説明

O6−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ

本発明は、標識を適当な基質からO−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)融合タンパク質に転移させる方法、適当な融合タンパク質、AGTの適当な変異体及び得られる新規な標識された融合タンパク質に関する。問題のタンパク質はAGT融合タンパク質に組み込まれ、AGT融合タンパク質を標識を有するAGT基質と接触させ、そしてAGT融合タンパク質は標識を認識及び/又は処理するようにデザインされたシステムにおいて標識を使用して検出及び/又は処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識を適当な基質からO−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ融合タンパク質に転移させる方法及び得られる新規な標識された融合タンパク質に関する。
【0002】
N−メチル−N−ニトロソ尿素のような求電子剤の突然変異誘発作用及び発がん作用は主としてDNAのグアニンのO−アルキル化による。DNAアルキル化に対して自分自身を保護するために、哺乳動物及びバクテリアは、これらの損傷を修復するタンパク質、O−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)を有する。AGTは、アルキル基をアルキル化されたグアニン及びグアニン誘導体の位置O−6からそれ自身のシステインの1つのメルカプト基に転移させて、不可逆的にアルキル化されたAGTを生じさせる。基礎となる機構は、メチル基のみならずベンジル基も容易に転移されるかの理由を説明するS2型の求核反応である。腫瘍細胞におけるAGTの過剰発現はアルキル化薬物、例えば、プロカルバジン、デカルバジン、テモゾロミド及びビス−2−クロロエチル−N−ニトロソ尿素に対する耐性の主な理由であるので、AGTの阻害剤は化学療法における増感薬(sensitisers)として使用するために提唱された(Pegg et al.,Prog.Nucleic Acid Res Mol Biol 51:167−223,1995)。
【0003】
DE19903895は、AGTのビオチニル化をもたらすビオチニル化O−アルキルグアニン誘導体とAGTとの反応に頼るAGTのレベルを測定するためのアッセイを開示している。これは例えばELISAアッセイにおけるストレプトアビジンコーテッドプレート上のAGTの分離及びその検出、を可能とする。このアッセイは腫瘍組織のAGTのレベルを監視するため及びAGT阻害剤のスクリーニングに使用するために示唆される。
【0004】
Damoiseaux et al.,ChemBiochem.4:285−287,2001は、AGTを標識する化学的プローブとして使用するためのオリゴデオキシリボヌクレオチドに組み込まれた修飾されたO−アルキル化グアニン誘導体を開示している。この場合も、がん細胞におけるこの酵素のレベルを検出することを容易にして研究及び化学療法を助けるためのものである。
【0005】
PCT/GB02/01636は、問題のタンパク質をAGTに融合させそしてAGT融合タンパク質を標識を有するAGT基質と接触させ、そしてAGT融合タンパク質を検出しそして場合により更に標識を使用して処理する、問題のタンパク質を検出及び/又は操作する方法を開示している。使用されるべきいくつかのAGT融合タンパク質、AGT基質の一般構造原理及び広範な種類の標識及びこの方法において有用な標識を検出するための方法が記載されている。
【0006】
発明の要約
本発明は、問題のタンパク質をAGT融合タンパク質に組み込み、AGT融合タンパク質を標識を有する適当なAGT基質と接触させ、そして標識を認識及び/又は取り扱うようにデザインされたシステムにおいてこの標識を使用して、AGT融合タンパク質を検出するか又は操作するか又は検出及び操作の両方をいかなる順序においても行う、問題のタンパク質を検出及び/又は操作する方法に関する。
【0007】
本発明に従う問題のタンパク質は、酵素、DNA結合タンパク質、転写調節タンパク質、膜タンパク質、核内受容体タンパク質、核局在化シグナルタンパク質、タンパク質補因子、小単量体GTPアーゼ、ATP結合カセットタンパク質、細胞内構造タンパク質、特定の細胞区画にタンパク質をターゲッティングする責任を持つ配列を有するタンパク質、一般に標識又はアフィニティータグとして使用されるタンパク質及び前記タンパク質のドメイン又はサブドメインよりなる群から選ばれ、但し、ファージλの主要頭部タンパク質D(gpD)及びPCT/GB02/01636(WO02/083937)に開示されたこれらの特定の問題のタンパク質を除く。
【0008】
AGT融合タンパク質は、AGTのN末端、C末端、又はN及びC末端でAGTに融合した1種又はそれより多くの、例えば、1種、2種又は3種のタンパク質からなることができる。AGTはヒトAGT(hAGT)、他の哺乳動物AGT又は1個又はそれより多くのアミノ酸置換、欠失又は付加を有する野生型AGTの変異体であることができる。
【0009】
本発明は、新規なAGT融合タンパク質自体にも関し、特に、標識を有する基質に共有結合したAGT融合タンパク質を含む本発明の方法で得られる標識されたAGT融合タンパク質に関する。
【0010】
発明の詳細な説明
本発明においては、問題のタンパク質又はペプチドはO−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)に融合される。問題のタンパク質又はペプチドは、いかなる長さであってもよくそして第二級、第三級又は第四級構造を有していてもいなくてもよく、そして好ましくは、少なくとも12個そして2000個までのアミノ酸、好ましくは50〜1000個のアミノ酸からなる。
【0011】
本発明に従う問題のタンパク質は、
酵素、例えば、
トランスフェラーゼ(EC2)、更に特定的にはメチル基以外のアルキル又はアリール基を転移させるトランスフェラーゼ(EC2.5)、特にグルタチオントランスフェラーゼ(EC2.5.1.18)、又はキナーゼ、即ち、リン含有基を転移させるトランスフェラーゼ(EC2.7)、特に、アクセプターとしてのアルコール基に関するキナーゼ(EC2.7.1)、例えば、基質タンパク質におけるリン酸化標的部位としてのセリン及びトレオニンに関するプロテインキナーゼ、例えば、酵母からのカゼインキナーゼ(EC2.7.1.37)もしくはチロシンプロテインキナーゼ(EC2.7.1.112);又は例えば、酸化還元酵素(EC1)、更に特定的にはアクセプターとしてペルオキシドに対して作用する酸化還元酵素(EC1.11)、特に酵素シトクロームCペルオキシダーゼ(EC1.11.1.5);又は例えば、ヒドロラーゼ(EC3)、更に特定的にはエステル結合に作用するヒドロラーゼ(EC3.1)、特にホスホリックモノエステルヒドロラーゼ(EC3.1.3)、例えば、プロテインホスホリックモノエステルヒドロラーゼ;又はペプチダ―ゼもしくはプロテアーゼ(EC3.4)としても知られているペプチド結合を加水分解するヒドロラーゼ、特にカスパーゼ;
DNA結合タンパク質、更に特定的にはmRNA合成を抑制するタンパク質因子である転写リプレッサータンパク質、特定的にはE.coliにおけるmRNA合成を抑制するタンパク質因子、特にLexAタンパク質のDNA結合ドメイン;
転写調節タンパク質、更に特定的には転写リプレッサータンパク質、特にトリプトファン/アスパラギン酸反復構造を含有する転写リプレッサータンパク質、特定的にはS.cerevisiae転写リプレッサーTup1;
膜タンパク質、例えば、少なくとも1つの膜貫通ヘリックスを示す膜タンパク質、更に特定的には小胞体(ER)膜からの膜タンパク質、特にERへのタンパク質トランスロケーションにおいて活性である膜タンパク質、例えば、ER膜貫通タンパク質Sec62;
又は例えば、7回膜貫通ヘリックス(7−TM)タンパク質のファミリーからのタンパク質、更に特定的にはGタンパク質共役型受容体(GPCR)である7−TMタンパク質、特に1kDaを越える分子量を有する高分子リガンドに結合するこれら、例えば、哺乳動物、例えばヒトの、ニューロキニン1レセプター(NK1);
又は、例えば、細胞膜からの膜貫通イオンチャンネルタンパク質、特にリガンド開口性イオンチャンネルタンパク質(ligand gated ion channel proteins)、更に特定的にはセロトニンに感受性のリガンド開口性イオンチャンネルタンパク質、例えば、セロトニン受容体5−HT3;
又は、例えば、イオンチャンネル及びGタンパク質共役型タンパク質以外の膜タンパク質;
又は、例えば、特に酵母からのペルオキシソーム膜タンパク質、例えば、プロテインPex15;
核内受容体タンパク質(nuclear receptor、proteins)、例えば、転写因子のファミリーからの核内受容体タンパク質、更に特定的にはリガンド誘導性転写因子のファミリーからの核内受容体タンパク質、特に、ステロイド、例えば、エストロゲン受容体のファミリーからの核内受容体、例えば、ヒトエストロゲン受容体hER;
核局在化シグナルタンパク質、例えば、シミアンウイルス40(SV40)からの核局在化シグナル;
タンパク質補因子、例えば、それらの遺伝子構造中にユビキチン配列を含有するタンパク質;
小単量体GTPアーゼ、更に特定的には膜付着性小単量体GTPアーゼ、例えば、Rasファミリーのメンバー;
ATP結合カセット(ABC)タンパク質、例えば、多重薬物耐性タンパク質;
細胞内構造タンパク質、更に特定的には細胞骨格のタンパク質、更に特定的にはヒト細胞質β−アクチン;
タンパク質を特定の細胞区画、例えば、ゴルジ装置、小胞体(ER)、ミトコンドリア、形質膜又はペルオキシソームにターゲッティングする原因である配列を有するタンパク質;
一般に標識又はアフィニティータグとして使用されるタンパク質、例えば、紫外線又は可視光線で励起すると蛍光シグナルを示す蛍光タンパク質、特にグリーン蛍光タンパク質(GFP)として知られたファミリーからの蛍光タンパク質、例えば、エンハンスドシアノ蛍光タンパク質(ECFP)として知られた蛍光タンパク質;
及び上記したタンパク質のドメイン又はサブドメイン;
よりなる群から選ばれる。
【0012】
更に、本発明に従う問題のタンパク質はソースに従って選ばれる。特に、問題のタンパク質は、バクテリアの種、例えば、サルモネラ、更に特定的にはsalmonella typhi又はsalmonella typhimurium、マイコバクテリア、更に特定的にはmycobacterium tuberculensis、又はぶどう球菌、更に特定的にはstaphylococcus aureusに存在するタンパク質、あるいはウイルスソース、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトインフルエンザウイルス又は肝炎ウイルスからのタンパク質である。
【0013】
問題のタンパク質の好ましい群は、例えば、
レセプター、例えば、膜レセプター、特に7−TMレセプター(GPCRs)、酵素活性を有するレセプター、特に活性であるために二量体化を必要とすることがあるキナーゼ型のレセプター、イオンチャンネル、並びにウイルスドッキング(virus docking)及びウイルスエンタリング(virus entering)細胞に関与する膜タンパク質、又は、例えば、細胞内レセプター、特に膜を横断する化合物のためのレセプター、例えばステロイドホルモンのためのレセプター;
細胞外シグナル伝達分子及びシグナル伝達因子、例えば、インターロイキン、成長因子、放出ホルモン、プロスタグランジン、インスリン及びグルカゴン;
細胞内シグナルカスケードのタンパク質、例えば、ホスファチジニル−イノシトールシグナル伝達並びにcAMP及びcGMP発生に関与する酵素及び補因子、膜付着性及び遊離キナーゼ、キナーゼ−キナーゼ並びにホスファターゼ、及び細胞内シグナル伝達カスケードの最終的に活性化される又は脱活性化される酵素、特にカスパーゼを活性化する酵素;
ホルモン、並びにホルモンの合成、遊離、活性化、レセプター活性及び脱活性化に関与する酵素;
細胞の状態と相関する膜表面マーカー、例えば、αフェトプロテイン;
及び血圧制御及び心臓機能に関与するタンパク質、例えば、ACE阻害剤、腎臓レセプター及び腎臓チャンネルタンパク質、及び心臓カリウムチャンネルタンパク質;
である。
【0014】
本発明の特許請求の範囲から排除されるのは、ファージλの主要頭部タンパク質D(gpD)との融合タンパク質及びPCT/GB02/01636(WO02/083937に開示された問題のタンパク質との融合タンパク質、特に、
【0015】
【表4】

