説明

PC鋼棒の張力の管理方法

【課題】ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力を正確に管理する。
【解決手段】コンクリート構造体1に挿通されたPC鋼棒10を油圧ジャッキ20で緊張させた状態でPC鋼棒10のナット12を締付け、その状態で油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放することにより、PC鋼棒10をコンクリート構造体1に定着させる施工において、PC鋼棒10の張力を管理する方法であって、ナット12の締付前の油圧ジャッキ20の油圧と、ナット12の締付完了時の油圧ジャッキ20の油圧の低下量と、油圧ジャッキ20による緊張を開放した後のPC鋼棒10の張力との関係を予め求めておき、当該関係に基づいて、ナット12の締付前の油圧ジャッキ20の油圧と、ナット12の締付時の油圧ジャッキ20の油圧の低下量とを決定し、決定した量だけ油圧ジャッキ20の油圧が低下するようにナット12の締付を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC鋼棒の張力を管理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造体に挿通させたPC鋼棒を緊張させてコンクリート構造体にプレストレスを導入したり、当該PC鋼棒でコンクリート構造体とコンクリート又は鋼製の構造体とを結合したりすることが行われており、その際のPC鋼棒の張力を管理する方法が考えられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のPC鋼棒の緊張方法は、油圧ジャッキでPC鋼棒を緊張させた状態でPC鋼棒のナットを締付け、その後、油圧ジャッキによるPC鋼棒の緊張を開放するというものである。
【0003】
また、特許文献1に記載のPC鋼棒の張力の評価方法は、PC鋼棒に超音波パルスを入射し、その反射波の伝搬時間に基づいてPC鋼棒の張力を評価するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−113231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のPC鋼棒の緊張方法では、油圧ジャッキによるPC鋼棒の緊張を開放した後、ナットの雌ネジとPC鋼棒の雄ネジとの隙間によるガタ(セット量)の分だけPC鋼棒の伸びが減少して張力が低下することから、PC鋼棒の張力が設計緊張力を下回ってしまう場合がある。
【0006】
なお、特許文献1には、PC鋼棒の緊張時と非緊張時との反射波の伝搬時間の差に基づいてPC鋼棒の張力を評価することが開示されているが、この反射波の伝搬時間の差から如何にしてPC鋼棒の緊張力を求めるかは開示されておらず、ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力を正確に管理できるには至っていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力を正確に管理することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るPC鋼棒の張力の管理方法は、構造体に挿通されたPC鋼棒を流体圧式のジャッキで緊張させた状態でPC鋼棒のナットを締付け、その状態で前記ジャッキによるPC鋼棒の緊張を開放することにより、PC鋼棒を構造体に定着させる施工において、PC鋼棒の張力を管理する方法であって、前記ナットの締付前の前記ジャッキの流体圧と、前記ナットの締付完了時の前記ジャッキの流体圧の低下量と、前記ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力との関係を予め求めておき、前記ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力が所定値となるように、前記関係に基づいて、前記ナットの締付前の前記ジャッキの流体圧と、前記ナットの締付時の前記ジャッキの流体圧の低下量とを決定し、決定した量だけ前記ジャッキの流体圧が低下するように前記ナットの締付を行うことを特徴とする。
【0009】
前記PC鋼棒の張力の管理方法において、前記ジャッキにより所定の流体圧で前記ナットの締付前のPC鋼棒を緊張させて当該PC鋼棒の張力を測定する工程と、前記ナットの締付完了時の前記ジャッキの流体圧を測定する工程と、前記ジャッキによるPC鋼棒の緊張を開放した後のPC鋼棒の張力を測定する工程と、を実施することにより前記関係を求めてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力を正確に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コンクリート構造体にプレストレスを導入している状態を示す断面図である。
【図2】定着開始から定着完了までのPC鋼棒の張力の増減を示すグラフである。
【図3】ナットとPC鋼棒との螺合状態を拡大して示す図である。
【図4】PC鋼棒の張力の管理方法の概要を説明するためのグラフである。
【図5】PC鋼棒の張力と油圧ジャッキの油圧との相関関係を求めるための実験をしている状態を示す断面図である。
【図6】PC鋼棒の張力と油圧ジャッキの油圧との相関関係を求めるための実験の手順を示すフローチャートである。
