説明

PCB分析用サンプル採取器、PCB分析用サンプル採取キット、PCB分析用サンプル採取方法およびPCB分析用サンプル管理方法

【課題】この発明は、電気機器からPCB分析用サンプルを安全かつ簡便に採取できるようなPCB分析用サンプル採取器およびPCB分析用サンプル採取を提供するとともに、採取された後にも、サンプルの取り違いが起こりにくい管理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明のPCB分析用サンプル採取方法は、弾性体のキャップ2bを有する真空容器2と、底部に中空針5を有する真空容器ホルダ3と、中空針5に接続される細管4とを有するPCB分析用サンプル採取器1を使用し、PCB分析対象の絶縁油14を有する電気機器10の隙間に細管4を挿入し、細管4と中空針5を接続し、真空容器ホルダ3内で真空容器2のキャップ2bに中空針5を突き通し、電気機器10内の絶縁油14を真空容器2内に採取するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスなどの電気機器内の絶縁油をPCB分析用サンプルとして採取し、管理することに関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニール)は残留性有機汚染物質の一つである。これらは環境中に残留しやすく、脂溶性で生物濃縮率が高く、半揮発性で大気経由の移動があり、人の健康・環境への有害性が確認され、水や底質及び生物など広範囲に環境中に残留している。PCBには209種類の異性体があり、その塩素数と位置によって毒性が異なる。コプラナPCBはダイオキシン類と同様の毒性がある。
【0003】
かつて有用な物質としてトランスなどの電気機器の絶縁油に使用されていたPCBは、日本ではカネミ油症事件をきっかけに生体・環境への影響があることが明らかとなって以来、生産が中止され、開放系用途での使用や新規使用が禁じられている。閉鎖系用途についてはその後熱媒体用のPCBは回収されたが、PCBが使用された電気機器は現在も継続して使用されているか、保管されている。
【0004】
これらの電気機器は、PCBの処分を待って保管されているが、これらの電気機器のすべてに基準値以上のPCBが含まれているわけではない。むしろ、保管されている電気機器のうち、PCB分解処理を要するとされる基準値に満たないものの方が多いと予想されている。そこで、これらの電気機器のすべてにPCB分解処理を行うのではなく、あらかじめ、PCBの含有濃度を分析することが提案されている。
【0005】
PCBの濃度分析方法については、例えば特許文献1などに記載されている。しかし、PCB分析用サンプル採取のために安全かつ簡便な方法が確立されているわけではない。結局、トランスなどのボルトをはずして蓋を開け、ピペットなどで絶縁油をサンプルとして採取している。
【特許文献1】特開2004−61488号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来行われているサンプル採取方法では、PCB汚染の可能性がある絶縁油の環境中への流出が発生する可能性がある。採取に手間がかかり、大量の電気機器から短時間にサンプルを得ることは困難である。また、対象の電気機器の中には使用中のトランスなどもあり、電柱に登って採取する必要がある。
【0007】
さらに、多数のサンプルを採取していくうちに、サンプルの取り違えが生じる危険性がある。このような取り違えは、PCB分析の過程においても生じうる。もし、このようなサンプルの取り違えが発生すると、分析結果と対象の電気機器が一致せず、高濃度のPCBを含む電気機器に対して安全なものとして通常の処分がされてPCBが環境中に流出することにもなりかねない。
【0008】
この発明は、電気機器からPCB分析用サンプルを安全かつ簡便に採取できるようなPCB分析用サンプル採取器およびPCB分析用サンプル採取を提供するとともに、採取された後にも、サンプルの取り違いが起こりにくい管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明のPCB分析用サンプル採取器は、弾性体のキャップを有する真空容器と、底部に中空針を有する真空容器ホルダと、中空針に接続される細管とを有する。