【0016】
更にメチオニン(M)、セリン(S)及びアラニン(A)を含む短いペプチドHisの融合タンパク質、
【0017】
【表5】

【0018】
hAGT、短いリンカーペプチド、マウスからのジヒドロ葉酸レダクターゼ及びHAエピトープの融合タンパク質;
【0019】
【表6】

【0020】
V5エピトープ、SV40ラージT抗原核局在化配列、人工転写アクチベーターB42、リンカーペプチド及びhAGTの融合タンパク質;
【0021】
【表7】

【0022】
hAGT、Haエピトープ及び酵母酵素オロト酸デカルボキシラーゼUra3の融合タンパク質;及びhAGT−SSN6、hAGT、短いリンカーペプチド及びSSN6と名付けられたDNA転写の酵母リプレッサーの融合タンパク質である。
【0023】
片側の野生型ヒトAGT(hAGT)、他の哺乳動物AGT、例えば、ラット又はマウスAGT、又はこのようなAGT DNAの変異体と、本発明の融合タンパク質をもたらす該AGT DNA配列のN末端(N)又はC末端(C)側、又はN末端及びC末端側のいずれかに結合した配列をコードする問題の(上記したとおりの)タンパク質とで作られる融合タンパク質が開示される。融合タンパク質は、更に、適当なリンカー、例えば、AGTと問題のタンパク質間及び/又は融合タンパク質における問題の2つのタンパク質間の適当な条件下に酵素開裂を受けやすいことがありうるリンカーを含有することができる。このようなリンカーの例は、適当な制限酵素によるDNA段階で開裂可能なリンカー、例えば、BglIIにより開裂可能なAGATCT及び/又はタンパク質段階で適当な酵素、例えば、タバコエッチウイルスNla(TEV)プロテアーゼにより開裂可能なリンカーである。
【0024】
融合タンパク質は原核生物宿主、好ましくは、E.coli又は真核生物宿主、例えば、ユーバクテリア、酵母、昆虫細胞又は哺乳動物細胞において発現されうる。
【0025】
−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)は、基質上に存在する標識を融合タンパク質のAGT形成部分のシステイン残基の1つに転移させる性質を有する。好ましい態様では、AGTは既知のヒトO−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ、hAGTである。酵素のマウス又はラット形も、それらがヒトAGTと同様に基質と反応することにおいて同様な性質を有するとの条件下に、考えられる。本発明では、O−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼは、1つ又はそれより多くの、例えば、1つ、2つ、3つ又は4つのアミノ酸置換、欠失又は付加により異なることができるが、基質上に存在する標識を融合タンパク質のAGT部分に転移させる性質を依然として保持する野生型AGTの変異体も含む。AGT変異体は当業者に周知の技術を使用する化学的修飾により得ることができる。好ましくは、当業者に周知のタンパク質工学技術を使用して、及び/又は新規なO−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼを発生及び選択するために分子進化を使用して、AGT変異体を製造することができる。このような技術は、例えば、飽和突然変異誘発、配列のどこにでも変異を導入するためのエラープローンPCR、飽和突然変異誘発及び/又はエラープローンPCRの後に使用されるDNAシャッフリング又はいくつかの種からの遺伝子を使用するファミリーシャッフリングである。
【0026】
ファージディスプレー法の助けにより、本発明のO−ベンジルグアニン及びAGT基質に対する有意に増加した活性を有する突然変異体が見出される。hAGTはファージλ上の主要頭部タンパク質Dとの融合タンパク質として機能的にディスプレーされることができ、そしてhAGTの独特な機構を使用して野生型ファージλの混合物からhAGTをディスプレーするファージλを選ぶことができる(Damoiseaux et al.,ChemBiochem.4:285−287,2001)。hAGTは、ファージキャプシドタンパク質pIIIとの融合タンパク質として繊維状ファージ上に機能的にディスプレーされることもできる。
【0027】
その活性部位でO−ベンジルグアニンと結合したhAGTの構造において、4個のアミノ酸はベンジル環の近くにあるか(Pro140、Ser159、Gly160)又はヌクレオ塩基(nucleobase)のN9と接触することができる(Asn157)。位置Pro140及びGly160における突然変異は、hAGTのO−ベンジルグアニンとの反応に影響を与えることが以前に示された(Xu−Weilliver et al.,Biochemistry Pharmacology58:1279−85,1999):位置140におけるプロリンはベンジル環とのその相互作用のために必須であると考えられ、そして突然変異Gly160TrpはO−ベンジルグアニンに対するhAGTの反応性を増加させることが示された。本発明において考慮された特定の変異体は、位置140にPhe又はMetを、位置157にGly、Pro、Arg、又はTrp、特にGlyを、位置159にGlu、Asn、Pro又はGln、特にGluを、そして位置160にAla、Trp、Cys又はVal、特にTrpを有する変異体である。好ましい変異体は、Asn157がGlyにより置換されそしてSer159がGluにより置換されている変異体、及びGly160がAla又はTrpにより置換されている変異体である。最も好ましいのはAsn157がSerにより置換され、そしてSer159がHisにより置換されそしてGly160がAsnにより置換されている変異体である。
【0028】
問題のタンパク質及びO−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)を含む融合タンパク質を、標識を有する特定の基質と接触させる。反応の条件はAGTが基質と反応しそして基質の標識を転移させるように選ばれる。通常の条件は室温、例えば25℃付近のpH7付近の緩衝剤溶液である。しかしながら、AGTは様々な他の条件下でも反応し、そしてここに述べたこれらの条件は本発明の範囲を限定するものではないことは理解される。
【0029】
AGTは不可逆的にアルキル基をその基質、O−アルキルグアニン−DNAからそのシステイン残基の1つに転移させる。hAGTと迅速に反応する基質類似体はO−ベンジルグアニンであり、二次速度定数は約10−1−1である。ベンジル環のC4におけるO−ベンジルグアニンの置換はO−ベンジルグアニン誘導体に対するhAGTの反応性に有意に影響を与えず、そしてこの性質はベンジル環のC4に結合した標識をAGTに転移させるのに使用された。
【0030】
基質の標識部分は、融合タンパク質の意図する用途に依存して当業者により選ぶことができる。AGTを含む融合タンパク質を基質と接触させた後、標識を融合タンパク質に共有結合させる。標識されたAGT融合タンパク質は次いで更に処理され及び/又は次いで転移された標識により検出される。
【0031】
いかなる物理的又は化学的処理も「操作」であると理解される。例えば、操作は細胞からの単離、標準精製技術、例えば、クロマトグラフィーによる精製、化学試薬との反応又は特に結合相手が固体相に固定されている場合に、結合対の結合相手との反応、等を意味することができる。このような操作は、標識Lに依存することができ、そして標識された融合タンパク質の「検出」に追加して行うことができる。標識された融合タンパク質が操作と検出の両方をなされる場合に、検出は操作の前又は後であることができ、又は本明細書で定義された操作期間中に行うことができる。
【0032】
特定のAGT基質は、式1
【0033】
【化1】

