説明

Nogoレセプターアンタゴニストを使用するドーパミンニューロン変性に関する状態の処置

本発明は、Nogoレセプターを使用して、ドーパミンニューロン変性の徴候または症状を示す哺乳動物(パーキンソン病を有するヒトが挙げられる)におけるドーパミンニューロンの再生または生存を促進するための方法を提供する。上記哺乳動物に、治療有効量のNgR1アンタゴニストを投与する工程を包含する上記方法を提供する。さらに、上記NgR1アンタゴニストを中枢神経系に直接投与する上記方法を提供する。また、上記NgR1アンタゴニストを黒質または線条に直接投与する上記方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、神経生物学および薬理学に関する。より詳細には、本発明は、Nogoレセプター−1アンタゴニストの投与によってドーパミンニューロン変性に関する状態を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
特定の神経変性障害は、ドーパミンニューロンの変性により特徴付けられる。例えば、パーキンソン病は、中脳の黒質におけるドーパミンニューロンの進行性の破壊と関連している。この破壊は、化学的伝達物質ドーパミンのレベルの減少を生じる。パーキンソン病の肉体的な症状としては、随意運動の欠陥および特徴的な震えを生じる筋肉の群の制御できない律動性の単収縮が挙げられる。
【0003】
パーキンソン病のための最も広く使用される処置は、ドーパミン前駆体であるL−ドーパ(L−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン)の投与であり、L−ドーパは、失われたドーパミンに取って代わることにより間接的に作用する。しかし、不都合な点は、L−ドーパの使用と関連している。患者は、多くの場合、運動障害、悪心、嘔吐、腹部膨満、および精神医学的な副作用のような副作用を罹患し、患者は、代表的に時間の経過につれてL−ドーパ処置にあまり応答しなくなる。シナプス後のドーパミンアゴニストを使用する治療の代替的な形態も副作用を伴う。さらに、L−ドーパ処置は、患者の生活の質を改善するが、疾患の進行を停止しない。
【0004】
グリア細胞由来の神経栄養性因子(GDNF)のような他の化合物は、慢性注入によって送達される場合、ヒト患者におけるパーキンソン病の処置に見込みを示した。例えば、非特許文献1を参照のこと。しかし、これらの処置レジメンは、なお開発の初期段階のものである。
【0005】
多くの他の疾患および障害は、ドーパミンニューロンの変性を伴い得る。これらとしては、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮、シャイ−ドレーガー症候群、パーキンソン症候群の特徴を有する運動ニューロン疾患、レヴィー小体痴呆、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭葉型痴呆、パーキンソン症候群を伴うアルツハイマー病、ウィルソン病、ハレルフォルデン−シュパッツ症候群、チェディアック−東病、SCA−3 脊髄小脳性運動失調、X連鎖ジストニーパーキンソン症候群(DYT3)、ハンティングトン病(ヴェストファル改変体)、プリオン病、脳血管性パーキンソン症候群、脳性麻痺、繰り返しの頭部外傷、脳炎後のパーキンソン症候群および神経梅毒が挙げられる。
【非特許文献1】Gillら、「Direct brain infusion of glial cell line−derived neurotrophic factor in Parkinson disease」、2003年、Nature Med.、第9巻、p.589−95
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、パーキンソン病およびドーパミンニューロンの変性によって特徴付けられる他の状態のためのさらなる処置方法に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、Nogoレセプター−1アンタゴニストの投与による、ドーパミンニューロン変性に関連する状態(パーキンソン病が挙げられる)の処置の方法に関する。
【0008】
いくつかの実施形態において、本発明は、ドーパミンニューロン変性の徴候または症状を示す哺乳動物に、治療有効量のNgR1アンタゴニストを投与する工程を包含する、そのような哺乳動物におけるドーパミンニューロンの再生または生存を促進する方法を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、NgR1アンタゴニストは、中枢神経系に直接投与される。いくつかの実施形態において、NgR1アンタゴニストは、黒質または線条に直接投与される。いくつかの実施形態において、NgR1アンタゴニストは、ボーラス注射または慢性注入によって投与される。
【0010】
いくつかの実施形態において、NgR1アンタゴニストは、可溶性形態の哺乳動物のNgR1を含む。いくつかの実施形態において、可溶性形態の哺乳動物のNgR1は、ヒトNgR1(配列番号3)のアミノ酸26〜310を含み、このアミノ酸は、10個までの保存的アミノ酸置換を有し、機能性膜貫通ドメインおよび機能性シグナルペプチドの両方を欠如する。いくつかの実施形態において、可溶性形態の哺乳動物のNgR1は、ヒトNgR1(配列番号4)のアミノ酸26〜344を含み、このアミノ酸は、10個までの保存的アミノ酸置換を有し、機能性膜貫通ドメインおよび機能性シグナルペプチドの両方を欠如する。いくつかの実施形態において、可溶性形態の哺乳動物のNgR1は、ラットNgR1(配列番号5)のアミノ酸27〜310を含み、このアミノ酸は、10個までの保存的アミノ酸置換を有し、機能性膜貫通ドメインおよび機能性シグナルペプチドの両方を欠如する。いくつかの実施形態において、可溶性形態の哺乳動物のNgR1は、ラットNgR1(配列番号6)のアミノ酸27〜344を含み、このアミノ酸は、10個までの保存的アミノ酸置換を有し、機能性膜貫通ドメインおよび機能性シグナルペプチドの両方を欠如する。
【0011】
いくつかの実施形態において、可溶性形態の哺乳動物のNgR1は、さらに融合部分を含む。いくつかの実施形態において、この融合部分は、免疫グロブリン部分である。いくつかの実施形態において、この免疫グロブリン部分は、Fc部分である。
【0012】
いくつかの実施形態において、本発明の方法に使用されるNgR1アンタゴニストは、哺乳動物のNgR1に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。いくつかの実施形態において、この抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、Fdフラグメント、二重特異性抗体および単鎖抗体からなる群より選択される。
