説明

Nogo−Aポリペプチド断片、改変体Nogoレセプター1ポリペプチドおよびそれらの使用

Nogo、MAG、およびOMgpは、ニューロンNogo−66受容体(NgR)に結合してCNS損傷後の軸索再生を制限するミエリン由来タンパク質である。Nogo−Aタンパク質は、インビボで最も顕著な役割を果たしている可能性がある。おそらく、その作用がNgRと他の受容体の両方によって媒介されているからである。ここで、本発明者らは、Nogo−AおよびNgRの機能的ドメインについての以前の解析を発展させている。NgRに依存するNogo−66阻害ドメインおよびNgRに依存しないアミノ−Nogo−A特異的ドメインに加え、本発明者らは、ナノモルの親和性でNgRに結合する第3のNogo−A特異的ドメインを特定している。19アミノ酸(aa)のこの第3のドメインは、細胞伸展または軸索伸長を変化させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、神経生物学、神経学、および薬理学に関する。より具体的に本発明は、軸索成長を媒介するための方法および組成物ならびにニューロンに関する。
【背景技術】
【0002】
成熟した哺乳動物の脳および脊髄において、軸索の接続は固定されている。接続が損傷によって切れた場合、軸索の再生はほとんど起こらないか全く起こらない。ニューロンの外から、星状グリア瘢およびCNSミエリンは軸索成長を阻害する(非特許文献1;非特許文献2)。成熟したCNS軸索を取り囲む環境が変化した場合、軸索の成長が起こり得る(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。CNSミエリンから、軸索成長を阻害できる3種のタンパク質、Nogo、MAGおよびOMgpが単離されている(非特許文献2)。
【0003】
Nogoは、3つのイソ体で存在しており、それらの全ては、2つの疎水性セグメントを含む1つのカルボキシル末端セグメントを共有している(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献2;非特許文献8)。3つのイソ体は、異なる親水性アミノ末端セグメントを有しており、そしてNogo−Aは、CNSミエリンにおいて乏突起膠細胞により生産される主要な形態である(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献9;非特許文献10)。Nogo−Aは2つの阻害ドメインを有することが明らかにされている。カルボキシル領域にある阻害Nogo−66ドメインは、その両側に2つの疎水性セグメントが存在し、乏突起膠細胞の表面において検出することができる(非特許文献11;非特許文献7;非特許文献12)。Nogo−Aのアミノ末端セグメントは単独で軸索阻害を示す(非特許文献6;非特許文献11)。中央のΔ20領域がこの活性に最も重要であると思われる(非特許文献12)。Nogo−66ドメインのようなアミノ−Nogoドメインは、乏突起膠細胞の表面で検出されており、Nogo−Aについて2つのコンフォメーションが提案されている(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献12)。その1つにおいて、アミノ末端とカルボキシル末端は細胞質ゾルにあり、Nogo−66ループは2つの膜貫通セグメントによって細胞外に位置する。もう1つの形態では、第1の疎水性セグメントが、膜貫通セグメントを形成することなく原形質膜内からその外にループ状になっており、そのためアミノ−NogoおよびNogo−66は脂質二重層の同じ側に配置されている。
【0004】
脊髄損傷または脊髄卒中の後、Nogo経路を抗体またはペプチドによってかく乱することにより、軸索の成長が促進され、形成性、および機能回復がもたらされる(非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15;非特許文献16;非特許文献17;非特許文献18)。Nogo機能の遺伝子研究は、軸索再生におけるNogoの本質的な役割について矛盾するデータをもたらしている(非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21)。Nogo−A−I−ミエリンは全ての研究で阻害活性を減少させているが、2つの研究において、これはインビボである程度の軸索再生を伴っていた一方、もう1つの研究ではインビボでの再生がなかった(非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21)。末梢でのNogoのトランスジェニック発現は、遅いさもなくば速い再生に十分なものである(非特許文献22;非特許文献23)。MAGを欠くマウスはCNS軸索再生がないことが報告されている(非特許文献24)。ただし、末梢での再生は、特定の遺伝的背景において促進され得る(非特許文献25)。
【0005】
Nogo−66ドメインに対する受容体は発現クローニングによって特定された(Nogo−66受容体(NgR))(非特許文献11)。このタンパク質は、生後のニューロンにおいて選択的に発現され、Nogo−66への応答を媒介する。NgRは、ロイシンリッチリピート(LRR)を含むタンパク質であり、ニューロンの表面にGPIで固定されている。LRRドメインは、リガンド結合部位を形成しており、その構造は明らかにされている(非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28)。注目すべきことに、MAGとOMgpは、同じNgRタンパク質のLRRドメインに結合してインビトロで軸索成長を阻害する(非特許文献29;非特許文献30;非特許文献31)。インビボにおいて、NgRの遺伝子欠損は、脊髄離断の後、いくらかの軸索繊維が成長し機能回復を促進することを可能にする(非特許文献32)。軸索の運動性を調節するため、補助受容体は、シグナルをNgRから細胞の内部に伝達することを必要とされる。p75NTRおよびLingo−1膜貫通タンパク質の両方が、NgRシグナル伝達に関係している(非特許文献33;非特許文献34;非特許文献35)。しかし、アミノ−Nogoドメインに対する受容体も、複数のリガンドとのNgR相互作用の分子的根拠も明らかにされていなかった。
【0006】
Nogo−A活性の我々の最初の機能解析は、Nogo−66ドメインからアミノ−Nogoドメインを分離したことであった(非特許文献11)。我々は、NgRがNogo−66に対する受容体である一方、アミノ−Nogoは別のメカニズムを利用していることを明らかにしてきた。ここで我々は、形態学的アッセイでは明らかにされていなかった別の活性を明らかにしている。
【非特許文献1】Homer,P.J.and Gage,F.H.,Nature 407:963−970(2000)
【非特許文献2】McGee,A.W.and Strittmatter,S.M.,Trends Neurosci.26:193−198(2003)
【非特許文献3】Benfey,M.and Aguayo,A.J.,Nature 296:150−152(1982)
【非特許文献4】David,S.and Aguayo,A.J.,Science 214:931−933(1981)
【非特許文献5】Richardson,P.M.et al.,Nature 284:264−265(1980)
【非特許文献6】Chen,M.S.et al.,Nature 403:434−439(2000)
【非特許文献7】GrandPre,T.,et al.,Nature 403:439−444(2000)
【非特許文献8】Prinjha,R.,et al.,Nature,403:383−384(2000)
【非特許文献9】Huber,A.B.,et al.,J.Neurosci.22:3553−3567(2002)
【非特許文献10】Wang,X.,et al.,J.Neurosci.22:5505−5515(2002c)
【非特許文献11】Fournier,A.E.,et al.,Nature 409:341−346(2001)
【非特許文献12】Oertle,T.,et al.J.Neurosci.23:5393−5406(2003b)
【非特許文献13】Bregman,B.S.,et al.,Nature 378:498−501(1995)
【非特許文献14】GrandPre,T.,et al.,Nature 417:547−551(2002)
【非特許文献15】Lee,J.K.,et al.,J.Neurosci.24:6209−6217(2004)
【非特許文献16】Li,S.and Strittmatter,S.M.,J.Neurosci.23:4219−4227(2003)
【非特許文献17】Schnell,L.and Schwab,M.E.,Nature 343:269−272(1990)
【非特許文献18】Wiessner,C.,et al.,J.Cereb.Blood Flow Metab.23:154−165(2003)
【非特許文献19】Kim,J.E.,et al.,Neuron 38:187−199(2003b)
【非特許文献20】Simonen,M.,et al.,Neuron,38:201−211(2003)
【非特許文献21】Zheng,B.,et al.,Neuron.38:213−224(2003)
【非特許文献22】Kim,J.E.,et al.,Mol.Cell Neurosci.23:451−459(2003a)
【非特許文献23】Pot,C.,et al.,J.Cell Biol.159:29−35(2002)
【非特許文献24】Bartsch,U.,et al.,Neuron 15:1375−1381(1995)
【非特許文献25】Schafer,M.,et al.,Neuron 16:1107−1113(1996)
【非特許文献26】Barton,W.A.,et al.,Embo J.22:3291−3302(2003)
【非特許文献27】Fournier,A.E.,et al.,J.Neurosci.22:8876−8883(2002)
【非特許文献28】Hc,X.L.,et al.,Neuron 38:177−185(2003)
【非特許文献29】Domeniconi,M.,et al.,Neuron 35:283−290(2002)
【非特許文献30】Liu,B.P.,et al.,Science 297:1190−1193(2002)
【非特許文献31】Wang,K.C.,et al.,Nature 417:941−944(2002b)
【非特許文献32】Kim,J.E.,et al.,Neuron 44:439−451(2004)
【非特許文献33】Mi,S.,et al.,Nat.Neurosci.7:221−228(2004)
【非特許文献34】Wang,K.C.,et al.,Nature 420:74−78(2002a)
【非特許文献35】Wong,S.T.,et al.,Nat.Neurosci.5:1302−1308(2002)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、Nogo−Aのアミノ−Nogoドメインが、NgRにおける中心結合ドメインと相互作用する領域を保有しているという発見に基づいている。Nogo−66と、このアミノ−Nogoドメインとの組合せは、実質的により高い親和性のNgRリガンドを作り出しており、これは、インビボで軸索の再生を制限することにおいて最も重要であると考えられる。さらに、NgRは、中心結合ドメインにおいて複数のリガンドと相互作用するため特定の残基を利用しており、また、特定のリガンドと相互作用するため周りの特定の残基を利用している。これらの発見に基づき、本発明は、CNSニューロンにおける軸索成長阻害を促進するのに有用な分子および方法に関する。
【0008】
いくつかの実施態様において、本発明は、30残基以下の単離されたポリペプチド断片を提供し、それは、(a)配列番号2のアミノ酸995〜1013、(b)配列番号2のアミノ酸995〜1014、(c)配列番号2のアミノ酸995〜1015、(d)配列番号2のアミノ酸995〜1016、(e)配列番号2のアミノ酸995〜1017、(f)配列番号2のアミノ酸995〜1018、(g)配列番号2のアミノ酸992〜1018、(h)配列番号2のアミノ酸993〜1018、および(i)配列番号2のアミノ酸994〜1018からなる群より選択される参照アミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、かつNgR1に結合する。ある実施態様において、本発明が提供するポリペプチド断片は該参照アミノ酸配列と少なくとも95%同一である。他の実施態様において、ポリペプチド断片は該参照アミノ酸配列と同一である。
【0009】
いくつかの実施態様において、本発明は、200残基以下の単離されたポリペプチド断片を提供する。該ポリペプチド断片は、配列番号2のアミノ酸995〜1018と少なくとも90%同一である第1のアミノ酸配列を含み、そこにおいて、該第1のアミノ酸配列は配列番号2のアミノ酸1055〜1086に結合されており、かつ該ポリペプチド断片はNgR1に結合するものである。ある実施態様において、該第1のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸1055〜1086に結合された配列番号2のアミノ酸995〜1018を含む。他の実施態様において、該第1のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸1055〜1086に結合された配列番号2のアミノ酸950〜1018を含む。ある実施態様において、本発明のポリペプチド断片は、NgRが媒介する神経突起伸長阻害を増強する。いくつかの態様において、ポリペプチド断片は、配列番号5を含みかつ/または配列番号5から本質的になる。
【0010】
いくつかの実施態様において、本発明が提供するポリペプチドは修飾されている。ある実施態様において、該修飾はビオチン化である。
【0011】
いくつかの実施態様において、本発明がさらに提供するポリペプチドは、異種のポリペプチドに融合されている。ある実施態様において、該異種ポリペプチドはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)である。ある実施態様において、該異種ポリペプチドはヒスチジンタグ(Hisタグ)である。ある実施態様において、該異種ポリペプチドはアルカリホスファターゼ(AP)である。ある実施態様において該異種ポリペプチドはFcである。
【0012】
いくつかの実施態様において、本発明は、単離されたヒトのNgR1ポリペプチドを提供し、該NgR1ポリペプチドは、少なくとも、(a)アミノ酸67、68および71、(b)アミノ酸111、113および114、(c)アミノ酸133および136、(d)アミノ酸158、160、182、および186、(e)アミノ酸163、ならびに(f)アミノ酸232および234からなる群より選択されるアミノ酸位置でのアミノ酸置換を除いて、配列番号4のアミノ酸27〜473を含み、ここで該NgR1ポリペプチドはNogo66、OMgp、Mag、またはLingo−1のいずれにも結合しないものである。他の実施態様において、本発明は、単離されたヒトのNgR1ポリペプチドを提供し、該NgR1ポリペプチドは、少なくとも、(a)アミノ酸78および81、(b)アミノ酸87および89、(c)アミノ酸89および90、(d)アミノ酸95および97、(e)アミノ酸108、(f)アミノ酸117、119および120、(g)アミノ酸139、(h)アミノ酸210、ならびに(i)アミノ酸256および259からなる群より選択されるアミノ酸位置でのアミノ酸置換を除いて、配列番号4のアミノ酸27〜473を含み、ここで該NgRポリペプチドはNogo66、OMgp、Mag、またはLingo−1の少なくとも1つに選択的に結合するが、それらのすべてに結合するものではない。
【0013】
意図される他の実施態様には、本発明のポリペプチドまたはその断片を発現するポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、および該ポリヌクレオチドを含みかつ本発明のポリペプチド発現する宿主細胞が含まれる。
【0014】
本発明のさらなる実施態様には組成物が含まれ、該組成物は、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、または宿主細胞を含むものであり、さらに特定の実施態様において薬学的に受容可能な担体を含むものである。該組成物は、非経口投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、口腔内投与、経口投与、および微小注入投与からなる群より選択される経路による投与のため処方することができる。該組成物は、担体をさらに含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
特に断らない限り、ここで使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。もし争いが生じた場合、定義を含む本願に照らし合わせることとなる。文脈上必要でない限り、単数形の用語は複数を含むものとし、複数形の用語は単数を含むものとする。ここで言及するすべての刊行物、特許、およびその他の文献は、それぞれの刊行物または特許出願が具体的かつ個別に組み込まれて示されるかのように、引用によりその内容がそっくり本明細書に記載されたものとする。
【0016】
ここに記載されたものに類似するかまたは均等な方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、以下に適切な方法および材料を記載することとする。材料、方法および具体例は、単なる例示であって限定を意図するものではない。本発明の他の特徴および効果は、詳細な説明や請求の範囲から明らかになるはずである。
【0017】
本発明をさらに規定するため、以下のとおり用語および定義を規定する。
【0018】
留意すべきこととして、用語「1つの」ものは、1つ以上のそのものを意味し、例えば、「1つの免疫グロブリン(免疫グロブリン)」は1種以上の免疫グロブリン分子を表すものとして解釈される。従って、ここで用語「1つ(aまたはan)」、「1つ以上(1以上)」および「少なくとも1つ」は、区別なく同義なものとして用いることができる。
【0019】
本明細書および請求の範囲を通じて、用語「含む(comprise)」またはその変形(例えば「含み」「含んでいる」(comprisesまたはcomprising))は、任意の記載した完結事項または完結事項の群を含み、任意の他の完結事項または完結事項の群を排除しないことを意味する。
【0020】
ここで使用する用語「からなる(consists of)」またはその変形(例えば「からなり」(consist ofまたはconsisting of))は、本明細書および請求の範囲を通じて使用するとき、任意の記載した完結事項または完結事項の群を含む一方、さらなる完結事項または完結事項の群を特定の方法、構造または組成に追加できないことを意味する。
【0021】
ここで使用する用語「から本質的になる(からなる)(consists essentially of)」またはその変形(例えば「から本質的になり(からなり)」(consist essentially ofまたはconsisting essentially of))は、本明細書および請求の範囲を通じて使用するとき、任意の記載した完結事項または完結事項の群を含み、そして特定の方法、構造または組成の基本的なまたは新規な特徴を実質的に変えることのない所定の任意の完結事項または完結事項の群を必要に応じて含むことを意味する。
【0022】
ここで使用する用語「ポリペプチド」は、単数のポリペプチドのみならず複数のポリペプチドを包含することを意図しており、そして、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)により線状に結合されたモノマー(アミノ酸)からなる分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖の1つまたは複数を指し、特定の長さのものを指すものではない。従って、ペプチド(類)、ジペプチド(類)、トリペプチド(類)、オリゴペプチド(類)、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または、2つ以上のアミノ酸の鎖の1つまたは複数を指すのに使用される他の任意の用語は、「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれるものであり、そして、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかに替えて、あるいは、これらの用語のいずれとも区別なく同義なものとして、用いることができる。また用語「ポリペプチド」は、発現後にポリペプチドを修飾した産物(限定されることなく、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解切断、または天然に存在しないアミノ酸による修飾の産物)を指すことも意図している。あるポリペプチドは、天然の生物源から得ることができ、あるいは、組換え技術によって生産することができるが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成によるものを含む任意の態様で生成させることができる。