【0034】
式中、R〜RはAGTにより基質として認識される基であり、
Xは酸素又は硫黄であり、
は芳香族又はヘテロ芳香族基であるか、又はCHに結合した二重結合を有する場合により置換されていてもよい不飽和のアルキル、シクロアルキル又はヘテロサイクリル基であり、
はリンカーであり、そして
Lは標識、複数の同じもしくは異なる標識、RをRに連結して環状基質を形成する結合、又は更なる基−R−CH−X−R−Rである、
の化合物である。
【0035】
基R〜Rにおいて、残基Rは好ましくはAGTにより基質として認識される、1〜5個の窒素原子を含有するヘテロ芳香族基、好ましくは式2
【0036】
【化2】

【0037】
式中、
は水素、1〜10個の炭素原子を有するアルキル又は糖部分であり、
は水素、ハロゲン、例えば、クロロもしくはブロモ、トリフルオロメチル、又はヒドロキシであり、そして
は水素、ヒドロキシ又は置換されていないアミノもしくは置換されたアミノである、
のプリン基である。
【0038】
又はRがヒドロキシであるならば、プリン基は主として互変異性形態で存在し、この互変異性形態においては、R又はRを有する炭素原子に隣接した窒素は水素原子を有し、この窒素原子とR又はRを有する炭素原子との間の二重結合は単結合となりそしてR又はRはそれぞれ二重結合した酸素となる。
【0039】
置換されたアミノ基Rは、1〜4個の炭素原子を有する低級アルキルアミノ又はアシルアミノであり、ここで、アシル基は1〜5個の炭素原子を有する低級アルキルカルボニル、例えば、アセチル、プロピオニル、n−もしくはイソプロピルカルボニル又はn−、イソ−もしくはtert−ブチルカルボニル、又はアリールカルボニル、例えばベンゾイルである。
【0040】
が置換されていないアミノもしくは置換されたアミノでありそしてプリン基の結合に連結された残基Xが酸素であるならば、式2の残基はグアニン誘導体である。
【0041】
糖部分Rはグアニン塩基のN位置に可変長のスペーサーで連結された糖モノマー又はオリゴマーである。この状況におけるスペーサーは、好ましくは1〜15個の炭素原子のアルキル鎖、1〜200個のエチレングリコール単位からなるポリエチレングリコールスペーサー、アミド基−CO−NH−、エステル基−CO−O−、アルキレン基−CH=CH−、又はアルキル鎖、ポリエチレングリコール基、アミド基、エステル基及びアルキレン基の組み合わせである。
【0042】
本発明に関して、糖部分Rは、更にβ−D−2’−デオキシリボシル、又は2〜99個のヌクレオチドの長さを有する1本鎖オリゴデオキシリボヌクレオチドに組み込まれているβ−D−2’−デオキシリボシルを含み、ここでグアニン誘導体Rはオリゴヌクレオチド配列内のいかなる位置も占める。
【0043】
本発明の他の好ましい態様では、基R〜Rは、式2の基の部分C−Rが窒素により置き換えられており、そしてR及びRが式2で定義された意味を有する8−アザプリン基である。
【0044】
Xは好ましくは酸素である。
【0045】
芳香族もしくはヘテロ芳香族基、又は場合により置換されていてもよい不飽和のアルキル、シクロアルキル又はヘテロサイクリル基としてのRは、R−R−L単位の融合タンパク質への共有結合転移(covalent transfer)を可能にするAGTにより立体的及び電子的に受容される基(その反応機構に従って)である。R−R−L単位において、R−Lは複数の同じもしくは異なる標識Lを有する複数の同じもしくは異なるリンカーRの意味を有することもできる。
【0046】
芳香族基としてのRは好ましくはフェニル又はナフチル、特にフェニル、例えば、パラもしくはメタ位置でRにより置換されたフェニルである。
【0047】
ヘテロ芳香族Rは、単環式又は二環式ヘテロアリール基であって、該ヘテロアリール基は、0、1、2、3、又は4個の環窒素原子及び0又は1個の酸素原子及び0又は1個の硫黄原子を含み、但し少なくとも1個の環炭素原子は窒素、酸素又は硫黄原子により置換されているものとし、そして5〜12個、好ましくは5又は6個の環原子を有し、そして置換基Rを有することに加えて、低級アルキル、例えば、メチル、低級アルコキシ、例えば、メトキシもしくはエトキシ、ハロゲン、例えば、塩素、臭素もしくはフツ素、ハロゲン化低級アルキル、例えば、トリフルオロメチル、又はヒドロキシからなる群より選ばれる1個もしくはそれより多くの、特に1個の更なる置換基により置換されていなくても置換されていてもよい単環式又は二環式ヘテロアリール基である。好ましくは、ヘテロアリール基Rは、トリアゾリル、特に、4−位置又は5−位置に更なる置換基Rを有する1−トリアゾリル、テトラゾリル、特に、4−位置又は5−位置に更なる置換基Rを有する1−テトラゾリル又は5位置に更なる置換基を有する2−テトラゾリル、イソオキサゾリル、特に5位置に更なる置換基を有する3−イソオキサゾリル、又は3位置に更なる置換基を有する5−イソオキサゾリル、又はチエニル、特に3−、4−もしくは5−位置、好ましくは4−位置に更なる置換基R4を有する2−チエニル、又は4−位置に更なる置換基Rを有する3−チエニルである。
【0048】
場合により置換されていてもよい不飽和アルキル基Rは、1又は2位置、好ましくは2一に更なる置換基Rを有する1−アルケニル、又は1−アルキニルである。1−アルケニルにおいて考慮される置換基は、例えば、低級アルキル、例えばメチル、低級アルコキシ、例えばメトキシ、低級アシルオキシ、例えばアセトキシ、又はハロゲニル、例えばクロロである。
【0049】
場合により置換されていてもよい不飽和シクロアルキル基は、いかなる位置にでも更なる置換基Rを有する、1位置で不飽和の3〜7個の炭素原子を有するシクロアルキル基、例えば、1−シクロペンチル又は1−シクロヘキシルである。考慮される置換基は、例えば、低級アルキル、例えばメチル、低級アルコキシ、例えばメトキシ、低級アシルオキシ、例えばアセトキシ、又はハロゲニル、例えばクロロである。
【0050】
場合により置換されていてもよい不飽和ヘテロサイクリル基は、3〜12個の原子、窒素、酸素及び硫黄から選ばれる1〜5個のヘテロ原子を有しそしてヘテロサイクリル基をメチレンCHに連結する位置に二重結合を有する。考慮される置換基は、例えば、低級アルキル、例えばメチル、低級アルコキシ、例えばメトキシ、低級アシルオキシ、例えばアセトキシ、又はハロゲニル、例えばクロロである。特に、場合により置換されていてもよい不飽和ヘテロサイクリル基は、ヘテロ芳香族基Rについて前記に定義された部分的に飽和したヘテロ芳香族基である。このようなヘテロサイクリル基の例は、イソオキサゾリジニル、特に、5位置に更なる置換基を有する3−イソオキサゾリジニル、又は3位置に更なる置換基を有する5−イソオキサゾリジニルである。
【0051】
リンカー基Rは、好ましくは標識L又は複数の同じ又は異なる標識Lを基質に連結する柔軟性リンカーである。リンカー単位は、意図する用途に関係して選ばれ、即ち、AGTを含む融合タンパク質への基質の転移において選ばれる。それらは適当な溶媒中の基質の溶解度も増加させる。使用されるリンカーは実際の用途の条件下に化学的に安定である。リンカーはAGTとの反応も標識Lの検出も妨害せず、式1の化合物とAGTを含む融合タンパク質との反応の後ある時点で開裂されるように構築されうる。
【0052】
リンカーRは、1〜300個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルキレン基であって、場合により、
(a)1個又はそれより多くの炭素原子が酸素により置き換えられ、特に3番目毎の炭素原子が酸素により置き換えられ、例えば、1〜100個のエチレンオキシ単位を有するポリエチレンオキシ基であり、
(b)1個又はそれより多くの炭素原子が水素原子を有する窒素により置き換えられそして隣接炭素原子がオキソにより置換され、アミド官能基−NH−CO−を表し、
(c)1個又はそれより多くの炭素原子が酸素により置き換えられそして隣接炭素原子がオキソにより置換され、エステル官能基−O−CO−を表し、
(d)2つの隣接した炭素原子間の結合が二重又は三重結合であり、官能基−CH=CH−又は−C≡C−を表し、
(e)1個又はそれより多くの炭素原子がフェニレン、飽和もしくは不飽和シクロアルキレン、飽和もしくは不飽和ビシクロアルキレン、橋かけヘテロ芳香族基又は橋かけ飽和もしくは不飽和ヘテロサイクリル基により置き換えられており、
(f)2個の炭素原子がジスルフィド連結−S−S−により置き換えられている、
1〜300個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキレン基、又は前記(a)〜(f)で定義された2個又はそれより多くの、特に2個又は3個のアルキレン及び/又は修飾されたアルキレン基の組み合わせであり、これらは場合により置換基を含有していてもよい。
【0053】
考慮される置換基は、例えば、低級アルキル、例えばメチル、低級アルコキシ、例えばメトキシ、低級アシルオキシ、例えばアセトキシ、又はハロゲニル、例えばクロロである。
【0054】
考慮される更なる置換基は、例えば、α−アミノ酸、特に天然に存在するα−アミノ酸が、炭素原子が(b)で定義されたアミド官能基−NH−CO−により置き換えられているリンカーRに組み込まれている場合に得られる置換基である。このようなリンカーにおいては、アルキレン基Rの炭素鎖の一部は、基−(NH−CHR−CO)−、式中、nは1〜100でありそしてRはα−アミノ酸の様々な残基を表す、により置き換えられる。
【0055】
更なる置換基は、光開裂可能な(photocleable)リンカーRをもたらす置換基、例えばo−ニトロフェニル基である。特にこの置換基o−ニトロフェニルは、アミド結合に隣接した炭素原子に位置しており、例えば、基−NH−CO−CH−CH(o−ニトロフェニル)−O−のように位置し、又はポリエチレングリコール鎖における置換基として、例えば基−O−CH−CH(o−ニトロフェニル)−O−のように位置する。考慮される他の光開裂可能なリンカーは、例えば、フェナシル、アルコキシベンゾイン、ベンジルチオエーテル及びピバロイルグリコール誘導体である。
【0056】
