説明

PCBの抽出・分離方法

【課題】低濃度PCB含有絶縁油を処理する方法に関連して、PCB含有絶縁油等をトランス等の電気機器から取り出した後、機器内部に残された微量のPCBの効率的な洗浄・除去方法を提供すること。
【解決手段】PCB含有絶縁油を使用している電気機器から該絶縁油を分離し、非プロトン性有機極性溶媒を用いて、PCBを抽出・分離する方法において、(1)前記電気機器に使用されていた絶縁油Aを含む絶縁油を、PCB含量が0.5ppm以下になるまで前記溶媒で抽出処理して、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程、(2)該絶縁油Bの少なくとも一部を用いた絶縁油で前記電気機器を洗浄し、洗浄後の絶縁油をまとめて絶縁油Cとする工程、(3)該絶縁油Cを前記絶縁油Aと合わせてPCBの抽出処理を行い、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程を含むことからなるPCBの抽出・分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低濃度のPCBを含有する絶縁油から、PCBを抽出・分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル類(PCB)やダイオキシン類等のハロゲン化有機物は、一般的に人体に有害で、環境を汚染する物が多い。特に、PCBは、難分解性で長期にわたり残存しその影響が続くため、環境汚染物質として大きな社会問題となっている。更に、PCBは化学的に非常に安定な物質であるために、廃棄等に際して無害化の処理が困難であるという問題もある。
【0003】
現在、PCBを含む廃油(トランス油等の絶縁油)の処理について規制する、廃棄物処理法で認められている方法としては、高温熱分解法、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、還元熱化学分解法、光分解法、プラズマ分解法が知られている。本発明者は、PCB等のハロゲン化有機物又はその含有液を電気分解し脱ハロゲン化を行う方法を開発し、既に提案した。本発明者の提案した方法は、ハロゲン化有機物又はその含有液を電気分解し脱ハロゲン化を行うに際し、陽極と陰極が隔てられた隔膜電解槽を用いると共に、超音波発生手段を用いてハロゲン化有機物含有液をエマルジョン化し、同時に常温常圧下でありながら1000気圧、5000℃の真空状態を作るといわれるキャビテーション効果を利用し、かつ、攪拌手段による液の攪拌をしながら、電気分解を行うことを特徴とするハロゲン化有機物の脱ハロゲン化方法である(特許文献1参照)。かかる方法によれば、電気分解によって完全に、かつ、十分にハロゲン化有機物を脱ハロゲン化し、無害化物質として回収・除去できた。
【0004】
ところで、PCBの製造禁止以前に生産されたコンデンサーやトランスは、絶縁油としてPCBが使用されており、PCBの含有量によって高濃度PCB(高濃度PCB含有絶縁油)と低濃度PCB(低濃度PCB含有絶縁油)に分けられ、コンデンサーの絶縁油と大型トランスの絶縁油は高濃度PCBとされている。コンデンサーは他の油はなくPCBのみが使用され、大型コンデンサーでは6割のPCBと4割のトリクロロベンゼンが使用されている。一方、柱上トランス等の小型機器のトランス油(絶縁油)では、大量の鉱油の中に数10ppm程度のPCBが使用されており、低濃度PCB又は低濃度PCB含有絶縁油と呼ばれている。
【0005】
現在、高濃度PCBを処理する技術は多く開発されており、高濃度PCBの処理も事業として開始されている。しかし、低濃度PCBを高濃度PCBと同様に処理した場合は、処理コストが高くなり、国の施策としても高濃度PCBの処理と同様な方法では処理しない方針が出されている。従って、現在、低濃度PCBを安く処理する方法の開発が望まれており、本発明者が提案した前記電気分解によるハロゲン化有機物の脱ハロゲン化は非常に期待の持てる方法である。しかしながら、対象が大量の鉱油と低濃度PCBとの混合物の場合には、前記電気分解による方法は好適に応用できないという問題があった。
【0006】
かかる問題を解決するために、本発明者は、比較的低濃度、即ち、1000ppm以下のPCBを含有する絶縁油からPCBを分離・回収するに際し、PCBを含有する絶縁油と非プロトン性有機極性溶媒を混合し、あるいは、非プロトン性有機極性溶媒と炭化水素溶媒を混合し、PCBを非プロトン性有機極性溶媒溶液で抽出・分離し、その後、非プロトン性有機極性溶媒や炭化水素溶媒は回収し再利用する方法について提案した(特許文献2参照)。
