説明

PCSK9拮抗薬

【課題】前駆タンパク質転換酵素サブチリシンケキシン9型(PCSK9)と結合する拮抗抗体の提供。
【解決手段】前記拮抗抗体の抗原結合部分、およびアプタマー。また、PCSK9と結合する、ペプチドに対する抗体。さらに、そのような抗体および抗体をコードしている核酸を得る方法。さらに、LDL−コレステロールレベルを低下させるため、かつ/または高コレステロール血症の処置を含めた心血管病を処置および/もしくは予防するための、これらの抗体およびその抗原結合部分を使用する治療的方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低密度リポタンパク質(LDL)受容体(LDLR)とのその相互作用を含めた、細胞外前駆タンパク質転換酵素サブチリシンケキシン9型(PCSK9)の活性に拮抗する、抗体、たとえば完全長抗体またはその抗原結合部分、ペプチド、およびアプタマーに関する。より詳細には、本発明は、拮抗PCSK9抗体、ペプチド、および/またはアプタマーを含む組成物、ならびにこれらの抗体および/またはペプチドおよび/またはアプタマーを医薬品として使用する方法に関する。拮抗PCSK9抗体、ペプチド、およびアプタマーは、血中のLDL−コレステロールレベルを下げるために治療的に使用することができ、家族性高コレステロール血症、アテローム生成的異常脂質血症、アテローム性動脈硬化症、およびより一般には心血管病(CVD)を含めた、コレステロールおよびリポタンパク質の代謝障害の予防および/または処置に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
米国では、何百万人もの人が心疾患およびその結果生じる心イベントの危険性にある。CVDおよび根底にあるアテローム性動脈硬化症は、その複数の危険因子に対する治療が利用可能であるにも関わらず、すべての人口統計学群に共通して一番多い死因である。アテローム性動脈硬化症は動脈の疾患であり、先進国における多くの死に関連する冠状動脈性心疾患の原因となっている。現在、冠状動脈性心疾患のいくつかの危険因子が同定されており、すなわち、異常脂質血症、高血圧、糖尿病、喫煙、食生活不良、不活動およびストレスである。臨床的に最も意味があり、一般的な異常脂質血症は、高トリグリセリド血症の非存在または存在において高コレステロール血症を伴う、ベータ−リポタンパク質(超低密度リポタンパク質(VLDL)およびLDL)の増加によって特徴づけられている(Fredricksonら、1967、N Engl J Med.,276:34〜42、94〜103、148〜156、215〜225、および273〜281)。スタチン(アテローム性動脈硬化症を看護する現在の標準)を用いた処置にも関わらず心血管イベント、心臓発作および脳卒中の60〜70%が発生しており、CVDに関して長年にわたる顕著な満たされていない要求が存在する。さらに、新しい指針は、危険性の高い患者を早発のCVDから保護するためにさらに低いLDLレベルを達成すべきであることを示唆している[National Cholesterol Education Program(NCEP)、2004]。
【0003】
PCSK9はNARC−1としても知られ、家族性高コレステロール血症の一部の形態において遺伝子突然変異を有するタンパク質として同定された。PCSK9は、小胞体においてモチーフLVFAQで自己触媒的なプロセッシングを受けるチモーゲンとして合成される。集団研究により、一部のPCSK9突然変異は「機能獲得型」であり、常染色体優性高コレステロール血症に罹患している個体で見つかる一方で、他の「機能喪失型」(LOF)突然変異は血漿コレステロールの低下に関連していることが示されている。この群での罹患率および死亡率の研究により、PCSK9の機能を低下させることで心血管病の危険性が有意に減退したことが、明らかに実証された。
【0004】
CVDの処置において顕著に重要なことに、LOF突然変異はヒトをスタチンに感作させる場合があり、より低い用量で有効性を可能にし(したがって安全性および寛容に関連する危険性を改善させる)、現在の治療よりもより低い血漿コレステロールレベルを潜在的に達成する。
【0005】
PCSK9は、主に肝細胞によって血漿内に分泌される。マウスにおけるPCSK9の遺伝子改変によりPCSK9の血中脂質を調節する能力が確認され、肝臓のLDLRタンパク質レベルをダウンレギュレーションするように作用することが示唆された。
【0006】
PCSK9がLDLRタンパク質をダウンレギュレーションする機構および部位は明確に確立されていない。過剰発現された場合、PCSK9は肝細胞内およびLDLRの分泌されたリガンドの両方として作用し得る。細胞外PCSK9が細胞表面LDLRと結合して細胞内部位でのLDLR分解を促進するという強力な証拠が存在する。しかし、2つのタンパク質が小胞体(ER)内で翻訳され、エンドソーム区画を通って細胞膜に向かって輸送される際に、PCSK9がLDLRと相互作用する可能性もあり得る。Maxwellら、2005、Curr.Opin.Lipidol.、16:167〜172により、PCSK9に媒介されるLDLRのエンドサイトーシスおよび分解は、プロテオソーム阻害剤によって変更もされず、リソソームおよび非リソソームプロテアーゼの様々なクラスによって変調もされなかったことが示された。2つの天然に存在する家族性高コレステロール血症の突然変異であるS127RおよびD129Gは自己プロセッシングに欠損があり、これらの突然変異タンパク質のレベルとしての分泌は、トランスフェクトした細胞の培地中で大きく低下したまたは検出不可能であったことが報告されている。それでも、これらの突然変異体は、高い血漿LDLを有する個体におけるその同定と一貫して、LDLRをダウンレギュレーションする増強された能力を実証した(Homerら、2008、Atherosclerosis、196:659〜666、Cameronら、2006、Human Molecular Genetics、15:1551〜1558、Lambertら、2006、TRENDS in Endocrinology and Metabolism、17:79〜81。これらの突然変異体は明らかに細胞外に分泌されないが、それでもLDLRをダウンレギュレーションするため、これは、細胞内の作用部位が生理的に重要であることを強く示唆している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当分野で入手可能な情報からは、かつ本発明より以前では、細胞外PCSK9に選択的に拮抗するために抗体、ペプチド、またはアプタマーに基づいたPCSK9拮抗薬を血液循環内に導入することが高コレステロール血症および関連するCVDの発生率を低下させるために有効であるか、また、そうである場合、PCSK9拮抗薬のどの特性がそのようなin vivoの有効性に必要であるかは不明確なままであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、PCSK9の機能を選択的に相互作用および阻害する拮抗抗体、ペプチド、およびアプタマーに関する。特定のPCSK9拮抗薬が血中コレステロールを下げるためにin vivoで有効であることが、今回初めて実証された。
【0009】
一実施形態では、本発明は、PCSK9と相互作用し、対象に投与した場合に、前記対象の血中のLDL−コレステロールレベルを下げる、抗体、ペプチド、またはアプタマーを含む単離したPCSK9の拮抗薬を提供する。拮抗薬は、抗体、たとえば、モノクローナル抗体またはヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体であることができる。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、PCSK9と特異的に結合し、本明細書中に開示したHuh7細胞におけるLDLRダウンレギュレーションアッセイを用いてin vitroで測定した場合の、LDLRレベルに対するPCSK9に媒介される効果の完全拮抗薬である、単離した抗PCSK9抗体を提供する。
【0011】
さらに別の実施形態では、本発明は、PCSK9とLDLRとのin vitroの結合によって測定される、PCSK9とLDLRとの細胞外相互作用に拮抗し、対象に投与した場合に、前記対象の血中のLDL−コレステロールレベルを下げる、単離した抗体を提供する。好ましくは、Kwonら、2008、PNAS、105:1820〜1825に記載のように、抗体は、LDLRのEGF様ドメインと相互作用するPCSK9上の表面の約75%より多くと重複するヒトPCSK9上のエピトープを認識する。
【0012】
さらに別の実施形態では、本発明は、American Type Culture Collectionに寄託されており、受託番号PTA−8986が割り当てられているハイブリドーマ細胞系によって産生される5A10、American Type Culture Collectionに寄託されており、受託番号PTA−8985が割り当てられているハイブリドーマ細胞系によって産生される4A5、American Type Culture Collectionに寄託されており、受託番号PTA−8984が割り当てられているハイブリドーマ細胞系によって産生される6F6、およびAmerican Type Culture Collectionに寄託されており、受託番号PTA−8983が割り当てられているハイブリドーマ細胞系によって産生される7D4からなる群から選択されるモノクローナル抗体によって認識される第2のエピトープと重複するPCSK9の第1のエピトープを認識する抗体を提供する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、配列番号53のPCSK9アミノ酸配列のアミノ酸残基153〜155、194、195、197、237〜239、367、369、374〜379および381を含むヒトPCSK9上のエピトープを認識する、ヒトPCSK9に対する抗体を提供する。好ましくは、ヒトPCSK9上の抗体エピトープは、アミノ酸残基71、72、150〜152、187〜192、198〜202、212、214〜217、220〜226、243、255〜258、317、318、347〜351、372、373、380、382、および383のうちの1つまたは複数を含まない。
【0014】
さらに別の実施形態では、本発明は、配列番号8に示すアミノ酸配列(SYYMH)を有するVH相補性決定領域1(CDR1)、配列番号9に示すアミノ酸配列(EISPFGGRTNYNEKFKS)を有するVH CDR2、および/もしくは配列番号10(ERPLYASDL)に示すアミノ酸配列を有するVH CDR3、またはCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3の前記配列中に1つもしくは複数の保存的アミノ酸置換を有するその変異体を含むPCSK9と特異的に結合する抗体を提供し、変異体は、前記配列によって定義されるCDRと本質的に同じ結合特異性を保持する。好ましくは、変異体は、約10個までのアミノ酸置換、より好ましくは約4個までのアミノ酸置換を含む。
【0015】
さらに、本発明は、配列番号11に示すアミノ酸配列(RASQGISSALA)を有するVL CDR1、配列番号12に示すアミノ酸配列(SASYRYT)を有するCDR2、および/もしくは配列番号13に示すアミノ酸配列(QQRYSLWRT)を有するCDR3、またはCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3の前記配列中に1つもしくは複数の保存的アミノ酸置換を有するその変異体を含む抗体を対象とし、変異体は、前記配列によって定義されるCDR1と本質的に同じ結合特異性を保持する。好ましくは、変異体は、約10個までのアミノ酸置換、より好ましくは約4個までのアミノ酸置換を含む。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、特定のVL CDR1、CDR2、および/もしくはCDR3配列、またはCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3中に1つもしくは複数の保存的アミノ酸置換を有するその変異体を含み、配列番号59、60、もしくは8に示すアミノ酸配列を有するVH相補性決定領域CDR1、配列番号61もしくは9に示すアミノ酸配列を有するVH CDR2、および/または配列番号10に示すアミノ酸配列を有するVH CDR3、またはCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3の前記配列中に1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を有するその変異体をさらに含む抗体を提供し、変異体は、前記配列によって定義されるCDR1、CDR2、および/またはCDR3と本質的に同じ結合特異性を保持する。好ましくは、変異体は、約20個までのアミノ酸置換、より好ましくは約8個までのアミノ酸置換を含む。別の好ましい実施形態では、本発明の抗体は、配列番号54を含むまたはそれからなる可変重鎖配列および配列番号53を含むまたはそれからなる可変軽鎖配列を有する。
【0017】
また、本発明は、配列番号14、配列番号15、もしくは配列番号14および配列番号15の両方からなる群から選択されるポリペプチド、または前記配列中に1つもしくは複数の保存的アミノ酸置換を有するその変異体を含むヒト化抗体も提供し、変異体は、前記配列(複数可)によって定義される抗体と本質的に同じ結合特異性を保持する。また、これには重鎖上の末端リシンを欠く抗体も含まれ、これは、製造中に一定割合の抗体でこれが通常失われるためである。
【0018】
好ましくは、変異体は、約20個までのアミノ酸置換、より好ましくは約8個までのアミノ酸置換を含む。好ましくは、抗体は免疫学的に不活性な定常領域をさらに含む、かつ/または抗体は、IgG、IgG、IgG2Δa、IgG4Δb、IgG4Δc、IgG S228P、IgG4Δb S228PおよびIgG4Δc S228Pからなる群から選択されるアイソタイプを有する。別の好ましい実施形態では、定常領域は脱グリコシル化されたFcである。
【0019】
一実施形態では、本発明は、対象に治療上有効な量の本発明の拮抗薬を投与することを含む、それを必要としている対象の血液、血清、または血漿中のLDL、LDL−コレステロール、または総コレステロールのレベルを低下させる方法を提供する。
【0020】
一実施形態では、本発明は、それを必要としている対象の血液、血清、または血漿中のLDL、LDL−コレステロール、または総コレステロールのレベルの低下に使用するための、治療上有効な量の本発明の拮抗薬を提供する。さらに、本発明は、それを必要としている対象の血液、血清、または血漿中のLDL、LDL−コレステロール、または総コレステロールのレベルを低下させるための医薬品の製造における、治療上有効な量の本発明の拮抗薬の使用を提供する。
【0021】
さらに別の実施形態では、本発明は、a)PCSK9陰性宿主動物を提供することと、b)前記PCSK9陰性宿主動物をPCSK9で免疫化することと、c)抗体、抗体産生細胞、または前記PCSK9陰性宿主動物由来の抗体をコードしている核酸を得て、前記抗体産生細胞または前記抗体をコードしている核酸から抗体を調製することとを含む、PCSK9と特異的に結合する抗体を調製する方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、対象に治療上有効な量の本発明に従って調製した抗体を投与することを含む、それを必要としている対象の血中のLDLのレベルを低下させる方法も含む。対象はスタチンを投与することによってさらに処置することができる。好ましい実施形態では、対象はヒト対象である。
【0023】
一実施形態では、抗体は、約5.0〜約6.5の範囲のpHを有し、約1mg/ml〜約200mg/mlの抗体、約1ミリモーラー〜約100ミリモーラーのヒスチジン緩衝液、約0.01mg/ml〜約10mg/mlのポリソルベート80、約100ミリモーラー〜約400ミリモーラーのトレハロース、および約0.01ミリモーラー〜約1.0ミリモーラーのEDTA二ナトリウム二水和物を含む無菌水溶液としての製剤の形で投与する。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、それを必要としている対象の血中のLDLのレベルの低下に使用するための、治療上有効な量の本発明に従って調製した抗体を提供する。さらに、本発明は、それを必要としている対象の血中のLDLのレベルを低下させるための医薬品の製造における、治療上有効な量の本発明に従って調製した抗体の使用を提供する。治療上有効な量は、治療上有効な量のスタチンと任意選択で合わせることができる。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、PCSK9に特異的な抗体またはその抗原結合部分を産生するハイブリドーマ細胞系を提供し、ハイブリドーマ細胞系は、
ATCC受託番号PTA−8985を有する4A5、
ATCC受託番号PTA−8986を有する5A10、
ATCC受託番号PTA−8984を有する6F6、および
ATCC受託番号PTA−8983を有する7D4
からなる群から選択される。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、PCSK9と特異的に結合し、配列番号8、59、もしくは60に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)相補性決定領域1(CDR1)、配列番号9もしくは61に示すアミノ酸配列を有するVH CDR2、および/または配列番号10に示すアミノ酸配列を有するVH CDR3、またはCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3中に1つもしくは複数の保存的アミノ酸置換を有するその変異体を含む、かつ/または配列番号11に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)CDR1、配列番号12に示すアミノ酸配列を有するVL CDR2、および/または配列番号13に示すアミノ酸配列を有するVL CDR3、またはCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3中に1つもしくは複数の保存的アミノ酸置換を有するその変異体を含む抗体を組換えによって産生する細胞系を提供する。好ましくは、細胞系は、配列番号53および/または54、より好ましくは配列番号14および/または15を含む抗体を組換えによって産生する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】マウスPCSK9(A)およびヒトPCSK9(B)が培養Huh7細胞においてLDLRをダウンレギュレーションする能力に対する、抗PCSK9拮抗性モノクローナル抗体7D4.4、4A5.G3、6F6.G10.3および5A10.B8の効果を例示する図である。6F6.G10.3は6F6のサブクローンであり、7D4.4は7D4のサブクローンであり、4A5.G3は4A5のサブクローンであり、5A10.B8は5A10のサブクローンである。
【図2】組換えのビオチン標識したヒトPCSK9(A)およびマウスPCSK9(B)と固定した組換えLDLR細胞外ドメインとのin vitroでの結合を遮断する、抗PCSK9拮抗モノクローナル抗体6F6.G10.3、7D4.4、4A5.G3、5A10.B8、陰性対照抗体42H7、およびPBSの用量応答を例示する図である。
【図3】組換えのビオチン標識したヒトPCSK9(30nM)とユーロピウム標識した組換えLDLR細胞外ドメイン(10nM)との、溶液中、中性pH、in vitroでの結合を遮断する、抗PCSK9モノクローナル拮抗抗体6F6.G10.3、7D4.4、4A5.G3および5A10.B8の用量応答を例示する図である。
【図4】抗PCSK9抗体の比較エピトープ結合を例示する図である。
【図5】抗PCSK9抗体と様々な種由来の血清PCSK9との結合のウエスタンブロットを例示する図である。
【図6】マウスにおける血中コレステロールレベルに対する抗PCSK9モノクローナル抗体7D4の効果を例示する図である。
【図7】マウスにおける、(A)LDLRのダウンレギュレーションに対する部分拮抗薬ポリクローナル抗PCSK9 mAb CRN6の効果、および(B)コレステロールレベルに対する効果の欠如を例示する図である。
【図8】マウスにおいて抗PCSK9拮抗抗体7D4を用いて得られたコレステロール下降効果の時間経過を例示する図である。
【図9】マウスにおける血清の総コレステロール、HDLおよびLDLの低下に対する抗PCSK9拮抗mAb 7D4の用量依存性を例示する図である。
【図10】マウスにおける抗PCSK9拮抗抗体5A10のコレステロール下降効果の用量依存性を例示する図である。
【図11】マウスにおける抗PCSK9拮抗抗体(A)4A5および(B)6F6のコレステロール下降効果の用量依存性を例示する図である。
【図12】肝臓LDLRレベルに対する抗PCSK9拮抗抗体の効果のウエスタンブロットを示す図である。
【図13】LDLR−/−マウスモデルにおける抗PCSK9拮抗抗体4A5の効果の欠如を例示する図である。
【図14】マウスにおける、単一用量でみられるよりも長い時間経過にわたる、抗PCSK9拮抗抗体の複数投与の総血清コレステロールに対する効果を例示する図である。
【図15】カニクイザルモデルにおける脂質パラメータに対する抗PCSK9拮抗抗体7D4の効果の時間経過を例示する図である。
【図16】カニクイザルにおける血清コレステロールレベルに対する抗PCSK9拮抗抗体7D4の用量および時間応答を例示する図である。
【図17】カニクイザルにおける血清コレステロールレベルに対する抗PCSK9拮抗抗体4A5、5A10、6F6および7D4の比較を例示する図である。
【図18】0.1%のコレステロールを添加した33.4%kcalの脂肪食を与えたカニクイザルの血漿コレステロールレベルに対する抗PCSK9拮抗抗体7D4の効果の時間経過を例示する図である。
【図19】Huh7細胞におけるLDLRのダウンレギュレーションに対するL1L3(ヒト化抗PCSK9モノクローナル抗体)の効果を例示する図である。
【図20】組換えのビオチン標識したヒトPCSK9(AおよびB)ならびにマウスPCSK9(CおよびD)と固定した組換えLDLR細胞外ドメインとの、in vitro、pH7.5(AおよびC)ならびにpH5.3(BおよびD)での結合の遮断における、L1L3ヒト化抗体、マウス前駆体5A10、および陰性対照抗体42H7の用量応答を例示する図である。
【図21】10mg/kgのL1L3で処置したマウスの血清コレステロールに対する効果を例示する図である。
【図22】5A10抗体またはL1L3をカニクイザルに投与した効果、ならびに時間の関数としての血清HDL(A)および血清LDL(B)の変化の測定を例示する図である。
【図23A】L1L3抗体(黒色画像の表示)と結合したPCSK9(薄灰色表面の表示)の結晶構造を示す図である。
【図23B】LDLRのEGF様ドメイン(黒色画像の表示)と結合したPCSK9(薄灰色表面の表示)の結晶構造を示す図である(Kwonら、PNAS、105、1820〜1825、2008)。
【図23C】PCSK9の表面積の表示を示す図であり、L1L3エピトープを濃灰色で示す。
【図23D】PCSK9の表面積の表示を示す図であり、LDLR EGF様ドメインエピトープを濃灰色で示す。
【図24A−G】特定の特性を達成するために親和性成熟および最適化の過程で抗体5A10のCDR中に行った置換を示す表である。これらのCDR置換を有する抗体に関連するPCSK9結合も示す。それぞれの配列に続く数字は、それぞれの配列に指定した配列番号である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、LDLRとのその相互作用を含めた細胞外PCSK9の機能に拮抗する、抗体、ペプチド、およびアプタマーに関する。より詳細には、本発明は、拮抗PCSK9抗体、ペプチド、およびアプタマーを作製する方法、これらの抗体、ペプチド、および/またはアプタマーを含む組成物、ならびにこれらの抗体、ペプチド、および/またはアプタマーを医薬品として使用する方法に関する。拮抗PCSK9抗体およびペプチドは血中LDL−コレステロールレベルを下げるために使用することができ、家族性高コレステロール血症、アテローム生成的異常脂質血症、アテローム性動脈硬化症、およびより一般にはCVDを含めた、コレステロールおよびリポタンパク質の代謝障害の予防および/または処置に使用することができる。
【0029】
一般技術
本発明の実施では、別段に指定しない限りは、当分野の技術範囲内にある分子生物学(組換え技術が含まれる)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の慣用技術を用いる。そのような技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989)、Cold Spring Harbor Press、Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984)、Methods in Molecular Biology、Humana Press、Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis編、1998)、Academic Press、Animal Cell Culture(R.I.Freshney編、1987)、Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.MatherおよびP.E.Roberts、1998)、Plenum Press、Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle、J.B.Griffiths、およびD.G.Newell編、1993〜1998)、J.Wiley and Sons、Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.)、Handbook of Experimental Immunology(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.MillerおよびM.P.Calos編、1987)、Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987)、PCR:The Polymerase Chain Reaction、(Mullisら編、1994)、Current Protocols in Immunology(J.E.Coliganら編、1991)、Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999)、Immunobiology(C.A.JanewayおよびP.Travers、1997)、Antibodies(P.Finch、1997)、Antibodies:a practical approach(D.Catty編、IRL Press、1988〜1989)、Monoclonal antibodies:a practical approach(P.ShepherdおよびC.Dean編、Oxford University Press、2000)、Using antibodies:a laboratory manual(E.HarlowおよびD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999)、The Antibodies(M.ZanettiおよびJ.D.Capra編、Harwood Academic Publishers、1995)等の文献中に完全に記載されている。
【0030】
定義
「抗体」とは、免疫グロブリン分子の可変領域中に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチド等の標的と特異的結合することができる免疫グロブリン分子である。本明細書中で使用する場合、この用語には、インタクトなポリクローナルまたはモノクローナル抗体だけでなく、その断片(Fab、Fab’、F(ab’)、Fv)、単鎖(ScFv)およびドメイン抗体等)、抗体部分を含む融合タンパク質、ならびに抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の改変された立体配置も包含される。抗体には、IgG、IgA、またはIgM等の任意のクラス(またはそのサブクラス)の抗体が含まれ、抗体は任意の特定のクラスのものである必要はない。その重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを様々なクラスに割り当てることができる。5つの主要な免疫グロブリンクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMが存在し、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2へとさらに分類し得る。様々な免疫グロブリンクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、およびミューと呼ばれる。様々な免疫グロブリンクラスのサブユニットの構造および三次元立体配置は周知である。
