説明

PCV−2ワクチン

本発明は、ブタサーコウイルス2型(PCV−2)感染に対して子ブタを防御するための、PCV−2に対するワクチン、およびそのようなワクチンの製造方法に関する。ブタサーコウイルス2型(PCV−2)のORF−2タンパク質の少なくとも20マイクログラム/用量を含むワクチンは、子ブタがPCV−2に対する比較的高い力価のMDAを有する場合であっても、PCV−2に対する(したがってPMWSに対する)防御免疫応答を惹起しうることが判明している。本発明のワクチンは組換えORF−2タンパク質を含有することが可能であり、該組換えタンパク質は、好ましくは、昆虫細胞内のバキュロウイルス発現ベクターからの発現により産生され、該バキュロウイルス発現ベクターはPCV−2 ORF−2遺伝子配列を適当なプロモーターの制御下に含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子ブタをブタサーコウイルス感染に対して防御するための、ブタサーコウイルス(PCV−2)に対するワクチンおよびそのようなワクチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCV−2は、若いブタで見られる離乳後多重全身性消耗症候群(post−weaning multisystemic wasting syndrome)(PMWS)に関連していると考えられている。この疾患は1991年にカナダで初めて見出された。その臨床徴候および病理学は1997年に公開されており(Clarkら,Proc.Am.Assoc.Swine.Pract,1997:499−501,Hardingら,Proc.Am.Assoc.Swine.Pract,1997:503)、進行性消耗、呼吸困難、頻呼吸および時には黄疸を含む。Nayarら(Can.Vet.J.Volume 38,June 1997)は、PMWSの臨床症状を有するブタにおいてブタサーコウイルスを検出し、PK−15細胞の天然生息ウイルスとして認識されている公知PCV以外のPCVがPMWSに関連している可能性があると結論づけた。その後の刊行物(Hamelら,J.Virol.,72(6),5262−5267,1998;Meehanら,J.gen.Virol.,79,2171−2179,1998)はこれらの知見を証明しており、新規病原性PCVをPCV−2と命名し、一方、元のPK−15細胞培養分離体(Tischerら,Nature 295,64−66,1982)をPCV−1と呼ぶべきだと提示された(Meehanら,前掲)。PCV−1およびPCV−2は、環状一本鎖DNAゲノムを含有する小さな(17nm)二十面体非包膜ウイルスである。PCV−2ゲノムの長さは約1768bpである。世界の種々の地域に由来するPCV−2分離体は互いに密接に関連しているらしく、95〜99%のヌクレオチド配列同一性を示す(Fenauxら,J.Clin.Micorbiol.,38(7),2494−2503,2000)。PCVのORF−2は該ウイルスの推定カプシドタンパク質をコードしている。PCV2のORF2は233アミノ酸のタンパク質をコードしている。すべてのPCV−2分離体のORF2は91〜100%のヌクレオチド配列同一性および90〜100%の推定アミノ酸配列同一性を共有している。PCV−1とPCV−2とのORF2遺伝子間では、わずか65〜67%のヌクレオチド同一性および63〜68%のアミノ酸配列同一性が存在するに過ぎない(Fenauxら,前掲)。PDNS(ブタ皮膚および腎症症候群)は、PMWSとほぼ同時に現れる、養豚業者にとってのもう1つの大きな問題である。PDNSの特徴は、通常は耳、脇腹、脚および腿における、出血を伴う赤/褐色の環状皮膚病変である。PCV−2関連症候群および疾患の総説はChae.C(2005)Vet.J.169 326−336に記載されている。
【0003】
