説明

OLEDディスプレイ・システムにおける電力消費の低下

複数の行と列にされた画素群を有するパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイを制御する方法であって、入力画像信号を受信し;少なくとも第1の画像フィールドと第2の画像フィールドのための駆動信号を決定し;このパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの少なくとも1つの列について、第1の画像フィールドの表示と第2の画像フィールドの表示の間に起こる画素の全容量性電荷の変化と相関する値を計算し;第1の画像フィールドまたは第2の画像フィールドにおいて駆動信号の少なくとも1つを調節して全容量性電荷の変化を補償し;調節された駆動信号を各画素に供給する操作を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システムに関する。より詳細には、本発明により、電力消費が低下したパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システムが提供される。
【背景技術】
【0002】
現在、市場には多くのディスプレイ装置が存在している。入手できるディスプレイの中に、薄膜被覆エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ(例えばOLEDディスプレイ)がある。このディスプレイは、能動回路を利用したアクティブ・マトリックス式背面板を用いて駆動することができる。この能動回路は、ディスプレイの各発光素子への電流の流れを制御する。しかしこのディスプレイは、各発光素子の位置に1つの能動回路を形成するのが複雑であるため比較的高価になる傾向があり、その能動駆動回路で使用されることがしばしばある薄膜トランジスタは、欠陥(例えば一様性の欠如や、時間が経過したときの閾値のシフト)を生じやすい。そのためディスプレイの品質が低下する。
【0003】
パッシブ-マトリックス式薄膜被覆ELディスプレイは構造がはるかに単純である。このディスプレイは、一般に、行電極アレイと列電極アレイを備えている。EL材料がこれら電極の間に堆積されていて、正の電位が2つの電極間に印加されると、これら2つの電極の間にあるEL材料が光を出す。したがってディスプレイの各発光素子は、行電極と列電極の交点によって形成される。このタイプのディスプレイでは各画素の位置に高価な能動回路を形成する必要がないため、構成するのがはるかに安上がりである。このようなデバイスでは、列電極は、一般に、ITOで形成されるか、透明だが抵抗率が行電極よりも一般に大きい他の何らかの材料で形成されて、ユーザーに見える光を出すことができる。
【0004】
多数のパッシブ-マトリックス式ELディスプレイ・システムがこれまで文献に記載されてきた。例えばOkudaらの「発光素子を駆動するための駆動システム」という名称のアメリカ合衆国特許第5,844,368号には、パッシブ-マトリックス式ELディスプレイを駆動するためのシステムが記載されている。この方法では、そしてたいていの従来のパッシブ-マトリックス式ELの駆動法では、電力が一度に1つの行電極に供給されて電流がEL材料を通って流れ、それぞれの列ラインに到達すると仮定されている。発光素子の1本のライン上の発光素子にだけ電力を供給してディスプレイを駆動するこの方法だと、2つの大きな問題が生じる。
【0005】
これら2つの問題のうちの第1は、それぞれのディスプレイが理想的には発光素子のラインを数百本有するために起こる。これは、各発光素子が非常に短期間しか発光しないことを意味する。したがって各発光素子は、納得できる時間平均輝度値を実現するのに非常に大きな輝度の光を出さねばならない。これらの素子からの光の強度は電流に比例するため、比較的大きな電流を各発光素子に供給する必要がある。すると個々の発光素子の寿命が著しく短くなるとともに、ディスプレイの画素間のクロストークが増大する。そのことが、Sohらによって2006年のSIDミッド・ヨーロッパ・チャプターのプロシーディングに発表された「駆動条件に依存したOLEDディスプレイの劣化」という名称の論文に記載されている。さらに、この駆動法は、大きな電流をサポートする駆動用エレクトロニクスを必要とする。それは、通常は、より大きくてより高価なシリコン製駆動チップを意味する。さらに、この駆動法だと、電極、その中でも特に、潜在的に数百の発光素子に同時に電流を供給する行電極を横断するときの大きな抵抗による電圧損失と電力損失につながる。一般に、このようなデバイスでは時分割マルチプレクシングがさらに利用されるため、各電極は、発光相の第1の部分でピーク電流を担う必要がある。そのため抵抗による電力損失がさらに大きくなる。
【0006】
これら2つの問題のうちの第2は、電流が漏れることでアクティブにされないはずの発光素子から発光するのを避けるため、各発光素子を各サイクルの間にオン・オフせねばならないことから生じる。この問題は、有機材料を利用したELディスプレイにおいて特に厄介である。なぜならEL層が非常に薄く、抵抗が非常に大きいからである。このようなディスプレイでは、各発光素子は、発光が起こる前に打ち勝つ必要のある大きなキャパシタンスを持つ有効キャパシタを有する。このキャパシタンスに打ち勝つには大きな電力を必要とする可能性があるが、この電力は光を発生させないため、浪費される。この問題は、Yangらによって2006 SIDダイジェストに発表された「あらかじめ充電する電力の節約アルゴリズムを用いたPMOLEDドライバの設計」という名称の論文において議論されている。この論文に述べられているように、この電力は、ディスプレイに含まれるラインの数が増加するにつれて著しく増大する。この論文では、特に、64本のラインを有するPMOLEDにおいて電力の80%近くがOLEDの駆動(すなわち光の発生)に消費されるのに対し、ラインをオン・オフするときに電力の20%がこのキャパシタンスに打ち勝つのに消費されることが指摘されている。解像度が大きくなるにつれ、この比は劇的に変化する。176本のラインが存在しているとき、電力のわずか57%が光の発生に消費されるのに対し、電力の43%がこのキャパシタンスに打ち勝つのに消費される。したがってオフからオンに切り換えるラインがより多くディスプレイに存在するようになると、ディスプレイはエネルギー効率が著しく低下する。
【0007】
これらの問題のどちらがあっても、パッシブ-マトリックスELディスプレイの利用が著しく制限される可能性がある。しかしこれら2つの問題が組み合わさると、このようなディスプレイの用途が制限される。現在のところ、パッシブ-マトリックスELディスプレイの用途は、一般に128本未満のラインを持っていて対角線の典型的な長さが1.5インチ未満のディスプレイに限られている。
【0008】
これら2つの問題のうちの第1の問題の少なくとも一部に対処する方法の1つのカテゴリーは、パッシブ-マトリックスELディスプレイのマルチライン処理を行なうことである。このような方法では、あらゆるEL発光素子を通過するピーク電流を小さくできるため、材料の寿命を延長させ、駆動電圧を著しく低下させることができる。さらに、多数の行が同時に関与するため、電極の抵抗に起因する電力損失を著しく小さくすることができる。
【0009】
Yamazakiらは、「画像表示装置」という名称のアメリカ合衆国特許第7,227,521号において、そのような1つのマルチライン・アドレシング法を提示している。この方法は、表面伝導タイプの電子放出デバイスでの利用について主に開示されているが、ELディスプレイに関しても議論されている。この方法では、入力ビデオ信号を受け取り、ディスプレイの列方向で水平縁部強調プロセス(すなわち縁部のシャープ化)を実施し、ディスプレイの2つ以上の行を選択し、処理された入力画像信号に応答してディスプレイの列に電圧を供給する時間を変化させることにより、アドレス可能な鉛直方向の画素の数がディスプレイの鉛直方向のアドレス可能性の数よりも少ないあらゆる入力画像信号が表示される。この方法で画像信号を準備するのに必要なのは比較的単純な画像処理であるため、既存のパッシブ-マトリックス式ドライバと非常によく似たドライバを使用できる。この方法では、従来技術で知られている一度に1つのラインを駆動する方法を利用したディスプレイと比べて駆動電流と駆動電圧を低下させることができるが、2つの隣り合ったライン上に同じ信号を供給するだけであるため、鉛直方向のシャープさが実質的に失われた画像になり、縁部強調プロセスでは、限られたレベルの増強しか提供できない。この方法を用いると、ディスプレイの2つの行を一度に同時に選択するとき、電力がより少ないディスプレイを提供できる。しかしある状況下では、3つ以上の行を一度に選択することが有用である可能性がある。残念なことに、この方法だと、画像が著しくぼけることなく同時に利用できる行の数は、2本、またはおそらく3本に限定される。さらに、このシステムは、キャパシタの充電と放電に関して以前に報告されているのと似た問題を有する。
【0010】
Sylvanは、「マルチライン選択によるパッシブ-マトリックス式画像表示装置の制御方法」という名称のヨーロッパ特許第1 739 650号において上記の方法を強化することを提案している。この強化法では、ディスプレイの1つのリフレッシュ・サイクルで多数の行が選択されるが、それに続くディスプレイ・リフレッシュ・サイクルでは単一の行が選択される。この方法では、Yamazakiの方法を利用するときに起こる可能性のあるシャープさの問題の少なくとも一部が解決されるが、ディスプレイのサイクルを実際にはより頻繁に実施する必要があるために充電と放電のサイクル数がさらに増加し、したがってキャパシタを充電または放電するための電力が増大する。Eisenbrandらは、「ネットワーク・フローによるマルチライン・アドレシング」という論文で似た方法を議論している。この方法により、より多くの行を同時に利用していくつかのサイクルを完了させることができるが、階層化された方法を利用しているため、ここでも、より多数回の充電と放電のサイクルを利用する必要がある。