【0013】
いくつかの実施形態において、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下:HB 7E11(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4587)、HB 1H2(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4584)、HB 3G5(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4586)、HB 5B10(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4588)およびHB 2F7(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4585)からなる群より選択されるハイブリドーマによって産生されたモノクローナル抗体に結合されたポリペプチドに結合する。いくつかの実施形態において、このモノクローナル抗体は、HB 7E11ハイブリドーマによって産生される。いくつかの実施形態において、この抗体またはその抗原結合フラグメントは、以下:
【0014】
【化3】

からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドに結合する
いくつかの実施形態において、本発明の方法に使用されるNgR1アンタゴニストの治療有効量は、0.001mg/kg〜10mg/kgである。いくつかの実施形態において、この治療有効量は、0.01mg/kg〜1.0mg/kgである。いくつかの実施形態において、この治療有効量は、0.05mg/kg〜0.5mg/kgである。
【0015】
いくつかの実施形態において、ドーパミンニューロン変性は、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮、シャイ−ドレーガー症候群、パーキンソン症候群の特徴を有する運動ニューロン疾患、レヴィー小体痴呆、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭葉型痴呆、パーキンソン症候群を伴うアルツハイマー病、ウィルソン病、ハレルフォルデン−シュパッツ症候群、チェディアック−東病、SCA−3 脊髄小脳性運動失調、X連鎖ジストニーパーキンソン症候群(DYT3)、ハンティングトン病(ヴェストファル改変体)、プリオン病、脳血管性パーキンソン症候群、脳性麻痺、繰り返しの頭部外傷、脳炎後のパーキンソン症候群および神経梅毒からなる群より選択される疾患または障害と関連している。
【0016】
いくつかの実施形態において、本発明は、治療有効量のNgR1アンタゴニストを哺乳動物に投与する工程を包含する、パーキンソン病を処置する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
他に定義しない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者の一人によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。対立する場合、定義を含む本発明の適用が制御する。また、文脈によって他に必要とされない限り、単数形の用語は、複数を包含し、複数形の単語は、単数を包含する。本明細書中に述べられる全ての出版物、特許および他の参考文献は、個々の出版物または特許出願がそれぞれ個々に具体的に参考として援用されることが示されるように、全ての目的のためにその全体が参考として援用される。
【0018】
本明細書中に記載される方法および材料に類似するか、等価である方法および材料が、本発明の実施または試験に使用され得るが、適切な方法および材料は、以下に記載される。その材料、方法および実施例は、例示のためのみのものであり、限定することを意図しない。本発明の他の特徴および利点は、詳細な記述および特許請求の範囲から明らかになる。
【0019】
明細書および特許請求の範囲の全体を通して、用語「含む(comprise)」またはその変形(例えば、「含む(comprises)」または「含んでいる(comprising)」は、任意の列挙された整数または整数の群を包含することを示すが、任意のほかの整数または整数の群を排除することを示さない。
【0020】
本発明をさらに定義するために、以下の用語および定義が提供される。
【0021】
本明細書中で使用される場合、「抗体」は、インタクトな免疫グロブリンまたはその抗原結合フラグメントを意味する。本発明の抗体は、任意のアイソタイプまたはクラス(例えば、M、D、G、EおよびA)の抗体、または任意のサブクラス(例えば、G1−4、A1−2)の抗体であり得、カッパ(κ)軽鎖またはラムダ(λ)軽鎖のどちらかを有し得る。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「ヒト化抗体」は、非ヒト配列の少なくとも一部が、ヒト配列で置換されている抗体を意味する。ヒト化抗体をどのようにして作製するかの例は、米国特許第6,054,297号および同第5,886,152号および同第5,877,293号に見出され得る。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「治療有効量」とは、所望の治療結果を達成するために必要な投薬量および時間において有効である量をいう。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「予防有効量」とは、所望の予防的結果を達成するために必要な投薬量および時間において有効である量をいう。代表的に、予防的用量は、疾患のより早い段階の前、またはその段階で被験体に使用されるので、予防有効量は、治療有効量より少ない。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「患者」は、哺乳動物(例えば、ヒト)を意味する。
【0026】
本明細書中で使用される場合、「融合タンパク質」は、別の(一般的には異種の)ポリペプチドに融合したポリペプチドを含むタンパク質を意味する。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「Nogoレセプターアンタゴニスト」は、Nogoレセプター−1のリガンド(例えば、NogoA、NogoB、NogoC、MAG、OM−gp)への結合を阻害する分子を意味する。