PMWSおよびPDNSのようなPCV−2関連疾患に対して子ブタを防御するワクチンが必要とされている。しかし、現在のところ、PCV−2関連疾患に対する商業的に入手可能なワクチンは存在しない。伝統的には、不活性化全PCV−2ウイルスに基づくブタ用の通常のワクチンが想定されるであろう。しかし、PCV−2は細胞培養内で高力価までは複製されないため、PCV−2の場合には事態は複雑となる。代替手段として、ワクチンを、PCV−2に由来する組換え抗原に基づいたものとすることが可能であろう。PCV−2タンパク質は種々の発現系において既に発現されている。例えば、Liuら(Protein Expression and Purification,21,115−120(2001))は、MBP Hisタグに連結された、PCV−2のORF−2によりコードされる全タンパク質の融合タンパク質を大腸菌(E.coli)内で発現させている。Kimら(J.Vet.Sci,3(1),19−23,2002)はPCV2のORF1および2をバキュロウイルス発現系内で発現させている。Blanchardら(Vaccine,21,4565−4575,2003)も、昆虫細胞内のバキュロウイルスに基づく系においてORF1およびORF2を発現させている。PCV−2タンパク質を産生した昆虫細胞を細胞溶解し、ワクチンへと製剤化し、それを使用してSPF(specific pathogen free)子ブタにワクチン接種された。初回−追加投与計画において該タンパク質のいずれか1つが該子ブタに投与された。この場合、DNAワクチン接種後にサブユニットワクチンが投与された。あるいはもう1つの子ブタ群において、ORF1およびORF2タンパク質が2回の注射で子ブタに投与された。しかし、すべての実験は、病原体を有さず従ってPCV−2に対する母体由来抗体を有さないSPFブタにおいて行われた。
【0004】
PCV−2により引き起こされるPMWSおよびPDNSは4週齢から約15週齢までに観察されうる。離乳までは子ブタはPCV−2関連疾患に対して全く安全であり、離乳後になって初めて、子ブタは臨床症状を現す可能性を有するようになるらしい。その結果、子ブタをワクチン接種で防御するためには、理想的には、離乳からそれ以降にわたって子ブタが防御されなければならない。なぜなら、PCV−2関連疾患がいつ発症するかは予測できないからである。2回のワクチン接種計画でこれを達成するためには、子ブタが離乳時頃に追加ワクチン接種を受けることが可能となり離乳直後にPCV−2感染に対する完全な防御を獲得していることが可能となるよう、子ブタは1週齢で初回ワクチン接種を受ける必要がある。子ブタはPCV−2に対する母体由来抗体(MDA)を有している可能性がある(本発明のワクチンでの実験に用いた子ブタにおけるMDA力価の分布を実施例に記載する)。しかし、母体由来抗体の存在はワクチン接種を妨げることがよく知られている。子ブタは種々のMDA力価を有しうる。非常に高い受動MDA力価はPCV−2感染に対して子ブタを防御しうる(Merial:‘PCV−2 Diseases:From research back to the field strain”,18th IPVS,Hamburg Germany,June 2004,p.99−101)。しかし、より低いMDA力価を有する子ブタは、相応の齢に達した際(すなわち、離乳後)に、PCV−2感染に対して防御されないであろう。野外において見られる大多数であると思われるそれらの子ブタの場合、MDA力価は、PCV−2感染に対する防御をもたらすには低すぎる一方で、それでも、例えば通常の不活性化PCV−2ワクチンでのワクチン接種を妨げるのに十分な程度に高い可能性がある。なぜなら、特に、該ウイルスは細胞培養内で高力価までは増殖し得ないため、不活性化ワクチンは、より少量の抗原しか含有していない可能性があるからである(あるいはワクチン製造において、複雑で長時間を要する濃縮操作が導入されるべきである)。この群の子ブタに対して特に、本発明のワクチンはPCV−2感染に対する適度な防御をもたらすことが判明している。
【発明の開示】
【0005】
子ブタを(PCV−2に対してMDA陽性である子ブタでさえも)PCV−2による感染に対して防御し、したがって、PCV−2関連疾患(最も注目すべきはPMWSおよびPDNS)に対して防御するための方法において使用されうるワクチンが、本発明により提供される。