【0010】
この発明のPCB分析用サンプル採取キットは、弾性体のキャップを有する真空容器と、底部に中空針を有する真空容器ホルダと、中空針に接続される細管とを有するPCB分析用サンプル採取器と、同一の識別情報を示すICタグまたは識別ラベルとを有する。
【0011】
この発明のPCB分析用サンプル採取方法は、上述のPCB分析用サンプル採取器を使用するPCB分析用サンプル採取方法であって、PCB分析対象の絶縁油を有する電気機器の隙間に細管を挿入し、細管と中空針を接続し、真空容器ホルダ内で真空容器のキャップに針を突き通し、電気機器内の絶縁油を真空容器内に採取するものである。
【0012】
さらに、この発明のPCB分析用サンプル管理方法は、上述のPCB分析用サンプル採取方法によって採取するとともに、サンプル採取対象の電気機器にICタグまたは識別ラベルを取り付け、サンプルを採取した真空容器に同一の識別情報を示す複数枚の識別ラベルを貼り付け、PCB分析用処理において新たなサンプル収納容器類を使用する度に、1枚の識別ラベルを残してすべての識別ラベルを新たなサンプル収納容器類に移すことを特徴とする。電気機器よりPCB分析用サンプルを採取した後に、真空容器以外のPCB分析用サンプル採取器の部品にも同じ識別情報を示す識別ラベルを貼り付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明のPCB分析用サンプル採取器およびPCB分析用サンプル採取方法は、電気機器を大きく開け広げることなく、わずかな隙間から安全かつ簡便にサンプルを採取できるという効果を有する。また、この発明のPCB分析用サンプル採取キットおよびPCB分析用サンプル管理方法は、サンプル採取中およびその後の工程におけるサンプルの取り違えを防止し、分析結果と対象の電気機器が常に一致するという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明を実施するための最良の形態について説明する。図1はPCB分析用サンプル採取器を示す概念図である。PCB分析用サンプル採取器1は真空容器2と、真空容器ホルダ3と、細管4を有する。
【0015】
真空容器2は試験管状の容器本体2aと、容器本体2bの端部を塞ぐキャップ2bを有する。このキャップはゴムなどの弾性体キャップ2bよりなり、容器本体2aを密封できるものであり、針で容易に突き刺すことができるようになっている。真空容器2の内部は大気圧より低圧になっている。
【0016】
真空容器ホルダ3は、内部に真空容器2を収納できるものであり、底部には中空針5が設けられている。中空針5は底面を貫通した状態で取り付けられおり、真空容器ホルダ3内の端部は尖っていて、キャップ2bに対向している。中空針5の多端側には細管4が着脱できるようになっている。また、真空容器ホルダ3にはフランジ部6が形成されている。
【0017】
つぎに、このPCB分析用サンプル採取器1を使用したPCB分析用サンプル採取方法について説明する。図2はPCB分析用サンプル採取方法を示す概念図である。トランス10の上部蓋11はボルト12およびパッキン13によって固定されている。このボルト12を少し緩めて、隙間を作る。細管4を挿入できる程度の隙間でよいので、ボルトをすべて外す必要はない。したがって、ほとんど閉鎖系に近い状態で、サンプリング作業が行える。
【0018】
ここで、細管4は曲がり部を有することが好ましい。金属管や硬質プラスチック管などの素材で、あらかじめ曲がり部が形成されたものでもよい。また、手で曲げることによって曲げることができ、その状態を維持できるような素材の細管でもよい。細管4の先端がトランス10の内部の絶縁油14に到達したら、細管4の他端部を中空針5に接続する。
【0019】
ついて、真空容器2を真空容器ホルダ3の奥に押し込み、中空針4をキャップ2bに突き通す。この例では、真空容器ホルダ3にフランジ部6が設けられているので、このフランジ部6に指をかければ片手で行うことも可能である。
【0020】