【0031】
本明細書中で使用する「モノクローナル抗体」とは、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体をいい、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る、可能な天然に存在する突然変異以外は同一である。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に向けられており、特異性が高い。さらに、典型的には様々な決定要因(エピトープ)に対する様々な抗体が含まれるポリクローナル抗体調製物とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は抗原上の単一の決定要因に向けられている。修飾語句「モノクローナル」は、抗体の特徴を実質的に均質な抗体の集団から得られたものとして示し、抗体を任意の特定の方法によって産生することを要すると解釈されるべきでない。たとえば、本発明に従って使用するモノクローナル抗体は、最初にKohlerおよびMilstein、1975、Nature、256:495によって記載されたハイブリドーマ方法によって作製してよく、または米国特許第4,816,567号に記載のもの等の組換えDNA方法によって作製してよい。また、モノクローナル抗体は、たとえばMcCaffertyら、1990、Nature、348:552〜554に記載の技術を用いて作製したファージライブラリーから単離してもよい。
【0032】
本明細書中で使用する「ヒト化」抗体とは、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有する、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはその断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)もしくは抗体の他の抗原結合部分配列等)である非ヒト(たとえばネズミ)抗体の形態をいう。好ましくは、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギ等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基によって置き換えられている。一部の例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基を対応する非ヒト残基によって置き換える。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にも輸入したCDRまたはフレームワーク配列中にも見つからないが、抗体の性能をさらに洗練および最適化するために含められた残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのうちの実質的にすべてを含み、CDR領域のすべてまたは実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンのそれに対応し、FR領域のすべてまたは実質的にすべてはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。また、ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域またはドメイン(Fc)の少なくとも一部分も含む。WO99/58572号に記載のように改変されたFc領域を有する抗体が好ましい。ヒト化抗体の他の形態は、元の抗体に関して変更されている1つまたは複数のCDR(CDR L1、CDR L2、CDR L3、CDR H1、CDR H2、および/またはCDR H3)を有し、これは、元の抗体からの1つまたは複数のCDRに「由来する」1つまたは複数のCDRとも呼ばれる。
【0033】
本明細書中で使用する「ヒト抗体」とは、ヒトによって産生されることができる抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体、および/または当業者に知られているもしくは本明細書中に開示したヒト抗体を作製するための技術のうちの任意のものを用いて作製した抗体を意味する。このヒト抗体の定義には、少なくとも1つのヒト重鎖ポリペプチドまたは少なくとも1つのヒト軽鎖ポリペプチドを含む抗体が含まれる。そのような例の1つは、ネズミ軽鎖およびヒト重鎖ポリペプチドを含む抗体である。ヒト抗体は、当分野で知られている様々な技術を用いて産生することができる。一実施形態では、ヒト抗体は、ヒト抗体を発現するファージライブラリーから選択される(Vaughanら、1996、Nature Biotechnology、14:309〜314、Sheetsら、1998、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)、95:6157〜6162、HoogenboomおよびWinter、1991、J.Mol.Biol.、227:381、Marksら、1991、J.Mol.Biol.、222:581)。また、ヒト抗体は、内在性座位の代わりにヒト免疫グロブリン座位を遺伝子導入により導入した動物、たとえば、内在性免疫グロブリン遺伝子を部分的にまたは完全に不活性化したマウスの免疫化によっても作製することができる。この手法は、米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号、および第5,661,016号に記載されている。あるいは、ヒト抗体は、標的抗原に対する抗体を産生するヒトBリンパ球を不死化することによって調製し得る(そのようなBリンパ球は、個体から回収するか、またはin vitroで免疫化し得る)。たとえば、Coleら、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss、77ページ、1985、Boernerら、1991、J.Immunol.、147(1):86〜95、および米国特許第5,750,373号を参照されたい。
【0034】
抗体の「可変領域」とは、単独または組み合わせた、抗体軽鎖の可変領域または抗体重鎖の可変領域をいう。当分野で知られているように、重鎖および軽鎖の可変領域は、それぞれ、超可変領域を含有する3つの相補性決定領域(CDR)によって接続された4つのフレームワーク領域(FR)からなる。それぞれの鎖中のCDRはFRによって非常に近位に一緒に保たれ、他方の鎖からのCDRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。CDRを決定する技術は少なくとも2つ存在する:(1)種間配列可変性に基づいた手法(すなわち、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、(第5版、1991、National Institutes of Health、Bethesda MD))、および(2)抗原−抗体の複合体の結晶学的研究に基づいた手法(Al−lazikaniら、1997、J.Molec.Biol.、273:927〜948)。本明細書中で使用するCDRとは、どちらかの手法または両方の手法の組合せによって定義されたCDRをいい得る。
【0035】
当分野で知られている抗体の「定常領域」とは、単独または組み合わせた、抗体軽鎖の定常領域または抗体重鎖の定常領域をいう。
【0036】
本明細書中で使用する用語「PCSK9」とは、PCSK9の活性の少なくとも一部を保持する、PCSK9の任意の形態およびその変異体をいう。ヒトPCSK9に具体的に言及すること等によって別段に示さない限りは、PCSK9には、ネイティブ配列PCSK9のすべての哺乳動物種、たとえば、ヒト、イヌ科動物、ネコ科動物、ウマ科動物、およびウシ亜科動物が含まれる。1つの例示的なヒトPCSK9はUniprot受託番号Q8NBP7(配列番号16)として見つかる。
【0037】
本明細書中で使用する「PCSK9拮抗薬」とは、PCSK9に媒介されるLDLRのダウンレギュレーション、およびPCSK9に媒介されるLDL血中クリアランスの減少を含めた、PCSK9シグナル伝達によって媒介されるPCSK9の生物活性および/または下流経路(複数可)を阻害することができる抗体、ペプチド、またはアプタマーをいう。PCSK9拮抗抗体には、LDLR相互作用および/またはPCSK9に対する細胞応答の誘発等の、PCSK9シグナル伝達によって媒介される下流経路を含めたPCSK9生物活性を遮断、拮抗、抑制または低下する(有意な度合を含めた任意の度合まで)抗体が包含される。本発明の目的のために、用語「PCSK9拮抗抗体」には、既に同定した用語、主題、ならびに機能状態および特徴のすべてが包含され、PCSK9自体、PCSK9生物活性(それだけには限定されないが、LDLRとの相互作用、LDLRのダウンレギュレーション、および減少した血中LDLクリアランスのうちの任意の側面を媒介するその能力が含まれる)、または生物活性の結果が、任意の有意な度合で実質的に無効化、減少、または中和されることが、明確に理解されよう。一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体はPCSK9と結合して、LDLRとの相互作用を防止する。PCSK9拮抗抗体の例を本明細書中に提供する。
【0038】
本明細書中で使用する「完全拮抗薬」とは、有効な濃度でPCSK9の測定可能な効果を本質的に完全に遮断する拮抗薬である。部分拮抗薬とは、測定可能な効果を部分的に遮断することができるが、最高の濃度でも完全拮抗薬ではない拮抗薬を意味する。本質的に完全とは、測定可能な効果が少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、最も好ましくは少なくとも約98%または99%が遮断されることを意味する。関連する「測定可能な効果」を本明細書中に記載し、Huh7細胞においてin vitroでアッセイしたPCSK9拮抗薬によるLDLRのダウンレギュレーション、血液(または血漿)中の総コレステロールレベルのin vivoの減少、および血液(または血漿)中のLDLレベルのin vivoの減少が含まれる。
【0039】
本明細書中で使用する用語「臨床的に有意義」とは、ヒトにおける血中LDL−コレステロールレベルの少なくとも15%の低下またはマウスにおける総血中コレステロールの少なくとも15%の低下を意味する。血漿または血清中の測定値は、血液中のレベルの測定値の代理として役割を果たすことができることが明らかである。
【0040】
本明細書中で使用する用語「PCSK9拮抗ペプチド」または「PCSK9拮抗アプタマー」には、LDLR相互作用および/またはPCSK9に対する細胞応答の誘発等の、PCSK9シグナル伝達によって媒介される下流経路を含めたPCSK9生物活性を遮断、拮抗、抑制または低下する(有意な度合を含めた任意の度合まで)、任意の慣用のペプチドまたはポリペプチドまたはアプタマーが含まれる。PCSK9拮抗ペプチドまたはポリペプチドには、LDLRおよびLDLRの可溶性部分を含むFc融合体、またはPCSK9に対してより高い親和性を有するその突然変異体が含まれる。
【0041】
用語「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」とは、本明細書中で互換性があるように使用し、任意の長さ、好ましくは比較的短い(たとえば10〜100個のアミノ酸)のアミノ酸鎖をいう。鎖は直鎖状または分枝状であってよく、修飾されたアミノ酸を含んでいてもよく、および/または非アミノ酸によって中断されてもよい。また、この用語には、自然に、または介入によって、たとえば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または任意の他の操作もしくは修飾、たとえば標識構成要素とのコンジュゲーションによって修飾されたアミノ酸鎖も包含される。また、この定義には、たとえば、アミノ酸(たとえば非天然アミノ酸等が含まれる)の1つまたは複数の類似体、および当分野で知られている他の修飾を含有するポリペプチドも含まれる。ポリペプチドは、単鎖または会合した鎖として存在できることを理解されたい。
【0042】
当分野で知られているように、本明細書中で互換性があるように使用する「ポリヌクレオチド」または「核酸」とは、任意の長さのヌクレオチド鎖をいい、DNAおよびRNAが含まれる。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/またはその類似体、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによって鎖内に取り込まれることができる任意の基質であることができる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびその類似体等の修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合は、ヌクレオチド構造への修飾は、鎖のアセンブリの前または後に与え得る。ヌクレオチドの配列、非ヌクレオチド構成要素によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、重合後に、標識構成要素とのコンジュゲーション等によってさらに修飾し得る。他の種類の修飾には、たとえば、「caps」、天然に存在するヌクレオチドのうちの1つまたは複数を類似体で置換すること、ヌクレオチド間修飾、たとえば、非荷電連結(たとえば、ホスホン酸メチル、リン酸トリエステル、ホスホアミデート、カルバメート等)および荷電連結(たとえば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)を用いたもの、たとえばタンパク質(たとえば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リシン等)等のペンダント部分を含有するもの、介入物(たとえば、アクリジン、ソラレン等)を用いたもの、キレート剤(たとえば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化的金属等)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された連結(たとえばアルファアノマー核酸等)を用いたもの、ならびにポリヌクレオチドの非修飾形態(複数可)が含まれる。糖内に通常存在するヒドロキシル基のうちの任意のものを、たとえば、ホスホン酸基、リン酸基によって置き換える、標準の保護基によって保護する、もしくは活性化してさらなるヌクレオチドとの追加の連結を調製する、または固体担体とコンジュゲートし得る。5’および3’末端のOHは、リン酸化するか、またはアミンもしくは1〜20個の炭素原子の有機キャップ基部分で置換することができる。また、他のヒドロキシルも標準の保護基へと誘導体化し得る。また、ポリヌクレオチドは、たとえば、2’−O−メチル−、2’−O−アリル、2’−フルオロ−または2’−アジド−リボース、炭素環糖類似体、アルファ−またはベータ−アノマー糖、アラビノース、キシロースまたはリキソース等のエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環状類似体およびメチルリボシド等の脱塩基ヌクレオシド類似体を含めた、一般に当分野で知られているリボースまたはデオキシリボース糖の類似体も含有することができる。1つまたは複数のリン酸ジエステル連結を代替の連結基によって置き換え得る。これらの代替の連結基には、それだけには限定されないが、ホスフェートがP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、COまたはCH(「ホルムアセタール」)[式中、それぞれのRまたはR’は、独立して、H、またはエーテル(−O−)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニルもしくはアラルジルを含有していてもよい、置換もしくは非置換のアルキル(1〜20個のC)である]によって置き換えられている実施形態が含まれる。ポリヌクレオチド中のすべての連結が同一である必要はない。前述の説明は、RNAおよびDNAを含めた本明細書中で言及するすべてのポリヌクレオチドに適用される。
【0043】
核酸またはタンパク質配列を含む「PCSK9拮抗アプタマー」は、たとえば、ランダム配列の大きなプールから選択され、PCSK9と特異的に結合する。アプタマーの核酸は二本鎖DNAまたは一本鎖RNAである。核酸アプタマーには、それだけには限定されないが、2’−フッ素ヌクレオチドおよび2’−O−メチルヌクレオチドを含めた、修飾された塩基または官能基が含まれることができる。アプタマーには、親水性ポリマー、たとえばポリエチレングリコールが含まれることができる。アプタマーは、当分野で知られている方法によって作製し、実施例中に開示した方法のルーチン的な改変によってPCSK9拮抗活性について選択し得る。
【0044】
本明細書中で使用する場合、抗体、ペプチド、またはアプタマーは、本明細書中の実施例2に開示した方法によって測定して、平衡解離定数が20nM以下、好ましくは約6nM未満、より好ましくは約1nM未満、最も好ましくは約0.2nM未満である場合に、PCSK9「と相互作用する」。
【0045】
抗体またはポリペプチドと「優先的に結合する」または「と特異的に結合する」(本明細書中で互換性があるように使用する)エピトープとは、当分野で十分に理解されている用語であり、そのような特異的または優先的な結合を決定する方法も当分野で周知である。分子は、別の細胞または物質よりも頻繁に、より迅速に、より長く持続しておよび/またはより高い親和性で特定の細胞または物質と反応または会合する場合に、「特異的結合」または「優先的結合」を示すといわれる。抗体は、それが他の物質と結合するよりも高い親和性で、結合力、より容易に、および/またはより長く持続して標的と結合する場合に、標的と「特異的に結合する」または「優先的に結合する」。たとえば、PCSK9エピトープと特異的または優先的に結合する抗体とは、それが他のPCSK9エピトープまたはPCSK9ではないエピトープと結合するよりも高い親和性で、結合力、より容易に、および/またはより長く持続して、このエピトープと結合する抗体である。また、この定義を読むことによって、たとえば、第1の標的と特異的または優先的に結合する抗体(または部分もしくはエピトープ)は、第2の標的と特異的または優先的に結合しても、しなくてもよいことが理解されよう。したがって、「特異的結合」または「優先的結合」は、必ずしも排他的な結合を必要としない(ただし、含まれることができる)。一般に、必ずではないが、結合への言及は優先的な結合を意味する。
【0046】
本明細書中で使用する「実質的に純粋」とは、少なくとも50%純粋(すなわち、汚染物質を含まない)、より好ましくは少なくとも90%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、さらにより好ましくは少なくとも98%純粋、最も好ましくは少なくとも99%純粋な物質をいう。
【0047】
「宿主細胞」には、ポリヌクレオチド挿入物を取り込ませるためのベクター(複数可)のレシピエントとなることができる、またはそうであった、個々の細胞または細胞培養物が含まれる。宿主細胞には単一の宿主細胞の子孫が含まれ、子孫は、天然、偶発的、または意図的な突然変異が原因で、必ずしも元の親細胞と(形態学またはゲノムDNA相補性において完全に同一でない場合がある。宿主細胞には、本発明のポリヌクレオチド(複数可)をin vivoでトランスフェクトした細胞が含まれる。
【0048】
当分野で知られているように、用語「Fc領域」とは、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用する。「Fc領域」はネイティブ配列Fc領域または変異体Fc領域であり得る。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、通常、位置Cys226またはPro230のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端までのストレッチと定義される。Fc領域中の残基の付番はカバットと同様のEU指標のものである。Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda,Md.、1991。免疫グロブリンのFc領域は、一般に、2つの定常ドメインであるCH2およびCH3を含む。
【0049】
当分野で使用する「Fc受容体」および「FcR」とは、抗体のFc領域と結合する受容体を説明している。好ましいFcRはネイティブ配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(ガンマ受容体)と結合するものであり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体が含まれ、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングされた形態が含まれる。FcγRII受容体にはFcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害性受容体」)が含まれ、これらは、主にその細胞質ドメインが異なる同様のアミノ酸配列を有する。FcRは、RavetchおよびKinet、1991、Ann.Rev.Immunol.、9:457〜92、Capelら、1994、Immunomethods、4:25〜34、ならびにde Haasら、1995、J.Lab.Clin.Med.、126:330〜41に総説されている。また、「FcR」には、母性IgGを胎児に移行することを担っている新生児受容体FcRnも含まれる(Guyerら、1976、
J.Immunol.、117:587、およびKimら、1994、J.Immunol.、24:249)。
【0050】
抗体に関して本明細書中で使用する用語「競合する」とは、第1の抗体またはその抗原結合部分が、第1の抗体とその同族エピトープとの結合が、第2の抗体の非存在下における第1の抗体の結合と比較して第2の抗体の存在下で検出可能に減少するように、第2の抗体またはその抗原結合部分の結合に十分類似の様式でエピトープと結合することを意味する。その代替である、第2の抗体とそのエピトープとの結合も第1の抗体の存在下で検出可能に減少することは、起こってもよいが必ずしもそうでなくてよい。すなわち、第1の抗体は、第2の抗体が第1の抗体とその対応するエピトープとの結合を阻害することなしに、その第2の抗体とそのエピトープとの結合を阻害することができる。しかし、それぞれの抗体が他方の抗体とその同族エピトープまたはリガンドとの結合を検出可能に阻害する場合は、程度が同じであれ、より大きくあれ、またはより少なくあれ、抗体は、その対応するエピトープ(複数可)の結合について互いに「交差競合する」といわれる。競合および交差競合抗体はどちらも本発明によって包含される。そのような競合または交差競合が起こる機構(たとえば、立体障害、コンホメーション変化、または共通エピトープもしくはその一部分との結合)に関わらず、当業者は、本明細書中に提供した教示に基づいて、そのような競合および/または交差競合抗体が包含され、本明細書中に開示した方法に有用な場合があることを理解されたい。
【0051】
別の(第2の)エピトープまたはLDLRのEGF様ドメインと相互作用するPCSK9上の表面と「重複する」エピトープを有する抗体とは、相互作用するPCSK9残基に関して空間を共有することを意味する。重複のパーセント、たとえば、特許請求した抗体のPCSK9エピトープとLDLRのEGF様ドメインと相互作用するPCSK9の表面とのパーセント重複を計算するために、LDLRとの複合体中に埋もれているPCSK9の表面積を残基あたりで計算する。埋もれている面積を、PCSK9:抗体の複合体中のこれらの残基についても計算する。100%を超える可能な重複を防ぐために、LDLR:PCSK9の複合体よりもPCSK9:抗体の複合体中でより大きな埋もれた表面積を有する残基の表面積を、LDLR:PCSK9の複合体(100%)からの値として設定する。パーセント表面重複は、LDLR:PCSK9の相互作用残基の全部を合計することによって計算し、相互作用面積によって重みづけする。
【0052】
「機能的Fc領域」は、ネイティブ配列Fc領域の少なくとも1つのエフェクター機能を保有する。例示的な「エフェクター機能」には、C1q結合、補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害、貪食、細胞表面受容体(たとえばB細胞受容体)のダウンレギュレーション等が含まれる。そのようなエフェクター機能は、一般に、Fc領域が結合ドメイン(たとえば抗体可変ドメイン)と組み合わさることを必要とし、そのような抗体エフェクター機能を評価するための当分野で知られている様々なアッセイを用いて評価することができる。
【0053】
「ネイティブ配列Fc領域」は、天然に見つかるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。「変異体Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾によってネイティブ配列Fc領域のそれとは異なるアミノ酸配列を含むが、それでもネイティブ配列Fc領域の少なくとも1つのエフェクター機能を保持している。好ましくは、変異体Fc領域は、ネイティブ配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換、たとえば、ネイティブ配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域中に約1〜約10個のアミノ酸置換、好ましくは約1〜約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書中の変異体Fc領域は、好ましくは、ネイティブ配列Fc領域および/または親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の配列同一性、最も好ましくはそれと少なくとも約90%の配列同一性、より好ましくはそれと少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%の配列同一性を保有する。
【0054】
本明細書中で使用する「処置」とは、有益または所望の臨床的結果を得るための手法である。本発明の目的のために、有益または所望の臨床的結果には、それだけには限定されないが、LDLクリアランスの増強ならびに代謝および/もしくは摂食障害から生じる異常なコレステロールおよび/もしくはリポタンパク質レベルの発生率の低下もしくは寛解、または家族性高コレステロール血症、アテローム生成的異常脂質血症、アテローム性動脈硬化症、およびより一般には心血管病(CVD)のうちの1つまたは複数が含まれる。
【0055】
「発生率の低下」とは、重篤度の低下のうちの任意のものを意味する(これには、この状態に一般に使用される他の薬物および/または治療の必要性および/または量(たとえば曝露)の低下が含まれることができる。当業者には理解されるように、個体は、処置に対するその応答に関して異なる場合があり、したがって、たとえば、「発生率を低下させる方法」とは、そのような投与が、その特定の個体においてそのような発生率の低下を引き起こし得るという合理的な予測に基づいて、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを投与することを反映する。
【0056】
「寛解させること」とは、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを投与しないことと比較した、1つまたは複数の症状の軽減または改善を意味する。また、「寛解させること」には、症状の持続期間の短縮または縮小も含まれる。
【0057】
