説明

Non−dipper型血圧日内変動による疾病発症リスク軽減剤

【課題】特定のNon-dipper型血圧日内変動パターンを有するヒト、特に、SBP及びDBPが正常値を示す健常人を対象として、夜間から早朝の収縮期血圧を有効に低下させることができ、朝方に発症し易い、血圧日内変動リスクによる疾病の発症を軽減しうるNon-dipper型血圧日内変動による疾病発症リスク軽減剤を提供すること。
【解決手段】本発明の軽減剤は、上記ヒトを対象に投与するものであって、獣乳蛋白質を加水分解して得た、Val Pro Pro及びIle Pro Proを含む加水分解物又はその濃縮物を含有することを特徴とする。従って、朝方に発症し易い、血圧日内変動リスクによる疾病、例えば、脳梗塞、心筋梗塞、心筋虚血、アテローム性動脈硬化、心不全、脳卒中、冠動脈疾患、抹消血管疾患等の多くの疾病の発症リスクの軽減が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夜間から早朝にかけての血圧降下率が低い、一般に、Non-dipperといわれるヒト、特に、24時間の平均血圧が正常である血圧健常者を対象に、朝方に発症し易い、血圧日内変動による、心血管や脳血管等の血管トラブルによって生じる各種疾病の発症リスクを軽減しうる剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は、脳梗塞、心筋梗塞、心筋虚血、アテローム性動脈硬化、心不全、脳卒中、冠動脈疾患、抹消血管疾患等の多くの疾病の重要なリスク要因であることが従来から知られている。
そこで、多くの血圧降下作用を有する成分が見い出され、高血圧患者を対象に使用されている。例えば、Val Pro ProやIle Pro Pro等のトリペプチド、これらを含むカゼイン加水分解物には、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性(ACEI活性)作用があり、血圧降下作用を示すことが開示されている(特許文献1及び2参照)。
このような高血圧患者の定義は必ずしも明確ではなく、測定装置や環境等により異なるが、近年、普及してきている携帯型24時間自動血圧計による測定では、一般に、収縮期血圧(SBP)の平均が130mmHg以上、拡張期血圧(DBP)の平均が80mmHg以上のヒトが対象とされることが多い(非特許文献1参照)。
【0003】
上記携帯型24時間自動血圧計の普及により、近年、ABPM(ambulatory blood pressure monitoring)法による、血圧日内変動のパターンが測定され、様々な疾患に対するリスク要因の分類検討がなされている(非特許文献2参照)。
ヒトの血圧日内変動は、一般に、昼間高く、夜間から早朝にかけて低くなる傾向にある。このような血圧変動パターンの中でも、昼間の平均収縮期血圧に対する夜間の平均収縮期血圧の低下率が10%以上低いヒトをDipper型、10%未満低いヒトをNon-dipper型と分類する方法が知られている(非特許文献3)が、現状、このDipper型、Non-dipper型の明確な分類基準についての規定はない。いずれにしても、血圧日内変動がDipper型のヒトより、Non-dipper型のヒトの方が、脳梗塞、心筋梗塞、心筋虚血、アテローム性動脈硬化、心不全、脳卒中、冠動脈疾患、抹消血管疾患等が朝方に発症し易い傾向にあることが報告されている。
このような傾向は、高血圧症患者群のみに見られるものではなく、24時間の平均血圧が正常である健常者群にも見られることがわかってきている。
一般に、高血圧患者に投与される血圧降下剤は、昼間の血圧を下げる作用を有するものや、効果の持続性が長い日内血圧全体を下げるものなど様々な種類のものが知られている。しかし、血圧降下剤の摂取が従来必要でなかった上述の正常血圧な健常者において、Non-dipper型に分類されるヒトの夜間から早朝にかけての平均収縮期血圧をDipper型に近づけるような作用を示す剤についてはあまり知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−40994号公報