【0006】
本発明は、ブタサーコウイルス2型(PCV−2)のORF−2タンパク質の少なくとも20マイクログラム/用量を含むPCV−2に対するワクチンを提供する。PCV−2のORF−2タンパク質の少なくとも20マイクログラム(μg)を1用量当たりに含むワクチンは、MDAの存在下であっても、PCV−2感染に対する(したがってまた、PMWSおよびPDNSのようなPCV−2関連疾患に対する)防御免疫応答を惹起しうることが見出された。好ましくは、該ワクチンは少なくとも50μg/用量、最も好ましくは80μg/用量を含有する。275μg/用量までの抗原質量を含有する本発明のワクチンでさえも製造可能であり、そのようなワクチンであっても、注射部位における局所反応を惹起しなかった。もちろん、より一層多くのマイクログラム量の抗原を本発明のワクチンのワクチン用量に含有させることは可能であるが、該ワクチンで得られる防御がより高い用量で改善されない場合には、抗原負荷の増加は該ワクチンを必要以上に高価なものとするだけである。また、抗原量の増加は最終的に、注射部位に、許容しえない局所反応を招く可能性があり、これは回避すべきである。抗原質量を測定するための方法は本出願の実験の部に記載されている。
【0007】
本発明のワクチンは組換えORF−2タンパク質を含有しうる。この場合、該組換えタンパク質は、好ましくは、昆虫細胞内でのバキュロウイルス発現ベクターからの発現により産生され、該バキュロウイルス発現ベクターはPCV−2 ORF−2遺伝子配列を適当なプロモーターの制御下に含有する。本発明のワクチンの製造方法においては、当技術分野で公知の他の適当な発現系も使用されうるが、バキュロウイルス発現系はウイルス抗原の高収率の製造をもたらし、さらにそれは良好な抗原性を示すことが判明している。したがって、該抗原が、例えばウイルス感染細胞培養内で、高濃度で製造できない場合、バキュロウイルス発現系の使用は該抗原を適当なレベルにまで濃縮するための複雑で長時間を要する操作の必要性を排除する。
【0008】
最も一般に使用されるバキュロ発現ベクターは、SF−9、SF−21またはHigh5昆虫細胞の昆虫細胞培養と共にしばしば使用されるオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)である。SF−9およびSF−21はスポドプテラ・フルジペルダ(Spodoptera frugiperda)の卵巣細胞系であり、High5細胞はトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)の卵細胞に由来する。PCV−ORF−2遺伝子は適当なプロモーターの制御下に配置されるべきである。バキュロウイルス発現系において最も一般に使用されるプロモーターは、多角体遺伝子のためのプロモーターおよびp10遺伝子のためのプロモーターであり、このことは、ORF−2 PCV−2遺伝子配列がバキュロウイルスゲノム内の多角体遺伝子座またはp10遺伝子座における挿入部位に挿入されることを意味する。当技術分野で公知の、同種または異種の他の適当なプロモーターも使用されうる。バキュロウイルス発現系の全態様の詳細な説明はD.R.O’Reilly,L.K.MillerおよびV.A.Luckowによる“Baculovirus Expression vectors”(1992,W.H.Freeman & Co,New York)に記載されている。さらに、バキュロウイルス由来発現ベクターおよび完全発現系が多数の異なる企業から商業的に入手可能である。
【0009】
本発明のワクチンは更に、適当なアジュバントを含みうる。多数のアジュバント系、例えば、一般に使用される水中油型アジュバント系が当技術分野で公知である。アジュバントにおける使用のための当技術分野で公知の任意の適当な油、例えば無機油が使用されうる。油相は、無機性または非無機性のいずれかである異なる油の適当な混合物をも含有しうる。適当なアジュバントは、場合によっては1以上の油と混合された、ビタミンEをも含みうる。水中油型アジュバント化ワクチンの水相は抗原物質を含有する。適当な製剤は通常、油相約25〜60%(水相40〜75%)を含む。適当な製剤の具体例は、水相30%および油相70%、またはそれぞれ50%を含みうる。本発明のワクチンは、当技術分野で公知の任意の適当な経路、例えば筋肉内、皮内または皮下経路により投与されうるが、筋肉内投与が好ましい。
