta棒(Ta素線34)を減面加工して、Cu被覆層32を有していない対辺間距離1mmの六角形状の補強用のTa素線34を作製した。Nb素線20、Sn素線23、Ta素線34のCu比は、それぞれ0.42、0.30、0である。
【0069】
次に、外径40mm、内径33mmのCu製パイプ(Cu管5)の内面に、厚さ0.1mmのTaシートを7周巻きつけて拡散バリア層(Taバリア層4)を形成し、このTaバリア層4の内部の中心部に127本のTa素線34を配置し、それらの外周側の部分に432本のNb素線20及び210本のSn素線23を、Sn素線23同士が隣接しないように配置し、この多芯線材複合体を減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材10を作製した。
【0070】
(比較例2)
比較例2は、比較例1に比べてNb素線20とSn素線23のCu被覆層22、25のCuの比率を増加して作製したものである。
【0071】
Nb素線20は、外径26mm、内径20.2mmのCu製パイプの内側に、外径20mmのNb−1wt%Ta合金棒(Nb芯材21)を挿入し、この複合材を減面加工して対辺間距離1mmの六角形状とした。
【0072】
Sn素線23は、外径24mm、内径20.2mmのCu製パイプの内側に、外径20mmの2重量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2wt%Ti)(Sn芯材24)を挿入し、この複合材を減面加工して対辺間距離1mmの六角形状とした。Nb素線20、Sn素線23のCu比は、それぞれ0.67、0.42である。Ta素線34は比較例1と同様に製造した。
【0073】
次に、外径40mm、内径33mmのCu製パイプ(Cu管5)の内面に、厚さ0.1mmのTaシートを7周巻きつけて拡散バリア層(Taバリア層4)を形成し、このTaバリア層4の内部に、127本のTa素線34をTaバリア層4の中心に配置し、432本の上記Nb素線20と、210本の上記Sn素線23を、Ta素線34の外周にSn素線23同士が隣接しないように配置し、この多芯線材複合体を減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材10を作製した。これ以外は比較例1と同様に作製した。
【0074】
(比較例3)
図7は、従来の内部スズ法による比較例3のNbSn超電導前駆体線材の断面構成を示す横断面図である。
【0075】
比較例3は、補強材を複合化しない線材を作製したものである。外径26mm、内径20.2mmのCu製パイプの内側に、外径20mmのNb−1wt%Ta合金棒(Nb芯材21)を挿入し、この複合材を減面加工して対辺間距離1mmの断面六角形のNb素線20を作製した。
【0076】
次に、外径24mm、内径20.2mmのCu製パイプの内側に、外径20mmの2重量%のTiを含むSn合金材料(Sn−2wt%Ti)(Sn芯材24)を挿入し、この複合材を減面加工して対辺間距離1mmの断面六角形のSn素線23を作製した。
【0077】
次に、外径40mm、内径33mmのCu製パイプ(Cu管5)の内面に、厚さ0.1mmのTaシートを7周巻きつけて拡散バリア層(Taバリア層4)を形成し、このTaバリア層4の内部に、516本の上記Nb素線20と、253本のSn素線23を、Sn素線23同士が隣接しないように配置し、この多芯線材複合体を減面加工して線径1mmのNbSn超電導前駆体線材10を作製した。
【0078】
表1に、各構成と特性等の評価について記す。
【0079】
【表1】

【0080】
まず、素線Cu比は、各素線について、素線全横面積を1としたときのCu部分の横断面積の割合をいう。素線数(フィラメント数)は、各項目に示した素線の数(この場合、フィラメント数と同数)を示している。フィラメント径(Nb)は、特に、NbSnが生成される前のNb芯材21の径を示している。これは、NbSn超電導の生成時、熱によるSnの拡散が大きいため、見た目上、Nb芯材のある場所に、NbSnが生成される(もっとも、体積が増えるため、厳密な意味での境界は外方向へ拡大する)ために、参考となる値として表記した。補強材の比率とは、Cu又はCu合金からなるCu管5を含めたNbSn超電導前躯体線材1の全体積に対するTa補強部材(Cu素線を除く)の合計体積の比率を示す。特に、後述する実施例7及び実施例8は、複数本ある補強線材であるTa素線30の一部の一部(数本)を置換したCu素線33の体積が、分母の中にカウントされている。