前記(e)で定義された炭素原子を置き換えるフェニレン基は、例えば、1,2−、1,3−又は好ましくは1,4−フェニレンである。前記(e)で定義された炭素原子を置き換える飽和又は不飽和シクロアルキレン基は、例えば、シクロペンチレン又はシクロヘキシレンであるか又は例えば、1−位置又は2−位置において不飽和であるシクロヘキシレンでもある。前記(e)で定義された炭素原子を置き換える飽和又は不飽和ビシクロアルキレンは、例えば、場合により2−位置で不飽和であるか又は2−位置及び5−位置で二重に不飽和であってもよい、ビシクロ[2.2.1]ヘプチレン又はビシクロ[2.2.2]オクチレンである。前記(e)で定義された炭素原子を置き換えるヘテロ芳香族基は、例えば、トリアゾリデン、好ましくは1,4−トリアゾリデン又はイソオキサゾリデン、好ましくは、3,5−イソオキサゾリデンである。前記(e)で定義された炭素原子を置き換える飽和又は不飽和ヘテロサイクリル基は、例えば、2,5−テトラヒドロフランジイル又は2,5−ジオキサンジイル、又はイソオキサゾリジネン、好ましくは3,5−イソオキサゾリジネンである。考慮される特定のヘテロサイクリル基は、糖部分、例えば、α−もしくはβ−フラノシル又はα−もしくはβ−ピラノシル部分である。
【0057】
リンカーRは、1個又はそれより多くの同じ又は異なる標識、例えば、1〜100個の同じ又は異なる標識、特に、1〜5個の、好ましくは、1個、2個又は3個、特に1個又は2個の同じ又は異なる標識を有することができる。
【0058】
基質の標識部分Lは、融合タンパク質の意図する用途に依存して当業者により選ばれうる。標識は、例えば、標識された融合タンパク質がその環境から容易に検出又は分離されるようなものであることができる。考慮される他の標識は、標識された融合タンパク質の環境の変化を感知及び誘導することができる標識及び/又は、標識により融合タンパク質に特定的に導入された物理的及び/又は化学的性質により融合タンパク質を処理するのを助ける標識である。
【0059】
標識Lの例は、分光学的プローブ、例えば、発蛍光団、発色団、磁性プローブ又はコントラスト試薬;放射性標識された分子;相手に特異的に結合することができる特異的結合対の一方である分子;他の生体分子と相互作用すると推測される分子;他の生体分子と相互作用すると推測される分子のライブラリー;他の分子に架橋することができる分子;H及びアスコルベートにさらされるとヒドロキシルラジカルを発生することができる分子、例えば、繋ぎ止められた金属キレート(tethered metal−chelate);光で照射されると反応性ラジカルを発生することができる分子、例えば、マラカイトグリーン;固体支持体に共有結合した分子であって、固体支持体がガラススライド、マイクロタイタープレートであることができるか又は当業者に知られているいかなるポリマーであってもよい固体支持体に共有結合した分子;その相補鎖と塩基対形成を行うことができる核酸又はその誘導体;膜挿入性を有する脂質又は他の疎水性分子;望ましい酵素的、化学的又は物理的性質を有する生体分子;又は上記に列挙された性質のいずれかの組み合わせを有する分子を含む。
【0060】
標識Lが発蛍光団、発色団、磁性標識、放射性標識等である場合に、検出は標識に適合した標準手段によりそしてその方法がin vivo又はin vitroで使用されるかどうかによる。この方法は、問題のタンパク質に遺伝子的に融合されそして生きている細胞におけるタンパク質の研究を可能とするグリーン蛍光タンパク質(GFP)の適用に匹敵することができる。非線形光学的性質を示すホウ素化合物又は標識された基質がAGT融合タンパク質と反応するとその分光学的性質を変えるFRET対のメンバーも標識Lの特定の例である。
【0061】
標識Lの性質に依存して、問題のタンパク質及びAGTを含む融合タンパク質は固体支持体に結合させることができる。AGTを含む融合タンパク質と反応する基質の標識は、AGTとの反応に入るとき既に固体支持体に結合されていてもよく、又はその後に、即ち、AGTへの転移の後に使用してAGT融合タンパク質を固体支持体に結合させることができる。標識は、特異的結合対の一方のメンバーであることができ、その他方のメンバーは固体支持体に共有結合により又はいかなる他の手段によっても結合されるか又は結合可能である。考慮される特異的結合対は、例えば、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジンである。結合対のどちらのメンバーも基質の標識Lであることができ、他方は固体支持体に結合される。固体支持体への好都合な結合を可能とする標識の更なる例は、例えば、マルトース結合タンパク質、糖タンパク質、FLAGタグ、又は反応性置換基であって、このような置換基と固体支持体の表面の相補性官能基との化学的選択性反応を可能とする反応性置換基である。反応性置換基と相補性官能基とのこのような対の例は、例えば、アミドを形成するアミン及び活性化されたカルボキシ基、1,3−双極性付加環化反応を受けるアジ化物及びプロピオル酸誘導体、活性化されたビス−ジカルボン酸誘導体の型の 添加された二官能性リンカー試薬と反応して2つのアミド結合を生じさせるアミン及び他のアミン官能性基、又は当該技術分野で知られている他の組み合わせである。
【0062】
好都合な固体支持体の例は、例えば、化学的に修飾された酸化物表面、例えば、二酸化ケイ素、五酸化タンタル(tantalum pentoxide)、二酸化チタン、ガラス表面、例えば、ガラススライド、ポリマー表面、例えば、マイクロタイタープレート、特に官能化されたポリマー(例えばビーズの形態にある)、又は化学的に修飾された金属表面、例えば、貴金属表面、例えば、金又は銀表面、及び前記した材料のいずれかから作られた適当なセンサーエレメントである。次いで不可逆的に結合及び/又はスポッティングする(spotting)AGT基質を使用して、AGT融合タンパク質を、タンパク質マイクロアレー、DNAマイクロアレー又は小さな分子のアレーを表す固体支持体上に、空間分解方式(spatially resolved manner)で、特にスポッティングにより結合させることができる。
【0063】
標識Lが外部の刺激にさらされると反応性ラジカル、例えば、ヒドロキシルラジカルを発生することができる場合には、発生したラジカルは次いでAGT融合タンパク質及びAGT融合タンパク質の極めて近くにあるこれらのタンパク質を不活性化することができ、これらのタンパク質の役割を調べることを可能とする。このような標識の例は、H及びアスコルベートにさらされるとヒドロキシルラジカルを生成する束縛された金属キレート錯体、及びレーザー照射によりヒドロキシルラジカルを生成する発色団、例えばマラカイトグリーンである。発色団及びレーザーを使用してヒドロキシルラジカルを発生させることは発色団支援レーザー誘導不活性化(chromophore assisted laser induced inactivation)(CALI)として当該技術分野で知られている。本発明では、AGT融合タンパク質を発色団、例えば、マラカイトグリーンにより標識すること及びその後のレーザー照射は、AGT融合タンパク質及びAGT融合タンパク質と相互作用するこれらのタンパク質を時間制御されそして空間的に分割された方式(time−controlled and spatially resolved manner)で不活性化する。この方法は、in vivo又はin vitroの両方で適用することができる。更に、AGT融合タンパク質の極めて近くにあるタンパク質は、特異的抗体によってそのタンパク質の断片を検出することによるか、高解像度二次元電気泳動ゲルにおけるこれらのタンパク質の消失によるか、又は分離及び配列決定技術、例えば、質量分析法又はN末端分解によるタンパク質配列決定による開裂されたタンパク質断片の同定によりそれ自体を同定することができる。
【0064】
標識Lが他のタンパク質に架橋することができる分子、例えば、マレイミド、活性エステルもしくはアジド及び当業者に知られている他の官能基の如き官能基を含有する分子である場合には、このような標識されたAGT基質を他のタンパク質と相互作用するAGT融合タンパク質と接触させると(in vivo又はin vitroで)、AGT融合タンパク質と標識を介してその相互作用するタンパク質との共有結合架橋が得られる。これはAGT融合タンパク質と相互作用するタンパク質の同定を可能とする。光架橋のための標識Lは、例えば、ベンゾフェノンである。架橋の特定の観点では、標識Lは、それ自体AGT融合タンパク質の二量体化をもたらすAGT基質である分子である。このような二量体の化学構造は対称(ホモ二量体)又は非対称(ヘテロ二量体)であることができる。
【0065】
考慮される他の標識Lは、フラーレン(fullerenes)、中性子捕捉処理のためのボラン、例えばセルフアドレッシングチツプのためのヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド、ペプチド核酸及び金属キレート、例えば、DNAに特異的に結合する白金キレートである。
【0066】
基質が2個又はそれより多くの標識を有するならば、これらの標識は同一であるか又は相異なることができる。
【0067】
本発明は、AGT融合タンパク質をin vivo及びin vitroの両方で標識する方法を提供する。AGT融合タンパク質のin vivo標識化という用語は、細胞のすべての区画で標識すること及び細胞外空間に向いているAGT融合タンパク質の標識化を含む。AGT融合タンパク質の標識化がin vivoでなされそしてAGTに融合されるタンパク質が膜タンパク質、更に特定的には形質膜タンパク質であるならば、融合タンパク質のAGT部分は膜のいずれの側にも結合することができ、例えば、形質膜の細胞質側又は細胞外の側に結合することができる。
【0068】
標識化がin vitroでなされるならば、融合タンパク質の標識化は細胞抽出物において行うか又は精製されたもしくは濃縮された形態のAGT融合タンパク質により行うことができる。
【0069】
標識化がin vivo又は細胞抽出物中でなされるならば、宿主の内因性AGTの標識化は有利に考慮される。宿主の内因性AGTがO−アルキルグアニン誘導体又は関連化合物を基質として受け入れないならば、融合タンパク質の標識化は特異的である。哺乳動物細胞において、例えば、ヒト、マウス又はラット細胞において、内因性AGTの標識化が可能である。内因性AGT及びAGT融合タンパク質の同時標識化に問題があるこれらの実験では、既知のAGT欠失細胞系を使用することができる。
【0070】
