説明

PCB分析方法、並びにPCB分析用試料導入装置、及びPCB分析装置

【課題】 PCBを含有する試料を、キャピラリーガスクロマトグラフを用いて分析する方法において、分離カラムや検出器の汚染が極めて少なく、迅速かつ高精度にPCBを検出・定量可能なPCB分析方法、該方法に使用されるPCB分析装置を提供する。
【解決手段】 試料導入装置におけるガス化部の温度を、試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、前記PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させることを特徴とするPCB分析方法である。前記PCB分析方法に使用されるPCB分析用試料導入装置、及び前記PCB分析用試料導入装置を備えたキャピラリーカラムクロマトグラフと、検出器とを少なくとも備えるPCB分析装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャピラリーガスクロマトグラフを用いて絶縁油中のポリ塩化ビフェニル類(PCB)を分析するPCB分析方法、並びにPCB分析用試料導入装置、及びPCB分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビフェニル類(以下、「PCB」という)は、安定性や絶縁性の高さから、変圧器及びコンデンサー等の電気絶縁材、並びに熱媒体などとして広く使用されてきたが、人体や環境への有害性が確認されたことから製造や使用が禁止された。PCBは、難分解性で環境中に残留し、食物連鎖を通じて生物に蓄積され、人の健康や生態系に影響を及ぼす性質を有する残留性有機汚染物質の代表的な化学物質として規制されており、PCBを含む廃棄物は、適正に処理されるまで、生活環境の保全上支障のないように保管することが義務づけられている。
しかし、適正処理が行われずに保管されていたPCB廃棄物は、保管の長期化により、紛失や漏洩の発生が問題視され、平成13年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特措法)が施行された。このPCB特措法により、15年以内に全てのPCB廃棄物の適正処理が義務付けられた。
【0003】
例えば、絶縁油の場合、保管されている絶縁油以外にも、過去においてPCBを絶縁油として使用していた変圧器において置換された代替絶縁油も、前記変圧器内に微量に残留したPCBに汚染されていることが知られており、このような変圧器中代替絶縁油も含め、大量のPCB濃度を検査し、迅速に処理の必要性の有無を明確にする必要がある。また、処理を行ったPCB廃棄物に対し、処理後のPCB残留濃度、環境中のPCB濃度を検査することも極めて重要である。
【0004】
従来のPCB分析方法としては、例えば、公定法として、高分解能ガスクロマトグラフ−高分解能質量分析(HRGC−HRMS)や、電子捕獲型検出器付きガスクロマトグラフ法(GC‐ECD法)が用いられている(非特許文献1参照)。これらの方法は分解能が高く、また定量下限も低いが、分析に要する時間が長く、分析の妨害となる夾雑成分を除去する試料の操作が煩雑であり、コスト負担が大きいという問題がある。
【0005】
ところで、ガスクロマトグラフを使用して絶縁油の分析を行う場合、該絶縁油中に含まれる夾雑成分により、分離カラムや分析装置の汚染が著しくなり、長期間の分析や、安定した分析が困難になるという問題がある。このため、前処理により前記絶縁油中に含まれる夾雑成分を除去する方法が求められている。
【0006】
これらの問題に対し、短時間で簡便かつ安価な前処理方法として、例えば、非揮発性を有する非極性溶媒で希釈した被験物質をガスクロマトグラフに導入する方法(特許文献1参照)が提案されている。この方法によると、被験物質の種類にかかわらず、ガスクロマトグラフに導入される夾雑成分の絶対量を減らすことができるが、分離カラムや検出器の汚染自体を防止することはできない。
【0007】
一方、被験物質から極性溶媒を用いて抽出したPCBを、逆相系固相抽出器に通し、揮発性溶媒に転溶して試料を調製する方法(特許文献2参照)が提案されている。この方法によると、脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素からなる夾雑成分は除去されるが、多環芳香族炭化水素や、色素、その他製造工程で添加された各種成分が完全には除去されない。このような試料を、例えば、試料注入口の温度が高温に保たれているスプリットレス注入法や、コールドオンカラム注入法によりキャピラリーガスクロマトグラフに注入した場合、分離カラムや、直結された質量分析器等の検出器内部の汚染を防止することは困難である。
【0008】
したがって、PCBを含有する試料を、キャピラリーガスクロマトグラフを用いて分析する方法において、被験物質の種類にかかわらず、分離カラムや検出器の汚染が極めて少なく、迅速かつ高精度にPCBを検出・定量可能なPCB分析方法、該方法に使用されるPCB分析装置は、未だ提供されていないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開2004−61485号公報
【特許文献2】特開2000−88825号公報
【非特許文献1】「絶縁油中のポリ塩素化ビフェニル(PCB)の分析方法規定」(電気技術基準調査委員会編集、社団法人日本電気協会発行、平成3年9月30日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、PCBを含有する試料を、キャピラリーガスクロマトグラフを用いて分析する方法において、分離カラムや検出器の汚染が極めて少なく、迅速かつ高精度にPCBを検出・定量可能なPCB分析方法、該方法に使用されるPCB分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、キャピラリーガスクロマトグラフを用いてPCBを含有する試料を分析する際、前記試料を注入する試料導入装置の温度制御を行い、分析対象であるPCB(特に、絶縁油中に多く含まれ工業的に多く用いられている塩素数が7以下であるPCB)のみを分離カラムに送るとともに、PCB以外の夾雑成分を試料導入装置内に残留させる工夫を施すことにより、被験物質の種類にかかわらず、分離カラムや検出器の汚染を防ぎ、迅速かつ高精度にPCBを検出・定量できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> キャピラリーガスクロマトグラフの試料導入装置におけるガス化部の温度を、