【0007】
一方、低濃度のPCBを含有するトランス油等の絶縁油に関しては、別な問題点があった。それは、PCB含有絶縁油等をトランス等の電気機器から取り出しても、トランス等の筐体内部には、部品等に付着したPCBが残存しているという点である。そのトランス等の内部に残されたPCBは、新しい絶縁油等を使用し洗浄を繰り返すと絶縁油等に移行するので、電気機器は再利用若しくは鉄材としてリサイクルできる。しかし、例えば、現在PCBを用いたトランスは400万台、誤ってPCBが混入してしまった微量PCB入りトランスが120万台あるといわれており、1台の処理に新しい絶縁油により3〜4回洗浄するとなると、莫大な量の新しい絶縁油が必要とる。また、洗浄した絶縁油にはPCBが含まれるので、そのPCB含有絶縁油を処理しなければならないという新たな問題も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開特許WO2005/92448号公報
【特許文献2】特開2008−100166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、安全且つ低コストで、低濃度PCB含有絶縁油を処理する方法に関連して、PCB含有絶縁油等をトランス等の電気機器から取り出した後、機器内部に残された微量のPCBの効率的な洗浄・除去方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、PCB含有絶縁油を使用している電気機器から該絶縁油を分離し、非プロトン性有機極性溶媒を用いて、又は、非プロトン性有機極性溶媒と炭化水素溶媒を用いて、該絶縁油からPCBを抽出・分離する方法において、(1)前記電気機器に使用されていた絶縁油Aを含む絶縁油を、PCB含量が0.5ppm以下になるまで前記溶媒で抽出処理して、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程、(2)該絶縁油Bの少なくとも一部を用いた絶縁油で前記電気機器を洗浄し、洗浄後の絶縁油をまとめて絶縁油Cとする工程、(3)該絶縁油Cを前記絶縁油Aと合わせてPCBの抽出処理を行い、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程を含むことを特徴とするPCBの抽出・分離方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、低濃度PCB又は微量PCB含有トランス油(絶縁油)からPCBを抽出・分離するに際し、絶縁油をトランス等の電気機器の洗浄用に使用するので、絶縁油の節減とPCBの処理コストの低減を図ることができる。低濃度PCB又は微量PCB含有トランス油には、多くても100ppm程度のPCBしか含有されていないので、例えば、50kgのPCBトランス油の場合、PCB僅か5g含まれるだけである。PCBを抽出した後のトランス油を洗浄用絶縁油として使用すれば、新たな絶縁油を大量に使用する必要はなくなる。また、新たにPCB入りの絶縁油を増加させることはなくなるので、その処理コストも削減できる。
【0012】
本発明の方法は、本発明者が先に提案した超音波電気分解処理装置によるPCBの処理方法の前処理方法として適している。本発明の方法によると、トランス油等の絶縁油からPCBを効率良く抽出・分離・回収することができ、この方法により得られたPCBを用いることによって、大幅に処理効率が上がり処理コストも下がる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のPCBの抽出・分離方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明における向流式PCB抽出装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、PCB含有絶縁油を使用している電気機器から該絶縁油を分離し、非プロトン性有機極性溶媒を用いて、又は、非プロトン性有機極性溶媒と炭化水素溶媒を用いて、該絶縁油からPCBを抽出・分離する方法において、(1)前記電気機器に使用されていた絶縁油Aを含む絶縁油を、PCB含量が0.5ppm以下になるまで前記溶媒で抽出処理して、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程、(2)該絶縁油Bの少なくとも一部を用いた絶縁油で前記電気機器を洗浄し、洗浄後の絶縁油をまとめて絶縁油Cとする工程、(3)該絶縁油Cを前記絶縁油Aと合わせてPCBの抽出処理を行い、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程を含むPCBの抽出・分離方法である。前記工程以外に、追加的あるいは付加的な方法・工程を含んでいてもよい。また、工程(1)の絶縁油Aを含む絶縁油とは、元々電気機器に使用されていた絶縁油Aだけからなるものであっても、あるいは絶縁油Cと混合した絶縁油であってもよい。
