説明

Nurr1−陽性ニューロン幹細胞、その医薬品組成物及びその分離、培養と保存方法

【課題】 Nurr1-陽性ニューロン幹細胞、その医薬組成物、及びその分離、培養と保存方法を提供する。更に、具体的には、人歯よりNurr1-陽性ニューロン幹細胞とその分離する方法を提供する。本発明の方法により分離したニューロン幹細胞は、Nurr1-陽性細胞であり、Nurr1に関連した神経退化性疾患、例えば、パーキンソン氏病と脳卒中等の治療及び/或いは予防に使用される。更に、ニューロン幹細胞の培養とその保存方法を提供する。
【解決手段】 Nurr1-陽性ニューロン幹細胞を人歯より分離して得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nurr1-陽性(Nurr1-positive)ニューロン幹細胞(neuron stem cell)とその医薬品組成物、及びその分離、培養と保存方法に関するものである。更に、具体的には、本発明は人歯より分離したNurr1-陽性ニューロン幹細胞とその培養及び保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、パーキンソン氏病(Parkinson's disease)、ハンティングトン氏舞踏病(Huntington's disease)或いはアルツハイマー氏痴呆症(Alzheimer's disease)等の進行性中枢神経系失調症(progressive disorder of the central nervous system)或いは神経退化症(neurodegenerative disease)に対し、その治療に使用される確実に有効な医薬品は見当たらない。例えば、パーキンソン氏病についてみると、診断によりパーキンソン氏病と確定されると、その治療としては、神経系を保護する治療法を主体とするのが理想であるが、しかし、通常パーキンソン氏病の標準看護法としては、レボドパ(levodopa)或いはドーパミンアゴニスト(dopamine agonist)等の薬物投与により症状の進行を遅延或いは抑制する方法がとられている。レボドパは脳内でドーパミンに転化して、病患者の脳部のドーパミンの不足分を補うのに役立つが、レボドパ自身はパーキンソン氏病患者の脳部の進行性病変を防止できず、更に、レボドパは脳部に到達する以前にドーパミンに転化する可能性もあるので、長期間にわたりレボドパを服用すると運動異常症(dyskinesia)或いは運動機能波動現象(motor fluctuation)を引き起こす恐れもある。ドーパミンアゴニストは、パーキンソン氏病の症状を軽減する薬効を有することが確認されており、上記の運動併発症を避けるため、パーキンソン氏病の初期の治療には良く使用されている。しかし、実際の情況において、病状の進展に伴い、ただドーパミンアゴニストを使用するだけでは、十分に病状を改善できないので、更に上記のレボドパを使用することにより、病状を有効にコントロールする必要が現状である。
【0003】
そこで、幹細胞を使用した細胞療法を主体とする上記疾患の治療方法が提案された。幹細胞は、通常、全能性幹細胞(totipotent stem cells)と多能力性幹細胞(pluripotent stem cells)に大別される。全能性幹細胞とは、細胞のそれぞれが一つの完全な生物体に発育する能力を有するものを指し、例えば、胚細胞が挙げられる;多能力性幹細胞とは、能力を有するが、完全ではなく、局部に限定があり、その機能性の分化により特定組織に発育する幹細胞を指し、例えば血液幹細胞(hematopoietic stem cells)、神経幹細胞(neural stem cells)、皮膚幹細胞(skin stem cells)等が挙げられる。現在、治療に使用される幹細胞の多くは骨髄と臍帯血(cord blood)により得ているが、その機能に局限があるため、臨床応用に際し、主に血液悪性疾患、先天性代謝欠陥と免疫欠損等の病変、及び化学治療や放射線治療により傷害を被った骨髄の機能の治療に用いられている。又、Royらは、アルツハイマー病患者の脳にある海馬体における神経細胞の退化現象に関する周知の知見により、その海馬体から幹細胞を分離するのに成功し、更に培養を行った(Nature Medicine 2000;6:249〜250,271〜277を参照)。しかし、該文献において、その幹細胞がNurr1-陽性幹細胞であるか否かについては触れていない。
【0004】