本明細書中で使用する薬物、化合物、または医薬組成物の「有効な用量」または「有効量」とは、任意の1つまたは複数の有益または所望の結果をもたらすために十分な量である。予防的使用には、有益または所望の結果には、疾患の生化学的、組織学的および/または行動性の症状、その合併症ならびに疾患の発生中に提示される中間の病理学的表現型を含めた疾患の、危険性を排除もしくは低下すること、重篤度を軽減させること、または発生を遅延させることが含まれる。治療的使用には、有益または所望の結果には、高コレステロール血症または異常脂質血症、アテローム性動脈硬化症、CVD、もしくは冠状動脈性心疾患の1つもしくは複数の症状を低下させること、疾患の処置に必要な他の医薬品の用量を減少させること、別の医薬品の効果を増強させること、および/または患者の疾患の進行を遅延させること等の臨床的結果が含まれる。有効な用量を1つまたは複数の投与で投与することができる。本発明の目的のために、有効な用量の薬物、化合物、または医薬組成物とは、予防的または治療的処置を直接または間接的に達成するために十分な量である。臨床的コンテキストにおいて理解されるように、有効な用量の薬物、化合物、または医薬組成物は、別の薬物、化合物、または医薬組成物と併せて達成される場合もされない場合もあり得る。したがって、「有効な用量」は、1つまたは複数の治療剤を投与するコンテキストにおいて検討される場合があり、1つまたは複数の他の薬剤と併せて望ましい結果が達成され得るまたは達成される場合は、単一の薬剤を有効量で与えることを検討し得る。
【0058】
「個体」または「対象」とは、哺乳動物、より好ましくはヒトである。また、哺乳動物には、それだけには限定されないが、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、マウスおよびラットも含まれる。
【0059】
本明細書中で使用する「ベクター」とは、1つまたは複数の目的の遺伝子または配列を宿主細胞内に送達し、好ましくは発現させることができる構築体を意味する。ベクターの例には、それだけには限定されないが、ウイルスベクター、裸DNAまたはRNA発現ベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター、陽イオン性凝縮剤と会合したDNAまたはRNA発現ベクター、リポソーム内にカプセル封入したDNAまたはRNA発現ベクター、および産生細胞等の特定の真核細胞が含まれる。
【0060】
本明細書中で使用する「発現制御配列」とは、核酸の転写を指示する核酸配列を意味する。発現制御配列は、構成的もしくは誘導性プロモーター等のプロモーター、またはエンハンサーであることができる。発現制御配列は、転写する核酸配列と作動可能に連結している。
【0061】
本明細書中で使用する「薬学的に許容できる担体」または「薬学的に許容できる賦形剤」には、活性成分と組み合わせた場合に、成分が生物活性を保持することを可能にし、対象の免疫系と非反応性である、任意の物質が含まれる。例には、それだけには限定されないが、リン酸緩衝溶液、水、油/水乳濁液等の乳濁液、および様々な種類の湿潤剤等の標準の医薬担体のうちの任意のものが含まれる。エアロゾルまたは非経口投与用の好ましい希釈剤はリン酸緩衝溶液(PBS)または正常(0.9%)生理食塩水である。そのような担体を含む組成物は、周知の慣用方法によって配合する(たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、A.Gennaro編、Mack Publishing Co.、Easton,PA、1990、およびRemington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing、2000を参照)。
【0062】
本明細書中で使用する用語「kon」とは、抗体と抗原との会合の速度定数をいう。具体的には、速度定数(konおよびkoff)ならびに平衡解離定数は、Fab抗体断片(すなわち一価)およびPCSK9を用いて測定する。
【0063】
本明細書中で使用する用語「koff」とは、抗体/抗原の複合体から抗体が解離する速度定数をいう。
【0064】
本明細書中で使用する用語「K」とは、抗体−抗原の相互作用の平衡解離定数をいう。
【0065】
A.高コレステロール血症に関連する障害を予防または処置する方法
一態様では、本発明は、個体に、循環PCSK9に拮抗する有効量のPCSK9拮抗抗体またはペプチドまたはアプタマーを投与することを含む、個体において高コレステロール血症、および/または異常脂質血症、アテローム性動脈硬化症、CVDもしくは冠状動脈性心疾患の少なくとも1つの症状を処置または予防するための方法を提供する。
【0066】
さらなる態様では、本発明は、個体において高コレステロール血症、および/または異常脂質血症、アテローム性動脈硬化症、CVDもしくは冠状動脈性心疾患の少なくとも1つの症状の処置または予防に使用するための、循環PCSK9に拮抗する有効量のPCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを提供する。さらに、本発明は、個体において高コレステロール血症、および/または異常脂質血症、アテローム性動脈硬化症、CVDもしくは冠状動脈性心疾患の少なくとも1つの症状を処置または予防するための医薬品の製造における、細胞外または循環PCSK9に拮抗する有効量のPCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの使用を提供する。
【0067】
有利には、抗体、ペプチド、またはアプタマーの治療的投与は、より低い血中コレステロールおよび/またはより低い血中LDLをもたらす。好ましくは、血中コレステロールおよび/または血中LDLは投与前よりも少なくとも約10%または15%低い。より好ましくは、血中コレステロールおよび/または血中LDLは、抗体を投与する前よりも少なくとも約20%低い。さらにより好ましくは、血中コレステロールおよび/または血中LDLは、抗体を投与する前よりも少なくとも30%低い。有利には、血中コレステロールおよび/または血中LDLは、抗体を投与する前よりも少なくとも40%低い。より有利には、血中コレステロールおよび/または血中LDLは、抗体を投与する前よりも少なくとも50%低い。非常に好ましくは、血中コレステロールおよび/または血中LDLは、抗体を投与する前よりも少なくとも60%低い。最も好ましくは、血中コレステロールおよび/または血中LDLは、抗体を投与する前よりも少なくとも70%低い。
【0068】
本明細書中に記載のすべての方法に関して、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、およびアプタマーへの言及には、1つまたは複数の追加の薬剤を含む組成物も含まれる。これらの組成物は、当分野で周知の緩衝液を含めた薬学的に許容できる賦形剤等の適切な賦形剤をさらに含み得る。本発明は、単独で、または他の慣用の処置方法と組み合わせて使用することができる。
【0069】
PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーは、任意の適切な経路を介して個体に投与することができる。当業者には、本明細書中に記載した例は限定することを意図せず、利用可能な技術の例示であることが明らかであろう。したがって、一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーは、たとえばボーラスもしくは一定期間にわたる持続注入としての静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、経皮、皮下、関節内、舌下、滑液内、ガス注入、くも膜下腔内、経口、吸入または外用経路によって等、既知の方法に従って個体に投与する。投与は全身性、たとえば静脈内投与、または局所であることができる。ジェット噴霧器および超音波噴霧器を含めた液体製剤用の市販の噴霧器が投与に有用である。液体製剤は直接噴霧化することができ、凍結乾燥粉末は再構成後に噴霧化することができる。あるいは、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーは、フッ化炭素製剤および定量吸入器を用いてエアロゾル化するか、または凍結乾燥および粉砕した粉末として吸入することができる。
【0070】
一実施形態では、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーは、部位特異的または標的化した局所送達技術を介して投与する。部位特異的または標的化した局所送達技術の例には、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、もしくはアプタマーの様々な移植可能なデポー源またはインフュージョンカテーテル、留置カテーテル、もしくは針カテーテル等の局所送達カテーテル、合成移植片、外膜ラップ、シャントおよびステント、または他の移植可能な装置、部位特異的担体、直接注射、もしくは直接塗布が含まれる。たとえば、PCT公開WO00/53211号および米国特許第5,981,568号を参照されたい。
【0071】
PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの様々な製剤を投与に使用し得る。一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを無希釈で投与し得る。一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーおよび薬学的に許容できる賦形剤は様々な製剤の形とすることもできる。薬学的に許容できる賦形剤は当分野で知られており、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性な物質である。たとえば、賦形剤は形状もしくは稠度を与えるか、または希釈剤として作用することができる。適切な賦形剤には、それだけには限定されないが、安定化剤、湿潤剤および乳化剤、浸透圧を変動するための塩、カプセル封入剤、緩衝剤、ならびに皮膚浸透促進剤が含まれる。非経口および非経口でない薬物送達用の賦形剤および製剤は、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing(2000)に記載されている。
【0072】
これらの薬剤は、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液等の薬学的に許容できるビヒクルと組み合わせることができる。具体的な投薬レジメン、すなわち、用量、タイミングおよび反復は、特定の個体およびその個体の病歴に依存する。
【0073】
また、PCSK9抗体は、本明細書中に記載のように吸入によって投与することもできる。一般に、PCSK9抗体を投与するために、初期候補用量は約2mg/kgであることができる。本発明の目的のために、典型的な1日用量は、上述の要因に応じて、約3μg/kgから30μg/kgまで、300μg/kgまで、3mg/kgまで、30mg/kgまで、100mg/kgまで、またはそれより多くのうちの任意のものの範囲であり得る。たとえば、約1mg/kg、約2.5mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、および約25mg/kgの用量を使用し得る。数日間またはそれより長くにわたる繰り返し投与には、状態に応じて、症状の所望の抑制が生じるまで、またはたとえば血中LDLレベルを低下させるために十分な治療レベルが達成されるまで、処置を持続させる。例示的な投薬レジメンは、約2mg/kgの初期用量を投与し、続いて約1mg/kgのPCSK9抗体の週間維持量、または続いて約1mg/kgの隔週の維持量を投与することを含む。しかし、従事者が達成を望む薬物動態学崩壊のパターンに応じて、他の投薬レジメンが有用であり得る。たとえば、一部の実施形態では、1週間に1〜4回の投薬が企図される。他の実施形態では、1カ月に1回または隔月に1回または3カ月に1回の投薬が企図される。この治療の進行は、慣用の技術およびアッセイによって容易に監視される。投薬レジメン(使用するPCSK9拮抗薬(複数可)が含まれる)は、経時的に変動する場合がある。
【0074】
本発明の目的のために、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの適切な用量は、用いるPCSK9拮抗抗体、ペプチド、もしくはアプタマー(またはその組成物)、処置する症状の種類および重篤度、薬剤を予防的または治療的な目的のどちらで投与するか、以前の治療、患者の病歴および薬剤に対する応答、患者の血中PCSK9レベル、患者におけるPCSK9の合成およびクリアランス速度、患者における投与した薬剤のクリアランス速度、ならびに担当医の判断に依存する。典型的には、臨床家は、所望の結果が達成される用量に達するまでPCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを投与する。用量および/または頻度は治療の経過に伴って変動する場合がある。半減期等の経験的考慮事項が用量の決定に一般に貢献する。たとえば、ヒト化抗体または完全ヒト抗体等のヒト免疫系と適合性のある抗体を用いて、抗体の半減期を延長し、抗体が宿主の免疫系によって攻撃されることを防止し得る。投与の頻度は治療の経過に伴って決定および調整してよく、一般に、必ずではないが、症状、たとえば高コレステロール血症の処置および/または抑制および/または寛解および/または遅延に基づく。あるいは、PCSK9拮抗抗体の持続連続放出製剤が適切であり得る。持続放出を達成するための様々な製剤および装置が当分野で知られている。
【0075】
一実施形態では、拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの用量は、拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの1つまたは複数の投与を与えた個体において経験的に決定し得る。個体に漸増用量のPCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを与える。有効性を評価するために、疾患の指示薬を続いて与えることができる。
【0076】
本発明の方法に従ったPCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの投与は、たとえば、レシピエントの生理的条件、投与の目的が治療的であるか予防的であるか、および当業者に知られている他の要因に応じて、連続的または断続的であることができる。PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの投与は、事前に選択された期間にわたって本質的に連続的であるか、または一連の間隔を空けた用量であり得る。
【0077】
一部の実施形態では、複数の拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーが存在し得る。少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つの異なる、またはそれより多くの、拮抗抗体および/またはペプチドが存在することができる。一般に、これらのPCSK9拮抗抗体またはペプチドは、互いに有害な影響を与えない相補的な活性を有し得る。また、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーは、他のPCSK9拮抗薬またはPCSK9受容体拮抗薬と併せて使用することもできる。たとえば、以下のPCSK9拮抗薬のうちの1つまたは複数を使用し得る:PCSK9に対するアンチセンス分子(PCSK9をコードしている核酸に対するアンチセンス分子が含まれる)、PCSK9阻害化合物、およびPCSK9構造的類似体。また、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーは、薬剤の有効性を増強および/または補完する役割を果たす他の薬剤と併せて使用することもできる。
【0078】
許容できる担体、賦形剤、または安定化剤は用いる用量および濃度でレシピエントに無毒性であり、リン酸、クエン酸、および他の有機酸等の緩衝液、塩化ナトリウム等の塩、アスコルビン酸およびメチオニンを含めた抗酸化剤、保存料(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール、メチルもしくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン、カテコール、レソルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール、およびm−クレゾール等)、低分子量(約10個未満の残基)ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシン等のアミノ酸、グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含めた単糖、二糖、および他の炭水化物、EDTA等のキレート化剤、スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール等の糖、ナトリウム等の塩形成対イオン、金属錯体(たとえばZn−タンパク質の複合体)、ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含み得る。
【0079】
PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを含有するリポソームは、Epsteinら、1985、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82:3688、Hwangら、1980、Proc.Natl Acad.Sci.USA、77:4030、ならびに米国特許第4,485,045号および第4,544,545号等に記載されているように、当分野で知られている方法によって調製する。増強した循環時間を有するリポソームは米国特許第5,013,556号に開示されている。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発方法によって作製することができる。リポソームを定義された孔径のフィルターを通して押し出して、所望の直径を有するリポソームが得られる。
【0080】
また、活性成分は、コロイド状薬物送達系(たとえば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロ乳濁液中で、たとえばコアセルベーション技術または界面重合によって調製したマイクロカプセル、たとえば、それぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル内に封入してもよい。そのような技術はRemington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing(2000)に開示されている。
【0081】
持続放出調製物を調製し得る。持続放出調製物の適切な例には、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、マトリックスは、造形品、たとえばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。持続放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(たとえば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、または’ポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸と7エチル−L−グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射用ミクロスフェア)等の分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、酢酸スクロースイソブチレート、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0082】
in vivo投与に使用する製剤は無菌的でなければならない。これは、たとえば滅菌濾過膜を通して濾過することによって容易に達成される。治療的PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマー組成物は、一般に、無菌アクセス口を有する容器、たとえば、皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有する静脈内用溶液バッグまたはバイアル内に入れる。
【0083】
適切な乳濁液は、Intralipid(商標)、Liposyn(商標)、Infonutrol(商標)、Lipofundin(商標)およびLipiphysan(商標)等の市販の脂肪乳濁液を用いて調製し得る。活性成分は、事前に混合した乳濁組成物に溶かしてもよく、または油(たとえば、ダイズ油、ベニバナ油、綿実油、ゴマ油、トウモロコシ油もしくはアーモンド油)に溶かして、リン脂質(たとえば、卵リン脂質、ダイズリン脂質もしくはダイズレシチン)および水と混合した際に乳濁液を形成してもよい。乳濁液の等張性を調整するためにたとえばグリセロールまたはグルコース等の他の成分を加えてもよいことを理解されよう。適切な乳濁液は、典型的には、20%までの油、たとえば5〜20%を含有する。脂肪乳濁液は、0.1〜1.0μm、特に0.1〜0.5μmの脂肪液滴を含むことができ、5.5〜8.0の範囲のpHを有することができる。
【0084】
乳濁組成物は、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーをIntralipid(商標)またはその構成要素(ダイズ油、卵リン脂質、グリセロールおよび水)と混合することによって調製されるものであることができる。
【0085】
吸入またはガス注入用の組成物には、薬学的に許容できる水性もしくは有機の溶媒またはその混合物中の溶液および懸濁液、ならびに粉末が含まれる。液体または固体組成物は、上述の適切な薬学的に許容できる賦形剤を含有し得る。一部の実施形態では、組成物は、局所または全身性の効果のために経口または経鼻の呼吸器経路によって投与する。好ましくは無菌的な薬学的に許容できる溶媒中の組成物は、気体を使用することによって噴霧化し得る。噴霧化した溶液は、噴霧化装置から直接呼吸してもよく、または噴霧化装置をフェイスマスク、テントもしくは間欠的陽圧呼吸機に取り付けてもよい。溶液、懸濁液または粉末の組成物は、好ましくは経口または経鼻で、製剤を適切な様式で送達する装置から投与し得る。
【0086】
B.PCSK9拮抗薬
本発明の方法では、PCSK9に対する細胞応答の誘発等のPCSK9シグナル伝達によって媒介される下流経路を含めた、PCSK9生物活性を遮断、抑制または低下させる(有意に低下させることが含まれる)任意のペプチドまたは核酸分子をいう、PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを使用する。
【0087】
PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーは、以下の特徴のうちの任意の1つまたは複数を示すべきである:(a)PCSK9と結合すること、(b)LDLRとのPCSK9の相互作用を遮断すること、(c)PCSK9に媒介されるLDLRのダウンレギュレーションを遮断または減少させること、(d)PCSK9に媒介されるLDL血中クリアランスの減少を阻害すること、(e)培養肝細胞による培地中のLDLクリアランスを増加させること、(f)肝臓によるin vivoの血中LDLクリアランスを増加させること、(g)スタチンに感作させること、および(h)他の未だ同定されていない因子とのPCSK9の相互作用を遮断すること。
【0088】
本発明の目的のために、抗体、ペプチド、またはアプタマーは、好ましくは、PCSK9シグナル伝達機能およびLDLR相互作用を阻害する様式でPCSK9と反応する。一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体は霊長類PCSK9を特異的に認識する。一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体は霊長類およびげっ歯類のPCSK9と結合する。
【0089】
本発明で有用な抗体には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片(たとえば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、Fc等)、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヘテロコンジュゲート抗体、単鎖(ScFv)、その突然変異体、抗体部分(たとえばドメイン抗体)を含む融合タンパク質、ヒト抗体、ヒト化抗体、ならびに、抗体のグリコシル化変異体、抗体のアミノ酸配列変異体、および共有的に改変された抗体を含めた所要の特異性の抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の改変された立体配置が包含されることができる。抗体は、ネズミ、ラット、ヒト、または任意の他の供給源(キメラまたはヒト化抗体が含まれる)であり得る。
【0090】
一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体はモノクローナル抗体である。また、PCSK9拮抗抗体をヒト化することもできる。他の実施形態では、抗体はヒトである。
【0091】
一部の実施形態では、抗体は、免疫学的に不活性である、すなわち、免疫応答を誘発する潜在性が低下している定常領域等の、改変された定常領域を含む。一部の実施形態では、定常領域は、Eur.J.Immunol.、1999、29:2613〜2624、PCT公開WO99/58572号、および/またはUK特許出願第9809951.8号に記載のように改変する。FcはヒトIgGまたはヒトIgGであることができる。Fcは、A330P331からS330S331への突然変異を含有するヒトIgG(IgG2Δa)であることができ、アミノ酸残基は野生型IgG2配列を参照して付番している。Eur.J.Immunol.、1999、29:2613〜2624。一部の実施形態では、抗体は、E233F234L235からP233V234A235への突然変異を含むIgGの定常領域(IgG4Δc)を含み(Armourら、2003、Molecular Immunology、40、585〜593)、付番は野生型IgG4を参照したものである。さらに別の実施形態では、Fcは、ヒトIgGのE233F234L235からP233V234A235であり、G236の欠失を有する(IgG4Δb)。別の実施形態では、Fcは、S228からP228へのヒンジ安定化突然変異を含有する任意のヒトIgG Fc(IgG、IgG4ΔbまたはIgG4Δc)である(Aalberseら、2002、Immunology、105、9〜19)。別の実施形態では、Fcは脱グリコシル化されたFcである場合がある。
【0092】
一部の実施形態では、定常領域は、定常領域のグリコシル化認識配列の一部であるオリゴ糖付着残基(Asn297等)および/また隣接残基を変異させることによって脱グリコシル化する。一部の実施形態では、定常領域は、N−連結グリコシル化について酵素的に脱グリコシル化する。定常領域は、N−連結グリコシル化について、酵素的にまたはグリコシル化欠損宿主細胞中で発現させることによって脱グリコシル化し得る。
【0093】
PCSK9拮抗抗体とPCSK9(ヒトPCSK9等))との結合親和性(K)は約0.002〜約200nMであることができる。一部の実施形態では、結合親和性は、約200nM、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、約60pM、約50pM、約20pM、約15pM、約10pM、約5pM、または約2pMのうちの任意の1つである。一部の実施形態では、結合親和性は、約250nM、約200nM、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約500pM、約100pM、約50pM、約20pM、約10pM、約5pM、または約2pMのうちの任意のもの未満である。
【0094】
