説明

ORAC値の高い抗酸化物質を多含有したカキ肉エキスの製造方法

【目的】本発明は、高いORAC値を有する抗酸化物質をより多く含有するカキ肉エキス抽出物の部分を選択し、高いORAC値を有する抗酸化物質をより多く含有できる抽出法を採用し、有益なカキ肉抽出物を効率よく、しかも多量に抽出でき、高いORAC値を有する抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを製造できる方法を提供することを目的とする。
【構成】水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、カキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、濃縮して第1の濃縮液を生成し、エタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、第1の上澄み液を取り出し遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、第2の上澄み液を濃縮して第2の濃縮液を生成し、エタノールを加えて振とうさせ、下側が水層、上側にはエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、第3の上澄み液内に高いORAC値を有する抗酸化物質を多含有させたことを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば、生ガキ等のカキ肉から高い抗酸化力を有する、すなわちORAC値の高い抗酸化物質を多く含んだカキ肉のエキスを効率よく抽出できると共に、カキ肉エキス内に存する前記ORAC値の高い抗酸化力を有する抗酸化物質を逃すことなく多量に含有させて生成できるORAC値の高い抗酸化物質を多含有したカキ肉エキスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カキ肉のエキスは健康補助食品として有益物質を多く含んだ極めて優れた製品であるとの認識度は日増しに高まっている。
そして、現在では例えば多種多様な抽出法によって抽出されたカキ肉エキスに関する健康補助食品などが販売されるに至っている(特開平10−136946号公報)。
【0003】
特に、摂取不足が問題となっているミネラル成分中でもタウリン、亜鉛、セレンは人間にとって必要不可欠な微量元素であるが、失われやすく、そのため日常習慣的な適量摂取が望まれている。
【0004】
また、糖尿病は、血糖を低下させるホルモン「インスリン」の働きが弱まったり、インスリンが不足して血液中の糖分が異常に高くなる病気であるが、このインスリンが行う「血糖低下の働き」を助けているのが、亜鉛・セレンなどのミネラルである。
これらのミネラルは「インスリン作用を持つ」といわれるように、実際に糖尿病患者にこれらのミネラルを補給すると、血糖値が低下することが認められている。そしてこれら有効成分はカキ肉に多く含有されているのである。
【0005】
従って、前記有効成分を多量に含有するカキ肉のエキスの抽出に際しては、現代人の体に必要な亜鉛・セレンなどの体に優しいミネラルやビタミン、タウリン、グリコーゲン、蛋白質といった有益な物質を豊富にバランス良く含有したカキ肉エキスを効率よく抽出し、良好なカキ肉エキスを製造することが望まれ、それらの要望に沿ったカキ肉エキスの製造法を本発明者は次々と発明し、特許取得してきた経緯がある。
【0006】
ところで、近年では、カキ肉にはいわゆる高い抗酸化性能を有する抗酸化物質をも多く含有していることが確認されてきており、そのことがにわかに注目を浴びることとなった。そして、本件発明者においても、本件発明者の各種研究や実験を通して前記のことを益々明確化しており、とくに高い抗酸化力を有する抗酸化物質をより多く含有したカキ肉エキスの製造方法の開発が強く要望されるに至ったのである。
【0007】
特に、本件発明者は近年、前記高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多く含むカキ肉部位に関する研究や高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多く含有するエキス抽出法の研究を行ってきており、高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多く含有でき、カキ肉抽出物を効率よく採取できる、すなわち高い抗酸化力を持つ抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを最適な方法で抽出でき、製造できる製造方法の発明創作活動を続けてきている。
【0008】
いわゆる活性酸素の生成は、好気性の生活に起因し、脂質、タンパク質、核酸の酸化を生じ、細胞に障害を与える。通常、生体の酸化レベルは活性酸素産生系と抗酸化物質による消去系のバランスでほぼ一定に保たれているが、薬物、放射線、虚血などの様々な要因によりこのバランスが崩れ、活性酸素産生系へ傾くのが酸化ストレスといわれている。