【0023】
本発明のポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1000以上、または2000以上のアミノ酸のサイズとすることができる。ポリペプチドは特定の三次元構造を有することができるが、必ずしもそのような構造を有するとは限らない。特定の三次元構造を有するポリペプチドを、折りたたまれていると言い、そして、特定の三次元構造を有さずむしろ多数の異なるコンフォメーションを採用できるポリペプチドを、折りたたまれていないと言う。ここで使用する用語、糖タンパク質は、アミノ酸残基(例えばセリン残基またはアスパラギン残基)の酸素含有側鎖または窒素含有側鎖を介して少なくとも1つの炭水化物部分が結合されているタンパク質を指す。
【0024】
「単離された」ポリペプチドまたはその断片、変異体もしくは誘導体は、それが天然の環境にないポリペプチドであることを意図している。特定のレベルの精製は必要でない。例えば、単離されたポリペプチドは、その本来の環境または天然の環境から取り出すことができる。遺伝子組換えにより生産されたポリペプチドおよび宿主細胞で発現されたタンパク質は、任意の適切な技法により分離、分画、または部分的もしくは十分に精製された本来のポリペプチドまたは組換えポリペプチドと同様、本発明の目的のため単離されたものとみなされる。
【0025】
本発明において、「ポリペプチド断片」はより大きなポリペプチドの中の短いアミノ酸配列を指す。タンパク質断片は、「自立したもの」であってもよいし、より大きなポリペプチド内の領域の一部を構成するものであってもよい。本発明のポリペプチド断片の典型例には、例えば、長さで約5アミノ酸、約10アミノ酸、約15アミノ酸、約20アミノ酸、約30アミノ酸、約40アミノ酸、約50アミノ酸、約60アミノ酸、約70アミノ酸、約80アミノ酸、約90アミノ酸、および約100アミノ酸以上を含む断片がある。
【0026】
用語「断片」、「変異体」、「誘導体」、および「類似体」は、本発明のポリペプチドを指す場合、少なくともある生物活性を保持する任意のポリペプチドを含むものである。ここに記載されるポリペプチドは、その機能を依然として発揮している限り、限定されることなく、その中の断片、変異体、または誘導体の分子を含むことができる。本発明のポリペプチドまたはその断片は、タンパク質分解断片および欠失断片を含むことができ、また特に、動物に配達されるときより容易に作用部位に到達する断片を含むことができる。さらにポリペプチド断片は、元のポリペプチドの抗原エピトープまたは免疫原性エピトープ(直鎖状エピトープおよび三次元的エピトープを含む)を含むポリペプチドの任意の部分を含む。本発明のポリペプチドまたはその断片は、変異領域(上記断片を含む)を含むことができ、また、アミノ酸の置換、欠失、または挿入により変化したアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むことができる。変異体は、対立遺伝子変異型のように自然に生じ得る。「対立遺伝子変異型」は、生物の染色体上にある所定の遺伝子座を占める遺伝子の代替的形態を意味する。Genes II,Lewin,B.,ed.,John Wiley & Sons,New York(1985)。天然に存在しない変異体は、当該技術で知られている変異誘発法を用いて生成させることができる。本発明のポリペプチドまたはその断片は、保存的または非保存的なアミノ酸の置換、欠失または付加を含むことができる。また本発明のポリペプチドまたはその断片は、誘導体分子を含むこともできる。ここで変異ポリペプチドは「ポリペプチド類似体」とも呼ぶことができる。ここで使用するポリペプチドまたはポリペプチド断片の「誘導体」は、対象となるポリペプチドで、官能側基の反応により化学的に誘導された1つ以上の残基を有するものを指す。さらに「誘導体」として含まれるものには、20の標準アミノ酸の天然に存在するアミノ酸誘導体を1つ以上含むペプチドがある。例えば、プロリンを4−ヒドロキシプロリンで置換することができ、リシンを5−ヒドロキシリシンで置換することができ、ヒスチジンを3−メチルヒスチジンで置換することができ、セリンをホモセリンで置換することができ、また、リシンをオルニチンで置換することができる。
【0027】
ここで使用する用語「ジスルフィド結合」は、2つの硫黄原子の間に形成される共有結合を包含する。アミノ酸システインは、チオール基を含み、それは、もう1つのチオール基とジスルフィド結合または架橋を形成できる。
【0028】
ここで使用する用語「融合タンパク質」は、第1のポリペプチドと、ペプチド結合を介してそれに直線的に結合した第2のポリペプチドとを含むタンパク質を意味する。第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは、同じでも異なっていてもよく、また、それらは、直接結合されていても、ペプチドリンカーを介して結合されていてもよい(以下参照)。
【0029】
用語「ポリヌクレオチド」は、単数形の核酸のみならず複数形の核酸をも包含しようとするものであり、また、単離された核酸分子または核酸構造物(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)またはプラスミドDNA(pDNA))を指す。ポリヌクレオチドは、完全長のcDNA配列(非翻訳5’および3’配列、コード配列を含む)のヌクレオチド配列を含むことができる。ポリヌクレオチドは、通常のホスホジエステル結合または特殊な結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に見られるようなアミド結合)を含むことができる。ポリヌクレオチドは、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドからなることができ、それは、修飾されていないRNAまたはDNAであってもよいし、修飾されたRNAまたはDNAであってもよい。例えば、ポリヌクレオチドは、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAからなることができ、一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるDNAからなることができ、一本鎖RNAおよび二本鎖RNAからなることができ、一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるRNAからなることができ、また、一本鎖、より典型的には二本鎖、または一本鎖領域と二本鎖領域の混合物とすることができるDNAとRNAとを含むハイブリッド分子からなることができる。さらに、ポリヌクレオチドは、RNAまたはDNAを含むかまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域からなることができる。ここで使用する「ポリヌクレオチド」は、1以上の修飾された塩基を含んでもよく、あるいは、安定性のためまたは他の理由のため修飾されたDNAまたはRNAの骨格を含んでもよい。「修飾された」塩基は、例えば、トリチル化された塩基およびイノシンのような異常塩基を含む。種々の修飾をDNAおよびRNAに対して施すことができる。従って、「ポリヌクレオチド」は化学修飾された形態、酵素により修飾された形態、または代謝により修飾された形態を包含する。
【0030】
用語「核酸」は、1以上の任意の核酸セグメント、例えばポリヌクレオチド中に存在するDNAまたはRNAの断片を指す。「単離された」核酸またはポリヌクレオチドは、その本来の環境から取り出された核酸分子、DNAまたはRNAを意味する。例えば、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする組換えポリヌクレオチドであってベクターに含まれるものは、本発明の目的のため単離されたものとみなされる。単離されたポリヌクレオチドの更なる例には、異種宿主細胞に保持される組換えポリヌクレオチドや、溶液中の(部分的にまたは十分に)精製されたポリヌクレオチドがある。単離されたRNA分子は、本発明のポリヌクレオチドのインビボRNA転写物またはインビトロRNA転写物を含む。本発明による単離されたポリヌクレオチドまたは核酸は、合成によって生成されたそのような分子をさらに含む。また、ポリヌクレオチドまたは核酸は、調節要素(例えばプロモーター、リボソーム結合部位、または転写終結因子)であってもよいし、それを含むものであってもよい。
【0031】
ここで使用する用語「コード領域」は、アミノ酸に翻訳されるコドンからなる核酸の部分である。「終止コドン」(TAG、TGA、またはTAA)はアミノ酸に翻訳されないが、コード領域の一部とみなすことができる。しかし、任意のフランキング配列、例えばプロモーター、リボソーム結合部位、転写終結因子、イントロンなどは、コード領域の一部ではない。本発明による2以上のコード領域が、単一のポリヌクレオチド構造物(例えば、単一のベクター)に存在することができ、あるいは、別々のポリヌクレオチド構造物(例えば別々の(異なる)ベクター)に存在することができる。さらに、任意のベクターが、単一のコード領域を含むことができ、あるいは、2以上のコード領域を含むことができる(例えば、単一のベクターが、免疫グロブリン重鎖の可変領域と免疫グロブリン軽鎖の可変領域をそれぞれコードすることができる)。さらに、本発明のベクター、ポリヌクレオチド、または核酸は、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする核酸と融合されたまたは融合されていない異種のコード領域をコードしてもよい。異種コード領域には、例えば、特化された要素またはモチーフ(例えば分泌シグナルペプチドや異種の機能的ドメイン)が含まれる。
【0032】
特定の実施態様において、ポリヌクレオチドまたは核酸はDNAである。DNAの場合、ポリペプチドをコードする核酸を含むポリヌクレオチドは、通常、1以上のコード領域に作用可能に結合されたプロモーターおよび/または他の転写調節要素もしくは翻訳調節要素を含むことができる。作用可能な結合は、遺伝子産物の発現が1つまたは複数の調節配列の影響下または制御下に置かれるよう、遺伝子産物(例えばポリペプチド)のコード領域が1以上の調節配列に結合している場合をいう。プロモーター機能の誘導が、必要な遺伝子産物をコードするmRNAの転写をもたらす場合、そして、2つのDNA断片の結合の性質が、遺伝子産物の発現を誘導する発現調節配列の能力を妨害しないものであるか、または、転写されるべきDNA鋳型の能力を妨害しないものである場合、2つのDNA断片(例えばポリペプチドコード領域とそれに結合するプロモーター)は「作用可能に結合」されている。従って、プロモーターが核酸の転写を引き起こすことができるならば、プロモーター領域はポリペプチドをコードする核酸に作用可能に結合されているはずである。プロモーターは、所定の細胞のみにおいてDNAの実質的な転写を誘導する細胞特異的なプロモーターとすることができる。プロモーター以外の他の転写調節要素、例えばエンハンサー、オペレーター、リプレッサー、および転写終結シグナルも、細胞特異的転写を誘導するためポリヌクレオチドに作用可能に結合させることができる。適切なプロモーターおよび他の転写調節領域は本明細書に開示される。
【0033】
種々の転写調節領域は当業者に知られている。それらには、例えば、脊椎動物細胞において機能する転写調節領域、例えばサイトメガロウイルスに由来するプロモーターおよびエンハンサーセグメント(イントロン−Aと共同する最初期プロモーター)、シミアンウイルス40由来のプロモーターおよびエンハンサーセグメント(初期プロモーター)、およびレトロウイルス(例えばラウス肉腫ウイルス)由来のプロモーターおよびエンハンサーセグメントが含まれるが、これらに限定されるものではない。他の転写調節領域には、脊椎動物の遺伝子に由来するもの、例えばアクチン、熱ショックタンパク質、ウシ成長ホルモン、およびウサギβ−グロビンに由来するもの、さらには、真核細胞において遺伝子発現を調節できる他の配列が含まれる。さらに他の適切な転写調節領域には、組織特異的なプロモーターおよびエンハンサー、ならびにリンホカイン誘導性プロモーター(例えばインターフェロン類またはインターロイキン類によって誘導可能なプロモーター)が含まれる。
【0034】
同様に、種々の翻訳調節要素が当業者に知られている。それらには、例えば、リボソーム結合部位、翻訳開始コドンおよび翻訳終結コドン、ならびにピコルナウイルスに由来する要素(特に、内部リボソーム侵入部位、すなわちIRES(CITE配列とも呼ばれる))があるがこれらに限定されるものではない。
【0035】
他の実施態様において、本発明のポリヌクレオチドはRNAであり、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)の形態である。
【0036】
本発明のポリヌクレオチドおよび核酸コード領域は、分泌ペプチドまたはシグナルペプチド(本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの分泌を誘導するもの)をコードするさらなるコード領域と結合されていてもよい。シグナル仮説によれば、哺乳動物細胞によって分泌されるタンパク質は、シグナルペプチドまたは分泌リーダー配列を有しており、それは、一旦、成長するタンパク質鎖の粗面小胞体を介した移出が始まると、成熟したタンパク質から切断されるものである。当業者に知られるとおり、脊椎動物細胞によって分泌されるポリペプチドは、一般に、該ポリペプチドのN末端に融合されたシグナルペプチドを有しており、それは、完全なまたは「完全長」のポリペプチドから切断されて、該ポリペプチドの分泌形または「成熟」形をもたらす。特定の実施態様において、天然のシグナルペプチド(例えば、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のシグナルペプチド)を使用するか、あるいは、ポリペプチドの分泌を誘導する能力を保持した配列の機能的誘導体を、ポリペプチドに作用可能に結合させる。一方、異種の哺乳動物のシグナルペプチドまたはその機能的誘導体を使用してもよい。例えば、野生型のリーダー配列を、ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)またはマウスβ−グルクロニダーゼのリーダー配列で置き換えることができる。
【0037】
ここで使用する用語「操作」は、核酸分子またはポリペプチド分子の人為的手段(例えば組換え法、インビトロペプチド合成、ペプチドの酵素による結合または化学的結合、またはそれらの方法のある組合せ)による操作を包含する。
【0038】
ここで使用する用語「結合」は、化学的結合または組換え手段を含む任意の手段により、2以上の要素または成分をつなぎ合わせることを指す。用語「結合」は、ペプチド結合による直接的な融合、スペーサーを用いる間接的な融合、さらには、ペプチド結合以外の手段による(例えばジスルフィド結合または非ペプチド部分を介する)繋ぎ止めを意味することができる。
【0039】
「リンカー」配列は、1つの融合タンパク質において2つのポリペプチドコード領域を分離している1以上のアミノ酸の配列である。典型的なリンカーは少なくとも5つのアミノ酸を含む。さらなるリンカーは、少なくとも10または少なくとも15のアミノ酸を含む。特定の実施態様において、ペプチドリンカーのアミノ酸は、リンカーが親水性になるよう選択される。リンカー(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)3(配列番号 )は好ましいリンカーであり、それは、十分な可撓性をもたらすため、多くの抗体に広く適用することができる。他のリンカーには、Glu Ser Gly Arg Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly Gly Serを含むもの(配列番号 )、Glu Gly Lys Ser Ser Gly Ser Gly Ser Glu Ser Lys Ser Thrを含むもの(配列番号 )、Glu Gly Lys Ser Ser Gly Ser Gly Ser Glu Ser Lys Ser Thr Glnを含むもの(配列番号 )、Glu Gly Lys Ser Ser Gly Ser Gly Ser Glu Ser Lys Val Aspを含むもの(配列番号 )、Gly Ser Thr Ser Gly Ser Gly Lys Ser Ser Glu Gly Lys Glyを含むもの(配列番号 )、Lys Glu Ser Gly Ser Val Ser Ser Glu Gln Leu Ala Gln Phe Arg Ser Leu Aspを含むもの(配列番号 )、およびGlu Ser Gly Ser Val Ser Ser Glu Glu Leu Ala Phe Arg Ser Leu Aspを含むもの(配列番号 )がある。より短いリンカーの例には上記リンカーの断片があり、より長いリンカーの例には、上記リンカーの組合せ、上記リンカーの断片の組合せ、および上記リンカーと上記リンカーの断片との組合せがある。
【0040】
ここで使用する用語「融合された」または「融合」は、ポリペプチドまたはポリペプチド断片に関し、区別なく同義なものとして使用される。これらの用語は、2つの要素をペプチド結合により直接的にまたは間接的に(例えばペプチドスペーサー)繋ぐことを指す。「インフレーム融合」は、2以上のポリヌクレオチドオープンリーディングフレーム(読み取り枠)(ORF)を繋いで、元のORFの正しい翻訳読み取り枠を維持する態様でより長い連続するORFを形成することを指す。従って、組換え融合タンパク質は、複数の元のORFによってコードされる複数のポリペプチドに相当する2以上のセグメントを含む単一のタンパク質である(それらのセグメントは通常天然においてそのように結合されていない)。従ってリーディングフレーム(読み取り枠)は、融合されたセグメントを通じて連続的になっているが、その複数のセグメントは、物理的にまたは空間的に(例えばインフレームリンカー配列により)分離されていてもよい。
【0041】
ポリペプチドに関し、「直鎖状配列」または「配列」は、ポリペプチドにおけるアミノ末端からカルボキシル末端への方向のアミノ酸の序列であり、そこにおいて、配列の隣り合う残基は、ポリペプチドの一次構造において隣接している。
【0042】
ここで使用する用語「発現」は、遺伝子が生化学物質、例えばRNAまたはポリペプチドを生成させるプロセスを指す。このプロセスは、細胞内での遺伝子の機能的存在のあらゆる発現(限定されることなく、例えば、遺伝子ノックダウン、さらには一過性発現および安定的発現の両方を含む)を含む。このプロセスは、例えば、遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)への転写、トランスファーRNA(tRNA)への転写、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)への転写、短鎖干渉RNA(siRNA)への転写、または任意の他のRNA産物への転写を含み、さらに、そのようなmRNAのポリペプチド(類)への翻訳、さらには転写または翻訳のいずれかを調節する任意のプロセスを含む。必要な最終産物が生化学物質である場合、発現は、そのような生化学物質の生成および任意の前駆体の生成を含む。遺伝子の発現により「遺伝子産物」が生産される。ここで使用する用語「遺伝子産物」は、核酸(例えば遺伝子の転写により生産されるメッセンジャーRNA)または転写物から翻訳されるポリペプチドのいずれかであり得る。ここに記載される遺伝子産物はさらに、転写後の修飾(例えば、ポリアデニル化)を伴う核酸、または翻訳後の修飾(例えば、メチル化、グリコシル化、脂質の付加、他のタンパク質サブユニットの結合、タンパク質分解切断など)を伴うポリペプチドを含む。
【0043】
ここで使用する用語「治療する」または「治療」は、治療上の処置と予防手段の両方を指し、ここでその対象は望ましくない生理的変化または障害を予防または遅く(軽減)するべきものである。有益なまたは望ましい臨床結果には、例えば、症状の緩和、病気の程度の減少、病気の安定した(すなわち悪くならない)状態、病気の進行の遅延または減速、症状の改善または一時的緩和、および寛解(部分的または全体的を問わず)があり、検出できるか否かを問わない。また「治療」は、治療を受けない場合に予想される延命と比べてより長くなる延命効果をも意味する。治療が必要なものには、すでに症状または障害を伴うもののほか、症状または障害を伴いやすいもの、または症状または障害を予防すべきものが含まれる。
【0044】
