PCR法
【課題】マルチプレックス化PCR法のバランスをとる方法の提供。
【解決手段】プライマー制限の代替法として、単一試験管において2以上の時間的に連続するPCR段階を用い、2以上のPCR反応を効果的に分離して、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン産生、および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率を変調する、方法。前哨(sentinel)リンパ節における癌胎児抗原(CEA)の発現レベルを決定することによって、悪性食道腺癌を診断する、迅速RT-PCR法。
【解決手段】プライマー制限の代替法として、単一試験管において2以上の時間的に連続するPCR段階を用い、2以上のPCR反応を効果的に分離して、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン産生、および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率を変調する、方法。前哨(sentinel)リンパ節における癌胎児抗原(CEA)の発現レベルを決定することによって、悪性食道腺癌を診断する、迅速RT-PCR法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
背景
[0001]本出願は、迅速PCR法を開示し、特に、迅速マルチプレックスQRT-PCR法、並びに関連する組成物および装置に重点を置く。
【0002】
[0002]ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、分子生物学分野の強力なツールである。こ
の技術は、微量のDNA断片を意味のある方式で解析可能な量に複製する/増幅するのを可
能にする。こうしたものとして、この技術は、DNA配列決定、DNAフィンガープリンティングなどの分子生物学的用途に適用されてきた。さらに、この方法は、その存在が病的状態を反映する可能性がある、試料中の特定のDNA断片を検出する能力を有する。したがって
、この方法は、分子診断の分野に新たな用途を見出しつつある。さらに、リアルタイム定量的PCR(QPCR)の発展と共に、この技術は、より信頼しうると共に、自動化しやすいも
のとなってきている。現在、この技術は、臨床試料におけるウイルスおよび細菌病原体の検出に、そして白血病(並びに乳房、肺、結腸、食道および皮膚に生じるものなどの、他の癌)の病歴を持つ患者における癌細胞の検出に用いられる。
【0003】
[0003]分子診断法におけるPCRは、その利点にもかかわらず、いくつかの欠点を有す
る。しばしば、これは、オペレーターの技術的な専門知識に依存する技術的なものである。さらに、これはまた、非常に汚染しがちである。これら2つの上述の要因が組み合わさ
ると、それぞれ、偽陰性結果および偽陽性結果が生じる。したがって、目的の標的と共に内部対照を取り込み、それと同時に、プロセスを自動化して閉鎖系内での操作を確実にする(汚染を排除するため)必要がある。対照の取り込みは、目的の標的に加えて、いくつかの異なるセットのDNA断片の増幅を伴う。これらの対照は、既定の実行いずれにおいて
も、解析する試料の品質と共にアッセイの品質に関する情報を提供する。技術的理由のため、PCRを通じた、同一反応試験管における試料内の多数のDNA標的の解析(マルチプレックス化として知られる)は、反応開始時に、標的が同様の存在量で存在しない場合は、うまく働かない。従来、研究者は、PCR反応においてプライマーを制限することによって、
これを克服しようと試みてきた。このアプローチは、1つの反応において試薬を制限する
ことによって、その標的に関して適切な増幅が起こった後であって、他の配列の増幅阻害が起こる前の時点で、反応が停止するという考え方に基づく。この方法は、2つの標的間
の最初の存在量の相違を増加させることが可能であり、やはり両標的の増幅の成功を生じるであろうが、第二の標的が数桁豊富な環境では、まれな標的の検出を可能にしない。さらに、迅速QPCRアッセイが要求される場合、プライマー濃度を減少すると、やはり、定量性が悪化する。
【0004】
[0004]現在のPCR技術のさらなる限界は、PCR診断を行うのに時間がかかることである。典型的なPCR反応は、数分間ではなく数時間かかる。以下に記載するように、多くの理
由のため、PCR反応を行うのにかかる時間が減少することが望ましい。したがって、自動
化PCRに基づくポイント・オブ・ケア分子診断系、特に、迅速マルチプレックス化(RT-)PCRアッセイに関する必要性がある。
【0005】
発明の概要
[0005]迅速でそして頑強なPCR法およびRT-PCR法であって、数時間でなく数分間で、
完全なPCR反応の遂行を可能にして、リンパ節の組織病理学的検査などの典型的な病理学
的方法に勝る代替法として、またはこうした病理学的方法に加えて、手術中診断法、例えば、限定するわけではないが、前哨(sentinel)リンパ節における微小転移を検出するための手術中診断法、におけるPCRの使用を可能にする、前記PCR法およびRT-PCR法を提供す
る。
【0006】
[0006]マルチプレックスPCR反応、特に定量的PCR増幅のバランスをとる方法としての、プライマー制限の代替法もまた提供し、これはQRT-PCR反応に特に有用である。この方
法は、同一反応混合物において、増幅しようとする1つの標的配列が、増幅しようとする
別の標的配列よりはるかにより少数である場合、特に用途を見出す。該方法は、第一の増幅段階および第二の増幅段階において、PCR反応混合物中のDNA試料に対して、PCR増幅を
行う工程を含む。第二の増幅段階のPCR増幅は、第一の増幅段階のPCR増幅と異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン(amplicon)産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率を変調する。さらなる増幅段階を付加することが可能である。
【0007】
[0007]この方法の2つの限定されない特定の態様を開示する。第一の態様において、
第二の増幅段階開始時に、第二のプライマーセットを反応混合物に添加し、それによって第一の段階中の第二のプライマーセットの物理的存在を制限する。好ましくは、この方法では、β-gusまたは18S rRNA配列などの、典型的には対照である、よりまれでない配列よりも前に、よりまれな標的配列を増幅する。
【0008】
[0008]第二の態様において、PCR反応混合物には、第一の有効なTmを有する第一のプ
ライマーセット、および第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のプライマーセットが含まれる。第一の増幅段階のアニーリング工程を、第二の増幅段階のアニーリング工程と異なる温度で行うことによって、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率を変調する。この第二の態様において、第二の増幅段階のアニーリング温度は、第一の増幅段階のアニーリング温度より高くてもまたは低くてもよい。
【0009】
[0009]RT-PCR法の逆転写反応を、約10分間より長く行う必要がなく、そして好ましくは、約2分間行う必要しかないという発見に基づく、迅速RT-PCR法もまた、提供する。こ
の迅速工程は、RT反応と同一反応容器中で、RT反応に連続して行う迅速PCR法と組み合わ
せると、特に、全プロセスが自動化されている場合、RT-PCR反応の手術中使用を可能にする。
【0010】
[0010]上述のPCRプロセスおよびRT-PCRプロセスは各々、例えばTAQMANおよび分子ビ
ーコンプローブの使用により、蛍光レポーターの集積または喪失によって、典型的にはPCR増幅中に監視する、QPCRおよびQRT-PCRなどの定量的PCR法におけるその使用に、特に有
用性を見出す。
【0011】
[0011]上述の方法は、カートリッジに基づく系で自動化して、それによって、方法における人為的な誤りと共に、汚染の可能性を減少させることが可能である。自動化した系において、プログラムした順序にしたがって、多様な反応のための試薬を連続して添加する。記載する方法を行うため、自動化した系で使用するためのカートリッジもまた提供する。
【0012】
[0012]本明細書に記載する迅速PCR法に関する特定の用途もまた提供する。1つの態様において:手術中に、患者から組織試料を得て;上述のPCR法の1つにしたがって、試料を解析し;指標転写物発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定し;そして解析工程の結果によって指示される方式で、手術を続ける;工程を含む、手術中PCR診断法を提供す
る。別の態様において:腫瘍生検から核酸を得て;上述のPCR法の1つにしたがって、核酸に対して、指標転写物に特異的なPCR法を行って;そして指標転写物発現が閾値レベルを
超えているかどうかを決定し、それが悪性腫瘍の指標となる;工程を含む、悪性腫瘍を迅速に検出する方法を提供する。
【0013】
[0013]さらなる態様において、食道の転移化腺癌を迅速に検出する方法を提供する。該方法は、前哨リンパ節からRNAを得て;上述のPCR法のいずれか1つにしたがって、RNAに対して、CEAに特異的な定量的RT-PCR法を行って;そしてCEA発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する工程を含む。
【0014】
[0014]最後に、CEAおよびチロシナーゼ遺伝子と共に、β-gusおよび18S rRNA配列に
特異的な配列の検出に有用な、特異的新規オリゴヌクレオチドプライマーもまた、提供する。
【0015】
詳細な説明
[0033]特に、QRT-PCRを含む定量的PCR法に関する、迅速なサイクリングおよび/またはPCRに基づく分子診断の感度改善を可能にする、改善PCR法を提供する。これらの改善法は、手術中にPCRを使用することを可能にし、そしてまた、まれな核酸種を検出するのに
も有用であり、より優勢な対照核酸を同時に検出するマルチプレックス化PCR反応におい
てさえ有用である。
【0016】
[0034]典型的なPCR反応には、標的核酸種を選択的に増幅する、複数増幅工程、また
はサイクルが含まれる。PCRプロセス、並びに定量的PCR(QPCR)、リアルタイムQPCR、逆転写PCR(RT-PCR)および定量的逆転写PCR(QRT-PCR)などのその一般的な変形の完全な
説明は、本開示の範囲を超えており、そしてこれらの方法は当該技術分野でよく記載され、そして広く商品化されている。典型的なPCR反応は3つの工程:標的核酸を変性する変性工程;PCRプライマーセット(フォワードおよびリバースプライマー)が相補DNA鎖にアニーリングするアニーリング工程;および熱安定性DNAポリメラーゼがプライマーを伸長す
る伸長工程を含む。この工程を複数回繰り返すことによって、DNA断片が増幅されて、標
的DNA配列に対応するアンプリコンが生じる。典型的なPCR反応には、変性、アニーリングおよび伸長の30以上のサイクルが含まれる。多くの場合、アニーリングおよび伸長工程は同時に行うことが可能であり、その場合、サイクルは二工程しか含有しない。
【0017】
[0035]変性、アニーリングおよび伸長段階の長さは、時間的にいかなる所望の長さであることも可能である。しかし、PCR増幅反応を手術中診断に適した時間に短縮する試み
の中で、これらの工程の長さは、分の範囲でなく、秒の範囲であることが可能であると見出されてきた。具体的には、秒あたり少なくとも約5℃の熱傾斜速度(δT)を生成可能な、特定の新規サーマルサイクラーを用いると、20分間のPCR増幅が可能である。本明細書
において、PCRサイクルの各工程に規定する時間は、傾斜時間を含まない。変性工程は、1秒間以下の時間で行うことが可能である。実際、いくつかのサーマルサイクラーは、変性工程の最適期間である可能性がある「0秒」の設定を持たない。すなわち、サーマルサイ
クラーが変性温度に達するだけで十分である。アニーリング工程および伸長工程は、所望により、各々10秒間未満であり、そして同一温度で行う場合、アニーリング/伸長工程の組み合わせは、10秒間未満であることが可能である。
【0018】
[0036]プライマーの最適濃度はアッセイ間で幾分多様であろうが、本明細書に記載するように、実質的に増加したプライマー濃度、典型的には約400 nMより高く、そしてしばしば約800 nMより高い濃度を用いることによって、アンプリコン産生の実質的な悪化を伴わずに、各サイクルをかなり短くすることが可能である。高感度逆転写酵素(本明細書記載)の使用、および/または最初の標的PCRテンプレートを生じる、高濃度の逆転写酵素
プライマーの使用によって、RT-PCRアッセイの感度を増進することが可能である。
【0019】
[0037]既定のPCR反応いずれかの特異性は、プライマーセットの同一性に非常に依存
するが、排他的に依存するわけではない。プライマーセットは、標的DNA配列にアニーリ
ングして、標的配列の増幅を可能にし、それによって標的配列特異的アンプリコンを生じる、フォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマー対である。本明細書において、明記するオリゴヌクレオチドの「誘導体」は、明記するオリゴヌクレオチドおよび誘導体間の相違以外は、明記するオリゴヌクレオチドと同一の標的配列に結合し、そして明記するオリゴヌクレオチドと同一の標的配列を増幅して、明記するオリゴヌクレオチドと本質的に同一のアンプリコンを生じる、オリゴヌクレオチドである。誘導体は、明記する配列と同一の目的でのその使用において、明記する配列の特性を実質的に保持する限り、明記する配列の残基いずれかの挿入、欠失および/または置換によって、明記するオリゴヌクレオチドと異なる可能性がある。
【0020】
[0038]本明細書において、逆転写反応混合物およびPCR反応混合物などの酵素反応混
合物いずれかの「試薬」は、酵素(類)、ヌクレオチドまたはその類似体、プライマーおよびプライマーセット、緩衝剤、塩および補助因子を含む(これらには限定されない)、反応混合物に添加する化合物または組成物いずれかである。本明細書において、別に示さない限り、「反応混合物」には、こうした化合物または組成物が明白に示されない場合であっても、その酵素反応を行うのに必要な、すべての必要な化合物および/または組成物が含まれる。
【0021】
[0039]マルチプレックス化PCRアッセイは、プライマー濃度を操作することによって
ではなく、アンプリコンの産生を時間的にシフトすることによって、最適化するか、またはバランスをとることが可能である。これは、各段階に関して、異なるアニーリングおよび/または伸長温度で各々、異なるTmを有するプライマーセットを2つ用いて、それによ
り、二段階PCRアッセイを実行して、他方より一方のアンプリコンの産生を有利にするこ
とが可能であるようにする、ことによって達成可能である。この時間および温度シフト法は、プライマー濃度操作を用いて反応のバランスをとる場合に直面する困難を伴わずに、マルチプレックス反応のバランスを最適にとるのを可能にする。この技術は、以下に示すCEA/β-GUSの例などの、対照cDNAと共に、まれなcDNAを増幅するのが所望される、マル
チプレックス反応において、特に有用である。
【0022】
[0040]RNA分子集団(例えば、そして限定的なものではないが、総RNAまたはmRNA)において、低存在量のRNA種を迅速にそして正確に検出するための定量的逆転写酵素ポリメ
ラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)法であって:a)RNA試料を逆転写酵素および高濃度の標的配
列特異的逆転写酵素プライマーと、cDNAを生成するのに適した条件下でインキュベーションして;b)続いて、該cDNAに特異的な高濃度のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーセット、および熱安定性DNAポリメラーゼを含む、逆転写反応のための適切なPCR試薬を、逆転写酵素反応に添加して、そしてc)所望のサイクル数で、そして適切な条件下、PCR反応をサイクリングして、cDNAに特異的なPCR産物(「アンプリコン」)を生成する工程を
含む、前記方法を提供する。逆転写酵素反応およびPCR反応を時間的に分離することによ
って、そして転写酵素最適化プライマーおよびPCR最適化プライマーを用いることによっ
て、優れた特異性が得られる。反応は単一試験管(反応を行う試験管、容器、バイアル、細胞等はすべて、本明細書において、時々、総称的に「反応容器」と呼ぶ可能性がある)で行って、二試験管反応で典型的に見られる汚染の供給源を除去する。高濃度プライマーは、非常に迅速なQRT-PCR反応を可能にし、これは典型的には、逆転写酵素反応の開始時
から40サイクルのPCR反応の終了時まで、およそ20分間程度である。こうした迅速QRT-PCR実験の実現は、秒あたり少なくとも約5℃の熱傾斜速度(δT)を生じることが可能なサーマルサイクリング装置の入手可能性によって補助される。
【0023】
[0041]反応c)は、PCR反応が進行するため、優れた、または最適でさえある条件を生
じるのに十分な試薬を、逆転写酵素(RT)反応に添加することによって、逆転写酵素反応と同一の試験管中で、実行可能である。単一試験管に、逆転写酵素反応の実行前に:1)
逆転写酵素反応混合物、および2)逆転写酵素反応が完了した後、cDNA混合物と混合され
るはずのPCR反応混合物を装填することが可能である。逆転写酵素反応混合物およびPCR反応混合物は、逆転写酵素反応のインキュベーション温度より高いが、PCR反応の変性温度
より低い温度で融解する組成物の固形、または半固形(無定形、ガラス状物質およびワックス状物質を含む)バリアによって、物理的に分離することが可能である。バリア組成物は、疎水性であることが可能であり、そして液体型では、RTおよびPCR反応混合物と第二
の相を形成する。こうしたバリア組成物の一例は、カリフォルニア州フォスターシティーのApplied Biosystemsから商業的に入手可能なAMPLIWAX PCR GEM製品、およびカリフォルニア州ラホヤのStratageneから商業的に入手可能なSTRATASPHEREマグネシウムワックスビーズなどの、PCR反応に一般的に用いられるワックスビーズである。
【0024】
[0042]あるいは、逆転写酵素反応およびPCR反応の分離は、PCRプライマーセットおよび熱安定性DNAポリメラーゼを含むPCR試薬を、逆転写酵素反応が完了した後に添加することによって達成可能である。好ましくは、ロボット手段または流体手段によってPCR試薬
を機械的に添加して、試料汚染の可能性をより低くし、そして人為的誤りを排除する。
【0025】
[0043]QRT-PCRプロセスの産物を既定のレポーター遺伝子と比較する場合、固定数のPCRサイクル後に比較して、RNA種の相対量を決定することが可能である。QRT-PCRプロセス産物の相対量を比較する1つの方法は、ゲル電気泳動により、例えばゲル上に試料を泳動
して、そしてサザンブロッティングおよびそれに続く標識プローブでの検出、エチジウムブロマイドでの染色、並びにアンプリコン中の蛍光または放射性タグの取り込みを含む(しかしこれらには限定されない)、いくつかの既知の方法の1つによって、これらの試料
を検出することによる。
【0026】
[0044]しかし、PCR反応の進行は、典型的には、各PCRプライマーセットのアンプリコン産生の相対率を解析することによって監視する。アンプリコン産生の監視は、蛍光プライマー、蛍光生成プローブおよび二本鎖DNAに結合する蛍光色素を含む(しかしこれらに
は限定されない)、いくつかの方法によって、達成可能である。一般的な方法は、蛍光5'ヌクレアーゼアッセイである。この方法は、特定の熱安定性DNAポリメラーゼ(TaqまたはTfl DNAポリメラーゼなど)の5'ヌクレアーゼ活性を活用して、PCRプロセス中、オリゴマープローブを切断する。伸長条件下で、増幅した標的配列にアニーリングするオリゴマーを選択する。該プローブは、典型的には、5'端に蛍光レポーターを有し、そして3'端にレポーターの蛍光消光剤を有する。オリゴマーが無傷である限り、レポーターからの蛍光シグナルは消光される。しかし、オリゴマーが伸長プロセス中に消化されると、蛍光レポーターは、もはや消光剤に近接していない。既定のアンプリコンの遊離蛍光レポーターの相対的な蓄積を、対照試料の同一アンプリコンの蓄積に、および/または、β-gus、β-ア
クチンまたは18S rRNAなどの(しかしこれらのものには限定されない)対照遺伝子のアンプリコンの蓄積に比較して、RNA集団における既定のRNAの既定のcDNA産物の相対的存在量を決定することができる。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイの産物および試薬は、例えばApplied Biosystemsから、容易に、商業的に入手可能である。
【0027】
[0045]蛍光5'ヌクレアーゼアッセイおよび他のQPCR/QRT-PCR法にしたがって、PCRおよびQRT-PCRにおけるアンプリコン蓄積を制御し、そして監視するための装置およびソフ
トウェアもまた、容易に入手可能であり、これらには、カリフォルニア州サニーベールのCepheidから商業的に入手可能なSmart Cycler、Applied Biosystemsから商業的に入手可
能なABI Prism 7700配列検出系(TaqMan)が含まれる。カートリッジに基づく試料調製プロトタイプ系(GenXpert)は、サーマルサイクラーおよび蛍光検出装置を組み合わせて、自動的に、組織試料から特定の核酸を抽出し、そして該核酸に対してQPCRまたはQRT-PCR
を行うことが可能な、流体回路およびプロセシング要素を備えた、Smart Cycler製品の機能を有する。系は、使い捨てカートリッジを用い、カートリッジは、非常に多様な試薬を含むように形成し、そしてこうした試薬をあらかじめカートリッジに装填することが可能である。こうした系は、組織を破壊して、そして試料から総RNAまたはmRNAを抽出するよ
う形成することが可能である。逆転写酵素反応構成要素をRNAに自動的に添加することが
可能であり、そして逆転写酵素反応が完了した際、QPCR反応構成要素を自動的に添加することが可能である。
【0028】
[0046]さらに、PCR反応は、反応からの特定の蛍光色素の産生(または喪失)を監視
することが可能である。蛍光色素レベルが所望のレベルに達したら(または所望のレベルに低下したら)、自動化した系は、PCR条件を自動的に改変するであろう。1つの限定的ではない例において、これは、上述のマルチプレックス化態様であって、第二のより高いTmのプライマーセットによって増幅されるより豊富でない種よりも低い温度で、第一のより低いTmのプライマーセットによってより豊富な(対照)標的種が増幅される場合に、特に有用である。PCR増幅の第一の段階では、サイクリング反応のアニーリング工程は、より
豊富な標的種の増幅を可能にする温度で行う。その後、アニーリング温度は、自動的に上昇して、より豊富な標的種の増幅を本質的に停止する。
【0029】
[0047]上述の反応において、特定の逆転写酵素反応構成要素およびPCR反応構成要素
の量は、典型的には、いくつかのサーマルサイクラーのより速い傾斜時間を利用するため、非定型性である。具体的には、プライマー濃度は非常に高い。逆転写酵素反応の典型的な遺伝子特異的プライマー濃度は、約20 nM未満である。迅速な逆転写酵素反応を1〜2分
間程度で達成するため、逆転写酵素プライマー濃度を20 nMより高く、好ましくは少なく
とも約50 nM、そして典型的には約100 nMに上昇させた。標準的PCRプライマー濃度は、100 nM〜300 nMの範囲である。標準的PCR反応で、より高い濃度を用いて、Tmのばらつきを
補填することが可能である。しかし、言及されるプライマー濃度は、本明細書の目的のため、Tm補填が必要でない状況用のものである。Tm補填が必要であるか、または所望である場合に、プライマーの比例的により高い濃度を実験的に決定して、そして使用することが可能である。迅速PCR反応を達成するため、PCRプライマー濃度は、典型的には200 nMより高く、好ましくは約500 nMより高く、そして典型的には約800 nMである。典型的には、PCRプライマーに対する逆転写酵素プライマーの比は、約1対8またはそれ以上である。プラ
イマー濃度を増加させると、以下の実施例2に記載するように、40サイクルのPCR実験を20分間未満で行うことが可能になった。
【0030】
[0048]少量のRNAが存在するか、または標的RNAが低存在量RNAであるかいずれかの、
特定の状況では、高感度逆転写酵素が好ましい可能性がある。用語「高感度逆転写酵素」によって、PCRテンプレートとして使用する低コピー数転写物から、適切なPCRテンプレートを産生可能な逆転写酵素を意味する。高感度逆転写酵素の感度は、酵素の物理的性質に、または増進した感度を生じる、逆転写酵素反応混合物の特定の反応条件に、由来する可能性がある。高感度逆転写酵素の1つの例は、カリフォルニア州バレンシアのQiagen, Inc.から商業的に入手可能なSensiScript RT逆転写酵素である。この逆転写酵素は、<50 ngのRNA試料からのcDNAの産生に関して最適化されているが、低コピー数転写物からPCRテンプレートを産生する能力もまた有する。実際のところ、本明細書に記載するアッセイにおいて、約400 ng RNAまでの試料に関して、そしてそれを超える試料に関してさえ、適切な結果を得た。低コピー数転写物を逆転写する、実質的に同様の能力を有する他の高感度逆転写酵素は、本明細書に記載する目的のためには同等の高感度逆転写酵素であろう。上記にもかかわらず、高感度逆転写酵素が少量のRNAからcDNAを産生する能力は、酵素または
酵素反応系が、低コピー数配列からPCRテンプレートを産生する能力に派生するものであ
る。
【0031】
[0049]上に論じるように、本明細書に記載する方法はまた、マルチプレックスQRT-PCRプロセスでも使用可能である。最も広い意味で、マルチプレックスPCRプロセスは、同一反応容器における2以上のアンプリコンの産生を伴う。マルチプレックスアンプリコンは
、ゲル電気泳動、並びに限定的ではなく、エチジウムブロマイド染色、サザンブロッティングおよびプローブへのハイブリダイゼーションなどの多様な方法の1つによる、アンプ
リコンの検出によって、あるいはアンプリコンに蛍光または放射性部分を取り込み、そして続いて、ゲル上の産物を視覚化することによって、解析可能である。しかし、2以上の
アンプリコン産生のリアルタイムでの監視が好ましい。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイは、最も一般的な監視法である。同一試験管中の2以上の蛍光レポーター蓄積のリアルタイム
監視を可能にする装置が、現在入手可能である(例えば、上述のSmart CyclerおよびTaqMan製品)。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイのマルチプレックス監視のため、検出しようとする各アンプリコン種に対応するオリゴマーを提供する。各アンプリコン種のオリゴマープローブは、他のアンプリコン種各々のオリゴマープローブ(類)と異なるピーク発光波長を持つ蛍光レポーターを有する。消光されていない蛍光レポーター各々の蓄積を監視して、各アンプリコンに対応する標的配列の相対量を決定可能である。
【0032】
[0050]伝統的なマルチプレックスQPCR法およびQRT-PCR法において、同様のアニーリ
ングおよび伸長動力学、並びに同様のサイズのアンプリコンを有するPCRプライマーセッ
トを選択するのが望ましい。適切なPCRプライマーセットの設計および選択は、当業者に
公知のプロセスである。最適PCRプライマーセット、およびそのそれぞれの比を同定して
、バランスがとれたマルチプレックス反応を達成するプロセス(プライマー制限、すなわちマルチプレックスPCR実験において、より豊富なRNA種のPCRプライマーの存在量を制限
して、より豊富でない種の検出を可能にすること)もまた知られる。「バランスがとれた」によって、特定のアンプリコン(類)が、dNTP類または酵素などの供給源に関して、他のアンプリコン(類)との競合に勝たないことを意味する。すべてのPCRプライマーセッ
トのTm(融点)を等しくすることもまた、奨励される。例えば、ABI PRISM 7700配列検出系User Bulletin #5、“Multiplex PCR with TaqMan VIC Probes”、Applied Biosystems(1998/2001)を参照されたい。
【0033】
[0051]上記にもかかわらず、非常に低コピー数である転写物に関しては、より豊富な対照種のPCRプライマーセットを制限することによってさえも、正確なマルチプレックスPCR実験を設計することは困難である。この問題の1つの解決法は、より豊富な種のPCR反応用とは別個の試験管で、低存在量RNAのPCR反応を行うことである。しかしこの戦略は、マルチプレックスPCR実験を行う利点を利用しない。二試験管プロセスは、コスト、実験の
誤りの余地をより多くすること、およびPCRアッセイには危機的な、試料汚染の機会が増
加することを含む、いくつかの欠点を有する。
【0034】
[0052]したがって、1以上のより高いコピー数の種と共に、低コピー数核酸種を検出
可能な、QRT-PCRおよびQPCRを含む、マルチプレックスPCRプロセスを行うための方法を提供する。低コピー数および高コピー数核酸種間の相違は相対的であるが、本明細書において、少なくとも約30倍、しかしより典型的には、少なくとも約100倍の低(より低い)コ
ピー数種および高(より高い)コピー数種の出現率の相違を指す。本明細書の目的のため、増幅される2つの核酸種の相対出現率(prevalence)は、既定の核酸試料における他の
核酸種との関係で、2つの核酸種の相対出現率より突出しており、これは、核酸試料にお
ける他の核酸種が、PCR供給源に関して、増幅される種と、直接には競合しないためであ
る。
【0035】
[0053]本明細書において、既定の核酸試料における、いかなる既定の核酸種の出現率も、試験前には未知である。したがって、核酸試料における既定の核酸種の「予期される」コピー数をしばしば本明細書で用い、そしてこれは核酸試料におけるその種の出現率に
関する従来のデータに基づく。核酸種のいかなる既定の対に関しても、試料中の2種の相
対出現率の先の決定に基づいて、各種の出現率が、ある範囲内に属すると予期されるであろう。これらの範囲を決定することによって、各種の標的配列の予期される数の倍相違が決定されるであろう。
【0036】
[0054]マルチプレックスPCR法は、2(またはそれより多い)段階のPCR増幅を行って
、それぞれの増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率の変調を可能にすることを伴う。第二の増幅段階のPCR増幅は、第一の増幅段階とは異なる反応条件下(「異なる
反応条件」には、限定的ではないが、アニーリング工程など、PCRサイクル中の工程の異
なる温度、またはプライマーおよび/またはプライマー濃度の相違など、PCR反応混合物
中の試薬の相違が含まれる)で行う。この方法によって、より低い存在量の核酸種に向けられるアンプリコンを生じるPCR増幅は、より高い存在量の核酸種に向けられる、アンプ
リコンを生じるPCR増幅と、効果的に「バランスをとる」。反応を2以上の時間的段階に分離することは、第一の増幅段階で産生されるべきでない、いかなるアンプリコンのPCRプ
ライマーセットも省くことによって、達成可能である。その後、第二の増幅段階の開始時に、省いたPCRプライマーセットをPCR反応混合物に添加することが可能である。これは、上述のGenXpertプロトタイプ系などの自動化プロセスの使用を通じて、最適に達成される。2以上の別個の増幅段階を用いて、各プライマーセット濃度の調整と共に、または該調
整を排除して、マルチプレックスアッセイを調整し、そしてバランスをとることが可能である。
【0037】
[0055]PCR増幅プロセスを2以上の段階に時間的に分離する第二の方法は、それぞれのTmにばらつきを持つPCRプライマー対を選択することである。こうした方法の2つの例を、以下の実施例3および6に提供する。1つの実施例において、より低いコピー数の核酸種の
プライマーは、より高い存在量の種のプライマーのTm(Tm2)より高いTm(Tm1)を有するであろう。このプロセスでは、PCR増幅の第一の段階は、あらかじめ決定したサイクル数
で、より高い存在量の種の増幅が実質的にまったくない、十分に高い温度で行う。第一の段階の増幅後、PCR反応のアニーリングおよび伸長工程を、より低い温度、典型的にはお
よそTm2で行って、より低い存在量のアンプリマー(amplimer)およびより高い存在量の
アンプリマー両方が増幅されるようにする。本明細書において使用する場合、そして別に言及しない限り、Tmは、既定の反応混合物中の既定のプライマーいずれかのTmであり、限定的ではなく、反応混合物におけるプライマーの核酸配列およびプライマー濃度を含む要因に応じる、「有効Tm」を指す。
【0038】
[0056]PCR増幅が動的なプロセスであることに注目すべきである。限定的ではなく、
マルチプレックスPCR反応において、それぞれのPCR反応を変調する温度を用いる場合、より高い温度のアニーリング段階は、反応が、より高いTmプライマーセットによるアンプリコン産生に有利に働く限り、典型的には、より低いTmのすぐ上から、より高いTmのすぐ上までの範囲の、いかなる温度で行うことも可能である。同様に、限定的ではなく、より低い温度の反応のアニーリングは、典型的には、より低いTmのプライマーセットによる、十分な増幅効率を可能にするであろう、低温プライマーセットのより高いTm未満のいかなる温度であってもよい。
【0039】
[0057]上に提供する例において、より高い温度段階では、低存在量RNAのアンプリコ
ンは、より高い存在量のRNAのアンプリコンよりも速い速度で(そして好ましくは、第二
のアンプリコン産生が実質的に排除されるまで)、増幅し、すべてのアンプリコンの増幅が実質的にバランスがとれた方式で進行するのが所望される第二の増幅段階の前に、より高い存在量のRNAの増幅が、より低い存在量のRNAのアンプリコンの増幅に干渉しないよう、より低い存在量のRNAのアンプリコンが十分に豊富であるようにする。増幅の第一の段
階において、低存在量核酸のアンプリコンを優先的に増幅する場合、アニーリングおよび伸長工程をより高いTmより上で行って、効率よりも特異性を得ることが可能である(増幅の第二の段階中は、比較的多数の低存在量核酸のアンプリコンがあるため、選択性はもはや重要な問題ではなく、そしてアンプリコン産生の効率が好ましい)。したがって、多くの例では好ましいが、温度変動は、別のものを超える1つの増幅反応の完全な停止を必ず
しも生じない可能性があることに注目すべきである。
【0040】
[0058]別の態様において、第一のTmを持つ第一のプライマーセットは、より豊富なテンプレート配列(例えば対照テンプレート配列)を標的とすることが可能であり、そしてより高いTmを持つ第二のプライマーセットは、より豊富でないテンプレート配列を標的とすることが可能である。この場合、より豊富なテンプレートおよびより豊富でないテンプレートは、どちらも、第一の段階において、より低いTmのプライマーセットでの十分な増幅を可能にするのに十分な温度で、典型的には第一のより低いTmのプライマーセットのTm以上で、増幅可能である。より豊富なテンプレートに対応するアンプリコンが閾値量に達したら、反応のアニーリングおよび/または伸長温度を上昇させて、より豊富なテンプレートの増幅を、効率的に停止する。
【0041】
[0059]3以上の異なるTm(例えば、Tm1>Tm2>Tm3)を有するPCRプライマーセットの3以上のセットの選択を用いて、Tmの相違が、所望のサイクル数に関して、所望の配列の優先的な増幅を可能にして、所望でない配列を実質的に排除するのに十分に大きい限り、段階的方式で、多様な存在量の配列を増幅することが可能である。1つのプロセスにおいて
、第一の段階で、あらかじめ決定したサイクル数、最低存在量の配列を増幅する。次に、第二の段階で、あらかじめ決定したサイクル数、最低存在量の配列およびより少ない存在量の配列を増幅する。最後に、第三の段階で、すべての配列を増幅する。上述の二段階反応のように、各段階のアニーリング温度は、マルチプレックス反応の各単一増幅反応の相対的効率に応じて、多様である可能性がある。2以上のアンプリマーが、実質的に同一のTmを有して、増幅プロセスのいかなる段階でも、同様の存在量の1より多い種の増幅を可能にする可能性があることを認識すべきである。二段階反応のように、三段階反応もまた、最低アニーリング温度での最大存在量の核酸種の増幅から、最高アニーリング温度での最低存在量の種の増幅まで、段階的に進行可能である。
【0042】
[0060]Tmを一致させて、そして1以上のPCRプライマーセットの量の制限を用いる以外に、この連続増幅法によって、マルチプレックスPCR反応の「バランスをとる」、さらな
るツールを提供する。異なるアンプリコンを連続して増幅する方法として、異なるTmを持つPCRプライマーセットを利用することは、特定の状況では、さらなるプライマーセット
を連続して添加するより好ましい可能性がある。しかし、マルチプレックスPCR反応の温
度依存配列決定を、単一反応混合物に対してプライマーセットを連続的に物理的に添加することと組み合わせて使用することが可能である。
【0043】
[0061]陰性結果に関して、特定の増幅反応の操作を確認する、内部陽性対照もまた、提供する。内部陽性対照(IPC)は、標的遺伝子(CEAまたはチロシナーゼ)と同一のプライマー配列を有するが、異なる内部プローブ配列を有する、DNAオリゴヌクレオチドであ
る。所望により、IPCの選択した部位を、チミンの代わりにウラシルを用いて合成するこ
とが可能であり、それにより必要な場合、ウラシルDNAグリコシラーゼを用いて、非常に
濃縮された擬似体の混入を制御することが可能であった。PCR反応マスターミックスいず
れかに、プライマーセットの内因性標的のCt値より典型的には高いCt値を生じると実験的に決定された量でIPCを添加することも可能である。その後、標準的プロトコルにしたが
ってPCRアッセイを行い、そしてプライマーセットの内因性標的がない場合であってもIPCが増幅され、それによって標的内因性DNA増幅の失敗が、マスターミックス中のPCR試薬の失敗でないことが確認されるであろう。本態様において、IPCプローブは、内因性配列の
プローブと異なる蛍光を発する。RT-PCR反応で使用するためのこの変形は、IPCがRNAであり、そしてRNAがRTプライマー配列を含むものである。本態様において、IPCは、RT反応およびPCR反応両方の機能を検証する。RNA IPCおよびDNA IPC(異なる対応プローブを持つ
)両方を使用して、RT反応およびPCR反応の難易度を区別することもまた、可能である。
【0044】
[0062]本明細書に記載する方法は、一般的に、定量的PCR法およびRT-PCR法に適用可
能である。本明細書および付随する原稿に記載するのは、癌胎児抗原(CEA)の検出およ
び食道腺癌の予後のための方法である。本明細書に記載する方法は、多様な他の腫瘍種における、潜在性微小転移を含む、他の微小転移の同定に、等しく適用可能な方法である。本明細書に記載する迅速プロトコルは、約20分間で実行可能である。この時間の短さが手術中にアッセイを行うことを可能にして、第二の手術を必要とすることなく、あるいは外科医が不必要な処置または過剰な広い予防処置を行うことが必要とすることなく、単一の手術中に、外科医が手術方針を決定可能になる。例えば、乳癌および黒色腫を含む、特定の癌の外科的評価では、第一の手術中に、前哨リンパ節を除去する。その後、前哨節を微小転移に関して評価して、そして患者の前哨リンパ節に微小転移が検出された場合は、患者には第二の手術が必要であり、これによって、患者の外科的リスクおよび多数回の手術に関連する患者の不快感が増すであろう。肺癌または食道癌の場合は、リンパ節の手術中解析を用いて、必要な切除の度合いおよび/または術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy)の必要性を決定することが可能である。限定的ではないが、CEA、MUC-1、CK-19、チロシナーゼおよびMART-1などの特定の腫瘍特異的マーカーの発現レベルを、正確さ
を増して、30分間未満で決定する能力があれば、医師は、どのように進行するか、直ちに決定することが可能である。迅速試験はまた、医師の診療室で採取する針生検にも適用可能である。患者は生検(腫瘍またはリンパ節針生検など)の結果を得るのに何日も待つ必要がなく、いまや、非常に短時間で、より正確な結果を得ることが可能である。本明細書に記載する方法は、限定的ではないが、正常であろうと、または異常であろうと、発現される多様なRNA、DNA再編成、あるいはさらなるまたは異常な核酸、例えばウイルス核酸の存在を検出するのに適用可能である。
【0045】
[0063]マルチプレックス化および非マルチプレックス化QRT-PCRおよび/またはQPCR
のための上述の方法の商業化において、特定の核酸の検出用の特定のキットは、特に有用であろう。こうしたキットの一例には、上述の一試験管QRT-PCRプロセスに必要な試薬が
含まれるであろう。1つの例において、キットには、逆転写酵素、逆転写酵素プライマー
、対応するPCRプライマーセット、Taqポリメラーゼなどの熱安定性DNAポリメラーゼ、お
よび限定的ではないが、蛍光5'ヌクレアーゼアッセイ用プローブ、分子ビーコンプローブ、単一色素プライマーまたはエチジウムブロマイドなどの二本鎖DNAに特異的な蛍光色素
などの適切な蛍光レポーターを含む、上述の試薬が含まれるであろう。プライマーは、上述の高濃度を生じるであろう量で存在することが可能である。熱安定性DNAポリメラーゼ
は、多様な製造者から、一般的に、そして商業的に入手可能である。キットのさらなる材料には:適切な反応試験管またはバイアル、バリア組成物、典型的にはワックスビーズ、所望によりマグネシウムを含むもの;必要な緩衝剤およびdNTP類などの試薬を含む、逆転写酵素段階およびPCR段階用の反応混合物(典型的には10×);ヌクレアーゼ不含またはRNase不含水;RNase阻害剤;QRT-PCR反応の逆転写酵素段階および/またはPCR段階で使用
可能な、対照核酸(類)および/またはさらなる緩衝剤、化合物、補助因子、イオン性構成要素、タンパク質および酵素、ポリマー等のいずれかが含まれることが可能である。
【0046】
[0064]第二のキットは、上述のマルチプレックスPCR法に特異的である。キットには
、限定的ではないが、第一のTmを有する、低存在量核酸用の第一のPCRプライマーセット
、および第二のTmを有する、より豊富な核酸用の第二のPCRプライマーセットが含まれる
ことが可能である。プライマーセットの相対的Tmは、本明細書に記載する方法にしたがって、マルチプレックスPCR反応のバランスをとる能力に関して選択する。QRT-PCR用のキッ
トにおいて、キットにはまた:適切な逆転写酵素いずれか、増幅しようとする核酸に特異的な逆転写酵素プライマー、ワックスビーズなどのバリア組成物、熱安定性DNAポリメラ
ーゼ、および/または、限定的ではないが、蛍光5'ヌクレアーゼアッセイ用プローブ、分子ビーコンプローブ、単一色素プライマー、またはエチジウムブロマイドなどの二本鎖DNAに特異的な蛍光色素などの適切な蛍光レポーターが含まれることが可能である。該キッ
トには、低存在量RNAの検出のため、高感度逆転写酵素が含まれることが可能である。上
述のように、キット中のさらなる材料には:適切な反応試験管またはバイアル、バリア、典型的にはワックスビーズ、所望によりマグネシウムを含むもの;必要な緩衝剤およびdNTP類などの試薬を含む、逆転写酵素段階およびPCR段階用の反応混合物(典型的には10×
);ヌクレアーゼ不含またはRNase不含水;RNase阻害剤;QRT-PCR反応の逆転写酵素段階
および/またはPCR段階で使用可能な、対照核酸(類)および/またはさらなる緩衝剤、
化合物、補助因子、イオン性構成要素、タンパク質および酵素、ポリマー等のいずれかが含まれることが可能である。
【0047】
[0065]上述のキットまたはカートリッジにはまた、組織試料から核酸を手動でまたは自動的に抽出するのに適した試薬および機械的構成要素もまた、含まれることが可能である。これらの試薬は当業者に知られ、そして典型的には、設計選択の問題である。例えば、自動化プロセスにおいて、キットまたはカートリッジ中に提供される、適切な溶解溶液中で、組織を超音波的に破壊することが可能である。その後、生じた溶解溶液をろ過して、そしてやはりキットまたはカートリッジ中に提供されるRNA結合性磁気ビーズにRNAを結合させることが可能である。ビーズ/RNAを洗浄し、そして逆転写酵素反応前に、RNAを溶出することが可能である。自動化核酸抽出の場合は、試薬およびそのパッケージング様式(例えば使い捨て単回使用カートリッジ)の選択は、典型的には、CepheidのGenXpertプ
ロトタイプ系などの、特定の抽出系のロボット工学的および流体工学的な物理的配置によって決定される。
【0048】
[0066]キットの構成要素は、共にまたは別個にパッケージングすることが可能であり、そして各構成要素は、適切なように、1以上の試験管またはバイアル中で、あるいはカ
ートリッジ型(自動化装置で使用するための1以上の試薬を含有するモジュール単位)で
提示することが可能である。構成要素は、限定的ではないが、適切なように、凍結乾燥、ガラス化(glassified)、水性または他の型を含む多様な状態で、独立に、または共に、パッケージングすることが可能である。
【0049】
[0067]図1は、上述の自動化法で使用するためのカートリッジ10の横断面概略図であ
る。カートリッジ10は、所望の試薬いずれかを使用のため保管することが可能な、区画20を含む。区画20は、壁25によって分離される。カートリッジ10は、共通の通路40に流体的に連結された、多数の通路30を含む。バルブ部材50を共通の通路40の内部に示す。バルブ部材50は、個々の区画20から共通の通路40への試薬の流れを制御する。共通の通路40は、反応容器(未提示)に流体的に連結され、この容器中に区画20から試薬を移す。区画20内に含有される試薬には、限定的ではないが、細胞溶解用、核酸精製用、逆転写用またはPCR反応用の試薬が含まれることが可能である。図1は、分子精製およびアッセイを自動化するのに有用なカートリッジ装置の多くの可能な置換(permutation)の1つを示す。カートリッジおよび区画は、実験的要因によると共に、設計者の好みによって決定されるように、いかなる所望の形状およびサイズを有することも可能である。流体連結およびバルブの選択および配置もまた、設計選択の問題であり、そして非常に異なる可能性がある。
【0050】
実施例
実施例1 一試験管QRT-PCR
[0068]リアルタイムの蛍光に基づく5'ヌクレアーゼPCR(Gibson, U.E., C.A. HeidおよびP.M. Williams. 1996. A novel method for real time quantitative RT-PCR. Genom
e Res. 6:995-1001;Heid, C.A., J. Stevens, K.J. LivakおよびP.M. Williams. 1996.