特定の観点では、本発明は、候補化合物又は候補化合物のライブラリーと標的タンパク質又は標的タンパク質のライブラリーとの相互作用を決定する方法を提供する。候補化合物及び標的タンパク質の例は、リガンド及びタンパク質、薬物及び薬物の標的又は小さな分子及びタンパク質を含む。本発明のこの特定の方法では、AGTに融合される問題のタンパク質は、転写因子のDNA結合ドメイン及び転写因子の活性化ドメインを含む。その物質の推定タンパク質標的又はタンパク質のライブラリーは、機能的転写因子が形成されるような方法で、転写因子のDNA結合ドメイン又は活性化ドメインのいずれかに連結され、そして本発明に従うAGT基質の標識Lは標的物質(1種又は複数種)と相互作用すると推測される候補化合物又は候補化合物のライブラリーである。基質の一部である候補化合物又は候補化合物のライブラリーは、次いでAGT融合タンパク質に転移される。転移されると、標的物質を含むAGT融合タンパク質は、今や候補化合物で標識される。AGT融合タンパク質に結合した候補化合物とDNA結合ドメイン又は活性化ドメインのいずれかに融合した標的タンパク質との相互作用は、機能的転写因子の形成をもたらす。活性化された転写因子は、次いでレポーターの発現を駆動することができ、このレポーターは、この方法が細胞内で行われる場合に、レポーターの発現が細胞に対する選択有位性を与えるならば検出されうる。特定の態様では、この方法は、1つ又はそれより多くの更なる段階、例えば、候補化合物又は標的物質を検出、単離、同定又は特徴付けることを伴うことができる。
【0071】
特定の例では、標識Lは、まだ同定されていないタンパク質Yに結合する薬物又は生物学的に活性な小さな分子である。未知の標的タンパク質Yを発現することが予測される生物のcDNAライブラリーは転写因子の活性化ドメインに融合され、そしてAGTは転写因子のDNA結合ドメインに融合されるか、又は別法として、未知の標的タンパク質Yを発現すると予測されるcDNAライブラリーは転写因子のDNA結合ドメインに融合され、そしてAGTは転写因子の活性化ドメインに融合される。このような標識Lを含む本発明のAGT基質を加えると、この分子が、cDNAライブラリーに存在しそしてそれぞれ活性化ドメイン又は結合ドメインに融合されたその標的タンパク質Yに結合する場合にのみ、機能的転写因子の形成及び遺伝子発現をもたらす。もし遺伝子発現が選択有位性に結び付けられているならば、薬物又は生物活性な分子の標的タンパク質Yをコードする遺伝子を有するプラスミドを有する対応する宿主を同定することができる。
【0072】
更なる特定の例では、標識Lは化学的分子のライブラリーである。このライブラリーは、in vivo条件下に既知の薬物標的タンパク質Yに結合するまだ同定されていない化合物を含有すると予測される。標的タンパク質Yは転写因子の活性化ドメインに融合されそしてAGTは転写因子のDNA結合ドメインに融合されるか、又は、標的タンパク質Yは転写因子のDNA結合ドメインに融合されそしてAGTは転写因子の活性化ドメインに融合される。化合物のライブラリーを有する基質を加えると、それぞれ転写因子のDNA結合ドメイン又は転写因子の活性化ドメインに融合されているAGTへのライブラリーの化合物の共有結合をもたらすであろう。AGT融合タンパク質に結合したライブラリーの化合物(標識を表す)と標的タンパク質Yとの相互作用は、転写因子のDNA結合ドメイン又は転写因子の活性化ドメインに共有結合のAGT−基質結合によって連結された化学ライブラリーの化合物が、それぞれ、転写因子の活性化ドメイン又は転写因子のDNA結合ドメインに融合された標的タンパク質Yに結合する場合にのみ、機能的転写因子の形成及び遺伝子発現をもたらす。遺伝子発現が選択有利性に結び付けられているならば、宿主の増殖をもたらすライブラリーのこれらの分子を同定することができる。
【0073】
LがRをRに連結して環状基質を形成する結合である場合には、好ましい化合物はRからRへの結合がリンカーRを式2で定義されたアミノ基Rに連結する結合である。このような好ましい環状基質において、Rは好ましくはオリゴヌクレオチド、即ち、上記に詳しく述べた2〜99ヌクレオチドの長さを有する一本鎖オリゴデオキシリボヌクレオチドに組み込まれているβ−D−2’−デオキシリボシルである。このオリゴヌクレオチドは、それが検出されることができ、それゆえ標識として機能するように更に化学的に修飾されることができる。置換基の化学修飾は標識Lについて上記したのと同じ性質であることができる。
【0074】
Lが更なる基−R−CH−X−R−Rである場合には、基質はAGTを含む融合タンパク質と反応して二量体化された融合タンパク質をもたらす二量体化合物である。
【0075】
実施例
実施例1:グルタチオンS−トランスフェラーゼ(C)hAGT融合タンパク質
hAGTは、発現ベクターpGEX2T(Pharmacia)のBamH1部位とEcoR1部位との間にクローニングする。タンパク質発現は、E.coli菌株JM83で行う。指数関数的に増殖する培養を1mMIPTGで誘導しそして発現を24℃で3.5時間行う。収穫した細胞を1mMPMSF及び2μg/mLアプロチニンを補充されたPBS中に懸濁させそしてリゾチーム及び音波処理により破壊する。DNAを取り除くために、MgClを1mMに調節しそしてDNアーゼI(DNAse I)を0.01mg/mLの濃度となるように加える。細胞片が40000×gでの遠心により分離される前に、細胞を30分間氷上に放置する。抽出物を平衡化されたグルタチオンセファロースに適用し、これを次いで1床容積のトリスHClpH8.5及び20床容積のPBSで洗浄する。次いでGST−hAGT融合タンパク質を、50mMトリスHClpH7.9中の10mM還元型グルタチオンで溶離する。精製したタンパク質を50mMHEPESpH7.2;1mMDTT;30%グリセロールに対して透析し、次いで−80℃で貯蔵する。精製したGST−hAGTをO−ベンジルグアニン(Sigma)又はO−4−ブロモテニルグアニンとin vitroでインキュベーションする。90μLの総反応容積において、0.4μMGST−hAGTを50mMHEPESpH7.2;1mMDTT中の基質2μMと室温でインキュベーションする。いくつかの時点で、アリクォートを、O位置を介してビオチン基に連結されている8.5ピコモル(pmol)O−ベンジルグアニンオリゴヌクレオチド(R.Damoiseaux et al.,ChemBiochem4:285,2001)で10分間クエンチしそしてウエスタンブロッティング分析(ニュートラビジン−ペルオキシダーゼコンジュゲート(PIERCE),Renaissance reagent plus(NEN))のためにSDS−Laemmli緩衝液と混合する。対応するバンドの強度をKodak Image Station440により定量する。
【0076】
実施例2:オロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼUra3(C)hAGT融合タンパク質
酵母シャトルベクターpRS314に基づくプラスミドを使用する(Sikorski and Hieter,Genetics 122:19−27,1999)。pRS314のBamH1制限部位とEcoR1制限部位との間に銅誘導性プロモーター(CU−プロモーター)を挿入する。Ura3遺伝子(N末端HA−タグを有する)をBglII部位とKpnI部位との間に挿入し、そしてhAGTをEcoR1部位とBglII部位との間に挿入して、hAGT−Ura3融合タンパク質をもたらす。
【0077】
hAGT−Ura3融合タンパク質の発現レベルは、0.3のOD600を有する培養物5mLを0.1mMCuSOで誘導しそして培養物を3時間インキュベーションすることにより監視される。培養物3mLを遠心により収穫し、50μl 2×Laemmli緩衝液中に再懸濁させそして3サイクルの凍結−解凍により破壊する。サンプルをSDS−PAGEにローディングしそしてウエスタンブロッティングを行う(マウスHA.11抗体(BABCO);ペルオキシダーゼコンジュゲーテッド抗マウス抗体A4416(Sigma);Renaissance reagent plus(NEN))。
【0078】
CuSOを含有しそしてウラシルを欠くプレート上で形質転換細胞を増殖させることによりUra3の活性を決定する。hAGT−Ura3融合タンパク質の活性をELISAにより決定する:CM培地は0.1mMCuSO及び100μMO−ベンジルグアニンを補充されそして静置増殖一夜培養物(stationary grown overnight culture)5mLを接種される。タンパク質発現をOD600が1.0に達するまで約5時間行う。収穫された細胞を酵母溶解緩衝液(50mMHEPESpH7.5;150mMNaCl;5mMEDTA;1%TX100;1mMDDT;1mMPMSF;2μg/mLアプロチニン)中に再懸濁させそして3回の凍結−解凍サイクルにより破壊する。得られる抽出物300μLを、O位置を介してビオチン基に連結されている5ピコモルO−ベンジルグアニンオリゴヌクレオチド(R.Damoiseaux et al.,ChemBiochem4:285,2001)と20分間インキュベーションし、次いで予めブロックされたStreptaWellプレート(Boehringer Mannheim)に1時間コーティングする。次いでELISAを標準方法(HA.11及びA4416抗体による検出;ペルオキシダーゼ基質ABTS(1.0mg/mL ABTS、クエン酸ナトリウム100mM中の0.01%H)による展開;405nmで読み取り)により展開する。
【0079】
実施例3:ユビキチン(N)Ura3(C)hAGT融合タンパク質
N末端アルギニンを有するhAGTを発生させるために、線状ユビキチン−hAGT融合タンパク質をPCRにより構築する。このPCRでは構築物はEcoR1制限部位及びBglII制限部位で隣接する。構築物を実施例2に記載の構築物hAGT−Ura3のEcoR1部位とBglII部位との間に挿入して、ユビキチン−hAGT−Ura3融合タンパク質をもたらす。
【0080】
ユビキチン−hAGT−Ura3融合タンパク質の発現レベル及び得られる融合タンパク質の活性を実施例2におけるhAGT−Ura3について記載のとおりに監視する。
実施例4:Tup1(N)W160hAGT融合タンパク質
Tup1を転写のグルコース抑制に関与する(F.E.Williams and R.Trumbly,Mol Cell Biol 10:6500−11,1990)。この核局在化タンパク質を、クローニング部位NcoIを含有しそしてTup1の最後のアミノ酸AsnをhAGTの最初のアミノ酸Metと連結するリンカーDHGSGによりW160hAGTのN末端に融合させる。抗体検出のために、エピトープHAをhAGTのC末端に直接融合させ、次いで停止コドンを融合させる。クローニングのためのプライマーはak121(N,Tup1):
【0081】
【表8】