「対象者」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」は、診断、予防、または治療が必要な対象者、特に哺乳動物の対象者を意味する。哺乳動物の対象者には、例えば、ヒト、家畜、牧畜、動物園の動物、運動競技用動物、愛玩動物(例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、畜牛、乳牛)、霊長動物(例えば類人猿、サル、オランウータン、およびチンパンジー)、イヌ類(例えばイヌおよびオオカミ)、ネコ科動物(例えばネコ、ライオン、およびトラ)、ウマ科動物(例えばウマ、ロバ、およびシマウマ)、食用動物(例えばウシ、ブタ、およびヒツジ)、有蹄動物(例えばシカおよびキリン)、げっ歯動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、およびモルモット)などがあるがこれらに限定されるものではない。特定の態様において、哺乳動物の対象者はヒトである。
【0045】
ここで使用する次のような表現「本発明のNogoポリペプチドまたはポリペプチド断片の投与により恩恵を受け得る対象者」および「治療が必要な動物」には、使用されるNogoポリペプチドまたはポリペプチド断片の投与から恩恵を受けうる対象者(例えば哺乳動物の対象者)が含まれる、そのような投与は、病気(例えば精神分裂病)の検出(例えば診断の処置)および/または病気(例えば精神分裂病)の治療(すなわち軽減または予防)のため本発明のNogoポリペプチドまたはポリペプチド断片を用いて行われる。ここでより詳細に記載されるとおり、該ポリペプチドまたはポリペプチド断片は、非結合の形態で用いることができ、あるいは、薬剤、プロドラッグまたはアイソトープ(同位体)と結合させることができる。
【0046】
ここで使用する表現「治療上有効な量」は、所望の治療効果を得るため必要な用量および時間において有効な量を指す。治療効果は、例えば、症状の軽減、延命、モビリティの向上などであり得る。治療効果は「治癒」である必要はない。
【0047】
ここで使用する表現「予防上有効な量」は、所望の予防効果を得るため必要な用量および時間において有効な量を指す。典型的に、予防上の投与量は、病気の前またはより早い段階において対象者に使用するため、予防上の有効量は治療上の有効量より少なくなる。
【0048】
本発明は、神経突起伸長阻害を増強するかまたは異常なニューロンの発生(例えばCNSニューロン)を阻害する特定のNogoポリペプチドおよびポリペプチド断片に関する。例えば、本発明は、軸索成長が過度であるかまたは低活性である条件下において異常なニューロンの発生を阻害するNogoポリペプチドおよびポリペプチド断片を提供する。従って、本発明のNogoポリペプチドおよびポリペプチド断片は、異常なニューロンの発生を阻害するかまたは神経突起伸長を阻害することにより軽減することができる傷害、疾患、または障害の治療に有用である。
【0049】
例示的な疾患、障害または傷害には、精神分裂病、双極性障害、強迫性障害(OCD)、注意欠陥過活動性障害(ADHD)、ダウン症、およびアルツハイマー病があるがこれらに限定されるものではない。
【0050】
NogoならびにNogo受容体のポリペプチドおよびポリペプチド断片
本発明は、例えば神経突起伸長の阻害または異常なニューロン発生の阻害に有用な特定のNogoポリペプチドおよびポリペプチド断片に関する。典型的に、本発明のNogoポリペプチドおよびポリペプチド断片は、ニューロンの生存、神経突起伸長、または中枢神経系(CNS)ニューロンの軸索再生のNgR1媒介阻害を増強するよう作用する。さらに本発明は、NgRを特異的に発現する細胞またはニューロンを標的とするドラッグデリバリー機構として有用な特定のNogoポリペプチドおよびポリペプチド断片に関する。また本発明は、可能性のある薬剤候補のスクリーニング法に使用するための特定のNgRポリペプチドおよびポリペプチド断片に関する。
【0051】
ヒトのNogo−Aポリペプチドを配列番号2として以下に示す。
【0052】
完全長ヒトNogo−A(配列番号2)
【0053】
【化1】

完全長ヒトNgR−1を配列番号4として以下に示す。
【0054】
完全長ヒトNgR−1(配列番号4)
【0055】
【化2】

完全長ラットNgR−1を配列番号6として以下に示す。
【0056】
完全長ラットNgR−1(配列番号6)
【0057】
【化3】

特定の実施態様において、本発明は、30、40、50、60、70、80、90、または100残基以下の単離されたポリペプチド断片を提供し、ここで、該ポリペプチド断片は、Nogo参照アミノ酸配列と90%以上同一であるアミノ酸配列を含み、該ポリペプチド断片はNgR1に結合する。特定の実施態様において、該ポリペプチド断片は30残基以下である。この実施態様に従い、Nogo参照アミノ酸配列には、配列番号2のアミノ酸995〜1013、配列番号2のアミノ酸995〜1014、配列番号2のアミノ酸995〜1015、配列番号2のアミノ酸995〜1016、配列番号2のアミノ酸995〜1017、配列番号2のアミノ酸995〜1018、配列番号2のアミノ酸995〜1019、配列番号2のアミノ酸995〜1020、アミノ酸992〜1018、配列番号2のアミノ酸993〜1018、および配列番号2のアミノ酸994〜1018があるが、これらに限定されるものではない。該ポリペプチド断片をコードするポリヌクレオチド、さらには、該ポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞も本発明に含まれる。プロモーターのような発現調節要素との作用可能な結合を通じて該ポリペプチドを発現するポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主細胞も含まれる。
【0058】
「Nogo参照アミノ酸配列」または「参照アミノ酸配列」は、アミノ酸の置換が導入されていない特定の配列を意味する。当業者に明らかなとおり、置換がなければ、本発明の「単離されたポリペプチド」は、参照アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。
【0059】
この実施態様による例示的な参照アミノ酸配列には、配列番号2のアミノ酸995〜1013および配列番号2のアミノ酸995〜1018がある。
【0060】
ここに記載する配列番号2またはその断片と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、または95%同一である、Nogoポリペプチドまたはポリペプチド断片の対応する断片も意図するところである。当該技術において知られるとおり、2つのポリペプチド間の「配列同一性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列をもう1つのポリペプチドの配列と比較することにより求められる。ここで言及する場合、任意の特定のポリペプチドがもう1つのポリペプチドと少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、または95%同一であるかどうかは、当該技術において知られる方法およびコンピュータープログラム/ソフトウェア(例えば、BESTFITプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,WI 53711)を用いて判定することができる。BESTFITは、2つの配列間で相同な最適セグメントを見出すため、Smith−Watermanのローカルホモロジー(局所類似性)アルゴリズム(Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981))を用いている。例えば、ある特定の配列が本発明による参照配列と95%同一であるかどうかをBESTFITまたは他の任意の配列整合プログラムを用いて判定する場合、当然のことながら、参照ポリペプチド配列の全長にわたって同一性の百分率を計算して、参照配列におけるアミノ酸の総数の5%まで相同性の食い違いを許容するよう、パラメーターが設定される。
【0061】
一局面において、本発明に含まれるものには、2以上の上述したポリペプチド断片を融合タンパク質において含むポリペプチド、ならびに、上述したポリペプチド断片に異種アミノ酸配列が融合したものを含む融合タンパク質がある。本発明はさらに、上記ポリペプチド断片の変異体、類似体、または誘導体を含む。
【0062】
一実施態様において、本発明は、200残基以下、または190、180、170、160、150、140、130、若しくは125残基以下の単離されたポリペプチド断片を提供し、該ポリペプチド断片は、配列番号2のアミノ酸995〜1018と少なくとも80%、90%または95%同一である第1のアミノ酸配列を含み、ここで該第1のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸1055〜1086に直接的または間接的に結合されている。もう1つの実施態様において、該ポリペプチド断片は、配列番号2のアミノ酸1055〜1086に融合された配列番号2のアミノ酸995〜1018を含む。他の実施態様において、該ポリペプチド断片は、配列番号2のアミノ酸950〜1018、960〜1018、970〜1018、980〜1018、990〜1018、995〜1028、995〜1038、995〜1048、および995〜1054に少なくとも80%、90%、または95%同一であるアミノ酸配列を含み、ここで該ポリペプチド断片は、配列番号2のアミノ酸1055〜1086に結合または融合されている。もう1つの実施態様において、該ポリペプチド断片はNgR1に結合する。特定の実施態様において、該ポリペプチド断片は、NgRが媒介する神経突起伸長阻害を増強する。ラットNgR1もこの実施態様において意図するところである。もう1つの実施態様において、該ポリペプチド断片は配列番号5を含む。さらなる実施態様において、該ポリペプチド断片は、配列番号5から本質的になる。該ポリペプチド断片をコードするポリヌクレオチド、さらには該ポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞も本発明に含まれる。プロモーターのような発現調節要素との作用可能な結合を通じて該ポリペプチドを発現するポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主細胞も含まれる。
【0063】
24〜32融合ペプチドを配列番号5として以下に示す。
【0064】
NEP32に融合されたアミノ−Nogo24(配列番号5)
【0065】
【化4】

もう1つの実施態様において、本発明は、リガンド結合特性が変化したNgR1ポリペプチド変異体を提供する。例えば、本発明が提供する単離されたポリペプチドは、(a)配列番号4のアミノ酸67、68および71、(b)配列番号4のアミノ酸111、113および114、(c)配列番号4のアミノ酸133および136、(d)配列番号4のアミノ酸158、160、182、および186、(e)配列番号4のアミノ酸163、ならびに(f)配列番号4のアミノ酸232および234からなる群より選択されるアミノ酸位置でのアミノ酸置換を除いて、配列番号4(すなわち成熟したNgR1ポリペプチド)のアミノ酸27〜473を含む。特定の実施態様において、本発明のポリペプチドは、Nogo66、OMgp、Mag、またはLingo−1のいずれにも結合しない。
【0066】
もう1つの実施態様において、本発明が提供する単離されたポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸27〜473を含み、かつ(a)配列番号4のアミノ酸78および81、(b)配列番号4のアミノ酸87および89、(c)配列番号4のアミノ酸89および90、(d)配列番号4のアミノ酸95および97、(e)配列番号4のアミノ酸108、(f)配列番号4のアミノ酸117、119および120、(g)配列番号4のアミノ酸13、(h)配列番号4のアミノ酸210、ならびに(i)配列番号4のアミノ酸256および259からなる群より選択されるアミノ酸位置で少なくともアミノ酸置換を有する。特定の実施態様において、本発明のポリペプチドは、Nogo−66、OMgp、Mag、またはLingo−1の少なくとも1つに結合するが、それらのすべてに結合するものではない。ラットまたはマウスのNgR1の類似するNgR1ポリペプチド変異体も意図するところである。該ポリペプチド断片をコードするポリヌクレオチド、さらには該ポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞も本発明に含まれる。プロモーターのような発現調節要素との作用可能な結合を通じて該ポリペプチドを発現するポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主細胞もまた含まれる。
【0067】
意図する他の実施態様には、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードするポリヌクレオチド、ならびに、本発明のポリペプチドまたはその断片を発現する宿主細胞またはベクターがある。
【0068】
本発明のポリペプチドまたはその断片におけるアミノ酸残基は、任意の異種アミノ酸で置換することができる。特定の実施態様において、アミノ酸は、該ポリペプチドの三次元的コンフォメーションを変化させる可能性がもっとも低い小さな非荷電アミノ酸(例えばアラニン、セリン、トレオニン、好ましくはアラニン)で置換される。他の実施態様において、アミノ酸はアラニンで置換される。
【0069】
本発明において、ポリペプチドまたはその断片は、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合(すなわちペプチド同配体)により互いにつながれたアミノ酸からなることができ、および、20の遺伝子コードアミノ酸以外のアミノ酸(例えば天然に存在しないアミノ酸)を含んでもよい。本発明のポリペプチドは、自然のプロセス(例えば翻訳後プロセッシング)または当該技術において周知の化学修飾法のいずれかにより修飾することができる。そのような修飾は、基本的な教科書によく記載されており、また研究論文に詳細に記載されており、さらに、大部の研究文献に記載されている。修飾は、ペプチドの骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含むポリペプチドの任意の場所で起こり得る。明らかなとおり、同じ種類の修飾が、所定のポリペプチドのいくつかの部位において同じまたは異なる程度で存在してもよい。また、所定のポリペプチドは、多くの種類の修飾を含んでもよい。ポリペプチドは、枝分れしてもよく(例えば、ユビキチン化の結果)、またポリペプチドは、枝分れしたまたは枝分れのない、環状であってもよい。環状、枝分れ、または枝分れした環状のポリペプチドは、翻訳後の自然過程から生じるものであってもよいし、あるいは、合成法により作られるものであってもよい。修飾には、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、ビオチン化、フラビンの共有結合、ヘム成分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、システインの形成、ピログルタミン酸エステルの形成、ホルミル化、γ−カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカーの形成、ヒドロキシル化、ヨウ化、メチル化、ミリストイル化、酸化、PEG付加、タンパク質分解プロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、トランスファーRNAが媒介するタンパク質へのアミノ酸の付加(例えばアルギニル化)、およびユビキチン化がある(例えば、Proteins−Structure And Molecular Properties,2nd Ed.,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,New York(1993);Posttranslational Covalent Modification of Proteins,B.C.Johnson,Ed.,Academic Press,New York,pgs.1−12(1983);Seifter et al.,Meth Enzymol 182:626−646(1990);Rattan et al.,Ann NY Acad Sci 663:48−62(1992)参照)。
【0070】
ここに記載するポリペプチドまたはその断片は環状でもよい。ポリペプチドの環化は、直鎖状ペプチドの配座の自由度を減らし、より構造上制約された分子をもたらす。ペプチド環化の多くの方法が当該技術において知られる。例えば、ペプチドのN末端アミノ酸残基とC末端アミノ酸残基とのアミド結合形成による「骨格−骨格」の環化がある。この「骨格−骨格」環化の方法には、2つのω−チオアミノ酸残基(例えばシステイン、ホモシステイン)間のジスルフィド架橋形成が含まれる。本発明の特定のペプチドは、環状ポリペプチドを形成するため、ペプチドのN末端とC末端上に修飾を有する。そのような修飾には、システイン残基、アセチル化システイン残基、NH2部分を有するシステイン残基、およびビオチンがあるが、これらに限定されるものではない。ペプチド環化の他の方法はLi & Roller,Curr.Top.Med.Chem.3:325−341(2002)(この引用によりその内容はそっくり本明細書に記載されたものとする)に記載されている。
【0071】
本発明の特定の方法において、本発明のポリペプチドまたはその断片は、予め形成したポリペプチドとして直接投与することができ、あるいは、核酸ベクターを介して間接的に投与することができる。本発明のある実施態様において、本発明のポリペプチドまたはその断片は、(1)移植可能な宿主細胞を、本発明のポリペプチドまたはその断片を発現する核酸(例えばベクター)で形質転換または形質移入(トランスフェクト)すること、および(2)形質転換された宿主細胞を哺乳動物の疾患部位、障害部位または傷害部位に移植することを含む治療方法において投与される。本発明のある実施態様において、移植可能な宿主細胞は、哺乳動物から取り出され、一時的に培養され、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする単離された核酸で形質転換または形質移入され、そして、細胞が取り出された元の同じ哺乳動物に移植される。この細胞は、移植と同じ部位から取り出すことができるが、必ずしもそうである必要はない。そのような実施態様(ときに生体外遺伝子治療として知られる)は、本発明のポリペプチドまたはその断片を、作用部位に局在化させて、ある限られた時間、連続的に供給することができる。
【0072】
本発明のポリペプチドまたはその断片、ならびに、本発明を実施するためのそれらの分子を得る方法および材料についてさらなる例示を以下に述べる。
【0073】
(融合タンパク質および結合されたポリペプチド)
本発明のいくつかの態様は、完全長タンパク質でない本発明のポリペプチド(例えばポリペプチド断片)を使用して異種ポリペプチド成分に融合させ融合タンパク質を形成することを含む。そのような融合タンパク質は、種々の目的(例えば、血清半減期の向上、生物学的利用能の向上、特定の器官または組織種へのインビボ・ターゲッティング、組換え発現効率の向上、宿主細胞分泌の向上、精製し易さ、およびより高いアビディティー(結合活性))を達成するため用いることができる。達成すべき1つまたは複数の目的に応じて、異種の成分は、不活性なものまたは生物活性なものとすることができる。また、異種の成分は、本発明のポリペプチド成分に安定に融合されるよう選択することができ、あるいは、インビトロまたはインビボで切断可能になるよう選択することができる。これらの他の目的を達成するための異種成分は当該技術において知られている。
【0074】
融合タンパク質を発現させる代わりに、選ばれた異種成分を予め形成し、そして本発明のポリペプチド成分に化学的に結合させることができる。多くの場合、選ばれた異種成分は、ポリペプチド成分に融合されていようが結合されていようが、同様に機能する。従って、異種アミノ酸配列の以下の論述では、特に断らない限り、異種配列は、融合タンパク質の形態でまたは化学結合体としてポリペプチド成分に繋ぐことができると解釈すべきである。
【0075】
本発明のポリペプチドまたはその断片のような薬理学的に活性なポリペプチドは、インビボで速やかに除去される可能性があり、体内で治療上有効な濃度を達成するため大きな用量を必要とする可能性がある。さらに、約60kDaより小さなポリペプチドは、糸球体ろ過を受けるおそれがあり、それは時に腎毒性をもたらす。比較的小さなポリペプチドの融合または結合を、そのような腎毒性のリスクを低減または回避するため用いることができる。治療ポリペプチドのインビボでの安定性(すなわち血清半減期)を高める種々の異種アミノ酸配列(すなわちポリペプチド成分または「担体」)が知られている。具体例には、血清アルブミン類(例えばウシ血清アルブミン(BSA)またはヒト血清アルブミン(HSA))がある。
【0076】
その長い半減期、広いインビボでの分布、そして酵素的機能または免疫機能の欠如のため、実質的に完全長のヒト血清アルブミン(HSA)またはHSA断片が、一般的に異種成分として用いられる。Yeh et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:1904−08(1992)およびSyed et al.,Blood 89:3243−52(1997)に示されるような方法および材料を適用することにより、HSAを融合タンパク質またはポリペプチド結合体の形成に用いることができ、そのような融合タンパク質またはポリペプチド結合体は、ポリペプチド成分の効力によって薬理活性を示す一方、顕著に向上したインビボ安定性(例えば10倍〜100倍高い)を示す。HSAのC末端は、ポリペプチド成分のN末端に融合させることができる。HSAは天然の分泌タンパク質であるため、細胞培養培地への融合タンパク質の分泌をもたらすためHSAシグナル配列を利用することができ、その場合、融合タンパク質は、真核生物(例えば哺乳動物の発現系)において生産される。