Real time quantitative PCR. Genome Res. 6:986-994)およびABI PRISMTM7700(TaqMan(登録商標))配列検出装置(Applied Biosystems、米国カリフォルニア州フォスターシティー)などの装置の導入によって、いまや、定量的RT-PCRは、遺伝子発現レベルを測定するのに、広く認められる方法である。定量的RT-PCRは高感度な技術であり、そして臨床的組織におけるなど、限定的な量の核酸しか含まない試料の解析には特に有用である(Collins, C., J.M. Rommens, D. Kowbel, T. Godrey, M. Tanner, S.I. Hwang, D. Polikoff, G. Nonet et al. 1998. Positional cloning of ZNF217 and NABC1: genes amplified at 20q13.2 and overexpressed in breast carcinoma. Proc. Natl. Acad. Sci. USA
95:8703-8708)。これらの少量のRNAおよび/または非常に低存在量のmRNA種を定量化
する場合、定量的RT-PCRから最大の感度を得ることが非常に重要である。しばしば、入れ子PCRを連続して複数ラウンド使用して、最大感度を得るが、これは、達成することが困
難であり、そしてなお正確な定量を維持することが困難である。さらに、多数ラウンドのPCRは、所望の感度レベルで作業する際に深刻な問題となる、汚染のリスクを増加させる
。一試験管RT-PCR(RT用にリバースPCRプライマーを用いる、同一試験管におけるRTおよ
びPCR)は、反応試験管が開けられないため、ABI PRISM 7700を用いた場合の汚染のリス
クを減少させる。
【0051】
[0069]理論的には、一試験管法は、二工程アプローチ(別個のRTにPCRが続く)と同
一の感度を有するはずであるが、実際はそうではない(Battaglia, M., P. Pedrazzoli, B. Palermo, A. Lanza, F. Bertolini, N. Gibelli, G.A. Da Prada, A. Zambelliら. 1998. Epithelial tumour cell detection and the unsolved problems of nested RT-PCR
: a new sensitive one step method without false positive results. Bone Marrow Transplant 22:693-698)。一試験管RT-PCRの感度は、RT工程が相対的に非特異性である
ことによって制限されることが見出されている。この非特異性は、RTが比較的低温で、そしてホットスタートなしに行われ、したがって所望のRT「リバース」プライマーおよびまた「フォワード」PCRプライマー両方による、非特異的プライミングを可能にするという
事実から生じる。投入RNA試料において、標的量が減少するにつれて、コールドスタートRTプロセス由来のプライミング人為産物は、所望の標的配列のPCR増幅と競合し、そして該増幅の有効性を減少させる可能性がある。したがって、一試験管法では、RNA投入量が減
少するにつれて、最終的に、非特異的副反応が所望の反応との競合に勝ち、そして特異的な産物がまったく生成されなくなる。二工程または入れ子RT-PCR法において、特異性は、ホットスタートPCRおよびRTプライマーより5'上流のプライマーセットの使用によって達
成可能である。しかし、反応試験管を開けて、新たなプライマーを添加することを望まない場合(したがって二工程法ではなく一試験管法にする場合)、これは一試験管法にはあてはまらない。外部RTプライマーを用いて、そしてRT工程中、RTプライマーおよびPCRプ
ライマーを分離しつづけることによって、一試験管RT-PCRにおけるPCR特異性、そしてし
たがって感度は、維持可能であると仮定されている。ここに、感度を非常に増加させ、そしてABI PRISM 7700上での定量的RT-PCRに使用可能な、修正一試験管RT-PCRアッセイを提示する。
【0052】
[0070]50μl体積中、β-グルクロニダーゼ(β-gus)mRNAに関して、以下の最終濃度で、標準的一試験管反応をセットアップした:10 nM β-gus RTプライマー(5'-TTTGGTTGT-CTCTGCCGAGT-3')(SEQ ID NO: 2)、100 nMの各β-gus PCRプライマー(GUS-F、5'-C-TCATTTGGAATTTTGCCGATT-3')(SEQ ID NO: 3);GUS-R(5'-CCGAGTGAAGATCCC-CTTTTTA-3')(SEQ ID NO: 4)、100 nM β-gusプローブ(5'-6-fam-TGAACAGTCACCGACG-AGAGTGCTGG-tamra-3')(SEQ ID NO: 5)、1×TaqMan反応緩衝液(Applied Biosystems)、5.5 mM MgCl2、各300μM dNTP、20 U RNase阻害剤、62.5 U SuperScript IITM逆転写酵素(Life Technologies、米国メリーランド州ロックビル)および1.25 U AmpliTaq Gold(登録商標)(Applied Biosystems)。
【0053】
[0071]修正法において、AmpliWax(登録商標)PCR gem 50(Applied Biosystems)の使用によって、RT反応混合物およびPCRプライマー間の物理的分離を達成した。まず、β-gus PCRプライマーを最終5.0μl体積で、PCRプレートにピペッティングした。PCR gem 50を1つ、各ウェルに入れ、ウェルにふたをし、そしてプレートを簡単に遠心分離して、ワ
ックスバリアの上部の試験管壁に試薬が付着するのを避けた。その後、プレートを80℃に2分間加熱し、そして4℃に冷却して、ワックスバリアを生じた。その後、45μlの上層を
各ウェルにピペッティングした。この混合物は、β-gus RT プライマー、RNA、RNase阻害剤およびSuperScript II逆転写酵素を含有した。両方の層は、上述の濃度で、残る反応構成要素(緩衝剤、ヌクレオチド、MgCl2)すべてを含有するように配合した。RT層中のAmpliTaq Goldの存在は、95℃に加熱するまで不活性であるため、重要ではない。
【0054】
[0072]すべての反応は、以下のサーモサイクラー条件で、ABI PRISM 7700上で行った:48℃で30分間維持、95℃で12分間維持、その後、95℃20秒間および60℃1分間の40サイ
クル。ワックス層は、48℃のRT工程では損なわれないままであったが、12分間95℃のAmpliTaq Gold活性化工程中に融解し、したがって、PCRが開始する前に、2つの層を混合可能
にした。データは、Applied Biosystemsの配列検出ソフトウェアで解析した。
【0055】
[0073]まず、TaqManアッセイにおける蛍光検出に対するワックス層の影響を評価して、ワックスによる蛍光消光の度合いを決定した。肺腺癌細胞株(A549)由来のランダムプライミングcDNAを用いて、ワックス層を伴う、および伴わない、β-gusに関するPCRを20
回繰り返して行った。結果は、独立標本t-検定によって比較した際、2つの群間で、全体
の蛍光に減少がなく(P=0.935)、そしてサイクル閾値レベルに変化がない(P=0.55)
ことを示した。
【0056】
[0074]ワックスを含む、そして含まない、一試験管RT-PCRの感度を比較するため、5 ngから10 pgの脾臓総RNA(Clontech Laboratories、米国カリフォルニア州パロアルト)
の連続希釈を用いた。ワックス層を伴わないRT-PCRの結果は、蛍光(ΔRn)が、5 ngのRNA投入量であってさえ弱く、そして希釈ごとに、75%の平均係数で、さらに減少すること
を示した(図2A)。結果として、200 pg試料が、検出閾値より下に属した。しかし、ワックス層を使用すると、ΔRnは、40 pg希釈まで、本質的に同じままであり、そして10 pgのときのみ、ΔRnに60%の低下があった(図2B)。したがって、この修正法は、感度を少なくとも20倍増加させた。RT-PCRの効率(E)(式E=10(1/-s)-1によって計算されるも
の、式中、「s」は希釈由来の標準曲線の傾斜である)(PE Applied Biosystems User Bulletin #2. 1997. Relative quantitation of gene expression. Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティー)もまた、ワックスの使用によって改善された(ワックスなしでは67%であり、そしてワックスありでは77%)。各反応の10μlアリコット
を10%非変性ポリアクリルアミドゲル上で泳動し、そしてエチジウムブロマイドで染色した(図3)。ワックス層を用いると、期待されるサイズに対応する81 bp産物は、10 pg RNA希釈以外のすべてで可視であった(エチジウムブロマイドに対するTaqMan検出の付加的
な感度を立証する)。しかし、ワックスを用いない反応では、どの反応も、81 bpの明ら
かなシグナルを生じなかった。その代わり、すべてのRNA濃度で、非特異的産物のスメア
があった。
【0057】
[0075]Sensiscript RT(登録商標)(Qiagen、米国カリフォルニア州バレンシア)を用いて、同じ実験を行った。この酵素を用いると、PCR産物は、ワックス層の使用を伴わ
なくても、40 pg希釈に低下するまでかろうじて検出可能であった。しかし、総蛍光は、
各連続希釈と共に低下しつづけた。ワックスを添加すると、ΔRnは一定のままであり、そして検出は、10 pgに低下するまで容易に達成された。特に、この一試験管反応の効率は
、ほぼ100%であった(上述の方法を用いて測定)。したがって、ABI PRISM 7700におけ
る5'蛍光生成アッセイの一試験管RT-PCRの感度は、AmpliWax PCR gem 50の使用によって
、有意に増進する。PCR gemは、元来、ホットスタートPCRを容易にするように設計されたが、これは、自動的ホットスタート用の新規酵素にはもはや必要でない。ここで、これらの同じAmpliWax PCR gemが、一工程定量的RT-PCRの背景で有益であることが示される。さらに、PCR試験管を開く必要を排除することによって、cDNAまたはPCR産物汚染の発生を最小限にした。最後に、PCRの保存は、所望の産物の増幅を特異的に促進し、そしてこうし
たものとして、非定量的終点アッセイにおいてさえ、適切である。
【0058】
実施例2 20分間未満での定量的RT-PCR
[0076]以下は、Cepheid社のSmart Cyclerを用いて、20分間未満で完了可能な、定量
的逆転写反応に続くポリメラーゼ連鎖反応の一試験管二工程アッセイ(QRT-PCR)である
。Applied Biosystem 7700における5'蛍光生成アッセイ用のQRT-PCRの現在の方法は、2時間より多くを必要とする。プライマーおよびプローブ濃度を改変し、そしてSmart Cyclerの迅速傾斜能を利用することによって、逆転写酵素反応時間を2分間に減少し、そして40
サイクルの1秒間変性および6秒間伸長を用いて、PCR時間を16分間に減少した。
【0059】
[0077]25μl体積中、β-グルクロニダーゼ(β-gus)および癌胎児抗原(CEA)cDNA
のそれぞれに関して、以下の最終濃度で、PCR反応を設計した:400 nMの各β-gus PCRプ
ライマー(GUS-F、5'-CTC ATT TGG AAT TTT GCC GAT T-3')(SEQ ID NO: 3);(GUS-R
、5'-CCG AGT GAA GAT CCC CTT TTT A-3')(SEQ ID NO: 4)またはCEAプライマー(CEA-F、5'-AGA CAA TCA CAG TCT CTG CGG A-3')(SEQ ID NO: 6);(CEA-R、5'-ATC CTT GTC CTC CAC GGG TT-3')(SEQ ID NO: 7)、200 nM β-gusプローブ(5'-6-fam-TGAACAGTCACCGACGAGAGTGCTGG-tamra-3')(SEQ ID NO: 5)または200 nM CEAプローブ(5'-6-fam-CAA GCC CTC CAT CTC CAG CAA CAA CT-tamra-3)(SEQ ID NO: 8)、1×白金Taq反応緩衝
液、4.5 mM MgCl2、各300μM dNTP、0.06 U/μl白金Taq DNAポリメラーゼ(GIBCO BRL)。
【0060】
[0078]MgCl2を1.5、2.5、3.5および4.5 mM濃度で用いて試験を行い、そして4.5 mMがこのアッセイには最適であると決定した。これらの反応のcDNAは、A549細胞株(GUS)由
来のRNAおよびCEA陽性であった新鮮リンパ節RNA由来のRNAの250 ng投入量を用いて、GUS
およびCEAに関して、遺伝子特異的逆転写酵素反応から生成した。
【0061】
[0079]25μl体積中、β-gus mRNAおよびCEA mRNAに関して、上述と同一のPCR濃度お
よび以下の逆転写酵素濃度で、RT-PCR反応を設計した:60 nM β-gus逆転写酵素プライマー(5'-TTTGGTTGTCTCTGCCGAGT-3')(SEQ ID NO: 2)またはCEA逆転写酵素プライマー(5'-GTG AAG GCC ACA GCA T-3')(SEQ ID NO: 9)、1μl Sensiscriptおよび0.8 U/μl RNase阻害剤。RT-PCR用のRNA投入量は、400 ng A549および25 ngリンパ節であった。
【0062】
[0080]まず、1、2、5、7および10秒間の95℃での変性に30秒間の伸長とを組み合わせて、40サイクル行うことについて比較することによって、変性工程を最適化した。白金Taq活性化は、95℃で30秒間行った。この試験の結果は、どちらの遺伝子に関しても、1秒間の変性対10秒間の変性の間の感度に有意な喪失がないことを示す。次に、3、5、7、10、13、15および30秒間の64℃での伸長に15秒間の変性とを組み合わせて、40サイクル行うこ
とについて比較することによって、伸長工程を最適化した。白金Taq活性化は、95℃で30
秒間行った。
【0063】
[0081]この試験の結果は、GUSに関して、30秒間の伸長から3秒間の伸長にすると、およそ1.5サイクルの感度の最小の喪失を示す。CEAに関しては、30秒間の伸長から3秒間の
伸長にしても、有意な喪失は見られない。
【0064】
[0082]次に、1/3秒間のPCRから2/15秒間のPCRを40サイクルに渡って比較すること
によって、変性/伸長時間を改変する組み合わせの効果を評価した。結果は、GUSおよびCEAに関して、それぞれ、感度の2.2サイクルおよび1.1サイクルの喪失を示す。2/15秒間PCRは22分間を必要とするが、1/3秒間PCRは16分間を必要とし、したがって、感度のこの
有意でない喪失は、反応時間を6分間削減する価値が十分にある。
【0065】
[0083]変性から伸長への傾斜時間を減少する試みの中で、変性温度を95℃から90℃、それから85℃に減少させる影響を評価した。GUSに関しては、95℃または85℃で変性を行
った場合、感度に有意な喪失はない。CEAに関しては、変性を85℃で行うと、反応に失敗
したが、変性を95℃から90℃にしても、感度の有意な喪失は見られなかった。95℃変性に対して90℃変性を行うことによって得られる時間の長さは、40サイクルに渡って、約1.5
分間である。
【0066】
[0084]Taq活性化時間を評価すると、30秒間から10秒間にTaq活性化を減少させることによって、いずれの遺伝子に関しても、感度の有意な喪失は見出されなかった。
【0067】
[0085]PCR条件を最適化した後、逆転写酵素反応を最適化した。逆転写酵素反応は、15μlの総体積で行った。反応完了後、混合物を70℃に維持し、その時点でPCR構成要素(
総体積、10μl)を添加した。2、3、5、7および10分間の逆転写酵素反応時間を比較した
。両遺伝子に関して、95℃1秒間の変性および64℃5秒間の伸長を40サイクル含むPCR条件
と、逆転写酵素反応を組み合わせた。
【0068】
[0086]これらの逆転写酵素反応時間試験の結果によって、10分間の逆転写酵素反応から2分間の逆転写酵素反応にすると、GUSに関して1.1サイクル、そしてCEAに関して1.8サ
イクルの感度喪失が示される。次に、アッセイ感度に対する、RT-PCR時間を減少した影響すべてを、以下のRT-PCR条件を比較することによって評価した:1)10分間逆転写酵素反
応後、10秒間の変性および15秒間の伸長、40サイクル、総実行時間38分間の「ゴールド標準」、2)5分間の逆転写酵素反応後、1秒間の変性および5秒間の伸長の最適化PCR条件、40サイクル、総実行時間20分間、3)2分間の逆転写酵素反応後、最適化PCR条件、総実行時間17分間、および4)2分間の逆転写酵素反応後、1秒間の変性および3秒間の伸長の「迅速」RT-PCR、40サイクル、総実行時間15分間。Gusに関しては、「ゴールド標準」RT-PCRは
、25.88±0.78のCt(あらかじめ決定した閾値、参照蛍光レベルに達するのに要するサイ
クル数)を有し、一方、最適化PCR条件と組み合わせて2分間の逆転写酵素反応を行った場合、29.42±0.7のCtを有し、3.54の総サイクル相違を示した。CEAに関しては、「ゴール
ド標準」RT-PCRは、29.94±2.2のCtを有し、一方、最適化PCR条件と組み合わせて2分間のRTを行った場合、34.92±0.5のCtを有し、4.98の総サイクル相違を示した。
【0069】
[0087]より短いプロトコルの感度を増加させる試みの中で、GusおよびCEAのプライマー濃度を増加させる影響を評価した。RTプライマー濃度を60 nMから100 nMに、そしてF/R PCRプライマー濃度を400 nMから800 nMに増加させて、上述の実験を反復した。この試
験の結果は、CEAに関して、ゴールド標準対2分間最適プロトコル間で、2.3サイクルの相
違(低プライマー濃度で4.98)を、そしてGusに関して1.63(低プライマー濃度で3.54)
サイクルの相違を示す。この感度のわずかな喪失は、総RT-PCR時間が、38分間から17分間に減少したことを考慮すると、重要でない。
【0070】
[0088]新鮮なリンパ節cDNAの希釈シリーズに対する、1秒間の変性および6秒間の伸長、40サイクルの最適化条件を用いて、CEAのPCR効率を評価した。このアッセイの相関係数は0.9974であり、これは優れた再現性の指標である。PCR効率は、以下のように計算可能
である:
E=10(1/-s)-1、
[0089]式中、Sはテンプレート連続希釈の標準曲線の傾きに等しく、これに関して、C
tを対数DNA濃度に対してプロットする。したがって、このアッセイのPCR効率は96.7%で
ある。
【0071】
[0090]次に、2分間の逆転写酵素反応後、最適化条件を用いた40サイクルのPCRを用いて、アッセイのRT-PCR効率を評価した。新鮮リンパ節RNAの2×希釈シリーズを、400 ng脾臓RNA中で調製した。CEAおよびGUS両方に関するRT-PCRを行った。平均GUS Ctは、28.39±1.36であった。このアッセイの効率は、100パーセントより高い。Sensiscriptだけでなく、Superscript IIおよびSensiscriptの等量混合物を用いて、同一アッセイを行った。こ
のアッセイの効率は、100パーセントにより近かった。
【0072】
実施例3 迅速QRT-PCR:マルチプレックス化アッセイ
[0091]Smart Cyclerは、現在、4色蛍光検出が可能であり、そしてしたがってQRT-PCR反応のマルチプレックス化を可能にする。1つの目的は、RT-PCRの内部対照、RNA投入量を補正するための内因性参照遺伝子対照、および標的遺伝子(例えばCEA)を、すべて1つの試験管でマルチプレックス化することである。β-GUSおよびCEAをマルチプレックス化す
る最初の試験は、中程度のCEA mRNAレベルでうまく働いたが、非常に低レベルのCEAが存
在する場合は失敗した。したがって、この反応の感度は、微小転移検出には適切でなかった。これを克服する1つの方法は、内因性対照遺伝子に用いるPCRプライマーの量を制限することである。理論的には、これは、まれなCEA mRNA種が、特により後のサイクルで、より有効にPCR試薬に関して競合するのを可能にする。β-Gusまたは第二の内因性対照遺伝
子(18SリボソームRNA)でこれを行う試みもまた、適切な感度を生じるのに失敗した。
【0073】
[0092]2つのPCR反応間の競合が最も重要である場合、問題は最初のサイクルにあると仮定された。これを克服するが、それでもなお、余分な取り扱いを伴わずに、単一試験管でのアッセイを行うため、18S rRNA(およびβ-GUS)内因性対照プライマーを再設計し、それによりアニーリング温度がCEAプライマーのものより10℃低くした(本明細書に記載
する、QRT-PCR反応で用いるすべてのプライマーは、以下の表1に列挙する)。その後、2
回の20サイクル工程で、第一は64℃のアニーリング/伸長温度で、そして第二は53℃のアニーリング-伸長温度で、PCRを行った。マルチプレックス反応試薬濃度は、シングルプレックス反応で用いたのと同じであったが、以下の修正を含んだ。標的遺伝子プライマー濃度は400 nMであり、一方、内因性対照のプライマー濃度は100 nMであり、逆転写酵素プライマー濃度は各々60 nMであり、そしてサイクリング条件は、先に言及するように修正し
た。理論的には、18S rRNAプライマーは、最初の20サイクルでは機能しないであろうし、そしてCEA増幅は競合せずに進行可能である。次の20サイクルで、CEA PCR産物はすでに、18S rRNA PCRと効率的に競合可能である点まで増加しているであろう。この実験の結果を図4に示す。パネルAおよびCは、最適条件を用いたシングルプレックスで行った際の、18S
rRNAおよびCEAそれぞれの結果を示す。パネルBおよびDはマルチプレックス化した18S rRNAおよびCEAを示す。これらの反応が同一試験管中で、異なる蛍光色素を用いてマルチプ
レックス化されているが、ソフトウェアは、同一グラフ上に2つの色素をプロットするこ
とが可能でないことに注目されたい。シングルプレックス反応では、18S rRNAは、10サイクルで30蛍光単位の閾値と交差した(パネルA)。新規PCRプライマーおよび修正プロトコルを用いると、18S rRNA PCR反応は、26サイクルまで、すなわちアニーリング/伸長温度が53℃に低下した6サイクル後まで、閾値と交差しなかった(パネルB)。この反応は、30サイクル(20+10)で閾値と交差すると予想され、したがって、64℃であっても、最初の20サイクル中、ある程度の18S rRNA PCR増幅があるようである。CEA反応において、シン
グルプレックスは、33.5サイクルで閾値に達し(パネルC)、一方、マルチプレックス化CEAは、34.5サイクルで閾値に達した。したがって、この反応では、1サイクル分の感度し
か喪失しなかった。
【0074】
【表1】
【0075】
[0093]注目すべきことに、上述のCEAプライマーは、CEA mRNAのエクソン6および7の
間の接合部に渡るように設計した。該プライマーはまた、CEA mRNAのエクソン2〜3間の接合部に渡る配列も増幅する。このプライマーセットは、特定の、より初期に記載されたプライマーセットに勝る選択性を得るよう、選択した。CEA配列(図5、GenBank寄託番号XM012777)の1以上の隣接ヌクレオチドを、いずれかのCEAプライマーの5'端または3'端へ付
加することは、プライマーセットのTmの、予想される変化に関するものを除き、上述のアッセイに認識可能に影響を与えないであろう。上述のCEAフォワードプライマーおよびリ
バースプライマーが選択されるのと同一の一般的な領域(エクソン2〜3およびエクソン6
〜7接合部)から、他のCEA特異的プライマーを選択して、上述のCEAプライマーと同一の
または類似の影響を生じることが可能である。好ましくは、選択されるプライマーセットはいずれも、約100塩基未満のアンプリコンを生じ、これは迅速QRT-PCRアッセイを行う能力に拍車をかけるであろう。
【0076】
実施例4 節-陰性食道癌患者における定量的逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応の予後的価
値
序論
[0094]食道腺癌の発生率は、憂慮すべき速度で増加し、いかなる他の固形腫瘍のものも超えている。進行した疾患を示す患者の50%までが、10〜13%の総5年生存率を生じる
。他の腫瘍種でのように、食道癌患者の生存は、リンパ節関与の組織学的証拠によって、強く予測される。リンパ節病期分類のための現在の組織学的方法は、患者集団に関して、信頼しうる情報を提供するが、その集団内の個々の患者の結果を予測することは不能である。例えば、組織学的に節陰性である食道癌患者の30〜50%は、潜在的に治癒可能な切除にもかかわらず、5年以内に疾患再発を患うであろう。この初期治療の失敗は、日常的な
組織学的評価によって未検出である、腫瘍の微小転移が広がることに起因しうることを示す、多数の状況証拠がある。したがって、リンパ節微小転移の検出をより高感度にし、それによって食道癌患者のより個別化した予後および治療計画を可能にする、明らかな必要性がある。
【0077】
[0095]現在のリンパ節評価の主な問題は、試料採取が誤っていること、および個々の腫瘍細胞または小さい腫瘍病巣を検出する感度が低いことである。組織学的検査は、各リンパ節の非常に少ない割合しか試料採取せず、そして病理学者が、直径が3つの腫瘍細胞
である微小転移病巣を検出するのは、わずか1%の確率でしかないことが計算されている
。腫瘍マーカーの免疫組織化学的染色によって、微小転移検出の感度が改善され、そして連続切片作成と組み合わせて、試料採取の誤りを減少させると、有意な数の患者の病期が上昇する(upstaging)。この技術は、食道癌で用いられてきており、そして組織学的に
陰性である節の17%が、微小転移疾患を含有することが見出された。この報告では、IHC3陽性リンパ節は疾患再発と相関したが、後の研究でIHCはいかなる予後的価値も示さず、
これらの発見に疑問が呈された。他の研究は、RT-PCRなどの分子的方法を用いて、微小転移を検出してきている。RT-PCRは、CEA、サイトケラチン19、サイトケラチン20などの腫
瘍マーカーのmRNAを、組織学的に癌不含である血液、骨髄、およびリンパ節を含む多様な組織において、検出可能である。食道癌では、RT-PCRがいくつかの少数の患者シリーズに対して行われてきているが、臨床的追跡調査がほとんど報告されていないため、RT-PCR陽性節の臨床的有意性は知られていない。他の腫瘍種では、RT-PCRが感度を改善することが研究によって示されてきているが、癌でない患者由来の対照リンパ節における劣った特異性および偽陽性結果が、この情報の臨床的適用を困難なものにしている。偽陽性は、少なくとも部分的に、すべての組織種で、ほとんどの遺伝子の発現を非常に低いバックグラウンドレベルにする、先に記載される異所性(ectopic)遺伝子発現の現象に起因しうる。
したがって、先の研究は、ゲルに基づく定性的RT-PCR法を用いてきたが、現在、腫瘍マーカー検出のためのこの単純なプラス/マイナス法は、常に、微小転移の信頼しうる徴候であるわけではないことが明らかになりつつある。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイの導入で、QRT-PCRは、現在、比較的単純な技術である。したがって、定量的解析は、ゲルに基づくRT-PCRより有意な利点を提供し、そして組織学的に節陰性である食道癌患者において、疾
患再発の正確な予測を可能にするであろうと仮定された。本発明の目的は、3つの部分で
ある:(a)リンパ節におけるCEAのバックグラウンド遺伝子発現、および真の微小転移を診断する臨床的に適切なレベルの間を正確に区別する、QRT-PCRの能力を決定すること;
(b)リアルタイムQRT-PCRを用いて、30の節陰性食道癌患者由来のリンパ節を解析し、そして疾患再発と結果を相関させること;および(c)同一試料に対して、標準的なゲルに
基づくRT-PCRとQRT-PCRを比較すること。QRT-PCRは、真の転移疾患からバックグラウンド発現を容易に区別可能であり、QRT-PCRは、節陰性食道癌患者における疾患再発を予測す
るのに、高感度および特異的であり、そしてQRT-PCRは、ゲルに基づくRT-PCRより高い特
異性を有することが見出された。これらの結果から、定量化は、RT-PCRが微小転移疾患用の有用な臨床的試験となるのを妨げてきた問題すべてに対処すると考えられる。
【0078】
材料および方法
[0096]患者:組織学的にリンパ節陰性である食道癌の治癒的切除を受けた30人の患者
由来の387のリンパ節を含有する140のパラフィンブロック由来の組織を調べた。すべての手術は、1991年から1998年の間、ピッツバーグ大学付属病院の胸部外科で行われたものである。生存状態および再発情報は、医学的記録の再検討、かかりつけ医との個人的接触、および死亡証明書を組み合わせて得た。2001年8月の時点で、すべての患者に関する追跡
調査データを確認した。生存患者の追跡調査時間の中央値は、49ヶ月であった(範囲は28〜91ヶ月)。人口統計データおよび臨床的特性を収集した(表2)。陽性対照として、10
件の原発腫瘍(8件の腺癌および2件の扁平上皮癌)および4件の組織学的に陽性のリンパ
節由来の組織ブロックを得た。癌と関係ない原因(ヘルニア修復および逆流防止法)で食道手術を受けた患者、およびリンパ節が付随的に除去された患者由来の陰性対照(良性)リンパ節を得た。
【0079】
【表2】
【0080】
[0097]組織およびRNA単離:研究に用いたすべての組織は、病理組織バンクから得た
、ホルマリン固定しパラフィン包埋した、アーカイブ標本であった。H&E染色したスライドもまた、各組織ブロックに関して回収して、そして元来の節陰性診断を確認するために調べた。組織ブロックをミクロトームに乗せ、そして5〜15の5.0μm切片を切り、そして2.0 mlのRNase不含試験管に入れた。同時に、2つの5.0μmの切片を切り(最初および最後
の切断)そしてCEAに対する抗体で免疫組織化学染色するため、顕微鏡スライド上にマウ
ントした。RNAは先に記載される方法(Godfrey, T.E., Kim, S.-H., Chavira, M., Ruff,
D.W., Warren, R.S., Gray, J.W.,およびJensen, R.H. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quanti
tative RT-PCR. J. Mol. Diagn., 2:84-91, 2000)を用いて単離し、そしてRNA安定再懸濁溶液(Ambion、テキサス州オースティン)中で保管した。RNAは、DNA不含キット(Ambion)を用いて、DNase処理し、そして分光光度法で定量化した。
【0081】
[0100]QRT-PCR:QRT-PCRは、5'ヌクレアーゼアッセイおよびApplied Biosystems 7700配列検出装置(TaqMan)を用いて行った。CEA発現は、先に記載される比較CT法を用いて、内因性対照遺伝子、β-Gusに比較して測定した(Godfrey, T.E., Kim, S.-H., Chavira, M., Ruff, D.W., Warren, R.S., Gray, J.W.,およびJensen, R.H. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. J. Mol. Diagn., 2:84-91, 2000;Tassone, F., Hagerman,
R.J., Taylor, A.K., Gane, L.W., Godfrey, T.E., およびHagerman, P.J. Elevated Levels of FMR1 mRNA in carrier males:a new mechanism of involvement in the fragile-X syndrome. Am. J. Hum. Genet., 66:6-15, 2000)。すべてのQRT-PCRアッセイは、2つのRNA投入量、400 ngおよび100 ngで行い、そして各濃度に関して、二つ組反応をセッ
トアップした。したがって、報告するCEA発現レベルは、4つの独立のQRT-PCR反応の平均
である。RT陰性対照は、400 ngのRNAを用いるが、逆転写酵素を省いて、すべての試料に
関して行った。テンプレート陰性対照もまた、各PCRプレート上で行った。すべてのプレ
ート上で、平行して較正RNA試料を増幅して、異なる時点で調べた試料の比較を可能にし
た(Godfrey, T.E., Kim, S.-H., Chavira, M., Ruff, D.W., Warren, R.S., Gray, J.W.,およびJensen, R.H. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. J. Mol. Diagn., 2:84-91, 2000;PE Applied Biosystems user bulletin #2. Relative quantitation of gene expression、Perkin-Elmer, Corp.、コネチカット州ノーウォーク、1997)。
【0082】
[0101]最大感度のため、そして交差汚染のリスクを排除するため、先に記載された単一試験管QRT-PCR法を用いた(Raja, S., Luketich, J.D., Ruff, D.W., Kelly, L.A.,お
よびGodfrey, T.E. A Method for increased sensitivity of one-step quantitative RT-PCR. Biotechniques, 29:702-705, 2000)。この方法では、逆転写反応混合物(RT)およびPCRプライマーの、ワックス層を用いた物理的分離によって、より特異的でそして高
感度のRT-PCRを生じる。PCRプライマーを10μl体積で、PCRプレートにピペッティングし
た。その後、Ampliwax PCR gem 50(Applied Biosystems)を1つ、各ウェルに入れ、そしてプレートを80℃に2分間加熱し、そして4℃に冷却して、ワックスバリアを生じた。その後、40μlの上層を各ウェルにピペッティングした。反応構成要素の最終濃度は以下のと
おりであった:1×PCR緩衝液A、各300 nMデオキシヌクレオチド三リン酸、3.5 mM MgCl2
、0.4単位/μl RNase阻害剤、1.25単位/μl Superscript II逆転写酵素(Life Technologies, Inc.、メリーランド州ガイザーズバーグ)、0.06単位/μl Amplitaq Gold(Applied Biosystems)、20 nM逆転写酵素プライマー、200 nMの各PCRプライマー、200 nMプローブ(β-Gusプライマーおよびプローブは100 nMであった)、および100 ngまたは400 ng総RNA。用いたオリゴヌクレオチド配列を表3に示す。すべてのRT-PCR反応は、以下のサーモサイクラー条件で、ABI 7700上で行った:48℃で40分間維持、95℃で12分間維持、その後、95℃15秒間および64℃(β-Gusは60℃)1分間の45サイクル。データは、CEAに関して0.03、そしてβ-Gusに関して0.045に閾値を設定し、配列検出ソフトウェア(Applied Biosystems)を用いて解析した。
【0083】
【表3】
【0084】
[0102]ゲルに基づくRT-PCR解析:PCR産物汚染の可能性を回避するため、QRT-PCRを行ったすべてのPCRプレートは、定量的解析が完了するまで未開封のまま保管した。その後
、2つの400 ng RNA投入反応および1つの400 ng RT不含対照由来のPCR産物を、4%アガロ
ースゲル上で分離し、エチジウムブロマイドで染色し、そしてゲル文書化系上で視覚化した。正しいサイズのバンドが二つ組反応の両方で観察されたが、RT不含対照で観察されなかった場合、患者をRT-PCR陽性と分類した。
【0085】
[0103]統計解析:対照組織試料におけるCEAレベルの比較(図6)は、Mann-Whitney U検定で行った。食道癌患者由来の病理学的に陰性であるリンパ節に関しては、主な終点は、手術時点から再発が診断された時点まで、または追跡調査の最後の日まで測定される、疾患再発であった。各患者組織ブロック由来の最高のCEAレベルを用いて、再発をゴール
ド標準として用いて、ROC曲線を構築した。最も正確な分類を生じるCEA発現レベル切り捨て値を同定し、そしてそのレベルを用いて、再発リスクに関して、患者をQRT-PCR陽性ま
たは陰性と分類した。患者の第二の組は、切り捨て値の見込み評価に利用可能でなかったため、交差検証(cross validation)によって切り捨て選択法を統計的に評価して、そしてROC曲線統計のSDを、ブートストラップ・リサンプリングによって計算した(Davison, A.C.,およびHinkley, D.V. Bootstrap Methods and Their Applications. 英国ケンブリ
ッジ:Cambridge University Press, 1997)。標準的RT-PCRおよびQRT-PCR結果を含む、
臨床的および病理学的要因に関して、Kaplan-Meier疾患不含および総生存曲線をプロットした。ログランク検定によって疾患不含生存の解析を行い、そしてCox比例ハザードモデ
ルを構築することによって、多変量解析を行った。予測要因のリストには、分類要因である、性別、腫瘍病理、RT-PCRおよびQRT-PCRによる分類、手術前化学療法および/または
放射線療法、並びに病理学的T段階と共に、定量的要因である、CEA発現レベル、年齢、および試験のため取り除いた節の数が含まれた。モデル間のすべての比較は、入れ子モデルの尤度比検定間の相違に基づいた。比例的仮定の適切さは2つの方法:累積ハザードの対
数を時間の対数によってプロットすることによる方法、およびSchoenfeld残差をプロットし、そして回帰係数および時間の間の相関を概算することによる方法でチェックした。
【0086】
[0104]結果−節陰性患者の特性:節陰性食道癌を持つ30人の患者のTNM分類には、T1N0M0(n=10)、T2N0M0(n=5)、およびT3N0M0(n=10)が含まれた。生検で診断された
癌を持つ1人の患者は、切除標本上に癌の証拠がなく、そして術前補助化学療法を受けた4人の患者には、切除時点で残存する、検出可能な腫瘍がなかった。原発腫瘍の位置は、25件の食道部位低部3分の1、5件の中央食道部位、および0件の上部食道部位を含んだ。26件の腺癌および4件の扁平上皮癌があった。22人の男性および8人の女性がいて、そして診断
時の患者年齢中央値は、70歳であった。30人の患者のうち17人は死亡し、10人は癌のためであり、そして7人は他の原因によってであった。生存中の患者に関しては、追跡調査の
中央値は49ヶ月であった(範囲は28〜91ヶ月)。総生存の中央値は36ヶ月であった。患者特性の完全な明細を以下の表4に提供する。
【0087】
[0105]CEA発現の定量的解析:まず、節陰性研究群とは別個であり、そして原発性食
道腫瘍、転移に関して組織学的に陽性であったリンパ節(N1)、および癌でない患者由来の良性リンパ節を含む、3つの供給源から、RNAを単離し、そして解析した。CEA発現は、
すべての腫瘍およびN1節で、そして良性リンパ節の50%で検出された(図6)。Mann-Whitney U検定を用いて、個々の対比較を行って、そして腫瘍およびN1節両方の発現レベルが
、良性リンパ節におけるより、有意に高いことを見出した(それぞれ、P=0.002および0.0021)。CEA発現は、N1リンパ節におけるより、腫瘍試料において、わずかにより高かっ
たが、これは統計的に有意でなかった(P=0.171)。
【0088】
[0106]研究群由来の組織学的に陰性である(N0)リンパ節を解析すると、広い範囲のCEA発現が立証された。発現は、検出不能から組織学的に陽性のリンパ節で見られるのに
等しいCEA発現を持つ1つの節までの範囲であった。各患者由来の最高発現の節からのデータを、疾患再発情報と組み合わせて、ROC曲線解析を用いて解析した。この解析から、最
も正確に再発を予測する、発現レベル切り捨て値を決定した(図7)。ROC曲線下の面積は、0.88であり、0.71から0.97の95%信頼性であって、分類の正確さが確率のみよりも有意に優れていることが示された。解析した140の組織ブロックのうち、12件(9%)が切り捨て点より高いCEA発現レベルを有し、そして総数11人の患者(34%)が、切り捨て値より
高い発現のブロックを1以上有した。これらの11人の患者を、潜在性微小転移のQRT-PCR証拠を有すると分類した。「最も陽性」の組織ブロックは、1つ(患者28)を除いてすべて
の切片が、CEAに対する抗体での免疫組織化学染色に関して陰性であった。
【0089】
[0107]ゲルに基づくCEA発現解析:この解析で、総数25件(18%)の組織ブロックが
、ゲルに基づくアッセイを用いて、CEA発現に関して陽性であり、そして15件(50%)の
患者が、少なくとも1つの陽性ブロックを有した。良性障害を持つ患者由来の10件のリン
パ節のうち2件では、ゲルに基づくアッセイ上で、CEA PCR産物が示された。定量的アッセイおよびゲルに基づくアッセイの比較は、ゲル上で陽性のすべての試料が、TaqManアッセイでもまたシグナルを生じることを示した。
