説明

NbTi超電導線の接続方法及びその接続構造

【課題】接続作業が容易で、良好な電導性を得る。
【解決手段】複数本のNbTi超電導線同士を接続するNbTi超電導線の接続方法において、各NbTi超電導線の接続部分のNbTi超電導フィラメントを露出させる工程と、露出させたNbTi超電導フィラメント露出部同士を同方向に並べて互いに重ね合わせる工程と、重ね合わせた前記NbTi超電導フィラメント露出部に金属パイプを被覆させる工程と、前記金属パイプを縮径加工して前記NbTi超電導フィラメント露出部を圧着する工程と、縮径加工した前記金属パイプを、厚さtと幅wの比がw/t≧3となるまで、前記NbTi超電導フィラメント露出部を並べた方向と直交する方向に扁平状に圧延加工する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNbTi超電導線の接続方法及びその接続構造にかかり、特に医療用MRI、分析用NMR等に用いられる超電導マグネットの超電導線と、この超電導マグネットを永久電流モードで運転するときに用いられる永久電流スイッチの超電導線とを接続するのに好適なNbTi超電導線の接続方法及びその接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の超電導線の接続方法は、図9に示すように、接続部となる超電導線11、12の先端部を溶かして露出させたNbTi超電導フィラメント露出部13、14を、溶融鉛を含む超電導ハンダ中に浸し、この超電導ハンダ15で固めることにより行うのが一般的であった。しかし、環境に有害な鉛を含んだハンダを使用するため好ましくない。
【0003】
そこで、図10に示すように、超電導フィラメント露出部13、14同士を突き合わせて絡ませた後、超電導フィラメント露出部13、14上に金属パイプ16を被せ、この被せた金属パイプ16をかしめて超電導フィラメント露出部13、14同士を固定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これによればハンダを使わないため、鉛フリーの要請に応えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−312237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1では、超電導線フィラメント露出部同士を向かい合わせにする、所謂突き合わせ接続方法を採用しているため、超電導フィラメント露出部同士をかしめたりするときに、接続作業が煩雑になり、良好な伝導性を得ることが困難であった。
【0006】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解消して、接続作業が容易で、良好な電導性を得ることが可能なNbTi超電導線の接続方法及びその接続構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の態様は、
複数本のNbTi超電導線同士を接続するNbTi超電導線の接続方法において、
各NbTi超電導線の接続部分のNbTi超電導フィラメントを露出させる工程と、
露出させたNbTi超電導フィラメント露出部同士を同方向に並べて互いに重ね合わせる工程と、
重ね合わせた前記NbTi超電導フィラメント露出部に金属パイプを被覆させる工程と、
前記金属パイプを縮径加工して前記NbTi超電導フィラメント露出部を圧着する工程と、
縮径加工した前記金属パイプを、厚さtと幅wの比がw/t≧3となるまで、前記NbTi超電導フィラメント露出部を並べた方向と直交する方向に扁平状に圧延加工する工程と
を含むNbTi超電導線の接続方法が提供される。
【0008】
好ましくは前記金属パイプは銅で構成されるとよい。
【0009】
また、本発明の他の実施の態様は、
NbTi超電導フィラメント露出部同士が同方向に並べて互いに重ね合わされて形成されているNbTi超電導線の接続部と、
前記接続部を被覆し、前記NbTi超電導フィラメント露出部を並べた方向に扁平状に圧延されて該NbTi超電導フィラメント露出部を圧着する圧延加工部を有する金属パイプとを備え、
前記扁平状の圧延加工部の厚さtと幅wの比が
w/t≧3
