説明

OETO方式を用いた弾性糸の巻き戻し装置

【課題】巻き戻し性、生産性、及び作業空間の効率性に優れた、OETO(over−end−take−off)方式を用いた弾性糸の巻き戻し装置及びそれによる巻き戻し方法の提供。
【解決手段】本原糸パッケージ4と、予備用パッケージ1と、固定型ガイド6とを含み、ここで、固定型ガイド6と原糸パッケージ4の対向面中心との距離dが25cm〜38cmの範囲で、固定型ガイド6に向かう原糸パッケージ4の対向面中心と予備用パッケージ1の対向面中心との距離Rが25cm〜50cmの範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OETO(over−end−take−off)方式を用いた弾性糸の巻き戻し装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン糸のような弾性糸を巻き戻す際の問題点の一つは、心棒から巻き戻されるとき、それ自体の粘着性(tack)のために、摩擦力及び張力において大きな偏差が起きるので、均一な巻き戻しが達成されない。この結果として、パッケージの外層部から巻き戻された原糸と内層部から巻き戻された原糸とが違う物性を有し、最終製品が不均一になる。即ち、弾性糸が巻かれ形成される巻糸体の部位毎に物性が大きく異なるという問題が生じ得る。
【0003】
前記問題点を解決するために、パッケージから巻き戻された弾性糸を再び巻き取る技術が報告されている。しかし、この場合、巻き取り工程の追加による生産性の低下及び高コストを招くという問題がある。
【0004】
米国特許第6,676,054号は弾性糸の粘着性(tack)に応じて原糸パッケージから原糸ガイドまでの距離を特定範囲内に調整する方法を開示している。より具体的に記述すれば、この方法では弾性糸の粘着性が2g以上のときは糸パッケージから固定型糸ガイドまでの距離を41cm以上に調節し、弾性糸の粘着性が7.5g以上のときは71〜 91cmの範囲にコントロールしている。しかし、この方法によれば、随時に前記距離を調整しなければならないので、生産性が低下するという問題がある。
【0005】
また、弾性糸のポリマー樹脂にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムなどの金属脂肪酸塩を粘着防止剤として添加して紡糸することによって、製造した弾性糸の粘着性を低める方法が報告されている。しかし、この場合も、下方への弾性糸の巻き戻しの際にバルーニング(ballooning)現象によって糸切が頻繁に発生する。
【0006】
従って、 巻き戻し性の向上のために粘着防止剤を添加して製造された弾性糸に適用できる改善された巻き戻し装置の開発が求められている。
【特許文献1】米国特許第6,676,054号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は弾性糸の巻き戻し性を向上させるとともに、張力の偏差及び糸切を防止することができ、最小限の作業スペースを占めて生産性に優れるOETO方式を用いた巻き戻し装置及びその巻き戻し方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明では、枠と、固定軸によって前記枠に固定されている弾性のある原糸パッケージ及び予備用パッケージと、前記原糸パッケージから弾性糸を巻き戻す巻き戻し用駆動ロールと、前記枠に位置し、巻き戻された弾性糸を前記原糸パッケージから前記巻き戻し用駆動ロールに導く開口部を有する固定型ガイドと、を含み、この時、前記固定型ガイドに向かう前記原糸パッケージの対向面中心と予備用パッケージの対向面中心との間の距離Rが25cm〜50cmの範囲であり、前記固定型ガイドの開口部と前記原糸パッケージの対向面中心との間の距離dが25cm〜38cmの範囲であることを特徴とする、OETO(over−end−take−off)方式の弾性糸用巻き戻し装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のOETO方式を用いた巻き戻し装置及び巻き戻し方法によれば、紡糸された弾性糸に大きな張力偏差が付加されないで、巻き戻すことができるとともに、バルーニング現象による糸切を防止できるので、生産性の大幅な向上と作業空間の最小化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明のOETO方式の弾性糸用巻き戻し装置を示す概路図である。図1に示すように、予備用パッケージ1及びこれに弾性糸3によって連結されている原糸パッケージ4は、固定軸2によって枠100の所定位置に固定されており、原糸パッケージ4から巻き戻される弾性糸5は開口部を有する固定型ガイド6を通過した後、任意選択可能なローラーガイド7を介して直角をなすように曲げられてから、巻き戻し用駆動ロール8、任意選択可能な多数のローラーガイド(未図示)、張力計10及び巻取ロール9を順次通過させる。
【0012】