又、歯髄細胞より幹細胞を分離することを提案している科学者もあり、例えば、Gronthosらは人類の第三臼歯の阻生歯[埋伏歯](impacted third molars)より幹細胞を分離する方法を確立しており(Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America;PNAS,2000;97(25):13625-13630を参照)、その方法によると、歯のセメント質とエナメル質との接合部分(cementum-enamel junction)から歯髄組織を取り出した後、コラゲナーゼ(collagenase)とディスパーゼ(dispase)を用いて処理し、その後濾過することで幹細胞を得たことが報告されている。又、Miuraらは、7〜8才の子供の脱落した乳歯から歯髄質を取り出して培養し、幹細胞特有の標識細胞により、該幹細胞が存在することを明らかにし、一つの犬歯より約12〜20個の幹細胞が得られることを報告し、それをSHED (stem cells from human exfoliated deciduous teeth)と称している(PNAS 2003;100(10):5807〜5812を参照)。又、Kuoらは、歯乳頭(dental papilla)から幹細胞を分離し、その幹細胞について、Nurr1ジーンのトランスフェクションを行い、分離した幹細胞からドーパミン生成細胞(dopamine-producing cells)にトランス分化(trans-differentiation)することを報告している(第19回中華民国(台湾)生物医学連合学術年会(JBSC),2004年4月号を参照)。
【0005】
パーキンソン氏病についてみると、ヒト脳内の黒色質(substantia nigra)領域における神経細胞群が破壊された時、パーキンソン氏病が引き起こされるといわれている。この脳神経細胞は、神経伝導物質であるドーパミンの生成にかかわり、ドーパミンの作用としては、筋肉の働きをコントロールする神経支配にある。脳におけるドーパミンの生成は、すでに転写因子/核酸受容体Nurr1が関わっていることが知られている。そのメカニズムとしては、PC12脳細胞中、膜による脱極化によりNurr1発現を引き起こして脳部におけるNurr1のmRNA濃度を高めることが挙げられている。又、Ramsdenらは、原因不明のパーキンソン氏病の病因と、例えば、Nurr1、Ptx-3及びLmx1b等のドーパミン神経性因子とのコントロールに相関性があることを発見している(Mol. Pathol.2001 Dec;54(6):369〜380を参照)。又、米国特許第2003/0119026A1号公報において、Vassilatisはパーキンソン氏病の診断方法を公開しているが、Nurr1 ポリぺプチドの変異(即ち、Nurr1遺伝因子上の突変)により施すことが含まれている。言葉を換えて言うと、Nurr1遺伝因子上の異常な変化(突変)により、脳細胞内のドーパミンの濃度に異常をもたらし、これによりパーキンソン氏病等の神経退化性疾患の発生を引き起こす。そこで、これら神経退化性疾患を治療する方法やそれに関連する薬物として、Nurr1細胞で標識したニューロン幹細胞について、簡単で且つ大量に取得或いは培養できることに関する研究開発が急ぎ望まれている。
【0006】
しかるに、今日既知の事実としては、このNurr1-陽性神経細胞は中脳にしか存在せず、生体(in vivo)から組織培養に必要とするニューロン幹細胞の材料を得るのは相当に難しい。そこで、簡単で、速く且つ有効なNurr1-陽性ニューロン幹細胞の分離、培養及び保存する方法、且つ大量に培養でき、更にこれらNurr1-陽性ニューロン幹細胞を成功に分離、培養し、Nurr1ニューロン退化性疾患の治療とそれに関連する薬物の研究開発が望まれている。
【特許文献1】米国特許第2003/0119026A1号公報
【非特許文献1】Nature Medicine 2000;6:249〜250,271〜277
【非特許文献2】PNAS 2000;97(25):13625-13630
【非特許文献3】PNAS 2003;100(10):5807〜5812
【非特許文献4】第19回中華民国(台湾)生物医学連合学術年会(JBSC),2004年4月号
【非特許文献5】Mol. Pathol.2001 Dec;54(6):369〜380
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明の研究者により鋭意研究した結果、簡単で、速く且つ有効なニューロン幹細胞の分離方法を発見し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、ヒトの臼歯の阻生歯からニューロン幹細胞を分離する方法を提供し、その分離方法は、人歯の試料を生理食塩水で洗浄するステップと、洗浄後の試料を清潔な生理食塩水中に入れ、振動を加えて細胞懸濁液を生成するステップと、上記細胞懸濁液を遠心分離するステップと、上澄液を除去し、細胞を再び適当な培地に懸濁した後、適当な細胞濃度で組織培養瓶に移すステップと、細胞を培養器により4〜10日培養してニューロン幹細胞を得るステップとを含む。