説明

Ni−Pt合金及び同合金ターゲット

Pt含有量が0.1〜20wt%であるNi−Pt合金であって、ビッカース硬度が40〜90である加工性に優れたNi−Pt合金及び同ターゲット。3Nレベルの原料Niを電気化学的に溶解する工程、電解浸出した溶液をアンモニアで中和する工程、活性炭を用いてろ過し不純物を除去する工程、炭酸ガスを吹き込んで炭酸ニッケルとし、還元性雰囲気で高純度Ni粉を製造する工程、3Nレベルの原料Ptを酸で浸出する工程、浸出した溶液を電解により高純度電析Ptを製造する工程からなり、これらの製造された高純度Ni粉と高純度電析Ptを溶解する工程からなる加工性に優れたNi−Pt合金の製造方法。Ni−Pt合金インゴットの硬度を低下させて圧延を可能とし、圧延ターゲットを安定して効率良く製造する技術を提供することを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加工性に優れたNi−Pt合金及びNi−Pt合金インゴットを圧延して製造されたスパッタリングターゲット並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置用のスパッタリングターゲットとしてNi−Ptが使用されているが、従来このNi−Ptターゲットは粉末冶金法により製造されていた。すなわちNi粉とPt粉を焼結して製造するか、又はNi−Pt合金粉を焼結してターゲットに作製されていた。
焼結品は、100%の高密度品ということは有り得ないので、溶解鋳造しこれを圧延して製造されたターゲットに比べて緻密性に劣ることは否めない。
【0003】
したがって、ターゲット中にガス成分が混入し易く、これは純度が低下するのみならず、スパッタリング中の異常放電を生起させ、パーティクルの発生を誘発し、成膜特性を劣化させる原因となった。
一方、Ni−Pt溶解鋳造品は、非常に硬くかつ脆いという問題がある。このため、Ni−Ptインゴットを圧延すると粒界割れが発生し、平板状の平坦かつ均一なターゲットを製造できないという問題があった。これは、上記のように粉末冶金を用いて製造されていた原因でもある。
【0004】
このようなことから、亀裂の入らないNi−Pt溶解鋳造品ターゲットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1は、割れの発生原因をターゲット中の粗大結晶粒にあると考え、これを微細化するために、熱容量の大きな鋳型を準備するか又は水冷鋳型とし、鋳型の温度上昇を抑制して急速冷却により結晶の粗大化を抑制しようとするものであった。
【0005】
しかし、上記特許文献1では、熱容量の大きな鋳型を準備するか又は水冷鋳型とするために、設備が大掛かりとなる欠点があり、また冷却速度をかなり速めなければ結晶の粗大化を抑制することは困難であるという問題がある。
また、鋳型に接触するところは結晶が細かく、離れるにしたがって粗大化するために、均一な結晶組織とすることが難しいために、均一組織又は安定したターゲットを製造することができないという問題があった。
【特許文献1】特開昭63−33563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、Ni−Pt合金インゴットの硬度を低下させて圧延を可能とし、圧延ターゲットを安定して効率良く製造する技術を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するため、Ni−Pt合金の純度を高めることにより、Ni−Pt合金インゴットの硬度を著しく低下させることができるとの知見を得た。
この知見に基づき、本発明は、1)Pt含有量が0.1〜20wt%であるNi−Pt合金であって、ビッカース硬度が40〜90であることを特徴とする加工性に優れたNi−Pt合金及び同ターゲット、2)99.99%以上の純度を有することを特徴とする1記載のNi−Pt合金及び同ターゲットを提供する。
【0008】
また、本発明は、3)3Nレベルの原料Niを電気化学的に溶解する工程、この電解浸出した溶液をアンモニアで中和する工程、中和した溶液を、活性炭を用いてろ過し不純物を除去する工程、炭酸ガスを吹き込んで炭酸ニッケルとし、還元性雰囲気で高純度Ni粉を製造する工程、一方3Nレベルの原料Ptを酸で浸出する工程、浸出した溶液を電解により高純度電析Ptを製造する工程からなり、これらの製造された高純度Ni粉と高純度電析Ptを溶解する工程からなることを特徴とする加工性に優れたNi−Pt合金の製造方法、4)99.99%以上の純度を有することを特徴とする3記載のNi−Pt合金の製造方法、5)Pt含有量が0.1〜20wt%であるNi−Pt合金であって、ビッカース硬度が40