【0015】
例えば、PCBを抽出して得られたPCB含有非プロトン性有機極性溶媒溶液は、蒸留装置にかけ、非プロトン性有機極性溶媒をPCBと分離精製し、該溶媒はリサイクルさせる。あるいは、PCB含有非プロトン性有機極性溶媒溶液に水と炭化水素溶媒を添加混合し、水と非プロトン性有機極性溶媒の溶液とPCBの炭化水素溶媒溶液に分離し、次いで、該PCBの炭化水素溶媒溶液からは炭化水素溶媒を回収し、非プロトン性有機極性溶媒は蒸留により回収してリサイクルさせる(特許文献2)。PCBあるいはそれを含む残部は、これも本発明者が提案した超音波電気分解装置(特許文献1)によって無害な化合物に分解される。
【0016】
本発明において絶縁油とは、トランスやコンデンサー等の電気機器に広く使用されている、機器の絶縁と冷却を目的とした鉱油、合成油、あるいはそれらの混合油等を主成分とした油である。
【0017】
そして、本発明において、非プロトン性有機極性溶媒とは、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトリトリル、N−メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、アセトン、ニトロベンゼン、ピリジン、プロピレンカーボネート等の非プロトン性溶媒である。これらの中では、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトリトリル又はこれらの混合溶媒が好ましく、特にジメチルスルホキシドが好ましい。
【0018】
また、炭化水素溶媒としては、炭素数5〜18の常温で液体のものが適当であり、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンが好ましい。
【0019】
以下、本発明の各工程を図1のフローチャートを用いて説明する。図1には、トランス1に使用されている低濃度のPCBを含有する絶縁油2(PCB以外は鉱油からなる)を、非プロトン性有機極性溶媒としてDMSOを用いて処理する場合の例を示した。先ず、(1)低濃度のPCBを含有する絶縁油2(絶縁油A)を取り出し、この絶縁油2を向流式PCB抽出装置3によりDMSO8で抽出処理して、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油4(絶縁油B)と、PCBのDMSO溶液6を得る。抽出処理の方法・手段は特に制限されるものではないが、本発明では、向流式PCB抽出装置を用いるのが好ましい。この装置を用いた抽出方法については後述する。
【0020】
前記で得られたPCB含量が0.5ppm以下の絶縁油4(絶縁油B)は、(2)少なくともその一部を用いた絶縁油5とし、前記トランスや他のトランスの洗浄用に用いる。洗浄用に用いないものは燃料等として焼却処分すればよい。洗浄後の絶縁油はまとめて絶縁油Cとして、次いで、(3)得られた該絶縁油Cは前記絶縁油2(絶縁油A)と合わせてPCBの抽出処理を行い、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油4(絶縁油B)としてリサイクル処理される。
【0021】
PCB含有DMSO溶液6は、蒸留装置7で分離精製され、精製されたDMSO8は向流式PCB抽出装置3にリサイクルされる。PCB含有蒸留残渣は、これに水9を加えて、本発明者が先に提案したPCB超音波電気分解装置(特許文献1)10で電解処理され、無害な化合物に変化させられる。
【0022】
次に、向流式PCB抽出装置を用いて、低濃度のPCBを含有する絶縁油2(絶縁油A)から非プロトン性有機極性溶媒、例えば、DMSOを用いてPCBを抽出・分離する方法について説明する。図2は、向流式PCB抽出装置11の概要を示す図である。12は低濃度のPCBを含有する絶縁油、13は非プロトン性有機極性溶媒を表している。
【0023】