の関係にあるNbTi超電導線の接続構造が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接続作業が容易で、良好な超電導性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係るNbTi超電導線の接続構造が適用される超電導マグネットとPCSからなる超電導マグネット運転回路図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る2本の超電導線のNbTiフィラメント露出部を重ねて銅パイプを被覆した状態を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る金属パイプを縮径加工したあとの状態の説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る縮径加工した部分を、さらに圧延加工して接続を完了した状態の説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る超電導マグネットのNbTi超電導線と、PCSのNbTi超電導線との共通断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る2本の超電導線を並べて、露出させたNbTiフィラメント露出部を同方向に平行に並べた状態の説明図である。
【図7】本発明の他の実施の形態に係るNbTiフィラメント露出部を撚り合わせた状態の説明図である。
【図8】本発明の一実施の形態のNbTi超電導の接続構造を評価するための通電試験方法を実施する装置の説明図である。
【図9】従来例のNbTi超電導線の接続方法を示す説明図である。
【図10】従来例のNbTi超電導線の接続方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態について述べる。
【0013】
医療用MRIや分析用NMR等に用いられる超電導マグネットは、図1に示すように、超電導コイル1の両端に永久電流スイッチ(PCS;Persistent Current Switch)3が接続された構成となっている。PCS3がオフ時に、接続部2間を高抵抗にしてオープンさせ、外部電源4から接続部2を介して、温度4.2Kの液体ヘリウム5で冷却された超電導コイル1に通電させる(図1(a))。PCS3がオン時に、外部電源4からの通電を止め、抵抗ゼロとなってショートしたPCS3を通る永久電流9により超電導マグネットを運転することで、非常に安定し、かつ減衰のない磁場を発生させている(図1(b))。
【0014】
超電導コイル1の両端から引き出した超電導線8と、PCS3から引き出した超電導線7は、特殊な超電導接続をすることで接続部2の電気抵抗をゼロに保っている。もし、接続部2で電気抵抗が発生してしまうと、永久電流9が減衰していき、超電導コイル1は一
定の磁場を発生できなくなるため、超電導線の接続は重要である。
【0015】
既述したように、超電導線の接続方法に突き合わせ接続方を採用すると、かしめたりするときに、接続作業が煩雑になり、良好な伝導性を得ることが困難であった。これは、超電導線フィラメント露出部同士を突き合わせると、互いの自由端を固定することになるため、接続作業に制約が生じるためである。
【0016】
そこで、本発明の実施の形態の複数本(図示例では2本)のNbTi超電導線同士の接続方法では、各NbTi超電導線21、22の接続予定部分のNbTi超電導フィラメント26を露出させる工程と(図5、図6)、露出させたNbTi超電導フィラメント露出部26a同士を同方向に並べて互いに重ね合わせる工程と(図6)、重ね合わせたNbTi超電導フィラメント露出部26aに金属パイプ30を被覆させる工程と(図2)、金属パイプ30を縮径加工してNbTi超電導フィラメント露出部26aを圧着する工程と(図3)、縮径加工した前記金属パイプを、厚さtと幅wの比がw/t≧3となるまで、前記NbTi超電導フィラメント露出部26aを並べた方向と直交する方向に扁平状に圧延加工する工程と(図4)、を含むよう構成されている。
【0017】
また、NbTi超電導線の接続構造では、図4に示すように、NbTi超電導フィラメント露出部26a同士が同方向に並べて互いに重ね合わされて形成されているNbTi超電導線21、22の接続部29と、この接続部29を被覆し、NbTi超電導フィラメント露出部26aを並べた方向に扁平状に圧延されてNbTi超電導フィラメント露出部26aを圧着する圧延加工部30bを有する金属パイプ30とを備え、扁平状の圧延加工部30bの厚さtと幅wの比がw/t≧3の関係となるよう構成されている。
【0018】
ここでNbTi超電導線21、22の構造は、典型的なものを挙げれば、図5に示すように、表面を絶縁被膜23で覆われた安定化銅24と、この安定化銅24の中に埋められた多芯のNbTi超電導フィラメント26とから構成される。安定化銅24は、超電導コイルを構成するNbTi超電導線21の場合、常電導時に電流をバイパスさせるために銅マトリックスで構成される。PCSを構成するNbTi超電導線22の場合、安定化銅は、常電導時に電流が流れ難くするように銅合金マトリックスで構成される。
【0019】
NbTi超電導フィラメント26(図5)を、図6に示すように外部に露出させてNbTi超電導フィラメント露出部26aとするには、NbTi超電導線21、22の接続予定部となる先端部の絶縁被覆23を除去し、絶縁被覆23を除去した先端部を酸でエッチングして安定化銅24を溶かすことにより行う。
