説明

P−Rex1、RACのためのPTDINS(3,4,5)P3−G−β−γにより制御されたグアニンヌクレオチド交換因子

炎症抑制の標的としての新規のタンパク質が記載される。該タンパク質の製造方法及び抗炎症剤の同定のためのアッセイにおける該タンパク質の使用が記載される。該タンパク質をコードする遺伝子についてのノックアウトマウスの作成方法も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症抑制の標的として有用な新規タンパク質、該タンパク質をコードする核酸、及び抗炎症剤の同定のためのアッセイにおける該タンパク質の使用に関する。
【0002】
GTPase(GTP加水分解酵素)単量体は、細胞内情報伝達の主要制御因子である(Bourne et al. 1990)。Racタンパク質(Rac1,2及び3)は、転写活性化、ラメリポディア形成及び活性酸素種(ROS)産生の刺激のような応答の受容体制御に関与するRho−ファミリーGTPase単量体のサブファミリーである(Tapon and Hall 1997)。Rho‐ファミリーGTPase単量体は、GTPに結合すると「オン」となってエフェクタータンパク質を活性化することができ、GDPに結合すると「オフ」となる、分子スイッチである。GTPaseは、GDP結合形態GTPaseの結合部位を特異的にこじあけることによって、ヌクレオチド交換を促進するように作用するグアニンヌクレオチド交換因子(GEFs)によって活性化されることができる(Worthylake et al. 2000)。
【0003】
(いくつかは他のGTPase単量体のためにGEFとして作用することもできるにもかかわらず、)Rac-GEFの大きなファミリーがある。これらは、Vav(1,2,3)、Tiam(1,2)、PIX(α、β)、Ras-GRF(1,2)、及びSosを含む(Manser et al. 1998, Scita et al. 1999, Stam and Collard 1999)。プロテインキナーゼは近年、Rac-GEF活性の主要な直接的制御因子であると考えられている。例えば、Vav1は、Lckによってチロシン174上でリン酸化され、活性化されることができる(Crespo et al. 1997, Han et al. 1997)。同様に、Ras-GRF1は、Rac-GEF活性を表すためにチロシンリン酸化されなければならず(Kiyono et al. 1999)、Tiam1は、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIによっておそらくリン酸化され、制御されている(Fleming et al. 2000)。ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3Ks)及びGβγs、などの他のRac-GEFの制御因子は、これらのリン酸化に影響を与えることによって主に働く(Han et al. 1998, Kiyono et al. 1999)。
【0004】
PI3Kタイプ1は、細胞表面受容体によって活性化されて、細胞内メッセンジャー、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)P3(PtdIns(3,4,5)P3)を合成する。PtdIns(3,4,5)P3の情報伝達ターゲットは、典型的には、脂質を結合し、形質膜におけるPtdIns(3,4,5)P3の蓄積部位へのホストタンパク質の転位を推進することのできる、PHドメインを有する(すべてのPHドメインがPtdIns(3,4,5)P3を結合するわけではない)(Lemmon and Ferguson 2000)。多くの細胞において、PI3Kタイプ1が受容体によって推進されるRacの刺激に必要であり、活性化PI3Kタイプ1がRacの活性化に充分であることがしめされた(Hawkins et al. 1995, Reif et al. 1996)。これらの経路は、広く重要であり、ラメリポディア形成のような応答を支持し、膜のラッフリングそしておそらくROS形成と関連する。これにもかかわらず、PI3Kタイプ1及び/又はPtdIns(3,4,5)P3がRacを活性化するメカニズムは、多くの細胞成分において不明である。これは、部分的には、Rac−GEFがPI3K依存性のRac活性化を示す細胞成分から精製され、それらの活性に基づいて、そしてこれに関連して同定されていないということの結果である。最初のそれらの発見及び特徴づけに続く研究に基づいて、最近知られたRac-GEFの4の亜群、すなわちTiam、Vav、Sos、及びPIXが、PI3K依存性の様式で制御されていると主張されている。しかしながら、PI3K及び/又はPtdIns(3,4,5)P3のこれらの効果は、直接的である場合には小さく、或いは間接的である場合には未知の又はリン酸化に基づくメカニズムの調節を介しており(Han et al. 1998, Rameh et al. 1997, Fleming et al. 2000, Buchanan et al. 2000, Yoshii et al. 1999, Scita et al. 1999, Das et al. 2000, Nimnual et al. 1998)、PI3Kがこの複合体を制御するメカニズムは不明である。
【0005】
好中球様の細胞においては、Racは、多様な情報伝達経路、特別にはPAKキナーゼ及びホスホリパーゼDの活性化並びに走化作用、貪食作用及びROS形成のようなさらに下流の応答、において重要な役割を果たす(Roberts et al. 1999, Dorseuil et al. 1992)。受容体刺激によるROS形成の調整におけるその役割は、おそらく最も理解されているであろう。(ほとんどの種においてRac2である)Racは、p47phox、p67phox、gp91phox及びgp22phoxとともに、適切な刺激を受けた細胞のファゴソームの/エンドソームの膜システム上に集合した触媒活性を有するオキシダーゼ複合体の構成成分である(Babior 1999)。この過程は、Rac活性化と関連付けられた(Akasaki et al. 1999, Benard et al. 1999)。それは、Rac-GTPase活性化タンパク質(GAPs)によってインビトロで阻害され(Geiszt et al. 2001)、Rac-GAPノックアウト(Bcr)において増強され(Roberts et al. 1999)、Rac2に主要な突然変異を有する何人かの免疫不全症患者において阻害され(Ambruso et al. 2000)、そしてGTPに結合するが、GDPに結合しないRacはp67phox及びgp91phoxの両方に結合することができ、p47及びp67phoxをリン酸化すると主張されるPAKキナーゼを活性化することができる(Babior 1999)、ということが実証された。しかしながら、いくつかの研究は、受容体刺激によるROS形成が、Racの活性化なしに起こり得ることを示唆し(Geijsen et al. 1999)、GTP-Racの基底レベルがいくつかの制御メカニズムにとって十分であるか、又は単に必要でないということを暗示している。
【0006】
PI3KがGタンパク質に連結した受容体の活性化及びROS形成の間の情報伝達の仲介において、好中球中で主要な役割を果たすという証拠がある。炎症性メディエーターに応答したROS形成を、BPI3Kタイプ1ヌリザイゴート(nullizygote)は起こさず、PI3K阻害物質はブロックする(Condliffe and Hawkins 2000)。しかしながら、PI3KがROS形成の推進に寄与するメカニズムは不明である。我々は、PtdIns3P(潜在的なPtdIns(3,4,5)P3の分解産物)がp40phoxのPXドメインを介してROS形成を制御し、これがGTPγS-Racの存在下で検出されることのできる効果であり、したがって、Racの活性化を含むことができないということを示した(Ellson et al. 2001)。いくつかのデータは、好中球においては、PI3Kタイプ1がRacの活性化の上流にあることができる、という考えを支持しない。PI3K阻害物質であるLY294002及びワートマニン(wortmannin)は、炎症性メディエーターに応答して顕著にRacの活性化を低下させたことが示された(Akasaki et al. 1999, Benard et al. 1999)。しかしながら、上記の研究(Hart et al.1998)に明らかに矛盾して、1の論文は、fMLP刺激によるRac活性化がPI3K阻害物質に対して抵抗性のあることを示す確信的なデータを示し(たが、ディスカッションを参照のこと。)(Geijsen et al. 1999)、そして代わりに、Gα13によって活性化されるp115Rho-GEFによる先の組とともに、Gαサブユニットが1以上の好中球Rac-GEF活性を亢進することができるという示唆に到達した(Geijsen et al. 1999)。
【0007】
好中球における受容体刺激によるRac活性化及び/又はROS形成に関与するRac-GEFが何であるかは未知のままである。知られたRac-GEFの分布及び性質並びにROS形成を推進することのできる受容体のタイプの関係において、Vav及び/又はSOSタンパク質がタンパク質−チロシンに結合した受容体の下流にあることができ、その一方、G−タンパク質結合受容体の下流には類似の役割を有する明らかな候補がない、ということは理解できると思われる。
【発明の開示】
【0008】
我々は、好中球サイトゾルから、PtdIns(3,4,5)P3感受性Racアクチベーターを精製した。これは、豊富な、新規の185kDグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)であり、われわれはこれをクローン化し、P-Rex-1と名づけた。組み換え酵素は、インビトロ及びインビボの両方において、PtdIns(3,4,5)P3及びGβγによって、直接的、実質的、且つ相乗的に活性化されるRac-GEF活性を有する。P-Rexアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好中球様細胞株において、内因性のP-Rex1発現及びC5a刺激による活性酸素種の形成を減少させた。P-Rex1は、特に好中球におけるヘテロ三量体Gタンパク質の下流において機能するのに適した、PtdIns(3,4,5)P3及びGβγ情報伝達経路における新規な同時検出器であることがわかった。
【0009】
本発明によれば、P-Rex1又はP-Rex1活性を有するその誘導体のアミノ酸配列を含む、実質的に単離された形態のタンパク質が提供される。
【0010】
ヒトP-Rex1の非ヒト等価物も本発明の範囲内にあるが、好ましくは、該タンパク質はヒトP-Rex-1(図3A中に示された配列番号:1)のアミノ酸配列を含む。P-Rex1の非ヒト等価物は、データベース配列情報の検索又はストリンジェントな条件下でヒトP-Rex1をコードする核酸にハイブリダイズ可能な核酸プローブの使用などの、当業者に知られた技術を使用して同定されることができる。BLAST相同性検索を用いて、非ヒトP-Rex1は、少なくとも95%の相同性をヒトP-Rex1に対して有することが予想される。
【0011】
P-Rex1の誘導体は、1以上のアミノ酸の変更(置換、付加、欠失又は翻訳後修飾を含む修飾)によって、野生型P-Rex1と異なるが、野生型P-Rex1の少なくとも1の活性を保持するタンパク質であることができる。これらの活性は、Rac-GEF活性、PtdIns(3,4,5)P3と結合すること、及びGβγサブユニットと結合することを含む。好ましくは、P-Rex-1の誘導体は、配列番号:1のアミノ酸残基100個のそれぞれについて、好ましくは約40以下、より好ましくは約20以下のアミノ酸の変更を含む。
【0012】
P-Rex1誘導体は、当業者に知られた標準的な突然変異誘発技術によって作製されることができ、そして標準的な技術を用いて、P-Rex1のいずれかの活性について試験されることができる。
【0013】
本発明によって、ヒトP-Rex1(配列番号:2〜8)の1以上の異なるドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質も提供される。これらは、以下の図3の説明及び図3によって同定される。配列番号:2〜8のアミノ酸配列のいずれかにおいて1以上のアミノ酸の変更を含む、これらのタンパク質の誘導体もまた、本発明の範囲内にある。好ましくは、そのような誘導体は、アミノ酸残基100個あたり、約40以下、より好ましくは約20、のアミノ酸の変更を含む。
【0014】
本発明によれば、PtdIns(3,4,5)P3感受性及び/又はGβγサブユニット感受性のRac-GEF活性を有するタンパク質もまた、提供される。
【0015】
本発明によれば、さらに、P-Rex1のスプライスバリアント、及び該スプライスバリアントをコードする核酸が提供される。スプライスバリアントは、当業者に知られた標準的な技術によって同定されることができる。
【0016】
本発明によれば、さらに、本発明のタンパク質をコードする配列を含む、実質的な単離形態の核酸が提供される。本発明によれば、また、ストリンジェントな条件下で本発明のタンパク質をコードする核酸、又は本発明のタンパク質をコードする核酸に相補的な核酸にハイブリダイズすることのできる実質的な単離形態の核酸も提供される。
【0017】
本明細書中で使用される「ストリンジェントな条件」という用語は、核酸ハイブリダイゼーションのための広く認識されたプロトコールにおいて特定されたストリンジェントな条件に相当する、と当業者に一般的に理解されるハイブリダイゼーション条件を意味する。例えば、Sambrook et al, Molecular Cloning: A laboratory Manual(2nd Edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989), pp.1.101-1.104; 9.47-9.58及び11.45-11.57を参照のこと。典型的には、これらの条件は、ハイブリダイゼーション膜の65Cにおける、0.1%のSDSを含む0.05×〜0.5×SSCによる少なくとも1回の洗浄、又は同等にストリンジェントな洗浄条件を含む。
【0018】
本発明によれば、また、ストリンジェントな条件下でヒトP-Rex1をコードする核酸にハイブリダイズすることのできるP-Rex1プローブも提供される。該プローブは、他の動物においてP-Rex1遺伝子を同定するために使用されることができる。
【0019】
本発明によれば、また、例えばPCRによって本発明の核酸を増幅するためのオリゴヌクレオチドプライマーも提供される。
【0020】
本発明によれば、また、本発明の核酸を含むベクターも提供される。該ベクターは、本発明のタンパク質の発現のための発現ベクターであることができる。
【0021】
本発明によれば、また、本発明のベクターを含む宿主細胞も提供される。該宿主細胞は、細菌細胞、哺乳動物細胞、酵母細胞、植物細胞、又は昆虫細胞であることができる。
【0022】
本発明の核酸で安定にトランスフェクトされた細胞も提供される。
【0023】
本発明によれば、また、本発明のタンパク質の発現のための条件下で該タンパク質の発現を導くことのできるベクターを含む宿主細胞を培養することを含む、本発明のタンパク質の製造方法も提供される。
【0024】
