説明

P19CL6のクローン細胞と心筋細胞への分化誘導方法

【課題】P19CL6は心筋細胞に分化しやすいEC細胞として知られているが、実際は心筋細胞への分化は容易ではない。そこでP19CL6から、心筋細胞へ、より確実性の高い分化方法が望まれた。
【解決手段】P19CL6から3層以上の積層構造に増殖するクローン細胞を選別する。このクローン細胞をコラーゲンをコートしたウェルで、DMEMの下で増殖させ、メチル化阻害剤である5‐Azacytidineで48時間以上刺激することで、拍動心筋細胞を高い確立で得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋細胞に分化しやすいEC細胞として知られているP19CL6細胞の分化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell:ES細胞)は、発生初期の胚の内部細胞塊から樹立された幹細胞株である。未分化であるので、多種類の細胞に分化することができる多分化能を有する。多分化能という特性は、分化させた細胞を用いて損傷した細胞や組織を修復することに用いることができる可能性があり、注目されている。
【0003】
実際、ES細胞からは運動神経細胞、心筋細胞、造血幹細胞への分化誘導が報告されており、さまざまな治療への応用が検討されているだけでなく、in vitroでの薬効のスクリーニングへの利用も考えられている。
【0004】
ところで、心筋細胞は増殖能力を持たないため、最終分化状態の細胞であると考えられている。つまり、心筋梗塞などで損傷を受けてしまった心筋は再生することがない。従って、心筋組織が広範囲に損傷を受けた場合、従来は心臓移植が唯一の根治治療であった。
【0005】
しかし、ES細胞を心筋細胞に分化させ、損傷を受けた組織を再生することができれば、心臓疾患の治療法として新たな根治治療を提供することができる。そのため、心筋細胞に分化するES細胞およびその誘導因子について数多くの研究がなされている。
【0006】
特許文献1では、ヒトのES細胞を心筋細胞へ分化させる方法として、ウシ胎仔血清(FBS)がない、つまり無血清条件下でインキュベートすることで、高い確率で心筋細胞に分化させることができることを示している。
【0007】
さらに、特許文献2では、アスコルビン酸またはその誘導体の存在下でヒトのES細胞を心筋細胞へ分化させることができることを示している。
【0008】
また、特許文献3では、脂肪組織由来幹細胞、特に脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)をDMSO(Dimethyl Sulfoxide)またはOP9培養上清の存在下で培養させることで、心筋細胞へ分化する心筋芽細胞および心筋芽細胞シートを得ることができることを示している。
【0009】
また、特許文献4では、ES細胞をポリアミンの存在下で培養することで、心筋細胞へ分化させることができることを開示している。
【0010】
再生医療には上記のように安全なES細胞が必要であるが、心筋細胞への分化および発生のメカニズムや、薬効のスクリーニングとしては、より手軽に入手できてES細胞と同様の多分化能を有する未分化幹細胞があれば、大変有用である。
【0011】
このような細胞には、胚性癌腫細胞株(Embryonal Carcinoma Cell line:EC細胞株)があり、いくつかのマウス系統で発見された悪性奇形腫から得た腫瘍細胞から樹立されている。
【0012】
1996年にAkemi Habara−Ohkuboによって胚性癌腫細胞株P19から単離されたCL6という細胞(以後「P19CL6」と呼ぶ。)(非特許文献1参照)は、DMSOの存在下で培養すると自律的に拍動する心筋細胞に分化し、心筋特異的遺伝子を発現する。従って、薬効のスクリーニング用としては大変注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2008−500821号公報
【特許文献2】特表2008−523823号公報
【特許文献3】特開2008−307205号公報
【特許文献4】特開2006−218035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