この酸化ストレスの蓄積が、がん、動脈硬化性疾患、虚血/再灌流障害、慢性関節リウマチ、糖尿病、アルツハイマー病やパーキンソン病の神経障害などの様々な疾患や老化の一因であると考えられている。
【0009】
カキ、たとえばマガキ(Crassostreagigas)はウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝で、その生息地は日本を初めとして東アジア全域に及んでいる。近年では、フランスやオーストラリアでもマガキが養殖されており、世界で最も食用に供されるカキとして名高い。カキは、栄養価が高いことから古代より食用にされてきたが、前述したとおりカキ肉から抽出したカキ肉エキスには、グリコーゲンやタンパク質のほか、カルシウム、亜鉛、セレニウム、銅、マンガンなどのミネラルを多量に含むほかさらには前記高い抗酸化力を持つ抗酸化物質をも多量に含有しているのである。
【0010】
ところで、抗酸化力の程度を表示する数値として、いわゆるORAC値が一般に使用される。ここで、ORAC値についてであるが、例えば、アメリカでは一般的に食品やサプリメントにきわめて頻繁に使用されている数値とも言われている。
ORAC値とは、換言すれば「活性酸素吸収能力」の数値のことで、食品やサプリメントにつき、どの程度の「活性酸素を吸収する力(抗酸化力)」があるかを分析して数値化したものと指標されている。つまり、「ORAC値=抗酸化力の強さ」を示す数値とも言われる所以である。
【0011】
活性酸素とは、いわゆるフリーラジカルの一種で、呼吸で酸素を取り入れるときに発生する。また、紫外線を浴びたとき、あるいはストレスや喫煙などにより、体内の活性酸素が増えすぎると細胞を傷つけ、シワやシミなどの老化の原因や糖尿病などの生活習慣病の原因になるともいわれている。
そこで、老化の原因である活性酸素を取り除くには、抗酸化力の高い食品などを日頃から摂取することがキーポイントとなる。
その抗酸化力の高い食品を摂取する際、目安になるのが「ORAC値」なのである。そしてこの数値が高ければ高いほど、抗酸化力の高い食品を摂取したものとなり老化や疾病を防護できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−136946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
かくして、本発明は前記従来からの要望に鑑み創案されたものであり、いわゆる高い抗酸化力を有する、すなわち高いORAC値を有する抗酸化物質をより多く含有するカキ肉エキス抽出物の部分を選択し、前記選択した抽出物につき、高いORAC値を有する抗酸化物質をより多く含有できる抽出法を採用し、もって極めて高いORAC値を有する抗酸化物質を含有する有益なカキ肉抽出物を効率よく、しかも多量に抽出でき、高いORAC値を有する抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを製造できるORAC値の高い抗酸化物質を多含有したカキ肉エキスの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、該第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にはエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液内に高いORAC値を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、取り出した第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液を濃縮してペースト状をなす濃縮物を生成し、該濃縮物内に高いORAC値を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、取り出した第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノール濃度が30%乃至90%となるようエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、取り出した第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノール濃度が30%乃至90%となるようエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液を濃縮してペースト状をなす濃縮物を生成し、該濃縮物内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
前記第3の上澄み液を遠心分離し、沈殿物と第4の上澄み液とに分離し、前記分離した第4の上澄み液内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