PCSK9に対する抗体の結合親和性を決定する1つの方法は、抗体の単機能的Fab断片の結合親和性を測定することによる。単機能的Fab断片を得るためには、抗体(たとえばIgG)をパパインで切断するか、または組換えによって発現させることができる。抗体のPCSK9 Fab断片の親和性は、事前に固定したストレプトアビジンセンサーチップ(SA)を備えた表面プラズモン共鳴(Biacore3000(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)システム、Biacore,INC、Piscataway NJ)によって、HBS−EPランニング緩衝液(0.01MのHEPES、pH7.4、0.15のNaCl、3mMのEDTA、0.005%v/vの界面活性剤P20)を用いて決定することができる。ビオチン標識したヒトPCSK9(または任意の他のPCSK9)をHBS−EP緩衝液で0.5μg/mL未満の濃度まで希釈し、可変の接触時間を用いて個々のチップチャネルにわたって注入して、2つの範囲の抗原密度、すなわち、詳細な動力学的研究には50〜200の応答単位(RU)またはスクリーニングアッセイには800〜1,000RUを達成することができる。再生研究により、25%v/vのエタノール中の25mMのNaOHが、結合したFabを有効に除去する一方で、200回を超える注入にわたってPCSK9の活性をチップ上に保つことが示された。典型的には、精製したFab試料の段階希釈液(0.1〜10×推定Kの濃度にわたる)を1分間、100μL/分の解離時間で注入し、2時間までを許容する。Fabタンパク質の濃度は、既知の濃度のFab(アミノ酸分析によって決定)を標準として用いたELISAおよび/またはSDS−PAGE電気泳動によって決定する。動力学的会合速度(kon)および解離速度(koff)は、BIAevaluationプログラムを用いてデータを1:1のラングミュア結合モデル(Karlsson,R.、Roos,H.、Fagerstam,L.、Petersson,B.、1994.、Methods Enzymology、6.99〜110)に全体的に当てはめることによって、同時に得られる。平衡解離定数(K)値はkoff/konとして計算する。このプロトコルは、ヒトPCSK9、別の哺乳動物のPCSK9(マウスPCSK9、ラットPCSK9、霊長類PCSK9等)、ならびにPCSK9の様々な形態(αおよびβ型等)を含めた任意のPCSK9に対する、抗体の結合親和性の決定に使用するために適切である。一般に、抗体の結合親和性は25℃で測定するが、37℃で測定することもできる。
【0095】
PCSK9拮抗抗体は、実施例1に提供する方法を含めた、当分野で知られている任意の方法によって作製し得る。宿主動物の免疫化の経路およびスケジュールは、一般に、本明細書中にさらに記載されているように、抗体を刺激および産生するための確立された慣用技術と一致している。ヒトおよびマウス抗体を産生するための一般技術は、当分野で知られているおよび/または本明細書中に記載されている。抗体を作製するための現在好ましい方法は、本明細書中に開示したPCSK9ノックアウト(PCSK9−/−)動物免疫化を含む。
【0096】
ヒトを含めた任意の哺乳動物対象またはそれ由来の抗体産生細胞を、ヒトを含めた哺乳動物のハイブリドーマ細胞系を産生するための基礎として役割を果たすように操作できることが企図される。典型的には、宿主動物に、本明細書中に記載したものを含めた一定量の免疫原を、腹腔内、筋肉内、経口、皮下、足底内、および/または皮下で接種する。
【0097】
ハイブリドーマは、Kohler,B.およびMilstein,C.、1975、Nature、256:495〜497の一般体細胞ハイブリダイゼーション技術またはBuck,D.W.ら、1982、In Vitro、18:377〜381によって改変されたものを用いて、リンパ球および不死化骨髄腫細胞から調製することができる。それだけには限定されないがX63−Ag8.653およびSalk Institute、Cell Distribution Center、San Diego,Calif.、米国からのものを含めた、利用可能な骨髄腫系をハイブリダイゼーションで使用し得る。一般に、この技術は、ポリエチレングリコール等の融合誘起剤を用いて、または当業者に周知の電気的手段によって、骨髄腫細胞およびリンパ球細胞を融合させることを含む。融合後、細胞を融合培地から分離し、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)培地等の選択的成長培地中で成長させて、ハイブリダイズしていない親細胞を排除する。血清を添加したまたは添加していない、本明細書中で記載した培地のうちの任意のものを、モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの培養に使用することができる。細胞融合技術の別の代替方法として、EBV不死化B細胞を使用して本発明のPCSK9モノクローナル抗体を産生させ得る。所望する場合はハイブリドーマを拡大およびサブクローニングし、上清を慣用の免疫アッセイ手順(たとえば、ラジオイムノアッセイ、酵素免疫アッセイ、または蛍光免疫アッセイ)によって抗免疫原活性についてアッセイする。
【0098】
抗体源として使用し得るハイブリドーマには、PCSK9に特異的なモノクローナル抗体またはその一部分を産生する親ハイブリドーマのすべての誘導体、子孫細胞が包含される。
【0099】
そのような抗体を産生するハイブリドーマは、既知の手順を用いてin vitroまたはin vivoで成長させ得る。モノクローナル抗体は、所望する場合は硫安塩析、ゲル電気泳動、透析、クロマトグラフィー、および限外濾過等の慣用の免疫グロブリン精製手順によって培養培地または体液から単離し得る。望ましくない活性が存在する場合は、たとえば、調製物を、固相に付着させた免疫原から作製した吸着剤上に流し、所望の抗体を免疫原から溶出または放出させて外すことによって除去することができる。ヒトPCSK9、または二官能性剤もしくは誘導体化剤、たとえば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介してコンジュゲート)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、コハク酸無水物、SOCl、もしくはRN=C=NR[式中、RおよびRは異なるアルキル基である]を用いて、免疫化する種において免疫原性であるタンパク質、たとえば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、もしくはダイズトリプシン阻害剤とコンジュゲートさせた標的アミノ酸配列を含有する断片を用いて、宿主動物を免疫化することで、抗体(たとえばモノクローナル抗体)の集団を得ることができる。
【0100】
所望する場合は、目的のPCSK9拮抗抗体(モノクローナルまたはポリクローナル)を配列決定してよく、その後、ポリヌクレオチド配列をベクター内にクローニングして発現または増殖させ得る。目的の抗体をコードしている配列を宿主細胞中のベクター中に維持してよく、その後、宿主細胞を拡大および将来使用するために凍結することができる。細胞培養物中での組換えモノクローナル抗体の産生は、B細胞からの抗体遺伝子のクローニングにより当分野で知られている手段によって実施することができる。たとえば、Tillerら、2008、J.Immunol.Methods、329、112、米国特許第7,314,622号を参照されたい。
【0101】
代替方法では、ポリヌクレオチド配列を、抗体を「ヒト化する」ため、または抗体の親和性もしくは他の特徴を改善するための遺伝子操作に使用し得る。たとえば、抗体を臨床治験およびヒトにおける処置に使用する場合に免疫応答を回避するために、定常領域を操作してヒト定常領域により類似させ得る。抗体配列を遺伝子操作して、PCSK9に対するより高い親和性およびPCSK9の阻害においてより高い有効性を得ることが望ましい場合がある。1つまたは複数のポリヌクレオチド変化をPCSK9拮抗抗体に行って、それでもPCSK9に対するその結合能力が維持されることは、当業者には明らかであろう。
【0102】
モノクローナル抗体のヒト化には4つの一般的なステップが存在する。それらは、(1)開始抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインのヌクレオチドおよび予想されるアミノ酸配列を決定するステップ、(2)ヒト化抗体を設計するステップ、すなわち、ヒト化プロセス中にどの抗体フレームワーク領域を使用するかを決定するステップ、(3)実際のヒト化方法/技術のステップ、ならびに(4)トランスフェクションおよびヒト化抗体の発現のステップである。たとえば、米国特許第4,816,567号、第5,807,715号、第5,866,692号、第6,331,415号、第5,530,101号、第5,693,761号、第5,693,762号、第5,585,089号、および第6,180,370号を参照されたい。
【0103】
ヒト定常ドメインと融合したげっ歯類または改変されたげっ歯類V領域およびその関連するCDRを有するキメラ抗体を含めた、非ヒト免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を含むいくつかの「ヒト化」抗体分子が記載されている。たとえば、Winterら、1991、Nature、349:293〜299、Lobuglioら、1989、Proc.Nat.Acad.Sci.USA、86:4220〜4224、Shawら、1987、J Immunol.、138:4534〜4538、およびBrownら、1987、Cancer Res.、47:3577〜3583を参照されたい。他の参考文献は、適切なヒト抗体定常ドメインと融合させる前にヒト支持フレームワーク領域(FR)内に移植したげっ歯類CDRを記載している。たとえば、Riechmannら、1988、Nature、332:323〜327、Verhoeyenら、1988、Science、239:1534〜1536、およびJonesら、1986、Nature、321:522〜525を参照されたい。別の参考文献は、組換え操作したげっ歯類フレームワーク領域によって支持されるげっ歯類CDRを記載している。たとえば欧州特許公開第0519596号を参照されたい。これらの「ヒト化」分子は、ヒトレシピエントにおけるこれらの部分の治療的施用の持続期間および有効性を制限する、げっ歯類抗ヒト抗体分子に対する望まない免疫学的応答を最小限にするように設計されている。たとえば、抗体定常領域は、免疫学的に不活性(たとえば補体の溶解を始動しない)であるように操作することができる。たとえば、PCT公開WO99/58572号、UK特許出願第9809951.8号を参照されたい。やはり利用し得る、抗体をヒト化する他の方法は、Daughertyら、1991、Nucl.Acids Res.、19:2471〜2476ならびに米国特許第6,180,377号、第6,054,297号、第5,997,867号、第5,866,692号、第6,210,671号、および第6,350,861号、ならびにPCT公開WO01/27160号に開示されている。
【0104】
さらに別の代替方法では、特定のヒト免疫グロブリンタンパク質を発現するように操作された市販のマウスを用いて、完全ヒト抗体が得られ得る。また、より望ましいまたはより頑強な免疫応答を生じるように設計されたトランスジェニック動物を用いても、ヒト化またはヒト抗体を作製し得る。そのような技術の例は、Abgenix,Inc.(Fremont,CA)のXenomouse(商標)、Medarex,Inc.(Princeton,NJ)のHuMAb−Mouse(登録商標)およびTC Mouse(商標)、ならびにRegeneron Pharmaceuticals,Inc.(Tarrytown,NY)のVelocImmune(登録商標)マウスである。
【0105】
代替方法では、抗体は、当分野で知られている任意の方法を用いて組換え作製し、発現させ得る。別の代替方法では、抗体はファージディスプレイ技術によって組換え作製し得る。たとえば、米国特許第5,565,332号、第5,580,717号、第5,733,743号、および第6,265,150号、ならびにWinterら、1994、Annu.Rev.Immunol.、12:433〜455を参照されたい。あるいは、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら、1990、Nature、348:552〜553)を用いて、ヒト抗体および抗体断片を、in vitroで、免疫化していないドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから産生することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子をM13またはfd等の糸状バクテリオファージの主要または副コートタンパク質遺伝子のいずれか内にインフレームでクローニングし、ファージ粒子の表面上の機能的抗体断片として表示させる。糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含有するため、抗体の機能的特性に基づく選択は、これらの特性を示す抗体をコードしている遺伝子の選択ももたらす。したがって、ファージはB細胞の特性の一部を模倣する。ファージディスプレイは様々な様式で行うことができ、たとえば、Johnson,Kevin S.およびChiswell,David J.、1993、Current Opinion in Structural Biology、3:564〜571を参照されたい。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源をファージディスプレイに使用することができる。Clacksonら、1991、Nature、352:624〜628は、免疫化したマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダムコンビナトリアルライブラリーから、抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。免疫化していないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構築することができ、Markら、1991、J.Mol.Biol.、222:581〜597またはGriffithら、1993、EMBO J.、12:725〜734によって記載されている技術に本質的に従って、抗原の多様なアレイ(自己抗原が含まれる)に対する抗体を単離することができる。天然の免疫応答では、抗体遺伝子は突然変異を高い率で蓄積する(体細胞超変異)。導入された変化の一部は高い親和性を与え、続く抗原免疫誘発中に高親和性の表面免疫グロブリンを表示するB細胞が優先的に複製および分化される。この天然のプロセスは、「鎖シャフリング」として知られる技術を用いることによって模倣することができる。(Marksら、1992、Bio/Technol.、10:779〜783)。この方法では、ファージディスプレイによって得られた「一次」ヒト抗体の親和性は、重鎖および軽鎖のV領域遺伝子を、免疫化していないドナーから得たVドメイン遺伝子の天然に存在する変異体のレパートリー(レパートリー)で順次置き換えることによって改善することができる。この技術により、pM〜nMの範囲の親和性を有する抗体および抗体断片の産生が可能となる。非常に大きなファージ抗体レパートリー(「究極の(mother−of−all)ライブラリー」としても知られる)を作製する戦略は、Waterhouseら、1993、Nucl.Acids Res.、21:2265〜2266によって記載されている。また、遺伝子シャフリングはヒト抗体をげっ歯類抗体から誘導するためにも使用することができ、ヒト抗体は開始げっ歯類抗体と類似の親和性および特異性を有する。「エピトープ刷り込み」とも呼ばれるこの方法によれば、ファージディスプレイ技術によって得られたげっ歯類抗体の重鎖または軽鎖Vドメイン遺伝子をヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置き換えて、げっ歯類−ヒトのキメラを作製する。抗原上での選択により、機能的抗原結合部位を修復することができるヒト可変領域の単離がもたらされる、すなわち、エピトープがパートナーの選択肢を支配する(刷り込む)。残りのげっ歯類Vドメインを置き換えるためにプロセスを繰り返した場合は、ヒト抗体が得られる(PCT公開WO93/06213号を参照)。CDR移植によるげっ歯類抗体の伝統的なヒト化とは異なり、この技術は、げっ歯類起源のフレームワークまたはCDR残基を全く有さない完全ヒト抗体を提供する。
【0106】
上記記述はヒト化抗体に関するが、議論した一般的な原理は、たとえば、イヌ、ネコ、霊長類、ウマ科動物およびウシ亜科動物で使用するための抗体のあつらえに適用可能であることが明らかであろう。さらに、本明細書中に記載した抗体のヒト化の1つまたは複数の態様を、たとえば、CDR移植、フレームワーク突然変異およびCDR突然変異と組み合わせ得ることが明らかであろう。
【0107】
抗体は、最初に抗体および抗体産生細胞を宿主動物から単離し、遺伝子配列を得て、遺伝子配列を用いて抗体を宿主細胞(たとえばCHO細胞)中で組換え発現させることによって、組換え作製し得る。用い得る別の方法は、抗体配列を植物(たとえばタバコ)またはトランスジェニック乳中で発現させることである。抗体を植物または乳中で組換え発現させる方法は開示されている。たとえば、Peeters、2001ら、Vaccine、19:2756、Lonberg,N.およびD.Huszar、1995、Int.Rev.Immunol、13:65、ならびにPollockら、1999、J Immunol Methods、231:147を参照されたい。たとえばヒト化、単鎖等の抗体の誘導体を作製する方法は当分野で知られている。
【0108】
また、免疫アッセイおよび蛍光活性化細胞分取(FACS)等のフローサイトメトリー分別技術を用いても、PCSK9に特異的な抗体を単離することができる。
【0109】
抗体は多くの異なる担体と結合することができる。担体は活性および/または不活性であることができる。周知の担体の例には、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、ガラス、天然および変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロースならびにマグネタイトが含まれる。本発明の目的のために、担体の性質は可溶性または不溶性のどちらかであることができる。当業者は、結合抗体の他の適切な担体を知っているか、日常的な実験を用いてまたはそのようなものを確認できる。一部の実施形態では、担体は心筋を標的とする部分を含む。
【0110】
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、慣用の手順を用いて(たとえば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードしている遺伝子と特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に単離および配列決定することができる。ハイブリドーマ細胞はそのようなDNAの好ましい供給源として役割を果たす。単離した後、DNAを発現ベクター(PCT公開WO87/04462号に開示されている発現ベクター等)内に入れ、その後、これを、そうでなければ免疫グロブリンタンパク質を産生しない、大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞等の宿主細胞内にトランスフェクトして、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成が得られ得る。たとえば、PCT公開WO87/04462号を参照されたい。また、DNAは、たとえば、相同的なネズミ配列の代わりにヒト重鎖および軽鎖定常ドメインのコード配列を置換することによって、Morrisonら、1984、Proc.Nat.Acad.Sci.、81:6851、または免疫グロブリンコード配列を、非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全体もしくは一部と共有結合させることによっても改変し得る。このようにして、本明細書中のPCSK9モノクローナル抗体の結合特異性を有する「キメラ」または「ハイブリッド」抗体を調製する。
【0111】
PCSK9拮抗抗体および抗体に由来するポリペプチドは、当分野で知られている方法を用いて同定または特徴づけることができ、PCSK9生物活性の低下、寛解、または中和が検出および/または測定される。一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体またはポリペプチドは、候補薬剤をPCSK9とインキュベーションし、結合および/または付随するPCSK9の生物活性の低下もしくは中和を監視することによって同定する。結合アッセイは、精製したPCSK9ポリペプチド(複数可)、またはPCSK9ポリペプチド(複数可)を天然で発現する、もしくは発現するようにトランスフェクトした細胞を用いて行い得る。一実施形態では、結合アッセイは競合的結合アッセイであり、候補抗体がPCSK9結合について既知のPCSK9拮抗薬と競合する能力を評価する。アッセイはELISA様式を含めた様々な様式で行い得る。他の実施形態では、PCSK9拮抗抗体は、候補薬剤をPCSK9とインキュベーションし、結合および付随するLDLR発現および/もしくは血中コレステロールクリアランスの阻害を監視することによって同定する。
【0112】
初期の同定後、候補PCSK9拮抗抗体の活性は、標的化した生物活性を試験することが知られているバイオアッセイによってさらに確認および洗練することができる。あるいは、バイオアッセイを用いて候補を直接スクリーニングすることができる。PCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーを同定および特徴づけるための方法の一部を実施例中に詳述する。
【0113】
PCSK9拮抗抗体は、当分野で周知の方法を用いて特徴づけ得る。たとえば、1つの方法は、それが結合するエピトープを同定すること、すなわち「エピトープマッピング」である。タンパク質上のエピトープの位置をマッピングおよび特徴づけるための方法は当分野で数多く知られており、たとえば、HarlowおよびLane、Using Antibodies,a Laboratory Manual、(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor,New York、1999)の第11章に記載されているように、抗体−抗原の複合体の結晶構造の解析、競合アッセイ、遺伝子断片発現アッセイ、および合成ペプチドに基づくアッセイが含まれる。さらなる例では、エピトープマッピングを用いてPCSK9拮抗抗体が結合する配列を決定することができる。エピトープマッピングは様々な供給者、たとえばPepscan Systems(Edelhertweg 15、8219 PH Lelystad、オランダ)から商業的に利用可能である。エピトープは、直鎖状エピトープ、すなわち、単一のアミノ酸ストレッチ中に含有されるか、または必ずしも単一のストレッチ中に含有されない場合もある、アミノ酸の三次元相互作用によって形成されたコンホメーションエピトープであることができる。様々な長さ(たとえば少なくとも4〜6個のアミノ酸の長さ)のペプチドを単離または合成し(たとえば組換えによる)、PCSK9拮抗抗体を用いた結合アッセイに使用することができる。別の例では、PCSK9拮抗抗体が結合するエピトープは、PCSK9配列に由来する重複ペプチドを使用し、PCSK9拮抗抗体による結合を決定することによる、系統的なスクリーニングで決定することができる。遺伝子断片発現アッセイによれば、PCSK9をコードしているオープンリーディングフレームをランダムにまたは特異的遺伝子構築によって断片化し、発現されたPCSK9の断片と試験する抗体との反応性を決定する。遺伝子断片は、たとえばPCRによって産生し、その後、in vitroで、放射性アミノ酸の存在下でタンパク質へと転写および翻訳し得る。その後、抗体と放射標識したPCSK9断片との結合を免疫沈降およびゲル電気泳動によって決定する。また、特定のエピトープは、ファージ粒子の表面上に表示されるランダムペプチド配列の大きなライブラリー(ファージライブラリー)を用いることによっても同定することができる。あるいは、重複ペプチド断片の定義されたライブラリーを、試験抗体との結合について、単純な結合アッセイで試験することができる。さらなる例では、抗原結合ドメインの突然変異誘発、ドメイン交換実験およびアラニン走査突然変異誘発を行って、エピトープ結合に要求される、十分な、および/または必要な残基を同定することができる。たとえば、ドメイン交換実験は、PCSK9ポリペプチドの様々な断片が、別の種からのPCSK9、または密に関連しているが、抗原性が明確に異なるタンパク質(前駆タンパク質転換酵素ファミリーの別のメンバー等)からの配列で置き換えられている(交換されている)突然変異体PCSK9を用いて行うことができる。抗体と突然変異体PCSK9との結合を評価することによって、抗体結合における特定のPCSK9断片の重要性を評価することができる。
【0114】
PCSK9拮抗抗体を特徴づけるために使用することができるさらに別の方法は、同じ抗原と結合することが知られている他の抗体、すなわちPCSK9上の様々な断片との競合アッセイを使用して、PCSK9拮抗抗体が他の抗体と同じエピトープと結合するかどうかを決定することである。競合アッセイは当業者に周知である。
【0115】
また、抗体および抗体:抗原の複合体の結晶構造を用いて抗体を特徴づけることもできる。残基は、L1L3:PCSK9の結晶構造およびPCSK9構造単独の間の接近可能な表面積の差を計算することによって同定する。L1L3抗体との複合体の形成時に埋もれた表面積を示すPCSK9残基は、エピトープの一部として含まれる。タンパク質の溶媒接近可能表面は、それがタンパク質のファンデルワールス表面上を転がる際のプローブ球(1.4Åの半径の溶媒分子を表す)の中心の位置として定義される。溶媒接近可能表面積は、プログラムAREAIMOLによって実行して、それぞれの原子の周りの拡張球上に表面点を作成し(原子とプローブの半径の和に等しい原子中心からの距離で)、隣接原子と会合した等価な球内にあるものを排除することによって計算する(Briggs,P.J.、2000、CCP4 Newsletter、第38号、CCLRC、Daresbury)。
【0116】
発現ベクターを用いてPCSK9拮抗抗体の発現を指示することができる。当業者は、発現ベクターを投与して外来タンパク質の発現をin vivoで得ることに精通している。たとえば、米国特許第6,436,908号、第6,413,942号、および第6,376,471号を参照されたい。発現ベクターの投与には、注射、経口投与、粒子銃またはカテーテル投与を含めた局所または全身投与、および外用投与が含まれる。別の実施形態では、発現ベクターは交感神経幹もしくは神経節に直接、または冠状動脈、心房、心室、もしくは心膜内に投与する。
【0117】
また、発現ベクター、またはサブゲノムポリヌクレオチドを含有する治療的組成物の標的化した送達も使用することができる。受容体に媒介されるDNA送達技術は、たとえば、Findeisら、1993、Trends Biotechnol.、11:202、Chiouら、1994、Gene Therapeutics:Methods And Applications Of Direct Gene Transfer(J.A.Wolff編)、Wuら、1988、J.Biol.Chem.、263:621、Wuら、1994、J.Biol.Chem.、269:542、Zenkeら、1990、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、87:3655、Wuら、1991、J.Biol.Chem.、266:338に記載されている。ポリヌクレオチドを含有する治療的組成物は、遺伝子治療プロトコルにおける局所投与では、約100ng〜約200mgの範囲のDNAで投与する。また、約500ng〜約50mg、約1μg〜約2mg、約5μg〜約500μg、および約20μg〜約100μgのDNAの濃度範囲も、遺伝子治療プロトコル中に使用することができる。治療的ポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、遺伝子送達ビヒクルを用いて送達することができる。遺伝子送達ビヒクルは、ウイルスまたは非ウイルス起源のものであることができる(一般に、Jolly、1994、Cancer Gene Therapy、1:51、Kimura、1994、Human Gene Therapy、5:845、Connelly、1995、Human Gene Therapy、1:185、およびKaplitt、1994、Nature Genetics、6:148を参照)。そのようなコード配列の発現は、内在性哺乳動物または異種プロモーターを用いて誘導することができる。コード配列の発現は構成的または調節のいずれかであることができる。
