説明

PCBの無害化処理方法

【課題】PCBの無害化処理を効率よく連続的に行うことができるPCBの無害化処理方法を提供する。
【解決手段】固定環状体20と回転円盤10を有する処理チャンバ1内に不活性ガス4を供給しながら、PCB液と灯油が重量比で10:90〜80:20である混合液、およびPCB中の塩素と同当量で平均粒径1μm〜3μmの金属ナトリウムを浮遊分散させている処理液を該チャンバに底部より供給し、該回転円盤を10,000rpm〜18,000rpmで回転させると共に150℃以上250℃以下に昇温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ塩化ビフェニル(以下、PCBという)を物理的・機械的手段を用いて無害化処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCBは化学的にきわめて安定な物質で絶縁性に優れているところから、電気絶縁油などとして広く使用されていた。
しかし乍ら、PCBが人体に悪影響を与えることが明らかになる一方、難分解性のために長期間に亘って残留し人体等悪影響を与え続けることで、残存PCBが社会問題化したことは、周く知られているところである。
【0003】
上記のような問題物質PCBを無害化する処理方法としては、従来から、脱塩素化分解法、水熱酸化分解法、光分解法、プラズマ分解法などの処理方法が、PCBの無害化処理方法として提案されたことが知られている。
【0004】
しかし、上記の提案された方法は、密閉圧力容器の内部を高温・高圧下、或は、窒素ガスの存在下においてPCBの処理を行うため、耐圧・耐熱性能を備えた反応容器を不可欠としている。このため設備コストが嵩張るほか反応容器の製造も容易ではないという難点があり、また、密閉圧力容器内での処理のため、大量のPCBの連続的な処理はできないという、実用上の問題がある。
【0005】
このような提案技術の問題点に鑑み、本発明の発明者は、密閉圧力容器を必要としないPCBの無害化処理方法を先に特許文献1,2などにより提案した。
【0006】
本願の発明者が先に提案したPCBの無害化処理方法は、小孔付きの高速回転円板の作用によるメカノケミカル効果を利用するようにしたものであったが、処理装置の構造に開発ポイントを置いた発明であったため、所期の処理効果を得るための処理態様については解決すべき課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−179084号公報
【特許文献2】特開2002−136857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明では、小孔付き高速回転円板のメカノケミカル効果を利用してPCBを無害化処理するに当り、当該無害化処理を効率よく連続的に行うことができるPCBの無害化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することを目的としてなされた本願のPCB無害化処理方法の構成は、
処理チャンバの中央に、面内に複数の貫通孔を有する直径が250mm〜350mmの複数枚の回転円盤を、回転軸に取付けて配置すると共に、前記の各回転円盤を上下から挟むように固定環状体を当該チャンバ内周壁面に設けた構成を備える処理チャンバにおける前記回転円盤を固定環状体の間で高速回転させるに当り、
前記処理チャンバ内に不活性ガスを供給すると共に、処理したいPCB液と灯油を重量比で10:90〜80:20の割合で混合し、この混合液を100℃〜150℃に加熱して前記PCB中の塩素と同当量で平均粒径1μm〜3μmの金属ナトリウムを浮遊分散させている処理液を、前記チャンバ内にその底側から供給する一方で、前記回転円盤を10,000rpm〜18,000rpmで回転させておくことにより、
前記固定環状体の平面と回転円盤の平面と穴の作用で当該チャンバ内の気体と供給される前記処理液を乱流化して超音波振動を生起させ、
同時に、前記気体と処理液をすき間に保持している固定環状体と回転円盤の作用でチャンバ内にある処理液を150℃以上250℃以下に昇温させると共に、その処理液に20,000G〜40,000Gの加速度を加え、