いくつかの環境において、細胞内での内因性のP-Rex1発現をアップレギュレートすることが望ましいかもしれない。これは、P-Rex1の発現が、挿入されたプロモーターの制御下にあるように、P-Rex1をコードする内因性の核酸の上流に(例えば、相同組み換えによって)挿入することのできるプロモーターを含むベクターで宿主細胞を形質転換することによって達成されることができる。
【0025】
本発明によれば、また、それによって細胞内P-Rex1及び/又は組み換えP-Rex1の検出を可能とする、本発明のタンパク質、好ましくは該タンパク質に特異的なエピトープに結合することのできる抗体(又は抗体断片)も提供される。そのような抗体は、当業者に知られた技術によって作製されることができる。抗P-Rex1ヤギポリクローナル抗体は、以下の実験手順セクションにおいて記載される。これらは、ヒトP-Rex1に対する、抗ペプチドヤギポリクローナル抗体である。組み換えヒト野生型P-Rex1を用いて一緒にアフィニティー精製された2の血清のプールがアフィニティー精製に使用されることができる。これらの抗体は、ウエスタンブロット及び過剰発現されたP-Rex1を用いた免疫蛍光実験のために使用されることができる。これらの抗体とともに使用されるサンプルの調製方法及びウエスタンブロットのための抗体の使用のプロトコールは以下に記載される。
【0026】
P-Rex1は、白血球中の炎症性経路に関与するタンパク質として同定され、スーパーオキサイド形成及び化学走性に関連している。P-Rex1が転移、敗血症ショック、炎症又はフリーラジカルメカニズムを含む神経変性、及びアテローム性動脈硬化において役割を果たすかも知れないという可能性もある。したがって、P-Rex1活性、又はP-Rex1の結合パートナーとの結合、又はP-Rex1発現の阻害物質は、以下の:炎症、転移、敗血症ショック、神経変性、及びアテローム性動脈硬化のいずれをも減少させ、又は阻害することができる。また、P-Rex1活性の刺激も急性の細菌感染において価値がある可能性がある。
【0027】
本発明によれば、さらに、P-Rex1活性に拮抗することのできるP-Rex1の断片又は誘導体が提供される。P-Rex1の断片又は誘導体は、当業者によって容易に作製され、それらがP-Rex1活性又はP-Rex1と結合パートナーとの結合を阻害するかについてテストされることができる。
【0028】
本発明によれば、P-Rex1の発現を阻害することのできるアンチセンスオリゴヌクレオチドも提供される。該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、P-Rex1遺伝子のDNA、又はP-Rex1遺伝子から発現されたRNAに結合することのできるDNA又はRNAオリゴヌクレオチドであることができる。したがって、DNA-DNA、RNA-RNA、又はDNA-RNAハイブリッドが形成されることができる。P-Rex1の発現を阻害することのできる干渉RNA(dsRNAi)もまた、提供される。
【0029】
本発明によれば、それによってP-Rex1遺伝子からのP-Rex1発現を阻害するために、該遺伝子の核酸との相同性組み換えを行うことのできる核酸を含むベクターも提供される。
【0030】
本発明によれば、また、破壊P-Rex1遺伝子に対してヘテロ接合性又はホモ接合性である、非ヒト動物も提供される。好ましくは、該動物はP-Rex1遺伝子ノックアウトマウスである。P-Rex1トランス遺伝子を有する非ヒト動物、好ましくはマウス、も提供される。P-Rex1遺伝子ノックインマウスも提供される。そのような動物は、炎症、転移、敗血症ショック、神経変性、アテローム性動脈硬化、又は細菌感染の研究におけるインビボモデルとして使用されることができる。
【0031】
本発明によれば、また、ターゲティングベクターがゲノムDNAと相同性組み換えを行う場合に、選択マーカーをコードする核酸がゲノムDNAに組み込まれ、P-Rex1遺伝子の発現が阻害又は減少されるように、P-Rex1遺伝子をコードするゲノムDNAと相同性組み換えを行うことのできる核酸、及び選択マーカーを含むターゲティングベクターも提供される。
【0032】
好ましくは、ターゲティングベクターは、P-Rex1遺伝子の核酸配列を含み、ここで該遺伝子のエキソンの核酸配列が、選択マーカーをコードする核酸配列によって置換されているものを含む。
【0033】
好ましくは、ターゲティングベクターは、少なくとも8〜10kbのP-Rex1遺伝子の核酸配列を含む。
【0034】
好ましくは、P-Rex1遺伝子の核酸配列は、ベクターの5’及び3’アームの間で20/80%〜50/50%に分断される。好ましくは、P-Rex1遺伝子の核酸配列の20%〜80%が選択マーカーをコードする核酸配列の5’であり、残りが選択マーカーをコードする核酸の3’である。
【0035】
好ましくは、P-Rex1核酸配列のエキソン5が、選択マーカーをコードする核酸配列によって置換される。P-Rex1遺伝子のエキソン1〜8は、すべてフレーム内にある。結論として、これらのエキソンのいずれかが選択マーカーをコードする核酸配列と置換された場合、理論的には、残りのエキソンが一緒に再度スプライシングされて、僅かのアミノ酸を欠く、ほとんど完全な長さのタンパク質が産生されることが可能であった。エキソン5は、P-Rex1タンパク質の触媒部位をコードするため、エキソン4〜エキソン6のスプライシングが起こったとしても、生じたいずれのタンパク質も不活性である。
【0036】
好ましくは、選択マーカーをコードする核酸は、抗生物質耐性を指定する。好ましくは、抗生物質耐性は、ネオマイシン、ゲントマイシン、ヒグロマイシン、又はピューロマイシン耐性である。
【0037】
本発明によれば、さらに、本発明のターゲティングベクターを含むマウスES細胞が提供される。本発明によれば、また、P-Rex1遺伝子の発現が阻害又は減少された組み換えマウスES細胞も提供される。マウスES細胞は、E14、CCB、R1、又はR3ES細胞株であることができる。
【0038】
本発明によれば、また、P-Rex1遺伝子の発現が阻害又は減少された組み換えマウスES細胞を移植された、偽妊娠マウスも提供される。
【0039】
本発明によれば、さらに、染色体対の1においてP-Rex1遺伝子の発現が阻害又は減少された組み換えヘテロ接合性マウスが提供される。
【0040】
本発明によれば、また、本発明のタンパク質のアフィニティー精製を可能とする精製タグをさらに含む該タンパク質も提供される。また、抗エピトープ抗体によるタンパク質の検出を可能とするエピトープタグをさらに含む、本発明のタンパク質も提供される。
【0041】
本発明のタンパク質の検出を可能とする標識を含む、該タンパク質も提供される。好ましくは、標識は蛍光物質又は放射性標識である。
【0042】
本発明によれば、また、本発明のタンパク質を含む融合タンパク質も提供される。該融合タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)又は融合タンパク質の検出を可能とする蛍光活性を有するGFPの異形又は誘導体を含むことができる。融合タンパク質は、該融合タンパク質のアフィニティー精製を可能とする精製タグを含むことができる。
【0043】
本発明によれば、また、薬物発見のための標的としての、本発明のタンパク質、タグを付加された又は標識された本発明のタンパク質、或いは本発明の融合タンパク質の使用も提供される。そのような使用は、抗炎症活性を有する薬物の同定を可能とすると期待される。また、転移、敗血症ショック、神経変性、又はアテローム性動脈硬化を減少又は阻害する薬物が同定されることも可能である。
【0044】
本発明はまた、P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、P-Rex1活性の調節物質、又はP-Rex1発現の調節物質を同定するためのスクリーニングアッセイにおける本発明のタンパク質又は本発明の核酸の使用も提供する。インビトロの又は細胞に基づくアッセイも使用されることができる。一般的に、そのようなアッセイは、P-Rex1の結合、又はP-Rex1の活性又は発現の阻害物質を同定するために使用されるであろう。なぜなら、そのような化合物は、炎症、転移、敗血症ショック、神経変性又はアテローム性動脈硬化を減少又は阻害する能力を有し、或いは、そのような活性を有する薬物の設計又は同定において役立つであろうからである。
【0045】
本発明によれば、本発明のタンパク質をP-Rex1活性の調節物質候補と接触させ、そして該タンパク質の活性が調節物質候補によって調節されるか否かを決定することを含む、P-Rex1活性の調節物質の同定方法が提供される。そのような方法においては、例えば、Rac-GEF活性についてアッセイする場合、P-Rex1のRac-GEF活性を亢進することのできる、PIP3及び/又はGβγサブユニット或いはそれらの誘導体の存在下で、該方法を実施することが望ましい。
【0046】
本発明によれば、また、調節物質候補の存在下又は非存在下において、本発明のタンパク質を結合パートナーと接触させること、及び該タンパク質の結合パートナーへの結合が該調節物質候補によって調節されるか否かを決定することを含む、P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質を同定するための方法も提供される。
【0047】
典型的には、調節物質のアッセイは、P-Rex1とPIP3又はP-Rex1が相互作用する1以上のタンパク質のいずれかとの相互作用を阻害する化合物を見出すために設計されるだろう。インビトロのアッセイは、好ましくは、そのすべてが適切な精製タグを有し、バキュロウイルス又はE.コリのようなインビトロの発現系中で発現され、そして好適な精製タグを用いて精製される、完全長のP-Rex1、切断された配列、又は緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質の使用を含む。蛍光タンパク質との融合タンパク質として産生されない場合、精製されたタンパク質は、標準的なタンパク質標識方法論を使用して、(典型的には、フルオレッセイン、ローダミン又は最大励起波長が450nmを超える他の蛍光色素である)蛍光物質で化学的標識されるか、又は放射性標識で標識される。タンパク質は、個々の調節物質候補及び残りのアッセイ試薬とともにインキュベートされることができ、そして相互作用は、直接的分光光度法による測定、又は続く結合した又は遊離したP-Rex1構成物の分離のいずれかによって測定されることができる。
【0048】
好ましいアッセイ方法を以下に列挙する。これらの方法のすべてが、商業的に入手可能な設備を用いて、1日あたり10,000を越える化合物のハイスループットスクリーニングに容易に適用されることができる。
【0049】
1.蛍光消光法又は蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)によって結合を測定する、PIP3含有合成膜(リポソーム)への、ドナー蛍光標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の結合の阻害。典型的には、オキサノールのような脂溶性蛍光アクセプターが膜に取り込まれる。
【0050】
2.蛍光消光法又は蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)によって結合を測定する、ビーズ上のPIP3含有固定化膜(例えば、Kingman et al, (2002) Molecular Cell 9, 95-108)へのドナー蛍光標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の結合の阻害。典型的には、オキサノールのような脂溶性蛍光アクセプターが膜に取り込まれる。
【0051】
3.濾過によって遊離の溶液からビーズを分離し、そしてビーズ上に残った蛍光を測定することによって、P-Rex1の結合をアッセイする、ビーズ上のPIP3含有固定化膜(例えば、Kingman et al, (2002) Molecular Cell 9, 95-108)への蛍光標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の結合の阻害。
【0052】
4.蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)によって結合を測定する、ビーズ上のPIP3含有固定化膜(例えば、Kingman et al, (2002) Molecular Cell 9, 95-108)への放射能標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の結合の阻害。
【0053】
5.シンチレーションプロキシミティ(scintillation proximity)によって、P-Rex1の結合をアッセイする、SPAマルチウエルプレートのウエル上に固定化されたPIP3への放射能標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の結合の阻害。
【0054】
6.蛍光偏光の変化を測定することによってリガンド結合をアッセイする、溶液中の蛍光標識GroP-Ins(3,4,5)P4又はPIP3へのP-Rex1完全タンパク質(又は[質量増加のために]例えばGSTに融合させた切断構築物)の結合の阻害。
【0055】
7.(FITCなどの)ドナー蛍光物質で標識されたP-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)及び(ローダミン又はテキサスレッドなどの)アクセプター蛍光物質で標識されたGroP-Ins(3,4,5)P4又はPIP3の溶液中での阻害。結合は、ドナー消光又はFERTの変化によって、或いは蛍光寿命の変化によって測定されることができた。
【0056】
8.上記のすべての方法は、追加の脂質、タンパク質又はP-Rex1、特別にはGβγ及び/又はRacと相互作用することが知られている他のリガンドを含ませることによって改変されることができる。
【0057】
9.蛍光消光法、蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)又は蛍光寿命によって結合を測定する、アクセプター又はドナー蛍光標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の、アクセプター又はドナー蛍光標識βγサブユニットへの結合の阻害。
【0058】
10.濾過によって遊離の溶液からビーズを分離し、そしてビーズ上に残った蛍光を測定することによって、P-Rex1の結合をアッセイする、蛍光標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の、ビーズ上に固定化されたβγサブユニットへの結合の阻害。
【0059】
11.濾過によって遊離の溶液からビーズを分離し、そしてビーズ上に残った放射活性を測定することによって、P-Rex1の結合をアッセイする、放射能標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の、ビーズ上に固定化されたβγサブユニット(例えば、Kingman et al, (2002) Molecular Cell 9, 95-108)への結合の阻害。
【0060】
12.シンチレーションプロキシミティ(scintillation proximity)によって、P-Rex1の結合をアッセイする、SPAマルチウエルプレートのウエル底上に固定化されたβγサブユニットへの放射能標識P-Rex1完全タンパク質(又は切断構築物)の結合の阻害。
【0061】