【0090】
[0108]潜在性微小転移および再発:研究した30人の患者のうち、10人が、疾患再発を患い、そして研究終了時までに死亡した。残る20人の患者のうち、7人が他の原因で死亡
し、そして13人が、再発疾患の証拠なしに生存している。1人の患者は、初期吻合部(anastomatic)再発を患い、これは光力学的療法および放射線療法で治療した。この患者は、後に、小細胞肺癌と診断され、そしてこれで死亡した。定量的アッセイの最も正確な切り捨て値を用いて、総数11人の患者をQRT-PCR陽性と分類し、そしてこれらのうち9人は再発を患った。同じ9人の患者は、再発しなかった他の6人の患者と共に、ゲルに基づくアッセイを用いて、RT-PCR陽性と同定された。QRT-PCRアッセイを用いて疾患再発を予測するた
めの感度および特異性は、90%および90%であり、陽性予測値は82%であった。ゲルに基づくアッセイを用いると、感度および特異性は、90%および70%であり、陽性予測値は60%であった。図8は、RT-PCR(A)およびQRT-PCR(C)によって分類される患者コホートの疾患不含生存と共に、総生存(BおよびD)を示す。RT-PCR陰性であった患者の疾患不含生存は、どちらのアッセイを用いても94%であった。陽性分類の患者は、どちらの方法でも、より劣った予後を有した。ログランク検定は、QRT-PCR(P=0001)およびゲルに基づくRT-PCR(P=0038)がどちらも、節陰性食道癌患者における再発の有意な予測因子である
ことを示す。総生存もまた、QRT-PCRまたはRT-PCR陽性患者で、より劣っていた(それぞ
れP=0.0006および0.106)。
【0091】
[0109]QRT-PCRおよびRT-PCRに加え、このコホートにおける疾患再発を予測すること
が見出された、他の臨床的、病理学的、または治療因子は、病理学的T段階(ログランク
検定、P=0.0777)および手術前化学療法および/または放射線療法(ログランク検定、P=0.0307)のみであった。多変量解析において、Cox回帰モデルからの尤度比統計によっ
て、バイナリー変数、QRT-PCR陽性または陰性としてのCEA分類は、病理学的T段階および
手術前化学療法または放射線療法と比較した際、有意で、そして独立した、再発の予測因子であることが示された。
【0092】
考察
[0110]リンパ節関与は、多くの固形腫瘍で、最強の予後要因であり、そしてリンパ節微小転移の検出は、最近の文献で多くの関心を集めてきた。現在のリンパ節評価は、H&E染色組織切片の顕微鏡検査を伴い、そして2つの大きな限界に苦しむ:(a)単一腫瘍細胞、または細胞の小さい病巣が容易に見のがされ;そして(b)1または2の組織切片しか研
究せず、そしてしたがって、各節の大部分は調べられないままである。連続切片作成は、試料採取の誤りの問題を克服可能であり、そしてIHCは、個々の腫瘍細胞を同定可能であ
る。しかし、これらの方法の組み合わせは、日常の解析にはあまりにもコストおよび時間がかかりすぎ、そして前哨リンパ節検査などの特別の場合に限定される。RT-PCRは、より多量の組織を解析可能であるため、試料採取の誤りの問題を克服するし、そしていくつかの報告は、RT-PCRがIHCより多くの陽性リンパ節を同定することを示す。これはまた、本
研究でも、QRT-PCR陽性リンパ節ブロックの1つのみがIHC解析で陽性であったのにあては
まった。
【0093】
[0111]最近の研究はまた、非QRT-PCR確実性が、疾患再発と正に相関することも示す
が、これらの研究で報告される特異性は低い。Liefersらによる1つの研究では(13. Liefers, G.J., Cleton-Jansen, A.M., van de Velde, C.J., Hermans, J., van Krieken, J.H., Cornelisse, C.J.,およびTollenaar, R.A. Micrometastases and survival in stage
II colorectal cancer [コメントを参照されたい]. N. Engl. J. Med., 339:223-228, 1998.)、26人の組織学的にN0の結腸癌患者のうち14人は、RT-PCRを用いると、微小転
移疾患の証拠を有し、そして残る12人は、RT-PCR陰性であった。12人のRT-PCR N0の患者
のうち、1人のみが6年間の追跡調査期間中に再発し、一方、14人のRT-PCR N1の患者のう
ち、7人が再発を患った。したがって、終点として再発を用いると、この研究は、88%の
感度を達成した。しかし、RT-PCR陽性節の7人の患者が再発しなかったため、特異性はわ
ずか61%であった。他の研究が、黒色腫患者において、非QRT-PCRに関して、同様の低特
異性を示した。Shiversら(Shivers, S.C., Wang, X., Li, W., Joseph, E., Messina, J., Glass, L.F., DeConti, R., Cruse, C.W., Berman, C., Fenske, N.A., Lyman, G.H.,およびReintgen, D.S. Molecular staging of malignant melanoma:correlation with clinical outcome. JAMA, 280:1410-1415, 1998)は、86%の感度および51%の特異性を
達成し、そしてBostickら(Bostick, P.J., Morton, D.L., Turner, R.R., Huynh, K.T.,
Wang, H.J., Elashoff, R., Essner, R.,およびHoon, D.S. Prognostic significance of occult metastases detected by sentinel lymphadenectomy and reverse transcriptase-polymerase chain reaction in early-stage melanoma patients. J. Clin. Oncol., 17:3238-3244, 1999)は、100%の感度および67%の特異性を報告した。この低い特異性は、実行間の変動を正確に管理することが不能であることと共に、臨床設定でのRT-PCRの潜在能力を制限してきた。
【0094】
[0112]本研究で、組織学的にN0である食道癌患者のリンパ節において、CEA発現を定
量的にアッセイし、そして潜在性微小転移を検出するためのTaqMan RT-PCRの使用を評価
した。この定量的解析は、臨床的に適切なCEA発現レベル切り捨ての定義、および他の研
究者により報告される、バックグラウンドまたは異所性CEA発現と関連する問題の克服を
生じた。このアプローチを用いて、30人の患者のうち11人が、QRT-PCR陽性と同定され、
そしてこれらの患者のうち9人が疾患再発を患った。QRT-PCR陰性であった19人の患者のうち1人のみが、本研究経過中に再発を患った。興味深いことに、再発しなかった20人の患
者のうち、11人が、対照リンパ節に見られるより高い(バックグラウンドレベルより高い)、検出可能なCEA発現を有し、そして2人が、疾患再発を予測する切り捨てレベルより高かった。ある場合、これは、pN1患者であっても、〜20%の予測5年生存を有する可能性があるため、手術によって治癒する、限定的な節疾患の存在を示す可能性があった。残る試料中のCEA発現は、生存不能であり、そしてアポトーシスを経る可能性がある、個々の散
在腫瘍細胞、原発部位での腫瘍細胞アポトーシスの結果としてのリンパ系における細胞不含RNA、または外科医によって不注意に導入された混入細胞いずれかの結果である可能性
があった。
【0095】
[0113]疾患不含生存および総生存はどちらも、QRT-PCR陽性患者と比較して、QRT-PCR陰性患者で、有意により高かった。さらに、QRT-PCR陽性群の疾患不含生存は、3年でわずか27%であり、微小転移疾患が組織学的にN1である疾患と同程度に臨床的に重要である可能性があることが示された。1人の患者の例外があったが、患者あたり、1つの陽性組織ブロックのみが同定され、疾患の広がりが限定的であることが示された。陽性リンパ節はすべて、局所領域的であり、そしてしたがって、腹腔または頚部リンパ節関与によって定義されるように、M1aではなくN1状態を与えるであろう。これらの組織学的にN0である患者
における限定的な節関与は、病期分類法中、異なる節の場所から、適切なリンパ節試料を採取する必要性を強調する。
【0096】
[0114]節陰性疾患の患者サブセットは、過去、比較的少数であったが、食道癌が劇的に増加したことから、初期段階疾患の患者をより頻繁に同定する、監視プログラムが生まれた。したがって、これらの患者を正確に病期分類する方法が、より重要になってくるであろう。本明細書の、同一試料のゲルに基づく解析と定量的データの比較は、QRT-PCRが
、試験特異性を改善しつつ、同じ高感度を維持することを示した。QRT-PCRはまた、PCR産物交差汚染のリスクを最小限にして、自動化した、手動操作のいらない解析に受け入れやすい、目的の結果を生じる。こうした自動化は、QRT-PCRが日常的な臨床アッセイになろ
うとするのならば、必須であろう。
【0097】
[0115]さらに、定量的方法は、厳しい制御の使用を可能にして、実行間のアッセイの正確さおよび信頼性を確実にする。例えば、記載される実験で、較正試料をすべてのPCR
プレート上で実行し、日々の変動を補正した。この方法論を用いると、再現性試験は、測定の95%信頼性制限が0.511サイクルであることを示す(データ未提示)。定量的アッセ
イの再現性を正確に評価する能力は、RT-PCRを臨床的設定で用いようとする場合、必須であろう。ゲルに基づくアッセイでは、このレベルのアッセイ確認は達成不能である。QRT-PCRによって測定したCEAレベルによって患者を分類する予測上の能力は、CEAを測定した
のと同一の患者で切り捨て値を評価したために、楽観的であろうことが認識される。最も正確な切り捨て値に関して、同じ方法を第二の組の患者に適用した場合、分類は、より成功しない可能性があろう。この目的のため、交差検証によって、感度、特異性、および分類の正確さの再解析を行った(n=10000)。特異性の交差検証概算は0.82であり、そして正確さは0.82であった(元来の試料の、それぞれ0.90および0.90と比較)。したがって、元来の試料の分類の成功がわずかに誇張されていたが、この楽観論を補正した後であっても、QRT-PCRによる分類は、ゲルに基づくアッセイよりも改善されているままであった。
【0098】
[0116]結論として、これらのデータは、QRT-PCRが、食道癌患者の組織学的に陰性で
あるリンパ節において、高い特異性で、微小転移疾患を検出可能であることを立証する。微小転移疾患の存在は、強力で独立した癌再発の予測因子であり、そして定量化は標準的RT-PCRアッセイに勝ることもまた示した。定量的RT-PCRは、初期段階の食道癌患者のいず
れが再発に関して高リスクであるか、そしていずれがさらなる療法から利益を得る可能性があるのかを同定可能であるはずである。最後に、この定量的アプローチは、他の腫瘍種においても同様の利益を生じるはずである。
【0099】
【表4−1】
【0100】
【表4−2】
【0101】
実施例5 手術中定量的RT-PCRは、食道癌患者において、節転移を検出する
序論:
[0117]食道癌および他の悪性腫瘍における外科的決定は、しばしば、リンパ節の手術中凍結切片解析に基づく。食道癌患者の5年生存は、最初の提示時点で多くの患者に進行
した疾患が存在するため、5〜10%で不十分な値のままである。しかし、局所および領域
性リンパ節が組織学的に陰性である場合、5年生存には劇的な改善がある。にもかかわら
ず、組織学的に節陰性である患者の30〜50%は、疾患再発を患う。これは、微小転移の検
出において、現在の病期分類技術に限界があるためである可能性が最も高い。結果として、免疫組織化学または逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの他の技術が、
組織学的に潜在性である微小転移を検出する試みの中で用いられてきた。
【0102】
[0118]食道癌、結腸癌、黒色腫および乳癌に関する研究によって、RT-PCRが組織学的に潜在性である微小転移を検出可能であり、そして再発を予測可能であることが示されてきている。しかし、対照試料において、偽陽性結果が生じ、そしてそれに続いて、RT-PCRアッセイの特異性および陽性予測値が低くなるため、これらのデータは、批判されてきている。定量的RT-PCR(QRT-PCR)が、真の微小転移から、バックグラウンド異所性遺伝子
発現を区別することを可能にし、そしてしたがって、偽陽性を回避し、そして疾患再発を予測する特異性を増加させることが可能であると示されてきている。次の目的は、外科医に、この重要な情報を、重要な外科的決定が手術中になされる時点で、提供可能にすることである。
【0103】
[0119]本実施例に記載するのは、30分間未満で実行可能な、非常に迅速なQRT-PCRア
ッセイの開発および試験である。迅速アッセイを認証するため、これを、食道癌患者の標準的QRT-PCRおよび臨床的結果と比較する。
【0104】
材料および方法:
患者
[0120]既往分析のため、組織学的にリンパ節陰性である食道癌の治癒的切除を受けた30人の患者由来のリンパ節を研究した(表5)。すべての手術は、1991年から1998年の間
、ピッツバーグ大学付属病院の胸部外科で行われたものである。臨床的追跡調査は、医学的記録から得て、そして2001年8月の時点で、すべての患者に関して確認した。すべての
患者の医学的追跡調査時間の中央値は、36ヶ月であり、そして生存患者の追跡調査時間の中央値は、49ヶ月であった(範囲は28〜91ヶ月)。
【0105】
【表5】
【0106】
[0121]見込み分析のため、1999年〜2000年に、ピッツバーグ大学付属病院の胸部外科で同定された食道癌の病期分類または切除、いずれかを受けた、12人の患者から、リンパ節試料を得た(表6)。癌でない患者由来の対照節は、逆流防止法の腹部手術を受けた患
者から、付随的に得た。切除時点で、解析のため、各リンパ節の半分を液体窒素中で凍結し、そして残りを日常的病理解析に送った。切除組織は、我々の施設で、日常的な臨床過程の一部であり、そしてそうしたものとして、いかなる純粋な研究目的にも、さらなる組織は除去しなかった。すべての組織は、ピッツバーグ大学で進行中のIRB認可食道癌リス
ク登録プロトコルの一部として収集した。
【0107】
【表6】
【0108】
組織およびRNA単離
[0122]既往研究に用いたすべての組織は、病理組織バンクから得た、ホルマリン固定しパラフィン包埋した、アーカイブ標本であった。ヘマトキシリンおよびエオジン染色したスライドもまた、各組織ブロックに関して回収して、そして元来の節陰性診断を確認するために調べた。組織ブロックをミクロトームに乗せ、そして5〜15個の5.0μm切片を切
り、そして2.0 mlのRNase不含試験管に入れた。同時に、2つの5.0μm切片を切りだし(最初および最後の切片)そしてH&Eで染色すると共に、CEAに対する抗体で免疫組織化学染
色するため、顕微鏡スライド上にマウントした。RNAは先に記載される方法(Godfrey TE,
Kim S-H, Chavira M, Ruff DW, Warren RS, Gray JWら. Quantitative mRNA expression
analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. Journal of Molecular Diagnostics 2000:2(2):84-91)を用いて単離し、そして分光光度法で定量化した。
【0109】
[0123]新鮮凍結リンパ節組織をOCTコンパウンドに包埋し、そして10〜15個の4.0μm
切片を切り出した。同時に、2つの4.0μm切片を切りだし(最初および最後の切片)そし
てH&E染色するため、顕微鏡スライド上にマウントした。残った切片は、RNeasyミニキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)の溶解緩衝液を含む、1.5 ml RNase不含試験管に入れた。RNAは、以下の修正を含み、製造者が推奨するプロトコルを用いて抽出した
。1分間を超える遠心分離時間を1分間に減少し、そしてRNAは、60μl RNA安定再懸濁溶液(Ambion、テキサス州オースティン)中で再構成した。試料の大部分は共にプロセシングしたが、5つの試料は個々にプロセシングして、試料あたりの抽出時間中央値を決定した
。RNA収量および純度は、品質管理する目的で、分光光度法で測定した。
【0110】
定量的逆転写-PCR
[0124]QRT-PCRは、5'ヌクレアーゼアッセイを用いて行った。迅速QRT-PCRは、以下に記載するように、Cepheid Smart Cycler(登録商標)(CSC)リアルタイムDNA増幅および検出系上で行った。標準的QRT-PCRは、本明細書に記載する、一試験管QRT-PCR法を用いて、Applied Biosystems 7700配列検出装置(TaqMan(登録商標))上で行った。
【0111】
迅速QRT-PCR
[0125]CEA発現は、先に記載される比較CT法を用いて、内因性対照遺伝子、β-グルクロニダーゼ(β-GUS)に比較して測定した(Godfrey TE, Kim S-H, Chavira M, Ruff DW,
Warren RS, Gray JWら. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. Journal of Molecular Diagnostics 2000;2(2):84-91;Tassone F, Hagerman RJ, Taylor AK, Gane
LW, Godfrey TE, Hagerman PJ. Elevated levels of FMR1 mRNA in carrier males:a new mechanism of involvement in the fragile-X syndrome. Am. J. Hum. Genet. 2000;66(1):6-15)。すべてのQRT-PCRアッセイは、総RNA 400 ngに対して、三つ組で行った。CEAおよびβ-GUS PCRプライマーはどちらも、ゲノムDNAを増幅しないように設計して、そして増幅しないことを試験した。しかし、それでもなお、逆転写を伴わないRNA(RT不
含対照)を用いる、そしてPCRテンプレートとして、cDNAの代わりに水を用いる(テンプ
レート不含対照)対照反応を行った。これらの対照反応を総合して、RNAのゲノムDNA混入から、または試薬のPCR産物混入からシグナルが生じる可能性を排除する。さらに、すべ
ての実行に関して、平行して較正RNA試料を増幅して、異なる時点で調べた試料の比較を
可能にし(Godfreyら.(2000);PE Applied Biosystems User Bulletin #2. ABI Prism
7700 Sequence Detection System:Relative Quantitation of Gene expression. 1997.
コネチカット州ノーウォーク、Perkin-Elmer Corp.)、そしてアッセイの再現性を決定
した。
【0112】
[0126]反応構成要素の最終濃度は、以下のとおりであった:1×PCR白金Taq緩衝液、
各300 nM dNTP、4.5 mM MgCl2、0.8 U/μl RNase阻害剤、1.25 U/μl Sensiscript逆転写酵素(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)、0.06 U/μl白金Taq(Gibco、メリー
ランド州ガイザーズバーグ)、60 nM RTプライマー、400 nMの各PCRプライマー、200 nM
プローブおよび400 ngの総RNA。新鮮組織解析のための総RNA投入量は、試料5μlであった。固定組織解析には、RNAストックの80 ng/μl希釈のうち5μlを用いた。迅速アッセイ
において、PCRプライマーまたはプローブなしにRT反応を行い、その後、試験管を開け、
そしてプライマーおよびプローブを添加した。これは、標準的一工程QRT-PCRがまれなメ
ッセージを検出する感度を欠くため、必要であった。用いたオリゴヌクレオチド配列は以下のとおりであった:β-GUS RTプライマー 5'TGG TTG TCT CTG CCG A 3'(SEQ ID NO: 15)、β-GUSフォワードPCRプライマー 5'CTC ATT TGG AAT TTT GCC GAT T 3'(SEQ ID NO: 3)、β-GUSリバースPCRプライマー 5'CCG AGT GAA GAT CCC CTT TTT A 3'(SEQ ID NO: 4)、β-GUSプローブ 5'-Vic TGA ACA GTC ACC GAC GAG AGT GCT GG 3'(SEQ ID NO: 5)、CEA RTプライマー 5'GTG AAG GCC ACA GCA T 3'(SEQ ID NO: 9)、CEAフォワードPCRプライマー 5'AGA CAA TCA CAG TCT CTG CGG A 3'(SEQ ID NO: 6)、CEAリバースPCRプライマー 5'ATC CTT GTC CTC CAC GGG TT 3'(SEQ ID NO: 7)およびCEAプローブ 5'-Fam
CAA GCC CTC CAT CTC CAG CAA CAA CT 3'(SEQ ID NO: 8)。以下のサーモサイクラー条件で、CSC上で、迅速QRT-PCR反応を行った;48℃で5分間維持、70℃で60秒間(PCRプライマーおよびプローブを添加するため)、95℃で30秒間維持(白金Taq活性化のため)、そ
の後、95℃2秒間および64℃15秒間を45サイクル。閾値を決定するため、第二の派生法を
用いて、SmartCycler Software(Ver1.0)でデータを解析した。固定した組織RNA試料に
固有の分解に関連して感度が減少するため、固定組織解析には、30分間のRT反応が必要であった。
【0113】
統計解析
[0127]疾患不含生存に関する比例ハザード回帰によって、CEA発現レベルの迅速QRT-PCR測定の予測の妥当性を評価した。疾患不含生存は、手術から食道癌の再発が診断された時点までの時間と定義した。2001年8月1日の時点で、他の原因による死亡および疾患なしに生存する患者を検閲した。CEA発現レベルもまた用いて、QRT-PCR陽性または陰性いずれかとして、患者を分類した。ROC曲線解析(DeLong ER, DeLong DM, Clarke-Pearson DL.
Comparing the areas under two or more correlated receiver operating characteristic curves:a nonparametric approach. Biometrics 1988;44(3):837-845;Heagerty
PJ, Lumley T, Pepe MS. Time-dependent ROC curves for censored survival data and
a diagnostic marker. Biometrics 2000;56(2):337-344)によって決定した分類の
切り捨てレベルは、標準として疾患再発を用いて、最も正確な分類を生じるCEA発現レベ
ル値と定義された。潜在性転移を診断するため、QRT-PCR結果の感度および特異性を計算
した。分類法に基づいて、QRT-PCR陽性または陰性と分類した患者を、ログランク検定を
用い、疾患不含生存における相違に関して試験した。
【0114】
結果:
組織解析アーカイブ
[0128]まず、アーカイブに保管した、30人の食道癌患者由来の組織学的に陰性である(N0)リンパ節を解析した(図9)。解析した30件の組織ブロックのうち、13件はROC曲線が決定した切り捨て値より高いCEA発現を有した(0.183より高いCEA発現)。この群にお
いて、9人の患者は疾患再発を患い、そして研究終了時までに死亡し、2人の患者は他の原因で死亡し、そして2人は疾患なしに生存している。残った17人のQRT-PCR陰性患者のうち、1人は、5ヶ月で疾患再発を患い、そして本研究終了時までに死亡し、5人は他の原因で
死亡し、そして11人は生存しつづけ、そして疾患不含である(表7)。迅速QRT-PCRアッセイを用いると、疾患再発を予測する感度および特異性は、それぞれ90%および80%であり、そしてコホート中の患者の83%は、正しく分類された。図10は、QRT-PCR陽性および陰
性患者に関するKaplan-Meier疾患不含生存曲線を示す。QRT-PCR陰性および陽性であった
患者の生存は、5年時で、それぞれ94%および20%であった。これらの2群の生存関数は有意に異なった(p=0.001、ログランク検定)。
【0115】
【表7】
【0116】
[0129]疾患不含生存に比例ハザードモデルを用いると、CEA発現が1単位増加する相対リスク(RR)は、1.52(1.11〜2.09、p=0.027)であり、そして0.183より大きいCEA発現を有する相対リスクは、0.183以下の、もしくはそれと同等のCEA発現に比較して、3.78(1.34〜10.7、p=0.0007)であった。
【0117】
新鮮組織解析:
[0130]食道癌または良性食道障害の最小侵襲性病期分類を受けた患者由来のリンパ節の新鮮凍結切片を解析した。良性症例由来の11件のリンパ節では、迅速QRT-PCRは、2つのリンパ節のみで、非常に低レベルのCEA発現を検出した(患者8および11、図11)。良性症例におけるこの低レベルは、おそらく、バックグラウンド異所性CEA発現に相当した。良
性節いずれかのCEA発現の最高レベルは、小病巣の腫瘍の関与しかない陽性節の最低発現
より34倍低かった(図11)。
【0118】
[0131]食道癌の12人の患者由来の26件のリンパ節のうち、12件(6人の患者)が、最
終的に、最終的な病理で陽性であることが示された。しかし、これらのリンパ節のうち2
つ(2人の患者)では、手術中凍結切片解析は陰性であり、そして手術後、N1状態と決定
された。迅速QRT-PCRは、これらの2つの節で、CEA発現レベルが組織学的に陽性である節
の範囲にあることを示した(患者18および19、図11)。組織学的に節陰性である食道癌を有する6人の患者では、1人のみが迅速QRT-PCRによりCEA発現増加と認められる単一の節を有した(患者15、図11)。この患者は、16.5ヶ月の追跡調査時、食道癌の臨床的再発を有した。
【0119】
[0132]各実行の較正試料の解析によって、13件の別個の実行に渡り、デルタCt値の標準偏差は0.14サイクルであることが明らかになった(相対発現測定の〜10%標準偏差)。さらに、QRT-PCRは、40サイクルの実行すべてに関して、およそ25分間を必要とした。7分間のRNA単離時間と合わせて、全アッセイにはほぼ30分間かかる。したがって、これは非
常に迅速でそして再現可能なアッセイである。
【0120】
考察:
[0133]多くの悪性腫瘍では、食道癌同様、TNM病期分類が、最適な予後情報を生じる
。節関与の欠如は、病変がより限局されていることと関連し、外科的切除のみで治癒が得られる可能性があることを示唆する。しかし、節転移は、原発腫瘍の部位を越えて広がる腫瘍の指標であり、そしてこうしたものとして、全身性治療を必要とする。食道癌における化学療法の役割には議論の余地があるままであるが、いくつかの試験は、手術前化学療法の利点を示す傾向を示している。このアプローチの1つの利点は、非常に病的な外科処
置後に治療を受けた場合に患者が化学療法プロトコルを完了するであろうよりも、より多くの患者が化学療法プロトコルを完了可能であることである。進行中の見込み無作為臨床試験は、近い将来に、食道癌患者における手術前化学療法の有用性を解明するはずである。病理分類に最小侵襲性外科的アプローチが出現したことで、切除前に病期分類し、そして適切なときに手術前化学療法を提供する可能性が存在する。したがって、治癒的切除を試みる前に、節病期を正確に決定することが、食道癌患者の意思決定過程に非常に重要になる可能性がある。
【0121】
[0134]現在、手術中節病期分類は、凍結切片作成およびH&E染色によって行われる。この方法論は、ホルマリン固定しH&E染色した組織検査のゴールド標準と、少なくとも93%相関するが、どちらの方法も重大な限界に苦しむ。具体的には、組織学的に節陰性である食道癌患者の30〜50%が、潜在的に治癒可能な切除を受けたにもかかわらず、疾患再発を患う。この発見は、慣用的方法論に固有の、試料採取の誤りと共に、微小転移を検出する感度の欠如による可能性が最も高い。1つまたは2つの4μm切片のみを研究し、そして各節の大部分は検査しないままであるため、単一腫瘍細胞または細胞の小病巣は、容易に見過ごされる。リンパ節の連続切片作成は、試料採取の誤りを減少させ、そしてしたがってこの限界を最小限にすることが可能である。例えば、乳癌に関する研究では、リンパ節の連続切片作成は、免疫組織化学と組み合わせて、日常的な組織病理学的評価では陰性であった節のさらに10〜23%の病期上昇を導いた。しかし、この方法は、各症例からの多くのリンパ節の連続切片を作成するのに伴う時間および労働が多大であるため、日常的には行われない。
【0122】
[0135]ここ10年で、微小転移検出の感度を改善する試みの中、多くの研究が、リンパ節において腫瘍関連mRNAを検出するRT-PCRを用いてきた。いくつかの種類の癌に関する研究によって、RT-PCRが合理的な予後指標であることが報告されたが、にもかかわらず、RT-PCRは臨床実施に向かう道を進んでいない。この主な理由は、劣った特異性(40〜60%)、癌でない患者の対照節における偽陽性結果、および多施設試験のための標準化されたア
ッセイの欠如である。他の研究では、RT-PCRの定量的アプローチ(QRT-PCR)が、バック
グラウンドまたは異所性遺伝子発現による偽陽性を克服可能であり、そして疾患再発を予測する特異性を増加させることが可能であると示された。Godfrey TE, Raja S, Finkelstein SD, Kelly LA, Gooding W, Luketich JD. Quantitative RT-PCR Predicts Disease Recurrence in lymph Node-Negative Esophagus Cancer Patients. Proceedings from the
2001 Annual Meeting of the American Association of Cancer Reseachers 42. 3-1-2001。しかし、この研究に用いた技術のため、RNA単離およびRT-PCRアッセイは、完了まで4〜6時間を必要とする。その結果、この方法は、手術後にしか利用可能でない。手術中QRT-PCRは、手術中凍結切片解析に匹敵する時間枠(およそ20〜30分間)で結果を得るのに十分に迅速に行われる場合のみ、現実的である可能性がある。迅速RNA単離および逆転写プ
ロトコルと共に、これは、Roche Light Cycler(登録商標)またはCepheid Smart Cycler(登録商標)で得ることが可能なものなどの、非常に迅速なPCR傾斜時間を必要とする。
本明細書においては、比較的使用しやすく(ガラスキャピラリーなし)、各反応部位が独立に制御され、四色マルチプレックス化が利用可能であり、そして自動化した試料調製およびQRT-PCRの潜在能力があるため、Cepheid装置を用いた。この装置を用いると、OCT包
埋組織切片に対して、RNA抽出から結果まで、QRT-PCRアッセイを30分間以内に実行可能であることが示された。本明細書に報告するプロトコルを修正して、QRT-PCRを18.5分間で
実行することが可能である(データ未提示)。我々の迅速アッセイを用いて、患者追跡調査中央値36ヶ月でのアーカイブ組織由来のRNAの既往分析を行った。データによって、迅
速アッセイが、それぞれ90%および80%の感度および特異性で疾患再発を予測することが示された。このデータは、より遅く、そしてより伝統的である、TaqManに基づく解析(90%および90%)に匹敵した。新鮮組織解析において、30分間未満で、良性対照節から、組織学的に陽性である節を、すべて区別することが可能であった。CEAの発現レベルを用い
て、病理学的に陰性である節を、良性節または病理学的に陽性である節いずれかと似た発現パターンを有すると特徴付けることもまた、可能であった。
【0123】
[0136]このデータから、迅速QRT-PCRは、少なくとも、固定組織検査と同程度の感度
であり、そして手術中凍結切片検査より高感度であるようである。これは、手術中検査中、保留されたか、または誤診された2つの陽性節によって立証される。このデータを確認
するため、病理学的病期分類と結果を相関させる目的で、はるかに多数の新鮮リンパ節の研究を計画する。データセットが成熟するにつれ、QRT-PCRは再発と相関するであろう。
これは、アーカイブ組織の切り捨て値と異なる可能性があるため、新鮮組織データセットにおける最適CEA発現切り捨て値の決定を可能にするであろう。予備的新鮮組織データか
ら、そしてアーカイブ組織解析には固有の問題があるため、特異性および陽性予測値が新鮮組織の解析で改善される可能性がある。
【0124】
[0137]手術中QRT-PCRを実験室向けから臨床向けにするには、この技術をさらに発展
させることが必要であろう。臨床設定では、QRT-PCRアッセイは、単純であって、そして
操作が最小限である自動化プロセスでなければならない。この目的に向け、自動化解析のための、カートリッジに基づくプロセッサーの開発が目標である。最終製品は、RNA単離
および定量的RT-PCRセットアップの両方が可能な、単回使用の使い捨てカートリッジであろうと想定される。迅速サイクリングのリアルタイム定量的サーマルサイクラーと一体化すると、この系は、凍結切片からのQRT-PCR結果を、25分間未満で提供するであろう。そ
の開発に際して、そして新規でそして正確なマーカーの同定に際して、この技術はまた、外科的限界の分子解析と共に、細針吸引細胞診断に付属した分子解析にも使用可能である。したがって、微小転移および切除完全性に関する分子情報が、初めて、手術中、外科医に利用可能になった。さらに、自動化および再現可能QRT-PCR形式が利用可能になると、
標準化多施設試験で評価しようとする、QRT-PCRの真の分子診断的価値が可能になるであ
ろう。
【0125】
実施例6 マルチプレックス化ポリメラーゼ連鎖反応の新規方法の説明
序論
[0138]ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の多大な能力および柔軟性にもかかわらず、こ
の技術は、なかなか臨床診断実験室に適用可能にならなかった。大部分、これは、PCRプ
ロセス(試料プロセシングから反応セットアップおよびデータ解析まで)が、労働集約的であり、汚染しやすく、そして技術的に非常に過酷であるという事実のためである。その結果、偽陽性および偽陰性結果が頻繁であり、そしてこれが臨床設定の主な懸念を構成する。そうであってもなお、大部分の主要な臨床診断実験室は、ウイルス検出および白血病患者の微小残存病変検出などの多様な適用に、内部認証した、PCRに基づく少数のアッセ
イを行っている。PCR法を単純化し、そして可能な場合自動化する、技術的進歩は、これ
らのアッセイの再現性および信頼性を非常に増進するであろう。
【0126】
[0139]1つのこうした技術的進歩である、迅速サイクリング定量的PCR装置の導入は、分子試験のための新たな潜在的使用の道を開いている。30分間未満でPCRアッセイを完了
する能力は、現在、妊娠女性におけるB群連鎖球菌および免疫無防備状態の患者における
院内感染病原体に関する試験など、時間に依存するポイント・オブ・ケア分子診断の実行を可能にしている。癌診断において、こうした迅速試験は、患者がまだ診療所にいる間に済む、コア生検または細針吸引(FNA)に関する原発癌診断、化学療法に対する反応を決
定する、手術時点での腫瘍プロファイリング、並びに疾患の度合いおよび治療オプションを決定する、リンパ節および外科的限界の手術中試験の可能性を提示する。例えば、逆転写-PCR(RT-PCR)は、多くの研究において、そうでなければ節陰性と病期分類される癌患者のリンパ節において、癌細胞を検出する感度を改善することが示されてきている。これらの患者は、疾患再発に関してより高いリスクがあり、そしてより攻撃的な療法から利益を得る可能性がある。例えば肺癌の場合、縦隔リンパ節関与を持つ患者は、術前補助化学療法から利益を得る可能性があるが、大きな外科的介入前に、リンパ節状態を決定する必要がある。これは、最小限に侵襲性である手術を通じて、または超音波誘導FNAを通じて
さえ、達成可能である。正確な手術中リンパ節診断は、陰性患者が完全な腫瘍切除を経るのを可能にし、一方で、節陽性患者において手術を停止して化学療法の投与を可能にするであろう。乳癌または黒色腫の患者にも同様のシナリオが存在する。どちらの疾患でも、前哨リンパ節陽性の結果、完全リンパ節切開を行う。
【0127】
[0140]現在の手術中リンパ節解析法は、それほど高感度ではないため(乳癌で〜70%(Weiser MR, Montgomery LL, Susnik B, Tan LK, Borgen PI, Cody HS. Is routine intraoperative frozen-section examination of sentinel lymph nodes in breast cancer worthwhile? Ann Surg Oncol. 2000;7:651-5)そして黒色腫で47%(Fitzgerald RC, Triadafilopoulos G. Recent developments in the molecular characterization of Barret's esophagus. Dig. Dis. 1998;16:63-80.))、多くの患者は、手術完了後まで、
リンパ節陽性と診断されない。その後、これらの患者は、第二の外科処置を経て、リンパ節切開を完了する。より高感度な手術中リンパ節評価は、これらの患者には明らかに利益があるであろう。本実施例は、迅速PCRに基づくアッセイの1つの潜在的使用のみを例示するが、より多くが、近い将来、現れる可能性がある。しかし、再び、これらの刺激的な可能性が臨床診断実験室で実用的になるためには、PCR技術の進歩が必要である。
【0128】
[0141]蛍光に基づくPCRおよびRT-PCRが最近導入されたため、PCR後のプロセシングおよびゲル電気泳動の必要性が排除されたことによって、データ解析工程が非常に単純化された。この技術の付加的利点には、アッセイ汚染の減少(PCR試験管が決して開かれない
ため)そしてもちろん、非常に正確で、そして再現性がある定量的結果を得る能力が含まれる。定量化は、多くの潜在的な診断試験の臨床的有用性を増進するだけでなく、外部品質管理標準を使用して、試験間のアッセイ感度および再現性を検証する能力も提供する。テンプレートDNAまたはRNAの品質および量を確認する内因性対照配列の増幅、並びに陰性
結果の場合に、アッセイが働いたことを検証する内部陽性対照を含む、内部品質管理もまた必要である。これらの「内部」対照を、別個の試験管で、実際にセットアップ可能である一方、PCR産物を区別するため、異なる色の蛍光生成プローブを利用して、同一PCR試験管中で、すべてのアッセイを実行する(マルチプレックス化する)ことが可能であれば、好適であろう。不運なことに、標準的マルチプレックスPCRは、反応開始時に増幅標的が
同様の存在量で存在しない場合、うまく働かず、そして広い範囲の標的濃度に渡って正確な定量性を維持するのは、特に困難である。定量的マルチプレックスの機能的範囲は、PCR反応中、より豊富な遺伝子のPCRプライマー濃度を、大幅に制限することによって、ある程度改善可能である。このアプローチは、標準的RTPCRアッセイにはかなりうまく働くが
、プライマー制限の概念は、増幅を維持するのに、より高いプライマー濃度が必要な、迅速PCRアッセイの必要条件には反する。ここで、シングルプレックスPCRと同じ感度および定量的機能範囲を有し、そしてまた迅速RT-PCR反応でも実行可能な、マルチプレックスPCRの方法を記載する。本明細書において、この方法論は多数の異なる増幅標的に適用可能
であり、そして合成オリゴヌクレオチド模倣体(mimic)の添加によって、内部管理迅速
マルチプレックスQRT-PCRが提供されることが立証される。癌診断法におけるこの方法の
価値は、ここで、食道癌患者および黒色腫患者のリンパ節における腫瘍細胞の検出によって、立証される。この手術中迅速QRT-PCRは、最終的に、より正確な手術中癌病期分類に
使用可能であり、そしてしたがって、癌患者のより正確で、そして時宜を得た治療を生じるであろう。
【0129】
材料および方法
[0142]組織およびRNA単離:ピッツバーグ大学IRB認可プロトコルを通じて、すべての患者組織試料を得た。食道癌患者由来のリンパ節、および良性節(逆流防止法を受けた患者から、付随的に得た)は、液体窒素中で瞬間凍結し、そして製造者のプロトコルにしたがって、RNeasyミニキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を用いてRNAを抽出
した。黒色腫患者由来の組織学的に陽性のリンパ節および陰性のリンパ節を、ホルマリン固定しそしてパラフィン包埋したアーカイブ試料として得て、そして先に記載されるプロトコル(Godfrey TE, Kim SH, Chavira M, Ruff DW, Warren RS, Gray JW, Jensen RH. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction. J Mol Diagn. 2000;2:84-91)を用いて、RNAを抽出した。
