説明

O−エチルS−n−プロピル(E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアートの製造方法

【課題】O−エチル S−n−プロピル (E)-[2-(シアノイミノ)-3-エチルイミダゾリジン-1-イル]ホスホノチオアート(イミシアホス)を高純度かつ高収率で工業的に製造できる方法を提供する。
【解決手段】不活性溶媒及び塩基性物質の存在下、2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジンと、O−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアートとを反応させてO−エチル S−n−プロピル (E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアートを製造する方法において、塩基性物質として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物又は金属アルコキシドを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺虫、殺ダニ、殺線虫、殺土壌害虫剤の活性成分として有用なO−エチル S−n−プロピル (E)-[2-(シアノイミノ)-3-エチルイミダゾリジン-1-イル]ホスホノチオアート(一般名:イミシアホス(imicyafos))の工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イミシアホスの製造方法については、不活性溶媒及び塩基性物質の存在下に2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジン(以下、CEIM)と、O−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアート(以下、OESP)とを反応させてイミシアホスを製造する方法が記載され公知である(特許文献1)。


【0003】
上記従来技術においては、塩基性物質として、n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウムなどの有機リチウム化合物;水素化ナトリウム、水素化カリウム、金属ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどのアルコキシド類;トリエチルアミン、ピリジンなどの有機塩基などが列挙されているものの、具体的な製造例(合成例2)では、水素化ナトリウムが使用されているに過ぎない。
【0004】
しかしながら、水素化ナトリウムは、高価でかつ反応時に水素ガスも発生するなどその取扱いに危険がともなう。しかも、溶媒に均一に溶融、分散させる必要があって操作が煩雑であり、生産性が低下するなど問題があり、工業的に有利なものとは言えない。また、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いた精製などは工業的な精製法としては依然として改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−39430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、工業的に非常に有利に生産でき、かつ高純度、高収率でイミシアホスを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、不活性溶媒及び塩基性物質の存在下、2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジン(CEIM)と、O−エチル−S−n−プロピルホスホロクロリドチオアート(OESP)とを反応させてイミシアホスを製造する方法において、反応において使用される塩基として、従来使用されてきた塩基と異なる、特定のアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物又は金属アルコキシドを使用することにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0008】
即ち、本発明は、不活性溶媒及び塩基性物質の存在下、2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジン(CEIM)と、O−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアート(OESP)とを反応させてO−エチル S−n−プロピル (E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアートを製造する方法において、塩基性物質としてアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物又は金属アルコキシドを用いることを特徴とする、O−エチル S−n−プロピル (E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアートの製造方法に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明方法において使用するアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物又は金属アルコキシドとしては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどが挙げられるが、望ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドやカリウムエトキシド、より望ましくは水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシドである。
【0010】
不活性溶媒としては、本発明の反応の進行に対して実質的に影響を与えないものであり、特に限定されるものではなく、各種の不活性溶媒、例えば、ベンゼンや、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの各種芳香族炭化水素類、塩化メチレンや、クロロホルム、ジクロロエタン、シクロヘキサンなどの各種環状又は非環状脂肪族炭化水素類、ジオキサンや、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの各種エーテル類などが好適に挙げられる。特に好ましい不活性溶媒は、トルエン、ジクロロエタン、テトラヒドロフランなどであり、最も好ましいのは、トルエンである。
【0011】
本発明では、CEIMは、OESP 1モルに対して、少なくとも0.8〜2.0モル、好ましくは、0.9〜1.4モルで使用される。一方、本発明では、CEIMの使用量の上限値は特に限定されるものではないが、反応操作や、循環操作などの工業的実施面を考慮して適切な値が決定される。塩基性物質の使用量は、反応条件の相違により一概に規定できないが、通常、CEIM 1モルに対して、0.9〜1.5モル、好ましくは、0.95〜1.2モルであり、同様に不活性溶媒の使用量は、通常、CEIM 100重量部に対して、それぞれ100〜3000質量部、好ましくは、200〜1500質量部である。
【0012】