当該処理液の分子間結合を切断して分離されたPCBの塩素と前記金属ナトリウムを結合し、これにより生成されるビフェニルと食塩を含む処理された液を前記チャンバ上部の排出部から排出させるようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、処理チャンバ内で回転円盤を10,000rpm〜18,000rpmの超高速で回転させているとき、前記処理チャンバ内に不活性ガスを供給すると共に処理したいPCB液と灯油を重量比で10:90〜80:20の割合で混合し、この混合液にPCB中の塩素と同当量の100℃〜150℃に加熱した金属ナトリウムを添加し、平均粒径1μm〜3μmの金属ナトリウムを浮遊分散するように混合した処理液を、前記チャンバ内にその底側から供給するように下から、前記処理液が乱流化されて超音波振動を生起し、チャンバ内の処理液が150℃以上250℃以下に昇温させると共に、その処理液に20,000G〜40,000Gの加速度が加わり、これによって、前記処理液の分子間結合を切断して分離されたPCBの塩素と前記金属ナトリウムを結合し、生成されたビフェニルと食塩を含む処理された液を前記チャンバ上部の排出部から排出することができる。これにより大量のPCBであっても効率よく、かつ、連続的に無害化処理することができる。また、処理チャンバは密閉圧力容器でなくてもよいから、設備コストも低く、製造も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明PCB無害化処理方法を実施するための一例の系統図。
【図2】図1の処理系統において処理チャンバの構造の一例を模式的に示した縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明方法の実施の形態例を図に拠り説明する。
図1において、1は処理チャンバ、2は処理したいPCBを灯油と混合した状態の100℃〜150℃処理液を一時貯留しておき、その処理液を前記チャンバ1に所定態様で供給できるようにしたPCBを含む処理液の貯留槽、3は前記貯蓄槽2から送出される処理液に100℃〜150℃で溶融させた金属ナトリウムを添加するためのナトリウム添加装置であり、3Aは添加される前記ナトリウムを平均粒径1μm〜3μmで前記処理液に浮遊分散させるミキサである。金属ナトリウムが浮遊分散された処理液は、処理チャンバ1に、2l/min〜6l/minの送給量、一例として4l/min程度の送給量により当該チャンバ1の底部1a側の取出口3PNからチャンバ内に送り込まれる。図1においてV1〜V3は貯留槽2と処理チャンバ1の間において挿入したバルブ、Pは同じくポンプである。
【0013】
処理チャンバ1の構成例については、後に図2により詳述するが、チッソ供給手段4の作用で取出口4Nからチッソが充填されている当該チャンバ1の内部に前記送給量で連続的に送り込まれる処理液は、チャンバ内で10,000rpm〜18,000rpm一例として12,000rpm程度で回転する3〜4枚、一例として4枚の、小孔付きで直径が250mm〜350mm一例として300mmの回転円盤10と、この回転円盤10の間に位置付けてこのチャンバの内周壁面に設けられた回転しない固定板20の作用で、いわゆるメカノケミカル作用を受ける。
【0014】
前記作用を受けるPCBを含む処理液は、PCBの塩素とビフェニルの分子結合が切り離され、分離された塩素が前記金属ナトリウムと結合して食塩に生成されると共に分離したビフェニエルを含んだ処理済の液体が前記チャンバ1の上部1bから処理液に作用している高速回転円盤10の遠心力の作用でチャンバの外に送出されることによって、前記処理液が含んでいるPCBが無害化される。
【0015】
図1において、5は処理チャンバ1の上部1bから送出される処理済の液を冷却する凝縮器、6は凝縮器を通過した処理済液を収容する処理済槽である。因みに、処理チャンバ1から処理されて送り出され凝縮器5に入る処理済液の温度は180℃前後である。
本発明では、一次処理済槽6に入る処理された液は、そのPCB濃度が濃度測定手段10により測定され、その測定結果によって処理済液に無害化されないPCBが含まれていることが判別部11で判別されると、戻しポンプ7を使って貯留槽1に戻し、再度処理チャンバ1に送られる循環式の再処理ルートを備えている。61は判別部11でPCBが含まれていないと判別された処理済液が切換部12を経由して供給される処理完了槽である。判別部11では、切換部12の流路切換のための信号と戻しポンプ7の起動,停止のための信号が、測定手段10からの信号に基づいて形成され、切換部12と戻しポンプ7に供給されるようになっている。
【0016】
8は、処理チャンバ1内に処理中に生成される蒸気・ガスを冷却して凝縮する蒸気凝縮器であり、この凝縮器8で冷却凝縮された蒸気・ガスは活性炭などの濾過材9aを備えた濾過槽9を通して一次処理済槽6に送給される。
【0017】
次に、図2によって本発明で使用する処理チャンバの具体的構造の例を説明する。