〜90であることを特徴とする3又は4記載の加工性に優れたNi−Pt合金の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、6)3〜5のいずれかに記載の工程により製造した溶解後のNi−Pt合金インゴットを圧延することを特徴とするNi−Pt合金ターゲットの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、これによって、結晶の粗大化を抑制するために冷却速度を速めるための設備、例えば熱容量の大きな鋳型を準備したり又は水冷鋳型とするなどの設備を必要とせずに、溶解後のNi−Pt合金インゴットを冷間で容易に圧延可能とし、また同時にNi−Pt合金ターゲットに含まれる不純物を低減して高純度化することにより、Ni−Pt合金成膜の品質を向上させることができるという優れた効果を得ることができた。
また、これによってターゲットの割れあるいはクラックの発生を防止すると共に、従来の焼結ターゲットにおいて、しばしば発生していたスパッタリングの異常放電に起因するパーティクルの発生を抑制できるという著しい効果を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、Pt含有量が0.1〜20wt%であるNi−Pt合金に適用することができる。この成分組成は、半導体装置におけるNi−Pt合金材料の成膜に必要とされるものであり、また本発明の硬度を低下させることが可能であるNi−Pt合金又はターゲットの組成域でもある。本発明のNi−Pt合金によって得られるビッカース硬度は40〜90である。
【0012】
Niに含有されるPt量が増えるにしたがって硬度(ビッカースHv)が上昇する。そして、またこれは不純物量が大きな影響を与える。3Nレベルでは、Niに含有されるPt量が増えるにしたがって硬度が急激に上昇し、Ni−20wt%Pt近傍で、Hv130程度に達する。
このような硬度が上昇した状況下にあるインゴットを圧延した場合、粒界から割れが発生するのは当然と言える。
【0013】
これに対し、本発明の高純度化したNi−Pt合金は、Pt0.1wt%から20wt%まで硬度は徐々に増加するが、ビッカース硬度が40〜90の範囲内にあり、冷間圧延可能な範囲である。これが本発明の大きな特徴である。
Pt0.1wt%未満では、Ni−Pt合金としての十分な特性が得られず、Pt20wt%を超えると、上記の通り、硬くなりすぎターゲットの加工が困難となるのでPt含有量を0.1〜20wt%とする。
これによって、ターゲットの割れあるいはクラックの発生を防止すると共に、従来の焼結ターゲットにおいて、しばしば発生していたスパッタリングの異常放電に起因するパーティクルの発生を抑制できるという著しい効果を得ることができる。
【0014】
本発明のNi−Pt合金及び同ターゲットは、99.99%以上の純度を有する。これによってビッカース硬度が40〜90の範囲内にあり、かつ冷間圧延可能とすることが可能となる。
このような加工性に優れたNi−Pt合金の製造方法を説明すると、Ni原料については、まず3Nレベルの原料Niを電気化学的に溶解し、次いで、この電解浸出した溶液をアンモニアで中和し、中和した溶液を、活性炭を用いて、ろ過し不純物を除去する。
次に、この溶液に炭酸ガスを吹き込んで炭酸ニッケルとし、これを還元性雰囲気で高純度Ni粉を製造する。
【0015】
一方、Pt原料については、3Nレベルの原料Ptを酸で浸出し、この浸出した溶液を電解により高純度電析Ptを製造する。
次に、上記において高純度化したNi粉と高純度化した電析Ptを溶解する。これらのNi−Pt合金は99.99%(4N)以上の純度を有する。
また、このようにして得たPt含有量が0.1〜20wt%である溶解鋳造Ni−Pt合金インゴットのビッカース硬度が40〜90である。このインゴットは上記の通り、加工性に優れている。
このようにして製造した溶解後のNi−Pt合金インゴットを冷間圧延することによりNi−Pt合金ターゲットを容易に製造することができる。
そして、ターゲットの割れあるいはクラックの発生を防止すると共に、スパッタリングの異常放電に起因するパーティクルの発生を抑制できるという著しい効果を得ることができる。
【実施例】
【0016】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0017】
(実施例1)
表1に示す3NレベルのNi原料10kgを用いてアノードとし、塩酸溶液で電解浸出した。100g/Lとなった時点で、アンモニアでこの溶液を中和し、pHを8とした。この溶液をさらに活性炭10g/Lを加えろ過して不純物を除去した。