【0130】
[0143]迅速PCRアッセイの開発:テンプレートとしてヒト結腸総RNA(Ambion、テキサス州オースティン)から合成したcDNAを用いて、まず、迅速PCRを試験した。β-グルクロニダーゼ(β-gus)および癌胎児抗原(CEA)のPCRプライマーおよびプローブが、それぞれ81塩基対および77塩基対のアンプリコンサイズで、cDNAに特異的であるように設計した。CEAの既知の偽遺伝子を避け、そして200 ngのゲノムDNAに対する対照PCRは陰性であっ
た。800 nmol/lの各プライマー、200 nmol/lの各プローブ(プライマーおよびプローブ配列は表8に示す)およびPCRマスターミックス[1×白金Taq反応緩衝液、4.5 mmol/l MgCl2、各300μmol/lのdNTPおよび0.09 U/μl白金Taq DNAポリメラーゼ(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド)]を含有する25μl反応中で、PCRを行った。Cepheid SmartcyclerTM(Cepheid、カリフォルニア州サニーベール)上でアッセイを行い、そしてSmartcyclerソフトウェアv1.2bで解析した。単一cDNA投入量に関して、10、7、5、2および1秒間のPCR変性(95℃)時間、並びに30、15、10、7、5および3秒間のアニーリング/伸長(64℃)時間をまず試験した。その後、最適迅速PCRサイクリング条件(1秒間変性後、6
秒間アニーリング/伸長)を用いて、10秒間変性および30秒間アニーリング/伸長のより慣用的なサイクリング時間の迅速PCRプロトコルと比較した。これを連続希釈CEA標準曲線に対して行って、広い範囲のCEA投入量に渡る、迅速PCRプロトコルのいかなる影響も決定した。CEA cDNAは、19から20サイクルの間の、一定のβ-gusサイクル閾値(Ct)を生じることが実験的に決定された量のβ-gusテンプレート(精製β-gus PCR産物)の一定のバッ
クグラウンド中で連続希釈した(8×)。同様の実験を行って、チロシナーゼアッセイを
最適化し、そして認証した。
【0131】
【表8】
【0132】
[0144]迅速逆転写アッセイの開発:RT-PCRのRNA投入量は、A549肺腺癌細胞株から得
た400 ngおよび転移性食道腺癌のリンパ節由来の25 ngの混合物であった。上述のPCRマスターミックスに加えて、60 nmol/l β-gusおよびCEA RTプライマー、1μl SensiScript
逆転写酵素(Qiagen)および0.8 U/μl RNase阻害剤を含有する25μl中で、β-gusおよ
びCEA mRNAに関して、RT-PCR反応を行った。20.5μl体積中、48℃でRT反応を行い、そし
てRT後、70℃に維持している間に、4.5μl体積で、PCRプライマーおよびプローブを反応
混合物に添加した。これは、PCR特異性および感度を維持するために行った。30、10、7、5、3および2分間を用いてRTを試験して、感度の損失を伴わずにありうる最速のRTを決定
した。
【0133】
[0145]マルチプレックスPCRアッセイ:温度制御マルチプレックスにおいて、CEAおよびβ-gusに関するプライマーおよびプローブセット両方を反応混合物に添加した。しかし、この場合、β-gusプライマー(β-gus-80、400 nmol/l)を再設計して、60℃のTmを有するCEAプライマーに比較して、50℃のTmを有するようにした。1秒間変性し、アニーリングのため53℃に4秒間維持し、そして伸長および最適読み取り値のため、64℃に6秒間維持して(総アニーリング/伸長時間は10秒間)、PCRを行った。53℃アニーリング工程は、
β-gus増幅プロットが閾値に達した後(別個のシングルプレックス反応において、あらかじめ決定した)、1サイクル省き、そして続くサイクルは、最適迅速PCRシングルプレックス・アッセイにおけるように、64℃アニーリング/伸長のみで行った。両遺伝子の800 nMプライマーを用い、そして我々の標準的β-gus-81(Tm60℃)プライマーセットを利用し
て、単純なマルチプレックスを行った。迅速PCRにおけるβ-gus Ct値において、有意な増加(>1サイクル)を生じない最低の濃度と決定されたため、300 nmol/l β-gus-81プライマーを用いて、慣用的なプライマー制限マルチプレックスを行った。慣用的方法論を用
いて、64℃10秒間、その後、残るサイクルでは6秒間に変えたアニーリング/伸長時間で
、最初の20のPCRサイクルを行った。これは、温度制御マルチプレックスで用いる条件を
よりよくシミュレートして、そして方法を直接比較するのを可能にするために行った。シングルプレックス反応と比較して、正確さおよび機能範囲を決定するため、CEA cDNAの連続希釈(上述のとおり)に対して、すべての3つのマルチプレックス法を試験した。
【0134】
[0146]内部陽性対照:内部陽性対照(IPC)は、標的遺伝子(CEAまたはチロシナーゼ)と同一のプライマー配列を有するが、異なる内部プローブ配列を有するDNAオリゴヌク
レオチドである(表9)。必要な場合、ウラシルDNAグリコシラーゼを用いて、非常に濃縮された模倣体での汚染を制御可能であるように、チミンの代わりにウラシルを用いて、IPCの選択した部位を合成した。IPCは、36〜37サイクルのCt値を生じるように実験的に決定した量で、反応マスターミックスに添加した。その後、200 nmol/lの濃度で内部対照(IC)プローブの添加を伴い、プライマー制限マルチプレックス(二重反応)に関して上述
したように、迅速三重アッセイを行った。
【0135】
【表9】
【0136】
[0147]リンパ節アッセイ:迅速マルチプレックス化QRT-PCR技術の有用性を立証する
ため、この技術を用いて、食道癌患者および黒色腫患者由来の組織学的に陽性のリンパ節および陰性のリンパ節を試験した。三重QRT-PCR(β-gus、CEAまたはチロシナーゼおよび適切な模倣体)を用いて、温度制御プライマー制限技術で、リンパ節RNAを解析した。逆
転写は、5分間RTの後、PCRプライマーを添加するため、70℃で30秒間維持して、上述のように行った。マルチプレックス反応において、適切なサイクルで温度変化を開始することが可能であるように、先にシングルプレックス実行で、β-gusのサイクル閾値を決定した。
【0137】
結果
[0148]迅速PCRの開発:マルチプレックス反応で用いる前に、シングルプレックス・
アッセイにおいて、すべての遺伝子に関する迅速PCRアッセイを別個に開発した。迅速PCRアッセイの開発のため、変性時間(95℃で10、7、5、2、1秒間)およびアニーリング/伸長時間(64℃で30、15、13、10、7、6、3秒間)両方を減少させる影響を評価して、Ct値
において観察されるいかなる変化も決定した。変性時間を試験するため、アニーリング/伸長時間を30秒間で一定に維持し、そしてアニーリング/伸長時間を試験するため、変性時間を10秒間で一定に維持した。変性時間を1秒間に減少しても、CEAまたはβ-gus遺伝子いずれに関しても、Ct値に対して影響はなかった(図12、パネルA)。同様に、アニーリ
ング/伸長時間を減少しても、5秒間までは、どちらの遺伝子に関しても、Ct値に対する
影響は最小限でしかなかった(〜0.5サイクル)が、3秒間のアニーリング/伸長は、30秒間のアニーリング/伸長対照と比較して、CEAに関しては1.1サイクル、そしてβ-gusに関しては1.8サイクルのCt増加が生じた(図12、パネルB)。したがって、さらなる試験のため、1秒間の変性および6秒間のアニーリング伸長を選択した。広い範囲のCEA投入量に渡
る、感度および定量性に対する迅速PCRアッセイの影響を評価するため、β-gus PCR標的
の一定のバックグラウンドにおける、CEA cDNAの連続希釈標準曲線を生成した。この標準曲線を用いて、10秒間の変性および30秒間のアニーリング/伸長の、より慣用的なPCRと
、迅速アッセイを比較した(図13)。迅速アッセイは、CEAに関しては1.6サイクル、そしてβ-gusに関しては0.2サイクルのCt値の平均増加を生じた。これらの増加は、逐次、一
定であるようであり、そしてその結果、迅速アッセイの定量的能力は、より遅いPCRのも
のに等しい。迅速アッセイを用いて、40サイクルを実行する、総PCR時間は、より遅いPCRプロトコルの48分間に対して、15分間であった。
【0138】
[0149]迅速逆転写:RT-PCRによる遺伝子発現の迅速解析は、アッセイの逆転写構成要素およびPCR構成要素がどちらも迅速であることを必要とする。このため、逆転写時間を30分間から10、7、5、3および2分間に減少させる影響(図12、パネルC)を評価した。このアッセイでは、PCR時間は、2秒間変性および15秒間アニーリング/伸長で一定に維持した。結果は、30分間の逆転写と比較した際、5分間の逆転写で、β-gusおよびCEAに関して、それぞれわずか1.1サイクルおよび0.6サイクル、そして2分間の逆転写で1.1サイクルおよび1.8サイクルのCt値の増加を示した。これらの相違はいずれも、個々の時点の比較では
有意でなかったが、予期されるであろうように、時間の減少と共にCtが増加する、明らかな傾向があるようである。4つの異なるRTおよびPCRパラメーターの組み合わせを用いて、RTおよびPCR時間両方を減少させた際の、アッセイ感度に対する影響を組み合わせて評価
した(図14)。再び、RT-PCRプロトコルがより短いと、Ctがより高くなる傾向が観察されたが、20分間の総RT-PCR時間(5分間RTと1/6 PCR)でも、38分間の総RT-PCR(10分間RT
、10/15 PCR)と比較した際、Ct相違は、両方の遺伝子に関して、わずか1.4サイクルで
あった。
【0139】
[0150]マルチプレックスPCRアッセイ:迅速PCR開発で用いたβ-gus一定のバックグラウンドにおいて、同一希釈シリーズのCEAに対して、異なるマルチプレックス化法の試験
を行った。この希釈シリーズは、およそ12サイクルに渡り、これは、曲線の最初の点および最後の点の間の出発CEA存在量の4,096倍の相違に対応した(図15、パネルA)。希釈シ
リーズを用いて、単純マルチプレックスPCRでの各遺伝子に関するシングルプレックス反
応(図15、パネルC)、慣用的プライマー制限マルチプレックスPCR(図15、パネルD)お
よび我々の温度制御プライマー制限マルチプレックスPCR(図15、パネルB)を比較した。単純なマルチプレックス反応を、CEAおよびβ-gus両方に関して行った際、CEAでは、シリーズの5つの点のうち、最初の3点のみが閾値に達したが、より豊富なβ-gusに関する反応は、一貫して増幅した(未提示)。慣用的なプライマー制限反応に関しては、同様の結果が観察されたが、温度制御プライマー制限反応は、シングルプレックス反応とほぼ同一の結果を生じた。
【0140】
[0151]おそらく、CEA濃度の範囲より適切なのは、異なる技術で達成可能な、デルタCt(より豊富なβ-gus遺伝子およびCEA標的遺伝子間のCt値の相違)の範囲であろう。これらの実験では、β-gus Ctは、19から20サイクルの間で、すべてのアッセイに関して一定
であり、そしてしたがって、シングルプレックス・アッセイでのこの希釈シリーズにおける最大デルタCtは、ほぼ15サイクルであった(存在量は〜32,000倍の相違)。図16は、3
つのマルチプレックス化法各々と共に、シングルプレックス・データに関してプロットしたデルタCtを示す。単純マルチプレックスにおいて、シリーズの第3の点は、シングルプ
レックス反応における同じ点の29.0と比較して、38.5サイクルのCt値を有したが、続く点は、増幅に完全に失敗した。したがって、単純マルチプレックスは、定量性の欠如を示し、真のデルタCt値は〜8サイクルであり、それと共に、非常に限定された機能範囲を示し
た。慣用的なプライマー制限マルチプレックスは、少し優れて機能した(第3の希釈点の
デルタCtは、シングルプレックスより4.0サイクル高かった)が、再び、希釈点4および5
は増幅に失敗した。したがって、標準的PCR反応における実行可能性にもかかわらず、慣
用的なプライマー制限は、プライマー濃度の増加が必要である迅速アッセイには受け入れ
にくいようである。相対的に、温度制御マルチプレックスは、希釈シリーズのすべての点で増幅し、そして最後の点までデルタCtに相違は観察されなかった。これらの結果は明らかに、温度制御プライマー制限が、迅速QPCRアッセイにおいて、シングルプレックス反応に匹敵するが、すべての他のマルチプレックス化アプローチは不適切なままであったことを立証する。さらに、この技術は、チロシナーゼなどの他の標的に利用されてきており、そして該方法は、新規標的に容易に適用可能であるようである。
【0141】
[0152]迅速マルチプレックスRT-PCRを用いたリンパ節解析:リンパ節解析のため、マルチプレックス反応に、CEAおよびチロシナーゼの内部陽性対照模倣体を含んだ。この内
部制御迅速RT-PCRマルチプレックスを用いて、食道癌患者および黒色腫患者由来のリンパ節と共に、癌でない患者由来の良性リンパ節を評価した。3つの組織学的に陽性である食
道癌リンパ節において、高レベルのCEA発現を検出した。非癌患者由来のリンパ節におい
て、5つの節のうち2つは検出可能なレベルのCEA発現がなく、そして残る3つは低レベルのCEA発現を有した(図17)。さらに、CEAシグナルが検出された場合、内部陽性対照は増幅されなかった(図18、パネルA)。しかし、CEA陰性試料では、CEA内部陽性対照の増幅が
あり、陰性結果が、実際にCEA発現の欠如のためであり、そしてCEA PCRが失敗したためでないことが確認された(図18、パネルB)。癌マーカーとしてチロシナーゼmRNAを用いて
、黒色腫リンパ節に関して同様の結果を得た。黒色腫に関して組織学的に陽性である5つ
のリンパ節、および癌のいかなる証拠もない5つのリンパ節を試験した。組織学的に陽性
の節すべてで高レベルのチロシナーゼが検出され、そして5つの陰性節のわずか1つで非常に低レベルのチロシナーゼが検出された(データ未提示)。陽性節において、チロシナーゼの発現は、β-gusの発現より高く、そしてその結果、チロシナーゼ遺伝子増幅のみが見られた。5つの陰性節すべてで、β-gusおよびIPCの増幅が見られた(図18、パネルCおよ
びD)。
【0142】
考察
[0153]蛍光に基づくリアルタイム定量化が可能な迅速サイクリングPCR装置の導入に
よって、時間が制限されるか、あるいは迅速な結果が患者にとって心理的にまたは物理的に有益であろう臨床的状況における分子診断アッセイの適用にドアが開かれた。迅速分子アッセイが好適である可能性がある1つの場合は、黒色腫、乳癌および肺癌などの悪性腫
瘍の、手術中リンパ節病期分類においてである。凍結組織切片の慣用的解析は非常に迅速である(大部分の施設でおよそ20分間)が、この技術が腫瘍の小病巣を検出する感度は、比較的低い。さらに、組織学的検査によって、リンパ節陰性と病期分類された患者の多くは、おそらく、日常的な検査では見逃された、潜在性で散在性の腫瘍細胞があった結果として、疾患の再発を患う。RT-PCR、そして特に定量的RT-PCRが、これらの潜在性細胞を検出し、そして再発の高リスクにある患者を同定することが可能であるという、多くの証拠がある。この情報を手術中に得ることが可能であれば、外科医は、アジュバント療法の必要性および切除度合いに関して、より情報に基づいた治療決定を行うことが可能であろう。
【0143】
[0154]手術中の時間枠内で、QRT-PCRが実行可能であり、そしてこの技術は、凍結切
片作成に勝る可能性があり、そして少なくともホルマリン固定組織像に匹敵する可能性があることが示されている。本実施例において、これらの迅速QRT-PCRプロトコルを試験し
て、そしてこの完全アッセイが、20分間未満で実行可能であることを示す。この時間枠は手術中試験には適切であるが、迅速QRT-PCRを臨床診断設定で使用可能と見なすことが可
能になる前になお、取り組む必要がある、いくつかの実践上のそして技術的ハードルがある。アッセイは、多施設試験において、施設間でのデータ比較を可能にするため、標準化しなければならず、操作者に依存する変動および混入を排除するため、自動化しなければならず(RNA単離を含む)、そして内部内因性および外因性陽性対照を含め、アッセイの
すべての側面に関して管理されていなければならないと考えられる。
【0144】
[0155]これらの必要条件の後者、品質管理は、迅速QRT-PCRへのマルチプレックス化
の取り込みを必要とする。RNAが存在し、そして量および品質が適切であることを検証す
る内因性対照遺伝子、並びに標的遺伝子発現に関して陰性である試料において、標的遺伝子QRT-PCRが適切な感度で機能したことを検証する外因性陽性対照の、少なくとも2つの対照反応が必要である。これらの2つの対照を総合して、陰性結果が真に陰性であり、そし
てRT-PCRが失敗した結果でないことを確実にする。したがって、少なくとも三重PCR反応
が必要である。不運なことに、マルチプレックスPCRにおいて定量性を維持するのは、標
準的な遅いPCRアッセイにおいてさえ、容易ではなかった。これは、1つのPCR産物(最も
豊富な標的遺伝子由来)の蓄積が、他の標的の増幅を阻害するためである。
【0145】
[0156]まず、この阻害は、シングルプレックス反応と比較して、より高いサイクル数へのサイクル閾値のシフトとして、そして総蛍光の低下として見られる(図15パネルA、CおよびD)。しかし、2つの遺伝子の存在量の相違があまりにも大きい場合、より豊富でない遺伝子は、増幅に完全に失敗するであろう。したがって、典型的なマルチプレックス反応は定量性を欠き、そして劣った機能範囲に苦しむ。より豊富でない標的配列の阻害は、おそらく、DNA合成中に添加されるヌクレオチドから遊離するピロリン酸の蓄積、およびPCR産物の蓄積によるTaq酵素の阻害/隔離(sequestration)を含む、いくつかの要因の結果であろう。この阻害を克服する1つの方法は、シグナルが検出された直後に、そしてピ
ロリン酸およびPCR産物が阻害を引き起こすのに十分に蓄積する前に、より豊富な遺伝子
の増幅を何らかの形で停止することである。このための慣用法は、より豊富な標的遺伝子のプライマー濃度を制限して、阻害が起こりうる前にプライマーを使い切ってしまい、そしてその特定の標的のPCRが停止するようにすることに頼る。この方法は、遅いPCRアッセイではかなりよく働くが、迅速アッセイでプライマー濃度を減少すると、より低いPCR効
率が生じ、そして最終的に、PCRが完全に失敗する。我々の研究では、β-gusに関して、
サイクル閾値を変化させない最低のプライマー濃度を決定し、そして我々の迅速PCRプロ
トコルを用いて、慣用的なプライマー制限アッセイにおいて試験した。これは、プライマー制限を伴わないマルチプレックス化より、わずかに優れていることが立証されたが、定量性および機能範囲は、シングルプレックス反応に比較して、なお劣っていた。本明細書に記載する方法においては、より豊富な種(β-gus)のプライマーの融点(Tm)が、標的遺伝子(CEAまたはチロシナーゼ)のものより低い温度で機能するように設計する。PCR自体は二段階で行う。PCRの第一の段階のアニーリング工程は、より豊富な種の増幅曲線が
検出閾値に達するまで、比較的低いアニーリング温度(本実施例では53℃)で行う。これに続いて、PCRの第二の段階は、低温プライマーのTmより少なくとも10℃高いアニーリン
グ温度(本実施例では64℃)で行う。第二の段階がより高い温度であるため、低温β-gus
PCRプライマーの結合状態が、一本鎖状態を好むようにシフトして、β-gusの増幅を効率的に終結しつつ、CEA標的の増幅を阻害されないまま続ける。したがって、より豊富な対
照遺伝子の迅速PCRに必要な、高いプライマー濃度を維持し、そしてなお、標的遺伝子の
広い機能範囲に渡る定量性を維持することが可能である。
【0146】
[0157]迅速マルチプレックス化技術を開発するのに加え、標的遺伝子発現に関して陰性である試料において、適切なRT-PCR感度が達成されたのを証明するのに使用可能な、内部陽性対照模倣体を取り入れる。この模倣体は、標的遺伝子と同じプライマーを利用し、そしてしたがって、これらのオリゴヌクレオチドの機能を管理する。DNA模倣体は、逆転
写プライマー部位もまた含む、RNA模倣体で置き換えることが可能である。これは、その
後、標的遺伝子増幅のRT工程およびPCR工程両方に関して管理するであろう。35サイクル
より大きいCt値を生じるのに十分に低い濃度で、この模倣体を試料に添加することによって、RNA単離およびRT-PCR反応が働くだけでなく、存在するならば、非常に低い存在量の
標的遺伝子を検出するのに十分によく働くことを確信することが可能である。標的遺伝子が高発現されている場合、内部模倣体が増幅に失敗する可能性がある。模倣体は、陰性反
応の対照として意図されるのみであるため、これは許容しうる。
【0147】
[0158]したがって、癌患者のリンパ節における転移性腫瘍細胞を検出するための迅速QRT-PCRの潜在的な使用が示されている。これは特に刺激的な迅速分子診断学の使用であ
るが、1つの潜在的な適用でしかない。新たな癌マーカーが発展するにつれて、迅速QRT-PCRがまた、手術限界の解析のため手術中にも使用可能であり、生検または細針吸引の解析のため、あるいは化学療法またはチロシンキナーゼ阻害剤などの新規生物療法に対する反応を予測するための原発腫瘍の解析のため、診療所においても使用可能である可能性もある。温度管理マルチプレックスに必要な二重温度PCRサイクリングは、反応時間全体に、
およそ2分間を付加するが、完全なマルチプレックス化QRT-PCRアッセイは、なお、22分間未満で実行可能である。SmartCyclerTMまたはその将来の世代に、外部冷却装置を付加す
ると、さらに3〜4分間を節約可能であると考えられる。また、本研究では、温度変化を開始する必要があるサイクル数をあらかじめ決定した。最終的には、装置のソフトウェアに重要でない修正を加え、内因性対照遺伝子蛍光が閾値に達した後、この修正によって、自動的にPCRアニーリング温度が増加されるであろう。すべてのPCR部位は独立に制御されるため、これは、未知の量の出発RNAテンプレートを含む多数の反応が、同時に実行される
ことを可能にするであろう。最後に、迅速QRT-PCRは、現在、臨床設定で実行可能になっ
てきている。現在開発中の技術を用いると、RNA単離もまた、自動化プロセスで、非常に
迅速に実行可能である。この目的に向けて、CepheidのGenXpertTMなどの特定の完全統合RNA単離、逆転写および定量的PCR装置は、一連のプログラミング工程にしたがって、これ
らのプロセスすべてを自動化して、そして30分間未満で、QRT-PCR結果を提供するであろ
う。自動化試料プロセシング・プラットホームと、本明細書記載の迅速で内部管理されたマルチプレックス技術との組み合わせは、閉鎖環境で、正確でそしてさらに迅速な測定を可能にするであろう。この統合系の単純さおよび高感度は、癌診断における分子アッセイの多くの新たな適用を可能にするはずである。
【0148】
[0159]本出願に特定される多様な範囲の多くの値の使用は、別に示されない限り、言及される範囲内の最低値および最大値両方に、単語「約」が先行するように、およそのものとして言及される。この方式では、言及される範囲のわずかに上の変動および下の変動を用いて、該範囲内の値と実質的に同一の結果を達成することが可能である。また、これらの範囲の開示は、最低値および最大値の間のすべての値を含む、連続する範囲と意図される。
【0149】
本発明の態様例
(1) 一試験管RT-PCR法の感度および特異性を増加させる方法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して逆転写反応を行って、DNA試料を生じ;
(b)反応混合物に、PCRプライマーセットおよび熱安定性DNAポリメラーゼを含有するPCR試薬組成物を添加し;そして
(c)反応混合物に対して、PCR増幅を行う
工程を含む、前記方法。
(2) PCR増幅前に、PCR反応の第一のサイクル前または該サイクル中に除去される物理的バリアによって、反応容器中の反応混合物からPCR試薬組成物を分離し、それによってPCR試薬組成物を反応混合物に添加する、(1)の方法。
(3) 逆転写反応を約10分間未満行う、(1)の方法。
(4) 逆転写反応を約2分間行う、(1)の方法。
(5) 自動化した系でRT-PCR法を行い、そしてRT-PCR法で使用する前に試薬を保管しておく複数の区画を有するカートリッジ中に、RT-PCR法の試薬を保管して、ここで、自動化した系が、プログラムされた順序にしたがって、カートリッジから反応容器に試薬を添加する、(1)の方法。
(6) RT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行い;そして
(b)反応混合物に対して、PCR反応を行う
工程を含んでなる、前記方法。
(7) 逆転写反応を約2分間行う、(6)の方法。
(8) PCR反応が、PCR反応混合物中で、DNA試料に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、ここで、PCR増幅を第一の増幅段階および第二の増幅段階で行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが、変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、ここで、第二の増幅段階のPCR増幅を、第一の増幅段階のPCR増幅とは異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、(6)に記載の方法。
(9) 食道の転移化腺癌を迅速に検出する方法であって:
(a)前哨(sentinel)リンパ節から得られたRNAに対して、CEAに特異的な定量的RT-PCR法を行って;そして
(b)CEA発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する
工程を含む、前記方法。
(10) 手術中PCR法であって:
手術中に、患者から得られた組織試料に由来する核酸試料に対して行われるPCR法により、指標転写物発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する;工程を含む、前記方法。
(11) 決定工程の結果によって指示される方式で、手術を続ける
工程をさらに含む、(10)の方法。
(12) 組織試料が腫瘍バイオプシーであり、そしてPCR法が、過剰発現している場合に悪性度の指標となる指標転写物に特異的である、(10)の方法。
(13) 指標転写物がCEA転写物である、(12)の方法。
(14) PCR法が、PCR反応混合物中で、DNA試料に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、ここで、PCR増幅を第一の増幅段階および第二の増幅段階で行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、ここで、第二の増幅段階のPCR増幅を、第一の増幅段階のPCR増幅とは異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、(10)の方法。
(15) PCR反応が、第一段階および第二段階で、PCR反応混合物に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、前記反応混合物は、DNA試料、第一の有効なTmを有する第一のプライマーセットおよび第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のプライマーセットを含み、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、各PCRサイクルが変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、第一の増幅段階のアニーリング工程を、第二の増幅段階のアニーリング工程とは異なる温度で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、(10)の方法。
(16) PCR法が、複数のPCRサイクルを含むPCR増幅を、核酸試料、各プライマー濃度が少なくとも約400 nMであるプライマーセット、を含むPCR反応混合物に対して行う工程を含むPCR法であり、各PCRサイクルが変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、PCR増幅がβ-GUS特異的アンプリコン、18S rRNA特異的アンプリコン、チロシナーゼ特異的アンプリコンおよびCEA特異的アンプリコンの1つを生じる、(10)の方法。
(17) PCR法がRT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行って、DNA試料を生じ;
(b)反応混合物に、第一の有効なTmを有する第一のプライマーセット、第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のプライマーセット、および熱安定性DNAポリメラーゼを添加し;そして
(c)第一の増幅段階および第二の増幅段階で、反応混合物に対してPCR増幅を行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが約1秒間以下の変性工程、約10秒間未満のアニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な約10秒間未満の伸長工程を含み、ここで、第一の増幅段階のアニーリング工程を、第二の増幅段階のアニーリング工程より低い温度で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一の標的配列増幅および第二のプライマーセットによる第二の標的配列増幅の相対率を変調する
ここで、DNA試料において、第一の標的配列が、第二の標的配列より、少なくとも約30倍優勢であると予期される
工程を含む、(10)の方法。
(18) PCR法がRT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行い;
(b)反応混合物に対してPCR増幅を行う
工程を含む、(10)の方法。
(19) 共通の通路に流体的に連結された複数の区画および区画から共通の通路への試薬の流れを制御する様に形成したバルブを含む、自動化したPCR系において使用するためのカートリッジであって、第一の有効なTmを有する第一のPCRプライマーセットおよび第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のPCRプライマーセットを含有する1以上の区画を含む、前記カートリッジ。
(20) 逆転写試薬、細胞溶解試薬およびRNA精製試薬の1つを含む第三の区画をさらに含む、(19)のカートリッジ。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】[0015]図1は、本発明の1つの態様にしたがったカートリッジのスキーム図である。
【図2】[0016]図2は、RT反応およびPCR反応を分離するワックスを含む(B)および含まない(A)、一試験管RT-PCRの感度を比較する2つのグラフを示す。
【図3】[0017]図3は、RT反応およびPCR反応を分離するワックス層の使用を伴い、および伴わず調製した、RT-PCR産物を比較する、エチジウムブロマイド染色ゲルの写真である。
【図4】[0018]図4は、実施例3に記載するような、マルチプレックス化反応における、CEAおよび18S rRNAの増幅を示す、4つのグラフを提供する。パネルAおよびCは、最適条件を用いて、シングルプレックスで実行した際の、それぞれ18S rRNAおよびCEAに関する結果を示す。パネルBおよびDは、マルチプレックスの18S rRNAおよびCEAを示す。
【図5】[0019]図5は、CEAヌクレオチド配列、GenBank寄託番号XM 012777(SEQ ID NO: 1)を提供する。
【図6】[0020]図6は、10種の食道腫瘍(明るい灰色)、4種の組織学的に陽性の(N1)リンパ節(白)、および癌でない患者由来の10種の良性リンパ節(濃い灰色)で測定した、相対CEA発現を示すグラフである。
【図7】[0021]図7は、30人の食道癌患者由来の組織学的に陰性のリンパ節で測定した、相対CEA発現を示す。グラフは、各患者に関して見出された、最高のCEAレベルを示す。患者1〜20(濃い灰色のカラム)は再発せず、一方、患者21〜30(明るい灰色のカラム)は再発した。点線は、再発を予測する最も正確な切り捨て値を示す。この切り捨て値を用いて、QRT-PCRは3年後の疾患再発に関して、患者の90%を正確に分類した。
【図8】[0022]図8A〜Dは、RT-PCR(8Aおよび8B)およびQRT-PCR(8Cおよび8D)によって分類した患者の疾患不含生存に関するKaplan-Meier生存曲線である。ログランク検定は、どちらの予測因子も統計的に有意であることを示すが、RT-PCRに比較して、QRT-PCRの特異性が勝っていることから、こちらのほうが、再発リスクに基づいて、患者を区別する能力がより高い可能性がある(RT-PCRに関してはP=0.0038、そしてQRT-PCRに関しては<0.0001)。
【図9】[0023]図9は、30人の病理学的に節陰性である食道癌患者由来のホルマリン固定リンパ節におけるCEA発現のSmartCycler解析を示す。灰色の棒(21〜30)は、再発を患った患者を示し、黒い棒(1〜20)は再発を患わなかった患者を示す。CEA発現が検出不能であるリンパ節は、恣意的に、0.02のレベルにプロットした。点線は、疾患再発を予測するのに、最も正確なCEA発現切り捨て値(0.183)を示す。
【図10】[0024]図10は、Smartcycler QRT-PCRに基づいて、LN陽性または陰性(0.183の切り捨て値より上または下)と階層化される30人のpN0食道癌患者に関する、Kaplan-Meier疾患不含生存曲線を示す。
【図11】[0025]図11は、凍結リンパ節におけるCEA発現のSmartcycler解析を示す。白(1〜11)=癌でない患者由来の節;黒(12〜17)=最終病理に対して、疾患が陰性であると決定された節;灰色(20〜23)=疾患に関して陽性であることが見出された節;灰色(18および19)=手術中凍結切片では陰性であったが、固定した組織像では陽性であった節;星印=疾患再発を患う、節陰性患者由来の高発現している節。CEAの発現が検出不能であるすべての試料には、0.001の値を恣意的に割り当てた。
【図12】[0026]図12A〜Cは、β-GusおよびCEAに関する迅速QRT-PCRアッセイの最適化を示す。図12Aは、異なる変性時間および30秒間の伸長時間のアッセイに関して、Ct値を比較する。図12Bは、変性時間を10秒間で一定に維持した際のCt値に対する、異なる伸長時間の影響を比較する。図12Cは、PCR条件が一定である際の、異なるRT時間の影響を示す。
【図13】[0027]図13は、β-Gusが一定のバックグラウンドにおける、CEAの8倍連続希釈中のβ-GusおよびCEAに関するCt値を示す。この図は、遅い、慣用的PCR(10秒間の変性後、30秒間のアニーリング/伸長工程)と迅速PCR(1秒間の変性後、6秒間のアニーリング/伸長工程)を比較する。◆=10、30 GUS;□=1、6 GUS;△=10、30 CEA;そして●=1、6 CEA。
【図14】[0028]図14は、15分間(2分間RTおよび1/3 PCR)、17分間(2分間RTおよび1/6 PCR)、20分間(5分間RTおよび1/6 PCR)および38分間(10分間RTおよび5/15 PCR)アッセイ間のRT-PCR実行時間比較である。
【図15】[0029]図15は、CEAシングルプレックス(パネルA)、温度制御マルチプレックスにおけるCEA(パネルB)、通常のマルチプレックスにおけるCEA(パネルC)および慣用的なプライマー制限マルチプレックスにおけるCEA(パネルD)に関する、4つの増幅プロットを示す。
【図16】[0030]図16は、CEAに関するシングルプレックスPCRと、温度制御マルチプレックス、通常のマルチプレックスおよび慣用的なプライマー制限マルチプレックスとの比較を示す。β-Gus一定バックグラウンドでのCEA連続希釈に関するデルタCt値を比較する。25のデルタCtを用いて、増幅に失敗した希釈点を示す。
【図17】[0031]図17は、リンパ節における、β-Gusに比較したCEA発現のヒストグラムである。黒の棒(1〜3)は、癌の組織学的証拠がある癌患者由来のリンパ節に対応する。灰色の棒(4〜8)は、癌でない患者由来のリンパ節に対応する。試料4および6は、検出可能なCEA発現を持たなかった。
【図18】[0032]図18は、CEA(A)およびチロシナーゼ(C)の発現がある試料、並びにCEA(B)およびチロシナーゼ(D)の発現がない試料に関する、4つの代表的な増幅プロットを示す。パネルAおよびBでは、β-gus(+)、CEA(◇)およびCEA IC(-)の蛍光曲線を示す。同様に、パネルCおよびDでは、β-gus(◇)、チロシナーゼ(-)およびチロシナーゼIC(*)の蛍光曲線を示す。
【発明の詳細な説明】
【0001】
背景
[0001]本出願は、迅速PCR法を開示し、特に、迅速マルチプレックスQRT-PCR法、並びに関連する組成物および装置に重点を置く。
【0002】
[0002]ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、分子生物学分野の強力なツールである。こ
の技術は、微量のDNA断片を意味のある方式で解析可能な量に複製する/増幅するのを可
能にする。こうしたものとして、この技術は、DNA配列決定、DNAフィンガープリンティングなどの分子生物学的用途に適用されてきた。さらに、この方法は、その存在が病的状態を反映する可能性がある、試料中の特定のDNA断片を検出する能力を有する。したがって
、この方法は、分子診断の分野に新たな用途を見出しつつある。さらに、リアルタイム定量的PCR(QPCR)の発展と共に、この技術は、より信頼しうると共に、自動化しやすいも
のとなってきている。現在、この技術は、臨床試料におけるウイルスおよび細菌病原体の検出に、そして白血病(並びに乳房、肺、結腸、食道および皮膚に生じるものなどの、他の癌)の病歴を持つ患者における癌細胞の検出に用いられる。
【0003】
[0003]分子診断法におけるPCRは、その利点にもかかわらず、いくつかの欠点を有す
る。しばしば、これは、オペレーターの技術的な専門知識に依存する技術的なものである。さらに、これはまた、非常に汚染しがちである。これら2つの上述の要因が組み合わさ
ると、それぞれ、偽陰性結果および偽陽性結果が生じる。したがって、目的の標的と共に内部対照を取り込み、それと同時に、プロセスを自動化して閉鎖系内での操作を確実にする(汚染を排除するため)必要がある。対照の取り込みは、目的の標的に加えて、いくつかの異なるセットのDNA断片の増幅を伴う。これらの対照は、既定の実行いずれにおいて
も、解析する試料の品質と共にアッセイの品質に関する情報を提供する。技術的理由のため、PCRを通じた、同一反応試験管における試料内の多数のDNA標的の解析(マルチプレックス化として知られる)は、反応開始時に、標的が同様の存在量で存在しない場合は、うまく働かない。従来、研究者は、PCR反応においてプライマーを制限することによって、
これを克服しようと試みてきた。このアプローチは、1つの反応において試薬を制限する
ことによって、その標的に関して適切な増幅が起こった後であって、他の配列の増幅阻害が起こる前の時点で、反応が停止するという考え方に基づく。この方法は、2つの標的間
の最初の存在量の相違を増加させることが可能であり、やはり両標的の増幅の成功を生じるであろうが、第二の標的が数桁豊富な環境では、まれな標的の検出を可能にしない。さらに、迅速QPCRアッセイが要求される場合、プライマー濃度を減少すると、やはり、定量性が悪化する。
【0004】
[0004]現在のPCR技術のさらなる限界は、PCR診断を行うのに時間がかかることである。典型的なPCR反応は、数分間ではなく数時間かかる。以下に記載するように、多くの理
由のため、PCR反応を行うのにかかる時間が減少することが望ましい。したがって、自動
化PCRに基づくポイント・オブ・ケア分子診断系、特に、迅速マルチプレックス化(RT-)PCRアッセイに関する必要性がある。
【0005】
発明の概要
[0005]迅速でそして頑強なPCR法およびRT-PCR法であって、数時間でなく数分間で、
完全なPCR反応の遂行を可能にして、リンパ節の組織病理学的検査などの典型的な病理学
的方法に勝る代替法として、またはこうした病理学的方法に加えて、手術中診断法、例えば、限定するわけではないが、前哨(sentinel)リンパ節における微小転移を検出するための手術中診断法、におけるPCRの使用を可能にする、前記PCR法およびRT-PCR法を提供す
る。
【0006】
[0006]マルチプレックスPCR反応、特に定量的PCR増幅のバランスをとる方法としての、プライマー制限の代替法もまた提供し、これはQRT-PCR反応に特に有用である。この方
法は、同一反応混合物において、増幅しようとする1つの標的配列が、増幅しようとする
別の標的配列よりはるかにより少数である場合、特に用途を見出す。該方法は、第一の増幅段階および第二の増幅段階において、PCR反応混合物中のDNA試料に対して、PCR増幅を
行う工程を含む。第二の増幅段階のPCR増幅は、第一の増幅段階のPCR増幅と異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン(amplicon)産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率を変調する。さらなる増幅段階を付加することが可能である。