本発明の分離方法により得られるニューロン幹細胞は、Nurr1-陽性ニューロン幹細胞である。その分離方法としては、例えば、下記の工程を含む方法が挙げられる:1)生理食塩水を使用して臼歯の試料を洗浄し;2)洗浄後の臼歯の試料を純食塩水30mlを含む50ml容量のコーン型遠心分離管に入れ、振動を加えた後細胞懸濁液を得る;3)この細胞懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間)にかける;4)上澄液を除去した後、該細胞を更に5〜10%の牛胎児血清を含む培地199(Gibco)に懸濁して、25cmの組織培養瓶中に1〜3×10/ml細胞の濃度範囲内で移す、それぞれの培養瓶には4〜5mlの5〜10%の牛胎児血清を含む培地199(Gibco)が含まれている;5)上記の細胞を37℃、5%COの培養器で4〜10日培養すると、ニューロン幹細胞形態の細胞が出現する。この培地を第5日又は第6日目で更新し、その後、それぞれ第3日〜第4日に5〜10%の牛胎児血清の新鮮培地199(Gibco)で更新する。この培地にはペニシリンとストレプトマイシン(Biowest)を含有或いは含有しなくともよい。
【0008】
本発明の幹細胞の培養方法により、人臼歯より分離した一次ニューロン幹細胞を10回以上継代培養することが可能である。一次ニューロン幹細胞ライン(Nurr1-陽性)は、2004年7月6日にBCRC(Bioresource Collection Of Research Center, 331 Shih-Pin Road, Hsin Chu, 300 Taiwan, R.O.C.)に寄託した。寄託番号はBCRC960209。また、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)にも寄託済みであり、寄託番号はDSM ACC2728である。
【0009】
又、本発明は上記の分離方法で得たNurrl-陽性ニューロン幹細胞を用いてなる神経退化性疾患用医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明は、更に冷凍保存を経たニューロン幹細胞の培養の方法を提供し、その培養方法は、冷凍を経た細胞保存管を37℃の水浴中で解凍するステップと、上記解凍した細胞懸濁液を組織培養瓶に移し、5〜10%牛胎児血清を含む培地を使用して培養器内で培養するステップとを含む。この培養方法は、冷凍保存した細胞を解凍することに始まる培養方法であり、例えば、下記の工程を含む方法が挙げられる:1)冷凍庫より冷凍細胞保存管を取り出し、37℃の水浴中で解凍する;2)解凍した細胞の懸濁液を25cmの組織培養瓶中に移し、37℃、5%COの培養器において、4〜5mlの5〜10%の牛胎児血清を含む培地199(Gibco)で4〜5日培養する。
【0011】
更に、本発明はニューロン幹細胞の保存方法を提供し、その保存方法は、ニューロン幹細胞を85%の成長濃度(confluence)までに培養した後、最適容量の膵臓蛋白分解酵素-エチレンジアミンテトラアセテート(Trypsin-EDTA)の協力で培養瓶から細胞を剥離するステップと、細胞懸濁液を収集した後、生理食塩水を添加するステップと、細胞懸濁液を遠心分離するステップと、上澄液を除去した後、上記の生理食塩水添加ステップと遠心分離ステップの操作を少なくとも一回重複するステップと、遠心分離により得た細胞粒状物に適当な培地を添加した後、均一に混合して粒状物を懸濁するステップと、ジメチルスルホキシド/デキストラン(DMSO/dextran)を添加するステップと、細胞と冷凍保護剤よりなる混合物を分装し、−80℃以下の環境の中で冷凍保存するステップとを含む。その方法は、例えば、下記の工程を含む方法が挙げられる:1)ニューロン幹細胞を85%の成長濃度(confluence)に培養した後、最適容量の膵臓蛋白分解酵素-エチレンジアミンテトラアセテート(Trypsin-EDTA)で処理して、細胞を培養瓶から剥離し;2)2mlの細胞懸濁液を1〜5×105/ml濃度で15ml容量のコーン型遠心分離管に集めた後、12mlの生理食塩水を加える;3)細胞懸濁液を遠心分離(1800rpm、10分間)し、4)上澄液を除去し、2)と3)の洗浄操作を重ねて行い;5)遠心分離より得た細胞粒状物に、0.5mlの5〜10%の牛胎児血清(FBS)を含む培地199を添加して、均一に混合して細胞を懸濁する;6)ジメチルスルホキシド/デキストラン(DMSO/dextran)(55% w/vDMSOと5% dextran 40)の溶液0.5 mlを工程5から得た細胞懸濁液に添加する;この溶液は冷凍保護剤(cryoprotectant)として使用される;7)細胞と冷凍保護剤よりなる混合物を0.5ml容量の冷凍管に分装し、直ちに−80℃以下の冷凍庫に使用するまで保存する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下実験により本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれら実験等により何ら限定されるものではない。