試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、
前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、
PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、
前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させることを特徴とするPCB分析方法である。該<1>に記載のPCB分析方法においては、前記ガス化部の温度を、前記試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、前記試料を注入した後、前記試料中PCBが気化する温度まで上昇させ、PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、前記試料中の前記夾雑成分を前記ガス化部内に残留させることにより、前記試料中の気化したPCBのみが分離カラムに送られるとともに、気化しなかった前記夾雑成分は、分離カラムや検出器への流入が防止される。この結果、迅速かつ高精度にPCBの検出・定量が行われる。
<2> ガス化部の温度を、170℃まで上昇させる前記<1>に記載のPCB分析方法である。該<2>に記載のPCB分析方法においては、ガス化部の温度を170℃まで上昇させるため、絶縁油中に多く含まれている塩素数が7以下であるPCBのみが主に気化し、分離カラムに送られる。この結果、迅速かつ高精度にPCBの検出・定量が行われる。
<3> 試料を、ガス化部内に備えられた交換可能な微小容器内に注入し、前記試料中の夾雑成分を、前記微小容器内に残留させる前記<1>から<2>のいずれかに記載のPCB分析方法である。該<3>に記載のPCB分析方法においては、前記試料を、前記ガス化部内に備えられた前記微小容器に注入するため、気化しなかった前記夾雑成分が前記微小容器内に残留する。前記夾雑成分が残留した前記微小容器を交換することにより、前記夾雑成分が容易に除去される。この結果、PCB分析が、連続して、迅速かつ効率よく行われる。
【0013】
<4> 試料が、被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出してなる前記<1>から<3>のいずれかに記載のPCB分析方法である。該<4>に記載のPCB分析方法においては、試料が、被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出してなるため、被験物質の種類にかかわらず、極めて容易に試料が調製される。この結果、迅速かつ効率的にPCBの検出・定量が行われる。
<5> 極性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)である前記<4>に記載のPCB分析方法である。
<6> 試料が、被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出し、抽出された前記PCBを含む前記極性溶媒を吸着剤で固相抽出し、前記吸着剤に吸着した成分を揮発性有機溶媒に転溶させてなる前記<1>から<3>のいずれかに記載のPCB分析方法である。該<6>に記載のPCB分析方法においては、試料が、被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出し、抽出された前記PCBを含む前記極性溶媒を吸着剤で固相抽出し、前記吸着剤に吸着した成分を揮発性有機溶媒に転溶させてなる。この結果、迅速かつ効率的に高精度なPCBの検出・定量が行われる。
<7> 極性溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)である前記<6>に記載のPCB分析方法である。
<8> 吸着剤が、ポリマー系逆相膜型吸着剤である前記<6>から<7>のいずれかに記載のPCB分析方法である。
【0014】
<9> 被験物質が絶縁油である前記<1>から<8>のいずれかに記載のPCB分析方法である。
<10> 被験物質がPCB汚染物である前記<1>から<9>のいずれかに記載のPCB分析方法である。
【0015】
<11> 試料中のPCBをキャピラリーガスクロマトグラフにより分離した後、前記試料中のPCBの濃度を、タンデム質量分析(MS/MS)法、及び負イオン化学イオン(NCI/MS)法の少なくともいずれかにより分析する前記<1>から<10>のいずれかに記載のPCB分析方法である。
<12> クロマトグラムのピーク面積からPCB濃度を算出する前記<11>に記載のPCB分析方法である。
【0016】
<13> 前記<1>から<12>のいずれかに記載のPCB分析方法に使用され、
キャピラリーガスクロマトグラフの試料導入装置におけるガス化部の温度を、
試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、
前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、
PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、