前記第3の上澄み液を遠心分離し、沈殿物と第4の上澄み液とに分離し、前記分離した第4の上澄み液を濃縮してペースト状をなす濃縮物を生成し、該濃縮物内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とし、
または、
前記遠心分離をさらに繰り返して行い、最終の遠心分離後の上澄み液を取り出し、該上澄み液に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とするものである、
【発明の効果】
【0015】
本発明によるORAC値の高い抗酸化物質を多含有したカキ肉エキスの製造方法であれば、
高いORAC値を有する抗酸化物質をより多く含有するカキ肉、換言すれば高い抗酸化力を有する、すなわち高いORAC値を有する抗酸化物質を多く含有するカキ肉エキス抽出物の部分を選択し、前記選択した抽出物につき、高いORAC値を有する抗酸化物質を多く含有できる抽出法を適用して、高いORAC値を有する抗酸化物質を多く含有したカキ肉抽出物を効率よくしかも多量に抽出でき、もって高いORAC値を有する抗酸化物質を多量に含有したカキ肉エキスを製造できるとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による高いORAC値を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法を示す概略構成説明図である。
【図2】本発明による高いORAC値を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法を示すフローチャート(その1)である。
【図3】本発明による高いORAC値を有する抗酸化物質多含有のカキ肉エキス製造方法を示すフローチャート(その2)である。
【図4】本発明による連続遠心分離機の概略構成を説明する説明図である。
【図5】ORAC法の測定原理を説明する説明図である。
【図6】各種の食品のORAC値を説明する説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施例を説明する。
【0018】
まず、水溶液1が貯留された抽出容器2内にカキ肉エキスを抽出すべくカキ肉3を投入する。
【0019】
ここで、抽出に使用する前記水溶液1の種類については何ら限定されるものではないが、一般的な水を使用して構わない。また、この水の温度についても何ら限定されず、常温状態の水でもかまわないし、30℃ないし50℃程度の温水でもかまわない。さらに、50℃以上の熱水でもかまわない。また、前記水にエタノール5を混入してエタノール溶液を使用することもある。エタノールを混入することでカキ肉エキスのエタノール溶液内抽出が促進できる。
【0020】
抽出に際しては、前記抽出容器2内を常圧にして行う場合もあるし、抽出容器2内を密閉し、1気圧以下に減圧したり、1気圧以上に加圧したりする場合もある。
【0021】
高抗酸化力を有する、すなわち後述するORAC値の高い抗酸化物質を多量に含有する抽出法を検討、選択するためである。
【0022】
次に、所定時間、たとえば数時間の抽出時間経過後、前記抽出容器2内からカキ肉3を取り出し、取り出した後に、抽出容器2内の抽出された抽出液を濃縮し、まず第1の濃縮液4を生成する。
【0023】
この第1の濃縮液4の濃縮方法についても、各種の濃縮方法が存するが、本発明では何ら限定されるものではなく、いかなる濃縮方法でもかまわない。いわゆる低温加熱濃縮方法でも、高温加熱濃縮方法でもかまわないものである。
【0024】
また、第1の濃縮液4についての濃縮の割合についても何ら限定されるものではなく、3分の1に濃縮する場合でも2分の1に濃縮する場合でもかまわない。
【0025】
次に、前記第1の濃縮液4にエタノール濃度が30%乃至90%程度になるよう、好ましくはエタノール濃度が70%になるようエタノール5を加え、その結果、加えられたエタノール5によって薄められた第1の濃縮液4を撹拌し、沈殿物6と第1の上澄み液7とに分離する。
【0026】
この分離方法についても、何ら限定されるものではないが、自然沈殿による自然分離法では撹拌した後、所定時間そのままの状態で待機し、自然に沈殿物6が沈殿するのを待つ。
【0027】
ところで、この段階での沈殿物6及び第1の上澄み液7のORAC値を測定してみると、沈殿物6の1g当たりのORAC値は、12.32μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムでしかなかった。
また、第1の上澄み液7の1g当たりのORAC値は、66μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムであった。
【0028】
このように、後述する遠心分離する前の、特に沈殿物6の中には、高いORAC値を有する抗酸化物質が分離されていないことが理解され、さらに、第1の上澄み液7の中にも、高い値のORAC値を有する抗酸化物質が分離されて入っていないことが理解される。
