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Ni基耐熱合金用溶接材料ならびにそれを用いてなる溶接金属および溶接継手
説明

Ni基耐熱合金用溶接材料ならびにそれを用いてなる溶接金属および溶接継手

【課題】溶接時に優れた耐高温割れ性を有するNi基耐熱合金用溶接材料並びに溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性及び良好なクリープ強度を有する溶接金属と溶接継手を提供すること。
【解決手段】(1)C:0.06〜0.18%、Si≦0.5%、Mn≦1.5%、Ni:45〜55%、Cr:25〜35%、W:7.0〜13.0%、Ti:0.2超〜1.5%、Al<0.1%及びN:0.002〜0.20%を含み、残部がFe及び不純物からなり、不純物中のO≦0.02%、P≦0.008%及びS≦0.005%の化学組成を有するNi基耐熱合金用溶接材料。この溶接材料は、Feの一部に代えてNb≦1.0%を含んでもよい。(2)上記のNi基耐熱合金用溶接材料を用いてなる溶接金属。(3)上記溶接金属と高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなる溶接継手。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基耐熱合金用溶接材料ならびにそれを用いてなる溶接金属および溶接継手に関する。詳しくは、発電用ボイラ等、高温で使用される機器に用いるNi基耐熱合金を溶接するのに好適な溶接材料ならびにそれを使用して得られる溶接金属および溶接継手に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷軽減の観点から発電用ボイラ等では運転条件の高温・高圧化が世界的規模で進められており、それに使用される材料にも、より優れた高温強度を有することが求められている。
【0003】
このような要求を満たす材料として、例えば、UNS N06617に規定のNi基耐熱合金がある。また、特許文献1〜5に種々のNi基合金が開示されている。これらは、いずれも母材としての必要性能を満足させるため、種々多様な合金元素範囲を規定したものである。
【0004】
これらNi基耐熱合金を構造物として使用する場合、溶接により組み立てるのが一般的である。
【0005】
しかしながら、溶接により組み立てる際に、Ni基合金母材をそのまま溶接材料として使用すると、溶接金属における溶接時の高温割れ感受性が高くなる場合がある。したがって、溶接材料として、広範な組成範囲を有するNi基合金母材をそのまま転用するのではなく、より成分範囲を厳しく管理した合金を使用して、上記の高温割れの防止を図らねばならないこともある。なお、上記「溶接時の高温割れ」には、「凝固割れ」と「延性低下割れ」が含まれる。
【0006】
一方、溶接により組み立てる際に使用するNi基耐熱合金用溶接材料として、AWS A5.14−2005 ER NiCrCoMo−1が知られている。
【0007】
さらに、特許文献6〜8に、種々のNi基合金用溶接材料が提案されている。
【0008】
特許文献6には、高強度を有する酸化物分散強化型合金と耐熱合金との溶接に使用される溶接材料であって、Mo、Nbなどの固溶強化元素を積極的に含有させることにより、強度向上を図った、酸化物分散強化型合金用溶接材料が提案されている。
【0009】
特許文献7には、MoおよびWによる固溶強化ならびにAlおよびTiによる析出強化効果を活用して高強度化を図った、Ni基合金用溶接材料が提案されている。
【0010】
特許文献8には、NbとWを含有させて、溶接時の凝固割れとクリープ強度の両立を図った、Ni基合金用溶接材料が提案されている。
【0011】
ところで、上記のNi基耐熱合金およびNi基耐熱合金用溶接材料を用いてなる溶接構造物は高温で使用されるが、高温で長時間使用した場合には、溶接部で割れが発生することが懸念される。
【0012】
例えば、非特許文献1には、Ni基耐熱合金の溶接熱影響部(以下、「HAZ」という。)において、溶接後熱処理中に粒界割れが生じることが指摘されており、γ’相の析出に加えて、Sの粒界偏析が影響することが示唆されている。
【0013】
また、非特許文献2には、18Cr−8Ni−Nb系のオーステナイト系耐熱鋼溶接部の長時間加熱時のHAZにおける粒界割れの防止策についての検討が行われている。そして、適正な後熱処理の適用による溶接残留応力の低減がHAZにおける粒界割れ防止に有効であるとの溶接プロセス面からの対策が提案されている。
【0014】
このように、Ni基耐熱合金を長時間使用した際、HAZに割れが生じる現象は古くから知られていたものの、近年、材料の高強度化のために多様の合金元素が含有されるに伴い、長時間加熱時の割れ発生が溶接金属においても顕在化する傾向にある。
【0015】
しかしながら、長時間使用中に溶接部に発生する割れについては、未だ完全な機構解明には至っておらず、さらには、割れ対策、特に、溶接金属における材料面からの割れ対策は確立されていない。
【0016】
そのため、上記のNi基耐熱合金用溶接材料として知られているAWS A5.14−2005 ER NiCrCoMo−1を用いて得られる溶接金属は、長時間使用中に発生する割れ(以下、「応力緩和割れ」と称する。)に対しては、課題が残っている。
【0017】
また、上述の特許文献6および特許文献7においても、応力緩和割れについては全く考慮されていない。このため、上記特許文献6および特許文献7で提案された溶接材料を用いて得られる溶接金属もまた、応力緩和割れに対しては、課題が残っている。しかも、上記の特許文献6および特許文献7で提案された溶接材料が、Tiまたは/およびAlを多量に含有する場合には、溶接時の作業性に劣るという課題もある。
【0018】
一方、本発明者らが特許文献8で提案した溶接材料では、Tiの含有量が少ないため、より良好なクリープ強度の確保という点で、改善すべき余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開昭63−050440号公報