前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させる温度制御手段を有することを特徴とするPCB分析用試料導入装置である。該<13>に記載のPCB分析用試料導入装置においては、前記ガス化部の温度を、前記試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、前記試料中の前記夾雑成分を前記ガス化部内に残留させる温度制御手段を有するため、気化しなかった前記夾雑成分の前記分離カラムや前記検出器への流入が防止される。この結果、分離カラムや検出器の汚染が防止され、迅速かつ高精度なPCBの検出・定量が行われる。
<14> ガス化部内に、交換可能な微小容器を備える前記<13>に記載のPCB分析用試料導入装置である。該<14>に記載のPCB分析用試料導入装置においては、前記夾雑成分が内部に残留した前記微小容器と、新たな前記微小容器とが交換される。この結果、前記微小容器を交換することにより次の分析を行うことができ、例えば、PCB分析が連続して効率よく行われる。
<15> 微小容器が、一端に試料が導入される開口部を有し、他端に前記試料を保持する底部を有し、かつ側面に少なくとも1個の孔部を有する前記<13>から<14>のいずれかに記載のPCB分析用試料導入装置である。該<15>に記載のPCB分析用試料導入装置においては、前記微小容器が、一端に試料が導入される開口部を有し、他端に前記試料を保持する底部を有し、かつ側面に少なくとも1個の孔部を有するため、気化した成分が効率よく拡散される。この結果、迅速かつ高精度なPCBの検出・定量が行われる。
<16> ガス化部、及び微小容器の少なくともいずれかを自動交換する手段を備える前記<13>から<15>のいずれかに記載のPCB分析用試料導入装置である。
【0017】
<17> 前記<13>から<16>のいずれかに記載のPCB分析用試料導入装置を備えたキャピラリーカラムクロマトグラフと、検出器とを少なくとも備えることを特徴とするPCB分析装置である。
<18> 検出器が、質量分析計である前記<17>に記載のPCB分析装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、PCBを含有する試料を、キャピラリーガスクロマトグラフを用いて分析する方法において、分離カラムや検出器の汚染が極めて少なく、迅速かつ高精度にPCBを検出・定量可能なPCB分析方法、該方法に使用されるPCB分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(PCB分析方法、PCB分析用試料導入装置、PCB分析装置)
本発明のPCB分析用試料導入装置は、本発明の前記PCB分析方法に使用され、キャピラリーガスクロマトグラフの前記試料導入装置における前記ガス化部の温度を、前記試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させる温度制御手段を少なくとも有する。
また、本発明のPCB分析装置は、前記PCB分析用試料導入装置を備えたキャピラリーカラムクロマトグラフと、検出器とを少なくとも備え、適宜選択したその他の装置を備える。
【0020】
本発明のPCB分析方法は、キャピラリーガスクロマトグラフの前記試料導入装置における前記ガス化部の温度を、前記試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させることを少なくとも含み、適宜選択したその他の工程を含む。
本発明のPCB分析方法は、本発明のPCB分析用試料導入装置を用いて好適に実施することができ、本発明のPCB分析用試料導入装置を用いて好適に実施することができる。本発明のPCB分析装置の説明は、本発明のPCB分析用資料導入装置、及び本発明のPCB分析装置の説明を通じて明らかにすることとする。
【0021】
<PCB分析用試料導入装置>
本発明のPCB分析方法に使用される本発明のPCB分析用試料導入装置について、図1を参照しながら説明する。
前記PCB分析用試料導入装置10は、筒状の外枠11の一端部(ここでは上端部)にセプタム20を備え、キャリアーガス入り口30とセプタムパージ40とが連通して設けられ、さらに上方にスプリットパージ50が設けられている。前記外枠11の内部には、注入口ライナー(インサート)60によりガス化部62が画成されており、前記注入口ライナー(インサート)60は、袋ナット12によりOリング(図示せず)を介して前記外枠11に着脱可能に接続されている。
前記注入口ライナー(インサート)60は、一端部(ここでは下端部)にキャピラリーカラム80が接続されている。
また、前記注入口ライナー(インサート)60は、微小容器70が載置可能な微小容器保持部61を備えている。前記微小容器保持部61は、2個以上の突起状物からなり、前記微小容器70を設置した場合であっても、前記注入口ライナー(インサート)60内部の気体の流れを遮断することがない。
【0022】
<<微小容器>>
前記微小容器70としては、前記ガス化部62内部に設置可能であり、かつ一端に試料が導入される開口部を有し、他端に前記試料を保持する底部を有し、気化した成分が少なくとも前記開口部から拡散可能な構造である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、交換可能であることが好ましい。
【0023】
前記微小容器70の材質としては、例えば、ガラス等が挙げられ、これらの中でも、耐熱ガラス、石英ガラスが好ましい。
前記微小容器70の形状としては、例えば、円筒形が好ましい。
【0024】
また、前記微小容器70としては、側面に少なくとも1個の孔部を有することが好ましい。前記孔部の形状としては、特に制限はないが、前記微小容器の製造において容易に形成可能な形状であることが好ましい。
【0025】
前記PCB分析用試料導入装置は、前記ガス化部62、すなわち該ガス化部を画成する前記注入口ライナー(インサート)11、及び前記微小容器70の少なくともいずれかを自動交換する手段を備えることが好ましい。
前記注入口ライナー(インサート)11、及び前記微小容器70の少なくともいずれかを自動交換する手段としては、例えば、XYZ軸方向に動作可能なロボットシステムを備えた装置等が挙げられる。