【0028】
本明細書中で使用される場合、「Nogoレセプターポリペプチド」は、全長Nogoレセプター−1タンパク質およびそのフラグメントの両方を包含する。
【0029】
本発明は、Nogoレセプターアンタゴニストを用いた処置が、損傷後のドーパミン作用性経路の改善された回復、およびドーパミンニューロン変性から生じる症状の顕著な改善を提供するという発見に基づいている。
【0030】
(Nogoレセプターアンタゴニスト)
任意のNogoレセプターアンタゴニストが、本発明の方法に使用され得る。本発明の方法に使用され得るNogoレセプターアンタゴニストとしては、例えば、可溶性Nogoレセプターポリペプチド;Nogoレセプタータンパク質に対する抗体およびその抗原結合フラグメント;ならびに低分子アンタゴニストが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
(可溶性Nogoレセプター−1ポリペプチド)
本発明のいくつかの実施形態において、アンタゴニストは、可溶性Nogoレセプター−1ポリペプチドである(Nogoレセプター−1はまた多様に、「Nogoレセプター」、「NogoR」、「NogoR−1」、「NgR」および「NgR−1」と呼ばれる)。全長Nogoレセプター−1は、シグナル配列、N末端領域(NT)、8個のロイシンリッチリピート(LRR)、LRRCT領域(8個のロイシンリッチリピートのロイシンリッチリピートドメインC末端)、C末端領域(CT)およびGPIアンカーからなる。全長ヒトNogoレセプターの配列および全長ラットNogoレセプターの配列を表1に示す。
【0032】
(表1.ヒトNogoレセプター−1ポリペプチドの配列およびラットNogoレセプター−1ポリペプチドの配列)
【0033】
【表1】

本発明の方法に使用される可溶性Nogoレセプターポリペプチドは、NTドメイン、8個のLRRおよびLRRCTドメインを含み、シグナル配列および機能性GPIアンカーを欠如する(すなわち、GPIアンカーが存在しないか、または細胞膜へ効率的に結合しないGPIアンカーを有する)。適切なポリペプチドとしては、例えば、ヒトNogoレセプターのアミノ酸26〜310(配列番号3)およびアミノ酸26〜344(配列番号4)、ならびにラットNogoレセプターのアミノ酸27〜310(配列番号5)およびアミノ酸27〜344(配列番号6)が挙げられる(表2)。本発明の方法に使用され得るさらなるポリペプチドは、例えば、国際特許出願PCT/US02/32007号および同PCT/US03/25004号に記載されている。
【0034】
(表2.ヒトおよびラット由来の可溶性Nogoレセプターポリペプチド)
【0035】
【表2】

融合タンパク質の構成要素である可溶性Nogoレセプターポリペプチドはまた、本発明の方法に使用され得る。いくつかの実施形態において、融合タンパク質の異種の部分は、免疫グロブリン定常ドメインである。いくつかの実施形態において、この免疫グロブリン定常ドメインは、重鎖定常ドメインである。
いくつかの実施形態において、この異種ポリペプチドは、Fcフラグメントである。いくつかの実施形態において、Fcは、可溶性NogoレセプターポリペプチドのC末端に結合している。いくつかの実施形態において、この融合Nogoレセプタータンパク質は二量体である。
【0036】
(抗体)
本発明の方法は、免疫原性Nogoレセプター−1ポリペプチドに特異的に結合し、Nogoレセプター−1のリガンド(例えば、NogoA、NogoB、NogoC、MAG、OM−gp)への結合を阻害する抗体またはその抗原結合フラグメントを使用して実施され得る。本発明の方法に使用される抗体または抗原結合フラグメントは、インビボまたはインビトロで産生され得る。いくつかの実施形態において、抗Nogoレセプター−1抗体またはその抗原結合フラグメントは、マウスまたはヒトのものである。いくつかの実施形態において、抗Nogoレセプター−1抗体またはその抗原結合フラグメントは、組換え、操作された、ヒト化および/またはキメラの抗体または抗原結合フラグメントである。いくつかの実施形態において、抗体は、国際特許出願PCT/US03/25004号に記載される抗体から選択される。本発明に有用である抗体は、修飾されてか、または修飾されずに使用され得る。
【0037】
本発明の方法に使用され得る抗体の例示的な抗原結合フラグメントは、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、Fd、dAb、ならびに相補性決定領域(CDR)フラグメント、単鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、二重特性抗体を含むフラグメント、ならびにポリペプチドに対する特異的抗原結合を与えるのに十分である免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチド(例えば、イムノアドヘシン)である。
【0038】
本明細書中で使用される場合、Fdは、VドメインおよびCH1ドメインからなるフラグメントを意味し;Fvは、抗体の一つの腕のVドメインおよびVドメインからなるフラグメントを意味し;そしてdAbは、Vドメインからなるフラグメントを意味する(Wardら、Nature、341、544−46(1989))。本明細書中で使用される場合、単鎖抗体(scFv)は、V領域およびV領域が対になって、タンパク質の一本鎖としてつくられることを可能にする合成リンカーによって一価分子を形成する抗体を意味する(Birdら、Science 242:423−26、(1988)およびHustonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:5879−83(1988))。本明細書中で使用される場合、二重特異性抗体は、VドメインおよびVドメインが、単鎖ポリペプチド上に発現される二重特異性の抗体を意味するが、同じ鎖上の二つのドメインの間の対形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用してそのドメインを別の鎖の相補性ドメインと対形成させ、二つの抗原結合部位を生成する(例えば、Holligerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−48(1993)およびPoljakら、Structure 2:1121〜23(1994)を参照のこと)。
【0039】
(免疫化)