【0011】
Smithらは、より最近になり、異なる方法を以下のPCT出願で議論している:「マルチ-ライン・アドレシング法と装置」という名称のWO 2006/035246、「マルチ-ライン・アドレシング法と装置」という名称のWO 2006/035248、「ディジタル信号の処理法と装置」という名称のWO 2006/067520。これらの出願では、数学的方法(例えば特異値分解)を利用して入力画像をサブフレームに分解した後、発光ディスプレイ内の多数の行と列を同時に制御することによってそのサブフレームを表示する方法が提示されている。この方法と従来法の興味深い1つの違いは、従来法では単一の走査信号値だけが選択された列に供給されることであり、一般にはディジタル時間マルチプレクス化信号がその列に供給される。Smithによるこの方法では、多数の駆動レベルを列電極と行電極の両方に供給する必要がある。実際、ここに説明した方法では、行電極と列電極に供給する信号に対する十分なアナログ制御が必要であり、おそらくこれら電極のそれぞれへの電流を制御する必要がある。するとドライバがより複雑になるが、より多くの制御が可能になるため、アーチファクトをより少なくして同時により多くの行に関与することができる。残念なことに、Smithによる各出願に記載されている方法は、多数の欠点を有する。最も重要なのは、記載されている分解法が複雑であるため、特にビデオ情報のフル・フレームを処理するときに実際に合理的なコストで実現するのが難しいことである。さらに、Smithによる方法は、キャパシタンスに打ち勝つのに必要な電力の低減や、行電極または列電極の抵抗に起因する電力損失を減少させる方法に直接には対処していない。実際、この方法では列電極でのピーク電流が増加することがしばしばあるため、行電極に供給されるピーク電流が増加する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、複数の行と列にされた画素群を有するパッシブ-マトリックス式ディスプレイを制御する方法が提供される。
【0013】
この目的は、入力画像信号を受信し;少なくとも第1の画像フィールドと第2の画像フィールドのための駆動信号を決定し;このパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの少なくとも1つの列について、第1の画像フィールドの表示と第2の画像フィールドの表示の間に起こる画素の全容量性電荷の変化と相関する値を計算し;第1の画像フィールドまたは第2の画像フィールドにおいて駆動信号の少なくとも1つを調節して全容量性電荷の変化を補償し;調節された駆動信号を各画素に供給する操作を含む方法によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ディスプレイのキャパシタの充電と放電に起因する電力損失と、それに付随して行電極と列電極に沿って低下するIRが減少する。本発明により、解像度がより高く、より大きく、より価値のあるパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイが可能になる。
【0015】
本発明のこれらの側面、目的、特徴、利点、ならびに他の側面、目的、特徴、利点は、添付の図面を参照して好ましい実施態様に関して行なう以下の詳細な説明と添付の請求項を読めば、より明確に理解し評価することができよう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明のシステムの諸部品を示す概略図である。
【図1B】本発明によるディスプレイ駆動法の実行に役立つディスプレイ・ドライバの概略図である。
【図2】本発明の典型的なパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの断面図である。
【図3】本発明の各ステップを示すフロー・ダイヤグラムである。
【図4】本発明の典型的なパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの回路図である。
【図5】本発明によるエレクトロルミネッセンス・ディスプレイの典型的なダイオードが応答する際の電圧と電流の関係を示すグラフである。
【図6】2つの異なる列駆動シークエンスを用いて駆動したときに発光素子を流れる電流のグラフである。
【図7A】従来の駆動法を利用した場合の2つの連続した画像フィールドでの典型的な1つの列駆動値と2つの行駆動値のタイミング図である。
【図7B】本発明のシステムにおける2つの連続した画像フィールドでの典型的な1つの列駆動値と2つの行駆動値のタイミング図である。
【図8】本発明によるパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システムのための変調伝達関数である。
【図9】本発明によるマルチライン方式の一実施態様において入力画像信号をあらかじめシャープにするのに役立つカーネルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
パッシブ-マトリックス式ディスプレイとパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ・システムを駆動する方法として、入力画像信号を受け取り、その入力画像信号を処理し、処理されたその画像をより少ない電力消費で表示する方法を提供することにより、上記の要求が満たされる。
【0018】
複数の行と列にされた画素群を有するパッシブ-マトリックス式ディスプレイを制御する方法は、図3に示した処理ステップを含んでいる。図3からわかるように、この方法は、入力画像信号を受け取るステップ70と;少なくとも第1の画像フィールドと第2の画像フィールドのための駆動信号を決定するステップ72と;パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの少なくとも1つの列について第1の画像フィールドの表示と第2の画像フィールドの表示の間に起こる画素のキャパシタの全電荷の変化と相関する値を計算するステップ74と;第1の画像フィールドまたは第2の画像フィールドにおいて少なくとも1つの駆動信号を調節してキャパシタの全電荷の変化を補償するステップ76と;調節された駆動信号を各画素に供給するステップ78を含んでいる。この方法は、ディスプレイの各画素が、あるキャパシタンスを持つ固有のキャパシタを備えているとき、画像品質が高くて電力消費が低下したパッシブ-マトリックス式ディスプレイを提供する上で特に有用である。例えばこの方法は、図1に示したようなパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ・システムにおいて特に有用である。
【0019】
図1からわかるように、本発明のシステムは、パッシブ-マトリックス式ELディスプレイ2と、1つ以上の行ドライバ4と、1つ以上の列ドライバ6と、ディスプレイ・ドライバ8を備えている。このパッシブ-マトリックス式ELディスプレイ2は、列電極アレイ10と、その列電極アレイに直角な方向の行電極アレイ12と、列電極アレイと行電極アレイの間に位置するエレクトロルミネッセンス層を備えている。各列電極と各行電極の交点が、個々の発光素子14を形成する。この個々の発光素子は、この明細書の以下の部分では画素とも呼ぶ。
【0020】
本発明の実施態様では、パッシブ-マトリックス式ELディスプレイ2は、一般に、断面が図2に示したようになった複数の層を含んでいる。この図からわかるように、ELディスプレイは、基板32と、列電極を形成することのできる第1の電極層34と、発光層36と、例えば行電極を形成することのできる第2の電極層38を備えている。従来技術でよく知られているように、あるデバイスの有効キャパシタンスは、一対の金属プレートを隔てる距離と、その金属プレートの間にある材料の誘電定数との関数である。本発明の実施態様では、発光層の厚さが一般に5000オングストローム未満であることと、この層の誘電定数が一般に2よりも大きく、しばしば約3であることが重要である。そのため有効なキャパシタが行電極と列電極の交点に形成され、一般に少なくとも50pF/mm2のキャパシタンスを持つ。例えば有機エレクトロルミネッセンス材料を含む多くの実施態様ではキャパシタンスが200pF/mm2を超える可能性があり、約300pF/mm2になることもしばしばある。したがって有効なキャパシタが各発光素子の中に形成されて、固有のキャパシタンスを持つことになる。したがって本発明のデバイスでは、各発光素子が発光できるようになる前にその発光素子のキャパシタを充電する必要がある。この発光素子が発光しているときキャパシタには電荷があり、電場を行電極と列電極の間から除去するとその電荷が放電される。図1Bに示したデバイスは、第1の電極層と基板を通過して光を出すことができるため、業界で一般に実施されているボトム-エミッション型OLEDが形成されることに注意されたい。しかしこのデバイスは、第2の電極層を通過して光を出すようにすることもできるため、その場合にはトップ-エミッション型OLEDディスプレイが形成される。さらに、第1の電極層または第2の電極層は、従来技術でよく知られているように、デバイス内でカソードまたはアノードとして機能することができる。
【0021】
