説明

P2X4受容体拮抗剤

【課題】
P2X受容体拮抗剤を提供すること。
【解決手段】
次の一般式(I)、



(式中、XはS又はCHを表し、
YはO、S又はNHを表し、
は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基他を表し
及びRは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基他を表し、
及びRは水素原子、炭素数1〜8のアルキル基他を表し、
そして、破線と実線からなる二重線は単結合又は二重結合を表す。)
で表される化合物又はその塩をP2X受容体拮抗剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はP2X受容体拮抗作用を有する1,4−ジアゼピン−2−オン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
ATP受容体はイオンチャネル型受容体のP2XファミリーとG蛋白質共役型受容体のP2Yファミリーに大別され、現在までそれぞれ7種類(P2X1−7)、9種類(P2Y1,2,4,11−15)のサブタイプが報告されている。
P2XファミリーのサブタイプであるP2X受容体(Genebank No.X87763)は、中枢神経系などで広く発現していることが報告されている。(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)
さて、神経因性疼痛をはじめとする難治性疼痛は発症の仕組みが正確には解かっておらず、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)やモルヒネが効かない場合は治療法がない。よって、患者や周囲の人たちの心身への負担は非常に重い。神経因性疼痛は末梢神経あるいは中枢神経の損傷によるものが多く、例えば、手術の後遺症、がん、脊髄損傷、帯状疱疹、糖尿病性神経炎、三叉神経痛などによって引き起こされる。
最近、井上らは異痛症(アロデイニア)を検出できる、脊髄神経を損傷した動物モデルを使い神経因性疼痛におけるP2X受容体の関与を検証した。そして、脊髄のミクログリア細胞において発現するP2X受容体を介して神経傷害性の異常疼痛(末梢性ニューロパチー痛、特にアロデイニア)が誘発されることを発表している。(非特許文献6、特許文献1)従って、P2X受容体の働きを阻害する物質は、侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛における痛みの予防剤あるいは治療剤として期待される。
一方、特許文献2には、次の一般式(A)、
【0003】
【化1】

で表されるベンゾフロ−1,4−ジアゼピン−2−オン誘導体が、P2X受容体拮抗作用を有する旨の報告がなされている。
後述する本発明化合物と類似構造を有すると考えられる化合物として、
次の一般式(B)、
【0004】
【化2】

で表される化合物が特許文献3に記載され、この特許文献3には、次の
一般式(C)、
【0005】
【化3】

で表される化合物を原料とすることが記載されている。
また、非特許文献7には、一般式(D)、
【0006】
【化4】

で表される化合物が記載されている。
【0007】
後述の本発明化合物と上記一般式(A)で表される化合物とは、本発明化合物は1,4−ジアゼピン−2−オンの6,7位でベンゾチオフェン等が縮合しているのに対し、上記一般式(A)で表される化合物はベンゾフランが縮合している相違がある。
同じく本発明化合物と上記一般式(B)で表される化合物とは、本発明化合物は1,4−ジアゼピンの2位がカルボニル基等であるのに対し、上記一般式(B)で表される化合物は、ジヒドロまたは水酸基であり、その用途も抗潰瘍作用で、本発明に関わるP2X拮抗作用に関する記載はない。また、一般式(C)で表される化合物については、具体的な実施例等の記載はない。
一方、後述の本発明化合物と上記一般式(D)で表される化合物とは、本発明化合物は1,4−ジアゼピン−2−オンの6,7位でベンゾチオフェン等が縮合しているのに対し、上記一般式(D)で表される化合物はインドールが縮合している相違があり、また本発明に関わるP2X受容体拮抗作用に関する記載はない。
【0008】
【特許文献1】米国特許公開 20050074819
【特許文献2】WO 2004/085440
【特許文献3】特開平2−59582
【非特許文献1】Buell et al.(1996) EMBO J.15:55−62
【非特許文献2】Seguela et al.(1996) J.Neurosci.16:448−455
【非特許文献3】Bo et al.(1995) FEBS Lett.375:129−133
【非特許文献4】Soto et al.(1996) Proc Natl. Acad.Sci.USA 93:3684−3788
【非特許文献5】Wang et al.(1996) Biochem. Res.Commun. 220:196−202
【非特許文献6】M.Tsuda et al.(2003) Nature,424,778−783
【非特許文献7】Journal of Heterocyclic Chemistry(1973),10(1),51−53
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的はP2X受容体拮抗作用を有する下記一般式(I)で表される1,4−ジアゼピン−2−オン誘導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、次の一般式(I)、
【0011】
【化5】