【0013】
ニューロン幹細胞の分離及び培養
台湾衛生当局の規定する実験基準により、3名の試料寄贈者(年齢19〜25才範囲内、その完全な同意を得た)から臼歯阻生歯(impacted molar teeth)を収集し、生理食塩水を使用して洗浄する。洗浄後の試料を無菌食塩水30mlを含む50ml容量のコーン型試験管に入れ、30分間振動を加えて(shaker or vortex)細胞懸濁液を得る。この細胞懸濁液を遠心分離(2000rpm、10分間)にかけ、上澄液を除去した後、細胞粒状物を牛胎児血清5〜10%を含む培地199(Gibco)に再び懸濁した後、1〜3×106/ml細胞濃度の範囲内で25cmの組織培養瓶中に移し、それぞれの培養瓶内に5〜10%の牛胎児血清を含む培地199(Gibco)4〜5mlを加える。上記の細胞を37℃、5%COの培養器内で4〜10日培養した所で、細胞はニューロン幹細胞形態を呈するようになる。第1〜3図に示す如く、分離された細胞は、光学顕微鏡による観察でニューロン幹細胞になっていることが判る。第5日或いは第6日目に培地を更新し、その後、3日或いは4日毎に5〜10%の牛胎児血清を含む新鮮培地199(Giboco)で補充、更新する。この培地には、ペニシリン及びストレプトマイシンが含まれていても良く、含まれていなくても良い。上記の方法により、人臼歯より分離した一次ニューロン幹細胞を10回以上継代培養することが可能である。
【0014】
ニューロン幹細胞の冷凍及び解凍
ニューロン幹細胞を成長濃度(confluence)85%までに培養した後、最適容量の膵臓蛋白分解酵素-エチレンジアミンテトラアセテート(Trypsin-EDTA)を用いて処理し、細胞を培養瓶より剥離する。粘着している細胞をより容易に移すために、膵臓蛋白分解酵素で処理している細胞を37℃の培養器内で更に10〜15分間培養する。培養後、細胞懸濁液2mlを1〜5×10/ml濃度で15ml容量のコーン型遠心分離管に収集し、更に生理食塩水12mlをその中に加える。この細胞懸濁液を遠心分離(1800rpm、10分間)にかけ、上澄液を除去し、洗浄操作を繰り返す。遠心分離により得た細胞粒状物に、5〜10%の牛胎児血清(FBS)を含む培地199(Gibco)0.5mlを添加して、均一に混合して粒状物を懸濁し、ジメチルスルホキシド/デキストラン(55% w/v DMSO/5% dextran 40)の溶液0.5mlをこれに加える;この溶液は冷凍保護剤(cryoprotectant)として用いる。この細胞と冷凍保護剤よりなる混合物を0.5ml容量の冷凍管に分装し、直ちに−80℃以下の冷凍庫に使用するまで保存する。
【0015】
冷凍保存した細胞を解凍するには、冷凍庫より冷凍されている細胞保存管を取り出し37℃の水浴中に移して速やかに解凍し、解凍した細胞懸濁液を25cmの組織培養瓶に移し、37℃かつ5%のCOの培養器内で、5〜10%の牛胎児血清を含む培地199(Gibco)4〜5mlを用いて培養する。
【0016】
免疫細胞化学(Immunocytochemistry)
細胞の特定した抗原を鑑定するため、免疫細胞化学染色法により実験を行った。本発明により分離して得たニューロン幹細胞を、24ウェル(well)の培養皿に、各ウェル毎に1×10細胞を接種し、一夜放置した後、予め冷しておいたアセトン/メタノール(1:1)溶液を使用し、−20℃下で15分間固定処理する。非特定結合には、二次抗体の物種に由来する正常血清10%の0.25%Triton X-100を含むPBS溶液を用いてブロッキングした。25℃において、先に固定したニューロン幹細胞と、0.25%Triton X-100を含むPBS中で稀釈した一次抗体(primary antibody)とを2時間培養する。培養後、PBSを用いて洗浄した後、ニューロン幹細胞とFITC-或いはローダミン(rhodamine)で共役結合した二次抗体とを、室温下、暗黒中で1時間培養する。その後、蛍光倒立顕微鏡(Zeiss製、Axiovert200M型)を用いて観察する。観察した映像をCoolSnap HQ CCDを備えた撮影機(Universal Imaging(株)製品、Metamorph、ver6.0、rev5)で撮影と処理した。対照組のウェルについても同様な方法で処理を施すが、一次抗体を用いなかった。上記の本実験において用いた一次抗体としては下記のものを含む:抗CD34(1:200;Pharmingen)、抗CD45(1:200;Pharmingen)、抗CD90(1:200;Pharmingen)、抗GFAP(1:200;Sigma)、抗ネスチン(Nestin)(1:400;Chemicon)、抗β3-チューブリンと抗ヒトβミクログロブリン(1:400;Santa Cruz)。上記の各一次抗体の所属する細胞の類型を下記の表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