【0010】
本発明は更に、PCV−2 MDA陽性である若い子ブタをPCV−2感染に対して防御することを意図したワクチンの製造方法を提供し、該ワクチンは、ブタサーコウイルス2型(PCV−2)のORF−2タンパク質の少なくとも20μg/用量で与えられる。
【0011】
本発明の(方法により製造された)ワクチンは、PCV−2感染に対して若い子ブタを防御するための方法において使用されうる。本発明のワクチンは、PCV−2に対する母体由来抗体(MDA)に関して陽性である若い子ブタをもPCV−2による感染に対して防御するための方法において使用されうる。本発明のワクチンは、子ブタがPCV−2に対する比較的高い力価のMDAを有する場合でさえも、該子ブタを防御しうることが判明している。欧州全体の種々の飼育場において野外で見られる若い子ブタにおけるMDA力価の分布を表1に示し、本発明のワクチンによりもたらされた防御を表2に示す。本発明のワクチンは、実施例(表2)において定義される「集合2」に含まれるMDA力価を有する子ブタへのPCV−2感染に対する適度な防御をもたらしうることが示されている。この集合に含まれる子ブタは、高いMDA力価である8〜12 log2のMDA力価を有する。したがって、本発明のワクチンは、10 log2または更には12 log2(実施例に示されている方法で測定した場合)までの、PCV−2に対するMDA力価を有する若い子ブタを防御するための方法においても使用されうる。欧州全体にわたる種々の飼育場で集めた子ブタの約55%がこの集合2に含まれることが、表1から認められうる(もちろん、より低いMDA力価を有し該集団の32%を含む集合1に含まれる子ブタも本発明のワクチンにより防御される)。したがって、本発明のワクチンは、高いMDA力価を有する子ブタを含む、野外で見られる子ブタの大多数の防御をもたらすと結論づけられうる。
【0012】
適度な防御を得るためには、該ワクチンは、好ましくは、2回のワクチン接種計画で投与され、第1のワクチン接種(初回ワクチン接種)は、第1〜第4週齢、好ましくは離乳前、例えば第1週齢の子ブタに実施される。第2のワクチン接種(追加ワクチン接種)は約3週間後に実施されうる。このようにして、子ブタがPCV−2感染に対して最も感受性であり従ってPMWSおよびPDNSに対して感受性になる離乳の時点の直後に、子ブタはPCV−2感染に対する完全な防御を獲得することとなる。
【0013】
実施例:
【実施例1】
【0014】
(母体由来)PCV−2特異的抗体価の測定
PCV−2に対する抗体価は以下の方法により測定することが可能である。PK15細胞の単層を96ウェル組織培養プレート上で形成させた。80%コンフルエントになった時点で、該細胞にPCV−2の野外分離体を感染させ、該細胞をCOインキュベーター内で37℃で2日間インキュベートした。この期間の後、該細胞をエタノール中で固定し、使用するまで2〜8℃で保存した。該細胞の約20%が感染した場合に、プレートを試験に使用する。与えられた血清のPCV−2特異的抗体価を測定するために、系列希釈を行い、該エタノール固定細胞上でインキュベートする。37℃で1時間のインキュベーションの後、該プレートを水道水で洗浄し、FITC標識ウサギ抗ブタIgGと共にインキュベートすることにより結合抗体を検出する。与えられた血清の力価は、PCV−2特異的抗体応答が尚も観察されうる最高希釈度の逆数として表される。
【0015】
離乳前の子ブタにおけるPCV−2に対する母体由来抗体価の典型的な分布を表1に示す。
【0016】
血清は、欧州全体にわたる種々の国の232頭の子ブタから集めた。
【0017】
【表1】

【0018】