【0077】
本発明のいくつかの実施態様は、ヒンジおよびFc領域(すなわちIg重鎖定常領域のC末端部分)に融合されたポリペプチド成分を利用する。ポリペプチド−Fc融合体の可能な利点には、溶解性、インビボ安定性、および多価性(例えば二量化)がある。使用するFc領域は、IgA、IgD、またはIgGのFc領域(ヒンジ−CH2−CH3)とすることができる。一方、それはIgEまたはIgMのFc領域(ヒンジ−CH2−CH3−CH4)とすることができる。IgGのFc領域、例えばIgG1のFc領域またはIgG4のFc領域を一般的に用いることができる。Fc融合体をコードするDNAの構築および発現のための材料および方法は、当該技術において知られており、必要以上の実験を行うことなく融合体を得るため適用することができる。本発明のある実施態様は、Capon他の米国特許第5428130号および第5565335号に記載されるような融合タンパク質を利用する。
【0078】
シグナル配列は、小胞体の膜を横切るタンパク質の輸送を開始させるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドである。免疫融合体の構築に有用なシグナル配列には、抗体軽鎖シグナル配列(例えば抗体14.18(Gillies et al.,J.Immunol.Meth.,125:191−202(1989))、抗体重鎖シグナル配列(例えばMOPC141抗体重鎖シグナル配列(Sakano et al.,Nature 286:5774(1980))がある。一方、他のシグナル配列を用いることもできる(例えばWatson,Nucl.Acids Res.12:5145(1984)参照)。シグナルペプチドは、通常、シグナルペプチダーゼにより小胞体の内腔において切断される。この結果、Fc領域とポリペプチド成分を含む免疫融合タンパク質の分泌がもたらされる。
【0079】
いくつかの実施態様において、DNA配列は、分泌カセットとポリペプチド成分との間のタンパク質分解切断部位をコードしてもよい。そのような切断部位は、例えば、コードされた融合タンパク質のタンパク質分解切断をもたらし、その結果、Fcドメインは目的のタンパク質から分離される。有用なタンパク質分解切断部位には、タンパク質分解酵素(例えばトリプシン、プラスミン、トロンビン、第Xa因子、またはエンテロキナーゼK)により認識されるアミノ酸配列がある。
【0080】
分泌カセットは、複製可能な発現ベクターに組み込むことができる。有用なベクターには、直鎖状核酸、プラスミド、ファージミド、コスミドなどがある。具体的な発現ベクターとしてpdCがあり、そこにおいて、免疫融合DNAの転写は、ヒトサイトメガロウイルスのエンハンサーおよびプロモーターの調節下に置かれる(例えばLo et al.,Biochim.Biophys.Acta 1088:712(1991);およびLo et al.,Protein Engineering 11:495−500(1998)参照)。適切な宿主細胞を、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードするDNAで形質転換または形質移入させることができ、そして該ポリペプチドの発現および分泌に用いることができる。一般的に利用される宿主細胞には、不死化ハイブリドーマ細胞、骨髄腫細胞、293細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)細胞、ヒーラ細胞、およびCOS細胞がある。
【0081】
十分に無傷である野生型Fc領域は、本発明の方法に使用されるFc融合タンパク質において通常不要であるか望ましくないエフェクター機能を示す。従って、通常、所定の結合部位を、分泌カセットの構築過程においてFc領域から除去する。例えば、軽鎖との共発現は不要であるため、重鎖結合タンパク質Bip(Hendershot et al.,Immunol.Today 8:111−14(1987))に対する結合部位を、IgEにおけるFc領域のCH2ドメインから除去し、この部位が免疫融合体の効率的な分泌を妨害しないようにすることができる。膜貫通ドメイン配列(例えばIgMに存在するもの)もまた一般的に除去される。
【0082】
IgG1のFc領域が最もよく用いられる。その代わりに、免疫グロブリンガンマの他のサブクラス(ガンマ−2、ガンマ−3およびガンマ−4)のFc領域を分泌カセットに用いてもよい。免疫グロブリンガンマ−1のIgG1Fc領域が一般的に分泌カセットに使用され、それは、CH3領域、CH2領域、およびヒンジ領域の少なくとも一部を含むものである。ある実施態様において、免疫グロブリンガンマ−1のFc領域は、CH2が除去されたFcであり、これはCH3領域とヒンジ領域の一部を含む一方、CH2領域を含まないものである。CH2が除去されたFcは、Gillies et al.,Hum.Antibod.Hybridomas 1:47(1990)に記載されている。ある実施態様においては、IgA、IgD、IgE、またはIgMの1つのFc領域が使用される。
【0083】
ポリペプチド成分−Fc融合タンパク質は、いくつかの異なる構成で組み立てることができる。1つの構成では、ポリペプチド成分のC末端がFcヒンジ部分のN末端に直接融合される。少し異なる構成では、短いポリペプチド(例えば2〜10アミノ酸)が、融合体におけるポリペプチド成分のN末端とFc成分のC末端の間に組み込まれる。そのようなリンカーは、構造の柔軟性をもたらし、それはある環境において生物活性を向上させることができる。ヒンジ領域の十分な部分がFc成分に保持されている場合、ポリペプチド成分−Fc融合体は二量化することができ、従って、二価の分子を形成することができる。単量体Fc融合体の同種集合体は、単特異性で二価の二量体をもたらす。それぞれ異なる特異性を有する二種の単量体Fc融合体の混合物は、二重特異性で二価の二量体をもたらす。
【0084】
対応するアミノ反応性基とチオール反応性基を含む多くの架橋剤の任意のものを用いて、本発明のポリペプチドまたはその断片を血清アルブミンに結合させることができる。適切な架橋剤の例には、チオール反応性マレイミドを挿入するアミン反応性架橋剤、例えば、SMCC、AMAS、BMPS、MBS、EMCS、SMPB、SMPH、KMUS、およびGMBSがある。他の適切な架橋剤には、チオール反応性ハロアセテート基を挿入するものがあり、例えばSBAP、SIA、SIABがある。スルフヒドリル基との反応のため保護されたまたは保護されていないチオールを付与し、還元可能な結合を生成させる架橋剤には、SPDP、SMPT、SATA、およびSATPがある。これらの試薬は市販されている(例えばPierce Chemical Company,Rockford,IL)。
【0085】
結合は、本発明のポリペプチドまたはその断片のN末端、または血清アルブミンのチオール部分を伴わなくともよい。例えば、ポリペプチド−アルブミン融合体は、遺伝子操作法を用いて得ることができ、そこにおいて、ポリペプチド成分は、そのN末端、C末端または両方において血清アルブミン成分と融合される。
【0086】
本発明のポリペプチドまたはその断片は、ポリペプチドタグと融合させることができる。ここで使用する用語「ポリペプチドタグ」は、本発明のポリペプチドまたはその断片に付加、接続、または結合することができ、そして、該ポリペプチドまたはその断片を識別、精製、濃縮、または分離することができる任意の配列のアミノ酸を意味することを意図している。ポリペプチドまたはその断片へのポリペプチドタグの付加は、例えば、(a)該ポリペプチドタグをコードする核酸配列および(b)本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする核酸配列を含む核酸分子を構築することにより、起こり得る。具体的なポリペプチドタグには、例えば、翻訳後に修飾することができるアミノ酸配列(例えばビオチン化されるアミノ酸配列)がある。他の具体的なポリペプチドタグには、例えば、抗体(またはその断片)または他の特異的結合試薬が認識および/または結合できるアミノ酸配列がある。抗体(またはその断片)または他の特異的結合試薬が認識できるポリペプチドタグには、例えば、当該技術において「エピトープタグ」として知られるものがある。エピトープタグは、天然のエピトープタグでもよいし、人工のエピトープタグでもよい。天然および人工のエピトープタグは、当該技術において知られており、例えば、FLAG、Strep、またはポリヒスチジンペプチドのような人工エピトープがある。FLAGペプチドには、配列Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys(配列番号 )またはAsp−Tyr−Lys−Asp−Glu−Asp−Asp−Lys(配列番号 )がある(Einhauer,A.and Jungbauer,A.,J.Biochem.Biophys.Methods 49:1−3:455−465(2001))。Strepエピトープは、配列Ala−Trp−Arg−His−Pro−Gln−Phe−Gly−Gly(配列番号 )を有する。またVSV−Gエピトープも使用することができ、それは、配列Tyr−Thr−Asp−Ile−Glu−Met−Asn−Arg−Leu−Gly−Lys(配列番号 )を有する。もう1つの人工エピトープは、6つのヒスチジン残基を有するポリ−His配列である(His−His−His−His−His−His(配列番号 ))。天然に存在するエピトープには、モノクローナル抗体12CA5により認識されるインンフルエンザウイルス血球凝集素(HA)配列Tyr−Pro−Tyr−Asp−Val−Pro−Asp−Tyr−Ala−Ile−Glu−Gly−Arg(配列番号 )(Murray et al.,Anal.Biochem.229:170−179(1995))およびモノクローナル抗体9E10により認識されるヒトc−myc(Myc)由来の11アミノ酸の配列(Glu−Gln−Lys−Leu−Leu−Ser−Glu−Glu−Asp−Leu−Asn(配列番号 ))(Manstein et al.,Gene 162:129−134(1995))がある。他の有用なエピトープは、モノクローナル抗体YL1/2によって認識されるトリペプチドGlu−Glu−Pheである(Stammers et al.,FEBS Lett.283:298−302(1991))。
【0087】
特定の実施態様において、本発明のポリペプチドまたはその断片とポリペプチドタグとは、連結アミノ酸配列を介して接続されてもよい。ここで使用する「連結アミノ酸配列」は、1種以上のプロテアーゼが認識かつ/または切断できるアミノ酸配列とすることができる。1種以上のプロテアーゼが認識かつ/または切断できるアミノ酸配列は、当該技術において知られている。具体的なアミノ酸配列には、以下のプロテアーゼによって認識されるものがある:第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、APC、t−PA、u−PA、トリプシン、キモトリプシン、エンテロキナーゼ、ペプシン、カテプシンB、H、L、S、D、カテプシンG、レニン、アンギオテンシン変換酵素、マトリックスメタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ、ストロメリシン、ゼラチナーゼ)、マクロファージエラスターゼ、Cir、およびCis。上記プロテアーゼにより認識されるアミノ酸配列は当該技術において知られている。特定のプロテアーゼにより認識される具体的な配列は、例えば、米国特許第5811252号に見出すことができる。
【0088】
ポリペプチドタグは、市販のクロマトグラフィー媒質を用いる精製を容易にすることができる。
【0089】
本発明のいくつかの実施態様において、ポリペプチド融合構造物は、細菌における本発明のポリペプチド成分の生産を高めるため使用される。そのような構造物において、通常高いレベルで発現かつ/または分泌される細菌タンパク質が、本発明のポリペプチドまたはその断片のN−末端融合パートナーとして用いられる(例えば、Smith et al.,Gene 67:31(1988);Hopp et al.,Biotechnology 6:1204(1988);La Vallie et al.,Biotechnology 11:187(1993)参照)。
【0090】
本発明のポリペプチド成分を適切な融合パートナーのアミノ末端およびカルボキシ末端において融合することにより、本発明のポリペプチドまたはその断片の二価形または四価形を得ることができる。例えば、本発明のポリペプチド成分を、Ig成分のアミノ末端およびカルボキシ末端に融合して、本発明の2つのポリペプチド成分を含む二価の単量体ポリペプチドを生成させることができる。これらの単量体2つを二量化することにより、Ig成分のおかげで、本発明のポリペプチドの四価形が得られる。そのような多価形は、標的への結合親和性を高めるため用いることができる。また、本発明のポリペプチドまたはその断片の多価形は、本発明のポリペプチド成分を縦一列に配置してコンカテマーを形成することにより得ることができる。コンカテマーは、単独で使用することができ、あるいは、IgまたはHSAのような融合パートナーに融合させることができる。
【0091】
(結合されるポリマー(ポリペプチド以外))
本発明のいくつかの実施態様は、本発明のポリペプチドまたはその断片を用い、そこにおいて、1種以上のポリマーが本発明のポリペプチドまたはその断片と結合(共有結合)される。そのような結合に適するポリマーの例には、ポリペプチド類(上述)、糖ポリマー類、およびポリアルキレングリコール鎖がある。典型的に、しかし必ずしもそうする必要はないが、溶解性、安定性、または生物学的利用能の1つ以上を向上させるため、本発明のポリペプチドまたはその断片にポリマーを結合させる。
【0092】
本発明のポリペプチドまたはその断片への結合に一般的に使用されるポリマーの種類としてポリアルキレングリコールがある。ポリエチレングリコール(PEG)が最も多く使用される。PEG成分(例えば1、2、3、4、または5のPEGポリマー)を、本発明のポリペプチドまたはその断片のそれぞれに結合させることにより、本発明のポリペプチドまたはその断片だけの場合に対し、血清半減期を伸ばすことができる。PEG成分は、非抗原性であり、実質的に生物学的に不活性である。本発明の実施に使用されるPEG成分は枝分れしたものでも枝分れしていないものでもよい。
【0093】
本発明のポリペプチドまたはその断片に結合されるPEG成分の数、および個々のPEG鎖の分子量は、変わり得る。一般に、該ポリマーの分子量が高ければ高いほど、ポリペプチドに結合されるポリマー鎖は少なくなる。通常、本発明のポリペプチドまたはその断片に結合されるポリマーの総質量は、20kDa以上40kDa以下である。従って、1つのポリマー鎖を結合させる場合、その鎖の分子量は通常20〜40kDaである。2つの鎖を結合させる場合、各鎖の分子量は通常10〜20kDaである。3つの鎖を結合させる場合、その分子量は通常7〜14kDaである。
【0094】
ポリマー(例えばPEG)は、ポリペプチド上で露出した任意の適切な反応性基を介して本発明のポリペプチドまたはその断片に結合させることができる。1つまたは複数の露出した反応性基は、例えば、N末端のアミノ基もしくは内部リシン残基のε−アミノ基、またはその両方とすることができる。活性化されたポリマーを、本発明のポリペプチドまたはその断片上にある任意の遊離アミノ基に対して反応させ共有結合させることができる。また、本発明のポリペプチドまたはその断片の遊離のカルボキシル基、適切には活性化されたカルボニル基、ヒドロキシル基、グアニジル基、イミダゾール基、酸化された炭水化物部分、およびメルカプト基を(利用可能であれば)ポリマー結合用の反応性基として用いることができる。
【0095】
結合反応では、ポリペプチドの濃度に応じて、ポリペプチド1モルあたり、約1.0〜約10モルの活性化ポリマーを典型的に使用する。通常、反応を最大にすることと、本発明のポリペプチド成分の望ましい薬理活性を損なう可能性のある副反応(しばしば非特異的)を最小にすることのバランスを反映して上記比率が選ばれる。本発明によるポリペプチドまたはその断片の生物活性(例えば、ここに記載されるかまたは当該技術で知られるアッセイのいずれかで明らかにされるような生物活性)の少なくとも50%が維持されることが好ましく、そのほぼ100%が維持されることが最も好ましい。
【0096】
ポリマーは、一般的な化学作用を用いて本発明のポリペプチドまたはその断片に結合させることができる。例えば、ポリアルキレングリコール成分は、本発明のポリペプチドまたはその断片のリシンεアミノ基に結合させることができる。リシン側鎖への結合は、N−ヒドロキシルスクシンイミド(NHS)活性エステル(例えばPEGコハク酸スクシンイミジル(SS−PEG)およびプロピオン酸スクシンイミジル(SPA−PEG))を用いて行うことができる。適切なポリアルキレングリコール成分には、例えば、カルボキシメチル−NHSおよびノルロイシン−NHS、SCがある。これらの試薬は市販されている。他のアミン反応性PEGリンカーを、スクシンイミジル成分の代わりに用いることができる。それらには、例えば、イソチオシアネート、ニトロフェニルカルボネート(PNP)、エポキシド、ベンゾトリアゾールカルボネート、SC−PEG、トレシレート、アルデヒド、エポキシド、カルボニルイミダゾール、およびPNPカルボネートがある。一般的に条件を最適化して反応の選択性および程度を最大にする。反応条件のそのような最適化は、当該技術における通常の技術の範囲内である。
【0097】
PEG付加は、当該技術において知られるPEG付加反応のいずれかにより行うことができる(例えばFocus on Growth Factors,3:4−10,1992および欧州特許出願EP0154316およびEP0401384参照)。PEG付加は、反応性ポリエチレングリコール分子(または類似する反応性の水溶性ポリマー)とのアシル化反応またはアルキル化反応を用いて行うことができる。
【0098】
アシル化によるPEG付加では、一般的に、ポリエチレングリコールの活性エステル誘導体を反応させる。任意の反応性PEG分子をPEG付加に用いることができる。N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)にエステル化したPEGは、よく使用される活性化PEGエステルである。ここで使用する「アシル化」には、例えば、治療用タンパク質と水溶性ポリマー(例えばPEG)との間で以下のような種類の結合が含まれる:アミド、カーバメート、ウレタンなど(例えばBioconjugate Chem.5:133−140,1994参照)。反応パラメーターは、一般的に、本発明のポリペプチドまたはその断片を損傷または不活性化するような温度、溶媒、およびpH条件を回避するように、選択される。
【0099】
一般的に、接続結合はアミドであり、そして典型的に、得られる生成物の95%以上がモノPEG付加物、ジPEG付加物、またはトリPEG付加物である。しかし、より高度のPEG付加を伴ういくつかの種が、使用する特定の反応条件に応じた量で形成され得る。必要に応じて、通常の精製方法(例えば、透析、塩析、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性交換クロマトグラフィー、および電気泳動を含む)により、精製されたPEG付加物種を混合物(特に未反応種)から分離する。
【0100】
アルキル化によるPEG付加では、一般的に、還元剤の存在下、本発明のポリペプチドまたはその断片をPEGの末端アルデヒド誘導体と反応させる。さらに、PEG付加が実質的に本発明のポリペプチドまたはその断片のN末端アミノ基のみにおいて優先的に起こるように(すなわちモノPEG付加タンパク質)、反応条件を操作することができる。モノPEG付加またはポリPEG付加のいずれの場合でも、PEG基は、典型的に−CH2−NH−基を介してタンパク質に結合される。特に−CH2−基に関し、この種の結合は「アルキル」結合として知られている。
【0101】
N末端に的を絞ったモノPEG付加物を生成させるための還元性アルキル化を介する誘導体化は、誘導体化に利用できる異なる種類の第1アミノ基の反応性の違い(リシン対N末端)を利用する。この反応は、リシン残基のε−アミノ基とタンパク質のN末端アミノ基との間のpKa差が利用できるようなpHで行われる。そのような選択的誘導体化により、反応性基(例えばアルデヒド)を含む水溶性ポリマーのタンパク質への結合は、制御される。すなわち、ポリマーによる結合は、タンパク質のN末端において優先的に起こり、他の反応性基(例えばリシン側鎖アミノ基)の顕著な修飾は起こらない。
【0102】