その結果を図4と図5に示す。本発明の分離方法により分離されたニューロン幹細胞は、確かにニューロン幹細胞の細胞標識(ネスチンとβ3-チューブリン)を有するものであり、非ニューロン幹細胞の細胞標識(GFAP)を含まないものである。
【0019】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction;RT-PCR)
75T組織培養瓶中で、80%に成長した本発明より分離されたニューロン幹細胞を、RNeasyキット(Qiagen、GmBH)によりRNAを抽出する。メッセンジャーRNA(mRNA)には、Omniscript RT(Qiagen、GmBH)を用いて、相補cDNAに逆転写し、その1/10のcDNAを使用して、30回PCRを行って増幅する(ABI PRISM 9700、Applied Biosystems)、PCRのパラメーター条件を下記に示す。
【0020】
1.変性開始:95℃で10分間
2.変性反応:95℃で30秒間
3.アニーリング反応:55℃で30秒間
4.延長反応:72℃で60秒間
5.2〜4の工程を重ねて行い、30回循環させる。
【0021】
対照としては、cDNA鋳型を添加せず、逆転写反応しない条件下で増幅反応を行う。PCR生成物を電気泳動ゲル分析により鑑定し、分子の大きさを確定した。使用するプライマーにより、それぞれの予期するPCR生成物の大きさを表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
増幅前、各試料のmRNA濃度はハウスキーピング遺伝子(housekeeping gene)のGAPDHを基準として調整する。図6と図7にPCR生成物の電気泳動分析結果を示す。これらの結果により本発明の分離方法により分離されたニューロン幹細胞は、確かにニューロン幹細胞の細胞標識(Nurr1、NFM或いはネスチン)を有し、GFAPの非ニューロン幹細胞の細胞標識をもっていないことが明らかにされた。
【0024】
上記の結果により本発明の分離方法について、異なる臼歯試料から分離して得た細胞は、確かにニューロン幹細胞であることが判った。同時に、該ニューロン幹細胞は、Nurr1-陽性細胞であることが明らかになった。本発明は、簡易且つ速やかなニューロン幹細胞の分離方法を提供するだけでなく、更に注目すべきことは、本発明で分離したニューロン幹細胞はNurr1-陽性ニューロン幹細胞であることにある。現在、Nurr1幹細胞は僅かに脳部に存在することが知られており、このNurr1に関連する神経退化性疾患の薬物開発、病因の研究、治療方法と細胞療法等を行う際、簡易で速やかにNurr1-陽性細胞株が得られることはきわめて重要であることは言うまでもない。そこで、本発明の方法により、複雑な外科手術を経ることなくしても、手軽に一次Nurr1-陽性ニューロン幹細胞が得られ、且つこの一次Nurr1-陽性ニューロン幹細胞を簡単な方法で継代培養し、保存できることは極めて重大な意味を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明により分離したNurr1-陽性ニューロン幹細胞の光学顕微鏡写真を示す。
【図2】本発明により分離したNurr1-陽性ニューロン幹細胞の光学顕微鏡写真を示す。
【図3】本発明により分離したNurr1-陽性ニューロン幹細胞の光学顕微鏡写真を示す。
【図4】免疫蛍光細胞染色法の写真を示す。その中で、使用する一次抗体が抗β-チューブリンであるものは、本発明により分離したニューロン幹細胞は、抗β-チューブリンの抗体と結合した抗原を有し、免疫細胞分析法において蛍光反応を呈することが写真より明らかに判る。
【図5】免疫蛍光細胞染色法の写真を示す。その中で、使用する一次抗体が抗ネスチンであるものは、本発明により分離したニューロン幹細胞は、抗ネスチンの抗体と結合した抗原を有し、免疫細胞分析法において蛍光反応を呈することが写真より明らかに判る。
【図6】逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の電気泳動ゲル分析図を示す。これにより本発明の分離方法で得たニューロン幹細胞がNurr1のmRNAを有することが判る、即ち、本発明により分離した細胞が確かにニューロン幹細胞であり、且つNurr1-陽性ニューロン幹細胞であることが判る。