【特許文献2】特開平3−120225号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「高血圧治療ガイドライン2009」(第2章血圧測定と臨床評価、p8-17、(2009)日本高血圧学会発行)
【非特許文献2】Japanese Circulation Journal Vol. 64, Suppl. V, 2000(24時間血圧計の使用(ABPM)基準に関するガイドライン、p1207−1237)
【非特許文献3】THE JOURNAL OF CLINICAL HYPERTENSION (The Impact of Lactotripeptides on Blood Pressure in Stage 1 and Stage 2 Hypertensives、p1−7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、夜間から早朝にかけての血圧降下率が低い、特定のNon-dipperといわれるヒト、特に24時間の平均血圧が正常である血圧健常者を対象に、朝方に発症し易い、血圧日内変動による疾病の発症リスクを軽減しうる剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、携帯型24時間自動血圧計により30分間毎に上腕血圧を測定した、8:00〜21:00の平均収縮期血圧に対する、0:00〜5:00の平均収縮期血圧の低下率が10%未満であるNon-dipper型のヒト、特に、携帯型24時間自動血圧計により30分間毎に上腕血圧を測定した収縮期血圧(SBP)の平均が130mmHg未満、拡張期血圧(DBP)の平均が80mmHg未満のヒトに経口摂取させる、血圧日内変動による疾病の発症リスクを軽減しうる剤であって、
獣乳蛋白質を加水分解して得た、Ile Pro Pro及びVal Pro Proを含む加水分解物又はその濃縮物を含有することを特徴とするNon-dipper型血圧日内変動による疾病発症リスク軽減剤(以下、本発明の軽減剤と略す場合がある)が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の軽減剤は、特定のNon-dipper型血圧日内変動パターンを有するヒト、特に、SBP及びDBPが正常値を示す健常人を対象として、夜間から早朝の収縮期血圧を有効に低下させることができ、朝方に発症し易い、血圧日内変動による疾病、例えば、脳梗塞、心筋梗塞、心筋虚血、アテローム性動脈硬化、心不全、脳卒中、冠動脈疾患、抹消血管疾患等の多くの疾病の発症リスクを軽減することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で行ったDipper型の血圧日内変動による疾病発症リスク軽減作用の測定前後におけるSBPを比較するためのグラフである。
【図2】実施例1で行ったNon-dipper型の血圧日内変動による疾病発症リスク軽減作用の測定前後におけるSBPを比較するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の軽減剤は、携帯型24時間自動血圧計により30分間毎に上腕血圧を測定した、8:00〜21:00の平均収縮期血圧に対する、0:00〜5:00の平均収縮期血圧の低下率が10%未満であるNon-dipper型のヒト、特に、携帯型24時間自動血圧計により30分間毎に上腕血圧を測定した収縮期血圧(SBP)の平均が130mmHg未満、拡張期血圧(DBP)の平均が80mmHg未満のヒトを対象とするもので、特に後者のヒトは、Non-dipper型であっても、通常、高血圧症患者とは認定されず、血圧降下剤の投与を必要としないヒトである。しかし、最近、このような夜間や早朝の血圧低下率が低いNon-dipper型の群は、血圧日内変動による疾病の発症リスクが、Dipper型のヒトの群より高いことがわかってきている。本発明では、このようなリスクが高いヒトの夜間や早朝の血圧低下率を下げ、そのリスクを軽減することを可能にする。
【0011】
本発明の軽減剤は、獣乳蛋白質を加水分解して得た、VPP及び、IPPを含む加水分解物又はその濃縮物を含有する。