【0082】
である。Tup1−W160hAGTタンパク質がpcup1プロモーターの制御下にある発現ベクターp314AK1を含有するL40酵母細胞の培養物を、0.6のOD600となるように増殖させる。Tup1−W160hAGTの発現をCuSOを100μMの濃度となるように加えることにより誘導し、そして細胞培養物を2.5時間インキュベーションする。凍結/解凍サイクルにより酵母細胞の溶解の後、細胞抽出物をウエスタンブロッティング(1.抗HA抗体(Babco),2.抗マウスペルオキシダーゼコンジュゲート(Sigma))を使用して発現されたTup1−W160hAGT融合タンパク質の存在について分析する。活性は、核融合タンパク質(nuclear fusion protein)がin vivoでBGAF(アミド結合によりp−アミノメチル基に連結された5(6)−カルボキシフルオレセイン残基のジアセテートを有するO−(p−アミノメチル)ベンジルグアニン)で標識されるとき、蛍光顕微鏡検査法により証明される。
【0083】
BGAFは下記の方法で製造される:
−(4−アミノメチル−ベンジル)グアニン6.0mg(0.022ミリモル)をアルゴン雰囲気下に乾燥DMF2mL(40℃、30分間音波処理された)に溶解する。室温に冷却した後、トリエチルアミン4.6μL(0.033ミリモル)及び5(6)−カルボキシフルオレセインN−スクシンイミジルエステル(異性体の混合物)14.8mg(0.027ミリモル)を加える。室温で1時間攪拌した後、溶媒を除去しそして生成物をジクロロメタン中のメタノール(1:20,1:10,1:5)の段階勾配を使用してフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製する。これらの条件下に、BGAF及びBGAFの加水分解された誘導体(BGFLと呼ばれる)を単離し、そして各々400μLDMSOに溶解する。BGFLの溶液の濃度は、フルオレセインの吸光係数(pH7.4におけるε492=98.4×10−1cm−1)によりλ=492nmにおける吸光度により決定する。BGFLの濃度は、4.4mMとして計算される。収率:1.11mg(0.0018ミリモル、8%)。R=0.02(メタノール/ジクロロメタン1/10)。MS(ESI)629.27(100[M+H])。C3424 M=628.61g/モル。BGAFの濃度は、O−(4−アミノメチル−ベンジル)グアニン及びフルオロセインの加算された吸光係数(ε280=(7.1+53.3)mM−1cm−1=60.4mM−1cm−1)を使用してλ=280nmにおける吸光度により決定される。BGAFの濃度は0.8mMとして計算される。収率:0.23mg(0.3μモル、1.5%)。R=0.38(メタノール/ジクロロメタン1/10)。MS(ESI)713.35(100[M+H])。C3828 M=712.68g/モル。
【0084】
実施例5:Tup1(N)エンハンスドシアノ蛍光タンパク質ECFP(C)W160hAGT融合タンパク質
Tup1を実施例4で記載のリンカーDHGSGによりW160hAGTのN末端に融合させる。しかしながら、hAGTのC末端に融合されたエピトープHAに続いて蛍光タンパク質ECFPが融合される。クローニングのためのプライマーはak121(N,Tup1)(配列番号1)、ak122(C,Tup1)(配列番号2)、ak125(N,hAGT)(配列番号3)、ak126(ECFP,HA):
【0085】
【表9】