13.βγサブユニットがRacのようなP-Rex1の他の結合パートナーによって置換される、上記のパラグラフ9〜12において特定されたアッセイ。
【0062】
14.GDPを先に負荷したRac上でのGDPのGTPへの交換のP-Rex1による刺激の阻害。アッセイ混合物は、Rac-GDP及びP-Rex1(又は切断構築物)を含み、アッセイはGTPγS35の添加によって開始する。所定の時間の終わりにRacに結合しているGTPγS35量を、アッセイ混合物からのRacの分離に続いて測定する。結合した及び遊離のGTPγS35の分離は濾過によって実施されることができ、或いは、Racはビオチンで標識され、そしてストレプトアビジンコーティングしたビーズ又はプレートを使用して分離されることができる。試験化合物は、GTPγS35添加の前に混合物に添加される。
【0063】
上記の方法(8)の適用として、SPAプレートは、GDP-Racでコーティングされることができ、これをP-Rex1及び放射性同位体標識GTPγSとともにインキュベートした。放射標識GTPと固定化Racとの結合は、シンチレーションプロキシミティの決定によって連続的に測定される。
【0064】
本発明によればまた、P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、P-Rex1活性の調節物質、又はP-Rex1発現の調節物質を同定するための、細胞に基づくアッセイの使用も提供される。
【0065】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、又はP-Rex1活性の調節物質を同定するための細胞に基づく本発明の方法は、以下のステップ:
調節物質候補の存在下又は非存在下で、細胞を、P-Rex1と結合パートナーとの結合、又はP-Rex1の活性化のための刺激物質によって刺激すること;
該調節物質候補が、P-Rex1と結合パートナーとの結合又はP-Rex1活性を調節するか否かを決定すること;
を含む。
【0066】
細胞は、P-Rex1を発現する野生型細胞、又は細胞中でP-Rex1の直接的な発現を導く外因性の核酸を含む野生型細胞であることができる。
【0067】
本発明によればまた、P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質又はP-Rex1活性の調節物質を同定するための、細胞に基づくアッセイであって、以下のステップ:
標識を含む、本発明のタンパク質、又は(緑色蛍光タンパク質のような)標識を含む、本発明の融合タンパク質、或いは、内因性のP-Rex1から識別可能な、P-Rex1活性を有するP-Rex1の異形を提供すること;
調節物質候補の存在下及び非存在下で、P-Rex1と結合パートナーとの結合のための、又はP-Rex1の活性化のための刺激物質で、該細胞を刺激すること;及び
調節物質候補が、P-Rex1と結合パートナーとの結合、又はP-Rex1活性を調節するか否かを決定すること;
を含む上記アッセイも提供される。
【0068】
P-Rex1の結合又は活性は、スーパーオキサイド形成、化学走性、ラメリポディア形成によって、又はリポーター遺伝子の発現、蛍光の使用、1の細胞内位置若しくはコンパートメントから他へのタンパク質の移動の測定によって、或いはラメリポディア形成を調べることによって、決定されることができる。刺激は、好ましくは、例えばスーパーオキサイド形成、化学走性、又はラメリポディア形成を刺激する、炎症性メディエーターである。
【0069】
細胞に基づくさらなるアッセイは、調節物質候補の存在下及び非存在下において、細胞中でP-Rex1を過剰発現させること、及び該調節物質候補によってラメリポディア形成が変化したか否かを決定することを含む。
【0070】
同定されたいずれかの調節物質がP-Rex1活性又はP-Rex1と結合パートナーとの結合を調節していることを確認するために、適切な対照が必要であることは、理解されるであろう。
【0071】
細胞に基づく好ましいアッセイが以下に列挙される。これらのアッセイにおいて、細胞透過を可能とするために、刺激物質の添加前に細胞は調節物質候補を含む培地中で30分間インキュベートされる。
【0072】
1.ミエロイド由来細胞を用い、ルミネッセント試薬としてルミノールを用いて、スーパーオキサイド形成の産生を測定する。細胞は、ホルボールエステル、リポポリサッカライド、ケモカイン、C5、又はオプソニン処理粒子のような適切な刺激物質で刺激される。P-Rex1刺激によるスーパーオキサイド形成を選択的に阻害する化合物を識別するために、アッセイ中で使用される細胞は、野生型細胞又はP-Rex1でトランスフェクトされた細胞或いはP-Rex1の不活性突然変異体を含むことができる。
【0073】
2.ミエロイド由来細胞を用い、例えばボイデンチャンバー中で、細胞の化学走性刺激物質への遊走を測定する。適切な刺激物質は、ホルボールエステル、リポポリサッカライド、又はケモカイン刺激物質を含む。P-Rex1刺激によるスーパーオキサイド産生を選択的に阻害する化合物を識別するために、アッセイ中で使用される細胞は、野生型細胞又はP-Rex1でトランスフェクトされた細胞或いはP-Rex1の不活性突然変異体を含むことができる。
【0074】
3.PC12又は他の好適な細胞タイプが、P-Rex1のPHドメインをGFPとともに含む構築物及び標準的な方法論を用いて得られた安定なプールでトランスフェクトされる。或いは、GFP融合タンパク質は、本分野で知られたプラスミド又はウイルス(例えば、レトロウイルス)に基づく方法を用いて安定に又は一過性に細胞中で発現されることができた。細胞はその後、底面からの蛍光測定に好適なマイクロタイタープレートに播かれ、付着させられた。細胞中でPIP3産生を刺激するために、調節物質候補が添加され、続いて、例えば、PC12細胞の場合にはEGF、或いは他の細胞タイプにおいては他の適切な刺激物質が添加される。アッセイは、Cellomics ArrayScan(登録商標)IIのような適切なソフトウエアと画像処理装置を使用して、細胞質から細胞膜へのP-Rex1-GFP融合構築物の転位を測定する。阻害化合物は該構築物の細胞膜への転位をブロックするであろう。
【0075】
4.上記の方法(3)の代わりに、GFPと原形質膜片中へ導入されたアクセプター又はドナー(例えば、オキサノール)の間のFRETを測定することによって、P-Rex1-GFP融合物の転位がモニターされることができる。
【0076】
5.少なくともPDGF受容体を過剰発現しているPAE細胞においては、基底状態において、P-Rex1タンパク質の比率は原形質膜に局在している。この会合の性質は未知であるが(これが脂質又はタンパク質の相互作用であるか否かはわからない)、この基底状態の会合をブロックする化合物のスクリーニングは、GFP-完全長P-Rex1を使用して可能であった。そのような阻害物質は、P-Rex1とその基質であるRacとの会合をブロックすることができた。細胞をP-Rex1-GFP融合物でトランスフェクトし、Cellomics ArrayScan(登録商標)IIのような適切なソフトウエアと画像処理装置を使用して、P-Rex1の膜における局在を測定する。
【0077】
6.P-Rex1とGβγサブユニットの会合をブロックする化合物の細胞に基づくスクリーニングは、予想可能であった。細胞を(プレニル化によって、おそらく一緒に原形質膜に局在する)Gβγサブユニットをコードする遺伝子で安定的にトランスフェクトする。同時発現されたP-Rex1のGβγサブユニットへの親和性が充分に高い場合、GFP-P-Rex1は、内因性レベルのGβγサブユニットを発現している細胞中よりも、よりはっきりしたPMの局在を示すことができた。Cellomics ArrayScan(登録商標)IIのような適切なソフトウエアと画像処理装置を使用して、P-Rex1の膜における局在を測定する。このアプローチは、発見された他のいずれかのタイプのP-Rex1:タンパク質相互作用をモニターするために使用されることができた。
7.細胞は、ドナー蛍光(例えば、CFP)で標識されたGβ又はGγサブユニット、及びアクセプター蛍光(例えば、YEP)で標識されたP-Rex1(又はその断片)で同時にトランスフェクトされる。GサブユニットとP-Rex1の間のFRETは、FLIPR又は他の好適な装置を使用して測定されることができた。
【0078】
8.P-Rex1の過剰発現は、ラメリポディア形成の結果として「フライドエッグ」表現型の形成を誘導する。P-Rex1でトランスフェクトされた(PDGF受容体を過剰発現するミエロイド由来細胞又はPAE細胞などの)細胞が固定化され、そして透過化処理され、その後ラメリポディア形成を調べるためにローダミン−ファロイディン染色される。(細胞の形状、高さ−幅特性、縁の滑らかさなどの)細胞の形態計測学的分析又は可視的な膜のラッフリングは、Cellomics ArrayScan (登録商標)IIのような適切なソフトウエアと好適な画像処理装置又はAcumen Explorer(TTP, Cambridge)の使用によって評価されることができた。
【0079】
9.P-Rex1でトランスフェクトされた細胞は、基底状態のレポーター遺伝子発現及び(C5などの)アゴニスト刺激されたレポーター遺伝子発現について試験されることができ、ここで、(ルシフェラーゼなどの)レポーター遺伝子は血清応答因子(Rac-応答性)含有プロモーターの制御下に置かれる。ルシフェラーゼ発現の検出は、FLIPRシステム又は同等のルミネッセンス検出装置による。
【0080】
10.細胞は、PAKからのRac-相互作用ドメインとのGFP融合物でトランスフェクトされることができた。GFP−融合タンパク質の原形質膜への転位は、Rac活性化の指標とすることができる。細胞は、GFP-融合タンパク質でトランスフェクトされることができ、原形質膜におけるこの融合物の局在化は、Cellomics ArrayScan (登録商標)IIのような適切なソフトウエアと画像処理装置を使用して測定されることができる。
【0081】
11.(10)の代わりに、細胞は、PAKからのCFP標識Rac相互作用ドメイン及びYFP標識Racでトランスフェクトされることができた。(C5などの)アゴニストで刺激された細胞は、Rac活性化の結果としてFRETの増加を示す。
【0082】
12.(10)及び(11)の代わりに、細胞は、そのN及びC末端でBFP及びGFPに結合した、PAKからのRac結合ドメインを含む組み換えRacレポーターでトランスフェクトされる。Racの活性化の結果、RacとPAKからのRac結合ドメインとの相互作用及びBFPとGFPの間のFRETの変化が生じた(Graham DL, Lowe PN, Chalk PA. (2001) Anal Biochem 296, 208-17 A method to measure the interaction of Rac/Cdc42 with their binding partners using fluorescence resonance energy transfer between mutants of green fluorescent potein)。
【0083】
13.或いは、Rac活性化は、安定してRac-GFPを発現している細胞中で測定されることもできた。これらの細胞は、好適な蛍光ドナー又はアクセプターで標識されたPAKのRac結合ドメイン由来のタンパク質を負荷される。該タンパク質は、例えば、Active Motif(http://www.activemotif.com/)からのChariot(登録商標)タンパク質トランスフェクション試薬を使用して細胞中へ負荷されることができた。Racの活性化は、Rac-GFP及びRac結合ドメインの間のFRETの増加として可視化される。この方法は、Kraynov VS, Chamberlain C, Bokoch GM, Schwartz MA, Slabaugh S, Hahn KM. (2000) Science, 290, 333-337 Localized Rac activation dynamics visualized in living cells中においてより詳細に記載される。
【0084】
酵母2−ハイブリッド(又は3−ハイブリッド)システムが、P-Rex1の結合パートナーへの結合の調節物質の同定に使用されることができる。
【0085】
本発明によれば、また、P-Rex1の不活性突然変異体、該突然変異体をコードする核酸、及び野生型P-Rex1に対してよりも高い親和性をもって該突然変異体と結合可能な抗体であって、それによって該突然変異体の特異的検出を可能とする上記抗体も提供される。さらに、スクリーニングアッセイにおける該突然変異体、核酸又は抗体の使用も提供される。
【0086】
本発明によれば、また、P-Rex1−陰性細胞、細胞におけるP-Rex1の発現を阻害する阻害物質を含む細胞、及びそのような細胞からの抽出物も提供される。また、スクリーニングアッセイにおけるそのような細胞又は抽出物の使用も提供される。
【0087】
そのような突然変異体、細胞及び抽出物は、P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、又はP-Rex1活性の調節物質を同定するためのスクリーニングアッセイにおける対照として使用されることができる。
【0088】
P-Rex1遺伝子中の突然変異、又はP-Rex1遺伝子の発現産物、又はP-Rex1の発現レベル若しくはP-Rex1遺伝子の発現パターンの相違は、病気又は障害に関連しているかもしれない。そのような突然変異、又は発現における相違は、当業者に知られた標準的な技術であって、そこで(組織、細胞又は抽出物のような)病気の及び正常の生物学的材料が、病気の組織と関連するが正常の組織とは関連しない、発現におけるいずれかの突然変異又は相違があるか否かを判断するために比較されるところの上記技術によって同定されることができる。そして、同定されたいかなる相違の検出も、該病気又は障害を有する又はその疑いのある個体を同定するための診断テストの基礎として使用されることができた。
【0089】
本発明によれば、また、P-Rex1の調節物質に依存した情報伝達経路を同定するための、インビトロの又は細胞に基づくアッセイの使用が提供される。そのような使用は、好ましくは、本発明のタンパク質、核酸、ベクター、抗体、細胞、又は抽出物の使用も必要とするであろう。
【0090】
本発明の実施態様は、添付の図面を参照することによってさらに説明される:
【0091】
図1:PI3K及びGβγはRac活性化及びROS形成を制御する。
A)PI3K及びGβγは、相乗的にROS形成を刺激する。好中球のサイトゾル及び低密度膜を、ワートマニンとともに(200nM、灰色のバー)又はワートマニンなし(黒いバー)のいずれか、或いはドミナントネガティブなN17-Rac(200nM、斜線のバー)とともに、45nMの組み換えp101/p110PI3K及び/又は54nMのウシ脳Gβγをインキュベートし、そしてROS形成(SPC、0.1分間の単一光子計数)を測定した。データは、2の実験からの平均(n=4)±SDである。
B)PtdIns(3,4,5)P3は、ROS形成を刺激する。好中球のサイトゾル及び低密度膜をPtdIns(3,4,5)P3、PtdIns(3,4)P2、又はPtdIns(4,5)P2、(S/A、ステアロイル−アラキドニル、P/P、ジパルミトイル)のアイソマーとインキュベートし、ROS形成を測定した。データは、平均(n=2〜6)±分布幅(range)である。