【0007】
[0007]この方法の2つの限定されない特定の態様を開示する。第一の態様において、
第二の増幅段階開始時に、第二のプライマーセットを反応混合物に添加し、それによって第一の段階中の第二のプライマーセットの物理的存在を制限する。好ましくは、この方法では、β-gusまたは18S rRNA配列などの、典型的には対照である、よりまれでない配列よりも前に、よりまれな標的配列を増幅する。
【0008】
[0008]第二の態様において、PCR反応混合物には、第一の有効なTmを有する第一のプ
ライマーセット、および第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のプライマーセットが含まれる。第一の増幅段階のアニーリング工程を、第二の増幅段階のアニーリング工程と異なる温度で行うことによって、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率を変調する。この第二の態様において、第二の増幅段階のアニーリング温度は、第一の増幅段階のアニーリング温度より高くてもまたは低くてもよい。
【0009】
[0009]RT-PCR法の逆転写反応を、約10分間より長く行う必要がなく、そして好ましくは、約2分間行う必要しかないという発見に基づく、迅速RT-PCR法もまた、提供する。こ
の迅速工程は、RT反応と同一反応容器中で、RT反応に連続して行う迅速PCR法と組み合わ
せると、特に、全プロセスが自動化されている場合、RT-PCR反応の手術中使用を可能にする。
【0010】
[0010]上述のPCRプロセスおよびRT-PCRプロセスは各々、例えばTAQMANおよび分子ビ
ーコンプローブの使用により、蛍光レポーターの集積または喪失によって、典型的にはPCR増幅中に監視する、QPCRおよびQRT-PCRなどの定量的PCR法におけるその使用に、特に有
用性を見出す。
【0011】
[0011]上述の方法は、カートリッジに基づく系で自動化して、それによって、方法における人為的な誤りと共に、汚染の可能性を減少させることが可能である。自動化した系において、プログラムした順序にしたがって、多様な反応のための試薬を連続して添加する。記載する方法を行うため、自動化した系で使用するためのカートリッジもまた提供する。
【0012】
[0012]本明細書に記載する迅速PCR法に関する特定の用途もまた提供する。1つの態様において:手術中に、患者から組織試料を得て;上述のPCR法の1つにしたがって、試料を解析し;指標転写物発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定し;そして解析工程の結果によって指示される方式で、手術を続ける;工程を含む、手術中PCR診断法を提供す
る。別の態様において:腫瘍生検から核酸を得て;上述のPCR法の1つにしたがって、核酸に対して、指標転写物に特異的なPCR法を行って;そして指標転写物発現が閾値レベルを
超えているかどうかを決定し、それが悪性腫瘍の指標となる;工程を含む、悪性腫瘍を迅速に検出する方法を提供する。
【0013】
[0013]さらなる態様において、食道の転移化腺癌を迅速に検出する方法を提供する。該方法は、前哨リンパ節からRNAを得て;上述のPCR法のいずれか1つにしたがって、RNAに対して、CEAに特異的な定量的RT-PCR法を行って;そしてCEA発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する工程を含む。
【0014】
[0014]最後に、CEAおよびチロシナーゼ遺伝子と共に、β-gusおよび18S rRNA配列に
特異的な配列の検出に有用な、特異的新規オリゴヌクレオチドプライマーもまた、提供する。
【0015】
詳細な説明
[0033]特に、QRT-PCRを含む定量的PCR法に関する、迅速なサイクリングおよび/またはPCRに基づく分子診断の感度改善を可能にする、改善PCR法を提供する。これらの改善法は、手術中にPCRを使用することを可能にし、そしてまた、まれな核酸種を検出するのに
も有用であり、より優勢な対照核酸を同時に検出するマルチプレックス化PCR反応におい
てさえ有用である。
【0016】
[0034]典型的なPCR反応には、標的核酸種を選択的に増幅する、複数増幅工程、また
はサイクルが含まれる。PCRプロセス、並びに定量的PCR(QPCR)、リアルタイムQPCR、逆転写PCR(RT-PCR)および定量的逆転写PCR(QRT-PCR)などのその一般的な変形の完全な
説明は、本開示の範囲を超えており、そしてこれらの方法は当該技術分野でよく記載され、そして広く商品化されている。典型的なPCR反応は3つの工程:標的核酸を変性する変性工程;PCRプライマーセット(フォワードおよびリバースプライマー)が相補DNA鎖にアニーリングするアニーリング工程;および熱安定性DNAポリメラーゼがプライマーを伸長す
る伸長工程を含む。この工程を複数回繰り返すことによって、DNA断片が増幅されて、標
的DNA配列に対応するアンプリコンが生じる。典型的なPCR反応には、変性、アニーリングおよび伸長の30以上のサイクルが含まれる。多くの場合、アニーリングおよび伸長工程は同時に行うことが可能であり、その場合、サイクルは二工程しか含有しない。
【0017】
[0035]変性、アニーリングおよび伸長段階の長さは、時間的にいかなる所望の長さであることも可能である。しかし、PCR増幅反応を手術中診断に適した時間に短縮する試み
の中で、これらの工程の長さは、分の範囲でなく、秒の範囲であることが可能であると見出されてきた。具体的には、秒あたり少なくとも約5℃の熱傾斜速度(δT)を生成可能な、特定の新規サーマルサイクラーを用いると、20分間のPCR増幅が可能である。本明細書
において、PCRサイクルの各工程に規定する時間は、傾斜時間を含まない。変性工程は、1秒間以下の時間で行うことが可能である。実際、いくつかのサーマルサイクラーは、変性工程の最適期間である可能性がある「0秒」の設定を持たない。すなわち、サーマルサイ
クラーが変性温度に達するだけで十分である。アニーリング工程および伸長工程は、所望により、各々10秒間未満であり、そして同一温度で行う場合、アニーリング/伸長工程の組み合わせは、10秒間未満であることが可能である。
【0018】
[0036]プライマーの最適濃度はアッセイ間で幾分多様であろうが、本明細書に記載するように、実質的に増加したプライマー濃度、典型的には約400 nMより高く、そしてしばしば約800 nMより高い濃度を用いることによって、アンプリコン産生の実質的な悪化を伴わずに、各サイクルをかなり短くすることが可能である。高感度逆転写酵素(本明細書記載)の使用、および/または最初の標的PCRテンプレートを生じる、高濃度の逆転写酵素
プライマーの使用によって、RT-PCRアッセイの感度を増進することが可能である。
【0019】
[0037]既定のPCR反応いずれかの特異性は、プライマーセットの同一性に非常に依存
するが、排他的に依存するわけではない。プライマーセットは、標的DNA配列にアニーリ
ングして、標的配列の増幅を可能にし、それによって標的配列特異的アンプリコンを生じる、フォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマー対である。本明細書において、明記するオリゴヌクレオチドの「誘導体」は、明記するオリゴヌクレオチドおよび誘導体間の相違以外は、明記するオリゴヌクレオチドと同一の標的配列に結合し、そして明記するオリゴヌクレオチドと同一の標的配列を増幅して、明記するオリゴヌクレオチドと本質的に同一のアンプリコンを生じる、オリゴヌクレオチドである。誘導体は、明記する配列と同一の目的でのその使用において、明記する配列の特性を実質的に保持する限り、明記する配列の残基いずれかの挿入、欠失および/または置換によって、明記するオリゴヌクレオチドと異なる可能性がある。
【0020】
[0038]本明細書において、逆転写反応混合物およびPCR反応混合物などの酵素反応混
合物いずれかの「試薬」は、酵素(類)、ヌクレオチドまたはその類似体、プライマーおよびプライマーセット、緩衝剤、塩および補助因子を含む(これらには限定されない)、反応混合物に添加する化合物または組成物いずれかである。本明細書において、別に示さない限り、「反応混合物」には、こうした化合物または組成物が明白に示されない場合であっても、その酵素反応を行うのに必要な、すべての必要な化合物および/または組成物が含まれる。
【0021】
[0039]マルチプレックス化PCRアッセイは、プライマー濃度を操作することによって
ではなく、アンプリコンの産生を時間的にシフトすることによって、最適化するか、またはバランスをとることが可能である。これは、各段階に関して、異なるアニーリングおよび/または伸長温度で各々、異なるTmを有するプライマーセットを2つ用いて、それによ
り、二段階PCRアッセイを実行して、他方より一方のアンプリコンの産生を有利にするこ
とが可能であるようにする、ことによって達成可能である。この時間および温度シフト法は、プライマー濃度操作を用いて反応のバランスをとる場合に直面する困難を伴わずに、マルチプレックス反応のバランスを最適にとるのを可能にする。この技術は、以下に示すCEA/β-GUSの例などの、対照cDNAと共に、まれなcDNAを増幅するのが所望される、マル
チプレックス反応において、特に有用である。
【0022】
[0040]RNA分子集団(例えば、そして限定的なものではないが、総RNAまたはmRNA)において、低存在量のRNA種を迅速にそして正確に検出するための定量的逆転写酵素ポリメ
ラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)法であって:a)RNA試料を逆転写酵素および高濃度の標的配
列特異的逆転写酵素プライマーと、cDNAを生成するのに適した条件下でインキュベーションして;b)続いて、該cDNAに特異的な高濃度のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマーセット、および熱安定性DNAポリメラーゼを含む、逆転写反応のための適切なPCR試薬を、逆転写酵素反応に添加して、そしてc)所望のサイクル数で、そして適切な条件下、PCR反応をサイクリングして、cDNAに特異的なPCR産物(「アンプリコン」)を生成する工程を
含む、前記方法を提供する。逆転写酵素反応およびPCR反応を時間的に分離することによ
って、そして転写酵素最適化プライマーおよびPCR最適化プライマーを用いることによっ
て、優れた特異性が得られる。反応は単一試験管(反応を行う試験管、容器、バイアル、細胞等はすべて、本明細書において、時々、総称的に「反応容器」と呼ぶ可能性がある)で行って、二試験管反応で典型的に見られる汚染の供給源を除去する。高濃度プライマーは、非常に迅速なQRT-PCR反応を可能にし、これは典型的には、逆転写酵素反応の開始時
から40サイクルのPCR反応の終了時まで、およそ20分間程度である。こうした迅速QRT-PCR実験の実現は、秒あたり少なくとも約5℃の熱傾斜速度(δT)を生じることが可能なサーマルサイクリング装置の入手可能性によって補助される。
【0023】
[0041]反応c)は、PCR反応が進行するため、優れた、または最適でさえある条件を生
じるのに十分な試薬を、逆転写酵素(RT)反応に添加することによって、逆転写酵素反応と同一の試験管中で、実行可能である。単一試験管に、逆転写酵素反応の実行前に:1)
逆転写酵素反応混合物、および2)逆転写酵素反応が完了した後、cDNA混合物と混合され
るはずのPCR反応混合物を装填することが可能である。逆転写酵素反応混合物およびPCR反応混合物は、逆転写酵素反応のインキュベーション温度より高いが、PCR反応の変性温度
より低い温度で融解する組成物の固形、または半固形(無定形、ガラス状物質およびワックス状物質を含む)バリアによって、物理的に分離することが可能である。バリア組成物は、疎水性であることが可能であり、そして液体型では、RTおよびPCR反応混合物と第二
の相を形成する。こうしたバリア組成物の一例は、カリフォルニア州フォスターシティーのApplied Biosystemsから商業的に入手可能なAMPLIWAX PCR GEM製品、およびカリフォルニア州ラホヤのStratageneから商業的に入手可能なSTRATASPHEREマグネシウムワックスビーズなどの、PCR反応に一般的に用いられるワックスビーズである。
【0024】
[0042]あるいは、逆転写酵素反応およびPCR反応の分離は、PCRプライマーセットおよび熱安定性DNAポリメラーゼを含むPCR試薬を、逆転写酵素反応が完了した後に添加することによって達成可能である。好ましくは、ロボット手段または流体手段によってPCR試薬
を機械的に添加して、試料汚染の可能性をより低くし、そして人為的誤りを排除する。
【0025】
[0043]QRT-PCRプロセスの産物を既定のレポーター遺伝子と比較する場合、固定数のPCRサイクル後に比較して、RNA種の相対量を決定することが可能である。QRT-PCRプロセス産物の相対量を比較する1つの方法は、ゲル電気泳動により、例えばゲル上に試料を泳動
して、そしてサザンブロッティングおよびそれに続く標識プローブでの検出、エチジウムブロマイドでの染色、並びにアンプリコン中の蛍光または放射性タグの取り込みを含む(しかしこれらには限定されない)、いくつかの既知の方法の1つによって、これらの試料
を検出することによる。
【0026】
[0044]しかし、PCR反応の進行は、典型的には、各PCRプライマーセットのアンプリコン産生の相対率を解析することによって監視する。アンプリコン産生の監視は、蛍光プライマー、蛍光生成プローブおよび二本鎖DNAに結合する蛍光色素を含む(しかしこれらに
は限定されない)、いくつかの方法によって、達成可能である。一般的な方法は、蛍光5'ヌクレアーゼアッセイである。この方法は、特定の熱安定性DNAポリメラーゼ(TaqまたはTfl DNAポリメラーゼなど)の5'ヌクレアーゼ活性を活用して、PCRプロセス中、オリゴマープローブを切断する。伸長条件下で、増幅した標的配列にアニーリングするオリゴマーを選択する。該プローブは、典型的には、5'端に蛍光レポーターを有し、そして3'端にレポーターの蛍光消光剤を有する。オリゴマーが無傷である限り、レポーターからの蛍光シグナルは消光される。しかし、オリゴマーが伸長プロセス中に消化されると、蛍光レポーターは、もはや消光剤に近接していない。既定のアンプリコンの遊離蛍光レポーターの相対的な蓄積を、対照試料の同一アンプリコンの蓄積に、および/または、β-gus、β-ア
クチンまたは18S rRNAなどの(しかしこれらのものには限定されない)対照遺伝子のアンプリコンの蓄積に比較して、RNA集団における既定のRNAの既定のcDNA産物の相対的存在量を決定することができる。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイの産物および試薬は、例えばApplied Biosystemsから、容易に、商業的に入手可能である。
【0027】
[0045]蛍光5'ヌクレアーゼアッセイおよび他のQPCR/QRT-PCR法にしたがって、PCRおよびQRT-PCRにおけるアンプリコン蓄積を制御し、そして監視するための装置およびソフ
トウェアもまた、容易に入手可能であり、これらには、カリフォルニア州サニーベールのCepheidから商業的に入手可能なSmart Cycler、Applied Biosystemsから商業的に入手可
能なABI Prism 7700配列検出系(TaqMan)が含まれる。カートリッジに基づく試料調製プロトタイプ系(GenXpert)は、サーマルサイクラーおよび蛍光検出装置を組み合わせて、自動的に、組織試料から特定の核酸を抽出し、そして該核酸に対してQPCRまたはQRT-PCR
を行うことが可能な、流体回路およびプロセシング要素を備えた、Smart Cycler製品の機能を有する。系は、使い捨てカートリッジを用い、カートリッジは、非常に多様な試薬を含むように形成し、そしてこうした試薬をあらかじめカートリッジに装填することが可能である。こうした系は、組織を破壊して、そして試料から総RNAまたはmRNAを抽出するよ
う形成することが可能である。逆転写酵素反応構成要素をRNAに自動的に添加することが
可能であり、そして逆転写酵素反応が完了した際、QPCR反応構成要素を自動的に添加することが可能である。
【0028】
[0046]さらに、PCR反応は、反応からの特定の蛍光色素の産生(または喪失)を監視
することが可能である。蛍光色素レベルが所望のレベルに達したら(または所望のレベルに低下したら)、自動化した系は、PCR条件を自動的に改変するであろう。1つの限定的ではない例において、これは、上述のマルチプレックス化態様であって、第二のより高いTmのプライマーセットによって増幅されるより豊富でない種よりも低い温度で、第一のより低いTmのプライマーセットによってより豊富な(対照)標的種が増幅される場合に、特に有用である。PCR増幅の第一の段階では、サイクリング反応のアニーリング工程は、より
豊富な標的種の増幅を可能にする温度で行う。その後、アニーリング温度は、自動的に上昇して、より豊富な標的種の増幅を本質的に停止する。
【0029】
[0047]上述の反応において、特定の逆転写酵素反応構成要素およびPCR反応構成要素
の量は、典型的には、いくつかのサーマルサイクラーのより速い傾斜時間を利用するため、非定型性である。具体的には、プライマー濃度は非常に高い。逆転写酵素反応の典型的な遺伝子特異的プライマー濃度は、約20 nM未満である。迅速な逆転写酵素反応を1〜2分
間程度で達成するため、逆転写酵素プライマー濃度を20 nMより高く、好ましくは少なく
とも約50 nM、そして典型的には約100 nMに上昇させた。標準的PCRプライマー濃度は、100 nM〜300 nMの範囲である。標準的PCR反応で、より高い濃度を用いて、Tmのばらつきを
補填することが可能である。しかし、言及されるプライマー濃度は、本明細書の目的のため、Tm補填が必要でない状況用のものである。Tm補填が必要であるか、または所望である場合に、プライマーの比例的により高い濃度を実験的に決定して、そして使用することが可能である。迅速PCR反応を達成するため、PCRプライマー濃度は、典型的には200 nMより高く、好ましくは約500 nMより高く、そして典型的には約800 nMである。典型的には、PCRプライマーに対する逆転写酵素プライマーの比は、約1対8またはそれ以上である。プラ
イマー濃度を増加させると、以下の実施例2に記載するように、40サイクルのPCR実験を20分間未満で行うことが可能になった。
【0030】
[0048]少量のRNAが存在するか、または標的RNAが低存在量RNAであるかいずれかの、
特定の状況では、高感度逆転写酵素が好ましい可能性がある。用語「高感度逆転写酵素」によって、PCRテンプレートとして使用する低コピー数転写物から、適切なPCRテンプレートを産生可能な逆転写酵素を意味する。高感度逆転写酵素の感度は、酵素の物理的性質に、または増進した感度を生じる、逆転写酵素反応混合物の特定の反応条件に、由来する可能性がある。高感度逆転写酵素の1つの例は、カリフォルニア州バレンシアのQiagen, Inc.から商業的に入手可能なSensiScript RT逆転写酵素である。この逆転写酵素は、<50 ngのRNA試料からのcDNAの産生に関して最適化されているが、低コピー数転写物からPCRテンプレートを産生する能力もまた有する。実際のところ、本明細書に記載するアッセイにおいて、約400 ng RNAまでの試料に関して、そしてそれを超える試料に関してさえ、適切な結果を得た。低コピー数転写物を逆転写する、実質的に同様の能力を有する他の高感度逆転写酵素は、本明細書に記載する目的のためには同等の高感度逆転写酵素であろう。上記にもかかわらず、高感度逆転写酵素が少量のRNAからcDNAを産生する能力は、酵素または
酵素反応系が、低コピー数配列からPCRテンプレートを産生する能力に派生するものであ
る。
【0031】
[0049]上に論じるように、本明細書に記載する方法はまた、マルチプレックスQRT-PCRプロセスでも使用可能である。最も広い意味で、マルチプレックスPCRプロセスは、同一反応容器における2以上のアンプリコンの産生を伴う。マルチプレックスアンプリコンは
、ゲル電気泳動、並びに限定的ではなく、エチジウムブロマイド染色、サザンブロッティングおよびプローブへのハイブリダイゼーションなどの多様な方法の1つによる、アンプ
リコンの検出によって、あるいはアンプリコンに蛍光または放射性部分を取り込み、そして続いて、ゲル上の産物を視覚化することによって、解析可能である。しかし、2以上の
アンプリコン産生のリアルタイムでの監視が好ましい。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイは、最も一般的な監視法である。同一試験管中の2以上の蛍光レポーター蓄積のリアルタイム
監視を可能にする装置が、現在入手可能である(例えば、上述のSmart CyclerおよびTaqMan製品)。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイのマルチプレックス監視のため、検出しようとする各アンプリコン種に対応するオリゴマーを提供する。各アンプリコン種のオリゴマープローブは、他のアンプリコン種各々のオリゴマープローブ(類)と異なるピーク発光波長を持つ蛍光レポーターを有する。消光されていない蛍光レポーター各々の蓄積を監視して、各アンプリコンに対応する標的配列の相対量を決定可能である。
【0032】
[0050]伝統的なマルチプレックスQPCR法およびQRT-PCR法において、同様のアニーリ
ングおよび伸長動力学、並びに同様のサイズのアンプリコンを有するPCRプライマーセッ
トを選択するのが望ましい。適切なPCRプライマーセットの設計および選択は、当業者に
公知のプロセスである。最適PCRプライマーセット、およびそのそれぞれの比を同定して
、バランスがとれたマルチプレックス反応を達成するプロセス(プライマー制限、すなわちマルチプレックスPCR実験において、より豊富なRNA種のPCRプライマーの存在量を制限
して、より豊富でない種の検出を可能にすること)もまた知られる。「バランスがとれた」によって、特定のアンプリコン(類)が、dNTP類または酵素などの供給源に関して、他のアンプリコン(類)との競合に勝たないことを意味する。すべてのPCRプライマーセッ
トのTm(融点)を等しくすることもまた、奨励される。例えば、ABI PRISM 7700配列検出系User Bulletin #5、“Multiplex PCR with TaqMan VIC Probes”、Applied Biosystems(1998/2001)を参照されたい。
【0033】
[0051]上記にもかかわらず、非常に低コピー数である転写物に関しては、より豊富な対照種のPCRプライマーセットを制限することによってさえも、正確なマルチプレックスPCR実験を設計することは困難である。この問題の1つの解決法は、より豊富な種のPCR反応用とは別個の試験管で、低存在量RNAのPCR反応を行うことである。しかしこの戦略は、マルチプレックスPCR実験を行う利点を利用しない。二試験管プロセスは、コスト、実験の
誤りの余地をより多くすること、およびPCRアッセイには危機的な、試料汚染の機会が増
加することを含む、いくつかの欠点を有する。
【0034】
[0052]したがって、1以上のより高いコピー数の種と共に、低コピー数核酸種を検出
可能な、QRT-PCRおよびQPCRを含む、マルチプレックスPCRプロセスを行うための方法を提供する。低コピー数および高コピー数核酸種間の相違は相対的であるが、本明細書において、少なくとも約30倍、しかしより典型的には、少なくとも約100倍の低(より低い)コ
ピー数種および高(より高い)コピー数種の出現率の相違を指す。本明細書の目的のため、増幅される2つの核酸種の相対出現率(prevalence)は、既定の核酸試料における他の
核酸種との関係で、2つの核酸種の相対出現率より突出しており、これは、核酸試料にお
ける他の核酸種が、PCR供給源に関して、増幅される種と、直接には競合しないためであ
る。
【0035】
[0053]本明細書において、既定の核酸試料における、いかなる既定の核酸種の出現率も、試験前には未知である。したがって、核酸試料における既定の核酸種の「予期される」コピー数をしばしば本明細書で用い、そしてこれは核酸試料におけるその種の出現率に
関する従来のデータに基づく。核酸種のいかなる既定の対に関しても、試料中の2種の相
対出現率の先の決定に基づいて、各種の出現率が、ある範囲内に属すると予期されるであろう。これらの範囲を決定することによって、各種の標的配列の予期される数の倍相違が決定されるであろう。
【0036】
[0054]マルチプレックスPCR法は、2(またはそれより多い)段階のPCR増幅を行って
、それぞれの増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコン産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコン産生の相対率の変調を可能にすることを伴う。第二の増幅段階のPCR増幅は、第一の増幅段階とは異なる反応条件下(「異なる
反応条件」には、限定的ではないが、アニーリング工程など、PCRサイクル中の工程の異
なる温度、またはプライマーおよび/またはプライマー濃度の相違など、PCR反応混合物
中の試薬の相違が含まれる)で行う。この方法によって、より低い存在量の核酸種に向けられるアンプリコンを生じるPCR増幅は、より高い存在量の核酸種に向けられる、アンプ
リコンを生じるPCR増幅と、効果的に「バランスをとる」。反応を2以上の時間的段階に分離することは、第一の増幅段階で産生されるべきでない、いかなるアンプリコンのPCRプ
ライマーセットも省くことによって、達成可能である。その後、第二の増幅段階の開始時に、省いたPCRプライマーセットをPCR反応混合物に添加することが可能である。これは、上述のGenXpertプロトタイプ系などの自動化プロセスの使用を通じて、最適に達成される。2以上の別個の増幅段階を用いて、各プライマーセット濃度の調整と共に、または該調
整を排除して、マルチプレックスアッセイを調整し、そしてバランスをとることが可能である。
【0037】
[0055]PCR増幅プロセスを2以上の段階に時間的に分離する第二の方法は、それぞれのTmにばらつきを持つPCRプライマー対を選択することである。こうした方法の2つの例を、以下の実施例3および6に提供する。1つの実施例において、より低いコピー数の核酸種の
プライマーは、より高い存在量の種のプライマーのTm(Tm2)より高いTm(Tm1)を有するであろう。このプロセスでは、PCR増幅の第一の段階は、あらかじめ決定したサイクル数
で、より高い存在量の種の増幅が実質的にまったくない、十分に高い温度で行う。第一の段階の増幅後、PCR反応のアニーリングおよび伸長工程を、より低い温度、典型的にはお
よそTm2で行って、より低い存在量のアンプリマー(amplimer)およびより高い存在量の
アンプリマー両方が増幅されるようにする。本明細書において使用する場合、そして別に言及しない限り、Tmは、既定の反応混合物中の既定のプライマーいずれかのTmであり、限定的ではなく、反応混合物におけるプライマーの核酸配列およびプライマー濃度を含む要因に応じる、「有効Tm」を指す。
【0038】
[0056]PCR増幅が動的なプロセスであることに注目すべきである。限定的ではなく、
マルチプレックスPCR反応において、それぞれのPCR反応を変調する温度を用いる場合、より高い温度のアニーリング段階は、反応が、より高いTmプライマーセットによるアンプリコン産生に有利に働く限り、典型的には、より低いTmのすぐ上から、より高いTmのすぐ上までの範囲の、いかなる温度で行うことも可能である。同様に、限定的ではなく、より低い温度の反応のアニーリングは、典型的には、より低いTmのプライマーセットによる、十分な増幅効率を可能にするであろう、低温プライマーセットのより高いTm未満のいかなる温度であってもよい。
【0039】
[0057]上に提供する例において、より高い温度段階では、低存在量RNAのアンプリコ
ンは、より高い存在量のRNAのアンプリコンよりも速い速度で(そして好ましくは、第二
のアンプリコン産生が実質的に排除されるまで)、増幅し、すべてのアンプリコンの増幅が実質的にバランスがとれた方式で進行するのが所望される第二の増幅段階の前に、より高い存在量のRNAの増幅が、より低い存在量のRNAのアンプリコンの増幅に干渉しないよう、より低い存在量のRNAのアンプリコンが十分に豊富であるようにする。増幅の第一の段
階において、低存在量核酸のアンプリコンを優先的に増幅する場合、アニーリングおよび伸長工程をより高いTmより上で行って、効率よりも特異性を得ることが可能である(増幅の第二の段階中は、比較的多数の低存在量核酸のアンプリコンがあるため、選択性はもはや重要な問題ではなく、そしてアンプリコン産生の効率が好ましい)。したがって、多くの例では好ましいが、温度変動は、別のものを超える1つの増幅反応の完全な停止を必ず
しも生じない可能性があることに注目すべきである。
【0040】
[0058]別の態様において、第一のTmを持つ第一のプライマーセットは、より豊富なテンプレート配列(例えば対照テンプレート配列)を標的とすることが可能であり、そしてより高いTmを持つ第二のプライマーセットは、より豊富でないテンプレート配列を標的とすることが可能である。この場合、より豊富なテンプレートおよびより豊富でないテンプレートは、どちらも、第一の段階において、より低いTmのプライマーセットでの十分な増幅を可能にするのに十分な温度で、典型的には第一のより低いTmのプライマーセットのTm以上で、増幅可能である。より豊富なテンプレートに対応するアンプリコンが閾値量に達したら、反応のアニーリングおよび/または伸長温度を上昇させて、より豊富なテンプレートの増幅を、効率的に停止する。
【0041】
[0059]3以上の異なるTm(例えば、Tm1>Tm2>Tm3)を有するPCRプライマーセットの3以上のセットの選択を用いて、Tmの相違が、所望のサイクル数に関して、所望の配列の優先的な増幅を可能にして、所望でない配列を実質的に排除するのに十分に大きい限り、段階的方式で、多様な存在量の配列を増幅することが可能である。1つのプロセスにおいて
、第一の段階で、あらかじめ決定したサイクル数、最低存在量の配列を増幅する。次に、第二の段階で、あらかじめ決定したサイクル数、最低存在量の配列およびより少ない存在量の配列を増幅する。最後に、第三の段階で、すべての配列を増幅する。上述の二段階反応のように、各段階のアニーリング温度は、マルチプレックス反応の各単一増幅反応の相対的効率に応じて、多様である可能性がある。2以上のアンプリマーが、実質的に同一のTmを有して、増幅プロセスのいかなる段階でも、同様の存在量の1より多い種の増幅を可能にする可能性があることを認識すべきである。二段階反応のように、三段階反応もまた、最低アニーリング温度での最大存在量の核酸種の増幅から、最高アニーリング温度での最低存在量の種の増幅まで、段階的に進行可能である。
【0042】
[0060]Tmを一致させて、そして1以上のPCRプライマーセットの量の制限を用いる以外に、この連続増幅法によって、マルチプレックスPCR反応の「バランスをとる」、さらな
るツールを提供する。異なるアンプリコンを連続して増幅する方法として、異なるTmを持つPCRプライマーセットを利用することは、特定の状況では、さらなるプライマーセット
を連続して添加するより好ましい可能性がある。しかし、マルチプレックスPCR反応の温
度依存配列決定を、単一反応混合物に対してプライマーセットを連続的に物理的に添加することと組み合わせて使用することが可能である。
【0043】
[0061]陰性結果に関して、特定の増幅反応の操作を確認する、内部陽性対照もまた、提供する。内部陽性対照(IPC)は、標的遺伝子(CEAまたはチロシナーゼ)と同一のプライマー配列を有するが、異なる内部プローブ配列を有する、DNAオリゴヌクレオチドであ
る。所望により、IPCの選択した部位を、チミンの代わりにウラシルを用いて合成するこ
とが可能であり、それにより必要な場合、ウラシルDNAグリコシラーゼを用いて、非常に
濃縮された擬似体の混入を制御することが可能であった。PCR反応マスターミックスいず
れかに、プライマーセットの内因性標的のCt値より典型的には高いCt値を生じると実験的に決定された量でIPCを添加することも可能である。その後、標準的プロトコルにしたが
ってPCRアッセイを行い、そしてプライマーセットの内因性標的がない場合であってもIPCが増幅され、それによって標的内因性DNA増幅の失敗が、マスターミックス中のPCR試薬の失敗でないことが確認されるであろう。本態様において、IPCプローブは、内因性配列の
プローブと異なる蛍光を発する。RT-PCR反応で使用するためのこの変形は、IPCがRNAであり、そしてRNAがRTプライマー配列を含むものである。本態様において、IPCは、RT反応およびPCR反応両方の機能を検証する。RNA IPCおよびDNA IPC(異なる対応プローブを持つ
)両方を使用して、RT反応およびPCR反応の難易度を区別することもまた、可能である。
【0044】
[0062]本明細書に記載する方法は、一般的に、定量的PCR法およびRT-PCR法に適用可
能である。本明細書および付随する原稿に記載するのは、癌胎児抗原(CEA)の検出およ
び食道腺癌の予後のための方法である。本明細書に記載する方法は、多様な他の腫瘍種における、潜在性微小転移を含む、他の微小転移の同定に、等しく適用可能な方法である。本明細書に記載する迅速プロトコルは、約20分間で実行可能である。この時間の短さが手術中にアッセイを行うことを可能にして、第二の手術を必要とすることなく、あるいは外科医が不必要な処置または過剰な広い予防処置を行うことが必要とすることなく、単一の手術中に、外科医が手術方針を決定可能になる。例えば、乳癌および黒色腫を含む、特定の癌の外科的評価では、第一の手術中に、前哨リンパ節を除去する。その後、前哨節を微小転移に関して評価して、そして患者の前哨リンパ節に微小転移が検出された場合は、患者には第二の手術が必要であり、これによって、患者の外科的リスクおよび多数回の手術に関連する患者の不快感が増すであろう。肺癌または食道癌の場合は、リンパ節の手術中解析を用いて、必要な切除の度合いおよび/または術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy)の必要性を決定することが可能である。限定的ではないが、CEA、MUC-1、CK-19、チロシナーゼおよびMART-1などの特定の腫瘍特異的マーカーの発現レベルを、正確さ
を増して、30分間未満で決定する能力があれば、医師は、どのように進行するか、直ちに決定することが可能である。迅速試験はまた、医師の診療室で採取する針生検にも適用可能である。患者は生検(腫瘍またはリンパ節針生検など)の結果を得るのに何日も待つ必要がなく、いまや、非常に短時間で、より正確な結果を得ることが可能である。本明細書に記載する方法は、限定的ではないが、正常であろうと、または異常であろうと、発現される多様なRNA、DNA再編成、あるいはさらなるまたは異常な核酸、例えばウイルス核酸の存在を検出するのに適用可能である。
【0045】
[0063]マルチプレックス化および非マルチプレックス化QRT-PCRおよび/またはQPCR
のための上述の方法の商業化において、特定の核酸の検出用の特定のキットは、特に有用であろう。こうしたキットの一例には、上述の一試験管QRT-PCRプロセスに必要な試薬が
含まれるであろう。1つの例において、キットには、逆転写酵素、逆転写酵素プライマー
、対応するPCRプライマーセット、Taqポリメラーゼなどの熱安定性DNAポリメラーゼ、お
よび限定的ではないが、蛍光5'ヌクレアーゼアッセイ用プローブ、分子ビーコンプローブ、単一色素プライマーまたはエチジウムブロマイドなどの二本鎖DNAに特異的な蛍光色素
などの適切な蛍光レポーターを含む、上述の試薬が含まれるであろう。プライマーは、上述の高濃度を生じるであろう量で存在することが可能である。熱安定性DNAポリメラーゼ
は、多様な製造者から、一般的に、そして商業的に入手可能である。キットのさらなる材料には:適切な反応試験管またはバイアル、バリア組成物、典型的にはワックスビーズ、所望によりマグネシウムを含むもの;必要な緩衝剤およびdNTP類などの試薬を含む、逆転写酵素段階およびPCR段階用の反応混合物(典型的には10×);ヌクレアーゼ不含またはRNase不含水;RNase阻害剤;QRT-PCR反応の逆転写酵素段階および/またはPCR段階で使用
可能な、対照核酸(類)および/またはさらなる緩衝剤、化合物、補助因子、イオン性構成要素、タンパク質および酵素、ポリマー等のいずれかが含まれることが可能である。
【0046】
[0064]第二のキットは、上述のマルチプレックスPCR法に特異的である。キットには
、限定的ではないが、第一のTmを有する、低存在量核酸用の第一のPCRプライマーセット
、および第二のTmを有する、より豊富な核酸用の第二のPCRプライマーセットが含まれる
ことが可能である。プライマーセットの相対的Tmは、本明細書に記載する方法にしたがって、マルチプレックスPCR反応のバランスをとる能力に関して選択する。QRT-PCR用のキッ
トにおいて、キットにはまた:適切な逆転写酵素いずれか、増幅しようとする核酸に特異的な逆転写酵素プライマー、ワックスビーズなどのバリア組成物、熱安定性DNAポリメラ
ーゼ、および/または、限定的ではないが、蛍光5'ヌクレアーゼアッセイ用プローブ、分子ビーコンプローブ、単一色素プライマー、またはエチジウムブロマイドなどの二本鎖DNAに特異的な蛍光色素などの適切な蛍光レポーターが含まれることが可能である。該キッ
トには、低存在量RNAの検出のため、高感度逆転写酵素が含まれることが可能である。上
述のように、キット中のさらなる材料には:適切な反応試験管またはバイアル、バリア、典型的にはワックスビーズ、所望によりマグネシウムを含むもの;必要な緩衝剤およびdNTP類などの試薬を含む、逆転写酵素段階およびPCR段階用の反応混合物(典型的には10×
);ヌクレアーゼ不含またはRNase不含水;RNase阻害剤;QRT-PCR反応の逆転写酵素段階
および/またはPCR段階で使用可能な、対照核酸(類)および/またはさらなる緩衝剤、
化合物、補助因子、イオン性構成要素、タンパク質および酵素、ポリマー等のいずれかが含まれることが可能である。
【0047】
[0065]上述のキットまたはカートリッジにはまた、組織試料から核酸を手動でまたは自動的に抽出するのに適した試薬および機械的構成要素もまた、含まれることが可能である。これらの試薬は当業者に知られ、そして典型的には、設計選択の問題である。例えば、自動化プロセスにおいて、キットまたはカートリッジ中に提供される、適切な溶解溶液中で、組織を超音波的に破壊することが可能である。その後、生じた溶解溶液をろ過して、そしてやはりキットまたはカートリッジ中に提供されるRNA結合性磁気ビーズにRNAを結合させることが可能である。ビーズ/RNAを洗浄し、そして逆転写酵素反応前に、RNAを溶出することが可能である。自動化核酸抽出の場合は、試薬およびそのパッケージング様式(例えば使い捨て単回使用カートリッジ)の選択は、典型的には、CepheidのGenXpertプ
ロトタイプ系などの、特定の抽出系のロボット工学的および流体工学的な物理的配置によって決定される。
【0048】
[0066]キットの構成要素は、共にまたは別個にパッケージングすることが可能であり、そして各構成要素は、適切なように、1以上の試験管またはバイアル中で、あるいはカ
ートリッジ型(自動化装置で使用するための1以上の試薬を含有するモジュール単位)で
提示することが可能である。構成要素は、限定的ではないが、適切なように、凍結乾燥、ガラス化(glassified)、水性または他の型を含む多様な状態で、独立に、または共に、パッケージングすることが可能である。
【0049】
[0067]図1は、上述の自動化法で使用するためのカートリッジ10の横断面概略図であ
る。カートリッジ10は、所望の試薬いずれかを使用のため保管することが可能な、区画20を含む。区画20は、壁25によって分離される。カートリッジ10は、共通の通路40に流体的に連結された、多数の通路30を含む。バルブ部材50を共通の通路40の内部に示す。バルブ部材50は、個々の区画20から共通の通路40への試薬の流れを制御する。共通の通路40は、反応容器(未提示)に流体的に連結され、この容器中に区画20から試薬を移す。区画20内に含有される試薬には、限定的ではないが、細胞溶解用、核酸精製用、逆転写用またはPCR反応用の試薬が含まれることが可能である。図1は、分子精製およびアッセイを自動化するのに有用なカートリッジ装置の多くの可能な置換(permutation)の1つを示す。カートリッジおよび区画は、実験的要因によると共に、設計者の好みによって決定されるように、いかなる所望の形状およびサイズを有することも可能である。流体連結およびバルブの選択および配置もまた、設計選択の問題であり、そして非常に異なる可能性がある。
【0050】
実施例
実施例1 一試験管QRT-PCR
[0068]リアルタイムの蛍光に基づく5'ヌクレアーゼPCR(Gibson, U.E., C.A. HeidおよびP.M. Williams. 1996. A novel method for real time quantitative RT-PCR. Genom
e Res. 6:995-1001;Heid, C.A., J. Stevens, K.J. LivakおよびP.M. Williams. 1996.