【0081】
(特性評価)
以上のようにして作製した実施例及び比較例の線径1mmの線材の一部を500℃×100時間+700℃×100時間の条件で熱処理して特性評価用の試料100を作製した。
【0082】
図8は、臨界電流の測定の様子を示す図である。
作製した試料100を液体ヘリウム中(温度4.2K)で12T(テスラ)の磁場をかけた中で通電し、測定器101で臨界電流測定を行った。臨界電流値Icは線材の長さ1cm当たり0.1μVの電圧発生(1μV/cm)をもって定義した。測定した臨界電流値を多芯線材の安定化銅を除いた断面積で除してnon−Cu Jc(非銅部臨界電流密度)を求めた。試料は2本用意し、圧縮(歪)を与えずに測定した試料のnon−Cu JcをJcとし、同様に液体ヘリウム中、12Tの磁場B中で、試料側面に設置した圧縮用の治具を介して線材試料に線材長手方向に垂直な方向から75kg(735N)の荷重(横圧縮荷重)Fを加えた状態で臨界電流密度の測定を行い、臨界電流密度Jcを求めた。
【0083】
(劣化率)
そしてJcとJcとの比(劣化率)Jc/Jcを求めることで横圧縮荷重によるJcの劣化率を求めた。
【0084】
補強材を複合化していない比較例3の線材では、表1に示すように、横圧縮による劣化率は0.5、同じく補強材を多芯線材の中心部分に複合化した多芯線材の比較例1、2では、約0.6であった。これに対し本発明の実施例では、最も小さな素線分割数7の実施例1の劣化率は約0.7、素線分割数が最も大きな37の実施例3の劣化率は、約0.9であった。本実施例のように補強材の断面内に網の目状に配置にすることで横からの圧縮に対して超電導特性の低下を抑制する効果があることが分かる。
【0085】
(耐力)
熱処理後の各実施例の試料について、室温で引っ張り試験を行い、0.2%耐力を求めた。複合化した補強材の比率と0.2%耐力を比較すると、おおむね補強材の比率に応じて0.2%耐力が増加している。表1に示すように、実施例2、3、5〜8のように200MPa以上の0.2%耐力となるようにするためには、補強材の比率は全横断面積の10%以上が望ましい。
【0086】
(磁化率)
熱処理後の各実施例の試料100について、磁化率測定を行った。測定条件は、測定温度4.5K、磁場を5.5Tから−5.5Tの間で変化させ(0→5.5T→0T→−5.5T→0T)、測定した。試料100に加えた磁場に対して試料100に発生した磁化率を図9に示す。
【0087】
測定した磁化率ΔMから下式を用いてNbSnの有効フィラメント径deffを求めた。
eff[μm]=3π/4μ・ΔM[T]/Jc[A/mm
(=3π/4μ・ΔM[T]/Jcsi[A/m]×10
μ:真空中の透磁率(1×10−7)、π:円周率
【0088】
表1に示すように、実施例では補強材で分割した寸法(補強材欄の分割寸法[μm])と同等の有効フィラメント径[μm]となっている。すなわち、補強材で分割した内部では、各NbSnフィラメント同士は電磁気的に結合しているが、補強材で分割した領域間では、電磁気的に分離されていることを意味し、本実施例の補強材配置が、フィラメントの電磁気的な分離に効果的であることが示された。比較例1〜3のうち比較例1は、磁化率が大きすぎて測定ができなかった。
【0089】
比較例1では、実施例6〜8と同じCu比の素線を用いたものであるが、NbSnフィラメント同士が近すぎて線材全体にわたってNbSnフィラメントが結合していると考えられる。
【0090】
比較例2、3は、Nb素線20と、Sn素線23のCu比を増加してNbSnフィラメントの間隔が広くなるようにしたものであるが、有効フィラメント径は、低下しておよそ160μm及び180μm程度になった。本実施例は、Cu比が小さくNbSnフィラメントが近接している場合でも補強材によりフィラメントの結合が確実に分離される特長がある。
【0091】