(式中、XはS又はCHを表し、
YはO、S又はNHを表し、
は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アルキル部分の炭素数が1〜6で、アリ−ル部分の炭素数が6〜10)、炭素数2〜8のアルケニル基、カルボキシメチル基又はアルコキシカルボニルメチル基(アルコキシ部分の炭素数は1〜8)を表し、
及びRは同一又は異なっていても良く水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜8のアシル基、炭素数6〜10のアリール基、又は5若しくは6員環の複素環基を表し、
及びRは同一又は異なっていても良く水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基を表し、
そして、破線と実線からなる二重線は単結合又は二重結合を表す。)
で表される化合物又はその塩に関する。
また、本発明は上記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有するP2X受容体拮抗剤に関する。
さらにまた、本発明は上記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する神経因性疼痛の予防又は治療剤に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を詳細に説明する。
上記一般式(I)において、R、R、R、R及びRの炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基等が挙げられる。
の炭素数2〜8のアルケニル基としては、ビニル基又はアリル基等が挙げられる。
及びRの炭素数1〜8のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基又はヘキシルオキシ基等が挙げられる。
及びRのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子等が挙げられる。
、R、R、R及びRのハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基としては、1〜3個のフッ素原子、塩素原子若しくは臭素原子等のハロゲン原子により置換されたメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基又はt−ブチル基等が挙げられ、好ましくはトリフルオロメチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基又は2−フルオロエチル基等が挙げられる。
及びRのハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルコキシ基としては1〜3個のフッ素原子、塩素原子若しくは臭素原子等のハロゲン原子により置換されたメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基又はt−ブチルオキシ基等が挙げられ、好ましくはトリフルオロメチルオキシ基、クロロメチルオキシ基、2−クロロエチルオキシ基、2−ブロモエチルオキシ基又は2−フルオロエチルオキシ基等が挙げられる。
及びRの炭素数2〜8のアシル基としては、アセチル基又はプロピオニル基等が挙げられる。
及びRの炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基等が挙げられる。
及びRの5若しくは6員環の複素環基としては、ピリジル基等が挙げられる。
のアラルキル基(アルキル部分の炭素数は1〜6で、アリール部分の炭素数は6〜10)としては、ベンジル基又はフェネチル基等が挙げられる。
のアルコキシカルボニルメチル基(アルコキシ部分の炭素数は1〜8)としては、メトキシカルボニルメチル基又はエトキシカルボニルメチル基等が挙げられる。

なお、上記一般式(I)中のR及びRは、R、Rが置換しているベンゼン環に、同一又は異なったものが1〜3個存在していても良い。
【0013】
さらに、本発明化合物としては、次に示す化合物が好ましい。

(1)XがSである上記一般式(I)に記載の化合物又はその塩。
(2)YがOである上記一般式(I)又上記(1)に記載の化合物又はその塩。
(3)Rが水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である上記一般式(I)又は上記(1)若しくは(2)に記載の化合物又はその塩。
(4)R及びRが同一又は異なっていても良く水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基又はシアノ基である上記一般式(I)又は上記(1)〜(3)に記載の化合物又はその塩。
(5)Rが水素原子で、Rがハロゲン原子又は水酸基である上記一般式(I)又は上記(1)〜(3)に記載の化合物又はその塩。
(6)Rの置換位置がメタ位である上記一般式(I)又は上記(1)〜(5)に記載の化合物又はその塩。
(7)R及びRが水素原子である上記一般式(I)又は上記(1)〜(6)に記載の化合物又はその塩。
(8)破線と実線からなる二重線が二重結合である上記一般式(I)又は上記(1)〜(7)に記載の化合物又はその塩。