獣乳蛋白質としては、例えば、牛乳、馬乳、羊乳、山羊乳、これらの加工乳である脱脂乳、還元乳、粉乳、コンデンスミルクが挙げられ、牛乳又はその加工乳が特に好ましい。これらに含まれる蛋白質には、VPP配列及びIPP配列が含まれることが既に知られている。
獣乳の固形分濃度は特に限定されないが、例えば、脱脂乳を用いる場合の無脂乳固形分濃度は、通常3〜15質量%程度であり、生産性的には6〜15重量%が好ましい。
【0012】
本発明の軽減剤に用いる加水分解物は、獣乳蛋白質をIPP及び、VPPが得られるように、好ましくはVPPの含有量が3μg/ml以上、特に30μg/ml〜60μg/ml、更にこのましくは30μg/ml〜40μg/ml、及びIPPの含有量が2μg/ml以上、特に20μg/ml〜40μg/ml、更に好ましくは20μg/ml〜30μg/mlとなるように加水分解して得たものである。
前記加水分解方法としては、例えば、獣乳蛋白質を含む原料を乳酸菌により発酵させて発酵物として得る方法(A)、獣乳蛋白質を含む原料を酵素により酵素分解する方法(B)、及び、前記(A)と(B)を組み合わせて加水分解物を得る方法が挙げられる。
【0013】
前記方法(A)において、乳酸菌としては、ストレプトコッカス属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属等に属する乳酸菌が挙げられるが、ラクトバチルス属が好ましい。具体的には、例えば、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)等が挙げられ、特に、IPP、及びVPPの生産効率に優れたラクトバチルス・ヘルベティカスが好適に使用できる。
更に具体的には、ラクトバチルス・ヘルベティカスATCC 15009、ラクトバチルス・ヘルベティカスATCC 521、ラクトバチルス・ヘルベティカスCM4株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター 日本国茨城県つくば市東1−1−1中央第6 寄託番号:FERM BP−6060,寄託日1997.8.15)(以下、CM4株と称す)が挙げられる。このCM4株は、特許手続上の微生物寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に上記寄託番号で登録されており、この株は既に特許されている。
【0014】
前記乳酸菌は、あらかじめ前培養しておいた十分に活性の高いスターターとして用いることが好ましい。初発菌数は、好ましくは105〜109個/ml程度である。
得られる発酵物の風味を良好にし、嗜好性を良好とするために、前記発酵時に酵母を併用することができる。酵母の菌種は特に限定されないが、例えば、サッカロマイセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属酵母等が好ましく挙げられる。酵母の含有割合は、その目的に応じて適宜選択することができる。
【0015】
発酵方法は、前記乳酸菌の1種もしくは2種以上を培地に培養するか、または前記乳酸菌の1種もしくは2種以上と前記酵母の1種もしくは2種以上とを混合して培地に培養することにより行うことができる。
培地としては、前記獣乳蛋白質を含む原料培地、またはこれらに副次的成分として酵母エキス、アスコルビン酸等のビタミン類、システイン等のアミノ酸、塩化ナトリウム等の塩類、グルコース、シュークロース、ラフィノース、スタキオース等の糖類、ゼラチン等の安定剤、フレーバー等を適宜添加した培地を用いることができる。
発酵は、上記VPP、及びIPPが得られるように、例えば、通常静置若しくは撹拌培養により、発酵温度は25〜50℃、好ましくは30〜45℃とすることができ、発酵時間は6〜30時間、好ましくは10〜24時間とすることができる。発酵初発pH6.0〜7.0の条件等で行い、菌数が107個/ml以上、pH5.0以下になった時点で培養を停止する方法により行なうことができる。また、発酵前の獣乳蛋白質は、高温加熱殺菌等が施されていても良い。
【0016】
前記方法(B)において用いる酵素としては、例えば、獣乳蛋白質中のXaa Pro Xaa又はXaa Pro Pro Xaaのカルボキシ末端のPro Xaa配列が切断可能なペプチダーゼを含む酵素が好ましく挙げられる。