【特許文献2】特開平9−157779号公報
【特許文献3】特開2004−3000号公報
【特許文献4】国際公開第2009/154161号
【特許文献5】特開2010−150593公報
【特許文献6】特開平10−193174号公報
【特許文献7】国際公開第2010/013565号
【特許文献8】特開2008−207242号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】井川ら:溶接学会誌、第47巻(1978)第10号、P.679
【非特許文献2】内木ら:石川島播磨技報、第15巻(1975)第2号、p.209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、溶接時に優れた耐高温割れ性を有するNi基耐熱合金用溶接材料の提供と、それを用いてなる溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属の提供を目的とする。さらに、この溶接材料を用いてなる溶接金属と高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなる溶接継手を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、前記した課題を解決するために、先ず、高温で長時間使用中に溶接金属に発生する応力緩和割れについて詳細な調査を行った。その結果、下記(a)〜(c)の事項が明らかになった。
【0023】
(a)応力緩和割れは溶接金属の柱状晶境界に発生している。
【0024】
(b)割れ破面は延性に乏しく、破面上には、PおよびSが濃化している。
【0025】
(c)割れ部近傍のミクロ組織には、結晶粒内に微細な金属間化合物が多量に析出している。
【0026】
上記(a)〜(c)の判明事項から、本発明者らは、次の(d)〜(f)の結論に至った。
【0027】
(d)応力緩和割れは、溶接時の凝固およびその後の高温での加熱中にPおよびSが偏析することに起因して弱くなった粒界に、溶接残留応力および外部応力が作用することによって開口したものである。
【0028】
(e)粒内に多量の金属間化合物または/および炭窒化物が微細析出する場合には、粒内の変形能が低下するため、粒界面への応力集中が生じ、粒界が弱くなったこととの重畳作用によって、割れが発生しやすくなる。
【0029】
(f)上記の機構は、非特許文献1にHAZにおける類似の割れについて示唆されている。そして、非特許文献1には、粒界を弱くさせるSの低減またはSを固定するためにCaおよびMgを含有させることがその割れを防止するのに有効であることが示されている。しかしながら、溶接金属は凝固ままの組織で使用されるのが一般的であり、熱処理など調質された母材を元にするHAZとは現象が異なることが予想されるため、非特許文献1で提案されたHAZにおける割れ対策がそのまま、応力緩和割れに対しても適用できる可能性は小さい。具体的には、上記非特許文献1にて提案されているCaおよびMgは酸素との親和力が非常に強いため、溶接中に酸化物を形成しやすく、溶接後の溶接金属への歩留まりは溶接条件の影響を受け、その効果を安定して得るのは難しい。さらに、不純物元素の極端な低減、特にPの低減は製鋼コストの大幅な増大を招くため、大量生産する工業製品に対して適用することは難しい。
【0030】
そこで、本発明者らは応力緩和割れを防止するためにさらに詳細な検討を実施した。その結果、次の(g)および(h)によって応力緩和割れに対する感受性を低下できることが判明した。
【0031】
(g)粒界に偏析して粒界を弱くさせる溶接金属中のSおよびPの含有量を特定の範囲内に規制すること。
【0032】
(h)金属間化合物または/および炭窒化物として微細析出して粒内変形抵抗の増大を招く元素、具体的には、TiおよびAlの含有量を特定の範囲内に規制すること。
【0033】
しかしながら、上記(g)及び(h)の対策を講じても、応力緩和割れを完全に防止するには至らなかった。加えて、析出強化効果を十分に活用できないため、所望の良好なクリープ強度が得られないことが判明した。
【0034】
そこでさらに、本発明者らが検討を進めた結果、高濃度のWおよびCrを含有させることによって、具体的には、質量%で、7.0〜13.0%のWおよび25〜35%のCrを含有させることによって、応力緩和割れの防止と所望の良好なクリープ強度の確保を両立させることができることが判明した。その理由は、次の(i)および(j)によるものと考えられる。
【0035】
(i)WおよびCr含有量の増加はそれぞれ、高温で長時間使用中のSおよびPの粒界偏析エネルギーを低下させ、粒界へのSおよびPの濃化を軽減して、間接的に粒界が弱くなることを抑制する。
【0036】
(j)Wは固溶強化元素としてクリープ強度の向上に寄与するが、この場合の粒内の変形能の低下は、微細な金属間化合物および炭窒化物が析出する場合に比べて小さい。
【0037】
(k)Crはα−Cr相として析出し、クリープ強度の向上に寄与する。しかし、このα−Cr相が析出する場合は、微細な金属間化合物および炭窒化物が析出する場合に比べて、粒内の変形能の低下が小さい。
【0038】
しかしながら、上記高濃度のWおよびCrを含有させた場合、高温で長時間使用中に溶接金属に発生する応力緩和割れは防止できるものの、溶接中の凝固割れ感受性が逆に増大することが明らかとなった。
【0039】
そこで、本発明者らはさらに、溶接中の凝固割れを防止するための検討も実施した。その結果、下記(l)の知見が得られた。
【0040】
(l)Cの含有量を特定の範囲内に制御することによって、具体的には、質量%で、0.06〜0.18%とすることによって、溶接中の凝固割れを防止することができる。
【0041】
その理由は、溶接金属の組織観察結果から、次の(m)によるものと考えられる。
【0042】