アシル化法およびアルキル化法の両方で使用されるポリマー分子は、水溶性ポリマーの中から選ばれる。選ばれたポリマーは、一般的に、単一の反応性基(例えばアシル化のための活性エステルまたはアルキル化のためのアルデヒド)を持つように修飾され、それにより、重合度を本方法において示されたように制御することができる。具体的な反応性PEGアルデヒドには、水溶性であるポリエチレングリコールプロピオンアルデヒド、またはそのモノC1〜C10アルコキシもしくはアリールオキシ誘導体がある(例えばHarris et al.,米国特許第5252714号参照)。ポリマーは、枝分れしたものでもよいし枝分れしていないものでもよい。アシル化反応のため、選ばれた1つまたは複数のポリマーは、典型的に単一の反応性エステル基を有する。還元性アルキル化のため、選ばれた1つまたは複数のポリマーは、典型的に単一の反応性アルデヒド基を有する。一般的に、水溶性ポリマーは、天然に存在するグリコシル残基から選ばれることはない。というのも、それらは一般的に、哺乳動物の組換え発現系によってより都合よく作られるからである。
【0103】
本発明のPEG付加されたポリペプチドまたはポリペプチド断片を調製する方法は、一般的に(a)本発明のポリペプチドまたはその断片を、該分子が1以上のポリエチレングリコール(PEG)基に結合されるような条件下において、ポリエチレングリコール(例えば、PEGの反応性エステル誘導体またはPEGの反応性アルデヒド誘導体)と反応させる工程、および(b)1つまたは複数の反応生成物を得る工程を含む。一般的に、アシル化反応のための最適な反応条件は、既知のパラメーターおよび所望する結果に基づいてケースバイケースで求められる。例えば、タンパク質に対するPEGの比が大きくなればなるほど、一般的に、ポリPEG付加物の百分率が大きくなる。
【0104】
モノ−ポリマー/本発明のポリペプチドまたはその断片の実質的に均質な群を生成させるための還元的アルキル化は、一般的に、(a)還元的アルキル化条件下で、本発明のポリペプチドまたはその断片のN末端アミノ基の選択的修飾を可能にするのに適切なpHにおいて、本発明のポリペプチドまたはその断片を反応性PEG分子と反応させる工程、および(b)1つまたは複数の反応生成物を得る工程を含む。
【0105】
モノ−ポリマー/本発明のポリペプチドまたはその断片の実質的に均質な群を得るため、還元的アルキル化反応の条件は、本発明のポリペプチドまたはその断片のN末端に水溶性ポリマー成分を選択的に結合させるような条件である。そのような反応条件は、リシン側鎖アミノ基とN末端アミノ基との間にpKa差をもたらすものである。本発明の目的のため、このpHは一般的に3〜9の範囲内にあり、典型的に3〜6の範囲内にある。
【0106】
本発明のポリペプチドまたはその断片は、タグ(標識)(例えばタンパク質分解によって後に放出させることができる成分)を含むことができる。従って、リシンおよびN末端の両方と反応する低分子量のリンカー(例えばトラウト(Traut’s)試薬(Pierce Chemical Company,Rockford,IL))で修飾されたHisタグを最初に反応させ、次いでHisタグを放出させることにより、リシン部分を選択的に修飾することができる。その結果、ポリペプチドは遊離のSH基を含むこととなり、該SH基は、チオール反応性の頭基(例えばマレイミド基、ビニルスルホン基、ハロアセテート基、または遊離のもしくは保護されたSH)を有するPEGで選択的に修飾することができる。
【0107】
トラウト試薬は、PEG付加のため特異的な部位をもたらす任意のリンカーに置き換えることができる。例えば、トラウト試薬は、SPDP、SMPT、SATA、またはSATP(Pierce Chemical Company,Rockford,IL)に置き換えることができる。同様に、マレイミドを挿入するアミン反応性リンカー(例えばSMCC、AMAS、BMPS、MBS、EMCS、SMPB、SMPH、KMUS、またはGMBS)、ハロアセテート基を挿入するアミン反応性リンカー(SBAP、SIA、SIAB)、またはビニルスルホン基を挿入するアミン反応性リンカーとタンパク質を反応させることができ、そして遊離SHを有するPEGと得られた生成物を反応させることができる。
【0108】
いくつかの実施態様において、ポリアルキレングリコール成分を、本発明のポリペプチドまたはその断片のシステイン基に結合させる。結合は、例えばマレイミド基、ビニルスルホン基、ハロアセテート基、またはチオール基を用いて行うことができる。
【0109】
必要に応じて、本発明のポリペプチドまたはその断片を、不安定結合を介してポリエチレングリコール成分に結合させることができる。この不安定結合は、例えば、生化学的加水分解、タンパク質分解、またはスルフヒドリル切断において、切断することができる。例えば、この結合は、インビボ(生理的)条件下で切断することができる。
【0110】
反応性基がN末端のα−アミノ基上に存在する場合、反応は、生物活性物質を不活性なポリマーと反応させるのに使用される任意の適切な方法により、一般的に約5〜8のpH、例えばpH5、6、7、または8において、起こり得る。一般的に、このプロセスは、活性化されたポリマーを調製することと、その後タンパク質を活性化されたポリマーと反応させて処方に適する可溶性タンパク質を生成させることを含む。
【0111】
本発明のポリペプチドまたはその断片は、特定の実施態様において、可溶性ポリペプチドである。ポリペプチドを可溶性にする方法、またはポリペプチドの溶解性を高める方法は、当該技術においてよく知られている。
【0112】
(ポリヌクレオチド)
また本発明は、本発明のポリペプチドまたはその断片の任意の1つをコードする単離されたポリヌクレオチドを含む。さらに本発明は、本発明のポリペプチドの任意の1つをコードするポリヌクレオチドの非コード鎖すなわち相補鎖と、中程度にストリンジェントな条件下または高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む。ストリンジェントな条件は当業者に知られており、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,N.Y.(1989),6.3.1−6.3.6において見出すことができる。
【0113】
ヒトNogo−Aポリヌクレオチドを配列番号1として以下に示す。
【0114】
ヌクレオチド135〜ヌクレオチド3710によりコードされる完全長ヒトNogo−A(配列番号1)
【0115】
【化5−1】

【0116】
【化5−2】

ヒトNogo受容体−1ポリヌクレオチドを配列番号3として以下に示す。
【0117】
ヌクレオチド13〜ヌクレオチド1422によってコードされる完全長ヒトNogo受容体−1(配列番号3)
【0118】
【化6】

(ベクター)
また、本発明の方法に使用するポリペプチドを生成させるため、本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする核酸を含むベクターを用いることができる。ベクターおよびそのような核酸に作用可能に結合される発現調節配列の選択は、必要な機能的特性(例えばタンパク質発現)および形質転換すべき宿主細胞に応じて変わってくる。
【0119】
作用可能に結合されたコード配列の発現を制御するため有用な発現調節要素は、当該技術において知られている。具体例には、例えば、誘導プロモーター、構成的プロモーター、分泌シグナル、および他の調節要素があるが、これらに限定されない。誘導プロモーターを使用する場合、それは、例えば、宿主細胞培地において、栄養状態の変化または温度変化により制御することができる。
【0120】
ベクターは、原核生物のレプリコン(すなわち細菌宿主細胞において染色体外で組換えDNA分子の自律的複製および保存を誘導できる能力を有するDNA配列)を含むことができる。そのようなレプリコンは当該技術においてよく知られている。さらに、原核生物のレプリコンを含むベクターは、薬剤耐性のような検出可能なマーカーを発現によってもたらす遺伝子を含むことができる。細菌の薬剤耐性遺伝子の具体例には、アンピシリンまたはテトラサイクリンに対する耐性をもたらすものがある。
【0121】
また原核生物のレプリコンを含むベクターは、細菌宿主細胞においてコード遺伝子配列の発現を誘導するため、原核生物またはバクテリオファージのプロモーターを含むことができる。細菌宿主に適合するプロモーター配列は、典型的に、発現すべきDNAセグメントの挿入用に都合がよい制限部位を含むプラスミドベクターに設けられる。そのようなプラスミドベクターの例には、pUC8、pUC9、pBR322およびpBR329(BioRad Laboratories,Hercules,CA)、pPLならびにpKK223がある。本発明の方法に使用されるタンパク質をコードする組換えDNA分子を発現させるため、任意の適切な原核生物宿主を用いることができる。
【0122】
本発明の目的のため、多数の発現ベクター系が使用可能である。例えば、ベクターの1種は、動物ウイルス(例えばウシ乳頭腫ウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス(RSV、MMTVおよびMOMLV)またはSV40ウイルス)に由来するDNA構成要素を用いるものである。他のものには、内部リボソーム結合部位を有するポリシストロン系を用いるものがある。さらに、トランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする1種以上のマーカーを導入することにより、DNAをその染色体に組み込んだ細胞を選択することができる。マーカーは、ある栄養要求性宿主に対する原栄養性、殺生剤耐性(例えば抗生物質)、または重金属(例えば銅)に対する耐性をもたらすことができる。選択可能なマーカー遺伝子は、発現させるべきDNA配列に直接結合させることができ、あるいは、共形質転換により同じ細胞に導入することができる。ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子は選択可能なマーカー遺伝子の一例である(Southern et al.,J.Mol.Anal.Genet.1:327−341(1982))。さらなる要素が、mRNAの最適合成にさらに必要となる場合がある。それらの要素には、シグナル配列、スプライスシグナル、さらには転写プロモーター、エンハンサー、および終結シグナルが含まれ得る。
【0123】
一実施態様において、Biogen IDEC,Inc.が自社開発した発現ベクター(NEOSPLAと呼ばれる(米国特許第6159730号))を用いることができる。このベクターは、サイトメガロウイルスのプロモーター/エンハンサー、マウスβグロビン主要プロモーター、SV40複製起点、ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼエキソン1およびエキソン2、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、ならびにリーダー配列を含んでいる。このベクターは、CHO細胞でのトランスフェクション、その後のG418含有培地における選別およびメトトレキセート増幅により、非常に高いレベルの発現をもたらすことがわかっている。勿論、真核細胞で発現を誘導できる任意の発現ベクターを本発明に用いてもよい。適切なベクターの具体例には、例えば、プラスミドpcDNA3、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEF1/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zco2、pTRACER−HCMV、pUB6/V5−His、pVAX1、およびpZeoSV2(Invitrogen,San Diego,CAから入手可能)、ならびにプラスミドpCI(Promega,Madison,WIから入手可能)があるが、これらに限定されるものではない。さらに別の真核細胞発現ベクターも当該技術において知られており、市販されている。一般にそのようなベクターは、必要なDNAセグメントの挿入のため都合のよい制限部位を含んでいる。具体的なベクターには、pSVLおよびpKSV−10(Pharmacia)、pBPV−1、pml2d(International Biotechnologies)、pTDT1(ATCC31255)、レトロウイルス発現ベクターpMIGおよびpLL3.7、アデノウイルスシャトルベクターpDC315、およびAAVベクターが含まれる。他の具体的なベクター系は例えば米国特許第6413777号に開示されている。
【0124】
一般に、適切に高いレベルのアンタゴニスト(拮抗物質)を発現するものについて多数の形質転換された細胞をスクリーニングすることは、慣用実験法であり、例えばロボットシステムにより行うことができるものである。
【0125】
哺乳動物宿主細胞の発現によく使用される調節配列には、哺乳動物において高レベルのタンパク質発現を誘導するウイルス構成要素、例えば、レトロウイルスのLTRに由来するプロモーターおよびエンハンサー、サイトメガロウイルス(CMV)に由来するプロモーターおよびエンハンサー(例えばCMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)に由来するプロモーターおよびエンハンサー(例えばSV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルスに由来するプロモーターおよびエンハンサー(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdmlP))、ポリオーマに由来するプロモーターおよびエンハンサー、ならびに強い哺乳動物のプロモーター(例えば天然の免疫グロブリンおよびアクチンのプロモーター)がある。ウイルスの調節要素およびその配列のさらなる説明については、例えばStinski,米国特許第5168062号、Bell,米国特許第4510245号、およびSchaffner,米国特許第4968615号を参照されたい。
【0126】
組換え発現ベクターは、宿主細胞でのベクターの複製を調節する配列(例えば複製起点)および選択可能なマーカー遺伝子を保有することができる。選択可能なマーカー遺伝子は、該ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(例えばAxel,米国特許第4399216号、第4634665号、および第5179017号参照)。例えば、典型的に、選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞に薬剤(例えばG418、ハイグロマイシン、またはメトトレキセート)耐性を付与する。よく使用される選択可能なマーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキセート選択/増幅とともにdhfr−宿主細胞で使用)およびneo遺伝子(G418選択用)がある。
【0127】
ポリペプチドまたはポリペプチド断片をコードするベクターは、適切な宿主細胞の形質転換に使用することができる。形質転換は任意の適切な方法によることができる。外来DNAを哺乳動物細胞に導入する方法は、当該技術において周知であり、例えば、デキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ポリヌクレオチドのリポソームへのカプセル化、および核へのDNAの直接的なマイクロインジェクションを含む。さらに、核酸分子は、ウイルスベクターにより、哺乳動物細胞に導入することができる。
【0128】
宿主細胞の形質転換は、使用するベクターおよび宿主細胞に適した通常の方法により達成することができる。原核宿主細胞の形質転換には、エレクトロポレーションおよび塩処理法が利用できる(Cohen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:2110−14(1972))。脊椎動物細胞の形質転換には、エレクトロポレーション、カチオン脂質処理法、または塩処理法が利用できる(例えばGraham et al.,Virology 52:456−467(1973);Wigler et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:1373−76(1979)参照)。
【0129】
タンパク質発現に使用される宿主細胞株は、哺乳動物起源のものが最も好ましい。当業者は、そこで発現すべき必要な遺伝子産物に最も適した特定の宿主細胞株を優先的に決定する能力を有しているはずである。具体的な宿主細胞株には、例えば、NSO、SP2細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞がん細胞(例えばHep G2)、A549細胞DG44およびDUXB11(チャイニーズハムスター卵巣系、DHFRマイナス)、HELA(ヒト子宮頸がん)、CVI(サル腎臓系)、COS(SV40T抗原によるCVIの誘導体)、R1610(チャイニーズハムスター線維芽細胞)、BALBC/3T3(マウス線維芽細胞)、HAK(ハムスター腎臓系)、SP2/O(マウス骨髄腫)、P3x63−Ag3.653(マウス骨髄腫)、BFA−1c1BPT(ウシ内皮細胞)、RAJI(ヒトリンパ球)、および293(ヒト腎臓)があるが、これらに限定されるものではない。宿主細胞株は、民間のサービス、American Tissue Culture Collection、または刊行された文献から利用可能である。
【0130】
生産細胞株からのポリペプチドの発現は、既知の技法を用いて増強することができる。例えば、グルタミンシンテターゼ(GS)系が、特定の条件下、発現の増強によく用いられる(例えば、欧州特許第0216846号、第0256055号および第0323997号、ならびに欧州特許出願第89303964.4号参照)。
【0131】
真核細胞発現系は、当該技術において知られており、市販されている。典型的に、そのようなベクターは、必要なDNAセグメントの挿入のため、都合のよい制限部位を含んでいる。具体的なベクターには、pSVLおよびpKSV−10、pBPV−1、pml2d、pTDT1(ATCC31255)、レトロウイルス発現ベクターpMIG、アデノウイルスシャトルベクターpDC315、ならびにAAVベクターがある。
【0132】
真核細胞発現ベクターは、選択可能なマーカー(例えば薬剤耐性遺伝子)を含むことができる。ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子はそのような遺伝子の一例である(Southern et al.,J.Mol.Anal.Genet.1:327−341(1982))。
【0133】
哺乳動物宿主細胞の発現によく使用される調節配列には、哺乳動物において高レベルのタンパク質発現を誘導するウイルス構成要素、例えば、レトロウイルスのLTRに由来するプロモーターおよびエンハンサー、サイトメガロウイルス(CMV)に由来するプロモーターおよびエンハンサー(例えばCMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)に由来するプロモーターおよびエンハンサー(例えばSV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルスに由来するプロモーターおよびエンハンサー(例えばアデノウイルス主要後期プロモーター(AdmlP))、ポリオーマに由来するプロモーターおよびエンハンサー、ならびに強い哺乳動物のプロモーター(例えば天然の免疫グロブリンおよびアクチンのプロモーター)がある。ウイルスの調節要素およびその配列のさらなる説明については、例えばStinski,米国特許第5168062号、Bell,米国特許第4510245号、およびSchaffner,米国特許第4968615号を参照されたい。
【0134】
組換え発現ベクターは、宿主細胞でのベクターの複製を調節する配列(例えば複製起点)および選択可能なマーカー遺伝子を保有することができる。選択可能なマーカー遺伝子は、該ベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(例えばAxel,米国特許第4399216号、第4634665号、および第5179017号参照)。例えば、典型的に、選択可能なマーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞に薬剤(例えばG418、ハイグロマイシン、またはメトトレキセート)耐性を付与する。よく使用される選択可能なマーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキセート選択/増幅とともにdhfr−宿主細胞で使用)およびneo遺伝子(G418選択用)がある。
【0135】
本発明のポリペプチドまたはその断片をコードする核酸分子、およびそれらの核酸分子を含むベクターは、適切な宿主細胞の形質転換に使用することができる。形質転換は任意の適切な方法によることができる。外来DNAを哺乳動物細胞に導入する方法は、当該技術において周知であり、例えば、デキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ポリヌクレオチドのリポソームへのカプセル化、および核へのDNAの直接的なマイクロインジェクションを含む。さらに、核酸分子は、ウイルスベクターにより、哺乳動物細胞に導入することができる。
【0136】