図2において、処理チャンバ1は、次の構成を具備している。すなわち、処理チャンバ1は、好ましくは内周壁に凹凸のある筒状の内室30を有し、その内室30の中心部に、チャンバ1の上方へ伸びた太い回転軸40を回転自在に備えている。回転軸40には、中心に液状の冷却剤を流通させるための冷却通路が、この回転軸40に設けた孔40aとこの孔40aに挿入した冷却剤CLの供給パイプ40bによって形成されている。図示した回転軸40は、チャンバ1の上方において冷却機構を備えた上,下の軸受40cと40dに支持されている。軸受40c,40dの位置は図示した例に限られるものではない。
【0018】
処理チャンバ1の外周面は、ほぼ全域が外室ジャケット50で覆われ、該ジャケット50の上部に設けた蒸気・ガスの出口50aからチャンバ1の内室30に生成した蒸気・ガスが排出され、このジャケット50の下部に設けた液体の出口50bから内室30で処理された液が排出される。図2において、51は、処理チャンバ1の内室30の外部上面と外室ジャケット50の上面に配置された冷却プレートで、当該プレート51には、冷却剤が流通する冷却剤通路51aと51bが形成されている。なお、40eは回転軸40に高速回転を付与する高速回転機構であるが、この機構40eは、図示しないが、電動機、増速歯車列などによる増速機構、軸受などを含む。
図2において、処理チャンバ1の底部1aの中央には、PCBを含んだ処理液の供給口3PNが形成されている。4Nは同じ底部1aに形成したチッソの供給口で、供給されるチッソは、チャンバ内室30と外室ジャケット50の内部に供給されるように通路が形成されている。
【0019】
本発明では、上記の構成を備えた処理チャンバ1に、PCBを含んだ処理すべき液が送給されて無害化処理されるので、この点について以下に説明する。
図1における貯留槽2には、PCB液と灯油を重量比で約10:90〜80:20の範囲で混合したPCBを含む液が送り込まれている。
この液に100℃〜150℃で溶融させた金属ナトリウムが、処理チャンバ1に送給される途中で添加装置3によって加えられる。添加される金属ナトリウム粒は、ミキサ3Aによって前記PCBを含む液中に混合され、前記ナトリウムを平均粒径1μm〜3μmでこの液中に浮遊分散される。
【0020】
一方、処理チャンバ1では、回転軸40に高速回転機構40eから回転が付与され、回転軸40に取付けられた小孔10aを設けた直径300mmの回転円盤10に、一例として12,000rpm程度の回転を付与する。回転円盤10への前記回転は、当該円盤10に小孔10aが設けられていること、並びに、回転円盤10が固定板20に挟まれていることにより、チャンバ内室30の内部に強大な負圧を生起させる。この負圧が上記のナトリウム金属が混合されて予熱されているPCBを含む処理液を、チャンバ内に吸引する。
【0021】
処理チャンバ内1に生じる負圧により当該チャンバ内に吸引されるように送給されるPCBを含む処理液は、高速回転する小孔10a付きの円盤10と固定板20の対向した平面と、その対向面に存在する回転円盤の小孔10aによって高速乱流化され、これによってチャンバ内室30の内部に超音波振動を生起させる。
【0022】
一方、処理チャンバ1の外で100℃〜150℃に予熱されていた前記処理液は、前記チャンバ内室30の内部における乱流と超音波振動の作用で150℃〜250℃以下程度にまで昇温されると同時に、高速回転する円盤10によって強大な遠心力を受けるため、水平方向(横向き)に20,000G〜40,000Gもの強大な加速度を受けることとなる。
【0023】
上記のような機械作用を受けるPCBを含んだ処理液は、PCBを形成する塩素とビフェニルの分子間結合が切断されてPCBから分離した塩素と金属ナトリウムが結合し、これにより食塩とビフェニルを含む液に処理される。
【0024】
上記のPCBを含んだ液の食塩とビフェニルを含む液への変化は、処理チャンバ1の内室30で処理された液がこのチャンバ1(内室30)の上部1bに設けた出口30aから送出されて、液体はジャケット50の下部の出口50bから凝縮器5に送られ、そこで冷却されて一次処理済槽6に収容される。このとき、測定手段10でPCB濃度が測定されてその濃度が所定値以下、好ましくは濃度ゼロになるまで一次処理済槽6から貯留槽2に還流され、繰り返し処理チャンバ1内でメカノケミカル作用を受ける。
また、処理チャンバ1の内室30に生成される蒸気・ガスは、出口30aから外室ジャケット50の上部の出口50aから凝縮器8に送られ、そこで液化されたものが一次処理済槽6へ送り込まれる。
【0025】