C)PI3K及びGβγは、相乗的にRacを刺激する。好中球のサイトゾル及び低密度膜を、ワートマニン(200nM)とともに(灰色のバー)、又はワートマニンなしで(黒いバー)のいずれかでPI3K(50nM)、PtdIns(3,4,5)P3(30nM)及び/又はGβγ(左パネルでは40nM、右パネルでは200nM)とともにインキュベートし、EE-Rac1(30nM)への[α32P]-GTPの取り込みを定量した(4の実験からの平均(n=4〜8)±SD)。
D)活性Racは、ROS形成を誘導する。好中球のサイトゾル及び低密度膜を、Wt-Rac(黒いバー)又はドミナントネガティブなN17-Rac(200nM、白いバー)のいずれかとともにインキュベートし、示したグアニンヌクレオチドを前負荷して、ともにインキュベートし、Wt-Racについてはワートマニン(200nM、灰色のバー)とともにインキュベートし、ROS形成を測定した。データは、3の実験からの平均(n=2〜6)±分布幅である。
【0092】
図2:ブタ白血球サイトゾルからのPtdIns(3,4,5)P3依存性Rac-GEF活性の精製
A)クロマトグラフィープロフィール。PtdIns(3,4,5)P3依存性Rac-GEF活性を、90lのブタ血液からこの連続カラムを使用して精製した。点線は、280nmにおける吸収を表し、破線は塩濃度を示す。カラム分画を、PtdIns(3,4,5)P3とともに(太い黒線)又はPtdIns(3,4,5)P3なし(斜線であらわした線)のいずれかのリポソームを使用して、Rac-GEF活性についてアッセイした。灰色のバーは、以下の精製ステップのために選ばれた分画を表す。
【0093】
B) PtdIns(3,4,5)P3依存性Rac-GEF活性のピークを含む銀染色したSDS-pageの分画、ゲル濾過(1%分画容量)及びMono S(1.67%分画容量)精製ステップにおいてカラムから回収した。
【0094】
C)精製の概要。出発物質(100%)の絶対活性を、方法において記載した条件下、PtdIns(3,4,5)P3の存在下で、1.4ピコモルのGTPγSのRac(上記のRacのみ)上への負荷の刺激/分/mgタンパク質と計算した。
【0095】
図3:ヒトP-Rex1の構造
A)ヒトP-Rex1(配列番号:1)のアミノ酸配列。精製P-Rex1から得られたトリプシンペプチドは、残基182(K)-198(R)、913(T)-920(R)、1463(L)-1470(K)、1501(V)-1506(R)、及び1590(S)-1604(R)である。タンパク質の相同ドメインに下線を付した。これらは以下の通りである。
【0096】
【表1】

【0097】
B)P-Rex1のドメイン構造の模式的表示
【0098】
図4.ヒトP-Rex1の発現及び基質特異性
A)ノーザンブロット。Clontechからの複数の組織のノーザンブロットを、P-Rex1mRNA発現について調べた。
【0099】
B)ウエスタンブロット。EE-エピトープタグを付与したP-Rex1を一過性にCOS-7細胞中で発現させ、その後、1%Triton-X100含有緩衝液で抽出し、10,000gの上清のアリコート(5×103、5×104、5×105細胞/レーン)を抗EE抗体でイムノブロッティングした。
【0100】
C)組み換えヒトP-Rex1のGEF活性を、PtdIns(3,4,5)P3(10μM)とともに(黒いバー)又はなしで(斜線のバー)、リポソーム(各200μMのPtdCho、PtdS、PtdIns)及び示した精製GTPase(100mM)を用いて測定した。データは、3の実験の1からの、二連の平均±分布範囲である。
【0101】
図5:PtdIns(3,4,5)P3及びGβγによる、インビトロでの組み換えヒトP-Rex1Rac-GEF活性の制御
A)PtdIns(3,4,5)P3の用量応答。P-Rex1依存性のEE-Rac1活性化を、200μMのPtdCho、PtdS、PtdChoのそれぞれ及び示した濃度のPtdIns(3,4,5)P3(P-Rex1の最終濃度は100nMであった)を含むリポソームの存在下でアッセイした。データは、2の実験のプールからの平均(n=2-4)±分布範囲である。
【0102】
B) P-Rex1依存性のRac活性化の脂質特異性を、示したホスホイノシチド(S/A、ステアロイル-アラキドニル、P/P、ジパルミトイル)の10μM(黒いバー)又は0.3μMのいずれかとリポソーム(Aのとおり)の存在下で測定した。データは、別個の2の実験の1から得られた二連の平均±分布範囲である。
【0103】
C) PtdE、PtdS、PtdCho(各330μM)及び示したホスホイノシチド(6モル-%)を含むリポソームへのホスホイノシチド依存性のP-Rex1(100nM)の結合を、Biacoreによって測定した。データは、プールした4の実験からの平均±SDである。
【0104】
D)Gβγの用量応答。P-Rex1依存性のRac活性化を、示した濃度の精製ウシ脳Gβγを使用してアッセイした。1μMのGβγサンプル(0.0104%)以外についての最終的なコール酸濃度は、0.0072%であった。データは、3の実験の1からの2連の平均±分布範囲である。
【0105】
E)Gβγ効果のための対照。P-Rex1依存性のRac活性化を、示したところでは、Gβγ(0.3μM、プレニル化又は非プレニル化と示されたSf9細胞以外は、ウシ脳由来)、混合Gαサブユニット(0.23μM)、A1F(10μM)、煮沸ウシ脳Gβγ(0.5μM)、組み換えプレニル化Gβγ(0.5μM)、又は組み換え非プレニル化Gβγ(0.5μM)を使用してアッセイした。Gβγ及びGαの組み合わせについては、これら(又は対照緩衝液)を。氷上で30分間プレインキュベートした。最終的なコール酸濃度は、0.012%であった。データは、1の実験からの2連の平均±分布範囲である。
【0106】
F)P-Rex1のRac-GEF活性の制御におけるPtdIns(3,4,5)P3(0.2μM)及びウシ脳Gβγ(0.3μM)。最終的なコール酸濃度は、0.0048%であった。データは、3の実験の1からの二連の平均±分布範囲である。
【0107】
図6:ヒト組み換えP-Rex1のインビボにおけるRac-GEF活性
A)インビボにおけるP-Rex1によるRac活性化のウエスタンブロット。6cm皿中の5×106Sf9細胞のアリコートに、示したP-Rex1、Gβ1、Gγ2、p101、p110γをコードするウイルスの組み合わせまたは対照ウイルスを感染させた。培地中で42.5時間、その後血清なしで4時間培養後、細胞をPAK-Cribプルダウンアッセイにかけた。イムノブロットは、抗Rac(1番上及び2番目のパネル)抗体又は抗CDC42(3番目のパネル)抗体でプローブした。皿の0.18倍と等量の細胞を、PAK-Cribプルダウンから負荷し、総ライセートについては、皿の0.05倍を負荷した。一番下のパネルは、クマシー染色後の2番目のパネルフィルターを表す。
【0108】
B)インビボにおける、P-Rex1による相乗的なPI3K及びGβγ依存性のRac活性化。Sf9細胞に上記のウイルスを示したとおりに感染させ、そしてA)の通りに処理した。ECLに露出したフィルムを計数化し、そして示したデータは、2のプールした実験からの平均±分布範囲(n=4)である。
【0109】
C)Gβγ及び/又はPI3Kにより誘導されたSf9細胞内のPtdIns(3,4,5)P3形成を測定し(データは、平均(n=5)±分布範囲)、P-Rex1依存性のGβγ及び/又はPI3Kにより誘導されたRac活性化に対してプロットした(Bからのデータ)。
【0110】
図7:P-Rex1は、PAE細胞において、活性化Rac様の表現型を誘導する。
A)10ng/mlのPDGFで5分間刺激後(2番目のパネル)又は刺激しない(最初及び3番目のパネル)、血清飢餓状態の正常PAE細胞(最初及び2番目のパネル)又は安定にV12-RacでトランスフェクトしたPAE細胞(3番目のパネル)の免疫蛍光顕微鏡写真。固定化した細胞を、繊維状アクチンを染色するために、FITC−ファロイジンで標識した。
B)及びC)PAE細胞中におけるP-Rex1の発現。mycのタグを付与したP-Rex1又はDAPP1を一過性にPAE細胞中で発現させ、これらを培養し(10時間)、血清飢餓状態とし(8時間)、ワートマニン(100nM、10分)処理し、又はせず、そして示したとおりの範囲のPDGF濃度で5分間刺激した。細胞を固定化し、抗-myc抗体、続いて、P-Rex1又はDAPP1を標識するためのFITC2次抗体及び繊維状アクチンを標識するためのTRITC-ファロイジンで染色した。
【0111】
B)免疫蛍光顕微鏡写真。
【0112】
C)免疫蛍光顕微鏡写真データの定量。結果は、カバーガラスあたり、100のP-Rex1陽性細胞(黒いバー)又はDAPP1陽性細胞(斜線のバー)を計数することによって得た。P-Rex1データは、2の独立した実験の1からの二連のカバーガラス(平均±分布範囲)からのものである。DAPP1データは、1の実験からの条件あたりの1のカバーガラスからのものである。
【0113】
図8:P-Rex1は、ROS形成に必要である。
ヒト前骨髄球NB4細胞を、2日間、1μMのすべてトランスのレチノイン酸で分化させ、10μMのP-Rex1アンチセンスオリゴヌクレオチド又は無作為化対照オリゴヌクレオチドのいずれかで処理し、そして以下の実験にかけた。
【0114】
A)オリゴヌクレオチド処理したNB4細胞を0.15nMのC5aで刺激し、ROS形成(SPC、単一光子計数)を測定した。データは、3の実験の1からの平均±標準偏差(n=4)である。
【0115】
B)P-Rex1でトランスフェクトされたCos7細胞又は対照Cos7細胞、ヒト好中球、或いはオリゴヌクレオチド処理したNB4細胞の総ライセートを、P-Rex1発現レベルについて、ポリクローナル抗P-Rex1抗体を用いたウエスタンブロッティングによって分析した。
【0116】
C)オリゴヌクレオチド処理したNB4細胞を血清飢餓状態とし、その後、室温において3分間、示したとおりにC5aで刺激した。MapK活性化を、ホスホーMapK抗体を用いたウエスタンブロット及びブロットのデンシトメトリーのスキャンによって測定した。データは、2の実験からの平均±分布範囲(n=2)である。
【0117】
図9−1:ヒトP-Rex1のcDNA配列(配列番号:13)
【0118】
図9−2:ヒトP-Rex1のcDNA配列(配列番号:13)
【0119】
図10:A)P-Rex1のDH/PHドメインのモデル。DHドメインは濃い灰色、PHドメインは薄い灰色である。(DHドメインの触媒活性について重要であると予想される残基を含む)エキソン5によってコードされるペプチド配列は黒く表す。
【0120】
B)マウスP-Rex1遺伝子のエキソン/イントロン配置。P-Rex1のための遺伝子は、マウス染色体2、セクションH3上にあり、およそ80kbにわたる。それは、40のエキソン(グラフ中の番号1~40)から成る。
【0121】
図11:標準的な相同組み換えによるP-Rex1-/-マウス作成のための一般的プロトコール。
【0122】
図12:マウスP-Rex1ゲノム配列中の標的エリア
【0123】
図13:A)正しい部位におけるターゲティングベクター挿入を試験するためのスクリーニングストラテジー。このスクリーンは、サザンブロッティングによって、3’外部プローブ及びXmnI消化ES細胞ゲノムDNAを使用し、オリジナルの配列について18.9kbのバンド、及び標的配列について12.7kbのバンドを得た。
【0124】
B)P-Rex1標的ES細胞からのXmn1消化DNAについてのサザンブロット。3’外部プローブでブロッティングを行った。矢印は、陽性クローンを示す。
【0125】
ヒトP-Rex1のためのゲノム配列(配列番号:14)を配列リストで示す。
【0126】
PI3K、Gβγ及びPtdIns(3,4,5)P3によるRac活性化及びROS形成の制御
好中球からのサイトゾル及び低密度膜の混合物は、SDS及びアラキドン酸のような両親媒性物質の添加によって刺激され、ROSを産生することができる。我々は、MgATP及びGTPの存在下で、精製された組み換えp101/p110γ-PI3K及び精製されたGβγ(組み換えSF9由来Gβ1γ2又はウシ脳Gβγのいずれかであって、その両方が実質的にp101/p110γ-PI3Kを活性化することができる)の組み合わせを添加することによって、タイプ1PI3KがROS形成の上流を操作することができるという概念をテストした。先に我々は、類似の状況において、PtdIns(3,4,5)P3、PtdIns(3,4)P2及びPtdIns3Pがこれらのアッセイにおいて合成されることを示した(Pacold et al. 2000)。上記のアッセイが、内因性のPI3K及びGβγを含むにもかかわらず、添加された組み換えタンパク質は、独立してROS形成を刺激したが、一緒に添加された場合には、相乗的に作用した(図1A)。これらの効果は、すべて強力なPI3K阻害物質であるワートマニンによって阻害され、それは、Gβγ単独の効果がよりワートマニン感受性でないということにわれわれが注目したにもかかわらず、おどろくべきことにそれらがPI3K活性の結果であることを示唆している。化学合成されたリポソームの形態のホスホイノシチドの添加は、PtdIns(3,4,5)P3の生物学的ジアステレオマーが強力にROS形成を活性化することができたことを示した(図1B)。これらの結果の立体選択性は、これらの効果が、添加されたPtdIns(3,4,5)P3の生理化学的性質の結果ではないことを示唆し、PI3Kが膜脂質をリン酸化し、したがって膜に局在する脂質産物を生成するという、上で得られた結果を支持するものである。
【0127】
Racの活性におけるPI3Kの重要な役割及びオキシダーゼ複合体の構築においてRacが行う重要な部分を定める文献の関係において、我々は、これらの効果はRacの活性化に依存するのか?という質問をした。少量の純粋な組み換えの翻訳後脂質修飾されたEE-Rac1及び[α32P]-GTPをこれらのアッセイに添加することによって、我々はp101/p110γ-PI3K及びGβγが独立して、そして組み合わせると相乗的にRacを活性化することを示すことができた(図1C)。p101/p110γ-PI3Kは単独で、そして非常に低濃度のGβγとの相乗的組み合わせにおいて、顕著にワートマニン感受性の様式でRac1活性化を刺激した。対照的に、より高濃度のGβγは、ワートマニン耐性の様式でRac1活性化を刺激した。PtdIns(3,4,5)P3は、単独でもRac1の活性化を刺激した。これらの結果は、Racがこのシステムにおいて、p101/p110γ-PI3Kの下流に作用することを示唆した。我々は、純粋な脂質修飾されたドミナントネガティブなN17-Rac1と、我々のサイトゾル及び膜の分画とのプレインキュベーションによる、Rac活性化を阻害する試みによって、これをテストしようと考えた。この処理は、顕著にp101/p110γ-PI3Kを介するROS形成の活性化及びGβγを介するROS形成の活性化を阻害した(図1A)。さらに、N17-Rac1濃度の増加は、いかなるより大きな阻害も生じなかった(示さない)。PtdIns(3,4,5)P3刺激によるROS形成は、PI3K刺激によるROS形成よりは有効性が低いにもかかわらず、N17-Rac1によっても阻害された(35%の平均、データは示さない)。
【0128】