本発明の方法に使用するための抗体は、適切な宿主(例えば、ヒト、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、爬虫類、魚類、両生類を含む脊椎動物、ならびに鳥類、爬虫類および魚類の卵中の脊椎動物)の免疫化により作製され得る。このような抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり得る。抗体を作製するための方法の総説については、例えば、HarlowおよびLane(1988)、Antibodies、A Laboratory Manual;Yeltonら、Ann.Rev.of Biochem.、50:657−80(1981);およびAusubelら、(1989)、Current Protocols in Molecular Biology(New York:John Wiley & Sons)を参照のこと。免疫原性Nogoレセプターポリペプチドとの免疫反応性の決定は、当該分野で周知である数種の方法のいずれかによりなされ得、それらとしては例えば、免疫ブロットアッセイおよびELISAが挙げられる。本発明の方法に使用するためのモノクローナル抗体は、例えば、HarlowおよびLane(1988)(前出)に記載されるような標準的手順によって作製され得る。
【0040】
例えば、宿主は、アジュバントを有しても有さなくてもよいが、免疫原性Nogoレセプター−1ポリペプチドにより免疫され得る。適切なポリペプチドは、例えば、国際特許出願PCT/US01/31488号、同PCT/US02/32007号および同PCT/US03/25004号に記載される。宿主はまた、インタクトの細胞またはばらばらになった細胞の細胞膜およびNogoレセプター−1ポリペプチドに結合することによって同定される抗体と結合したNogoレセプター1で免疫され得る。抗体を作製するための他の適した技術としては、リンパ球をNogoレセプター−1または本発明の免疫原性ポリペプチドにインビトロで曝露すること、またはファージベクターもしくは類似するベクター内の抗体のライブラリーの選択が挙げられる。Huseら、Science、246:1275−81(1989)を参照のこと。
【0041】
本発明の方法に使用される抗Nogoレセプター−1抗体はまた、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーをスクリーニングすることによって単離され得る。このようなライブラリーを調製し、スクリーニングするための方法論は、当該分野で公知である。ファージディスプレイライブラリーのための方法および材料が市販されている(例えば、the Pharmacia Recombinant Phage Antibody System、カタログ番号27−9400−01;the Stratagene SurfZAPTMファージディスプレイキット、カタログ番号240612;およびMorphoSysからの他のもの)。組換え免疫グロブリンディスプレイライブラリー由来の抗Nogoレセプター−1抗体のスクリーニングおよび単離の後、選択された抗体をコードする核酸は、ディスプレイパッケージ(例えば、ファージゲノム由来)から回収され、標準的組換えDNA技術によって他の発現ベクターにサブクローニングされ得る。コンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離された抗体を発現させるために、抗体重鎖および抗体軽鎖またはその可変領域をコードするDNAを、組換え発現ベクターにクローニングし、宿主細胞に導入する。
【0042】
(Nogoレセプターアンタゴニストの使用)
本発明は、ドーパミンニューロン変性の徴候または症状を示す哺乳動物において、ドーパミンニューロンの再生または生存を促進する方法に関する。本発明のいくつかの実施形態において、ドーパミンニューロン変性は、パーキンソン病が含まれるが、これに限定されない疾患、障害または状態と関連する。
【0043】
好ましい実施形態において、この疾患、障害または状態は、パーキンソン病である。
【0044】
(Nogoレセプターアンタゴニスト薬学的組成物)
本発明の方法に使用されるNogoレセプターアンタゴニストは、ヒトを含む哺乳動物に投与するための薬学的組成物に処方され得る。本発明の方法に使用される薬学的組成物は、薬学的に受容可能なキャリアを含有する。
【0045】
これらの薬学的組成物に有用である薬学的に受容可能なキャリアとしては、例えば、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝物質(例えば、リン酸塩)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、硫酸プロタミン)、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダルシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が挙げられる。
【0046】
本発明の方法に使用される組成物は、任意の適した方法(例えば、非経口、脳室内、経口、吸入スプレー、局所、直腸、鼻、口腔、膣、または移植レザバを介して)によって投与され得る。用語「非経口」は、本明細書で使用される場合、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、鞘内、肝臓内、病巣内、および頭蓋内の注射技術または注入技術を包含する。本発明の方法において、Nogoレセプターアンタゴニストは、血液脳関門を横断しなければならない。この横断は、Nogoレセプターアンタゴニスト分子自体に固有の物理化学的な特性、薬学的処方物中の他の成分、または機械的デバイス(例えば、針、カニューレ、または血液脳関門を破るための外科的器具)の使用から生じ得る。Nogoレセプターアンタゴニストが可溶性Nogoレセプター、抗Nogoレセプター抗体または血液脳関門を本質的に横断しない他の分子である場合、投与の適切な経路は、頭蓋内(例えば、黒質または線条に直接の)経路である。Nogoレセプターアンタゴニストが、血液脳関門を本質的に横断する分子である場合、投与の経路は、以下に記載する種々の経路の1つ以上による経路であり得る。
【0047】