(m)質量%でCrを25〜35%含有する場合に、Cの含有量を上記の範囲内に制御すれば、溶接金属の凝固過程でCが主にCrと結合して、(Cr、M)236とオーステナイトの共晶凝固が生じる。その結果、凝固時の液相の消失が早まるため、溶接中の凝固割れを防止することができる。
【0043】
加えて、上記のCおよびCrの含有量の適正範囲への管理は、溶接中の延性低下割れの防止にも有効であることが確認できた。
【0044】
その理由は、溶接金属の組織観察結果から、次の(n)によるものと考えられる。
【0045】
(n)溶接金属の凝固過程でCとCrが結合して生成した(Cr、M)236はラメラ状に柱状晶境界に存在する。その結果、不純物元素の偏析サイトである最終凝固界面を増大させるとともに、上記の炭化物(つまり、(Cr、M)236)が粒界のすべりを抑制し、溶接中の延性低下割れを防止することができる。
【0046】
また、本発明者らは、溶接時の溶接作業性についても検討した。その結果、下記(o)のように考えるに至った。
【0047】
(o)溶接作業性の低下は、前層の溶接ビード表面に生成したAlを多く含有する高融点の酸化スケールを後続パスが十分溶融できないことにより生じる。
【0048】
そこでさらに、本発明者らは、溶接作業性の改善についても検討した。その結果、下記(p)の知見を得た。
【0049】
(p)溶接材料を、質量%で、Tiが0.2%を超えて1.5%以下で、かつAlが0.1%未満のものとすることによって、溶接ビード表面に生成する酸化スケールを、Alを多く含有するものからTiを主体とするものに変えることができるので、溶接作業性が改善する。しかも、応力緩和割れに悪影響を及ぼさない範囲で、TiおよびAlの金属間化合物、ならびにTi炭窒化物による微細析出強化作用を確保することもできる。
【0050】
以上のことから、Ni基耐熱合金用溶接材料としては、質量%で、Cr:25〜35%およびNi:45〜55%の合金をベースとし、C:0.06〜0.18%、W:7.0〜13.0%、Ti:0.2%を超えて1.5%以下およびAl:0.1%未満を含有させることによって、溶接中の優れた溶接作業性および耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および所望の良好なクリープ強度を確保できるとの知見を得たのである。
【0051】
そして、このNi基耐熱合金用溶接材料を用いて、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属と、高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材からなる溶接継手を得ることができる。
【0052】
この溶接材料を用いて溶接継手を得る際に、質量%で、Ni:45〜55%、Cr:25〜35%およびW:3.5〜8.5%を含む高温強度に優れたNi基耐熱合金を母材として用いると、母材においても優れたクリープ強度を確保できることとなるので好ましい。母材として用いる高温強度に優れたNi基耐熱合金は、本発明に係る溶接材料と同じ化学組成を有するNi基耐熱合金であってもよいし、異なってもよい。
【0053】
なお、上記の母材としては、質量%で、C:0.04〜0.12%、Si:0.5%以下、Mn:1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:45〜55%、Cr:25〜35%、W:3.5〜8.5%、Ti:0.05〜1.0%、Zr:0.005〜0.05%、N:0.02%以下、B:0.005%以下およびAl:0.05〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる高温強度に優れたNi基耐熱合金を用いることが好ましい。
【0054】
なお、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、溶接材料または/および耐熱合金を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
【0055】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す溶接材料、(3)に示す溶接金属、そして(4)〜(6)に示す溶接継手にある。
【0056】
(1)質量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:45〜55%、Cr:25〜35%、W:7.0〜13.0%、Ti:0.2%を超えて1.5%以下、Al:0.1%未満およびN:0.002〜0.20%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.008%以下およびS:0.005%以下の化学組成を有することを特徴とする、Ni基耐熱合金用溶接材料。
【0057】
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Nb:1.0%以下を含む化学組成を有することを特徴とする、上記(1)に記載のNi基耐熱合金用溶接材料。
【0058】
(3)上記(1)または(2)に記載のNi基耐熱合金用溶接材料を用いてなる溶接金属。
【0059】
(4)上記(3)に記載の溶接金属と高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなることを特徴とする、溶接継手。
【0060】
(5)高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材が、質量%で、W:3.5〜8.5%、Ni:45〜55%およびCr:25〜35%を含有することを特徴とする、上記(4)に記載の溶接継手。
【0061】