Real time quantitative PCR. Genome Res. 6:986-994)およびABI PRISMTM7700(TaqMan(登録商標))配列検出装置(Applied Biosystems、米国カリフォルニア州フォスターシティー)などの装置の導入によって、いまや、定量的RT-PCRは、遺伝子発現レベルを測定するのに、広く認められる方法である。定量的RT-PCRは高感度な技術であり、そして臨床的組織におけるなど、限定的な量の核酸しか含まない試料の解析には特に有用である(Collins, C., J.M. Rommens, D. Kowbel, T. Godrey, M. Tanner, S.I. Hwang, D. Polikoff, G. Nonet et al. 1998. Positional cloning of ZNF217 and NABC1: genes amplified at 20q13.2 and overexpressed in breast carcinoma. Proc. Natl. Acad. Sci. USA
95:8703-8708)。これらの少量のRNAおよび/または非常に低存在量のmRNA種を定量化
する場合、定量的RT-PCRから最大の感度を得ることが非常に重要である。しばしば、入れ子PCRを連続して複数ラウンド使用して、最大感度を得るが、これは、達成することが困
難であり、そしてなお正確な定量を維持することが困難である。さらに、多数ラウンドのPCRは、所望の感度レベルで作業する際に深刻な問題となる、汚染のリスクを増加させる
。一試験管RT-PCR(RT用にリバースPCRプライマーを用いる、同一試験管におけるRTおよ
びPCR)は、反応試験管が開けられないため、ABI PRISM 7700を用いた場合の汚染のリス
クを減少させる。
【0051】
[0069]理論的には、一試験管法は、二工程アプローチ(別個のRTにPCRが続く)と同
一の感度を有するはずであるが、実際はそうではない(Battaglia, M., P. Pedrazzoli, B. Palermo, A. Lanza, F. Bertolini, N. Gibelli, G.A. Da Prada, A. Zambelliら. 1998. Epithelial tumour cell detection and the unsolved problems of nested RT-PCR
: a new sensitive one step method without false positive results. Bone Marrow Transplant 22:693-698)。一試験管RT-PCRの感度は、RT工程が相対的に非特異性である
ことによって制限されることが見出されている。この非特異性は、RTが比較的低温で、そしてホットスタートなしに行われ、したがって所望のRT「リバース」プライマーおよびまた「フォワード」PCRプライマー両方による、非特異的プライミングを可能にするという
事実から生じる。投入RNA試料において、標的量が減少するにつれて、コールドスタートRTプロセス由来のプライミング人為産物は、所望の標的配列のPCR増幅と競合し、そして該増幅の有効性を減少させる可能性がある。したがって、一試験管法では、RNA投入量が減
少するにつれて、最終的に、非特異的副反応が所望の反応との競合に勝ち、そして特異的な産物がまったく生成されなくなる。二工程または入れ子RT-PCR法において、特異性は、ホットスタートPCRおよびRTプライマーより5'上流のプライマーセットの使用によって達
成可能である。しかし、反応試験管を開けて、新たなプライマーを添加することを望まない場合(したがって二工程法ではなく一試験管法にする場合)、これは一試験管法にはあてはまらない。外部RTプライマーを用いて、そしてRT工程中、RTプライマーおよびPCRプ
ライマーを分離しつづけることによって、一試験管RT-PCRにおけるPCR特異性、そしてし
たがって感度は、維持可能であると仮定されている。ここに、感度を非常に増加させ、そしてABI PRISM 7700上での定量的RT-PCRに使用可能な、修正一試験管RT-PCRアッセイを提示する。
【0052】
[0070]50μl体積中、β-グルクロニダーゼ(β-gus)mRNAに関して、以下の最終濃度で、標準的一試験管反応をセットアップした:10 nM β-gus RTプライマー(5'-TTTGGTTGT-CTCTGCCGAGT-3')(SEQ ID NO: 2)、100 nMの各β-gus PCRプライマー(GUS-F、5'-C-TCATTTGGAATTTTGCCGATT-3')(SEQ ID NO: 3);GUS-R(5'-CCGAGTGAAGATCCC-CTTTTTA-3')(SEQ ID NO: 4)、100 nM β-gusプローブ(5'-6-fam-TGAACAGTCACCGACG-AGAGTGCTGG-tamra-3')(SEQ ID NO: 5)、1×TaqMan反応緩衝液(Applied Biosystems)、5.5 mM MgCl2、各300μM dNTP、20 U RNase阻害剤、62.5 U SuperScript IITM逆転写酵素(Life Technologies、米国メリーランド州ロックビル)および1.25 U AmpliTaq Gold(登録商標)(Applied Biosystems)。
【0053】
[0071]修正法において、AmpliWax(登録商標)PCR gem 50(Applied Biosystems)の使用によって、RT反応混合物およびPCRプライマー間の物理的分離を達成した。まず、β-gus PCRプライマーを最終5.0μl体積で、PCRプレートにピペッティングした。PCR gem 50を1つ、各ウェルに入れ、ウェルにふたをし、そしてプレートを簡単に遠心分離して、ワ
ックスバリアの上部の試験管壁に試薬が付着するのを避けた。その後、プレートを80℃に2分間加熱し、そして4℃に冷却して、ワックスバリアを生じた。その後、45μlの上層を
各ウェルにピペッティングした。この混合物は、β-gus RT プライマー、RNA、RNase阻害剤およびSuperScript II逆転写酵素を含有した。両方の層は、上述の濃度で、残る反応構成要素(緩衝剤、ヌクレオチド、MgCl2)すべてを含有するように配合した。RT層中のAmpliTaq Goldの存在は、95℃に加熱するまで不活性であるため、重要ではない。
【0054】
[0072]すべての反応は、以下のサーモサイクラー条件で、ABI PRISM 7700上で行った:48℃で30分間維持、95℃で12分間維持、その後、95℃20秒間および60℃1分間の40サイ
クル。ワックス層は、48℃のRT工程では損なわれないままであったが、12分間95℃のAmpliTaq Gold活性化工程中に融解し、したがって、PCRが開始する前に、2つの層を混合可能
にした。データは、Applied Biosystemsの配列検出ソフトウェアで解析した。
【0055】
[0073]まず、TaqManアッセイにおける蛍光検出に対するワックス層の影響を評価して、ワックスによる蛍光消光の度合いを決定した。肺腺癌細胞株(A549)由来のランダムプライミングcDNAを用いて、ワックス層を伴う、および伴わない、β-gusに関するPCRを20
回繰り返して行った。結果は、独立標本t-検定によって比較した際、2つの群間で、全体
の蛍光に減少がなく(P=0.935)、そしてサイクル閾値レベルに変化がない(P=0.55)
ことを示した。
【0056】
[0074]ワックスを含む、そして含まない、一試験管RT-PCRの感度を比較するため、5 ngから10 pgの脾臓総RNA(Clontech Laboratories、米国カリフォルニア州パロアルト)
の連続希釈を用いた。ワックス層を伴わないRT-PCRの結果は、蛍光(ΔRn)が、5 ngのRNA投入量であってさえ弱く、そして希釈ごとに、75%の平均係数で、さらに減少すること
を示した(図2A)。結果として、200 pg試料が、検出閾値より下に属した。しかし、ワックス層を使用すると、ΔRnは、40 pg希釈まで、本質的に同じままであり、そして10 pgのときのみ、ΔRnに60%の低下があった(図2B)。したがって、この修正法は、感度を少なくとも20倍増加させた。RT-PCRの効率(E)(式E=10(1/-s)-1によって計算されるも
の、式中、「s」は希釈由来の標準曲線の傾斜である)(PE Applied Biosystems User Bulletin #2. 1997. Relative quantitation of gene expression. Applied Biosystems、カリフォルニア州フォスターシティー)もまた、ワックスの使用によって改善された(ワックスなしでは67%であり、そしてワックスありでは77%)。各反応の10μlアリコット
を10%非変性ポリアクリルアミドゲル上で泳動し、そしてエチジウムブロマイドで染色した(図3)。ワックス層を用いると、期待されるサイズに対応する81 bp産物は、10 pg RNA希釈以外のすべてで可視であった(エチジウムブロマイドに対するTaqMan検出の付加的
な感度を立証する)。しかし、ワックスを用いない反応では、どの反応も、81 bpの明ら
かなシグナルを生じなかった。その代わり、すべてのRNA濃度で、非特異的産物のスメア
があった。
【0057】
[0075]Sensiscript RT(登録商標)(Qiagen、米国カリフォルニア州バレンシア)を用いて、同じ実験を行った。この酵素を用いると、PCR産物は、ワックス層の使用を伴わ
なくても、40 pg希釈に低下するまでかろうじて検出可能であった。しかし、総蛍光は、
各連続希釈と共に低下しつづけた。ワックスを添加すると、ΔRnは一定のままであり、そして検出は、10 pgに低下するまで容易に達成された。特に、この一試験管反応の効率は
、ほぼ100%であった(上述の方法を用いて測定)。したがって、ABI PRISM 7700におけ
る5'蛍光生成アッセイの一試験管RT-PCRの感度は、AmpliWax PCR gem 50の使用によって
、有意に増進する。PCR gemは、元来、ホットスタートPCRを容易にするように設計されたが、これは、自動的ホットスタート用の新規酵素にはもはや必要でない。ここで、これらの同じAmpliWax PCR gemが、一工程定量的RT-PCRの背景で有益であることが示される。さらに、PCR試験管を開く必要を排除することによって、cDNAまたはPCR産物汚染の発生を最小限にした。最後に、PCRの保存は、所望の産物の増幅を特異的に促進し、そしてこうし
たものとして、非定量的終点アッセイにおいてさえ、適切である。
【0058】
実施例2 20分間未満での定量的RT-PCR
[0076]以下は、Cepheid社のSmart Cyclerを用いて、20分間未満で完了可能な、定量
的逆転写反応に続くポリメラーゼ連鎖反応の一試験管二工程アッセイ(QRT-PCR)である
。Applied Biosystem 7700における5'蛍光生成アッセイ用のQRT-PCRの現在の方法は、2時間より多くを必要とする。プライマーおよびプローブ濃度を改変し、そしてSmart Cyclerの迅速傾斜能を利用することによって、逆転写酵素反応時間を2分間に減少し、そして40
サイクルの1秒間変性および6秒間伸長を用いて、PCR時間を16分間に減少した。
【0059】
[0077]25μl体積中、β-グルクロニダーゼ(β-gus)および癌胎児抗原(CEA)cDNA
のそれぞれに関して、以下の最終濃度で、PCR反応を設計した:400 nMの各β-gus PCRプ
ライマー(GUS-F、5'-CTC ATT TGG AAT TTT GCC GAT T-3')(SEQ ID NO: 3);(GUS-R
、5'-CCG AGT GAA GAT CCC CTT TTT A-3')(SEQ ID NO: 4)またはCEAプライマー(CEA-F、5'-AGA CAA TCA CAG TCT CTG CGG A-3')(SEQ ID NO: 6);(CEA-R、5'-ATC CTT GTC CTC CAC GGG TT-3')(SEQ ID NO: 7)、200 nM β-gusプローブ(5'-6-fam-TGAACAGTCACCGACGAGAGTGCTGG-tamra-3')(SEQ ID NO: 5)または200 nM CEAプローブ(5'-6-fam-CAA GCC CTC CAT CTC CAG CAA CAA CT-tamra-3)(SEQ ID NO: 8)、1×白金Taq反応緩衝
液、4.5 mM MgCl2、各300μM dNTP、0.06 U/μl白金Taq DNAポリメラーゼ(GIBCO BRL)。
【0060】
[0078]MgCl2を1.5、2.5、3.5および4.5 mM濃度で用いて試験を行い、そして4.5 mMがこのアッセイには最適であると決定した。これらの反応のcDNAは、A549細胞株(GUS)由
来のRNAおよびCEA陽性であった新鮮リンパ節RNA由来のRNAの250 ng投入量を用いて、GUS
およびCEAに関して、遺伝子特異的逆転写酵素反応から生成した。
【0061】
[0079]25μl体積中、β-gus mRNAおよびCEA mRNAに関して、上述と同一のPCR濃度お
よび以下の逆転写酵素濃度で、RT-PCR反応を設計した:60 nM β-gus逆転写酵素プライマー(5'-TTTGGTTGTCTCTGCCGAGT-3')(SEQ ID NO: 2)またはCEA逆転写酵素プライマー(5'-GTG AAG GCC ACA GCA T-3')(SEQ ID NO: 9)、1μl Sensiscriptおよび0.8 U/μl RNase阻害剤。RT-PCR用のRNA投入量は、400 ng A549および25 ngリンパ節であった。
【0062】
[0080]まず、1、2、5、7および10秒間の95℃での変性に30秒間の伸長とを組み合わせて、40サイクル行うことについて比較することによって、変性工程を最適化した。白金Taq活性化は、95℃で30秒間行った。この試験の結果は、どちらの遺伝子に関しても、1秒間の変性対10秒間の変性の間の感度に有意な喪失がないことを示す。次に、3、5、7、10、13、15および30秒間の64℃での伸長に15秒間の変性とを組み合わせて、40サイクル行うこ
とについて比較することによって、伸長工程を最適化した。白金Taq活性化は、95℃で30
秒間行った。
【0063】
[0081]この試験の結果は、GUSに関して、30秒間の伸長から3秒間の伸長にすると、およそ1.5サイクルの感度の最小の喪失を示す。CEAに関しては、30秒間の伸長から3秒間の
伸長にしても、有意な喪失は見られない。
【0064】
[0082]次に、1/3秒間のPCRから2/15秒間のPCRを40サイクルに渡って比較すること
によって、変性/伸長時間を改変する組み合わせの効果を評価した。結果は、GUSおよびCEAに関して、それぞれ、感度の2.2サイクルおよび1.1サイクルの喪失を示す。2/15秒間PCRは22分間を必要とするが、1/3秒間PCRは16分間を必要とし、したがって、感度のこの
有意でない喪失は、反応時間を6分間削減する価値が十分にある。
【0065】
[0083]変性から伸長への傾斜時間を減少する試みの中で、変性温度を95℃から90℃、それから85℃に減少させる影響を評価した。GUSに関しては、95℃または85℃で変性を行
った場合、感度に有意な喪失はない。CEAに関しては、変性を85℃で行うと、反応に失敗
したが、変性を95℃から90℃にしても、感度の有意な喪失は見られなかった。95℃変性に対して90℃変性を行うことによって得られる時間の長さは、40サイクルに渡って、約1.5
分間である。
【0066】
[0084]Taq活性化時間を評価すると、30秒間から10秒間にTaq活性化を減少させることによって、いずれの遺伝子に関しても、感度の有意な喪失は見出されなかった。
【0067】
[0085]PCR条件を最適化した後、逆転写酵素反応を最適化した。逆転写酵素反応は、15μlの総体積で行った。反応完了後、混合物を70℃に維持し、その時点でPCR構成要素(
総体積、10μl)を添加した。2、3、5、7および10分間の逆転写酵素反応時間を比較した
。両遺伝子に関して、95℃1秒間の変性および64℃5秒間の伸長を40サイクル含むPCR条件
と、逆転写酵素反応を組み合わせた。
【0068】
[0086]これらの逆転写酵素反応時間試験の結果によって、10分間の逆転写酵素反応から2分間の逆転写酵素反応にすると、GUSに関して1.1サイクル、そしてCEAに関して1.8サ
イクルの感度喪失が示される。次に、アッセイ感度に対する、RT-PCR時間を減少した影響すべてを、以下のRT-PCR条件を比較することによって評価した:1)10分間逆転写酵素反
応後、10秒間の変性および15秒間の伸長、40サイクル、総実行時間38分間の「ゴールド標準」、2)5分間の逆転写酵素反応後、1秒間の変性および5秒間の伸長の最適化PCR条件、40サイクル、総実行時間20分間、3)2分間の逆転写酵素反応後、最適化PCR条件、総実行時間17分間、および4)2分間の逆転写酵素反応後、1秒間の変性および3秒間の伸長の「迅速」RT-PCR、40サイクル、総実行時間15分間。Gusに関しては、「ゴールド標準」RT-PCRは
、25.88±0.78のCt(あらかじめ決定した閾値、参照蛍光レベルに達するのに要するサイ
クル数)を有し、一方、最適化PCR条件と組み合わせて2分間の逆転写酵素反応を行った場合、29.42±0.7のCtを有し、3.54の総サイクル相違を示した。CEAに関しては、「ゴール
ド標準」RT-PCRは、29.94±2.2のCtを有し、一方、最適化PCR条件と組み合わせて2分間のRTを行った場合、34.92±0.5のCtを有し、4.98の総サイクル相違を示した。
【0069】
[0087]より短いプロトコルの感度を増加させる試みの中で、GusおよびCEAのプライマー濃度を増加させる影響を評価した。RTプライマー濃度を60 nMから100 nMに、そしてF/R PCRプライマー濃度を400 nMから800 nMに増加させて、上述の実験を反復した。この試
験の結果は、CEAに関して、ゴールド標準対2分間最適プロトコル間で、2.3サイクルの相
違(低プライマー濃度で4.98)を、そしてGusに関して1.63(低プライマー濃度で3.54)
サイクルの相違を示す。この感度のわずかな喪失は、総RT-PCR時間が、38分間から17分間に減少したことを考慮すると、重要でない。
【0070】
[0088]新鮮なリンパ節cDNAの希釈シリーズに対する、1秒間の変性および6秒間の伸長、40サイクルの最適化条件を用いて、CEAのPCR効率を評価した。このアッセイの相関係数は0.9974であり、これは優れた再現性の指標である。PCR効率は、以下のように計算可能
である:
E=10(1/-s)-1、
[0089]式中、Sはテンプレート連続希釈の標準曲線の傾きに等しく、これに関して、C
tを対数DNA濃度に対してプロットする。したがって、このアッセイのPCR効率は96.7%で
ある。
【0071】
[0090]次に、2分間の逆転写酵素反応後、最適化条件を用いた40サイクルのPCRを用いて、アッセイのRT-PCR効率を評価した。新鮮リンパ節RNAの2×希釈シリーズを、400 ng脾臓RNA中で調製した。CEAおよびGUS両方に関するRT-PCRを行った。平均GUS Ctは、28.39±1.36であった。このアッセイの効率は、100パーセントより高い。Sensiscriptだけでなく、Superscript IIおよびSensiscriptの等量混合物を用いて、同一アッセイを行った。こ
のアッセイの効率は、100パーセントにより近かった。
【0072】
実施例3 迅速QRT-PCR:マルチプレックス化アッセイ
[0091]Smart Cyclerは、現在、4色蛍光検出が可能であり、そしてしたがってQRT-PCR反応のマルチプレックス化を可能にする。1つの目的は、RT-PCRの内部対照、RNA投入量を補正するための内因性参照遺伝子対照、および標的遺伝子(例えばCEA)を、すべて1つの試験管でマルチプレックス化することである。β-GUSおよびCEAをマルチプレックス化す
る最初の試験は、中程度のCEA mRNAレベルでうまく働いたが、非常に低レベルのCEAが存
在する場合は失敗した。したがって、この反応の感度は、微小転移検出には適切でなかった。これを克服する1つの方法は、内因性対照遺伝子に用いるPCRプライマーの量を制限することである。理論的には、これは、まれなCEA mRNA種が、特により後のサイクルで、より有効にPCR試薬に関して競合するのを可能にする。β-Gusまたは第二の内因性対照遺伝
子(18SリボソームRNA)でこれを行う試みもまた、適切な感度を生じるのに失敗した。
【0073】
[0092]2つのPCR反応間の競合が最も重要である場合、問題は最初のサイクルにあると仮定された。これを克服するが、それでもなお、余分な取り扱いを伴わずに、単一試験管でのアッセイを行うため、18S rRNA(およびβ-GUS)内因性対照プライマーを再設計し、それによりアニーリング温度がCEAプライマーのものより10℃低くした(本明細書に記載
する、QRT-PCR反応で用いるすべてのプライマーは、以下の表1に列挙する)。その後、2
回の20サイクル工程で、第一は64℃のアニーリング/伸長温度で、そして第二は53℃のアニーリング-伸長温度で、PCRを行った。マルチプレックス反応試薬濃度は、シングルプレックス反応で用いたのと同じであったが、以下の修正を含んだ。標的遺伝子プライマー濃度は400 nMであり、一方、内因性対照のプライマー濃度は100 nMであり、逆転写酵素プライマー濃度は各々60 nMであり、そしてサイクリング条件は、先に言及するように修正し
た。理論的には、18S rRNAプライマーは、最初の20サイクルでは機能しないであろうし、そしてCEA増幅は競合せずに進行可能である。次の20サイクルで、CEA PCR産物はすでに、18S rRNA PCRと効率的に競合可能である点まで増加しているであろう。この実験の結果を図4に示す。パネルAおよびCは、最適条件を用いたシングルプレックスで行った際の、18S
rRNAおよびCEAそれぞれの結果を示す。パネルBおよびDはマルチプレックス化した18S rRNAおよびCEAを示す。これらの反応が同一試験管中で、異なる蛍光色素を用いてマルチプ
レックス化されているが、ソフトウェアは、同一グラフ上に2つの色素をプロットするこ
とが可能でないことに注目されたい。シングルプレックス反応では、18S rRNAは、10サイクルで30蛍光単位の閾値と交差した(パネルA)。新規PCRプライマーおよび修正プロトコルを用いると、18S rRNA PCR反応は、26サイクルまで、すなわちアニーリング/伸長温度が53℃に低下した6サイクル後まで、閾値と交差しなかった(パネルB)。この反応は、30サイクル(20+10)で閾値と交差すると予想され、したがって、64℃であっても、最初の20サイクル中、ある程度の18S rRNA PCR増幅があるようである。CEA反応において、シン
グルプレックスは、33.5サイクルで閾値に達し(パネルC)、一方、マルチプレックス化CEAは、34.5サイクルで閾値に達した。したがって、この反応では、1サイクル分の感度し
か喪失しなかった。
【0074】
【表1】
【0075】
[0093]注目すべきことに、上述のCEAプライマーは、CEA mRNAのエクソン6および7の
間の接合部に渡るように設計した。該プライマーはまた、CEA mRNAのエクソン2〜3間の接合部に渡る配列も増幅する。このプライマーセットは、特定の、より初期に記載されたプライマーセットに勝る選択性を得るよう、選択した。CEA配列(図5、GenBank寄託番号XM012777)の1以上の隣接ヌクレオチドを、いずれかのCEAプライマーの5'端または3'端へ付
加することは、プライマーセットのTmの、予想される変化に関するものを除き、上述のアッセイに認識可能に影響を与えないであろう。上述のCEAフォワードプライマーおよびリ
バースプライマーが選択されるのと同一の一般的な領域(エクソン2〜3およびエクソン6
〜7接合部)から、他のCEA特異的プライマーを選択して、上述のCEAプライマーと同一の
または類似の影響を生じることが可能である。好ましくは、選択されるプライマーセットはいずれも、約100塩基未満のアンプリコンを生じ、これは迅速QRT-PCRアッセイを行う能力に拍車をかけるであろう。
【0076】
実施例4 節-陰性食道癌患者における定量的逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応の予後的価
値
序論
[0094]食道腺癌の発生率は、憂慮すべき速度で増加し、いかなる他の固形腫瘍のものも超えている。進行した疾患を示す患者の50%までが、10〜13%の総5年生存率を生じる
。他の腫瘍種でのように、食道癌患者の生存は、リンパ節関与の組織学的証拠によって、強く予測される。リンパ節病期分類のための現在の組織学的方法は、患者集団に関して、信頼しうる情報を提供するが、その集団内の個々の患者の結果を予測することは不能である。例えば、組織学的に節陰性である食道癌患者の30〜50%は、潜在的に治癒可能な切除にもかかわらず、5年以内に疾患再発を患うであろう。この初期治療の失敗は、日常的な
組織学的評価によって未検出である、腫瘍の微小転移が広がることに起因しうることを示す、多数の状況証拠がある。したがって、リンパ節微小転移の検出をより高感度にし、それによって食道癌患者のより個別化した予後および治療計画を可能にする、明らかな必要性がある。
【0077】
[0095]現在のリンパ節評価の主な問題は、試料採取が誤っていること、および個々の腫瘍細胞または小さい腫瘍病巣を検出する感度が低いことである。組織学的検査は、各リンパ節の非常に少ない割合しか試料採取せず、そして病理学者が、直径が3つの腫瘍細胞
である微小転移病巣を検出するのは、わずか1%の確率でしかないことが計算されている
。腫瘍マーカーの免疫組織化学的染色によって、微小転移検出の感度が改善され、そして連続切片作成と組み合わせて、試料採取の誤りを減少させると、有意な数の患者の病期が上昇する(upstaging)。この技術は、食道癌で用いられてきており、そして組織学的に
陰性である節の17%が、微小転移疾患を含有することが見出された。この報告では、IHC3陽性リンパ節は疾患再発と相関したが、後の研究でIHCはいかなる予後的価値も示さず、
これらの発見に疑問が呈された。他の研究は、RT-PCRなどの分子的方法を用いて、微小転移を検出してきている。RT-PCRは、CEA、サイトケラチン19、サイトケラチン20などの腫
瘍マーカーのmRNAを、組織学的に癌不含である血液、骨髄、およびリンパ節を含む多様な組織において、検出可能である。食道癌では、RT-PCRがいくつかの少数の患者シリーズに対して行われてきているが、臨床的追跡調査がほとんど報告されていないため、RT-PCR陽性節の臨床的有意性は知られていない。他の腫瘍種では、RT-PCRが感度を改善することが研究によって示されてきているが、癌でない患者由来の対照リンパ節における劣った特異性および偽陽性結果が、この情報の臨床的適用を困難なものにしている。偽陽性は、少なくとも部分的に、すべての組織種で、ほとんどの遺伝子の発現を非常に低いバックグラウンドレベルにする、先に記載される異所性(ectopic)遺伝子発現の現象に起因しうる。
したがって、先の研究は、ゲルに基づく定性的RT-PCR法を用いてきたが、現在、腫瘍マーカー検出のためのこの単純なプラス/マイナス法は、常に、微小転移の信頼しうる徴候であるわけではないことが明らかになりつつある。蛍光5'ヌクレアーゼアッセイの導入で、QRT-PCRは、現在、比較的単純な技術である。したがって、定量的解析は、ゲルに基づくRT-PCRより有意な利点を提供し、そして組織学的に節陰性である食道癌患者において、疾
患再発の正確な予測を可能にするであろうと仮定された。本発明の目的は、3つの部分で
ある:(a)リンパ節におけるCEAのバックグラウンド遺伝子発現、および真の微小転移を診断する臨床的に適切なレベルの間を正確に区別する、QRT-PCRの能力を決定すること;
(b)リアルタイムQRT-PCRを用いて、30の節陰性食道癌患者由来のリンパ節を解析し、そして疾患再発と結果を相関させること;および(c)同一試料に対して、標準的なゲルに
基づくRT-PCRとQRT-PCRを比較すること。QRT-PCRは、真の転移疾患からバックグラウンド発現を容易に区別可能であり、QRT-PCRは、節陰性食道癌患者における疾患再発を予測す
るのに、高感度および特異的であり、そしてQRT-PCRは、ゲルに基づくRT-PCRより高い特
異性を有することが見出された。これらの結果から、定量化は、RT-PCRが微小転移疾患用の有用な臨床的試験となるのを妨げてきた問題すべてに対処すると考えられる。
【0078】
材料および方法
[0096]患者:組織学的にリンパ節陰性である食道癌の治癒的切除を受けた30人の患者
由来の387のリンパ節を含有する140のパラフィンブロック由来の組織を調べた。すべての手術は、1991年から1998年の間、ピッツバーグ大学付属病院の胸部外科で行われたものである。生存状態および再発情報は、医学的記録の再検討、かかりつけ医との個人的接触、および死亡証明書を組み合わせて得た。2001年8月の時点で、すべての患者に関する追跡
調査データを確認した。生存患者の追跡調査時間の中央値は、49ヶ月であった(範囲は28〜91ヶ月)。人口統計データおよび臨床的特性を収集した(表2)。陽性対照として、10
件の原発腫瘍(8件の腺癌および2件の扁平上皮癌)および4件の組織学的に陽性のリンパ
節由来の組織ブロックを得た。癌と関係ない原因(ヘルニア修復および逆流防止法)で食道手術を受けた患者、およびリンパ節が付随的に除去された患者由来の陰性対照(良性)リンパ節を得た。
【0079】
【表2】
【0080】
[0097]組織およびRNA単離:研究に用いたすべての組織は、病理組織バンクから得た
、ホルマリン固定しパラフィン包埋した、アーカイブ標本であった。H&E染色したスライドもまた、各組織ブロックに関して回収して、そして元来の節陰性診断を確認するために調べた。組織ブロックをミクロトームに乗せ、そして5〜15の5.0μm切片を切り、そして2.0 mlのRNase不含試験管に入れた。同時に、2つの5.0μmの切片を切り(最初および最後
の切断)そしてCEAに対する抗体で免疫組織化学染色するため、顕微鏡スライド上にマウ
ントした。RNAは先に記載される方法(Godfrey, T.E., Kim, S.-H., Chavira, M., Ruff,
D.W., Warren, R.S., Gray, J.W.,およびJensen, R.H. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quanti
tative RT-PCR. J. Mol. Diagn., 2:84-91, 2000)を用いて単離し、そしてRNA安定再懸濁溶液(Ambion、テキサス州オースティン)中で保管した。RNAは、DNA不含キット(Ambion)を用いて、DNase処理し、そして分光光度法で定量化した。
【0081】
[0100]QRT-PCR:QRT-PCRは、5'ヌクレアーゼアッセイおよびApplied Biosystems 7700配列検出装置(TaqMan)を用いて行った。CEA発現は、先に記載される比較CT法を用いて、内因性対照遺伝子、β-Gusに比較して測定した(Godfrey, T.E., Kim, S.-H., Chavira, M., Ruff, D.W., Warren, R.S., Gray, J.W.,およびJensen, R.H. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. J. Mol. Diagn., 2:84-91, 2000;Tassone, F., Hagerman,
R.J., Taylor, A.K., Gane, L.W., Godfrey, T.E., およびHagerman, P.J. Elevated Levels of FMR1 mRNA in carrier males:a new mechanism of involvement in the fragile-X syndrome. Am. J. Hum. Genet., 66:6-15, 2000)。すべてのQRT-PCRアッセイは、2つのRNA投入量、400 ngおよび100 ngで行い、そして各濃度に関して、二つ組反応をセッ
トアップした。したがって、報告するCEA発現レベルは、4つの独立のQRT-PCR反応の平均
である。RT陰性対照は、400 ngのRNAを用いるが、逆転写酵素を省いて、すべての試料に
関して行った。テンプレート陰性対照もまた、各PCRプレート上で行った。すべてのプレ
ート上で、平行して較正RNA試料を増幅して、異なる時点で調べた試料の比較を可能にし
た(Godfrey, T.E., Kim, S.-H., Chavira, M., Ruff, D.W., Warren, R.S., Gray, J.W.,およびJensen, R.H. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. J. Mol. Diagn., 2:84-91, 2000;PE Applied Biosystems user bulletin #2. Relative quantitation of gene expression、Perkin-Elmer, Corp.、コネチカット州ノーウォーク、1997)。
【0082】
[0101]最大感度のため、そして交差汚染のリスクを排除するため、先に記載された単一試験管QRT-PCR法を用いた(Raja, S., Luketich, J.D., Ruff, D.W., Kelly, L.A.,お
よびGodfrey, T.E. A Method for increased sensitivity of one-step quantitative RT-PCR. Biotechniques, 29:702-705, 2000)。この方法では、逆転写反応混合物(RT)およびPCRプライマーの、ワックス層を用いた物理的分離によって、より特異的でそして高
感度のRT-PCRを生じる。PCRプライマーを10μl体積で、PCRプレートにピペッティングし
た。その後、Ampliwax PCR gem 50(Applied Biosystems)を1つ、各ウェルに入れ、そしてプレートを80℃に2分間加熱し、そして4℃に冷却して、ワックスバリアを生じた。その後、40μlの上層を各ウェルにピペッティングした。反応構成要素の最終濃度は以下のと
おりであった:1×PCR緩衝液A、各300 nMデオキシヌクレオチド三リン酸、3.5 mM MgCl2
、0.4単位/μl RNase阻害剤、1.25単位/μl Superscript II逆転写酵素(Life Technologies, Inc.、メリーランド州ガイザーズバーグ)、0.06単位/μl Amplitaq Gold(Applied Biosystems)、20 nM逆転写酵素プライマー、200 nMの各PCRプライマー、200 nMプローブ(β-Gusプライマーおよびプローブは100 nMであった)、および100 ngまたは400 ng総RNA。用いたオリゴヌクレオチド配列を表3に示す。すべてのRT-PCR反応は、以下のサーモサイクラー条件で、ABI 7700上で行った:48℃で40分間維持、95℃で12分間維持、その後、95℃15秒間および64℃(β-Gusは60℃)1分間の45サイクル。データは、CEAに関して0.03、そしてβ-Gusに関して0.045に閾値を設定し、配列検出ソフトウェア(Applied Biosystems)を用いて解析した。
【0083】
【表3】
【0084】
[0102]ゲルに基づくRT-PCR解析:PCR産物汚染の可能性を回避するため、QRT-PCRを行ったすべてのPCRプレートは、定量的解析が完了するまで未開封のまま保管した。その後
、2つの400 ng RNA投入反応および1つの400 ng RT不含対照由来のPCR産物を、4%アガロ
ースゲル上で分離し、エチジウムブロマイドで染色し、そしてゲル文書化系上で視覚化した。正しいサイズのバンドが二つ組反応の両方で観察されたが、RT不含対照で観察されなかった場合、患者をRT-PCR陽性と分類した。
【0085】
[0103]統計解析:対照組織試料におけるCEAレベルの比較(図6)は、Mann-Whitney U検定で行った。食道癌患者由来の病理学的に陰性であるリンパ節に関しては、主な終点は、手術時点から再発が診断された時点まで、または追跡調査の最後の日まで測定される、疾患再発であった。各患者組織ブロック由来の最高のCEAレベルを用いて、再発をゴール
ド標準として用いて、ROC曲線を構築した。最も正確な分類を生じるCEA発現レベル切り捨て値を同定し、そしてそのレベルを用いて、再発リスクに関して、患者をQRT-PCR陽性ま
たは陰性と分類した。患者の第二の組は、切り捨て値の見込み評価に利用可能でなかったため、交差検証(cross validation)によって切り捨て選択法を統計的に評価して、そしてROC曲線統計のSDを、ブートストラップ・リサンプリングによって計算した(Davison, A.C.,およびHinkley, D.V. Bootstrap Methods and Their Applications. 英国ケンブリ
ッジ:Cambridge University Press, 1997)。標準的RT-PCRおよびQRT-PCR結果を含む、
臨床的および病理学的要因に関して、Kaplan-Meier疾患不含および総生存曲線をプロットした。ログランク検定によって疾患不含生存の解析を行い、そしてCox比例ハザードモデ
ルを構築することによって、多変量解析を行った。予測要因のリストには、分類要因である、性別、腫瘍病理、RT-PCRおよびQRT-PCRによる分類、手術前化学療法および/または
放射線療法、並びに病理学的T段階と共に、定量的要因である、CEA発現レベル、年齢、および試験のため取り除いた節の数が含まれた。モデル間のすべての比較は、入れ子モデルの尤度比検定間の相違に基づいた。比例的仮定の適切さは2つの方法:累積ハザードの対
数を時間の対数によってプロットすることによる方法、およびSchoenfeld残差をプロットし、そして回帰係数および時間の間の相関を概算することによる方法でチェックした。
【0086】
[0104]結果−節陰性患者の特性:節陰性食道癌を持つ30人の患者のTNM分類には、T1N0M0(n=10)、T2N0M0(n=5)、およびT3N0M0(n=10)が含まれた。生検で診断された
癌を持つ1人の患者は、切除標本上に癌の証拠がなく、そして術前補助化学療法を受けた4人の患者には、切除時点で残存する、検出可能な腫瘍がなかった。原発腫瘍の位置は、25件の食道部位低部3分の1、5件の中央食道部位、および0件の上部食道部位を含んだ。26件の腺癌および4件の扁平上皮癌があった。22人の男性および8人の女性がいて、そして診断
時の患者年齢中央値は、70歳であった。30人の患者のうち17人は死亡し、10人は癌のためであり、そして7人は他の原因によってであった。生存中の患者に関しては、追跡調査の
中央値は49ヶ月であった(範囲は28〜91ヶ月)。総生存の中央値は36ヶ月であった。患者特性の完全な明細を以下の表4に提供する。
【0087】
[0105]CEA発現の定量的解析:まず、節陰性研究群とは別個であり、そして原発性食
道腫瘍、転移に関して組織学的に陽性であったリンパ節(N1)、および癌でない患者由来の良性リンパ節を含む、3つの供給源から、RNAを単離し、そして解析した。CEA発現は、
すべての腫瘍およびN1節で、そして良性リンパ節の50%で検出された(図6)。Mann-Whitney U検定を用いて、個々の対比較を行って、そして腫瘍およびN1節両方の発現レベルが
、良性リンパ節におけるより、有意に高いことを見出した(それぞれ、P=0.002および0.0021)。CEA発現は、N1リンパ節におけるより、腫瘍試料において、わずかにより高かっ
たが、これは統計的に有意でなかった(P=0.171)。
【0088】
[0106]研究群由来の組織学的に陰性である(N0)リンパ節を解析すると、広い範囲のCEA発現が立証された。発現は、検出不能から組織学的に陽性のリンパ節で見られるのに
等しいCEA発現を持つ1つの節までの範囲であった。各患者由来の最高発現の節からのデータを、疾患再発情報と組み合わせて、ROC曲線解析を用いて解析した。この解析から、最
も正確に再発を予測する、発現レベル切り捨て値を決定した(図7)。ROC曲線下の面積は、0.88であり、0.71から0.97の95%信頼性であって、分類の正確さが確率のみよりも有意に優れていることが示された。解析した140の組織ブロックのうち、12件(9%)が切り捨て点より高いCEA発現レベルを有し、そして総数11人の患者(34%)が、切り捨て値より
高い発現のブロックを1以上有した。これらの11人の患者を、潜在性微小転移のQRT-PCR証拠を有すると分類した。「最も陽性」の組織ブロックは、1つ(患者28)を除いてすべて
の切片が、CEAに対する抗体での免疫組織化学染色に関して陰性であった。
【0089】
[0107]ゲルに基づくCEA発現解析:この解析で、総数25件(18%)の組織ブロックが
、ゲルに基づくアッセイを用いて、CEA発現に関して陽性であり、そして15件(50%)の
患者が、少なくとも1つの陽性ブロックを有した。良性障害を持つ患者由来の10件のリン
パ節のうち2件では、ゲルに基づくアッセイ上で、CEA PCR産物が示された。定量的アッセイおよびゲルに基づくアッセイの比較は、ゲル上で陽性のすべての試料が、TaqManアッセイでもまたシグナルを生じることを示した。
【0090】
[0108]潜在性微小転移および再発:研究した30人の患者のうち、10人が、疾患再発を患い、そして研究終了時までに死亡した。残る20人の患者のうち、7人が他の原因で死亡
し、そして13人が、再発疾患の証拠なしに生存している。1人の患者は、初期吻合部(anastomatic)再発を患い、これは光力学的療法および放射線療法で治療した。この患者は、後に、小細胞肺癌と診断され、そしてこれで死亡した。定量的アッセイの最も正確な切り捨て値を用いて、総数11人の患者をQRT-PCR陽性と分類し、そしてこれらのうち9人は再発を患った。同じ9人の患者は、再発しなかった他の6人の患者と共に、ゲルに基づくアッセイを用いて、RT-PCR陽性と同定された。QRT-PCRアッセイを用いて疾患再発を予測するた
めの感度および特異性は、90%および90%であり、陽性予測値は82%であった。ゲルに基づくアッセイを用いると、感度および特異性は、90%および70%であり、陽性予測値は60%であった。図8は、RT-PCR(A)およびQRT-PCR(C)によって分類される患者コホートの疾患不含生存と共に、総生存(BおよびD)を示す。RT-PCR陰性であった患者の疾患不含生存は、どちらのアッセイを用いても94%であった。陽性分類の患者は、どちらの方法でも、より劣った予後を有した。ログランク検定は、QRT-PCR(P=0001)およびゲルに基づくRT-PCR(P=0038)がどちらも、節陰性食道癌患者における再発の有意な予測因子である