本発明の方法に使用される組成物の滅菌した注入可能な形態は、水性または油性の懸濁液であり得る。これらの懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して当該分野で公知の技術に従って処方され得る。滅菌した注入可能な調製物はまた、無毒性の非経口的に受容可能な希釈剤もしくは溶媒中の滅菌した注入可能な溶液または懸濁液であり得、例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液としてであり得る。水、リンガー溶液および等張性塩化ナトリウム溶液は、使用され得る受容可能なビヒクルおよび溶媒の範囲内である。さらに、滅菌した不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として慣習的に使用される。この目的のために、任意の無刺激性の不揮発性油が使用され得、それとしては、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドが挙げられる。脂肪酸(例えば、オレイン酸)およびそのグリセリド誘導体は、注射可能物質の調製に有用であり、天然の薬学的に受容可能な油(例えば、オリーブ油またはまたはヒマシ油)、特にそのポリオキシエチレン化形態である。これらの油性溶液または油性懸濁液はまた、長鎖アルコール希釈剤もしくは分散剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、またはエマルジョンおよび懸濁液を含む薬学的に受容可能な投薬形態の処方物中で一般的に使用される類似した分散剤)を含有し得る。他の一般的に使用される界面活性剤(例えば、Tween、Spanおよび他の乳化剤)、または薬学的に受容可能な固体投薬形態、液体投薬形態または他の投薬形態の製造に一般的に使用されるバイオアベイラビリティの賦活剤もまた、目的の処方物のために使用され得る。
【0048】
非経口処方物は、単一のボーラス用量、次いで維持用量で続けられる注入ボーラス用量または負荷ボーラス用量であり得る。これらの組成物は、一日に一回または「必要なとき」に基づいて投与され得る。
【0049】
本発明の方法に使用される特定の薬学的組成物は、任意の経口的に受容可能な投薬形態で経口投与され得、その形態としては、例えば、カプセル剤、錠剤、水性懸濁液または水溶液が挙げられる。特定の薬学的組成物はまた、鼻エアロゾルまたは鼻吸入によって投与され得る。このような組成物は、ベンジルアルコールまたは他の適切な保存剤、バイオアベイラビリティを増強するための吸収促進剤、フッ化炭素および/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用する生理食塩水中の溶液として調製され得る。
【0050】
単一投薬形態を作製するためのキャリア物質と合わせられ得るNogoレセプターアンタゴニストの量は、処置される宿主および投与の特定の様式に依存して変動する。この組成物は、単一用量として、複数回用量として、または注入の確立された時間にわたって投与され得る。投薬レジメンはまた、最適な所望の応答(例えば、治療応答または予防応答)を提供するように調節され得る。
【0051】
本発明の方法は、「治療有効量」または「予防有効量」のNogoレセプターアンタゴニストを使用する。本発明の方法に使用されるNogoレセプターアンタゴニストの治療有効量または予防有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別および体重のような因子によって変動し得る。治療有効量または予防有効量はまた、治療的に有益な効果が中毒作用または有害な効果を完全に上回る量である。
【0052】
任意の特定の患者のための特定の投薬レジメンおよび処置レジメンは、種々の因子に依存し、その因子としては、特定のNogoレセプターアンタゴニスト、患者の年齢、体重、全身的な健康状態、性別および食餌、ならびに投与の時間、排出の速度、薬物の組合せ、ならびに処置される特定の疾患の重篤度に依存する。このような因子の医療介護者による判断は、当業者の範囲内である。アンタゴニストの量はまた、処置される個々の患者、投与の経路、処方の形式、使用される化合物の特徴、疾患の重篤度、および所望される効果に依存する。アンタゴニストの量は、当該分野で周知の薬理学的原則、および薬物動態学的原則によって決定され得る。
【0053】
本発明の方法において、Nogoレセプターアンタゴニストは、一般的に、脳室内、鞘内に投与されるか、または中枢神経系(CNS)(例えば、中脳、黒質または線条)に直接投与される。本発明の方法に従った投与のための組成物は、一日あたり0.001〜10mg/kg体重のNogoレセプターアンタゴニストの投薬量が投与されるように処方され得る。本発明のいくつかの実施形態において、投薬量は、一日あたり0.01〜1.0mg/kg体重である。いくつかの実施形態において、投薬量は、一日あたり0.05〜0.5mg/kg体重である。
【0054】
追加の活性化合物がまた、本発明の方法に使用される組成物中に組み込まれ得る。例えば、Nogoレセプター抗体もしくはその抗原結合フラグメントまたは可溶性Nogoレセプターポリペプチドまたは融合タンパク質が、一種以上のさらなる治療剤と同時処方され得、そして/またはそれらと同時投与され得る。
【0055】
本発明は、選択された標的組織へのNogoレセプターアンタゴニストの任意の適切な送達方法を包含し、それらとしては、Nogoレセプターアンタゴニストの水溶液のボーラス注射または徐放系の移植が挙げられる。徐放移植物の使用は、繰り返しの注射に対する必要性を減少させる。
【0056】
本発明の方法に使用されるNogoレセプターアンタゴニストは、脳内に直接注入され得る。化合物の脳への直接注入のための種々の移植物が公知であり、治療化合物の、神経性の障害を罹患するヒト患者への送達に有効である。これらとしては、ポンプ、定位的に移植されたカテーテル、一時的な間隙性カテーテル、永久的な頭蓋内カテーテル移植物および外科的に移植された生分解性の移植物を使用する脳内への慢性注入が挙げられる。例えば、Gillら、前出;Scharfenら、「High Activity Iodine−125 Interstitial Implant For Gliomas」、Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.24(4):583−91(1992);Gasparら、「Permanent 125I Implants for Recurrent Malignant Gliomas」、Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys.43(5):977−82(1999);Gildenbergら、Textbook of Stereotactic and Functional Neurosurgery、McGraw−Hill(1998)中の第66章、p.577−580、Bellezzaら、「Stereotactic Interstitial Brachytherapy」;およびBremら、「The Safety of Interstitial Chemotherapy with BCNU−Loaded Polymer Followed by Radiation Therapy in the Treatment of Newly Diagnosed Malignant Gliomas:Phase I Trial」、J.Neuro−Oncology、26:111−23(1995)を参照のこと。