宿主細胞の形質転換は、使用するベクターおよび宿主細胞に適した通常の方法により達成することができる。原核宿主細胞の形質転換には、エレクトロポレーションおよび塩処理法が利用できる(Cohen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:2110−14(1972))。脊椎動物細胞の形質転換には、エレクトロポレーション、カチオン脂質処理法、または塩処理法が利用できる(例えばGraham et al.,Virology 52:456−467(1973);Wigler et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:1373−76(1979)参照)。
【0137】
(宿主細胞)
本発明の方法に用いる本発明のポリペプチドまたはその断片を発現させるための宿主細胞は、原核細胞でも真核細胞でもよい。具体的な真核宿主細胞には、例えば、酵母および哺乳動物の細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(ATCC寄託番号CCL61)、NIHスイスマウス胚細胞NIH3T3(ATCC寄託番号CRL1658)、およびベビーハムスター腎臓細胞(BHK)があるが、これらに限定されるものではない。他の有用な真核宿主細胞には、昆虫細胞および植物細胞がある。具体的な原核宿主細胞には、大腸菌およびストレプトミセス属がある。
【0138】
発現のため宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該技術において知られており、American Type Culture Collection (ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株を含む。これらには、とりわけ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NSO、SP2細胞、ヒーラ細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞がん細胞(例えばHep G2)、A549細胞、および他の相当数の細胞株がある。
【0139】
生産細胞株からのポリペプチドの発現は、既知の技法を用いて増強することができる。例えば、グルタミンシンテターゼ(GS)系が、特定の条件下、発現の増強によく用いられる(例えば、欧州特許第0216846号、第0256055号および第0323997号、ならびに欧州特許出願第89303964.4号参照)。
【0140】
(医薬組成物)
本発明のポリペプチド、ポリペプチド断片、ポリヌクレオチド、ベクター、および宿主細胞は、哺乳動物(ヒトを含む)への投与のための医薬組成物に処方することができる。本発明の方法に使用される医薬組成物は、薬学的に受容可能な担体(例えば、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えばヒト血清アルブミン)、緩衝物質(例えば、リン酸塩)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、または電解質(例えば、硫酸プロタミン)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、シリカコロイド、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの材料、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス類、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー類、ポリエチレングリコール、および木脂がある)を含む。
【0141】
本発明の方法に使用される組成物は、任意の適切な方法により(例えば、非経口で、脳室内に、経口で、吸入スプレーにより、局所的に、直腸より、鼻より、口腔より、膣より、または移植されたレザバー(貯留部)より)投与することができる。ここで使用する用語「非経口」には、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、髄腔内、肝臓内、病変内局および頭蓋内の注射法または点滴法が含まれる。本発明の方法において、本発明のポリペプチドまたはその断片は、それが血液脳関門を通過するように投与される。この通過は、ポリペプチド分子自身に固有の物理化学的特性、医薬製剤中の他の成分、または血液脳関門を突破させる物理的手段(例えば針、カニューレ、または外科用器具)の使用によってもたらすことができる。本発明のポリペプチドまたはその断片が、血液脳関門を本来通過しない分子である場合、例えば、通過を容易にする成分への融合が行われ、適切な投与経路は、例えば髄腔内または頭蓋内である。本発明のポリペプチドまたはその断片が本来的に血液脳関門を通過する分子である場合、投与経路は、下記の種々の経路の1以上によるものとすることができる。
【0142】
本発明の方法に使用される組成物の無菌で注射可能な形態は、水性または油性の懸濁剤とすることができる。これらの懸濁剤は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用い、当該技術において知られる手法により調製することができる。また無菌で注射可能な製剤は、非毒性で非経口投与可能な希釈剤または溶媒の無菌で注射可能な溶液または懸濁液とすることができ、例えば、1,3−ブタンジオールの懸濁液とすることができる。許容される賦形剤および溶媒の中で、水、リンゲル液、および生理食塩水を用いることができる。また、無菌の不揮発性油を、溶媒または懸濁媒質として都合よく用いることができる。この目的のため、任意の刺激のない不揮発性油(合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む)を用いることができる。脂肪酸(例えばオレイン酸およびそのグリセリド誘導体)は、天然の薬学的に受容可能な油類(例えばオリーブ油またはヒマシ油、特にそれらのポリオキシエチル化物の形態で)と同様に、注射剤の調製に有用である。また、これらの油溶液または懸濁物は、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤(例えばカルボキシメチルセルロース、または乳剤および懸濁剤を含む薬学的に受容可能な剤形の調製に通常使用される同様の分散剤)をさらに含んでもよい。他の通常使用される界面活性剤(例えばTween類、Span類および他の乳化剤)または薬学的に受容可能な固体、液体または他の剤形の製造に通常使用される生物学的利用能増強剤も、製剤のために使用することができる。
【0143】
非経口製剤は、単一の大用量、点滴、または後に維持用量が伴う充填大用量とすることができる。組成物は、特定の決められた間隔または可変の間隔(例えば1日1回または「必要に応じて」の基準)で投与することができる。
【0144】
本発明の方法に使用される特定の医薬組成物は、例えば、カプセル剤、錠剤、水性懸濁剤または溶液を含む可能な剤形で経口投与することができる。また特定の医薬組成物は、鼻用エアゾールまたは吸入により投与することができる。それらの組成物は、ベンジルアルコールまたは他の適切な保存料、生物学的利用能を高める吸収促進剤、および/または他の一般的な可溶化剤もしくは分散剤を用いて、生理的食塩水中の溶液として調製することができる。
【0145】
単一の剤形を調製するため担体と合わせることができる本発明のポリペプチドまたはその断片の量は、治療される主体および投与の特定の態様に応じて変わってくる。組成物は、単一用量として、複数回用量として、または所定期間の点滴として投与することができる。また用法・用量は、所望の最適応答(例えば治療または予防の応答)が得られるよう調節することができる。
【0146】
本発明の方法は、本発明のポリペプチドまたはその断片の「治療上有効な量」または「予防上有効な量」を用いる。そのような治療上または予防上有効な量は、個体の症状、年齢、性別、および体重のような因子によって変わり得る。また治療上または予防上有効な量は、毒性または有害な効果があったとしても治療上の有利な効果がそれを上回っているものである。
【0147】
任意の特定の患者に対する特定の用量および治療法は、種々の因子によって変わってくる。そのような因子には、使用される特定の本発明のポリペプチドまたはその断片、患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別、および食生活、ならびに投与時間、排出率、薬剤の組み合わせ、および治療する特定の疾患の重症度がある。医療介護者によるそのような因子の判定は、当該技術において通常の技術の範囲内である。また、その量は、治療すべき個々の患者、投与経路、製剤の種類、使用される化合物の性質、病気の重症度、および所望する効果によって変わってくる。使用量は、当該技術においてよく知られている薬理学的原則および薬動力学的原則によって決定することができる。
【0148】
本発明の方法において、本発明のポリペプチドまたはその断片は、一般的に、脳室内または髄腔内において神経系に直接投与される。本発明の方法による投与のための組成物は、本発明のポリペプチドまたはその断片が1日あたり0.001〜10mg/kg体重の用量で投与されるように処方することができる。本発明のある実施態様において、その用量は1日あたり0.01〜1.0mg/kg体重である。ある実施態様において、その用量は1日あたり0.001〜0.5mg/kg体重である。
【0149】
また補助的な活性化合物を、本発明の方法に使用される組成物に組み込んでもよい。例えば、本発明のポリペプチドもしくはその断片、またはその融合タンパク質は、ドラッグデリバリー標的化剤として作用する1種以上のさらなる治療剤とともに、処方かつ/または投与することができる。
【0150】
本発明のポリペプチドまたはその断片による治療のため、その用量は、例えば、対象者の体重1kgあたり、約0.0001〜100mg/kgの範囲とすることができ、より一般的には、0.01〜5mg/kg(例えば0.02mg/kg、0.25mg/kg、0.5mg/kg、0.75mg/kg、1mg/kg、2mg/kg等)の範囲とすることができる。例えば、用量は、1mg/kg体重または10mg/kg体重とすることができ、あるいは、1〜10mg/kgの範囲内とすることができ、好ましくは1mg/kg以上とすることができる。上記範囲内にある中間の用量が本発明の範囲内であることも意図するところである。対象者は、そのような用量を、毎日、隔日で、毎週、または実験的分析により求められたその他のスケジュールで投与される。ある治療の例では、長期間(例えば6ヶ月以上の間)にわたって多用量による投与が必要となる。他の治療法の例では、2週間ごとに1回、1ヶ月に1回、または3〜6ヶ月ごとに1回投与が必要となる。具体的な用量スケジュールとして、例えば、連日1〜10mg/kgまたは15mg/kg、隔日で30mg/kg、あるいは、毎週60mg/kgとなる。
【0151】
いくつかの方法において、2種以上の本発明のポリペプチドまたはその断片が同時に投与され、そこにおいて、投与される各ポリペプチドの用量は、上記範囲内にある。また補助的活性化合物を、本発明の方法に用いる組成物に組み込むこともできる。例えば、抗体を、1種以上の追加の治療剤とともに、同時に処方することができかつ/または同時に投与することができる。
【0152】
本発明は、選択した目標の組織に本発明のポリペプチドまたはその断片を送達させるための任意の適切な方法を含み、それは、徐放系による水溶液または水性注入物のボーラス注入を含む。徐放性移植物を用いることにより、注入の繰り返しの必要性が減る。
【0153】
本発明の方法に用いる本発明のポリペプチドまたはその断片は、脳に直接注入してもよい。化合物を直接脳に注入するための種々の移植物が知られており、神経障害を有するヒトの患者に治療化合物を送達するのに有効である。それらには、ポンプ、定位移植された、一時的な間質内のカテーテル、永続的な頭蓋内のカテーテル移植物、および外科移植された生物分解性の移植物を用いる脳への長期にわたる注入が含まれる(例えば、Gill et al.,上記;Scharfen et al.,“High Activity Iodine−125 Interstitial Implant For Gliomas,”Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.24(4):583−91(1992);Gaspar et al.,“Permanent 125I Implants for Recurrent Malignant Gliomas,”Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.43(5):977−82(1999);chapter 66,pages 577−580,Bellezza et al.,“Stereotactic Interstitial Brachytherapy,”in Gildenberg et al.,Texbook of Stereotactic Functional Neurosurgery,McGraw−Hill(1998);およびBren et al.,“The Safety of Interstitial Chemotherapy with BCNU−Loaded Polymer Followed by Radiation Therapy in the Treatment of Newly Diagnosed Malignant Gliomas:Phase I Trial,”J.Neuro−Oncology 26:111−23(1995)参照)。
【0154】
また組成物は、化合物のための適切なデリバリーシステムまたはサポートシステムとして機能する生物適合性の担体材料に分散された本発明のポリペプチドまたはその断片を含むことができる。徐放性担体の適切な具体例には、坐剤またはカプセル剤のような成形物の形態を有する半透過性のポリマーマトリックスがある。移植用またはマイクロカプセル用の徐放性マトリックスには、ポリラクチド(米国特許第3773319号、EP58481)、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタミン酸の共重合体(Sidman et al.,Biopolymers 22:547−56(1985))、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリル酸)、エチレンビニル酢酸(Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.15:167−277(1981);Langer,Chem.Tech.12:98−105(1982))、またはポリ−D−(−)−3ヒドロキシ酪酸(EP133988)。
【0155】
いくつかの実施態様において、本発明のポリペプチドまたはその断片は、脳の適切な領域への直接的な注入によって患者に投与され(例えば、Gill et al.,“Direct brain infusion of glial cell line−derived neurotrophic factor in Parkinson disease,”Nature Med.9:589−95(2003)参照)。その他の手法も利用可能であり、本発明によるポリペプチドまたはその断片を投与するため適用することができる。例えば、Riechert−MundingerユニットおよびZD(Zamorano−Dujovny)多目的ローカライジング・ユニットを用いて、カテーテルまたは移植物の定位配置を行うことができる。コントラスト促進コンピューター断層撮影(CT)走査法(120mlのオムニパーク(Omnipaque)、350mgヨウ素/mlを注入し、2mm厚みの薄片を用いる)により、三次元マルチプラナー治療計画が可能になる(STP,Fischer,Freiburg,Germany)。この装置は、明確な標的の確認のためCTとMRIによる標的情報を統合する磁気共鳴画像法の研究に基づいて計画を可能にする。
【0156】
GE CTスキャナー(General Electric Company,Milwaukee,WI)さらにはBrown−Roberts−Wells(BRW)定位システム(Radionics,Burlington,MA)と用いるため改良したLeksell定位システム(Downs Surgical,Inc.,Decatur,GA)をこの目的に用いることができる。かくして、移植の開始時に、BRW定位フレームの環状ベースリングを患者の頭蓋に取り付けることができる。ベースプレートに固定したグラファイトロッドローカライザーを用いて、(標的組織の)領域を通じ、連続的なCT断面を3mmの間隔で得ることができる。コンピューターによる治療計画プログラムは、VAX11/780コンピューター(Digital Equipment Corporation,Maynard,Mass.)上で、CT空間とBRW空間の間のマッピングのためグラファイトロッド画像のCT座標を用いて、実行させることができる。
【0157】
(治療方法)
本発明の一実施態様は、ニューロンの過剰なまたは低下した活性、異常なニューロン発生、および/または異常な神経突起伸長に伴う病気、障害、または傷害(例えば精神分裂病)を、そのような病気を有する動物において治療する方法を提供し、該方法は、本発明のNogo断片の有効な量を該動物に投与すること、を含む、から本質的になる、またはからなる。
【0158】
さらに、本発明は、哺乳動物において神経突起伸長阻害を増強する方法に関し、該方法は、本発明のNogoポリペプチド断片の治療上有効な量を投与すること、を含む、から本質的になる、またはからなる。
【0159】
さらに本発明は、神経突起伸長阻害を増強する方法を含み、該方法は、本発明のポリペプチドまたはその断片の有効な量をニューロンに接触させること、を含む、から本質的になる、またはからなる。
【0160】
本発明のNogoポリペプチド断片は、ニューロンの成長または再生を負の方向に調節する能力を高める治療剤として調製し使用することができる。
【0161】
本発明の方法により治療または改善できる病気または障害には、ニューロンの過剰なまたは低下した活性、異常なニューロン発生、および/または異常な神経突起伸長に関係する病気、障害、または傷害が含まれる。そのような病気の具体例には、例えば、精神分裂病、双極性障害、強迫性障害(OCD)、注意欠陥過活動性障害(ADHD)、ダウン症、およびアルツハイマー病があるがこれらに限定されるものではない。
【0162】
(インビトロ法)
また本発明は、インビトロでニューロン細胞成長の阻害を増強する方法を含む。例えば、本発明は、異常なニューロン細胞成長を阻害するインビトロの方法、神経突起伸長を阻害するインビトロの方法、または異常なニューロン発生を阻害するインビトロの方法を含む。
【0163】
(ターゲッティング(標的化)およびスクリーニングアッセイ)
また本発明は、本発明のポリペプチドまたはその断片を用いて医薬候補のスクリーニングを行う方法を含む。例えば、本発明のポリペプチドまたはその断片は、NgRに結合する小分子についてスクリーニングを行うため、用いることができる。さらに、本発明のポリペプチドまたはその断片は、NgRを特異的に発現するニューロンまたは細胞に狙いを定めるためのドラッグデリバリー標的化剤として用いることができる。
【0164】
関連する技術の当業者に容易にわかるとおり、本明細書に記載した方法および用途に対する他の適切な修飾変更および改変は、自明のことであり、本発明の技術的範囲またはその任意の実施態様から逸脱することなく行うことができるものである。これまで本発明を詳細に説明してきたが、以下の具体例を参照することによりさらに明瞭に理解されるはずである。なお、以下の具体例は、単なる例示のため本明細書に含められたものであり、本発明を限定しようとするものではない。
【実施例】
【0165】
(実施例1)
アミノNogo断片はNgRに結合する
この例は、アミノ−Nogoドメインのカルボキシル末端が高い親和性でNgRと相互作用することを明らかにする。アミノ末端と最初の疎水性セグメントとの間にある領域から得られる種々のNogo−Aセグメントを含むいくつかのアルカリホスファターゼ(AP)融合タンパク質を調べてアミノ−Nogo−A作用のメカニズムを特定した。さらなるAP融合タンパク質を生成させるため、ヒトのアミノNogo断片を増幅し、そして上述したように制限酵素EcoRIおよびXholで消化したpcAP6ベクターに結合させた(Fournier,A.E.et al.,Nature 409:341−346(2001))。次いでプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトし、そして馴化培地を7日後に採集した。これらの断片のいずれもが、トランスフェクトされていないCOS−7細胞に高い親和性で結合しなかった。想定した対照条件を調べている間に、意外にも、本発明らは、アミノ−Nogo(断片B)のカルボキシル側半分が、NgRを発現するCOS−7細胞に対して高い親和性の結合を示すことを認めた(図1B)。この結合は、NgRとのAp−Nogo−66結合と変わらないKdで飽和できる(表I)。NgRとのアミノ−Nogo相互作用に係わっている領域をさらに特定するため、ある範囲のアミノ−Nogoトランケーション変異体をAP融合タンパク質として調べた。B断片を重複する150aaセグメントに細分することにより、NgR相互作用の部位が最もカルボキシル末端側にあるセグメントに局在することが明らかになっている。実際のところ、アミノ−NogoのNgR相互作用セグメントは、極端にカルボキシル側の24アミノ酸(aa995〜1018、アミノ−Nogo−A−24)において十分に成立する(表Iおよび図1D)。aa995に位置するIle残基は、高い親和性の結合にとって重要であり、同様に、隣の残基996〜残基1013のカルボキシル18aaも重要である(表I)。本発明らはこのドメイン(aa995〜1013)をアミノ−Nogo−A−19と名付けた。