前記酵素は、活性中心にセリンを持つ、セリンタイプのプロティナーゼもしくは、活性中心に金属を持つ金属プロティナーゼを含むことが好ましい。金属プロティナーゼとしては、中性プロテアーゼI、中性プロテアーゼII及びロイシンアミノペプチダーゼ等が挙げられ、これらの少なくとも1種を更に含むことが、所望の加水分解物を効率良く、且つ短時間で、更には1段階反応で得ることができる点で好ましい。また前記Pro Xaa配列が切断可能なペプチダーゼとしては、等電点が酸性域を示す酵素が好ましい。
【0017】
前記酵素としては、例えば、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等の麹菌由来の酵素群が挙げられる。このような酵素群は、適当な培地で菌体を培養し、生産される酵素を水抽出した酵素群等が挙げられ、特に、アスペルギルス・オリゼー由来の酵素群のうちの等電点が酸性域を示す酵素群が好ましく挙げられる。
前記アスペルギルス・オリゼー由来の酵素群としては、市販品を利用することができ、例えば、スミチームFP、LP又はMP(以上、登録商標、新日本化学(株)製)、ウマミザイム(登録商標、天野エンザイム(株)製)、Sternzyme B11024、PROHIDROXY AMPL(以上、商品名、株式会社樋口商会製)、オリエンターゼONS(登録商標、阪急バイオインダストリー(株)製)、デナチームAP(登録商標、ナガセ生化学社製)等が挙げられ、特に、スミチームFP(登録商標、新日本化学(株)製)の使用が好ましい。
これら市販の酵素群を用いる場合には、通常、至適条件が設定されているが、前記加水分解物が得られるように、例えば、使用酵素量や反応時間等を、用いる酵素群に応じて適宜変更して行なうことができる。
【0018】
前記酵素の添加量は、例えば、獣乳蛋白質を溶解した水溶液に、酵素/獣乳蛋白質が質量比で1/1000以上、好ましくは1/1000〜1/10、特に好ましくは1/100〜1/10、更に好ましくは1/40〜1/10の割合となるような量である。
反応条件は、酵素に応じて目的の加水分解物が得られるように適宜選択できるが、温度は通常25〜60℃、好ましくは45〜55℃であり、pHは通常3〜10、好ましくは5〜9、特に好ましくは5〜8である。また、酵素反応時間は、通常2〜48時間、好ましくは7〜15時間である。
前記酵素反応の終了は、酵素を失活させることにより行なうことができ、通常、60〜110℃で酵素を失活させ、反応を停止させることができる。
【0019】
前記方法(A)、(B)、及び(A)と(B)を組み合わせた方法により得られる加水分解物は、必要に応じて沈澱物を、遠心分離除去や各種フィルター処理により除去することができる。
また、必要に応じて、得られる加水分解物から苦味や臭味を有するペプチドを除去することもできる。このような苦味成分や臭味成分の除去は、活性炭又は疎水性樹脂等を用いて行なうことができる。例えば、活性炭を、使用した獣乳蛋白質量に対して1〜20質量%得られた加水分解物中に添加し、1〜10時間反応させることにより行なうことができる。使用した活性炭の除去は、遠心分離や膜処理操作等の公知の方法により行なうことができる。
【0020】
前記得られる加水分解物は、本発明の軽減剤としてそのまま利用することができる。また、前記加水分解物の汎用性を高めるために、濃縮後、乾燥し粉末の形態とすることもできる。
このような粉末には、栄養的バランスや風味等を改善するために、各種補助添加剤を含有させることもできる。例えば、各種炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、甘味料、香料、色素、テクスチュア改善剤等が挙げられる。
【0021】
本発明の軽減剤の投与量は、対象のヒト、1日あたり、前記加水分解物を、固形物換算で、通常1mg〜30g、特に20mg〜20g程度が好ましく、1日に何回かに分けて摂取しても良い。
投与期間は、通常1日以上、好ましくは20日以上で、連続又は継続的な断続摂取することが望ましい。投与方法は、経口摂取で行う。
【0022】