上記一般式(I)で表される化合物は、薬理学的に許容される塩であってもよく、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩が挙げられる。
また本発明化合物には、光学活性体、ラセミ体等の光学異性体が存在する場合もあるが、何れも本発明に含まれる。
【0014】
次に上記一般式(I)で表される本発明化合物の合成スキームを以下に示す。
(1)上記一般式(I)で、Y=O、R=R=R=H、破線と実線からなる二重線が二重結合の場合
【0015】
【化6】

(式中、Z及びZはハロゲン原子を表し、そしてX、R及びRは前記と同じ)

一般式(a)で表される化合物にトリエチルアミン等の塩基の存在下、ジクロロメタン等の溶媒中、一般式(b)で表されるアシル化剤を作用させることで、一般式(c)で表される化合物を得る。一般式(d)で表される本発明化合物は上記一般式(c)で表される化合物にアンモニアを作用させた後、モレキュラーシーブスの存在下、加熱還流することで得ることができる。
なお、上記一般式(a)で表される化合物は例えば以下に示す方法等により得ることができる。
【0016】
【化7】

(式中、Zはハロゲン原子を表し、そしてR及びRは前記と同じ)

(2)上記一般式(I)で、Rがアルキルの場合
【0017】
【化8】

(式中、Zはハロゲン原子を表し、そしてX、Y、R、R、R、R、R及び破線と実線からなる二重線は前記と同じ)

一般式(f)で表される本発明化合物は一般式(e)で表される化合物をDMF等の溶媒中、水素化ナトリウム等の塩基の存在下、ヨウ化アルキル等のアルキル化剤等を作用させることで得ることができる。

(3)上記一般式(I)で、破線と実線からなる二重線が単結合の場合
【0018】
【化9】

(式中、X、Y、R、R、R、R及びR前記と同じ)

一般式(h)で表される本発明化合物は一般式(g)で表される化合物をDMF、メタノール等の溶媒中、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を作用させることで得ることができる。
【0019】
また上記一般式(I)で表される本発明化合物は、後記の実施例の他、前記の特許文献及び公知文献等を参考にして製造することもできる。

斯くして得られた本発明化合物例を表1〜19に示す。

(1−1)
次の一般式、
【0020】
【化10】

(式中、R、R、R、R及びRは表1〜3記載のもの)
で表される化合物。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】