本発明では、行ドライバ4は、行電極アレイ中の1つ以上の行電極12から電流を受け取る設計にすることができる。本発明の特別な一実施態様では、行ドライバ4は電流シンクを利用することになるため、プログラム可能な量の電流を受け取ることができる。一般に、行ドライバは、ディジタルからアナログへの変換機能を提供し、ディスプレイ・ドライバ8からのディジタル信号をアナログ信号に変換して行電極に供給する。
【0022】
1つ以上の列ドライバ6が、列電極アレイの中の列電極10に電流を供給する。これら列ドライバ6は、時分割マルチプレクシングを利用して電流を供給し、パッシブ-マトリックス式ELディスプレイ2に含まれる各列電極10への全電荷を制御する。別の一実施態様では、列ドライバ6は、各列電極10への全電荷を変化させるため、プログラム可能な量の電流を供給するプログラム可能な電流源を備えることができる。一般に、列ドライバは、ディジタルからアナログへの変換機能も提供し、ディスプレイ・ドライバ8からのタイミング信号と制御信号をアナログ信号に変換して列電極に供給する。
【0023】
便宜上、行ドライバと列ドライバという表記を選択してあることに注意されたい。しかし当業者であれば、機能を交換し、ディスプレイ内の鉛直な列に付随するドライバが行ドライバの機能を提供するようにできることがわかるであろう。しかし一般に、行ドライバは、行ドライバと列ドライバのうちで抵抗率がより小さい電極に取り付けられる。この電極は、一般に、反射性の金属または合金から形成されるが、任意の導電性材料から形成することができる。列ドライバは、一般に、ある程度の透明さを持つ電極(例えばインジウム-スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、非常に薄い金属層(反射性の金属または合金で形成される電極よりも抵抗率が一般に大きい))に取り付けられる。列ドライバと行ドライバの両方の機能を統合して単一のデバイスにすること、または列ドライバと行ドライバの両方の機能を多数のデバイスで共有することが可能であることにも注意されたい。
【0024】
それに加え、パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システムは、入力画像信号16(図1に図示)を受け取って処理して駆動信号18、20(図1に図示)をそれぞれ行ドライバ4と列ドライバ6に供給するためのディスプレイ・ドライバ8(図1に図示)を備えている。本発明では、ディスプレイ・ドライバ8は、複数の画像フィールドを表示しているときに1つ以上の列ドライバ6によって供給されることになる電荷に対応する信号をその列ドライバ6に供給するが、それに加えて1つ以上の行ドライバ4に信号を供給してもよい。特に、ディスプレイ・ドライバ8は図3に示したステップを実行する。この図からわかるように、これらステップの中には、入力画像信号16を受け取るステップ70が含まれている。この画像信号に基づき、少なくとも第1の画像フィールドと第2の画像フィールドのための列駆動信号または行駆動信号を決定する72。次にプロセッサが、パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ2の少なくとも1つの列に含まれる画素の全容量性電荷の変化と相関する値を計算する74。するとディスプレイ・ドライバは、ディスプレイ装置の1つの列の全容量性電荷を補償するのに必要な電荷の変化を補償するため、この計算値に基づき、第1の画像フィールドまたは第2の画像フィールドにおいて列駆動信号と行駆動信号の少なくとも1つを調節する76。最後に、ディスプレイ・ドライバ8は、調節された列駆動信号を各画像フィールドにおいて各画素の列ドライバに供給する78。
【0025】
図3のステップを実行するのに役立つディスプレイ・ドライバ8の概略図を図1Bに示す。図3の方法は、単一ライン・アドレシングまたはマルチライン・アドレシングを利用したパッシブ-マトリックス式ドライバに適用できるが、マルチライン・アドレシングを利用したドライバにおいて特に有利である可能性がある。したがって図1Bに示したディスプレイ・ドライバは、マルチライン・アドレシングにとって有用な一実施態様、その中でも特に、同時係属中の2007年4月20日に出願されたMichael E. Millerらの「パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム」という名称のアメリカ合衆国特許出願第11/737,786号(参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)に記載されているマルチライン・アドレシングを利用する際に有用な一実施態様を示している。
【0026】
ディスプレイ・ドライバ8として、図3に示したステップを実行できる任意のディジタル・デバイスまたはアナログ・デバイスが可能である。このディスプレイ・ドライバ8は、より高レベルのプロセッサに組み込むことができる。例えば携帯電話またはディジタル・カメラの主要な信号プロセッサの中に組み込むことができる。あるいはディスプレイ・ドライバ8として、独立型デバイス(例えば独立型ディジタル信号処理ASICまたはフィールドをプログラムできるゲート・アレイ)も可能である。図1Bに示してあるように、ディスプレイ・ドライバ8は、入力画像信号を受け取って入力バッファ40に入れる。望ましい一実施態様では、ディスプレイ・ドライバ8に入力バッファが含まれる。この入力バッファはいくつかの実施態様(例えば一度に1つのラインにアドレスする実施態様)では必要でないが、多くの望ましい実施態様では有用であろう。このメモリは十分な量のデータのバッファとなるため、入力画像信号をいくらか前処理することができる。例えばプレシャープ化ユニット42を用いていくらか前処理を行なうことができる。望ましい一実施態様では、このプレシャープ化ユニット42は、多数の行にまたがって入力データをあらかじめシャープにすることができる。プレシャープ化ユニット42は、このデータを複数の行にまたがってシャープにする。このプロセスによって1つの行のデータが一度に出力される。その行のデータは、1つの画像フィールドを供給するのに必要なデータを表わしている。このプレシャープ化ユニット42も本発明では必要でないが、特別な一実施態様において有用である。次にデータが列駆動信号決定ユニット44によって処理される。このユニットは、追加の操作(例えば各入力データ値のための列駆動信号を決定するのに必要なガンマ変更操作や、他の色調操作、色操作)を実行する。このデータは容量性電荷計算ユニット46と調節ユニットに供給される。
【0027】
このステップが実行されると、容量性電荷計算ユニット46が必要な計算を実行し、第1の画像フィールドのデータを表わす第1行のデータを表示する容量性電荷を決定する。この容量性電荷計算ユニット46は、次に、第2の画像フィールドのデータを表わす第2行のデータを受け取って同じ計算を実行し、1つ以上の発光素子列のキャパシタを充電するのに必要な電荷を決定する。最後に、このユニット46は差演算を実施し、表示が第1の画像フィールドのデータと第2の画像フィールドのデータの間で移り変わるときにディスプレイの各列に起こる全容量性電荷の変化を明らかにする。全容量性電荷のこの変化は次に調節ユニット48に伝えられる。容量性電荷計算ユニット46は、この操作を実行するため、ディスプレイに関するいくつかの情報(例えばディスプレイの発光ダイオードの電流と電圧の間の変換を表わす曲線、各発光素子の有効キャパシタ、ディスプレイのアクティブでない発光素子にかかる電圧を評価するための駆動スキームに関する十分な情報)を必要とすることに注意されたい。この情報は、ディスプレイ・ドライバ8の中にあるプログラム可能なメモリ54、またはディスプレイ・ドライバ8がアクセスできるプログラム可能なメモリ54に記憶させることができる。
【0028】
次に、調節ユニット48は、容量性電荷の変化を利用して列ドライバを調節する。輝度のエラーは、ディスプレイがフレームからフレームに切り換わるときにディスプレイに供給される電荷の一部がキャパシタによって消費される場合やキャパシタから放電される場合に起こる可能性があるが、その輝度のエラーがこのようにして回避される。得られる調節された列駆動信号は、次いで出力バッファ50に書き込まれる。この出力バッファは、画像フィールドのデータを十分に記憶できるため、1つのフレーム全体のデータが出力される。このバッファによってディスプレイ・ドライバ8からの出力周波数よりも低い周波数の入力画像信号を利用できるようになるため、ディスプレイ・ドライバは、フリッカーのない表示を可能にする十分に大きなクロック速度で出力信号20を供給することができる。次に、データ選択器52がタイミング発生器56から発生する信号に応答して出力バッファ50からのデータにアクセスし、そのデータを列ドライバ6に供給する。行駆動信号発生器58が同期信号18を行ドライバ4に供給する。出力バッファ50とデータ選択器52が一般に必要とされるが、これらは物理的にディスプレイ・ドライバまたは列ドライバ6の中に存在できることに注意されたい。
【0029】
列駆動信号20と、各列内の全容量性電荷を変化させるために列電極10に供給される信号とを調節することにより、これら容量性電荷の値の変化に起因するエラーなしにパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ2を駆動することができる。このようにできるため、各画像フィールドを提示する間の時間にディスプレイのキャパシタをあらかじめ充電したり放電したりする必要がなくなる。ディスプレイの駆動法がこのように変化することには多くのプラスの効果がある。第1に、各画像フィールドの後にキャパシタを充電・放電する必要がなくなるため、このパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイのキャパシタンスに打ち勝つのに必要な電力の大半が不要になる。第2に、この充電と放電の電力が供給されないため、この充電と放電の電力を供給している間に一般に起こる抵抗性損失がなくなり、ディスプレイが消費する電力も減少する。最後に、ディスプレイを光らせるための駆動信号は、今や画像フィールド時間全体にわたって供給することができる。なぜならディスプレイをあらかじめ充電するためと放電させるために画像フィールド時間の一部を確保する必要がもはやなくなるからである。すると電極と画素を通じて供給せねばならないピーク電流が低下する。その結果、この時間全体で起こる抵抗性損失が低下し、ピーク電流の低下によって薄膜エレクトロルミネッセンス層36の寿命が一般に改善される。