中空針5がキャップ2bを突き抜けたら、トランス10内の絶縁油14が真空容器2に吸い込まれる。こうして、簡単に絶縁油をPCB分析用サンプルとして安全かつ簡単に採取することができる。倉庫に保管されているトランス以外にも、高所にある使用中のトランスからも簡単にPCB分析用サンプルを採取することができる。
【0021】
図3は識別用のICタグおよびラベルのセットを示す概念図である。ICタグ・ラベルセット20は、複数のICタグまたは識別ラベルよりなる。この例では、電気機器取り付け用に1つのICタグ21と、サンプル容器およびその後の工程で使用するだけの枚数の識別ラベル22よりなる。
【0022】
ICタグ21には、ICチップ23と、電気機器に取り付けるための取り付け部24が設けられている。ICチップ23内のメモリにはこのICタグに固有の識別情報が記憶されている。
【0023】
識別ラベル22にもICタグ21と同一の識別情報が付されている。識別ラベル22は、バーコードなどのようにスキャナで読み取り可能なものが好ましい。サンプル容器およびその後の工程で使用するだけの枚数に加えて、サンプル採取後のPCB分析用サンプル採取器で真空容器以外のPCB分析用サンプル採取器の部品に付す分の識別ラベル22を備えてもよい。
【0024】
識別用のICタグおよびラベルのセットは一連のユニットとして一体化しているが、使用時にはそれぞれ取り離すことができる。この識別用のICタグおよびラベルのセットとPCB分析用サンプル採取器をそれぞれ一つずつ組み合わせて、PCB分析用サンプル採取キットとすることができる。
【0025】
ついで、PCB分析用サンプル管理方法について説明する。図4はPCB分析用サンプル管理方法を示す説明図である。上述のPCB分析用サンプル採取方法によってサンプルを採取した後、ICタグ21を電気機器10に取り付ける。例えば、サンプル採取のために緩めたボルト12に取り付け部24をはめ込み、ボルト12を締めて、上部蓋11に固定してもよい。
【0026】
PCB分析用サンプル採取器1は、真空容器2とそれ以外の部品に分離される。真空容器2以外の部品はビニール袋などに入れて安全な場所に保管するが、この部品上かビニール袋に識別ラベルを貼り付ける。サンプルを吸引した真空容器2はサンプル容器30となる。このサンプル容器30にはその後の工程の分のラベル(22a、22b,22c,22d,22e)をすべて貼り付ける。
【0027】
その後のPCB分析用サンプル管理はPCB分析処理の工程によって若干の違いがあるが、本質的なことはここで説明する例と変わりはない。本例においては、サンプルの希釈、カラム通過(精製)、分析、報告書作成、管理伝表作成が行われる。
【0028】
サンプル容器30より一部のサンプルが試料調製用容器31に移されて、適切な濃度に希釈される。このとき、サンプル容器30に貼られた識別ラベルのうち1枚(22a)をサンプル容器30に残し、それ以外をすべて試料調製用容器31に移行させる。
【0029】
試料調製用容器31のサンプルはカラム32を通して精製され、測定用容器33に収容される。このとき、試料調製用容器31に識別ラベル22bを残し、1枚(22c)をカラム32に貼り付け、それ以外はすべて測定用容器33に貼り付ける。
【0030】
測定用容器33の測定用サンプルは分析装置35に投入され、PCB量の測定が行われる。このとき、スキャナで測定用容器33の識別ラベル22より識別情報を読み取り、分析装置35に取り込んでもよい。分析装置35は分析結果に基づいて報告書34を作成し、印刷する。この報告書34にはPCB分析結果とともに識別ラベル22と同じ識別情報がバーコードなどで印刷される。あるいは、報告書用の識別ラベルも用意しておき、これを報告書34に貼り付けてもよい。
【0031】
こうして、PCB分析対象の電気機器10から報告書34までのすべての工程に介在する器具や書類に同一の識別情報が付される。これによって、各工程におけるサンプルの取り違いを防止することができ、PCB分析対象の電気機器と分析データの一致が保障される。分析結果よりPCB分解処理を要するものか、通常の絶縁油と同様の廃棄処分が可能なものかを判別する。サンプル容器30、試料調製用容器31などにも識別ラベル22が付されているので、判定に従ってこれらの器具にも適切な処分がなされる。また、真空容器2以外の使用済みのPCB分析用サンプル採取器で真空容器2以外の部品も同様に適切に処理できる。