【0020】
NbTi超電導フィラメント露出部26a同士を同じ方向に並列的に並べるとは、平行ないし平行に近い形で並べることを意味し、フィラメント露出部同士が交差したり、直線的に対向したりする場合は含まれない。また、NbTi超電導フィラメント露出部26a同士を互いに重ね合わせるとは、同方向に並べられたNbTi超電導フィラメント露出部26a同士が寄り添って互いに接触していることを意味し、さらにNbTi超電導フィラメント露出部26a同士が絡み合ったりしてもよいが、そこまでを要件とするものではない。また、金属パイプ30は銅パイプ、好ましくは純銅パイプがよい。
【0021】
図2の重ね合わせたNbTi超電導フィラメント露出部26aに金属パイプ30を被覆させる工程では、接続すべき2本の超電導線21、22を重ね合わせたときの外径と略同じ大きさの内径を有する金属パイプ30を用意し、重ね合わせたNbTi超電導線フィラメント露出部26aをこの金属パイプ30の一端から挿入して被覆させる。
【0022】
図3の金属パイプ30を縮径加工してNbTi超電導フィラメント露出部26aを圧着
する工程では、金属パイプ30を全長に亘って径方向内方に均等に縮径して、この縮径した金属パイプ30aとNbTi超電導フィラメント露出部26aとの間の隙間を縮めて、金属パイプ30aにより超電導フィラメント露出部26a同士を周方向からかしめる。
【0023】
図4に示すように、縮径した金属パイプ30aを、厚さtと幅wの比(アスペクト比)がw/t≧3になるまで更に圧延加工して扁平状にするのは、アスペクト比が3以上の場合は、圧延加工部30b内側の超電導フィラメント露出部26a同士の機械的な結合が強く、接続部で電気抵抗が発生せず、超電導状態をより確実に保持できるが、アスペクト比が3未満の場合、圧延加工部30b内側の超電導フィラメント露出部26a同士の機械的な結合が弱く、接続部で有限の電気抵抗が発生して超電導状態をより確実に保持できないためである。圧延加工は、金属パイプ30の一端側から他端側に向けて、NbTi超電導フィラメント露出部26aの並列方向と直角の方向から圧力を加えることにより行われる。
【0024】
圧延加工は、縮径された金属パイプ30aの全長に亘って行うようにしても良いが、図4に示すように、かしめによる周方向の接合強度をより確実に確保するために、金属パイプ30の一端側で圧延加工が施されない肩部が形成されるように行うのがよい。
【0025】
このように構成された超電導線の接続構造は、異種金属を介さない機械的接合であるから、鉛フリーで環境に優しく、信頼性も高い。
【0026】
以上述べたように、本実施の形態によれば、NbTi超電導フィラメント露出部26a同士を重ね合わせたのち、金属パイプ30で被覆し、その金属パイプ30を縮径加工することで、圧着する。圧延加工してNbTi超電導フィラメント露出部26a同士をさらに圧着して、超電導接続部とする。これによりNbTi超電導フィラメント露出部26a同士の圧着を更に強化するので、圧縮加工で接続工程が終わっているものと比べて接続抵抗を小さくでき、超電導性能をさらに高めることができる。
【0027】
特に、NbTi超電導フィラメント露出部26aを並べた方向と直交する方向に扁平状に圧延加工し、その圧延加工部の寸法がw/t≧3になるように、縮径したものをさらに引き延ばすので、NbTi超電導フィラメント露出部26a同士の機械的な結合をより強くでき、接続抵抗をより小さくできる。その結果、超電導コイルとPCSとのNbTi超電導線との接続部の信頼性が向上し、NRI、NMRなど永久電流モードで使用される全ての超電導マグネットに適用可能となる。
【0028】
また、本実施の形態では、NbTi超電導フィラメント露出部26a同士を平行に並べて互いに重ね合わせ接続するようにしたので、突き合わせ接続と異なり、3本以上の超電導線であっても、これらを平行に添わせて金属パイプで束ねることにより容易に接続することができる。
【0029】
また、本実施の形態では、NbTi超電導フィラメント露出部26a同士を同方向に並べて行う重ね合わせ接続を採用したことにより、NbTi超電導線21、22の一端が自由端となるので、突き合わせ接続のように両端が固定されものと異なり、超電導線の引き回し作業が無くなり、縮径したり圧延したりするときの接続作業が格段に容易となる。
【0030】
なお、本発明は以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常に知識を有する者により可能である。
例えば、上述した実施の形態では、NbTi超電導フィラメント露出部26a同士を添わせて重ねて接続したが、図7に示すように、互いに撚り合わせるようにしてもよい。これによればより一層良好な超電導性を得ることができる。