【0023】
【表3】




(1−2)
次の一般式、
【0024】
【化11】

(式中、R、R、R、R及びRは表4及び5記載のもの)
で表される化合物。
【0025】
【表4】



【0026】
【表5】



(2−1)
次の一般式、
【0027】
【化12】

(式中、R及びRは表6及び7記載のもの)
で表される化合物。
【0028】
【表6】

【0029】
【表7】




(2−2)
次の一般式、
【0030】
【化13】

(式中、R、R及びYは表8〜10記載のもの)
で表される化合物。
【0031】
【表8】

【0032】
【表9】

【0033】
【表10】


(3−1)
次の一般式、
【0034】
【化14】

(式中、Y、R、R、R、R及びRは表11〜13記載のもの)
で表される化合物。
【0035】
【表11】

【0036】
【表12】

【0037】
【表13】


(1−2)
次の一般式、
【0038】
【化15】

(式中、Y、R、R、R、R及びRは表14〜16記載のもの)
で表される化合物。
【0039】
【表14】

【0040】
【表15】

【0041】
【表16】


(1−2)
次の一般式、
【0042】
【化16】

(式中、Y、R、R、R、R及びRは表17〜19記載のもの)
で表される化合物。
【0043】
【表17】

【0044】
【表18】

【0045】
【表19】

【0046】
次に本発明の薬理効果について述べる。
本発明化合物のP2X受容体拮抗作用を、以下のように測定した。
1321N1細胞にP2X受容体発現プラスミドをtransfection試薬FuGENE 6(Roche)を用いて遺伝子導入を行った後,1週間培養した。1321N1細胞にCa蛍光色素Fura2−AM(SIGMA)を導入し,Aqua−Cosmos(浜松ホトニクス)を用いてCaイオン蛍光強度を測定した。ATP(3μM)による1321N1細胞内Ca2+蛍光強度上昇率を100%として,被験物質各濃度存在下でのATPによる蛍光強度上昇率を算出し抑制率を求めた。尚,被験物質はATP刺激前10分より刺激終了まで処置した。
【0047】
表20から明らかなように実施例1記載の本発明化合物は優れたP2X受容体拮抗作用を示した。
従って、本発明の一般式(I)で表される化合物は、P2X受容体拮抗作用を有することから侵害受容性疼痛、炎症性疼痛及び神経因性疼痛における痛みの予防又は治療剤として有用であると考えられる。即ち各種癌による痛み、糖尿病の神経障害に伴う痛み、ヘルペスなどのウイルス性疾患に伴う痛み、変形性関節症等の予防又は治療剤として有用である。また、本発明の予防又は治療剤は必要に応じて他の薬剤と併用されても良く、例えばオピオイド鎮痛薬(モルヒネ、フェンタニル)、ナトリウムチャネル遮断剤(ノボカイン、リドカイン)、NSAIDs (アスピリン、イブプロフェン)等との併用が挙げられる。また、癌性疼痛に使用するときは、化学療法剤等の抗ガン剤との併用が挙げられる。
【0048】
本発明化合物は、ヒトに対して経口投与又は非経口投与のような適当な投与方法により投与することができる。
製剤化するためには、製剤の技術分野における通常の方法で錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、懸濁剤、注射剤、坐薬等の剤型に製造することができる。
これらの調製には、例えば錠剤の場合、通常の賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、色素などが用いられる。ここで、賦形剤としては、乳糖、D−マンニトール、結晶セルロース、ブドウ糖などが、崩壊剤としては、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC−Ca)などが、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどが、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。注射剤の調整には溶剤、安定化剤、溶解補助剤、懸濁剤、乳化剤、無痛化剤、緩衝剤、保存剤などが用いられる。
【0049】
投与量は通常成人においては、注射剤で有効成分である本発明化合物を1日約0.01mg〜100mg,経口投与で1日1mg〜2000mgであるが、年齢、症状等により増減することができる。

次に、実施例を挙げ本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
5−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジヒドロ−2H−ベンゾチエノ[3,2−e]−1,4−ジアゼピン−2−オン