ことを示す。総生存もまた、QRT-PCRまたはRT-PCR陽性患者で、より劣っていた(それぞ
れP=0.0006および0.106)。
【0091】
[0109]QRT-PCRおよびRT-PCRに加え、このコホートにおける疾患再発を予測すること
が見出された、他の臨床的、病理学的、または治療因子は、病理学的T段階(ログランク
検定、P=0.0777)および手術前化学療法および/または放射線療法(ログランク検定、P=0.0307)のみであった。多変量解析において、Cox回帰モデルからの尤度比統計によっ
て、バイナリー変数、QRT-PCR陽性または陰性としてのCEA分類は、病理学的T段階および
手術前化学療法または放射線療法と比較した際、有意で、そして独立した、再発の予測因子であることが示された。
【0092】
考察
[0110]リンパ節関与は、多くの固形腫瘍で、最強の予後要因であり、そしてリンパ節微小転移の検出は、最近の文献で多くの関心を集めてきた。現在のリンパ節評価は、H&E染色組織切片の顕微鏡検査を伴い、そして2つの大きな限界に苦しむ:(a)単一腫瘍細胞、または細胞の小さい病巣が容易に見のがされ;そして(b)1または2の組織切片しか研
究せず、そしてしたがって、各節の大部分は調べられないままである。連続切片作成は、試料採取の誤りの問題を克服可能であり、そしてIHCは、個々の腫瘍細胞を同定可能であ
る。しかし、これらの方法の組み合わせは、日常の解析にはあまりにもコストおよび時間がかかりすぎ、そして前哨リンパ節検査などの特別の場合に限定される。RT-PCRは、より多量の組織を解析可能であるため、試料採取の誤りの問題を克服するし、そしていくつかの報告は、RT-PCRがIHCより多くの陽性リンパ節を同定することを示す。これはまた、本
研究でも、QRT-PCR陽性リンパ節ブロックの1つのみがIHC解析で陽性であったのにあては
まった。
【0093】
[0111]最近の研究はまた、非QRT-PCR確実性が、疾患再発と正に相関することも示す
が、これらの研究で報告される特異性は低い。Liefersらによる1つの研究では(13. Liefers, G.J., Cleton-Jansen, A.M., van de Velde, C.J., Hermans, J., van Krieken, J.H., Cornelisse, C.J.,およびTollenaar, R.A. Micrometastases and survival in stage
II colorectal cancer [コメントを参照されたい]. N. Engl. J. Med., 339:223-228, 1998.)、26人の組織学的にN0の結腸癌患者のうち14人は、RT-PCRを用いると、微小転
移疾患の証拠を有し、そして残る12人は、RT-PCR陰性であった。12人のRT-PCR N0の患者
のうち、1人のみが6年間の追跡調査期間中に再発し、一方、14人のRT-PCR N1の患者のう
ち、7人が再発を患った。したがって、終点として再発を用いると、この研究は、88%の
感度を達成した。しかし、RT-PCR陽性節の7人の患者が再発しなかったため、特異性はわ
ずか61%であった。他の研究が、黒色腫患者において、非QRT-PCRに関して、同様の低特
異性を示した。Shiversら(Shivers, S.C., Wang, X., Li, W., Joseph, E., Messina, J., Glass, L.F., DeConti, R., Cruse, C.W., Berman, C., Fenske, N.A., Lyman, G.H.,およびReintgen, D.S. Molecular staging of malignant melanoma:correlation with clinical outcome. JAMA, 280:1410-1415, 1998)は、86%の感度および51%の特異性を
達成し、そしてBostickら(Bostick, P.J., Morton, D.L., Turner, R.R., Huynh, K.T.,
Wang, H.J., Elashoff, R., Essner, R.,およびHoon, D.S. Prognostic significance of occult metastases detected by sentinel lymphadenectomy and reverse transcriptase-polymerase chain reaction in early-stage melanoma patients. J. Clin. Oncol., 17:3238-3244, 1999)は、100%の感度および67%の特異性を報告した。この低い特異性は、実行間の変動を正確に管理することが不能であることと共に、臨床設定でのRT-PCRの潜在能力を制限してきた。
【0094】
[0112]本研究で、組織学的にN0である食道癌患者のリンパ節において、CEA発現を定
量的にアッセイし、そして潜在性微小転移を検出するためのTaqMan RT-PCRの使用を評価
した。この定量的解析は、臨床的に適切なCEA発現レベル切り捨ての定義、および他の研
究者により報告される、バックグラウンドまたは異所性CEA発現と関連する問題の克服を
生じた。このアプローチを用いて、30人の患者のうち11人が、QRT-PCR陽性と同定され、
そしてこれらの患者のうち9人が疾患再発を患った。QRT-PCR陰性であった19人の患者のうち1人のみが、本研究経過中に再発を患った。興味深いことに、再発しなかった20人の患
者のうち、11人が、対照リンパ節に見られるより高い(バックグラウンドレベルより高い)、検出可能なCEA発現を有し、そして2人が、疾患再発を予測する切り捨てレベルより高かった。ある場合、これは、pN1患者であっても、〜20%の予測5年生存を有する可能性があるため、手術によって治癒する、限定的な節疾患の存在を示す可能性があった。残る試料中のCEA発現は、生存不能であり、そしてアポトーシスを経る可能性がある、個々の散
在腫瘍細胞、原発部位での腫瘍細胞アポトーシスの結果としてのリンパ系における細胞不含RNA、または外科医によって不注意に導入された混入細胞いずれかの結果である可能性
があった。
【0095】
[0113]疾患不含生存および総生存はどちらも、QRT-PCR陽性患者と比較して、QRT-PCR陰性患者で、有意により高かった。さらに、QRT-PCR陽性群の疾患不含生存は、3年でわずか27%であり、微小転移疾患が組織学的にN1である疾患と同程度に臨床的に重要である可能性があることが示された。1人の患者の例外があったが、患者あたり、1つの陽性組織ブロックのみが同定され、疾患の広がりが限定的であることが示された。陽性リンパ節はすべて、局所領域的であり、そしてしたがって、腹腔または頚部リンパ節関与によって定義されるように、M1aではなくN1状態を与えるであろう。これらの組織学的にN0である患者
における限定的な節関与は、病期分類法中、異なる節の場所から、適切なリンパ節試料を採取する必要性を強調する。
【0096】
[0114]節陰性疾患の患者サブセットは、過去、比較的少数であったが、食道癌が劇的に増加したことから、初期段階疾患の患者をより頻繁に同定する、監視プログラムが生まれた。したがって、これらの患者を正確に病期分類する方法が、より重要になってくるであろう。本明細書の、同一試料のゲルに基づく解析と定量的データの比較は、QRT-PCRが
、試験特異性を改善しつつ、同じ高感度を維持することを示した。QRT-PCRはまた、PCR産物交差汚染のリスクを最小限にして、自動化した、手動操作のいらない解析に受け入れやすい、目的の結果を生じる。こうした自動化は、QRT-PCRが日常的な臨床アッセイになろ
うとするのならば、必須であろう。
【0097】
[0115]さらに、定量的方法は、厳しい制御の使用を可能にして、実行間のアッセイの正確さおよび信頼性を確実にする。例えば、記載される実験で、較正試料をすべてのPCR
プレート上で実行し、日々の変動を補正した。この方法論を用いると、再現性試験は、測定の95%信頼性制限が0.511サイクルであることを示す(データ未提示)。定量的アッセ
イの再現性を正確に評価する能力は、RT-PCRを臨床的設定で用いようとする場合、必須であろう。ゲルに基づくアッセイでは、このレベルのアッセイ確認は達成不能である。QRT-PCRによって測定したCEAレベルによって患者を分類する予測上の能力は、CEAを測定した
のと同一の患者で切り捨て値を評価したために、楽観的であろうことが認識される。最も正確な切り捨て値に関して、同じ方法を第二の組の患者に適用した場合、分類は、より成功しない可能性があろう。この目的のため、交差検証によって、感度、特異性、および分類の正確さの再解析を行った(n=10000)。特異性の交差検証概算は0.82であり、そして正確さは0.82であった(元来の試料の、それぞれ0.90および0.90と比較)。したがって、元来の試料の分類の成功がわずかに誇張されていたが、この楽観論を補正した後であっても、QRT-PCRによる分類は、ゲルに基づくアッセイよりも改善されているままであった。
【0098】
[0116]結論として、これらのデータは、QRT-PCRが、食道癌患者の組織学的に陰性で
あるリンパ節において、高い特異性で、微小転移疾患を検出可能であることを立証する。微小転移疾患の存在は、強力で独立した癌再発の予測因子であり、そして定量化は標準的RT-PCRアッセイに勝ることもまた示した。定量的RT-PCRは、初期段階の食道癌患者のいず
れが再発に関して高リスクであるか、そしていずれがさらなる療法から利益を得る可能性があるのかを同定可能であるはずである。最後に、この定量的アプローチは、他の腫瘍種においても同様の利益を生じるはずである。
【0099】
【表4−1】
【0100】
【表4−2】
【0101】
実施例5 手術中定量的RT-PCRは、食道癌患者において、節転移を検出する
序論:
[0117]食道癌および他の悪性腫瘍における外科的決定は、しばしば、リンパ節の手術中凍結切片解析に基づく。食道癌患者の5年生存は、最初の提示時点で多くの患者に進行
した疾患が存在するため、5〜10%で不十分な値のままである。しかし、局所および領域
性リンパ節が組織学的に陰性である場合、5年生存には劇的な改善がある。にもかかわら
ず、組織学的に節陰性である患者の30〜50%は、疾患再発を患う。これは、微小転移の検
出において、現在の病期分類技術に限界があるためである可能性が最も高い。結果として、免疫組織化学または逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)などの他の技術が、
組織学的に潜在性である微小転移を検出する試みの中で用いられてきた。
【0102】
[0118]食道癌、結腸癌、黒色腫および乳癌に関する研究によって、RT-PCRが組織学的に潜在性である微小転移を検出可能であり、そして再発を予測可能であることが示されてきている。しかし、対照試料において、偽陽性結果が生じ、そしてそれに続いて、RT-PCRアッセイの特異性および陽性予測値が低くなるため、これらのデータは、批判されてきている。定量的RT-PCR(QRT-PCR)が、真の微小転移から、バックグラウンド異所性遺伝子
発現を区別することを可能にし、そしてしたがって、偽陽性を回避し、そして疾患再発を予測する特異性を増加させることが可能であると示されてきている。次の目的は、外科医に、この重要な情報を、重要な外科的決定が手術中になされる時点で、提供可能にすることである。
【0103】
[0119]本実施例に記載するのは、30分間未満で実行可能な、非常に迅速なQRT-PCRア
ッセイの開発および試験である。迅速アッセイを認証するため、これを、食道癌患者の標準的QRT-PCRおよび臨床的結果と比較する。
【0104】
材料および方法:
患者
[0120]既往分析のため、組織学的にリンパ節陰性である食道癌の治癒的切除を受けた30人の患者由来のリンパ節を研究した(表5)。すべての手術は、1991年から1998年の間
、ピッツバーグ大学付属病院の胸部外科で行われたものである。臨床的追跡調査は、医学的記録から得て、そして2001年8月の時点で、すべての患者に関して確認した。すべての
患者の医学的追跡調査時間の中央値は、36ヶ月であり、そして生存患者の追跡調査時間の中央値は、49ヶ月であった(範囲は28〜91ヶ月)。
【0105】
【表5】
【0106】
[0121]見込み分析のため、1999年〜2000年に、ピッツバーグ大学付属病院の胸部外科で同定された食道癌の病期分類または切除、いずれかを受けた、12人の患者から、リンパ節試料を得た(表6)。癌でない患者由来の対照節は、逆流防止法の腹部手術を受けた患
者から、付随的に得た。切除時点で、解析のため、各リンパ節の半分を液体窒素中で凍結し、そして残りを日常的病理解析に送った。切除組織は、我々の施設で、日常的な臨床過程の一部であり、そしてそうしたものとして、いかなる純粋な研究目的にも、さらなる組織は除去しなかった。すべての組織は、ピッツバーグ大学で進行中のIRB認可食道癌リス
ク登録プロトコルの一部として収集した。
【0107】
【表6】
【0108】
組織およびRNA単離
[0122]既往研究に用いたすべての組織は、病理組織バンクから得た、ホルマリン固定しパラフィン包埋した、アーカイブ標本であった。ヘマトキシリンおよびエオジン染色したスライドもまた、各組織ブロックに関して回収して、そして元来の節陰性診断を確認するために調べた。組織ブロックをミクロトームに乗せ、そして5〜15個の5.0μm切片を切
り、そして2.0 mlのRNase不含試験管に入れた。同時に、2つの5.0μm切片を切りだし(最初および最後の切片)そしてH&Eで染色すると共に、CEAに対する抗体で免疫組織化学染
色するため、顕微鏡スライド上にマウントした。RNAは先に記載される方法(Godfrey TE,
Kim S-H, Chavira M, Ruff DW, Warren RS, Gray JWら. Quantitative mRNA expression
analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. Journal of Molecular Diagnostics 2000:2(2):84-91)を用いて単離し、そして分光光度法で定量化した。
【0109】
[0123]新鮮凍結リンパ節組織をOCTコンパウンドに包埋し、そして10〜15個の4.0μm
切片を切り出した。同時に、2つの4.0μm切片を切りだし(最初および最後の切片)そし
てH&E染色するため、顕微鏡スライド上にマウントした。残った切片は、RNeasyミニキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)の溶解緩衝液を含む、1.5 ml RNase不含試験管に入れた。RNAは、以下の修正を含み、製造者が推奨するプロトコルを用いて抽出した
。1分間を超える遠心分離時間を1分間に減少し、そしてRNAは、60μl RNA安定再懸濁溶液(Ambion、テキサス州オースティン)中で再構成した。試料の大部分は共にプロセシングしたが、5つの試料は個々にプロセシングして、試料あたりの抽出時間中央値を決定した
。RNA収量および純度は、品質管理する目的で、分光光度法で測定した。
【0110】
定量的逆転写-PCR
[0124]QRT-PCRは、5'ヌクレアーゼアッセイを用いて行った。迅速QRT-PCRは、以下に記載するように、Cepheid Smart Cycler(登録商標)(CSC)リアルタイムDNA増幅および検出系上で行った。標準的QRT-PCRは、本明細書に記載する、一試験管QRT-PCR法を用いて、Applied Biosystems 7700配列検出装置(TaqMan(登録商標))上で行った。
【0111】
迅速QRT-PCR
[0125]CEA発現は、先に記載される比較CT法を用いて、内因性対照遺伝子、β-グルクロニダーゼ(β-GUS)に比較して測定した(Godfrey TE, Kim S-H, Chavira M, Ruff DW,
Warren RS, Gray JWら. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative RT-PCR. Journal of Molecular Diagnostics 2000;2(2):84-91;Tassone F, Hagerman RJ, Taylor AK, Gane
LW, Godfrey TE, Hagerman PJ. Elevated levels of FMR1 mRNA in carrier males:a new mechanism of involvement in the fragile-X syndrome. Am. J. Hum. Genet. 2000;66(1):6-15)。すべてのQRT-PCRアッセイは、総RNA 400 ngに対して、三つ組で行った。CEAおよびβ-GUS PCRプライマーはどちらも、ゲノムDNAを増幅しないように設計して、そして増幅しないことを試験した。しかし、それでもなお、逆転写を伴わないRNA(RT不
含対照)を用いる、そしてPCRテンプレートとして、cDNAの代わりに水を用いる(テンプ
レート不含対照)対照反応を行った。これらの対照反応を総合して、RNAのゲノムDNA混入から、または試薬のPCR産物混入からシグナルが生じる可能性を排除する。さらに、すべ
ての実行に関して、平行して較正RNA試料を増幅して、異なる時点で調べた試料の比較を
可能にし(Godfreyら.(2000);PE Applied Biosystems User Bulletin #2. ABI Prism
7700 Sequence Detection System:Relative Quantitation of Gene expression. 1997.
コネチカット州ノーウォーク、Perkin-Elmer Corp.)、そしてアッセイの再現性を決定
した。
【0112】
[0126]反応構成要素の最終濃度は、以下のとおりであった:1×PCR白金Taq緩衝液、
各300 nM dNTP、4.5 mM MgCl2、0.8 U/μl RNase阻害剤、1.25 U/μl Sensiscript逆転写酵素(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)、0.06 U/μl白金Taq(Gibco、メリー
ランド州ガイザーズバーグ)、60 nM RTプライマー、400 nMの各PCRプライマー、200 nM
プローブおよび400 ngの総RNA。新鮮組織解析のための総RNA投入量は、試料5μlであった。固定組織解析には、RNAストックの80 ng/μl希釈のうち5μlを用いた。迅速アッセイ
において、PCRプライマーまたはプローブなしにRT反応を行い、その後、試験管を開け、
そしてプライマーおよびプローブを添加した。これは、標準的一工程QRT-PCRがまれなメ
ッセージを検出する感度を欠くため、必要であった。用いたオリゴヌクレオチド配列は以下のとおりであった:β-GUS RTプライマー 5'TGG TTG TCT CTG CCG A 3'(SEQ ID NO: 15)、β-GUSフォワードPCRプライマー 5'CTC ATT TGG AAT TTT GCC GAT T 3'(SEQ ID NO: 3)、β-GUSリバースPCRプライマー 5'CCG AGT GAA GAT CCC CTT TTT A 3'(SEQ ID NO: 4)、β-GUSプローブ 5'-Vic TGA ACA GTC ACC GAC GAG AGT GCT GG 3'(SEQ ID NO: 5)、CEA RTプライマー 5'GTG AAG GCC ACA GCA T 3'(SEQ ID NO: 9)、CEAフォワードPCRプライマー 5'AGA CAA TCA CAG TCT CTG CGG A 3'(SEQ ID NO: 6)、CEAリバースPCRプライマー 5'ATC CTT GTC CTC CAC GGG TT 3'(SEQ ID NO: 7)およびCEAプローブ 5'-Fam
CAA GCC CTC CAT CTC CAG CAA CAA CT 3'(SEQ ID NO: 8)。以下のサーモサイクラー条件で、CSC上で、迅速QRT-PCR反応を行った;48℃で5分間維持、70℃で60秒間(PCRプライマーおよびプローブを添加するため)、95℃で30秒間維持(白金Taq活性化のため)、そ
の後、95℃2秒間および64℃15秒間を45サイクル。閾値を決定するため、第二の派生法を
用いて、SmartCycler Software(Ver1.0)でデータを解析した。固定した組織RNA試料に
固有の分解に関連して感度が減少するため、固定組織解析には、30分間のRT反応が必要であった。
【0113】
統計解析
[0127]疾患不含生存に関する比例ハザード回帰によって、CEA発現レベルの迅速QRT-PCR測定の予測の妥当性を評価した。疾患不含生存は、手術から食道癌の再発が診断された時点までの時間と定義した。2001年8月1日の時点で、他の原因による死亡および疾患なしに生存する患者を検閲した。CEA発現レベルもまた用いて、QRT-PCR陽性または陰性いずれかとして、患者を分類した。ROC曲線解析(DeLong ER, DeLong DM, Clarke-Pearson DL.
Comparing the areas under two or more correlated receiver operating characteristic curves:a nonparametric approach. Biometrics 1988;44(3):837-845;Heagerty
PJ, Lumley T, Pepe MS. Time-dependent ROC curves for censored survival data and
a diagnostic marker. Biometrics 2000;56(2):337-344)によって決定した分類の
切り捨てレベルは、標準として疾患再発を用いて、最も正確な分類を生じるCEA発現レベ
ル値と定義された。潜在性転移を診断するため、QRT-PCR結果の感度および特異性を計算
した。分類法に基づいて、QRT-PCR陽性または陰性と分類した患者を、ログランク検定を
用い、疾患不含生存における相違に関して試験した。
【0114】
結果:
組織解析アーカイブ
[0128]まず、アーカイブに保管した、30人の食道癌患者由来の組織学的に陰性である(N0)リンパ節を解析した(図9)。解析した30件の組織ブロックのうち、13件はROC曲線が決定した切り捨て値より高いCEA発現を有した(0.183より高いCEA発現)。この群にお
いて、9人の患者は疾患再発を患い、そして研究終了時までに死亡し、2人の患者は他の原因で死亡し、そして2人は疾患なしに生存している。残った17人のQRT-PCR陰性患者のうち、1人は、5ヶ月で疾患再発を患い、そして本研究終了時までに死亡し、5人は他の原因で
死亡し、そして11人は生存しつづけ、そして疾患不含である(表7)。迅速QRT-PCRアッセイを用いると、疾患再発を予測する感度および特異性は、それぞれ90%および80%であり、そしてコホート中の患者の83%は、正しく分類された。図10は、QRT-PCR陽性および陰
性患者に関するKaplan-Meier疾患不含生存曲線を示す。QRT-PCR陰性および陽性であった
患者の生存は、5年時で、それぞれ94%および20%であった。これらの2群の生存関数は有意に異なった(p=0.001、ログランク検定)。
【0115】
【表7】
【0116】
[0129]疾患不含生存に比例ハザードモデルを用いると、CEA発現が1単位増加する相対リスク(RR)は、1.52(1.11〜2.09、p=0.027)であり、そして0.183より大きいCEA発現を有する相対リスクは、0.183以下の、もしくはそれと同等のCEA発現に比較して、3.78(1.34〜10.7、p=0.0007)であった。
【0117】
新鮮組織解析:
[0130]食道癌または良性食道障害の最小侵襲性病期分類を受けた患者由来のリンパ節の新鮮凍結切片を解析した。良性症例由来の11件のリンパ節では、迅速QRT-PCRは、2つのリンパ節のみで、非常に低レベルのCEA発現を検出した(患者8および11、図11)。良性症例におけるこの低レベルは、おそらく、バックグラウンド異所性CEA発現に相当した。良
性節いずれかのCEA発現の最高レベルは、小病巣の腫瘍の関与しかない陽性節の最低発現
より34倍低かった(図11)。
【0118】
[0131]食道癌の12人の患者由来の26件のリンパ節のうち、12件(6人の患者)が、最
終的に、最終的な病理で陽性であることが示された。しかし、これらのリンパ節のうち2
つ(2人の患者)では、手術中凍結切片解析は陰性であり、そして手術後、N1状態と決定
された。迅速QRT-PCRは、これらの2つの節で、CEA発現レベルが組織学的に陽性である節
の範囲にあることを示した(患者18および19、図11)。組織学的に節陰性である食道癌を有する6人の患者では、1人のみが迅速QRT-PCRによりCEA発現増加と認められる単一の節を有した(患者15、図11)。この患者は、16.5ヶ月の追跡調査時、食道癌の臨床的再発を有した。
【0119】
[0132]各実行の較正試料の解析によって、13件の別個の実行に渡り、デルタCt値の標準偏差は0.14サイクルであることが明らかになった(相対発現測定の〜10%標準偏差)。さらに、QRT-PCRは、40サイクルの実行すべてに関して、およそ25分間を必要とした。7分間のRNA単離時間と合わせて、全アッセイにはほぼ30分間かかる。したがって、これは非
常に迅速でそして再現可能なアッセイである。
【0120】
考察:
[0133]多くの悪性腫瘍では、食道癌同様、TNM病期分類が、最適な予後情報を生じる
。節関与の欠如は、病変がより限局されていることと関連し、外科的切除のみで治癒が得られる可能性があることを示唆する。しかし、節転移は、原発腫瘍の部位を越えて広がる腫瘍の指標であり、そしてこうしたものとして、全身性治療を必要とする。食道癌における化学療法の役割には議論の余地があるままであるが、いくつかの試験は、手術前化学療法の利点を示す傾向を示している。このアプローチの1つの利点は、非常に病的な外科処
置後に治療を受けた場合に患者が化学療法プロトコルを完了するであろうよりも、より多くの患者が化学療法プロトコルを完了可能であることである。進行中の見込み無作為臨床試験は、近い将来に、食道癌患者における手術前化学療法の有用性を解明するはずである。病理分類に最小侵襲性外科的アプローチが出現したことで、切除前に病期分類し、そして適切なときに手術前化学療法を提供する可能性が存在する。したがって、治癒的切除を試みる前に、節病期を正確に決定することが、食道癌患者の意思決定過程に非常に重要になる可能性がある。
【0121】
[0134]現在、手術中節病期分類は、凍結切片作成およびH&E染色によって行われる。この方法論は、ホルマリン固定しH&E染色した組織検査のゴールド標準と、少なくとも93%相関するが、どちらの方法も重大な限界に苦しむ。具体的には、組織学的に節陰性である食道癌患者の30〜50%が、潜在的に治癒可能な切除を受けたにもかかわらず、疾患再発を患う。この発見は、慣用的方法論に固有の、試料採取の誤りと共に、微小転移を検出する感度の欠如による可能性が最も高い。1つまたは2つの4μm切片のみを研究し、そして各節の大部分は検査しないままであるため、単一腫瘍細胞または細胞の小病巣は、容易に見過ごされる。リンパ節の連続切片作成は、試料採取の誤りを減少させ、そしてしたがってこの限界を最小限にすることが可能である。例えば、乳癌に関する研究では、リンパ節の連続切片作成は、免疫組織化学と組み合わせて、日常的な組織病理学的評価では陰性であった節のさらに10〜23%の病期上昇を導いた。しかし、この方法は、各症例からの多くのリンパ節の連続切片を作成するのに伴う時間および労働が多大であるため、日常的には行われない。
【0122】
[0135]ここ10年で、微小転移検出の感度を改善する試みの中、多くの研究が、リンパ節において腫瘍関連mRNAを検出するRT-PCRを用いてきた。いくつかの種類の癌に関する研究によって、RT-PCRが合理的な予後指標であることが報告されたが、にもかかわらず、RT-PCRは臨床実施に向かう道を進んでいない。この主な理由は、劣った特異性(40〜60%)、癌でない患者の対照節における偽陽性結果、および多施設試験のための標準化されたア
ッセイの欠如である。他の研究では、RT-PCRの定量的アプローチ(QRT-PCR)が、バック
グラウンドまたは異所性遺伝子発現による偽陽性を克服可能であり、そして疾患再発を予測する特異性を増加させることが可能であると示された。Godfrey TE, Raja S, Finkelstein SD, Kelly LA, Gooding W, Luketich JD. Quantitative RT-PCR Predicts Disease Recurrence in lymph Node-Negative Esophagus Cancer Patients. Proceedings from the
2001 Annual Meeting of the American Association of Cancer Reseachers 42. 3-1-2001。しかし、この研究に用いた技術のため、RNA単離およびRT-PCRアッセイは、完了まで4〜6時間を必要とする。その結果、この方法は、手術後にしか利用可能でない。手術中QRT-PCRは、手術中凍結切片解析に匹敵する時間枠(およそ20〜30分間)で結果を得るのに十分に迅速に行われる場合のみ、現実的である可能性がある。迅速RNA単離および逆転写プ
ロトコルと共に、これは、Roche Light Cycler(登録商標)またはCepheid Smart Cycler(登録商標)で得ることが可能なものなどの、非常に迅速なPCR傾斜時間を必要とする。
本明細書においては、比較的使用しやすく(ガラスキャピラリーなし)、各反応部位が独立に制御され、四色マルチプレックス化が利用可能であり、そして自動化した試料調製およびQRT-PCRの潜在能力があるため、Cepheid装置を用いた。この装置を用いると、OCT包
埋組織切片に対して、RNA抽出から結果まで、QRT-PCRアッセイを30分間以内に実行可能であることが示された。本明細書に報告するプロトコルを修正して、QRT-PCRを18.5分間で
実行することが可能である(データ未提示)。我々の迅速アッセイを用いて、患者追跡調査中央値36ヶ月でのアーカイブ組織由来のRNAの既往分析を行った。データによって、迅
速アッセイが、それぞれ90%および80%の感度および特異性で疾患再発を予測することが示された。このデータは、より遅く、そしてより伝統的である、TaqManに基づく解析(90%および90%)に匹敵した。新鮮組織解析において、30分間未満で、良性対照節から、組織学的に陽性である節を、すべて区別することが可能であった。CEAの発現レベルを用い
て、病理学的に陰性である節を、良性節または病理学的に陽性である節いずれかと似た発現パターンを有すると特徴付けることもまた、可能であった。
【0123】
[0136]このデータから、迅速QRT-PCRは、少なくとも、固定組織検査と同程度の感度
であり、そして手術中凍結切片検査より高感度であるようである。これは、手術中検査中、保留されたか、または誤診された2つの陽性節によって立証される。このデータを確認
するため、病理学的病期分類と結果を相関させる目的で、はるかに多数の新鮮リンパ節の研究を計画する。データセットが成熟するにつれ、QRT-PCRは再発と相関するであろう。
これは、アーカイブ組織の切り捨て値と異なる可能性があるため、新鮮組織データセットにおける最適CEA発現切り捨て値の決定を可能にするであろう。予備的新鮮組織データか
ら、そしてアーカイブ組織解析には固有の問題があるため、特異性および陽性予測値が新鮮組織の解析で改善される可能性がある。
【0124】
[0137]手術中QRT-PCRを実験室向けから臨床向けにするには、この技術をさらに発展
させることが必要であろう。臨床設定では、QRT-PCRアッセイは、単純であって、そして
操作が最小限である自動化プロセスでなければならない。この目的に向け、自動化解析のための、カートリッジに基づくプロセッサーの開発が目標である。最終製品は、RNA単離
および定量的RT-PCRセットアップの両方が可能な、単回使用の使い捨てカートリッジであろうと想定される。迅速サイクリングのリアルタイム定量的サーマルサイクラーと一体化すると、この系は、凍結切片からのQRT-PCR結果を、25分間未満で提供するであろう。そ
の開発に際して、そして新規でそして正確なマーカーの同定に際して、この技術はまた、外科的限界の分子解析と共に、細針吸引細胞診断に付属した分子解析にも使用可能である。したがって、微小転移および切除完全性に関する分子情報が、初めて、手術中、外科医に利用可能になった。さらに、自動化および再現可能QRT-PCR形式が利用可能になると、
標準化多施設試験で評価しようとする、QRT-PCRの真の分子診断的価値が可能になるであ
ろう。
【0125】
実施例6 マルチプレックス化ポリメラーゼ連鎖反応の新規方法の説明
序論
[0138]ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の多大な能力および柔軟性にもかかわらず、こ
の技術は、なかなか臨床診断実験室に適用可能にならなかった。大部分、これは、PCRプ
ロセス(試料プロセシングから反応セットアップおよびデータ解析まで)が、労働集約的であり、汚染しやすく、そして技術的に非常に過酷であるという事実のためである。その結果、偽陽性および偽陰性結果が頻繁であり、そしてこれが臨床設定の主な懸念を構成する。そうであってもなお、大部分の主要な臨床診断実験室は、ウイルス検出および白血病患者の微小残存病変検出などの多様な適用に、内部認証した、PCRに基づく少数のアッセ
イを行っている。PCR法を単純化し、そして可能な場合自動化する、技術的進歩は、これ
らのアッセイの再現性および信頼性を非常に増進するであろう。
【0126】
[0139]1つのこうした技術的進歩である、迅速サイクリング定量的PCR装置の導入は、分子試験のための新たな潜在的使用の道を開いている。30分間未満でPCRアッセイを完了
する能力は、現在、妊娠女性におけるB群連鎖球菌および免疫無防備状態の患者における
院内感染病原体に関する試験など、時間に依存するポイント・オブ・ケア分子診断の実行を可能にしている。癌診断において、こうした迅速試験は、患者がまだ診療所にいる間に済む、コア生検または細針吸引(FNA)に関する原発癌診断、化学療法に対する反応を決
定する、手術時点での腫瘍プロファイリング、並びに疾患の度合いおよび治療オプションを決定する、リンパ節および外科的限界の手術中試験の可能性を提示する。例えば、逆転写-PCR(RT-PCR)は、多くの研究において、そうでなければ節陰性と病期分類される癌患者のリンパ節において、癌細胞を検出する感度を改善することが示されてきている。これらの患者は、疾患再発に関してより高いリスクがあり、そしてより攻撃的な療法から利益を得る可能性がある。例えば肺癌の場合、縦隔リンパ節関与を持つ患者は、術前補助化学療法から利益を得る可能性があるが、大きな外科的介入前に、リンパ節状態を決定する必要がある。これは、最小限に侵襲性である手術を通じて、または超音波誘導FNAを通じて
さえ、達成可能である。正確な手術中リンパ節診断は、陰性患者が完全な腫瘍切除を経るのを可能にし、一方で、節陽性患者において手術を停止して化学療法の投与を可能にするであろう。乳癌または黒色腫の患者にも同様のシナリオが存在する。どちらの疾患でも、前哨リンパ節陽性の結果、完全リンパ節切開を行う。
【0127】
[0140]現在の手術中リンパ節解析法は、それほど高感度ではないため(乳癌で〜70%(Weiser MR, Montgomery LL, Susnik B, Tan LK, Borgen PI, Cody HS. Is routine intraoperative frozen-section examination of sentinel lymph nodes in breast cancer worthwhile? Ann Surg Oncol. 2000;7:651-5)そして黒色腫で47%(Fitzgerald RC, Triadafilopoulos G. Recent developments in the molecular characterization of Barret's esophagus. Dig. Dis. 1998;16:63-80.))、多くの患者は、手術完了後まで、
リンパ節陽性と診断されない。その後、これらの患者は、第二の外科処置を経て、リンパ節切開を完了する。より高感度な手術中リンパ節評価は、これらの患者には明らかに利益があるであろう。本実施例は、迅速PCRに基づくアッセイの1つの潜在的使用のみを例示するが、より多くが、近い将来、現れる可能性がある。しかし、再び、これらの刺激的な可能性が臨床診断実験室で実用的になるためには、PCR技術の進歩が必要である。
【0128】
[0141]蛍光に基づくPCRおよびRT-PCRが最近導入されたため、PCR後のプロセシングおよびゲル電気泳動の必要性が排除されたことによって、データ解析工程が非常に単純化された。この技術の付加的利点には、アッセイ汚染の減少(PCR試験管が決して開かれない
ため)そしてもちろん、非常に正確で、そして再現性がある定量的結果を得る能力が含まれる。定量化は、多くの潜在的な診断試験の臨床的有用性を増進するだけでなく、外部品質管理標準を使用して、試験間のアッセイ感度および再現性を検証する能力も提供する。テンプレートDNAまたはRNAの品質および量を確認する内因性対照配列の増幅、並びに陰性
結果の場合に、アッセイが働いたことを検証する内部陽性対照を含む、内部品質管理もまた必要である。これらの「内部」対照を、別個の試験管で、実際にセットアップ可能である一方、PCR産物を区別するため、異なる色の蛍光生成プローブを利用して、同一PCR試験管中で、すべてのアッセイを実行する(マルチプレックス化する)ことが可能であれば、好適であろう。不運なことに、標準的マルチプレックスPCRは、反応開始時に増幅標的が
同様の存在量で存在しない場合、うまく働かず、そして広い範囲の標的濃度に渡って正確な定量性を維持するのは、特に困難である。定量的マルチプレックスの機能的範囲は、PCR反応中、より豊富な遺伝子のPCRプライマー濃度を、大幅に制限することによって、ある程度改善可能である。このアプローチは、標準的RTPCRアッセイにはかなりうまく働くが
、プライマー制限の概念は、増幅を維持するのに、より高いプライマー濃度が必要な、迅速PCRアッセイの必要条件には反する。ここで、シングルプレックスPCRと同じ感度および定量的機能範囲を有し、そしてまた迅速RT-PCR反応でも実行可能な、マルチプレックスPCRの方法を記載する。本明細書において、この方法論は多数の異なる増幅標的に適用可能
であり、そして合成オリゴヌクレオチド模倣体(mimic)の添加によって、内部管理迅速
マルチプレックスQRT-PCRが提供されることが立証される。癌診断法におけるこの方法の
価値は、ここで、食道癌患者および黒色腫患者のリンパ節における腫瘍細胞の検出によって、立証される。この手術中迅速QRT-PCRは、最終的に、より正確な手術中癌病期分類に
使用可能であり、そしてしたがって、癌患者のより正確で、そして時宜を得た治療を生じるであろう。
【0129】
材料および方法
[0142]組織およびRNA単離:ピッツバーグ大学IRB認可プロトコルを通じて、すべての患者組織試料を得た。食道癌患者由来のリンパ節、および良性節(逆流防止法を受けた患者から、付随的に得た)は、液体窒素中で瞬間凍結し、そして製造者のプロトコルにしたがって、RNeasyミニキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を用いてRNAを抽出
した。黒色腫患者由来の組織学的に陽性のリンパ節および陰性のリンパ節を、ホルマリン固定しそしてパラフィン包埋したアーカイブ試料として得て、そして先に記載されるプロトコル(Godfrey TE, Kim SH, Chavira M, Ruff DW, Warren RS, Gray JW, Jensen RH. Quantitative mRNA expression analysis from formalin-fixed, paraffin-embedded tissues using 5' nuclease quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction. J Mol Diagn. 2000;2:84-91)を用いて、RNAを抽出した。
【0130】
[0143]迅速PCRアッセイの開発:テンプレートとしてヒト結腸総RNA(Ambion、テキサス州オースティン)から合成したcDNAを用いて、まず、迅速PCRを試験した。β-グルクロニダーゼ(β-gus)および癌胎児抗原(CEA)のPCRプライマーおよびプローブが、それぞれ81塩基対および77塩基対のアンプリコンサイズで、cDNAに特異的であるように設計した。CEAの既知の偽遺伝子を避け、そして200 ngのゲノムDNAに対する対照PCRは陰性であっ
た。800 nmol/lの各プライマー、200 nmol/lの各プローブ(プライマーおよびプローブ配列は表8に示す)およびPCRマスターミックス[1×白金Taq反応緩衝液、4.5 mmol/l MgCl2、各300μmol/lのdNTPおよび0.09 U/μl白金Taq DNAポリメラーゼ(Invitrogen、カリフォルニア州カールスバッド)]を含有する25μl反応中で、PCRを行った。Cepheid SmartcyclerTM(Cepheid、カリフォルニア州サニーベール)上でアッセイを行い、そしてSmartcyclerソフトウェアv1.2bで解析した。単一cDNA投入量に関して、10、7、5、2および1秒間のPCR変性(95℃)時間、並びに30、15、10、7、5および3秒間のアニーリング/伸長(64℃)時間をまず試験した。その後、最適迅速PCRサイクリング条件(1秒間変性後、6
秒間アニーリング/伸長)を用いて、10秒間変性および30秒間アニーリング/伸長のより慣用的なサイクリング時間の迅速PCRプロトコルと比較した。これを連続希釈CEA標準曲線に対して行って、広い範囲のCEA投入量に渡る、迅速PCRプロトコルのいかなる影響も決定した。CEA cDNAは、19から20サイクルの間の、一定のβ-gusサイクル閾値(Ct)を生じることが実験的に決定された量のβ-gusテンプレート(精製β-gus PCR産物)の一定のバッ