表1においては、以下の3つの集合が区別されうる:集合1:8未満の力価を有する子ブタ;集合2:8〜12の力価を有する子ブタ;および集合3:13以上の力価を有する子ブタ。集合3においては、母体由来抗体価は、決定的に重要な齢において該子ブタが防御されると予想されるのに十分な程度に高い(Merial:‘PCV−2 Diseases:From research back to the field strain”,18th IPVS,Hamburg Germany,June 2004,p.99−101)。一方、集合1においては、母体由来抗体価は、これらの子ブタのほとんどが容易にワクチン接種されうる程度に低い。しかし、集合2においては、該抗体価は、通常のワクチン接種アプローチでは恐らくこの群の大多数を免疫できない大きさである。該子ブタの半分以上はこの集合に含まれると思われるため、PMWSを飼育場から排除することを望むならば、この集合の子ブタを防御しうることが最も重要であろう。
【0019】
母体由来抗体価の存在下のワクチン接種はアジュバントおよび/または高い抗原含量により促進されうることが当技術分野でよく知られている。どのアジュバントまたはどの抗原含量が或る与えられた病原体に対する母体由来抗体価を凌ぎうるかは公知でない。したがって、記載されている実験において、本発明者らは、集合2の子ブタをPCV−2感染に対して防御するために必要な抗原の最小量を定めることにした。
【実施例2】
【0020】
PCV−2 ORF−2を発現する組換えバキュロウイルスの構築
PCV−2ウイルスを、PCV非含有ブタ精巣(ST)細胞を使用して、PMWSの臨床的および組織病理学的徴候を示している家畜ブタの肺組織から分離した。該ウイルスをPCV非含有PK15細胞上での5継代により増殖させた。
【0021】
感染PK15細胞上清から精製されたPCV−2ウイルスの調製物からDNAを分離した。BamH1制限部位を含有するプライマー(フォワードプライマー:CGG GAT CCG TTT TCA GCT ATG ACG TAT,リバースプライマー:CGG GAT CCT TTA TCA CTT CGT AAT GGT T)を使用して、公開されている配列に基づいてORF−2遺伝子を増幅するために、PCRを行った。得られたアンプリコンは完全なORF−2遺伝子および隣接するBamH1制限部位を含む。ゲル電気泳動後、該アンプリコンを切り出し、精製した。ついで、精製されたPCV−2 ORF−2断片をBamH1で消化し、BamH1で消化されたpAcAS3(Vlakら(1990)Virology 179 312−320)内に連結した。このプラスミドは挿入部位の上流にp10プロモーターを含有していて、p10プロモーターの制御下の外来遺伝子の発現を可能にする。TOP 10F’細菌(Invitrogen,Carlsbad,USA)を該連結混合物で形質転換し、正しい構築物を含有するクローンをそれらの配列に基づいて選択した。陽性クローンを増殖させ、導入プラスミドDNAを再び、配列決定により再試験した。
【0022】
トランスフェクションの前に、オートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)核多角体ウイルス(AcNPV;Martensら(1995)J.Virol.Methods 52 15−19に記載されている)をBsu36Iで消化した。このウイルスにおけるBsu36I部位はp10遺伝子座内の唯一の制限部位である。
【0023】
ついで、CellFectine(Life Technologies,Gaithersburg,USA)を使用して、スポドプテラ・フルジペルダ(Spodoptera frugiperda)(Sf9)を導入プラスミドおよびBsu36I消化AcNPVバキュロウイルスDNAでトランスフェクトした。該トランスフェクションの上清をトランスフェクションの3日後に集め、プラーク精製をSf9細胞上で行った。プラークを増殖させ、得られたウイルスを、分離されたウイルスDNAの配列決定により、ならびに抗PCV−2ウサギおよびブタ血清を使用するSf9細胞上の免疫蛍光により、PCV−2 ORF−2遺伝子の挿入に関してスクリーニングした。