【0057】
組成物はまた、その化合物の適切な送達系または支持系として機能する生物適合性のキャリア物質中に分散されたNogoレセプターアンタゴニストを含有し得る。徐放キャリアの適切な例としては、坐剤またはカプセル剤のような成形した物品の形態の半透性のポリマーマトリクスが挙げられる。移植可能またはマイクロカプセルの徐放マトリクスとしては、ポリラクチド(米国特許第3,773,319号;EP58,481号)、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタメートとのコポリマー(Sidmanら、Biopolymers 22:547−56(1985));ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、エチレン酢酸ビニル(Langerら、J.Biomed.Mater.Res.15:167−277(1981);Langer、Chem.Tech.12:98−105(1982))またはポリ−D−(−)−3ヒドロキシブチル酸(EP 133,988)が挙げられる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態において、Nogoレセプターアンタゴニストは、脳の適切な領域に直接注入することにより患者に投与される。例えば、Gillら、「Direct brain infusion of glial cell line−derived neurotrophic factor in Parkinson disease」、Nature Med.9:589−95(2003)を参照のこと。代替的な技術が利用可能であり、本発明に従ったNogoレセプターアンタゴニストの投与に適用され得る。例えば、Riechert−MundingerユニットおよびZD(Zamorano−Dujovny)多目的局在化ユニットを使用する、Nogoレセプターアンタゴニストを有するカテーテルまたは移植物の定位的な設置が利用され得る。2mmの厚さの切片によるコントラストを増強したコンピュータ処理した断層撮影法(CT)スキャン、120mlのオムニパーク、350mgヨウ素/mlの注入は、三次元多平面処理設計(three−dimensional multiplanar treatment planning)(STP、Fischer、Freiburg、Germany)を可能にする。この装置は、明瞭な標的の確認のためのCT標的情報およびMRI標的情報を融合する磁気共鳴映像研究に基づいた設計を可能にする。
【0059】
GE CTスキャナー(General Electric Company、Milwaukee、WI)とともに使用するめに改変したLeksell定位固定システム(Downs Surgical,Inc.、Decatur、GA)ならびにBrown−Roberts−Wells(BRW)定位固定システム(Radionics、Burlington、MA)が、本発明の目的に使用され得る。従って、移植の初期に、BRW定位固定フレームの環状基部リングが、患者の頭蓋に取り付けられ得る。連続的なCT切片が、基部プレートに留められたグラファイトロッドローカライザーフレームを用いて、(標的組織)領域にわたって3mmの間隔で得られ得る。コンピュータ処理設計プログラムは、CT空間とBRW空間との間の地図を作るためにグラファイトロッド画像のCT同等物を使用して、VAX 11/780コンピュータ(Digital Equipment Corporation、Maynard、Mass.)で実行され得る。
【実施例】
【0060】
(実施例1:ラットにおける可溶性Nogoレセプター(310)−Fcの減少した回転性の挙動および6−ヒドロキシドーパミン損傷後の線条体のドーパミンレベルの増加)
雄性のSprague−Dawleyラット(150〜200g、Charles River)を、イソフルランを使用して麻酔し、定位のフレームに配置した。外科的部位をベータダインおよびアルコールで拭き取り、1インチの正中矢状切開を、ブレグマに曝露した。小さい骨孔を、注射部位上の頭蓋上につくり、2μlの(生理食塩水/0.2% アスコルビン酸塩)中の20μgの6−ヒドロキシドーパミンHCl(6−OHDA)を、AP+0.7、中線に対して2.8mm側方に、頭蓋の表面に対してDV−5.5mm腹側の座標で、定位的に左側の線条に注入した。29ゲージのステンレス鋼カニューレにポリエチレンチューブを取り付けたシリンジポンプを使用して、6−OHDAを0.5μl/分の速度で4分間にわたって注入した。6−OHDAの注入後、カニューレをさらに2分間その位置に保持し、次いでゆっくりと引き抜いた。次いで、5mmの長さのAlzet脳注入カニューレを同じ骨孔を通して移植し、スーパー接着剤(superglue)を使用して頭蓋に固定した。カニューレを、0.25μl/hの速度で28日間継続的に放出する、PBSまたは50mMのsNgR(310)Fc(ラットNogoレセプター−1のアミノ酸26〜310を含む融合タンパク質およびラットのFcフラグメント;国際特許出願PCT/US03/25004号を参照のこと)を含む、注入したAlzet浸透性ポンプ(モデル2004)に接続した。この浸透性ポンプを、首筋の皮下空間に移植した。この切開部位を、オートクリップを使用して閉じ、ラットを、麻酔から回復するまで加湿したインキュベーター内に配置した。
【0061】