クグラウンド中で連続希釈した(8×)。同様の実験を行って、チロシナーゼアッセイを
最適化し、そして認証した。
【0131】
【表8】
【0132】
[0144]迅速逆転写アッセイの開発:RT-PCRのRNA投入量は、A549肺腺癌細胞株から得
た400 ngおよび転移性食道腺癌のリンパ節由来の25 ngの混合物であった。上述のPCRマスターミックスに加えて、60 nmol/l β-gusおよびCEA RTプライマー、1μl SensiScript
逆転写酵素(Qiagen)および0.8 U/μl RNase阻害剤を含有する25μl中で、β-gusおよ
びCEA mRNAに関して、RT-PCR反応を行った。20.5μl体積中、48℃でRT反応を行い、そし
てRT後、70℃に維持している間に、4.5μl体積で、PCRプライマーおよびプローブを反応
混合物に添加した。これは、PCR特異性および感度を維持するために行った。30、10、7、5、3および2分間を用いてRTを試験して、感度の損失を伴わずにありうる最速のRTを決定
した。
【0133】
[0145]マルチプレックスPCRアッセイ:温度制御マルチプレックスにおいて、CEAおよびβ-gusに関するプライマーおよびプローブセット両方を反応混合物に添加した。しかし、この場合、β-gusプライマー(β-gus-80、400 nmol/l)を再設計して、60℃のTmを有するCEAプライマーに比較して、50℃のTmを有するようにした。1秒間変性し、アニーリングのため53℃に4秒間維持し、そして伸長および最適読み取り値のため、64℃に6秒間維持して(総アニーリング/伸長時間は10秒間)、PCRを行った。53℃アニーリング工程は、
β-gus増幅プロットが閾値に達した後(別個のシングルプレックス反応において、あらかじめ決定した)、1サイクル省き、そして続くサイクルは、最適迅速PCRシングルプレックス・アッセイにおけるように、64℃アニーリング/伸長のみで行った。両遺伝子の800 nMプライマーを用い、そして我々の標準的β-gus-81(Tm60℃)プライマーセットを利用し
て、単純なマルチプレックスを行った。迅速PCRにおけるβ-gus Ct値において、有意な増加(>1サイクル)を生じない最低の濃度と決定されたため、300 nmol/l β-gus-81プライマーを用いて、慣用的なプライマー制限マルチプレックスを行った。慣用的方法論を用
いて、64℃10秒間、その後、残るサイクルでは6秒間に変えたアニーリング/伸長時間で
、最初の20のPCRサイクルを行った。これは、温度制御マルチプレックスで用いる条件を
よりよくシミュレートして、そして方法を直接比較するのを可能にするために行った。シングルプレックス反応と比較して、正確さおよび機能範囲を決定するため、CEA cDNAの連続希釈(上述のとおり)に対して、すべての3つのマルチプレックス法を試験した。
【0134】
[0146]内部陽性対照:内部陽性対照(IPC)は、標的遺伝子(CEAまたはチロシナーゼ)と同一のプライマー配列を有するが、異なる内部プローブ配列を有するDNAオリゴヌク
レオチドである(表9)。必要な場合、ウラシルDNAグリコシラーゼを用いて、非常に濃縮された模倣体での汚染を制御可能であるように、チミンの代わりにウラシルを用いて、IPCの選択した部位を合成した。IPCは、36〜37サイクルのCt値を生じるように実験的に決定した量で、反応マスターミックスに添加した。その後、200 nmol/lの濃度で内部対照(IC)プローブの添加を伴い、プライマー制限マルチプレックス(二重反応)に関して上述
したように、迅速三重アッセイを行った。
【0135】
【表9】
【0136】
[0147]リンパ節アッセイ:迅速マルチプレックス化QRT-PCR技術の有用性を立証する
ため、この技術を用いて、食道癌患者および黒色腫患者由来の組織学的に陽性のリンパ節および陰性のリンパ節を試験した。三重QRT-PCR(β-gus、CEAまたはチロシナーゼおよび適切な模倣体)を用いて、温度制御プライマー制限技術で、リンパ節RNAを解析した。逆
転写は、5分間RTの後、PCRプライマーを添加するため、70℃で30秒間維持して、上述のように行った。マルチプレックス反応において、適切なサイクルで温度変化を開始することが可能であるように、先にシングルプレックス実行で、β-gusのサイクル閾値を決定した。
【0137】
結果
[0148]迅速PCRの開発:マルチプレックス反応で用いる前に、シングルプレックス・
アッセイにおいて、すべての遺伝子に関する迅速PCRアッセイを別個に開発した。迅速PCRアッセイの開発のため、変性時間(95℃で10、7、5、2、1秒間)およびアニーリング/伸長時間(64℃で30、15、13、10、7、6、3秒間)両方を減少させる影響を評価して、Ct値
において観察されるいかなる変化も決定した。変性時間を試験するため、アニーリング/伸長時間を30秒間で一定に維持し、そしてアニーリング/伸長時間を試験するため、変性時間を10秒間で一定に維持した。変性時間を1秒間に減少しても、CEAまたはβ-gus遺伝子いずれに関しても、Ct値に対して影響はなかった(図12、パネルA)。同様に、アニーリ
ング/伸長時間を減少しても、5秒間までは、どちらの遺伝子に関しても、Ct値に対する
影響は最小限でしかなかった(〜0.5サイクル)が、3秒間のアニーリング/伸長は、30秒間のアニーリング/伸長対照と比較して、CEAに関しては1.1サイクル、そしてβ-gusに関しては1.8サイクルのCt増加が生じた(図12、パネルB)。したがって、さらなる試験のため、1秒間の変性および6秒間のアニーリング伸長を選択した。広い範囲のCEA投入量に渡
る、感度および定量性に対する迅速PCRアッセイの影響を評価するため、β-gus PCR標的
の一定のバックグラウンドにおける、CEA cDNAの連続希釈標準曲線を生成した。この標準曲線を用いて、10秒間の変性および30秒間のアニーリング/伸長の、より慣用的なPCRと
、迅速アッセイを比較した(図13)。迅速アッセイは、CEAに関しては1.6サイクル、そしてβ-gusに関しては0.2サイクルのCt値の平均増加を生じた。これらの増加は、逐次、一
定であるようであり、そしてその結果、迅速アッセイの定量的能力は、より遅いPCRのも
のに等しい。迅速アッセイを用いて、40サイクルを実行する、総PCR時間は、より遅いPCRプロトコルの48分間に対して、15分間であった。
【0138】
[0149]迅速逆転写:RT-PCRによる遺伝子発現の迅速解析は、アッセイの逆転写構成要素およびPCR構成要素がどちらも迅速であることを必要とする。このため、逆転写時間を30分間から10、7、5、3および2分間に減少させる影響(図12、パネルC)を評価した。このアッセイでは、PCR時間は、2秒間変性および15秒間アニーリング/伸長で一定に維持した。結果は、30分間の逆転写と比較した際、5分間の逆転写で、β-gusおよびCEAに関して、それぞれわずか1.1サイクルおよび0.6サイクル、そして2分間の逆転写で1.1サイクルおよび1.8サイクルのCt値の増加を示した。これらの相違はいずれも、個々の時点の比較では
有意でなかったが、予期されるであろうように、時間の減少と共にCtが増加する、明らかな傾向があるようである。4つの異なるRTおよびPCRパラメーターの組み合わせを用いて、RTおよびPCR時間両方を減少させた際の、アッセイ感度に対する影響を組み合わせて評価
した(図14)。再び、RT-PCRプロトコルがより短いと、Ctがより高くなる傾向が観察されたが、20分間の総RT-PCR時間(5分間RTと1/6 PCR)でも、38分間の総RT-PCR(10分間RT
、10/15 PCR)と比較した際、Ct相違は、両方の遺伝子に関して、わずか1.4サイクルで
あった。
【0139】
[0150]マルチプレックスPCRアッセイ:迅速PCR開発で用いたβ-gus一定のバックグラウンドにおいて、同一希釈シリーズのCEAに対して、異なるマルチプレックス化法の試験
を行った。この希釈シリーズは、およそ12サイクルに渡り、これは、曲線の最初の点および最後の点の間の出発CEA存在量の4,096倍の相違に対応した(図15、パネルA)。希釈シ
リーズを用いて、単純マルチプレックスPCRでの各遺伝子に関するシングルプレックス反
応(図15、パネルC)、慣用的プライマー制限マルチプレックスPCR(図15、パネルD)お
よび我々の温度制御プライマー制限マルチプレックスPCR(図15、パネルB)を比較した。単純なマルチプレックス反応を、CEAおよびβ-gus両方に関して行った際、CEAでは、シリーズの5つの点のうち、最初の3点のみが閾値に達したが、より豊富なβ-gusに関する反応は、一貫して増幅した(未提示)。慣用的なプライマー制限反応に関しては、同様の結果が観察されたが、温度制御プライマー制限反応は、シングルプレックス反応とほぼ同一の結果を生じた。
【0140】
[0151]おそらく、CEA濃度の範囲より適切なのは、異なる技術で達成可能な、デルタCt(より豊富なβ-gus遺伝子およびCEA標的遺伝子間のCt値の相違)の範囲であろう。これらの実験では、β-gus Ctは、19から20サイクルの間で、すべてのアッセイに関して一定
であり、そしてしたがって、シングルプレックス・アッセイでのこの希釈シリーズにおける最大デルタCtは、ほぼ15サイクルであった(存在量は〜32,000倍の相違)。図16は、3
つのマルチプレックス化法各々と共に、シングルプレックス・データに関してプロットしたデルタCtを示す。単純マルチプレックスにおいて、シリーズの第3の点は、シングルプ
レックス反応における同じ点の29.0と比較して、38.5サイクルのCt値を有したが、続く点は、増幅に完全に失敗した。したがって、単純マルチプレックスは、定量性の欠如を示し、真のデルタCt値は〜8サイクルであり、それと共に、非常に限定された機能範囲を示し
た。慣用的なプライマー制限マルチプレックスは、少し優れて機能した(第3の希釈点の
デルタCtは、シングルプレックスより4.0サイクル高かった)が、再び、希釈点4および5
は増幅に失敗した。したがって、標準的PCR反応における実行可能性にもかかわらず、慣
用的なプライマー制限は、プライマー濃度の増加が必要である迅速アッセイには受け入れ
にくいようである。相対的に、温度制御マルチプレックスは、希釈シリーズのすべての点で増幅し、そして最後の点までデルタCtに相違は観察されなかった。これらの結果は明らかに、温度制御プライマー制限が、迅速QPCRアッセイにおいて、シングルプレックス反応に匹敵するが、すべての他のマルチプレックス化アプローチは不適切なままであったことを立証する。さらに、この技術は、チロシナーゼなどの他の標的に利用されてきており、そして該方法は、新規標的に容易に適用可能であるようである。
【0141】
[0152]迅速マルチプレックスRT-PCRを用いたリンパ節解析:リンパ節解析のため、マルチプレックス反応に、CEAおよびチロシナーゼの内部陽性対照模倣体を含んだ。この内
部制御迅速RT-PCRマルチプレックスを用いて、食道癌患者および黒色腫患者由来のリンパ節と共に、癌でない患者由来の良性リンパ節を評価した。3つの組織学的に陽性である食
道癌リンパ節において、高レベルのCEA発現を検出した。非癌患者由来のリンパ節におい
て、5つの節のうち2つは検出可能なレベルのCEA発現がなく、そして残る3つは低レベルのCEA発現を有した(図17)。さらに、CEAシグナルが検出された場合、内部陽性対照は増幅されなかった(図18、パネルA)。しかし、CEA陰性試料では、CEA内部陽性対照の増幅が
あり、陰性結果が、実際にCEA発現の欠如のためであり、そしてCEA PCRが失敗したためでないことが確認された(図18、パネルB)。癌マーカーとしてチロシナーゼmRNAを用いて
、黒色腫リンパ節に関して同様の結果を得た。黒色腫に関して組織学的に陽性である5つ
のリンパ節、および癌のいかなる証拠もない5つのリンパ節を試験した。組織学的に陽性
の節すべてで高レベルのチロシナーゼが検出され、そして5つの陰性節のわずか1つで非常に低レベルのチロシナーゼが検出された(データ未提示)。陽性節において、チロシナーゼの発現は、β-gusの発現より高く、そしてその結果、チロシナーゼ遺伝子増幅のみが見られた。5つの陰性節すべてで、β-gusおよびIPCの増幅が見られた(図18、パネルCおよ
びD)。
【0142】
考察
[0153]蛍光に基づくリアルタイム定量化が可能な迅速サイクリングPCR装置の導入に
よって、時間が制限されるか、あるいは迅速な結果が患者にとって心理的にまたは物理的に有益であろう臨床的状況における分子診断アッセイの適用にドアが開かれた。迅速分子アッセイが好適である可能性がある1つの場合は、黒色腫、乳癌および肺癌などの悪性腫
瘍の、手術中リンパ節病期分類においてである。凍結組織切片の慣用的解析は非常に迅速である(大部分の施設でおよそ20分間)が、この技術が腫瘍の小病巣を検出する感度は、比較的低い。さらに、組織学的検査によって、リンパ節陰性と病期分類された患者の多くは、おそらく、日常的な検査では見逃された、潜在性で散在性の腫瘍細胞があった結果として、疾患の再発を患う。RT-PCR、そして特に定量的RT-PCRが、これらの潜在性細胞を検出し、そして再発の高リスクにある患者を同定することが可能であるという、多くの証拠がある。この情報を手術中に得ることが可能であれば、外科医は、アジュバント療法の必要性および切除度合いに関して、より情報に基づいた治療決定を行うことが可能であろう。
【0143】
[0154]手術中の時間枠内で、QRT-PCRが実行可能であり、そしてこの技術は、凍結切
片作成に勝る可能性があり、そして少なくともホルマリン固定組織像に匹敵する可能性があることが示されている。本実施例において、これらの迅速QRT-PCRプロトコルを試験し
て、そしてこの完全アッセイが、20分間未満で実行可能であることを示す。この時間枠は手術中試験には適切であるが、迅速QRT-PCRを臨床診断設定で使用可能と見なすことが可
能になる前になお、取り組む必要がある、いくつかの実践上のそして技術的ハードルがある。アッセイは、多施設試験において、施設間でのデータ比較を可能にするため、標準化しなければならず、操作者に依存する変動および混入を排除するため、自動化しなければならず(RNA単離を含む)、そして内部内因性および外因性陽性対照を含め、アッセイの
すべての側面に関して管理されていなければならないと考えられる。
【0144】
[0155]これらの必要条件の後者、品質管理は、迅速QRT-PCRへのマルチプレックス化
の取り込みを必要とする。RNAが存在し、そして量および品質が適切であることを検証す
る内因性対照遺伝子、並びに標的遺伝子発現に関して陰性である試料において、標的遺伝子QRT-PCRが適切な感度で機能したことを検証する外因性陽性対照の、少なくとも2つの対照反応が必要である。これらの2つの対照を総合して、陰性結果が真に陰性であり、そし
てRT-PCRが失敗した結果でないことを確実にする。したがって、少なくとも三重PCR反応
が必要である。不運なことに、マルチプレックスPCRにおいて定量性を維持するのは、標
準的な遅いPCRアッセイにおいてさえ、容易ではなかった。これは、1つのPCR産物(最も
豊富な標的遺伝子由来)の蓄積が、他の標的の増幅を阻害するためである。
【0145】
[0156]まず、この阻害は、シングルプレックス反応と比較して、より高いサイクル数へのサイクル閾値のシフトとして、そして総蛍光の低下として見られる(図15パネルA、CおよびD)。しかし、2つの遺伝子の存在量の相違があまりにも大きい場合、より豊富でない遺伝子は、増幅に完全に失敗するであろう。したがって、典型的なマルチプレックス反応は定量性を欠き、そして劣った機能範囲に苦しむ。より豊富でない標的配列の阻害は、おそらく、DNA合成中に添加されるヌクレオチドから遊離するピロリン酸の蓄積、およびPCR産物の蓄積によるTaq酵素の阻害/隔離(sequestration)を含む、いくつかの要因の結果であろう。この阻害を克服する1つの方法は、シグナルが検出された直後に、そしてピ
ロリン酸およびPCR産物が阻害を引き起こすのに十分に蓄積する前に、より豊富な遺伝子
の増幅を何らかの形で停止することである。このための慣用法は、より豊富な標的遺伝子のプライマー濃度を制限して、阻害が起こりうる前にプライマーを使い切ってしまい、そしてその特定の標的のPCRが停止するようにすることに頼る。この方法は、遅いPCRアッセイではかなりよく働くが、迅速アッセイでプライマー濃度を減少すると、より低いPCR効
率が生じ、そして最終的に、PCRが完全に失敗する。我々の研究では、β-gusに関して、
サイクル閾値を変化させない最低のプライマー濃度を決定し、そして我々の迅速PCRプロ
トコルを用いて、慣用的なプライマー制限アッセイにおいて試験した。これは、プライマー制限を伴わないマルチプレックス化より、わずかに優れていることが立証されたが、定量性および機能範囲は、シングルプレックス反応に比較して、なお劣っていた。本明細書に記載する方法においては、より豊富な種(β-gus)のプライマーの融点(Tm)が、標的遺伝子(CEAまたはチロシナーゼ)のものより低い温度で機能するように設計する。PCR自体は二段階で行う。PCRの第一の段階のアニーリング工程は、より豊富な種の増幅曲線が
検出閾値に達するまで、比較的低いアニーリング温度(本実施例では53℃)で行う。これに続いて、PCRの第二の段階は、低温プライマーのTmより少なくとも10℃高いアニーリン
グ温度(本実施例では64℃)で行う。第二の段階がより高い温度であるため、低温β-gus
PCRプライマーの結合状態が、一本鎖状態を好むようにシフトして、β-gusの増幅を効率的に終結しつつ、CEA標的の増幅を阻害されないまま続ける。したがって、より豊富な対
照遺伝子の迅速PCRに必要な、高いプライマー濃度を維持し、そしてなお、標的遺伝子の
広い機能範囲に渡る定量性を維持することが可能である。
【0146】
[0157]迅速マルチプレックス化技術を開発するのに加え、標的遺伝子発現に関して陰性である試料において、適切なRT-PCR感度が達成されたのを証明するのに使用可能な、内部陽性対照模倣体を取り入れる。この模倣体は、標的遺伝子と同じプライマーを利用し、そしてしたがって、これらのオリゴヌクレオチドの機能を管理する。DNA模倣体は、逆転
写プライマー部位もまた含む、RNA模倣体で置き換えることが可能である。これは、その
後、標的遺伝子増幅のRT工程およびPCR工程両方に関して管理するであろう。35サイクル
より大きいCt値を生じるのに十分に低い濃度で、この模倣体を試料に添加することによって、RNA単離およびRT-PCR反応が働くだけでなく、存在するならば、非常に低い存在量の
標的遺伝子を検出するのに十分によく働くことを確信することが可能である。標的遺伝子が高発現されている場合、内部模倣体が増幅に失敗する可能性がある。模倣体は、陰性反
応の対照として意図されるのみであるため、これは許容しうる。
【0147】
[0158]したがって、癌患者のリンパ節における転移性腫瘍細胞を検出するための迅速QRT-PCRの潜在的な使用が示されている。これは特に刺激的な迅速分子診断学の使用であ
るが、1つの潜在的な適用でしかない。新たな癌マーカーが発展するにつれて、迅速QRT-PCRがまた、手術限界の解析のため手術中にも使用可能であり、生検または細針吸引の解析のため、あるいは化学療法またはチロシンキナーゼ阻害剤などの新規生物療法に対する反応を予測するための原発腫瘍の解析のため、診療所においても使用可能である可能性もある。温度管理マルチプレックスに必要な二重温度PCRサイクリングは、反応時間全体に、
およそ2分間を付加するが、完全なマルチプレックス化QRT-PCRアッセイは、なお、22分間未満で実行可能である。SmartCyclerTMまたはその将来の世代に、外部冷却装置を付加す
ると、さらに3〜4分間を節約可能であると考えられる。また、本研究では、温度変化を開始する必要があるサイクル数をあらかじめ決定した。最終的には、装置のソフトウェアに重要でない修正を加え、内因性対照遺伝子蛍光が閾値に達した後、この修正によって、自動的にPCRアニーリング温度が増加されるであろう。すべてのPCR部位は独立に制御されるため、これは、未知の量の出発RNAテンプレートを含む多数の反応が、同時に実行される
ことを可能にするであろう。最後に、迅速QRT-PCRは、現在、臨床設定で実行可能になっ
てきている。現在開発中の技術を用いると、RNA単離もまた、自動化プロセスで、非常に
迅速に実行可能である。この目的に向けて、CepheidのGenXpertTMなどの特定の完全統合RNA単離、逆転写および定量的PCR装置は、一連のプログラミング工程にしたがって、これ
らのプロセスすべてを自動化して、そして30分間未満で、QRT-PCR結果を提供するであろ
う。自動化試料プロセシング・プラットホームと、本明細書記載の迅速で内部管理されたマルチプレックス技術との組み合わせは、閉鎖環境で、正確でそしてさらに迅速な測定を可能にするであろう。この統合系の単純さおよび高感度は、癌診断における分子アッセイの多くの新たな適用を可能にするはずである。
【0148】
[0159]本出願に特定される多様な範囲の多くの値の使用は、別に示されない限り、言及される範囲内の最低値および最大値両方に、単語「約」が先行するように、およそのものとして言及される。この方式では、言及される範囲のわずかに上の変動および下の変動を用いて、該範囲内の値と実質的に同一の結果を達成することが可能である。また、これらの範囲の開示は、最低値および最大値の間のすべての値を含む、連続する範囲と意図される。
【0149】
本発明の態様例
(1) 一試験管RT-PCR法の感度および特異性を増加させる方法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して逆転写反応を行って、DNA試料を生じ;
(b)反応混合物に、PCRプライマーセットおよび熱安定性DNAポリメラーゼを含有するPCR試薬組成物を添加し;そして
(c)反応混合物に対して、PCR増幅を行う
工程を含む、前記方法。
(2) PCR増幅前に、PCR反応の第一のサイクル前または該サイクル中に除去される物理的バリアによって、反応容器中の反応混合物からPCR試薬組成物を分離し、それによってPCR試薬組成物を反応混合物に添加する、(1)の方法。
(3) 逆転写反応を約10分間未満行う、(1)の方法。
(4) 逆転写反応を約2分間行う、(1)の方法。
(5) 自動化した系でRT-PCR法を行い、そしてRT-PCR法で使用する前に試薬を保管しておく複数の区画を有するカートリッジ中に、RT-PCR法の試薬を保管して、ここで、自動化した系が、プログラムされた順序にしたがって、カートリッジから反応容器に試薬を添加する、(1)の方法。
(6) RT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行い;そして
(b)反応混合物に対して、PCR反応を行う
工程を含んでなる、前記方法。
(7) 逆転写反応を約2分間行う、(6)の方法。
(8) PCR反応が、PCR反応混合物中で、DNA試料に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、ここで、PCR増幅を第一の増幅段階および第二の増幅段階で行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが、変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、ここで、第二の増幅段階のPCR増幅を、第一の増幅段階のPCR増幅とは異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、(6)に記載の方法。
(9) 食道の転移化腺癌を迅速に検出する方法であって:
(a)前哨(sentinel)リンパ節から得られたRNAに対して、CEAに特異的な定量的RT-PCR法を行って;そして
(b)CEA発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する
工程を含む、前記方法。
(10) 手術中PCR法であって:
手術中に、患者から得られた組織試料に由来する核酸試料に対して行われるPCR法により、指標転写物発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する;工程を含む、前記方法。
(11) 決定工程の結果によって指示される方式で、手術を続ける
工程をさらに含む、(10)の方法。
(12) 組織試料が腫瘍バイオプシーであり、そしてPCR法が、過剰発現している場合に悪性度の指標となる指標転写物に特異的である、(10)の方法。
(13) 指標転写物がCEA転写物である、(12)の方法。
(14) PCR法が、PCR反応混合物中で、DNA試料に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、ここで、PCR増幅を第一の増幅段階および第二の増幅段階で行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、ここで、第二の増幅段階のPCR増幅を、第一の増幅段階のPCR増幅とは異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、(10)の方法。
(15) PCR反応が、第一段階および第二段階で、PCR反応混合物に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、前記反応混合物は、DNA試料、第一の有効なTmを有する第一のプライマーセットおよび第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のプライマーセットを含み、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、各PCRサイクルが変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、第一の増幅段階のアニーリング工程を、第二の増幅段階のアニーリング工程とは異なる温度で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、(10)の方法。
(16) PCR法が、複数のPCRサイクルを含むPCR増幅を、核酸試料、各プライマー濃度が少なくとも約400 nMであるプライマーセット、を含むPCR反応混合物に対して行う工程を含むPCR法であり、各PCRサイクルが変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、PCR増幅がβ-GUS特異的アンプリコン、18S rRNA特異的アンプリコン、チロシナーゼ特異的アンプリコンおよびCEA特異的アンプリコンの1つを生じる、(10)の方法。
(17) PCR法がRT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行って、DNA試料を生じ;
(b)反応混合物に、第一の有効なTmを有する第一のプライマーセット、第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のプライマーセット、および熱安定性DNAポリメラーゼを添加し;そして
(c)第一の増幅段階および第二の増幅段階で、反応混合物に対してPCR増幅を行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが約1秒間以下の変性工程、約10秒間未満のアニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な約10秒間未満の伸長工程を含み、ここで、第一の増幅段階のアニーリング工程を、第二の増幅段階のアニーリング工程より低い温度で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一の標的配列増幅および第二のプライマーセットによる第二の標的配列増幅の相対率を変調する
ここで、DNA試料において、第一の標的配列が、第二の標的配列より、少なくとも約30倍優勢であると予期される
工程を含む、(10)の方法。
(18) PCR法がRT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行い;
(b)反応混合物に対してPCR増幅を行う
工程を含む、(10)の方法。
(19) 共通の通路に流体的に連結された複数の区画および区画から共通の通路への試薬の流れを制御する様に形成したバルブを含む、自動化したPCR系において使用するためのカートリッジであって、第一の有効なTmを有する第一のPCRプライマーセットおよび第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のPCRプライマーセットを含有する1以上の区画を含む、前記カートリッジ。
(20) 逆転写試薬、細胞溶解試薬およびRNA精製試薬の1つを含む第三の区画をさらに含む、(19)のカートリッジ。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】[0015]図1は、本発明の1つの態様にしたがったカートリッジのスキーム図である。
【図2】[0016]図2は、RT反応およびPCR反応を分離するワックスを含む(B)および含まない(A)、一試験管RT-PCRの感度を比較する2つのグラフを示す。
【図3】[0017]図3は、RT反応およびPCR反応を分離するワックス層の使用を伴い、および伴わず調製した、RT-PCR産物を比較する、エチジウムブロマイド染色ゲルの写真である。
【図4】[0018]図4は、実施例3に記載するような、マルチプレックス化反応における、CEAおよび18S rRNAの増幅を示す、4つのグラフを提供する。パネルAおよびCは、最適条件を用いて、シングルプレックスで実行した際の、それぞれ18S rRNAおよびCEAに関する結果を示す。パネルBおよびDは、マルチプレックスの18S rRNAおよびCEAを示す。
【図5】[0019]図5は、CEAヌクレオチド配列、GenBank寄託番号XM 012777(SEQ ID NO: 1)を提供する。
【図6】[0020]図6は、10種の食道腫瘍(明るい灰色)、4種の組織学的に陽性の(N1)リンパ節(白)、および癌でない患者由来の10種の良性リンパ節(濃い灰色)で測定した、相対CEA発現を示すグラフである。
【図7】[0021]図7は、30人の食道癌患者由来の組織学的に陰性のリンパ節で測定した、相対CEA発現を示す。グラフは、各患者に関して見出された、最高のCEAレベルを示す。患者1〜20(濃い灰色のカラム)は再発せず、一方、患者21〜30(明るい灰色のカラム)は再発した。点線は、再発を予測する最も正確な切り捨て値を示す。この切り捨て値を用いて、QRT-PCRは3年後の疾患再発に関して、患者の90%を正確に分類した。
【図8】[0022]図8A〜Dは、RT-PCR(8Aおよび8B)およびQRT-PCR(8Cおよび8D)によって分類した患者の疾患不含生存に関するKaplan-Meier生存曲線である。ログランク検定は、どちらの予測因子も統計的に有意であることを示すが、RT-PCRに比較して、QRT-PCRの特異性が勝っていることから、こちらのほうが、再発リスクに基づいて、患者を区別する能力がより高い可能性がある(RT-PCRに関してはP=0.0038、そしてQRT-PCRに関しては<0.0001)。
【図9】[0023]図9は、30人の病理学的に節陰性である食道癌患者由来のホルマリン固定リンパ節におけるCEA発現のSmartCycler解析を示す。灰色の棒(21〜30)は、再発を患った患者を示し、黒い棒(1〜20)は再発を患わなかった患者を示す。CEA発現が検出不能であるリンパ節は、恣意的に、0.02のレベルにプロットした。点線は、疾患再発を予測するのに、最も正確なCEA発現切り捨て値(0.183)を示す。
【図10】[0024]図10は、Smartcycler QRT-PCRに基づいて、LN陽性または陰性(0.183の切り捨て値より上または下)と階層化される30人のpN0食道癌患者に関する、Kaplan-Meier疾患不含生存曲線を示す。
【図11】[0025]図11は、凍結リンパ節におけるCEA発現のSmartcycler解析を示す。白(1〜11)=癌でない患者由来の節;黒(12〜17)=最終病理に対して、疾患が陰性であると決定された節;灰色(20〜23)=疾患に関して陽性であることが見出された節;灰色(18および19)=手術中凍結切片では陰性であったが、固定した組織像では陽性であった節;星印=疾患再発を患う、節陰性患者由来の高発現している節。CEAの発現が検出不能であるすべての試料には、0.001の値を恣意的に割り当てた。
【図12】[0026]図12A〜Cは、β-GusおよびCEAに関する迅速QRT-PCRアッセイの最適化を示す。図12Aは、異なる変性時間および30秒間の伸長時間のアッセイに関して、Ct値を比較する。図12Bは、変性時間を10秒間で一定に維持した際のCt値に対する、異なる伸長時間の影響を比較する。図12Cは、PCR条件が一定である際の、異なるRT時間の影響を示す。
【図13】[0027]図13は、β-Gusが一定のバックグラウンドにおける、CEAの8倍連続希釈中のβ-GusおよびCEAに関するCt値を示す。この図は、遅い、慣用的PCR(10秒間の変性後、30秒間のアニーリング/伸長工程)と迅速PCR(1秒間の変性後、6秒間のアニーリング/伸長工程)を比較する。◆=10、30 GUS;□=1、6 GUS;△=10、30 CEA;そして●=1、6 CEA。
【図14】[0028]図14は、15分間(2分間RTおよび1/3 PCR)、17分間(2分間RTおよび1/6 PCR)、20分間(5分間RTおよび1/6 PCR)および38分間(10分間RTおよび5/15 PCR)アッセイ間のRT-PCR実行時間比較である。
【図15】[0029]図15は、CEAシングルプレックス(パネルA)、温度制御マルチプレックスにおけるCEA(パネルB)、通常のマルチプレックスにおけるCEA(パネルC)および慣用的なプライマー制限マルチプレックスにおけるCEA(パネルD)に関する、4つの増幅プロットを示す。
【図16】[0030]図16は、CEAに関するシングルプレックスPCRと、温度制御マルチプレックス、通常のマルチプレックスおよび慣用的なプライマー制限マルチプレックスとの比較を示す。β-Gus一定バックグラウンドでのCEA連続希釈に関するデルタCt値を比較する。25のデルタCtを用いて、増幅に失敗した希釈点を示す。
【図17】[0031]図17は、リンパ節における、β-Gusに比較したCEA発現のヒストグラムである。黒の棒(1〜3)は、癌の組織学的証拠がある癌患者由来のリンパ節に対応する。灰色の棒(4〜8)は、癌でない患者由来のリンパ節に対応する。試料4および6は、検出可能なCEA発現を持たなかった。
【図18】[0032]図18は、CEA(A)およびチロシナーゼ(C)の発現がある試料、並びにCEA(B)およびチロシナーゼ(D)の発現がない試料に関する、4つの代表的な増幅プロットを示す。パネルAおよびBでは、β-gus(+)、CEA(◇)およびCEA IC(-)の蛍光曲線を示す。同様に、パネルCおよびDでは、β-gus(◇)、チロシナーゼ(-)およびチロシナーゼIC(*)の蛍光曲線を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一試験管RT-PCR法の感度および特異性を増加させる方法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して逆転写反応を行って、DNA試料を生じ;
(b)反応混合物に、PCRプライマーセットおよび熱安定性DNAポリメラーゼを含有するPCR試薬組成物を添加し;そして
(c)反応混合物に対して、PCR増幅を行う
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
PCR増幅前に、PCR反応の第一のサイクル前または該サイクル中に除去される物理的バリアによって、反応容器中の反応混合物からPCR試薬組成物を分離し、それによってPCR試薬組成物を反応混合物に添加する、請求項1の方法。
【請求項3】
逆転写反応を約10分間未満行う、請求項1の方法。
【請求項4】
逆転写反応を約2分間行う、請求項1の方法。
【請求項5】
自動化した系でRT-PCR法を行い、そしてRT-PCR法で使用する前に試薬を保管しておく複数の区画を有するカートリッジ中に、RT-PCR法の試薬を保管して、ここで、自動化した系が、プログラムされた順序にしたがって、カートリッジから反応容器に試薬を添加する、請求項1の方法。
【請求項6】
RT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行い;そして
(b)反応混合物に対して、PCR反応を行う
工程を含んでなる、前記方法。
【請求項7】
逆転写反応を約2分間行う、請求項6の方法。
【請求項8】
PCR反応が、PCR反応混合物中で、DNA試料に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、ここで、PCR増幅を第一の増幅段階および第二の増幅段階で行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが、変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、ここで、第二の増幅段階のPCR増幅を、第一の増幅段階のPCR増幅とは異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
食道の転移化腺癌を迅速に検出する方法であって:
(a)前哨(sentinel)リンパ節から得られたRNAに対して、CEAに特異的な定量的RT-PCR法を行って;そして
(b)CEA発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項10】
共通の通路に流体的に連結された複数の区画および区画から共通の通路への試薬の流れを制御する様に形成したバルブを含む、自動化したPCR系において使用するためのカートリッジであって、第一の有効なTmを有する第一のPCRプライマーセットおよび第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のPCRプライマーセットを含有する1以上の区画を含む、前記カートリッジ。
【請求項11】
逆転写試薬、細胞溶解試薬およびRNA精製試薬の1つを含む第三の区画をさらに含む、請求項10のカートリッジ。
【請求項1】
一試験管RT-PCR法の感度および特異性を増加させる方法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して逆転写反応を行って、DNA試料を生じ;
(b)反応混合物に、PCRプライマーセットおよび熱安定性DNAポリメラーゼを含有するPCR試薬組成物を添加し;そして
(c)反応混合物に対して、PCR増幅を行う
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
PCR増幅前に、PCR反応の第一のサイクル前または該サイクル中に除去される物理的バリアによって、反応容器中の反応混合物からPCR試薬組成物を分離し、それによってPCR試薬組成物を反応混合物に添加する、請求項1の方法。
【請求項3】
逆転写反応を約10分間未満行う、請求項1の方法。
【請求項4】
逆転写反応を約2分間行う、請求項1の方法。
【請求項5】
自動化した系でRT-PCR法を行い、そしてRT-PCR法で使用する前に試薬を保管しておく複数の区画を有するカートリッジ中に、RT-PCR法の試薬を保管して、ここで、自動化した系が、プログラムされた順序にしたがって、カートリッジから反応容器に試薬を添加する、請求項1の方法。
【請求項6】
RT-PCR法であって:
(a)反応混合物において、RNA試料に対して、約10分間未満、逆転写反応を行い;そして
(b)反応混合物に対して、PCR反応を行う
工程を含んでなる、前記方法。
【請求項7】
逆転写反応を約2分間行う、請求項6の方法。
【請求項8】
PCR反応が、PCR反応混合物中で、DNA試料に対してPCR増幅を行う工程を含むマルチプレックスPCR法であり、ここで、PCR増幅を第一の増幅段階および第二の増幅段階で行い、各増幅段階が1以上のPCRサイクルを含み、そして各PCRサイクルが、変性工程、アニーリング工程、およびアニーリング工程と同一温度で実行可能な伸長工程を含み、ここで、第二の増幅段階のPCR増幅を、第一の増幅段階のPCR増幅とは異なる反応条件下で行って、第一の増幅段階および第二の増幅段階中、第一のプライマーセットによる第一のアンプリコンの産生および第二のプライマーセットによる第二のアンプリコンの産生の相対率を変調する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
食道の転移化腺癌を迅速に検出する方法であって:
(a)前哨(sentinel)リンパ節から得られたRNAに対して、CEAに特異的な定量的RT-PCR法を行って;そして
(b)CEA発現が閾値レベルを超えているかどうかを決定する
工程を含む、前記方法。
【請求項10】
共通の通路に流体的に連結された複数の区画および区画から共通の通路への試薬の流れを制御する様に形成したバルブを含む、自動化したPCR系において使用するためのカートリッジであって、第一の有効なTmを有する第一のPCRプライマーセットおよび第一の有効なTmと異なる第二の有効なTmを有する第二のPCRプライマーセットを含有する1以上の区画を含む、前記カートリッジ。
【請求項11】
逆転写試薬、細胞溶解試薬およびRNA精製試薬の1つを含む第三の区画をさらに含む、請求項10のカートリッジ。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2010−162042(P2010−162042A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60455(P2010−60455)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願2008−138200(P2008−138200)の分割
【原出願日】平成14年3月4日(2002.3.4)
【出願人】(501102988)ユニバーシティ オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【分割の表示】特願2008−138200(P2008−138200)の分割
【原出願日】平成14年3月4日(2002.3.4)
【出願人】(501102988)ユニバーシティ オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション (24)
【Fターム(参考)】
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