【0032】
分析結果は識別情報とともにサーバ36に送信してもよい。送信されたデータは内部の記憶装置36aに記憶される。複数の分析結果が集まったら、関連する一連のものを管理伝票37として印刷する。この管理伝票37にも分析結果とともに識別情報がバーコードなどで印刷される。あるいは、管理伝票用の識別ラベル22eを貼り付けてもよい。こうして、管理伝票37の各分析データも確実に分析対象の電気機器と対応付けることができる。
【0033】
以上、この発明のPCB分析用サンプル管理方法によれば、PCB分析結果と電気機器が確実に対応付けられる。したがって、分析結果にしたがって、適切な処分を行うことができる。さらに、電気機器10の処分を行う直前にも、電気機器10に残っているICタグ21より識別情報を読み出し、サーバ36より分析結果を参照して、最終確認を行うこともできる。処分がなされたら、処分済みであることの情報もサーバ36に送信して、記憶装置36aに記憶させることができる。これによって、電気機器の処分の進行状況が把握でき、例えば、高濃度のPCBを含む電気機器がどこに何台残っているかなどの情報も管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】PCB分析用サンプル採取器を示す概念図である。
【図2】PCB分析用サンプル採取方法を示す概念図である。
【図3】識別用のICタグおよびラベルのセットを示す概念図である。
【図4】PCB分析用サンプル管理方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1.PCB分析用サンプル採取器
2.真空容器
2b.キャップ
3.真空容器ホルダ
4.細管
5.中空針
6.フランジ部
10.電気機器(トランス)
11.上部蓋
12.ボルト
13.パッキン
14.絶縁油
20.ICタグおよびラベルのセット
21.ICタグ
22.識別ラベル
30.サンプル容器
36.サーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体のキャップを有する真空容器と、底部に中空針を有する真空容器ホルダと、中空針に接続される細管とを有するPCB分析用サンプル採取器。
【請求項2】
弾性体のキャップを有する真空容器と、底部に中空針を有する真空容器ホルダと、中空針に接続される細管とを有するPCB分析用サンプル採取器と、
同一の識別情報を示すICタグまたは識別ラベルとを有するPCB分析用サンプル採取キット。
【請求項3】
請求項1に記載のPCB分析用サンプル採取器を使用するPCB分析用サンプル採取方法であって、
PCB分析対象の絶縁油を有する電気機器の隙間に細管を挿入し、細管と中空針を接続し、
真空容器ホルダ内で真空容器のキャップに針を突き通し、
電気機器内の絶縁油を真空容器内に採取するPCB分析用サンプル採取方法。
【請求項4】
請求項3に記載のPCB分析用サンプル採取方法により採取したPCB分析用サンプルの管理方法であって、
サンプル採取対象の電気機器にICタグまたは識別ラベルを取り付け、
サンプルを採取した真空容器に同一の識別情報を示す複数枚の識別ラベルを貼り付け、
PCB分析用処理において新たなサンプル収納容器類を使用する度に、1枚の識別ラベルを残してすべての識別ラベルを新たなサンプル収納容器類に移すことを特徴とするPCB分析用サンプル管理方法。
【請求項5】
電気機器よりPCB分析用サンプルを採取した後に、真空容器以外のPCB分析用サンプル採取器の部品にも同じ識別情報を示す識別ラベルを貼り付ける、請求項4に記載のPCB分析用サンプル管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−48787(P2010−48787A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215944(P2008−215944)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】