【0166】
アミノ−Nogo−Aの19aaNgR−結合性残基を、nogo遺伝子のNogo−A特異的エキソンと該遺伝子の5’共通エキソンとの間のスプライス部位(aa1004/1005)にまたがるヌクレオチドによってコードする(Chen,M.S.et al.,Nature 403:434−439(2000);GrandPre,T.,et al.,Nature 403:439−444(2000);Oertle,T.,et al.,J.Mol.Biol.325:299−323(2003a))。Nogo−A−特異的領域のみに由来するaaからなるAP融合タンパク質はNgRに結合しない(aa950〜1004)。Nogo−BまたはNogo−CのアミノNogo残基も、NgR−発現細胞と結合しない(表I)。従って、この第2の高親和性NgR相互作用ドメインは、Nogo−A特異的であり、そして、それをNogo−66から分離する疎水性セグメントに対してアミノ末端側に隣接している。
【0167】
もしこれらのアミノ−Nogo断片が神経突起伸長の制御において役割を果たしているならば、それらは、ニューロンのプロセスに結合すると考えられる。以前、本発明らは、AP−Nogo−66がDRGプロセス上でNgRに結合することを明らかにしている(Fournier,A.E.et al.,Nature 409:341−346(2001))。COS−7NgR結合実験から予測されるとおり、アミノ−Nogoのカルボキシル末端24aaも、DRG軸索に結合するAP融合タンパク質を媒介することができる。一方、Nogo−Aのより短い断片(aa999〜1018)は、DRGニューロンと相互作用しない(図1E)。アミノ−Nogoのアミノ末端A断片もDRG軸索に結合する(おそらくNgR−非依存のメカニズムによる)。
【0168】
乏突起膠細胞においてNogo−Aのある部分が、アミノ末端とNogo−66ドメインの両方を細胞表面に露出させるコンフォメーションで配置されていることが報告されている(Oertle,T.,et al.,J.Neurosci.23:5393−5406(2003b))。Nogo−Aのより多くのアミノ末端疎水性セグメントがループとして原形質膜に入り込んでいることが提案されている。理論に縛られるものではないが、このコンフォメーションによれば、細胞表面にあるアミノ−Nogo−A−19セグメントとNogo−66ドメインは細胞表面において近接すると予測される(図7)。これらの両方のドメインがNgRと相互作用する能力は、このコンフォメーションに対する生理学的役割と整合する。
【0169】
【表1】

AP融合アミノ−Nogo断片に対する結合Kdは、AP融合タンパク質を含む馴化培地をNgR発現COS−7細胞に付与することにより測定した。結合されたAPを染色し測定した。
【0170】
(実施例2)
細胞伸展および軸索伸長のアミノNogoによる阻害はNgR結合から切り離すことができる
アミノ−Nogo−Aタンパク質は、基質に結合される場合、非ニューロン細胞の伸展および軸索伸長を阻害することが認められている(Chen,M.S.,et al.,Nature 403:434−439(2000);Fournier,A.E.,et al.,Nature 409:341−346(2001))。Oertle et al.による研究は、この活性が、アミノ末端近くの特定のaa範囲とアミノ−Nogo−Aの中央部に起因していること示唆している(Oertle,T.,et al.,J.Neurosci.23:5393−5406(2003b))。後者のドメインはΔ20と名付けられている。例1に示したアミノ−Nogo−AのNgR相互作用性aaが細胞伸展および軸索伸長を制御するかどうか判定するため、種々の断片をGST融合タンパク質として発現させ、そして大腸菌から精製した。GST融合タンパク質を生成させるため、アミノNogo断片をpGEX2T(Amersham Pharmacia)にクローニングした。記載のとおり元々のGSTタンパク質と可溶性GSTタンパク質を発現させ、精製した(GrandPre,T.,et al.,Nature 403:439−444(2000))。記載のとおりCOS−7結合アッセイを行った(Fournier,A.E.et al.,Nature 409:341−346(2001))。COS−7細胞に対して結合されたAPは、NIHイメージソフトウェアを用いて測定した。記載されたものにいくつかの修飾を行って、線維芽細胞伸展およびcDRG伸長アッセイを行った(Fournier,A.E.et al.,Nature 409:341−346(2001))。簡単に説明すると、PBS中で希釈したペプチドまたは精製GST融合タンパク質50μlを、ポリリジンでプリコートした96ウェルプレート(Becton Dickson Biocoatプレート)にピペットで取り、室温で一夜乾燥させた。線維芽細胞伸展アッセイのため、次にサブコンフルエントなCOS−7細胞を、固定およびローダミン−ファロイジンによる染色の前に、培地を含む血清中で1時間培養した。
【0171】
Δ20領域の部分を含む断片は、COS−7細胞の付着と伸展を顕著に低減する(図2A〜C)。COS−7細胞の抑制にΔ20領域全体が不可欠なわけではないようである。というのも、アミノ−NogoのB断片は、活性である一方、Δ20領域の一部しか含んでいないからである。カルボキシル末端75aa(B4C)または150aa(B4)からなる断片は、Δ20領域を欠いているが、19aaNgR結合領域全体を保有している(図1C)。B4タンパク質およびB4Cタンパク質は、基質として与えられたとき、COS−7の形態を変化させない(図2A〜C)。従って、線維芽細胞伸展の阻害は、アミノ−Nogo−AによるNgR結合から切り離すことができる。
【0172】
同じGST−アミノ−Nogoタンパク質を、ニワトリE13DRGニューロンからの神経突起伸長を抑制する能力について試験した。cDRG伸長アッセイのため、固定の前に、解離E13cDRGニューロンを6時間平板培養した。ニューロンを、抗ニューロフィラメント抗体(Sigmaカタログ番号N4142)および抗HuC/D抗体(Molecular Probes A−21271)で染色した。細胞面積、付着細胞の数、および神経突起の長さを、Imageexpress装置およびソフトウェア(Axon Instrument)を用いて測定した。
【0173】
アミノ−Nogoドメイン全体についてこれまで示したとおり、Δ20領域の部分を含むそのサブフラグメントは、神経突起伸長に対して阻害的である(Fournier,A.E.,et al.,Nature 409:341−346(2001);Oertle,T.,et al.,J.Neurosci.23:5393−5406(2003b))(図2Dおよび2E)。これらの培養物がNgRを発現しかつNogo−66による結合に反応することが知られているため、本発明らは、アミノ−NogoのNgR結合性B4断片およびB4C断片が神経突起伸長を変化させるかどうか調べた。予想外に、アミノ−Nogo−AのNgR結合性B4断片およびB4C断片でコーティングした基質は、軸索成長に対して阻害的ではなかった(図2Dおよび2E)。従って、アミノ−NogoのNgR結合性ドメインは、NgR陰性のCOS−7細胞には結合せず、また、NgR陽性ニューロンに結合されるとき、それは軸索成長を変化させない。19aaのNgR結合性ドメイン(アミノ−Nogo−A−19)が細胞伸展または軸索伸長を変化させないと考えると、それが最初のアッセイで検出されなかった理由の説明がつく。このドメインはNogo−Aのみに存在しており、Nogo−AがNogo−Cに比べてより強い軸索成長阻害因子である1つの根拠を与えている(Chen,M.S.,et al.,Nature 403:434−439(2000);GrandPre,T.,et al.,Nature 403:439−444(2000))。
【0174】
さらに、本発明らおよび他の研究者は、基質により結合されたまたは集められたアミノ−Nogoが線維芽細胞伸展および神経突起伸長を阻害することを報告している(Chen,M.S.et al.,Nature 403:434−439(2000);Fournier,A.E.,et al.,Nature 409:341−346(2001);Oertle,T.,et al.,J.Neurosci.23:5393−5406(2003b))。これらの性質から示唆されるように、本発明らは、これらの活性に係わっているアミノ−NogoドメインはNgRに結合するものではないと確信する。これらの作用の分子的根拠は不明のままである。少なくともこの活性の重要な部分は、アミノ−Nogoの中央部分に近いΔ20セグメントに特定することができる。最近、Nogoのアミノ末端は、Nogo−AとNogo−Bの間で共用される極端にアミノ末端側のドメインを介して、もう1つのNgRに依存しない作用を有することが認められている。このドメインは、負傷の後、脈管構造の再建に選択的な役割を有している(Acevedo,L.,et al.,Nat Med,10:382−388(2004))。従って、Nogoは、多様な機能的ドメインおよび受容体を有しているようである。Nogo−AのΔ20領域は、NgRに結合しないが、多種の細胞に対する基質として非許容性である。Nogo−AおよびNogo−Bのアミノ末端セグメントは、NgRに対する親和性がないが、未確認の受容体を通じて、血管内皮および平滑筋細胞の移動を確かに規制している。
【0175】
(実施例3)
アミノ−Nogo−Aのカルボキシル領域はNgRのLRRドメインに結合する
ニューロンNgRに結合するアミノ−Nogoが軸索伸長を阻害しないため、本発明者らは、NgRに対するアミノ−Nogoの特異性がNogo−66ドメインのものと類似するかどうか確認することに努めた。Nogo−66、MAGおよびOMgp(Barton,W.A.et al.,Embo J.22:3291−3302(2003);Fournier,A.E.,et al.,Nature 409:341−346(2001);Wang,K.C.,et al.,Nature 417:941−944(2002b))に関し、任意の2つのLRRが欠失することにより、アミノ−Nogo−B4C断片についてNgRへの結合がなくなった(図3A)。同様に、システインに富むLRR−NTドメインおよびLRR−CTキャッピングドメインは、アミノ−Nogo−B4C結合に不可欠である。一方、LRR領域からGPI足場部位にわたるNgRのユニークなシグナル伝達ドメイン(CTドメイン)が欠失しても、アミノ−Nogo−B4C結合は変わらない。NgRは、NgR2およびNgR3を含む遺伝子ファミリーの一部である。COS−7細胞の表面上に発現されるとき、これらの関連するタンパク質は、AP−Nogo−66またはAP−MAGまたはAP−OMgpに結合しない(Barton,W.A.,et al.,Embo J.22:3291−3302(2003))。同様に、NgR2およびNgR3は、アミノ−Nogoに対する結合パートナーではない(図3B)。これらの指標から、Nogo−66結合に対するNgRの要件とアミノ−Nogo−B4C結合に対するNgRの要件は、区別がつかないものである。
【0176】
(実施例4)
異なるリガンドの結合に必要なNgR残基
NgRは、Nogo−66、MAG、OMgp、およびLingo−1とアミノ−Nogoに結合する能力がある。以前の研究は、Nogo−66に対する結合部位とMAGに対する結合部位が離れているのか重なっているのかについてつじつまが合っていなかった。Nogo−66のNEP1−40アンタゴニストを用いると、本発明者らは、NgRとのMAG相互作用の阻害を認めなかった(Liu,B.P.,et al.,Science 297:1190−1193(2002))。立体障害性のAP−Nogo−66リガンドを用いると、NgRへのMAG−Fc結合に対するいくらかの競合が検出された(Domeniconi,M.,et al.,Neuron 35:283−290(2002))。NgRの構造は現在明らかにされているため(Barton,W.A.,et al.,Embo J.22:3291−3302(2003);Domeniconi,M.,et al.,Neuron 35:283−290(2002);He,X.L.,et al.,Neuron 38:177−185(2003))、本発明らは、Ala置換により、リガンド結合部位についてその表面を綿密に調べた。
【0177】
多様なリガンドがどのようにしてNgRタンパク質に結合するかについてさらに明確にするため、本発明者らは、リガンド結合活性について、一連のAla置換NgRを調べた。NgRの変異誘発を、Quick Change Multisite Directed Mutagenesis Kit(クイックチェンジ多部位指定変異誘発キット)(Stratageneカタログ番号200514)を用いて行った。ヒトNgR1を鋳型(テンプレート)として用いた。NgRのリガンド結合ドメインの表面において溶媒が接近できると予測される荷電残基のそれぞれに対して、Ala置換を生成させた(Barton,W.A.,et al.,Embo J.22:3291−3302(2003);He,X.L.,et al.,Neuron 38:177−185(2003))。本発明らは、変異体を生成させ、そこにおいて、互いの5A内にとどまる1〜8の表面残基をAlaで置換した。LRR構造のコイル形成性のため、タンパク質表面に並置される残基は、通常その一次構造において約25残基離される。特定の荷電表面断片における変異に加えて、グリコシル化部位と、NgR構造に基づきリガンド結合に関与すると予測される領域とを、他の変異の対象にした(Barton,W.A.,et al.,Embo J.22:3291−3302(2003);He,X.L.,et al.,Neuron 38:177−185(2003))。さらに、ヒト多形性に相当する変異体を調べた(D259N)。変異体のいずれも、LRR構造自体を決定づけるLeu残基を変えておらず、また、アミノ末端およびカルボキシル末端のキャッピングドメインにおいて重要なCys残基を変えていなかった。そのようなAla表面置換変異体の大多数は、野生型NgRと区別がつかない分子量および発現レベルで、免疫反応性ポリペプチドとして発現させた(図4C、データは示さず)。そうでなかったものは、さらなる分析から除外した。さらに、リガンド結合について分析された変異体NgRのすべては、トランスフェクトされたCOS−7において、野生型タンパク質と同じ細胞分布を示した。特に、aa27〜310領域においてグリコシル化部位を除去したそれらの変異は、イムノブロット分析により分子量が減っていたにも係らず、表面発現の発現レベルを変化させなかった(データは示さず)。
【0178】
74の個々のNgR変異体のコレクションを、AP−Nogo−66、AP−アミノ−Nogo−B4C、AP−MAG、AP−OMgp、およびAP−Lingo−1の結合について調べた。AP−Nogo−66、AP−MAG、AP−OMGP、およびAP−Lingo−1の構造は、別の文献に記載されている(Fournier,A.E.,et al.,Nature 409:341−346(2001);Liu,B.P.,et al.,Science 297:1190−1193(2002);Mi,S.,et al.,Nat.Neurosci.7:221−228(2004);Wang,K.C.et al.,Nature 417:941−944(2002b))。NgR変異体の性質は、3つの大きな範疇の1つに入った(表IIおよび図5)。Ala置換NgRポリペプチドの相当数が、リガンドのすべてに野生型のレベルで結合した。本発明者らは、該当するaaがリガンド相互作用において本質的な役割を果たしていないと結論づけている。これらの残基の多くは、NgR構造の「外」にある凸面上に位置しており、この表面が分子間の相互作用にとって主要な部位ではないことを示している。さらに、凹面のかなりの範囲もリガンド結合にとって重要ではない。
【0179】
変異体の第2の群は、リガンドのそれぞれに対し、弱い結合を示すか結合を示さなかった。理論に縛られるものではないが、1つの解釈としては、これらの残基はNgRの折りたたみに必要であり、そのAlaによる置換は、リガンド結合のない誤った折りたたみのタンパク質をもたらしているということである。しかし、これらの残基の多くが、共通の結合性ポケットにおいて多様なNgRリガンドの結合に寄与するという別の仮説を支持するいくつかの理由がある。
【0180】
決定的に、NgR発現レベルおよび細胞内分布は、これらの変異体に対し変化していない。対照的に、折りたたまれなかったまたは誤って折りたたまれたタンパク質は、不安定で誤った位置に配置されると考えることができる。また、リガンド結合の損失なくAlaに変異できないそれらの残基の大部分が互いの近くにかたまっているということも注目すべきである。従って、本発明者らは、限定されることなく例えば、67/68、111/113、133/136、158/160、163、182/186、および232/234を含む残基によって作られるNgR表面が、これらのリガンドに対して重要な結合部位を構成していると結論づけている。ラットおよびヒトのNgRは、これら13の位置すべてにおいて一致している。NgR関連タンパク質NgR2およびNgR3は、それぞれ、10の同じ残基、2の類似/非同一の残基、および1の非類似残基をこれらの位置において有している。
【0181】
Ala置換NgR変異体の第3のグループは、あるリガンドに対して選択的に結合が失われる一方、他のリガンドに対してはそうではない(表IIIおよび図4)。このクラスのメンバーそれぞれが少なくとも1つのリガンドに対する結合親和性を保存しているということは、Ala置換がNgRの折りたたみや表面発現を妨げているのではないことを示している。異なるリガンド結合に係わるNgR残基の大部分が、上述した主要結合部位の周辺部に位置している。これらの置換の大部分が、Nogo−66またはアミノ−Nogo−AのB4C断片による結合を減少させることなく、MAG、OMgpおよびLingo−1の結合を減少させるか消滅させている。理論に縛られるものではないが、このトポグラフィックな関係の最もシンプルな解釈は、MAG、OMgp、およびLingo−1は、Nogo−66と部分的に共通する中央リガンド結合ドメインを必要とするだけでなく、高い親和性の結合のため、aaの隣接した群も必要としているということである。この隣接する領域は、例えば、aa78/81、87/89、89/90、95/97、108、119/120、139、210、および256/259を含む。マウスとヒトのNgRは、これら14の残基のうち11において一致しており、また、14のうち13において類似している。NgR2は、これら14の位置においてあまり保存を示しておらず、8つが同一aaであり、1つが類似/非同一aaであり、そして5つが非類似aaである。NgR3については、6つが同一aaであり、4つが類似/非同一aaであり、4つが非類似aaである。
【0182】
特に興味深いのは、aa95/97および139でのAla置換であり、これらの置換は、アミノ−NogoのB4C断片による結合よりも大きくNogo−66結合を減少させる。これらの残基は、NgRの凹面上で中心結合部位の非グリコシル化側に存在する。これらのAla置換NgRタンパク質の異なる結合は、Nogo−66とアミノ−NogoがNgR上で部分的に分離可能な複数の部位と相互作用することを示している。この知見は、1つのNogo−Aの両方のドメインが1つのNgRタンパク質と相互作用することができる可能性を示している。
【0183】
この分析は、異なるリガンドの結合に必要な残基間の類似点と相違点の両方を明らかにしている。アミノ−Nogo−A−19、Nogo−66、MAG、およびOMgpリガンドにより必要とされる中心的な結合ドメインがあると考えられる。さらに、種々のリガンドは、この中心部位を取り囲む特定の残基を必要とする。これらの知見は、リガンド間の部分的であるが不完全な競合と整合するものである。すべてのリガンドが、NgR凹面の中央部分に集中する表面残基を必要とするので、NgRシグナル伝達を活性化するそれらのメカニズムは類似し得る。アミノ−Nogo−A−24への融合によるNogo−66アンタゴニストNEP1−32のアゴニスト(作動体)への変換は、この活性化のメカニズムが、この中心ドメインの結合を介して受容体集合体の結合価が変わることを必要とする可能性を示している。
【0184】