【0026】
<<温度制御手段>>
前記PCB分析用試料導入装置10の一端部(ここでは下端部)には、温度制御手段90が備えられている。
前記温度制御手段90は、前記ガス化部62の温度を、前記試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させるように制御する。
ここで、前記ガス化部62内の温度と、前記微小容器70内の温度とは略同一であり、すなわち、前記温度制御手段90は、前記微小容器70内の温度を、前記試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、前記試料を注入した後、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させ、PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、前記試料中の夾雑成分を前記微小容器70内に残留させるように制御する。
【0027】
さらに、前記温度制御手段90は、前記ガス化部62及び前記微小容器70の内部を、前記試料の溶媒の気化温度未満の温度とした後、その温度を、少なくともPCB分析が終了するまで維持するように制御できることが好ましく、次回の分析として新たな試料が注入される時までその温度を維持するように制御できることがより好ましい。
【0028】
前記温度制御手段90としては、上述の温度制御が可能である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、少なくとも温度を検知可能なセンサーと、加熱手段及び冷却手段とを備えるものが好ましく、これらがプログラム等により自動的に制御されて作動するものがより好ましい。
前記加熱手段における加熱方法としては、例えば、電磁波加熱、誘導加熱、抵抗加熱等が挙げられる。
前記冷却手段における冷却方法としては、例えば、空冷(送風等)、冷媒(液化窒素、液化炭酸等)による冷却、電子冷却などが挙げられる。
【0029】
<試料導入方法>
前記試料を前記PCB分析用試料導入装置に注入する方法としては、例えば、セプタム20を貫通可能な針を備えたシリンジ等を用いて前記ガス化部62へ注入する方法が挙げられる。このとき、前記試料は、前記微小容器70の内部に注入されて保持されることが好ましい。
前記試料の注入時、前記ガス化部62及び前記微小容器70の内部は、前記試料の溶媒の気化温度未満に維持されているため、前記試料の急激な気化による前記注入口の汚染や、バックフラッシュを防止することができる。
【0030】
前記試料が前記ガス化部62又は前記微小容器70内に注入された後、前記ガス化部62及び前記微小容器70の内部温度を、前記試料中のPCBが気化する温度まで上昇させる。
このとき、前記ガス化部62及び前記微小容器70の内部は、急速かつ一定の昇温速度で加熱されることが好ましく、前記昇温速度としては、例えば、0.1〜20℃/秒が好ましく、16℃/秒が好ましい。
PCBが気化する温度としては、例えば、150〜310℃が挙げられ、前記微小容器内部温度を310℃まで上昇させることにより、塩素数の高いPCBも気化させることができるが、前記被験物質が絶縁油である場合、絶縁油中に主に多く含まれている塩素数が7以下であるPCBを選択的に分離し、効率よく分析を行う観点、及び高沸点の夾雑成分の混入を抑制する観点から、前記微小容器の内部温度を220℃まで上昇させることが好ましく、170℃まで上昇させることがより好ましい。
【0031】
例えば、コンデンサ・トランスの絶縁油中に含まれるPCB成分は、KC−300が2割、KC−400が3割、KC−500が5割であるといわれている。これらに含まれるPCB異性体分布(重量比)を、下記表1に示す。
【0032】
【表1】

(出典:高菅卓三ら、「各種クリーンアップ法とHRGC/HRMSを用いたポリ塩化ビフェニル(PCBs)の全異性体詳細分析方法」,環境化学,Vol.5,No.3,pp.647−675,1995)
【0033】
前記試料中の気化した前記溶媒は、前記PCB分析用試料導入装置のスプリットパージ50から、1〜600mL/分で除去される。
【0034】
次いで、前記ガス化部62及び前記微小容器70の内部温度を、上述のPCBが気化する温度で、PCBが気化するのに必要な時間保持し、前記試料中のPCBを十分に気化させる。
前記PCBが気化するのに必要な時間としては、0.5〜15分間が好ましく、10分間が好ましい。この時間が、0.5分未満であると、カラムに送られるPCB量が少なくなり、分析が困難となることがあり、15分を超えると、前記試料中の前記夾雑成分がカラムに送られ、カラムを汚染することがある。
【0035】
続いて、前記ガス化部62及び前記微小容器70の内部温度を、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、気化しなかった高沸点成分(夾雑成分)を、液体又は固体として前記ガス化部62及び前記微小容器70の少なくともいずれかの内部に残留させる。
このとき、前記ガス化部62及び前記微小容器70の内部は、一定の冷却速度で冷却されることが好ましく、前記冷却速度としては、1℃/秒以上であることが好ましく、5℃/秒以上であることがより好ましい。
【0036】
前記試料は、前記微小容器に注入し、さらに、前記微小容器内において前記PCBを気化させた後、急冷されることにより、前記夾雑成分を前記微小容器内に確実に残留させることができ、前記夾雑成分を前記微小容器とともに除去することができ、さらに、繰り返し分析を行う際、次の分析を迅速に行うことができる。
【0037】
<<試料>>
前記試料としては、例えば、前記被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出してなる試料、及び前記被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出し、抽出された前記PCBを含む前記極性溶媒を吸着剤で固相抽出し、前記吸着剤に吸着した成分を揮発性有機溶媒に転溶させてなる試料などが挙げられる。