【0086】
である。Tup1−W160hAGT−ECFPタンパク質がpcup1プロモーターの制御下にある発現ベクターp314AK1を含有するL40酵母細胞の培養物を、0.6のOD600となるように増殖させる。Tup1−W160hAGT−ECFPの発現をCuSOを100μMの濃度となるように加えることにより誘導し、そして細胞培養物を2.5時間インキュベーションする。凍結/解凍サイクルにより酵母細胞の溶解の後、細胞抽出物をウエスタンブロッティング(1.抗HA抗体(Babco),2.抗マウスペルオキシダーゼコンジュゲート(Sigma))を使用して発現されたTup1−W160hAGT−ECFP融合タンパク質の存在について分析する。活性は、核融合タンパク質がin vivoでBGAFで標識されるとき、蛍光顕微鏡検査法により証明され、そして核は残留細胞から区別される。
【0087】
実施例6:LexA(C)hAGT融合タンパク質
LexAは酵母ツーハイブリッド法において使用されるE.coli転写レギュレーターのDNA結合ドメインである。hAGTは、そのC末端に、酵母発現ベクターpHybLexZeo(Invitrogen)の制限部位EcoR1とNotIとの中間で融合させる。使用されるプライマーは:
【0088】
【表10】

【0089】
である。
【0090】
実施例7:シトクロムCペルオキシダーゼCCP(C)hAGT融合タンパク質
hAGT−Ura3構築物(実施例2)において、Ura3を突然変異D217P及びD224Y(Iffland et al.,BiochemBiophys Res commun286:126−132,2001)を有するCCP(そのミトコンドリアターゲッティング配列のない)により置き換える。融合タンパク質としてCCPの活性を試験するために、hAGT−CCPの発現をもたらすベクターで形質転換された酵母コロニーをニトロセルロースに移しそして(3回の凍結−解凍サイクルの後)0.02%Hを含有する50mMKHPO緩衝液中の5又は20mM ABTSにさらす。コロニーは数分以内に暗緑色に染まったが、これに対して該タンパク質を発現しないコロニーは極めてかすかにしか染まらなかった。
【0091】
実施例8:エンハンスドシアノ蛍光タンパク質ECFP(C)W160hAGT融合タンパク質
蛍光タンパク質ECFPをW160hAGTのC末端に融合させ、次いで停止コドンを融合させる。PCRによる融合は、融合タンパク質Tup1−W160hAGT−ECFP(実施例5)の場合と同じプライマーにより行う。タンパク質W160hAGT−ECFPを、哺乳動物発現ベクターpNuc(Clontech)に制限部位NheIとBamHIの間に組み込む。
【0092】
AGTに欠けたCHO細胞をW160hAGT−ECFPをコードするベクターでトランスフェクションする。24時間の一過性発現の後、0.18mm厚さのガラススライド上に増殖した細胞を灌流チャンバに移しそしてBGFL(5μM)と5分間インキュベーションする。細胞をPBS緩衝液で3回洗浄して過剰の基質を除去する。蛍光測定のために、Zeiss LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡を使用する(Carl Zeiss AG)。フルオレセイン又はECFPシグナル(488nmにおける励起)の検出を適当なフィルターにより達成する。走査速度及びレーザー強度を調節して蛍光プローブの光漂白、及び細胞の損傷又は形態変化を回避する。
【0093】
実施例9:ER Sec62の膜タンパク質/DHFR(C)hAGT融合タンパク質
タンパク質Sec62pのN末端ドメインのORF(オープンリーディングフレーム)、ペルオキシソーム膜タンパク質Pex10p及びPex15pの完全長ORF、及び酵母カゼインキナーゼ(YCK1)のN末端断片のORFをコードする断片は、テンプレートとして酵母ゲノムDNA及びそれぞれ所望のDNA断片の5’及び3’端部に対して相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用するPCRにより得られる。すべての5’プライマーは追加のBamHI部位を含有し、そしてすべての3’プライマーは、追加の制限部位を含有し、pRS314ベクター上のCUP1−hAGTモジュールに対する3’フレーム内融合を可能とするか又はpRS304ベクター上のYCK1のDNA断片を可能とする。タンパク質Sec62pのN末端ドメインのORFは、CUP1−hAGTモジュールと、HAエピトープタグ(Dha)をコードする追加の配列により延長されているマウスジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする配列との間にフレーム内に挿入される(inserted in frame)。CUP1−hAGTモジュールは、テンプレートとして完全長AGTを含有するプラスミドDNA及びhAGTのORFの5’及び3’端部に対して相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用するPCRにより得られる。3’−プライマーは追加のBamHI部位を含有しそして5’−プライマーは、pRS314及びpRS304ベクター上の酵母CUP1プロモーターに対する3’融合を可能とするために追加のEcoR1部位を含有する。プラスミドCUP1−hAGT−SEC62−314、CUP1−hAGT−PEX10−314及びCUP1−hAGT−PEX15−314は酵母細胞に形質転換される。プラスミドの存在は、トリプトファンを欠く選択性培地での増殖により制御される。hAGT−YCK1融合遺伝子の完全長バージョンを得るために、CUP1−hAGT−YCK1−304をSal1で切断して、切断されたプラスミドの酵母への形質転換の後染色体YCK1との相同性組換えを可能とする。成功した組換えは、プライマーとして適当なオリゴヌクレオチドを使用する診断PCRにより証明される。
【0094】
hAGT−Sec62−Dha融合タンパク質の機能的アッセイ:hAGT−Sec62−Dhaを発現するS.cerevisiae細胞100mLを〜0.5のOD600となるように30℃で増殖させ、そして細胞抽出の4時間前に100μMCuSOを補充する。遠心の後、液体窒素中での粉砕により細胞は開かれそしてタンパク質は1501mMNaCl、20mMHEPESpH7.5、1mMEDTA及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Boehringer Manheim,Germany)を含有する緩衝液中で抽出される。4℃で20.000rpmでの15分の遠心の後、透明になった抽出物を基質BGBTを含有するオリゴヌクレオチド10ピコモル(pmol)で室温で20分間処理する。細胞抽出物をダイナビーズ(Dynabeads)15μLと4時間インキュベーションしそしてビーズを抽出緩衝液1mlで5回洗浄する。洗浄されたビーズをLaemmli緩衝液30μL中で煮沸しそして抽出物をSDS PAGEに付す。精製されたhAGT−Sec62−Dhaをニトロセルロース上へのウエスタンブロッティングの後、マウスモノクローナルHA抗体及びセイヨウワサビペルオキシダーゼをカップリングさせたラビット抗マウス抗体との引き続く(consecutive)インキュベーションにより検出する。
【0095】
実施例10:セロトニン受容体5−HT(N)hAGT融合タンパク質
セロトニン受容体5−HT(マウス)を含有するベクターpEAK8−5HTRは、H.Vogelのグループ(EPFL Lausanne,Switzerland)により提供された。W160hAGTを、突然変異誘発により導入された制限部位SnaBIとPacIとの間の受容体の第4ループ(細胞質の)に組み込む。W160hAGTの増幅のためのプライマーはak144(N、W160hAGT):
【0096】
【表11】

【0097】
である。AGTに欠けたCHO細胞を5−HT−(W160hAGT)loop4受容体をコードするベクターでトランスフェクションする。24時間の一過性発現の後、0.18mm厚さのガラススライド上に増殖した細胞を灌流チャンバに移しそしてBGFL(5μM)と5分間インキュベーションする。細胞をPBS緩衝液で3回洗浄して過剰の基質を除去する。蛍光測定のために、Zeiss LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡を使用する(Carl Zeiss AG)。フルオレセインシグナル(488nmにおける励起)の検出を適当なフィルターにより達成する。走査速度及びレーザー強度を調節して蛍光プローブの光漂白、及び細胞の損傷又は形態変化を回避する。
【0098】
実施例11:ヒトエストロゲン受容体hER(C)hAGT融合タンパク質
ヒトエストロゲン受容体を含有するベクターpC1−hERは、H.Vogelのグループ(EPFL Lausanne,Switzerland)により提供された。W160hAGTを受容体のC末端に制限部位NheIとXhoIの間で融合させる。W160hAGTの増幅のためのプライマーはak136(N、W160hAGT):
【0099】
【表12】