【0030】
本発明では、“画像フィールド”と“フレーム”という用語を定義することが重要である。本発明の文脈では、画像フィールドは、パッシブ-マトリックス式ELディスプレイ2のための単一の発光イベントを意味する。すなわち、1つ以上の発光素子が同時に光るときはいつでも、1つの画像フィールドが表示される。そして1つ以上の異なる発光素子が光るときにはいつでも、第2の画像フィールドが表示される。一般に、1つの画像フィールドと第2の画像フィールドの間を移り変わる間に1つ以上の発光素子行がオフにされ、1つ以上の発光素子列がオンにされる。次に、フレームは、1つの画像をディスプレイに描くために表示される一群の発光イベントまたは画像フィールドを意味する。本発明では、ディスプレイは、一般に、ディスプレイの行と同数の多数の画像フィールドを表示して1つのフレームを形成する。次に、画像フィールド時間は、1つのフレームを表示する時間を画像フィールドの数で割ったものを意味する。この定義により、画像フィールド時間には、画像フィールド間を移り変わる時間が含まれることに注意されたい。従来のパッシブ-マトリックス式ELディスプレイでは、画像フィールド時間に、一般に、ディスプレイのキャパシタをあらかじめ充電するための期間と、ディスプレイを光らせるための期間と、ディスプレイのキャパシタを放電するための期間とが含まれるが、本発明の少なくともいくつかの実施態様では、あらかじめ充電する期間と放電させる期間は必要でない。
【0031】
本発明を理解するには、パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの基本的な電気部品を理解することが重要である。関係する電気部品の回路図を図4に示してある。この図には、ディスプレイ2が、付随する行ドライバ4と列ドライバ6とともに示されている。このディスプレイは、複数の画素80からなるアレイを備えている。これらの画素は、それぞれ、行電極12と列電極10の交点によって規定される。図4の行電極はR1〜RNで表わし、列電極はC1〜CNで表わしてある。これら行電極のそれぞれは、直列に配置された多数の抵抗器82として電気的にモデル化することができる。その場合、直列な抵抗器のそれぞれは、画素80内の電極の一部と、行ドライバ4から各行の第1の画素に延びる抵抗性リード線84である。同様に、列電極は、直列に配置された多数の抵抗器86と、列ドライバ6からパネルの縁部まで延びる抵抗性リード線88としてモデル化することができる。各画素はさらに、互いに並列に接続されたキャパシタ90とダイオード92を備えている。これら2つの部品は、各発光素子の電気的挙動の目安となる。キャパシタは、行電極と列電極の間に作り出される有効キャパシタを表わし、ダイオードは、発光ダイオードの電気的特性を表わす。
【0032】
このようなデバイスでは、発光ダイオードは、一般に、図5に示した電圧と電流の関係を示す。曲線94は、このデバイスにかかる電圧の関数としての電流を示している。このデバイスには一般に閾値電圧96があり、この閾値よりも下では発光ダイオードを通って電流がほとんど流れないかまったく流れず、この閾値よりも上では流れる電流の割合が電圧の増加に伴って増加することに注意されたい。この曲線94は、冪関数または指数関数を用いて表現できることがしばしばある。このようなダイオードを流れる電流とダイオードの輝度出力の間には一般に関係があることを理解することも重要である。一般に、この関係は、一次関数を用いて記述することができる。
【0033】
本発明のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイでは、入力画像信号16にコード値が含まれることがしばしばあることに注意されたい。それは、相対輝度値が表示されることを意味する。ディスプレイの望むピーク輝度と、ディスプレイの駆動に用いる駆動法に関する情報とがわかると、各画素80のコード値から、ピーク表示輝度に対するそのコード値の比を計算した後、得られた値に、任意の画素から予想される輝度の割合をその画素がアクティブになる時間の割合で割った値を掛けることにより、望む輝度を計算することができる。多数の行を駆動するスキームで典型的なように画素が多数の画像フィールドに関してオンである場合には、この値の中にこの因子をさらに取り込むことができ、その多数の行の時間にわたる輝度が付加される。この望ましい輝度がわかると、輝度と電流の関係を利用して望む電流を計算することができる。最後に、望む電流がわかると、これらの量を関係付ける曲線94に合致する関数を利用し、任意のアクティブな発光素子にかかる望ましい電圧を計算することができる。各画素に関する駆動電圧とキャパシタ90のキャパシタンスとに基づき、望む駆動電圧を実現できるようにするためにキャパシタを充電するのに必要な全電荷を計算することができる。その際、全電荷はキャパシタンスの半分と電圧の二乗の積に等しいという関係を利用する。したがって、どの期間であれ、アクティブな画素のキャパシタを充電するのに必要な電荷を計算することが可能である。しかしアクティブでない画素のキャパシタを充電するのに必要な全電荷を計算する必要もある。行電圧の値がわかると、アクティブな画素それぞれの位置の列電圧を計算することが可能になる。この電圧の一部が各画素(アクティブな画素またはアクティブでない画素)の抵抗で失われることが考えられるため、この計算を実行するにはこの抵抗性損失を考慮する必要がある。アクティブな画素を流れる電流がわかると、抵抗に起因する電圧損失を計算することができる。そのためには、電圧低下がディスプレイのどの画素でも行抵抗器82または列抵抗器86の抵抗に等しいと推定し、行電極と列電極のそれぞれでの電圧値を独立に計算することを認め、オフの画素に関する電圧値を用意してディスプレイ2の各キャパシタ90の充電に必要な全電荷を計算できるようにする。本発明では、全電荷が各列内のすべての画素について計算される74。次に、画像フィールドごとの全電荷の変化を利用して容量性電荷の変化を調節する76。
【0034】
ディスプレイ2の画素のキャパシタンスに打ち勝つのに必要な全電荷を増大させるために駆動信号を調節するのは比較的簡単であり、列ドライバによって供給される電圧または電流を大きくすればよい。これを実現するには、すでに説明したように容量性電荷計算ユニット46で第1の画像フィールドと第2の画像フィールドの間の容量性電荷の変化を各列について明らかにする。次いで調節ユニット48が、第2の画像フィールドの間に列ドライバ6によって供給される全電荷を容量性電荷の変化に打ち勝つのに必要な量だけ増加させるのに列駆動信号をどれだけ変化させる必要があるかを計算する。調節ユニット48は、次いで列駆動信号をこの量だけ増加させる。一般に、これは、あとに続く各画像フィールドごとに、パッシブ-マトリックス式ディスプレイの各列で独立に実行される。
【0035】
この全電荷の減少を調節する方法というのは、より間接的である。この問題を理解するため、図4のディスプレイ2の1つの列の画素を、第1の画像フィールドにおいて高輝度画素を用意している状態から、第2の画像フィールドでは完全に黒い画像フィールドを用意する状態に切り換えると仮定する。この条件下では、第1の画像フィールドの間を通じ、高輝度画素のための電圧は、オフである画素のための電圧よりも高い。しかし表示が完全に黒い状態へと移行すると、従来のディスプレイのキャパシタに蓄えられる全電荷は、必要な量よりも多くなる。このキャパシタを放電させるため、電流が、第2の画像フィールド時間において選択された任意の画素行を、たとえこれらの画素が光を出さないことが想定されていても流れる。輝度は電流に正比例するため、輝度がゼロであるはずのこの画素は、測定可能かつ観測可能な輝度を持つため、イメージング・アーチファクトが発生する。
【0036】
この問題は本発明において解決できる。なぜなら、第1の画像フィールドが表示される前に、過剰な電荷が次のフレームのために存在することを確認し、第1の画像フィールドを駆動する挙動を変更してこの過剰な容量性電荷を調節できるからである。2つの画像フィールドにおいてアクティブな画素を通過する電流は、従来技術の一実施態様と、このように変更された駆動の挙動の一実施態様に関して示すと、図6のようになる。この図は、電流の振幅を時間の関数として示してあることに注意されたい。第1の画像フィールドが終わる時刻100が示されている。この時刻に行駆動信号が変化し、異なる1つの行電極または行電極群をアクティブにする。第2の画像フィールドが終わる時刻102も示してある。従来の駆動法を利用すると、アクティブな駆動信号が列ドライバによって供給され、第1の画像フィールドの間を通じ、所定の振幅104の電流が1つの行電極に沿って第1の画素を流れる。したがってこの画素は、曲線106によって示されるように、その画像フィールド時間全体にわたって同じ電流振幅104を受け取る。画像フィールド時間が終わる時刻102には、列ドライバが電流の供給を停止させ、行ドライバが、第1の画像フィールド時間を通じて光っていた画素の行電極をアクティブでない状態にする。従来の行ドライバは、次の行電極もアクティブにする可能性があろう。このシナリオでは、第1の画像フィールド時間を通じてアクティブであった画素は高電圧であるため、光を発生させることができる。しかし各画素内のダイオードとキャパシタは並列であるため、キャパシタに高電圧がかかるはずであり、ダイオードに高電圧が発生する。したがって画素は容量性電荷を持つことになる。次の画像フィールドにおいて次の行電極が選択されると、この容量性電荷は、隣の画素を通じて散逸される。たとえこの隣の画素が、光を発生させないことを示すゼロというコード値を持つことができる場合でも、そうなる。しかしこの電荷が隣の画素を通じて散逸されるとき、電流が流れて光が発生し、イメージング・アーチファクトが発生する。それが理由で従来のパッシブ-マトリックス式ELディスプレイは、それぞれの画像フィールドの終わりにパネル全体で各キャパシタの電荷を放電することでこのアーチファクトを回避し、あとに続く画像フィールドにおいてキャパシタを再充電する。このようにするとアーチファクトが有効に回避されるが、各画素のキャパシタンスに比例した量の電力が浪費される。