【0038】
前記極性溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられ、これらの中でも、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。
【0039】
前記液液抽出において、前記被験物質と前記極性溶媒との混合比(質量比)としては、(前記被験物質):(前記極性溶媒)=1:1〜:1:10が好ましい。
【0040】
前記吸着剤としては、前記極性溶媒中のPCBを吸着し、かつ揮発性溶媒へ転溶可能なものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリマー系の逆相系吸着剤等が挙げられ、具体的には、ポリスチレン−四フッ化エチレン樹脂(PTFE)製の吸着剤等が挙げられる。
前記吸着剤の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カラム型、ディスク型(膜型)等が挙げられる。
【0041】
前記揮発性溶媒としては、前記吸着剤に吸着したPCBを転溶可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、n−ヘキサン、トルエン、ジクロロメタン等が挙げられ、これらの中でも、n−ヘキサンが好ましい。
前記試料の溶媒が、n−ヘキサンの場合、前記試料導入時の前記注入口の温度としては、60℃程度とすることが好ましい。
【0042】
前記被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出してなる試料の調製方法としては、例えば、前記被験物質に、前記極性溶媒を添加して攪拌した後遠心分離を行い、極性溶媒層を採取することにより調製することができる。得られた前記極性溶媒層に、さらに前記極性溶媒を添加して、攪拌した後遠心分離を行って調製してもよい。
【0043】
前記被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出し、抽出された前記PCBを含む前記極性溶媒を吸着剤で固相抽出し、前記吸着剤に吸着した成分を揮発性有機溶媒に転溶させてなる試料前記試料の調製方法としては、例えば、前記被験物質に前記極性溶媒を添加して攪拌した後遠心分離して得た極性溶媒層に、水を添加して攪拌し、これを前記吸着剤にロードし、前記吸着剤を、前記揮発性溶媒に浸漬することにより調製することができる。
前記試料は、例えば、水分除去のために、無水硫酸ナトリウム等を添加することが好ましい。
【0044】
前記被験物質としては、少なくともPCBを含む可能性がある物質(PCB汚染物)であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、絶縁油、絶縁油以外の油(例えば、植物油、動物油、合成油、鉱物油等)、工場排水、土壌、排ガス、動物の血液や体液、絶縁油の処理作業等において使用した部材等の廃棄物などが挙げられる。これらの中でも、絶縁油が好適に挙げられる。
前記絶縁油としては、脱塩素化処理等のPCB分解処理を行った後の絶縁油も好適に挙げられる。
【0045】
<PCB分析装置>
前記PCB分析装置としては、前記PCB分析用試料導入装置11を備えたキャピラリーカラムクロマトグラフと、前記検出器を少なくとも備え、さらに、キャリアーガスボンベ、キャリアーガス導入部、流量制御装置、及び記録装置などを備えることが好ましい。
【0046】
前記PCB分析用試料導入装置11に注入された前記試料から気化したPCBは、前記キャリアーガス入口30から流入した前記キャリアーガスによって運ばれ、前記キャピラリーカラム(分離カラム)80へ流入し、異性体に分離された後、質量分析装置等の前記検出器へ導入される。
前記キャリアーガスとしては、例えば、ヘリウムが好ましい。
また、前記キャリアーガスの流量としては、使用するキャピラリーカラムの理論段相当高さ(HETP)が最も低くなる領域の流量が好ましい。
【0047】
前記試料中の前記夾雑成分は、前記ガス化部62及び前記微小容器70のいずれかに残留するため、前記キャピラリーカラム(分離カラム)80及び前記検出器の内部を汚染することがない。
【0048】
前記キャピラリーカラム(分離カラム)80としては、カラムオーブンを備え、前記カラムオーブンにより温度制御されることが好ましい。
前記カラムオーブンとしては、前記キャピラリーカラム(分離カラム)80全長の温度を制御可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記キャピラリーカラム(分離カラム)80の材質としては、前記PCBの異性体を分離可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、不活性な金属、ガラス、石英等が挙げられる。
【0049】
前記検出器としては、前記PCBの異性体をそれぞれ検出し、異性体ごとの質量を分析
可能であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、タンデム四重極型質量分析計等が挙げられる。
【0050】
<PCB検出方法>
前記PCBの検出方法としては、例えば、前記PCBの異性体を前記検出器においてイオン化し、タンデム質量分析(MS/MS)法、及び負イオン化学イオン化(NCI)法等により分析し、前記記録装置によりクロマトグラムとして記録する方法が挙げられる。
これらの中でも、タンデム質量分析(MS/MS)法が好ましく、検出法としては、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)法が好ましい。
【0051】
前記PCB検出方法により前記PCBを確認する方法としては、例えば、PCBの異性体が既知の濃度で添加された標準試料を用い、前記試料から検出されたPCBの異性体の保持時間が一致することを確認する方法などが挙げられる。