6−OHDAを注入して7日後、14日後、21日後、28日後に、ラットをアンフェタミン(1mg/kg ip)で処置し、2時間にわたって回転行動を測定した。「回転行動」は、黒質線条体のドーパミン経路に片側からの損傷を有する動物が、ドーパミンアゴニスト(例えば、アポモルフィネ)またはドーパミン放出因子(例えば、アンフェタミン)を投与される場合に示す挙動である。その動物は、より大きい線条体のドーパミンレセプター刺激を経験した脳の側から離れた円で繰り返し回転する。回転応答の大きさ、すなわち行なわれる回転の数は、黒質線条体のドーパミン経路に対する損傷の程度に直接的に比例する。例えば、Fuxeら、「Antiparkinsonian drugs and dopaminergic neostriatial mechanisms:studies in rats with unilateral 6−hydroxydopamine−induced degeneration of the nigro−neostriatal DA Pathway and quantitative recording of rotational behavior」、Pharmacol.Ther.[B]2:41−47(1976)を参照のこと。最後の回転の少なくとも24時間後、試験ラットをCO窒息により屠殺した。脳を迅速に取り除き、視交叉の後ろの境界で、前頭面に切断した。線条体を、脳の前部から両側を切開し、HPLC/ECによるカテコールアミン測定のためにドライアイス上で凍結させた。脳の後部を、4%PFA中で48時間浸漬固定し、黒質チロシンヒドロキシラーゼ免疫組織化学のための凍結切断まで、凍結保護のために30%スクロースに移した。
【0062】
sNgR(310)Fcによる処置は、黒質内のドーパミンニューロンの生存を有意に増加し(図1B)、線条体の6−OHDA損傷後のアンフェタミン負荷に対する応答における回転行動を有意に減少させた(図2B)。sNgR(310)−Fc処置したラットの損傷を受けた線条におけるドーパミンレベルが、コントロールと比較して有意に増加した(図3)。インタクトな線条におけるドーパミンレベルは、sNgR(310)Fc処置後、有意に変化しなかった。これらのデータは、NogoレセプターアンタゴニストsNgR(310)−Fcを用いた処置が、細胞の生存を増加させ、損傷後の脳におけるドーパミン作用性経路における回復を改善させることを示した。
【0063】
(実施例2.線条の6−OHDA損傷後のNgRヌルマウスにおけるアポモルフィン負荷に対する応答における回転行動の減少)
雄性または雌性のNogoレセプターノックアウトマウス、ヘテロ接合体および野生型の同腹仔(15〜30g)を、ケタミンおよびキシラジンを使用して(それぞれ100mg/kgおよび10mg/kg、ip)麻酔し、定位のフレームに配置した。外科的部位を、ベータダインおよびアルコールで拭き取り、0.5cmの正中矢状切開を、ブレグマに曝露した。小さい骨孔を、注射部位上の頭蓋上につくり、1μlの(生理食塩水/0.2%アスコルビン酸塩)中の10μgの6−ヒドロキシドーパミンHCl(6−OHDA)を、AP+0.7、中線に対して2.8mm側方に、頭蓋の表面に対してDV−5.5mm腹側の座標で、定位的に左側の線条に注入した。29ゲージのステンレス鋼カニューレにポリエチレンチューブを取り付けたシリンジポンプを使用して、6−OHDAを0.5μl/分の速度で2分間にわたって注入した。6−OHDAの注入後、カニューレをさらに2分間その位置に保持し、次いでゆっくりと引き抜いた。切開を、創クリップを使用して閉じ、マウスが麻酔から回復するまで加温パッド上に配置した。6−OHDAを注入して28日後、マウスにアポモルフィンを注射し、30分間にわたって回転行動を記録した。回転行動の測定の少なくとも24時間後、マウスをCO窒息により安楽死させた。脳を迅速に取り除き、視交叉の後ろの境界で、前頭面に切断した。脳の後部を、4%PFA中で48時間浸漬固定し、黒質チロシンヒドロキシラーゼ免疫組織化学のための凍結切断まで、凍結保護のために30%スクロースに移した。
【0064】
6OHDAの側方の注射後4週間のNogoレセプターノックアウトマウスにおける黒質内の生存するドーパミンニューロンの数は、ヘテロ接合体および野生型同腹仔コントロールと比較してより多かった(図1A)。NgRヌルマウスにおけるアポモルフィン負荷に対する応答における回転行動は、ヘテロ接合体および野生型の同腹仔コントロールと比較して、有意に低くかった(図2A)。これらのデータは、神経の生存を増加させ、NgR1を欠如するマウスの損傷後の脳におけるドーパミン作用性経路における機能の回復を改善することを示す。
【0065】
前述の発明は、理解の明瞭性の目的のために、図および実施例によってある程度詳細に記載されるが、添付の特許請求の範囲の精神または範囲を逸脱することなく、特定の変化および改変がなされ得ることが、本発明の教示に鑑みて、当業者に容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1Aは、線条への6−ヒドロキシドーパミンHCl(6OHDA)注射を片側に注射して4週間後のヘテロ接合体および野生型の同腹仔コントロールと比較した場合のNogoレセプターノックアウトマウスにおけるドーパミンニューロンの生存を示す。損傷した黒質におけるチロシン(TH)ポジティブなニューロンの数を、反対側のインタクトな黒質におけるTHポジティブなニューロンの数の百分率として表す。図1Bは、線条に6OHDAを片側に注射して4週間後の、sNgR(310)Fcで処置したラットにおけるドーパミン作用性ニューロンの生存を示す。損傷した黒質におけるチロシン(TH)ポジティブなニューロンの数を、反対側のインタクトな黒質におけるTHポジティブなニューロンの数の百分率として表す。
【図2】図2Aは、線条への6OHDAの片側注射後4週間のNogoレセプターノックアウトマウスにおけるアポモルフィンに誘導された回転行動は、ヘテロ接合体および野生型同腹仔コントロールと比較して減少していたことを示す。図2Bは、線条体の6OHDAの片側注射後7日、14日、21日および28日のsNgR(310)Fcで処置したラットにおけるアンフェタミンに誘導される回転は、ビヒクルで処置したコントロールと比較して減少していたことを示す。
【図3】図3は、線条への6OHDAの片側注射後4週間のsNgR(310)Fcで処置したラットにおいて、線条体のドーパミンレベルが増加していたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパミンニューロン変性の徴候または症状を示す哺乳動物において、ドーパミンニューロンの再生または生存を促進する方法であって、該哺乳動物に、治療有効量のNgR1アンタゴニストを投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記NgR1アンタゴニストが、中枢神経系に直接投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記NgR1アンタゴニストが、黒質または線条に直接投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記NgR1アンタゴニストが、ボーラス注射または慢性注入によって投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