(6)高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材が、質量%で、C:0.04〜0.12%、Si:0.5%以下、Mn:1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:45〜55%、Cr:25〜35%、W:3.5〜8.5%、Ti:0.05〜1.0%、Zr:0.005〜0.05%、N:0.02%以下、B:0.005%以下およびAl:0.05〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする、上記(4)に記載の溶接継手。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、溶接時に優れた溶接作業性と耐高温割れ性を有するNi基耐熱合金用溶接材料を提供することができ、また、それを用いて、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属を提供することができる。さらに、この溶接材料を用いて、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属と高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなる溶接継手を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明において、Ni基耐熱合金用溶接材料の化学組成を限定する理由は次のとおりである。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0064】
C:0.06〜0.18%
Cは、オーステナイト生成元素であり、高温使用時のオーステナイト組織の安定性を高めるのに有効な元素である。さらにCは、本発明において、溶接時の高温割れ防止のために重要な元素である。すなわち、Cは、凝固過程で主にCrと結合して、共晶炭化物を生成させ、液相の消失を早めるとともに、最終凝固部の組織を(Cr、M)236とオーステナイトとのラメラ状組織とする。その結果、液相の残存形態が面状から点状に変化するとともに、特定面への応力集中が抑制されるので、凝固割れを防止することができる。さらにCは、不純物の偏析サイトとなる最終凝固界面積を増大させることから、溶接中の延性低下割れの防止および高温使用中の応力緩和割れの感受性低減にも寄与する。後述する本発明のCr含有量の範囲で、上記の効果を十分得るためには、Cを0.06%以上含有する必要がある。しかしながら、Cを過剰に含有する場合には、凝固中に炭化物とならない過剰なCが高温使用中に炭化物として微細析出し、かえって応力緩和割れ感受性を増大させる。そのため、Cの含有量は0.06〜0.18%とする。C含有量の望ましい下限は0.07%であり、望ましい上限は0.15%である。
【0065】
Si:0.5%以下
Siは、脱酸剤として含有されるが、溶接金属の凝固時に柱状晶粒界に偏析し、液相の融点を下げ、凝固割れ感受性を増大させる。そのため、Siの含有量は0.5%以下とする必要がある。Siの含有量は、0.3%以下とするのが好ましい。しかしながら、Si含有量の過度の低減は、脱酸効果が十分に得られず、合金の清浄性が低下するとともに、製造コストの増大を招く。そのため、Si含有量の下限は特に設けないが、望ましくは0.01%である。少なくともSiを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。さらに望ましいSi含有量の下限は、0.02%である。
【0066】
Mn:1.5%以下
Mnは、Siと同様、脱酸剤として含有される。しかしながら、Mnを過剰に含有する場合には脆化を招くため、Mnの含有量は1.5%以下とする必要がある。Mnの含有量は1.2%以下とするのが好ましい。Mn含有量の下限は特に設けないが、望ましくは0.01%である。少なくともMnを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。さらに望ましいMn含有量の下限は、0.02%である。
【0067】
Ni:45〜55%
Niは、オーステナイト組織を得るために有効な元素であるとともに、長時間使用時の組織安定性を確保し、十分なクリープ強度を得るために必須の元素である。その効果を得るためには、45%以上のNi含有量が必要である。しかしながら、Niは高価な元素であり、55%を超えるNiの多量の含有はコストの増大を招く。そのため、Niの含有量は45〜55%とする。Ni含有量の望ましい下限は45.5%であり、望ましい上限は54.5%である。Ni含有量のさらに望ましい下限は46%であり、さらに望ましい上限は54%である。
【0068】
Cr:25〜35%
Crは、高温での耐酸化性および耐食性の確保のために必須の元素である。また、Crは、長時間使用中にα−Cr相として析出し、クリープ強度にも寄与する。加えて、Crは、適正な範囲でCと複合して含有させることにより、凝固過程でCと結合して、共晶炭化物を生成させ、溶接中の凝固割れおよび延性低下割れを防止するとともに、高温使用中のPの偏析エネルギーを低下させ、応力緩和割れ感受性の低減にも間接的に寄与する。これらの効果を得るためには、Crを25%以上含有させる必要がある。しかし、Crの含有量が過剰になって35%を超えると、高温での組織の安定性が劣化して、クリープ強度の低下を招く。このため、Crの含有量は25〜35%とする。Cr含有量の望ましい下限は25.5%であり、望ましい上限は34.5%である。Cr含有量のさらに望ましい下限は26%であり、さらに望ましい上限は34%である。
【0069】
W:7.0〜13.0%
Wは、マトリックスに固溶して700℃を超える高温でのクリープ強度の向上に大きく寄与する元素である。また、Wは、Sの粒界偏析エネルギーを低下させ、高温使用中のSの粒界への濃化を軽減することで粒界が弱くなることを抑制し、間接的に応力緩和割れの防止に寄与する。こうした効果を十分に確保して、高温使用中の耐応力緩和割れ性とクリープ強度を両立させるためには、本発明を構成する他の元素との関係で、7.0%以上のW含有量が必要である。しかし、Wを過剰に含有させてもその効果は飽和し、かえって靱性およびクリープ強度を低下させる。さらに、Wは高価な元素であり、13.0%を超えるWの多量の含有はコストの増大を招く。そのため、Wの含有量は7.0〜13.0%とする。W含有量の望ましい下限は7.2%であり、望ましい上限は11.5%である。W含有量のさらに望ましい下限は7.5%であり、さらに望ましい上限は9.5%である。