P19CL6は、DMSOの存在下で高い確率で自律的に拍動する心筋細胞に分化するとされているが、実際にP19CL6を心筋細胞に分化させるのは容易ではなく、高い確率で心筋細胞を得ることはできなかった。本発明は、このような課題に鑑みP19CL6を高い確率で心筋細胞へ分化させる方法を提供するものである。また、本発明者は、P19CL6の中でも、特定の性質を有するクローンが、高い確率で心筋細胞に分化することを見出し、そのクローン細胞をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
より具体的には、本発明の細胞は
P19CL6由来のクローン細胞であって、少なくとも3層以上に積層して増殖する細胞である。
【0016】
また、本発明の分化誘導方法は、
P19CL6から少なくとも3層以上に積層して増殖するクローン細胞を選別する工程と、
前記選別したクローン細胞を増殖させる工程と、
前記増殖させたクローン細胞をメチル化阻害剤で刺激する工程と、
前記刺激されたクローン細胞を培養する工程を有するP19CL6を心筋細胞に分化誘導する方法である。
【発明の効果】
【0017】
P19CL6から得た、3次元的に積層しながら増殖するクローン細胞は、メチル化阻害剤による刺激を経て、培養されることで、高い確率で心筋細胞に分化する。そして、10倍の対物レンズと10倍の接眼レンズで得られる顕微鏡の視野で、半分以上の領域を占める拍動する心筋細胞(塊あるいはシート)を得ることができるので、薬品などのスクリーニングに適した心筋細胞を高い確率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の細胞A1から分化した心筋細胞と親株(P19CL6)から分化した心筋細胞の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、P19CL6を高い確率で心筋細胞に分化させるためには、P19CL6由来のクローン細胞のうち、高さ方向に少なくとも3層以上積層して増殖するクローン細胞を用いるのがよいという点を見出してなされたものである。
【0020】
P19CL6は、P19という胚性癌腫細胞株から特に心筋細胞へ容易に分化するものとして得られた細胞である。しかし、P19CL6の中にも、増殖の仕方が異なる細胞があり、平面的若しくは部分的に2層になった状態で増殖するものと、3層以上に積層しながら立体的に増殖するものがあった。
【0021】
本発明は、P19CL6から得た、少なくとも3層以上に積層しながら増殖するクローン細胞と、そのクローン細胞を所定の条件で刺激し、培養することで心筋細胞に分化させる方法を提供するものである。
【0022】
P19CL6は、すでに公的に分譲されており、低温で保存されている。従って、この状態から常温に戻す(起こす)工程が必要である。起こす工程は、特に限定されるものではなく、ウォーターバス中で37℃のお湯をつくり、凍結した細胞が入っている容器をウォーターバス中ですばやく解凍するという常法でよい。次に細胞を増殖させる。増殖させる工程も、常法に従ってよい。増殖させる培地は特に限定されないが、αMEM(アルファ改変イーグル培地)とDMEMが好適に用いられる。培地には、FBSの他、適宜栄養成分を追加してもよい。
【0023】
次にP19CL6から3層以上に積層しながら増殖するクローン株を選択する。クローンの選択の仕方も特に限定されるものではなく、ペニシリンカップ(クローニングリング(cloning ring)とも呼ばれている。)法などの常法を用いることができる。ここで抽出するクローン株は、3層以上に積層しながら増殖するクローン株である。単層状態で広がりながら増殖するクローン株は、心筋細胞に分化しても出現頻度が低く、また心筋細胞塊が小さいため拍動領域が狭く分化効率が悪い。増殖の結果、3層以上に積層したか否かは顕微鏡観察で容易に判断できる。
【0024】
次に選択したP19CL6由来のクローン細胞を増殖させる。増殖させる工程も、常法に従ってよい。増殖させる培地も特に限定されないが、αMEMとDMEMが好適に用いられる。培地には、FBSの他、適宜栄養成分を追加してもよい。
【0025】
次にP19CL6をメチル化阻害剤で刺激する。メチル化阻害剤として、5−Aza−2’−deoxycytidineやZebularineなども利用できるが、5−A