記NgR1アンタゴニストが、可溶性形態の哺乳動物のNgR1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記可溶性形態の哺乳動物のNgR1が、(a)10個までの保存的アミノ酸置換を有するヒトNgR1のアミノ酸26〜310(配列番号3)を含み;そして(b)(i)機能性膜貫通ドメイン、および(ii)機能性シグナルペプチドを欠如する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記可溶性形態の哺乳動物のNgR1が、(a)10個までの保存的アミノ酸置換を有するヒトNgR1のアミノ酸26〜344(配列番号4)を含み;そして(b)(i)機能性膜貫通ドメイン、および(ii)機能性シグナルペプチドを欠如する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記可溶性形態の哺乳動物のNgR1が、(a)10個までの保存的アミノ酸置換を有するラットNgR1のアミノ酸27〜310(配列番号5)を含み、そして(b)(i)機能性膜貫通ドメイン、および(ii)機能性シグナルペプチドを欠如する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記可溶性形態の哺乳動物のNgR1が、(a)10個までの保存的アミノ酸置換を有するラットNgR1のアミノ酸27〜344(配列番号6)を含み、そして(b)(i)機能性膜貫通ドメイン、および(ii)機能性シグナルペプチドを欠如する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記可溶性形態の哺乳動物のNgR1が、融合部分をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記融合部分が、免疫グロブリン部分である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫グロブリン部分が、Fc部分である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記NgR1アンタゴニストが、哺乳動物のNgR1に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、Fvフラグメント、Fdフラグメント、二重特異性抗体および単鎖抗体からなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体またはその抗原結合フラグメントが、HB 7E11(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4587)、HB 1H2(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4584)、HB 3G5(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4586)、HB 5B10(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4588)およびHB 2F7(ATCC(登録商標)登録番号PTA−4585)からなる群より選択されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体によって結合されるポリペプチドに結合する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記モノクローナル抗体が、HB 7E11ハイブリドーマによって産生される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリペプチドが、以下:
【化1】

からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、以下:
【化2】

からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記治療有効量が、0.001mg/kg〜10mg/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記治療有効量が、0.01mg/kg〜1.0mg/kgである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記治療有効量が、0.05mg/kg〜0.5mg/kgである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ドーパミンニューロン変性が、パーキンソン病、多系統萎縮症、線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮、シャイ−ドレーガー症候群、パーキンソン症候群の特徴を有する運動ニューロン疾患、レヴィー小体痴呆、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭葉型痴呆、パーキンソン症候群を伴うアルツハイマー病、ウィルソン病、ハレルフォルデン−シュパッツ症候群、チェディアック−東病、SCA−3 脊髄小脳性運動失調、X連鎖ジストニーパーキンソン症候群(DYT3)、ハンティングトン病(ヴェストファル改変体)、プリオン病、脳血管性パーキンソン症候群、脳性麻痺、繰り返しの頭部外傷、脳炎後のパーキンソン症候群および神経梅毒からなる群より選択される疾患または障害と関連する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
哺乳動物に、治療有効量のNgR1アンタゴニストを投与する工程を包含する、パーキンソン病を処置する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−519737(P2007−519737A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551456(P2006−551456)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/002535
【国際公開番号】WO2005/074972
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【出願人】(392019352)イェール ユニバーシティ (38)
【氏名又は名称原語表記】YALE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】