【0070】
Ti:0.2%を超えて1.5%以下
Tiは、Niと結合し、金属間化合物として、また、炭素および窒素と結合して炭窒化物として粒内析出し、高温でのクリープ強度の向上に寄与する。さらに、本発明のAl含有量範囲においては、溶接ビード表面に生成する酸化スケールをTi主体のものとすることにより、溶接作業性を改善し、溶接欠陥の発生を抑制する。こうした効果を得るためには、本発明を構成する他の元素との関係で、0.2%を超えるTi含有量が必要である。しかしながら、Tiの含有量が過剰になって1.5%を超えると、金属間化合物の過剰な析出を招き、粒内の変形抵抗が著しく高くなるので、高温使用中の応力緩和割れ感受性が増大する。そのため、Tiの含有量は0.2%を超えて1.5%とする。Ti含有量の望ましい下限は0.3%であり、望ましい上限は1.4%である。
【0071】
Al:0.1%未満
Alは、Tiと同様、Niと結合し、金属間化合物として微細に粒内析出し、高温でのクリープ強度の向上に寄与する。しかしながら、Alの含有量が過剰になって0.1%以上になると、溶接ビード表面に融点の高いAl主体の酸化スケールを生成し、溶接作業性の劣化を招く。また、金属間化合物の析出による高温使用中の応力緩和割れ感受性の増大も少なからず招く。そのため、Alの含有量は0.1%未満とする。Al含有量の望ましい上限は0.05%である。Al含有量の下限は特に設けないが、極端な低減はコスト上昇を招くため、望ましくは0.0002%である。少なくともAlを0.0002%含んでおれば、クリープ強度の向上効果を得ることができる。より望ましいAl含有量の下限は、0.0005%である。
【0072】
N:0.002〜0.20%
Nは、オーステナイト生成元素であり、高温使用時のオーステナイト組織の安定性を高めるのに有効な元素である。さらにNは、マトリックスに固溶するとともに、窒化物として析出し、引張強さおよびクリープ強度の向上に寄与する元素でもある。上記の効果を得るためには、0.002%以上のN含有量が必要である。しかしながら、Nの含有量が過剰になって0.20%を超えると、長時間使用中に多量に窒化物として析出して粒内の変形抵抗を著しく高め、高温使用中の応力緩和割れ感受性を増大させるとともに、溶接時にはブローホール生成の原因となる。そのため、Nの含有量は0.002〜0.20%とする。N含有量の下限は0.03%を超えるのが望ましく、さらに望ましい下限は0.035%である。N含有量の望ましい上限は0.18%である。
【0073】
本発明のNi基耐熱合金用溶接材料の一つは、上述のCからNまでの元素を含み、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のO、PおよびSの含有量をそれぞれ、次に述べる範囲に制限した化学組成を有するものである。
【0074】
O:0.02%以下
O(酸素)は、不純物として存在するが、多量に含まれる場合には、溶接材料の加工性および溶接金属の延性を低下させる。そのため、Oの含有量は0.02%以下とする必要がある。Oの含有量は0.015%以下とするのが望ましい。
【0075】
P:0.008%以下
Pは、不純物として含まれ、溶接金属の凝固時に最終凝固部の融点を低下させ、凝固割れ感受性を著しく増大させるとともに、高温使用中に粒界脆化を引き起こして耐応力緩和割れ性の低下を招く元素である。そのため、Pの含有量は0.008%以下とする必要がある。Pの含有量は0.006%以下とするのが望ましい。
【0076】
S:0.005%以下
Sは、Pと同様、不純物として含まれ、溶接金属の凝固時に最終凝固部の融点を低下させ、凝固割れ感受性を増大させる元素である。さらに、Sは、高温使用中に結晶粒界に偏析・濃化し、応力緩和割れ感受性を著しく高める元素である。そのため、Sの含有量は0.005%以下とする必要がある。Sの含有量は0.003%以下とするのが望ましい。
【0077】
本発明のNi基耐熱合金用溶接材料の他の一つは、上記残部としての「Feおよび不純物」におけるFeの一部に代えて、1.0%以下のNbを含む化学組成を有するものである。
【0078】
以下、任意元素であるNbの作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
【0079】
Nb:1.0%以下
Nbは、Tiと同様に微細な金属間化合物または/および炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度の向上に寄与する元素である。このため、必要に応じてNbを含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になって1.0%を超えると、これらの多量析出を招き、粒内の変形抵抗を著しく高め、高温使用中の応力緩和割れ感受性を増大させる。そのため、含有させる場合のNbの量を1.0%以下とした。含有させる場合のNbの量は、0.9%以下とすることが望ましい。
【0080】
一方、前記したNbの効果を安定して得るためには、含有させる場合のNbの量は、0.005%以上とすることが望ましく、0.01%以上とすることがさらに望ましい。
【0081】
以上、本発明に係るNi基耐熱合金用溶接材料の化学組成について詳述したが、この溶接材料は、溶接時に優れた溶接作業性と耐高温割れ性を有する。そして、この溶接材料を用いて、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属を得ることができる。さらに、この溶接材料を用いて、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属と高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなる溶接継手を得ることができる。