本発明の反応において、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルデシルホスホニウムアイオダイド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロマイドなどのホスホニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルアンモニウムクロライドなどのアンモニウム塩などの相間移動触媒や、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ〔2,2,2〕オクタン、キヌクリジン塩酸塩、3−キヌクリジノン塩酸塩、3−キヌクリジノールなどの塩基性触媒をCEIM 1モルに対し、例えば、0.01〜3.0モル添加したり、12-クラウン-4、15-クラウン-5又は18-クラウン-6などをCEIM 1モルに対し、0.0005〜0.1モル添加すると、反応速度が高まり、目的のイミシアホスの生成率が高まることがある。
【0013】
本発明の反応は反応条件の相違により一概に規定できないが、反応温度−50℃〜+100℃、好ましくは、−20℃〜+40℃で、普通0.5〜48時間、好ましくは、1〜20時間であることが適当である。反応生成物は、一般に水と混合されて溶媒相と水相とに分液され溶媒相を水洗した後溶媒を留去すれば目的のイミシアホスが取得できる。本発明方法によれば目的のイミシアホスは高純度でかつ高収率で製造することができる。
次に本発明の実施例を記載する。
【実施例】
【0014】
実施例1
99%水酸化ナトリウム10.15g(0.254モル)をトルエン250mlに懸濁させ、2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジン(CEIM)35.58g(0.258モル)を室温で撹拌しながら加えた。加熱還流1.5時間行い、ディンスタークトラップで水4.5mlを留去した。さらに還流しながらトルエン200mlを留去した。その後100mlのトルエンを加え-15℃に冷却した溶液へ、85.1%のO−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアート(OESP)のトルエン溶液59.53g(0.250モル)を30分間で滴下した。滴下後-10℃で約1時間、-10℃〜0℃で1時間撹拌、0℃〜20℃で3時間撹拌して反応させた。反応終了後、反応液を水100mlで洗浄した後、溶媒を留去して油状のO−エチル S−n−プロピル (E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアート 生成物76.0gを得た(収率99.9%)。この生成物はHPLCによる分析の結果、純度95.0%であった。
【0015】
実施例2
28%ナトリウムメトキシドのメタノール溶液48.23g(0.250モル)に2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジン(CEIM)35.58g(0.258モル)を室温で撹拌しながら加えた。その後トルエン80mlを加え、加温してメタノールとトルエンを減圧留去した。さらにトルエン50mlを加えた後、加熱減圧留去してメタノールを完全に除いた。その後150mlのトルエンを加え-15℃に冷却した溶液へ、85.1%のO−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアート(OESP)のトルエン溶液59.53g(0.250モル)を30分間で滴下した。滴下後-10℃で約1時間、-10℃〜0℃で1時間撹拌、0℃〜20℃で3時間撹拌して反応させた。反応終了後、反応液を水70mlで洗浄した後、溶媒を留去して油状のO−エチル S−n−プロピル (E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアート 生成物75.0gを得た(収率98.6%)。この生成物はHPLCによる分析の結果、純度94.0%であった。
【0016】
比較参考例1 (特公平7−39430に記載の合成例2に準じた方法)
O−エチル-S−n−プロピル(3−エチル−2−シアノイミノ−1−イミダゾリジニル)ホスホノチオレート(化合物番号4)(イミシアホス)の製造
60%水素化ナトリウム0.44g(0.0011モル)及びN,N−ジメチルホルムアミド50mlの混合物に2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジン(CEIM)1.38g(0.0010モル)を徐々に添加した。しばらくしてO−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアート(OESP)の88.2%トルエン溶液2.76g(0.0012モル)を徐々に滴下した。滴下終了後、反応液を氷水へ投入し、クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を水洗後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、クロロホルムを減圧留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒=クロロホルム:メタノール=97:3)を用いて精製して油状の表題化合物1.50g(収率49.3%)を得た。
【0017】
本発明によれば、2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジン(CEIM)と、O−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアート(OESP)とを反応させて目的物O−エチル S−n−プロピル (E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアート(イミシアホス)を製造する方法において、塩基性物質としてアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物又は金属アルコキシドを使用することにより、目的物であるイミシアホスを高純度及び収率で製造でき、工業的実施面で従来法に比し有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性溶媒及び塩基性物質の存在下、2−(シアノイミノ)−1−エチルイミダゾリジンと、O−エチル-S−n−プロピルホスホロクロリドチオアートとを反応させてO−エチル S−n−プロピル (E)−[2−(シアノイミノ)−3−エチルイミダゾリジン−1−イル]ホスホノチオアートを製造する方法において、前記塩基性物質が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物又は金属アルコキシドであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記塩基性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシドである請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2013−23445(P2013−23445A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156572(P2011−156572)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000101123)アグロカネショウ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】