向流式PCB抽出装置11の片方(図2では左端)から、PCB含有絶縁油(例えば、トランス油)12を注入し、反対側(図2では右端)からPCBを抽出するための溶媒(例えば、DMSO)13を注入する。抽出装置11は、複数段の攪拌と分離機能のモジュール(図2の14−1〜14−4)から構成されている。モジュールは、攪拌と静置により上側が絶縁油、下側がPCB含有溶媒に分かれる。最初のモジュール14−1で、PCB含有絶縁油から溶媒側に一定のPCBが移り、PCBが少なくなった絶縁油とPCBが移行した溶媒に分かれる。ポンプ機能を使用してその絶縁油が次のモジュールに入り、同様に新たな溶媒と攪拌され溶媒側にPCBが移行していく。これを繰り返すことにより、絶縁油中のPCBは溶媒側に移行する。絶縁油中の残留PCB含量が0.5ppm以内になれば抽出操作は完了する。そして、分離されたPCBは、溶媒と分離された後、別に設置されている超音波電気分解装置(図1の10)にかけて分解処理される。
【0024】
本発明のうちPCB含有絶縁油を、非プロトン性有機極性溶媒と炭化水素溶媒を用いて抽出・分離する場合にも、前述の向流式PCB抽出装置を用いてPCBの抽出・分離を行うことができるが、あるいは、下記のような方法で、PCBの抽出・分離を行ってもよい。
【0025】
低濃度のPCB含有絶縁油(PCB以外は鉱油からなる)を、非プロトン性有機極性溶媒としてDMSOを用い、炭化水素溶媒としてヘキサンを用いて処理する例を説明する。先ず、(1)絶縁油を1倍から1000倍のDMSOとヘキサンの混合液に混合し攪拌する。かかる操作によって鉱油とヘキサンからなる上層と、PCBが溶解したDMSOの下層に分離する。この段階で、上層の鉱油とヘキサン層にPCBが残存していない場合には、鉱油とヘキサンは廃油として処理されるが、PCBが残存している場合には、再び前記(1)に戻しDMSOによる分離・抽出工程を繰り返す。次に、(2)PCB+DMSOの溶液に水とヘキサンを加え攪拌する。この操作で、DMSOは水と混ざり、PCBを溶解したヘキサンと分離する。以後は、PCBは分離され、別に設置されている超音波電気分解装置にかけて分解処理される。
【0026】
本発明の方法で抽出・分離されたPCBあるいはPCBを含む回収液は、以下のようにして処理することができる。トランス油等の絶縁油からPCBを抽出した後の油は、PCB含有率が0.5ppm以下であり廃油として通常の処理が可能となる。そして、抽出・分離されたPCBは、従来の処理施設に運んで処理することも可能となる。あるいは、全国に散在しているPCBを含む絶縁油のある現場に、本発明の方法を実施するための本発明の向流式PCB抽出装置等と、本発明者が既に提案しているPCBの超音波電気分解装置を持ち込んで、現場で容易にPCB処理が出来る。
【0027】
本発明者が既に提案しているPCBの超音波電気分解装置は、PCB等のハロゲン化有機物又はその含有液を電気分解し脱ハロゲン化を行うに際し、陽極と陰極が隔てられた隔膜電解槽を用いると共に、超音波発生手段を用いてハロゲン化有機物含有液をエマルジョン化し、同時に常温常圧下でありながら1000気圧、5000℃の真空状態を作るといわれるキャビテーション効果を利用し、且つ攪拌手段による液の攪拌をしながら、電気分解を行うことを特徴とするPCB等のハロゲン化有機物の脱ハロゲン化方法である。この場合において、ハロゲン化有機物又はその含有液を陰極側に入れ、陰極側で超音波発生手段を用いて超音波を与え、且つ攪拌手段で攪拌しながら、電気分解を行う方法がより効率的である。陰極として水素吸蔵金属又は合金を用いるのが好ましく、また、超音波付与や攪拌は、必ずしも常時行う必要はなく、状況に応じ断続的に行っても良い。
【0028】
電解条件としては、対象とするハロゲン化有機物又はその含有液の状態によって異なるが、通常、電圧は5〜500V、電流は5〜1000Aの範囲で調節される。電気分解は直流電源を用いるのが適当であるが、例えば50〜60Hzの交流電源、あるいは例えば1KHzの高周波電源を用いても良い。また、電気分解に際しては、電気伝導度を上げるために、ハロゲン化有機物又はその含有液に、あるいはそれらを含む処理液に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や塩化物等の塩を添加して、電気分解を行うのも好ましい。その際、例えば、水で200V必要な電圧は、十分の一の20V位に下がり、処理液の温度上昇を抑えることが出るので望ましい。添加する量は、処理液1L当たり1〜50g、好ましくは3〜10gである。
【0029】