【0082】
なお、本発明に係るNi基耐熱合金用溶接材料を用いて溶接継手を得る際に、W:3.5〜8.5%、Ni:45〜55%およびCr:25〜30%を含有する高温強度に優れたNi基耐熱合金を母材として用いると、母材においても700℃以上の高温域において優れた延性およびクリープ強度を有することになるから、好ましい。母材として用いる高温強度に優れたNi基耐熱合金は、本発明に係るNi基耐熱合金用溶接材料と同じ化学組成を有するNi基耐熱合金であってもよいし、異なってもよい。
【0083】
ここで、母材として高温強度に優れたNi基耐熱合金を用いる場合、その母材は、上記のW:3.5〜8.5%、Ni:45〜55%およびCr:25〜35%を含有するものであることが好ましい理由について詳しく説明する。
【0084】
W:3.5〜8.5%
Wは、溶接金属におけると同様に、マトリックスに固溶して700℃を超える高温でのクリープ強度の向上に大きく寄与する元素である。母材は凝固ままで使用される溶接金属とは異なり、熱処理によって均質化が図られ、その効果がより得られやすい。このため、母材は、Wを含有することが好ましく、その量は3.5%以上であればよい。しかし、Wは高価な元素であり、コストの増大を招くため、Wを含有する場合のその量は8.5%以下とすることが望ましい。母材におけるW含有量のさらに望ましい下限は3.8%であり、さらに望ましい上限は8.2%である。
【0085】
Ni:45〜55%
Niは、溶接金属におけると同様に、オーステナイト組織を得るために有効な元素であるとともに、長時間使用時の組織安定性を確保し、十分なクリープ強度を得るために有効な元素である。その効果を得るために、母材は、Niを含有することが好ましく、その量は、溶接金属におけると同様、45%以上とすることが好ましい。一方、Niは高価な元素であり、コストの増大を招くため、Niを含有する場合のその量は55%以下とすることが望ましい。母材におけるNi含有量のさらに望ましい下限は45.5%であり、さらに望ましい上限は54.5%である。母材におけるNi含有量の一層望ましい下限は46%であり、一層望ましい上限は54%である。
【0086】
Cr:25〜35%
Crは、溶接金属におけると同様に、母材の高温での耐酸化性、耐食性およびクリープ強度の確保のために有効な元素である。これらの効果を得るために、母材は、Crを含有することが好ましく、その量は、溶接金属におけると同様、25%以上とすることが好ましい。しかし、Crの含有量が過剰になると高温での組織の安定性を劣化して、クリープ強度の低下を招く。このため、Crを含有する場合、その量は35%以下とすることが望ましい。母材におけるCr含有量のさらに望ましい下限は25.5%であり、さらに望ましい上限は34.5%である。母材におけるCr含有量の一層望ましい下限は26%であり、一層望ましい上限は34%である。
【0087】
高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材は、上記範囲のW、NiおよびCrに加えて、以下に述べる量の元素を含み、残部がFeおよび不純物からなるものであることがより好ましい。
【0088】
C:0.04〜0.12%
Cは、溶接金属におけると同様に、オーステナイト生成元素であり、高温使用時のオーステナイト組織の安定性を高めるのに有効な元素である。母材は凝固ままで使用される溶接金属とは異なり、熱処理によって均質化が図られ、その効果がより得られやすく、また、溶接割れ防止に対する対策を必要としない。このため、母材は、Cを含有することが好ましく、その量は0.04%以上であればよい。しかしながら、Cの含有量が過剰になると高温での使用中に粗大な炭化物を生成し、かえってクリープ強度の低下を招く。したがって、Cを含有する場合、その量は0.12%以下とすることが望ましい。母材におけるC含有量のさらに望ましい下限は0.05%であり、さらに望ましい上限は0.10%である。
【0089】
Si:0.5%以下
Siは、脱酸作用を有する。母材では上述のように溶接割れ防止に対する対策が必要ないものの、Siの含有量が過剰になって0.5%を超えると靱性を低下させる。したがって、母材がSiを含有する場合、その量は0.5%以下とすることが望ましい。母材におけるSiの含有量は、0.4%以下とするのがさらに好ましい。しかしながら、Si含有量の過度の低減は、脱酸効果が十分に得られず、合金の清浄性が低下するとともに、製造コストの増大を招く。そのため、母材におけるSi含有量の下限は特に設けないが、望ましくは0.01%である。少なくともSiを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。さらに望ましいSi含有量の下限は、0.02%である。
【0090】
Mn:1.5%以下
Mnは、Siと同様、脱酸作用を有する。しかしながら、Mnの含有量が過剰になると脆化を招く。このため、母材がMnを含有する場合、その量は1.5%以下とすることが望ましく、1.2%以下とするのがさらに好ましい。母材におけるMn含有量の下限は特に設けないが、望ましくは0.01%である。少なくともMnを0.01%含んでおれば、脱酸効果を得ることができる。さらに望ましいMn含有量の下限は、0.02%である。
【0091】
P:0.03%以下
Pは、不純物として含まれ、Pの含有量が過剰になるとクリープ延性の低下を招く。母材は、溶接金属の場合とは異なり、溶接割れ防止に対する対策を必要としないし、P含有量の極度の低減は製鋼コストの著しい増大を招く。このため、母材におけるP含有量は0.03%以下とすることが望ましく、0.02%以下とするのがさらに好ましい。
【0092】
S:0.01%以下
Sは、Pと同様、不純物として含まれ、Sの含有量が過剰になるとクリープ延性の低下を招く。母材は、溶接金属の場合とは異なり、溶接割れ防止に対する対策を必要としないし、S含有量の極度の低減は製鋼コストの著しい増大を招く。このため、母材におけるS含有量は0.01%以下とすることが望ましく、0.008%以下とするのがさらに好ましい。