zacytidine(以下「Aza」と記載する。)が好適に利用できる。刺激時間は42時間以上78時間以下がよく、より好ましくは66時間以上78時間以下がよい。メチル化阻害剤での刺激時間が短いと、選択したクローン株であっても、心筋細胞に分化しない場合が頻繁に生じる。一方、刺激時間が長すぎると細胞が死滅してしまう。
【0026】
P19CL6を心筋細胞に分化させた先行例では、メチル化阻害剤での刺激を24時間行うことで、心筋細胞に分化させた点の開示があるが、実際には心筋細胞に分化する確立は低かった。本発明の発明者は、P19CL6から得たクローン細胞を、より長い時間でのメチル化阻害剤での刺激によって、高い確率で心筋細胞に分化することを見出した。
【0027】
なお、クローン細胞を増殖させる際に、コラーゲンで培養皿(以下「ウェル」という。)をコーティングしてもよい。ウェルをコラーゲンで培養することで、より安定してクローン細胞を得ることができる。また、この時に使用するコラーゲンは(Type I)が好適であった。
【0028】
メチル化阻害剤での刺激の後に、DMSOを加えた培養液を用いて、常法の培養環境にて細胞を培養する。刺激後の細胞はその後の培養で高い確率で(効率良く)心筋細胞へ分化して大きな心筋細胞塊を形成し、広い範囲で拍動が同期する。
【0029】
以下、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【実施例】
【0030】
[クローン細胞の選択]
P19CL6は、理化学研究所より分譲を受けた。
【0031】
まず、直径10cmのウェルに50個、100個、200個のP19CL6細胞を播種し、コロニー形成率を調べた。求めたコロニー形成率から直径10cmのウェルに20〜30個程度のコロニーが形成されるように細胞を播種して、CO2インキュベータで1〜2週間培養した。
【0032】
1〜2週間の培養で直径が2〜3(数)mm程のコロニーが形成された。1つの細胞が増殖して形成されたコロニーは、単一のクローン細胞から形成されている。他のコロニーと十分に距離が離れたコロニーを(倒立型)顕微鏡下で選別し、ウェルの裏底にマジックで印を付けた。培養液を(アスピレーターで)除きハンクス液で2回ほど洗浄し、ウェルの底全体が少量のハンクス液で湿っている状態にした。
【0033】
片面全体にグリースを塗布したペニシリンカップ(クローニングリング)をマジックの印に合わせ中央にコロニーが位置するように置き、グリースで封されたウェルを作った。
【0034】
ペニシリンカップ内に50μLの0.25%トリプシン溶液を加え、コロニーを形成する細胞の一部が丸くなりウェルから剥がれるまで室温ないし37℃で数分間静置した。直ちに、ピベットで100μLの培養液を加え、数回のピペッティングで細胞を十分に剥がした後、細胞液を回収した。1mLの培養液を加えた24ウェルプレートの個々のウェルに回収した細胞液を入れ、培養した。
【0035】
細胞が増殖し、70〜80%コンフルエントになったら、直径3.5cm、6cm、10cmのウェルに順次移し替えて培養した。10cmウェルで増殖した細胞は数個の細胞凍結用チューブに分けて−80℃ないし液体窒素温度で実験に供するまで保存した。
【0036】
コロニーには、ウェル上で3層以上に積層しながら立体的に増殖するものと、平面的若しくは部分的に2層になった状態で増殖するものが存在し、前者のコロニーから得られたクローン細胞(A1、A2、A3)と後者のコロニーから得られたクローン細胞(S6a)を実験に供した。
【0037】
[単層細胞と多層細胞の比較]
以下の[親株との比較]以外の実施を含め−80℃で保存しておいた細胞は、37℃のウォーターバスで解凍させ、5.5%ないし7.5%FBSを添加したDMEMを入れた10cmウェルにて培養し、70〜80%コンフルエントになった細胞を使用する。ここでは、クローン細胞A1とS6aを上記の方法により用意した。クローン細胞A1は、多層に増殖するクローン細胞であり、S6aは、単層で増殖するクローン細胞である。
【0038】
まず、12ウェルプレートに、それぞれ200000個/ウェルになるようにクローン細胞を入れ、7.5%FBSを添加したDMEMで20−28時間後に90−100%コンフルエントな時状態になるまで増殖させた。次に10、15、20μMの濃度のAzaを24時間および48時間作用させた。その後は、1.5%DMSOで培養を継続した。
【0039】