【0029】
しかしながら、前記第1の上澄み液7を繰り返し、遠心分離、振盪、遠心分離などの工程を経ることにより、第2、第3、第4の上澄み液などを生成すると、該第2、第3、第4の上澄み液内などにORAC値の高い抗酸化物質を取り出すことが出来たのである。
すなわち、前記第1の上澄み液7を取り出した後、これを連続遠心分離機などで遠心分離し、沈殿物6と第2の上澄み液8とに分離する。
【0030】
第2の上澄み液8を取り出した後、高いORAC値を有する抗酸化物質を含むカキ肉エキスの生成までを図2及び図3に示すフローチャートにより説明する。
【0031】
まず、第1の上澄み液7を遠心分離し(図1参照)、もって沈殿物6と第2の上澄み液8とが分離した後、この第2の上澄み液8のみを取り出す(ステップ100)。
【0032】
なお、前記のエタノール5が加えられ、所定のエタノール濃度、例えばエタノール濃度70%に薄められた第1の濃縮液4については、それをはじめから連続遠心分離機に入れ、連続的に遠心分離することにより、上記沈殿物6と第1の上澄み液7とを連続的に分離し、もって大量に第1の上澄み液7を取得するよう構成してもかまわない。
【0033】
上記のようにして取得した第2の上澄み液8、例えばその量が600gであれば、この600gを濃縮し、含水率が略30%程度となる様に第2の濃縮液20を生成する(ステップ102)。
【0034】
ここで、この第2の濃縮液20の濃縮作業は、例えばロータリーエバポレータ又は減圧濃縮ニーダーなどで行うことが考えられるが、これに限定されるものではない。
【0035】
上記の濃縮作業により、第2の濃縮液20は、含水率が略30%程度となる様に濃縮され、生成された第2の濃縮液20の量は、600gから略157gとなった。そして、この際の含水率を測定したところ、含水率は33.3%程度であった。
【0036】
ここで、上記157gの第2の濃縮液20について、そのORAC値を測定した。すると、この段階であっても、そのORAC値は、290μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムとの極めて高い数値を示した。前述のように、第1の上澄み液7の1g当たりのORAC値は、66μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムでしかなかったのにである。
【0037】
次いで、この第2の濃縮液20の157gについて、エタノール濃度が溶液全体として例えば略80%程度になるよう、例えば99.99%純度のエタノール240gを加え、エタノール濃度が略80%程度の濃度となったエタノール溶液を生成する。
すなわち、前記の第2の濃縮液20の量、157gからこのエタノール5がくわえられた溶液量として397gを生成する(ステップ104)。
【0038】
そして、このエタノール5が加えられ、エタノール濃度が略80%とされた溶液の量397gをいわゆる振盪容器(例えば濃縮用フラスコ)に入れ、該振盪容器を激しく振盪した(ステップ106)。
ここで、当該振盪時間及び振盪回数については、何ら制限されるものではないが、手動で行う場合には、少なくとも数十回程度、例えば上下方向に強く振盪することが考えられる。
【0039】
前記振盪容器を例えば上下方向に激しく振ることにより、高い抗酸化力を持つ、すなわち、より高いORAC値の抗酸化物質を、水(比誘電率 80)より極性の低いエタノール溶液(比誘電率 24)側へ移行促進出来ると考えられる。また、高いORAC値を有する抗酸化物質の阻害物質を水側へ移行、離脱させるのを促進させるとも考えられる。
【0040】
すなわち、前記振盪容器の中で、エタノール濃度が略80%程度とされた溶液から、極性の低いエタノール部分21と極性の高い水の部分22とに上下方向に明確に分離される。
【0041】
図2のステップ108に示す様に、例えば分液ロート16の上の部分に極性の低いエタノール部分21が、そして容器の下の部分にエタノールに対して極性の高い水の部分22が移行して分離するのである。
そして、上層に分かれる溶液は、下層の溶液に比べて、その密度、比重が小さいため、上層側に移動して分離することになる。
【0042】
ここで、上層側に分離した第3の上澄み液10は、250g、そして下層側に分離した下層分離液(沈殿物)9は、147gとなった。
【0043】
なお、有機溶媒の極性、密度、比重について説明すると、有機溶媒につき、極性の高さと密度、比重の大きさに比例関係はないと考えられるが、一般的に、抽出の際に用いられる溶媒としての水を例にとって考えると、水は極性が比較的高い溶媒であり(前述したように、比誘電率80:なお比誘電率の値は極性の高低の指標とされている)、一方、基本的に水より極性が低い、エタノール(比誘電率24)に代表されるアルコールなどの有機溶媒は、前記水に比較して密度、比重が小さいため、水よりも上層に移行して分かれることとなる。