【0052】
前記標準試料としては、例えば、前記被験物質が絶縁油の場合、前記試料の溶媒(極性溶媒又は揮発性溶媒)中に、カネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600、KC−1000)を一定の濃度で添加することにより調製することができる。
【0053】
前記標準試料を用いて、前記クロマトグラムを作成し、該クロマトグラムの縦軸に前記カネクロール中のPCBの異性体のピーク面積を、横軸に前記標準試料中の既知のPCBの異性体の濃度をとって検量線を作成し、前記検量線に基づき、前記試料から作成したクロマトグラフに基づき、前記資料中の各PCBの異性体の濃度を求めることができる。
【0054】
(標準試料を用いた検量線の作成)
前記標準試料として、ジメチルスルホキシド(DMSO)に、PCBとしてカネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600、KC−1000)を添加したものを用い、前記PCB分析方法により、検量線を作成した。
【0055】
図1に示す前記PCB分析用試料導入装置10の前記微小容器70内に、前記標準試料2μLを注入した。前記微小容器内の温度は、前記標準試料の注入時には80℃とし、前記標準試料の導入後、5℃/秒で280℃まで加熱し、280℃で5分間保持した後、0.7℃/秒で80℃まで冷却した。
【0056】
前記キャリアーガスとしてヘリウムを、前記キャリアーガス入口30から3mL/分の流量で流入した。また、前記スプリットパージ50の流量は、測定開始から340秒までは0mL/分とし、以降20mL/分として前記試料中の溶媒を除去した。
【0057】
前記キャピラリーカラム(分離カラム)80は、前記カラムオーブンにより、150℃で2分間保持した後、20℃/分で170℃まで加熱し、170℃で3分間保持した後、20℃/分で200℃まで加熱し、200℃で2分間保持した後、20℃/分で310℃まで加熱し、310℃で1分間保持し、流入したPCBを分離した。
【0058】
検出器として、タンデム質量分析計を使用し、電子衝撃イオン化(EI)法により前記PCBをイオン化した。なお、イオン化電圧は70eVとし、イオン化電流は300μAとし、イオン源温度は220℃とし、検出電圧は1600Vとした。
前記イオン化されたPCBを、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)検出法により検出し、クロマトグラムを得た。前記マルチプルリアクションモニタリング(MRM)検出法の条件を、下記表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
前記クロマトグラムから、下記表3に示すリテンションタイム内のピークについて、それぞれ面積を求め、図3〜図7に示す検量線を得た。
【0061】
【表3】

【0062】
図3〜図7の結果から、本発明のPCB分析方法によれば、前記標準試料中の添加量と検出量との間に0.9以上の相関係数が得られることがわかる。また、測定できた濃度の下限値は、各カネクロールとも0.5ppmであり、高い分解能が得られることがわかる。
【0063】
本発明のPCB分析用試料導入装置及びPCB分析装置を用いた本発明のPCB分析方法によれば、高い精度でPCB濃度を検出・定量可能であり、さらに、前記キャピラリーカラム(分離カラム)と、前記検出器の汚染が防止されるため、安定した測定を繰り返し行うことができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
前記被験物質として、43種類の使用済み絶縁油を用い、本発明のPCB分析方法によりPCBの濃度を測定し、あわせて公定法(HRMS)による測定を行い、それぞれの結果を比較した。
【0066】
−試料の調製−
本発明のPCB分析方法の試料として、前記絶縁油0.5gに、ジメチルスルホキシドを0.5mL添加し、2分間攪拌した後、3000rpmで2分間遠心し、前記ジメチルスルホキシド層を採取し、試料とした。
【0067】
−PCBの分離−
前記試料及び前記標準試料2μLを、それぞれ図1に示す前記PCB分析用試料導入装置10の前記微小容器70内に注入した。前記微小容器内の温度は、前記標準試料の注入時には80℃とし、前記標準試料の導入後、5℃/秒で280℃まで加熱し、280℃で5分間保持した後、0.7℃/秒で80℃まで冷却した。
【0068】
前記キャリアーガスとしてヘリウムを、前記キャリアーガス入口30から3mL/分の流量で流入した。また、前記スプリットパージ50の流量は、測定開始から340秒までは0mL/分とし、以降20mL/分として前記試料中の溶媒を除去した。
【0069】
前記キャピラリーカラム(分離カラム)80は、前記カラムオーブンにより、150℃で2分間保持した後、20℃/分で170℃まで加熱し、170℃で3分間保持した後、20℃/分で200℃まで加熱し、200℃で2分間保持した後、20℃/分で310℃まで加熱し、310℃で1分間保持し、流入したPCBを分離した。
【0070】
−PCBの検出・定量−
検出器として、タンデム質量分析計を使用し、電子衝撃イオン化(EI)法により前記PCBをイオン化した。なお、イオン化電圧は70eVとし、イオン化電流は300μAとし、イオン源温度は220℃とし、検出電圧は1600Vとした。
前記イオン化されたPCBを、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)検出法により検出し、クロマトグラムを得た。前記クロマトグラムに基づき、3塩素化物〜8塩素化物について、前記公定法による測定結果との相関を調べ、さらに各異性体の濃度を測定した。結果を図8〜13、及び下記表4に示す。
【0071】
【表4】

表4中、「−」は、定量下限未満であることを示し、括弧付の数字は、検出下限以上定量下限未満を示す。
【0072】