次に、この溶液に炭酸ガスを吹き込み、炭酸ニッケルとした。この後温度1200°C、H雰囲気中で加熱処理し、高純度Ni粉8kgを得た。
【0018】
一方、3NレベルのPt5kgを用いて、これを王水で溶解した。これをpH2レベルとし、電解採取を行って高純度電析Ptを得た。電解採取の際のアノードにはカーボンを用いた。
このようにして得た高純度Ni粉と高純度電析Ptを、真空度10−4トールの真空下で溶解し、高純度Ni−20%Pt合金を得た。この合金の硬度はHv80であった。これを室温で圧延してターゲットとした。
ターゲットには亀裂、割れの発生がなく、圧延が容易であった。この結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
(実施例2)
実施例1と同様にして高純度Ni−0.5%Pt合金を作製した。この合金の硬度はHv45であった。これを室温で圧延してターゲットとした。ターゲットには亀裂、割れの発生がなく、圧延が容易であった。 この結果を表2に示す。
【0021】
(実施例3)
実施例1と同様にして高純度Ni−5%Pt合金を作製した。このこの合金の硬度はHv55であった。これを室温で圧延してターゲットとした。ターゲットには亀裂、割れの発生がなく、圧延が容易であった。この結果を表2に示す。
【0022】
(実施例4)
実施例1と同様にして高純度Ni−10%Pt合金を作製した。このこの合金の硬度はHv65であった。これを室温で圧延してターゲットとした。ターゲットには亀裂、割れの発生がなく、圧延が容易であった。この結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
(比較例1)
3NレベルのNiと同純度のPtをNi−20wt%となるように、溶解した。この結果、得られたインゴットの硬度はHv110であった。このインゴットは非常に硬く、室温での塑性加工は困難であった。この結果を表1に実施例1と対比して示す。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上に示すように、本発明は、溶解後のNi−Pt合金インゴットを容易に冷間圧延可能であり、また同時にNi−Pt合金ターゲットに含まれる不純物を低減して高純度化することにより、Ni−Pt合金成膜の品質を向上させることができるという優れた効果を有する。
また、これによってターゲットの割れあるいはクラックの発生を防止すると共に、スパッタリングの異常放電に起因するパーティクルの発生を抑制できるという著しい効果ある。したがって、半導体装置のおけるNi−Pt合金の成膜に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt含有量が0.1〜20wt%であるNi−Pt合金であって、ビッカース硬度が40〜90であることを特徴とする加工性に優れたNi−Pt合金及び同ターゲット。
【請求項2】
99.99%以上の純度を有することを特徴とする請求項1記載のNi−Pt合金及び同ターゲット。
【請求項3】
3Nレベルの原料Niを電気化学的に溶解する工程、この電解浸出した溶液をアンモニアで中和する工程、中和した溶液を、活性炭を用いてろ過し不純物を除去する工程、炭酸ガスを吹き込んで炭酸ニッケルとし、還元性雰囲気で高純度Ni粉を製造する工程、一方3Nレベルの原料Ptを酸で浸出する工程、浸出した溶液を電解により高純度電析Ptを製造する工程からなり、これらの製造された高純度Ni粉と高純度電析Ptを溶解する工程からなることを特徴とする加工性に優れたNi−Pt合金の製造方法。
【請求項4】
99.99%以上の純度を有することを特徴とする請求項3記載のNi−Pt合金の製造方法。
【請求項5】
Pt含有量が0.1〜20wt%であるNi−Pt合金であって、ビッカース硬度が40〜90であることを特徴とする請求項3又は4記載の加工性に優れたNi−Pt合金の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載の工程により製造した溶解後のNi−Pt合金インゴットを圧延することを特徴とするNi−Pt合金ターゲットの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/083138
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510388(P2006−510388)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001813
【国際出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】