このようにして、処理チャンバ1で処理されたPCBを含んだ液の一次処理済槽6におけるPCB濃度がゼロになったことが測定手段10で検出されたら、処理チャンバ1で処理されたPCBを含んだ液は無害化処理されたことになるから、その処理済液は処理完了槽61に送られて、貯留槽2に収容されていたPCBを含む処理液の本発明による無害化処理が完了する。
【0026】
本発明は以上の通りであって、従来提案されているPCBの無害化処理技術では低コストで効率のよい無害化処理は困難であったが、本発明では、処理チャンバの中央に、面内に複数の貫通孔を有する複数枚の回転円盤を、回転軸に取付けて配置すると共に、前記の各回転円盤を上下から挟むように固定環状体を当該チャンバ内周壁面に設けた構成を備える処理チャンバにおいて、前記回転円盤を、固定環状体の間で10,000rpm〜18,000rpmで回転させているとき、その処理チャンバ内に不活性ガスを供給すると共に、処理したいPCB液と灯油を重量比で10:90〜80:20の割合で混合し、この混合液にPCB中の塩素と同当量の100℃〜150℃に加熱した金属ナトリウムを添加し、平均粒径1μm〜3μmの金属ナトリウムを浮遊分散するように混合した処理液を、当該チャンバ内にその底側から供給することにより、その処理液の分子間結合を切断して分離されたPCBの塩素と前記金属ナトリウムを結合し、これにより生成されるビフェニルと食塩を含む処理された液を前記チャンバ上部の排出部から排出させてPCBを無害化処理することができるから、密閉圧力容器を用いることなく効率よくPCBを無害化処理でき、産業上きわめて有用である。
【符号の説明】
【0027】
1 処理チャンバ
2 貯留槽
3 ナトリウム添加装置
3A ミキサ
4 チッソ供給手段
5 処理済液凝縮器
6 一次処理済槽
61 処理完了槽
7 戻しポンプ
8 蒸気凝縮器
9 濾過槽
1a チャンバ1における内室30の底部
1b チャンバ1における内室30の上部
10 回転円盤
10a 小孔
20 固定板(固定環状体)
30 チャンバ内室
40 回転軸
50 外室ジャケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理チャンバの中央に、面内に複数の貫通孔を有する直径が250mm〜350mmの複数枚の回転円盤を、回転軸に取付けて配置すると共に、前記の各回転円盤を上下から挟むように固定環状体を当該チャンバ内周壁面に設けた構成を備える処理チャンバにおける前記回転円盤を固定環状体の間で高速回転させるに当り、
前記処理チャンバ内に不活性ガスを供給すると共に、処理したいPCB液と灯油を重量比で10:90〜80:20の割合で混合し、この混合液にPCB中の塩素と同当量の100℃〜150℃に加熱した金属ナトリウムを添加し、平均粒径1μm〜3μmの金属ナトリウムを浮遊分散するように混合した処理液を、前記チャンバ内にその底側から供給する一方で、前記回転円盤を10,000rpm〜18,000rpmで回転させておくことにより、
前記固定環状体の平面と回転円盤の平面と穴の作用で当該チャンバ内の気体と供給される前記処理液を乱流化して超音波振動を生起させ、
同時に、前記気体と処理液をすき間に保持している固定環状体と回転円盤の作用でチャンバ内にある処理液を150℃以上250℃以下に昇温させると共に、その処理液に20,000G〜40,000Gの加速度を加え、
当該処理液の分子間結合を切断して分離されたPCBの塩素と前記金属ナトリウムを結合し、これにより生成されるビフェニルと食塩を含む処理された液を前記チャンバ上部の排出部から排出させるようにしたことを特徴とするPCBの無害化処理方法。
【請求項2】
PCBを含む液は、2l/min〜6l/minの送給量で処理チャンバに供給される請求項1のPCBの無害化処理方法。
【請求項3】
回転円盤の枚数を3〜4枚とする請求項1又は2のPCBの無害化処理方法。
【請求項4】
処理チャンバ内で処理されて生成されるビフェニルと食塩を含む液は、前記チャンバから排出された後にPCB濃度が測定され、PCBが残っている場合には処理したいPCBを含む液の貯留部に還流させる請求項1〜3いずれかのPCBの無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−81570(P2013−81570A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222509(P2011−222509)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(596133588)
【Fターム(参考)】