上記のデータは、これらのアッセイ中で、ROS形成の刺激において、Racがp101/p110γ-PI3K、Gβγ及びPtdIns(3,4,5)P3の上流に作用することができることを示唆する。我々は、純粋な組み換えの脂質修飾されたRacがROS形成を刺激することができたか否かをテストした。GTPγS-Rac1は、実質的にGDP-Rac1又はGTPγS処理されたN17-Rac1よりもより効果的にROS形成を刺激した(図1D)。この結果の意味するところは、ROS形成の刺激にはRacの活性化で充分であるということである。しかしながら、これは、好中球サイトゾル及び膜分画の複合体混合物という状況にあり、その結果これらの効果は実際に他の情報に依存するかも知れない。我々がこのシステムにおいて観察したPtdIns(3,4,5)P3依存性のRac1活性化は、この効果が、好中球サイトゾル中又は膜分画中のいずれかに存在するPtdIns(3,4,5)P3-感受性Rac-GEFによって仲介されるということを示唆した。
【0129】
PtdIns(3,4,5)刺激によるRac-GEF活性が、サイトゾル分画において回収されたことを見出し、この供給源からこれを担う酵素を精製しようと試みた(図2)。精製中に使用されたアッセイは、上記で使用したアッセイの変法であり、PtdIns(3,4,5)P3(最終的に10μM)を伴なうか又は伴なわない、リン脂質混合物のリポソーム(PtdCho、PtdS、PtdIns)の存在下における、純粋な組み換えの脂質修飾されたEE-Rac1への亢進された[35S]-GTPγSの結合に関するRac-GEF活性を定量した。高速Qセファロース上でのサイトゾルの分取は、PtdIns(3,4,5)P3感受性Rac-GEF活性の主要ピークを分離した。活性のこのピークは、SP-セファロース、ヘパリンセファロース、ゲル濾過およびMono Sを介してさらに精製されて(図2A)、その両方が最後の2のカラムの間にRac-GEF活性の溶出プロフィールで完全に較正された、196kDの主要バンド及び142kDの小さなバンドである、2の検出可能なタンパク質のみを含む調製物を得た(図2B)。どちらのタンパク質もニトロセルロースへ移され、トリプシン消化され、得られたペプチドはMALDI-TOF及びN-末端配列決定によって分析された。これは、142kDの小さなバンドがほとんど確実に主要なバンドのタンパク分解断片であり、該タンパク質が新規であるということを確立した。我々は、該タンパク質をPtdIns(3,4,5)P3依存性Racエクスチェンジャーからとって、P-Rex1と名づけた。
【0130】
ヒトP-Rex1のクローン化及び発現
我々は、ランダムプライム法によるヒトU937細胞及び脾臓cDNAライブラリーからのライブラリースクリーニングとヒト白血球マラソンレディ(marathon-ready)cDNAライブラリーからのPCRの組み合わせを用いて関連するヒト遺伝子をクローニングした。これらのアプローチによって、通過可能なKozak配列及びN末端におけるCGに富む領域がこれに先立つ、開始ATGを有するが、上流の停止コドンを有さず、我々が真の開始ATGを同定していないというわずかな可能性を残す、4980bpの新規な完全長のORF(受け入れ番号AJ320261)が得られた。基礎となるゲノム配列は、P-Rex1のコード配列が41のエキソン中に配置され、q13.13.における20番染色体の300kb超にわたる(AL131078、AL049541、AL445192、AL035106、AL133342)。また、スプライスバリアント及び8番染色体上の潜在的な相同体が存在する可能性も明らかとなった(データベースエントリーESTBAB14375を参照のこと)。
【0131】
P-Rex1タンパク質の配列は、1659アミノ酸の長さであり、185kDのタンパク質であることが予想され、精製ブタ酵素から得られた5のトリプシンペプチドすべてを含む(図3A)。該タンパク質は、RhoファミリーのGEFに典型的なタンデムDH/PHドメイン、2のDEF及び2のPDZドメインを有し、並びにそのC末端側半分にわたって、イノシトールポリホスフェート4−ホスファターゼに対する顕著な類似性を有する(図3B)。
【0132】
我々は、P-Rex1をコードする配列の673塩基対から作製したプローブで、Clontechからのヒト複数組織のノーザンブロットを調べることによって、P-Rex1mRNAの発現について研究した。ノーザンブロットは、完全長のP-Rex1mRNAの予想サイズと一致する、およそ6kbの主要バンド及びそのすぐ下の小さなバンドを明らかにした。それらは、P-Rex1が主に末梢血白血球及び脳において発現され、脾臓及びリンパ節ではより少なく、そして他のほとんどの組織では非常に弱く発現されることを示す(図4A)。
【0133】
我々は、N-末端EEエピトープを有するP-Rex1をCOS-7細胞中で一過性に発現させ、そして抗EEウエスタンブロットは、見かけの分子量197kDのタンパク質を細胞ライセート中において明らかにした(図4B)。
【0134】
インビトロにおける、P-Rex-1によるPtdIns(3,4,5)P3-及びGβγ-依存性のRac活性化
我々は、SF9細胞においてN-末端EEタグを有するP-Rex1を発現させた。タンパク質は良好に発現し、プロテインG−セファロースにクロスリンクした抗-EEモノクローナル抗体を使用する1のステップにおいて95%を超える純度に精製されることができた。
【0135】
組み換えP-Rex1は、精製タンパク質に非常に類似したPtdIns(3,4,5)P3-感受性Rac-GEF活性を表した。我々は、多様なRho-ファミリーGTPase及び翻訳後脂質修飾をされたか又はされないRacタンパク質或いは異なるエピトープタグを有するRacタンパク質についてのP-Rex1の特異性をテストした。P-Rex1はRac1、Rac2及びCDC42に対して類似したPtdIns(3,4,5)P3-感受性の活性、並びにRhoAに対して低い活性を表した(図4C)。興味深いことに、Rac1タンパク質は、これらのアッセイにおいて基質として働くために、脂質修飾される必要はなかった(図4C)。
【0136】
P-Rex1のRac-GEF活性のさらなる分析は、PtdIns(3,4,5)P3が、0.3μMにおいて最大効果の50%を有し(図5A)、該濃度においてP-Rex1は、その他のジアステレオマーに比べてPtdIns(3,4,5)P3の生物学的なD-ジアステレオマーに対して顕著に選択性であったということを示した(図5B)。10μMにおいて異なるホスホイノシチドが比較された場合、P-Rex1はなおPtdIns(3,4,5)P3に対して選択的であり、PtdIns(3,4)P2の生物学的なジアステレオマーによって弱く活性化されたが、他のホスホイノシチドでは活性化されなかった(図5B)。我々は、P-Rex1がステアロイル−アラキドニル脂質によるよりも、ジパルミトイルPtdIns(3,4,5)P3によって明らかにより立体選択的な様式で活性化されたことを観察した。我々は、ARAP3による類似の効果を観察したが(Krugmann et al. 2002)、これらの脂質調製物は、PKBを完全に立体特異的に活性化し、PDK-1を同一の部分的選択性をもって活性化した(Stephens et al. 1997)。我々は、これがホスホイノシチドとそれらに結合するタンパク質の間の脂肪酸感受性の相互作用を反映していると推測する。
【0137】
我々は、可溶性P-Rex1及びデキストランコーティングしたL1金チップ上に固定化されたPtdIns(3,4,5)P3-又はPtdIns(3,4)P2含有リン脂質ビヒクルの間の相互作用を、表面プラズモンエネルギー移動技術(BiaCore)を利用して分析した。リン脂質ビヒクルへのP-Rex1の結合は、PtdIns(3,4,5)P3を含ませることによって実質的に増強され、PtdIns(3,4)P2によってより少なく増強された(図5C)。リン脂質ビヒクル中のPtdIns(3,5)P2、 PtdIns(4,5)P2、PtdIns3P、PtdIns4P、又はPtdIns5Pの存在は、P-Rex1の結合を弱く増加させたのみであった。これらの結果は、我々のアッセイにおいて、PtdIns(3,4,5)P3が、P-Rex1と相互作用するためにRacの分布又はRacの能力に影響する等の間接的な効果よりも、むしろ直接的な効果をP-Rex1に対して及ぼすという考えに一致する。
【0138】
GβγがP-Rex1を直接的に活性化できるという可能性を支持する直接的なアッセイデータを我々が有さなかったにもかかわらず、Gタンパク質へテロ三量体と相互作用するタンパク質中に共通して発生するDEFドメインの存在及び好中球サイトゾル/膜混合物についての我々の先の結果は、我々がGβγのP-Rex1 Rac-GEF活性に対する効果をテストすることを後押しした。ウシ脳からの純粋なGβγ又は同時感染したSF9細胞からの組み換えG-EE-β1γ2として調製されたGβγは、どちらもインビトロでP-Rex1 Rac-GEF活性を増強させた(図5D)。Gβγの効果は、先に加熱すること(95℃で30分)によって消滅させられ、精製されたGDP‐結合Gαと先に結合させることによって実質的に阻害され、組み換えGβγの場合には、それらの翻訳後脂質修飾に依存して阻害される(図5E)。Gαは、単独又はA1Fの存在下では、P-Rex1 Rac-GEF活性を増強しなかった。(我々がGβγ及びGαタンパク質の調製物のための貯蔵緩衝液中で使用する界面活性剤である)コール酸塩は、P-Rex1 Rac-GEF活性を強力に阻害し、結果的に、実験中のGβγの効果のスケールは、Gβγ及び総コール酸塩濃度を併せた関数である。我々は、Gβγ及びPtdIns(3,4,5)P3の併用効果を試験した(図5F)。P-Rex1は、Gβγ及びPtd(3,4,5)P3によって相乗的に活性化され、これは、それらの効果が異なるメカニズムを介していることを示唆する。
【0139】
インビボにおける、P-Rex1によるPtdIns(3,4,5)P3-及びGβγ-依存性のRac活性化
細胞中でのRac対CDC42についてのP-Rex1の選択性、及びGβγ及びPtdIns(3,4,5)P3の効果の生理学的な重要性に関する疑問に答えるために、我々は、SE9細胞中での内因性のRac及びCDC42の活性化の研究を可能とする、関連するバキュロウイルスを調製した。我々は、P-Rex1、p101/p110γ-PI3K及びGβ1γ2の産生を推進するバキュロウイルスに感染したSF9細胞が、内因性のGTP-Racのレベルを増加させるが、内因性のGTP-CDC42のレベルは変化させないことを見出し、これはインビボにおいてP-Rac1がRac-GEFとして作用することを示唆する(図6A)。さらに、p101/p110γ-PI3K及びGβ1γ2によるRac活性化のパターンは、インビトロにおける我々の結果と一致し、P-Rex1 Rac-GEF活性の相乗的な増強を示した(図6A及びB)。PI3K及びGβγの同時発現が、PI3Kのみの発現に比べて顕著に高いPtdIns(3,4,5)P3の産生を導いたにもかかわらず、PtdIns(3,4,5)P3及びGTP-Racの増加を直接比較すると、Gβγ及びPI3Kの存在下におけるRac活性化が、PtdIns(3,4,5)P3の増加のみによって説明されるよりも実質的に大きいということを明らかに示した(図6C)。
【0140】
P-Rex1は、PDGF刺激されたPAE細胞中で構成的活性型Racのような表現型を誘導する
我々は、P-Rex1が哺乳動物細胞において、細胞表面受容体の下流の情報伝達経路によって制御され、そしてRac-GEFとして作用することができるという証拠を探した。我々は、安定的にPDGFβ受容体を過剰発現するブタ大動脈内皮(PAE)細胞株を使用した。これらの細胞においては、PDGFはPtdIns(3,4,5)P3の蓄積、Racのワートマニン感受性の活性化、及びRac依存性の膜のラッフリング及びラメリポディア形成を刺激し、構成的活性型V12-Racの安定的な過剰発現が非常に誇張されたラメリポディア(「フライドエッグ」)の形成を引き起こす(図7A、及びHawkins et al. 1995, Welch et al. 1998)。
【0141】
PAE細胞は、一過性にN-末端mycタグを付与されたP-Rex1でトランスフェクトされ、血清飢餓状態とされ、細胞の形状及びmyc-P-Rex1の分布に対するPDGF刺激の効果が間接的免疫蛍光顕微鏡法によって分析された(図7B)。血清飢餓状態の非刺激myc-陽性細胞の大半において、いくらかのP-Rex1が原形質膜に局在するように見えるにもかかわらず、P-Rex1は主にサイトゾルに局在しており、細胞は典型的な基底状態の形状を有した。しかしながら、非刺激myc-陽性細胞の約30%において、P-Rex1の発現は、構成的活性型V12-Racによって誘導されたものと同一の非常に誇張されたラメリポディア(「フライドエッグ」)の形成を引き起こした。V12様の表現型を示す細胞の比率は、ワートマニン処理された細胞において半分に減少し(図7B及びC)、それが基底状態のPI3K活性によって誘導されたことを示唆していた。PAE細胞のPDGF刺激は、V12-Rac様の表現型を表すP-Rex1陽性細胞を80%まで増加させ、この増加は、ワートマニン感受性でもあった。V12-Rac様の表現型の誘導は、P-Rex1陽性細胞に特異的であり、平行した試験におけるDAPP1によって誘導されなかった。V12-Rac様の表現型を示す細胞において、P-Rex1はなお、主にサイトゾルに局在していたが、ラメリポディアの縁における皮質下のアクチンリングの顕著な同時ステイニング及び原形質膜中のP-Rex1のわずかな可変の蓄積が起こった。しかしながら、原形質膜の転位は、平行した実験におけるDAPP1についてよりもより弱く且つより明確でなかった。我々がGFPタグを付与されたP-Rex1の分布を対照及びPDGF刺激されたPAE細胞において共焦点走査顕微鏡によるライブ画像処理によって調べた類似の実験は、同じ結果となった(示さない)。したがって、PI3Kの活性化は、P-Rex1の原形質膜への大規模な転位を起こさず、P-Rex1を介するラメリポディアの強い形成を誘導するのに充分であった。これらの結果は、P-Rex1がRac-GEFとして作用可能で、哺乳動物細胞中の細胞表面受容体の下流の情報伝達経路によって制御されることを示唆する。
【0142】
好中球様の細胞株におけるアゴニスト刺激によるROS形成は、P-Rex1に依存する
我々は、レチノイン酸及びP-Rex1を標的とするホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド又は無作為化対照オリゴヌクレオチドのいずれかで、前骨髄球細胞株(NB4)を処理した。2日後、両方の細胞母集団は正常に分化し、C5aに応答して識別不能なMAPK活性化(図8C)、及びβ-COPの発現を示した(示さない)。対照的に、アンチセンス処理した培養においては、特に、P-Rex1のレベルは80〜85%低下し(図8B)、そしてC5a刺激によるROS形成は、約40〜45%低下した(図8A)。
【0143】
最後に、P-Rex1のC末端側半分は、イノシトールポリホスフェート4−ホスファターゼと実質的に相同であるため、我々は、32P-PtdIns(3,4,5)P3及び32P-PtdIns(3,4)P2を基質として、そしてイノシトールポリホスフェート4−ホスファターゼ及びSHIP-1を対照として用いて、該タンパク質がイノシトールポリホスフェート4−ホスファターゼ活性を有するか否かを決定することを試みた。我々はまた、プロテインホスファターゼアッセイにおいて、スペクトルの広い基質としてパラ−ニトロフェノールホスフェートを使用し、ウシ小腸アルカリホスファターゼ及びMEG-2チロシンホスファターゼを対照として使用した。これらのアッセイ中の1.45μM以下及び192nM以下のそれぞれのP-Rex1濃度において、酵素は、脂質ホスファターゼ活性又はプロテインホスファターゼ活性のいずれも示さなかった。