(1)3−アミノ−2−(3−ブロモベンゾイル)ベンゾ[b]チオフェン
2−メルカプトベンゾニトリル(135mg,1.00mmol)の無水N,N−ジメチルホルムアミド(3mL)溶液に、トリエチルアミン(0.15mL,1.10mmol)、3−ブロモフェナシルブロミド(278mg,1.00mmol)を加え、70℃で2.5時間攪拌した。反応混合物を水に注いで酢酸エチルで抽出し、水、飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下に溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/ヘキサン=3/1)により精製し、表題化合物を黄色結晶として得た(312mg、収率94%)。
H NMR(CDCl,400MHz)δ:7.03(2H,br s),7.36(1H,t,J=8Hz),7.3−7.5(1H,m),7.5−7.6(1H,m),7.6−7.7(1H,m),7.7−7.8(2H,m),7.8−7.9(1H,m),8.02(1H,t,J=2Hz)
【0051】
(2)2−ブロモ−N−[2−(3−ブロモベンゾイル)ベンゾ[b]チオフェン−3−イル]アセトアミド
上記の3−アミノ−2−(3−ブロモベンゾイル)ベンゾ[b]チオフェン(308mg,0.927mmol)の無水ジクロロメタン(3mL)溶液に、氷冷下、トリエチルアミン(0.16mL,1.11mmol)、臭化ブロモアセチル(97μL,1.11mmol)を加え、室温で一晩攪拌した。さらにトリエチルアミン(0.08mL)、臭化ブロモアセチル(50μL)を加え、室温で3時間攪拌し、反応混合物を飽和重曹水に注いでクロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下に溶媒留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/ヘキサン=4/1)により精製し、表題化合物を褐色結晶として得た(315mg、収率75%)。
H NMR(CDCl,400MHz)δ:4.10(2H,s),7.40(1H,t,J=8Hz),7.4−7.6(2H,m),7.7−7.8(1H,m),7.80(1H,d,J=8Hz),7.8−8.0(1H,m),8.0−8.2(2H,m),10.77(1H,s)
【0052】
(3)5−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジヒドロ−2H−ベンゾチエノ[3,2−e]−1,4−ジアゼピン−2−オン
上記の2−ブロモ−N−[2−(3−ブロモベンゾイル)ベンゾ[b]チオフェン−3−イル]アセトアミド(315mg,0.695mmol)に飽和アンモニアエタノール溶液(5mL)を加え、室温で22時間攪拌した。反応混合物を減圧下に溶媒留去し、モレキュラーシーブス3A(200mg)、エタノール(5mL)を加え、6.5時間加熱還流した。室温に戻してクロロホルム(5mL)を加え、不溶物をろ別し、減圧下に溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=9/1)により精製した。得られた結晶を酢酸エチル(1.8mL)に懸濁し、30分間加熱還流後、0℃で2時間攪拌した。析出した結晶をろ取し、表題化合物を淡黄色結晶として得た(161mg、収率62%)。
mp:250℃以上
H NMR(DMSO−d,400MHz)δ:4.38(2H,s),7.44(1H,t,J=8Hz),7.5−7.7(2H,m),7.7−7.8(2H,m),7.87(1H,t,J=2Hz),8.02(1H,d,J=2Hz),8.18(1H,d,J=8Hz),11.44(1H,s)
IR(cm−1,KBr):1695,1581,1554,1525,1502,1421,1412,1356,1294,1255,1068,1012,947,895,785,735,685,521,422.
【実施例2】
【0053】
5−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジヒドロ−1−メチル−2H−ベンゾチエノ[3,2−e]−1,4−ジアゼピン−2−オン

5−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジヒドロ−2H−ベンゾチエノ[3,2−e]−1,4−ジアゼピン−2−オン(49mg,0.132mmol)の無水N,N−ジメチルホルムアミド(1mL)溶液に、55%水素化ナトリウム(8mg,0.183mmol)を加え室温で15分間攪拌した。さらにヨウ化メチル(13μL,0.209mmol)を加え室温で30分間攪拌した。反応混合物を水に注いで酢酸エチルで抽出し、水、飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下に溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=30/1)により精製し、表題化合物を黄色結晶として得た(25mg、収率49%)。
mp:211−213℃
H NMR(CDCl,400MHz)δ:3.59(3H,s),3.96(1H,d,J=10Hz),5.05(1H,d,J=10Hz),7.32(1H,m),7.5−7.6(2H,m),7.63(1H,d,J=8Hz),7.79(1H,d,J=8Hz),7.8−7.9(1H,m),7.9−8.0(1H,m),8.01(1H,t,J=2Hz)
IR(cm−1,KBr):1680,1583,1554,1518,1473,1416,1389,1333,1292,1255,1194,1032,1022,1005,762,735,714.
【実施例3】
【0054】
5−(3−ブロモフェニル)−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−ベンゾチエノ[3,2−e]−1,4−ジアゼピン−2−オン