【0037】
これを適切に調節するため、第1の画像フィールド時間において光る画素に第2の振幅の電流108を供給する。列ドライバは時刻110までこの同じ電流を供給する。この時間は画像フィールド時間全体よりも短く、画素を流れる電流は関係112に従うことになる。列ドライバは画像フィールド時間の一部の時間しか能動的に電流を供給せず、第1の画像フィールドにおいて選択されている1つの行電極または行電極群は、その画像フィールドに等しいより長い時間100にわたってアクティブであるため、画素の容量性電荷はこの画素を通って放電されて光を出せることに注意されたい。理想的には、能動駆動サイクルの間に第1の画像フィールドの間を通じて供給される電流は、容量性電荷の変化に比例して低下する。その結果、第1の画像フィールドにおける発光素子の全光出力は望む光出力と等しくなり、キャパシタは、次の画像フィールドが表示される前に完全に放電されるため、アーチファクトが回避される。実際、能動的な駆動が除去された時刻110の後に表われる電流の指数関数的減衰は、画素のキャパシタが放電されるときに起こる。実際には、全電荷の少なくとも一部が望む発光素子から散逸されてその駆動レベルが調節されることで、追加の輝度が説明されるため、パッシブ-マトリックス式ELディスプレイのキャパシタを能動的に放電・充電することなくあらゆるイメージング・アーチファクトが減少する。
【0038】
このシナリオでは、容量性電荷を減少させるときにディスプレイの電荷を望む画素を通じて散逸させることができるようにディスプレイが駆動される。このような方法を用いると、表示が画像に依存した挙動を示す。この挙動を理解するため、2つの異なる画像パターンの表示を仮定する。第1の画像パターンでは、白い線が第1の画像フィールドと第2の画像フィールドの両方に表示される。第2の画像パターンでは、白い線が第1の画像フィールドに表示された後、黒い線が第2の画像フィールドに表示される。第1の例では、第2の画像フィールドが始まる前に各画素内の有効キャパシタの容量性電荷を放電する必要がないことに注意されたい。したがって電流は、画像フィールド時間全体でピーク値に維持され、その結果としてこの第1の画像フィールドの間を通じて第1の全電荷になる。しかし白い線が第1の画像フィールドに表示された後、黒い線が第2の画像フィールドに表示されるときには、少なくともいくつかの画素内の有効キャパシタの容量性電荷は、黒い線が表示される前に放電される必要がある。したがって電流は、画像フィールド時間が終わる前に減少させることができ、第1の画像フィールドにおいて第2の画像パターンを表示するときに列ドライバによって供給される全電荷は、第1の画像フィールドにおいて第1の画像パターンを表示するときに列ドライバによって供給される全電荷よりも少なくなる。
【0039】
これまでの議論からわかるように、パッシブ-マトリックス式ELディスプレイ2内で容量性電荷を打ち消すことができるため、問題のあるイメージング・アーチファクトを生じさせることなくこのディスプレイを駆動する方法を大きく変えることが可能になる。図7Aは、Everittが「あらかじめ充電するためのマトリックス素子電圧感知」という名称のアメリカ合衆国特許第6,594,606号で議論している従来のタイミング図である。このタイミング図は、図7Bと比較対比することができる。図7Bは、連続した2つの期間において1つの列電極と2つの行電極を駆動するタイミング図を示しており、本発明の一実施態様を実施する上で有用なものである。図7Aを見ると、それぞれの画像フィールド120、122は3つの期間124、126、128に分割されていることがわかる。これらの期間は、ディスプレイ2のキャパシタをあらかじめ充電するための期間124と、発光のための期間126と、ディスプレイのキャパシタを放電する期間128を与える。これらのタイミング図では、行電極を低い電圧にすると十分に大きな電位が行電極と列電極の間に発生して画素の閾値電圧に打ち勝つため、電流がこの画素を流れることができて光が発生することに注意されたい。したがって発光期間126は、一般に、画素が列電極と行電極の間に電流を流すことのできる時間として定義される。この実施態様では、電流は、一般に、充電期間124と発光期間126において列ドライバからパッシブ-マトリックス式ELディスプレイを通って流れ、放電期間128の間にこのディスプレイから出てドライバに入る。放電サイクルの間に散逸される電力は、一般に、光を発生させない。同じことが、電流がパッシブ-マトリックス式ELディスプレイに出入りするときに行電極と列電極の抵抗へと散逸される電力にも当てはまる。したがってこうした損失によってディスプレイ装置の電力効率が低下する。
【0040】
図7Aのタイミング図は、図7Bに示したタイミング図と対比させることができる。図7Bは、行ドライバと列ドライバのためのタイミング図であり、ここでは列ドライバは、一定電流駆動法を利用している。図7Bからわかるように、1つの行電極が全時間にわたってアクティブにされるため、画像フィールド時間120と122の全体にわたって光を発生させることができ、その結果として画像フィールド時間全体を通じて電流が画素を流れることが可能である。ドライバは一定電流駆動法を利用しているため、電圧は、ディスプレイのキャパシタが充電されるまで、駆動期間を通じて一般に直線的に増加し、充電されたとき、電圧は一般に平坦な状態に留まる。ディスプレイの容量性電荷は第1の画像フィールドの終わりに低下して次の画像フィールド時間が準備されるため、供給される電圧は一般に指数関数的に減少し、その画像フィールド時間の終わり近くに目的とする電圧に近づくことに注意されたい。また、列電極に供給される電圧は2つの画像フィールドの間に必ずしも基準値に戻らなくてもよいため、ディスプレイのキャパシタが画像フィールド時間120の終わりに完全に放電されている必要がないことにも注意されたい。例えば第1の画像フィールド120の始まりには、列電極130の電圧は基準電圧132よりも大きい値を示す。本発明のシステムは画像フィールド時間全体にわたって光を発生させるため、ディスプレイ装置を駆動して望む量の光を発生させるのに必要な電流は著しく少なくなるであろう。すると行電極と列電極の抵抗で失われる電力は、電流の二乗の関数であるために著しく少なくなるであろう。さらに、ディスプレイの容量性電荷は列電極を通じてグラウンドに放電されず、すべてディスプレイの画素を流れるため、ディスプレイに供給される電力のより多くの割合が発光に使われる。
【0041】
ここに説明した方法により、列の容量性電荷が画像フィールド間で増加するか減少するかに関係なく、あらゆるイメージング・アーチファクトを回避して駆動値を行電極と列電極に供給することが可能になる。この方法では、時間変調された駆動信号のいくつかのビットを、画像フィールド時間が終わる前に列ドライバからの電流を減少させる、または停止させるのに確保できることに注意されたい。別の望ましい一実施態様では、1つ以上の列ドライバが電流の振幅変調を行なえるように設計できる。しかしこれらドライバは、画像フィールド時間の途中で電流を減少させる、または停止させる能力も持つことができる。ここでも、信号は、電流を供給している時間を通知するのに使用できる2つのビットを確保することができる。
【0042】
2つの連続した画像フィールドの間でさえコントラストのいかなる損失もないようにするため最初の画像フィールドで駆動を調節する必要のある例が、比較的少ない頻度で発生する。このようなディスプレイは、大きな容量性電荷を有する第1の画像フィールドと小さな容量性電荷を有する第2の画像フィールドの間を確かにしばしば移り変わるとはいえ、第2の画像フィールドへの電荷を減らし、2つの連続した画像フィールドの間の容量性電荷のこの減少を少なくとも部分的に補正できることがしばしばある。多くの状況において、このような調節により、あとに続く画像フィールドにおいてディスプレイのキャパシタを充電・放電する必要性を回避しつつ、許容可能な画像品質が得られる。
【0043】
別の望ましい一実施態様では、列ドライバは、ディスプレイ・パネルの容量性電荷の少なくとも一部を放電するための放電回路をさらに備えることができる。例えば最大電圧を画素の閾値電圧などの電圧まで小さくする回路を設計することができる。パネルを放電する必要がある期間中はこの回路がアクティブにされてクロストークを阻止するのに役立つ。望ましい一実施態様では、一般に前段落に記載した方法を利用して連続した2つの画像フィールドの間に容量性電荷を減らすが、そのような方法で許容できないレベルのイメージング・アーチファクトが生じるときにはいつでも放電回路をアクティブにすることができる。
【0044】