【図7】コンクリート構造体にプレストレスを導入する作業の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、油圧ジャッキ20によりPC鋼棒10を緊張させてコンクリート構造体1にプレストレスを導入している状態を示す断面図である。この図に示すように、PC鋼棒10は、梁や柱や壁や基礎等のコンクリート構造体1に空けられた貫通孔2に挿通され、両端に設けられたナット12及び支圧板13からなる定着具でコンクリート構造体1に定着される。このPC鋼棒10は、1〜3mの比較的短いものであり、緊張力による伸び量は数mm程度である。
【0013】
油圧ジャッキ20は、内部にピストンが配されたシリンダ22と、ジャッキ反力を取るためのラムチェア24と、シリンダ22及びピストンに挿通されたロッド26と、ロッド26の一端側をピストンに固定するナット28とを備えている。ロッド26の他端側にはPC鋼棒10のネジ部と螺合する袋ナット26Aが形成されている。
【0014】
この油圧ジャッキ20では、油圧ポンプ30により圧油が供給されるとピストン及びロッド26がラムチェア24の反対側へ移動する。これにより、PC鋼棒10が緊張される。また、油圧ジャッキ20の油圧はマノメータ32により測定される。
【0015】
コンクリート構造体1にプレストレスを導入する際には、PC鋼棒10の両端のナット12を支圧板13に当接させた状態にして、油圧ジャッキ20でPC鋼棒10を緊張させる。そして、油圧ジャッキ20側のナット12をレンチで回して締付けた後に、油圧ジャッキ20への油圧の供給を停止して油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放する。以上により、PC鋼棒10の緊張力によってコンクリート構造体1にプレストレスが与えられた状態になる。
【0016】
図2は、ナット12の締付によるPC鋼棒10の定着開始から油圧ジャッキ20の油圧を開放することによるPC鋼棒10の定着完了までのPC鋼棒10の張力の増減を示すグラフである。このグラフに示すように、ナット12の締付作業を開始すると、PC鋼棒10に締付力が生じることによりPC鋼棒10の張力が増加する。そして、ナット12の締付を完了して、油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放すると、PC鋼棒10の張力は減少する。
【0017】
ここで、図3に示すように、ナット12の雌ネジとPC鋼棒10の雄ネジとの間には微小な隙間が存在するため、PC鋼棒10には、その隙間の分のセット量が存在する。従って、油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放した後、上記セット量の分だけ、PC鋼棒10の伸びが減少し、PC鋼棒10の張力が減少する。
【0018】
特に、本実施形態で張力を管理するPC鋼棒10は、1〜3mと比較的短いところ、元々の伸びが数mm程度と小さいため、セット量による緊張力の減少率が大きくなり、その影響が大きくなる場合がある。例えば、伸びが4mmでセット量による伸びの減少が0.5mmの場合、セット量による緊張力の減少率は12.5%となり、その影響は大きくなる。
【0019】
そこで、本実施形態に係るPC鋼棒10の張力の管理方法では、PC鋼棒10の張力を、油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放した後のセット量による減少分を考慮して管理する。
【0020】
図4は、本実施形態に係るPC鋼棒10の張力の管理方法の概要を説明するためのグラフである。このグラフに示すように、ナット12の締付作業を開始すると、PC鋼棒10に締付力が生じることによりPC鋼棒10の張力が増加する一方、油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の張力の負担が減少することにより油圧ジャッキ20の油圧は低下する。
【0021】
ここで、ナット12の締付開始時から締付完了時までのPC鋼棒10の張力に応じて、油圧ジャッキ20の油圧が低下し、油圧ジャッキ20による緊張を開放した後のPC鋼棒の張力が低下する。即ち、ナット12の締付開始時、締付完了時、及び油圧開放時のPC鋼棒10の張力と、ナット12の締付開始時の油圧ジャッキ20の油圧と、ナット12の締付開始時から締付完了時までの油圧ジャッキ20の油圧の低下量との間には相関関係がある。
【0022】
そこで、本実施形態に係るPC鋼棒10の張力の管理方法では上記相関関係を実験で求めておき、その相関関係に基づいて、油圧ジャッキ20の油圧を指標としてナット12の締付を行う。
【0023】
図5は、上記相関関係を求めるための実験をしている状態を示す図であり、図6は、当該実験の手順を示すフローチャートである。当該実験では、図5に示すように、PC鋼棒10の一端側は油圧ジャッキ20のロッド26の袋ナット26Aに螺合させ、当該一端側のナット12は支圧板13に当接させる。一方、PC鋼棒10の他端側のナット12と支圧板13との間にはロードセル等の歪ゲージ(荷重計)34を設置する(ステップ1)。
【0024】
次に、油圧ジャッキ20によりPC鋼棒10を緊張させる(ステップ2)。この際、油圧ジャッキ20の油圧は、PC鋼棒10の張力の設計値(例えば、40t)程度に設定し、歪ゲージ34でPC鋼棒10の張力を確認する。次に、ナット12の締付を開始し、歪ゲージ34の計測値が所定値(例えば、44t)になるとナット12の締付を完了する(ステップ3)。この際、油圧ジャッキ20の油圧(例えば、締付開始時に対して80%の値)をマノメータ32で確認する。