実施例4、5、6は、実施例1〜3とは補強材のCu比が異なる試料である。実施例6は、補強材にCu被覆がない場合、すなわち素線Cu比は0で、表1に示すように、実施例4、5、6の中で補強材の断面積比率が12%と最も大きいため、0.2%耐力も240MPaと最も大きな値を示している。Jc測定の際の電流−電圧曲線は、正常な場合はIc以下の電流値では電圧は発生しないが、図10に示すように、実施例6の電流−電圧曲線は、Ic以下の電流値のときにわずかに傾いており、電流に比例した電圧の発生が認められた。実施例6の断面構成では、補強材にCu被覆がないために線材内が補強材で完全に分離されている。このため、超電導電流が線材外部に取り付けた電流端子から電流補強材で分離された内側の部分に流れ込むためには、電気抵抗の高い補強材を通過しなければならず、その際に電圧が発生したものと考えられる。
【0092】
一方、実施例4、5は、図10に示すように、電流−電圧曲線は、Ic以下の電流値のときに電圧発生はほとんどなかった。実施例4、5は、補強材にCuが被覆されているために補強材で囲まれた部分に抵抗の低いCuを通して電流が流れ込むことができるためと考えられる。補強材でフィラメント集合体2を完全に囲むことは不適切である。実施例5は、素線20、23、30の外径寸法30μmに対してCu被覆層22、25、32の厚みは3μmであるので、囲む比率は周長の90%以下が好ましい。
【0093】
実施例5では、Nb、Sn集合体を取り囲むようにTa補強材を配置した。これに用いたTa補強材は、直径26.3μm、Cu被覆の厚みがおよそ1.1μm、Taフィラメントの直径が24.1μmとした。このとき集合体を取り囲む周長に占めるTaおよびCuの長さの割合は、Ta補強材の外径に対するTaフィラメント(Cu被覆を除く部分)の直径の割合、およびTa補強材の外径に対するCu被覆の厚み(の2倍)の割合に相当する。
【0094】
実施例5ではTa補強材直径26.3μmのうちTaフィラメント24.1μmでおよそ91%、Cu被覆は残りおよそ9%であった。実施例5では上記の割合で被覆することで不要な電圧の発生が抑止できたことから、集合体を取り囲む補強材のうち補強部材の成分(Cuを除くTaだけの部分)の割合は90%以下とすることが好ましい。
【0095】
Ta補強材でフィラメント集合体を分割する場合の、Ta補強材の一部をNb、Sn、Cuなどのほかの部材で置き換えることでも補強材でフィラメント(Nb素線20及びSn素線23)を囲む比率を低減することが可能である。実施例7、8は、補強材としてCu被覆のないTaを用いているが、一部のTa補強材をCuで置き換えたものである。実施例7では六角形状に配置した18本のTa素線34のうち2本(11%)をCu素線33で置き換え、実施例8では同じく18本のTa素線34のうち6本(33%)をCu素線33で置き換えている。この場合、Cu素線33は、超電導生成過程において施される熱処理によって、各素線におけるCu被覆層22、25、32と同様、銅マトリックスの一部となる。このように、Cu被覆のないTaを用いた場合、フィラメント集合体2をTaで完全に囲んでしまうのではなく、フィラメント集合体2の境界の一部にCuマトリックス部分を形成することによって、Cu管5に隣接するフィラメント集合体2よりも内側の集合体に、電流を通しやすくすることができ、NbSn超電導線材全体の超電導特性が実施例6に比べて向上する。このように、実施例7、8においては、機械的強度を高めつつ、NbSn超電導線材全体の超電導特性を向上させることに成功している。なお、Cu管5に隣接する最も外側のフィラメント集合体2は、(バリア層4を介して)直接Cu管5に接しているため、比較的電流が流れやすい。このため、実施例7、8においては、最も外側のフィラメント集合体2同士を隔てるTa素線30、34については、Cu素線33による置換を行っていない。ただし、当該部分の一部をCu素線33によって置換することを妨げるものではないことに注意されたい。
【0096】
いずれもIc測定時の電流−電圧特性は、Ic以下の電流で電圧の発生は見られなかった。実施例8の有効フィラメント径は、500μmであり、実施例7よりも大きくなっている。これは補強材によるフィラメント(Nb素線20及びSn素線23)の分離を減少させたため電磁気的な結合が増加したためと考えられる。このため、フィラメント集合体2を囲む比率は、フィラメント集合体2の周長の70%以上、90%以下が好ましい。