通常、前記固定型ガイド6はセラミックス材からなり、優れた耐磨耗性と低摩擦性を示す。また、ローラーガイド7は本発明による巻き戻し装置が占めるスペースを最小化するために、固定型ガイド6を貫通した弾性糸が枠の周縁部に沿って直角になるように紡糸させる役割を果す。本発明の装置の解糸装置は、ローラーガイド7と巻き戻し用駆動ロール8との間に原糸パッケージから巻き戻すときに発生するバルーニング(ballooning)現象による糸切を抑止するためのローラータイプのマグネチックテンショナー(magnetic tensioner)をさらに設置することができる。前記巻き戻し用駆動ロール8は多様な巻き戻し工程において適切な速度で駆動され、その回転速度は供給される弾性糸の張力または延伸比(draw ratio)に応じて調整することができる。前記巻取ロール9は巻き戻し装置内に設置されてもよく、ドラフト(draft)率を得るために巻き戻し用駆動ロール8よりも早い速度で回転させることが好ましい。前記巻き戻し用駆動ロール8と前記巻取ロール9との間には所望の繊度(fineness)を得るために多様な形態の多数のローラーガイドがさらに設置され得る。
【0013】
本発明の巻き戻し装置に用いられる弾性糸の原料であるポリウレタンポリマーは粘着防止剤としてステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム及びこれらの混合物のような金属脂肪酸塩を添加し、紡糸して製造し得る。また、前記ポリウレタンポリマーは、有機ジイソシアネートと高分子ジオールとを反応させてポリウレタン前駆体を製造し、これを有機溶媒に溶解させた後、鎖延長剤として用いられるジアミンを鎖終止剤として用いられるモノアミンと反応させることによって製造される。
【0014】
前記有機ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、水素化P,P−メチレンジイソシアネート及びこれらの混合物などが挙げられ、前記高分子ジオールとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカーボネートジオール及びこれらの混合物が挙げられる。また、前記ジアミンとしてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヒドラジン及びこれらの混合物などが用いられ、前記モノアミンとしては、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジメチルアミン及びこれらの混合物がなど用いられる。なお、ポリウレタンポリマーの特性強化のために上述した成分以外に他の添加剤として紫外線安定剤、酸化防止剤、NOxガス、黄変防止剤、粘着増進剤、耐塩素剤などがさらに用いられ得る。
【0015】
前記粘着防止剤はポリマー重量を基準として0.05〜5重量%の量で添加することができる。特に、このような弾性糸は粘着防止剤を必ず添加して製造しなければならないおむつの製造に使用可能である。
【0016】
上述したように、本発明の原糸パッケージ4及び予備用パッケージ1は固定軸2によって枠100に固定されるようになるが、この時、図2に示すように、固定型ガイド6と原糸パッケージ4との間の距離dが25cm〜38cmの範囲内、より好ましくは30cm〜35cmの範囲である。前記距離dが25cm未満の場合、張力の大きな偏差によってテンションスパイクが頻繁に生じ、その結果糸切が発生しやすく、30cm以上の場合は作業空間の最小化が難しくなる。
【0017】
また、図2に示しているように、上記のように設置された原糸及び予備用パッケージにおいて、固定型ガイド6に向かう原糸パッケージ4の対向面中心と予備用パッケージ1の対向面中心との間の距離Rは、25〜50cm範囲内であるが、これは高速の巻き戻し作業時でもバルーニング現象による糸切を防止するためであり、より好ましくは30cm〜40cmである。
【0018】
図3は、本発明による巻き戻し装置を示す側面図である。
【0019】
図4は、本発明による巻き戻し装置の斜視図である。
【0020】
同図に示したように、本発明によるOETO方式の巻き戻し装置は必要な紡糸数を製造ラインに投入可能に構成されている。例えば、もし8つの紡糸数が必要であれば、総計16個のパッケージを具備しなければならない。前記原糸パッケージ4から前記固定型ガイド6に供給された紡糸は水平に維持されることになる。また、これらのパッケージは縦列に配置され、格縦列に4つのパッケージが収納される。前記4つのパッケージは一対ずつ配列されており、各対は一つの原糸パッケージ4と一つの予備用パッケージ1とからなる。
【0021】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するものであるだけで、本発明の内容が下記実施例によって限られるものではない。
【実施例1】
【0022】
粘着防止剤としてステアリン酸マグネシウムをポリマー重量に対し0.4重量%添加して紡糸することで製造された弾性糸のクレオラ(CreoraR、株式会社暁星)原糸(粘着性 1.85g)パッケージを図1の巻き戻し装置の固定軸2に固定した後、巻き戻し工程を行って弾性糸の巻き戻し張力と糸切の回数を測定した。
【0023】
原糸パッケージ4から巻き戻された原糸5を、固定型ガイド6、ローラーガイド7、巻き戻し用駆動ロール8及び巻取ロール9に順次通過させた。この時、固定型ガイド6と原糸パッケージ4の対向面中心との間の距離dを30cm、固定型ガイド6に向かう原糸パッケージ4の対向面中心と予備用パッケージ1の対向面中心との間の距離Rを40cmと設定した。