【0118】
所望のポリヌクレオチドを送達し、所望の細胞中で発現させるためのウイルス系ベクターは当分野で周知である。例示的なウイルス系ビヒクルには、それだけには限定されないが、組換えレトロウイルス(たとえば、PCT公開WO90/07936号、WO94/03622号、WO93/25698号、WO93/25234号、WO93/11230号、WO93/10218号、WO91/02805号、米国特許第5,219,740号、第4,777,127号、GB特許第2,200,651号、およびEP特許第0 345 242号を参照)、アルファウイルス系ベクター(たとえば、シンドビスウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(ATCC VR−67、ATCC VR−1247)、ロスリバーウイルス(ATCC VR−373、ATCC VR−1246)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(ATCC VR−923、ATCC VR−1250、ATCC VR1249、ATCC VR−532))、ならびにアデノ関連ウイルス(AAV)ベクター(たとえば、PCT公開WO94/12649号、WO93/03769号、WO93/19191号、WO94/28938号、WO95/11984号およびWO95/00655号を参照)が含まれる。また、Curiel、1992、Hum.Gene Ther.、3:147に記載されている、死滅したアデノウイルスと連結させたDNAの投与も用いることができる。
【0119】
また、それだけには限定されないが、死滅したアデノウイルス単独と連結させたまたは連結していないポリカチオン性凝縮DNA(たとえばCuriel、1992、Hum.Gene Ther.、3:147を参照)、リガンド連結DNA(たとえばWu,J.、1989、Biol.Chem.、264:16985を参照)、真核細胞送達ビヒクル細胞(たとえば、米国特許第5,814,482号、PCT公開WO95/07994号、WO96/17072号、WO95/30763号、およびWO97/42338号を参照)ならびに核荷電中和または細胞膜との融合を含めた、非ウイルス送達ビヒクルおよび方法も用いることができる。裸DNAも用いることができる。例示的な裸DNA導入方法はPCT公開WO90/11092号および米国特許第5,580,859号に記載されている。遺伝子送達ビヒクルとして作用することができるリポソームは、米国特許第5,422,120号、PCT公開WO95/13796号、WO94/23697号、WO91/14445号、およびEP0524968号に記載されている。さらなる手法は、Philip、1994、Mol.Cell Biol.、14:2411およびWoffendin、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.、91:1581に記載されている。
【0120】
本発明には、本明細書中に記載の抗体または本明細書中に記載の方法によって作製してその特徴を有する抗体を含む、医薬組成物を含めた組成物が包含される。本明細書中で使用する組成物とは、PCSK9とLDLRとの相互作用に拮抗する1つもしくは複数の抗体、ペプチド、もしくはアプタマー、および/または1つもしくは複数のこれらの抗体もしくはペプチドをコードしている配列を含む1つもしくは複数のポリヌクレオチドを含む。これらの組成物は、当分野で周知の緩衝液を含めた薬学的に許容できる賦形剤等の適切な賦形剤をさらに含み得る。
【0121】
本発明のPCSK9拮抗抗体およびペプチドは、以下の特徴のうちの任意の(1つまたは複数)によって特徴づけられている:(a)PCSK9と結合すること、(b)LDLRとのPCSK9の相互作用を遮断すること、(c)PCSK9に媒介されるLDLRのダウンレギュレーションを減少させること、および(d)PCSK9に媒介されるLDL血中クリアランスの阻害を阻害すること。好ましくは、PCSK9抗体はこれらの特長のうちの2つ以上を有する。より好ましくは、抗体はこれらの特長のうちの3つ以上を有する。最も好ましくは、抗体は4つの特徴をすべて有する。
【0122】
したがって、本発明は、以下のうちの任意のもの、または表1中に見つかる部分的軽鎖配列および部分的重鎖配列を有する任意の抗体を含む組成物(医薬組成物が含まれる)を提供する。下線を引いた配列はカバットに従ったCDR配列であり、太字はコチアに従ったものである。
【0123】
【表1】

【0124】
また、本発明は、PCSK9に対する抗体のCDR部分も提供する(コチアおよびカバットCDRが含まれる)。CDR領域の決定は当業者の技術範囲内に十分ある。一部の実施形態では、CDRはカバットおよびコチアCDRの組合せであることができることを理解されたい(「組合せCDR」または「拡張CDR」とも呼ばれる)。一部の実施形態では、CDRはカバットCDRである。他の実施形態では、CDRはコチアCDRである。言い換えれば、複数のCDRを用いた実施形態では、CDRは、カバット、コチア、組合せCDR、またはその組合せのうちの任意のものであり得る。
【0125】
また、本発明は、これらの抗体またはポリペプチドのうちの任意のものを作製する方法も提供する。本発明の抗体は、当分野で知られている手順によって作製することができる。ポリペプチドは、抗体のタンパク質分解もしくは他の分解、上述の組換え方法(すなわち、単一もしくは融合ポリペプチド)または化学合成によって生成することができる。抗体のポリペプチド、特に約50個までのアミノ酸のより短いポリペプチドは、化学合成によって好都合に作製される。化学合成方法は当分野で知られており、商業的に利用可能である。たとえば、抗体は固相方法を用いた自動ポリペプチド合成機によって生成することができる。また、米国特許第5,807,715号、第4,816,567号、および第6,331,415号も参照されたい。
【0126】
別の代替方法では、抗体およびペプチドは当分野で周知の手順を用いて組換えによって作製することができる。一実施形態では、ポリヌクレオチドは、抗体4A5、5A10、6F6、7D4またはL1L3の重鎖および/または軽鎖可変領域をコードしている配列を含む。目的の抗体をコードしている配列は、宿主細胞中のベクター中に維持することができ、その後、宿主細胞を拡大および将来使用するために凍結することができる。ベクター(発現ベクターが含まれる)および宿主細胞を本明細書中にさらに記載する。
【0127】
また、本発明には、本発明の抗体のscFvも包含される。単鎖可変領域断片は、短い連結ペプチドを用いることで軽鎖および/または重鎖可変領域を連結することによって作製する。Birdら、1988、Science、242:423〜426。連結ペプチドの例は(GGGGS)(配列番号24)であり、これは、一方の可変領域のカルボキシ末端と他方の可変領域のアミノ末端との間の約3.5nmを架橋する。他の配列のリンカーが設計および使用されている。Birdら、1988、上記。リンカーは短い柔軟なポリペプチドであるべきであり、好ましくは約20個未満のアミノ酸残基からなる。立ち代って、リンカーは、薬物の付着または固体担体への付着等の追加の機能のために修飾することができる。単鎖変異体は組換えまたは合成のどちらかで生成することができる。scFvの合成生成には、自動合成機を使用することができる。scFvの組換え産生には、scFvをコードしているポリヌクレオチド含有する適切なプラスミドを、酵母、植物、昆虫もしくは哺乳動物細胞等の真核、または大腸菌(E.coli)等の原核のいずれかの、適切な宿主細胞内に導入することができる。目的のscFvをコードしているポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのライゲーション等のルーチン的な操作によって作製することができる。生じるscFvは、当分野で知られている標準のタンパク質精製技術を用いて単離することができる。
【0128】
ダイアボディ等の単鎖抗体の他の形態も包含される。ダイアボディとは、二価の二重特異性抗体であり、VHおよびVLドメインが単一のポリペプチド鎖上に発現されているが、同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインが別の鎖上の相補的ドメインと対合して2つの抗原結合部位を生じることを強制する(たとえば、Holliger,P.ら、1993、Proc.Natl.Acad Sci.USA、90:6444〜6448、Poljak,R.J.ら、1994、Structure、2:1121〜1123を参照)。
【0129】
たとえば、二重特異性抗体、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体は、本明細書中に開示した抗体を用いて調製することができる。二重特異性抗体を作製する方法は当分野で知られている(たとえばSureshら、1986、Methods in Enzymology、121:210を参照)。伝統的には、二重特異性抗体の組換え産生は、2つの重鎖が異なる特異性を有する、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖の対の同時発現に基づいていた(MillsteinおよびCuello、1983、Nature、305、537〜539)。
【0130】
二重特異性抗体を作製する一手法によれば、所望の結合特異性(抗体−抗原の結合部位)を有する抗体可変ドメインを免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。好ましくは、融合は、ヒンジ、CH2およびCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとである。軽鎖結合に必要な部位を含有する第1の重鎖定常領域(CH1)が、融合体のうちの少なくとも1つ中に存在することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体、および所望する場合は、免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを別々の発現ベクター内に挿入し、適切な宿主生物内に同時トランスフェクトする。これにより、構築で使用する3つのポリペプチド鎖の不均等な比により最適の収量が得られる実施形態において、3つのポリペプチド断片の相互割合の調整に高い柔軟性がもたらされる。しかし、等しい比の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高い収量をもたらす場合、または比が特に重要でない場合は、2つまたは3つすべてのポリペプチド鎖のコード配列を1つの発現ベクター中に挿入することが可能である。
【0131】
一手法では、二重特異性抗体は、一方のアーム中の第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、および他方のアーム中のハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖の対(第2の結合特異性をもたらす)からなる。二重特異性分子の片方にのみ免疫グロブリン軽鎖を有するこの不斉構造は、所望の二重特異性化合物を望まない免疫グロブリン鎖の組合せから分離することを容易にする。この手法はPCT公開WO94/04690号に記載されている。
【0132】
また、2つの共有結合した抗体を含むヘテロコンジュゲート抗体も本発明の範囲内にある。そのような抗体は、免疫系細胞を望まない細胞に対して標的化するため(米国特許第4,676,980号)、ならびにHIV感染症を処置するため(PCT公開WO91/00360号およびWO92/200373号、EP03089号)に使用されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の好都合な架橋結合方法を用いて作製し得る。適切な架橋結合剤および技術は当分野で周知であり、米国特許第4,676,980号に記載されている。
【0133】
また、キメラまたはハイブリッド抗体は、架橋結合剤に関与するものを含めた、合成タンパク質化学の既知の方法を用いてin vitroで調製してもよい。たとえば、免疫毒素は、ジスルフィド交換反応を用いてまたはチオエーテル結合を形成することによって構築し得る。この目的のための適切な試薬の例には、イミノチオレートおよびメチル−4−メルカプトブチルイミデートが含まれる。
【0134】
抗体5A10もしくは7D4の1つもしくは複数のCDRまたは抗体5A10もしくは7D4に由来する1つもしくは複数のCDRを含むヒト化抗体は、たとえば、当分野で知られている任意の方法を用いて作製することができる。たとえば、4つの一般的なステップを使用してモノクローナル抗体をヒト化し得る。それらは、(1)開始抗体の軽鎖および重鎖可変ドメインのヌクレオチドおよび予想されるアミノ酸配列を決定するステップ、(2)ヒト化抗体を設計するステップ、すなわち、ヒト化プロセス中にどの抗体フレームワーク領域を使用するかを決定するステップ、(3)実際のヒト化方法/技術を使用するステップ、ならびに(4)トランスフェクトしてヒト化抗体を発現させるステップである。たとえば、米国特許第4,816,567号、第5,807,715号、第5,866,692号、第6,331,415号、第5,530,101号、第5,693,761号、第5,693,762号、第5,585,089号、および第6,180,370号を参照されたい。
【0135】
組換えヒト化抗体では、Fcγ受容体および補体および免疫系との相互作用を回避するためにFc部分を改変することができる。そのような抗体を調製する技術は、WO99/58572号に記載されている。たとえば、抗体を臨床治験およびヒトにおける処置に使用する場合に免疫応答を回避するために、定常領域を操作してヒト定常領域により類似させ得る。たとえば、米国特許第5,997,867号および第5,866,692号を参照されたい。
【0136】
表1に示す抗体の軽鎖もしくは重鎖可変領域または1つもしくは複数のCDRまたはその変異体、または表2に示す抗体に由来する1つもしくは複数のCDRまたはその変異体を含むヒト化抗体は、当分野で知られている任意の方法を用いて作製することができる。
【0137】
ヒト化抗体は当分野で知られている任意の方法によって作製し得る。
【0138】
本発明には、その特性に顕著な影響を与えない機能的に等価な抗体ならびに活性および/または親和性が増強または減少した変異体を含めた、表1に示す本発明の抗体およびポリペプチドの変異体への改変が包含される。たとえば、アミノ酸配列は、PCSK9に対する所望の結合親和性を有する抗体を得るために突然変異させ得る。ポリペプチドの改変は当分野においてルーチン的な実施であり、本明細書中で詳述する必要はない。ポリペプチドの改変は実施例中に例示されている。改変されたポリペプチドの例には、アミノ酸残基の保存的置換、機能的活性を顕著に有害変化させないもしくはポリペプチドのそのリガンドに対する親和性を成熟(増強)させる、1つもしくは複数のアミノ酸の欠失もしくは付加、または化学類似体の使用を有するポリペプチドが含まれる。
【0139】
アミノ酸配列挿入物には、1個の残基から100個以上の残基を含有するポリペプチドの長さの範囲のアミノおよび/またはカルボキシル末端融合体、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入物が含まれる。末端挿入物の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体またはエピトープタグと融合した抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体には、血液循環中の抗体の半減期を増加させる酵素またはポリペプチドの抗体のNまたはC末端との融合が含まれる。
【0140】
置換変異体は、抗体分子中の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去されており、その代わりに異なる残基が挿入されている。置換突然変異誘発において最も興味深い部位には超可変領域が含まれるが、FRの変更も企図される。保存的置換は表2中に「保存的置換」の見出しの下で示されている。そのような置換が生物活性に変化をもたらす場合は、表2に「例示的な置換」と示す、またはアミノ酸クラスを参照して以下にさらに記載する、より実質的な変化を導入し、生成物をスクリーニングし得る。
【0141】
【表2】

【0142】
抗体の生物学的特性の実質的な改変は、(a)たとえばシートもしくはヘリックスコンホメーションとしての、置換領域中のポリペプチド主鎖の構造、(b)標的部位での分子の荷電もしくは疎水性、または(c)側鎖のかさの維持に対するその効果が顕著に異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は、共通の側鎖特性に基づいて群に分類される:
(1)非極性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile、
(2)荷電なしの極性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、
(3)酸性(負荷電):Asp、Glu、
(4)塩基性(正荷電):Lys、Arg、
(5)鎖の配向に影響を与える残基:Gly、Pro、および
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe、His。
【0143】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスのものに交換することによって行われる。
【0144】
抗体の正しいコンホメーションの維持に関与していない任意のシステイン残基も、分子の酸化安定性を改善させ、異常な架橋結合を防止するために、一般にセリンと置換し得る。逆に、特に抗体がFv断片等の抗体断片である場合にシステイン結合(複数可)を抗体に加えてその安定性を改善させ得る。
【0145】
アミノ酸の改変は、1つまたは複数のアミノ酸の変化または改変から、可変領域等の領域の完全な再設計の範囲であることができる。可変領域中の変化は結合親和性および/または特異性を変更することができる。一部の実施形態では、1〜5個以下の保存的アミノ酸置換をCDRドメイン内で行う。他の実施形態では、1〜3個以下の保存的アミノ酸置換をCDRドメイン内で行う。さらに他の実施形態では、CDRドメインはCDR H3および/またはCDR L3である。
【0146】
改変には、グリコシル化されたおよびグリコシル化されていないポリペプチド、ならびにたとえば様々な糖でのグリコシル化、アセチル化、およびリン酸化等の他の翻訳後修飾を有するポリペプチドも含まれる。抗体は、その定常領域中の保存された位置でグリコシル化される(JefferisおよびLund、1997、Chem.Immunol.、65:111〜128、WrightおよびMorrison、1997、TibTECH、15:26〜32)。免疫グロブリンのオリゴ糖側鎖は、タンパク質の機能(Boydら、1996、Mol.Immunol.、32:1311〜1318、WittweおよびHoward、1990、Biochem.、29:4175〜4180)および糖タンパク質の一部分間の分子内相互作用に影響を与え、糖タンパク質のコンホメーションおよび提示される三次元表面に影響を与える場合がある(JefferisおよびLund、上記、WyssおよびWagner、1996、Current Opin.Biotech.、7:409〜416)。また、オリゴ糖は、特異的な認識構造に基づいて所定の糖タンパク質を特定の分子に対して標的化する役割も果たし得る。また、抗体のグリコシル化は抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)に影響を与えることも報告されている。具体的には、テトラサイクリンに調節される二分GlcNAcの形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼであるβ(1,4)−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)の発現を有するCHO細胞が、改善されたADCC活性を有することが報告されている(Umanaら、1999、Nature Biotech.、17:176〜180)。
【0147】
抗体のグリコシル化は、典型的にはN−連結またはO−連結のどちらかである。N−連結とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の付着をいう。トリペプチド配列アスパラギン−X−セリン、アスパラギン−X−スレオニン、およびアスパラギン−X−システイン[式中、Xはプロリン以外の任意のアミノ酸である]が、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的付着の認識配列である。したがって、これらのトリペプチド配列のいずれかがポリペプチド中に存在することで、潜在的なグリコシル化部位が生じる。O−連結グリコシル化とは、糖N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つとヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはスレオニンとの付着をいうが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンも使用し得る。
【0148】
グリコシル化部位を抗体に付加することは、上述のトリペプチド配列のうちの1つまたは複数を含有するようにアミノ酸配列を変更することによって、好都合に達成される(N−連結グリコシル化部位用)。また、変更は、元の抗体の配列に1つまたは複数のセリンまたはスレオニン残基を付加する、またはそれによって置換することによっても行い得る(O−連結グリコシル化部位用)。
【0149】
また、抗体のグリコシル化パターンは、根底にあるヌクレオチド配列を変更しなくても変更し得る。グリコシル化は、抗体を発現させるために使用する宿主細胞に大きく依存する。潜在的な治療剤としての組換え糖タンパク質、たとえば抗体を発現させるために使用する細胞種は、ネイティブ細胞であることが稀であるため、抗体のグリコシル化パターンの変動を予測することができる(たとえばHseら、1997、J.Biol.Chem.、272:9062〜9070を参照)。
【0150】
宿主細胞の選択に加えて、抗体の組換え産生中にグリコシル化に影響を与える要因には、成長様式、培地配合、培養密度、酸素供給、pH、精製スキーム等が含まれる。オリゴ糖の産生に関与する特定の酵素の導入または過剰発現を含めて、特定の宿主生物中で達成されるグリコシル化パターンを変更するための様々な方法が提案されている(米国特許第5,047,335号、第5,510,261号および第5,278,299号)。グリコシル化、または特定の種類のグリコシル化は、たとえば、エンドグリコシダーゼH(Endo H)、N−グリコシダーゼF、エンドグリコシダーゼF1、エンドグリコシダーゼF2、エンドグリコシダーゼF3を用いて、糖タンパク質から酵素的に除去することができる。さらに、組換え宿主細胞は、特定の種類の多糖のプロセッシングに欠損があるように遺伝子操作することができる。これらおよび類似の技術は当分野で周知である。
【0151】
他の改変方法には、それだけには限定されないが、酵素的手段、酸化的置換およびキレート化を含めた、当分野で知られているカップリング技術の使用が含まれる。改変は、たとえば、免疫アッセイ用に標識を付着させるために使用することができる。改変されたポリペプチドは当分野で確立されている手順を用いて行い、当分野で知られている標準のアッセイを用いてスクリーニングすることができ、その一部は以下および実施例中に記載されている。
【0152】
本発明の一部の実施形態では、免疫学的に不活性または部分的に不活性な定常領域等の改変された定常領域を含む抗体は、たとえば、補体に媒介される溶解を始動しない、ADCCを刺激しない、もしくはミクログリアを活性化しない、または補体に媒介される溶解の始動、ADCCの刺激、もしくはミクログリアの活性化のうちの任意の1つもしくは複数において低下した活性を有する(改変していない抗体と比較して)。定常領域の様々な改変を使用してエフェクター機能の最適なレベルおよび/または組合せを達成し得る。たとえば、Morganら、1995、Immunology、86:319〜324、Lundら、1996、J.Immunology、157:4963〜9 157:4963〜4969、Idusogieら、2000、J.Immunology、164:4178〜4184、Taoら、1989、J.Immunology、143:2595〜2601、およびJefferisら、1998、Immunological Reviews、163:59〜76を参照されたい。一部の実施形態では、定常領域をEur.J.Immunol.、1999、29:2613〜2624、PCT公開WO99/58572号、および/またはUK特許出願第9809951.8号に記載のように改変する。他の実施形態では、抗体は、A330P331からS330S331への突然変異を含むヒト重鎖IgG2定常領域を含む(アミノ酸の付番は野生型IgG2配列を参照したものである)。Eur.J.Immunol.、1999、29:2613〜2624。さらに他の実施形態では、定常領域はN−連結グリコシル化のために脱グリコシル化されている。一部の実施形態では、定常領域は、定常領域中のN−グリコシル化認識配列の一部であるグリコシル化されたアミノ酸残基または隣接残基を変異させることによって、N−連結グリコシル化のために脱グリコシル化されている。たとえば、N−グリコシル化部位N297をA、Q、K、またはHに突然変異させ得る。Taoら、1989、J.Immunology、143:2595〜2601、およびJefferisら、1998、Immunological Reviews、163:59〜76を参照されたい。一部の実施形態では、定常領域はN−連結グリコシル化のために脱グリコシル化されている。定常領域は、N−連結グリコシル化のために酵素的に(酵素PNGaseによって炭水化物を除去すること等)またはグリコシル化欠損宿主細胞中で発現させることによって脱グリコシル化し得る。
【0153】
他の抗体改変には、PCT公開WO99/58572号に記載のように改変された抗体が含まれる。これらの抗体は、標的分子に対する結合ドメインに加えて、ヒト免疫グロブリン重鎖の定常ドメインの全体または一部に実質的に相同的なアミノ酸配列を有するエフェクタードメインを含む。これらの抗体は、顕著な補体依存性の溶解、または細胞に媒介される標的の破壊を始動させずに、標的分子と結合することができる。一部の実施形態では、エフェクタードメインは、FcRnおよび/またはFcγRIIbと特異的に結合することができる。これらは、典型的には、2つ以上のヒト免疫グロブリン重鎖C2ドメインに由来するキメラドメインに基づく。この様式で改変された抗体は、炎症および慣用の抗体治療に対する他の有害な反応を回避するために、慢性抗体治療における使用に特に適している。
【0154】
本発明には親和性成熟した実施形態が含まれる。たとえば、親和性成熟した抗体は、当分野で知られている手順によって産生することができる(Marksら、1992、Bio/Technology、10:779〜783、Barbasら、1994、Proc Nat.Acad.Sci、USA、91:3809〜3813、Schierら、1995、Gene、169:147〜155、Yeltonら、1995、J.Immunol.、155:1994〜2004、Jacksonら、1995、J.Immunol.、154(7):3310〜9、Hawkinsら、1992、J.Mol.Biol.、226:889〜896、およびPCT公開WO2004/058184号)。
【0155】
以下の方法を抗体の親和性の調整およびCDRの特徴づけに使用し得る。抗体のCDRを特徴づけるおよび/または抗体等のポリペプチドの結合親和性を変更する(改善等)一方法は、「ライブラリー走査突然変異誘発」と呼ばれる。一般に、ライブラリー走査突然変異誘発は以下のように働く。CDR中の1つまたは複数のアミノ酸位置を、当分野で認識されている方法を用いて2個以上(3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個等)のアミノ酸で置き換える。これにより、クローンの小さなライブラリーが生じ(一部の実施形態では、分析するそれぞれのアミノ酸位置につき1つ)、そのそれぞれが2つ以上のメンバーの複雑度を有する(それぞれの位置で2つ以上のアミノ酸を置換した場合)。一般に、ライブラリーにはネイティブ(非置換)アミノ酸を含むクローンも含まれる。それぞれのライブラリーから少数のクローン、たとえば約20〜80個のクローン(ライブラリーの複雑度に依存する)を、標的ポリペプチド(または他の結合標的)に対する結合親和性についてスクリーニングし、増加した、同じ、減少した結合、または結合しない候補を同定する。結合親和性を決定する方法は当分野で周知である。結合親和性は、約2倍以上の結合親和性の差異を検出するBiacore表面プラズモン共鳴分析を用いて決定し得る。Biacoreは、開始抗体が既に比較的高い親和性、たとえば約10nM以下のKで結合する場合に特に有用である。Biacore表面プラズモン共鳴を用いたスクリーニングは本明細書中の実施例に記載されている。