【図7】逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の電気泳運ゲル分析図を示す。この図によると、本発明の分離方法により得られたニューロン幹細胞は、GAPDH、HFM及びネスチンのmRNAを有すること、即ち、本発明により分離した細胞は確かにニューロン幹細胞であり、且つ非ニューロン幹細胞の標識細胞(GFAP)を有しないことが判る。
【図8(a)】本発明の方法により分離及び培養したNurr1-陽性ニューロン幹細胞を培養する際の写真を示す。これは、同一の培養皿について同位置の細胞株を対象に毎日一回ずつ撮影し、7日間連続撮影したものである。これにより、本発明の方法で分離した細胞は、確かに自己更新分裂(self-renewal)の特性を有することが発見された。
【図8(b)】本発明の方法により分離及び培養したNurr1-陽性ニューロン幹細胞を培養する際の写真を示す。これは、同一の培養皿について同位置の細胞株を対象に毎日一回ずつ撮影し、7日間連続撮影したものである。これにより、本発明の方法で分離した細胞は、確かに自己更新分裂(self-renewal)の特性を有することが発見された。
【図8(c)】本発明の方法により分離及び培養したNurr1-陽性ニューロン幹細胞を培養する際の写真を示す。これは、同一の培養皿について同位置の細胞株を対象に毎日一回ずつ撮影し、7日間連続撮影したものである。これにより、本発明の方法で分離した細胞は、確かに自己更新分裂(self-renewal)の特性を有することが発見された。
【図8(d)】本発明の方法により分離及び培養したNurr1-陽性ニューロン幹細胞を培養する際の写真を示す。これは、同一の培養皿について同位置の細胞株を対象に毎日一回ずつ撮影し、7日間連続撮影したものである。これにより、本発明の方法で分離した細胞は、確かに自己更新分裂(self-renewal)の特性を有することが発見された。
【図8(e)】本発明の方法により分離及び培養したNurr1-陽性ニューロン幹細胞を培養する際の写真を示す。これは、同一の培養皿について同位置の細胞株を対象に毎日一回ずつ撮影し、7日間連続撮影したものである。これにより、本発明の方法で分離した細胞は、確かに自己更新分裂(self-renewal)の特性を有することが発見された。
【図8(f)】本発明の方法により分離及び培養したNurr1-陽性ニューロン幹細胞を培養する際の写真を示す。これは、同一の培養皿について同位置の細胞株を対象に毎日一回ずつ撮影し、7日間連続撮影したものである。これにより、本発明の方法で分離した細胞は、確かに自己更新分裂(self-renewal)の特性を有することが発見された。
【図8(g)】本発明の方法により分離及び培養したNurr1-陽性ニューロン幹細胞を培養する際の写真を示す。これは、同一の培養皿について同位置の細胞株を対象に毎日一回ずつ撮影し、7日間連続撮影したものである。これにより、本発明の方法で分離した細胞は、確かに自己更新分裂(self-renewal)の特性を有することが発見された。
【図9(a)】Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞のHPLC−ECD(High Performance Liquid Chromatography-Electro Chemical Detection)分析結果を示す。0.05ng/ulカテコールアミン標準溶液と、Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞の組織培養培地と、新鮮な培地のH+PLC-ECDとを比較すると、Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞がドーバミンを釈放することは明らかである。
【図9(b)】Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞のHPLC−ECD(High Performance Liquid Chromatography-Electro Chemical Detection)分析結果を示す。0.05ng/ulカテコールアミン標準溶液と、Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞の組織培養培地と、新鮮な培地のH+PLC-ECDとを比較すると、Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞がドーバミンを釈放することは明らかである。