【0025】
次に、油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放する(ステップ4)。次に、歪ゲージ34の値を確認して、設計値以上であるか否かを判断する(ステップ5)。そして、歪ゲージ34の値が設計値以上である場合には、ナット12の締付開始時の油圧ジャッキ20の油圧、締付完了時の油圧ジャッキ20の油圧を、施工時の設定値とする(ステップ6)。一方、歪ゲージ34の計測値が設計値未満である場合には、ナット12の締付開始時の油圧ジャッキ20の油圧をより高い値(例えば、42t)に上げてから(ステップ7)、ステップ2〜4を繰返す。そして、油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放した後の歪ゲージ34の計測値が設計緊張力以上であれば、ナット12の締付開始時の油圧ジャッキ20の油圧、締付完了時の油圧ジャッキ20の油圧を、施工時の設定値とする(ステップ6)。
【0026】
図7は、コンクリート構造体1にプレストレスを導入する作業の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示すように、まず、油圧ジャッキ20によりPC鋼棒10を緊張させる(ステップ11)。この際の油圧ジャッキ20の油圧は、上記実験で求めたナット12の締付開始時の油圧(例えば、42t)に設定する。
【0027】
次に、マノメータ32の値を確認しながら、ナット12を締付け、油圧ジャッキ20の油圧が上記実験で求めた値(例えば、締付開始時の80%の値)まで低下するとナット12の締付を完了する(ステップ12)。次に、油圧ジャッキ20によるPC鋼棒10の緊張を開放する(ステップ13)。
【0028】
以上により、ナット12の締付開始から油圧ジャッキ20による緊張を解放した後までのPC鋼棒10の張力を、油圧ジャッキ20の油圧という数値で管理することによって、ナット12の締付力やセット量を一定にすることができ、油圧ジャッキ20による緊張を開放した後のPC鋼棒10の張力を所望の値(設計緊張力)に管理することができる。特に、本実施形態では、PC鋼棒10が1〜3mと比較的短く、油圧ジャッキ20による緊張を開放した後のPC鋼棒10の張力の減少率が高いため、効果的である。
【0029】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、梁や柱や壁や基礎等のコンクリート構造体1にプレストレスを導入する例を挙げて本発明を説明したが、PC鋼棒10を用いてコンクリート構造体同士を結合したり、コンクリート構造体に鉄骨や鉄板等を結合したりする場合にも本発明を適用することができる。
【0030】
また、上述の実施形態では、PC鋼棒10の張力と油圧ジャッキ20の油圧との相関関係を、実験により求めたが解析により求めてもよい。また、上述の実施形態では、1〜3mの比較的短いPC鋼棒10を例に挙げて本発明を説明したが、それよりも長いPC鋼棒10にも本発明を適用することができる。さらに、上述の実施形態では、油圧ジャッキを用いた例を挙げて本発明を説明したが、他の液体や気体等の他の作動流体の圧力でPC鋼棒を緊張させる他の流体圧式のジャッキを用いた場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 コンクリート構造体(構造体)、2 貫通孔、10 PC鋼棒、12 ナット、13 支圧板、20 油圧ジャッキ(ジャッキ)、22 シリンダ、24 ラムチェア、26 ロッド、26A 袋ナット、28 ナット、30 油圧ポンプ、32 マノメータ(油圧計)、34 歪ゲージ(荷重計)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に挿通されたPC鋼棒を流体圧式のジャッキで緊張させた状態でPC鋼棒のナットを締付け、その状態で前記ジャッキによるPC鋼棒の緊張を開放することにより、PC鋼棒を構造体に定着させる施工において、PC鋼棒の張力を管理する方法であって、
前記ナットの締付前の前記ジャッキの流体圧と、前記ナットの締付完了時の前記ジャッキの流体圧の低下量と、前記ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力との関係を予め求めておき、
前記ジャッキによる緊張を開放した後のPC鋼棒の張力が所定値となるように、前記関係に基づいて、前記ナットの締付前の前記ジャッキの流体圧と、前記ナットの締付時の前記ジャッキの流体圧の低下量とを決定し、決定した量だけ前記ジャッキの流体圧が低下するように前記ナットの締付を行うことを特徴とするPC鋼棒の張力の管理方法。
【請求項2】
前記ジャッキにより所定の流体圧で前記ナットの締付前のPC鋼棒を緊張させて当該PC鋼棒の張力を測定する工程と、
前記ナットの締付完了時の前記ジャッキの流体圧を測定する工程と、
前記ジャッキによるPC鋼棒の緊張を開放した後のPC鋼棒の張力を測定する工程と、
を実施することにより前記関係を求めることを特徴とする請求項1に記載のPC鋼棒の張力の管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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