【0024】
「マスターシード」と称される組換えバキュロウイルスBacPCV−2−ORF−2のシード(種)を調製した。マスターシード、およびSf9細胞上でのマスターシードの5継代物を、分離されたDNAの配列決定およびSf9細胞上の免疫蛍光により、PCV−2 ORF−2遺伝子の安定な挿入に関して試験した。該ウイルス調製物中の感染性ウイルスの量を測定するために、力価測定を行った。力価測定はSf9細胞上で行った。バキュロウイルス特異的CPE、および/またはポリクローナルウサギ抗PCV−2免疫血清を使用するPCV−2 ORF−2特異的免疫蛍光を観察することにより、力価を読み取った。
【0025】
組換えAcNPVバキュロウイルスBacPCV−2−ORF−2のプラーク精製マスターシードが産生されたことが示された。マスターシードおよびSf9細胞上でのマスターシードからの5継代体の配列決定および免疫蛍光により判断されるとおり、この構築物はSf9細胞上でp10プロモーターの制御下でPCV−ORF−2タンパク質を安定に発現した。
【実施例3】
【0026】
PCV−2抗原の産生
発現産物の最大量を得るために、組換えPCV−2 ORF−2タンパク質を得るための条件を最適化するための予備実験を行った。すべての実験は、28℃で懸濁培養内のスポドプテラ・フルジペルダ(Spodoptera frugiperda)21(Sf21)細胞を使用して行った。マスターシードからの4継代レベルのBacPCV−2−ORF−2ウイルスを感染に使用した。最適化された産生のためには、感染時の細胞密度は1.4×10細胞/mlであり、感染多重度(MOI)は0.01であり、感染後に培養を6日間継続した。得られた混合物を発現産物回収物と称することとした。最適化条件下の発現を1年の間に別々の実験において5回行った。
【0027】
該抗原は該細胞内に存在していたため、細胞および上清の両方を含有する全回収物を、該細胞の少なくとも90%が破壊される程度の音波処理に付した。ついで、音波処理された回収物のバッチにおける生組換えウイルスを、連続的攪拌下、pH7.5、37℃で72時間にわたり、33mM バイナリー(Binary)エチレンイミン(BEI)で不活性化した。不活性化後、1.6倍モル過剰のチオ硫酸ナトリウムの添加によりBEIを中和した。中和後、細胞残渣および多角体を600gで10分間の低速遠心分離により除去した。得られた上清を不活性化ウイルス懸濁液を称することとした。回収物を無菌性に関して、および不活性化の完全性に関して調べた。不活性化の完全性は、不活性化ウイルス懸濁液をSf9細胞上で2週間継代しバキュロウイルス特異的CPEの非存在を目視検査することにより試験した。
【0028】
BEIでの処理の後に完全に不活性化された8.5 log10 TCID50/mlのバキュロウイルス力価が得られたことが示された。
【実施例4】
【0029】
PCV−2抗原の量の測定
低速遠心分離の前および後の不活性化懸濁液のサンプル、ならびに親導入ウイルスの細胞培養上清サンプルを、Laemmli(Laemmli,U.K.(1970).Nature 227,680−685)の方法による変性SDS−ポリアクリルアミドゲル−電気泳動に付した。4〜12%の勾配のゲルを使用し、これをクーマシーブリリアントブルーで染色した。
【0030】
ウエスタンブロット法を行う場合には、該ゲルからのタンパク質をナイロン膜上に電気泳動的にトランスファーし、PBS中の脱脂乳でブロッキングし、PCV−2の野外分離体に対して産生された希釈されたポリクローナルブタ血清と反応させた。
【0031】
得られた不活性化ウイルス懸濁液の抗原含量の尺度として、この懸濁液の1マイクロリットル(μl)を同様にしてゲル上で泳動させ、一方、ウシ血清アルブミン(Sigma,St.Louis,USA.cat.no.A−2153)の系列希釈物を参照体として同じゲル上で並べて泳動させた。不活性化ウイルス懸濁液内のORF−2遺伝子産物の定量を、GeneTools(SynGene,Cambridge,UK.v.3.06.02)を使用するコンピューター解析およびカメラ捕捉イメージングを用いる該BSA参照体の密度とPCV−2含有サンプルの密度との比較により行った。