上記の1つ以上の列ドライバは、各画素に供給される電荷を変更するプログラム可能な電流またはプログラム可能な期間を提供することができる。しかし本発明の望ましい一実施態様では、1つ以上の列ドライバ6は、各列のために時間変調された電流源を提供することができる。そのような時間変調された電流源は、従来技術でよく知られている電流ミラーを用いて構成することができ、従来の各列電極10に供給される電流を正確に制御することができる。このような電流源により、プログラム可能な長さの時間にわたって固定された電流をパッシブ-マトリックス式ELディスプレイ2の各列電極に供給することが可能になる。その場合、各画素の輝度出力は、その画素がアクティブである時間に比例する。異なる色の光を出す画素に供給できる電流の量を変え、色の異なるこれら画素の効率やそれ以外の電気的性質の違いを補償することができる。
【0045】
行ドライバは、切り換えられた電圧、プログラム可能な電圧、プログラム可能な電流シンクのいずれかを提供することができる。しかし望ましい一実施態様では、1つ以上の行ドライバ4は、多数の行電極のためのプログラム可能な電流シンクを備えており、多数のアクティブな画素行を通って流れる電流を制御するのにこの電流シンクが用いられる。これら1つ以上の行ドライバ4は基準電圧信号をさらに提供しており、行ドライバを切り換えることで、基準電圧をアクティブでない画素行の行電極に供給することができる。この行ドライバを用いると、行電極を行シンクまたは基準電圧信号に接続することにより、ディスプレイの画素行の中からアクティブな画素行を選択することができる。基準電圧信号は、列ドライバによって供給される電圧とは関係なく、EL発光素子の閾値電圧よりも低い電圧を提供するように選択される。アクティブな行をプログラム可能にすることで、異なる量の電流が異なる行電極を流れられるようにすることができる。
【0046】
図1Aに示した部品を有するディスプレイ・ドライバ8を利用すると、これら行ドライバと列ドライバを用いてパッシブ-マトリックス式ELディスプレイの多数の行を駆動することができる。この実施態様では、行電極は、合計で15個の電極が図1に示したように行電極群24、26を形成するように駆動され、同時にアクティブにされる。行電極はさらに、各行電極が受け取る電流が表1に示した割合で分配されるように駆動される。表1には少なくとも2つの異なる駆動レベルが提示されていることに注意されたい。実際には合計で8つの駆動レベルが示されている。さらに、駆動レベルは、中央の行の近くでピークを持ち、ピークのいずれかの側ではより小さなゼロでない値を持つように分配される。すなわち中央の行電極(すなわち行電極8)に相対的にピークとなる駆動値が供給され、それよりも小さな駆動値が、このピークの両側の行電極に供給される。しかしこの関数は、中央の電極からの距離が大きくなるにつれて単調に減少するわけではないことにも注意されたい。特に、行電極4と12の駆動値は、行電極6と10の駆動値よりも小さいが、行電極5と11の駆動値よりも大きいことに注意されたい。すなわちこの行電極群の中の行電極については、中央の電極からの距離が大きくなるにつれて電極の駆動値は減少し、行電極4と12で増加して第2の極大になり、次いで減少する。行電極がこのようにして駆動され、ディスプレイで行電極のこのような分布が走査されるとき、このディスプレイ・システムは、図8に示したような鉛直方向の固有変調伝達関数140を持つことになろう。この関数を解釈するには、この変調伝達関数のいくつかの性質を説明する必要がある。
【0047】
【表1】

【0048】
第1に、完全なディスプレイであれば、変調伝達関数は、周波数軸144上の0〜0.5サイクル/サンプルにおいて変調軸142上に1の値を持ち、正確に0.5サイク/サンプルではゼロであることを理解する必要がある。さらに、変調伝達関数が0.5サイクル/サンプルよりも小さな任意の値で周波数軸を横切る場合には、画像中の空間情報が失われて回復することは不可能である。しかし変調が小さい場合には、ビット深度にいくらかの消失が起こりうるとしても、この消失はプレシャープ化を利用して補償することができる。完全なディスプレイの変調伝達関数は0〜0.5サイクル/サンプルにおいて変調軸142上に1の値を持つが、実際のどのシステムでもこの理想的な目標が達成されることはなく、周波数軸144上で0.5よりもいくらか小さい値において変調軸142上に1よりも著しく小さい値を持つシステムで十分な画像品質を実現できることを認識しておくことも重要である。
【0049】
このシステムの固有変調伝達関数140を図8に示す。本発明のこの実施態様では、変調伝達関数140は周波数軸144を約0.5サイクル/サンプルで横切っており、0.5サイクル/サンプルよりも小さいすべての周波数で正値である。したがってプレシャープ化を利用し、ディスプレイが提示できるあらゆる空間周波数で画像の変調を回復することができる。本発明では、このプレシャープ化は、例えば4、-5、-8、4、-4、-19、-18、220、-18、-19、-4、4、-8、-5、4という値を持つ鉛直方向プレシャープ化カーネルを適用した後、得られた値を128で割って結果を規格化することによって達成される。図9は、このプレシャープ化カーネル148の空間周波数応答を示している。このプレシャープ化カーネルは、このシステムの固有変調伝達関数140が1よりも著しく小さい鉛直方向のあらゆる空間周波数で1よりも著しく大きい変調値を提供するため、本発明に従って多数の行電極を駆動することで、減衰するあらゆる空間周波数において、変調の消失が少なくとも部分的に補償されることに注意されたい。このプレシャープ化カーネルを適用した後のシステムの最終的な変調伝達関数146は、このシステムの固有変調伝達関数140が1よりも小さいすべての空間周波数に関し、このシステムの固有変調伝達関数140よりも変調が大きくなる。本発明の発明者が行なったシミュレーションから、得られたこの変調伝達関数を有する画像は十分に許容可能であり、一度に1つのラインを駆動する方法を利用して表示した画像と比べて視覚的な損失のないことがしばしばあることがわかった。
【0050】
表1に示した行駆動値について再び議論することには価値がある。すでに指摘したように、これら行駆動値は単調には減少せず、谷を有する。行駆動値にこの谷が存在する結果として、空間周波数が約0.1〜0.2サイクル/サンプルのところでシステムの変調伝達関数140が平坦化し、この空間周波数の範囲にプラトーが作り出される。このプラトーが存在しているため、利得の値が比較的小さなプレシャープ化カーネルを適用することでこの中間周波数(すなわち0.1〜0.2サンプル/1サイクル)において変調軸142の上に値を得ることができる。このプレシャープ化カーネルの最大利得値はわずかに2.26であることが重要であり、この値は、行駆動値が行電極の中心から単調に低下していればはるかに大きかったであろう。
【0051】
このようにして多数の画素行を駆動することにより、ディスプレイのどの画素であれ駆動に必要なピーク電流が、従来の一度に1本のラインというシステムのピーク値の50%に低下する。この事実により、EL材料の寿命を延ばすことができる。従来の一度に1本のラインという駆動法を利用していたとすれば必要となったピーク電流の50%にピーク電流を減らすことにより、最大電流密度も50%低下し、一般に寿命が4倍程度またはそれ以上に延長する。
【0052】
輝度はELディスプレイ・システム内の電流と線形関係にある。これは、従来の解決法と比べたとき、本発明のディスプレイ・システムの輝度を維持するのに同じ時間平均電流をディスプレイ・システムに供給せねばならないことを意味する。しかしより小さなピーク電流を用いると、この輝度を発生させるのに必要な電圧が低下する。ピーク駆動電流を小さくすることによって駆動電圧が低下する。電力は電流×電流によって計算されるため、ディスプレイで光を発生させるのに消費される電力は、ディスプレイのピーク電力の関数として減少する。
【0053】
第3に、一度に1本のラインにアドレスする従来のパッシブ-マトリックス・ディスプレイ・システムでは、行電極は一般に大きな抵抗率を持ち、行電流は数百ミリアンペアの程度になる可能性がある。この値は、より大きなディスプレイでは数アンペアになる。したがって行電極に沿ったI2R損失に起因する電力損失が大きくなる可能性がある。この電流をいくつかの行電極に分配することにより、任意の1つの行電極上の電流が著しく低下し、したがってI2R損失に起因する電力損失が著しく小さくなり、ディスプレイの電力消費がさらに低下する。
【0054】
この例では、合計で15行を同時に駆動したことに注意されたい。一般に、この方法を利用して同時に駆動する行の数は5つ以上だが、この方法は、同時に3行という少ない駆動に適用することができる。同時に駆動される行電極群の中の中央の電極の駆動レベルは、その行電極群の中の他の任意の行電極よりも高いことにも注意されたい。中央の2つ以上の電極がすべて同じ駆動値を持つようにしてこの方法を利用できるが、この方法では、中央から最も遠くにあって中央の行電極の駆動値よりも駆動値が小さい行電極の駆動値が用いられることがしばしばある。さらに、行電極群に含まれる電極の駆動レベルは、一般に、その行電極群の中央の行電極からの距離が大きくなるにつれて低下する。駆動レベルのこの低下を単調にし、行電極の位置の関数としての電極駆動値の分布がガウス型関数で近似されるようにできる。中央の電極からの距離が大きくなるにつれて駆動値は一般に減少するという事実は重要な1つの属性である。なぜならこの属性がないと、システム140の固有空間周波数応答は、0.5サイクル/サンプル未満の空間周波数ではゼロになるため、許容可能な品質の画像を構成することが難しくなるからである。ガウス分布の周波数応答はガウス分布であることが重要であり、そのようなシステム変調伝達関数応答は、従来のプレシャープ化フィルタを用いて比較的正確に補償できる。しかし行電極群を駆動するためにこのガウス分布を中断して全体としてガウス型である関数のそれぞれの尾部に第2の極大を設けると、より有利なシステム変調伝達関数が得られる。この方法ではピーク電流の50%低下を達成できるが、同じ一般的な方法を適用してピーク電流のより大きな低下を実現することができる。それについては、同時係属中の2007年4月20日に出願されたMichael E. Millerらの「パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム」という名称のアメリカ合衆国特許出願第11/737,786号(参考としてこの明細書に組み込まれているものとする)に、より十分に記載されている。