【0093】
Ti:0.05〜1.0%
Tiは、微細な金属間化合物および炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度の向上に寄与する元素である。このため、母材は、Tiを含有することが好ましく、その量は、0.05%以上とすることが好ましい。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると多量に金属間化合物および炭窒化物を生成し、靱性の低下を招く。そのため、Tiを含有する場合、その量は1.0%以下とすることが望ましい。母材におけるTi含有量のさらに望ましい下限は0.10%であり、さらに望ましい上限は0.95%である。
【0094】
Zr:0.005〜0.05%
Zrは、マトリックスであるオーステナイトに固溶して、高温での強度を向上させる。母材は、溶接金属とは異なって溶融しない。このため、母材においては、溶接金属ではOと結合してスラグとなってしまう活性なZrの上記効果を、十分に活用できる。したがって、母材は、Zrを含有することが好ましく、その量は、0.005%以上とすることが好ましい。しかしながら、Zrの含有量が過剰になるとクリープ延性の低下を招く。そのため、Zrを含有する場合、その量は0.05%以下とすることが望ましい。母材におけるZr含有量のさらに望ましい下限は0.01%であり、さらに望ましい上限は0.04%である。
【0095】
N:0.02%以下
Nは、オーステナイト相を安定にするのに有効な元素であり、マトリックスに固溶し、引張強さを高めるのに有効な元素である反面、熱間加工性を著しく低下させてしまう。そのため、母材においては、溶接金属に比べて、N含有量の上限を厳しく管理するのがよく0.02%以下とすることが好ましい。母材におけるN含有量のさらに望ましい上限は0.01%である。なお、母材におけるN含有量の下限は特に設けないが、オーステナイト相の安定という点からの下限は、0.0005%である。
【0096】
B:0.005%以下
Bは、高温での使用中に粒界に偏析して粒界を強化するとともに、粒界炭化物を微細分散させることによって、クリープ強度を向上させるのに有効な元素である。このため、母材は、Bを含有することが好ましい。しかしながら、Bの含有量が過剰になるとHAZの液化割れ感受性を高める。そのため、Bを含有する場合、その量は0.005%以下とすることが望ましい。なお、母材におけるB含有量の下限は特に設けないが、望ましくは0.0002%である。
【0097】
Al:0.05〜0.3%
Alは、Niと結合し微細な金属間化合物として微細に粒内析出し、高温でのクリープ強度の向上に寄与する元素であり、溶接作業性に直接関与しない母材においては高強度化のために積極的に活用してもよい。このため、母材は、Alを含有することが好ましく、その量は、0.05%以上とすることが好ましい。しかしながら、Alの含有量が過剰になると、金属間化合物が過剰に析出して、靱性の低下を招く。そのため、Alを含有する場合、その量は0.3%以下とすることが望ましい。母材におけるAl含有量のさらに望ましい下限は0.06%であり、さらに望ましい上限は0.25%である。
【0098】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0099】
表1に示す化学組成を有する材料を実験室溶解して鋳込んだインゴットから、熱間鍛造、熱間圧延、熱処理および機械加工により、板厚12mm、幅50mm、長さ100mmの板材を溶接母材用として作製した。
【0100】
さらに、表2に示す化学組成を有する符号A〜Lの材料を実験室溶解して鋳込んだインゴットから、熱間鍛造、熱間圧延および機械加工により、外径1.2mm、長さ1000mmの溶接材料(溶接ワイヤ)を作製した。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
上記の溶接母材用板材の長手方向に、角度30°、ルート厚さ1mmのV開先を加工した後、厚さ25mm、幅200mmで長さ200mmのSM400BのJIS G 3106(2008)に規定の市販の鋼板上に、被覆アーク溶接棒としてJIS Z 3224(2010)に規定の「E Ni 6625」を用いて、四周を拘束溶接した。
【0104】
その後、上述した符号A〜Lの溶接材料を用いて、入熱9〜15kJ/cmでTIG溶接により開先内に多層溶接を行って、溶接材料の各符号について2体ずつ溶接継手を作製した。
【0105】
溶接継手は、各符号について、1体は溶接ままで、残りの1体は700℃×500時間の時効熱処理を行ってから、次の試験に供した。
【0106】
すなわち、各符号について、溶接ままの溶接継手および時効熱処理を施した溶接継手の各5か所から採取した試料の横断面を鏡面研磨、腐食した後、光学顕微鏡により検鏡し、溶接金属における融合不良の有無および割れの有無を調査した。なお、光学顕微鏡により検鏡した5個の全ての試料に割れのない溶接継手を「合格」とした。また、融合不良がないものを溶接作業性が「良好」とした。
【0107】
さらに、検鏡の結果、溶接金属に融合不良および割れが認められなかった溶接ままの溶接継手から、溶接金属が平行部の中央となるように丸棒クリープ破断試験片を採取し、母材板材の目標破断時間が1000時間以上である700℃、167MPaの条件でクリープ破断試験を行った。なお、クリープ破断時間が、母材板材の目標破断時間である1000時間以上のものを「合格」とした。
【0108】
表3に、上記各試験の結果を示す。
【0109】
表3の「割れ観察結果」欄における「○」は、光学顕微鏡による検鏡で5個の全ての試料に割れがない「合格」の溶接継手であることを示す。一方、「×」は、光学顕微鏡による検鏡で5個の試料のうち少なくとも1個の試料に割れが認められたことを示す。
【0110】
また、表3の「溶接作業性結果」欄における「○」は、光学顕微鏡による検鏡で5個の全ての試料に融合不良がない、溶接作業性が「良好」の溶接継手であることを示す。一方、「×」は、光学顕微鏡による検鏡で5個の試料のうち少なくとも1個の試料に融合不良が認められたことを示す。