【0032】
低速遠心分離の前および後の不活性化回収物を、Precision Plusマーカー(Bio−Rad,Hercules,USA)に対して、SDS−PAGEゲル上の電気泳動分離により比較したところ、遠心分離前の物質は、30および26.8kDaの見掛け分子量(MW)の、ほぼ等しい密度の2つの主要バンドを与えたが、遠心分離後の物質はその低いほうのバンドのみを含有していた。親導入ウイルスを該組換えウイルスと共に泳動させたところ、該親導入ウイルスはそれらの2つのバンドのうちの高いほうのバンドのみを含有し、このことは、低いほうのバンドがPCVのORF−2であり、高いほうのバンドが、遠心分離後に除去された多角体であったことを示している。低いほうの26.8kDaのバンドの正体をウエスタンブロット法により更に確認したところ、30kDaのバンドではなくこのバンドが、PCV−2野外ウイルスに対して産生されたポリクローナルブタ血清と反応することが示された。
【0033】
PCV−2 ORF−2の発現レベルを5つの別々の実験において測定した。各場合において、その量は、該試験の検出限界を十分に超えるものであり、特に、不活性化ウイルス懸濁液1ミリリットル(ml)当たり40〜550マイクログラム(μg)の範囲であった。
【実施例5】
【0034】
MDA陽性の若い子ブタにおけるワクチン取り込みに対するPCV−2 ORF−2の量の影響
種々のPCV−2 ORF−2抗原含量のワクチンを製剤化し、それらを使用して、PCV−2に対する種々のレベルの母体由来抗体(MDA)を有する若い子ブタにワクチン接種した。3週間隔で2回のワクチン接種を行った。初回ワクチン接種の5〜6週間後に該抗原に対する血清応答を測定した。これらのデータから、MDAの存在下の該ワクチンの取り込みに対する抗原含量の影響を算出した。
【0035】
種々の抗原希釈物を調製し、当技術分野で一般に使用されているような水中油型アジュバントと1:1(v/v)混合した。ついで1〜4週齢で、同腹子をいくつかの群に分け、種々の量のPCV−2−ORF−2タンパク質を含有するワクチンで筋肉内処理し、またはワクチン接種しなかった。3週間後にワクチン接種を繰返した。以下の群を得た:1〜14μgのPCV−2 ORF−2タンパク質/用量でワクチン接種された114頭の子ブタ(群1)、20および80μg/用量でワクチン接種された85頭の子ブタ(群2)。
【0036】
血液を初回ワクチン接種時およびその5〜6週間後に採取した。血清を調製し、PCV−2抗体に関して免疫蛍光により検査した。このためには、96ウェル組織培養プレート内のPK15細胞の単層にPCV−2の野外分離体を感染させた。2日間の培養の後、該細胞の約20〜30%が感染し、この時点で該単層をエタノール中で固定し、使用するまで2〜8℃で保存した。力価を測定するために、試験血清の系列希釈物を該細胞上で37℃で1時間インキュベートし、該プレートの洗浄の後、FITC標識ウサギ抗ブタIgG(Nordic,Tilburg,The Netherlands)と共に37℃で1時間インキュベートすることにより結合抗体を検出した。PCV−2特異的蛍光が尚も観察されうる最高希釈度の逆数として力価を決定した。すべての動物に関して、1回目の採血と2回目の採血との間に抗体価の減少が確認された。この期間中に抗体価が減少しなかった又は増加した場合には、それに関わる動物において該ワクチンが取り込まれたとみなされた。一方、PCV−2特異的抗体価が減少した場合には、ワクチン接種は成功せず該ワクチンは取り込まれなかったとみなされた。
【0037】
種々のワクチン用量の取り込みをワクチン接種時の母体由来抗体価と関連づけることにより、十分な量の子ブタにワクチン接種するのに必要な最小抗原質量を決定することができた。この分析の結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