【0055】
ディスプレイ・プロセッサ8があらかじめシャープにされた信号を発生させると、このディスプレイ・プロセッサは、列駆動信号を決定するとともに、行駆動信号を潜在的に決定することができる。このステップでは、いろいろな操作がある中で、入力画像信号を輝度に対して線形な色空間に変換するジガンマ操作や色マトリックス化操作などを実施することができる。
【0056】
上に議論した行ドライバと列ドライバの実施態様では、1つ以上の行ドライバ4に含まれる電流シンクをプログラムし、1つ以上の列ドライバ6によって出力される電流の和を表1に示した割合で受け取れるようにできることが重要である。行ドライバをプログラムして表1の電流の割合を制御することも可能である。そのためには、1つ以上の列ドライバ6によって出力される電流の和よりも少ない電流を受け取るように行ドライバをプログラムする。このような一実施態様では、列ドライバの最大値を決定することができ、その最大値がピークの白を形成するのに必要なよりも小さい場合には、行ドライバをプログラムし、列ドライバによって供給される電流の和のある割合を受け取るようにできる。この割合は、計算により、最大列駆動値と、ディスプレイのピークの白に必要な列駆動値の比に等しくすることがわかる。それと同時に、列ドライバのタイミングをこの比の逆数で規格化することができる。そのため最大コード値を持つ列は画像フィールド時間全体にわたって電流を受け取り、その画像フィールド時間の間を通じてすべての行電極と列電極に沿った電流を小さくし、そのことによってELディスプレイ内の抵抗性損失を減らす。したがって駆動値に対するこれらの調節値も計算することができ、そのそれぞれを容量性電荷計算ユニットで用いることができる。するとこのユニットは、すでに説明したように2つ以上の連続した画像フィールドのための容量性電荷を計算することができる。次に、容量性電荷のこの変化を補償するのに必要な全電荷の間の差を調節ユニット48に伝えることができる。この調節ユニットは列駆動信号も受け取る。するとこの調節ユニットは駆動信号を調節し、このデータを出力バッファに書き込む。列駆動信号決定ユニットは行駆動信号も形成することができ、その行駆動信号を行駆動信号発生器58に供給できることにも注意されたい。
【0057】
この処理が完了すると、ディスプレイ・ドライバ8は、調節された画像制御信号を列ドライバ6に提供せねばならない。すると列ドライバ6は制御信号を列電極10に供給する。一実施態様では、この調節された画像制御信号は、ディスプレイ・ドライバ8の中にある出力バッファ50に書き込まれる。データ選択器52が出力バッファ50からのデータを選択し、1つ以上の列ドライバ6に供給する。それと同時に、行駆動信号発生器が、選択される行と、その行が受け取るべき電流の量を示す信号を1つ以上の行ドライバ4に供給する。列ドライバによって供給される電流の量は時間とともに変化することと、列が1つの画像フィールドの間を通じてディスエイブルにされるときに行ドライバのプログラム可能な電流シンクを調節せねばならないことが理由で、行ドライバと列ドライバがいくつかの別の信号を共有することも望ましかろう。
【0058】
信号をディスプレイ・ドライバ8から行ドライバと列ドライバに供給するこの最後のステップにおいて、あとに続く各画像フィールドは、重なった複数の行電極群、または重なっていない複数の行電極群で構成することができる。しかし容量性電荷の変化を小さくするには、これら行電極群の間ができるだけ互いに重なっているようにすることが望ましい。したがって第1の発光素子行のグループが第1の画像フィールド時間の間を通じて同時に制御され、第2の発光素子行のグループが第2の画像フィールド時間の間を通じて同時に制御される。第1の発光素子行のグループを第2の発光素子行のグループと1つの発光素子行を除いて重ねることで、第1の画像フィールド時間と第2の画像フィールド時間の間にディスプレイ装置内のあらゆる発光素子の全容量性電荷の変化を小さくする。
【0059】
たいていのディスプレイでは、他の画像処理も実行せねばならないことに注意されたい。例えばアメリカ合衆国特許出願第10/320,195号に記載されているRGBW発光素子のアレイを用いたディスプレイでは、RGB入力画像信号を受け取り、目標とするディスプレイの輝度にするためそのRGB入力画像信号を線形化し、その線形化されたRGB入力画像信号を線形化されたRGBW入力画像信号にする必要があろう。一般に、そのような画像処理が実行された後に図3に示した方法が利用される。図3の方法は、線形化されたデータに関して実行できるが、大きなコード値の変化よりも小さなコード値の変化のほうが輝度のより小さな変化に対応している非線形なデータに関しても実行できるし、実行することが好ましいことがしばしばあろう。
【0060】
本発明のディスプレイ・システムは、ELディスプレイを備えている。このディスプレイとして、一対の電極の間でアドレス可能な素子群が二次元アレイを形成している任意のエレクトロルミネッセンス・ディスプレイが可能である。このデバイスは、純粋に有機小分子またはポリマー材料を用いたエレクトロルミネッセンス層36を含むことができる。そのような層の典型例として、1988年9月6日にTangらに付与されたアメリカ合衆国特許第4,769,292号と1991年10月29日にVanSlykeらに付与されたアメリカ合衆国特許第5,061,569号に記載されている有機正孔輸送層、有機発光層、有機電子輸送層などがある。あるいはエレクトロルミネッセンス層36は、有機材料と無機材料の組み合わせで形成することもできる。典型例として、有機正孔輸送層と有機電子輸送層に無機発光層を組み合わせたものがあり、その例は、2005年3月1日にBawendiらに付与されたアメリカ合衆国特許第6,861,155号に記載されている発光層である。あるいはエレクトロルミネッセンス層36は、完全に無機材料から形成することもできる。その例が、同時係属中の2005年9月14日に出願された「量子ドット発光層」という名称のアメリカ合衆国特許出願シリアル番号第11/226,622号に記載されている。
【0061】
ディスプレイでは、材料アレイから形成した行電極と列電極をさらに利用することができる。列電極と比べて一般に電流を同時に光るより多くの発光素子に運ぶ行電極は、金属で形成されるのが一般的である。一般に知られていて利用される金属電極として、銀とアルミニウムから形成される電極がある。電極がカソードとして機能するとき、これらの金属は仕事関数が小さい金属との合金にすること、または仕事関数が小さい電子注入層と組み合わせて使用することができる。行電極と列電極の少なくとも一方は、透明な材料か半透明な材料で形成せねばならない。適切な電極として、金属酸化物(例えばITO、IZO)、非常に薄い金属(例えば銀の薄い層)がある。これら電極の抵抗率を小さくするため、追加の不透明なバス・バーをこれらの電極と電気的に接触した状態で形成することができる。
【0062】
基板もほとんどあらゆる材料で形成することができる。透明な電極または半透明な電極を基板上に直接形成するときには、基板は透明な材料(例えばガラスまたは透明なプラスチック)で形成することが望ましい。そうでない場合には、基板は透明または不透明にすることができる。図示していないが、このようなディスプレイは、一般に、物理的衝撃、酸素、水分から保護するための追加の層を含むことになる。このタイプの保護を与える方法は従来技術でよく知られている。この明細書の図には物理的構造物(例えばパッシブ-マトリックス式OLEDディスプレイを製造している途中で一般に用いられて基板から最も遠い電極のパターニングを可能にする柱)も示していない。
【符号の説明】
【0063】
2 パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ
4 行ドライバ
6 列ドライバ
8 ディスプレイ・ドライバ
10 列電極
12 行電極
14 発光素子(画素)
16 入力画像信号
18 行ドライバ駆動信号
20 列ドライバ駆動信号
24 第1の行電極群
26 第2の行電極群
32 基板
34 第1の電極層
36 発光層
38 第2の電極層
40 入力バッファ
42 プレシャープ化ユニット
44 列駆動信号決定ユニット
46 容量性電荷計算ユニット
48 調節ユニット
50 出力バッファ
52 データ選択器
54 プログラム可能なメモリ
56 タイミング発生器
58 行駆動信号発生器
70 入力画像信号を受け取るステップ
72 列駆動信号を決定するステップ
74 値を計算するステップ
76 列駆動信号を調節するステップ
78 列駆動信号を供給するステップ
80 画素
82 行電極の抵抗
84 行リード線の抵抗
86 列電極の抵抗
88 列リード線の抵抗
90 キャパシタ
92 ダイオード
94 ダイオードの電圧と電流の関係を示す曲線
96 閾値電圧
100 第1の画像フィールド時間の終わり
102 第2の画像フィールド時間の終わり
104 電流の振幅
106 電流の振幅が一定の曲線