【0156】
結合親和性は、Kinexa Biocensor、シンチレーション近接アッセイ、ELISA、ORIGEN免疫アッセイ(IGEN)、蛍光消光、蛍光移動、および/または酵母ディスプレイを用いて決定し得る。また、結合親和性は適切なバイオアッセイを用いてスクリーニングしてもよい。
【0157】
一部の実施形態では、CDR中のすべてのアミノ酸位置を、当分野で認識されている突然変異誘発方法(その一部は本明細書に記載されている)を用いて20種の天然アミノ酸すべてで置き換える(一部の実施形態では1個ずつ)。これにより、クローンの小さなライブラリーが生じ(一部の実施形態では、分析するそれぞれのアミノ酸位置につき1つ)、そのそれぞれが20個のメンバーの複雑度を有する(それぞれの位置で20種のアミノ酸すべてを置換した場合)。
【0158】
一部の実施形態では、スクリーニングするライブラリーは2つ以上の位置での置換を含み、これは同じCDR中または2つ以上のCDR中であり得る。したがって、ライブラリーは、1つのCDR中の2つ以上の位置での置換を含み得る。ライブラリーは、2つ以上のCDR中の2つ以上の位置での置換を含み得る。ライブラリーは、2、3、4、5または6個のCDR中に見つかる3個、4個、5個、またはそれより多くの位置での置換を含み得る。置換は冗長性の低いコドンを用いて調製し得る。たとえばBalintら、1993、Gene、137(1):109〜18)の表2を参照されたい。
【0159】
CDRはCDRH3および/またはCDRL3であり得る。CDRはCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2、および/またはCDRH3のうちの1つまたは複数であり得る。CDRはカバットCDR、コチアCDR、または拡張CDRであり得る。
【0160】
改善された結合を有する候補を配列決定し、それにより改善された親和性をもたらすCDR置換突然変異体を同定し得る(「改善された」置換とも呼ばれる)。結合する候補を配列決定し、それにより結合を保持するCDR置換も同定し得る。
【0161】
複数回のスクリーニングを実施し得る。たとえば、改善された結合を有する候補(それぞれが1つまたは複数のCDRの1つまたは複数の位置でアミノ酸置換を含む)は、それぞれの改善されたCDR位置(すなわち、置換突然変異体が改善された結合を示したCDR中のアミノ酸位置)で少なくとも元のおよび置換されたアミノ酸を含有する第2のライブラリーの設計にも有用である。このライブラリーの調製、スクリーニング、および選択を以下にさらに記述する。
【0162】
また、改善された結合、同じ結合、減少した結合または結合しないクローンの頻度も抗体−抗原の複合体の安定性におけるそれぞれのアミノ酸位置の重要性に関する情報を提供する限りは、ライブラリー走査突然変異誘発もCDRを特徴づける手段を提供する。たとえば、あるCDRの位置を20種のアミノ酸すべてに変化させた場合に結合が保持される場合は、その位置は、抗原結合に必要である可能性が低い位置として同定される。逆に、あるCDRの位置で少ないパーセンテージの置換でのみ結合が保持される場合は、その位置は、CDR機能に重要な位置として同定される。したがって、ライブラリー走査突然変異誘発方法は、多くの異なるアミノ酸(20種のアミノ酸すべてが含まれる)に変化させることができるCDR中の位置、および変化させることができないまたは数種のアミノ酸にのみ変化させることができるCDR中の位置に関する情報を生じる。
【0163】
改善された親和性を有する候補を第2のライブラリー中で合わせてよく、これには、改善されたアミノ酸、元のアミノ酸が含まれ、さらには、所望されるまたは所望のスクリーニングもしくは選択方法を用いて許容されるライブラリーの複雑度に応じて、その位置での追加の置換が含まれ得る。さらに、所望する場合は、隣接アミノ酸位置を少なくとも2つ以上のアミノ酸へとランダム化することができる。隣接アミノ酸のランダム化は突然変異体CDR中でのさらなるコンホメーションの柔軟性を許容する場合があり、立ち代ってこれはより多数の改善させる突然変異の導入を許容または容易にし得る。また、ライブラリーは、1回目のスクリーニングで改善された親和性を示さなかった位置での置換も含み得る。
【0164】
第2のライブラリーは、Biacore表面プラズモン共鳴分析を用いたスクリーニング、ならびにファージディスプレイ、酵母ディスプレイ、およびリボソームディスプレイを含めた当分野で知られている任意の選択方法を用いた選択を含めた、当分野で知られている任意の方法を用いて、改善および/または変更された結合親和性を有するライブラリーメンバーについてスクリーニングまたは選択する。
【0165】
また、本発明には、本発明の抗体またはポリペプチドからの1つまたは複数の断片または領域を含む融合タンパク質も包含される。一実施形態では、配列番号53、16、17、18、もしくは19に示す可変軽鎖領域の少なくとも10個の連続的なアミノ酸および/または配列番号54、20、21、22、もしくは23に示す可変重鎖領域の少なくとも10個のアミノ酸を含む融合ポリペプチドを提供する。他の実施形態では、可変軽鎖領域の少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約25、もしくは少なくとも約30個の連続的なアミノ酸および/または可変重鎖領域の少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20、少なくとも約25、もしくは少なくとも約30個の連続的なアミノ酸を含む融合ポリペプチドを提供する。別の実施形態では、融合ポリペプチドは、配列番号53と54、16と20、17と21、18と22、および19と23から選択される配列対のうちの任意のものに示す軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含む。別の実施形態では、融合ポリペプチドは1つまたは複数のCDRを含む。さらに他の実施形態では、融合ポリペプチドはCDR H3(VH CDR3)および/またはCDR L3(VL CDR3)を含む。本発明の目的のために、融合タンパク質は、1つまたは複数の抗体およびネイティブ分子中ではそれと付着していない別のアミノ酸配列、たとえば別の領域からの異種配列または相同配列を含有する。例示的な異種配列には、それだけには限定されないが、FLAGタグまたは6Hisタグ等の「タグ」が含まれる。タグは当分野で周知である。
【0166】
融合ポリペプチドは、当分野で知られている方法、たとえば合成または組換えによって作製することができる。典型的には、本発明の融合タンパク質は、本明細書中に記載の組換え方法を用いてそれらをコードしているポリヌクレオチドを調製および発現させることによって作製するが、たとえば化学合成を含めた当分野で知られている他の手段によっても調製し得る。
【0167】
また、本発明は、固体担体(ビオチンまたはアビジン等)とのカップリングを容易にする薬剤とコンジュゲート(たとえば連結)した抗体またはポリペプチドを含む組成物も提供する。簡単にするために、これらの方法が本明細書中に記載のPCSK9結合および/または拮抗薬の実施形態のうちの任意のものに適用されるという理解の下に、抗体に一般に言及する。一般に、コンジュゲーションとは、これらの構成要素を本明細書中に記載のように連結させることをいう。連結(少なくとも投与のためにこれらの構成要素を隣接した会合で固定すること)は、多数の方法で達成することができる。たとえば、それぞれが他方と反応することができる置換基を保有する場合は、薬剤と抗体との間の直接反応が可能である。たとえば、一方上にあるアミノまたはスルフヒドリル基等の求核基は、他方上にある酸無水物もしくは酸ハロゲン化物等のカルボニル含有基、または良好な脱離基(たとえばハロゲン化物)を含有するアルキル基と反応できる場合がある。
【0168】
本発明の抗体またはポリペプチドは、蛍光分子、放射性分子または当分野で知られている任意の他の標識等の標識剤と連結させ得る。標識は当分野で知られており、一般に(直接または間接的に)シグナルをもたらす。
【0169】
また、本発明は、本開示によって明らかにされる本明細書中に記載の抗体および/またはポリペプチドのうちの任意のものまたはそのすべてを含む、組成物(医薬組成物が含まれる)およびキットも提供する。
【0170】
また、本発明は、本発明の抗体およびペプチドをコードしている単離したポリヌクレオチド、ならびにポリヌクレオチドを含むベクターおよび宿主細胞も提供する。
【0171】
したがって、本発明は、抗体4A5、5A10、6F6、7D4、L1L3、またはPCSK9に拮抗する能力を有する任意のその断片もしくは部分のうちの任意のものをコードしているポリヌクレオチドを含む、ポリヌクレオチド(または医薬組成物を含めた組成物)を提供する。
【0172】
別の態様では、本発明は、損なわれたエフェクター機能を有する抗体およびポリペプチド等の、本明細書中に記載の抗体(抗体断片が含まれる)およびポリペプチドのうちの任意のものをコードしているポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドは、当分野で知られている手順によって作製および発現させることができる。
【0173】
別の態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドのうちの任意のものを含む組成物(医薬組成物等)を提供する。一部の実施形態では、組成物は、本明細書中に記載の抗体をコードしているポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む。他の実施形態では、組成物は、本明細書中に記載の抗体またはポリペプチドのうちの任意のものをコードしているポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む。さらに他の実施形態では、組成物は、配列番号25および配列番号26に示すポリヌクレオチドのどちらかまたは両方を含む。発現ベクター、およびポリヌクレオチド組成物の投与を本明細書中にさらに記載する。
【0174】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載のポリヌクレオチドのうちの任意のものを作製する方法を提供する。
【0175】
任意のそのような配列に相補的なポリヌクレオチドも本発明によって包含される。ポリヌクレオチドは一本鎖(コードもしくはアンチセンス)または二本鎖であってよく、DNA(ゲノム、cDNAもしくは合成)またはRNA分子であってよい。RNA分子には、イントロンを含有し1対1の様式でDNA分子に対応するHnRNA分子、およびイントロンを含有しないmRNA分子が含まれる。さらなるコードまたは非コード配列が本発明のポリヌクレオチド内に存在してもよいが、必ずしも存在する必要はなく、ポリヌクレオチドは他の分子および/または支持物質と連結していてもよいが、必ずしも連結している必要はない。
【0176】
ポリヌクレオチドは、ネイティブ配列(すなわち、抗体もしくはその一部分をコードしている内在配列)またはそのような配列の変異体を含み得る。ポリヌクレオチド変異体は、コードされているポリペプチドの免疫反応性がネイティブの免疫反応性分子と比較して減退していないように、1つまたは複数の置換、付加、欠失および/または挿入を含有する。コードされているポリペプチドの免疫反応性に対する効果は、一般に、本明細書中に記載のように評価し得る。好ましくは、変異体は、ネイティブ抗体またはその一部分をコードしているポリヌクレオチド配列と少なくとも約70%の同一性、より好ましくは少なくとも約80%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも約90%の同一性、最も好ましくは少なくとも約95%の同一性を示す。
【0177】
2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列は、2つの配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸の配列を以下に記載のように最大一致についてアラインメントした際に同じである場合に、「同一」であると言われる。2つの配列間の比較は、典型的には、比較ウィンドウにわたって配列を比較して、配列類似度の局所的領域を同定および比較することによって行う。本明細書中で使用する「比較ウィンドウ」とは、少なくとも約20個の連続的な位置、通常は30〜約75、または40〜約50個のセグメントをいい、配列を、同じ数の連続的な位置の参照配列と、2つの配列を最適にアラインメントした後に比較し得る。
【0178】
比較のための配列の最適なアラインメントは、生物情報学ソフトウェア(DNASTAR,Inc.、Madison,WI)のLasergeneスイート中のMegalignプログラムを用いて、初期設定パラメータを使用して実施し得る。このプログラムは以下の参考文献中に記載のいくつかのアラインメントスキームを統合している:Dayhoff,M.O.、1978、A model of evolutionary change in proteins−Matrices for detecting distant relationships.、Dayhoff,M.O.(編)、Atlas of Protein Sequence and Structure(National Biomedical Research Foundation、Washington DC)、第5巻、補遺3、345〜358ページ、Hein J.、1990、Unified Approach to Alignment and Phylogenes、626〜645ページ、Methods in Enzymology、第183巻、(Academic Press,Inc.、San Diego,CA)、Higgins,D.G.およびSharp,P.M.、1989、CABIOS、5:151〜153、Myers,E.W.およびMuller W.、1988、CABIOS、4:11〜17、Robinson,E.D.、1971、Comb.Theor.、11:105、Santou,N.、Nes,M.、1987、Mol.Biol.Evol.、4:406〜425、Sneath,P.H.A.およびSokal,R.R.、1973、Numerical Taxonomy the Principles and Practice of Numerical Taxonomy(Freeman Press、San Francisco,CA)、Wilbur,W.J.およびLipman,D.J.、1983、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、80:726〜730。
【0179】
好ましくは、「配列同一性のパーセンテージ」は、2つの最適にアラインメントした配列を少なくとも20個の位置の比較ウィンドウにわたって比較することによって決定し、比較ウィンドウ中のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の一部分は、2つの配列の最適なアラインメントについて参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、20パーセント以下、通常は5〜15パーセント、または10〜12パーセントの付加または欠失(すなわちギャップ)を含み得る。パーセンテージは、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列中に存在する位置の数を決定して一致した位置の数を得て、一致した位置の数を参照配列中の位置の合計数(すなわちウィンドウの大きさ)で除算し、結果を100で乗算して配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算する。
【0180】
変異体は、ネイティブ遺伝子またはその一部分もしくは補体とも、または代わりにそれと、実質的に相同的であり得る。そのようなポリヌクレオチド変異体は、中等度にストリンジェントな条件下で、ネイティブ抗体をコードしている天然に存在するDNA配列(または相補的配列)とハイブリダイズすることができる。
【0181】
適切な「中等度にストリンジェントな条件」には、5×SSC、0.5%のSDS、1.0mMのEDTA(pH8.0)の溶液中で前洗浄すること、50℃〜65℃、5×SSC、終夜でハイブリダイズさせること、続いて0.1%のSDSを含有する2×、0.5×および0.2×SSCのそれぞれを用いて65℃で20分間、2回洗浄することが含まれる。
【0182】
本明細書中で使用する「高度にストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー条件」とは、(1)洗浄に低イオン強度および高温、たとえば0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウムを50℃で用いるもの、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド、たとえば50%(v/v)のホルムアミド等の変性剤を、0.1%のウシ血清アルブミン/0.1%のFicoll/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5、750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムと共に42℃で用いるもの、または(3)50%のホルムアミド、5×SSC(0.75MのNaCl、0.075Mのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%のピロリン酸ナトリウム、5×デンハート溶液、超音波処理したサケ精子DNA(50μg/ml)、0.1%のSDS、および10%の硫酸デキストランを42℃で用い、42℃で0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)および55℃で50%のホルムアミドの洗浄、続いて55℃でEDTAを含有する0.1×SSCからなる高ストリンジェンシーの洗浄のものである。当業者には、プローブの長さ等の要因に適応するために必要に応じて温度、イオン強度等を調整する方法を認識されるであろう。
【0183】
当業者には、遺伝暗号の縮重の結果、本明細書中に記載のポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列が多く存在することが理解されよう。これらのポリヌクレオチドの一部は、任意のネイティブ遺伝子のヌクレオチド配列と最小限の相同性しか有さない。それにも関わらず、コドン使用頻度の差異が原因で異なるポリヌクレオチドは本発明によって具体的に企図される。さらに、本明細書中に提供するポリヌクレオチド配列を含む遺伝子の対立遺伝子が本発明の範囲内にある。対立遺伝子とは、ヌクレオチドの欠失、付加および/または置換等の1つまたは複数の突然変異の結果変更された内在遺伝子である。生じるmRNAおよびタンパク質は、変更された構造または機能を有し得るが、必ずしも有する必要はない。対立遺伝子は標準の技術(ハイブリダイゼーション、増幅および/またはデータベース配列の比較等)を用いて同定し得る。
【0184】
本発明のポリヌクレオチドは、化学合成、組換え方法、またはPCRを用いて得ることができる。化学的ポリヌクレオチド合成方法は当分野で周知であり、本明細書中で詳述する必要はない。当業者は本明細書中に提供する配列および市販のDNA合成機を用いて所望のDNA配列を生成することができる。
【0185】
組換え方法を用いてポリヌクレオチドを調製するためには、所望の配列を含むポリヌクレオチドを適切なベクター内に挿入することができ、立ち代って、本明細書中にさらに記述するように、ベクターを複製および増幅のために適切な宿主細胞内に導入することができる。ポリヌクレオチドは、当分野で知られている任意の手段によって宿主細胞内に挿入し得る。直接取り込み、エンドサイトーシス、トランスフェクション、F−接合または電気穿孔によって外来ポリヌクレオチドを導入することによって細胞を形質転換させる。導入後、外来ポリヌクレオチドは、非組込みベクター(プラスミド等)として細胞内に維持されるか、宿主細胞ゲノム内に組み込ませることができる。そのようにして増幅したポリヌクレオチドは、当分野で周知の方法によって宿主細胞から単離することができる。たとえば、Sambrookら、1989、上記を参照されたい。
【0186】
あるいは、PCRはDNA配列の複製を可能にする。PCR技術は当分野で周知であり、米国特許第4,683,195号、第4,800,159号、第4,754,065号および第4,683,202号、ならびにPCR:The Polymerase Chain Reaction、Mullisら、1994編(Birkauswer Press、Boston,MA)に記載されている。
【0187】
RNAは、単離したDNAを適切なベクター中で使用し、それを適切な宿主細胞内に挿入することによって得ることができる。細胞を複製してDNAがRNAへと転写された後、たとえばSambrookら、1989、上記に記載の当業者に周知の方法を用いてRNAを単離することができる。
【0188】
適切なクローニングベクターは、標準の技術に従って構築し得るか、または当分野で利用可能な多数のクローニングベクターから選択され得る。選択されるクローニングベクターは使用を意図する宿主細胞に応じて変動し得るが、有用なクローニングベクターは、一般に自己複製する能力を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼの単一の標的を保有する場合があり、および/またはベクターを含有するクローンの選択に使用することができるマーカーの遺伝子を保有し得る。適切な例には、プラスミドおよび細菌ウイルス、たとえば、pUC18、pUC19、Bluescript(たとえばpBS SK+)およびその誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージDNA、ならびにpSA3およびpAT28等のシャトルベクターが含まれる。これらおよび多くの他のクローニングベクターがBioRad、Strategene、およびInvitrogen等の市販の供給者から入手可能である。
【0189】
発現ベクターは、一般に、本発明によるポリヌクレオチドを含有する複製可能なポリヌクレオチド構築体である。発現ベクターは、エピソームとしてまたは染色体DNAに組み込まれた部分として宿主細胞中で複製可能でなければならないことが暗示されている。適切な発現ベクターには、それだけには限定されないが、プラスミド、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルスを含めたウイルスベクター、コスミド、およびPCT公開WO87/04462号に開示されている発現ベクター(複数可)が含まれる。ベクターの構成要素には、シグナル配列、複製起点、1つまたは複数のマーカー遺伝子、適切な転写制御要素(プロモーター、エンハンサーおよびターミネーター等)のうちの1つまたは複数が含まれ得る。発現(すなわち翻訳)には、リボソーム結合部位、翻訳開始部位、およびストップコドン等の1つまたは複数の翻訳制御要素も通常は必要である。
【0190】
目的のポリヌクレオチドを含有するベクターは、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、または他の物質を用いた電気穿孔、トランスフェクション、微粒子銃、リポフェクション、および感染(たとえばベクターがワクシニアウイルス等の感染性因子である場合)を含めたいくつかの適切な手段のうちの任意のものによって、宿主細胞内に導入することができる。ベクターまたはポリヌクレオチドを導入する選択は、多くの場合、宿主細胞の特長に依存する。
【0191】
また、本発明は、本明細書中に記載のポリヌクレオチドのうちの任意のものを含む宿主細胞も提供する。異種DNAを過剰発現することができる任意の宿主細胞を、目的の抗体、ポリペプチドまたはタンパク質をコードしている遺伝子を単離する目的に使用することができる。哺乳動物宿主細胞の非限定的な例には、それだけには限定されないが、COS、HeLa、NSO、およびCHO細胞が含まれる。PCT公開WO87/04462号も参照されたい。適切な非哺乳動物宿主細胞には、原核生物(大腸菌(E.coli)または枯草菌(B.subtillis)等)および酵母(出芽酵母(S.cerevisae)、分裂酵母(S.pombe)、もしくはケー・ラクチス(K.lactis)等)が含まれる。好ましくは、宿主細胞は、存在する場合は宿主細胞中の目的の対応する内在性抗体またはタンパク質よりも約5倍高い、より好ましくは10倍高い、さらにより好ましくは20倍高いレベルで、cDNAを発現する。PCSK9またはPCSK9ドメインとの特異的結合について宿主細胞をスクリーニングすることは、免疫アッセイまたはFACSによって達成する。目的の抗体またはタンパク質を過剰発現する細胞を同定することができる。
【0192】
C.組成物
本発明の方法中で使用する組成物は、有効量のPCSK9拮抗抗体、PCSK9拮抗抗体に由来するポリペプチド、または本明細書中に記載の他のPCSK9拮抗薬を含む。そのような組成物の例、およびそれらを配合する方法も、既出のセクションおよび以下に記載されている。一実施形態では、組成物はPCSK9拮抗薬をさらに含む。別の実施形態では、組成物は1つまたは複数のPCSK9拮抗抗体を含む。他の実施形態では、PCSK9拮抗抗体はヒトPCSK9を認識する。さらに他の実施形態では、PCSK9拮抗抗体はヒト化されている。さらに他の実施形態では、PCSK9拮抗抗体は、抗体に媒介される溶解またはADCC等の望まないまたは望ましくない免疫応答を始動しない定常領域を含む。他の実施形態では、PCSK9拮抗抗体は抗体の1つまたは複数のCDR(1個、2個、3個、4個、5個、または一部の実施形態では6個すべてのCDR等)を含む。一部の実施形態では、PCSK9拮抗抗体はヒトである。
【0193】
組成物は、複数のPCSK9拮抗抗体(たとえば、PCSK9の異なるエピトープを認識するPCSK9拮抗抗体の混合物)を含むことができることを理解されたい。他の例示的な組成物は、同じエピトープ(複数可)を認識する複数のPCSK9拮抗抗体、またはPCSK9の異なるエピトープと結合するPCSK9拮抗抗体の様々な種を含む。
【0194】
本発明中で使用する組成物は、凍結乾燥した製剤または水溶液の形態で薬学的に許容できる担体、賦形剤、または安定化剤(Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版、2000、Lippincott Williams and Wilkins、K.E.Hoover編)をさらに含むことができる。許容できる担体、賦形剤、または安定化剤は用量および濃度でレシピエントに無毒性であり、リン酸、クエン酸、および他の有機酸等の緩衝液、アスコルビン酸およびメチオニンを含めた抗酸化剤、保存料(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール、メチルもしくはプロピルパラベン等のアルキルパラベン、カテコール、レソルシノール、シクロヘキサノール、3−ペンタノール、およびm−クレゾール等)、低分子量(約10個未満の残基)ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシン等のアミノ酸、グルコース、マンノース、もしくはデキストランを含めた単糖、二糖、および他の炭水化物、EDTA等のキレート化剤、スクロース、マンニトール、トレハロースもしくはソルビトール等の糖、ナトリウム等の塩形成対イオン、金属錯体(たとえばZn−タンパク質の複合体)、ならびに/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含み得る。薬学的に許容できる賦形剤を本明細書中でさらに記載する。
【0195】
一実施形態では、抗体は、約5.0〜約6.5の範囲のpHを有し、約1mg/ml〜約200mg/mlの抗体、約1ミリモーラー〜約100ミリモーラーのヒスチジン緩衝液、約0.01mg/ml〜約10mg/mlのポリソルベート80、約100ミリモーラー〜約400ミリモーラーのトレハロース、および約0.01ミリモーラー〜約1.0ミリモーラーのEDTA二ナトリウム二水和物を含む無菌水溶液としての製剤の形で投与する。