【図9(c)】Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞のHPLC−ECD(High Performance Liquid Chromatography-Electro Chemical Detection)分析結果を示す。0.05ng/ulカテコールアミン標準溶液と、Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞の組織培養培地と、新鮮な培地のH+PLC-ECDとを比較すると、Nurr1-陽性ニュ-ロン幹細胞がドーバミンを釈放することは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nurr1-陽性ニューロン幹細胞であり、人歯より分離して得ることを特徴とするNurr1-陽性ニューロン幹細胞。
【請求項2】
人歯が臼歯であることを特徴とする請求項1に記載のNurr1-陽性ニューロン幹細胞。
【請求項3】
Nurr1-陽性ニューロン幹細胞の分離方法であって、
人歯の試料を生理食塩水で洗浄するステップと、
洗浄後の試料を清潔な生理食塩水中に入れ、振動を加えて細胞懸濁液を生成するステップと、
上記細胞懸濁液を遠心分離するステップと、
上澄液を除去し、細胞粒状物を再び適当な培地に懸濁した後、適当な細胞濃度で組織培養瓶に移すステップと、
細胞を培養器により4〜10日培養してニューロン幹細胞を得るステップと、
を含むことを特徴とするNurr1-陽性ニューロン幹細胞の分離方法。
【請求項4】
人歯が臼歯であることを特徴とする請求項3に記載の分離方法。
【請求項5】
神経退化性疾患に使用される医薬組成物であって、請求項1に記載のNurr1-陽性ニューロン幹細胞を使用してなることを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
神経退化性疾患がパーキンソン氏病又は脳卒中であることを特徴とする請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
冷凍保存を経たNurr1-陽性ニューロン幹細胞の培養方法であって、
冷凍を経た細胞保存管を37℃の水浴中で解凍するステップと、
上記解凍した細胞懸濁液を組織培養瓶に移し、5〜10%牛胎児血清を含む培地を使用して培養器内で培養するステップと、
を含むことを特徴とする冷凍保存を経たNurr1-陽性ニューロン幹細胞の培養方法。
【請求項8】
Nurr1-陽性ニューロン幹細胞が人歯より分離されたものであることを特徴とする請求項7に記載の培養方法。
【請求項9】
人歯が臼歯であることを特徴とする請求項8に記載の培養方法。
【請求項10】
Nurr1-陽性ニューロン幹細胞の冷凍保存方法であって、
ニューロン幹細胞を85%の成長濃度(confluence)までに培養した後、最適容量の膵臓蛋白分解酵素-エチレンジアミンテトラアセテート(Trypsin-EDTA)の協力で培養瓶から細胞を剥離するステップと、
細胞懸濁液を収集した後、生理食塩水を添加するステップと、
細胞懸濁液を遠心分離するステップと、
上澄液を除去した後、上記の生理食塩水添加ステップと遠心分離ステップの操作を少なくとも一回重複するステップと、
遠心分離により得た細胞粒状物に適当な培地を添加した後、均一に混合して細胞を懸濁するステップと、
ジメチルスルホキシド/デキストラン(DMSO/dextran)を添加するステップと、
細胞と冷凍保護剤よりなる混合物を分装し、−80℃以下の環境の中で冷凍保存するステップと、
を含むことを特徴とするNurr1-陽性ニューロン幹細胞の冷凍保存方法。
【請求項11】
細胞を37℃下で、膵臓蛋白分解酵素-エチレンジアミンテトラアセテート(Trypsin-EDTA)により10〜15分間処理することを特徴とする請求項10に記載の冷凍保存方法。
【請求項12】
ニューロン幹細胞が人歯より分離されたものであることを特徴とする請求項10に記載の冷凍保存方法。
【請求項13】
人歯が臼歯であることを特徴とする請求項12に記載の冷凍保存方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8(a)】
image rotate

【図8(b)】
image rotate

【図8(c)】
image rotate

【図8(d)】
image rotate

【図8(e)】
image rotate

【図8(f)】
image rotate

【図8(g)】
image rotate

【図9(a)】
image rotate

【図9(b)】
image rotate

【図9(c)】
image rotate


【公開番号】特開2006−68012(P2006−68012A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249921(P2005−249921)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(504187858)財團法人佛教慈濟総合醫院 (7)
【Fターム(参考)】