【0144】
我々の知識によれば、いかなるRhoファミリー又はRasファミリーGEFもうまく精製されず、それらのGEF活性に基づいて同定されていない。Rac-GEFの場合、これは、ライセート中の活性又は特異的情報伝達に含まれる活性は、稀に特別なGEFによるのみであり、さらに、いかなるGEFによる総細胞内GEF活性への貢献も不明であるということを意味する。我々は、Q−セファロース上のクロマトグラフィーによって好中球サイトゾルを分離し、PtdIns(3,4,5)P3感受性Rac-GEF活性の主要ピーク(PtdIns(3,4,5)P3の存在下においては、総Rac-GEF活性の約65%を示した)を見出し、これを精製し、クローン化してP-Rex1と名づけた。P-Rex1は、サイトゾルタンパク質の約0.1%の、驚くほど豊富なタンパク質である(これに比べて、類似の分画から精製されたPI3Kタイプ1Bについては、0.001%である)。
【0145】
我々の結果は、PtdIns(3,4,5)P3がインビトロにおいて実質的にP-Rex1 Rac-GEF活性を増強することができること、及び細胞表面受容体がインビボにおいて、PI3K依存性の様式でP-Rex1を活性化することができることを示す。さらに、我々は、P-Rex1が選択的にPtdInx(3,4,5)P3含有リン脂質ビヒクルを結合することができることを実証する。しかしながら、インビボにおいて、P-Rex1は実質的にサイトゾルからPtdIns(3,4,5)P3の蓄積部位へ転位せず、むしろ、該酵素は血清飢餓細胞中の膜に部分的に局在化している。これらの結果の意味するものは、PtdIns(3,4,5)P3が、P-Rex1を膜にターゲティングさせることよりもむしろ、触媒的に重要なコンフォメーションシフトを誘導すること、又はP-Rex1を膜表面に再配向させることによって該酵素を活性化することができるということである。これは、DHドメインGEF活性のホスホイノシチド阻害されたリプレッサーとしてのRhoファミリーGEFのタンデムDH/PHドメイン中のPHドメインの役割についての新たな見解に、全体として適合する(Worthylake et al. 2000の導入部を参照のこと)。これは、脂質の結合が純粋に膜ターゲティングデバイスとして作用する、PLCδのようなタンパク質中のPHドメインの役割についての一般的に受け入れられた見解とは全く異なる。
【0146】
いくつかのデータが、好中球様の細胞中のヘテロ三量体Gタンパク質の活性化が、Rac-GEF活性を刺激することができること(Geijsen et al. 1999)、そしてさらに、好中球ライセート中におけるGβγのRac-GEF活性に対する(対照よりも約40%高い)小さな効果が報告されている(Arcaro 1998)。P-Rex1は、Gβγによって直接的に活性化されることのできるRac-GEFの最初の例である。相乗的にP-Rex1を活性化するというGβγ及びPtdIns(3,4,5)P3の能力は、これらの制御物質が同時に、独立した部位、われわれはこれらの部位を同定していないが、に結合可能であることを示唆する。したがって、P-Rex1は、その数が増加している、p101/110γ-PI3K及びPLCを含む好中球中でGβγサブユニットによって制御されるエフェクタータンパク質リストの一つとなる(Sternweis and Smrcka 1992)(上記を参照のこと)。
【0147】
Gタンパク質を介する好中球中での情報伝達経路は迅速に応答し、例えば、Racの最大活性化は10秒以内で起こり得る。血清飢餓細胞において、p101/p110γ-PI3K及びP-Rex1の両方が部分的に膜に局在し、サイトゾルからのいかなる転位をも必要とせずに膜のレベルで活性化される(Krugmann et al. 2002)という事実は、おそらくこの迅速性に寄与する。
【0148】
我々のデータは、Gタンパク質に結合した受容体からの、そしてGβγ、PI3Kタイプ1B及びPtdIns(3,4,5)P3、並びにROS形成を促進するためのRac活性化を介する好中球中における情報伝達経路の存在と一致する。これらの結合を示唆する顕著な研究があるが、これは、適切なRac-GEFがない場合には弱くなった。該文献はまた、このモデルと明らかに一致しない質の高い研究をも含み:fMLPのようなリガンドによるRacの活性化がPI3K阻害物質に対して耐性であることが示された(Geijsen et al. 1999、導入部を参照のこと)。我々の結果は、可能性のある説明を提供し、それは、fMLPのようなリガンドによる刺激の早期に、GβγによるP-Rex1の活性化がPtdIns(3,4,5)P3を介する活性化よりも重要であるかも知れず、それはなぜなら、Gβγによるp101/p110γ-PI3Kの刺激によってPtdIns(3,4,5)P3レベルの上昇するからである、ということを彼らは示唆している、というものである。さらに、この現象は、fMLPに応答して20倍低いPtdIns(3,4,5)P3を産生する、初回刺激されない好中球において誇張されるであろう(Condliffe and Hawkins, 2000)。これは、文献中に見られたものと全く同じであり、実際的に初回刺激されない好中球を用い、また、最短時間(10秒)での刺激も行った研究者らは、fMLPによるRac活性化がPI3K阻害物質に対して大きな耐性を有することを見出した(Geijsen et al. 1999)。刺激のより後の時点で(1分)PI3K阻害物質をテストした研究者らは、PI3K阻害物質が実質的に、しかし完全にではなく、Rac活性化を阻害することを見出した(Akasaki et al. 1999, Benard et al. 1999)。
【0149】
P-Rex1は、おそらく同じ膜内にある、併合されたPtdIns(3,4,5)P3及びGβγ対単離されたPtdIns(3,4,5)P3及びGβγの出現率に対応するように設計されたことが明らかな同時発生的検出物質である。好中球において、情報のこの組は、原形質膜中の大きなGiタンパク質母集団及び実際にGβγを含む膜中のPtdIns(3,4,5)P3の蓄積を推進する(特に造血系細胞において濃縮された)Gβγ感受性p101/p110γ-PI3Kとの関係においてGタンパク質に結合した受容体の活性化によって自然にデリバリーされる(Stephens et al. 1997)。この共同作用の重要性は、主にタンパク質チロシンキナーゼに基づくメカニズムを介してPI3Kタイプ1Aを活性化するGM-CSFのようなリガンドが顕著なPtdIns(3,4,5)P3の蓄積を起こさないにもかかわらず(Corey et al. 1993)、検出可能なRacの活性化を起こさない(Geijsen et al. 1999)という事実に反映されているのであろう。他の細胞成分においては、おそらく脳においては、P-Rex1が、PI3Kタイプ1A及びGi/Goタンパク質の同時発生的活性化をデリバリーする特別な情報伝達パターンの検出に関連することができると容易に想像される。このタイプの制御は、Racが例えば神経突起の伸長において主要な役割を演じるという観点から、特別な細胞接触の形成又は強化において特別に重要であることができた(Luo et al. 1997)。
【0150】
実験手順
材料
GTPase単量体(EE-Rac-1、GST-Rac-1、EE-N17 Rac1、EE-Rac2、GST-CDC42、GST-RhoA)を、GDPに結合した状態で95%を超える純度でSf9細胞から精製し、1%(w/v)コール酸塩、5μMGDP、5mM MgCl2、1mM EGTA、1mM DDT、0.15M NaCl、40mM Hepes/NaOH pH7.4(4℃)中に保存した。非脂質修飾GST-Racは細菌に由来する。Gβγは、ウシ脳(Sternweis and Robishaw 1984)又はSf9細胞(そのどちらも野生型EE-β1、γ2及び非プレニル化突然変異体EE-β1、C186S-γ2)から精製し、1%コール酸塩、1mM DDT、20mM Hepes/NaOH pH8.0(4℃)5μM GDP(ウシ脳Gβγのために)、及び1mM EDTA中に保存した。(αi1、αi2及びαoの混合物である)Gαサブユニットをウシ脳から精製し(Sternweis and Pang 1990)、50mM Hepes/NaOH pH8.0(4℃)、1mM EDTA、1mM DTT、100mM NaCl、1%コール酸塩及び10μM GDP中に保存した。P-Rex1に対するホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド及び対照を設計し、BIOGNOSTIK, Gottingen, Germanyにより製造した(アンチセンス:TCA TTG ATG GAG TAG ATC(配列番号:9)、無作為化対照:ACT ACT ACA CTA GAC TAC (配列番号:10))。
【0151】
組み換えEE-p101/ヘキサ-His-p110 PI3KをSf9細胞から作製した(Stephens et al. 1997)。無作為化アミノ末端EE−タグ付与P-Rex1を、EE-タグを利用してSf9細胞から精製し、PBS、1mM EGTA、1mM DTT、0.01%アジ化ナトリウム中に保存した。
【0152】
ステアリル−アラキドニル(S/A)-PtdIns(3,4,5)P3立体異性体を、P. Gaffneyが合成した(Gaffney and Reese 1997)。すべてのジパルミトイル(P/P)-ホスホイノシチドを、G. Painterが作製した(Painter et al. 1999)。この原稿において、別記されない限り、PtdIns(3,4,5)P3という用語はD/D-(S/A)-PtdIns(3,4,5)P3を指す。
【0153】
2の独立したアフィニティー精製された(以下のP-Rex1配列:CLHPEPQSQHE(配列番号:11)及びCAAARESERQLRLR(配列番号:12)に基づく結合ペプチドに対する)ヒツジ抗P-Rex1ポリクローナル抗体をプールし、イムノブロッティングによって内因性及び異種性P-Rex1を検出するために使用した。
【0154】
好中球サイトゾル及び膜分画とのROS形成アッセイ
好中球に富む白血球をブタ血液から単離し、0.25Mショ糖、0.1M KCl、50mM Hepes/MaOH pH 7.2(4℃)、1mM DTT、2mM EGTA、0.1mM PMSF及び1Xアンチプロテアーゼ(それぞれ20μg/mlのアンチパイン、アプロチニン、ペプスタチン及びロイペプチン)中で超音波処理し、遠心分離して(100,000×g、1時間、4℃)サイトゾル及び軽量の膜分画(0.60及び1.35Mの間のショ糖で集め、超音波処理緩衝液で洗浄した、4.5mg/mlのタンパク質)を得た。軽量の膜(3μl)を、5mM ATP、8mM MgCl2、20mM Hepes/NaOH pH7.5(4℃)、2mM EGTA、10mMβ-グリセロホスフェート、0.1mMオルトバナデート、0.1M KCl、1mM DTT、0.01%(w/v)アジ化ナトリウムを含む6μl中で、Gβγサブユニット、p101/p110γ-PI3K及び/又はN17-Rac(又は煮沸した対照)と先に混合した。氷上に25分間置いた後、15μlサイトゾル及び1mM MgGTP、20μM FAD、400μM NADPH及び200μMルミノールを含む20μlを添加した。室温で8分後、0.1分あたりの単一光子計数(SPC)を、シンチレーションカウンター中、20分まで3〜5分の間隔で定量した(サイトゾルを含まないブランクを差し引いた)。脂質を添加した場合、それらを膜とプレインキュベートし、10μM GTPγSでMgGTPを置換した。ワートマニンを添加した場合、それを、サイトゾル及び膜分画の両方と氷上で15分間プレインキュベートした。EE-Rac1を添加した場合、それに異なるグアニンヌクレオチドを結合GDPの5倍過剰で先に負荷した。
【0155】
好中球サイトゾル及び膜分画とのRac-GEFアッセイ
このアッセイは、(最終濃度30〜50nMの)純粋な脂質修飾EE-Rac-1がサイトゾルに添加され、GTP、GTPγS、NADPH、FAD及びルミノールが除かれる以外は、基本的にはROS産生についてと同様である。膜及びサイトゾル分画の混合の3分後、[α32P]-GTP(サンプルあたり20μCi)を添加した。4分後、反応を停止し、Gタンパク質セファロースに結合した抗-EE抗体を使用してEE-Racをプルダウンした。EE-Rac1上の総dpmをシンチレーション計数によって定量した(EE-Rac1を含まないブランクを差し引いた)。
【0156】
P-Rex1の精製及び組み換えP-Rex1のためのアッセイ
(ホスファチジルコリン(PtdCho)、ホスファチジルセリン(PtdS)、ホスファチジルイノシトール(PtdIns)がそれぞれ最終アッセイ濃度で200μMの)リポソームを、PtdIns(3,4,5)P3を含むか又は含まない脂質緩衝液(20mM Hepes/NaOH pH7.5(4℃)、100mM NaCl、1mM EGTA)中で超音波処理し、氷上で5mM MgCl2、50mg/ml BSA、5mM DTT、20mM Hepes/NaOH pH7.5(4℃)、100mM NaCl、1mM EGTA(100nM EE-Rac1、0.0024%コール酸塩の最終アッセイ濃度の)中、精製したGDP負荷組み換え脂質修飾EE-Rac-1の2μlとともにインキュベートした。そして、Rac-GEF活性を有する4μl(サイトゾル、カラム分画又は組み換えP-Rex1)を添加し、続いて2μlの(脂質緩衝液中、1μCi[35S]-GTPγSを含む、最終アッセイ濃度5μMの)GTPγSを添加した。30℃で10分おいた後、反応を停止し、Gタンパク質セファロースに結合した抗-EE抗体を使用してEE-Racをプルダウンし、Racの[35S]-GTPγS負荷をシンチレーションβ計数によって定量した。組み換えP-Rex1を「緩衝液A」(20mM Hepes/NaOH pH7.5(4℃)、1%ベタイン、0.01%アジ化ナトリウム、0.5mM EGTA、200mM KCl、10%エチレングリコール)で希釈し、最終アッセイ濃度50nMとした。Gβγとのアッセイにおいては、氷上での10分間の前に、2μlの緩衝液A中Gβγをリポソーム/Rac混合物に添加し、P-Rex1を5倍で添加した。
【0157】
PtdIns(3,4,5)P3依存性のRac-GEFの精製
90lのブタ血液から調製した好中球に富む白血球を30mMトリス/HCl pH7.8(4℃)、0.1M NaCl、4mM EGTA、1mM DTT、0.1mM PMSF及び0.5Xアンチプロテアーゼ中で超音波処理した。サイトゾル(100,000×gの上清)を、10mMトリス/HCl pH7.8(4℃)を含む「緩衝液B」(0.5mM EGTA、10%エチレングリコール、1%ベタイン、0.01%アジ化ナトリウム、1mM DTT、50μM PMSF、及び0.1Xアンチプロテアーゼ)で、16.7mM NaClに希釈し、30mMトリス/HCl pH7.8(4℃)及び0.1mM EDTAを含む「緩衝液B」で平衡化した400mlのQ-セファロース高速カラムに適用し、3lの0.1〜0.6MのNaClグラジエントで溶出した。0.43及び0.52Mの間のNaClで溶出したPtdIns(3,4,5)P3依存性Rac-GEF活性のピークを、20mMHepes/NaOH pH6.8(4℃)を含む「緩衝液B」で平衡化した1.4lのG25‐ファインカラム上で脱塩し、その後、同じ緩衝液で平衡化した50mlのSP-セファロース-HPカラムに適用し、500mlの0.25〜0.75MのKClグラジエントで溶出した。活性を0.31及び0.375Mの間のKClで回収し、20mM Hepes/NaOH pH7.2(4℃)を含む「緩衝液B」で平衡化した300mlのG25−ファインカラム上で脱塩し、同じ緩衝液で平衡化した12mlのヘパリンセファロースカラム上へ適用し、150mlの0.1〜0.7MのKClグラジエントで溶出した。活性を、0.55及び0.69Mの間のKClで回収した。良好な精製倍率のために選択した0.60〜0.65Mの塩にあたる分画を濃縮し、pH調整し、そして20mMHepes/NaOH pH6.9(4℃)及び120mM NaClを含む「緩衝液B」で平衡化した200mlのHPLCサイズ排除カラムに適用した。見かけの大きさである203kDに相当する104mlの後、活性を回収し、20mM Hepes/NaOH pH7.0(4℃)を含む「緩衝液B」で平衡化した1mlのMono S FPLCカラムに負荷し、54mlの0.1〜0.7M KClグラジエントで溶出した。純粋なPtdIns(3,4,5)P3依存性のRac-GEF活性を、0.375及び0.425M KClの間で溶出した。