【0024】
前記巻き戻し用駆動ロール8と前記巻取ロール9との間に設置された張力計10(ロスチャイルド張力計(Rothschild tensionmeter))を用いて弾性糸の平均張力値(g)を10分間測定した。この時、巻き戻し用駆動ロール8と巻取ロール9との伸張率は300%(延伸比=4.0)であり、巻き戻し用駆動ロール及び巻取ロールのそれぞれの速度は100m/分及び400m/分に設定した。平均張力値から30g以上の差を示すテンションスパイク(tension spike)の発生頻度を測定した。
【実施例2】
【0025】
前記距離d及びRを下記表1に示したように変化させたこと除いては、実施例1と同一の方法で巻き戻し張力と糸切回数を測定した。
【0026】
前記実施例1〜7及び比較例1〜3の巻き戻し張力及び糸切回数の測定結果を下記表1に示した。
【0027】
【表1】

【0028】
前記表1の結果から、粘着防止剤が添加された弾性糸を用いる場合、距離dが25cm〜38cm、距離Rが25cm〜50cmである実施例1〜7が比較例1〜3に比べて優れた巻き戻し性を有するだけでなく、バルーニング(ballooning)現象による糸切問題も乗り越えることができることが分かる。
【0029】
以上、本発明を特定の実施例に関連付けて説明したが、添付した特許請求の範囲によって定義される本発明の範疇内において当該分野における熟練者は本発明を多様に変形及び変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明によるOETO方式の巻き戻し装置を示す概略図である。
【図2】固定型ガイド6と原糸パッケージ4の対向面中心との間の距離dと、固定型ガイド6に向かう原糸パッケージ4の対向面中心と予備用パッケージ1の対向面中心との間の距離Rを示す概略図である。
【図3】本発明による巻き戻し装置を示す側面図である。
【図4】本発明による巻き戻し装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1: 予備用パッケージ
2: 固定軸
3: 原糸と予備用パッケージの連結糸
4: 原糸パッケージ
5: 原糸
6: 固定型ガイド
7: ローラーガイド
8: 巻き戻し用駆動ロール
9: 巻取ロール
10: 張力計
100: 枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠と、
固定軸によって前記枠に固定されている弾性のある原糸パッケージ及び予備用パッケージと、
前記原糸パッケージから弾性糸を巻き戻す巻き戻し用駆動ロールと、
前記枠に位置し、巻き戻された弾性糸を前記原糸パッケージから前記巻き戻し用駆動ロールに導く開口部を有する固定型ガイドと、
を含み、
この際、前記固定型ガイドに向かう前記原糸パッケージの対向面中心と予備用パッケージの対向面中心との間の距離(R)が25cm〜50cmの範囲であり、前記固定型ガイドの開口部と前記原糸パッケージの対向面中心との間の距離(d)が25cm〜38cmの範囲であることを特徴とする、OETO(over−end−take−off)方式の弾性糸用巻き戻し装置。
【請求項2】
前記固定型ガイドと前記巻き戻し用駆動ロールとの間にローラーガイドがさらに配置されていることを特徴とする請求項1に記載のOETO方式の弾性糸用巻き戻し装置。
【請求項3】
前記ローラーガイドが、前記固定型ガイドを通過した弾性糸が前記巻き戻し用駆動ロールに向かって直角に曲げられるように配置されていることを特徴とする請求項2に記載のOETO方式の弾性糸用巻き戻し装置。
【請求項4】
前記ローラーガイドと前記巻き戻し用駆動ロールとの間にマグネチックテンショナー(magnetic tensioner)をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のOETO方式の弾性糸用巻き戻し装置。
【請求項5】
前記弾性糸が、ポリウレタンポリマーに粘着防止剤を添加し、紡糸して製造されたことを特徴とする請求項1に記載のOETO方式の弾性糸用巻き戻し装置。
【請求項6】
前記粘着防止剤が、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム及びこれらの混合物からなる群から選ばれる金属脂肪酸塩であることを特徴とする請求項5に記載のOETO方式の弾性糸用巻き戻し装置。
【請求項7】
請求項1の巻き戻し装置を用いる弾性糸の巻き戻し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−517561(P2009−517561A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543167(P2008−543167)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001807
【国際公開番号】WO2007/064064
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(501434948)ヒョスン・コーポレーション (18)
【氏名又は名称原語表記】HYOSUNG CORPORATION
【Fターム(参考)】