Azaを作用させた当日を0日とした場合、(約)16日目に拍動心筋細胞の出現頻度を調べた。なお、以下の実施を含め、拍動心筋細胞の出現頻度は以下のように評価した。
【0040】
対物レンズ10倍、接眼10倍の倒立顕微鏡で細胞の位相差像を観察する。出現頻度を以下のようにA、B、C、Dで評価した。
A:2視野を見れば少なくとも1つの拍動細胞塊が出現した。
B:4−5視野内に少なくとも1つの拍動細胞塊が出現した。
C:8−10視野内に少なくとも1つの拍動細胞塊が出現した。
D:ウェル内での拍動細胞塊は数個以下だった。
【0041】
なお、12ウェルプレートの各ウェルの底面積は3.8cm2だがウェルの辺縁は界面張力により培養液がウェルの壁へ引っ張られ明瞭な位相差像が得られなかった。これは液−気相の界面はウェル全体では平面とならず,辺縁近くでカーブするので光の屈折に影響をおよぼすためと考えられた。有効視野が得られる(位相差像が明瞭な)ウェルの面積は、底面積より一回り小さいが,さらにそれよりも一回り小さいウェルの円(円の中心から8割程度の径の円)で判定した。
【0042】
結果を表1に示す。多層増殖クローン細胞A1は、出現頻度でB乃至Cの場合があったが、単層増殖クローン細胞S6aは、出現頻度Cの場合が、1度だけ(10μMのAzaを48時間作用させた場合)であり、A1より出現頻度が低かった。また、Azaの濃度を20μMとした場合は、どちらのクローン細胞も出現頻度がDであった。これらの結果より、多層増殖クローン細胞A1は単層増殖クローン細胞S6aより心筋細胞への分化が起こりやすいことがわかった。またメチル化阻害剤であるAzaの濃度は20μMでは高すぎると考えられた。
【0043】
【表1】

【0044】
[コートの効果]
細胞の接着状態は細胞の分化に影響を及ぼすと考えられる。また、細胞が積層状態で増殖するのは、単層で増殖する場合と比べ、接着状態に差があることが考えられた。細胞の最初の接着はウェルであるので、ウェルにコートを行った場合の効果を調べた。
【0045】
12ウェルプレートに3.0μg/cm2の濃度でコラーゲン(Type I)のコーティング処理を2時間以上行った。また、同様にMatrigel(いか「マトリゲル」という。)をコーティング処理したウェルを用意した。クローン細胞A1、A2、A3を200000個/ウェルになるようにそれぞれのウェルに入れた。
【0046】
コラーゲンでコートしたウェルには5.5%FBSを添加したDMEMを入れ、マトリゲルでコートしたウェルには7.5%FBSを添加したDMEMを入れ、20−28時間後に90−100%コンフルエントな時状態になるまで増殖させた。
【0047】
次に10μMの濃度のAzaを、24、48、72、96時間作用させた。その後は、1.0%DMSOで培養を継続した。結果を表2に示す。
【0048】
クローン細胞A1、A2、A3はいずれも多層増殖クローン細胞である。拍動心筋細胞の出現頻度でみると、クローン細胞A2では、コラーゲンとマトリゲルとの差はほとんど無かった。しかし、クローン細胞A1では、若干出現頻度は増えており、クローン細胞A3では、出現頻度で「A」評価の場合も観測された。
【0049】
このことから、コラーゲンによるウェルのコートはマトリゲルによるコートよりも心筋細胞への分化の頻度を高めた。また、10μMの濃度とはいえ、Azaを96時間作用させると、心筋細胞への分化の頻度は低下することが分かった。
【0050】
【表2】

【0051】
[分化条件の絞込み]
ここで再度多層増殖クローン細胞について、より高い確率で心筋細胞に分化する条件を詰める確認を行った。用いた細胞はクローン細胞A1およびA3であり、調べた条件は、培養時のFBSの濃度、Azaの作用時間、ウェルのコートの有無および種類である。今回は6ウェルプレートを用い、それぞれ500000個/ウェルになるようにクローン細胞を入れて実験した。
【0052】
ウェルへのコートは「コートの効果」(表2)で行ったのと同じように、コラーゲンとマトリゲルをウェルにコートした。それぞれの細胞には、5.5%FBSを添加したDMEMと7.5%FBSを添加したDMEMの2種類のウェルを用意した。そして、それぞれ90−100%コンフルエントな状態まで増殖させ、10μMのAzaを48時間および72時間作用させた。Azaでの作用の後は、1%のDMSOで培養を継続した。
【0053】