本発明者が既に提案している発明は、電気分解の陰極における還元反応として、ハロゲン化有機物のハロゲンと、水の電気分解により発生する水素との置換反応を起こさせるものである。しかし、陽極において可逆反応が起こる可能性があるので、陰極での生成物を物理的に陽極に接触させないことにより、可逆反応を防止することが望ましい。その方法として陽極室と陰極室を分ける隔膜電解槽が用いられる。隔膜としては、イオン交換膜、有機又は無機の微多孔膜等があり、これらの中から耐食性、機械的強度、気孔径・分布、電気抵抗等を勘案して、適当なものを容易に選択することができる。形状は特に限定されるものではなく、陽極と陰極で発生、存在する物質が電解液に溶解し、それが拡散対流によって混合するのを防げるようなものであれば良い。
【0030】
PCB等のハロゲン化有機物又はその含有液は、そのまま、あるいは有機溶媒溶液あるいは水性エマルジョンや水との混合液の形(処理液)で電気分解に使用される。例えば、本発明の方法によって、低濃度のPCBを含有する絶縁油から分離・回収されたPCBの場合には、回収PCB又はPCBを高濃度に含む炭化水素溶媒溶液に、適量の水を加えて混合液とするか、又は適当な界面活性剤でエマルジョンとし、得られた液を電気分解に用いれば良い。反応に際しては、もちろん、電気・機械的な攪拌手段により処理液を攪拌しても良い。
【0031】
電気分解により脱ハロゲン化反応を行うに際して、超音波発生手段、例えば、超音波発生装置を用いて、反応系に超音波を与えると、超音波によって反応液が、キャビテーション効果だけでなく、ハロゲン化有機物あるいはそれと他の液体とがエマルジョン効果により微小なクラスターを形成し、反応がより効率的に進行する。超音波発生手段としては、例えば、公知あるいは市販の超音波発生装置を用いることができる。超音波のパワーとしては、処理液1リットル当たり1〜100W程度、好ましくは10〜40Wである。なお、超音波発生手段とは、マイクロ波等のいわゆる超音波以外の、周波数により物体に振動を与える手段でも良い。
【0032】
反応温度は一般には室温で行うのが便利であるが、ハロゲン化有機物又はその含有液が氷結しない最低の温度〜還流温度の範囲で調整することができる。反応時間は、処理量にもよるが、通常、10〜100分の間で調整される。反応雰囲気は格別の配慮は必要ではなく、開放系で常圧であっても良いが、空気の影響を出来るだけ避けるため、窒素等の不活性雰囲気下で反応を行っても良い。
【0033】
電気分解は、ハロゲン化有機物又はその含有液を電気分解し脱ハロゲン化を行うための電解槽であって、前述した隔膜によって隔てられた陽極と陰極、超音波発生手段及び攪拌手段を備えてなる電解槽を用いて行われる。陽極としては、例えば、白金、チタンや炭素が用いられる。陰極としては、例えば、パラジウム、チタン等の金属やその合金が用いられる。超音波発生手段は、処理液を十分にエマルジョン効果により乳化し、キャビテーション効果により脱ハロゲン化を促すものであればどのようなものでも良いが、超音波発生機と接続された超音波発振棒を処理液に挿入するタイプのものが適当である。攪拌手段は、公知あるいは市販の攪拌機を利用すれば良い。処理槽としては、特別な槽を用いる必要はなく、実用的にも、例えば、ステンレスやガラス製、あるいは塩化ビニール製の一般的な容器・装置を用い、電気分解を行うことができる。
【0034】
陰極として水素吸蔵金属又は合金を使用するのが好ましく、パラジウム等の水素吸蔵金属あるいはチタン−鉄合金等の水素吸蔵合金を使用すると、電気分解で発生した水素が陰極に吸蔵され、その後この排出される水素が効率的にハロゲンと置換し脱ハロゲン化反応に寄与し、還元反応が効率的に行われるので好ましい。そして、この場合にも、電気分解に際し隔膜電解槽を用いる方法が好ましく、更に、超音波発生手段と攪拌手段を用いて、処理液に超音波を与え且つ攪拌しながら電気分解を行う方法を採用すると、より好ましい結果が得られる。
【0035】
以下、実施例により本発明を詳述するが、実施例において、PCBはGC/MAS方法で測定した。
【実施例1】
【0036】
図1のフローチャートに従って、そして図2の向流式PCB抽出装置を用いて絶縁油(トランス油)からPCBの抽出・分離操作を行なった。抽出装置の片方(図2では左端)から、PCB含有トランス油100部を注入し、反対側(図2では右端)からPCBを抽出するためのDMSO100部を注入した。抽出装置は、それぞれ攪拌と分離機能を有する4段のモジュールから構成されていた。モジュールは、攪拌と静置により上側が絶縁油、下側がPCB含有溶媒に分かれる。最初のモジュール14−1で、PCB含有絶縁油から溶媒側に一定のPCBが移り、PCBが少なくなった絶縁油とPCBが移行した溶媒に分かれる。ポンプ機能を使用してその絶縁油が次のモジュールに入り、同様に新たな溶媒と攪拌され、溶媒側にPCBが移行していく。これを4回繰り返すことにより、絶縁油中のPCBは溶媒側に移行する。