この表において、「ワクチン取り込み」は、子ブタのワクチン接種が、追加ワクチン接種の1週間後に初回ワクチン接種時のPCV−2特異的力価と等しい又はそれ以上のPCV−2特異的抗体価をもたらしたことを意味する。すべてのそのような場合において、該ワクチンはPCV−2に対する能動的血清応答を惹起したことが示されており、この場合、子ブタはPCV−2感染に対して防御されたとみなされうる。しかし、追加ワクチン接種の1週間後の力価が初回ワクチン接種時より小さい子ブタにおいては、該ワクチンは免疫応答を誘導できず、母体由来抗体の自然な減少が観察された。これはやがて、これらの動物をPCV−2感染に対して感受性にすることになる。この表から示されるとおり、集合1(MDA力価7)において14マイクログラム以下のワクチン用量を使用した場合、該動物の90%はワクチン接種によりセロコンバージョンを引き起こし、したがって防御されたとみなされうる。一方、集合2(MDA>7かつ<13)においては、14マイクログラム以下の用量でワクチン接種された動物の17%のみがセロコンバージョンを引き起こし、防御された。この群においては、17頭の動物は13以上の力価を有し、したがって、この場合、それらの自然獲得PCV−2特異的母体由来抗体により既に防御されていた。したがって、合計114頭の子ブタのこの群においては、48頭(42%)のみが防御され、17頭の子ブタは既に高い母体由来抗体価を有し、集合1および2の31頭がセロコンバージョンを引き起こしたと結論づけられうる。20マイクログラム/用量以上でワクチン接種された群においては、有意に、より多数の動物が防御され、集合1の全動物および集合2の動物の76%がPCV−2に対してセロコンバージョンを引き起こし、したがって防御された。これに、13以上のMDA力価を有する子ブタを加えて、この群の子ブタの88%が防御されたことが判明した。
【0040】
動物の約80%以上が防御された場合に家畜群の防御が得られることから、PCV−2感染の結果に対して家畜群を効率的に防御するためにはPCV−2に対するワクチンの抗原質量は少なくとも20μgでなければならないと結論づけられうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタサーコウイルス2型(PCV−2)のORF−2タンパク質を少なくとも20マイクログラム/用量を含んでなる、PCV−2に対するワクチン。
【請求項2】
ブタサーコウイルス2型(PCV−2)のORF−2タンパク質を少なくとも50マイクログラム/用量を含む、請求項1記載のワクチン。
【請求項3】
ORF−2タンパク質が組換えタンパク質である、請求項1または2記載のワクチン。
【請求項4】
ORF−2タンパク質が昆虫細胞内のバキュロウイルス発現ベクターからの発現により産生され、該バキュロウイルス発現ベクターがPCV−2 ORF−2遺伝子配列を適当なプロモーターの制御下に含有する、請求項1から3のいずれかに記載のワクチン。
【請求項5】
プロモーターがp10プロモーターである、請求項4記載のワクチン。
【請求項6】
適切なアジュバントを更に含む、請求項1から5のいずれかに記載のワクチン。
【請求項7】
アジュバントが油及び水中油型エマルションである、請求項6記載のワクチン。
【請求項8】
アジュバントがビタミンEを含有する、請求項6または7記載のワクチン。
【請求項9】
ブタサーコウイルス2型(PCV−2)のORF−2タンパク質の少なくとも20マイクログラム/用量で与えられる、PCV−2 MDA陽性である子ブタをPCV−2感染に対して防御することを意図したワクチンの製造方法。

【公表番号】特表2009−507811(P2009−507811A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529638(P2008−529638)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066161
【国際公開番号】WO2007/028823
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】