本発明の軽減剤の形態は、例えば、錠剤、丸剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル、散剤、顆粒剤、液剤等が挙げられる。
前記製剤化は、例えば、適宜必要に応じて、薬剤として許容される担体、アジュバント、賦形剤、補形剤、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、保存剤、抗酸化剤等を用い、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で製造することができる。
本発明の軽減剤の上記製剤化に当たっては、本発明の効果の向上等を期待して、公知の血圧降下剤を組み合わせて使用することも可能である。また、オルメサルタン(olmesartan)や、アルチノロール(arotinolol)等のNon-dipper正常化作用を示すことが知られる他の薬剤と組み合わせて使用することで本発明の効果が増強されることが期待される。
【0023】
本発明の軽減剤には、前記加水分解物に加えて、必要に応じて、飲食品に用いる成分、例えば、糖類、タンパク質、脂質、安定化剤、ビタミン、ミネラル、フレーバー、またはこれらの混合物等を添加することもできる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
<CM4発酵乳の調製>
市販の脱脂粉乳を固形率9%(w/w)となるように蒸留水で溶解し、オートクレーブで105℃、10分間、高温加熱殺菌した後、室温まで冷却し、CM4株スターター発酵液(菌数5×108個/ml)を3%(v/w)接種して、37℃で24時間、静置状態で発酵させてCM4発酵乳を得た。
【0025】
<CM4発酵乳中のIPP及びVPP量の測定>
まず、CM4発酵乳1mlを、そのまま15000rpmで10分間遠心分離し、その上清(ホエー)を回収した。このホエー0.3mlをSep-Pak Cartridge(ウォーターズ社製)に吸着させ、蒸留水で洗浄した。メタノール5mlで溶出し、遠心処理下で減圧、乾燥させた。乾燥物を0.3mlの0.05%トリフルオロ酢酸の水溶液に溶解し、以下の条件でHPLC分析した。
使用機種:日立L4000UVディテクター(215nmで検出)、L6200インテリジェントポンプL5030カラムオーヴン(35℃)、分離条件:流速0.5ml/分、溶離液:0.3M NaCl、0.05%トリフルオロ酢酸の水溶液カラム:商品名Asahipak GS320(Φ3.9×600mm)。
その結果、CM4発酵乳ホエー中のVPP量は38.5μg/ml、IPP量は23.5μg/mlであった。
【0026】
<被験者用発酵乳製品の調製>
得られたCM4発酵乳に、安定化剤、甘味料、フレーバー、水を加え、均質化処理したものをガラス瓶に160mlづつ充填し、85℃達温殺菌を行って、被験者用発酵乳製品とした。被験者用発酵乳製品の成分分析結果を表1に示す。当該1日分の被験者用発酵乳製品中のVPP量は2.53mg及びIPP量は1.52mgであった。
【0027】
【表1】

【0028】
<正常血圧のDipper型及びNon-dipper型被験者の選択>
現在抗高血圧薬を服用しておらず、重症の高血圧症、アレルギー性ぜんそく、重症の肝臓若しくは腎臓疾患、脳卒中、及び心筋梗塞の経験のない、55歳〜71歳の12人の被験者に対し、以下の血圧測定を行った。
各被験者に、携帯型24時間自動血圧計(型式ES-H531、テルモ社製)をきき腕ではない上腕に装着してもらい、30分間毎に、SBP、DBP及び心拍数を24時間測定した。
その結果、24時間の平均SBPが130mmHg未満、24時間の平均DBPが80mmHg以下で、かつ心拍数に異常のなかった被験者6人を選択した。
また、選択された6人の被験者の血圧測定結果から、8:00〜21:00における平均SBPに対する、0:00〜5:00における平均SBPの低下率を算出し、低下率10%以上の被験者をDipper型、10%未満の被験者をNon-dipper型に分類した。