【0111】
さらに、「クリープ破断試験結果」欄における「○」は、クリープ破断時間が母材板材の目標破断時間である1000時間以上をクリアした「合格」の溶接継手であることを示す。一方、「×」はクリープ破断時間が1000時間に達しなかったことを示す。溶接材料符号Jの「−」は、溶接ままの溶接継手から採取した試料の溶接金属に融合不良が認められたため、クリープ破断試験を行わなかったことを示す。同様に、溶接材料符号Lの「−」は、溶接ままの溶接継手から採取した試料の溶接金属に割れが認められたため、クリープ破断試験を行わなかったことを示す。
【0112】
【表3】

【0113】
表3から、化学組成が本発明で規定する範囲にある符号A〜Gの溶接材料は溶接作業性に優れ、これらを用いて溶接した溶接継手の溶接金属には、融合不良がなく、時効熱処理中の応力緩和割れおよび溶接中の高温割れともに発生せず、しかも、高いクリープ強度を有することが明らかである。
【0114】
これに対して、Tiの含有量が本発明で規定する上限を超える符号Hの溶接材料を用いて溶接した溶接継手は、微細な金属間化合物が粒内に過剰に生成し、粒内の変形抵抗が高いため、時効熱処理中に応力緩和割れが発生した。
【0115】
Tiの含有量が本発明で規定する下限を下回る符号Iの溶接材料を用いて溶接した溶接継手は、割れは発生しなかったものの強度確保に必要なだけの金属間化合物が生成しなかったため、破断時間が1000時間に達せず、クリープ強度を満足しなかった。
【0116】
Alの含有量が本発明で規定する範囲を外れる符号Jの溶接材料を用いて溶接した溶接継手は、融合不良が発生して溶接作業性が悪いことに加えて、微細な金属間化合物が粒内に過剰に生成し、粒内の変形抵抗が高いため、時効熱処理中に応力緩和割れが発生した。
【0117】
Wの含有量が本発明で規定する範囲を外れる符号Kの溶接材料を用いて溶接した溶接継手は、割れは発生しなかったものの破断時間が1000時間に達せず、クリープ強度を満足しなかった。
【0118】
Cの含有量が0.02%と低く本発明で規定する範囲を外れる符号Lの溶接材料を用いて溶接した溶接継手は、最終凝固部に十分な(Cr、M)236を生成できなかった結果、凝固割れが発生した。
【0119】
以上述べたように、本発明で規定する範囲内の化学組成を有する溶接材料を用いた場合、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属となることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、溶接時に優れた溶接作業性と耐高温割れ性を有するNi基耐熱合金用溶接材料を提供することができ、また、それを用いて、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属を提供することができる。さらに、この溶接材料を用いて、溶接中の耐高温割れ性、高温で長時間使用中の耐応力緩和割れ性および良好なクリープ強度を有する溶接金属と高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなる溶接継手を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.06〜0.18%、Si:0.5%以下、Mn:1.5%以下、Ni:45〜55%、Cr:25〜35%、W:7.0〜13.0%、Ti:0.2%を超えて1.5%以下、Al:0.1%未満およびN:0.002〜0.20%を含み、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のO、PおよびSがそれぞれ、O:0.02%以下、P:0.008%以下およびS:0.005%以下の化学組成を有することを特徴とする、Ni基耐熱合金用溶接材料。
【請求項2】
Feの一部に代えて、質量%で、Nb:1.0%以下を含む化学組成を有することを特徴とする、請求項1に記載のNi基耐熱合金用溶接材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のNi基耐熱合金用溶接材料を用いてなる溶接金属。
【請求項4】
請求項3に記載の溶接金属と高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材とからなることを特徴とする、溶接継手。
【請求項5】
高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材が、質量%で、W:3.5〜8.5%、Ni:45〜55%およびCr:25〜35%を含有することを特徴とする、請求項4に記載の溶接継手。
【請求項6】
高温強度に優れたNi基耐熱合金の母材が、質量%で、C:0.04〜0.12%、Si:0.5%以下、Mn:1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:45〜55%、Cr:25〜35%、W:3.5〜8.5%、Ti:0.05〜1.0%、Zr:0.005〜0.05%、N:0.02%以下、B:0.005%以下およびAl:0.05〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不純物からなることを特徴とする、請求項4に記載の溶接継手。

【公開番号】特開2013−94827(P2013−94827A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240746(P2011−240746)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【特許番号】特許第5170297号(P5170297)
【特許公報発行日】平成25年3月27日(2013.3.27)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】