【0097】
なお、本発明は、上記実施の形態及び上記実施例に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0098】
1…NbSn超電導前躯体線材、
2…フィラメント集合体、
4…Taバリア層、
5…Cu管、
10…NbSn超電導前駆体線材、
20…Nb素線、
21…Nb芯材、
22…Cu被覆層、
23…Sn素線、
24…Sn芯材、
25…Cu被覆層、
30…Ta素線、
31…Ta芯材、
32…Cu被覆層、
33…Cu素線、
34…Ta素線、
100…試料、
101…測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu又はCu合金からなるCu管と、
前記Cu管内に配置され、Nb又はNb合金からなるNb芯材を有する複数のNb素線、及びSn又はSn合金からなるSn芯材を有する複数のSn素線を含む複数の集合体と、
前記Cu管内に配置され、前記集合体同士が隣接しないように前記集合体を分割する複数の補強用素線と、
を備えたNbSn超電導前駆体線材に、
熱処理を施すことにより前記Nb芯材に前記Sn芯材中のSnが拡散してNbSnを生成してなるNbSn超電導線材。
【請求項2】
前記複数の補強用素線によって分割される前記集合体の個数が6×n+1(nは整数)である請求項1に記載のNbSn超電導線材。
【請求項3】
前記複数の補強用素線のうちの一部の補強用素線は、芯材及び前記芯材を被覆する被覆層を備え、
前記芯材は、タンタル(Ta)、タンタル合金、タングステン(W)、タングステン合金、ニオブ(Nb)、ニオブ合金、チタン(Ti)、チタン合金、モリブデン(Mo)、モリブデン合金、バナジウム(V)、バナジウム合金、ジルコニウム(Zr)、ジルコニウム合金、ハフニウム(Hf)、及びハフニウム合金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなるものである請求項1又は2に記載のNbSn超電導線材。
【請求項4】
前記集合体同士を隔てる前記複数の補強用素線は、一部がCu又はCu合金からなるCu素線で置換された請求項1から3のいずれか1項に記載のNbSn超電導線材。
【請求項5】
前記複数の補強用素線は、分割後の前記集合体の周囲の70〜90%を囲むように配置された請求項1から4のいずれか1項に記載のNbSn超電導線材。
【請求項6】
Nb又はNb合金からなるNb芯材をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工して複数のNb素線を作製する工程と、
Sn若しくはSn合金からなるSn芯材を減面加工し、又は前記Sn芯材をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工して複数のSn素線を作製する工程と、
補強用芯材を所定の寸法に減面加工し、又は補強用芯材をCuパイプ中に挿入し、これを減面加工して、複数の補強用素線を作製する工程と、
Cu管の内面にNb若しくはNb合金、又はTa若しくはTa合金からなる拡散バリア層を形成し、前記拡散バリア層の内部に、前記複数のNb素線と前記複数のSn素線を含む複数の集合体を、前記集合体同士が隣接しないように前記複数の補強用素線で分割して配置し、これを減面加工してNbSn超電導前駆体線材を作製する工程と、
前記NbSn超電導前駆体線材に熱処理を施して前記Nb芯材に前記Sn芯材中のSnを拡散させてNbSn超電導線材を形成する工程とを含むNbSn超電導線材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−62239(P2013−62239A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181532(P2012−181532)
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】