5−(3−ブロモフェニル)−1,3−ジヒドロ−2H−ベンゾチエノ[3,2−e]−1,4−ジアゼピン−2−オン(160mg,0.432mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(1mL)−メタノール(0.1mL)溶液に、水素化ホウ素ナトリウム(29mg,0.767mmol)を加え、室温で14.5時間攪拌した。反応混合物に水を加え、クロロホルムで抽出し、水、飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下に溶媒留去後、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/アセトン=20/1)により精製し、表題化合物を白色結晶として得た(30mg、収率19%)。
mp:188−190℃
H NMR(CDCl,400MHz)δ:2.34(1H,brs),3.78(1H,d,J=15Hz),3.86(1H,d,J=15Hz),5.46(1H,s),7.2−7.3(1H,m),7.32(1H,d,J=8Hz),7.37(1H,m),7.4−7.5(2H,m),7.55(1H,s),7.59(1H,d,J=8Hz),7.69(1H,d,J=8Hz),7.82(1H,brs)
IR(cm−1,KBr):1670,1635,1591,1560,1497,1456,1454,1412,1387,1335,1302,1263,1257,1068,804,789,752,731,692,671.
【実施例4】
【0055】
本発明化合物のP2X受容体拮抗作用は、以下のように測定した。
1321N1細胞にP2X受容体発現プラスミドをtransfection試薬FuGENE 6(Roche)を用いて遺伝子導入を行った後,1週間培養した。1321N1細胞にCa蛍光色素Fura2−AM(SIGMA)を導入し,Aqua−Cosmos(浜松ホトニクス)を用いてCaイオン蛍光強度を測定した。ATP(3μM)による1321N1細胞内Ca2+蛍光強度上昇率を100%として,被験物質各濃度存在下でのATPによる蛍光強度上昇率を算出し抑制率を求めた。尚,被験物質はATP刺激前10分より刺激終了まで処置した。
(試験結果)
【0056】
【表20】

表20から明らかなように実施例1記載の化合物は優れたP2X受容体拮抗作用を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)、
【化1】

(式中、XはS又はCHを表し、
YはO、S又はNHを表し、
は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基(アルキル部分の炭素数が1〜6で、アリ−ル部分の炭素数が6〜10)、炭素数2〜8のアルケニル基、カルボキシメチル基又はアルコキシカルボニルメチル基(アルコキシ部分の炭素数は1〜8)を表し、
及びRは同一又は異なっていても良く水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基、シアノ基、炭素数2〜8のアシル基、炭素数6〜10のアリール基又は5若しくは6員環の複素環基を表し、
及びRは同一又は異なっていても良く水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、又はハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基を表し、
そして、破線と実線からなる二重線は単結合又は二重結合を表す。)
で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
XがSである請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
YがOである請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である請求項1〜3の何れかの項に記載の化合物又はその塩。
【請求項5】
及びRが同一又は異なっていても良く水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜8のアルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、ニトロ基又はシアノ基である請求項1〜4の何れかの項に記載の化合物又はその塩。
【請求項6】
が水素原子で、Rがハロゲン原子又は水酸基である請求項1〜4の何れかの項に記載の化合物又はその塩。
【請求項7】
の置換位置がメタ位である請求項1〜6の何れかの項に記載の化合物又はその塩。
【請求項8】
及びRが水素原子である請求項1〜7の何れかの項に記載の化合物又はその塩。
【請求項9】
破線と実線からなる二重線が二重結合である請求項1〜8の何れかの項に記載の化合物又はその塩。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかの項に記載の化合物又はその塩を有効成分として含有するP2X受容体拮抗剤。
【請求項11】
請求項1〜9の何れかの項に記載の化合物又はその塩を有効成分として含有する神経因性疼痛の予防又は治療剤。

【公開番号】特開2009−57281(P2009−57281A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364620(P2005−364620)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000228590)日本ケミファ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】