すなわち、抽出の際などでは、水よりも極性が低い溶媒、例えばエタノールは、下層の溶媒(水)に比べて密度、比重が小さいため、水の上層へと移行して分離されることになるのである。
【0044】
なお、極性は分子内の電気的な偏りを基準に高低が示されているものであり、水は電気的偏り、換言すれば、比誘電率が80と大きく、もって極性が高い溶媒とされる。前述したように、比誘電率の値は、極性の高低の指標とされるのである。
【0045】
ここで、上記上層に移行して分離したエタノールを含む第3の上澄み液10を濃縮し、ペースト状にする。なお、該ペースト状にした際の含水率は、35.2%であった。なお、前記含水率は略40%ないし略10%の間が好ましいと考えられる。
【0046】
そして、この含水率35.2%の濃縮されたペースト状をなす第3の上澄み液10につき、1g当たりのORAC値を測定してみると、377μmol
TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムとの極めて高いORAC値を得たのである。
さらに、377μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムのうち、370μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムが、親水性の抗酸化力を示すORAC値であり、7μmol
TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムが、親油性の抗酸化力を示すORAC値であった。
よって、これにより、含水率35.2%の濃縮されたペースト状をなす第3の上澄み液10内には、親水性の抗酸化物質のみならず、親油性の抗酸化物質あるいは両親媒性の抗酸化物質をも含有されていることが推測できるものとなる。
【0047】
さらに、図3に示す様に前記第3の上澄み液10として取得された250gを、さらに連続遠心分離機24などで第4の上澄み液26と沈殿物11とに遠心分離する(ステップ110、ステップ112))。
この遠心分離作業により、高い抗酸化力を持つ、すなわちより高いORAC値の抗酸化物質を、第4の上澄み液26側へさらに移行させるのを促進出来ると考えられる。また、高いORAC値を有する抗酸化物質の阻害物質を沈殿物11側へさらに移行、離脱促進できるとも考えられる。
【0048】
次いで、前記のように分離し、取得した第4の上澄み液26(ステップ112)を例えばロータリーエバポレータ又は減圧濃縮ニーダーなどで濃縮する(ステップ114)。
そして、含水率34.6%程度のペーストをなす第4の上澄み液26の濃縮液を生成する。なお、この際の含水率も略10%ないし略40%の範囲が好ましい。
そして、その第4の上澄み液26の濃縮液の1gあたりのORAC値を計測すると(ステップ116)、ORAC値として389μmol
TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムとのさらに極めて高いORAC値を得たのである。
【0049】
さらに、389μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムのうち、380μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムが、親水性の抗酸化力を示すORAC値であり、9μmol
TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムが、親油性の抗酸化力を示すORAC値であった。
よって、この含水率34.6%程度のペーストをなす第4の上澄み液26内においても、親水性の抗酸化物質のみならず、親油性の抗酸化物質あるいは両親媒性の抗酸化物質が多く含有されていることが推測できるのである。
【0050】
ここで、前記遠心分離機24による遠心分離作業につき説明する。
例えば、第3の上澄み液10を図4に示す連続遠心分離機24の注入パイプ25から連続遠心分離機24内に連続的に注入できるように構成する。
【0051】
ここで、連続遠心分離機24内に所定の量の第3の上澄み液10の注入が確認され、連続遠心分離機24が稼働して、いわゆる沈殿物11と第4の上澄み液26とに連続的に分離されるものとなる。
【0052】
図4から理解されるように、収納タンク12の外周側壁13側に遠心力によって集められるのがいわゆる沈殿物11であり、それ以外、収納タンク12の上方から送出パイプ14を介して外部へ送出されるのが、いわゆる第4の上澄み液26である。
本発明では、この第4の上澄み液26内に、極めて高い抗酸化力を有する、高いORAC値を有する親水性のみならず、親油性あるいは両親媒性抗酸化物質の含有が確認できたこと前述の通りである。
【0053】
なお、ORAC法の測定原理について若干説明すると、まず、一定の活性酸素種を発生させ、それによって分解される蛍光強度を測定し、経時的に減少する蛍光強度の曲線を描いた場合、この反応系に抗酸化物質が共存すると蛍光物質の蛍光強度の減少速度が遅延する。よって、この原理により抗酸化物質の存在が確認できるものとなるのである。