【0196】
また、PCSK9拮抗抗体およびその組成物は、薬剤の有効性を増強および/または補完する役割を果たす他の薬剤と併せて使用することもできる。
【0197】
D.キット
また、本発明は、本方法で使用するためのキットも提供する。本発明のキットには、PCSK9拮抗抗体(ヒト化抗体等)または本明細書中に記載のペプチド、および本明細書中に記載の本発明の方法のうちの任意のものに従った使用説明書を含む、1つまたは複数の容器が含まれる。一般に、これらの指示書は、上述の治療処置のためのPCSK9拮抗抗体、ペプチド、またはアプタマーの投与の説明を含む。
【0198】
一部の実施形態では、抗体はヒト化抗体である。一部の実施形態では、抗体はヒトである。他の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。PCSK9拮抗抗体の使用に関する指示書には、一般に、意図する処置の用量、投薬スケジュール、および投与経路の情報が含まれる。容器は単位用量、バルクパッケージ(たとえば複数用量パッケージ)またはサブユニット用量であり得る。本発明のキット中で供給する指示書は、典型的にはラベルまたは添付文書(たとえばキット中に含める紙シート)上に書かれた指示書であるが、機械可読指示書(たとえば磁気または光学記憶ディスク上に保有される指示)も許容される。
【0199】
本発明のキットは適切なパッケージ内にある。適切なパッケージには、それだけには限定されないが、バイアル、ボトル、ジャー、ソフトパッケージ(たとえば密封マイラバッグまたはプラスチックバッグ)等が含まれる。また、吸入器、経鼻投与装置(たとえば噴霧器)またはミニポンプ等のインフュージョン装置等の特定の装置と組み合わせて使用するためのパッケージも企図される。キットは無菌アクセス口を有し得る(たとえば、容器は、皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有する静脈内用溶液バッグまたはバイアルであり得る)。また、容器は無菌アクセス口を有し得る(たとえば、容器は、皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有する静脈内用溶液バッグまたはバイアルであり得る)。組成物中の少なくとも1つの活性薬剤はPCSK9拮抗抗体である。容器(たとえば、事前に満たされたシリンジまたは自己注射器)は、第2の薬学的な活性薬剤をさらに含み得る。
【0200】
キットは、緩衝液および解釈用の情報等のさらなる構成要素を任意選択で提供し得る。通常、キットは、容器および容器上またはそれに付随させたラベルまたは添付文書(複数可)を含む。
【0201】
突然変異および改変
本発明のPCSK9抗体を発現させるために、上述の方法のうちの任意のものを用いて最初にVおよびV領域をコードしているDNA断片を得ることができる。様々な改変、たとえば、突然変異、欠失、および/または付加も、当業者に知られている標準の方法を用いてDNA配列内に導入することができる。たとえば、突然変異誘発は、PCR産物が所望の突然変異または部位特異的突然変異誘発を含有するように、突然変異したヌクレオチドをPCRプライマー内に取り込ませる、PCR媒介突然変異誘発等の標準の方法を用いて実施することができる。
【0202】
たとえば、行い得る1種の置換は、化学的に反応性であり得る抗体中の1つまたは複数のシステインを、それだけには限定されないがアラニンまたはセリン等の別の残基に変化させることである。たとえば、非カノニカルシステインの置換が存在する場合がある。置換は、可変ドメインのCDRもしくはフレームワーク領域中または抗体の定常ドメイン中に行うことができる。一部の実施形態では、システインはカノニカルである。
【0203】
また、抗体は、たとえば重鎖および/または軽鎖の可変ドメイン中で、たとえば抗体の結合特性を変更するためにも改変し得る。たとえば、PCSK9に対する抗体のKDを増加もしくは減少させるため、koffを増加もしくは減少させるため、または抗体の結合特異性を変更するために、CDR領域のうちの1つまたは複数中の突然変異を行い得る。部位特異的突然変異誘発の技術は当分野で周知である。たとえば、SambrookらおよびAusubelら、上記を参照されたい。
【0204】
また、改変または突然変異は、PCSK9抗体の半減期を増加させるためにもフレームワーク領域または定常ドメイン中に行い得る。たとえば、PCT公開WO00/09560号を参照されたい。また、抗体の免疫原性を変更するため、別の分子との共有もしくは非共有結合の部位を提供するため、または補体の固定、FcR結合および抗体依存性細胞媒介性細胞傷害等の特性を変更するためにも、フレームワーク領域または定常ドメイン中の突然変異を行うことができる。本発明によれば、単一の抗体は、可変ドメインのCDRもしくはフレームワーク領域のうちの任意の1つもしくは複数中または定常ドメイン中に突然変異を有し得る。
【0205】
「生殖系列化」として知られるプロセスでは、VおよびV配列中の特定のアミノ酸を、生殖系列VおよびV配列中で天然に見つかるものと一致するように突然変異させることができる。具体的には、VおよびV配列中のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、抗体を投与した際の免疫原性の危険性を低下させるために、生殖系列配列と一致するように突然変異させることができる。ヒトVおよびV遺伝子の生殖系列DNA配列は当分野で知られている(たとえば、「Vbase」ヒト生殖系列配列データベース、Kabat,E.A.ら(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S.Department of Health and Human Services、NIH出版番号91−3242、Tomlinsonら、1992、J.Mol.Biol.、227:776〜798、およびCoxら、1994、Eur.J.Immunol.、24:827〜836も参照されたい。
【0206】
行い得る別の種類のアミノ酸置換は、抗体中の潜在的なタンパク質分解性部位を除去することである。そのような部位は、可変ドメインのCDRもしくはフレームワーク領域中または抗体の定常ドメイン中に存在し得る。システイン残基の置換およびタンパク質分解性部位の除去は、抗体産物中の不均一性の危険性を減少させ、したがってその均一性を増加させ得る。別の種類のアミノ酸置換では、残基のうちの一方または両方を変更することによって、潜在的な脱アミド化部位を形成するアスパラギン−グリシンの対を排除する。別の例では、本発明のPCSK9抗体の重鎖のC末端リシンを切断することができる。本発明の様々な実施形態では、PCSK9抗体の重鎖および軽鎖には、シグナル配列が任意選択で含まれ得る。
【0207】
本発明のVおよびVセグメントをコードしているDNA断片が得られた後、これらのDNA断片は、たとえば可変領域遺伝子を完全長抗体鎖遺伝子、Fab断片遺伝子、またはscFv遺伝子に変換するために、標準の組換えDNA技術によってさらに操作することができる。これらの操作では、VまたはVをコードしているDNA断片を、抗体定常領域または柔軟なリンカー等の別のタンパク質をコードしている別のDNA断片と作動可能に連結させる。このコンテキストで使用する用語「作動可能に連結した」とは、2つのDNA断片が、2つのDNA断片によってコードされているアミノ酸配列がインフレームに保たれるように結合されていることを意味することを意図する。
【0208】
領域をコードしている単離したDNAは、VをコードしているDNAを、重鎖定常領域(CH1、CH2およびCH3)をコードしている別のDNA分子と作動可能に連結させることによって、完全長重鎖遺伝子に変換することができる。ヒト重鎖定常領域遺伝子の配列は当分野で知られており(たとえばKabat,E.A.ら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S.Department of Health and Human Services、NIH出版番号91−3242を参照)、これらの領域を包含するDNA断片は標準のPCR増幅によって得ることができる。重鎖定常領域はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgMまたはIgD定常領域であることができるが、最も好ましくはIgG1またはIgG2定常領域である。IgG定常領域配列は、様々な個体間で生じることが知られている様々な対立遺伝子またはGm(1)、Gm(2)、Gm(3)、およびGm(17)等のアロタイプのうちの任意のものであることができる。これらのアロタイプはIgG1定常領域中の天然に存在するアミノ酸置換を表す。Fab断片重鎖遺伝子では、VをコードしているDNAを、重鎖CH1定常領域のみをコードしている別のDNA分子と作動可能に連結させることができる。CH1重鎖定常領域は、重鎖遺伝子のうちの任意のものに由来し得る。
【0209】
領域をコードしている単離したDNAは、VをコードしているDNAを、軽鎖定常領域Cをコードしている別のDNA分子と作動可能に連結させることによって、完全長軽鎖遺伝子(およびFab軽鎖遺伝子)に変換することができる。ヒト軽鎖定常領域遺伝子の配列は当分野で知られており(たとえばKabat,E.A.ら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S.Department of Health and Human Services、NIH出版番号91−3242を参照)、これらの領域を包含するDNA断片は標準のPCR増幅によって得ることができる。軽鎖定常領域はカッパまたはラムダ定常領域であることができる。カッパ定常領域は、Inv(1)、Inv(2)、およびInv(3)等の、様々な個体間で生じることが知られている様々な対立遺伝子のうちの任意のものであり得る。ラムダ定常領域は3つのラムダ遺伝子のうちの任意のものに由来し得る。
【0210】
scFv遺伝子を作製するために、VおよびV配列が連続的な単鎖タンパク質として発現され、VおよびV領域が柔軟なリンカーによって結合されることができるように、VおよびVをコードしているDNA断片を、柔軟なリンカーをコードしている、たとえばアミノ酸配列(Gly−Ser)をコードしている別の断片と作動可能に連結させる(たとえば、Birdら、1988、Science、242:423〜426、Hustonら、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:5879〜5883、McCaffertyら、1990、Nature、348:552〜554を参照。単鎖抗体は、単一のVおよびVのみを使用した場合は一価であり、2つのVおよびVを使用した場合は二価であり、2つより多くのVおよびVを使用した場合は多価であり得る。PCSK9および別の分子と特異的に結合する二重特異性または多価抗体を作製し得る。
【0211】
別の実施形態では、別のポリペプチドと連結した本発明のPCSK9抗体の全体または一部分を含む、融合抗体またはイムノアドヘシンを作製し得る。別の実施形態では、PCSK9抗体の可変ドメインのみがポリペプチドと連結している。別の実施形態では、PCSK9抗体のVドメインが第1のポリペプチドと連結している一方で、PCSK9抗体のVドメインは、VおよびVドメインが互いに相互作用して抗原結合部位を形成することができるような様式で第1のポリペプチドと会合する第2のポリペプチドと連結している。別の好ましい実施形態では、VおよびVドメインが互いに相互作用できるように、VドメインはリンカーによってVドメインから分離されている。その後、V−リンカー−V抗体を目的のポリペプチドと連結させる。さらに、2つ(以上)の単鎖抗体が互いに連結している融合抗体を作製することができる。これは、単一のポリペプチド鎖上で二価もしくは多価抗体を作製した場合、または二重特異性抗体を作製した場合に有用である。
【0212】
他の実施形態では、PCSK9抗体をコードしている核酸分子を用いて他の改変した抗体を調製し得る。たとえば、「カッパボディー」(Illら、1997、Protein Eng.、10:949〜57)、「ミニボディー」(Martinら、1994、EMBO J.、13:5303〜9)、「ダイアボディ」(Holligerら、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444〜6448)、または「ジャヌシン」(Trauneckerら、1991、EMBO J.、10:3655〜3659およびTrauneckerら、1992、Int.J.Cancer(補遺)、7:51〜52)を、標準の分子生物学的技術を用いて、本明細書の教示に従って調製し得る。
【0213】
二重特異性抗体または抗原結合断片は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含めた様々な方法によって生成することができる。たとえば、SongsivilaiおよびLachmann、1990、Clin.Exp.Immunol.、79:315〜321、Kostelnyら、1992、J.Immunol.、148:1547〜1553を参照されたい。さらに、二重特異性抗体は「ダイアボディ」または「ジャヌシン」として形成し得る。一部の実施形態では、二重特異性抗体はPCSK9の2つの異なるエピトープと結合する。一部の実施形態では、上述の改変した抗体は、本明細書中に提供するヒトPCSK9抗体からの可変ドメインまたはCDR領域のうちの1つまたは複数を用いて調製する。
【0214】
抗原に特異的な抗体の作製
組換え完全長ヒトPCSK9、組換え完全長マウスPCSK9、および様々な合成ペプチドに対して産生された500個を超えるポリクローナルおよびモノクローナル抗体を、培養Huh7ヒト肝細胞中の全LDLRタンパク質をダウンレギュレーションするその能力について評価した。これらの抗体には、とりわけ、PCSK9の構造に基づいてタンパク質表面の大部分を覆うと予測された12〜20個のアミノ酸残基のポリペプチドの組に対して産生し、それと反応性のある抗体の組が存在していた。最高濃度で、最良の抗体は約60%の遮断活性しか示さなかった。
【0215】
したがって、代替かつこれまでに未開拓の手法、すなわち、PCSK9ヌルマウスを組換え完全長PCSK9タンパク質で免疫化することによるモノクローナル抗体の産生を用いた。実施例7に示すように、この抗体調製の様式により、PCSK9とLDLRとの結合の完全な遮断、Huh7細胞におけるPCSK9に媒介されるLDLRレベルの下降の完全な遮断、およびマウスにおけるものを含めたLDLcの、in vivoでの、PCSK9−/−マウスで見られるものに匹敵するレベルまでの下降を示す拮抗抗体が得られた。
【0216】
本発明の代表的な抗体(ハイブリドーマ)は2008年2月28日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託し、表3の受託番号が割り当てられた。ハイブリドーマは抗体4A5、5A10、6F6および7D4について寄託した。
【0217】
【表3】

【実施例】
【0218】
(実施例1)
PCSK9拮抗抗体の作製およびスクリーニング
モノクローナル抗体を作製するための動物の免疫化の一般手順:
Balb/cまたは129/bl6 pcsk9−/−マウスに、13日間のスケジュールで100μgの抗原を5回注射した。PCSK9−/−(すなわちヌルまたはノックアウトマウス)は、Rashidら、2005、Proc Natl Acad Sci USA、102:5374から、またはそれによって記載されているように得ることができる。米国特許第7,300,754号も参照されたい。最初の4回の注射では、組換えタンパク質をアジュバントと混合することによって抗原を調製した。免疫原を首筋、足蹠および腹腔内への注射によって約3日ごとに11日間にわたって与え、最後のブーストは静脈内でアジュバントを用いずに投与した。13日目にマウスを安楽死させ、その脾臓を取り出した。標準のハイブリドーマ技術を用いて、リンパ球を確立された細胞系との融合によって不死化してハイブリドーマクローンを作製し、96ウェルプレート内に分配した。クローンを成長させ、その後、以下のように免疫化抗原を用いたELISAスクリーニングによって選択した。
【0219】
抗体のELISAスクリーニング:
成長中のハイブリドーマクローンからの上清培地を、組換えヒトPCSK9または組換えマウスPCSK9と結合するその能力について別々にスクリーニングした。アッセイは、100μlの抗原のうちの1つの1μg/ml溶液で終夜コーティングした96ウェルプレートで行った。0.05%のTween−20を含有するPBSを用いて、各ステップの間にウェルから過剰の試薬を洗浄した。その後、プレートを0.5%のBSAを含有するPBSで遮断した。上清をプレートに加え、室温で2時間インキュベーションした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートしたヤギ抗マウスFcを加えて、抗原と結合したマウス抗体と結合させた。その後、テトラメチルベンジジンをHRPの基質として加えて、上清中に存在するマウス抗体の量を検出した。反応を停止させ、450nmでの吸光度を読み取ることによって抗体の相対量を定量した。マウスまたはヒトPCSK9のどちらかと結合することができる抗体を分泌したハイブリドーマクローンを、さらなる分析のために選択した。
【0220】
Huh7細胞におけるPCSK9に媒介されるLDLRダウンレギュレーション:
ヒトまたはマウスPCSK9結合抗体を分泌するハイブリドーマクローンを拡大し、上清を収集した。タンパク質Aビーズを用いて全IgGを約10mlの上清から精製し、PBS緩衝液中で透析し、最終体積を低下させて、0.7〜1mg/mlの抗体を有する溶液が得られた。その後、精製した抗体を用いて、Huh7細胞においてLDLRのダウンレギュレーションを媒介するPCSK9の能力を阻害する、その能力について試験した。Huh7細胞をプレートし、10%のFBS、4mMのグルタミン、ならびにペニシリンおよびストレプトアビジンを含有するRPMI培地中、96ウェルプレート中で80%コンフルエントまで成長させた。培地を10%の脱脂FBSを含有するものに8〜16時間変えて、LDLRの発現を誘導した。その後、6μg/mlのヒト(好ましくは)またはマウスPCSK9を添加した40μl/ウェルの293発現培地を用いて、70〜100μg/mlの試験抗体を用いてまたは用いずに、細胞を8〜16時間インキュベーションした。インキュベーションの終わりにPCSK9および抗体を含有する培地を除去し、17μlの溶解緩衝液と共に4Cで1時間振盪することによって細胞を溶解した。溶解緩衝液は、50mMのリン酸グリセロール、10mMのHEPES、pH7.4、1%のTriton X−100、20mMのNaCl、およびプロテアーゼ阻害剤のカクテル(Roche)からなっていた。細胞溶解液を収集し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のウエスタンブロットの染色によって、LDLRタンパク質レベルについて分析した。LDLRレベルを部分的にまたは完全に救出することができる抗体を産生するハイブリドーマクローンを、さらなる分析のために選択した。「LDLRダウンレギュレーションアッセイ」とは、Huh7細胞を用いた上記アッセイを意味する。
【0221】
図1は、培養Huh7細胞においてLDLRをダウンレギュレーションするヒトおよびマウスPCSK9の能力に対する、抗PCSK9拮抗性モノクローナル抗体7D4.4、4A5.G3、6F6.G10.3および5A10.B8の効果を例示する。100nMのマウスまたはヒト組換えPCSK9、および25〜800nMの抗体の段階希釈液を使用した。A)マウスPCSK9.B)ヒトPCSK9。図は、抗体が一般にマウスPCSK9よりもヒトPCSk9の機能の遮断に有効であることを示すウエスタンブロットである。いくつかの抗体は、一般にヒトPCSK9に対して類似の親和性を有するが、ネズミPCSK9に対するその親和性が異なる。
【0222】
(実施例2)
抗体の結合親和性の決定
PCSK9に対するPCSK9抗体の親和性を、研究グレードのセンサーチップを備えた表面プラズモン共鳴Biacore3000バイオセンサー上で、HBS−EPランニング緩衝液(Biacore AB、Uppsala、スウェーデン、現在はGE Healthcare)を用いて測定した。標準のN−ヒドロキシスクシンイミド/エチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド(NHS/EDC)化学を用いて、ウサギポリクローナル抗Ms IgGを飽和レベルでチップ上にアミンカップリングさせた。緩衝液をHBS−EP+1mg/mLのBSA+1mg/mLのCM−デキストランに交換した。完全長PCSK9 IgGを約15μg/mLまで希釈し、約500RU/フローセルのレベルを得るために1分間、5μL/分で補足し、1つを参照チャネルとしてブランクとして残した。3.73〜302nMのhPCSK9または2.54〜206nMのmPCSK9を、5つのメンバーの3倍シリーズとして、1分間、100μL/分で注入した。解離を5分間監視した。それぞれの力価の最後の注入後に、100mMのリン酸を用いた2回の30秒間のパルスでチップを再生した。緩衝液サイクルによりデータを二重参照するためのブランクが提供され、その後、Biaevaluationソフトウェアv.4.1を用いたこれを単純結合モデルに包括的に当てはめた。親和性は動力学的速度定数(K=koff/kon)の指数から演繹した。実施例2の結果を表4に示す。これらのデータは、抗体が示したようにネズミPCSK9またはヒトPCSK9に対して優れた親和性を有することを示す。
【0223】
【表4】

【0224】
(実施例3)
PCSK9−LDLRの相互作用に対するPCSK9抗体の効果の分析
PCSK9は、中性pH下において180nMの親和性でLDLRと結合することが示されている(Cunninghamら、2007、Nat Struct Mol Biol、14(5):413〜9)。Pierce試薬を用いて、製造の指示に従って、組換えマウスまたはヒトPCSK9タンパク質をビオチン標識した。ELISAプレート(Corning Mixisorb)をそれぞれのウェル中で1μg/mlの組換えLDLR細胞外ドメイン(R&D Systems)の溶液を用いて4Cで終夜コーティングし、2%のBSA+PBSを用いて2時間、室温で遮断し、その後、洗浄緩衝液(1×PBS+0.05%のTween−20)で5回洗浄した。ウェルを、50μlの示した濃度のビオチン標識したPCSK9タンパク質と共に1時間、室温でインキュベーションした。LDLR−PCSK9の結合は、50μlの4%のFDH+4%のスクロース+PBS溶液を加えることによって安定化することができ、5分間インキュベーションした。ウェルを洗浄緩衝液5回洗浄し、1:2000の希釈率のHRPとコンジュゲートしたStrepavidin(Invitrogen)と共に1時間、室温でインキュベーションし、洗浄緩衝液で5回洗浄した。TMB基質をウェルに加え、溶液を20〜30分間、室温でインキュベーションし、1Mのリン酸を用いて反応を停止させた。シグナルを450nmで読み取った。
【0225】
図2は、組換えのビオチン標識したヒトPCSK9およびマウスPCSK9と固定した組換えLDLR細胞外ドメインとのin vitroでの結合を遮断することに対する、抗PCSK9拮抗モノクローナル抗体6F6.G10.3、7D4.4、4A5.G3、5A10.B8、陰性対照抗体42H7、およびPBSの用量応答を例示する。パートA)は、ヒトLDLR細胞外ドメインとのヒトPCSK9結合、ならびに7D4、4A5、5A10、および6F6が結合の遮断に有効である一方で、42H7およびPBSは有効でないことを示す。パートB)は、ヒトLDLR細胞外ドメインとのマウスPCSK9結合を示す。
【0226】
また、相互作用は、中性pHでの遊離溶液中でも評価することができる。図3は、組換えのビオチン標識したヒトPCSK9(30nM)とユーロピウム標識した組換えLDLR細胞外ドメイン(10nM)との、溶液中、中性pH、in vitroでの結合を遮断することに対する、抗PCSK9モノクローナル拮抗抗体6F6.G10.3、7D4.4、4A5.G3および5A10.B8の用量応答を例示する。このアッセイでは、中性pHでの遊離溶液中の結合を測定する。
【0227】
(実施例4)
L1L3:PCSK9の複合体の結晶構造、Biacore、および突然変異誘発を用いた、抗体のエピトープマッピング/結合
a.L1L3:PCSK9の複合体の結晶構造。残基は、L1L3:PCSK9の結晶構造およびPCSK9構造単独の間の接近可能な表面積の差を計算することによって同定する。L1L3抗体との複合体の形成時に埋もれた表面積を示すPCSK9残基は、エピトープの一部として含まれる。タンパク質の溶媒接近可能表面は、それがタンパク質のファンデルワールス表面上を転がる際のプローブ球(1.4Åの半径の溶媒分子を表す)の中心の位置として定義される。溶媒接近可能表面積は、プログラムAREAIMOLによって実行して、それぞれの原子の周りの拡張球上に表面点を作成し(原子とプローブ半径の和に等しい原子中心からの距離で)、隣接原子と会合した等価な球内にあるものを排除することによって計算する(Briggs,P.J.、2000、CCP4 Newsletter、第38号、CCLRC、Daresbury)。
【0228】
結晶構造分析の結果を図23に示す。図23Aは、L1L3抗体(黒色画像の表示)と結合したPCSK9(薄灰色表面の表示)の結晶構造を示す。L1L3とPCSK9との結合のエピトープは、PCSK9アミノ酸配列(配列番号53)の残基153〜155、194、197、237〜239、367、369、374〜379および381を含む。比較として、LDLR EGFドメインとPCSK9との結合のエピトープは、残基153〜155、194、238、367、369、372、374〜375、および377〜381を含む(Kwonら、2008、PNAS、105:1820〜1825)。
【0229】
b.PCSK9結合における競合に基づいた抗体およびエピトープの群。標準のEDC/NHS媒介アミンカップリング化学を用いて、完全長IgGをCM5センサーチップ(3個/チップ、最終約7000RU)上にアミンカップリングさせた。参照チャネルを提供するために1個のフローセルを改変せずに残した。ヒト−PCSK9(100nM)をIgGのアレイ(最終500nM)と事前に混合し、これらの複合体を、10μL/分で1分間の注入を用いてチップ上に注入した。競合エピトープと結合する抗体は、PCSK9とチップ上に固定した抗体との結合を遮断する。あるいは、最初にヒト−PCSK9を50nMで1分間、10μL/分で注入し(チップ上のIgGを介してそれを係留するため)、その後、IgGのアレイ(それぞれ最終500nM)とそれぞれ2分間結合させることによって、伝統的なサンドイッチ手法を使用した。固定したIgGを弱酸(Pierce穏やかな溶出緩衝液+1MのNaCl)で再生した。既知の様々なエピトープに対する抗体を、このアッセイにおける陽性サンドイッチ形成の対照として使用した。
【0230】
c.抗体結合エピトープをマッピングするための構造に導かれた突然変異誘発。LDLR結合におけるPCSK9の結晶構造およびD374の可能性に基づいて(Cunninghamら、2007、Nat Struct Mol Biol、14(5):413〜419)、D374の位置から近いまたは遠い、19個のPCSK9表面残基突然変異体(F379A、I369A、R194A、D374Y、D238R、T377R、K222A、R199A、F216A、R218A、R237A、D192R、D367R、R165A、R167A、A443T、A53V、I474V、H449A)を突然変異のために選択して、抗体結合エピトープをマッピングした。
【0231】
d.突然変異体および抗体産生。標準のDNA技術を用いて、19個の単一点突然変異体を以前に記載した野生型DNA構築体から作製した(Cunninghamら、2007、上記)。HEK293T細胞への一過性トランスフェクションを用いて突然変異タンパク質を発現させ、細胞培地中に分泌させた。突然変異タンパク質は、以前に記載したものと類似の条件を使用して、高スループットAKTA Xpressシステム(GE Healthcare)を用いて、Ni2+およびサイズ排除クロマトグラフィーステップによって精製した。タンパク質濃度はLabChip機器(Bio−Rad)を用いて決定した。HEK293F細胞への一過性トランスフェクションを用いて、PCSK9を遮断するネズミ抗体4A5、7D4、5A10および6F6を発現させ、タンパク質Gカラムを用いた0.1Mのグリシン緩衝液、pH2.8での溶出によって精製し、1.0Mのトリス、pH9.0で中和した。