【実施例】
【0031】
(実施例)
超電導コイルに使用されている典型的な超電導線として、表面にエナメル絶縁被覆を施した銅マトリックスの中に多数のNbTi超電導フィラメントを埋め込んだ線径1.1mmのNbTi超電導線を用意した。また、PCSに使用されている超電導線として、表面にエナメル絶縁被覆を施したCu−10%Ni(銅合金)マトリックスの中に多数のNbTi超電導フィラメントを埋め込んだ線径1.1mmのNbTi超電導線を用意した(図5)。
【0032】
各超電導線の接続予定部となる長さ約100mmの先端部分のエナメル絶縁被覆を除去した後、その100mmの先端部分を硝酸に漬けてマトリックスである銅、またはCu−10%Ni(銅合金)を溶かして除去し、NbTi超電導フィラメントを露出させた(図6)。
【0033】
2本のNbTi超電導線をそのフィラメント露出部が互いに重なるように平行に添わせて並べ、露出部の上から内径2.1mm、外径3.1mm、長さ120mmの銅パイプを被せた(図2)。スウェージャーを用いて銅パイプの縮径加工を繰り返して、フィラメント露出部をかしめ、銅パイプの外径を2.5mmとした(図3)。2.5mm部分を圧延機で圧延加工し、圧延加工部の外形の厚さt=1.3mm、幅w=3.9mmの扁平状に加工した(図4)。
【0034】
このように先端部に扁平状の銅パイプを被せて接続した2本の超電導線を次のように評価した。2本の超電導線の基端側を任意の長さで切り捨て、残った基端部分のエナメル絶縁被覆を除去した後、その基端部分に電流端子31をそれぞれハンダ付けした。また、基端部分と先端部分との間の中間の分岐部に電圧端子32をそれぞれハンダ付けした(図8(b))。これをサンプルSとして、超電導接続部への通電測定装置39にセットした(図8(a))。
【0035】
図8(a)に示すように、通電測定装置39は、クライオスタット(極低温真空容器)41と測定器40とから構成される。クライオスタット41は、密閉構造をしており、液体ヘリウム43で満たされた内部には外部磁場印加用超電導マグネット42が収納されている。測定器40はクライオスタット41の外の室内環境に置かれる外部電源44と電圧計46等を備える。サンプルSは、クライオスタット41の外部磁場印加用超電導マグネット42内に設置される。サンプルSと測定器40の外部電源44との間は高周波同軸ケーブル45で接続する。サンプルSを液体ヘリウム43中で超電導状態になる温度まで冷却されるとともに、外部磁場印加用超電導マグネット42により生成される0.5Tの外部磁場中で、外部電源44から通電して試験した。この通電試験した結果、サンプルSは、522Aまで電気抵抗ゼロで通電できることを確認した。
【0036】
(比較例)
サンプルは、縮径加工までは実施例と同じ条件で加工を施してあるが、圧延加工は施さなかった。
【符号の説明】
【0037】
26a NbTi超電導フィラメント露出部
30 金属パイプ
30a 縮径加工された金属パイプ
30b 圧延加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のNbTi超電導線同士を接続するNbTi超電導線の接続方法において、
各NbTi超電導線の接続部分のNbTi超電導フィラメントを露出させる工程と、
露出させたNbTi超電導フィラメント露出部同士を同方向に並べて互いに重ね合わせる工程と、
重ね合わせた前記NbTi超電導フィラメント露出部に金属パイプを被覆させる工程と、
前記金属パイプを縮径加工して前記NbTi超電導フィラメント露出部を圧着する工程と、
縮径加工した前記金属パイプを、厚さtと幅wの比がw/t≧3となるまで、前記NbTi超電導フィラメント露出部を並べた方向と直交する方向に扁平状に圧延加工する工程と
を含むことを特徴とするNbTi超電導線の接続方法。
【請求項2】
前記金属パイプが銅で構成されている請求項1に記載のNbTi超電導線の接続方法。
【請求項3】
NbTi超電導フィラメント露出部同士が同方向に並べて互いに重ね合わされて形成されているNbTi超電導線の接続部と、
前記接続部を被覆し、前記NbTi超電導フィラメント露出部を並べた方向に扁平状に圧延されて該NbTi超電導フィラメント露出部を圧着する圧延加工部を有する金属パイプとを備え、
前記扁平状の圧延加工部の厚さtと幅wの比が
w/t≧3
の関係にあることを特徴とするNbTi超電導線の接続構造。

【図1】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−62210(P2013−62210A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201490(P2011−201490)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】