【0054】
上記の原理に基づき、図5を参照して説明すると、検体もしくは標準物質存在下での蛍光強度の曲線下面積(AUC:
Area Under the Curve)と、非存在下(ブランク)でのAUCとの差(net AUC)を算出し、前記検体のnet AUCについて、濃度既知の標準物質(Trolox)のnet
AUCに対する相対値を求める。その相対値を基にTrolox濃度に換算して検体の抗酸化力とするのである(単位 μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラム)。
【0055】
すなわち、ORAC法では、まず、試料溶液、又は標準溶液(Trolox)に蛍光プローブ(Fluorescein)を添加し、ラジカル開始剤としてAAPH(2,2’-Azobis(2-amidinopropane)
dihydrochloride)を用いて活性酸素を発生させると、活性酸素によりFluoresceinが酸化される。
【0056】
Fluoresceinの酸化物は蛍光を有しないため、蛍光強度が経時的に減少する。試料が抗酸化力を有する場合、抗酸化物質により活性酸素が消去されFluoresceinの酸化が抑制されるため、抗酸化物質が存在しない場合(ブランク)に対してFluoresceinの蛍光強度が持続し、減少速度が遅延する。
【0057】
試料、又はTroloxとブランクの蛍光強度を縦軸、測定時間を横軸にプロットし、試料溶液、又はTroloxの蛍光強度の曲線下面積(Area
Under the Curve;AUCsample、又はAUCTrolox)とブランクの曲線下面積(AUCblank)の差、即ち斜線部分の面積を算出し(それぞれをnetAUCsample、netAUCTroloxという)、標準物質のnetAUCTroloxから試料のnetAUCsampleに相当するTrolox濃度を求め、たとえば、試料1g当りのTroloxのマイクロモル数としてORAC値を算出するのである。
【0058】
従って、ORAC値の単位としては、μmole TE/g(TE:Trolox Equivalent)などが使用されることになる。
【0059】
なお、ここで、ORAC値は抗酸化力を標準物質(Trolox)の量に換算して表現するものであり、特定の抗酸化物質量を示す値ではないことに注意しなければならない。しかしながら、ORAC値が高い数値の場合には、たとえば、そのカキ肉エキスには抗酸化力が高い抗酸化物質が含有されていることが分かるのである。
しかして、前記連続分離した本実施例において、前記第4の上澄み液26についてのORAC値を検出してみると、前述したように、389μmol
TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムとの極めて高いORAC値を得たのである。
【0060】
さらに、389μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムのうち、380μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムが、親水性の抗酸化力を示すORAC値であり、9μmol
TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムが、親油性の抗酸化力を示すORAC値であった。
よって、この含水率34.6%程度のペーストをなす第4の上澄み液26中には、親水性の抗酸化物質のみならず、親油性の抗酸化物質あるいは両親媒性の抗酸化物質がきわめて多く含有されていることが推測できることすでに述べたとおりである。
【0061】
米国ORAC社では、各種の食品のORAC値をデータベース化している。そのグラフを図6に示す。この図6から理解されるように、米国ORAC社が数値の高いと認めるブルーベリーでさえ、そのORAC値は66.2μmole
TE/gである。
【0062】
これに対し、本実施例における含水率34.6%程度のペースト状をなす第4の上澄み液26の1g中にはこれより約5倍以上の高い抗酸化力を有するとされる数値、389μmol TE/g:マイクロモルTrolox当量/グラムのORAC値を持つ抗酸化物質が含有されていることが分かる。
【0063】
なお、ステップ114で濃縮した第4の上澄み液26に再度エタノールを添加し(ステップ118)、本発明での連続遠心分離機24で繰り返し遠心分離を行っていけば、さらに第4の上澄み液26を分離することが出来、分離後にペースト状に濃縮した、例えば第5の上澄み液あるいは第6の上澄み液には、さらにきわめて高いORAC値を有する抗酸化物質を収集できることになる。
【符号の説明】
【0064】
1 水溶液
2 抽出容器
3 カキ肉
4 濃縮液
5 エタノール
6 沈殿物
7 第1の上澄み液
8 第2の上澄み液
9 下層分離液
10 第3の上澄み液
11 沈殿物
12 収納タンク
13 外周側壁