その結果、正常血圧のDipper型被験者は3人(被験者4、6、10)、正常血圧のNon-dipper型被験者は3人(被験者3、8、9)であった。選択された各被験者の上記データのうちDipper型被験者のSBPデータを表2に、DBPデータを表3に、Non-dipper型被験者のSBPデータを表4に、DBPデータを表5にそれぞれ示す。尚、測定中における被験者の心拍数に変化は見られなかった。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
<血圧日内変動による疾病発症リスク軽減作用の測定>
上記で選択された正常血圧のDipper型及びNon-dipper型被験者に、4週間、生活習慣を変えず、抗高血圧薬を服用しないようにした後、1ヶ月間、上記被験者用発酵乳製品を起床後に毎朝160ml摂取してもらった。
最終摂取の日の翌日、各被験者に、携帯型24時間自動血圧計(型式ES-H531、テルモ社製)をきき腕ではない上腕に装着してもらい、自由行動下、朝8:00から30分間毎に、SBP、DBP及び心拍数を24時間測定した。
これらの結果のうち、0:00−7:00を夜間から朝方にかけての疾病発症リスクにおける血圧日内変動時間帯とし、被験者用発酵乳製品を摂取する前の上記SBPの値を比較した。結果をDipper型被験者の結果を図1に、Non-dipper型被験者の結果を図2にそれぞれ示す。
【0034】
図1及び図2の結果から0:00−7:00のSBPにおける上記被験者用発酵乳製品の摂取前後におけるDipper群では有意差は認められなかったが、Non-dipper群では有意差(P<0.05、paired t-test)が認められた。従って、本発明に係る獣乳蛋白質の加水分解物を含む上記被験者用発酵乳製品は、本発明に規定するSBP及びDBPが正常値を示す健常人であって、特定のNon-dipper型血圧日内変動を有するヒトを対象として、夜間から早朝の収縮期血圧を有効に低下させることができ、朝方に発症し易い、血圧日内変動による疾病の発症リスクを軽減しうることがわかった。尚、測定中における被験者の心拍数に変化は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯型24時間自動血圧計により30分間毎に上腕血圧を測定した、8:00〜21:00の平均収縮期血圧に対する、0:00〜5:00の平均収縮期血圧の低下率が10%未満であるNon-dipper型のヒトに経口摂取させる、血圧日内変動による疾病の発症リスクを軽減しうる剤であって、
獣乳蛋白質を加水分解して得た、Ile Pro Pro及びVal Pro Proを含む加水分解物又はその濃縮物を含有することを特徴とするNon-dipper型血圧日内変動による疾病発症リスク軽減剤。
【請求項2】
前記Non-dipper型のヒトが、携帯型24時間自動血圧計により30分間毎に上腕血圧を測定した収縮期血圧(SBP)の平均が130mmHg未満、拡張期血圧(DBP)の平均が80mmHg未満である請求項1記載の軽減剤。
【請求項3】
前記加水分解物が、Val Pro Proの含有量が3μg/ml以上、及びIle Pro Proの含有量が2μg/ml以上となる条件で加水分解された加水分解物である請求項1又は2記載の軽減剤。
【請求項4】
前記加水分解物が、獣乳蛋白質を含む原料を乳酸菌により発酵した発酵物である請求項1〜3のいずれか1項記載の軽減剤。
【請求項5】
乳酸菌が、ラクトバチルス・ヘルベティカスを含む請求項4記載の軽減剤。
【請求項6】
ラクトバチルス・ヘルベティカスが、寄託番号:FERM BP−6060のラクトバチルス・ヘルベティカスである請求項5記載の軽減剤。
【請求項7】
前記加水分解物が、獣乳蛋白質を含む原料を麹菌由来の酵素により酵素分解して得た分解物である請求項1〜3のいずれか1項記載の軽減剤。
【請求項8】
麹菌由来の酵素が、アスペルギルス・オリゼー由来の酵素である請求項7記載の軽減剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−102037(P2012−102037A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251010(P2010−251010)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】