【0158】
ヒトP-Rex1のクローン化
精製ブタPtdIns(3,4,5)P3依存性Rac-GEFのトリプシン消化物は、MALDI-TOF及びN末端配列決定によって分析されたT14、T30、T44、T69、T72の5のペプチドであった。T72は、(Tiamと相同な)マウスEstAA796530と同一であった。T14及びT69は、(イノシトールポリホスフェート4−ホスファターゼと相同な)マウスEstA1466041とほぼ同一であった。T30及びT44は、新規であった。基礎をなすヒトゲノム配列では、T44はイノシトールポリホスフェート4−ホスファターゼ相同領域に、T72は予想されたタンパク質のN-末端近くにある。これらの領域を含む予想された部分配列は、公開されている(Nagase et al. 2000)。EstAA796530をBgl2で切断し、プライム−エー−ジーンシステム(prime-a-gene system)(Promega)を使用して[α32P]‐dCTPで標識して、ヒトU937細胞ランダムプライムλ−Zap2 cDNAライブラリー及びヒト脾臓ランダムプライムλGT11cDNAライブラリーのスクリーニングのための673塩基対のプライマーを作製し、それぞれ24及び36の多様な長さのクローンを得た。平行して、基礎となるゲノム配列に基づくPCRプライマーを、マラソン−レディヒト白血球cDNAライブラリー(Clontech)のスクリーニングのために使用した。
【0159】
3の断片から完全長の配列を得て、以下のようにpBluescript(Stratgene)中にクローン化した:クローン1を最初のSph1切断部位までのP-Rex1のN末端のpBluesdriptを得るために、Sa11/Sph1で切断した。P-Rex1の真中を得るために、クローン2をSph1/Bc11で切断し、PCR由来のC末端であるクローン3をTテールベクターからBc11/Sa11で切断した。断片を3通りにライゲーションした。得られたpBluescriptのポリリンカーは、さらに、Sa11の5’側にSpe1、Not1及びPst1切断部位を有した。5’オーバーハングをPCRによって置換し、インフレームEcoRI/開始ATGを作り出した。60塩基対の3’オーバーハングは保存した。EcoR1/Spe1切断pBluescript-P-Rex1からのP-Rex1をEcoR1/Xba1切断ベクター中へライゲーションすることによって、完全長P-Rex1をmyc-又はEE-エピトープタグを有するpCMV3哺乳動物発現ベクター(Welch et al. 1998)又はN末端EE-タグを有するpAc0G1 Sf9細胞発現ベクター中へ、サブクローニングした。
【0160】
ノーザンブロット
ライブラリースクリーニングのための上記のプローブと同じプローブを、製造者の指定したとおりに、Clontechマルティプルティシューノーザンブロット(multiple tissue northern blot)をハイブリダイズするために使用した。
【0161】
表面プラスモン共鳴
100nMの精製組み換えSf9細胞由来のP-Rex1の注射の前に、L1ビヒクル捕捉チップ(Biacore)を負荷するためのさらなるホスホイノシチド(6モル%の最終濃度)を含むか又は含まない混合リン脂質ビヒクルを用いて(それぞれ330μMの最終濃度のPtdCho、PtdS、ホスファチジルエタノラミン(PtdE))、記載の通りに(Ellson et al, 2000)、アッセイを行った。
【0162】
Rac及びCDC42-GEFアッセイ並びにSf9細胞におけるPtdIns(3,4,5)P3形成の測定
インビボにおける、Rac及びCDC42−GEFのアッセイを、内因性のRac及びP-Rex1、Gβγ及びPI3Kの組み合わせを産生するように感染させたSf9細胞からのCDC42とともに、(GDPに結合したRacではなく、活性化GTPに結合したRac及びCDC42のみがPAKのCribドメインに結合するという事実に基づく)PAK-Cribプルダウンアッセイとして、記載のとおりに(Sander et al. 1998)実施した。Sf9細胞中でのPtdIns(3,4,5)P3形成の測定を、基本的に記載の通りに(Van der Kaay et al. 1996)放射性リガンド置換アッセイ(radioligand displacement assay)によって実施した。
【0163】
免疫蛍光顕微鏡観察
ブタ大動脈内皮細胞(PAE)をエレクトロポーレーションによって、一過性にpCMV3−myc-P-Rex1又はpCMV3-myc-DAPP1でトランスフェクトし、カバーグラス上で10時間培養し、続いて8時間飢餓状態にした。その後、それらを、100nMのワートマニンで10分間処理し、又はせずに続いて多様な用量のPDGFで5分間刺激した。細胞を固定し、抗-myc-エピトープタグ付与した一次抗体及びFITC−ヤギ抗マウス二次抗体でP-Rex1及びDAPP1を染色し、並びに先に記載したように(Welch et al. 1998)繊維状アクチンをTRITC-ファロイジンで染色することによる免疫蛍光顕微鏡観察のために調製した。
【0164】
NB4細胞の培養並びにMAPK及びROS形成アッセイ
(M. Lanotte, Parisからの)NB4細胞を培養し、1μMのすべてトランスのレチノイン酸の存在下で記載の通りに(Lanotte et al., 1991)、対照又はP-Rex1アンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれかの存在下で2〜3日分化させた。C5aに応答するMAPKの活性化を、(推奨された通りに使用したCell Signalling Technologyからの)抗-ホスホ-MAPK抗体(サンプルあたり5×104細胞)によるイムノブロッティングによってモニターした。ROS形成を、単一光子計数モードのシンチレーションカウンターにおけるルミノールに基づく検出を用いてモニターした(サンプルあたり3×104細胞)。
【0165】
P-Rex1ノックアウトマウス(P-Rex1-/-マウス)の作製
1)予想された表現型:
P-Rex1の制限された組織分布、その好中球中での豊富さ、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドについての我々の研究(Welch et al, 2002)に基づいて、我々は、好中球機能に対するP-Rex1の顕著な影響を予想する。P-Rex1情報伝達に含まれる他の2の酵素であるRac2及びPI3Kクラス1B(触媒的及び制御的サブユニット)、のためのマウスモデルは、これらの酵素が好中球機能に必須であることを示している(Roberts et al; Hirsch et al; Li et al; Sasaki et al; 及び我々の未公開の結果)。Rac2-/-マウスは、好中球増多、炎症性の腹腔浸出液形成の減少及びアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)感染による死亡率の増加を特徴とする(Roberts et al)。これらのマウスからの白血球は、そのアクチン細胞骨格構造、ROS形成及び化学走性の欠損を示す(Roberts et al)。D57N点突然変異により引き起こされた先天的なRac2欠損を有するヒト患者は、再発性の生命を脅かす感染症にかかり、そして彼らの好中球はRac2-/-マウスに類似した欠陥を示す(Williams et al; Ambruso et al)。PI3Kクラス1Bを欠くマウスは、細胞及び生物のレベルの両方で類似した表現型を有する(Hirsch et al; Li et al; Sasaki et al; 及び我々の未公開の結果)。我々はまた、P-Rex1-/-1マウスにおける類似の表現型を予想する。しかしながら、P-Rex1が2の異なるPI3K及びGβγからの情報を潜在的に組み込むことができるため、そしてP-Rex1が基質としてRac2のみだけでなく、他のRacイソフォーム(Rac1及びRac3)をも使用するため、我々は、P-Rex1-/-マウスがいくつかの特有のそして明白な形質をあらわすことを期待する。したがって、我々は、P-Rex1-/-マウスの特徴づけにおいて分子レベル及び細胞レベルの両方における好中球機能の欠陥、並びに好中球の補充の欠陥、そしてマウスの感染除去能力に焦点を当てる。
【0166】
2)P-Rex1-/-マウスの作製
これは、ネオマイシン耐性遺伝子カセットによってエキソン5(触媒DHドメインの重要な残基をコードしている(図10Aを参照のこと))を置換する、標準的な相同性組み換えによる完全ノックアウトとして行われる。P-Rex1の欠失は、ノーザン及びウエスタンブロッティングによって確認されることができ、後者は我々がすでに作り出したポリクローナルP-Rex1抗体を使用する(Welch et al, 2002)。
【0167】
2a)ターゲティングベクター:標的領域をコードするゲノムDNAを、ヒトP-Rex1のエキソン2〜7に対応するプローブによるマウスPAKライブラリーRPCI21(UK HGMP Resource Centre)のスクリーニングによって得た。得られたクローンは、ヒトP-Rex1のエキソン4及び5に対応するプローブによるサザンブロッティングによってチェックし、6の同一の陽性クローンを得た。エキソン5の5’側8kb〜エキソン5の3’側3kb(図12中の白い部分)にわたる領域を、マウスゲノムデータベース及びテンプレートとして陽性のマウスPAKクローンから単離されたDNAに基づいて設計されたプライマーを使用したPCRによって、3の断片でクローン化した。断片をpBluescriptII KSクローニングベクター中で構築した。その後、エキソン5を含む2kbの領域を切除し、ネオマイシン耐性遺伝子カセットを含む2kbの配列で置換した。ネオ−カセットは、ホスホグリセレートキナーゼのためのプロモーター、細菌ネオマイシン耐性遺伝子、それに続く停止コドン及びホスホグリセレートキナーゼポリAシグナルからなる。最終的な標的ベクターは16.5kbであった。
【0168】
2b)P-Rex1標的ES細胞の作製:精製され、直線化されたターゲティングベクターを、2の異なるES細胞株、E14及びCCB、中にエレクトロ-ポーレーションした。ネオマイシンを選択培地として使用して、ES細胞クローンを培養した。
【0169】
2c)サザンブロットスクリーニング:3’外部プローブ(図13A)を用いたサザンブロッティングによって、P-Rex1ターゲティングベクターの正しい挿入に関してネオマイシン耐性ES細胞をスクリーニングした。ネオマイシン耐性遺伝子カセットを有する新たなXmnI部位の挿入によって、非標的配列は、18.9kbの標識断片、そして標的配列は、12.7kbの断片を得た。
【0170】
3’プローブ/XmnIスクリーンからの陽性のクローン(E14細胞から6、そしてCCB細胞から1)を、その後、ゲノムDNAのPsiI/SpeIの二重消化物と組み合わせた5’外部プローブを用い、そしてWbaI消化DNAとともに内部プローブをも用いてサザンブロッティングによってさらに検証した。3’プローブ/WmnIスクリーンにおいて陽性だったすべてのクローンは、他のスクリーンのどちらにおいても陽性であった。
【0171】
2d)マウスの作製:(2はE14細胞株由来、そして1はCCB細胞株由来の)3の陽性のES細胞クローンを独立に単離されたBlack6マウスの胚盤胞に注射し、これらを偽妊娠雌性Black6マウス(C57BI/6 J)に移植した。これから、50を超えるキメラ仔マウスが生まれた。これらを、標的ES細胞由来の体の部分(主に被毛の色)の程度によって評価し、ヘテロ接合性の子孫の繁殖のために、最も有望な雄性キメラマウスを雌性Black6(C57BI/6 J)と交配させた。生殖系列の伝達が達成されれば、(CCB細胞株由来のマウスの)アグーティの被毛の色及び(E14細胞株由来のマウスの)クリーム色の被毛が予想される。潜在的にヘテロ接合性の子孫は、その後、「尾を切断」されることができ、尾のDNAは、上記の3’プローブ/XmnIストラテジーを用いたサザンブロットによって、P-Rex1ターゲティングについてスクリーニングされることができる。陽性のヘテロ接合性マウスを一緒に繁殖させると、P-Rex1-/-マウスが得られると予想される。
【0172】
サンプル調製、抗−P-Rex1ウエスタンブロットのためのヒト好中球総ライセート
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、8×106細胞の10mlの、新たに精製された静止状態の(初回刺激しない)ヒト好中球。
10μlの7Mジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)を添加する(注意!適切な指示に必ず従うこと)。
室温で10分間インキュベートする。
室温で350×gで4分間回転させる。
(NaOH中へ)上清を捨てる
ペレットを4×107細胞/mlで沸騰した1×Laemmliサンプル緩衝液中に再懸濁する。
(激しく!)5分間煮沸し、この間、すべてを迅速に細いゲージの針/シリンジを通し、ボルテックスにかけることによって急速に再懸濁することを助ける。
−20℃で貯蔵する(凍結/融解が繰り返し可能である)。
ゲルへの負荷のために:さらに1×Laemmliサンプル緩衝液中、1〜3×105細胞/50μlに等しくなるように希釈する。すべてを負荷する前に煮沸+遠心による沈殿形成を再び行う(標準的なBioRadサイズ、20ウエルのコーム、1mM SDS PAGEの1ウエルに対して可能)。(比較のために、等量の2〜6×104HL60細胞又は0.3〜1×105NB4細胞、1×104のトランスフェクトされたCOS細胞(陽性対照)、1〜3×105のトランスフェクトされたCOS細胞(陰性対照)を負荷する。)
【0173】
抗−P-Rex1のウエスタンブロット
Immobilon−P(millipore, PVDF膜)上へ湿潤の状態で移行させる(ポンソー染色しないこと、決して膜を乾燥させないこと)。
TBS-Tween(20mM トリス pH8.0 室温(!)、150mM NaCl, 0.1% Tween 20)中で膜をすすぐ。
ブロック#1:TBS-Tween+5%乾燥脱脂乳中、室温、1時間振とうする(pHを再調製しないこと)。
ブロック#2:ブロック#1と同様、しかし、1%の正常ウサギ血清を加える。