【0100】
である。AGTに欠けたCHO細胞をW160hAGT−hERをコードするベクターでトランスフェクションする。24時間の一過性発現の後、0.18mm厚さのガラススライド上に増殖した細胞を灌流チャンバに移しそしてBGFL(5μM)と5分間インキュベーションする。細胞をPBS緩衝液で3回洗浄して過剰の基質を除去する。蛍光測定のために、Zeiss LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡を使用する(Carl Zeiss AG)。フルオレセインシグナル(488nmにおける励起)の検出を適当なフィルターにより達成する。走査速度及びレーザー強度を調節して蛍光プローブの光漂白、及び細胞の損傷又は形態変化を回避する。
【0101】
実施例12:SV40ラージT抗原核局在化配列NLS(C)hAGT及びNLS/ECFP(C)hAGT
シミアンウイルス40ラージT抗原の核局在化シグナルの3つのコピー(NLS)を、W160hAGTのC末端に融合されたHAタグに融合された蛍光タンパク質ECFPのC末端に融合させてW160hAGT−HA−ECFP−NLSを生じさせるか、又はW160hAGTのC末端に直接融合させてW160hAGT−NLSを生じさせる。融合タンパク質Tup1−W160hAGT−ECFP(実施例5)の場合と同じプライマーを使用して、PCRによる融合を行う。ついで、W160hAGT−HA−ECFP−NLS又はW160hAGT−NLSを、それぞれ、哺乳動物発現ベクターpNuc(Clontech)に制限部位NheIとBglIIとの間で組み込む。プライマーはak136(N、W160hAGT)(配列番号12)、ak137(C、ECFP):
【0102】
【表13】

【0103】
である。AGTに欠けたCHO細胞をW160hAGT−HA−ECFP−NLS又はW160hAGT−NLSをコードするベクターpNucでトランスフェクションする。24時間の一過性発現の後、0.18mm厚さのガラススライド上に増殖した細胞を灌流チャンバに移しそしてBGFL(5μM)と5分間インキュベーションする。細胞をPBS緩衝液で3回洗浄して過剰の基質を除去する。蛍光測定のために、Zeiss LSM510レーザー走査共焦点顕微鏡を使用する(Carl Zeiss AG)。フルオレセイン又はECFPシグナル(488nmにおける励起)の検出を適当なフィルターにより達成する。走査速度及びレーザー強度を調節して蛍光プローブの光漂白、及び細胞の損傷又は形態変化を回避する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素、DNA結合タンパク質、転写調節タンパク質、膜タンパク質、核内受容体タンパク質、核局在化シグナルタンパク質、タンパク質補因子、小単量体GTPアーゼ、ATP結合カセットタンパク質、細胞内構造タンパク質、特定の細胞区画にタンパク質をターゲッティングする原因である配列を有するタンパク質、一般に標識又はアフィニティータグとして使用されるタンパク質、及び前記タンパク質のドメイン又はサブドメインからなる群より選ばれる対象のタンパク質、但しファージλの主要頭部タンパク質D(gpD)及びタンパク質
【表1】


及びSSN6を除く、を含む標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項2】
対象のタンパク質が膜タンパク質である、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項3】
対象のタンパク質がキナーゼである、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項4】
対象のタンパク質が核内受容体タンパク質である、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項5】
対象のタンパク質がホスファターゼである、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項6】
対象のタンパク質がプロテアーゼである、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項7】
AGTのN末端、C末端、又はN末端及びC末端でAGTに融合された1種又はそれより多くの対象のタンパク質、及び標識を有する基質からなる、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項8】
AGTが1個又はそれより多くのアミノ酸置換、欠失又は付加を有するヒトAGTの変異体である、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項9】
AGTが、Asn157がGlyにより置換され、そしてSer159がGluにより置換されている変異体、又はGly160がAla又はTrpにより置換されている変異体である、請求項8に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項10】
AGTが、Asn157がSerにより置換され、Ser159がHisにより置換され、そしてGly160がAsnにより置換されている変異体である、請求項8に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項11】
標識が、分光学的プローブ、;放射性標識された分子;相手に特異的に結合することができる特異的結合対の一方である分子;他の生体分子と相互作用すると推測される分子;他の生体分子と相互作用すると推測される分子のライブラリー;他の分子に架橋することができる分子;H及びアスコルベートに曝露されるとヒドロキシルラジカルを発生することができる分子;光に照射されると反応性ラジカルを発生することができる分子;固体支持体に共有結合した分子;その相補鎖と塩基対形成を行うことができる核酸又はその誘導体;膜挿入性を有する脂質又は他の疎水性分子;望ましい酵素的、化学的又は物理的性質を有する生体分子;又は上記に列挙された性質のいずれかの組み合わせを有する分子である、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項12】
標識が発蛍光団、発色団、磁性プローブ又は造影剤である、請求項11に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項13】
標識が発蛍光団である、請求項12に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項14】
標識が、相手に特異的に結合することができる特異的結合対の一方である分子である、請求項11に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項15】
標識が、他の分子に架橋することができる分子である、請求項11に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項16】
標識が、固体支持体に結合した分子である、請求項11に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項17】
固体支持体が化学的に修飾された酸化物表面、ガラス表面、ポリマー表面、官能化されたポリマー、貴金属表面である、請求項16に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項18】
固体支持体がビーズ、マイクロタイタープレート又はセンサーエレメントの形態にある、請求項17に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項19】
標識が、その相補鎖と塩基対形成を行うことができる核酸又はその誘導体である、請求項11に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項20】
複数の標識を含む、請求項1に記載の標識されたAGT融合タンパク質。
【請求項21】
酵素、DNA結合タンパク質、転写調節タンパク質、膜タンパク質、核内受容体タンパク質、核局在化シグナルタンパク質、タンパク質補因子、小単量体GTPアーゼ、ATP結合カセットタンパク質、細胞内構造タンパク質、特定の細胞区画にタンパク質をターゲッティングする原因である配列を有するタンパク質、一般に標識又はアフィニティータグとして使用されるタンパク質、並びに前記タンパク質のドメイン又はサブドメインからなる群より選ばれる対象のタンパク質、但しファージλの主要頭部タンパク質D(gpD)及びタンパク質
【表2】


及びSSN6を除く、を含むAGT融合タンパク質。
【請求項22】
対象のタンパク質が膜タンパク質である、請求項21に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項23】
対象のタンパク質がキナーゼである、請求項21に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項24】
対象のタンパク質が核内受容体タンパク質である、請求項21に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項25】
対象のタンパク質がホスファターゼである、請求項21に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項26】
対象のタンパク質がプロテアーゼである、請求項21に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項27】
AGTのN末端、C末端、又はN末端及びC末端でAGTに融合された1種又はそれより多くの対象のタンパク質及び標識を有する基質からなる、請求項21に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項28】
AGTが1個又はそれより多くのアミノ酸置換、欠失又は付加を有するヒトAGTの変異体である、請求項21に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項29】
AGTが、Asn157がGlyにより置換され、そしてSer159がGluにより置換されている変異体、又は及びGly160がAla又はTrpにより置換されている変異体である、請求項28に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項30】
AGTが、Asn157がSerにより置換され、そしてSer159がHisにより置換され、そしてGly160がAsnにより置換されている変異体である、請求項28に記載のAGT融合タンパク質。
【請求項31】
Asn157がGlyにより置換され、そしてSer159がGluにより置換されているか、又はGly160がAla又はTrpにより置換されているか、又はAsn157がSerにより置換され、Ser159がHisにより置換されそしてGly160がAsnにより置換されている、ヒトAGTの変異体。
【請求項32】
AGT融合タンパク質に組み込まれた対象のタンパク質を、標識を有する適当なAGT基質と接触させ、そして標識を認識又は処理するようにデザインされたシステムにおいてこの標識を使用して、AGT融合タンパク質を検出しそして場合により更に処理することを特徴とする、対象のタンパク質を検出及び処理する方法。
【請求項33】
対象のタンパク質とAGTからAGT融合タンパク質を形成する段階を更に含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
対象のタンパク質が、酵素、DNA結合タンパク質、転写調節タンパク質、膜タンパク質、核内受容体タンパク質、核局在化シグナルタンパク質、タンパク質補因子、小単量体GTPアーゼ、ATP結合カセットタンパク質、細胞内構造タンパク質、特定の細胞区画にタンパク質をターゲッティングする原因である配列を有するタンパク質、一般に標識又はアフィニティータグとして使用されるタンパク質、並びに前記タンパク質のドメイン又はサブドメインからなる群より選ばれ、但しファージλの主要頭部タンパク質D(gpD)及びタンパク質
【表3】


及びSSN6を除く、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
対象のタンパク質が膜タンパク質である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
対象のタンパク質がキナーゼである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
対象のタンパク質が核内受容体タンパク質である、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
対象のタンパク質がホスファターゼである、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
対象のタンパク質がプロテアーゼである、請求項34に記載の穂方法。
【請求項40】
AGT融合タンパク質が、AGTのN末端、C末端、又はN末端及びC末端でAGTに融合された1種又はそれより多くの対象のタンパク質からなる、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
AGT融合タンパク質におけるAGTが、ヒトAGT、または1個又はそれより多くのアミノ酸置換、欠失又は付加を有するヒトAGTの変異体である請求項32に記載の方法。

【公表番号】特表2006−501286(P2006−501286A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540757(P2004−540757)
【出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010859
【国際公開番号】WO2004/031404
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(503183293)エコル・ポリテクニック・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ(エーペーエフエル) (11)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE(EPFL)
【Fターム(参考)】