14 送出パイプ
15 沈殿物
16 分液ロート
20 第2の濃縮液
21 エタノール部分
22 水部分
23 第4の上澄み液
24 連続遠心分離器
25 注入パイプ
26 第4の上澄み液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、該第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にはエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液内に高いORAC値を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とするORAC値の高い抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスの製造方法。
【請求項2】
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、取り出した第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液を濃縮してペースト状をなす濃縮物を生成し、該濃縮物内に高いORAC値を有する抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とするORAC値の高い抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスの製造方法。
【請求項3】
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、取り出した第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノール濃度が30%乃至90%となるようエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とするORAC値の高い抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスの製造方法。
【請求項4】
水が貯留された抽出容器内にカキ肉を収納し、該抽出容器内のカキ肉からカキ肉エキスを抽出して抽出液を生成し、次いで前記抽出液を濃縮して第1の濃縮液を生成し、前記第1の濃縮液にエタノールを加え、沈殿物と第1の上澄み液とに分離し、分離後に前記第1の上澄み液を取り出し、取り出した第1の上澄み液を遠心分離して、沈殿物と第2の上澄み液とに分離し、
前記分離した第2の上澄み液を濃縮して、第2の濃縮液を生成し、該第2の濃縮液にエタノール濃度が30%乃至90%となるようエタノールを加えて、振とうさせ、
下側が水層、上側にエタノール層となる第3の上澄み液とに分離し、前記分離した第3の上澄み液を濃縮してペースト状をなす濃縮物を生成し、該濃縮物内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とするORAC値の高い抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスの製造方法。
【請求項5】
前記第3の上澄み液を遠心分離し、沈殿物と第4の上澄み液とに分離し、前記分離した第4の上澄み液内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とする請求項3または請求項4記載のORAC値の高い抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスの製造方法。
【請求項6】
前記第3の上澄み液を遠心分離し、沈殿物と第4の上澄み液とに分離し、前記分離した第4の上澄み液を濃縮してペースト状をなす濃縮物を生成し、該濃縮物内に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とする請求項3または請求項4記載のORAC値の高い抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスの製造方法。

【請求項7】
前記遠心分離をさらに繰り返して行い、最終の遠心分離後の上澄み液を取り出し、該上澄み液に高いORAC値を有する親水性抗酸化物質、親油性抗酸化物質及び両親媒性抗酸化物質を多含有させた、
ことを特徴とする請求項5または請求項6記載のORAC値の高い抗酸化物質を多含有させたカキ肉エキスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−51937(P2013−51937A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193754(P2011−193754)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(596161031)株式会社渡辺オイスター研究所 (13)
【Fターム(参考)】