第1AB:1:1500にアフィニティー精製したヒツジ抗−ヒトP-Rex1ポリクローナル抗体、室温、ブロッキング溶液#2中で振とうする。(ABをブロック溶液に加える前に、TBS-Tween中で1:10に先に希釈し、凝集物を除去するために、4℃で、微量遠心管中、最大速度で45分間遠心分離する。)
洗浄(激しく!):3回すすぎ+6×10分間、室温、ブロック溶液#1中で振とう。
第2AB:ブロック溶液#2中、1:5000のウサギ抗−ヒツジHRP抗体(Santa Cruz)、1時間、室温、振とう
洗浄:ブロック溶液#1中、3回すすぎ+6×5分、室温、振とう。続いて、TBS-Tween中、2×5分
ECL-PLUS(Amersham)
【0174】
アフィニティー精製したヒツジ抗−ヒトP-Rex1ポリクローナル抗体:
−20℃において!(50%グリセロール含む、したがって、凍結しない。)、アザイドを含む、−80℃で凍結しないこと。
【0175】
陽性ウエスタンブロット対照:P-Rex1でトランスフェクトしたCOS7細胞のライセート。レーンあたり、1及び10μlの間で使用する。
【0176】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【図面の簡単な説明】
【0177】
(原文記載なし)
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9−1】

【図9−2】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
P-Rex1、又はP-Rex1活性を保持するその誘導体のアミノ酸配列を含む、実質的に単離された形態のタンパク質。
【請求項2】
Rac-GEF活性を保持するP-Rex1誘導体のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
ヒトP-Rex1のアミノ酸配列(配列番号:1)を含む、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項4】
配列番号:2〜8のうちの1以上のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質をコードする配列を含む、実質的に単離された形態の核酸。
【請求項6】
ストリンジェントな条件下で、請求項5に記載の核酸、又は請求項5に記載の核酸に相補的な核酸にハイブリダイズすることのできる、実質的に単離された形態の核酸。
【請求項7】
請求項5に記載の核酸に相補的な、請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
好ましくは、発現ベクターである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項10】
細菌細胞、哺乳動物細胞、酵母細胞、植物細胞、又は昆虫細胞である、請求項9に記載の宿主細胞。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質の製造方法であって、上記タンパク質の発現のための条件下で、上記タンパク質の発現を導くことのできるベクターを含む宿主細胞を培養することを含む、前記方法。
【請求項12】
P-Rex1を発現させる方法であって、それによってP-Rex1の発現が挿入されたプロモーターの制御下にあるように、P-Rex1をコードする染色体DNAの上流に挿入することのできるプロモーターを含むベクターで、P-Rex1をコードする染色体DNAを含む宿主細胞を形質転換することを含む、前記方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質に結合することのできる抗体。
【請求項14】
上記タンパク質に特異的なエピトープを認識する、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の核酸を増幅するための、オリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項16】
P-Rex1活性に拮抗することのできるP-Rex1の断片又は誘導体。
【請求項17】
P-Rex1の発現を阻害することのできる、アンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
P-Rex1活性、P-Rex1の結合パートナーとの結合、又はP-Rex1発現の阻害物質。
【請求項19】
それによってP-Rex1遺伝子からのP-Rex1の発現を阻害するために、上記遺伝子との相同性組み換えを行うことのできる核酸を含む、ベクター。
【請求項20】
分裂させられたP-Rex1遺伝子に対しヘテロ接合性又はホモ接合性である、非ヒト組み換え動物。
【請求項21】
P-Rex1遺伝子ノックアウトマウス、又はP-Rex1遺伝子ノックインマウス。
【請求項22】
上記タンパク質のアフィニティー精製を可能とする精製タグをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項23】
上記タンパク質の検出を可能とする標識を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項24】
上記標識が蛍光物質又は放射性標識である、請求項23に記載のタンパク質。
【請求項25】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質を含む、融合タンパク質。
【請求項26】
緑色蛍光タンパク質(GFP)、或いは蛍光活性を有するGFPの異形又は誘導体を含む、請求項25に記載の融合タンパク質。
【請求項27】
上記融合タンパク質のアフィニティー精製を可能とする精製タグをさらに含む、請求項25又は26に記載の融合タンパク質。
【請求項28】
薬物発見の標的としての、請求項1〜4、又は22〜27のいずれか1項に記載のタンパク質の使用。
【請求項29】
炎症、転移、敗血症ショック、神経変性、又はアテローム性動脈硬化を減少又は阻害することのできる薬物の発見のための、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、P-Rex1活性の調節物質、又はP-Rex1発現の調節物質を同定するためのスクリーニングアッセイにおける、請求項1〜4、22〜27のいずれか1項に記載のタンパク質、又は請求項4〜6のいずれか1項に記載の核酸の使用。
【請求項31】
P-Rex1活性の調節物質を同定する方法であって、請求項1〜4又は22−27のいずれか1項に記載のタンパク質と、調節物質候補を接触させること、及び上記タンパク質の活性が上記調節物質候補によって調節されるか否かを決定することを含む、前記方法。
【請求項32】
上記調節物質候補によって上記タンパク質の活性が調節されることが見出された場合、上記調節物質候補を同定することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質を同定するための方法であって、以下のステップ:
調節物質候補の存在下及び非存在下で、請求項1〜4、又は22〜27のいずれか1項に記載のタンパク質を、結合パートナーと接触させること;及び
上記タンパク質と上記結合パートナーとの結合が、上記調節物質候補によって調節されるか否かを決定すること;
を含む、前記方法。
【請求項34】
上記結合パートナーが、PIP3、Gβγ−サブユニット、Rac、PIP3含有固定化膜、蛍光標識されたGroP-Ins(3,4,5)P4又はPIP3、蛍光標識されたGβγ−サブユニット、蛍光標識されたRac,或いは上記タンパク質に結合可能なそれらの誘導体のうちの1以上である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
上記タンパク質が結合パートナーとしてのRac-GDP、及びGTP又は加水分解不可能なGTPのアナログと接触させられる、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
上記タンパク質の結合パートナーへの結合が、調節物質候補によって調節されることが見出された場合に、調節物質候補を同定することをさらに含む、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、P-Rex1活性の調節物質、又はP-Rex1発現の調節物質を同定するための、細胞に基づくアッセイの使用。
【請求項38】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、又はP-Rex1活性の調節物質を同定するための、細胞に基づくアッセイであって、以下のステップ:
調節物質候補の存在下及び非存在下において、P-Rex1と結合パートナーとの結合のための刺激物質又はP-Rex1の活性化のための刺激物質で細胞を刺激すること;及び
上記調節物質候補がP-Rex1と上記結合パートナーとの結合又はP-Rex1の活性を調節するか否かを決定すること;
を含む、前記アッセイ。
【請求項39】
上記細胞が、野生型の細胞、又は上記細胞中でP-Rex1の発現を導く外因性の核酸を含む細胞である、請求項38に記載のアッセイ。
【請求項40】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質又はP-Rex1活性の調節物質を同定するための、細胞に基づくアッセイであって、以下のステップ:
請求項23、24又は26のいずれか1項に記載のタンパク質、又は内因性のP-Rex1から識別可能な、P-Rex1活性を有するP-Rex1の異形を提供すること;
調節物質候補の存在下及び非存在下で、P-Rex1と結合パートナーとの結合のための刺激物質又はP-Rex1の活性化のための刺激物質で上記細胞を刺激すること;及び
上記調節物質候補が、P-Rex1と結合パートナーとの結合又はP-Rex1の活性を調節するか否かを決定すること;
を含む、前記アッセイ。
【請求項41】
上記調節物質候補が上記結合又はP-Rex1の活性を調節することが見出された場合に、上記調節物質候補を同定することをさらに含む、請求項38〜40のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項42】
P-Rex1の上記結合又は活性が、スーパーオキサイド形成、化学走性によって、又はリポーター遺伝子の発現、蛍光の使用、1の細胞内位置若しくはコンパートメントから他へのタンパク質の移動の測定によって、或いはラメリポディア形成を調べることによって、決定される、請求項38〜41のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項43】
上記刺激物質がスーパーオキサイド形成、化学走性、又はラメリポディア形成を刺激する、請求項38〜42のいずれか1項に記載のアッセイ。
【請求項44】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質又はP-Rex1の活性の調節物質を同定するための、細胞に基づくアッセイであって、以下のステップ:
調節物質候補の存在下及び非存在下において、細胞中でP-Rex1を過剰発現させること;及び
ラメリポディア形成が、上記調節物質候補によって変化させられたか否かを決定すること;
を含む、前記アッセイ。
【請求項45】
請求項31〜44のいずれか1項に記載の方法又はアッセイにおける、請求項1〜4、又は22〜27のいずれか1項に記載のタンパク質の使用。
【請求項46】
P-Rex1の不活性突然変異体。
【請求項47】
請求項46に記載の突然変異体をコードする核酸。
【請求項48】
野生型P-Rex1よりも高い親和性をもって、請求項46に記載の突然変異体を結合することのできる抗体。
【請求項49】
組み換えP-Rex1陰性細胞。
【請求項50】
細胞であって、該細胞中でP-Rex1の発現を阻害する阻害物質を含む、前記細胞。
【請求項51】
上記阻害物質がP-Rex1アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項50に記載の細胞。
【請求項52】
請求項49〜51のいずれか1項に記載の細胞からの抽出物。
【請求項53】
請求項46〜52のいずれか1項に記載の突然変異体、核酸、抗体、細胞、又は抽出物の、スクリーニングアッセイにおける使用。
【請求項54】
P-Rex1と結合パートナーとの結合の調節物質、又はP-Rex1活性の調節物質を同定するためのスクリーニングアッセイにおける、対照としての、請求項46、49〜52のいずれか1項に記載の突然変異体、細胞、又は抽出物の使用。
【請求項53】
エピトープタグを付与された、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項54】
P-Rex1の結合パートナーへの結合の調節物質の同定のための酵母2−ハイブリッド(又は3−ハイブリッド)システムの使用。
【請求項55】
P-Rex1依存性の情報伝達経路の調節物質を同定するための、インビトロの、又は細胞に基づくアッセイの使用。
【請求項56】
P-Rex1トランスジェニックマウス。
【請求項57】
炎症、転移、敗血症ショック、神経変性、又はアテローム性動脈硬化を減少又は阻害する薬物候補の活性をテストするための、請求項20に記載の非ヒト動物、或いは請求項21に記載のP-Rex1遺伝子ノックアウト又はノックインマウス、又は請求項56に記載のP-Rex1トランスジェニックマウスの使用。
【請求項58】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の核酸で安定的にトランスフェクトされた細胞。
【請求項59】
PtdIns(3,4,5)P3感受性及び/又はGβγサブユニット感受性Rac-GEF活性を有するタンパク質。
【請求項60】
P-Rex1のスプライスバリアント。
【請求項61】
請求項60に記載のスプライスバリアントをコードする核酸。
【請求項62】
ストリンジェントな条件下で、P-Rex1遺伝子のゲノム配列鎖のいずれかにハイブリダイズすることのできる、実質的に単離された形態の核酸。
【請求項63】
P-Rex1の発現を阻害することのできる干渉RNA(dsRNAi)。
【請求項64】
ターゲティングベクターであって、該ターゲティングベクターがゲノムDNAと相同性組み換えを行う場合に、選択マーカーをコードする核酸が上記ゲノムDNAに取り込まれ、そしてP-Rex1遺伝子の発現が妨害又は減少されるように、上記P-Rex1遺伝子をコードする上記ゲノムDNAと相同性組み換えを行うことのできる核酸、及び上記選択マーカーを含む、前記ターゲティングベクター。
【請求項65】
請求項64に記載のターゲティングベクターを含むマウスES細胞。
【請求項66】
その中で、P-Rex1遺伝子の発現が妨害又は減少された、組み換えマウスES細胞。
【請求項67】
その中で、染色体対のうちの1におけるP-Rex1遺伝子の発現が妨害又は減少された、組み換えヘテロ接合性マウス。

【公表番号】特表2006−504398(P2006−504398A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−578417(P2003−578417)
【出願日】平成15年3月21日(2003.3.21)
【国際出願番号】PCT/GB2003/001238
【国際公開番号】WO2003/080664
【国際公開日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【出願人】(599111895)ザ・バブラハム・インスティテュート (1)
【Fターム(参考)】