【0232】
e.モノクローナル抗体5A10および7D4(調製は本明細書中以下に記載)によって接触されるPCSK9の領域は、タンパク質断層撮影(Sidec AB、Stockholm、スウェーデン)によって決定した。PCSK9の位置186〜200、371〜379、176〜181、278〜283、449〜453、402〜406、および236〜245のループは、抗体のアミノ酸残基に近位であった。ループに対応する配列を表5に示し、好ましい実施形態では、本発明の拮抗薬はPSCK9中のこれらの配列のうちの1つまたは複数と結合する。
【0233】
【表5】

【0234】
f.突然変異体と固定したLDLRとのBiacore結合。組換えLDLR細胞外ドメインタンパク質をBiacore SAチップ上に固定した。それぞれの突然変異タンパク質は、Biacore−3000M)に、2つ組で、25mM〜0.012mMの5つの濃度で注入した(1℃から、50mMのトリス、pH7.5、2mMのCaCl、200mMのNaCl、0.02%のP20および1mg/mlのBSAのランニング緩衝液を用いた。すべての結果は、1:1の結合動力学的モデルに良好に当てはまった。予測どおり、EGF−Aドメインと直接接触する残基での突然変異(F379A、R194A、I369A、T377R、D238R)は、LDLR結合を顕著に弱める(10〜100倍)。さらに、EGF−Aと接触していない3つの突然変異体(R199A、R218A、K222A)はより弱い結合を示した(5〜15倍)。この新しい発見は、これらがLDLRの他のドメインの結合に関与していることを示唆している。全体的に、これらの実験により、続くエピトープマッピング実験のための突然変異体の完全性および活性が確証された。
【0235】
g.突然変異体と固定した4A5、7D4、5A10および6F6抗体との結合。標準の方法を用いてビオチン標識した抗PCSK9抗体をSAチップ上に固定した。突然変異体結合実験は、Biacore3000を用いて、25℃で、50mMのトリス−HCl、pH7.5、150mMのNaClおよび0.02%のP20のランニング緩衝液を用いて行った。突然変異体は333nMまたは111nMの濃度で、2つ組で試験し、野生型と比較して弱まった結合を与えるものを、mAb結合に関与する残基とした(以下に記載)。
mAb 突然変異体効果の降順の結合残基
4A5 R237、F379、369、R194、R199およびD238
5A10 R194、R237、I369、D238、R199
6F6 R237、R194、F379、D238、I369、T377、R199
7D4 R237、R194、F379、I369、R199
【0236】
(実施例5)
抗体のクローニングおよび配列決定
QIAshredderスピンカラムを用いて百万個のハイブリドーマ細胞をホモジナイズし、QIAGENのRNAeasy Microキットに従って全RNAを抽出した。InvitrogenのSuperScript III RTキットを用いてcDNAを合成した。PCSK9抗体からの可変領域を、マウスIgG重鎖遺伝子およびマウスカッパまたはラムダ軽鎖をクローニングするために縮重プライマーからなる、NovagenのマウスIgG−プライマー組を用いてクローニングした。PCRサイクル条件は以下のとおりである:92Cで2分間を1サイクル、94Cで30秒間、44Cで30秒間および72Cで2分間を2サイクル、94Cで30秒間、46Cで30秒間および72Cで2分間を2サイクル、94Cで30秒間、48Cで30秒間および72Cで2分間を2サイクル、94Cで30秒間、50Cで30秒間および72Cで2分間を2サイクル、94Cで30秒間、52Cで30秒間および72Cで2分間を2サイクル、続いて、94Cで30秒間、54Cで30秒間および72Cで45秒間を35サイクル。生じたPCR産物をInvitrogenからのTopo−TAクローニングベクター内にクローニングし、配列決定した。クローニングした抗体配列は、腹水から産生させた元の抗体の最初の10個のアミノ酸のN末端配列決定によって確認された。
【0237】
(実施例6)
免疫化のための抗原の作製
組換えヒトPCSK9タンパク質を報告されているように産生したCunninghamら、2007、Nat Struct Mol Biol、14(5):413〜9。組換えマウスPCSK9タンパク質を産生するために、当分野で知られている方法によって、C末端に6−Hisタグを付加してマウスPCSK9のcDNAを哺乳動物発現ベクターPRK5内にクローニングし、一過性にトランスフェクトし、HEK293細胞中で発現させた。Niカラムを用いて組換えタンパク質を馴化培地から精製した。
【0238】
ヒトおよびマウスPCSK9の表面ペプチドはPCSK9タンパク質構造に基づいて選択し、Elim Biopharmaceuticalsによって合成された。
【0239】
(実施例7)
PCSK9拮抗薬としてのPCSK9に特異的な抗体
1.PCSK9に特異的な拮抗抗体の同定
a.PCSK9を遮断する抗体の同定
ヒトおよび/またはマウスPCSK9に対するネズミ抗体は、マウスを実施例6で調製したヒト−PCSK9およびマウス−PCSK9合成ペプチドまたは組換えタンパク質で免疫化し、実施例1に記載したヒトおよび/またはマウスPCSK9組換えタンパク質を抗原として用いたELISAアッセイならびに他の標準のハイブリドーマ手順によって抗体をスクリーニングすることによって、産生した。500個を超える陽性クローンが得られ、6ウェルプレート中、10mlの培地を用いてコンフルエントまで成長させた。培地上清を収集し、mAb Select(Pierce)を用いて馴化培地中の全IgGを精製した。マウスおよびヒトPCSK9の機能を阻害する精製および濃縮したマウスIgGの能力を、Huh7細胞において実施例1に記載の方法を用いて試験した。ある程度の遮断を示したIgGを発現するハイブリドーマクローンを拡大し、再試験した。60個の有望なクローンをサブクローニングし、拡大し、Balb/cまたはヌードマウスのどちらかに注射して腹水を産生させた。腹水から精製した抗体を、Huh7細胞においてヒトまたはマウスPCSK9によってLDLRのダウンレギュレーションを阻害するその能力について再試験した。4個のハイブリドーマクローン、4A5、5A10、6F6、および7D4が、ヒトPCSK9の機能を完全に阻害する、およびマウスPCSK9の機能を少なくとも部分的に阻害することができると同定された。これらの遮断抗体のそれぞれのIC50を決定するために、100μg/mlから開始して3.125μg/mlまでのIgGの段階希釈液をアッセイで使用し、ヒトおよびマウスPCSK9の濃度は6μg/mlの一定とした。
【0240】
b.PCSK9−LDLRの結合に対するPCSK9拮抗薬の効果
PCSK9は、LDLRと共に細胞区画中に同時局在化することが示されている(Lagaceら、2006、J Clin Inv、116(11):2995〜3005。また、組換えPCSK9タンパク質はin vitroでLDLR細胞外ドメインとも結合する(Fisherら、2007、JBC、282(28):20502〜12。PCSK9に媒介されるLDLRのダウンレギュレーションの阻害と抗体によるPCSK9−LDLRの結合の阻害との関係性を決定するために、LDLRに対するPCSK9の機能を部分的にまたは完全に遮断したPCSK9抗体および遮断しない抗体の代表例を試験した。また、1つ以外のすべての部分拮抗抗体は、LDLR細胞外ドメインとPCSK9との結合も部分的に阻害した。PCSK9の機能を完全に遮断することができる拮抗抗体、すなわち4A5、5A10、6F6および7D4は、LDLR細胞外ドメインとPCSK9との結合も完全に阻害した(表5)。これら4つの抗体のIC50値はPCSK9に対するその結合親和性に相関している。
【0241】
c.遮断抗体のエピトープの決定
図4は、抗PCSK9抗体のエピトープビニング(binning)を例示する。パートA)は、Biacoreによる合成13〜18量体ペプチドまたはエピトープ結合との結合によって決定した、抗PCSK9 mAbのエピトープ情報を示す。パートB)は、Biacoreアッセイによる、y軸に示したmAbと事前に混合したヒトPCSK9と結合する、固定した抗体6F6、5A10および4A5の能力を示す。
【0242】
6G7と呼ばれる別のモノクローナル抗PCSK9抗体は、組換えマウスPCSK9と結合するがヒトPCSK9とは結合しない。表6を参照されたい。6G7、4A5、5A10、6F6、および7D4は、マウスPCSK9との互いの結合を相互に排除する。マウスおよびヒトPCSK9の間のキメラ分析により、6G7とPCSK9との結合には触媒ドメインが必要であることが明らかとなっている。表6を参照されたい。したがって、4A5、5A10、6F6、および7D4の結合部位は、触媒部位および/または6G7によって結合されるエピトープと重複する。
【0243】
【表6】

【0244】
d.抗PCSK9抗体の配列種特異性の決定
抗PCSK9抗体の種特異性を決定するために、抗体を様々な種に由来する血漿と共にインキュベーションし、生じた複合体を精製し、ウエスタンブロット上の独立した抗PCSK9抗体によってプロービングした。抗体4A5、5A10、6F6、および7D4はヒト、カニクイザル、マウス、およびラットのPCSK9を認識した。図5を参照されたい。抗体6G7はネズミPCSK9のみを認識し、非関連の対照抗体42H7は試験したどのPCSK9も認識しなかった。同上。
【0245】
e.拮抗PCSK9抗体の配列の決定
実施例5に記載の方法を用いてPCSK9抗体4A5、5A10、6F6、および7D4の可変ドメインのアミノ酸配列を決定した。配列は、抗体は関連しているが、互いに異なることを示す。表1は、それぞれの抗体の可変領域のアミノ酸配列を示す。表7は、カバットおよびコチア(Chotia)の方法によって同定した、表1の軽鎖および重鎖のCDR配列を示す。
【0246】
【表7】

【0247】
抗PCSK9 IgG 4A5、5A10および6F6をBiacoreチップとアミンカップリングさせた。hPCSK9(100nM)を500nMの4A5、5A10、6F6または7D4と様々な比で混合し、1分間、10μl/分で注入した。4つの抗体は、試験したアッセイ配向とは関係なく互いを相互遮断し、これは、これらがすべて競合エピトープと結合することを示唆している。対照的に、これらは、合成ペプチドを用いて特定の領域にマッピングされた他の完全に遮断しない抗体とサンドイッチ複合体を形成することができる。
【0248】
2.in vivoのPCSK9拮抗薬としてのPCSK9特異的抗体の効果
a.PCSK9拮抗抗体はマウスにおいて血清コレステロールを下降させる
PCSK9拮抗モノクローナル抗体が細胞外PCSK9の機能を阻害することによってin vivoでコレステロールレベルに影響を与えることができるかどうかを決定するために、7D4の効果を、in vitroでマウスPCSK9に対して、マウス内に注射した場合の血清コレステロールにおいて試験した。6〜7週齢の雄のC57/bl6マウスを12時間の明/暗サイクルで保ち、−7日目に出血させて約70μlの血清を収集した。拮抗PCSK9抗体7D4、およびモノクローナル抗体に一致する対照アイソタイプを、雄の7週齢のC57/bl6マウスに、腹腔内注射によって0、1、2、および3日目に注射した。マウスを絶食させずに4日目に屠殺し、血清試料を収集した。すべての凍結血清試料を総コレステロール、トリグリセリド、HDLコレステロールおよびLDLコレステロールの測定のためにIDEXX laboratoriesに送った。図6は、7D4は血清コレステロールを48%下げた一方で、対照抗体は有意な影響を全く与えなかったことを示す。量および低下のパーセンテージはどちらもPCSK9−/−マウス(PCSK9ノックアウトマウス)で報告されていたものに類似しており、これは、細胞外PCSK9のみを遮断することでPCSK9の機能の完全またはほぼ完全な阻害を達成することができ、細胞内PCSK9は正常な生理的条件下におけるLDLRのダウンレギュレーションにわずかな役割しか果たさないまたは役割を果たさないことを示唆している。予測どおり、対照抗体で処置したものと比較して、7D4で処置した動物では肝臓LDLRレベルが誘導されていた(図6)。
【0249】
b.部分的遮断抗体は血中コレステロールレベルに影響を与えなかった
図7は、部分拮抗薬ポリクローナル抗PCSK9 mAb CRN6がマウスにおいてコレステロールレベルに影響を与えないことを例示する。−7日目に2つの群の8週齢のC57/bl6マウス(n=10匹のマウス/群)を出血させ、コレステロールレベルについて試験し、0、1、2および3日目に15mg/kg/日のCRN6または対照抗体を静脈内投与によって投与し、その後、出血させ、最終用量の24時間後にコレステロールレベルについて試験した。図7Aは、CRN6抗体がHuh7細胞においてPCSK9に媒介されるLDLRのダウンレギュレーションをin vitroで部分的に遮断することを示す。図7Bは、CRN6抗体の投与がマウスにおいて血清コレステロールレベルに影響を与えないことを示す。
【0250】
c.マウスにおける拮抗PCSK9 mAbによる血清コレステロールに対する持続した効果。
マウスにおけるPCSK9拮抗抗体のコレステロール下降効果の発生時および持続期間を決定するために時間経過研究を行った。mAb 7D4または生理食塩水対照をそれぞれ48匹の6週齢のC57/bl6マウスに10mg/kgまたは3ml/kgで静脈内注射した。それぞれの処置群からの8匹のマウスを注射後の1、2、4、7、14および21日目に屠殺した。7D4の単一の注射により、血清コレステロールに対する急速かつ持続した下降効果が生じた。血清コレステロールの25%の低下が注射後24時間で見られた。図8を参照されたい。血清コレステロールの最大降下が7日の時点で観察された。21日で、コレステロールの低下が統計的に有意でなくなった。パートB)はHDLコレステロールを示す。LDLコレステロールレベルは非常に低かった。
【0251】
図9は、抗PCSK9拮抗mAb 7D4がマウスにおいて血清総コレステロール、HDL、およびLDLを用量依存的に低下させることを例示する。6つの群の8週齢のC57/bl6マウス(n=8匹/群)を出血させ、−7日目に基底コレステロールレベルについて試験し、0、1、2、および3日目に腹腔内ボーラス注射によって示した用量の抗体または生理食塩水を投与した。血清試料を収集し、最後の用量の24時間後にコレステロールレベルについて試験した。図9Aは、3〜30mg/kg/日を投与した後に対照の60%未満まで減少した総コレステロールレベルを示す。総コレステロールに対する最大効果は10mg/kgで見られ、統計的に有意な低下は1mg/kgで見られた。図9Bは、3〜30mg/kg/日を投与した後に70%未満まで減少したHDLレベルを示す。図9Cは、0.3mg/kg/日以上の試験した用量のすべてにおいてほぼ0まで減少したLDLレベルを示す。
【0252】
d.マウスにおけるPCSK9に特異的な拮抗抗体の用量応答
図10は、抗PCSK9拮抗抗体5A10がマウスにおいてコレステロールレベルを用量依存的に下げることを例示する。図10Aは、示した用量の抗体または生理食塩水を0、1、2、および3日目に1日1回静脈内ボーラス注射によって投与した、6つの群の8週齢のC57/bl6マウス(n=8匹/群)を示す。血清試料を収集し、最後の用量の24時間後にコレステロールレベルについて試験し、漸増する用量の抗体に伴った漸進的な減少が示された。図10Bは、示した用量の抗体または生理食塩水を0日目に腹腔内ボーラス注射によって投与した、5つの群の8週齢のC57/bl6マウス(n=8匹/群)を示す。血清試料を収集し、7日目にコレステロールレベルについて試験し、やはり漸増する用量の抗体に伴った漸進的な減少が示された。
【0253】
図11は、抗PCSK9拮抗抗体4A5および6F6がマウスにおいてコレステロールレベルを用量依存的な様式で下降させることを例示する。8週齢のC57/bl6マウス(n=8匹/群)に、示した用量の抗体または生理食塩水を0日目に腹腔内ボーラス注射によって投与した。血清試料を収集し、7日目にコレステロールレベルについて試験した。図11Aでは、抗体4A5は漸増する用量の抗体に伴った総血清コレステロールの漸進的な減少を示した。図11Bでは、抗体6F6は10mg/kg/日で総血清コレステロールの減少を示した。
【0254】
抗PCSK9拮抗抗体4A5、5A10、6F6および7D4はマウスにおいて肝臓LDLRレベルを増加させ、これはウエスタンブロット分析によって判明した。図12を参照されたい。4A5、5A10および6F6では、8週齢のC57/bl6マウスに、10mg/kgの抗体または生理食塩水を0日目に静脈内ボーラス注射によって投与し、動物を7日目に屠殺し、3匹の個々の動物の全肝臓溶解物をウエスタンによってLDLRおよびGAPDHタンパク質レベルについて分析した。7D4では、8週齢のBl6/c57マウスに、10mg/kgの抗体を0、1、2、および3日目に腹腔内ボーラス注射によって投与し、動物を4日目に屠殺し、3匹の個々の動物の全肝臓溶解物をウエスタンブロットによってLDLRおよびGAPDHタンパク質レベルについて分析した。すべての抗体で処置したマウスはPBS対照マウスと比較して高レベルのLDLRを示した。
【0255】
図13は、抗PCSK9拮抗抗体がLDLR−/−マウスにおいて効果を有さなかったことを例示する。8週齢のLDLR−/−マウス(LDLR KOマウス)に、10mg/kgの4A5または生理食塩水を0日目に腹腔内ボーラス注射によって投与した。血清試料(n=9〜10匹のマウスから)を収集し、7日目にコレステロールレベルについて試験した。抗体の投与は、総血清コレステロール、HDL、またはLDLのレベルを感知できるほどに変更しなかった。
【0256】
図14は、マウスにおける抗PCSK9拮抗抗体の複数の処置が総血清コレステロールを実質的に減少させることができることを例示する。8週齢のC57/bl6マウスに、示した用量の抗体またはPBSを0、7、14および21日目に静脈内ボーラス注射によって投与した。血清試料(n=5〜11匹のマウス)を収集し、28日目にコレステロールレベルについて試験した。
【0257】
(実施例8)
PCSK9拮抗抗体が非ヒト霊長類において血清LDLを下降させる
PCSK9に対する抗体のin vivo効果を試験するために、抗体7D4をカニクイザルにおいて試験した。4匹の3〜4歳のカニクイザルに、ビヒクル(PBS+0.01%のTween20)を0日目に、および10mg/kgの7D4を7日目に注射した。血漿脂質プロフィールを、終夜の絶食後に0、2、7、9、11、14、21および28日目に分析した。10mg/kgの7D4の単一の注射により、4匹の動物すべてにおいて血漿LDL(60%)(図15A)およびLDL粒子数(図15D)の劇的な低下が生じた一方で、そのHDLレベル(図15B)およびHDL粒子数(図15E)には最小限の影響しか与えられなかった。総コレステロール(図15C)も7D4の処置後に低下した一方で、トリグリセリドレベル(図15F)には有意な影響が与えられなかった。全7D4(G)および全PCSK9レベル(H)も測定した。
【0258】
図16は、カニクイザルにおける血清コレステロールレベルに対する抗PCSK9抗体7D4の用量応答を例示する。それぞれの群中の3〜5歳の2匹の雄および2匹の雌のカニクイザルに、示した用量の7D4を7日目に、および同体積の生理食塩水を0日目に、静脈内ボーラス注射によって与えた。血漿試料を示した時点で採取し、血漿LDLレベルを測定した。
【0259】
図17は、カニクイザルにおける血清コレステロールレベルに対する抗PCSK9抗体4A5、5A10、6F6および7D4の比較を例示する。それぞれの群中の3〜6歳の2匹の雄および2匹の雌のカニクイザルに、1mg/kgの示した抗体を0日目に静脈内ボーラス注射によって与えた。血漿試料を示した時点で採取し、血漿LDLレベルを測定し、−2日目のものに対して正規化した。
【0260】
図18は、0.1%のコレステロールを添加した33.4%kcalの脂肪食を与えたカニクイザルの血漿コレステロールレベルに対する抗PCSK9拮抗抗体7D4の効果を例示する。6匹の3〜5歳のカニクイザルに、16週間の間、高脂肪食を与えた。示した日に、3匹のサルを10mg/kgの7D4で処置し、3匹を生理食塩水で処置した。個々のサルのLDLレベルを測定し、処置の日のものに対して正規化した。
【0261】
(実施例9)
ヒト化抗PCSK9抗体
ネズミモノクローナル抗体5A10をヒト化および親和性成熟してL1L3抗体をもたらした。L1L3は、Biacoreによって測定した場合に、ネズミPCSK9に対する親和性が200pMであり、ヒトPCSK9に対する親和性が100pMである。L1L3は、100nMのヒトまたはネズミPCSK9抗体と共にインキュベーションした場合に、培養Huh7細胞においてLDLRのPCSK9に媒介されるダウンレギュレーションを完全に阻害する。図19を参照されたい。
【0262】
図20は、組換えのビオチン標識したヒトPCSK9およびマウスPCSK9と固定した組換えLDLR細胞外ドメインとのin vitroでの結合を遮断することに対する、L1L3、マウス前駆体5A10、および陰性対照抗体42H7の用量応答を例示する。図20Aは、pH7.5でのヒトPCSK9とヒトLDLR細胞外ドメインとの結合を示す。図20Bは、pH5.3でのヒトPCSK9とヒトLDLR細胞外ドメインとの結合を示す。図20Cは、pH7.5でのマウスPCSK9とヒトLDLR細胞外ドメインとの結合を示す。図20Dは、pH5.3でのマウスPCSK9とヒトLDLR細胞外ドメインとの結合を示す。
【0263】
図21は、マウスにおける10mg/kgのL1L3を用いた処置の血清コレステロールに対する効果を示す。2つの群(n=8匹/群)の8週齢のC57/bl6マウスに、10mg/kgのL1L3または同体積の生理食塩水を腹腔内注射によって0日目に投与した。血清試料を収集し、2、4および7日目にコレステロールレベルについてアッセイした。L1L3は、2および4日目に総血清コレステロールを約40%減少させた。別の研究では、10mg/kgのL1L3を単一の腹腔内(IP)用量として正常食を給餌したC57BL/6マウス(n=10)に投与した場合、血清コレステロールレベルは、生理食塩水で処置した対照と比較して、処置の4日後に47%低下した。正常食を給餌した雄のスプラーグ−ドーリーラットにおける用量応答実験においてL1L3を単一の腹腔内用量として0、0.1、1、10および80mg/kg(n=6匹/群)で投与した場合、血清コレステロールレベルは用量依存的に低下し、投薬の48時間後に50%という最大効果が10および80mg/kgで見られた。コレステロールの抑圧の持続期間も用量依存的であり、1〜21日間の範囲であった。
【0264】
L1L3完全ヒト化重鎖のアミノ酸配列(配列番号15)を表8に示す。可変領域の配列に下線を引いた(配列番号54)。
【0265】
【表8】

【0266】
L1L3完全ヒト化軽鎖のアミノ酸配列(配列番号14)を表9に示す。可変領域に下線を引いた(配列番号53)。
【0267】
【表9】

【0268】
図22は、4匹のカニクイザルのそれぞれに0日目に有効用量(3mg/kg)の抗体5A10(中実丸)または抗体L1L3(中実四角)を静脈内投与した効果を示す。血清HDL(図22A)および血清LDL(図22B)の変化を−2日から+28日まで測定した。どちらの抗体も約7日までに約70%を超える血清LDLレベルの減少をもたらし、この効果は、L1L3を投与した動物においてさらに約6日間実質的に持続した。すべての動物は正常な肝臓および腎臓機能ならびにほぼ正常なヘマトクリットを示した。
【0269】
L1L3はLDL−Cを用量依存的に低下させ、最大効果は10mg/kgの群で観察され、投薬後の21日目まで70%のLDL−Cレベルの低下が維持され、31日目までに完全に回復した。すべての用量群において、HDL−CレベルはL1L3の処置によって影響を受けなかった。また、3mg/kgの用量群の動物(n=4)には、研究日42および56日目(2週間間隔)に2回の3mg/kgのL1L3の追加の静脈内用量も与えた。これらの2回の追加の用量はLDL−Cを再度下降させ、4週間の間LDL−Cレベルを50%未満に保った。LDL−Cレベルは2週間後に正常に戻った。血清HDL−Cレベルは研究全体にわたって変化しないままであった。
【0270】
高コレステロール血症に罹患している非ヒト霊長類におけるL1L3の有効性およびL1L3とスタチンを阻害するHMG−CoAレダクターゼとの間の薬力学的な相互作用を調査した。研究を開始する前に、35%の脂肪(重量/重量)および600ppmのコレステロールを含有する食餌を18カ月にわたって給餌することによって、カニクイザルのコホート(n=12)のLDL−Cレベルを正常な平均レベルである50mg/dLと比較して平均120mg/dLまで上昇させた。驚くべきことに、中程度の用量(10mg/動物)のCrestor(登録商標)(ロスバスタチンカルシウム)を6週間、毎日投与し、続いて高用量(20mg/kg)で2週間、毎日投与した後で、血清総コレステロールまたはLDL−Cレベルに対する効果は観察されなかった。3mg/kgのL1L3とCrestor(登録商標)またはビヒクルとの単一投与の2週間の処置により、血清LDL−Cレベルが処置後の5日目までに56%まで有効に下降し、2.5〜3週間の間に徐々に回復したが、HDL−Cレベルには影響が与えられなかった。動物を50mg/kgのZocor(登録商標)(シンバスタチン)の1日1回の投与に変えた後、そのLDL−Cレベルは5日目に43%の最大低下に達し、その後は安定した。50mg/kg/日のZocor(登録商標)を3週間投与した後、これらの動物を、依然として50mg/kg/日のZocor(登録商標)を与えながら単一用量の3mg/kgのL1L3で処置した。L1L3の投与により、5日目までに、Zocor(登録商標)による43%の低下に加えてLDL−Cがさらに65%低下し、2週間以内に投薬前のレベルまで戻った。
【0271】
ヒト化および親和性成熟の過程で特定の特性を達成するために他のCDRアミノ酸置換を5A10に行った。改変したCDRの配列およびこれらの改変されたCDRを含有する抗体のPCSK9結合能力を図24A〜Gに記載する。図24A〜G中のそれぞれの配列の後の数字はその配列の配列番号を表す。
【0272】
本明細書中で引用したすべての参考文献の開示は、本明細書中に参考として組み込まれている。
【受託番号】
【0273】
ATCC PTA−8986
ATCC PTA−8985
ATCC PTA−8984
ATCC PTA−8983

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCSK9と特異的に結合し、本明細書中に開示したHuh7細胞におけるLDLRダウンレギュレーションアッセイを用いてin vitroで測定した場合の、LDLRレベルに対するPCSK9に媒介される効果の完全拮抗薬である、単離した抗PCSK9抗体。


【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24−1】
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【図24−2】
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【図24−3】
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【図24−4】
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【図24−5】
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【図24−6】
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【図24−7】
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【公開番号】特開2013−78312(P2013−78312A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232726(P2012−232726)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2011−283073(P2011−283073)の分割
【原出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(505129415)ライナット ニューロサイエンス コーポレイション (33)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【Fターム(参考)】