NgRは、軸索再生療法開発のためのターゲットと考えることができるため(Lee,D.H.,et al.,Nat.Rev.Drug Discov.2:872−878(2003))、多様なリガンドに共通するこの中央結合ドメインを明らかにすれば、すべてのNgRリガンドを遮断する小分子療法の設計および/または開発を促進させることができる。従って、本発明の変異体NgR1ポリペプチドを、スクリーニングアッセイに用いることができる。一方、それぞれのリガンドが、高い親和性の結合のため、完全に離れた残基を必要とするならば、低分子量の化合物でNgRにおけるすべてのミエリンタンパク質の作用を遮断する薬剤(遮断薬)を開発できる可能性は、顕著に低くなるはずである。
【0185】
Lingo−1は、シグナル伝達NgR複合体の成分として報告されている(Mi,S.,et al.,Nat.Neurosci.7:221−228(2004))。ここで注目すべきことは、NgRへのその結合に必要な残基は、リガンドMAGおよびOMgpにとって必要なものと非常に類似するということである。理論に縛られるものではないが、Lingo−1も乏突起膠細胞により発現されるので、結合分析は、それがリガンドとして作用する可能性を示唆している。一方、補助受容体の機能が、アゴニスト結合のように、同じ部位でNgRの結合価を制御している可能性がある。NgR上のLingo−1結合部位がリガンド結合部位と類似することの意味を十分に明らかにするには、さらなる構造的および生物化学的研究が必要である。
【0186】
【表2】

アラニン置換NgR変異体のNgRリガンドへの結合は、野生型NgRと比較された。そして、結合のレベルは、++(WT(野生型)レベル)、+(野生型より弱いレベル)、tr(ごくわずかな結合)、−(結合せず)、N/A(検出されず)として分類した。またNgR変異タンパク質を、SDS−PAGEに供し、抗NgR抗体により調べた。野生型NgRと同様の発現レベルを有する変異体を「y」と表示した。
【0187】
【表3】

アラニン置換NgR変異体を、AP−Nogo66、AP−B4C、AP−B4C66、AP−Lingo−1、AP−OMgp、およびAP−MAGに対するそれらの結合について試験し、そして、それらを、3つの範疇:(1)すべてのNgRリガンドに対して結合が消滅した変異体、(2)すべてのNgRリガンドに対して依然として結合を維持する変異体、および(3)あるリガンドには依然として結合する一方、他のリガンドに対する結合が消滅した結合が異なる変異体に分類した。D259N変異体は、ヒト多形性を模倣するためのアスパラギン置換体である。
【0188】
(実施例5)
Nogo−Aに由来する2つのNgR結合性ドメインの並置は、高い親和性のアゴニスト活性をもたらす
本発明者らは、Nogo−66とアミノ−Nogoドメインが同時にNgRに結合できるかどうか検討した。もしこの2つのドメインが同時に受容体に結合するならば、2つのドメインの融合体は、2つの部位の結合に基づいてより高い受容体親和性を有する可能性がある。無傷のNogo−Aについて、これら2つのドメインは、原形質膜表面において互いに隣接する可能性がある。というのも、これらは、一次構造において、脂質二重層の中に伸びる疎水性ループによって分離されているからである(Oertle,T.,et al.,J.Neurosci.23:5393−5406(2003b))。このコンフォメーションに類似する可溶性の標識されたリガンドを作るため、本発明者らは、上述したようにアミノ−Nogo−AのB4C断片がNogo−66に直接融合されたAP融合タンパク質を生成させた。NgRに対するこのAP−B4C−66リガンドの親和性は、AP−B4CまたはAP−Nogo−66の親和性よりもかなり大きいものである。この結合についてのKdはサブナノモルである(図6Aおよび6B)。従って、2つの連結されたNogo−Aドメインの二価結合は、顕著により強いNgRリガンドをもたらしている。
【0189】
アミノ−Nogo−A−19結合は、軸索伸長を阻害するよう、NgRを活性化しない。しかし、このドメインがNogo−66と融合すると、NgRに対して二価のリガンドがもたらされ、実質的に受容体親和性が高まる。理論に縛られるものではないが、この親和性の増強によれば、ミエリン調製物においてMAGタンパク質の方がより豊富にあるにもかかわらず、軸索成長を制限する際には、MAGよりもNogo−Aの方がより大きな役割を果たすことがインビトロアッセイおよびインビボアッセイにより示されることを説明することができる。
【0190】
次に、本発明者らは、これら2つのペプチドドメインの神経突起伸長に対する作用について検討した。合成Nogo−66ペプチド断片はNgRへの結合により神経突起伸長を阻害する一方、より短いNogo−66ペプチドは、アンタゴニストとしてNgRに結合し、伸長を変化させない。以前、本発明者らは、Nogo−66のアミノ末端40aaからなるポリペプチド(NEP1−40)の拮抗活性を明らかにした(GrandPre,T.,et al.,Nature 417:547−551(2002))。同様のNgR拮抗効果が、32aaという短いペプチドに対して得られ(データは示さず)、これは、33−66領域が受容体の活性化に必要であるが、高い親和性の結合ではないことを示唆する(GrandPre,T.,et al.,Nature 417:547−551(2002)、データは示さず)。アミノ−Nogo−Aのカルボキシル24aaセグメントは、NgRに結合するAPタンパク質を媒介するものであるが(図1Cおよび1D)、このペプチドは、神経突起伸長についてNogo−66の作用を遮断または増強しない(図6Cおよび6D)。
【0191】
本発明者らは、アミノ−Nogo−Aの24aaセグメントをNEP32アンタゴニストペプチドに融合することにより、AP−B4C−66のNgRへの結合に類似する効力を有する高親和性のアンタゴニストが作れるのではないかと考えた。この仮説を検証するため、そのカルボキシル末端でNEP32に融合されたアミノ−Nogo−24配列を含むビオチン化ペプチドを合成した。ビオチンで標識したNg24(ビオチン−IFSAELSKTSVVDLLYWRDIKKTG)および24/32(B24/32:ビオチン−IFSAELSKTSVVDLLYWRDIKKTGGRIYKGVIQAIQKSDEGHPFRAYLESEVAISEE)を合成し、イェール大学においてW.M.Keck研究室で精製した。cDRG伸長アッセイのため、固定の前に、解離E13cDRGニューロンを6時間平板培養した。ニューロンを、抗ニューロフィラメント抗体(Sigmaカタログ番号N4142)および抗HuC/D抗体(Molecular Probes A−21271)で染色した。細胞面積、付着細胞の数、および神経突起の長さを、Imageexpress装置およびソフトウェア(Axon Instrument)を用いて測定した。
【0192】
思いがけず、24−32融合ペプチドは、DRGニューロンからの軸索伸長を強く阻害した(図6Cおよび6D)。アミノ−Nogo−24ドメインは、独立してNgRに結合できるが、NEP32と融合されるとき、高親和性のNogo−A選択的NgRアゴニストを生成させることがわかる。従って、Nogo−66(33−66)領域は、受容体の活性化に不可欠なものではない。NgRは、それ自身に結合でき、脂質の浮遊物中に集まるため(Fournier,A.E.,et al.,J.Neurosci.22:8876−8883(2002);Liu,B.P.,et al.,Science 297:1190−1193(2002))、二価のリガンドは、二重層の面におけるその集合状態の調節を通じて受容体を活性化することができる。
【0193】
明らかなとおり、詳細な説明の欄(要旨および要約の欄ではない)は、請求の範囲の解釈に利用することを意図するものである。要旨および要約の欄は、本発明者らが意図する本発明の具体的実施態様の1つ以上(しかしすべてではない)を示すが、本発明および添付の請求の範囲を決して限定しようとするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1A】図1Aは、アミノ−Nogo断片のNgRへの結合について、アミノ−Nogo断片A、BおよびΔ20の模式図である。
【図1B】図1Bは、アルカリホスファターゼ(AP)融合アミノ−Nogo断片B(AmNg B)がNgRを発現するCOR−7細胞に結合する一方、断片A(AmNg A)またはΔ20はNgRを発現するCOR−7細胞に結合しないことを示している。表示した濃度のAP融合タンパク質を含むHEK293T細胞からの馴化培地を、NgRを発現するCOS−7細胞またはトランスフェクトされていないものに付与し、結合されたAPを染色した。
【図1C】図1Cは、アミノ−Nogo−A−24がアミノ−NogoにおいてNgRに対する結合ドメインであることを示す図である。表示されるとおりアミノNogoの異なる断片がAPに融合され、NgRへのそれらの結合が、(B)におけるように、細胞結合アッセイで測定された。
【図1D】図1Dの上は、AP−アミノ−Nogo−A−24の濃度の関数として測定された、NgR発現COS−7細胞に結合するAP−アミノ−Nogo−A−24を示す図であり、図1Dの下は、上のパネルからの再プロットデータを示す図である。結合Kdは、4つの独立した測定値から求めた。
【図1E】図1Eは、解離E13ニワトリDRGニューロンへのAP融合アミノ−Nogo断片の結合を示す図である。表示のとおりAP融合タンパク質を含むHEK293T細胞からの馴化培地を、解離E13ニワトリDRGニューロンに付与し、結合されたAPを染色した。
【図2A】図2Aは、アミノ−Nogo断片の線維芽細胞伸展および神経突起伸長に対する作用を示す図である。線維芽細胞伸展に対する複数のアミノ−Nogo断片の作用は異なっている。COS−7細胞を、表示の乾燥GST融合タンパク質50ngでコーティングされたスポットを有するスライドに付着させ、広げ、そしてF−アクチンに対して染色した。GST−Aは、GSTとアミノ−NogoのA断片(図1)との融合タンパク質である。GST−A、GST−B、GST−20Δ、GST−B4、およびGST−B4Cは、それぞれ、GSTと、アミノ−NogoのA、B、Δ20、B4、またはB4C断片(図1)との融合タンパク質である。
【図2B】図2Bは、(A)におけるような実験についてCOS−7細胞の面積を測定しプロットした図である。
【図2C】図2Cは、COS−7細胞を、表示の乾燥GST融合タンパク質でコーティングした96ウェル皿に付着させて広げた。付着した細胞の数を数え、96ウェル皿におけるウェルあたりの乾燥された種々のタンパク質の量の関数としてプロットした。
【図2D】図2Dは、複数のアミノ−Nogo断片の神経突起伸長に対する異なった作用を示す図である。E13ニワトリDRGからの解離ニューロンを、ウェルあたり1pmolのタンパク質でコーティングされた96ウェル皿にのせ、ニューロフィラメントの位置特定のため染色した。
【図2E】図2Eは、(E)で示した実験について、乾燥タンパク質の濃度を増加させていき、ニューロンあたりの神経突起の長さを測定し、PBS対照に対する百分率としてプロットした図である。
【図3A】図3Aは、NgRへのアミノ−Nogoの結合がLRRリピートを必要とすることを示す図である。NgR変異体を発現するCOS−7細胞へのAPまたはAP融合Nogo断片の結合が示される。AP−BおよびAP−B4はアミノ−Nogo断片BまたはB4断片のAP融合タンパク質である。NgR変異体の表面発現は、抗Myc抗体を用いて検出した。
【図3B】図3Bは、アミノ−NogoがNgR2またはNgR3に結合しないことを示す図である。表示のAP融合タンパク質20nMを含むトランスフェクトされたHEK293T細胞からの馴化培地を、マウスNgR1、ヒトNgR2またはマウスNgR3を発現するCOS−7細胞に付与し、結合されたAPを染色した。NgR類の表面発現は、抗Myc抗体または抗His抗体を用いて検出した。AP−AmNgAはアミノ−Nogo断片AのAP融合タンパク質である。AP−AmNgBはアミノ−Nogo断片BのAP融合タンパク質である。
【図4A】図4Aは、複数のMgRリガンドに対して異なる結合を示すNgR変異体の例を示す図である。種々のNgR変異体を発現するCOS−7細胞へのAPまたはAP融合NgRリガンドの結合が示される。付与されたリガンドの濃度は以下のとおりである。AP 30nM、AP−Ng66 5nM、AP−Ng33 10nM、AP−B4C 10nM、AP−B4C66 0.5nM、AP−Lingo−1 10nM、AP−OMGP 10nM、AP−MAG 30nM。これらの濃度は、それらのタンパク質のNgRに対する結合Kdに近いものであり、従って、染色において、Kdの減少は直線的に反映される。
【図4B】図4Bは、発現されるNgR変異体に対するNgRリガンドのAP結合を野生型NgRに対する百分率として示す図である。AP融合リガンドとのインキュベーションの後のAP、NgRまたはNgR変異体を発現するCOS−7細胞に結合されるAPを、染色し測定した。
【図4C】図4Cは、NgR変異体を発現するCOS−7細胞の全細胞溶解物を、SDS−PAGEに供し、抗NgR抗体でブロットした結果を示す図である。
【図5】NgRにおけるリガンド結合部位を示す図である。NgRの分子表面を示しており、すべてのリガンドの結合に必須である残基を赤で表示し、リガンド結合に必要のない残基を青で表示し、あるリガンドに必要である一方他のリガンドには必要のない残基を黄色で表示している。Ng66の結合に必要である一方、B4Cには必要でない残基を矢印で示している。この図は、SwissPdb Viewerソフトウェアを用いて作成した。
【図6A】図6Aは、B4CのNogo66との融合がNgRに対して高い親和性のリガンドをもたらすことを示す図である。NgRを発現するCOS−7細胞に結合するAP−B4C66を、AP−B4C66の濃度の関数として測定した。
【図6B】図6Bは、(A)からの再プロットデータを示す図である。結合Kdを、4つの独立した測定値から求めた。
【図6C】図6Cは、B24/32ペプチドが神経突起伸長を阻害することを示す図である。E13ニワトリDRGからの解離ニューロンを、表示の乾燥ペプチド500pmolでコーティングした96ウェル皿に配置し、ニューロフィラメントの位置特定のため染色した。
【図6D】図6Dは、(C)の実験について、ニューロンあたりの神経突起の長さを測定し、PBS対照に対する百分率としてプロットした図である。
【図7】NgRのシグナル伝達についてモデルを示す図である。NgRは、乏突起膠細胞タンパク質であるNogo、MAG、およびOMgpに対して共通する受容体である。アミノ−NogoにおけるNg19領域とNogo66は、NgRのLRRドメインに結合する。アミノ−Nogo−19のNgRへの結合は、伸長を阻害するようにシグナルを送らないが、Nogoにおいてアミノ−Nogo−19とNg66の両方が存在すると、Nogoは、NgRに対して高い親和性のアゴニストとなる。MAGおよびOMgpも、NgRのLRRドメインに結合する。アミノ−NogoのΔ20領域は、NgRに結合しないが、線維芽細胞伸展および神経突起伸長を阻害する(おそらく、多くの細胞種に存在する未確認の受容体を介して)。Nogo−AとNogo−Bに共有されるNogoのアミノ末端ドメインは、他の未確認の受容体を介して、血管の再建を制御するよう作用する可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30残基以下の単離されたポリペプチド断片であって、
(a)配列番号2のアミノ酸995〜1013、
(b)配列番号2のアミノ酸995〜1014、
(c)配列番号2のアミノ酸995〜1015、
(d)配列番号2のアミノ酸995〜1016、
(e)配列番号2のアミノ酸995〜1017、
(f)配列番号2のアミノ酸995〜1018、
(g)配列番号2のアミノ酸992〜1018、
(h)配列番号2のアミノ酸993〜1018、および
(i)配列番号2のアミノ酸994〜1018
からなる群より選択される参照アミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含み、かつNgR1に結合する、ポリペプチド断片。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、前記参照アミノ酸配列と少なくとも95%同一である、請求項1に記載のポリペプチド断片。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が、前記参照アミノ酸配列と同一である、請求項2に記載のポリペプチド断片。
【請求項4】
200残基以下の単離されたポリペプチド断片であって、
配列番号2のアミノ酸995〜1018と少なくとも90%同一である第1のアミノ酸配列を含み、ここで該第1のアミノ酸配列は配列番号2のアミノ酸1055〜1086に結合されており、かつ該ポリペプチド断片はNgR1に結合する、ポリペプチド断片。
【請求項5】
前記第1のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸995〜1018を含む、請求項4に記載のポリペプチド断片。
【請求項6】
前記第1のアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸950〜1018を含む、請求項5に記載のポリペプチド断片。
【請求項7】
前記ポリペプチド断片は、NgRが媒介する神経突起伸長阻害を増強する、請求項4〜6のいずれか1項に記載のポリペプチド断片。
【請求項8】
配列番号5を含む、請求項5に記載のポリペプチド断片。
【請求項9】
配列番号5から本質的になる、請求項5に記載のポリペプチド断片。
【請求項10】
前記ポリペプチド断片は修飾されている、請求項4〜9のいずれか1項に記載のポリペプチド断片。
【請求項11】
前記修飾はビオチン化である、請求項10に記載のポリペプチド断片。
【請求項12】
前記ポリペプチド断片は、異種のポリペプチドに結合されている、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリペプチド断片。
【請求項13】
前記異種のポリペプチドは、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、ヒスチジンタグ(Hisタグ)、アルカリホスファターゼ(AP)、およびFcからなる群より選択される、請求項12に記載のポリペプチド断片。
【請求項14】
単離されたヒトのNgR1ポリペプチドであって、
該ポリペプチドは、少なくとも、
(a)アミノ酸67、68および71、
(b)アミノ酸111、113および114、
(c)アミノ酸133および136、
(d)アミノ酸158、160、182、および186、
(e)アミノ酸163、ならびに
(f)アミノ酸232および234
からなる群より選択されるアミノ酸位置でのアミノ酸置換を除いて、配列番号4のアミノ酸27〜473を含み、
ここで該NgR1ポリペプチドはNogo66、OMgp、Mag、またはLingo−1のいずれにも結合しない、単離されたヒトのNgR1ポリペプチド。
【請求項15】
単離されたヒトのNgR1ポリペプチドであって、
該ポリペプチドは、少なくとも、
(a)アミノ酸78および81、
(b)アミノ酸87および89、
(c)アミノ酸89および90、
(d)アミノ酸95および97、
(e)アミノ酸108、
(f)アミノ酸117、119および120、
(g)アミノ酸139、
(h)アミノ酸210、ならびに
(i)アミノ酸256および259
からなる群より選択されるアミノ酸位置でのアミノ酸置換を除いて、配列番号4のアミノ酸27〜473を含み、
ここで該NgRポリペプチドはNogo66、OMgp、Mag、またはLingo−1の少なくとも1つに選択的に結合するが、それらのすべてに結合するわけではない、単離されたヒトのNgR1ポリペプチド。
【請求項16】
請求項14〜15のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む、宿主細胞。
【請求項17】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のポリペプチドと、薬学的に受容可能な担体とを含む、組成物。
【請求項18】
前記組成物は、非経口投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、口腔内投与、経口投与、および微小注入投与からなる群より選択される経路による投与のため処方されている、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は担体をさらに含む、請求項18に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−515804(P2008−515804A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534896(P2007−534896)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/035719
【国際公開番号】WO2006/047049
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(392019352)イェール ユニバーシティ (38)
【氏名又は名称原語表記】YALE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】