図8〜13、及び表4の結果から、本発明のPCB分析方法による結果、及び公定法による結果では、特に5塩素化物及び6塩素化物について非常に高い相関が得られ、クロマトグラムの総ピーク面積は、各異性体とも、非常に高い相関が得られることがわかった。
また、本発明のPCB分析方法によると、分離カラムの汚染もなく、分析を連続して行うことができた。これに対し、公定法による分析は、分離カラムの汚染が生じ、1回の測定クリーニングの必要が生じた。
【0073】
(実施例2)
前記被験物質として、絶縁油0.75gに、ジメチルスルホキシドを3mLを添加し、2分間攪拌した後、3000rpmで2分間遠心し、前記ジメチルスルホキシド層を1mL採取した。ここに純水9mLを加え,ボルテックスミキサーにて2分間撹拌した。得られた懸濁液を、SDB−XCカートリッジにサンプルロードし、ヘキサン1mlに転溶し、無水硫酸ナトリウムを加えて試料を調製した。
前記標準試料としては、KC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600を用い、前記試料と同様にして調製した。
【0074】
前記試料及び前記標準試料3μLを、それぞれ図1に示す前記PCB分析用試料導入装置10の前記微小容器70内に注入した。前記微小容器内の温度は、前記標準試料の注入時には60℃とし、前記標準試料の導入後、5℃/秒で280℃まで加熱し、280℃で10分間保持した後、1℃/秒で60℃まで冷却した。
【0075】
前記キャリアーガスとしてヘリウムを、前記キャリアーガス入口30から0.8mL/分の流量で流入した。また、前記スプリットパージ50の流量は、100mL/分として前記試料中の溶媒を除去した。
【0076】
前記キャピラリーカラム(分離カラム)80は、前記カラムオーブンにより、60℃で3分間保持した後、15℃/分で200℃まで加熱し、さらに5℃/分で280℃まで加熱し、280℃で10分間保持し、PCBを分離した。
【0077】
検出器として、タンデム質量分析計を使用し、電子衝撃イオン化(EI)法により前記PCBをイオン化した。なお、イオン化電圧は70eVとし、イオン化電流は300mAとし、イオン源温度は280℃とした。
前記イオン化されたPCBを、下記表5に示す条件でマルチプルリアクションモニタリング(MRM)検出法により検出し、それぞれクロマトグラムを得た。結果を図14〜19に示す。
【0078】
【表5】

【0079】
標準資料のクロマトグラムのピーク面積から求めたPCBの濃度と、添加したPCB量とを比較した結果、本発明のPCB分析方法における試料調製方法によるPCB回収率は、85.6%であることがわかった。
【0080】
(実施例3)
前記試料及び前記標準試料1μLを、ガス化部(微小容器)の温度を、170℃、及び220℃まで昇温した以外は、実施例2と同様にして分析を行った。
結果を図20及び図21に示す。
【0081】
図20及び図21の結果から、ガス化部(微小容器)の温度を、170℃とすることにより、8塩素化物(8Cl)のピークが出現しないことがわかった。
【0082】
(比較例1)
実施例2において、前記試料導入装置の前記試料注入口を、加熱後に冷却しなかった以外は、実施例2と同様にして分析を行った。
この結果、クロマトグラムのノイズが増加し、分析後に前記分離カラムを観察したところ、汚染がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のPCB分析方法は、被験物質の種類にかかわらず、分離カラムや検出器の汚染が極めて少なく、迅速かつ高精度にPCBを検出・定量可能であるため、PCB含有廃棄物や、処理済みのPCB含有廃棄物等に含まれるPCBの検出・定量に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、本発明のPCB分析用試料導入装置の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、図1のPCB分析用試料導入装置のA〜A´面の断面図である。
【図3】図3は、本発明のPCB分析方法により作成した、標準試料(KC−300)の検量線である。
【図4】図4は、本発明のPCB分析方法により作成した、標準試料(KC−400)の検量線である。
【図5】図5は、本発明のPCB分析方法により作成した、標準試料(KC−500)の検量線である。
【図6】図6は、本発明のPCB分析方法により作成した、標準試料(KC−600)の検量線である。
【図7】図7は、本発明のPCB分析方法により作成した、標準試料(KC−1000)の検量線である。
【図8】図8は、実施例1における3塩素PCB(3塩素化物)の公定法による検量線と本発明のPCB分析方法による測定結果との相関を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例1における4塩素PCB(4塩素化物)の公定法による検量線と本発明のPCB分析方法による測定結果との相関を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例1における5塩素PCB(5塩素化物)の公定法による検量線と本発明のPCB分析方法による測定結果との相関を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例1における6塩素PCB(6塩素化物)の公定法による検量線と本発明のPCB分析方法による測定結果との相関を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例1における7塩素PCB(7塩素化物)の公定法による検量線と本発明のPCB分析方法による測定結果との相関を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例1における8塩素PCB(8塩素化物)の公定法による検量線と本発明のPCB分析方法による測定結果との相関を示すグラフである。
【図14】図14は、実施例2で得た2塩素PCB(2塩素化物)のクロマトグラムであり、上段が試料、下段が標準試料の結果を示す。