108 第2の電流振幅
110 第2の電流振幅が終わる時刻
112 第2の電流振幅に関する関係
120 第1の画像フィールド
122 第2の画像フィールド
124 あらかじめ充電する期間
126 発光する期間
128 放電させる期間
130 列電極の電圧
132 基準電圧
140 鉛直方向の固有変調伝達関数
142 変調軸
144 周波数軸
146 システムの最終的な鉛直方向の変調伝達関数
148 プレシャープ化カーネルの周波数応答

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の行と列にされた画素群を有するパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイを制御する方法であって、
a.入力画像信号を受信し;
b.少なくとも第1の画像フィールドと第2の画像フィールドのための駆動信号を決定し;
c.このパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの少なくとも1つの列について、第1の画像フィールドの表示と第2の画像フィールドの表示の間に起こる画素の全容量性電荷の変化と相関する値を計算し;
d.第1の画像フィールドまたは第2の画像フィールドにおいて上記駆動信号の少なくとも1つを調節して全容量性電荷の変化を補償し;
e.調節された上記駆動信号を各画素に供給する操作を含む方法。
【請求項2】
入力画像信号を受信し、その入力画像信号を処理し、その処理された画像をより少ない消費電力で表示するためのパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システムであって、
a.列電極アレイと、その列電極アレイに直角な方向の行電極アレイと、その列電極アレイと行電極アレイの間に配置された薄膜エレクトロルミネッセンス層とを備えていて、各行電極と各列電極の交点が、有効なキャパシタを有する個々の発光素子(画素)を形成しているパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイと;
b.上記行電極アレイ内の1つ以上の行電極から電流を受け取る1つ以上の行ドライバと;
c.上記列電極アレイ内の1つ以上の列電極に電流を供給することで、上記発光素子のキャパシタを充電するとともにその発光素子に駆動電流を供給する1つ以上の列ドライバと;
d.入力画像信号を受信し、その入力画像信号を処理し、複数の画像フィールドを表示しているときに1つ以上の列ドライバが供給することになる電荷に対応する信号をその列ドライバに供給するディスプレイ・ドライバとを備えていて、そのディスプレイ・ドライバが、
i.入力画像信号を受信し;
ii.少なくとも第1の画像フィールドと第2の画像フィールドのための列駆動信号を決定し;
iii.このパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイの少なくとも1つの列について、第1の画像フィールドの表示と第2の画像フィールドの表示の間に起こるキャパシタの容量性電荷の変化と相関する値を計算し;
iv.第1の画像フィールドまたは第2の画像フィールドにおいて上記列駆動信号の少なくとも1つを調節して全容量性電荷の変化を補償し;
v.調節された列駆動信号を各画素に供給する、パッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項3】
上記列ドライバが、あらかじめ充電する状態または放電させる状態を含まない駆動信号を供給する、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項4】
上記キャパシタのキャパシタンスが少なくとも50pF/mm2である、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項5】
上記キャパシタのキャパシタンスが少なくとも200pF/mm2である、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項6】
上記薄膜エレクトロルミネッセンス層の全厚さが5000オングストローム未満である、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項7】
上記薄膜エレクトロルミネッセンス層の誘電定数が2よりも大きい、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項8】
1つの画像フィールドを表示するため1つの列ドライバから供給される電荷が時分割マルチプレクシングを通じて制御される、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項9】
第1の画像フィールドと第2の画像フィールドの間にディスプレイの1つの列の容量性電荷の放電を補償するための電荷を少なくするため、第1の画像フィールドを表示しているときに全電流が供給される時間が短縮されている、請求項8に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項10】
上記行ドライバがプログラム可能な電流シンクを提供し、この電流シンクが、上記列ドライバによって提供される電流源を制御するようにプログラムされている、請求項8に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項11】
上記行ドライバの電流シンクが、上記列ドライバの電流を制限するようにプログラムされていて、上記1つ以上の列ドライバのうちの少なくとも1つが、画像フィールド時間全体を通じて少なくとも1つの列電極に一定電流を供給する、請求項10に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項12】
上記列ドライバがプログラム可能な電流源を有する、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項13】
上記列ドライバが電流の振幅を制御し、第1の画像フィールドの表示と第2の画像フィールドの表示の間にディスプレイの1つの列の全容量性電荷の変化を調節する、請求項12に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項14】
多数の発光素子行と発光素子列からなる複数のグループが同時に制御される、請求項2に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項15】
上記行ドライバが上記行電極アレイに少なくとも2つの異なるレベルの信号を同時に供給するようにして、上記行ドライバが、異なる時刻に上記行電極アレイ内の異なるグループの行電極に別々の信号を供給している、請求項14に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項16】
列駆動信号を供給するために上記入力画像信号を処理している間に上記ディスプレイ・ドライバがその入力画像信号をあらかじめシャープ化する、請求項14に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項17】
多数の発光素子行からなる各グループ内の発光素子の輝度出力の分布が、多数の発光素子行からなる各グループ内で、多数の発光素子行からなるグループの中央またはその近くに位置する発光素子の輝度出力が、他の発光素子の輝度出力よりも大きくなるようにされている、請求項14に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項18】
多数の発光素子行からなる各グループが、少なくとも3つの発光素子行を含む、請求項14に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項19】
多数の発光素子行からなる各グループ内の発光素子のための輝度出力の分布が、多数の発光素子行からなるグループの中央からの距離が大きくなるにつれて発光素子の輝度出力が減少し、増加し、最後に再び減少するようにされている、請求項16に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。
【請求項20】
発光素子行の第1のグループが第1の画像フィールド時間の間を通じて同時に制御され、発光素子行の第2のグループが第2の画像フィールド時間の間を通じて同時に制御され、発光素子行の第1のグループが、1つの発光素子行を除いて発光素子行の第2のグループと重なることで、ディスプレイ装置内の任意の発光素子に関して第1の画像フィールド時間と第2の画像フィールド時間の間の全容量性電荷の変化を小さくしている、請求項14に記載のパッシブ-マトリックス式エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ・システム。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2010−533890(P2010−533890A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516983(P2010−516983)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【国際出願番号】PCT/US2008/008324
【国際公開番号】WO2009/011767
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(510059907)グローバル オーエルイーディー テクノロジー リミティド ライアビリティ カンパニー (45)
【Fターム(参考)】