【0037】
上記4回の抽出・分離操作で、PCBを130.53ppm含有していたトランス油1kgが、抽出・分離後、残留PCBが0.2ppmになった。溶媒側には、130.26mgのPCBが移行していた。
【0038】
次に、PCBを溶解したDMSOの溶液250mlに、水を250mlとヘキサンを188ml加え混合・攪拌した。この操作で、DMSOは水と混ざり、PCBとヘキサン(PCBのヘキサン溶液)は分離又は遊離したので、両者を分液した。DMSOと水の層にPCBが検出されなくなるまで、ヘキサンの添加・混合・攪拌・溶液分離の操作を繰り返した。DMSOと水の混合液は、100〜160℃で水とDMSOを蒸留により分離し、DMSOを再利用に供することができる。
【0039】
次に、前記で分離したPCBのヘキサン溶液からヘキサンを留去し、100ppmのPCBを分離した。ヘキサンは回収しリサイクルすることができる。分離されたPCBは、別に設置されている超音波電気分解装置(特許文献2に開示された装置)にかけて下記のごとく分解処理した。
【0040】
上記で得られたPCB100ppmを、水酸化ナトリウム100gと水20Lと混合し処理液を調整した。特許文献2に開示された電解槽(処理槽はステンレス製)を用い、この処理液を陰極室に入れ、一方、陽極室には、水酸化ナトリウム100gを含む水溶液20Lを入れ、電源として三相電源の直流を用い、超音波を与えながら、常温常圧で30分間電気分解を行った。電気分解の平均電圧は20V、平均電流は50Aであった。超音波発生手段である電波棒は、直径45mm、長さ35cmの金属棒を用い、これに20KHzの超音波を印加した。超音波のバワーは、平均255Wであった。なお、電気分解における印加電圧は、30分間ほぼ一定であったが、電流と超音波のバワーは、徐々に増加した。陰極室の処理液は、市販のミキサーを用いて1400回/mの攪拌を行った。電気分解後の処理液中のPCBの濃度は、0.5ppm以下であり、電気分解前の100ppmに比べ著しく減少していた。
【符号の説明】
【0041】
1 トランス
2 絶縁油
3 向流式PCB抽出装置
4 絶縁油B
6 PCB含有DMSO溶液
7 蒸留装置
8 DMSO
9 水
10 PCB超音波電気分解装置
11 向流式PCB抽出装置
12 低濃度のPCBを含有する絶縁油
13 非プロトン性有機極性溶媒
14−1 攪拌と分離機能のモジュール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCB含有絶縁油を使用している電気機器から該絶縁油を分離し、非プロトン性有機極性溶媒を用いて、又は、非プロトン性有機極性溶媒と炭化水素溶媒を用いて、該絶縁油からPCBを抽出・分離する方法において、(1)前記電気機器に使用されていた絶縁油Aを含む絶縁油を、PCB含量が0.5ppm以下になるまで前記溶媒で抽出処理して、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程、(2)該絶縁油Bの少なくとも一部を用いた絶縁油で前記電気機器を洗浄し、洗浄後の絶縁油をまとめて絶縁油Cとする工程、(3)該絶縁油Cを前記絶縁油Aと合わせてPCBの抽出処理を行い、PCB含量が0.5ppm以下の絶縁油Bとする工程を含むことを特徴とするPCBの抽出・分離方法。
【請求項2】
非プロトン性有機極性溶媒がジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトリトリル又はこれらの混合溶媒である請求項1記載のPCBの抽出・分離方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−247050(P2010−247050A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98048(P2009−98048)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(502201066)
【出願人】(501256638)株式会社エーアイティー (5)
【Fターム(参考)】