【図15】図15は、実施例2で得た3塩素PCB(3塩素化物)のクロマトグラムであり、上段が試料、下段が標準試料の結果を示す。
【図16】図16は、実施例2で得た4塩素PCB(4塩素化物)のクロマトグラムであり、上段が試料、下段が標準試料の結果を示す。
【図17】図17は、実施例2で得た5塩素PCB(5塩素化物)のクロマトグラムであり、上段が試料、下段が標準試料の結果を示す。
【図18】図18は、実施例2で得た6塩素PCB(6塩素化物)のクロマトグラムであり、上段が試料、下段が標準試料の結果を示す。
【図19】図19は、実施例2で得た7塩素PCB(7塩素化物)のクロマトグラムであり、上段が試料、下段が標準試料の結果を示す。
【図20】図20は、実施例3の絶縁油1μLの分析結果を示し、上段はガス化部(微小容器内)170℃まで昇温したときのクロマトグラムを示し、中段及び下段は、1〜10塩素化物を25ppmずつ添加したサンプルマススペクトルであり、中段はガス化部(微小容器内)を220℃まで昇温した結果、下段はガス化部(微小容器内)170℃まで昇温したときの結果をそれぞれ示す。
【図21】図21は、実施例3の標準試料の分析結果を示すマススペクトルであり、上段はガス化部(微小容器内)を220℃まで昇温した結果、下段は170℃まで昇温した結果を示す。
【符号の説明】
【0085】
10 試料導入装置
11 外枠
12 袋ナット
20 セプタム
30 キャリアーガス入口
40 セプタムパージ
50 スプリットパージ
60 注入口ライナー(インサート)
61 微小容器保持部
62 ガス化部
70 微小容器
80 キャピラリーカラム(分離カラム)
90 温度制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリーガスクロマトグラフの試料導入装置におけるガス化部の温度を、
試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、
前記試料を注入した後、前記試料中のポリ塩化ビフェニル類(PCB)が気化する温度まで上昇させ、
前記PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、
前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させることを特徴とするPCB分析方法。
【請求項2】
ガス化部の温度を、170℃まで上昇させる請求項1に記載のPCB分析方法。
【請求項3】
試料を、ガス化部内に備えられた交換可能な微小容器内に注入し、前記試料中の夾雑成分を、前記微小容器内に残留させる請求項1から2のいずれかに記載のPCB分析方法。
【請求項4】
試料が、被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出してなる請求項1から3のいずれかに記載のPCB分析方法。
【請求項5】
試料が、被験物質中のPCBを極性溶媒で液液抽出し、抽出された前記PCBを含む前記極性溶媒を吸着剤で固相抽出し、前記吸着剤に吸着した成分を揮発性有機溶媒に転溶させてなる請求項1から3のいずれかに記載のPCB分析方法。
【請求項6】
吸着剤が、ポリマー系逆相膜型吸着剤である請求項5に記載のPCB分析方法。
【請求項7】
被験物質が絶縁油である請求項1から6のいずれかに記載のPCB分析方法。
【請求項8】
試料中のPCBをキャピラリーガスクロマトグラフにより分離した後、前記試料中のPCBの濃度を、タンデム質量分析(MS/MS)法、及び負イオン化学イオン化(NCI)法の少なくともいずれかにより分析する請求項1から7のいずれかに記載のPCB分析方法。
【請求項9】
クロマトグラムのピーク面積からPCB濃度を算出する請求項8に記載のPCB分析方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のPCB分析方法に使用され、
キャピラリーガスクロマトグラフの試料導入装置におけるガス化部の温度を、
試料の注入時に、前記試料の溶媒の気化温度未満とし、
前記試料を注入した後、前記試料中のポリ塩化ビフェニル類(PCB)が気化する温度まで上昇させ、
前記PCBが気化するのに必要な時間保持した後、前記試料の溶媒の気化温度未満まで降下させ、
前記試料中の夾雑成分を前記ガス化部内に残留させる温度制御手段を有することを特徴とするPCB分析用試料導入装置。
【請求項11】
ガス化部内に、交換可能な微小容器を備える請求項10に記載のPCB分析用試料導入装置。
【請求項12】
微小容器が、一端に試料が導入される開口部を有し、他端に前記試料を保持する底部を有し、かつ側面に少なくとも1個の孔部を有する請求項10から11のいずれかに記載のPCB分析用試料導入装置。
【請求項13】
ガス化部、及び微小容器の少なくともいずれかを自動交換する手段を備える請求項10から12のいずれかに記載のPCB分析用試料導入装置。
【請求項14】
請求項10から13のいずれかに記載のPCB分析用試料導入装置を備えたキャピラリーカラムクロマトグラフと、検出器とを少なくとも備えることを特徴とするPCB分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−93440(P2007−93440A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284486(P2005−284486)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月29日 社団法人日本農芸化学会主催の「日本農芸化学会 2005年度(平成17年度)大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年6月15日 日本環境化学会主催の「第14回討論会」において文書をもって発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】