この実験では、拍動心筋細胞の出現頻度だけでなく、細胞塊の大きさも評価した。細胞塊の大きさは次のような尺度で行った。用いた倒立顕微鏡や観察視野に関しては、これまでの実施例と同じである。
◎:1視野の面積で75%以上が拍動する大きな拍動心筋細胞塊を観測した。
○:1視野の面積で25−50%が拍動する拍動心筋細胞塊を観測した。
△:1視野の面積で5−20%程度が拍動する拍動心筋細胞塊を観測した。
×:1視野の面積で2−3%程度以下が拍動する拍動心筋細胞塊を観測した。
結果を表3に示す。
【0054】
マトリゲルとコートなしの場合は、判断が容易ではない。しかし、コラーゲンでコートしたウェルを用いた場合は、出現頻度が高くなり、大きな拍動心筋細胞塊を得ることができた。特にクローン細胞A1をコラーゲンコートのウェルで培養し、Azaで72時間処理したものは、出現頻度も高く(A)、また観察された拍動心筋細胞塊も大きかった(◎)。クローン細胞A1に対するこの条件は、その後5回繰り返し実験を行い、同様に再現されていることを確認している。
【0055】
【表3】

【0056】
[親株との比較]
クローン細胞A1は、親株であるP19CL6のクローン細胞である。しかし、拍動心筋細胞への分化の頻度は違いそうである。そこで親株との比較を行った。−80℃で保存しておいた細胞は、37℃のウォーターバスで解凍させ、6.5%FBSを添加したαMEMないし7.5%FBSを添加したDMEMを入れた10cmウェルにて培養し、70〜80%コンフルエントになった細胞を使用した。
【0057】
実験には6ウェルプレートを用い、それぞれ500000個/ウェルになるようにクローン細胞を入れて実験した。ウェルは、コラーゲンでコートしたウェルとコートしていないウェルを用意した。αMEMを用いたのは、P19CL6の既報のプロトコルではαMEMが用いられているからである。
【0058】
また、Azaの濃度は10μM一定とし、作用時間は24、48、72時間と変化させた。評価は、拍動心筋細胞塊の大きさと出現頻度で評価した。結果を表4に示す。
【0059】
親株では細胞塊の大きさは△以上は無かったが、クローン細胞A1では○や◎も確認でき、安定して拍動心筋細胞に分化することがわかった。
【0060】
図1に、この時の顕微鏡写真を示す。図1(a)は、P19CL6(親株)をαMEMで培養し、分化させた場合である。また、(b)、(c)、(d)はそれぞれ親株をDMEMで培養させた場合、クローン細胞A1をαMEMで培養した場合、クローン細胞A1をDEMで培養した場合である。図中白矢印は200μmを示す。また、白で囲った領域が拍動心筋細胞塊(の領域)である。
【0061】
図1(a)では、小さな心筋細胞塊が散見されるだけである。(b)では、視野中央付近に比較的大きな心筋細胞塊が観測できる。一方、クローン細胞A1では、(c)で視野の半分以上を占め、(d)ではほぼ視野一杯の拍動心筋細胞塊を観測できた。
【0062】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
P19CL6由来のクローン細胞であって、少なくとも3層以上に増殖する細胞。
【請求項2】
P19CL6から少なくとも3層以上に積層して増殖するクローン細胞を選別する工程と、
前記選別したクローン細胞を増殖させる工程と、
前記増殖させたクローン細胞をメチル化阻害剤で刺激する工程と、
前記刺激されたクローン細胞を培養する工程を有するP19CL6を心筋細胞に分化誘導する方法。
【請求項3】
前記増殖させる工程は、コラーゲン(Type I)でコーティング処理を行った培養皿で前記クローン細胞を増殖させる請求項1に記載されたP19CL6を心筋細胞に分化誘導する方法。
【請求項4】
前記培養する工程では、培養液としてDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を用いる請求項1または2のいずれかの請求項に記載されたP19CL6を心筋細胞に分化誘導する方法。
【請求項5】
前記メチル化阻害剤は5−Azacytidineである請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載されたP19CL6を心筋細胞に分化誘導する方法。

【図1】
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